人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ブログトップ

EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【雑記】英語論文を読むことをどうやって日課にするか(英語論文読むの苦手な人向け※我流です)

■本ブログを見てくださっている方からよく受ける質問が2つあります.「なぜブログをそんなに大量に書けるのか?」と「どうやって論文を読んでるのか?」です.

■前者についてはいつも「結婚してない(し彼女もいない)から」と答えてます.病院業務が終わってからブログ更新作業を行いますし,レビュー記事ともなれば数多くの論文をまとめることになるため何日もかけて書きます.そのぶん病院から家に帰るのも遅くなりますから家族ができたりしたらこんな頻度では更新はとてもできません(中には結婚されていてお子さんもたくさんいて,でも論文もばんばんだしてブログもやってる救急医の先生がおられますが,私にはそこまでのパワフルさはとてもありません).

■まあそれはいいとして,後者についてですが,私自身,論文の読み方を教わったこともありませんし,現在勤務している病院に抄読会もありません.すべて我流でやっています.なので参考になるか分かりませんし,もっといい方法もあると思いますが,私自身のやり方を以下に紹介します(ある特定のことについて論文を調べたい,ではなく新しくでてきた論文を日課として読んでいきたい場合のやり方です).習慣にしたいけど全然英語論文を読む気になれず,という方はこんなやり方でよければ.

1.英語論文にどうやって慣れるか
■研修医によく言ってますが,英語論文を読むのにベースの英語力はあまり関係ありません.大学入試の際ほとんどの勉強時間を数学に割いていた私は英語はからきしダメで,直前に詰め込みで勉強したとはいえセンター試験の英語は120点程度でした.英語論文読めないと言ってる研修医はみんなこの点数を超えてたんですよね.大学に入ってからも1~2年の教養課程以外で特に英語を勉強することもなく,教養課程も真面目にやってたわけでもなくで英語論文なんてとても読める状況じゃないまま大学を卒業し,今の病院に卒後臨床研修医として就職しました.

■研修医2年目の時に,レジデントも今の病院で残ることが決定してから英語論文を読むようになりました.マンパワーが少ない環境では自分で知識を蓄えて自分の身を守るしかないと思っていたからです.ただ,読み始めは大変でした.とにかく時間がかかる.分からない単語や文は翻訳サイトを頻回に使う,時には翻訳サイト使ってもさっぱり分からない部分がある,1個の論文読むのにいったい何日かかるのかと思ったくらいで,これではあまりにも効率が悪い.そこでやり始めたのが「Abstract読み」です.

■論文のAbstract(要約)は,その研究の内容(背景,目的,方法,結果,結論)がコンパクトにまとまっていて本文に比べて非常に短く,これなら息切れせず読んでいけます.本ブログでも論文はAbstractで紹介していますが,だいたいどの論文もこれくらいの長さです.最初は1日1Abstract読むと決めて始め,英語論文の決まった単語や言い回しなどが分かってくると辞書や翻訳サイトを使わず読めるようになりスピードが上がりますので,1日あたりに読むAbstractの数が徐々に増えていきました.慣れてくればAbstract1つにつきかかる時間は1~2分程度.それくらいに論文英語に慣れてくると本文の方もかなりのスピードで読めるようになります.何日もかかってたのが1日で,さらにはより短時間でざっと読めるようになります.もし内容がいまいちつかみづらいときは,背景と結論を先に読んじゃいましょう.何の研究かがあらかじめつかみやすくなり,Abstractが読みやすくなります.

■Abstractの読みやすさも,英語文化の違いやネイティブか否か等もあって執筆者によって様々で,論文によっては非常に分かりにくい表現や単語を用いているケースもあります.非常にシンプルでまわりくどい表現も少ないAbstractとしては医学では最も権威ある雑誌「the New England Journal of Medicine」(通称NEJM誌)がおすすめです.この雑誌の原著論文のAbstractは非常に読みやすいのが特徴です.たとえばまわりくどい論文のAbstractの背景は日本語にするとこんな感じです.
【背景】Aは死亡率の高い疾患であり,年々増加している.薬剤XはYを阻害することでBの治療に用いられているが,近年,Aに対しても有効性が示唆されているが,無作為化比較試験での検討はない.我々はAに対するBの有効性を検討した.
一方,NEJM誌だとこんな感じです.
【背景】Aに対するXを評価した無作為化比較試験はない.
同様に結論の方でも,まわりくどい論文Abstractは
【結論】Aに対するXはプラセボと比較して死亡率に統計学的有意差が見られなかったが,ICU在室期間は有意に短縮した.サブ解析では,より重症例でXにより死亡率が改善しており,さらなる検討が必要である.
一方,NEJM誌だと
【結論】XはAの死亡率を改善させなかった.
ちょっと極端な書き方ですが,こんな感じです.なので最初のうちはNEJM誌がスラスラ読みやすいと思います.

2.Abstract通読の利点と注意点
■英語論文に慣れるためにAbstractを使うやり方を紹介したわけですが,Abstractの使い方は様々です.Abstractは論文を読む上で,最初に概略として目を通す上で短くまとまっていて非常に便利です.その利点は単に内容の概略を把握するだけではありません.

(1) 論文の選択作業
当たり前のことではあるんですが,Abstractを速読できるようになれば,論文を選んで本文を読むという作業工程がルーチン化できるようになります.

(2) 本文重要ポイントの把握
本文を読みたいけど今時間がない,とりあえず今はざっとだけ,という時にはAbstractを速読して本文の重要であろう部分を推測し,そこだけピンポイントで選んで読めます.

(3) トレンドがつかめる
日課でAbstractをたくさん読めば読むほど,それだけ今どのような研究がトレンドなのか,どんな研究デザインだとどのような結果になりやすいか,どの国が(もしくは特定の研究者が)特にその研究をやっているか,などが分かってきます.Abstractのbackground(背景)の部分にも書いてありますし,同系統の研究のAbstractを複数読むだけでもだいぶとトレンドが分かってきます.

(4) 学会抄録の書き方の参考になる
学会発表の際,締切がせまってるけど抄録がなかなかうまく書けない,なんて経験があるかもしれません.限られた字数で極力余計な情報を省き,重要ポイントをおさえてシンプルに提示するわけで,これはアピールポイントです.逆に言えば書き方しだいではいい研究でも非採択になりかねません.字数の違いはあれど,査読を経て一流雑誌に掲載される論文のAbstractは構成がよくできていて,抄録を書く際の参考になります.できれば,本文とAbstractを比べてみて,どう抽出しているのか調べてみてもいいかもしれません.

■一方,Abstractで注意すべきは,それだけで論文の中身が分かったようになってはいけないことです.Abstractには考察がないことはもちろん,バイアスを含め,その論文の問題点を抽出するにはAbstractは内容が少なすぎますし,Abstractには書かれていないデータも本文にはたくさんあります.やはりデータは研究の命であり,そこに目を通さないと吟味できません.時には本文を見るとAbstractとずいぶんと内容が違う,なんて罠もあります.

3.読む雑誌を決めてAbstract通読
■医学雑誌のほとんどが登録されているPubMedという検索エンジンがあります(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed).誰でも無料でアクセス可能です.この検索欄に「雑誌の略称[jo]」を入力して検索ボタンを押すとその雑誌に登録されている論文がすべて出てきます(マイナー雑誌ではすべてが登録されているとは限りません).さらに,「(雑誌Aの略称[jo]) OR (雑誌Bの略称[jo]) OR ...」というように複数の雑誌の略称名をORでつなげていくと,それらの雑誌に掲載されている論文が新しいものからすべて出てきます.ただし,中にはletter to editor等,Abstractがない論文も含まれますので,最後に「AND hasabstract」をつけておくと,Abstract付きの論文だけが抽出されます.

■読む雑誌ですが,ノンジャンルの雑誌であれば以下の世界5大ジャーナルと呼ばれる5誌がおすすめです.英語に慣れると同時にとりわけインパクトの高い最新研究結果を知ることができます.
・the New England Journal of Medicine:PubMed略称「N Engl J Med」,略称「NEJM」
・the Lancet:PubMed略称「Lancet」,略称「Ln」
・the British Medical Journal:PubMed略称「BMJ」,略称「BMJ」
・the Journal of the American Medical Association:PubMed略称「JAMA」,略称「JAMA」
・Annals of Internal Medicine:PubMed略称「Ann Intern Med」,略称「AnIM」

■さらに以下の2誌を加えれば7大ジャーナルです.
・JAMA Internal Medicine(旧Archives of Internal Medicine):PubMed略称「JAMA Intern Med」,略称「JAMAIM」
・Canadian Medical Association Journal:PubMed略称「CMAJ」,略称「CMAJ」

■以下はPubMed検索欄に入れる検索式です.
5大ジャーナルを検索する場合
((N Engl J Med[jo]) OR ("Lancet"[jo]) OR (BMJ[jo]) OR (JAMA[jo]) OR (Ann Intern Med[jo])) AND hasabstract

7大ジャーナルを検索する場合
((N Engl J Med[jo]) OR ("Lancet"[jo]) OR (BMJ[jo]) OR (JAMA[jo]) OR (Ann Intern Med[jo]) OR (JAMA Intern Med[jo]) OR (CMAJ[jo])) AND hasabstract
※今でもAbstract読み私はルーチンで読む雑誌を決めて(47雑誌),その雑誌名をまとめてPubMedの検索式に打ち込んでタイトルで読むものを選んでいき,Abstractを一気に通読しています.

■以下は私のルーチンカバー範囲になりますが,ルーチン読み雑誌の検索式を御紹介します.
救急集中治療系雑誌
(Crit Care Med[jo]) OR (Intensive Care Med[jo]) OR (Am J Respir Crit Care Med[jo]) OR (Chest[jo]) OR (Crit Care[jo]) OR (Crit Care Clin[jo]) OR (Shock[jo]) OR (Ann Intensive Care[jo]) OR (J Intensive Care Med[jo]) OR (J Emerg Nurs[jo]) OR (J Emerg Med[jo]) OR (Int J Emerg Med[jo]) OR (Am J Emerg Med[jo]) OR (Eur J Emerg Med[jo]) OR (Crit Care Nurse[jo]) OR (Ann Emerg Med[jo]) OR (J Crit Care[jo]) OR (Crit Care Res Pract[jo]) OR (Crit Care Resusc[jo]) OR (Anaesth Intensive Care[jo]) OR (Anaesthesiol Intensive Ther[jo]) OR (Anesth Analg[jo]) OR (Am J Crit Care[jo]) OR (Acta Anaesthesiol Scand[jo]) AND hasabstract
感染症/感染制御系雑誌
((Antimicrob Agents Chemother[jo]) OR (J Antimicrob Chemother[jo]) OR (Clin Infect Dis[jo]) OR (Lancet Infect Dis[jo]) OR (Clin Microbiol infect[jo]) OR (Int J Antimicrob Agents[jo]) OR (Antimicrob Resist Infect Control[jo]) OR (J Infect[jo]) OR (Infection[jo]) OR (Eur J Clin Microbiol[jo]) OR (Am J Infect Control[jo]) OR (Diagn Microbiol Infect Dis[jo]) OR (J Hosp Infect[jo]) OR (Epidemiol Infect[jo]) OR (Infect Control Hosp Epidemiol[jo])) AND hasabstract

by DrMagicianEARL | 2016-01-04 21:34 | 論文読み方,統計

by DrMagicianEARL