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EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.医療におけるAIについても

【文献】低酸素血症のない急性心筋梗塞疑いへの酸素投与の是非(DETO2X-AMI trial)

■近年,重症患者の高酸素血症の有害性が多数報告されており,急性心筋梗塞(AMI)でもその懸念が指摘されてきました.低酸素血症のないAMIに酸素投与を行うとどうなるかですが,これまでの報告では,冠動脈血流量を7.9-28.9%有意に減少させたとする研究(Am Heart J 2009; 158: 371-7)や梗塞範囲,不整脈,心筋梗塞再発を有意に増加させたとするRCTであるAVOID trial(Circulation 2015; 131: 2143-50)などが有害性を報告しています.2013年のコクランのメタ解析(CDSR 2013; 8: CD007160)では,統計学的に有意ではないものの,死亡リスクが2.05倍(95%CI 0.75 to 5.58)増加すると報告され,低酸素血症のないAMIへの酸素投与は有害なのではということが話題になりました.一方,2016年のコクランメタ解析のアップデート(CDSR 2016; 12: CD007160)では,RRは0.99(95%CI 0.50 to 1.95)となりましたが,ルーチンでの酸素投与は支持しないというコクランの結論は変わっていません.

■今回紹介する論文は,同内容の研究としてはこれまでにない6629例を登録した大規模RCT(DETO2X-AMI trial)です.結果は,低酸素血症のないAMIに酸素を投与してもしなくても,死亡率,心筋梗塞再発,トロポニン最高値に有意差はない,という結果で,ルーチンでの酸素投与に有益性は見られなかったと結論づけています.これを見るに,ルーチンでの酸素投与は,有害ではないが,あえてする必要もないということになるでしょうか(一応,酸素も医療資源ですし).AMIのリスク因子である喫煙を考慮するならば,COPDを基礎疾患に持っている患者もそれなりの割合で存在しますから,やはりSpO2を見て酸素投与するかどうか判断する,が一番安全かと思われます.

■このDETO2X-AMI trialと,有害性を報告したAVOID trialの違いについて触れておきます.
・DETO2X-AMIの方がN数が15倍
・「低酸素血症のない」のカットオフが異なる(DETO2X-AMIはSpO2≧90%,AVOIDはSpO2≧94%)
・酸素投与群はDETO2X-AMIが6L/分の開放型マスク,AVOIDが8L/分の閉鎖型マスク
・DETO2X-AMIは,病院前および院内発症のnonSTEMI(STが上昇していないAMI)を含むAMI疑い患者を登録しているのに対し,AVOIDは救急車を要請したSTEMI患者を登録している
N数の違いは大きいですが,それ以外の違いを見ていくと,酸素の有害性を示したAVOIDの方が,低酸素になりにくく,かつ酸素投与群はDETO2X-AMIよりも高酸素になりやすい,登録された患者はAVOIDの方がSTEMIが多い,ということが言えるかと思いますし,そういうセッティングだと酸素の有害性が出やすくなる,とも考えられるかもしれません.
急性心筋梗塞疑いへの酸素療法(DETO2X-AMI trial)
Hofmann R, James SK, Jernberg T, et al; for the DETO2X-SWEDEHEART Investigators. Oxygen Therapy in Suspected Acute Myocardial Infarction. N Engl J Med 2017 Aug.28 [Epub ahead-of-print]

Abstract
【背 景】
ベースラインで低酸素血症がない急性心筋梗塞疑いの患者におけるルーチンの酸素療法の臨床効果は明確ではない.

【方 法】
レジストリーに基づいた本無作為化臨床試験は,患者登録とデータ収集が行われたスウェーデン全国レジストリーを用いた.心筋梗塞疑いで,酸素飽和度が90%以上の患者を酸素投与群(オープンフェイスマスクで6L/分を6~12時間)と室内気群に無作為に割り付けた.

【結 果】
計6629例の患者が登録された.酸素療法の中央期間は11.6時間で,治療期間終了時の酸素飽和度中央値は酸素投与群で99%,室内気群で97%であった.低酸素血症に進展した患者は酸素投与群で62例(1.9%),室内気群で254例(7.7%)であった.入院中のトロポニン値最高値の中央値は,酸素投与群で946.5ng/L,室内気群で983.0ng/Lであった.主要評価項目である無作為化から1年以内全原因死亡率は,酸素投与群で5.0%(166/3311),室内気群で5.1%(168/3318)であった(HR 0.97; 95%CI 0.79-1.21; p=0.80).1年以内の心筋梗塞再入院は酸素投与群で126例(3.8%),室内気群で111例(3.3%)であった(HR 1.13; 95%CI 0.88-1.46; p=0.33).本結果は事前に定められたすべてのサブグループにおいても一貫していた.

【結 論】
低酸素血症のない心筋梗塞疑いの患者におけるルーチンの酸素投与は1年全死亡率を減少させなかった.

by DrMagicianEARL | 2017-09-01 11:15 | 文献

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