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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

【文献】Muse細胞を用いることで脳梗塞モデルの治療に世界で初めて成功

■2007年に東北大の出澤真理教授のグループが多能性幹細胞のMuse細胞を発見しました.2014年に小保方らが報告したSTAP細胞も一時はMuse細胞ではないかとする疑惑もありました.Muse細胞自体は発見以降そこまで目立った進展の報道はありませんでしたが,2014年にヒトMuse細胞由来のメラニン産生細胞を組み込んだ3次元培養皮膚の安定化製造に成功し,医薬品や化粧品の開発で効果や副作用の検証を動物実験を介さずに検証が可能となり,2015年1月15日よりこの皮膚モデルが販売開始となっています.

■このMuse細胞は間葉系幹細胞に類似した特徴を持ち,かつ,事前の分化誘導を必要としないこと,静脈内投与するだけで傷害臓器にホーミングで生着し分化すること,腫瘍形成性が非常に低いことが大きな特徴とされています.

■脳梗塞では,これまで骨髄から分離した間葉系幹細胞や単核球を脳梗塞後に移植した臨床試験が行われていますが,安全性を示すに留まり,その有効性は限定的でした.以下に紹介する論文は,ラットの脳梗塞モデルにMuse細胞を移植することにより,梗塞で傷害された神経細胞や運動機能の回復を示した世界初の報告です.結果を見ると,移植後2カ月半頃から急速な回復が見られており,これまでほぼリハビリテーションしか治療手段がかなった脳梗塞後遺症(近年は経頭蓋刺激のrTMSが脳梗塞領域で非常に期待されていますが)に対して非常に有効な治療法となります.臨床応用も時間の問題で,東北大は2018年からの臨床試験を検討しているようです.
※私個人的にはこの細胞の発見はノーベル賞級だと思ってます.しかし,Muse細胞発見時も特に大きな報道はなく,今回の脳梗塞モデルの改善効果の報告に関しても,ニュースではローカルの仙台放送が報道したのみのようです.かといってSTAP細胞発見のときのマスコミ騒ぎのようなことにはなってほしくはありませんが.
線維芽細胞に含まれる特異的な細胞集団Muse細胞の移植は確固とした神経分化を介して実験的脳梗塞を改善させる
Uchida H, Morita T, Niizuma K, et al. Transplantation of Unique Subpopulation of Fibroblasts, Muse Cells, Ameliorates Experimental Stroke Possibly Via Robust Neuronal Differentiation. Stem Cells 2015 Sep 21 [Epub ahead of print]
PMID:26388204

Abstract
【目 的】
線維芽細胞内の既存の多能性様幹細胞として存在しているMuse細胞は,腫瘍性を持たず,三胚葉系細胞への分化能を示し,傷害モデルに移植されることで失われた細胞を補充する.細胞死およびヒト皮膚線維芽細胞由来Muse細胞の機能をラット脳梗塞モデルで評価した.

【方 法】
多能性幹細胞表面マーカーstage-specific embryonic antigen-3(SSEA-3)を用いて採取されたMuse細胞(30000細胞)を,中大脳動脈閉塞後2日目の脳梗塞ラットに対して脳の3か所に打ち込み,細胞の生物学的効果を84日間以上評価した.

【結 果】
梗塞脳のスライスを共培養すると,Muse細胞は自発的かつ速やかに神経/神経系細胞に分化していた.Muse細胞移植脳梗塞ラットは,対照群に比して,梗塞範囲の減少なしに70および84日目の神経学的機能と運動機能の有意な改善を示した.Muse細胞は84日間宿主の脳で生存し,脳皮質内でNeuN(成熟神経:~65%),MAP-2(~32%),カルビンディン(~28%),GST-π(希突起膠細胞:~25%)陽性細胞に分化したが,グリア線維性酸性タンパク質陽性細胞は稀であった.腫瘍形成は見られなかった.感覚運動皮質に生着分化したMuse細胞は,神経線維をを脊髄まで伸ばし,後肢の体性感覚誘発電位を示した.

【結 論】
Muse細胞は,宿主の脳環境下で生着後の神経細胞への高率な分化を示し,脳梗塞症状を緩和する神経回路の再構築が可能である点において,他の幹細胞よりも特異的である.ヒト線維芽細胞由来Muse細胞は,特に脳梗塞における自家細胞療法を検討する際に,遺伝子操作の必要性を回避する,幹細胞移植の新たなソースとなる.
■出澤らは,成人の皮膚,骨髄,脂肪組織の中に,多様な細胞になる能力を持つ多能性幹細胞があることを発見し,Multilineage-differentiatingStress Enduring(Muse)cellと名付けた[1].Muse細胞は,間葉系マーカーのCD105と多能性マーカーのSSEA(stage-specific embryonic antigen)-3を用いて分離でき,間葉系幹細胞分画中に混在する.間葉系幹細胞は,同じ中胚葉系の骨,軟骨,脂肪のみならず,内胚葉系にも分化でき,肝硬変や心筋梗塞でもある程度の組織修復が見られることが分かっており,これらの現象が間葉系幹細胞中に存在するMuse細胞によって説明できる可能性があるとされている.

■Muse細胞は骨髄,皮膚,脂肪から採取でき,胚葉を超えて様々な細胞へと分化する多能性を有するが,iPS細胞に見られたような腫瘍形成性がほぼ見られない.また,回収し,そのまま静脈へ投与するだけで傷害組織にホーミング・生着し,その組織に特異的な細胞へと分化することで組織修復と機能回復をもたらす.すなわち,Muse細胞は生体に移植する前のcell processing centerにおいて事前の分化誘導を必ずしも必要としない,という点でiPS細胞とは大きく異なり,静脈内投与するだけで再生治療が可能である.

■Muse細胞は結合組織中や接着培養などの環境では間葉系幹細胞として振る舞う一方,血液中や浮遊培養などの懸濁状態においては多能性を発現するという二重性を有する.細胞懸濁液においてMuse細胞は増殖を開始し,懸濁状態でES細胞が形成する胚様体に酷似したES細胞を単独の細胞から形成できる点も他の幹細胞と異なる特徴である.

■山中らが発見したiPS細胞は,ヒトの線維芽細胞に山中因子(Oct34,Sox2,Klf4,c-Myc)を導入することにより得られる.出澤らは,ヒト線維芽細胞をMuse細胞と非Muse細胞の分画に分けて山中因子を導入したところ,Muse細胞はiPS細胞に変化したが,非Muse細胞分画からはiPS細胞は得られなかったと報告している[2]

■近年,集中治療領域において,急性炎症性の臓器傷害が生じた際に,傷害臓器細胞からのシグナルにより骨髄から幹細胞様の細胞が出てきて傷害部位に集積し,その部位の細胞へと分化することが近年分かってきており,この分化細胞はMuse細胞なのではないかとする説が出てきている.重症病態の多臓器不全,低酸素脳症,Post-Intensive Care Syndrome(PICS)において,このMuse細胞が治療の一手段となる日がくるかもしれない.

[1] Kuroda Y, Kitada M, Wakao S, et al. Unique multipotent cells in adult human mesenchymal cell populations. Proc Natl Acad Sci U S A 2010; 107: 8639-43
[2] Wakao S, Kitada M, Kuroda Y, et al. Multilineage differentiating stress-enduring (Muse) cells are a primary source of induced pluripotent stem cells in human fibroblasts. Proc Natl Acad Sci U S A 2011; 108: 9875-80
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by DrMagicianEARL | 2015-10-12 12:23 | 文献 | Comments(0)

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