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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【文献】敗血症患者ではIgG濃度が低くても死亡リスクは増加しない.メタ解析

■現時点で免疫グロブリン製剤が敗血症患者の死亡率を改善させるとするエビデンスは乏しいことはよく知られていて,SSCG 2012では推奨されていません.このため私も免疫グロブリン製剤はルーチンでは使用していませんが,一部の患者においては使用することがあります.私は敗血症性ショックの患者で,ICU入室時のIgGが低値で,かつ24時間以内に改善が乏しい患者において,積極的加療継続を希望されている場合に限り免疫グロブリン製剤を使用しています.実はIgG濃度が低値の敗血症患者での免疫グロブリン製剤の有効性を検討したRCTは1つもありません(なぜこれまで誰もやってないのか不思議なのですが・・・).よって,このような患者集団においては機序的に免疫グロブリン製剤の恩恵を受けうる可能性が残されているため,オプションとして残しています.

■もっとも,集中治療領域では,生体内で足りなくなったものを補充しても予後が改善しないという結果がRCTででたものは多数あり,ひょっとすると免疫グロブリン製剤もそうかもしれません.以下に紹介する論文ははたして生体内の免疫グロブリン濃度が低いと敗血症死亡率が増加するのかについて検証したメタ解析であり,結果は「そもそもIgG濃度が低くても死亡率は低下しない」という結果でした.正常値下限や計測方法のバラツキによるlimitationはありますが,私自身も考え方の修正を検討しなければならないなと感じました.
敗血症による重症患者の内因性IgG低γ-グロブリン血症:システマティックレビューとメタ解析
Shankar-Hari M, Culshaw N, Post B, et al. Endogenous IgG hypogammaglobulinaemia in critically ill adults with sepsis: systematic review and meta-analysis. Intensive Care Med 2015 May 14. [Epub ahead of print]
PMID:25971390

Abstract
【目 的】
血漿免疫グロブリン濃度は敗血症による重症患者においては急激に変化する.しかし,敗血症診断日の免疫グロブリン濃度と死亡の関連性は明らかではない.

【方 法】
救急領域において管理された敗血症成人患者において免疫グロブリン濃度と死亡率を報告した研究のシステマティックレビューを行った.主要曝露として低IgG血症,主要評価項目として急性期死亡率についてfixedおよびrandom effectモデルのメタ解析を行った.各研究について定義された両変数を使用した.

【結 果】
敗血症診断日の低免疫グロブリンG(IgG)血症の頻度は多様であった[58.3% (IGR 38.4-65.5%)].各研究で登録されたIgG濃度の下限の定義として3点のカットオフ値(6.1, 6.5, 8.7 g/L)を用いた.敗血症診断日の正常値以下のIgG濃度は,fixedおよびrandom effectモデルのメタ解析のいずれにおいても重症敗血症および敗血症性ショックの成人患者における死亡リスク増加とは関連していなかった(fixed model OR 1.32; 95%CI 0.93-1.87, random effect OR 1.48 95%CI 0.78-2.81).

【結 論】
本システマティックレビューはIgGの正常値下限が多様な不均一な敗血症コホートで報告されており,質に限界がある研究を抽出している.しかしながら我々のデータは,敗血症診断日の正常値以下のIgG値が死亡リスクのより高い患者集団を検出しないことを示唆しており,IgG値の最適なカットオフ値や時期を定義できるか否か,本知見の是非についてはさらなる研究が必要である.これは,敗血症に対する免疫グロブリン静脈内投与を受ける患者がIgG濃度を使用して層別化することができるかどうかを決定するであろう.

by DrMagicianEARL | 2015-05-19 12:16 | 敗血症

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