【文献】ICU終末期患者の人工呼吸管理の中止方法と患者・家族・医療スタッフのアウトカム(ARREVE study)
①不可逆的な全脳機能不全(脳死診断後や脳血流停止の確認後なども含む)と診断された場合
②生命が新たに開始された人工的な装置に依存し,生命維持に必須な臓器の機能不全が不可逆的であり,移植などの代替手段もない場合
③その時点で行われている治療に加えて,さらに行うべき治療方法がなく,現状の治療を継続しても数日以内に死亡することが予測される場合
④悪性疾患や回復不可能な疾病の末期であることが,積極的な治療の開始後に判明した場合
■では実際にはどのように家族に説明するかですが,ICU患者である場合,癌患者や超高齢者と比較してなかなか説明のハードルが高いと感じる医師も多いです.その結果,治る見込みがほぼない状況にある患者にずるずると侵襲的治療が継続されてしまうケースもあります.どのように説明するかの正解となるようなものがあるわけではないですが,私自身は,毎日家族に病状の詳しい説明を行い(時には1日に2回),ベッドサイドでもモニターを含め一緒に状態を見てもらい,徐々に助からないであろう状況を受け入れてもらうようにしています.この過程で,緩和ケアとwithholdingは最初の段階で同意を得て開始します.そして日々の家族への説明等で受け入れ具合を見てwithdrawalの話を出します.このようなEnd-of-Lifeケアを行っていく上で,日本緩和医療学会が行っている緩和ケア研修会(PEACE)は参考になりますので,ぜひ受けられた方がいいと思います.
■ただし,これまでの経験で,私も抜管を行ったことはまだありません.ここに踏み込むにはかなり勇気がいりますし,まさに「withdrawalよりもwithholdingの方が医療者の心理的負担は少ない」というエビデンスをダイレクトに痛感します(Am J Public Health 1993; 83: 14-23).実際に,人工呼吸器のwithdrawalは日本ではほぼ行われていないに等しい行為です.終末期で抜管すれば患者は平均して1時間で確実に死に至るため(Chest 2010; 138: 289-97)躊躇するのは当然のことかと思われます.仮にもし行うにしても倫理委員会にお伺いをたてるなどする必要があるでしょう.今回紹介する論文はそのICU患者の人工呼吸管理の中止について検討した報告です.
重症疾患患者の人工呼吸換気の中止(withdraw)における終末期weaningまたは即時抜管(ARREVE study)Robert R, Le Gouge A, Kentish-Barnes N, et al. Terminal weaning or immediate extubation for withdrawing mechanical ventilation in critically ill patients (the ARREVE observational study). Intensive Care Med 2017 Sep 22 [Epub ahead of print]
PMID: 28936597
【目 的】
人工呼吸器の中止(withdrawal)において,即時抜管か終末期weaningかの相対的なメリットは,特に患者や近親者においては議論の余地がある.
【方 法】
本前向き観察多施設共同研究(ARREVE)は,ICUチームによる選択での終末期weaningと即時抜管を比較するためフランスの43のICUにおいて行われた.終末期weaningは換気補助の量の漸減とし,即時抜管は換気補助の事前の減量なしの抜管とした.主要評価項目は,死後3ヶ月後の近親者の心的外傷後ストレス症状(Impact of Event Scale Revised, IES-R)とした.副次評価項目は,近親者の複雑な悲嘆(complocated grief),不安,抑うつ症状,死までの経過における患者の快適さ,スタッフの仕事量とした.
【結 果】
我々は終末期weaningした248例の患者の近親者212名(85.5%),即時抜管した210例の患者の近親者190名(90.5%)を登録した.即時抜管は,終末期weaningと比較して,気道閉塞や高い平均Behavioural Pain Scaleスコアと関連していた.近親者において,3ヶ月後のIES-Rスコアは両群間で有意差はみられず(31.9±18.1 vs 30.5±16.2; 調整差 −1.9; 95%CI −5.9 to 2.1; p=0.36),複雑な悲嘆,不安,抑うつスコアにおいても差はみられなかった.ナースは,即時抜管群の方が仕事量スコアが低かった.
【結 論】終末期weaningと比較して,即時抜管は,それぞれの方法が適用されたICUにおいて標準的な診療を構成する場合,近親者の心理的状態の差異と関連していなかった.患者は即時抜管の方が気道閉塞と喘ぎ呼吸が多かった.