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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

2014年7月29日の日経メディカル記事「COPDの増悪を防ぐ“かぜ薬セット”」について

■2014年7月29日の日経メディカルにこのような記事がでていた.プライマリケアの現場における経験ならではの考え方なのかもしれないが,特に症例集積での検討も提示されているわけではなく,正直な話この処方を参考にされるのはさすがに避けていただきたいと思いここにとりあげた.日経メディカルも,専門家による査読があるわけではないので難しい部分はあるだろうが,せめてガイドラインや薬剤添付文書を確認した上で記事掲載を考えていただきたいものである.
COPDの増悪を防ぐ“かぜ薬セット”
生命を脅かす急性増悪 ステロイドで早く炎症抑える

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/201407/537531.html
■ここでとりあげられている症例は69歳のヘビースモーカーでⅢ度のCOPD患者,定期処方薬はアドエア®,スピリーバ®レスピマット,クラリス®(長期低用量マクロライド療法),サルタノールインヘラー®(頓用)である.COPDでは去痰薬が有効であるとしてガイドライン上推奨されているのであるが,定期処方されてはいないようである.ただ,実際の喀痰の評価が書かれていないため必要性の推定は困難ではある.

■それよりも気になるのが増悪時の処方である.
「プレドニン®5mg 6錠分3,PL顆粒® 3g分3,テオドール®100mg 3錠分3,フスコデ配合錠® 9錠分3,クラビット®500mg 1錠」

■プレドニン®の処方は妥当であるが,問題はそれ以外の処方である.簡単に言うと,COPD急性増悪病態への有効性が疑問であるばかりか有害事象リスク,薬物相互作用のオンパレードである.理由を以下に述べる.

■PL顆粒®はいわゆる風邪薬であり,はたしてそもそも風邪に有効なのかは疑わしい部分もあるが,これが仮に風邪に有効であったとしても本症例では使用すべきではない.本患者は抗コリン薬であるスピリーバを使用しており,PLと併用すると抗コリン薬の作用が増強され,副作用リスクが高まる.本患者で心疾患の評価がなされたかは不明であるが,死亡率上昇が指摘[1-3]されたスピリーバ®レスピマットは心血管リスクを有する患者においてはまだ安全とは言い難い状態にあり(TIOSPIR study[4]は心血管リスクを有さない患者も含まれているため評価できない),抗コリン薬の作用を増強するような薬剤は避けるべきである.なお,ガイドラインにはPLの記載はどこにもない.

■テオドール®などのいわゆるメチルキサンチンは,入院率,入院期間,自覚症状を改善させる結果は得られず,有効域と有害域が近いため嘔気,嘔吐の副作用も多く[5],COPD急性増悪においては日本呼吸器学会[6],GOLD[7],NICE[8],ATS/ERS[9],豪州[10],カナダ[11]のすべてのガイドラインで第一選択で推奨はされていない.有害性を考慮すれば,使用するとすれば他の気管支拡張薬に対する効果が乏しいときのみ静注で使用とされており,基本的には使用すべきでないという意見の方が多いようである[12].また,本患者では普段からテオドールを使用しておらず,急性増悪時に有効性を得ようとするならば静注によるローディングが必要となるため,テオドール®100mgの3錠分3の内服に効果があるのかは疑問である.さらに,本患者はマクロライド系抗菌薬のクラリス®を定期内服しており,おまけにニューキノロン系抗菌薬クラビット®も処方されている.これらの抗菌薬併用によりテオドールの血中濃度が予期せぬレベルに上がるリスクもあり,クラビット®の痙攣リスクも上昇する.以上から本患者においてはテオドール®を使用するメリットが少ないばかりか有害性が上回るリスクをはらんでいる.

■フスコデ®は鎮咳去痰配合剤であり,ジヒドロコデインリン酸塩を含む.COPD患者に対してはRCTで効果が既に否定されている.併用により抗コリン薬スピリーバ®の血中濃度が上昇するリスクがあり,また,COPD急性増悪に鎮静・呼吸抑制作用を有する薬剤は避けるべきであろう.急性増悪にルーティンで本剤を処方する必要性は疑問である(なお気管支喘息発作に対しては禁忌である).

■クラビット®も本患者においては推奨できない.本患者はCOPDであり,気道クリアランスが低下しているため,下気道に菌が定着しやすく[13],結核発生リスクが2.5-24.9倍[14,15]まで増加することが報告されている.加えて吸入ステロイド(アドエア®に含まれる)を定期吸入しており,Dongら[16]の25報22898例のメタ解析ではCOPD患者のステロイド吸入により結核のリスクが2.29倍増加することが報告されている.

■クラビット®をはじめとするキノロン系抗菌薬は結核菌に対する抗菌活性を有しており,肺結核ではキノロン投与により3日前後で65.8-83%で臨床症状が軽快してしまい[17,18],その後耐性化して再増悪する.結核診断前のキノロン暴露では上記一時的症状改善のみならず喀痰中結核検査の陽性率が73%低下する[19]などで診断が遅れ,最終的に結核治療開始は入院から21-34日後まで遅れる[17,20](キノロン非曝露群では入院から平均で5日後に治療が開始される).結核菌の分裂増殖は遅く,最適環境下でも10-15時間に1回程度である.しかし,この速度で増殖しても19日後には10^9個という致死的菌量に達しうる.治療開始がもし21-34日間遅れればどうなるかは想像するにたやすく,実際に結核診断前のキノロン曝露により死亡リスクは1.8-6.9倍に増加すると報告されている[17,21]

■なお,結核は胸部X線,ときにはCT撮影であっても除外できない.「上肺野の空洞陰影を伴う肺炎像」という教科書的な典型的像をとらないこともしばしばあるからであり,呼吸器内科医といえども画像だけでは判断に迷うことも多い.肺結核において上肺野に病変を認めるのは,免疫正常者では68.1%であり,免疫不全者に至っては38.4%に過ぎない[22]

※プライマリケアの場において結核を考慮せずに安易なキノロン系抗菌薬投与が行われた結果,再増悪して入院し,喀痰からの検出が遅れ,最終的に死亡に至る症例を経験した医師は少なくないだろう.同時に院内感染対策上も非常に問題となる.一般的にキノロン系抗菌薬が呼吸器感染症で第一選択として使用する必要性はむしろ低く,増悪時に患者に服用させるためにあらかじめ持たせておくという方法は決して行うべきではない.

[1] Singh S, loke YK, et al. Mortality associated with tiotropium mist inhaler in patients with chronic obstructive pulmonary disease: systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ 2011; 342: d3215
[2] Dong YH, Lin HH, Shau WY, et al. Comparative safety of inhaled medications in patients with chronic obstructive pulmonary disease: systematic review and mixed treatment comparison meta-analysis of randomised controlled trials. Thorax 2013; 68: 48-56
[3] Verhamme KM, Afonso A, Romio S, et al. Use of tiotropium Respimat Soft Mist Inhaler versus HandiHaler and mortality in patients with COPD. Eur Respir J 2013; 42: 606-15
[4] Wise RA, Anzueto A, Cotton D, et al; TIOSPIR Investigators. Tiotropium Respimat inhaler and the risk of death in COPD. N Engl J Med 2013; 369: 1491-501
[5] Barr RG, Rowe BH, Camargo CA Jr. Methylxanthines for exacerbations of chronic obstructive pulmonary disease: meta-analysis of randomised trials. BMJ 2003; 327: 643
[6] 日本呼吸器学会COPDガイドライン第4版作成委員会編.COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第4版.大阪:メディカルレビュー社,2013
[7] NHLB/WHO Workshop Report : Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease. Global strategy for the diagnosis, management, and prevention of chronic obstructive lung disease. Updated 2006
[8] CG101 Chronic obstructive pulmonary disease (update) : NICE guideline 21 June 2010 http://www.nice.org.uk/nicemedia/live/13029/49397/49397.pdf
[9] Celli BR, MacNee W; ATS/ERS Task Force. Standards for the diagnosis and treatment of patients with COPD: a summary of the ATS/ERS position paper. Eur Respir J 2004; 23: 932-46
[10] Australian and New Zealand guidelines for the management of chronic obstructive pulmonary disease 2010. http://www.wdhs.net/sites/default/files/pph-cc-resp-x-plan2010.pdh
[11] O'Donnell DE, Aaron S, Bourbeau J, et al. Canadian Thoracic Society recommendations for management of chronic obstructive pulmonary disease - 2007 update. Can Respir J 2007;14 Suppl B: 5B-32B
[12] Town GI. Aminophylline for COPD exacerbations? Not usually. Thorax 2005; 60: 709
[13] Ernst P, Gonzalez AV, Brassard P, et al. Inhaled corticosteroid use in chronic obstructive pulmonary disease and the risk of hospitalization for pneumonia. Am J Respir Crit Care Med 2007; 176: 162-6
[14] Kim JH, Park JS, Kim KH, et al. Inhaled corticosteroid is associated with an increased risk of TB in patients with COPD. Chest 2013; 143: 1018-24
[15] Lee CH, Lee MC, Shu CC, et al. Risk factors for pulmonary tuberculosis in patients with chronic obstructive airway disease in Taiwan: a nationwide cohort study. BMC Infect Dis 2013; 13: 194
[16] Dong YH, Chang CH, Wu FL, et al. Use of Inhaled Corticosteroids in Patients with Chronic Obstructive Pulmonary Disease and the Risk of Tuberculosis and Influenza: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Chest 2014 Feb 6
[17] Wang JY, Hsueh PR, Jan IS, et al. Empirical treatment with a fluoroquinolone delays the treatment for tuberculosis and is associated with a poor prognosis in endemic areas. Thorax 2006; 61: 903-8
[18] Dooley KE, Golub J, Goes FS, et al. Empiric treatment of community-acquired pneumonia with fluoroquinolones, and delays in the treatment of tuberculosis. Clin Infect Dis 2002; 34: 1607-12
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[20] Yoon YS, Lee HJ, Yoon HI, et al. Impact of fluoroquinolones on the diagnosis of pulmonary tuberculosis initially treated as bacterial pneumonia. Int J Tuberc Lung Dis 2005; 9: 1215-9
[21] van der Heijden YF, Maruri F, Blackman A, et al. Fluoroquinolone exposure prior to tuberculosis diagnosis is associated with an increased risk of death. Int J Tuberc Lund Dis 2012; 16: 1162-7
[22] Kobashi Y, Mouri K, Yagi S, et al. Clinical features of immunocompromised and nonimmunocompromised patients with pulmonary tuberculosis. J Infect Chemother 2007; 13: 405-10
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by DrMagicianEARL | 2014-07-29 21:53 | Comments(0)

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