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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【雑感】SGLT2阻害薬に思うこと ~処方は専門医に限定すべき~

※今回はエビデンスレビューではありません

■今年の春より新しい糖尿病治療薬であるSGLT-2(sodium-dependent glucose transporter 2:ナトリウム/グルコース共輸送体2)阻害薬が各メーカーから続々と発売されている.具体的にはイプラグリフロジン(スーグラ®),ダパグリフロジン(フォシーガ®),ルセオグリフロジン(ルセフィ®),トホグリフロジン(デベルザ®,アプルウェイ®),カナグリフロジン(カナグル®),エンパグリフロジンである.SGLT-2は尿細管において,ろ過された原尿に含まれているブドウ糖をナトリウムと共に尿細管細胞内に再吸収することでブドウ糖の過剰は排泄を防止する作用がある.SGLT-2阻害薬はこの機序を阻害することで「尿から糖をだす」薬剤である.

■基本的に「新薬」とは非常にいい響きで魅力的であり,製薬メーカーの宣伝も力が入り,そこに飛びつく医師もいるだろう.この新薬をどう扱うかは医師の裁量に任されることになる.①新薬なのでしばらく処方せず市販後の様子を見てから判断する医師,②いろいろ調べて患者を限定してしっかり観察しながら処方する医師,③とりあえず使ってみようという医師などさまざまである.私自身は②のスタンスをとることが多い.

■これまで分かっていることとして,他の経口血糖降下薬との併用試験があるものの,3種類以上の併用試験は存在しない,(ダパグリフロジンのデータでは)ビグアナイド系との併用で有害事象が最も多くその有害事象はほとんどが低血糖ではない(詳細が公開されていないが高乳酸血症と推察される),尿量が増えるため脱水リスクが生じうる,尿路感染・膣感染が生じうる,肥満患者で特に有効などがある.これらの情報から血糖コントロールのみならず,ADL,尿路感染既往,自己衛生,コンプライアンス,併用薬,その他様々な因子を考えなければならず,これらを考慮すれば投与対象となりうる患者はかなり限られるはずであり,他の経口糖尿病治療薬のエビデンス蓄積や薬価での優先順位も考慮すればそう簡単には見つからないだろう.実際,私自身は②のスタンスでSGLT-2阻害薬を処方を検討しているが,いまだに1例も処方対象となる患者が見つからない.

■しかし,臨床試験を経て発売開始となったSGLT-2阻害薬処方例において,わずか半年で7例(因果関係不明の2例を含む)もの死亡例がでている.市販後調査での有害事象や死亡例の一覧を見たが,複数の糖尿病治療薬との併用例やコンプライアンスが悪い患者がずらりとならび,死亡例には脱水要素がある患者が目立った.また,SGLT-2阻害薬の研究会やWebセミナーをいくつか聴講したことがあるが,いずれにおいても質疑応答で「このような処方をしているがどうか?」「こんな症例にこういう使い方をしているがどうだろう?」という質問が多く,その大半が到底適切とは考えられない処方のやり方で驚いた.これは濫用に他ならない.これでは有害事象は後をたたないであろう.

■臨床試験においては厳格な登録基準,除外基準,プロトコルが組まれて行われる.よって臨床試験の結果のみならず方法も非常に重要となる.一方,市販後は医師がこれらを理解していない限りは臨床試験と乖離した結果となることがしばしばあり,近年の肺癌でのイレッサ訴訟はそれを反映したものである.現実的には適正使用できない医師も非常に多いことは様々な薬剤で経験されていることであり,ことSGLT-2阻害薬ですでにこれだけの死亡例が出たのであれば,薬剤メーカーは宣伝の自粛をするとともに,学会はいったんSGLT-2阻害薬の処方権限を専門医に限定するなりe-learningを義務付けるなり何らかの対処をすべきであろう.現時点ではこの薬剤はプロ仕様の薬剤ととらえるべきである.
by DrMagicianEARL | 2014-11-19 16:40

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