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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

【文献】実臨床でのプロカルシトニンを指標にした抗菌薬終了は逆効果?

■プロカルシトニン(以下PCT)が保険承認となってから久しいですが,だいぶ普及したのか計測する先生がかなり増えました.これまでの観察研究では敗血症の補助診断ツールとしてそこそこのいい成績が出ていますし,PCTガイド下の抗菌薬治療(PCTを連日測定し,その推移で抗菌薬終了の目安とする)も複数のRCTが行われており,抗菌薬投与期間の短縮が示されています.一番最新の大規模RCTであるSAPS trial(Lancet Infect Dis 2016; 16: 819-27)では,抗菌薬投与期間の短縮のみならず28日死亡率まで有意に改善しています.ただし,この研究は,耐性菌事情が大きく異なるオランダの研究であること,プロトコル違反が非常に多いことは考慮しておく必要があります.

■一方,実臨床ではPCTはどのように使用されているでしょうか?私が現場を見ていて思うのは,「なんでもかんでもPCT測りすぎ」「RCTで示されたプロトコル通りにPCTガイド下抗菌薬治療をやってるケースなんて見たことがない」「PCT値の結果の解釈ができないのに測ってる」「PCTの偽性高値・偽性低値を知らない」「RCTでの除外基準を全く考慮していない」「PCTの保険点数を知らない(310点=3100円なので馬鹿にならない)」です.おそらく,臨床現場ではPCTがかなり不適切使用されており,その結果抗菌薬の不適切使用に繋がってしまっている,というのが私の考えですが,皆様のご施設ではどうでしょうか?実際に他施設のICTの方に聞くと同様の印象を持たれている方がけっこうおられました.今後PCTを院内採用しようと考えている施設は少し熟慮した方がいいと思います.加えて,PCTのメーカーの説明会で「肺炎患者(敗血症ではない)の抗菌薬治療過程でPCTを3回計測し,このように数値が下がりました」という症例のプレゼンをされてめまいがしたことがあります.通常の肺炎治療過程でわざわざ何回も測らなきゃ効果が分からないものではありませんし,そもそも敗血症病名で保険承認されたものであってプロモーションコード違反じゃないですかねあれは?

■RCTで示されたPCTを指標とした抗菌薬終了のプロトコルの共通点は,①PCT定量測定,②連日測定(日本では保険診療逸脱),③即日で結果が分かっている,です.なので,定性評価,非連日測定,外注の施設ではこのプロトコルは使えないということになります.もっとも,初日と5日目に2ポイント測定する,というやり方はありかもしれませんが,その有効性を示したエビデンスはまだない状況ですのでこれから検討していかなければなりません.また,以下の場合は除外基準に該当しますので,PCTガイドは使えません.
① 原因菌が緑膿菌,アシネトバクター,リステリア,レジオネラ,黄色ブドウ球菌,真菌,または不明
② 感染性心内膜炎,膿瘍,骨髄炎
③ 免疫不全患者または免疫抑制薬投与患者

■さて,今回紹介する論文は,実際にリアルワールドではPCTがどう使われているのか,アウトカムにどう影響したかを見た後ろ向きコホート研究です.結果は,PCT利用により死亡率は変わらず,抗菌薬投与期間が延長し,C. difficile感染が増加したというものでした.前述の2ポイント測定のような複数回測定でも同様の結果です.RCTとは真逆の結果になったのは,RCTでのプロトコルをそのまま適用していなかったことも原因かもしれません.やはりPCTを利用するからには論文のmethod,inclusion/exclusion criteriaを熟読すべきです.
敗血症による重篤患者におけるプロカルシトニン使用に関連したパターンとアウトカム
Chu DC, Mehta AB, Walkey AJ, et al. Practice Patterns and Outcomes Associated With Procalcitonin Use in Critically Ill Patients With Sepsis. Clin Infect Dis 2017; 64: 1509-1515
PMID: 28329238

Abstract
【背 景】敗血症による重篤な患者の抗菌薬投与期間短縮のためのプロカルシトニン(PCT)に基づくアルゴリズムの使用は無作為化比較試験によって支持されている.しかしながら,近年のPCTの使用がリアルワールドの臨床現場におけるアウトカムに関連しているかは明らかではない.我々は,米国の敗血症による重篤な患者におけるPCT使用を抽出し,PCT使用と臨床アウトカムの関連性を検討した.

【方 法】
本研究は米国の集中治療室に入院した敗血症患者の約20%の後ろ向きコホート研究である.PCT使用とアウトカムの関連性の検討(抗菌薬投与期間,Clostridium difficile感染,院内死亡)に層別回帰モデルを用いた.測定されていない交絡(操作変数,差分の差分分析など)に対応するために使用された様々な方法に対する知見の堅牢性を評価するために感度解析を用いた.

【結 果】
PCTが利用可能な107施設の敗血症による重篤患者20750例のうち,3769例(18%)がPCTレベルをチェックされており,1119例(29.7%)が連続PCT測定を行われていた.PCT使用は,死亡率の変化なしに(調整後HR 1.05; 0.93-1.19),抗菌薬投与日数(調整後RR 1.1; 95%CI 1.15-1.18)やC. difficle発生率(調整後OR 1.42; 95%CI 1.09-1.85)の増加に関連していた.操作変数と差分の差分分析によるPCT使用の解析では,PCTの使用に伴う抗菌薬やアウトカムの改善は同様に見られなかった.

【結 論】
リアルワールドの状況において,PCTの使用は抗菌薬使用や他の臨床アウトカムの改善には関連していなかった.PCTに基づいた戦略の実行を改善するためのプログラムが普及前に必要である.

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by DrMagicianEARL | 2017-07-18 14:45 | 敗血症 | Comments(0)

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