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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

MMRワクチンと自閉症の関連性に関する2014年8月の騒動について

■Wakefieldの捏造論文(1998年Lancetに掲載,2010年にまったく虚偽のものとして撤回)に始まるMMRワクチンと自閉症の関連性についてはその後のすべての研究で否定され,2014年5月にはTaylorらが関連性はないとするメタ解析を報告[1]され,論争に終止符が打たれた状態であった.
→メタ解析,Wakefieldについての詳細はこちらを参照
http://drmagician.exblog.jp/22025386/

■しかし,2014年8月27日,Natural Newsがあるニュースを報じた.そのニュースは米国疾病対策予防センター(CDC)の研究員であるWilliam Thompsonが,CDCが行った研究でMMRワクチンと自閉症の関連性が示唆されたアフリカ系小児のデータを隠蔽していたことを暴露したというものである.当ブログにもどなたかがその旨をコメント欄に記載している.しかし,このニュースには非常に奇妙な点が多い上に,この隠蔽されていたとされるデータの解析を行った論文に不正が見つかり,10月3日に撤回となっており,騒動に終止符が打たれるという,最終的に反ワクチン主義者の方々によるデマにも近い茶番劇に終わった.どうやら第二のWakefieldの存在が今回の騒動を引き起こしたようである.

■CDCのWilliam Thompsonらによる研究[1]は2004年のPediatricsに掲載されたものである.米国アトランタの自閉症を有する小児群624例と,マッチさせた自閉症を有さない対照群1824例を比較した症例対照研究であり,ワクチン接種と自閉症に関連性がみられなかったことを報告している.

■そして2014年8月,この研究データの再解析をBrian Hookerが行い,アフリカ系小児においてMMRワクチン接種者の自閉症発生率が高いという研究結果がTranslational Neurodegener誌に掲載された[3].この研究結果の具体的デザインや解析法は知らされず結論のみをBrian Hookerから電話で聞かされたWilliam Thompsonが「アフリカ系男児で自閉症が高まるデータがでた」との声明をだしたことから騒動が拡大した.反ワクチングループによる自閉症メディアチャンネルからは,Thompsonらの研究をあのタスキーギ梅毒実験に例えるという批判をした(Thompsonらの研究は集団データを入手して解析した研究であり,介入実験はしていない).

■しかし,このBrian Hookerの論文には不可解な点が多い.William Thompsonらの研究データは症例対照研究である.しかしながら,Brian Hookerはこのデータをコホート研究として解析する研究デザインであり,この時点ですでに彼の研究は成り立たっていない.症例対照研究は疾病に罹患した集団を対象に,曝露要因を観察調査し,次に,その対照として罹患していない集団についても同様に,特定の要因への曝露状況を調査し,そして以上の2集団を比較することで、要因と疾病の関連を評価する.コホート研究は特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を一定期間追跡し,研究対象となる疾病の発生率を比較することで要因と疾病発生の関連を調査する.これを混同すれば誤った結論を導くことになる.

■また,彼は様々な検定法を用いての事後解析により自閉症と関連性が得られた解析法のみを提示した.有意水準が5%という設定下では理論上,20種類の検定を試行すると1回偶然で有意差が生じうるため,自分にとって都合のいいデータを得る上でこのような手段がとられることがあり,事前に方法が示されていない研究や後ろ向き研究の信頼度が落ちる要因はここにある.加えて,これはサブグループ解析であり,信頼度はさらに落ちる.実際,極めて細かく分類したがために,サブグループのサンプル数は10例未満であり,これではとても正確な解析はできない.また,仮にこれらの研究デザインや統計処理の不正を抜きにしてデータを見ると,ほとんどのワクチン接種者において自閉症発生リスクは増加せずむしろ安全ということになる.

■ではなぜこのような研究デザインと統計処理の論文がアクセプトされたのか?結果が事実なら非常に世界に影響を与える内容であり,それこそNew England Journal of MedicineやLancetに投稿すればアクセプトされる可能性があり,実際にわずか十数例の観察研究でワクチンと自閉症の関連性を(捏造であったが)示したWakefieldの論文Lancet誌に掲載されたことがそれを証明している.ところかBrian Hookerが投稿したのはTranslational Neurodegenerという非常にマイナーでインパクトファクターも極めて低い医学誌である.さらに,普段はBrian Hookerの論文ではGeier親子(自閉症治療に科学的去勢が有効だと主張している人達)等が共著者に並んでいるにもかかわらず,今回は単独執筆である.

■Translational Neurodegener誌は10月3日になってこのBrian Hookerの論文に不正あり(方法や統計解析手法,利益相反の問題)として最終的に論文撤回させるに至り[4],騒動は終結した.しかし掲載まで至ってしまったのは,エディターがBrian Hookerと利害関係がありうる査読者に査読を依頼してしまったことが大きいと指摘されている(Geier親子などの普段共著している研究者だったのであろうか?).

■誤解されているが,CDCは決してThompsonらの研究データを隠蔽しておらず,オープンにしている.だからこそBrian Hookerも生データを入手して解析しているのである.実際にCDCはこの騒動中も,「我々の保有するデータを解析する人がいるなら歓迎する」としている.目的をあらかじめ明確にして研究が行われる.その際の研究デザインとして人種差の解析をすることが事前設定されていなければ解析は行われない.何より多くのアウトカムを評価しようとすればそれだけ偶然の結果が生じるリスクが高まってしまう.そういう別のアウトカムの評価を行うならば,改めて別の研究として二次解析を行えばよい.だからこそCDCは生データをオープンにしている.

■今回の騒動を引き起こした米国シンプソン大学生物学教授のBrian Hookerは,自分の子供が自閉症であり,その原因はワクチンにあると信じており,反ワクチン主義者の中で絶大な人気を誇っている.ワクチンと自閉症を関連付けるために彼もまたWakefieldと同じ過ちを犯してしまったようである.

■厄介なことに,一度このような不正論文が査読をすり抜けて出版されてしまうと,後で撤回されても反ワクチン主義者によって尾ひれ背ひれがついた上で拡散されていく.今後もこのようなことが起こるのであろうか?

[1] Taylor LE, Swerdfeger AL, Eslick GD. Vaccines are not associated with autism: an evidence-based meta-analysis of case-control and cohort studies. Vaccine 2014; 32: 3623-9
[2] DeStefano F, Bhasin TK, Thompson WW, et al. Age at first measles-mumps-rubella vaccination in children with autism and school-matched control subjects: a population-based study in metropolitan atlanta. Pediatrics 2004; 113: 259-66
[3] Hooker BS. Measles-mumps-rubella vaccination timing and autism among young African American boys: a reanalysis of CDC data. Transl Neurodegener 2014; 3: 16
[4] Retraction: Measles-mumps-rubella vaccination timing and autism among young African American boys: a reanalysis of CDC data. Transl Neurodegener 2014; 3: 22
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by DrMagicianEARL | 2014-10-11 19:03 | 感染対策 | Comments(0)

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