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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

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■青木眞先生が「市中病院で見る世界の感染症セミナー」中止のお知らせをされていたので何事かと思い詳細を見てみると,原因は薬事日報3月4日の記事だった.リンクを見たらすぐ分かるので製薬メーカー名はもう伏せません.以下引用.抗菌薬適正使用を行っている先生方はこれを見ておそらくは頭にアラートが鳴るのではないだろうか?
【塩野義製薬】最も強い薬剤を短期投与‐抗菌薬適正使用でセミナー
http://www.yakuji.co.jp/entry35009.html

 塩野義製薬は2月26日,「グローバルにおける感染症治療」をテーマにマスコミ向けセミナーを開催し,竹安正顕海外事業本部長が,世界の感染症を取り巻く現況と治療薬の適正使用に対する同社の取り組みを語り,抗菌薬のグローバルスタンダードについて,「最も抗菌力の強い薬剤の短期間使用を地道に行うことにある」と強調した

 竹安氏は,日本では少ないカルバペネム耐性菌が米国や世界で問題になっている原因について、「日本は,最も抗菌力の強いカルバペネム抗菌薬を最初に短期間用いてきたが,米国や中国等では他の薬剤を先に使って同剤を最後に取っておく投与法を採用してきたことにある」と分析.抗菌薬療法のグローバルスタンダードは,「各病院ごとに出現する分離菌の状況,抗菌薬の感受性に従い,最も抗菌力の強い薬剤の短期間使用を地道に行うことにある」と提言した.
■塩野義製薬といえば,インフルエンザ啓蒙CM/サイトで多数の医療関係者から猛批判を浴びた(ついでに言えば「痛みはうつ」のCMも)ばかりだが,そこにきての今回のこのニュース.メーカー広報部はさすがに度が過ぎるのではないか.というわけで反論を書いておくべきと考えた.

※インフルエンザ啓蒙CM/サイト問題についてはこちら→http://drmagician.exblog.jp/21562162/

■セミナーの詳細までは掲載されていないが,「最も抗菌力の強い薬剤の短期間使用を地道に行うことにある」という台詞には違和感を感じる.好意的にとらえるなら,「その患者の状態に合って,推定病原菌に抗菌力を有する抗菌薬を(十分量)を用いて短期間で使用する」という意味で,一般人(ここではマスコミ関係者)向けに分かりやすく説明したのであれば問題はないが,そもそも「最も抗菌力の強い薬剤」という表現の時点で,感染症診療に理解があまりないのでは?と思われるし,後半でカルバペネムについて「最も強い抗菌薬」と言及している.

■基本的に抗菌薬を強い弱いという指標に分類するのは間違いである.たとえばメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)に対してはセファゾリンがよく用いられるが,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)であれば当然効かず,バンコマイシンが有効となる.ではバンコマイシンはセファゾリンより強いかというとそういうわけではない.セファゾリンが有効か無効かは黄色ブドウ球菌側の耐性遺伝子の有無で決まっているのであり,セファゾリンの方がバンコマイシンよりもMSSAに対する抗菌活性が強い.このように,病原菌ごとに,さらには感染臓器ごとに得意とする抗菌薬は変わりうるため,一般化して「この抗菌薬は強い」という表現は不適切となる.

■となれば,この発言の意図するところは,「感染症治療の中核となるβラクタム系抗菌薬の中でも最も広域スペクトラムを有するカルバペネム系を使え」という推奨にしか見えてこないのである.塩野義製薬はカルバペネム系抗菌薬であるドリペネムを販売している以上,メーカーがマスコミ向けに自社製品アピールを暗に含んだ抗菌薬推奨をグローバルスタンダードとして語っていることになり,極めて危険なバイアスといえる.極端に言えば,これによりカルバペネム系抗菌薬を使用していないだけで,それが適切か不適切かに関係なくマスコミが「カルバペネム系を最初に使っていないのは医療ミスでは?」と騒ぎ出す報道を行いかねないわけである.これまでのいわゆる医療崩壊の進展の原因のひとつにマスコミの歪んだ報道が関与していることは紛れもない事実であり,「極端に言えば」と前置きはしたものの,現実的に十分に起こりえる話であると思われる.ましてや抗菌薬メーカーが感染症医療崩壊を誘導するなどあってはならない.インフルエンザのCMの一件といい,メーカーとしての体質を疑わざるを得ない.

1.「日本ではカルバペネム使用量が多いから耐性菌が少ない」は正しいか?

■日本では少ないカルバペネム耐性菌が米国や世界で問題になっている原因を「海外ではカルバペネムを最初に使用しないから」としたのはおそらくカルバペネム消費量のみで見た結果であろう(このような主張をされる方々はほとんどが消費量のみでしか考察していないのをよく見かける).しかし,各国の背景の違いを考慮せずに消費量の比較で判断することは誤った結論を導きかねず注意が必要である.また,抗菌薬消費量が増えれば耐性率が増す例がいくらでも存在することは,ペニシリン実用化からわずか20年でペニシリン耐性黄色ブドウ球菌が発見され,さらにはMRSAが出現し世界中に伝播してきた歴史が物語っている.

■例えば,バンコマイシンすら効かない腸球菌(VRE)は1989年から米国で急激に増加したが,このときバンコマイシンを使用していなかったからではなくむしろバンコマイシンの消費量は非常に増加していたのである.欧州でも家畜の発育促進物質であるavoparcin(バンコマイシン類似物質)が関与しており,この使用禁止によりVREのヒトからの検出頻度が大きく減少している.日本が他国よりVREが少なかったのはバンコマイシンがMRSAにしか適応がなく,乱用されていなかったためと考えられている.

■「カルバペネムを使用すると耐性菌が増えるする科学的根拠はない」と仰っている先生もおられるようだが根拠は文献として既に報告されている.Carmeliら[1]は,緑膿菌感染症患者271例のコホート研究を行い,緑膿菌の薬剤耐性増加リスクが,セフタジジム(CAZ)で0.8倍,ピペラシリン(PIPC)で5.2倍,シプロフロキサシン(CPFX)で9.2倍であったのに対して,カルバペネム系のイミペネム/シラスタチン(IPM/CS)で44.0倍と圧倒的に高かったことを報告している.Owensら[2]も抗菌薬使用と入院期間に関連したグラム陰性桿菌の薬剤耐性獲得率はアンピリシン/スルバクタム,第3世代セフェム,フルオロキノロン系に比してカルバペネム系のIPM/CSが高かった.カルバペネム系抗菌薬は薬剤耐性誘導の危険性が高いことはこのように臨床において既に知られていることである.

2.病原菌の抗菌薬耐性獲得はしばしば我々の予想を超える

■日本ではまだ耐性菌が少ないから,という油断は禁物である.ペニシリン耐性菌は本剤が臨床で使用されるようになる以前から存在していたことが知られている[3].自然環境においてはペニシリンをはじめとする抗菌物質を菌が産生することにより自分のなわばりのようなものを作ることが知られており,この抗菌物質に曝露される菌は多数存在しており,それらが生き延びるためには抗菌物質に対する耐性を持つ必要があった.すなわち,環境微生物に由来する抗菌性物質には古くから耐性菌が存在することは必然的なことであり,同時に抗菌薬に対する耐性獲得も時間の問題であったことは容易に想像できる.

■これに対し,キノロン系抗菌薬は自然界には存在しない化合物であったため[4],本剤耐性菌株が出現する可能性は低いと考えられていたが,この抗菌薬に対しても耐性菌が出現し,その頻度は上昇傾向にある[5].耐性化の速度は医師の想像の範疇を大きく越えるものであることを認識しておかなければならず,そのための抗菌薬適正使用でもある.ほとんどの抗菌薬が奏功しないNDM-1,KPC,MBLといった菌株の出現をカルバペネム系抗菌薬開発時に誰が想像しただろうか?当時は,「強力な抗菌薬が開発されたので,細菌感染症は撲滅できる」とまで主張した人もいたくらい楽観的予測だったのである.

3.カルバペネムをいつ使用するのか?

■私自身カルバペネム系を使用することはある.耐性菌が原因菌の可能性のある重症敗血症では選択肢に十分入ってくるし,原因菌不明の段階での壊死性筋膜炎でも使用を推奨する.一方で,「最初にカルバペネム系のような広域スペクトラムの抗菌薬を投与して,原因菌判明後にde-escalationする」という理論も見直す時期にきている.

■肺炎領域においては,初期抗菌薬治療は予後に関連しない,むしろ宿主の状態が予後に関連するという報告が多数でてきており[6-12],さらに広域カバーからのde-escalation戦略によって逆に予後が悪化したとする報告もある[13,14].重症感染症患者においてde-escalation戦略が予後を改善したとする報告は現時点では小規模のコホート研究しかなく[15-18],RCTは報告がない[19].以上から,de-escalationを行うなら初期はとりあえず広域カバーでもOK,という単純な話ではなくなってきているのが近年のエビデンスから分かる.耐性菌推定は大事ではあるが,より大事な抗菌薬選択因子は患者の状態評価であり,これをもって抗菌薬を選択すべきである.

■日本のカルバペネム使用量の多さが,真にカルバペネム必要度を反映しているのであればよいが,実際はそうではなく,不適切使用が非常に多いことは日本中のICTが感じていることだろう.医療現場で使用されている抗菌薬の半数は不必要あるいは不適切であるとされており[20],今後も耐性化を抑えていくためにも,抗菌薬適正使用は必要であり[21],ICT(感染制御チーム)や感染症専門医と協力して,有効かつ耐性菌を作らない抗菌薬適正使用が望まれる.同時に,カルバペネム系は他の抗菌薬に比してコストが高く,副作用リスクも高い部類に入るため,耐性菌以外の問題もかかえている抗菌薬である.

■このような中にあって日本の耐性菌の事情は現時点では海外よりは悪くない.MRSA分離率は近年低下傾向にあり,市中感染型MRSAの流行もまだわずかであり,VREやNDM-1なども数えられる程度しか検出されていない.カルバペネムに耐性化した大腸菌や肺炎桿菌を見ることもまずない.アシネトバクターのカルバペネム耐性化率を見ると,米国50%,欧州15%,サウジアラビア90%,インド17%,タイ75%,シンガポール46%,韓国70%,中国80-90%であるのに対し,日本は2%である.島国たる日本は1990年代から急速に発展した感染対策と感染症診療により耐性化を抑え,いい意味でガラパゴス化した感染制御を歩んできており[22],この現状を悪化させてはならない.一度耐性菌が増加し始めれば,菌株によっては日本全土に広がるのに数年で十分であろう.これは近年急激にカルバペネム耐性アシネトバクターが増加した韓国がいい例であるし,ESBL産生菌も2007年頃から瞬く間に日本全国に広がった.

■塩野義製薬には感染症治療薬を販売してきたメーカーであるならば,このようなミスリードを招きかねないアピールは自粛していただきたいところである.

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[22] 朝野和典.敗血症の予防と早期発見.世界敗血症デー関連敗血症セミナー,東京.2013 Sep.8
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by DrMagicianEARL | 2014-03-08 17:23 | Comments(0)
■今年は(よっぽど面白い文献が残り数日ででてこない限り)この記事が最後のアップになります.

■今年もいろんな論文が発表されました.腹臥位療法の有用性を示したPROSEVA study[1],低体温療法の有用性が否定されたTTM study[2],集中治療医有無でのICU治療成績の差を示したWilcoxらのシステマティックレビュー[3],敗血症性ショックに対するエスモロールのPhase II study[4],抗菌薬投与患者へのルーチンのprobiotics投与に疑問を投げかけたPLACIDE study[5],重症疾患患者におけるグルタミンと抗酸化物質が無効であることを示したREDOXS Study[6],救急隊による病院到着前のアドレナリン投与に疑問を投げかけた日本からのNakaharaらの報告[7]が特に印象的でした.ニュースとしては,中国で発生した鳥インフルエンザウイルスA/H7N9,新型インフルエンザ等感染症特別措置法施行,イレッサ訴訟,ディオバン論文不正問題などでしょうか.

■このブログについて主旨等を書いたことがなかったので,2013年を振り返りながら.本ブログは,最初は倉原先生の人気ブログ「呼吸器内科医」のように文献要約をアップしていこうかと思っていましたが,いろいろな意図もあって,レビュー形式で,私の院内の取り組みとパラレルに記事を書いています.イメージとしては,敗血症のUp-to-Dateのつもりで,新しい記事を書くと同時に古い記事は適宜新しいエビデンスがでたら更新していくスタイルをとっています.それも日本語で,医師のみならず他の医療スタッフにも知っていただきたいエビデンスをできる限り文献引用をつけてこのブログから情報発信し,知識共有できればと考えています.敗血症レビューが蘇生バンドルに始まり,最近ようやく疼痛不穏せん妄のレビューにまできましたが,これは私自身の勉強・取り組みをリアルタイムに表しています.

■私は卒後臨床研修医から今の病院に勤務しておりますが,最初は循環器内科希望でした.それがHIV感染症の患者(ニューモシスチス肺炎)を担当してから感染症に興味を持ち呼吸器内科希望に方針を転換しました(当院呼吸器内科は肺癌をあまり担当することはなく,肺炎がほとんどという急性期に特化した特殊な呼吸器内科でした).その後2011年になって名古屋大学救急集中治療医学分野教授の松田直之先生の講演を聴講して敗血症に興味を持ち始め,院内の敗血症診療の改善に取り組み始めました.院内ガイドラインを作成した後,最初は研修医やスタッフがいつでもどこでもインターネット上で見れるようにと本ブログで敗血症診療のレビュー記事を2011年秋からスタートしました.現在では1日1200人程度の閲覧数があり,おかげさまで研究会やメールで「ブログ見てますよ」とお声をいただいたり,ブログ経由で講演会依頼もいただいたり,書籍の分担執筆依頼もいただくようになりました.今後もより多くの敗血症・肺炎関連のレビューを発信していきたいと思います.

■さて,2013年はSurviving Sepsis Campaign Guidelines 2012[8]と日本版敗血症診療ガイドライン[9]が発表された,敗血症診療において大きなイベントの年でした.SSCGにより敗血症診療がここまで進歩したこと,日本語でガイドラインが発表されたことは非常に有意義なことであると同時に,なぜこのようなガイドラインになったのかと疑問に思うことも事実です.World Sepsis Alliance(世界敗血症同盟)が2012年9月13日に世界敗血症宣言[10]をだし,偶然にも東京オリンピックと同じ2020年までに達成すべき項目を提示しました.残念ながら現在のガイドラインはSSCGも日本版も世界敗血症宣言で提示された目標をカバーできていません.公衆衛生による感染症予防に始まり,PICS(Post-Intensive Care Syndrome)[11,12]などの長期的ケアに至るまで,敗血症診療でカバーすべき範囲は広いにもかかわらず,ガイドラインが示すのはICUの中の診療だけです.敗血症診療を三次救急施設ICUのみで作られたエビデンスだけで語る時代はもう終わりにすべきでしょう.同時に救急集中治療医がいない病院でも通用する敗血症診療のエビデンスを救急集中治療医でない医師が作っていく必要があると思います.おそらく2020年までにSSCGも日本版もあと2回の改訂が行われるのではないかと予想されます(できれば日本版改訂の際の委員会メンバーに入ってみたいと思ってはいますが,まあ私のキャリアでは無理でしょう).

■私は敗血症診療と同時に超高齢者肺炎もメインに診療しています.肺炎については日本呼吸器学会のガイドラインがでていますが,臨床現場とガイドライン作成者の間の認識のズレを感じずにはいられません.ガイドラインが示したのは細菌学的理論と抗菌薬の推奨のみにとどまっていて,その抗菌薬の推奨ですら臨床現場の感覚と異なるものでした.2013年10月に行われた第13回呼吸器感染症フォーラムで,ようやくガイドラインの方針にメスが入りましたが,このフォーラムで議論された内容を現場の医師はとっくに気がついていたと思います.おそらくパブリックコメントでも指摘があったはずです.ガイドライン作成をした大学教授陣と臨床現場の医師の距離が縮まるのに何年かかったのでしょうか.

■抗菌薬の選択は超高齢者肺炎患者の予後に影響を与えません[13-15].しかしながら,ガイドラインが示す耐性菌リスクによる分類は過大評価になってしまい,広域抗菌薬使用増加につながっています.慢性心不全,嚥下機能障害,認知症,骨格筋の廃用,といった様々な背景が超高齢者肺炎のベースにあり,高齢者肺炎は感染症のみで語れる疾患ではなく,様々な疾患を合併した症候群であり,実際に難渋するのは肺炎治療ではなくfrailtyあるいはpost-frailty(後者は私の造語です)という状態です.

■加えて,病院への入院そのものが基礎疾患の悪化を招き,QOLを著しく低下させている要因になっており[16],海外にはDNARならぬDNH(Do Not Hospitalization:入院しない意思表明)という意思表示が法的に定められているくらいです.院外心肺停止患者へのアドレナリン投与は心拍再開率を上げるが神経学的予後は変わらず,意識障害患者をいたずらにつくりだしているのではないかという論文[7]が最近でましたが,実は高齢者肺炎診療ですでにそのようなことが起きていて(肺炎治療で寝たきり老人をつくってしまう),入院自体が大きな侵襲となってしまっているという事実が急性期病院につきまとうジレンマとなっています.肺炎患者をリハビリで機能維持し,できる限り早く退院させる必要がありますが,現実的にはかなり難しい問題となっています.敗血症をはじめとするICU重症患者におけるPICSと同じく,高齢者肺炎ではPost-Hospitalization Syndromeとも呼ぶべき問題があり,日本呼吸器学会,日本感染症学会もそろそろここに強く焦点をあてるべきではないでしょうか.

■ここから私事になりますが,2013年度は私はレジデント最後の年というひとつの区切りとなる医師年数を迎えました(なので医師5年以上というキャリア年数の制限があるため実はまだICDの資格が取れていません).他病院の先生からのお誘いもあって,卒後臨床研修医から御世話になっている当院を今年度で退職して新たな病院で・・・,と考えていたのですが,あとから次々と新しい取り組みを始めてしまい,当院で可能な臨床研究ネタも尽きたと思っていたらまだまだ探せばでてくる,感染対策加算もようやく加算1を取得する,ということでとりあえずもう1年残ることにしました(ちなみに私はどこの大学医局にも属していません).

■完全主治医制の当院において,敗血症診療について私1人が実践するだけではダメで,院内全体の治療成績を挙げる上でガイドラインをつくり,システム自体を変える必要がありますが,他の医師との様々な信念対立にぶつかり,改革がいかに難しいかを思い知りました.それでもなんとか改革は前に進んでおり,一定の成果をだすに至った,2013年はそんな年でした.次なるステップとして,ガイドライン/プロトコルのみならず,本格的に治療介入に入るシステム作りに移行しています.

■当院ではICT,NST,RST,その他ICU管理を網羅した多職種集学的な週3回の回診チームであるICST(Intensive Care Support Team:集中治療サポートチーム)を導入し,低侵襲かつ有効な急性期治療介入を推進するとともに,TAPERing projectと名づけた回復期のサポートプロトコル/クリニカルパスも導入し,入院から退院後ケアまでの円滑な流れができるよう取り組みを開始しました.2014年はこれらの取り組みをより推進し,評価を行い,エビデンスを作っていくことが大きな目標となっています.詳しい内容は決定していませんが,2014年7月の日本呼吸療法医学会学術総会の多職種連携をテーマとしたシンポジウムで講演の機会をいただいたので,これらの取り組みを発表しようと考えています.また,来年4月に刊行予定のINTENSIVIST誌に当院ICSTについてちょっと書かせていただきました.

■長々となってしまいましたが最後に,このブログを続けていくにあたり,面識の有無に関係なく様々な先生方から御指導,御鞭撻を賜り,また,当院における敗血症診療,肺炎診療の実践においても多職種スタッフの後押しと御協力のもとここまでくることができ,非常に充実したレジデント生活を送ることができました.2014年も宜しく御願い申し上げます.

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[3] Wilcox ME, Chong CA, Niven DJ, et al. Do intensivist staffing patterns influence hospital mortality following ICU admission? A systematic review and meta-analyses. Crit Care Med 2013; 41: 2253-74
[4] Morelli A, Ertmer C, Westphal M, et al. Effect of heart rate control with esmolol on hemodynamic and clinical outcomes in patients with septic shock: a randomized clinical trial. JAMA 2013; 310: 1683-91
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[7] Nakahara S, Tomio J, Takahashi H, et al. Evaluation of pre-hospital administration of adrenaline (epinephrine) by emergency medical services for patients with out of hospital cardiac arrest in Japan: controlled propensity matched retrospective cohort study. BMJ 2013; 347: f6829
[8] Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, et al; Surviving Sepsis Campaign Guidelines Committee including the Pediatric Subgroup. Surviving sepsis campaign: international guidelines for management of severe sepsis and septic shock: 2012. Crit Care Med 2013; 41: 580-637
[9] 日本集中治療医学会Sepsis Registry委員会.日本版敗血症診療ガイドライン.日集中医誌 2013; 20: 124-73
[10] DrMagicianEARL. 敗血症の展望 to 2020 ~世界敗血症の日(World Sepsis Day)~(1)世界敗血症宣言. EARLの医学ノート 2013 Sep.9 http://drmagician.exblog.jp/18901899/
[11] Needham DM, Davidson J, Cohen H, et al. Improving long-term outcomes after discharge from intensive care unit: report from a stakeholders' conference. Crit Care Med 2012; 40: 502-9
[12] DrMagicianEARL. 敗血症と長期予後,PICS(Post Intensive Care Syndrome). EARLの医学ノート 2013 Apr.16 http://drmagician.exblog.jp/20272480/
[13] Attridge RT, Frei CR. Health care-associated pneumonia: an evidence-based review. Am J Med 2011; 124: 689-97
[14] Komiya K, Ishii H, Umeki K, et al. Impact of aspiration pneumonia in patients with community-acquired pneumonia and healthcare-associated pneumonia: a multicenter retrospective cohort study. Respirology 2013; 18: 514-21
[15] Lisboa T, Diaz E, Sa-Borges M, et al. The ventilator-associated pneumonia PIRO score: a tool for predicting ICU mortality and health-care resources use in ventilator-associated pneumonia. Chest 2008; 134: 1208-16
[16] Givens JL, Jones RN, Shaffer ML, et al. Survival and comfort after treatment of pneumonia in advanced dementia. Arch Intern Med 2010; 170: 1102-7
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by DrMagicianEARL | 2013-12-25 16:54 | Comments(0)
※今回は文献紹介でもエビデンスレビューでもありません.

■いつも楽しみに見ている日本集中治療教育研究会(JSEPTIC)の内野先生のブログに先日こんな記事があった.
Dr内野のおすすめ文献紹介
無題。 2013年11月02日 | ひとりごと
http://blog.goo.ne.jp/druchino/e/cc85e263bfe4aa6c7bee2c687d0a575d
昨日、ICUに、別の病院の呼吸器内科医から電話がかかってきた。自分が見ている患者さんの人工呼吸器の設定について、教えてほしいと。(以下省略)
内容は記事を見ての通り.一言で言うと,「重症患者の人工呼吸管理は呼吸器内科医ではなく集中治療医が行うべきだ」.私自身も呼吸器内科医だが,別にこの記事で気分を害したわけではない.書いてあることは事実そのものなので.

■先日東京で開催された呼吸器内科医対象のフォーラムで座長の「人工呼吸器を要する場合は集中治療の先生に管理をお願いする」という内容に質疑応答で「集中治療の先生にお願いすると仰ったが,人工呼吸器を扱えなければ呼吸器内科ではない!」とかみついたかなりベテランの呼吸器内科の先生がおられた.これは違うと思う.人工呼吸器さえ扱えればその患者を治療できると考えるのは大間違いで,呼吸のみならず循環,感染,鎮痛鎮静,栄養代謝,神経筋などの全身管理ができることが前提.内野先生もそこをブログで指摘しておられる.

■でははたしてこの全身管理が可能な呼吸器内科医ははたして全国にどれくらいいるのか?さらに言えば本当にICUの花形と言われる人工呼吸器を真に扱える呼吸器内科医ははたしてどれくらいいるのか?おそらくかなり少ないと思われる.かく言う私も,肺癌や慢性疾患はほとんど扱わず,重症肺炎,敗血症性ショック,ARDSを主に診る急性期に特化した(日本では特殊な)呼吸器内科医ではあるが,集中治療医に指導された経験は一度もなく,当然ながら集中治療の資格も有さないし,教科書と文献を読みあさり,学会や研究会で得た知識・エビデンスをもとに治療を行ってはいるが,我流でしかないため,真に全身管理と人工呼吸器管理ができているかと問われると非常にあやしい.

■研修医時代からずっと救急医も集中治療医もいない今の病院に勤務しているが,呼吸器内科医になった3年目の頃は,「ARDSといえば呼吸器内科医の出番」と思ってきた.しかし,他の病院ではそういうわけではないということを知り始め,日本呼吸器学会と日本集中治療医学会に参加すると,「ARDSは集中治療医の出番」というのが現状なのだと思い知らされた.それでも当院には集中治療医がいないため,ARDSは主に呼吸器内科医が診ているし,全身管理もEBMにのっとって行っていて,「呼吸器内科医による人工呼吸患者の管理こそ醍醐味」と胸を張って言いたい部分はある.でも日本の一般的な呼吸器内科はそのような科ではないらしい.というのが,まだ医師になってたいした年数を経ていないながらにも痛感している.

■「肺が悪いのに,全身管理はおろか,人工呼吸器すら扱えない,と呼吸器内科医が他科に言われて悔しくないですか?さびしくないですか?」と他の呼吸器内科医に問うのはおそらく筋違いなんだろう(集中治療医に重症患者をまかせた方が予後がいいであろうことは事実なので).今の日本の呼吸器内科は肺癌と喘息とCOPDと間質性肺炎が主体であることは日本呼吸器学会総会のポスター演題の比率を見れば一目瞭然で,ARDSや肺炎の演題数は驚くほど少ない.高齢者肺炎にいたっては呼吸器内科があっても他の内科で分担して診る病院の方が多いくらいである.しかも,呼吸器内科医以外が肺炎治療にあたっても予後は悪化しないという文献すら存在する[1].肺疾患の急性期領域に呼吸器内科医の出番はもうほとんどないのかもしれない.呼吸器内科という専門性が活かされるのは主に慢性期疾患なのだろう.もっとも呼吸器内科医の数自体が少ないため,急性期にまで人員がさけない事情があると思われる.

■一方の米国では,呼吸器内科医は集中治療領域にも大勢かかわっている.その象徴が米国胸部疾患学会(ATS)であり,その機関誌American Journal Respiratory and Critical Care Medicine(いわゆるブルージャーナル)である.集中治療領域で最もインパクトファクターが高い雑誌はCritical Care MedicineでもIntensive Care MedicineでもCritical Careでもなく,この呼吸器と集中治療の組み合わせのブルージャーナルに他ならない.これは,集中治療領域をどの領域の医師が担ってきたかの歴史の違いである.日本は内科医ではなく麻酔科医と外科医によって担われてきた.このこともあって日本で呼吸器内科医がICUにはりついて治療を行うことは少ない.

■しかし,実際には集中治療医がすべての病院・ICUにいるわけではなく,集中治療医が足りてないという現実もある.日本集中治療医学会は集中治療医を増やして,各病院に配備できるようにしたいとの意向があるようだが,とても実現できるようには思えない,というのが正直な感想である.集中治療医がいるかいないかでICU死亡率,院内死亡率に統計学的有意差があることも2002年にも2013年にも示されており[2,3],「重症患者のあらゆる管理において十分な知識を持った人間しか重症患者管理を行う権利はない」は理想ではある,が現実はそうもいかず,集中治療医が増えるまで患者は待ってはくれない.この差を埋めるには集中治療医がいない病院の方も努力するしかなく,その解決の糸口をなんとかして探るべきだろう.今年の日本呼吸器学会総会学術集会では,集中治療医のいない病院で集学的RST(呼吸サポートチーム)を導入することで患者予後を改善したポスター演題が発表されていた.集中治療の敷居が高いままの膠着状態は解消すべきであり,段階的解決をはかる上でも,非集中治療医ではあるがsemi-intensivistのような医師を各科で養成する必要がある.

■当院では集中治療医がいない穴をできる限り埋めるべく,集中治療に特化した集学的回診・介入を行うチームである「集中治療サポートチーム(Intensive Care Support Team)」をまもなく導入する.栄養,抗菌薬についてはそれぞれに院内のNSTとICTがあるが,いずれも1-2週間に1回という頻度であり,急性期の重症患者のカバーとしては不十分であり,RSTは存在すらしていない(私が当院に入職する前はあったそうだが自然消滅した).第41回日本救急医学会総会学術集会では,栄養セッションにおいて,院内NSTとは独立した,毎日評価を行うICU-NSTの必要性が提示され,実際に複数の施設でICU-NST導入によるアウトカム改善が報告された.このようなケースはICU-NSTに限った話ではなく,ICT,RSTも同様に言えることだと思われる.そこで,NST,ICT,RSTを含む,ICU管理全般のサポートを行う集学的チームとしてのこのICSTを提案した.

■ICST導入の目的は,ICU患者全般に共通する管理項目についての評価・介入(主治医への提案)を行い,ICU管理に不慣れな主治医の治療をサポートし,ICUでの治療・ケアの質を改善することにある.期待されるアウトカムとしては,死亡率改善,薬剤有害事象減少,二次感染症減少,ICU入室期間短縮,入院期間短縮,コスト減少,PICS(Post-Intensive Care Syndrome)減少などであり,また,介入による主治医の集中治療に関する知識の向上・意識変容や,チームに参加するコメディカルスタッフのモチベーションアップなどの副次的メリットも得られる可能性がある.チーム構成は医師(内科系1名,外科系1名),ICU看護師,管理栄養士,理学療法士,薬剤師,臨床検査技師,臨床工学技師となっている.

■ICSTの問題点として,チームに集中治療医がいない,すなわち集中治療のトレーニングを受けて資格を有する者がいないため,チームから主治医への介入にどれだけの妥当性が保証されるかである.この問題点ゆえにICSTの活動が院内の他の医師に理解が得られない可能性も高く,実際に院内敗血症診療プロトコルを作成導入したときにそのような現象は経験済みである(最終的にプロトコル遵守群と非遵守群での死亡率を比較したデータを院内で発表することでプロトコル遵守の周知徹底が会議で発令され,導入から2年間を経てようやく理解が得られた).この解消のためにはICSTの質そのものを上げる努力では不十分で,現状をデータとして院内に提示・共有し,ICSTの活動によって改善したアウトカムをはっきりと示す必要がある.集中治療医がいない病院ならではの苦悩があり,それを発信し,共有して解決策を考えていくこともまた必要だろう.

■日本の医療システムは医師の絶対数,科ごとの医師数の偏りなどの複雑な問題もあり,おそらく10年,20年という年月を経てもそう簡単には変わらないことはこれまでの医療を見ても容易に予想できる.ならば,集中治療医,呼吸器内科医,という専門の縛りを超えた,このシステム内で今できる限り可能な方策を見つけていく方が現実的かつ即効性がある.システムがなかなか変わらないと悲観するよりも,今可能なことを見つけて段階的に解決していく方が夢があるでのはないでしょうか?

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by DrMagicianEARL | 2013-11-05 18:50 | Comments(2)
■敗血症性ショック患者へのβ遮断薬の有用性については以前から動物実験等で示されてきましたが,今年に入り,Phase2 studyの報告が始まりました.今回は28日死亡率も評価され,小規模RCTでの二次評価項目ではありますが,NNT 3.2という驚異的な治療成績を残しています.
敗血症性ショックの患者における循環動態と臨床予後におけるエスモロールの心拍数コントロール効果:無作為化臨床試験
Morelli A, Ertmer C, Westphal M, et al. Effect of Heart Rate Control With Esmolol on Hemodynamic and Clinical Outcomes in Patients With Septic Shock: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2013 Oct 9 [Epub ahead of print]
PMID:24108526

Abstract
【背 景】
敗血症性ショックにおいて,β遮断薬は心拍数を制御し,βアドレナリン受容体刺激による有害作用を減じる可能性がある.しかし,β遮断薬はこのような病態にはこれまで使用されておらず,陰性変力作用や血圧低下作用に関連した心血管うっ血を増悪させる可能性がある.

【目 的】
重症の敗血症性ショック患者において短時間作用型β遮断薬エスモロール(ブレビブロック®)の効果を検討する.

【方 法】
本試験は2010年11月から2012年7月までに大学病院集中治療室に入室した,心拍数は95/分以上で,平均血圧65mmHg以上を維持するために高用量のノルアドレナリンを要する敗血症性ショックの患者を登録した,オープンラベル無作為化Phase2研究である.患者は77例がICU在室中に心拍数を80-94/分に維持するためエスモロール持続投与を受ける群に,77例が標準治療を受ける群に無作為に割り付けられた.一次評価項目はエスモロール治療96時間の時点での心拍数を95/分未満への減少達成とした.二次評価項目は循環動態と臓器機能,24,48,72,96時間時点でのノルアドレナリン用量,有害事象,無作為化から28日以内に発生した死亡とした.

【結 果】
エスモロール群は全患者で目標心拍数を達成した.最初の96時間での心拍数変化のAUC中央値はエスモロール群が-28/分(IQR -37 to -21),対照群は-6/分(IQR -14 to 0)であり,エスモロール群が平均18/分減少させていた(p<0.001).1回心拍出量変化のAUC中央値は,エスモロール群が4mL/m2(IQR -1 to 10),対照群が1mL/m2(IQR -3 to 5)でエスモロール群が有意に上昇しており(p=0.02),左室1回仕事量変化においてもエスモロール群が3mL/m2(IQR 0 to 8),対照群が1mL/m2(IQR -2 to 5)であった(p=0.03).動脈血乳酸値変化量のAUC中央値はエスモロール群が-0.1mmol/L(IQR -0.6 to 0.2),対照群が0.1mmol/L(IQR -0.3 to 0.6)であり,エスモロール群が有意に減少させた(p=0.007).ノルアドレナリン変化量はエスモロール群-0.11μg/kg/分(IQR -0.46 to 0.02),対照群が-0.01μg/kg/min(IQR -0.2 to 0.44)であり,エスモロール群が有意に減少させた(p=0.003).輸液必要量のAUC中央値はエスモロール群が3975mL/24時間(IQR 3663 to 4200),対照群が4425mL/24時間であり,エスモロール群が有意に少なかった(p<0.001).他の心肺因子や蘇生治療の必要性については両群間で差を認めなかった.28日死亡率はエスモロール群49.4%,対照群80.5%であった(調整後HR 0.39, 95%CI 0.26-0.59, p<0.001).

【結 論】
敗血症性ショックの患者において,エスモロールのオープンラベルでの使用は,標準治療と比して,有害事象を増加させることなく心拍数の目標レベルまでの減少達成と関連していた.死亡率や他の二次臨床評価項目で観察された改善についてはさらなる検討が必要である.
■非常に読みにくいabstractだが,敗血症性ショックにおいて短時間作用型β1選択性遮断薬エスモロールの持続投与は心拍数を減少させ,心拍出量を増加させ,乳酸レベルを減少させ,ノルアドレナリン必要量や輸液必要量も減少させ,有害事象は増加せず,28日死亡率を61%減少させた,ということになる.28日死亡率の絶対差は31.1%であり,NNTは3.2となる.小規模RCTで死亡率は二次評価項目のためエビデンスレベルはそれほど高くはない.また,頻脈を伴う高用量ノルアドレナリン投与患者という難治性の敗血症性ショックであるという死亡率が高いことが予測される集団であることを考慮しても,対照群の死亡率が80.5%というのは高すぎる印象がある.とはいえこれほどの治療成績であることからPhase3もおそらく突破するであろうと思われる.心筋梗塞や心不全治療でβ遮断薬が用いられるようになって久しいが,今後敗血症をはじめとする他のショック病態においてもβ遮断薬の研究が進むと思われる.

1.敗血症性ショックにおけるβ刺激 vs β遮断

■敗血症性ショックにおけるカテコラミンでは,ノルアドレナリンとドパミンについては長年議論されてきたが,2012年に2つのメタ解析[1,2]が報告され,いずれもドパミン群がノルアドレナリン群より死亡率が有意に高かったと報告されていることから,Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2012[3],日本版敗血症診療ガイドライン[4]のいずれにおいてもドパミンは推奨されていない.末梢血管拡張が生じる敗血症性ショックではαアドレナリン受容体刺激が治療として理にかなっており,βアドレナリン受容体刺激は悪影響がでる可能性が以前から基礎研究で指摘されてきている.

■敗血症性ショックでは抑制性G蛋白の増加や間接的なprotein kinase A活性の抑制によってβ1受容体のdown regulationが生じたりβ1シグナルが阻害されるため,ドパミンでは陽性変力作用が期待できず,β2受容体を介して血管拡張や頻脈が生じ,むしろ昇圧を妨げてしまう[5-9].細菌にもβ受容体は存在し,β刺激で菌増殖やバイオフィルム形成を促進する[10,11].β受容体は単球/マクロファージ,リンパ球,好酸球,肥満細胞にも発現し,単球/マクロファージやリンパ球では特にβ2受容体を介して炎症性物質の産生に関与する.また,マクロファージはβ受容体刺激により泡沫化傾向が高まり,一時的に炎症活性が高まった後に機能不全となることも確認されている[12].また,β受容体刺激でリンパ球のアポトーシスが進行したり[13],好中球の遊走能が阻害される[14]ことも報告されている.

■以上から,β刺激は敗血症性ショックにおいて不利に働きうることが基礎的にも臨床的にも示されている.その一方で,β遮断作用が近年注目されている.これは,自律神経系は炎症反応の制御に深く関与しており(Inflammatory Reflex, neuroimmuno axis)[15],副交感神経刺激により炎症反応が軽減できる(cholinergic anti-inflammatory pathway)[16]という考え方に基づく.β遮断薬により,炎症性サイトカインが抑制される[17,18],細胞アポトーシスが抑制される[19],交感神経により惹起された代謝亢進と蛋白異化亢進を抑え,インスリン抵抗性獲得に伴う糖利用障害を正常化し,β糖代謝抑制に伴う脂肪酸動員を抑え,酸素需給バランスを回復する[20],敗血症における心筋保護作用[18,21,22],凝固線溶系障害の改善作用[23,24]などが知られる.

2.敗血症性ショックでの頻脈性心房細動

■敗血症性ショック病態においては心筋障害が観察されることが知られている.この敗血症性心筋障害は1984年のParkerらの報告[25]に始まり,敗血症患者が発症早期より心機能が障害されていることが指摘されている.これまでの報告[26-28]で分かったことは,敗血症性ショックにおけるびまん性の壁運動低下(収縮力低下)は可逆性であり,予後を悪化させる要因ではないが,左室収縮能が低下していない患者はむしろ死亡率が高いという,不可解な結果が得られている.死亡症例ではLVEFが有意に高く,LVEDVが有意に小さい上に輸液負荷によって是正されにくい.また,拡張障害の存在が敗血症性ショックの予後予測因子であることも報告されている[29].よって,敗血症性ショックにおいては,左室収縮能が低下して代償性に心室拡張がみられる症例の方が予後が良好ということになる.これらの,敗血症性ショックにおける心筋障害のパラドックスは,過剰なカテコラミン侵襲に反応して生じるたこつぼ型心筋症に類似したメカニズムなのかもしれない.

■上記のような機序が知られる中,敗血症病態においてβ遮断薬をどのように適応させるかについてはまだ明確な結論はでていないが,考えうる適応場面は2つである.1つは超急性期の内因性カテコラミン過剰放出期[30]であり,ここにβ遮断薬を投与することで内因性カテコラミンの枯渇を防ぐことができるかもしれない.

■もう1つは頻脈性心房細動である.敗血症をはじめとする全身性炎症反応症候群(SIRS;Systemic Inflammatory Response Syndrome)の患者では,交感神経活性や炎症性サイトカインの上昇により心拍数が上昇し,頻脈性の心房細動が発生しやすく,ICU患者の6.5%[31],菌血症患者では15.4%[32]と報告されており,この心房細動の発生が慢性期の死亡率上昇と関連しているとされている[32].また,敗血症性ショックにおいては,心拍数上昇が予後悪化と関連することが報告されている[33-38].実臨床においては,中心静脈カテーテル圧波形においてa波が消失しているが心電図上はP波が確認できる場合,PEA様の状態が心房に生じている可能性が高く,このような場合高率に心房細動が発生することが経験的に知られている.このような頻脈は逆に心拍出量の低下を招き,心不全をきたすリスクが高まり,心機能が良好な患者においても心機能低下の要因となるため[39],治療が必要となりうる.

3.β遮断薬による敗血症性ショックの予後改善の可能性

■Macchiaらは敗血症でICUに入院した9465例の後ろ向き解析を行い[40],入院前にβ遮断薬を投与されていた患者は投与されていなかった患者より死亡率が有意に低かった(17.7% vs 22.1%, OR 0.78, 95%CI 0.66-0.93, p=0.005, adjusted OR 0.81, 95%CI 0.68-0.97, p=0.025)と報告している.β遮断薬の効果持続によりカテコラミンが温存されていた可能性がある.

■ショック病態におけるβ遮断薬の使用は陰性変力作用による血圧低下と循環動態悪化の懸念がある.同時にβ2遮断作用による呼吸機能悪化の懸念もある.よって,β1受容体を選択的に遮断し,血圧低下作用が少なく,心拍数をコントロールできる薬剤が必要である.なお,Ca拮抗薬は心機能低下例では使いにくく,ジギタリス製剤もSIRS状態では反応しにくい.

■これまで海外ではエスモロールで安全性の試験が行われてきた.Balikらは,10例の敗血症性ショック患者においてβ1遮断薬エスモロールとノルアドレナリンを併用すると,心拍数を30/分低下させるが血圧は低下せず,高い心拍出量を保つことができたと報告している[22].Morelliらは敗血症性ショック患者25例での前向き観察予備研究を行い[41],エスモロール投与により心拍数を80-94/分にコントロールすることで心拍出量や微小循環血流が維持され,ノルアドレナリン必要量が低下したと報告している.Acklandは重症敗血症モデルラットでのRCTを行い[42],死亡率を低下させたと報告している.また,β遮断薬には本来除細動効果はないとされるが,SIRS病態での心房細動では約7割が除細動可能である.

■現在本邦で使用可能な注射用β受容体遮断薬はプロプラノロール(インデラル®),エスモロール(ブレビブロック®),ランジオロール(オノアクト®)の3種類のみである.プロプラノロールはβ2遮断作用もある上に半減期が長いため使用しにくい.心拍数減少作用はエスモロール<ランジオロール,血圧低下作用はエスモロール>ランジオロールであるため,理論上はランジオロールの方がより敗血症の治療に向いている.しかし,ランジオロールは本邦でしか使用できず,適応が周術期に限られているため敗血症でのエビデンスがない状況にある(エスモロールも適応は手術に限られる).しかし,早ければ2012年末~2013年初頭頃にはランジオロールが内科においてもSIRSに起因した頻脈性心房細動において保険適応となるため,今後の日本からのエビデンスが期待される.
※エスモロールもランジオロールも現在保険適応がない上に高価なため,私は敗血症性ショックで頻脈性心房細動による血行動態維持困難例に対してプロプラノロールを使用したことが何度かある.いずれも呼吸状態悪化はきたすことなく心拍数を減少させ,血圧が上昇したが,持続投与の経験もなかったため,投与量調整がかなり困難な印象があった.とはいえ,このような血行動態例ではβ遮断薬によってむしろ改善するという実感は得られた.

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by DrMagicianEARL | 2013-10-15 19:40 | Comments(0)
※今回は雑感です.一般人も読む可能性があるため,薬剤名は商品名で記載しました.

■肺腺癌の治療薬であるイレッサ®(一般名Gefinitib,AstraZeneca社製造販売)の副作用による間質性肺炎で患者が死亡し,遺族ら原告団15名が国と製薬メーカーであるAZ社相手に訴訟を起こした裁判は,最終的に平成25年4月12日に最高裁で「国とAZ社に責任はない」として上告を棄却し,原告団が敗訴する結果で8年間にわたるイレッサ訴訟が終結した.

■マスコミはこの結果に対して最高裁の判断を批判,国の責任を追及する内容を報じている.インターネット上でもこのマスコミの流れにのって最高裁,国,AZ社を批判している声が見受けられる.一方,Twitterでは私をはじめ複数の医師が今回の裁判のどこに問題があったかを指摘する内容をツイートし,議論にもなっている.その中で分かったのは,多くの人が裁判の詳細を知らず,医師の役割が誤解されていたことであった.以下に小生の意見を述べる.

1.亡くなった患者の主治医には責任はないのか?
■当然ながら責任がある.原告団の陳述内容では,亡くなった患者の主治医は添付文書を読んでいるとは思えない対応をしている.服用前に重大な副作用の内容を説明していない,服用後に十分な経過観察を行っていない,挙句の果てに,副作用である間質性肺炎を新聞で見て気がつく(この医師は呼吸状態が悪化した患者に12日間何をしていたのか?)というレベルである.重大な副作用も把握せず,説明義務を怠った主治医の責任は問われて当然のものであり,主治医を相手に訴えれば主治医が負けることは明白である.

■原告団の主張では,イレッサ®副作用による間質性肺炎の死亡事例は800例にのぼるとしている.しかし,テレビニュースでも連日のように報道され,他の遺族への参加を呼びかけたにもかかわらず,原告団に加わったのはわずか15名であり,死亡事例の2%にも満たない.実際には医師と良好なインフォームドコンセントのもとに薬剤投与がなされたケースが多く,副作用による死亡となっても患者自身が了承済みであった.この原告団15名はいわゆるモンスターペイシェントではなく,主治医と十分なインフォームドコンセントを得ていなかった被害者であり,原告団の陳述内容がそれを示している.

2.誇大広告に問題はなかったのか?
■イレッサ®を「夢の新薬」と言って誇大広告を打ち出したのはAZ社ではなく他ならぬマスコミである.市販薬でない以上,製薬メーカーが新聞やテレビで新薬を宣伝することはない.AZ社がマスコミを買収していたとの憶測もあるが,陰謀論に過ぎず,根拠は不明であり,そもそも買収有無は社会的問題ではあっても今回の訴訟の主旨とは無関係である.誇大広告は医師が薬剤を不適切に処方する原因にはならず,もし原因になることがあればそれは医師の責任である.誇大広告は問題とはならない.

■ここでひとつ,多くの一般の方々が誤解している内容に触れておく.原告団は陳述で明らかに医師の対応に問題があったと述べた一方で,「医師に責任がある」とした国の主張には反対し,誇大広告が原因だとして間接的に医師を擁護するという不可解な主張を展開していた.イレッサ®の誇大広告に問題患者やその家族が新薬の誇大広告の影響を受けやすいことは容易に想像できる.だが,医師も同様であるとする誤解が非常に多い.どんな誇大広告であっても医師はその広告のみをもって薬剤の処方を判断するのではない.これは論文でも同じで,どういう内容の論文であっても,それがたとえ自分の主張を支持する内容の論文であっても,医師は批判的吟味をもって査読する.患者や家族が新薬の誇大広告にのせられてしまった時に,その新薬を処方する権限を有する医師は患者や家族にとっての最後の防波堤である.もし広告のみで判断するような医師であれば医師としての資質が問われるべきであることは疑う余地もなく,広告で処方が左右されることが普通なのであればそもそも医師の処方の権限など不要である.

3.添付文書には問題はなかったか?
■イレッサ®は治験段階では3例で間質性肺炎があり,いずれも治療で軽快している.治験外使用では7例で間質性肺炎を発症し,3例が死亡している.承認前に判明していた間質性肺炎は,国内臨床sh件では133例中3例,治験外使用では296例中2例,海外を含めると1万人以上で10例前後だったとされている.このように副作用事例数が少なく,このデータのみではイレッサ®による副作用と断定は困難である(特発性間質性肺炎なども可能性もあるから).また,もともと肺癌に癌性リンパ管症が発生することは珍しくなく,間質性肺炎との鑑別が困難なこともしばしば経験しうる.以上から,もしかするとイレッサ®による薬剤性間質性肺炎なのかもしれない,という程度の漠然とした危険性しか推測できない.

■にもかかわらず,当時のイレッサの添付文書でも間質性肺炎は重大な副作用に分類され,「間質性肺炎(頻度不明):間質性肺炎が現れることがあるので,観察を十分に行い,異常が認められた場合には投与を中止し,適切な処置を行うこと」と記載されたことは十分過ぎるといっても過言ではない扱いであると思われる.添付文書の重大な副作用で間質性肺炎が4番目に記載されていたことを問題視する声もあるが,順番は何ら関係がない.順番にかかわらず重大な副作用のすべてをチェックすることは当然であり,それをせずに新薬を処方するならばそれは医師の責任である.新薬では治験時と副作用の頻度が異なることはよくあり,治験時にはみられなかった副作用がでてくることもある,そういったことは医師ならば当然知っていることであり,それを軽くみてしまった主治医にかかった患者が今回の被害者である.

4.イレッサ®は効かない薬か?
■イレッサ®が肺腺癌EGFR遺伝子変異陽性患者で非常によく効くことはすでに数々の報告が示している通りであり,実臨床でも経験される.効かない薬では断じてない.そもそもこの裁判はイレッサ®の副作用が主たる内容の裁判であったはずである.しかしながら,原告団の主張は途中から「イレッサ®は効果がなく間質性肺炎という恐ろしい副作用をもつ悪魔の薬であり,イレッサ®は根絶されなければならない」という本来の主旨とは違う方向に変わっていった.イレッサ®の効果の検証は原告団のみでは不可能であり,誰かが原告団に働きかけ,裁判の方向性を変えてしまったことになる.公開された原告団の手記で,原告団がある人物と接触したことが分かる.その人物こそがNPO法人医薬ビジランスセンター理事長である浜六郎氏である.

■浜六郎氏は医師であり,薬剤の副作用について警鐘をならす講演や書籍出版を行っており,有名なものではタミフルによる異常行動の副作用リスクにもかかわっている.浜六郎氏は社会的に話題にあがっている薬剤において副作用事例があった場合,過敏なまでに反応し,有効性を無視してまで副作用を強調し,そこから既知のデータに恣意的なバイアスを加え,あたかもその薬には効能すらないかのうように読者をミスリードさせて,その薬剤を根絶させるべきとの主張にもっていくのが常套手段である.この浜六郎氏の論法を革新的とみて,内容を吟味できない一部の熱狂的ファンもいる.薬剤のリスクとベネフィットを無視していることは明らかで,裁判の主旨が変わってしまったこともふまえれば,原告団が浜六郎氏に容易に洗脳された可能性もある.

■浜六郎氏と弁護団はイレッサ®の副作用死率が他の抗癌剤と比較して突出して高いと主張し,死亡率の表を提示したが,この表は年度別の死亡率を出さずに累積死亡率だけを出すという極めて不可解なものであり,情報を巧妙に細工していたことがうかがわれる.これは単年度死亡率だと低くなってしまい,イレッサ®を悪魔の薬に仕立て上げるには不都合であったからと推察される.国立癌研究センター中央病院での文献を見れば,他の抗癌剤の使用し始めた頃の数値と普及時の数値を比べるとイレッサ®と差があるわけではない.原告団の提示したデータは捏造ではないがミスリードを引き起こすものである.

■イレッサ®の生存期間延長効果をみる研究としてはまず従来からの抗癌剤にイレッサ®を併用した2つの試験がある.すなわち,GEM+CDDP治療にイレッサ®を上乗せしたINTACT-1試験と,PTX+CBCDA治療にイレッサ®を上乗せしたINTACT-2試験があり,この2試験によりイレッサ®の“上乗せによる”生存期間延長効果はないことが示されている.ただし,これは強調したようにあくまでも上乗せ効果の検討であることに注意されたい.薬剤の併用は,元の治療が有効であれば上乗せ効果が現れにくいことはしばしばあり,薬剤同士の相互作用でむしろ治療効果が減弱したり副作用が出現しやすくなったりもする.よって,上乗せ効果が否定されたことはその薬剤に効果がないことを意味しない.

■しかし,浜六郎氏はこの2つの研究結果を受けてこの2試験が上乗せ効果を検討した併用試験であることをほとんど書かず,あたかもイレッサ®単剤の試験で生存期間延長効果がなかったかのように主張し,それをマスコミが報道することで「イレッサ®は無効」の誤解が拡大していったのである.

■イレッサ単剤の効果はその後行われたISEL試験で検討され,アジア人,非喫煙者においてはイレッサ®はプラセボ群(効果のない偽薬を服用した群)よりも有意に生存期間を延長させることが示されている.このことからイレッサ®の効果が期待できる因子を満たす患者にイレッサ®が著効する可能性が示唆された.さらに,ISEL試験を根拠としてイレッサ®の効果が期待できる患者を対象としてイレッサ®と従来の抗癌剤(CDDP+PTX)を比較したIPASS試験が行われ,イレッサ®の方が有意に生存期間を延長することが示された.また,この試験においてEGFR遺伝子変異陽性の患者においては特にイレッサ®の無増悪生存期間が有意に延長することが示され,逆にEGFR遺伝子変異陰性患者では効果が従来の化学療法群より劣ることが示された.以上から,適切に症例を選択することでイレッサ®による治療は従来の化学療法よりも優れた効果があることが示された.

■その後も数々の試験においてイレッサ®の有効性が示され,2009年には欧州医薬品局もイレッサ®の販売承認を行っている.日本においても現在ではEGFR遺伝子変異陽性の肺癌患者が適応となっている.

5.国の対応は適切だったか?
■原告団は「イレッサ®が奏功率(癌縮小)だけで承認されたことを陰謀である,生存期間の延長がない(実際にはあったわけだが)医薬品は承認すべきではない,イレッサ®だけを特別扱いするのは日本独特の製薬会社との不正な癒着だ」と主張した.しかし,実際には米国FDAも奏功率だけでイレッサ®を承認しており,日本独特の陰謀というものはあてはまらない.

■イレッサ®が厚労賞からスピード承認されたことについて,審査が甘いと指摘する声もあるが,それは誤解である.薬剤承認される際は,多数の薬剤が審査待ちの状態にある(いわゆるドラッグ・ラグである).スピード承認とは,必要性が高い薬剤を優先して審査までの順番待ちの期間をなくしただけであり,審査そのものが短縮したわけではない.単なる事務処理手続き上の優先処理の結果であり,審査がおろそかになったわけではない.ただでさえ使用可能な抗癌剤が少ない日本においてイレッサ®が順番待ち期間を解除されるのは必然の流れであった.一度和解勧告がでたことがあるが,実はこれは裁判所が自発的にだしたものではなく,原告側から和解勧告を求める上申書が提出されている.この中で「承認を急ぐあまり十分な検討がなされず,効かない薬を承認した」については和解勧告のポイントではないことをしつこく原告側は主張している.

■イレッサ®承認後はどうか.2002年7月16日にイレッサ®は販売開始となり,10月までの報告全体では110例(51例)の間質性肺炎が報告されたが,厚労省はこのうち最初の4例(2例が死亡)の報告を受けただけでただちにAZ社に対して添付文書改訂と緊急安全性情報の作成及び医療機関等への配布を指示していた.国の対応は迅速だったのである.その後,緊急安全性情報が各施設に周知徹底するまでの時間や副作用発現までの時間,死亡事例の報告までの時間などのタイムラグもあって11月には被害がピークに達したものの,その後は減少に転じている.厚労省の迅速な対応が奏功していたのである.添付文書の件も含め,予知能力がない限りこれ以上の対応は不可能だろう.

6.AZ社の対応は適切であったか?
■AZ社が副作用の可能性のある症例の情報の開示に消極的であったことは事実である.法的責任とは別であっても社会的に患者の利益になるのであれば積極的に行うべきであり,そういう点ではAZ社の責任有無には議論の余地があるかもしれない(もっとも長期社会的利益不利益の問題であるが).もっともこのあたりは薬事と製造法責任が別であり,法律上の詳細までは私も把握できておらず,法的内容についてはコメントしない.

7.裁判の意義
■明らかなに問題があった患者の主治医の責任が争点とならず,それどころか途中からイレッサ®の有効性有無,イレッサ®根絶という本来議論すべき争点から大幅に乖離した内容となった.医師を訴えても何も変わらない,国を訴えることに社会的意義がある,等の意見も散見されるが,結果的に患者遺族には何も残らなかったのである.医師を訴えれば勝訴した可能性は高く,補償も残っただろう.浜六郎氏が裁判にかかわったことで,医師の責任問題がむしろ邪魔なものとなってしまう結果となったのは社会的にも大きな損失だと思われる.

■医師を訴えても何も変わらない,という意見には異議がある.医療訴訟が当たり前の時代になって,これまで多数の示談や裁判が行われてきたが,それらの判例は医療現場において生かされていることも事実である.

■最高裁の結果を受けて医薬ビジランスセンターのホームページでは浜六郎氏の緊急声明が掲載された.推測でバイアスをかけた論調に加え,「企業が,副作用が少ない夢の新薬であるという宣伝を行い,添付文書の警告も不十分であったために起きた,という点が問題の本質ではない」「宣伝や添付文書の記載不十分,要望書下書きといった,ある意味,些末な問題に論点が絞り込まれてしまったために,裁判所の判断を誤らせてしまったのではないか,と考える次第である.」と言い,この裁判の本質として最後までイレッサ®の効果有無の話に終始している.いったい原告団の陳述は何だったのか?彼には薬しか見ていないのか?依然としてメリット・デメリットのバランスの検証は怠ったままであることはむしろ社会にとって害でしかない.これでは自分の医薬ビジランスセンターの主張を達成させるために裁判を利用したようにしか見えない.裁判の本質を問うのは原告団であって浜六郎氏ではないはずである.
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by DrMagicianEARL | 2013-04-15 17:57 | Comments(0)
当院の抗菌薬適正使用ガイドライン(2012年5月発表)
各項目についてのガイドラインに記載した解説文はこのブログでは省略(抗菌薬の基本原則にだいたいの内容は記載している).ここではなぜこの項目にしたのかについてのみ下に記載した.

第4章.抗菌薬の継続・変更・中止
1.抗菌薬有効性の判断
1-1.抗菌薬有効性の判断はその感染症の一般的回復過程を考慮した上で,抗菌薬投与開始後しかるべき時期に行う.

1-2.白血球数やCRP,発熱などのパラメータだけでなく,臓器特異的パラメータや感染症毎の病態,感染部位の状態,患者の免疫状態,細菌学的検査追跡なども十分考慮して抗菌薬の有効性評価を臨床的総合判断で行う.
 抗菌薬療法の開始時や最初の有効性評価のときには,抗菌薬の有効性評価のための指標(熱型,酸素飽和度,尿検査所見など)をあらかじめいくつか設定しておく.その際,体温や白血球数,CRPは特異度が低く,参考にはなるものの直接病勢を表さないことは感染症診療では常識である.

 体温は血中ホルモン動態や放散熱の影響なども受けるため,その上昇と増悪が1対1対応になるとは限らないし,状態が悪いときは発熱がなくなることもある.白血球も好中球の消費が生じればたとえ高値でなくとも重症であることはしばしば経験され,その正常化は重症敗血症に進展している可能性もある.CRPはリアルタイムの病勢を表さず,24時間遅れた病勢を表し,肝機能障害があればCRP産生能そのものが低下する.

 解説では各臓器ごとの特異的指標となる項目の表も提示している.
2.抗菌薬無効時の判断
2-1.感染症であるかどうかを判断する.

2-2.抗菌薬のスペクトラム,移行性の認識,用法・用量,投与ルート,投与間隔などに誤りがないか確認する.

2-3.抗菌薬無効の感染症(ウイルス感染症など)でないか判断する.

2-4.複数菌感染症でないか確認する.

2-5.細胞内増殖菌による感染症でないか確認する.

2-6.真菌感染症,結核の合併がないか確認する.

2-7.起因菌が耐性化していないか確認する.

2-8.菌交代現象に伴う耐性菌感染でないか確認する.

2-9.排膿ドレナージ,異物除去の必要性を確認する.

2-10.宿主防御能が低下していないか確認する.
 ICTが介入となることが多いのはこの項目といえる.感染症の評価が甘く,状態がよくなっていないのに同一抗菌薬を投与し続けるという無意味なことを行ったり,原因菌や感染巣の再検索を行わずに広域抗菌薬に変更したりなどして迷宮入りしてしまう医師は多い.とりわけよく忘れられがちなのがウイルス,真菌,結核,Clostridium difficile,薬剤熱,腫瘍熱,末梢点滴刺入部の蜂窩織炎などである.

 感染が持続すると,感染部位の膿瘍化やバイオフィルム形成など,十分な濃度の抗菌薬が菌に到達できず抗菌作用が得られない状況になる場合がある.このような状況では,排膿ドレナージなどの外科的処置や,感染源となっているカテーテルの抜去などメディカルデバイスの除去を行うことが状態の改善につながることが少なくない.
3.抗菌薬のde-escalation
3-1.原因菌が同定され,初期治療の反応が良好であれば,臨床効果が期待できる狭域の薬剤を用いた標的治療へ可及的に変更する(de-escalation).
 de-escalation療法が通常の広域抗菌薬のまま治療し続けるよりも耐性菌発生率が少ないというのはあくまでも理論上の話であり,実際にエビデンスが構築されているわけではなく,直接の有効性を評価したRCTは存在しない.しかしながら,de-escalationが安全に行え,耐性菌発生率・再発率・死亡率を高めないとするコホート研究は存在する.

 de-escalationで注意すべきは,とりあえず狭域にすればいいというわけではないということである.よって,de-escalationを行う場合は以下のことに注意する.
 ① 経験的治療開始前に細菌検査(培養)が行われている.
 ② 臨床的に改善傾向を認めている.
 ③ 他の感染巣が否定できる.
 ④ 持続する好中球減少症(<1,000/mm3)などの重篤な免疫不全がない.

 起因菌と抗菌薬感受性判明後は可及的早期に,検査結果に照らし合わせて,その患者にとって最も効果的で安全,しかもできるだけ安価で,標的臓器に到達しうる狭域/単剤の薬剤へと変更した標的治療を施行する.この際,感受性に関しては各施設のantibiogramを参照とすることを忘れてはならない.
4.抗菌薬の投与期間・終了・中止
4-1.経過が良好で,抗菌薬を投与しなくても感染症が治癒すると判断した時,抗菌薬を終了する.その際,バイタルサインの安定化や感染を起こした臓器機能の改善などを考慮し,臨床的な総合判断で行う.

4-2.代表的な感染症では標準的治療期間を参考に治療期間を決定する.

4-3.感染症でないと判断した時,抗菌薬を終了する.

4-4.微生物学的検査や免疫学的検査などで起因菌が決定されず,臨床的に細菌感染症と診断できないとき,抗菌薬を終了する.

4-5.予防的抗菌薬の適応でなくなった時,抗菌薬を終了する.

4-6.薬剤性の発熱,アレルギーなどの副作用が出現したとき,抗菌薬を中止する.
 抗菌薬の効果判定と同じく,臓器特異的指標を主に参考として,抗菌薬の終了を決定することが望ましい.その上で代表的な標準的治療期間はよい目安となる.抗菌薬の投与を終了するタイミングや推奨される抗菌薬投与期間で代表的なものを解説では表として提示している.

 抗菌薬の長期投与により耐性菌リスクが生じやすくなることが多くの研究で報告されているが,どれほどの期間でどれだけ耐性菌リスクが増加するかについての報告は少ない.人工呼吸器関連肺炎における抗菌薬の8日間投与と15日間投与の比較では,死亡率,肺炎再燃率に有意差はないが,耐性菌出現率は15日間投与群が有意に高かったという報告がある.また,2012年8月現在はまだ論文化されていないが,日本感染症学会をはじめとする3学会合同調査では,抗菌薬の14日間を超える投与は耐性菌が増加することが示されているとのことである.

■本章で引用した文献数14

←院内抗菌薬適正使用ガイドライン「第3章.初期抗菌薬の選択(2)」
→院内抗菌薬適正使用ガイドライン「第5章.抗菌薬の副作用・薬物相互作用」

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by DrMagicianEARL | 2012-08-13 20:17 | Comments(0)
■当院で経験した芍薬甘草湯の副作用まみれの症例である.本症例は当院と提携している開業医向けの機関誌に1例報告として掲載した.今でも芍薬甘草湯を3包分3定期処方している医師を散見するが,甘草の副作用発現率は決して低くなく,みくびらない方がよい.下の症例では芍薬甘草湯の副作用とは気づかずドツボにはまり,足の筋クランプが芍薬甘草湯の副作用からくるものであるにもかかわらず,筋クランプに芍薬甘草湯を処方されつづけている.

■漢方薬の間質性肺炎といえば小柴胡湯が有名であり,1989年の築山らの報告を皮切りによく報告されている.漢方薬で薬剤性間質性肺炎を起こした報告があるものは30種類あり,特によく処方される葛根湯,半夏瀉心湯,小青竜湯,麦門冬湯,補中益気湯,六君子湯,十全大補湯,芍薬甘草湯,牛車腎気丸,柴苓湯なども例外ではない.

症例.芍薬甘草湯の定期内服で種々の重大な副作用及び薬剤性間質性肺炎を併発した1例
【症例】70歳代女性

【主訴】呼吸困難

【現病歴】1年前に一過性の咳嗽発作があり,β刺激吸入薬を処方されてから下肢の筋クランプが出現し,芍薬甘草湯3包/日を定期処方された.その後から近医での血液検査で肝酵素,CPK,LDH上昇,カリウムの低下が出現している.3ヶ月前から夜間呼吸困難,咳嗽を何度か自覚していた.1週間前より同様の症状が出現し,胸部X線で異常陰影を認め,肺炎疑いで当院紹介となった.

【来院時所見】体温36.5℃.脈拍69/分,整.血圧150/71 mmHg.呼吸数21回/分.意識清明.SpO2 96%(経鼻酸素1L/分).両側肺に軽度のfine cracklesを聴取.
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【経 過】
 芍薬甘草湯を中止し,カリウム製剤を投与開始したが,低K血症の改善が得られないため,カリウム製剤を中止し,第4病日よりK保持性利尿薬(スピロノラクトン®)を投与開始したところ速やかに是正された.その他,肝酵素,CPK,LDHも速やかに改善した.間質性肺炎像も消退傾向となり,軽快につき第17病日に退院となった.
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【考 察】
 本症例はβ刺激薬吸入により低K血症から筋クランプが出現し,それに対する芍薬甘草湯の長期投与で偽性アルドステロン症を発症して低K血症増悪したものと推察された.
 
 横紋筋融解症(ミオパシー),肝機能障害も添付文書に記載されている重大な副作用に合致する.本薬剤中止により間質性肺炎も速やかに改善していることから本薬剤が原因と考えられた.
 
 糖質コルチコイド系においてcortisolからcortisoneへの変換酵素である11-β-hydroxysteroid dehydrogenase type2を甘草が阻害することによりcortisolが蓄積し,aldosterone receptorに結合することでアルドステロン作用を発現する.negative feedbackによりレニン,アルドステロンは抑制される.これが甘草による偽性アルドステロン症の機序である.漢方による副作用では甘草2.5g/日以上の常用で偽性アルドステロン症が出現しやすく,芍薬甘草湯はとりわけ甘草の含有量が多いため,定期内服ではなく,短期間投与もしくは頓服での処方が推奨されている.偽性アルドステロン症による低K血症に対してはカリウム製剤が有効であるが,尿細管でのK再吸収抑制が遷延している場合は難治性であり,K保持性利尿薬が推奨される.
 
 漢方による薬剤性肺障害は30種類で報告がある.芍薬甘草湯では本症例を併せて4例の報告があり,添付文書改訂の際に副作用に記載される予定である.抗菌薬やNSAIDs,総合感冒薬などによる薬剤性肺障害は投与後平均10日前後で発症するのに対し,漢方は平均43日と有意に長いことが報告されている.

【結 語】
 芍薬甘草湯の定期内服で種々の重大な副作用及び薬剤性間質性肺炎を併発した1例を経験した.漢方投与開始から日数が経過していても,低K血症や間質性肺炎などと認めたときは薬剤服用を見直す必要がある.
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by DrMagicianEARL | 2012-07-18 16:01 | Comments(0)
肝肺症候群
Hepatopulmonary syndrome
~A Liver Induced Lung Vascular Disorder~

1.肝肺症候群の概要
 末期肝疾患患者には何らかの肺ガス交換機能異常がみられることが多い.大量の腹水による胸郭容積の減少,胸水貯留とその結果起こる無気肺などによって酸素化は悪化する.これら非特異的な要因以外に,肝疾患に特有の肺血管系の異常が起こってくることがある.それが肝肺症候群と門脈肺高血圧症である.以下ではHPSについて説明する.

HPSは1977年に初めて報告された症候群であり,①肝疾患,②肺内血管拡張(基礎に心肺疾患を伴わない),③動脈血低酸素血症,を3徴とし,あらゆる年代の肝疾患患者が罹患しうる.諸報告によれば,慢性肝疾患を有する患者においては,4-47%が本疾患を有するとされている.

2.臨床症状
症状は主として労作時呼吸困難であるが,特に立位で低酸素症状が増悪するのが特徴とされている(platypnea;扁平呼吸or起座位呼吸困難).また,座位より立位で動脈血中酸素飽和度の5%以上の低下,もしくは動脈血酸素分圧の4 Torr以上の低下がみられるとされている(orthodeoxia).他には,しばしばばち指やチアノーゼを呈する.慢性肝疾患患者で動脈血酸素分圧が空気呼吸下で70mmHgを下回れば本症を疑い,精査を行う必要がある.

なお,進行した肝疾患患者では貧血,腹水,水分貯留,筋萎縮などの肝疾患に関連する様々な合併症によって呼吸困難が認められる頻度が高く,呼吸困難があるからといって肝肺症候群と診断するのは早計である.

3.病態
低酸素血症の機序は肺内血管の拡張による右左シャントの増大であるが,肺内血管拡張の様式によって2つに分類されている.著しい肺毛細管の拡張がびまん性に起こり,換気血流不均衡が増大するタイプ1 と,肺動脈と肺静脈あるいは左房を直接つなぐ血管が新生されるタイプ2があるが,両者が混在することも多い。確定診断をするためにはこの肺内の血管拡張を証明する必要がある.正常肺の毛細血管径は5-8μm程度であるが,肝肺症候群では血管径は500μmに達する.この口径差を利用し,血管拡張を検出する方法として,後述する経胸壁のコントラストエコーと凝集アルブミンを用いた肺血流シンチグラフィがある.

肺血管が拡張すると,混合静脈血が直接的にまたは肺内シャントを経由して肺静脈へ流入しやすくなる.肺胞換気は増加しないのに,肺血流が増えるため換気血流不均衡が起こり酸素化不良となる.肝硬変患者の30%では低酸素性肺血管収縮が抑制または消失するため,さらに肺血流が増大する.肺内シャント増大や換気血流不均衡の程度は低酸素血症の程度に反映される.それに対して,門脈肺血管交通の低酸素血症との関与は僅かである.換気血流不均衡とシャントの増悪が肝肺症候群におけるorthodeoxia発生メカニズムの本態である.下側肺肺胞の肺血管トーンが変化に乏しいため換気に呼応した重力性の血流変化が起こりにくいことがorthodeoxiaの原因と考えられる.

HPSの重症度が進むに従って酸素拡散障害は悪化する.病期が進行し拡散障害が生ずると,心拍出量が増大するほど赤血球が通過する時間が短くなるのでかえって酸素化が悪化する.この現象は肝疾患一般と一部の肝肺症候群において認められる.拡散能低下のもう一つの原因は,肺胞毛細血管間隙が広すぎてヘモグロビンと一酸化炭素が完全な平衡に達することができないことであると考えられている.

このような肺血管拡張という病理学的変化が生じる原因としては血行力学的な要素や血管拡張作用をもつ物質(酸化窒素,グルカゴン,プロスタサイクリンなど)の関与が示唆されているが,詳細は不明である.

4.検査
 胸部X線撮影,胸部単純CTでは異常所見はみられないことがほとんどである.多くは非特異的な所見を示し,び漫性の肺血管拡張の存在によるものと考えられる軽度の間質性陰影が下肺野に認められることがある.毛細血管レベルでの動静脈瘻なので,造影CTでも特に異常はみられないことがほとんどである.

 動脈血ガス分析では拡散障害を主体とし,二酸化炭素蓄積を伴わないPaO2の低下と肺胞動脈血酸素分圧較差の増大を特徴とする.A-aDO2の算出は,純酸素100%を安静臥位にて20分吸入した後に施行したABGデータで行う.算出式は以下の通りである.
A-aDO2=716-PaO2-PaCO2/0.8
本算出式にてA-aDO2>15 Torrであれば,拡散障害があるとみなされる.この基準を満たした上で,室内気でのPaO2を指標として以下のような重症度分類が用いられている.
 軽 症:PaO2≧80
 中等症:80>PaO2≧60
 重 症:60>PaO2≧50
 超重症:50>PaO2 or PaO2<300mmHg(100% O2)
また,100%酸素下でのシャント率(QT/QS)も指標となる.

 肺肝症候群は,心肺疾患が基礎にないことが前提であるが,肝肺症候群から心機能に影響を与えることはある.肺内シャントの存在のため,肺低血圧症,左心系容量負荷増大による左房・左室の拡大を心臓超音波検査で認めることがある.

 確定診断としては,コントラスト心臓超音波検査と肺血流シンチグラフィの2種類がある.いずれもHPSに対しては同等の精度を有するため,侵襲性の少ない前者を第一選択とするのが望ましい.ただし,前者は定量的評価はできないので,追跡フォローするのであれば肺血流シンチグラフィの方が望ましい.

経胸壁コントラストエコーは微小な気泡を造影剤として用いる検査法で,定量性はやや劣るものの簡便で感度の高い検査である.激しく撹拌した少量の生理食塩水(約20mL)を静脈内に投与するとまず右心が造影される.その後、気泡は肺血管床へと移動するが,撹拌した生理食塩水に含まれる気泡の直径は15μm以上のため,直径2-8μmの正常肺毛細血管を通過することができず捕捉される.従って右心造影後7心拍以内に左心に気泡が現れれば肺血管の拡張があると判断される.なお,心臓超音波検査では微小気泡であるレボビストという造影剤を用いた検査もあるが,この造影剤は径1.3μmの気泡であり,正常人でも肺毛細血管を通過して左心に出現してしまうのでHPSの診断としては意味がない.

肺血流シンチグラフィでは造影剤としてテクネチウムでラベルした凝集アルブミン(99mTcMAA)を用いる.凝集アルブミンの径は20μm以上であるため,気泡と同様,静脈内に投与しても通常は肺の毛細血管を通過せず大循環に現れてこない.従って肺以外にアイソトープの取り込みがみられた場合には肺内に血管拡張が存在することが証明される.この検査では肺と肺以外(脳・甲状腺など)に集積したアイソトープの量からシャント率を定量することができる.

5.治療・予後
HPSは進行性で,ガス交換能はしだいに悪化していく事が多く,自然緩解はほとんどない.HPSを合併した肝硬変症例は,合併しないものに比べて予後が極めて悪く,多くが肝細胞機能低下,門脈圧亢進といった合併症で死亡すると報告されている.このことから,HPSの存在自体が肝疾患の進行を早め,門脈圧亢進による合併症のリスクを増すという報告がなされている.

HPSに対しては,在宅酸素療法やインドメタシン,ソマトスタチンの投与が有効という報告もあるが,長期予後を改善した報告はなく,その効果は対症療法程度に留まっている.実際には有効な内科的治療法は現在のところ存在しない.1997年頃から肝移植によって肝肺症候群が治癒したとの報告が相次ぎ,現在では肝移植が肝肺症候群に対する唯一の根本的治療法であると認識されている.しかし,肝移植後,酸素化能が正常化するには年単位の時間を要することが多い.

術後死亡率および移植後から低酸素血症の改善までの期間は,HPSの重症度が高く,術前低酸素血症が重篤であるほど延長することが明らかにされている.今までに行われたうちで最も大規模な単一施設研究では,HPS患者の肝移植後5年生存率は76%であるという結果が得られており,HPSがなく肝移植を受けた患者の5生率とのあいだに有意差はなかった.HPS合併例で肝移植を受けない場合の死亡率がHPS非合併例に比して有意に高い事実を加味すれば,肝移植がHPS患者にとっていかに有効かが分かる.この研究で死亡の予測因子として最も強い影響が認められたのは術前PaO2が50 Torr以下であることと,肺血流シンチにおける脳の取込みが20%以上であることであった.

移植以外の治療ではHPSの予後は悪いので,PaO2が60 Torr以下の肝肺症候群の患者はほかの疾患で肝移植の候補になっている患者より優先度を高く考えねばならない.上述のようにHPSは進行性であること,HPS自体が肝障害を悪化させること,低酸素血症が高度になれば肝移植の手術成績が悪くなることといったことから,HPSを示す症例では,肝機能が維持されている段階でも肝移植の適応となりうるため,今後我が国でも肝肺症候群に対する肝移植手術の症例数は増加していくと思われる.

6.周術期合併症
HPSの合併症は低酸素に起因するもの以外に血管拡張そのものが関与するものがある.肺血管床は凝血塊などの微小な血液内浮遊物を取り除くフィルターの役割も果たしている.肺血管が拡張するHPSではこのフィルターとしての機能が損なわれるため,大循環系の塞栓症を発症する危険性がある.HPSの患者に脳の出血梗塞や脳膿瘍が発生したとする症例報告がすでになされている.周術期には血栓や空気などが静脈内に混入する可能性が高いため,肝肺症候群の患者では中枢神経系や心筋の虚血症状に十分注意する必要があると思われる.

7.最後に
 HPSは医師の間ではまだあまり知られている病態ではなく,消化器内科医の間でもマイナーである.それだけに肝硬変などに合併したHPSは見逃されやすく,早期の移植の機会を逃してしまいかねない.肝硬変は適応は受けにくいが,HPSの診断があることで移植の機会を得る可能性は大きく増すであろう.確定診断法であるコントラスト心臓超音波検査は手技が簡便であり,短時間ですむ外来でも可能な検査であり,慢性肝疾患患者の4-47%がHPSを有することをふまえれば,HPSの3徴を満たす患者には積極的に行うべきであろう.
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by DrMagicianEARL | 2012-02-20 18:30 | Comments(0)

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