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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【文献+α】カテコラミンは腸管細胞傷害と関連~カテコラミンを要する患者に経腸栄養は行うべきか?~

■循環動態が不安定な患者に対する経腸栄養の是非はいまだに不明確なままであり,施設によってその適応は異なると思います.当院でも高用量カテコラミン投与中or増量中の場合は経腸栄養は開始しません.これはショック時の血流再分配機構(redistribution)およびアドレナリンα刺激による血管収縮により腸管虚血に陥るリスクが高いという理論によるものです.一方でショックバイタルであっても,経腸栄養によって腸循環が改善するというエキスパートオピニオンをもとに経腸栄養を積極的に施行している施設もあると思います.本問題はRCTなしの未解決問題です.

■今回,重症患者におけるカテコラミンと腸管細胞傷害の関連性についての研究がShock誌に報告されたので紹介します.経腸栄養によってこのカテコラミンによる傷害を防ぐ効果があるのか悪化させる効果があるのかはこの研究ではわかりませんが・・・
重症患者でのカテコラミンの使用は腸管細胞傷害と関連している


Piton G, Cypriani B, Regnard J, et al. Catecholamine Use is Associated With Enterocyte Damage in Critically Ill Patients. Shock 2015; 43: 437-42
PMID:25565647

Abstract
【背 景】
ショック状態の重症患者において,小腸傷害はしばしばみられるが過少評価されている.高用量カテコラミンは腸間膜の血流に有害な影響をもたらしている可能性がある.血漿腸管脂肪酸結合蛋白(I-FABP)濃度は腸管細胞傷害のマーカーであり,一方で血漿シトルリン濃度は機能的腸細胞塊のマーカーである.我々は,重症患者における高用量カテコラミンが腸管細胞傷害と関連している可能性があるという仮説をたてた.

【目 的】
本研究の目的は,カテコラミンの使用および用量と腸管細胞傷害との間の関連性を調査することである.

【方 法】
本研究は大規模な地域大学病院で行われた前向き観察研究である.内科集中治療室(ICU)に入室時にアドレナリンかつ/またはノルエアドレナリンを必要とした重症患者,およびカテコラミンを必要としなかった対照患者を登録した.我々は入室時の血漿I-FABPとシトルリン濃度,腹部灌流圧(APP),予後および治療の関連変数を評価した.患者はICU入室時のカテコラミン用量で四分位に分類された.

【結 果】
60例のカテコラミンを投与された重症患者とカテコラミンを投与されなかった27例が登録された.血漿I-FABPは対照群よりもカテコラミン投与患者群の方が高かった.カテコラミン投与患者において,ICU入室時の0.48γ/kg/min以上の用量は高いI-FABP濃度と関連していた.ICU入室時にSOFAスコア11点超過および血漿I-FABPが524pg/mLであることは独立して28日死亡に関連していた(それぞれOR 4.0; 95%CI 1.24-12.95, OR 4.90; 95%CI 1.44-16.6).

【結 論】
重症患者においてカテコラミン使用はI-FABPの上昇と関連していた.ICU入室時のアドレナリンかつ/またはノルアドレナリンの0.48γ/kg/min超過の投与を受けた重症患者は高いI-FABP濃度であった.本知見から,腸管細胞傷害は重篤なショックを反映していることが示唆され,カテコラミン自体の有害な影響である可能性がある.
■本研究を行ったPitonらは,2013年にもCritical Care Medicineに,腸管細胞傷害がショックと28日死亡に関連しているとする103例の前向き観察研究を報告している[1].同様の報告がこれまでに複数ある[2,3].では,血行動態が不安定でカテコラミンを要する患者に対する経腸栄養は安全かつ有効か?これに関しては現時点でRCTは存在しない.

■現在,米国において,人工呼吸器を要する成人敗血症性ショック患者を対象として,カテコラミン投与中に経腸栄養を行うか否かで比較した単施設のRCTが開始されており[4],64例を登録予定である(2017年に終了予定).

Pro:循環動態が不安定でも経腸栄養を行うべきである

■循環動態不安定な患者では,血液再分配機序(redisribution)により消化管の血流は低下する.ここに経腸栄養を行うことで,消化管での酸素消費量が増大し[5],腸管血流は増加するため,腸循環の改善に有用であるとする意見がある.実際に,カテコラミン投与中の患者への経腸栄養で腸管虚血が発生した割合は1%以下に過ぎない[6].もっとも,近年はpermissive underfeeding,trophic feedingが主流であり,早期はかなり少ない投与量で開始されるためリスクはより少ないかもしれない.

■観察研究では参考となる報告がいくつか散見される.Khalidら[7]は,循環作動薬を投与されている人工呼吸器患者1174例の後ろ向き検討で,早期経腸栄養群は晩期経腸栄養群よりもICU死亡率(22.5% vs 28.3%; p=0.03),院内死亡率(34.0% vs 44.0%; p<0.001)が有意に低かったと報告している.

■Manclら[8]は,循環作動薬を投与されながら経腸栄養を受けた259例のICU患者を後ろ向きに検討しており,経腸栄養の忍容性は74.9%であったと報告している.

■Raiら[9]はICUに入室した敗血症患者43例(うち33例がショック)の後ろ向き検討では,ショック有無で経腸栄養開始までの時間に有意差はみられなかった(1.3±1.7日vs1.7±1.3日, p=0.16).胃内残量については,ショックを有する群の方が有意に多かったが(39±47mL vs 113±153mL, p=0.02),栄養投与量の目標達成率に有意差はみられなかった(77±16% vs 69±23%, p=0.2).

■Flordelís Lasierraら[10]は,循環動態が不安定な心臓手術後患者37例の観察研究を行い,腸管虚血は1例も発生しなかったと報告している.

Con:循環動態が不安定な場合は経腸栄養を行うべきではない

■血液再分配機序による腸管血流低下に対する経腸栄養は血流量を増加させうるが,腸管の酸素需要量に足る血流が維持されるかについては不明確であり,同時に,重要臓器への血流量を低下させるリスクもはらむ.加えて,経腸栄養を行うことによる非閉塞性腸管虚血(NOMI)への進展には注意が必要である.また,カテコラミン投与患者における経腸栄養により腸管虚血が生じる割合は確かに1%以下と少ないものの,高用量カテコラミン投与下でのリスクや(腸管虚血に至る)高用量そのものの定義,その他の腸管に与える因子(DICなど)を考慮した明確な基準は不明である.

■前述のManclらの報告では,有害事象は乳酸値上昇が30.6%,胃内残量増加が14.5%,嘔吐が9.0%,腸管虚血再灌流が0.9%であり,最大ノルアドレナリン投与量と経腸栄養忍容性には負の相関がみられている.また,Raiらの報告も,サンプル数が非常に少ないために統計学的有意差がでなかっただけかもしれず,データそのものはそれなりの絶対差があり,ショックありの方が不利かもしれない.

■カテコラミンによる腸管血流への影響はこれまで不明確であったが,今回のPitonらの報告はひとつの警鐘となるかもしれない.閾値を定めるのはまだ困難ではあるが,循環動態が不安定でも一律にルーティンで経腸栄養を行うべきではないかもしれない.少なくとも高用量のカテコラミンを必要とする状況,あるいは高用量になりうる状況(=カテコラミンを増量している途中)では避けるべきとするASPEN/SCCMガイドライン[10]の推奨は妥当であろう.

[1] Piton G, Belon F, Cypriani B, et al. Enterocyte damage in critically ill patients is associated with shock condition and 28-day mortality. Crit Care Med 2013; 41: 2169-76
[2] Derikx JP, Poeze M, van Bijnen AA, et al. Evidence for intestinal and liver epithelial cell injury in the early phase of sepsis. Shock 2007; 28: 544-8
[3] Derikx JP, Bijker EM, Vos GD, et al. Gut mucosal cell damage in meningococcal sepsis in children: relation with clinical outcome. Crit Care Med 2010; 38: 133-7
[4] A Randomized Controlled of Enteral Nutrition in Septic Shock. ClinicalTrials.gov Identifier:NCT02025127
[5] Kazamias P, Kotzampassi K, Koufogiannis D, et al. Influence of enteral nutrition-induced splanchnic hyperemia on the septic origin of splanchnic ischemia. World J Surg 1998; 22: 6-11
[6] McClave SA, Chang WK. Feeding the hypotensive patient: does enteral feeding precipitate or protect against ischemic bowel? Nutr Clin Pract 2003; 18: 279-84
[7] Khalid I, Doshi P, DiGiovine B. Early Enteral Nutrition and Outcomes of Critically Ill Patients Treated With Vasopressors and Mechanical Ventilation. Am J Crit Care 2010; 19: 261-8
[8] Mancl EE, Muzevich KM. Tolerability and Safety of Enteral Nutrition in Critically Ill Patients Receiving Intravenous Vasopressor Therapy. Journal of Parenteral and EnteralNutrition. JPEN J Parenter Enteral Nutr 2013; 37: 641-51
[9] Rai SS, O'Connor SN, Lange K, et al. Enteral nutrition for patients in septic shock: a retrospective cohort study. Crit Care Resusc 2010; 12: 177-81
[10] Flordelís Lasierra JL, Pérez-Vela JL, Umezawa Makikado LD, et al. Early enteral nutrition in patients with hemodynamic failure following cardiac surgery. JPEN J Parenter Enteral Nutr 2015; 39: 154-62
[11] McClave SA, Martindale RG, Vanek VW, et al; A.S.P.E.N. Board of Directors; American College of Critical Care Medicine; Society of Critical Care Medicine. Guidelines for the Provision and Assessment of Nutrition Support Therapy in the Adult Critically Ill Patient: Society of Critical Care Medicine (SCCM) and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition (A.S.P.E.N.). JPEN J Parenter Enteral Nutr 2009; 33: 277-31
by DrMagicianEARL | 2015-05-12 17:36 | 文献

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