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EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【文献】マスコミによる癌研究の誇張表現

■これまでにない抗癌剤として登場したイレッサは,マスコミによって「夢の新薬」という誇張表現を用いて紹介され,その後のイレッサ訴訟においてマスコミは手の平を返したかのように国と製薬企業を叩いていたのは御承知の通りです.もっともマスコミは情報の正確性より視聴率を最重視しているとしか思えない医療情報の提供の仕方をしますし,そこに登場する医療ジャーナリストもまた,情報ソースが脆弱であることが既に報告されています(下記参照).
【文献】医療ジャーナリストの報道の情報ソースは?
http://drmagician.exblog.jp/22809339/
■JAMA Oncology誌に,マスコミによる癌研究の誇張表現をまとめた報告が出たので御紹介します.実際にはこの言葉に踊らされてしまうのは一般市民であり患者です.医療提供者は決してこれらに乗ってはいけないのですが,医療ジャーナリストがこういう表現を多用してしまうようですね.現在話題になっている抗PD-1阻害薬も日本でいよいよメラノーマだけでなく肺癌で製造販売承認がおりますが,はたしてどうなることか.
癌研究の誇張
Abola MV, Prasad V. The Use of Superlatives in Cancer Research. JAMA Oncol 2015 Oct 29:1-2 [Epub ahead of print]
PMID:26512913

要 約

 癌の治療や研究で用いられている言葉重要な暗示を惹起する可能性がある.多くの癌新薬はわずかな有益性しか示されていないにもかかわらず,認可された医薬品や開発中の医薬品は一般紙では「ゲームチェンジャー」や「革新的」と持ち上げられる.そのようなニュースは医学雑誌よりも多くの一般市民に届き,患者や一般市民や投資家にとっては重要な情報源である.しかし,医学という文脈を無視した,あるいは誇大な修飾語を用いることは読者に誤解を招きうる.

 ここでは一般紙の抗癌剤についてのニュースの記述用語の使用状況を調査した.誰が誇張表現を用い,どのクラスの薬が最も持ち上げられているかも調査した.

 2015年6月21-25日の間にGoogleニュースで「抗癌剤」と一緒に使用され10の誇張表現「breakthrough(画期的な)」「game changer(ゲームチェンジャー)」「miracle(奇跡的な)」「cure(治る)」「home run(ホームラン)」「revolutionary(革命的な)」「transformative(革新的な)」「life saver(命を救うもの)」「groundbreaking(画期的な)」「marvel(驚異的な)」を検索した.

 すべての記事は1人のレビュワーによって読まれた.次の情報が抽出された:薬剤の説明,作用機序,薬剤分類,既に米国FDAから承認を受けたものかどうか,臨床試験によって得られたデータかそれとも臨床前のデータ(マウスや細胞培養など)か,引用元(医師,ジャーナリスト,業界専門家,患者など).学術的な血液腫瘍医が全薬剤の作用機序と,細胞毒性,標的,免疫チェックポイント阻害,治療的ワクチンによる免疫療法,放射線治療,遺伝子治療,その他に分類した.

 94の記事を抽出し,そのうちの39は標的を絞った治療,37は免疫チェックポイント阻害薬,10は細胞毒性薬物であった.半数はFDAの認可を得ていない薬物であり,14%は臨床データがない薬物であった.

 誇張表現で称賛される医薬品は研究が盛んな分野のもので実際に使われているものではない.誇張表現を使用するのは医学のことをよく分かっていないであろうジャーナリストが55%で最も多かった.

by DrMagicianEARL | 2015-11-06 18:07 | 文献

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