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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

【文献+レビュー&メタ解析】ウリナスタチン(ミラクリッド)は重症敗血症の予後を改善するか?

■ウリナスタチン(ミラクリッド)はもはや化石のような薬剤な上に,作用機序的にも疑問があったので私はもう一生投与することもない薬剤・・・と思っていたらインドからRCTがでてきました.調べてみたら実は中国でもRCTがいくつかあったんですね.今回はpilot RCTでper-protocol解析ではポジティブ,ITT解析ではネガティブな結果.今後大規模試験が組まれるのでしょうか.本研究の紹介とともに過去の重症敗血症に対するウリナスタチンのRCTのシステマティックレビューも行ってみました.残念ながら効果は用量依存性であり,本邦のウリナスタチンの用量では重症敗血症の予後を改善する根拠はなく,使用するのは早計と思われます
重症敗血症におけるウリナスタチン静脈内投与:多施設共同無作為化比較試験
Karnad DR, Bhadade R, Verma PK, et al. Intravenous administration of ulinastatin (human urinary trypsin inhibitor) in severe sepsis: a multicenter randomized controlled study. Intensive Care Med 2014; 40: 830-8
PMID:24737258

Abstract
【目 的】
セリンプロテアーゼ阻害薬のウリナスタチンは,敗血症において,各種向炎症プロテアーゼを阻害し,炎症性サイトカインと死亡率を減少させる.我々は,インドの7施設で重症敗血症患者に対する二重盲検試験を行い,28日全死亡におけるウリナスタチンの効果を検討した.

【方 法】
敗血症患者は1つ以上の臓器不全を発症してから48時間以内に,ウリナスタチン(20万単位)またはプラセボを12時間ごとに5日間静脈内投与するよう,無作為に割付けられた.

【結 果】
122例が無作為に割付けられ,114例が試験を完遂した(55例がウリナスタチン投与,59例がプラセボ投与).患者背景では,平均APACHE IIスコアは13.4(標準偏差4.4),48例(42%)の患者が人工呼吸管理を受け,58例(51%)が循環作動薬を投与され,35%が多臓器不全を有していた.調整したintention-to-treat解析(6回以上の研究薬を投与された患者)では,28日全死亡率はウリナスタチン群で7.3%(4例死亡),プラセボ群で20.3%(12例死亡)であった(p=0.045).多変量解析においても,ウリナスタチンによる治療は28日全死亡減少に独立して関連していた(OR 0.26; 95%CI 0.07-0.95; p=0.042).しかし,intention-to-treat解析では,死亡率の差は統計学的に有意ではなかった.(10.2%(6/59例死亡) vs 20.6%(13/63例死亡); p=0.11).ウリナスタチン群は新規発症の臓器障害発生率が少なく(10例 vs 26例; p=0.003),人工呼吸管理のない日数が多く(平均±標準偏差; 19.4±10.6日 vs 10.2±12.5日; p=0.019),入院期間が短かった(11.8±7.1日 vs 24.2±7.2日; p<0.001).

【結 論】
本予備試験において,ウリナスタチンの静脈内投与は重症敗血症患者の死亡率を調整されたintention-to-treat解析では減少させたが,intention-to-treat解析では減少しなかった.
1.本研究結果について

■本研究はabstractでは二重盲検RCTとしか記載されていないが,実際にはブロックランダム化(ブロックサイズは4例)を用いている.絶対死亡率で見るとNNTは約10となかなかの治療成績である.調整したintention-to-treat解析(ITT解析)はper-protocol解析(PP解析)のことであろう.ITT解析では有意差はついていないが,有意差をつけるには検出力を0.8とすると必要サンプル数は416例となる.今後組まれるとしたら500例程度のRCTになるだろうか?

■登録された224例のうち約半数の102例が除外されている.除外基準は妊婦,授乳中,血小板数3万未満,臓器移植歴,コントロールされていない悪性新生物,慢性腎不全末期または肝疾患末期,体重135kg超過,治療の限界を有する患者,24時間以内に死亡が予測される患者である.

■重症敗血症でプラセボ群の死亡率は20%程度なのは近年の研究で見ると妥当な水準であると思われるが,登録対象患者が18-60歳となっており,平均年齢を見ると37歳(標準偏差は13)であり,近年の敗血症の研究と比較すると20-30歳ほど若い.一般的に敗血症が多いとされる高齢者はほとんど含まれていない.また,プラセボ群に男性が多い(69% vs 85%; p=0.05).APACHE IIスコア(13.2 vs 13.5; p=0.81),循環作動薬使用(50.8% vs 50.9%; p=0.99),人工呼吸管理(41% vs 44%; p=0.75)には差はない.白血球数,血小板数,CRP,障害臓器数や背景疾患,感染巣にも差はない.

■変数減少法を用いた多変量ロジスティック回帰解析(年齢,性別,GCS,特異的臓器障害,臓器障害数,循環作動薬使用で調整)では,腎不全(OR 6.37; 95%CI 1.70-23.8; p=0.006),人工呼吸器必要度(OR 3.36; 95%CI 1.01-11.2; p=0.048),ウリナスタチン(OR 0.26; 95%CI 0.07-0.95)が28日予後と関連した独立因子であった.なお,調整因子にAPACHE IIスコアはなぜか含まれていないが,これは恣意的な選択であろうか?

■ウリナスタチンの投与量は20万単位を12時間ごとであり,本邦保険適応最大用量の30万単位/日を上回っていることに注意が必要である.

2.ウリナスタチンと敗血症に関するRCTのシステマティックレビューおよびメタ解析

■ウリナスタチン(ミラクリッド)はヒト尿から精製され,分子量67kDaで半減期35分のセリンプロテアーゼ阻害薬である.トリプシン,α-キモトリプシン,エラスターゼ等の蛋白分解酵素やヒアルロニダーゼ,リパーゼ等の糖・脂質分解酵素をも阻害する[1].また,フリーラジカル消去作用を有することも分かっている[2]

■マウス実験では,エンドトキシンショックのマウスにウリナスタチンを静脈内投与したところ,生存率は有意に上昇したとしている[3].また,エンドトキシンショックのイヌにウリナスタチンを静脈内投与したところ,低下した平均動脈血圧,心係数,大動脈血流量,腎血流量等が増加したとしている[4]

■本邦でのRCTは2つあるが,いずれも敗血症に限定したものではない.急性循環不全(心原性以外のショック)を対象とした40施設共同の二重盲検RCT(第二相試験)において,急性循環不全に対する有効率は82.5%(47/57)で,ショック患者における収縮期血圧,脈拍数,Base Excess,尿量,意識状態などの異常を改善しており,低用量群よりも高用量群の方が,またショックの中でも細菌性ショックでショック離脱率の有意な改善を示している[5].また,ショック患者を対象としたアプロチニン(60万単位/日×3日)とウリナスタチン(30万単位/日×3日)との二重盲検RCTでは,ウリナスタチンの有効率は71.7%(43/60)で,アプロチニンに比し有意に優っていた(p<0.01)[6].この研究では,ウリナスタチンがタンパク分解酵素の遊離抑制および活性を阻止した結果循環動態が改善した可能性を示唆している.いずれも死亡率改善効果を示したものではなく,小規模研究である.

■PubMedにおいて敗血症に対するウリナスタチンのRCTを検索すると上記インドでの報告以外に7報がヒットし,すべて中国からの報告であった.

■Chenら[7]は,重症敗血症に対してウリナスタチン60万単位/日+Thymosin α1併用群とプラセボ群を比較した114例二重盲検RCTを行い,28日生存率は54.1% vs 35.4%(p=0.078),60日生存率は 54.1% vs 28.2%(p=0.045),90日生存率は47.4% vs 20.0%(p=0.033)でいずれも有意に改善させている.

■Huangら[8]は,敗血症に対してウリナスタチン60万単位/日+Thymosin α1併用群と非使用群を比較した70例オープンラベルRCTを行い,28日生存率は併用群が高かったが統計学的に有意ではなかった(63.9% vs 41.2%; p=0.093).

■Liら[9]は敗血症に対してウリナスタチン60万単位/日+Thymosin α1併用群とプラセボ群を比較した56例二重盲検RCTを行い,28日生存率は併用群が高かったが統計学的に有意ではなかった(78% vs 60%; p=0.25).

■Zhangら[10]は,カルバペネム耐性菌による敗血症に対してウリナスタチン60万単位/日+Thymosin α1併用群とプラセボ群を比較した120例二重盲検RCTを行い,28日生存率は51.7% vs 33.9%(p=0.086),60日生存率は52.6% vs 26.7%(p=0.046),90日生存率は47.4% vs 20.0%(p=0.033)であり,生存率を改善させていた.

■Suら[11]は重症敗血症に対してウリナスタチン(最初4日間は40万単位/日,あとの6日間は20万単位/日)+Thymosin α1投与群と非投与群を比較した242例オープンラベルRCTを行い,28日死亡率は20% vs 33%でウリナスタチン群が有意に低かった(p=0.025).

■Linら[12]はウリナスタチン30万単位+Thymosin α1併用群と非投与群を比較した91例オープンラベルRCTおよびウリナスタチン60万単位+Thymosin α1併用群と非投与群を比較した342例オープンラベルRCTを行い,28日死亡率は前者のRCTでは有意差がなかったが,後者では25.14% vs 38.32%(p=0.0088),90日死亡率は37.14% vs 52.14%(p=0.0054)であり,併用群で有意に死亡率が低かった.

■Wuら[13]は,2011年10月から2012年10月まで登録された重症敗血症に対してウリナスタチン9万単位/日投与群と非投与群を比較した60例のオープンラベルRCTを行い,ウリナスタチン投与によりTregやTh17を減少させ,IL-17,IL-6,IL-10を減少させたが,28日死亡率は18.2% vs 20.1%; p>0.05で有意差はみられなかった.

■上記7報に加え本記事で紹介したKarnadらの報告を加えた8報のRCTをのメタ解析を行った.解析ソフトはEZR[14]を用いた.データ統合すると,サンプル数1112例,ウリナスタチン使用群とプラセボまたは非介入群の28日死亡率は26.9% vs 41.4%(p<0.0001)であり,ウリナスタチンは28日死亡リスクを48.0%有意に減少させる(OR 0.520; 95%CI 0.404-0.699).Thymosin α1を併用せずウリナスタチン単剤のみを用いた研究に限定すると,サンプル数174例,ウリナスタチン使用群とプラセボまたは非介入群の28日死亡率は11% vs 20%(p=0.095)でウリナスタチン群で低い傾向が見られたが統計学的有意差はなかった(OR 0.47; 95%CI 0.20-1.10).

■8報中6報でThymosin α1を併用していることに注意が必要で,ウリナスタチン単剤使用であったWuら[13]の報告では死亡率の改善は示せておらず,Karnadらの報告ではPP解析で有意に改善を示している.8報中6報でウリナスタチンの投与量が本邦保険最大用量よりも多く,最も少ないWuら[13]の報告(9万単位/日)では死亡率に有意差はなかった.日本と同一用量の30万単位/日を用いたLinらの報告[12]でも死亡率は改善しておらず,倍量の60万単位/日を用いると改善している(ただし,30万単位/日が91例の小規模研究であったために統計学的有意差がでなかった可能性もある).本記事で紹介したKarnadらの報告(PP解析)とSuらの報告[11]では40万単位/日で死亡率が改善している.これらのことから,ウリナスタチンの効果が用量依存性である可能性もある.また,3報[7,8,10]ではプラセボ群の生存率も低すぎることに注意が必要である.

■以上から,重症敗血症に対するウリナスタチンは,高用量投与で予後を改善する可能性はある一方で,本邦適応用量範囲では最大用量の30万単位/日を用いても重症敗血症の予後を改善する根拠は現時点ではまったくなく,少なくとも40万単位/日は必要である.また,ウリナスタチン単剤で評価したRCTは2報しかなく,その2報での死亡率改善効果は有意とは言い難い.今後,ウリナスタチン単剤での大規模RCTでの評価が必要である.

[1] Ohnishi H, Kosuzume H, Ashida Y, et al. Therapeutic effects of human urinary trypsin inhibitor on acute experimental pancreatitis. Nihon Yakurigaku Zasshi 1983; 81: 235-44
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[14] Kanda Y. Investigation of the freely available easy-to-use software 'EZR' for medical statistics. Bone Marrow Transplantation 2013: 48, 452-8
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by DrMagicianEARL | 2014-05-28 18:19 | 敗血症 | Comments(0)

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