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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【文献×3】非外傷患者における急性期の赤血球輸血基準

■宣伝で恐縮ですが,INTENSIVISTの26号「ICUで遭遇する血液疾患」が刊行されました.ICU患者に合併する血液疾患,輸血,重症血液疾患,造血幹細胞移植がとりあげられています.今回私も赤血球輸血基準に関するレビュー(Intensivist 2015; 7(2): 267-77)を執筆させていただきました.6月13日のJSEPTICセミナーでも本内容について講演させていただきます.
【文献×3】非外傷患者における急性期の赤血球輸血基準_e0255123_18222659.jpg
■2014年12月に原稿執筆を終えたのですが,その後にNEJM誌とRev Bras Ter Intensiva誌にRCTが,BMJ誌にメタ解析が報告されており,今回のINTENSIVIST誌には掲載されていません.なので以下に紹介させていただきます.

■なお,私はINTENSIVIST誌の中で,「ヒトの細胞外液量が正常の急性貧血において,忍容しうる下限がどこまでなのかについては確立されていない」と書きました.実際,ヘモグロビン濃度がどこまで下がれば死亡リスクがどの程度高まるかは分かっていない状況で,心血管リスクを有する患者においては輸血制限群のヘモグロビン閾値を8.0g/dLに設定した上で輸血制限を支持するRCTが多数でていたわけです.今回のNEJM誌に報告されたRCTでは制限群のヘモグロビン閾値は7.5g/dLと,従来よりやや低くした結果,アウトカムが非制限群より悪いという結果となりました.このことから,少なくとも心血管リスクを有する患者では閾値を8.0g/dLより低く設定しない方がいいという提案になるでしょうか.

■一方,Rev Bras Ter Intensiva誌の方は敗血症性ショックを対象とした小規模のRCTです.既にTRISS trialで,敗血症性ショック患者では輸血閾値は7.0g/dLでも9.0g/dLでもアウトカムに差はない(医療資源・コスト面で7.0g/dLが自動的に推奨される)という結果でしたが,今回の小規模RCTではScvO2と乳酸値に注目しており,ヘモグロビン濃度がどうであろうがベースラインのScvO2が低い患者や乳酸値の高い患者において赤血球輸血はこれらのパラメータを改善させるとしています.

■なおこの2つのRCTはBMJ誌のメタ解析には含まれていません.
心臓手術後の非制限輸血と制限輸血(TITRe2 study)
Murphy GJ, Pike K, Rogers CA, et al; TITRe2 Investigators. Liberal or restrictive transfusion after cardiac surgery. N Engl J Med. 2015 Mar 12;372(11):997-1008
PMID:25760354

Abstract
【背 景】
赤血球輸血におけるヘモグロビン濃度の閾値制限が,非制限に比して,心臓外科手術後の合併症や医療コストを減じるかについては不明確である.

【方 法】
我々は,英国17施設で登録された,待機的心臓手術を施行された16歳超過の患者における多施設共同並行群間試験を行った.術後ヘモグロビン濃度が9g/dL未満の患者を,制限輸血閾値(ヘモグロビン濃度<7.5g/dL)または非制限輸血閾値(ヘモグロビン濃度<9g/dL)に無作為に割り付けられた.主要評価項目は,無作為化から3か月以内の重症感染症(敗血症または創部感染)または虚血性イベント(永続的脳卒中[脳画像での確認と,運動・感覚・協調運動のいずれかの障害],心筋梗塞,腸管梗塞,急性腎傷害)とした.手術日から術後 3か月までにかかった医療費は,指標手術の費用を除いて推計した.

【結 果】
無作為化された計2007例の患者のうち,4例が脱落となり,1000例を閾値制限群,1003 例を閾値非制限群に割り付けた.無作為化後の輸血率はそれぞれ53.4%と92.2%であった.主要評価項目の発生率は,閾値制限群で35.1%,閾値非制限群で33.0%であり(OR 1.11, 95%CI 0.91-1.34, p=0.30),サブグループでの不均一性は示されなかった.死亡は,閾値制限群の方が閾値非制限群よりも多かった(4.2% vs 2.6%, HR 1.64, 95%CI 1.00-2.67, p=0.045).主要評価項目のイベントを除く重篤な術後合併症の発生率は,閾値制限群で35.7%,閾値非制限群で34.2%であった.医療費は両群間で有意差はみられなかった.

【結 論】
心臓手術後の制限された輸血閾値は合併症や医療コストにおいて非制限よりも優越性を示せなかった.
敗血症性ショックにおける輸血:7.0g/dLは本当に適切な閾値か?
Mazza BF, Freitas FG, Barros MM, et al. Blood transfusions in septic shock: is 7.0g/dL really the appropriate threshold? Rev Bras Ter Intensiva 2015 Jan-Mar;27(1):36-43
PMID:25909311

Abstract
【目 的】
異なる輸血トリガーでの敗血症性ショック患者における中心静脈酸素飽和度と乳酸レベルに対する赤血球輸血の即時効果を評価する.

【方 法】
48時間以内に敗血症性ショックと診断され,ヘモグロビン濃度が9.0g/dL以下の患者を登録した.患者はヘモグロビン濃度が9.0g/dL超過を維持するように直ちに輸血を行う群(Hb9群)とヘモグロビン濃度が7.0g/dL以下に低下するまで輸血を行わない群(Hb7群)に無作為化された.ヘモグロビン,乳酸値,中心静脈酸素飽和度を各輸血の前および輸血1時間後に測定した.

【結 果】
46例の患者および74の輸血を登録した.Hb7群の患者は,乳酸中央値が2.44(2.00-3.22)mMol/Lから2.21(1.80-2.79)mMol/Lまで有意に低下し(p=0.005),これはHb9群では観察されなかった[1.90(1.80-2.79)から2.00(1.70-2.41)に変化].中心静脈酸素飽和度はHb7群で増加し[68.0(64.0-72.0)%から72.0(69.0-72.0)%に変化,p<0.0001]したが,Hb9では増加しなかった[72.0(69.0-74.0)%から72.0(71.0-73.0)%に変化,p=0.98].ベースライン時点で乳酸値が上昇または中心静脈酸素飽和度<70%であった患者は,ベースラインのヘモグロビン濃度にかかわらずこれらの変化が有意に増加していた.これらの数値が正常値であった患者では両群とも減少はみられなかった.

【結 論】
赤血球輸血は,低灌流の患者においてはベースラインのヘモグロビン濃度にかかわらず,中心静脈酸素飽和度を増加させ,乳酸値を減少させる.輸血は低灌流のない患者においてはこれらの変化がみられなかった.
赤血球輸血における制限vs非制限の輸血戦略:メタ解析および逐次解析を用いた無作為化試験のシステマティックレビュー
Holst LB, Petersen MW, Haase N, et al. Restrictive versus liberal transfusion strategy for red blood cell transfusion: systematic review of randomised trials with meta-analysis and trial sequential analysis. BMJ 2015 Mar 24;350:h1354
PMID:25805204

Abstract
【目 的】
赤血球輸血における制限と非制限の輸血戦略の有益性と有用性について比較する.

【方 法】
研究デザインは,無作為化試験のメタ解析および逐次解析を用いたシステマティックレビューである.無作為化比較試験のCochrane central register of controlled trials,SilverPlatter Medline (1950 to date),SilverPlatter Embase (1980 to date),Science Citation Index Expanded (1900 to present)から検索を行った.抽出された試験のリストと他のシステマティックレビューを参照して評価し,執筆者および輸血専門家によって追加する試験の抽出を行った.試験は,言語,盲検化しており,出版状態,サンプルサイズによらず,成人または小児で非制限群と比較した制限輸血戦略を評価された,出版有無によらない無作為化比較試験を登録した.2名が独立して,抽出された試験のタイトルと要約をスクリーニングし,関連している試験は適格性をフルテキストで評価した.そして2名のレビュワーは独立して,登録された試験の方法,介入,アウトカム,バイアスリスクのデータを抽出した.危険率および95%信頼区間による平均差の推定はランダム効果モデルを使用した.

【結 果】
無作為化された患者9813例を含む31試験が登録された.赤血球輸血を受けた患者の割合(RR 0.54, 95%CI 0.47-0.63, 8923例,24試験)と輸血された赤血球単位数(平均差-1.43, 95%CI -2.01 to -0.86)は非制限輸血戦略群よりも制限群の方が少なかった.非制限輸血戦略と比較した制限輸血は死亡リスク(RR 0.86, 95%CI 0.74-1.01, 5707例,9報のバイアスリスクの低い試験),全有病リスク(RR 0.98, 95%CI 0.85-1.12, 4517例,6報のバイアスリスクの低い試験),致死的または非致死的な心筋梗塞リスク(RR 1.28, RR 0.66-2.49, 4730例,7報のバイアスリスクの低い試験)に関連していなかった.結果はバイアスリスクが不明確か高い試験を含めても影響はみられなかった.死亡および心筋梗塞において逐次解析を用いると,必要となる情報量には満たなかったが,制限的輸血戦略による全有病率において15%の相対リスク減少または増加を排除しえた.

【結 論】
非制限と比較して,制限輸血戦略は輸血された赤血球単位数と患者数の減少に関連していたが,死亡率,全有病率,心筋梗塞については不変のようであった.制限輸血戦略はほとんどの臨床状況において安全である.非制限輸血戦略は患者にいかなる利益も示せなかった.

by DrMagicianEARL | 2015-04-28 13:39 | 文献

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