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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【文献】本邦での高齢者の誤嚥性肺炎後の経口摂取達成率は6割

■高齢者が誤嚥性肺炎で入院するとかなりの割合で経口摂取ができない状態となってしまうことは多くの先生が経験されることです.もちろん可逆的なfrailtyの患者であればST介入下での嚥下訓練等である程度経口摂取が可能となってきますが,それを超えてしまった不可逆な状態まで嚥下機能が障害された患者は経口摂取を断念せざるを得ないことが多いです.もっともこれは加齢に伴う機能低下進行の結果であり,嚥下機能障害はその氷山の一角に過ぎず,そこまで進行してしまった患者は他にも何らかの機能低下が多数合併しています.

■難しいのは,初めての誤嚥性肺炎の入院でも経口摂取不可となるほどの嚥下機能低下を伴っていることは珍しくなく,これはある意味寿命でもあるのですが,家族がなかなか受け入れがたいことです.このため,誤嚥性肺炎が疑わしい患者では,最初の病状説明で,どれくらいの患者が経口摂取不可となるかについての自施設データ(4割が経口摂取困難となる)を私はお話しています.他施設の話を聞くと,概ね3-5割といったところでした.

■今回,本邦の高齢者における誤嚥性肺炎後の経口摂取到達率のデータが報告されましたので紹介します.到達率は約6割(≒経口摂取困難となるのは4割)であり,DPCデータという特性上のバイアスはあるものの,実臨床に合致した実に生生しいデータです.

■frailtyな状態を過ぎた不可逆な機能低下の患者なら仕方がないのですが,問題は,まだ可逆性を残している患者ですら経口摂取訓練が困難な医療社会になってきている現実です.診療報酬改定により嚥下訓練を目的としたリハビリテーション病院への転院が難しくなってしまい,まだ経口摂取の望みある患者まで嚥下リハビリテーションが継続できなくなってきています.加えてSTが足りない,高齢者はさらに増加することを踏まえると,この領域自体が限界にきているととらえざるを得ません.アンチエイジングや健康日本を推進するのもいいですが,End-of-Lifeについて国はもっと対策すべきでしょう.
高齢者の誤嚥性肺炎後の経口摂取の予測因子
Momosaki R, Yasunaga H, Matsui H, et al. Predictive factors for oral intake after aspiration pneumonia in older adults. Geriatr Gerontol Int 2015 May 8 [Epub ahead of print]
PMID:25953259

Abstract
【目 的】
本研究の目的は,高齢患者の誤嚥性肺炎後の経口摂取達成の予測因子を明らかにすることである.

【方 法】
本後ろ向き観察研究は本邦DPCの入院患者データベースを用いた.我々は誤嚥性肺炎で急性期病院に入院した患者を抽出した.評価項目は,全量経口摂取達成までの期間とした.経口摂取の早期導入の予測因子の検出はCox回帰解析を使用した.

【結 果】
誤嚥性肺炎による高齢患者66611例のうち,30日以内に59%が全量経口摂取に到達した.Cox回帰解析では,女性,高いBarthel指数が全量経口摂取の早期達成と関連していた.低体重,高い肺炎重症度スコア,合併症は全量経口摂取の遅延と関連していた.

【結 論】
我々は高齢誤嚥性肺炎患者における全量経口摂取の予測因子を明らかにした.本知見は高齢誤嚥性肺炎患者の栄養療法計画の一助となるであろう.

by DrMagicianEARL | 2015-05-11 15:50 | 肺炎

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