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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

【文献+α】腹膜炎による敗血症性ショックに対するPMX-DHPは死亡率を増加させる傾向(ABDOMIX)

■敗血症性ショックに対するPMX-DHPについてはフランスのABDOMIX studyと米国カナダのEUPHRATES studyがあるが,そのうちABDOMIXについては昨年3月23日にベルギーはブリュッセルで開催されたISICEMで既に報告があり,結果はネガティブであったことを既に知っておられる方も多いと思います(しかも数か月後には早々とRonco先生がCritical Care誌にPMX-DHPのレビュー論文をpublishした際に結果を書いてましたが).

■このISICEMでの報告から1年たってようやくIntensive Care Medicine誌にpublishされましたのでここに紹介します.対照群と有意差なしどころか有害ともとれないこともないデータです.Authorがどのような表現でConclusionsを書いてくるか興味がありましたが,AbstractはITT解析を重視した厳しめの表現となりました.limitationはあるものの,PMX-DHPの適応を考え直す必要はあるでしょう.

■それにしても,EUPHAS studyでは中間解析でのCox比例ハザード回帰でPMX-DHP群の方が死亡リスクが低かったために試験が中止となったのに対して,今回のABDOMIXはPMX-DHP群の方が死亡リスクが高いのによく中止にならなかったな,と思いました.
腹膜炎による敗血症性ショック患者に対するポリミキシンB血液浄化の早期使用(ABDOMIX study)
Payen DM, Guilhot J, Launey Y, et al; ABDOMIX Group. Early use of polymixin B hemoperfusion in patients with septic shock due to peritonitis: a multicenter randomized control trial. Intensive Care Med 2015 Apr.11 [Epub ahead of print]
PMID:25862039

Abstract
【目 的】
腹腔感染症からくる腹膜炎による敗血症性ショックにおいて,ポリミキシンBによる血液浄化(PMX-DHP)ファイバーカラムが死亡率と臓器不全を減少させるかを検討する.

【方 法】
本研究は,2010年10月から2013年3月までのフランスの18のICUにおいて,消化管穿孔に関連した腹膜炎に対する緊急手術後12時間以内の敗血症性ショック患者243例を登録した前向き多施設共同無作為化比較試験である.PMX-DHP群は標準治療に加えて,2回のPMX-DHPを施行された.主要評価項目は28日死亡率,副次評価項目は90日死亡率およびSOFAスコアに基づいた臓器障害の重症度の低下とした.

【結 果】
主要評価項目の28日死亡率は,PMX-DHP群(119例)で27.7%,標準治療群(113例)で19.5%,p=0.14であった(OR 1.5872, 95%CI 0.8583-2.935).副次評価項目の90日死亡率はPMX-DHP群で33.6%,標準治療群で24%,p=0.10(OR 1.6128, 95%CI 0.9067-2.8685),day 0から7でのSOFAスコアの減少はPMX-DHP群で-5(-11 to 6),標準治療群で-5(-11 to -9),p=0.78であった.事前に規定していたサブグループ(合併症,外科手術の適切性,PMX-DHP施行回数2回未満)やday 0から3のSOFAスコアの減少についても同様の結果であった.

【結 論】
本多施設共同無作為化比較試験で,腹膜炎による敗血症性ショックに対するPMX-DHPは,標準治療と比較して,有意ではない死亡率の増加を示し,臓器不全を改善させなかった.

1.PMX-DHP群で死亡率が高まった原因は?

■「PMX-DHPは死亡リスクを改善させないかもしれないが,血圧は上昇する」という印象をもっている人は多いと思われる.しかし,本ABDOMIXの結果は,統計学的有意ではないものの死亡率絶対差が7-8%と無視できない大きさである.この差がなぜ生じたかについてはサブ解析を見ると分かる.PMX-DHP群の32%にあたる38例がPMX-DHPを続行できず,そのうちの23例が凝固が原因であり,そのうち19例が1回目のPMX-DHP施行で凝固が生じていた.この続行不可能であった38例を除外したサブ解析ではPMX-DHP群の死亡率は18.5%となり,標準治療群の19.5%とほぼ同等となる.一方,PMX-DHPが続行できなかった38例の死亡率は47%と異常に高い.なぜこんなに死亡率が高まってしまったのか?

■ひとつは,試験が行われたのがフランスであるという点である.人種の差の検討も必要であるが,日本やイタリアと違い,PMX-DHPに慣れてない施設やスタッフも多かったのかもしれない.また,フランスではDICの治療は行われない.人工デバイスが入った状態でのDIC併発がなんらかの弊害をもたらしたのかもしれない.さらに,使用した抗凝固薬はヘパリンであり,これが敗血症病態において何らかの悪影響を及ぼした可能性も否定できない(本邦ではメシル酸ナファモスタットが一般的である).これらの要因が重なり,PMX-DHPが続行不可能となった症例では死亡率が5割近くまで高まったのかもしれない.だが,いずれにせよ,これらの症例を除外しても,死亡率の改善は示せていないことになる(敗血症性ショックの死亡率が20%を切ってくると有意差をもって死亡率を改善させた介入はRCTレベルでは現時点では存在しない).おそらく,PMX-DHPについて言及するガイドラインでは今後推奨度は本研究結果を受けて下がる可能性がある.

2.これまでの知見

■PMX-DHP(polymyxin B-immobilized fiber column-direct hemoperfusion)はエンドトキシン吸着カラムのトレミキシン®(東レメディカル)を用いた日本発の血液吸着療法であり,敗血症に適応がある.2010年に報告された大規模RCTであるEUPHAS studyでは結果はポジティブであるとされたが,試験がCox比例ハザード回帰解析結果で早期終了されていること,死亡率に有意差がないこと,腹腔内感染症による敗血症にしては対照群の死亡率が高すぎることなどの問題点が多数指摘され,EUPHASを含め,PMX-DHPが敗血症の死亡率を改善するとするRCTレベルのエビデンスはなく,血圧上昇効果についてもエビデンスは明確ではなかった.

■詳細について本ブログではPMX-DHPについてのまとめの記事を2013年にアップしているので参照されたい.

敗血症とエンドトキシン計測&PMX-DHP(2) ~PMX-DHPは敗血症の予後を改善しうるか?~
http://drmagician.exblog.jp/20996440/

3.今後のRCT

■PMX-DHPについては,現在米国カナダでEUPHRATESが行われている.本試験は,エンドトキシン血症(EA値≧0.6)を伴う敗血症性ショック患者を対象とし,標準治療+PMX-DHP群と標準治療群を比較した米国・カナダ42施設共同二重盲検RCTである.

■さらに,スイスでもENDOX study(pilot RCT)が開始されている.この研究はAN69ST(SepXiris®)のカラムの電荷を少し変えてエンドトキシンを効率よく除去できるようにしたoXirisというカラムを用い,このoXiris群,PMX-DHP群,標準治療群を比較した3アームのRCTである.この結果でPMX-DHPが優位性を示せなければ,コスト面も考慮すると優先順位は下がることになるかもしれない.
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by DrMagicianEARL | 2015-04-21 16:41 | 敗血症 | Comments(1)
Commented by ゴールドシップ at 2015-04-23 04:13 x
EARLさん
ABDO-MIX 論文化されてたんですね。確かに現状の医学では、なにがなんでもPMXではないと思います。本当は、日本でランダマイズでたとえなくても、他施設で検討すべきですね。
その上で、初期のIL-6値とDICスコア、PMX の施行時間も統一させ、DIC 治療のあるなし、腹腔内感染症かどうかなどを変数とし、PMXとセプザイリスで生命予後を比較する。これしかありません。ご存じの通り、EAA活性は超重症例、WBC 減少時には偽性低下しますから。

by DrMagicianEARL