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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【文献+レビュー】敗血症性ショックに対するEGDTは死亡率で優位性示せず,ProMISe trial

2014年3月の米国によるProCESS trial,2014年10月のANZICSによるARISE trialに引き続き,EGDTを検証した最後の大規模RCTである英国のProMISe trialがNEJMにonline publishされました.ProCESS,ARISEの流れでもうお分かりだと思いますが結果はネガティブ.はたしてRiver's EGDTプロトコルの検証はこれで決着がついた,とすべきでしょうか?
敗血症性ショックに対する早期の目標指向型蘇生の試験(ProMISe trial)
Mouncey PR, Osborn TM, Power GS, et al; ProMISe Trial Investigators. Trial of Early, Goal-Directed Resuscitation for Septic Shock. N Engl J Med 2015, March 17

【背 景】
早期目標指向型治療(EGDT)は早期の敗血症性ショックの患者の蘇生治療として国際ガイドラインで推奨されている.しかし,適応は限られており,その有効性については不明確なままである.

【方 法】
我々は英国56施設で統合費用対効果分析を用いた実際的無作為化試験を行った.患者はEGDT群(6時間の蘇生プロトコル)と標準治療群に無作為に割り付けられた.主要評価項目は90日全死亡率とした.

【結 果】
1260例が登録され,630例がEGDT群に,630例が標準治療群に割り付けられた.90日時点で,EGDT群では623例中184例(29.5%)が,標準治療群では620例中181例(29.2%)が死亡し(EGDT群の相対リスク 1.01; 95%CI 0.85-1.20; p=0.90),EGDT群の絶対リスク減少は-0.3%であった.EGDT群の治療強化の増加は輸液量,循環作動薬,赤血球輸血,明らかな臓器障害スコアの悪化による難治性,より強化された心血管系支持治療の受ける日数,ICU滞在日数を増加させていた.他の副次評価項目は,健康関連QOLや深刻な有害事象を含め,すべて有意差がなかった.平均すると,EGDTはコストを増加させ,それが費用効果的である確率は20%未満であった.

【結 論】
早期に診断され,抗菌薬投与を受け,適切な輸液蘇生を受けた敗血症性ショック患者においては,厳密なEGDTプロトコルによる循環動態管理はアウトカムを改善させなかった.
1.本結果の解釈

■本ブログではProCESS[1],ARISE[2]発表後も繰り返しEGDTを否定すべきではないと主張しており,今回のProMISeがでてもその姿勢は変わらない.この研究結果は簡単にはネガティブととらえられない背景がある.

■3つのRCTは以前までの敗血症性ショックのRCTに比して非常に低い死亡率となっており,対照群である通常治療の死亡率の低さは循環管理に長けた救急集中治療医のスキルによって担保されている.この対照群と同等以上の医療介入が可能ならばEGDTは行わずともよいが,集中治療医がいない施設ではそうはいかないと思われる(そういう施設ではPiCCOやEV1000などの便利なモニターを持っていることはむしろ稀であり,乳酸値すら計測できない施設も多い).いずれの研究もEGDTが死亡率を改善させなかっただけで悪化させたわけではなく,逆に考えればEGDTプロトコルを用いることで救急集中治療医管理による通常治療と同等の治療成績が出せるととらえることもでき,循環管理に不慣れな施設においてはむしろ推奨されるべきプロトコルと思われる(そういう意味では私はこの3つのRCTをポジティブととらえている).EGDTの採用をやめるか継続するかは施設の治療レベル,主治医やスタッフのスキルに合わせて慎重に判断すべきである.

2.ProCESS,ARISE,ProMISeの比較とメタ解析

■以下では3つのRCTの症例数,重症度(APACHEⅡスコア),90日死亡率,6時間輸液量を比較した.ProCESSはEGDT群と通常治療群以外に標準プロトコル群というアームがあったが,ARISEにはないため,標準プロトコル群を除いて比較した.見ても分かる通り,重症度と死亡率,輸液量が見事な相関を示している.各自の施設との比較において非常に参考になると思われる.
【文献+レビュー】敗血症性ショックに対するEGDTは死亡率で優位性示せず,ProMISe trial_e0255123_204266.png
■River'sら[3]のRCTを加えた4報4018例のメタ解析(R使用)を行った結果は以下の通りである.random effect modelでOR 0.93, 95%CI 0.73-1.19であり,統計学的有意差はみられなかった.
【文献+レビュー】敗血症性ショックに対するEGDTは死亡率で優位性示せず,ProMISe trial_e0255123_2123315.png


3.EGDTに代わる敗血症性ショック治療戦略はあるか?~PLR,呼吸性変動,TPTD,UCG~

■EGDTプロトコルが標準治療と治療成績が同等となると,敗血症全体の治療成績を上げるためには別のプロトコルが必要となる.

■現在,River's EGDTプロトコルにない評価方法で多くの施設で使用されているのは乳酸値のモニタリングであろう.実際,ScvO2を乳酸値より重要視する救急集中治療医は多い.敗血症患者以外も含む高乳酸血症をきたしたICU患者を対象として,EGDT群と,乳酸値を指標にしたプロトコルを作成してEGDTに組み込んだEarly Lactate-Guided Therapy(ELGT)治療群を比較したRCTであるLACTATE study[4]では,ELGT群の方がSOFA score,死亡率を改善させており,サブ解析では死亡率改善は特に敗血症患者において顕著であったとしている.また,Jonesら[5]は,重症敗血症,敗血症性ショックの患者300例を対象として,EGDTでの初期蘇生目標をScvO2≧70%とする群と乳酸クリアランス≧10%/2hrを目標にする群で比較したRCTを報告しており,院内死亡率は23% vs 17%で統計学的有意差はみられなかった.

■その他では,小規模のRCTで各種輸液モニタリングの検討がなされており,いくつか有用な候補はあるものの,決定打となるような試験はない.現実的には複数の手段を用いて判断するのがbetterであろうか.

■PLR(Passive Leg Rising:受動的下肢挙上)は,高頭位から下肢挙上位にして下肢からの血流が心臓に還流することにより1回拍出量増加が認められれば輸液反応性があると評価する方法である.PLRは300-500mLの輸液ボーラス投与に相当するとされる.この評価方法の利点は,人工呼吸中だけでなく自発呼吸下でも測定ができ,TPTDが苦手とする心房細動を有する患者においても有用で非侵襲的である.Cavallaroら[6]は,PLRを検討した研究9報353例のメタ解析を行い,PLRの輸液反応性指標としての感度は89.4%,特異度は91.4%,AUROC 0.95という精度であった.

■フロートラックセンサーやPiCCOなどを用いて1回拍出量の呼吸性変動(SVV)や脈圧の呼吸性変動(PPV)をモニタリングする方法がある.Marikら[7]は,29報685例のメタ解析を行い,PPVの輸液反応性の指標としてのAUROCは0.94,SVVでは0.84であった.しかし,SVVやPPVは,心房細動や心室性期外収縮が多発している状況では使用できないこと,陽圧換気かつ自発呼吸がないこと,1回換気量によって変化してしまうことなど,かなり制約が多い.

■近年,PiCCOやEV1000といったTPTD(経肺熱希釈法:transpulmonary thermodilution)を用いた循環動態モニタリングが検討されている.Trofら[8]は,PiCCOを用いて成人ショック患者120例(敗血症性ショック72例)に対するTPTDと肺動脈カテーテルを比較したRCTを行ったが,死亡率に有意差はなく,人工呼吸器装着日数,ICU滞在日数,入院期間がTPTD群の方が有意に長かった.敗血症患者に限定したサブ解析では,すべてのアウトカムで有意差はみられなかった.Zhangら[9]も,敗血症性ショックかつ/またはARDSの輸液管理においてPiCCOとCVPを比較したRCTを行ったが,28日死亡率やその他アウトカムに有意差なく,715例を集める予定であったが360例で中止となっている.

■本邦では現在,18歳以上の人工呼吸器装着を要する敗血症患者で,輸液管理をTPTD(EV1000)で行う群とCVPで行う群を比較した16施設共同のオープンラベルRCTであるTPTD study[10]が行われている.主要評価項目は28日間におけるCVPとTPTDを用いた管理成功期間(人工呼吸器非使用期間),副次評価項目は28日間生存率,ICU滞在期間,3日間の水分出納バランスであり,2015年10月31日に終了予定となっている.

■心臓超音波は古くから輸液管理における手段として用いられてきた.しかしながらRCTはほとんどなく,再現性が困難であったり,肥満患者や開腹術後の患者,腹腔内圧の患者では指標として用いにくい.経食道超音波を継続的にモニタリングした小規模RCTは存在するが,死亡率の検討はなされておらず,そもそも経食道超音波検査を継続的に使用するのは現実的には難しい.個人のスキルによる部分も大きく,プロトコルで,というよりは標準治療としてのツールで用いられているものであろう.

[1] Early goal-directed therapy in the treatment of severe sepsis and septic shock. N Engl J Med 2001; 345: 1368-77
[2] ProCESS Investigators, Yealy DM, Kellum JA, Huang DT, et al. A randomized trial of protocol-based care for early septic shock. N Engl J Med 2014; 370: 1683-93
[3] ARISE Investigators; ANZICS Clinical Trials Group, Peake SL, Delaney A, Bailey M, et al. Goal-directed resuscitation for patients with early septic shock. N Engl J Med 2014; 371: 1496-506
[4] Jansen TC, et al. Early lactate-guided therapy in intensive care unit patients: a multicenter, open-label, randomized controlled trial. Am J Repir Crit Care Med 2010; 182: 752-61
[5] Jones AE, Shapiro NI, Trzeciak S, et al; Emergency Medicine Shock Research Network (EMShockNet) Investigators. Lactate clearance vs central venous oxygen saturation as goals of early sepsis therapy: a randomized clinical trial. JAMA 2010; 303: 739-46
[6] Cavallaro F, Sandroni C, Marano C, et al. Diagnostic accuracy of passive leg raising for prediction of fluid responsiveness in adults: systematic review and meta-analysis of clinical studies. Intensive Care Med 2010; 36: 1475-83
[7] Marik PE, Cavallazzi R, Vasu T, et al. Dynamic changes in arterial waveform derived variables and fluid responsiveness in mechanically ventilated patients: a systematic review of the literature. Crit Care Med 2009; 37: 2642-7
[8] Trof RJ, Beishuizen A, Cornet AD, et al. Volume-limited versus pressure-limited hemodynamic management in septic and nonseptic shock. Crit Care Med 2012; 40: 1177-85
[9] Zhang Z, Ni H, Qian Z. Effectiveness of treatment based on PiCCO parameters in critically ill patients with septic shock and/or acute respiratory distress syndrome: a randomized controlled trial. Intensive Care Med 2015; 41: 444-51
[10] 敗血症治療における経肺熱希釈法の併用に関する研究(TPTD study).UMIN000011493
by DrMagicianEARL | 2015-03-17 23:15 | 敗血症

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