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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

【文献+レビュー】循環不全における受動的下肢挙上(PLR)による輸液反応性予測(メタ解析)

■敗血症性ショックをはじめとする循環不全に対する輸液反応性の指標として受動的下肢挙上(PLR:Passive Leg Raising)を検討した研究のメタ解析がでましたので紹介します.PLRは当院でもカスタマイズEGDTプロトコルに組み込んでいます.今回のメタ解析では,心拍出量増加で見た反応性はかなりの高精度ですが,血圧増加でみるのはあまりあてにはならないようです(特異度が比較的高いので,PLRで血圧が上がれば反応性ありと見てもいいとは思いますが).少なくともEV1000やPiCCOなどといった特殊デバイスがない施設では非侵襲的かつ簡便に行えるものとして推奨されるのではないでしょうか.今回はレビューもつけました.
輸液反応性予測における受動的下肢挙上:システマティックレビューおよびメタ解析
Monnet X, Marik P, Teboul JL. Passive leg raising for predicting fluid responsiveness: a systematic review and meta-analysis. Intensive Care Med. 2016 Jan 29. [Epub ahead of print]
PMID:26825952

Abstract
【目 的】
成人の輸液反応性予測因子としての,受動的下肢挙上(PLR)による心拍出量(CO)と動脈血圧(PP)の変化を検討した研究のシステマティックレビューおよびメタ解析を行った.

【方 法】
関連する原著論文およびレビュー論文をMEDLINE,EMBASE,Cochrane Databaseでスクリーニングした.COおよびPPを評価したROC曲線下面積,感度,特異度,PLRテストの閾値を統合してメタ解析を行った.

【結 果】
21研究(成人患者991例,輸液チャレンジ995例)を登録した.COは,6研究で心臓超音波検査で,6研究で較正脈波輪郭分析で,4研究でバイオリアクタンスで,3研究で経食道ドップラーで,1研究で経肺熱希釈法または肺動脈カテーテルで,1研究で胸骨ドップラーで計測された.PLRと輸液負荷間でのCOの変化の統合相関は0.76(0.73-0.80)であった.PLRによるCOの変化は,統合感度0.85(0.81-0.88),統合特異度0.91(0.88-0.93)であった.ROC曲線下面積は0.95±0.01であった.PLRによるCO変化の最良閾値は≧10±2%であった.PPのPLRによる変化においては(8研究,輸液チャレンジ432例),統合感度は0.56(0.49-0.53),統合特異度は0.83(0.77-0.88),統合ROC曲線下面積は0.77±0.05であった.感度分析およびサブグループ解析は一次解析と一致していた.

【結 論】
急性循環不全の成人において,PLRによるCOの変化は,容量負荷によるCOの反応性を非常に正確に予測する.PLRによるPPの変化の効果を評価すると,PLRテストの特異度は許容できるが,感度は乏しかった.
1.CVP計測の衰退

■Riversらが敗血症性ショックに対するEGDTの有効性をthe New England Journal of Medicineに報告[1]してから十数年,Surviving Sepsis Campaign GuidelinesでRivers’ EGDTが推奨され続けてきたが,その後3つの大規模RCTであるProCESS[2],ARISE[3],ProMISe[4]が相次いで報告され,Rivers' EGDTは集中治療医による標準ケアと同等という結果であった.この結果の解釈は様々であり,一概にRivers' EGDTを否定できるものではないが,EGDTを構成する各種モニタリングを再考する時期にきているとも言える.

■敗血症性ショック治療において急速輸液負荷が必要であることは疑う余地はない.しかしながら,どの程度の量を入れたらよいのかについては未解決の課題であり,現時点で至適投与量の目安は確立されていない.このため,実臨床においては輸液過剰も起こりうる.近年,敗血症性ショック治療に伴う過剰輸液が予後を悪化させる可能性が指摘されており[5,6],Kelmら[6]は,第1病日で,患者の67%に過剰輸液がみられ,48%が第3病日まで輸液過剰が遷延したと報告している.

■輸液反応性の指標については,Rivers' EGDTにも組み込まれている中心静脈圧(CVP)が半世紀にわたって使用されてきたが,近年はその有用性を否定する研究が相次いでいる.Marikら[7]は,CVPの輸液反応性を検討した研究43報のメタ解析を行っており,ROC曲線下面積は0.56[95%CI 0.54-0.58]という結果であり,以前にMarikが揶揄した通り,CVPを指標とするのはまさに「コイントスで決めるのと同じ」という結果であった.もっとも,各種の研究の詳細を紐解けば,CVPが使用できる状況はまだあると思われるが,少なくともCVP単独で判断することは危険かもしれない.

2.Frank-Starling曲線の理論とPassive Leg Raising test

■敗血症性ショック病態に伴う末梢循環不全による虚血が生じている場合,その部位への血液灌流と酸素運搬を要する.酸素運搬量(DO2)の規定因子は,ヘモグロビン濃度(Hb),血中酸素濃度(PaO2),そして心拍出量(CO)である.そしてこの心拍出量の構成要素は心拍数,前負荷,後負荷,交感神経,心収縮性である.一回心拍出量は心室拡張末期容積に依存しており,これは静脈環流によって決定される.この拡張末期容積に相当するものが前負荷であるが,Frank-Starling曲線の理論に基づくならば,前負荷の増加に応じて一回心拍出量が増加する.また前負荷がある一定レベルを超えるとむしろ一回拍出量は減少することも知られている.よって,一回心拍出量の増大が得られる前負荷の上限が輸液量の目安となってくる.

■前述のCVPは,確かに敗血症性ショック病態においては低下しやすい.しかし,CVPは交感神経系と心機能の影響を容易に受けうるものであることに注意が必要であり,交感神経興奮が続くと循環系の中心化が生じ,低下したCVPが上昇することがある.このため,CVPが目安になったとしてもそれはショックの初期の段階のみであるとする報告が複数ある.

■Frank-Starling曲線の理論に基づくならば,輸液反応性を見るための最良の方法は実際に輸液して前負荷をかけることであるが,当然ながらこれは過剰輸液リスクに曝される.体液総量を増加させずにあたかも急速輸液負荷をしたかのような効果を見ることができれば輸液反応性を安全に見ることができるといえる.

■そこで,輸液反応性の指標として多数報告されているのが受動的下肢挙上(PLR:Passive Leg Raising)を用いた試験である.一般的に下肢を挙上することでおよそ150-200mLの輸液負荷に相当することが古くから知られており[8],PLRはその応用である.PLRの方法は,45度ヘッドアップの状態からスタートし,その後頭部フラット+45度下肢挙上状態にすることで心拍出量や血圧が増加するかどうかを評価するものであり[9],この手法では300-500mLの輸液ボーラス投与に相当するとされる.これいより心拍出量増大をもって輸液反応性ありと判定することは実に理にかなっているものと思われる.上記のメタ解析において血圧においては感度が低かった理由は,血圧の規定因子が心拍出量と末梢血管抵抗の2つであることを考慮すると,ノルアドレナリン等で十分な末梢血管抵抗増大が得られていない患者をincludeすることにより輸液反応性判定の感度が下がることは容易に想像できる.
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■このPLRのメリットは非侵襲的(新たにカテーテル挿入が不要)であり再現性が高いことにある.また,人工呼吸器患者と自発呼吸患者では下大静脈等の圧モニタリングが異なる,カテーテルを用いたモニタリングでは心房細動等の不整脈患者では使用できないなどの問題点があるが,Cavallaroら[10]の9報メタ解析では,PLR testでは自発呼吸か人工呼吸器装着,洞調律か不整脈かで差がないことも大きなメリットといえる.

■Xiao-Tingら[11]は,ICUで人工呼吸器を装着している敗血症性ショック患者48例においてPLR testとETCO2(呼気終末炭酸ガス濃度)を用いて輸液反応性を前向きに検討している.この検討では,PLR testによって輸液反応性があると予測された患者では反応性がないと判定された患者よりもETCO2が有意に増加しており(3.0±3.0 vs 0.5±2.5mmHg; p<0.05),PLR testによるETCO2の5%以上の増加は輸液反応性を感度93.4%,特異度75.8%,AUROC 0.849(95%CI 0.739-0.930)で予測するとしている.

■現時点では敗血症性ショックに対してPLR testを用いたプロトコルを検討したRCTは報告されていないため,PLR testによるeffect sizeを知ることはできない.しかし,これまでの観察研究やそのメタ解析結果から,心拍出量増大を目安とした場合の輸液反応性を高精度に予測し,かつ非侵襲的で簡便に行えるものとしてPLR testは今後積極的に検証されるべき手法であると思われる.

[1] Early goal-directed therapy in the treatment of severe sepsis and septic shock. N Engl J Med 2001; 345: 1368-77
[2] ProCESS Investigators; Yealy DM, Kellum JA, Huang DT, et al. A randomized trial of protocol-based care for early septic shock. N Engl J Med 2014; 370: 1683-93
[3] ARISE Investigators; ANZICS Clinical Trials Group; Peake SL, Delaney A, Bailey M, et al. Goal-directed resuscitation for patients with early septic shock. N Engl J Med 2014; 371: 1496-506
[4] Mouncey PR, Osborn TM, Power GS, et al; ProMISe Trial Investigators. Trial of early, goal-directed resuscitation for septic shock. N Engl J Med 2015; 372: 1301-11
[5] Boyd JH, Forbes J, Nakada TA, et al. Fluid resuscitation in septic shock: a positive fluid balance and elevated central venous pressure are associated with increased mortality. Crit Care Med 2011; 39: 259-65
[6] Kelm DJ, Perrin JT, Cartin-Ceba R, et al. Fluid Overload in Patients with Severe Sepsis and Septic Shock Treated with Early-Goal Directed Therapy is Associated with Increased Acute Need for Fluid-Related Medical Interventions and Hospital Death. Shock 2015; 43: 68-73
[7] Marik PE, Cavallazzi R. Does the central venous pressure predict fluid responsiveness? An updated meta-analysis and a plea for some common sense. Crit Care Med 2013; 41: 1774-81
[8] Rutlen DL, Wackers FJ, Zaret BL. Radionuclide assessment of peripheral intravascular capacity: a technique to measure intravascular volume changes in the capacitance circulation in man. Circulation 1981; 64: 146-52
[9] Thiel SW1, Kollef MH, Isakow W. Non-invasive stroke volume measurement and passive leg raising predict volume responsiveness in medical ICU patients: an observational cohort study. Crit Care 2009; 13: R111
[10] Cavallaro F, Sandroni C, Marano C, et al. Diagnostic accuracy of passive leg raising for prediction of fluid responsiveness in adults: systematic review and meta-analysis of clinical studies. Intensive Care Med 2010; 36: 1475-83
[11] Xiao-Ting W, Hua Z, Da-Wei L, et al. Changes in end-tidal CO2 could predict fluid responsiveness in the passive leg raising test but not in the mini-fluid challenge test: A prospective and observational study. J Crit Care 2015 Jun 1 [Epub ahead of print]
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by DrMagicianEARL | 2016-02-04 18:51 | 敗血症 | Comments(0)

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