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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【文献×2】肺炎球菌ワクチン(プレベナー13®)は侵襲性肺炎球菌肺炎を減少させる

■肺炎球菌は,インフルエンザと同様に厚生労働省のB群予防疾患としてワクチン接種が推奨されています.このB群予防疾患は重症化予防を重点においており,今回プレベナー13®でそれに見合った大規模RCTとindirect protectionまで検討した観察研究が報告されましたので紹介します.当院を含む地域では肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス®ですが)が積極推奨された結果か,重症肺炎球菌肺炎は激減しつつあり,臨床的な感覚にも合致します.

■インターネット上では,何名かの開業医さんが自分のホームページにおいて肺炎球菌ワクチンを否定する内容を書いています.しかし,その根拠は自分の診療経験であり,「肺炎球菌ワクチンを接種しても肺炎になる患者がいるので当院では接種をやめた」という,細菌学的・疫学的考察も肺炎球菌ワクチンの目的も無視した勘違いもしくは根拠に欠ける内容が目立ちます.プライマリーケア最前線の現場で科学的根拠の欠落した情報発信をされているのは非常に残念としか言いようがありません.

■重症肺炎球菌肺炎の中には,適切かつ迅速な治療を行っても急速な増悪の経過をたどる劇症例が存在します.気管支鏡を行うと,気管支の奥の方から褐色の水のような喀痰がいくらでもわきでてきて,人工呼吸器を装着しても呼吸状態が維持できず,わずか24時間程度で死亡に至るようなケースを経験されている先生もおられるかと思います.また,このような劇症例でなくとも,敗血症に相当する重症例に罹患した高齢者は救命できてもその後の機能予後が著しく低下することはしばしば経験され,このような患者を減らす上でも肺炎球菌ワクチンを今後も推奨していく必要があると思います.

■また,ニューモバックス®,プレベナー®が推奨される流れで注意すべきは,カバーされていない他の肺炎球菌株によるブレークスルーが地域単位で生じてくる可能性です.実際に観察研究の方でそのブレークスルーの可能性が示されています.

成人の肺炎球菌肺炎に対する多糖類コンジュゲートワクチン(プレベナー13®),CAPITA study
Bonten MJ, Huijts SM, Bolkenbaas M, et al. Polysaccharide conjugate vaccine against pneumococcal pneumonia in adults. N Engl J Med 2015; 372: 1114-25
PMID:25785969

Abstract
【背 景】
肺炎球菌多糖類コンジュゲートワクチンは乳児において肺炎球菌感染症を予防するが,65歳以上の肺炎球菌による市中肺炎に対する効果は知られていない.

【方 法】
65歳以上の成人84496例を登録した本無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験において,我々はワクチンタイプの肺炎球菌株による市中肺炎,非細菌性と非侵襲性の肺炎球菌による市中肺炎,侵襲性肺炎球菌感染症の最初のエピソードについて13価多糖類コンジュゲートワクチン(PCV13)の効果を検討した.標準的検査方法と血清型特異的尿中抗原検出アッセイを市中肺炎と侵襲性肺炎球菌感染症の検出に用いた.

【結 果】
ワクチンタイプの株による感染症の最初のエピソードのper-protocol解析において,市中肺炎はPCV13群で49例,プラセボ群で90例発生し(ワクチン効果45.6%; 95.2%CI 21.8-62.5),非細菌性と非侵襲性市中肺炎はPCV13群で33例,プラセボ群で60例発生し(ワクチン効果45.0%; 95.2%CI 14.2-65.3),侵襲性肺炎球菌はPCV13群で7例,プラセボ群で28例発生した(ワクチン効果75.0%; 95%CI 41.4-90.8).効果は試験期間中持続した(平均フォローアップ期間3.97年).調整したintention-to-treat解析でも同様の効果が観察され(ワクチン効果はそれぞれ37.7%,41.1%,75.8%),市中肺炎はPCV13群で747例,プラセボ群で787例発生した(ワクチン効果5.1%; 95%CI -5.1 to 14.2).重篤な有害事象や死亡は両群間で同等であったが,PCV13群で局所反応が多かった.

【結 論】
高齢者において,PCV13はワクチンタイプの肺炎球菌,細菌性,非細菌性の市中肺炎,侵襲性肺炎球菌感染症を予防するが,あらゆる原因での市中肺炎予防効果はみられなかった.
英国およびウェールズにおける,導入後4年間の侵襲性肺炎球菌感染症における13価肺炎球菌コンジュゲートワクチンの効果
Waight PA, Andrews NJ, Ladhani SN, et al. Effect of the 13-valent pneumococcal conjugate vaccine on invasive pneumococcal disease in England and Wales 4 years after its introduction: an observational cohort study. Lancet Infect Dis 2015 Mar 19 [Epub ahead of print]
PMID:25801458

Abstract
【背 景】
13価肺炎球菌コンジュゲートワクチン(PCV13)は,7価ワクチン(PCV7)のルーチン接種後に増加した血清型の増加を防ぐが,集団免疫や血清型のブレークスルーの可能性については不明確である.

【目 的】
本研究の目的は,英国およびウェールズにおいて導入後4年間の侵襲性肺炎球菌感染症に対する13価肺炎球菌コンジュゲートワクチンの効果を解析することである.

【方 法】
我々は,PCV13導入前およびPCV7導入前をベースラインとして,2013年7月から2014年6月までのワクチンタイプと非ワクチンタイプの侵襲性肺炎球菌感染症の発生率を推定するために,英国とウェールズにおける電子的報告および侵襲性肺炎球菌感染症例の血清型の国のデータセットを用いた.発生率は血清型データの欠落と時間の経過によるサーベランス感度の変化で補正した.発生率と信頼区間の推定は過分散ポアソンモデルを用いた.

【結 果】
2013/2014年の疫学的な侵襲性肺炎球菌感染症の発生率は,PCV13導入前に比して32%減少していた(2008-10年の発生率10.14/100000 vs 2013/14年の発生率6.85/100 000; 発生リスク 0.68, 95%CI 0.64-0.72),.これは,PCV7がカバーする血清型が86%減少したこと(1.46 vs 0.20/100000; 発生リスク 0.14, 95%CI 0.10-0.18),PCV13によってカバーされたさらなる6種類の血清型が69%減少したことによる(4.48 vs 1.40/100000; 発生リスク 0.31, 95%CI 0·28-0·35).PCV7導入前と比較すると,侵襲性肺炎球菌感染症は56%減少していた(15.63 vs 6.85/100 000; 発生リスク 0.44, 95%CI 0·43-0·47).PCV13導入前と比較すると,PCV13に含まれない血清型は,5歳未満の小児と45歳以上の成人において広い範囲の血清型の増加によりその発生率が増加していた(4.19 vs 5.25/100000; 発生率 1.25, 95%CI 1.17-1.35).5歳未満の小児において,2013/2014年のPCV13に含まれない血清型の発生率は2012/2013年よりも高かった(2歳未満: 12.03 vs 10.83/100000; 2-4歳: 4.08 vs 3.63/100000).

【結 論】
英国およびウェールズにおけるPCVの8年間の導入は侵襲性肺炎球菌感染症を50%以上減少させた.PCV7による集団免疫は持続しており,同様に間接的保護作用はPCV13によってカバーされる血清型が追加されたことで生じている.しかし,2014年においてPCV13に含まれない血清型による侵襲性肺炎球菌肺炎を,特に5歳未満の小児において増加していることが示された.もしこの増加が持続するのであれば,小児におけるPCV13プログラムの最大限の有益性は既に達成されている.

by DrMagicianEARL | 2015-04-01 00:00 | 感染対策

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