ブログトップ

EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

敗血症の展望 to 2020 ~世界敗血症の日(World Sepsis Day)~(2)敗血症の現状

2.世界および日本の敗血症の現状

(1) 罹患率と死亡率,推移

■世界では年間約2700万人の敗血症が発生しており,その数は,世界的に多いとされる大腸癌と乳癌の死亡者数を合わせても足りない.そのうち,約800万人が死亡しており,2-3秒に1人が世界のどこかで敗血症により死亡している計算になる.これが,World Sepsis Dayでの「Around every 3rd heartbeat, someone dies of sepsis.(心臓が3回鼓動を打つごとに誰かが敗血症で亡くなっている)」というメッセージである.
e0255123_1046451.png
■世界規模で見た重症敗血症患者の転帰に関する最新の大規模調査としてPROGRESS研究(Promoting Global Research Excellence in Severe Sepsis)[1]があり,2002年12月から2005年12月までの患者が登録された.この研究は37カ国276ICUの重症患者12881例が登録されており,死亡率は30-80%であった.この死亡率のばらつきには様々な要因が考えられる.しかし,二次解析[2]で行われた多変量解析では,先進国であるか発展途上国であるかは関係がなく,一人当たりの国民総生産高も関係がないという結果であった.加えて,重症度の予後の既知のすべてのマーカーは死亡率の国際的差異を十分には説明しえなかった.

■死亡率の経年的変化としては,データは古くなるが,1979年から2000年までの米国の国家規模のデータベースを用いた敗血症10319418例の検討がなされている[3].この報告では,敗血症の発生率は22年間で82.7/10万から240.4/10万まで増加し,臓器障害数で示される重症度も増加していた.その一方で院内死亡率は27.8%から17.9%まで低下しており,抗菌薬をはじめとする治療の進歩の結果が現れている.同様の報告が2014年にオーストラリアおよびニュージーランドのANZICSグループからも報告されている[4]

■さらに,Surviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)により死亡率が改善したとの報告は数多く存在する[5]

■2002年から2008年にかけての10年間で,入院患者数で見た敗血症発生率は2倍以上と劇的に増加しており,心臓発作よりも多くの患者が敗血症に罹患している.そして,敗血症患者の20-40%は集中治療室(ICU)での治療を必要としている.また,米国の報告では,1997年から2006年にかけて,術後敗血症の患者数は3倍にまで増加している.コストで見ると,2008年の米国における敗血症入院によるコストの年間総額は146億ドルであり,1997年から年間11.9%ずつ増大している.

■Angusらの大規模コホート研究[7]では,米国7州にある847病院の重症敗血症患者192980例を登録している.ここからCDC,HCHA,AHAにもデータリンクして,米国での死亡統計が示されている.このデータモデルから日本にあてはめると,日本では年間38万4千人が重症敗血症に罹患していることになる.2011年の厚生労働省死亡統計では,敗血症が死因とされている死亡は11170例であり,全死亡の0.9%であった(2001年時は6179例であり1.8倍に増加).しかし,この数字は悪性腫瘍など他の基礎疾患が存在している患者が敗血症に罹患して死亡した場合などは反映されていない可能性が大きく,実際の死亡数はもっと多いものと推察され,米国モデルにあてはめるならば,おそらく日本の実際の敗血症死亡例は死亡統計の約10倍(年間10-20万人)と予想される.また,Angusらの研究では高齢者ほど罹患率,死亡率が高いことも示されており,超高齢化社会を迎えている日本ではさらに敗血症患者は増加すると思われる.

■ただし,これらの疫学的推移を異とする主張もある.疫学研究においてはコーディング化された病名を拾いあげていくが,その際に過剰診断によるアップコーディングがあると敗血症患者が増えることになる[8].実際には,米国では尿路感染症や腹腔感染症は不変,肺炎に至っては減少傾向,菌血症患者も不変であるにもかかわらず,敗血症が増加している.ただし,高齢化社会をむかえてきていることが敗血症の増加に寄与している可能性も十分にあると思われる.また,近年薬剤耐性菌が増加しており,初期抗菌薬が奏功せず感染症が悪化して敗血症に至るケースが増えてきていることも敗血症増加に寄与しているのかもしれない.

(2) 敗血症の認知度

■敗血症は非常にポピュラーな疾患である.米国・欧州の統計による疾患別年間発生率(10万対比)で見てみると,HIVが22.8,心疾患208,脳卒中223,癌331.8に対して敗血症は377である.
e0255123_11391434.jpg

■このような状況の中にあっても敗血症の認知度は非常に低い.欧州の調査[9]では,敗血症という名前を知っていた市民は12%であった.もっともこの研究ではドイツだけが53%と突出していたために12%という数字になっており,実際の他国の認知度はもっと低い数字であることが分かる.さらに,敗血症という言葉を知っていても,それが死亡しうる疾患であることを知っていたのは42%であった.当院自験例でも,重症敗血症患者42例の家族へのインフォームドコンセントの際に,敗血症という病名を知っていたのはわずか2例(4.76%)に過ぎなかった(家族が医療従事者である場合は除外).

■医療従事者であれば敗血症という病名はまず知ってはいるが,その治療法やSurviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)の存在となるとその認知度は非常に低い.529名の集中治療医を含む1058名の医師に対するSCCMと欧州集中治療医学会(ESICM)の調査報告[10]では,依然として67%の医師が敗血症の定義を認知しておらず,また正しい知識を持ち合わせていないために83%の医師が敗血症を誤診するという事態が発生していた.当院医師においても,敗血症プロトコル導入前の2011年時点では,敗血症の定義やSSCGの存在を知っていたのは10%に満たず,医師年数が長いほど知らない傾向が見られた.敗血症は感染症の重症病態であり,救急・集中治療・感染症領域の医師のみならず,内科・外科をはじめとするほとんどの科でかかわりうる致死的病態である.にもかかわらずその診療法が認知されていない現状は早急に改善する必要がある.

■こうした医師への認知度の低さを受けて,2001年には米国集中治療医学会SCCM,ESICM,ACCP,ATS,SISが敗血症の定義をより明確化し,正確な認知のもと正しい敗血症診療を励行するためにカンファレンスを開催した[11].同時期に米国では敗血症患者の診断と治療に関する正しい知識の普及の促進を目的にNISE(The National Initiative in Sepsis Education)が設立された.

■この流れの中で2002年にSCCM,ESICM,国際敗血症フォーラム(ISF)の合同カンファレンスがスペインのバルセロナで開催され,5年間で重症敗血症患者の死亡率を25%減らすという目標をかかげた国際的なキャンペーンであるSSC(Surviving Sepsis Campaign)が合意,開始された[12]

■そして,敗血症の認知度をさらに世界全体で医療従事者のみならず行政から一般市民まで広く高めようとする動きの中でWorld Sepsis Dayが制定された.World Sepsis Dayの最大の目的は「普及」である.まずは敗血症とそれに対する取り組みを知ってもらわなければ何も始まらない.一般市民レベルでの敗血症の認知は感染症予防としての衛生改善,ワクチン接種推進へとつながる.国際ガイドラインSSCG,日本版敗血症診療ガイドラインがあるにもかかわらず,それに目を通した医療従事者はほんの一握りに過ぎず,さらなる教育・指導・普及が必要である.また,これらの取り組みは行政の協力なくしては勧められず,そこには普及,医療資源投入のみならず研究・教育に至るまでの国家レベルでの取り組みが必要となる.
※World Sepsis Dayの日本のイベント,東京や横浜で開催されてますが,今後は関西で同時開催もやってほしいところです.
e0255123_1134253.png


敗血症の展望 to 2020 ~世界敗血症の日(World Sepsis Day)~(1)世界敗血症宣言

→敗血症の展望 to 2020 ~世界敗血症の日(World Sepsis Day)~(3)敗血症死亡率は改善できるか?

[1] Beale R, Reinhart K, Brunkhorst FM, et al; PROGRESS Advisory Board. Promoting Global Research Excellence in Severe Sepsis (PROGRESS): lessons from an international sepsis registry. Infection 2009; 37: 222-32
[2] Silva E, Cavalcanti AB, Bugano DD, et al. Do established prognostic factors explain the different mortality rates in ICU septic patients around the world? Minerva Anestesiologica 2012; 78: 1215-25
[3] Martin GS, Mannino DM, Eaton S, et al. The epidemiology of sepsis in the United States from 1979 through 2000. N Engl J Med 2003; 348: 1546-54
[4] Kaukonen KM, Bailey M, Suzuki S, et al. Mortality related to severe sepsis and septic shock among critically ill patients in Australia and New Zealand, 2000-2012. JAMA 2014; 311: 1308-16
[5] DrMagicianEARL. 敗血症とSurviving Sepsis Campaign Guidelines (SSCG). EARLの医学ノート 2013 Aug.6http://drmagician.exblog.jp/16351986/
[6] Hall MJ, Williams SN, DeFrances CJ, Golosinskiy A. Inpatient care for septicemia or sepsis: A challenge for patients and hospitals. NCHS data brief, no 62. Hyattsville, MD: National Center for Health Statistics. 2011
[7] Angus DC, Linde-Zwirble WT, Lidicker J, et al. Epidemiology of severe sepsis in the United States: analysis of incidence, outcome, and associated costs of care. Crit Care Med 2001; 29: 1303-10
[8] Rhee C, Gohil S, Klompas M. Regulatory mandates for sepsis care--reasons for caution. N Engl J Med 2014; 370: 1673-6
[9] Rubulotta FM, Ramsay G, Parker MM, et al; Surviving Sepsis Campaign Steering Committee; European Society of Intensive Care Medicine; Society of Critical Care Medicine. An international survey: Public awareness and perception of sepsis. Crit Care Med 2009; 37: 167-70
[10] Poeze M, Ramsay G, Gerlach H, et al. An international sepsis survey : a study of doctors' knowledge and perception about sepsis. Crit Care 2004; 8: R409-13
[11] Levy MM, Fink MP, Marshall JC, et al. 2001 SCCM/ESICM/ACCP/ATS/SIS International Sepsis Definitions Conference. Crit Care Med 2003; 31: 1250-6
[12] Slade E, et al. The Surviving Sepsis Campaign : raising awareness to reduce mortality. Crit Care 2003; 7: 1-2
[PR]
by drmagicianearl | 2014-09-15 11:42 | 敗血症 | Comments(0)

by DrMagicianEARL