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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

【文献】敗血症性ショックの治療における血圧の目標値,SEPSISPAM study

■NEJM敗血症性ショックRCT論文第2弾,敗血症性ショックの血圧目標値についてのRCTであるSEPSISPAM studyを紹介します.
敗血症性ショックの患者の血圧目標の高値vs低値(SEPSISPAM study)
Asfar P, Meziani F, Hamel JF, et al; for the SEPSISPAM investigators. High versus Low Blood-Pressure Target in Patients with Septic Shock. N Engl J Med 2014 Mar.18 [Early publish online]
PMID:24635770

Abstract
【背 景】
Surviving Sepsis Campaignは敗血症性ショックの患者の初期蘇生において平均血圧を少なくとも65mmHgを目指すように推奨している.しかし,本血圧目標とより高い目標値との優劣は知られていない.

【方 法】
多施設共同オープンラベル試験において,我々は敗血症性ショック患者776例の蘇生を平均血圧目標80-85mmHg(高目標群)と65-70mmHg(低目標群)にそれぞれ無作為に割り付けた.主要評価項目は28日死亡率とした.

【結 果】
28日時点で,高目標群は388例中142例(36.6%)が,低目標群は388例中132例(34.0%)が死亡し,両群間の死亡率に有意差はなかった(高目標群HR 1.07; 95%CI 0.84-1.38; p=0.57).90日時点でも,高目標群は170例(43.8%)が,低目標群は164例(42.3%)が死亡し,両群間の死亡率に有意差はなかった(HR 1.04; 95%CI 0.83-1.30; p=0.74).深刻な有害事象発生は両群間で有意差がなかった(74(19.1%) vs 69(17.8%); p=0.64).しかし,新規の心房細動は低目標群よりも高目標群で多かった.慢性高血圧患者では,低目標群よりも高目標群の方が腎代替療法を必要としなかったが,腎代替療法は死亡の違いに関連していなかった.

【結 論】
蘇生を施行する敗血症性ショック患者において,平均血圧目標80-85mmHgは65-70mmHgと比較して28日,90日死亡率に有意差はなかった.

1.平均血圧目標のエビデンス

■本SEPSISPAM studyは,2010年3月から2011年12月までのフランス29施設で18歳以上の敗血症性ショック患者を対象として行われており,プロトコルはSSCG 2008に準拠している.カテコラミンは28施設がノルアドレナリン,1施設がドパミンを使用している.平均年齢65歳,平均SAPSⅡスコア,人工呼吸器装着率76%,平均乳酸値は3.5mmol/Lであり,28日死亡率が35%というのはやや高めの印象で,EGDTを評価したRCTであるProCESS trial[1,2]の60日死亡率約20%と比較してもかなり高い.登録基準,ベースの治療プロトコルの厳格さの違い,比較的死亡率が高くなる肺炎患者の比率がProCESS trialの3割よりも高い6割であることなどが影響しているものと思われる.

■敗血症の治療において,平均血圧65mmHg以上を目指す治療は多くの施設で行われているものと思われる.しかしながら,これを支持する質の高くサンプル数がそれなりにあるRCTは存在しなかった.SSCGにおいては根拠として以下の2つの小規模研究[3,4]を提示しており,逆に言えば平均血圧65mmHg以上の推奨のエビデンスはこの程度しかなかったということである.

■LeDouxら[3]は敗血症性ショックの患者10例において,ノルアドレナリンを用いて同一患者で平均血圧を65,75,85mmHgに維持する前向き観察研究を行い,各種パラメータを計測している.平均血圧65から85mmHgに上げると,心係数は4.7±0.5L/min/m^2から5.5±0.6L/min/m^2に有意に増加した(p<0.03)が,動脈血乳酸値,動脈血CO2分圧,胃粘膜CO2分圧,尿量,皮膚毛細血管血流に有意差はなかった.

■Bourgoinら[4]は敗血症性ショック患者28例において,ノルアドレナリンを用いて平均血圧を65mmHgに維持する群と85mmHgに維持する群を比較したオープンラベルRCTを行ったところ,心係数は85mmHg群の方が有意に高かったが,動脈血乳酸値,酸素消費量,尿流量,血清クレアチニン,クレアチニンクリアランスに有意差はなかった.

■またこれ以外にもDunserら[5]が行った敗血症性ショック患者274例の後ろ向きコホート研究では,1回以上の平均血圧60mmHg未満は死亡リスクが2.96倍(95%CI 1.06-10.36, p=0.04)有意に増加すると報告している. さらに,平均血圧が75mmHgを下回ると腎代替療法の必要性が増加するとも報告している.

■以上も踏まえるとより,目標値を高く設定するデメリットは,カテコラミン量が増加することによる有害事象,低く設定するデメリットは腎代替療法必要度が増加することであり,これらがそのまま今回のSEPSISPAM studyで示された.死亡率に有意差がないため,いずれがよりbetterであるのかを判断するのは難しい.

■詳しい内容を見ていく.主要評価項目の死亡率については統計学的有意差はない.Kaplan-Meier生存曲線は低目標群が常に高目標群より上(生存率が上)にあるものの,臨床的にも有意な差とは考えにくい差と思われる.二次評価項目である人工呼吸器必要性,ICU在室期間,入院期間,7日目時点でのSOFAスコアに有意差はなかった.輸液量も両群間で有意差はなかった.

■カテコラミン投与日数は低目標群3.7±3.2日 vs 高目標群4.7±3.7日(p<0.001)で高目標群の方が有意に長かった.心房細動発生率は低目標群2.8% vs 高目標群6.7%(p=0.02)で高目標群の方が有意に多かった.これ以外の有害事象については統計学的有意差はないものの,心筋梗塞発生率が低目標群0.5% vs 高目標群1.8%(p=0.18),心室細動/心室頻拍が低目標群3.9% vs 高目標群5.7%(p=0.24)で,心血管イベントリスクが高目標群で高い傾向が見られていることも注意が必要である.一方で,慢性高血圧患者に限定したサブ解析では腎代替療法必要度は低目標群42.2% vs 高目標群31.7%(高目標群HR 0.64; 95%CI 0.41-0.99; p=0.046)であった.

■腎代替療法が増えることはサブ解析の結果であるため,エビデンスレベルで言えば心房細動の有害事象を気にした方がよさそうではあり,どちらを選択するかと問われれば平均血圧65-70mmHgの低目標がbetterかもしれない.しかし,心房細動,腎代替療法はいずれも長期予後に影響を与えうる因子であり,いずれがbetterであるのかについては,長期予後を検討した二次解析での評価が必要であろう.

※当院では平均血圧65-80mmHgを目標にしているが,今回のSEPSISPAM studyを受けて上限値を少し下げてもよいかもしれないと考えている.

2.平均血圧で評価すべきか?

■今回のSEPSISPAM studyは平均血圧の目標値の評価であるが,血圧には,収縮期血圧SBP,拡張期血圧DBP,平均血圧MAPの3つの数字がある.重症管理患者におけるそれぞれの臨床的な意義は,
SBP:左室後負荷と動脈性出血リスクに関与
DBP:冠血流の決定因子
MAP:心臓以外の臓器灌流の決定因子
である.末梢臓器の虚血が問題となる敗血症性ショックにおいて平均血圧がもっとも重要であると考えるのが理にかなっており,集中治療においては平均血圧が最も重視されるべき項目であるともされている[6].これはあくまでも理論であり,現時点で平均血圧管理と収縮期血圧管理の違いのみを直接比較したRCTは存在しない.

■Lehmanら[7]は単施設の成人ICU患者27002例のペア解析で,血圧の低い状態では非観血的血圧測定は観血的血圧測定と比較して収縮期血圧を過剰評価する傾向がみられ,非観血的収縮期血圧<70mmHgは,観血的収縮期血圧<70mmHgと比較して急性腎不全およびICU死亡率との関連が強かった.しかし,平均血圧は測定法の違いで差がなく,いずれの測定法においても平均血圧<60mmHgが急性腎不全およびICU死亡率と関連していた.これらの結果からICUでは平均血圧で評価することが望ましいとしている.

■しかし,今回のSEPSISPAM studyと同時に報告された大規模RCTであるProCESS study[1,2]では,平均血圧で管理するEGDTプロトコルと収縮期血圧およびショック指数で管理する標準プロトコル群で死亡率に有意差はみられなかったことが報告された.EGDTプロトコル群は標準プロトコル群より輸液量が少なく,循環作動薬・輸血・ドブタミン使用量が多い結果となっている.さて,平均血圧か収縮期血圧か,臨床上本当に有益なのはいずれの管理であろうか?どうやら平均血圧での管理が妥当かについて検証する必要もありそうである.

[1] The ProCESS Investigators. A Randomized Trial of Protocol-Based Care for Early Septic Shock. N Engl J Med 2014 Mar.18
[2] DrMagicianEARL. 【文献】敗血症性ショックにおけるEGDTは予後を改善せず,ProCESS trial. EARLの医学ノート 2014 Mar.21 http://drmagician.exblog.jp/21799999/
[3] LeDoux D, Astiz ME, Carpati CM, et al. Effects of perfusion pressure on tissue perfusion in septic shock. Crit Care Med 2000; 28: 2729-32
[4] Bourgoin A, Leone M, Delmas A, et al. Increasing mean arterial pressure in patients with septic shock: effects on oxygen variables and renal function. Crit Care Med 2005; 33: 780-6
[5] Dünser MW, Takala J, Ulmer H, et al. Arterial blood pressure during early sepsis and outcome. Intensive Care Med 2009; 35: 1225-33
[6] Lamia B, Chemla D, Richard C. Clinical review: interpretation of arterial pressure wave in shock states. Crit Care 2005; 9: 601-6
[7] Lehman LW, Saeed M, Talmor D, et al. Methods of blood pressure measurement in the ICU. Crit Care Med 2013; 41: 34-40
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by drmagicianearl | 2014-03-24 19:59 | 敗血症 | Comments(0)

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