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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【文献】敗血症の新定義・新診断基準(2016年2月22日のSCCM/ESICMによる大幅改訂)

敗血症の新定義・新診断基準(2016年2月22日のSCCM/ESICMによる大幅改訂)
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■米国フロリダ州はオーランドで開催されている第45回米国集中治療医学会(SCCM;Society of Critical Care Medicine)において,3日目の2月22日(日本時間23日午前5時)の米国集中治療医学会・欧州集中治療医学会合同セッションにおいて敗血症の新しい定義が発表されました.同時に,JAMA誌に新定義の論文1報とその検証論文2報がpublishされましたので紹介します.以下概略です.
新定義・新診断基準の概略

・敗血症の定義
旧定義:「全身症状を伴う感染症,あるいはその疑い」(SSCG 2012)
新定義:「感染症に対する制御不能な宿主反応に起因した生命を脅かす臓器障害」
旧敗血症(SIRS+感染症)→敗血症から除外
旧重症敗血症(敗血症+臓器障害)→敗血症(重症はつけない)

※これまでのSIRS基準は消え,SIRS+感染症で敗血症としていたのが,重症敗血症以上で敗血症とし,なおかつ重症敗血症という用語が消滅しました.これにより,敗血症(Sepsis)と敗血症性ショック(Septic shock)の2つになりシンプルになったと言えます.

・敗血症の診断基準
旧基準:SIRS基準または2001年基準
新基準:ICU患者とそれ以外(院外,ER,一般病棟)で区別
 ICU患者:感染症が疑われSOFAスコアが2点以上増加
 非ICU患者:quick SOFAスコア(qSOFA)で2点以上でスクリーニング陽性(敗血症疑い)→精査でSOFAスコアが2点以上ならば敗血症診断
qSOFAスコア:「呼吸数22回/分以上」「意識障害(GCS<15)」「収縮期血圧100mmHg以下」が各1点ずつ


※大規模検証研究において,ICU患者ではSOFAスコアがqSOFAやSIRSよりも院内死亡予測妥当性(AUROC)が有意に高かったのに対し,それ以外の患者ではqSOFAがSOFAスコアよりも有意に高かったことによります(JAMA 2016; 315: 762-74).迅速に認知して対応する上でqSOFAがシンプルな3項目になっているのは非常に実用的かと思われます.同時にSIRS基準にも入っていた呼吸数が基準に入っており,いかにベッドサイドで呼吸数が重要であるかの証左と思われます.

・敗血症性ショックの定義・診断基準
新定義:「実質的に死亡率を増加させるに十分に重篤な循環,細胞,代謝の異常を有する敗血症のサブセット」
旧診断基準:敗血症で輸液負荷にも反応しない低血圧(収縮期血圧で評価)
新診断基準:適切な輸液負荷を行ったにもかかわらず平均血圧65mmHg以上を維持するための循環作動薬を必要としかつ血清乳酸値の2mmol/L(18mg/dL)超過

※こちらも検証研究がなされています(JAMA 2016; 315: 775-87).収縮期血圧ではなく平均血圧を見ていること,乳酸値をより重要視することが推奨されており,これは血圧の下がったショック(Overt Shock)のみならず潜在的ショック(Cryptic Shock)もカバーする上で重要です.
■今回の改訂により,既知の敗血症研究の多くが再検証が必要になります.特にバイオマーカーの検討はすべてやり直しです.臨床試験においては,敗血症の死亡率が年々減少してきており,新たな治療介入を検討しても有意差が出にくい状態です.より重症で死亡率が高い患者層になったことでeffect sizeがより大きくなり有効な治療法が検出されやすくなるかもしれません.
敗血症および敗血症性ショックの第3の国際コンセンサス定義(Sepsis-3)
Singer M, Deutschman CS, Seymour CW, et al. The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA. 2016 Feb.23; 315(8): 801-10

【背 景】
敗血症および敗血症性ショックは2001年に最終改訂されている.敗血症の病理生物学(臓器機能,形態,細胞生物学,生化学,免疫学,循環の変化),管理,疫学は進歩していており,再検証の必要性が示唆されている.

【目 的】
敗血症および敗血症性ショックの定義を評価し,必要に応じて改訂を行う.

【方 法】
敗血症の病理生物学,臨床試験,疫学の専門家によるタスクフォース(19名)が米国集中治療医学会と欧州集中治療医学会で招集された.定義と臨床診断基準は,査読と賛同を求めた国際的な専門学会(謝辞に記載された31学会)による補助のもと,会議,Delphiプロセス,電子カルテデータベース解析,投票を通じて作成された.

【結 果】
以前の定義の問題点として,炎症に過度の焦点を置いていること,敗血症が重症敗血症からショックへの連続体に続くという誤ったモデル,全身性炎症反応症候群(SIRS)の不適切な感度と特異度がある.敗血症,敗血症性ショック,臓器障害において,近年,多数の定義や用語の使用が,報告される発生率や観察される死亡率において不一致を招いている.タスクフォースは重症敗血症という用語が余計であると結論づけた.

【推 奨】
敗血症は,感染症に対する制御不能な宿主反応に起因した生命を脅かす臓器障害として定義されるべきである.臨床的運用において,臓器障害は,院内死亡率10%超に関連するものとして,Sequential [敗血症に関連した] Organ Failure Assessment(SOFA)スコアの2点以上の増加により表現しうる.敗血症性ショックは,敗血症単独よりも高い死亡リスクに関連する特に重篤な循環,細胞,代謝の異常を有する敗血症のサブセットと定義すべきである.敗血症性ショックの患者は体液量減少がない状態でも平均血圧65mmHg以上を維持するための循環作動薬の必要性と血清乳酸値の2mmol/L(18mg/dL)超過によって臨床的に検出できる.この併用は院内死亡率40%超過に関連している.院外,救急部門,一般病棟においては,感染症が疑われた成人患者は,quick SOFA(qSOFA)と称する新しいベッドサイドの臨床スコアで構成される臨床診断基準(呼吸数22回/分以上,精神状態の変化,収縮期血圧100mmHg以下)で少なくとも2点を有するのであれば,予後不良の典型的な敗血症の可能性があると迅速に認識することができる.

【結 論】
これらの定義と臨床診断基準の更新は以前の定義と置き換え,疫学研究や臨床試験においてより大きな一貫性を提供し,敗血症や敗血症への進展リスクを有する患者のより早い認知とよりタイムリーな治療を促進するべきである.

by DrMagicianEARL | 2016-02-23 12:19 | 敗血症

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