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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

超高齢者肺炎患者の入院や抗菌薬治療には意味があるか?(2) ~人は肺炎で死ぬのか?~

Summary
・死因統計はあくまでも原死因であり,肺炎で入院した高齢者の直接死因を検討した論文報告はない.
・既知の死亡関連因子は多変量解析において統計学的に有意であった変数であり,あくまでも相関を示すもので,因果関係を示すものとは限らない.PSI,CURB-65,A-DROPなどの肺炎重症度評価もまた多変量解析で導かれた死亡関連因子をもとに作られている.
・当院の291例の後ろ向きの検討では,その死亡の半数が心不全の増悪であり,肺炎が直接死因としてかかわった症例はむしろ非常に少なかった.直接死因別で多変量解析を行うと,肺炎が直接死因となる死亡に関連した因子は挿管のみであった.心不全増悪による死亡例ではフロセミド抵抗性が大半を占めたが,トルバプタンを投与されたフロセミド抵抗性症例は良好な治療成績であった.
・高齢者肺炎において抗菌薬は決して効かないものではなく,その奏効率は高いと推察される.その一方で,途中で主たる治療対象が心不全増悪にシフトしている可能性があることを認識する必要がある.
・抗菌薬が進歩しても肺炎は日本の死因統計では第3位まで浮上しているが,肺炎の予後が悪化しているかについては懐疑的である.
4.肺炎で入院した高齢者の死因は一体何か?

■昨年1月,「超高齢者肺炎患者の入院や抗菌薬治療には意味があるか?」というタイトルで記事を書かせていただいた(http://drmagician.exblog.jp/21527127/)ところ,多数の御高覧をいただき,週刊医学界新聞にも同様の記事を執筆させていただいた.その中で,厚労省の死因統計からは抗菌薬が発達しても肺炎の死亡数は上昇傾向にあること,CASCADE studyからは,抗菌薬は延命効果はあるがQOLを低下させること,などを挙げた.確かに抗菌薬は「効かない」わけではないが,本当に肺炎で高齢者は亡くなるのだろうか?注意すべきは,日本の死因統計は原死因に基づいており,直接死因ではないことである.2013年の呼吸器感染症フォーラム(東京,品川プリンスホテル)において,パネルディスカッションの場である先生がこう言った.「肺炎で入院した高齢患者さんて何で亡くなるでしょうね?」.これに対しては誰も答えを持ち合わせてはいなかったし,これに対する答えとなる論文もなかった.

■これまで高齢者肺炎の抗菌薬の研究や観察研究でよくみられたのは,あらゆる原因を含む全死亡をアウトカムとしたものであり,その多変量解析によって死亡関連因子が示されてきた.肺炎重症度分類であるPSI[24],CURB-65[25],A-DROP[26]なども多変量解析をもとに作られている.近年の報告では抗菌薬は死亡リスクに関係なく,耐性菌の検出,低アルブミン血症,心不全,嚥下機能障害,ADL,重症度等が関連するという報告が目立つ.しかし,これは原死因としての肺炎をみており,直接死因としての肺炎で解析した研究は見当たらない.はたしてこのような多変量解析による解釈は適切だろうか?多変量解析で分かるのは統計学的な関連性であり,必ずしも因果関係を示すものではない.では,いったい肺炎で入院した高齢者は何で亡くなっているか?これまでの肺炎に関するガイドラインが示す治療アプローチは本当に正しいのか?実際,肺炎患者で抗菌薬治療が奏功せずズルズルと状態が改善せずに亡くなるケースはあまり経験されない.

■小生の研究の中間解析結果で恐縮であるが以下に提示する(まだ論文化もしていない仮説になります.N数を増やして今年中には投稿しようと考えています).
肺炎で入院し死亡した患者の死因は何か?;291例単施設後方視的観察研究
DrMagicianEARL. 第4回Osaka Infection Forum一般演題1 ホテルモントレ ラ・スール大阪 2014年10月1日

要 約
【背 景】
死因統計では肺炎が原死因として増加傾向にあり,疫学的に70歳以上の患者では抗菌薬の進歩が高齢肺炎患者の予後を改善していない傾向がみられるが,直接的死因についての報告はまだない.当院では,肺炎入院患者で抗菌薬が奏功せず,そのまま死亡するケースはあまり経験されず,高齢者がさまざまな基礎疾患を有することも知られている.

【目 的】
当院呼吸器内科における肺炎入院患者の院内死亡原因を調査する.

【方 法】
2012年1月から2013年12月までの当院呼吸器内科に入院した70歳以上のすべての高齢肺炎患者について,カルテベースで後方視的に各種データを連続的に収集し,死亡原因を検討した.死亡原因は4つに分類した.すなわち,肺炎治療中の窒息,敗血症性ショック,肺炎終末期としての心不全,肺炎が関連した呼吸不全は死亡原因を肺炎とし,肺炎軽快後も改善しない慢性心不全の増悪は慢性心不全増悪とし,肺炎軽快後の悪性腫瘍末期病態は悪性腫瘍とし,それ以外はその他に分類した.
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統計解析ソフトウェアはRを用い,比率の信頼区間は修正Wald法,ノンパラメトリック検定はMann-Whitney順位和検定,二項群間比率検定はFisher正確確率検定,二項変数重回帰は変数減少法による多重ロジスティック回帰解析を用いた.有意水準は5%とした.

【結 果】
登録期間中肺炎患者が362例であり,そのうち70歳以上の291例を登録した.院内死亡は30例(10.3%; 95%CI 7.3-14.4%)であった.生存群261例と死亡群30例の背景因子の比較では,死亡群は,生存群に比して有意に高齢で,NHCAP患者が多く,重症度が高く,アルブミン濃度が低く,BUNが高く,eGFRが低く,慢性心不全,悪性腫瘍が多かった.一方,初期投与抗菌薬の種類,抗菌薬投与日数,初期抗菌薬の臨床的奏功率,入院時CRP,入院時白血球数は両群間で有意差はみられなかった.死因分類では慢性心不全増悪が15例(50%),悪性腫瘍が6例(21%),肺炎が5例(17%),その他が4例(13%)であった.
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院内全死亡をアウトカムとしたときの多変量ロジスティック回帰解析では,陳旧性脳梗塞,慢性心不全,挿管,悪性腫瘍,低ナトリウム血症,低アルブミン血症,MRSA検出が有意な関連因子であった.死因を肺炎としたときの解析では,挿管のみが唯一の有意な関連因子であった.一方,死因を慢性心不全増悪としたときの解析ではフロセミド(ラシックス®)抵抗性と年齢のみが有意な関連因子であった.慢性心不全症例(92例)のサブ解析では,初期抗菌薬奏功率は生存群が84%,死亡群が93%(p=0.36)で有意差はなく,フロセミド抵抗性は生存群が9%,死亡群が80%(p<0.0001)で有意に死亡群の方が多かった.フロセミド抵抗性症例19例では,トルバプタン(サムスカ®)投与群の死亡率は13%,トルバプタン非投与群の死亡率は100%であった(p<0.0001).

【結 論】
急性期病院の当院に入院した高齢者肺炎では,肺炎そのものが改善せずに死亡する頻度は極めて低く(全体の1.7%),死亡原因の半数は心不全の増悪,特に利尿薬抵抗性心不全であり,初期抗菌薬奏功有無は関与していなかった.また,直接死因としての肺炎死に関連していたのは挿管のみであった.高齢者肺炎の死亡に関する検討においては,多変量解析のみならず実際の直接死因の情報を収集して評価すべきである.

【利益相反】
本研究にあたり,開示すべき利益相反はない.

■この研究結果から,高齢者といえども肺炎が治らずに死亡するケースは非常に少なく,挿管症例などの超重症例に限られ,一方で慢性心不全の増悪が肺炎治癒後も遷延していると死亡率が高まることが分かる.また,初期抗菌薬はたとえはずれていても患者が死亡するわけではなく,あとで変更してもほぼ問題ない(このため当院では高齢者肺炎においてはたとえ耐性菌リスクがあってもカルバペネム系やTAZ/PIPCを初期抗菌薬で用いることはあまりなく,培養結果と初期抗菌薬奏功度を評価した上でのescalation戦略を用いている).

■高齢者では肺炎から心不全を続発することもあれば,心不全から肺炎を続発することもあり[27],両者は互いに増悪のスパイラルを形成しうる.このため,抗菌薬治療と同時に心不全の治療も行うことは多い.フロセミドで反応すればよいが,全心不全の4割に利尿薬抵抗性を認め,そのような症例では死亡リスクは1.37倍有意に増大することが知られている[28].バソプレシンV2受容体拮抗利尿薬であるトルバプタン(商品名:サムスカ®)は,4133例二重盲検プラセボ対照RCTであるEVEREST[29]において死亡率の改善がみられなかったが,この研究は入院した心不全全例を対象としており,フロセミド抵抗性心不全以外を含む.トルバプタンは利尿薬抵抗性心不全例において良好な利尿効果を有することが報告されている[30,31].また,利尿薬抵抗性心不全においてトルバプタンによる死亡率改善効果を検討した報告はShirakabaら[32]後ろ向きコホート研究の1報のみであるが,トルバプタン群で6か月死亡率が有意に低く,Propensity Score Matching解析でも同様の結果であったと報告している.

■このように,高齢者の肺炎はたとえ初期抗菌薬がはずれていても,奏功度を評価しつつ適切に抗菌薬変更を行っていけば超重症例でない限りそう治らないものではない.その一方で,主たる治療対象が肺炎から心不全にシフトすることも念頭に置く必要があり,その際に難治性であればトルバプタンが有効な武器となることもあると思われる.

■肺炎のガイドラインで注意しなければならないのは,その推奨の多くが観察研究の多変量解析に頼っていることである.実臨床では,ADLの低い患者,心不全を有する患者の特徴として,死亡率が高く,肺炎よりも他の要因で死亡している,耐性菌検出率は高いが起因菌となっている率は高くない,といったことが経験される.しかし,観察研究およびガイドラインでは,全死亡を目的変数として多変量解析した結果として,耐性菌を検出した患者では全死亡率が高い,だから耐性菌をカバーした広域抗菌薬治療が必要である,という推奨がなされる.これは,アウトカムを全死亡とした結果,観察研究での多変量解析に伴う交絡バイアスが生んだミスリードの可能性がある.

■なお本研究では,高齢者肺炎ではno CPRとなる症例が非常に多いため,挿管を要するレベルまで重症化した場合は挿管せずそのまま亡くなることが多い,後ろ向き解析である,追跡ができていないためアウトカムが院内死亡になっている,死亡群が30例しかいないため解析上偏りがでている,単施設研究であるため病院・地域特有のバイアスの影響がある,肺炎死亡に分類された中に心不全増悪による死亡症例が含まれている可能性がある(心不全増悪死を過少評価している可能性)などの問題点が挙げられる.

■死因統計の推移を見る限り,高齢者肺炎において抗菌薬は予後を改善していない,しかしそれは臨床的には決して効いていないわけではないと思われる.今後,日本でもDNH(Do Not Hospitalized:入院しない)の意思表示がスタンダードとなる日が来るかもしれない.その際,抗菌薬を投与するしないの判断において,「効かないから」ということを理由にすべきではない.これが,小生が自身の研究結果から得た結論である.このような直接的死因の調査がより多施設で行われることを期待したい.

※多施設共同研究も考えてます

■そして,肺炎は真に日本の死因の第3位であるか?をもう一度問いたい.その多くは心不全であるかもしれないし,老衰であるかもしれない.死因統計はあくまで原死因の統計であり,多変量解析も統計学的に導かれた相関に過ぎない.現場にいる医療従事者はより臨床的な認識もすべきであるし,それが反映される肺炎ガイドラインを望みたい.


超高齢者肺炎患者の入院や抗菌薬治療には意味があるか?(1) ~治療とQOLのジレンマ~ はこちら


[24] Fine MJ, Auble TE, Yealy DM, et al. A prediction rule to identify low-risk patients with community-acquired pneumonia. N Engl J Med 1997; 336: 243-50
[25] Lim WS, van der Eerden MM, Laing R, et al. Defining community acquired pneumonia severity on presentation to hospital: an international derivation and validation study. Thorax 2003; 58: 377-82
[26] 日本呼吸器学会呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会.成人市中肺炎診療診療ガイドライン.日本呼吸器学会,東京,2007
[27] Corrales-Medina VF, Musher DM, Shachkina S, et al. Acute pneumonia and the cardiovascular system. Lancet 2013; 381: 496-505
[28] Neuberg GW, Miller AB, O'Connor CM, et al; PRAISE Investigators. Prospective Randomized Amlodipine Survival Evaluation. Diuretic resistance predicts mortality in patients with advanced heart failure. Am Heart J 2002; 144: 31-8
[29] Konstam MA, Gheorghiade M, Burnett JC Jr, et al; Efficacy of Vasopressin Antagonism in Heart Failure Outcome Study With Tolvaptan (EVEREST) Investigators. Effects of oral tolvaptan in patients hospitalized for worsening heart failure: the EVEREST Outcome Trial. JAMA 2007; 297: 1319-31
[30] Fukunami M, Matsuzaki M, Hori M, et al. Efficacy and safety of tolvaptan in heart failure patients with sustained volume overload despite the use of conventional diuretics: a phase III open-label study. Cardiovasc Drugs Ther 2011; 25 Suppl: S47-56
[31] Kinugawa K, Sato N, Inomata T, et al. Efficacy and safety of tolvaptan in heart failure patients with volume overload. Circ J 2014; 78: 844-52
[32] Shirakabe A, Hata N, Yamamoto M, et al. Immediate administration of tolvaptan prevents the exacerbation of acute kidney injury and improves the mid-term prognosis of patients with severely decompensated acute heart failure. Circ J 2014; 78: 911-21
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by DrMagicianEARL | 2015-01-05 00:00 | 肺炎 | Comments(0)

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