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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

カテゴリ:文献( 65 )

■宣伝で恐縮ですが,INTENSIVISTの26号「ICUで遭遇する血液疾患」が刊行されました.ICU患者に合併する血液疾患,輸血,重症血液疾患,造血幹細胞移植がとりあげられています.今回私も赤血球輸血基準に関するレビュー(Intensivist 2015; 7(2): 267-77)を執筆させていただきました.6月13日のJSEPTICセミナーでも本内容について講演させていただきます.
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■2014年12月に原稿執筆を終えたのですが,その後にNEJM誌とRev Bras Ter Intensiva誌にRCTが,BMJ誌にメタ解析が報告されており,今回のINTENSIVIST誌には掲載されていません.なので以下に紹介させていただきます.

■なお,私はINTENSIVIST誌の中で,「ヒトの細胞外液量が正常の急性貧血において,忍容しうる下限がどこまでなのかについては確立されていない」と書きました.実際,ヘモグロビン濃度がどこまで下がれば死亡リスクがどの程度高まるかは分かっていない状況で,心血管リスクを有する患者においては輸血制限群のヘモグロビン閾値を8.0g/dLに設定した上で輸血制限を支持するRCTが多数でていたわけです.今回のNEJM誌に報告されたRCTでは制限群のヘモグロビン閾値は7.5g/dLと,従来よりやや低くした結果,アウトカムが非制限群より悪いという結果となりました.このことから,少なくとも心血管リスクを有する患者では閾値を8.0g/dLより低く設定しない方がいいという提案になるでしょうか.

■一方,Rev Bras Ter Intensiva誌の方は敗血症性ショックを対象とした小規模のRCTです.既にTRISS trialで,敗血症性ショック患者では輸血閾値は7.0g/dLでも9.0g/dLでもアウトカムに差はない(医療資源・コスト面で7.0g/dLが自動的に推奨される)という結果でしたが,今回の小規模RCTではScvO2と乳酸値に注目しており,ヘモグロビン濃度がどうであろうがベースラインのScvO2が低い患者や乳酸値の高い患者において赤血球輸血はこれらのパラメータを改善させるとしています.

■なおこの2つのRCTはBMJ誌のメタ解析には含まれていません.
心臓手術後の非制限輸血と制限輸血(TITRe2 study)
Murphy GJ, Pike K, Rogers CA, et al; TITRe2 Investigators. Liberal or restrictive transfusion after cardiac surgery. N Engl J Med. 2015 Mar 12;372(11):997-1008
PMID:25760354

Abstract
【背 景】
赤血球輸血におけるヘモグロビン濃度の閾値制限が,非制限に比して,心臓外科手術後の合併症や医療コストを減じるかについては不明確である.

【方 法】
我々は,英国17施設で登録された,待機的心臓手術を施行された16歳超過の患者における多施設共同並行群間試験を行った.術後ヘモグロビン濃度が9g/dL未満の患者を,制限輸血閾値(ヘモグロビン濃度<7.5g/dL)または非制限輸血閾値(ヘモグロビン濃度<9g/dL)に無作為に割り付けられた.主要評価項目は,無作為化から3か月以内の重症感染症(敗血症または創部感染)または虚血性イベント(永続的脳卒中[脳画像での確認と,運動・感覚・協調運動のいずれかの障害],心筋梗塞,腸管梗塞,急性腎傷害)とした.手術日から術後 3か月までにかかった医療費は,指標手術の費用を除いて推計した.

【結 果】
無作為化された計2007例の患者のうち,4例が脱落となり,1000例を閾値制限群,1003 例を閾値非制限群に割り付けた.無作為化後の輸血率はそれぞれ53.4%と92.2%であった.主要評価項目の発生率は,閾値制限群で35.1%,閾値非制限群で33.0%であり(OR 1.11, 95%CI 0.91-1.34, p=0.30),サブグループでの不均一性は示されなかった.死亡は,閾値制限群の方が閾値非制限群よりも多かった(4.2% vs 2.6%, HR 1.64, 95%CI 1.00-2.67, p=0.045).主要評価項目のイベントを除く重篤な術後合併症の発生率は,閾値制限群で35.7%,閾値非制限群で34.2%であった.医療費は両群間で有意差はみられなかった.

【結 論】
心臓手術後の制限された輸血閾値は合併症や医療コストにおいて非制限よりも優越性を示せなかった.
敗血症性ショックにおける輸血:7.0g/dLは本当に適切な閾値か?
Mazza BF, Freitas FG, Barros MM, et al. Blood transfusions in septic shock: is 7.0g/dL really the appropriate threshold? Rev Bras Ter Intensiva 2015 Jan-Mar;27(1):36-43
PMID:25909311

Abstract
【目 的】
異なる輸血トリガーでの敗血症性ショック患者における中心静脈酸素飽和度と乳酸レベルに対する赤血球輸血の即時効果を評価する.

【方 法】
48時間以内に敗血症性ショックと診断され,ヘモグロビン濃度が9.0g/dL以下の患者を登録した.患者はヘモグロビン濃度が9.0g/dL超過を維持するように直ちに輸血を行う群(Hb9群)とヘモグロビン濃度が7.0g/dL以下に低下するまで輸血を行わない群(Hb7群)に無作為化された.ヘモグロビン,乳酸値,中心静脈酸素飽和度を各輸血の前および輸血1時間後に測定した.

【結 果】
46例の患者および74の輸血を登録した.Hb7群の患者は,乳酸中央値が2.44(2.00-3.22)mMol/Lから2.21(1.80-2.79)mMol/Lまで有意に低下し(p=0.005),これはHb9群では観察されなかった[1.90(1.80-2.79)から2.00(1.70-2.41)に変化].中心静脈酸素飽和度はHb7群で増加し[68.0(64.0-72.0)%から72.0(69.0-72.0)%に変化,p<0.0001]したが,Hb9では増加しなかった[72.0(69.0-74.0)%から72.0(71.0-73.0)%に変化,p=0.98].ベースライン時点で乳酸値が上昇または中心静脈酸素飽和度<70%であった患者は,ベースラインのヘモグロビン濃度にかかわらずこれらの変化が有意に増加していた.これらの数値が正常値であった患者では両群とも減少はみられなかった.

【結 論】
赤血球輸血は,低灌流の患者においてはベースラインのヘモグロビン濃度にかかわらず,中心静脈酸素飽和度を増加させ,乳酸値を減少させる.輸血は低灌流のない患者においてはこれらの変化がみられなかった.
赤血球輸血における制限vs非制限の輸血戦略:メタ解析および逐次解析を用いた無作為化試験のシステマティックレビュー
Holst LB, Petersen MW, Haase N, et al. Restrictive versus liberal transfusion strategy for red blood cell transfusion: systematic review of randomised trials with meta-analysis and trial sequential analysis. BMJ 2015 Mar 24;350:h1354
PMID:25805204

Abstract
【目 的】
赤血球輸血における制限と非制限の輸血戦略の有益性と有用性について比較する.

【方 法】
研究デザインは,無作為化試験のメタ解析および逐次解析を用いたシステマティックレビューである.無作為化比較試験のCochrane central register of controlled trials,SilverPlatter Medline (1950 to date),SilverPlatter Embase (1980 to date),Science Citation Index Expanded (1900 to present)から検索を行った.抽出された試験のリストと他のシステマティックレビューを参照して評価し,執筆者および輸血専門家によって追加する試験の抽出を行った.試験は,言語,盲検化しており,出版状態,サンプルサイズによらず,成人または小児で非制限群と比較した制限輸血戦略を評価された,出版有無によらない無作為化比較試験を登録した.2名が独立して,抽出された試験のタイトルと要約をスクリーニングし,関連している試験は適格性をフルテキストで評価した.そして2名のレビュワーは独立して,登録された試験の方法,介入,アウトカム,バイアスリスクのデータを抽出した.危険率および95%信頼区間による平均差の推定はランダム効果モデルを使用した.

【結 果】
無作為化された患者9813例を含む31試験が登録された.赤血球輸血を受けた患者の割合(RR 0.54, 95%CI 0.47-0.63, 8923例,24試験)と輸血された赤血球単位数(平均差-1.43, 95%CI -2.01 to -0.86)は非制限輸血戦略群よりも制限群の方が少なかった.非制限輸血戦略と比較した制限輸血は死亡リスク(RR 0.86, 95%CI 0.74-1.01, 5707例,9報のバイアスリスクの低い試験),全有病リスク(RR 0.98, 95%CI 0.85-1.12, 4517例,6報のバイアスリスクの低い試験),致死的または非致死的な心筋梗塞リスク(RR 1.28, RR 0.66-2.49, 4730例,7報のバイアスリスクの低い試験)に関連していなかった.結果はバイアスリスクが不明確か高い試験を含めても影響はみられなかった.死亡および心筋梗塞において逐次解析を用いると,必要となる情報量には満たなかったが,制限的輸血戦略による全有病率において15%の相対リスク減少または増加を排除しえた.

【結 論】
非制限と比較して,制限輸血戦略は輸血された赤血球単位数と患者数の減少に関連していたが,死亡率,全有病率,心筋梗塞については不変のようであった.制限輸血戦略はほとんどの臨床状況において安全である.非制限輸血戦略は患者にいかなる利益も示せなかった.

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by DrMagicianEARL | 2015-04-28 13:39 | 文献 | Comments(0)
■重症患者の栄養管理では,経腸栄養にせよ経静脈栄養にせよpermissive underfeeding(安静時エネルギー消費量よりも少ないエネルギー摂取の許容)の方がアウトカムがいい可能性があるとして現在では主流となっているが,初期の至適エネルギー投与量をどの程度にするかについてはまだ不明確な状況にあります.今回,ベースに栄養失調のない重症患者でどの程度の初期エネルギー摂取量が良好なアウトカムを示すのかについてのメタ解析が報告されたので紹介します.本結果からは,目標エネルギー量の33.3-66.6%程度で開始するのがいいようです.

■なお,メタ解析に登録された8報のうち7報が80-200例程度であるのに対して,Riceらの報告が1000例あるため,そちらに引っ張られている部分はあるかもしれません.
重症患者における経腸栄養での初期カロリー摂取量の効果:無作為化比較試験のメタ解析
Tian F, Wang X, Gao X, et al. Effect of initial calorie intake via enteral nutrition in critical illness: a meta-analysis of randomized controlled trials. Crit Care 2015; 19:180

Abstract
【背 景】
重症患者において,臨床アウトカムを改善させるため,経腸栄養の使用が支持されているが,至適なカロリーおよび蛋白の摂取量については不明確である.

【目 的】
本メタ解析の目的は,重症成人患者において変化するカロリー量や蛋白量の投与量に関連した臨床アウトカムに関する無作為化比較試験(RCT)の定量的解析を行うことである.

【方 法】
我々は重症患者における初期のカロリーや蛋白の摂取量の違いによる効果を比較したRCTを検出するため,Medline,EMBASE,Cochrane databaseから検索した.危険率(RR)および95%信頼区間(CI)による加重平均差はランダム効果モデルを用いて算出した.主要評価項目は死亡率,副次評価項目は感染症,肺炎,消化管不耐性,入院期間およびICU在室期間,人工呼吸器装着日数とした.

【結 果】
1895例を登録した計8報のRCTにおいて,低エネルギー群と高エネルギー群とで死亡率死亡率(RR 0.90; 95%CI 0.71-1.15; p=0.40), 感染症(RR 1.09; 95%CI 0.92-1.29; p=0.32),消化管不耐性リスク(RR 0.84; 95%CI 0.59-1.19; p=0.33)に統計学的有意差はみられなかった.サブグループ解析では,目標エネルギー量の33.3-66.6%である低エネルギー群サブグループでは高エネルギー群よりも死亡率が低かった(RR 0.68; 95%CI 0.51-0.92; p=0.01).低エネルギー群でカロリー摂取量が目標エネルギーの66.6%超過である場合は死亡率および消化管不耐性の改善は見られなかった.高蛋白と高エネルギー摂取の併用は感染症を減少させるが(RR 1.25; 95%CI 1.04-1.52; p=0.02),両群で毎日の蛋白摂取量が同等の場合は,高エネルギー摂取では感染症を減少させなかった.他の副次評価項目に統計学的有意差はみられなかった.

【結 論】
本メタ解析では,栄養失調のない重症患者において,高エネルギー摂取は臨床アウトカムを改善させず,合併症を増加させる可能性がある.高エネルギーと比較して,初期の中等量の栄養摂取(目標エネルギーの33.3-66.6%)は死亡率を減少させる可能性があり,高エネルギー(≧0.85g/kg/day)と高蛋白摂取の併用は感染症発生率を減少させる可能性がある.しかし,エネルギーとタンパク質の摂取量のアウトカムへの寄与は不明である.
■高度侵襲にさらされる重症患者では内因性エネルギーが発生する.安静時エネルギー消費量(REE)を正確に算出する方法は現時点では存在せず,内因性エネルギーも算出することは不可能なため,至適カロリー投与量(外因性エネルギー)を算出することはできない.REEよりカロリー量が多いoverfeedingはglucose toxicity(ミトコンドリア内部の過度の酸化ストレス,炎症反応の増幅),nutritional stress(REE増加,CO2産生増加,骨格筋タンパク分解増加,水分貯留・浮腫増悪)といった有害性があり,現在は推奨されておらず,REEより少ないカロリー量を許容するpermissive underfeedingが現在ではゴールデンスタンダードとなっている(BMI<18等のベースの栄養状態不良の患者は除く).

■2011年に報告された7施設共同の4640例RCTであるEPaNIC trial[1]では,早期経腸栄養に早期経静脈栄養を併用しない方が,平均ICU滞在日数,感染症発生率,腎代替療法施行日数,2日以上の人工呼吸器使用率,医療コストといったアウトカムが優れており,「ENが可能であれば,早期PNによる補助で投与エネルギーゴールを目指す管理は一利もなく推奨されない」と結論づけ,ESPENの推奨を否定,ASPEN/SCCMの推奨を支持するものであった.

■このEPaNIC trialのpost hoc解析では,経腸栄養か経静脈栄養かといった投与経路は問題ではなくoverfeedingが問題であるととらえられている.EPaNIC trialのvan den Burgheは2013年のCritical Care誌でのレビュー[2]において,このoverfeedingがautophagyの抑制を引き起こし,免疫低下を起こすことに言及しており,これが感染症増加の原因のひとつと考えているようである.さらに,重症度は早期静脈栄養の有害性とは関連がなく,投与カロリーは少ないほど予後が良く,糖よりもアミノ酸/蛋白の投与量の方が予後と関連したとしている[3]

■これを支持するかのように,2014年に経腸栄養と経静脈栄養を比較した2400例の大規模RCTであるCALORIES trial[4]が報告された.この報告では,overfeedingを回避し,NICE-SUGAR study[5]に基づいた中等度の血糖管理を行うことで死亡率は同等であった.

■重症患者における投与カロリー量,permissive underfeedingについては以下にまとめているので参照されたい.
敗血症と栄養管理(2) 投与カロリー,静脈栄養併用
http://drmagician.exblog.jp/21625275/


[1] Casaer MP, Mesotten D, Hermans G, et al. Early versus late parenteral nutrition in critically ill adults. N Engl J Med 2011; 365: 506-17
[2] Schetz M, Casaer MP, Van den Berghe G. Does artificial nutrition improve outcome of critical illness? Crit Care 2013; 17: 302
[3] Casaer MP, Wilmer A, Hermans G, et al. Role of disease and macronutrient dose in the randomized controlled EPaNIC trial: a post hoc analysis. Am J Respir Crit Care Med 2013; 187: 247-55
[4] Harvey SE, Parrott F, Harrison DA, et al; the CALORIES Trial Investigators. Trial of the Route of Early Nutritional Support in Critically Ill Adults. N Engl J Med 2014; 371: 1673-84
[5] NICE-SUGAR Study Investigators, Finfer S, Chittock DR, Su SY, et al. Intensive versus conventional glucose control in critically ill patients. N Engl J Med 2009;360:1283-97
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by DrMagicianEARL | 2015-04-22 18:07 | 文献 | Comments(0)
■赤血球輸血製剤の保存期間が1-2週間変わるだけで死亡率に影響が与えられるなんてのはにわかには信じがたかったのですが,2008年の新鮮血が予後を改善することを示唆する論文を皮切りに議論されるようになり,Damage Control Resuscitationのバンドルにおいても新鮮血を使用することを推奨するレビュー論文も散見されていました.結局は大規模RCTで決着を,というわけで組まれたCCCTGによるABLE study,結果は新鮮血を使っても死亡率は変わらないとのこと.これで決着,と思ったら実はANZICSが同様の研究を進行中とのことです.その登録予定症例数はなんと5000.まだやるんですか・・・
成人重症患者における輸血製剤の保存期間(ABLE study)
Lacroix J, Hébert PC, Fergusson DA, et al; ABLE Investigators and the Canadian Critical Care Trials Group. Age of Transfused Blood in Critically Ill Adults. N Engl J Med 2015, Mar 17
PMID:25776801

【背 景】
新鮮な赤血球は,細胞の変化と長期の貯蔵中の血液成分中の生理活性物質の蓄積による毒性作用のリスクを最小限に抑えて酸素供給を強化することで重症患者における転帰を改善することができる可能性がある.

【方 法】
この多施設無作為化二重盲検試験において,我々は成人重症患者を,保存期間8日以内の赤血球輸血を受ける群と標準的保存期間の赤血球輸血を受ける群に割り付けた.主要評価項目は90日死亡率とした.

【結 果】
2009年3月から2014年5月までで,カナダおよび欧州の64の施設において,1211例の患者が新鮮な赤血球輸血を受ける群(新鮮血群)に,1219例が標準的保存期間の赤血球輸血を受ける群(標準血群)に割り付けられた.赤血球輸血製剤の保存期間は,平均(±標準偏差)で,標準血群が22.0±8.4日であったのに対し,新鮮血群で6.1±4.9日であった(p<0.001).90日時点で,新鮮血群で448例(37.0%)が,標準血群で430例(35.3%)が死亡した(絶対リスク差1.7%; 95%CI -2.1 to 5.5).生存解析では,新鮮血群の死亡の危険率は,標準血群と比較して1.1であった(95%CI 0.9-1.2; p=0.38).他のいかなる副次評価項目(主要疾患,人工呼吸器装着期間,結構動態,腎代替療法,入院期間,輸血反応)やサブグループ解析においても両群間に有意差は認めなかった.

【結 論】
新鮮赤血球の輸血は,標準的保存期間の赤血球と比較して,成人重症患者における90日死亡率を減少させなかった.

■血液製剤の発展の歴史は,薬剤とは異なるその特殊性から,有効性のみならず有害事象をいかに防ぐかの戦いであった.昔は採取した血液をその場でそのまま使うということがなされていたが,当時は血液型の概念もなく,器具の殺菌が不十分であったことから輸血の成功率は低く,19世紀末には輸血療法はあまり行われなくなり,輸血医学は衰退の一途をたどっていた.しかし,1900年にオーストリアのKarl LandsteinerがABO式血液型を発見すると輸血は再び脚光を浴び,さらに1913年にAlbert Hustinが,クエン酸ナトリウムが血液の凝固を防ぐことを発見,1916年にはクエン酸やブドウ糖を赤血球に混ぜて数日間冷蔵保存した後にウサギに輸血することに成功したことで,輸血が第一次世界大戦中に多くの負傷した兵士の命を救うことになり,輸血療法は大きく進歩することになった.さらに第二次世界大戦時には血液保存液ACD(acid-citrate-dextrose)が開発されるに至る.

■赤血球を保存すると,2-3DPGの低下,ATPの低下,脂質過酸化反応,ヒスタミンやサイトカイン産生等による劣化が知られている.これらの変化の多くは輸血後に可逆的であるが,臨床においてどの程度影響があるかは分かっていなかった.そのような中,2008年にNew England Journal of Medicineにおいて衝撃的な報告がなされた.Kochら[1]は,1998年から2006年までにCABGと弁置換術において赤血球輸血を受けた患者6002例のデータの後ろ向き解析を行い,保存期間が14日以内の2872例と14日超過の3130例を比較した.結果は,保存期間が長い群の方が死亡率が有意に高く(1.7% vs 2.8%, p=0.004),72時間以内の挿管率が有意に高く(5.6% vs 9.7%, p<0.001),腎不全が有意に多く(1.6% vs 2.7%, p=0.003),敗血症や菌血症が有意に多かった(2.8% vs 4.0%, p=0.01).この傾向は背景因子で調整しても同様であった.

■その後,多数の観察研究が報告されたが,結果は様々であった.一方,RCTにおいては小規模なものしかなかったが,多くの報告が死亡率に有意差はないという結果であった.Wangら[2]は,輸血の保存期間に関する21報(RCT3報,前向き観察研究6報,後ろ向き観察研究12報)409966例のメタ解析を行った.結果は,保存期間が長い赤血球輸血(2-3週間以上)は,死亡リスク(OR 1.16; 95%CI 1.07-1.24),多臓器不全リスク(OR 2.26; 95%CI 1.56-3.25),肺炎リスク(OR 1.17; 1.08-1.27)が有意に高いという結果であった.

■しかし,このメタ解析ではstudy typeでのサブ解析は行われていない.このメタ解析に登録された3報のRCT[3-5]および,その後報告された2報のRCT[6,7]では死亡率,その他合併症に有意差は認められていない.これらはほとんどが小規模研究であり,今回,大規模RCTとしてこのABLE studyが組まれ,赤血球輸血製剤保存期間が臨床アウトカムに影響を及ぼさないということでほぼ決着がついたと言えよう.

■なお,現在もう1つの大規模RCTであるTRANSFUSE trialがANZICS主導で進行中であり,5000例の登録を予定している[8]

[1] Koch CG, Li L, Sessler DI, et al. Duration of red-cell storage and complications after cardiac surgery. N Engl J Med 2008; 358: 1229-39
[2] Wang D, Sun J, Solomon SB, et al. Transfusion of older stored blood and risk of death: a meta-analysis. Transfusion 2012; 52: 1184-95
[3] Fernandes da Cunha DH, Nunes Dos Santos AM, Kopelman BI, et al. Transfusions of CPDA-1 red blood cells stored for up to 28 days decrease donor exposures in very low-birth-weight premature infants. Transfus Med 2005; 15: 467-73
[4] Hébert PC, Chin-Yee I, Fergusson D, et al. A pilot trial evaluating the clinical effects of prolonged storage of red cells. Anesth Analg 2005; 100: 1433-8
[5] Schulman CI, Nathe K, Brown M, et al. Impact of age of transfused blood in the trauma patient. J Trauma 2002; 52: 1224-5
[6] Kor DJ, Kashyap R, Weiskopf RB, et al. Fresh red blood cell transfusion and short-term pulmonary, immunologic, and coagulation status: a randomized clinical trial. Am J Respir Crit Care Med 2012; 185: 842-50
[7] Fergusson DA, Hébert P, Hogan DL, et al. Effect of fresh red blood cell transfusions on clinical outcomes in premature, very low-birth-weight infants: the ARIPI randomized trial. JAMA 2012; 308: 1443-51
[8] Kaukonen KM, Bailey M, Ady B, et al. A randomised controlled trial of standard transfusion versus fresher red blood cell use in intensive care (TRANSFUSE): protocol and statistical analysis plan. Crit Care Resusc 2014; 16: 255-61
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by DrMagicianEARL | 2015-03-30 00:00 | 文献 | Comments(0)
■日本には数多くの医療ジャーナリストがいて,さまざまな番組,書籍などで情報発信を行っています.注意すべきは,医療ジャーナリストはその情報に一切の責任を負わないことです.たとえ間違った情報を発信して,それが原因で人が死んでも医療ジャーナリストが法的に裁かれることはありません.そして我々医療従事者と違い,その情報発信力は絶大です.マスコミの医療監修は不十分で,視聴率重視ですから,デマに近い反医療的発言でもめったに訂正することはありません.言論の自由とやらに保護されている書籍も同じです.そして,この間違った医療情報発信に対して間違いを指摘してきた医療従事者を医療ジャーナリスト側からシャットアウトしてしまうケースもしばしば見られます.ここで特定の人物を名指ししたりはしませんが,そういう医療ジャーナリストがはびこっているのが現実です.

■医療ジャーナリストはあくまでも素人です.論文を片っ端から読んでどれがエビデンスレベルが高いか,なんてことを判断するのはなかなか難しく,現場を体験することも難しいのが現実で,医師等に話を聞くことでまとまったコンパクトな情報を得ています.しかし,そこで選ぶ医師のレベルまではかることは困難で,ときには医療ジャーナリスト自身の思想に合ったことを喋ってくれる都合のいい医師から情報を得ることもあり,論文等の一次情報にアクセスしない報道がいかにバイアスがかかった危険なものであるかはテレビ番組や一般人向け医療書籍を見れば一目瞭然です.医療は人命がダイレクトにかかわるデリケートな領域です.論文を片っ端からすべて読めとは言いませんが,せめてレビュー論文等をしっかり読んで,自分の書いた記事や発言について批判的吟味を甘んじて受け入れる医療ジャーナリストが望まれます.

■今回,医療ジャーナリストがどのように情報収集して医療問題を報じるかについての調査論文がでましたのでご紹介します.医療ジャーナリストの情報源は一次情報にあたらない非常にもろいものです(報道したい内容についてまず文献からあたる医療ジャーナリストはわずか7%でした).なおecancerはオープンアクセスジャーナルですので,この論文は無料公開されています.それにしてもこの回答率の低さはなんなんでしょうね?
医療ジャーナリストは癌に関する問題をどのように扱うのか?
Nakada H, Tsubokura M, Kishi Y et al. How do medical journalists treat cancer-related issues? Ecancermedicalscience 2015; 9: 502
PMID:25729415

Abstract
癌患者は様々な医療情報を通して自身の疾患に関する情報を得ることができる.したがって,癌関連の問題を医療ジャーナリストがどのように扱っているかを知ることは非常に重要であることから,我々は,日本のメディアにおいて医療問題を報じている82の組織の364人のジャーナリストに,癌関連問題を報じる理由と,直面する困難さについての自己記入式アンケートを送った(回答者57人,回答率16%).医療関連問題について報じる理由で最も多かったのは彼ら自身の各問題に対する興味であった(n=36).彼らは主に標準治療(n=33),医療ポリシー(n=30),新規治療法(n=25),診断(n=25)をカバーしていた.調査を受けたすべてのジャーナリストが,医療問題を報告することに若干の困難を感じていた.この懸念は情報の質(n=36),社会的影響(n=35),専門的知識の欠如(n=35),専門用語の理解の困難さ(n=35)などを含んでいた.ジャーナリストは,医師を含む個人のネットワーク(n=42),ソーシャルメディア(メール,Twitter,Facebook)(n=32)を情報ソースとして用いていた.48人のジャーナリストのうち35人はホスピスに関する話題をこれまでまったく報道しておらず,話題選択は偏っていた.医師は癌に関する情報源として最も信頼されており,ジャーナリストは彼らにインタビューすることに高い重要性を示していた.医療の知識は速く進歩しており,ジャーナリストは癌関連の問題をカバーすることがより困難となる可能性がある.

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by DrMagicianEARL | 2015-02-15 17:57 | 文献 | Comments(0)
今年もあとわずかですが,年2回恒例の「明日からの臨床に役立たない(一部役に立つかも?)論文」を私の独断と偏見で40報選んできました.下半期+昔の論文少々あり.小ネタとして使うもよし,抄読会に使うもよしです.

リア充爆発しろ調査
Lewandowski G, et al. The Top 8 Reasons Why Relfies Are Good For You & Your Relationships. Science of Relationships 2014 Jul.1
Facebook等のSNSで特に恋人との関係をアピールしている投稿は友達から最も強く反感を買う.コホート研究.
※クリスマスは特に,ですね.

学歴と離婚
Schwartz CR, Han H. The Reversal of the Gender Gap in Education and Trends in Marital Dissolution. Am Sociol Rev 2014; 79: 605-29
学歴(教育レベル)が同じ夫婦は,夫の方が高学歴の夫婦に比べて離婚リスクが3分の1.後ろ向きコホート研究.

一目ぼれの機序
Tobari Y, Son YL, Ubuka T, et al. A new pathway mediating social effects on the endocrine system: female presence acting via norepinephrine release stimulates gonadotropin-inhibitory hormone in the paraventricular nucleus and suppresses luteinizing hormone in quail. J Neurosci 2014; 34: 9803-11
メスを見たオスの脳ではノルエピネフリンの放出が一過的に増加することで生腺刺激ホルモン抑制ホルモンが増加して生線刺激ホルモン濃度が低下し,テステステロンも低下する.ウズラモデル研究.

コンサートのヘドバンで脳出血
Pirayesh Islamian A, Polemikos M, Krauss JK. Chronic subdural haematoma secondary to headbanging. Lancet 2014; 384: 102
コンサートでのヘッドバング(頭を激しく振る行為)で慢性クモ膜下出血をきたした50歳男性の1例.
※ヘドバンのやりすぎに注意です.赤ちゃんの揺さぶられっこ症候群と同じことが大人でも起きるというこです.

携帯電話で精子の機能が落ちる
Adams JA, Galloway TS, Mondal D, et al. Effect of mobile telephones on sperm quality: a systematic review and meta-analysis. Environ Int 2014; 70C: 106-12
携帯電話(スマホ含む)が発する高周波の電磁波への曝露により,精子の運動能が8.1%有意に減少し,精子の生存率が9.1%有意に減少する.10報1492例メタ解析.
※男性は携帯電話をよくポケットに入れますので,注意が必要かもしれませんね.

後ろに誰かがいる感覚の再現
Blanke O, Pozeg P, Hara M, et al. Neurological and Robot-Controlled Induction of an Apparition. Curr Biol 2014; 24: 2681–6
突然背後に誰かいるように感じる霊的現象の感覚を実験室で再現することに成功.被験者は目隠しをされ,人差し指を前方の機械式アームロボットに繋がれている.この機械式アームはその動きをプログラムによって制御できる.また,被験者の背後には,別のロボットアームがあり,被験者らの背中を実際に触る.前方で人差し指をつないでいたロボットが指を押し,それと同時に背後のロボットが背中に触れると,被験者らはあたかも自分自身が指で背中に触れたように錯覚した.さらに,背中に触れるタイミングが指を押す動作から0.5秒遅れただけで,誰かに見られている,触れられているという感覚を感じた.

頭を悪くするウイルス発見?
Yolken RH, Jones-Brando L, Dunigan DD, et al. Chlorovirus ATCV-1 is part of the human oropharyngeal virome and is associated with changes in cognitive functions in humans and mice. Proc Natl Acad Sci USA 2014; 111: 16106–11
健常者92例の検査で43.5%に人間の思考力や注意力を低下させるウイルスACTV-1( Acanthocystis turfacea chlorella virus 1 )の感染を確認.脳の正確性および視覚処理のスピードを調べるテストでは感染者の方が点数が低かった.

太っている人に悪口を言うと体重がさらに増加?
Jackson SE, Beeken RJ, Wardle J. Perceived weight discrimination and changes in weight, waist circumference, and weight status. Obesity (Silver Spring) 2014; 22: 2485-8
太っていることに対して無遠慮な批判を受けたり差別的な態度をとられたりした人は体重増加リスクが6.67倍有意に増加する.50歳以上の英国人2944例観察研究.

テレパシーに成功
Grau C, Ginhoux R, Riera A, et al. Conscious brain-to-brain communication in humans using non-invasive technologies. PLoS One 2014; 9: e105225
数千キロ離れたインドとフランスにいる人同士が,心に思った簡単なメッセージを直接接触することなく低侵襲脳刺激によって相手に伝えるテレパシー実験に成功.
※ただ,このシステムだと心に思ったこと全部向うに伝わってしまいますね.

青色LEDは目によくない
Kuse Y, Ogawa K, Tsuruma K, et al. Damage of photoreceptor-derived cells in culture induced by light emitting diode-derived blue light. Sci Rep 2014; 4: 5223
青・緑・白の3色のLEDの光を6時間ずつマウスの目の細胞にあてたところ,緑の光をあてた視細胞はあまり変化がなかったが,白は約70%,青は約80%の細胞が死滅.マウスモデル研究.
※最近は青色の光で虫を殺すなんて研究もありました.どうやら青い光は生物には有害?

ジュースは100%果汁にしないと寿命が短くなる?
Leung CW, Laraia BA, Needham BL, et al. Soda and Cell Aging: Associations Between Sugar-Sweetened Beverage Consumption and Leukocyte Telomere Length in Healthy Adults From the National Health and Nutrition Examination Surveys. Am J Public Health 2014 Oct 16: e1-e7
米国成人5309例の細胞のテロメア(短くなると老化)の解析研究.甘い清涼飲料水でテロメアは短くなり,100%果汁ではテロメアは長い傾向.ダイエットソーダはテロメアの長さと相関見られず.

人工甘味料は生活習慣病リスクを増加させる?
Suez J, Korem T, Zeevi D, et al. Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota. Nature 2014; 514: 181-6
菓子や清涼飲料に使われている人工甘味料は代謝に関わる腸内細菌のバランスを崩し血糖値が下がりにくくする作用があり,糖尿病や肥満といった生活習慣病のリスクが高まる.マウスモデル研究.
※人工甘味料を使っているダイエットコーラはむしろ体に悪いというメタ解析が昨年でていましたね.

血液型がAB型だと認知症になりやすい?
Alexander KS, Zakai NA, Gillett S, et al. ABO blood type, factor VIII, and incident cognitive impairment in the REGARDS cohort. Neurology 2014; 83: 1271-6
血液型がAB型だと多変量解析で認知症リスクが1.82倍有意に増加.1082例症例対照研究.

最強のシルク
Kuwana Y, Sezutsu H, Nakajima K, et al. High-toughness silk produced by a transgenic silkworm expressing spider (Araneus ventricosus) dragline silk protein. PLoS One 2014; 9: e105325
クモが糸を作る遺伝子をカイコに導入することで天然シルクよりも1.5倍の切れにくさを持つクモ糸シルクを作ることに成功.鋼鉄の20倍とされるアメリカジョロウグモの糸と同程度の切れにくさ.
※テラフォーマーズを思い出しました.

自転車によく乗る男性は前立腺癌になりやすい
Hollingworth M, Harper A, Hamer M, et al. An Observational Study of Erectile Dysfunction, Infertility, and Prostate Cancer in Regular Cyclists: Cycling for Health UK Study. J Men's Health 2014; 11: 75-9
50歳以上の男性で自転車に乗る時間が週に3.75-8.5時間だと前立腺癌リスクが約3倍,8.5時間を超えると約6倍に増加する.自転車に乗る時間と勃起不全に関連はなかった.英国人男性5282例コホート研究.

性感帯のパラダイムシフト
Jannini EA, Buisson O, Rubio-Casillas A. Beyond the G-spot: clitourethrovaginal complex anatomy in female orgasm. Nat Rev Urol 2014; 11: 531-8
女性の性感帯としてのGräfenbergスポットは存在しない.より複雑な複合体かつダイナミックで敏感な構造体であるCUV(clitourethrovaginal)コンプレックスが提唱される.
※医学的にGräfenbergスポットという名称は今後なくなることになりそうです.桑田佳祐が歌っていたあの曲名も過去のものとなりますね.

マラリアに感染するとアトピー性皮膚炎が改善する?
Kishi C, Amano H, Suzue K, et al. Plasmodium berghei infection ameliorates atopic dermatitis-like skin lesions in NC/Nga mice. Allergy 2014; 69: 1412-9
マラリアに感染するとNK細胞が活性化することによりアトピー性皮膚炎が改善する.マウスモデル研究.
※だからといってアトピーを治すためにマラリアに感染させるわけにはいきませんが・・・NK細胞を活性化させるならインフルエンザワクチン接種でも可能です.

耳鳴り予防にコーヒー?
Glicksman JT, Curhan SG, Curhan GC. A prospective study of caffeine intake and risk of incident tinnitus. Am J Med 2014; 127: 739-43
カフェイン150mg/日(コーヒ237mL)未満の摂取者に比べ,450-599mg/日では,耳鳴り発生リスクが15%有意に減少.600mg/日以上では21%減少する.30-44歳女性65085例前向き観察研究.

コーヒーで死亡リスク減少?
Zhao Y, Wu K, Zheng J, et al. Association of coffee drinking with all-cause mortality: a systematic review and meta-analysis. Public Health Nutr 2014 Aug 4: 1-13
1日あたりコーヒー1~5杯の摂取は全死亡リスクを10%以上有意に減少させる.この関連性は男性よりも女性でみられた.17報1054571例メタ解析.
※コーヒーで死亡率が減少,増加両方の論文が多数でていますが,メタ解析してみると減少との結果でした.

脳死患者にステロイド
Pinsard M, Ragot S, Mertes PM, et al. Interest of low-dose hydrocortisone therapy during brain-dead organ donor resuscitation: the CORTICOME study. Crit Care 2014; 18: R158
脳死患者に対するステロイド投与により臓器移植で使用可能となる臓器の数が有意ではないが増加した(92%vs88%, p=0.07).フランス22施設259例RCT.
※ステロイドを治療・救命のためではなく臓器移植に活かすための投与.フランスならではの研究?日本ではこのような研究は文化的にもできないでしょうね.ちなみに脳死患者への魚油経腸栄養を行えば活きのいい臓器がとれるんじゃないかという仮説を検討したRCTもあって,すでに試験は終了していますがなぜかまだ発表されていません.

脂肪吸引しても胸は大きくならない?
Swanson E. No Increase in Female Breast Size or Fat Redistribution to the Upper Body After Liposuction: A Prospective Controlled Photometric Study. Aesthet Surg J 2014; 34: 896-906
女性での脂肪吸引は胸の大きさや体上部への脂肪再分布を増加させない.82例前向きコホート研究.
※なぜこのような研究がでてきたのかと思って背景を読むと,過去のいくつかの研究では脂肪吸引した後に代償性に胸が大きくなることが示されていたんだそうです.脂肪吸引して腰がやせた上に胸が大きくなるとは一石二鳥ですが,今回はそうはならないという結果.

学力は遺伝か?
Krapohl E, Rimfeld K, Shakeshaft NG, et al. The high heritability of educational achievement reflects many genetically influenced traits, not just intelligence. Proc Natl Acad Sci USA 2014; 111: 15273-8
学力は62%が遺伝,38%が環境によって決まる.英国で就学中の一卵性双生児13306例調査.
※今年チンパンジーでも同様の研究がなされていて,知能の変異は,その約半分が遺伝子で決まっており,残りの半分が環境要因で決まるとのことです(Curr Biol 2014;24:1649-52).

日本人は麺類よりもお米を摂取した方が良質な睡眠がえられる?
Yoneyama S, Sakurai M, Nakamura K, et al. Associations between rice, noodle, and bread intake and sleep quality in Japanese men and women. PLoS One 2014; 9: e105198
日本人ではお米の摂取量が多いほど良質な睡眠に関連し,麺類の摂取量が多いほど睡眠の質は悪くなる.パンは睡眠の質に影響を与えない.グリセミック指数(炭水化物が糖に変換される速度)が高いほど良眠できる.20-60歳の日本人1848例解析.

咳嗽に対する気をそらすと咳嗽が減少する?
Janssens T, Silva M, Davenport PW, et al. Attentional modulation of reflex cough. Chest 2014; 146: 135-41
内的集中(咳嗽を数える等)は過剰な咳嗽を引き起こすが,外的な集中は過剰な咳嗽に対する抑制が期待される.24例健常成人研究.
※日常的に感じてることを論文化.何かに集中すると咳は少なくなり,咳を気にするとさらに咳がでやすくなるのはよく経験します.また,人が大勢集まっている中で誰かが咳をすると,咳が伝染していくのもこの理屈と思われます.

類は友を呼ぶ論文
Christakis NA, Fowler JH. Friendship and natural selection. Proc Natl Acad Sci U S A. 2014; 111 Suppl 3: 10796-801
人は遺伝的に似ている相手を友人に選ぶ傾向があり,同じ交友関係の中にいる人は同じ遺伝子を約1%共有していた.これは5代前の祖先を共有する親戚たちで形成されているのと同等.1932例解析.

明瞭夢
Stumbrys T, Erlacher D, Johnson M, et al. The phenomenology of lucid dreaming: an online survey. Am J Psychol 2014; 127: 191-204
明瞭夢(夢の最中に「あ,これは夢だ」と気がつく夢)の経験者571例の調査.明晰夢の中でよくみる夢は,空を飛ぶ(最多),夢の登場人物と話す,セックスをする等.しかし常にそれらの意図を覚えていて実行に成功できるわけではない.
※明瞭夢が見れる人は実は少数派です.なお,明瞭夢をみたことがない人に,レム睡眠に入ってから2分後に前頭葉に微弱電流を30秒間与えると77%が明瞭夢をみれたという報告があります(Nat Neurosci 2014; 17: 8102).

雪男は存在しない
Sykes BC, Mullis RA, Hagenmuller C, et al. Induction of self awareness in dreams through frontal low current stimulation of gamma activity. Nat Neurosci 2014; 17: 810-2
雪男の正体はクマやヤギ.ビッグフットの正体はアメリカクロクマ,アライグマ,乳牛,ヤマアラシ,オオカミ,コヨーテ,犬など.毛髪のDNA解析.異例な霊長類試料の種同定をめぐる長年の不明確さに終止符.

重力の違いによるフライドポテトの味
Lioumbas JS, Karapantsios TD. Effect of increased gravitational acceleration in potato deep-fat frying. Food Res Int 2014; 55: 110-8
フライドポテトを無重力で作ると不味い.3G重力環境下で作ると最も最適な揚げ方になる.
※ポテト注文時は「ポテトM遠心重力装着3G揚げで」

インスタントラーメンの肥満リスク
Shin HJ, Cho E, Lee HJ, et al. Instant noodle intake and dietary patterns are associated with distinct cardiometabolic risk factors in Korea. J Nutr 2014;144:1247-55
週2回以上のインスタントラーメン摂取は,腹部肥満リスク1.41倍に増加し,特に女性ではメタボリックシンドロームリスクが1.68倍に増加する.これらは心血管・脳血管疾患リスクとなる.10711例観察研究.
※医者もよく食べますよね,お昼ご飯で

気管支喘息の女性は顔に特徴がある?
Al Ali A, Richmond S, Popat H, et al. The influence of asthma on face shape: a three-dimensional study. Eur J Orthod 2014; 36: 373-80
女性の気管支喘息の患者では尾翼幅や顔面高に統計学的に有意な変化がみられた.3428例症例対照研究.
※喘鳴時や普段の呼吸が違うから顔面が変形?

喫煙と勃起不全リスク
Cao S, Gan Y, Dong X, et al. Association of quantity and duration of smoking with erectile dysfunction: a dose-response meta-analysis. J Sex Med 2014; 11: 2376-84
勃起不全リスクは1日の喫煙本数が10本増加するごとに勃起不全リスクが14%ずつ増加,喫煙年数が10年増加するごとに15%ずつ増加する.10報5万例メタ解析.
※喫煙で性器の血流が悪くなることによるもの.昔,泌尿器科の先生「心筋梗塞の前にはチ〇チ〇梗塞が起こる」なんて言ってましたね.なお,勃起不全はビタミンD欠乏と有意に関連するという50例観察研究も同時に報告されていました(J Sex Med 2014, PMID:25092061).

永遠の命は不可能?
Antero-Jacquemin JD, Berthelot G, Marck A, et al. Learning From Leaders: Life-span Trends in Olympians and Supercentenarians. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2014 Aug 20
人間の寿命は延長傾向にあるが,永遠の命に対する生物学的障壁が存在し,目に見えない上限がある.2万例解析.

貧しい男性や空腹の男性ほど巨乳女性を好む
Swami V, Tovée MJ. Resource security impacts men's female breast size preferences. PLoS One 2013; 8: e57623
経済的に貧しい男性や空腹の男性は裕福な男性やお腹が満たされた男性と比較して巨乳女性を好む.266例および124例の前向き観察2研究.
※研究方法もこれまたシュールでして・・・.2年前には心理的ストレスを受けている男性はふくよかな女性への好みが増し,有意に高体重女性に最大の魅力を感じるとする報告もありました(PLoS One 2012;7:e42593).これと似たものがありますね.

ブラジャーのカップサイズと頸部・肩の疼痛の関連性
Oo M, Myint Z, Sakakibara T, et al. Relationship between brassiere cup size and shoulder-neck pain in women. Open Orthop J 2012; 6: 140-2
首や肩の痛みはブラジャーのカップサイズと有意に関連する(大きいほど痛みあり)が,痛みと胸囲は関連がみられなかった.三重大学病院女性職員339名の解析.
※三重大学でこんな研究やってたんですか.なお女性の85%が,自分で選んだりブラサイズ計測系を使って,自分に有意に合っていないサイズのブラジャーを身につけているとする104例横断研究もあります(J Sci Med Sport 2010;13:568-72).

巨乳の定義
Dundas KL, Atyeo J, Cox J. What is a large breast? Measuring and categorizing breast size for tangential breast radiation therapy. Australas Radiol 2007; 51: 589-93
Dカップ以上またはブラサイズが18以上(オーストラリア基準)を放射線治療における巨乳と定義することを推奨する.
※放射線治療においてはDカップ以上は結構大変なんだそうです.

ネギで導尿
吉田 淳史,吉田 宗一郎,中込 一彰,ほか.導尿目的で利用したネギによる膀胱尿道異物の1例 : 尿道カテーテルの歴史的考察.日本泌尿器科學會雜誌 2007; 98: 710-2
※論文タイトルの通りです.ネギ誤用の症例報告から尿カテの歴史へとつなげる壮大な論文です.読んでいただくと分かりますが,ネギのような植物が尿道カテーテルとして用いられていた時代もあったんですね.

膣内異物の1例報告
小川 仁,舟山 裕士,福島 浩平,ほか.治療に難渋した膣内異物による直腸膣瘻の1例.日本大腸肛門病学会誌 2004; 57: 455-9
18歳時に膣内にスプレー缶をつっこんだら抜けなくなり放置し,5年後に病院を受診した23歳女性の1例.直腸膣瘻が形成され,月経周期に合わせて下血が生じていた.瘻孔は難治性で,計6回の手術を要した.
※読んだときにわかには信じられませんでしたが,こういうこともあるようです.5年放置・・・

新しい禁煙治療?
Arzi A, Holtzman Y, Samnon P, et al. Olfactory Aversive Conditioning during Sleep Reduces Cigarette-Smoking Behavior. J Neurosci 2014; 34: 15382-93
睡眠中にタバコの煙と卵の腐った臭いをかがせると,翌朝,不快なにおいをかいだ記憶はないが,その後の喫煙本数が減少する.条件付けの応用.

喫煙者のいる家のPM 2.5濃度
Semple S, Apsley A, Azmina Ibrahim T, et al. Fine particulate matter concentrations in smoking households: just how much secondhand smoke do you breathe in if you live with a smoker who smokes indoors? Tob Control 2014 Oct 20
喫煙者のいる家のPM 2.5の濃度は喫煙者がいない家の濃度の約10倍であり,中国の北京の年間平均濃度以上であった.

若さの秘訣は自己暗示?
Stephan Y, Caudroit J, Jaconelli A, et al. Subjective age and cognitive functioning: a 10-year prospective study. Am J Geriatr Psychiatry 2014; 22: 1180-7
BMIが低く活動的な人は自分が実年齢より若いとのイメージを持ち続けていることが多い.自分は実年齢より若いと感じ続けることが記憶力や認知能力を維持するのに役立つ可能性がある.前向き観察研究.
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by DrMagicianEARL | 2014-12-20 17:59 | 文献 | Comments(0)
第42回日本救急医学会から帰ってきたらこんな論文がでていました.牛乳摂取量が増えると死亡リスクが増加する上に骨折を減らさない(むしろ増加させる傾向)という結果で,これまでの牛乳神話に影響を与えそうです.興味深いのはバイオマーカーで見ると牛乳摂取量と酸化ストレス・炎症が正の相関を示していること.おそらく摂取量が増えると牛乳のメリットを消してしまうほど有害になってしまうのでしょう.サプリメントでもそういう論文が最近よくでていますね(たとえばビタミンCは抗酸化作用を有するが,サプリメントで摂取すると過量となるためむしろ酸化作用が働いてしまうため逆効果となる).食品産業やサプリメント産業は薬剤に比して安全性等はゆるい上に欧米では信奉者も多く,なかなか受け入れられないでしょうね(スポンサーの問題もあるためマスコミはあまり報道しないでしょう).でも死亡リスクがここまで増加となると無視はできない論文です.
女性および男性における牛乳摂取と死亡・骨折のリスク:コホート研究
Michaëlsson K, Wolk A, Langenskiöld S, et al. Milk intake and risk of mortality and fractures in women and men: cohort studies. BMJ 2014; 349: g6015

Abstract
【目 的】
牛乳摂取量が多いことは女性および男性において死亡や骨折と関連しているかについて検討する.

【方 法】
本研究デザインはコホート研究で,スウェーデン3地域で行った.患者は,食物頻度アンケートを導入した2つの大規模スウェーデン人コホート集団であり,1つは61433例の女性(1987-90年をベースラインとした39-74歳),もう1つは45339例の男性(1997年をベースラインとした45-79歳)である.主要評価項目は牛乳摂取と死亡や骨折までの期間の関連性を適応した多変量生存モデルとした.

【結 果】
平均追跡期間20.1年の間に,女性の15541例が死亡し,17252例が骨折し,そのうち4259例は股関節の骨折であった.男性コホートでは平均追跡期間11.2年で,10112例が死亡し,5066例が骨折し,そのうち1166例が股関節の骨折であった.女性において,牛乳摂取量が1日あたり1杯未満の場合に比して,1日あたり3杯以上の調整された死亡危険率は1.93倍(95%CI 1.80-2.06).牛乳摂取量が1杯増えるごとに,調整された全死亡危険率は女性で1.15(1.13-1.17),男性で1.03(1.01-1.04)であった.女性において,牛乳摂取量が1杯ずつ増えても,全骨折(1.02; 1.00-1.04)あるいは股関節骨折(1.09; 1.05-1.13)といった骨折リスクに減少は見られなかった.同様に男性において調整された危険率は1.01(0.99-1.03)と1.03(0.99-1.07)であった.2つのコホートのサブサンプルでは,両性別における尿中8-iso-PGF2α(酸化ストレスのバイオマーカー),男性における血清インターロイキン6(主要な炎症性バイオマーカー)と牛乳摂取量の間に正の相関が認められた.

【結 論】
牛乳摂取量が多いことは,女性コホート,男性コホートにおいてより高い死亡と関連していた.

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by DrMagicianEARL | 2014-10-30 19:46 | 文献 | Comments(1)
■ESICM weekの集中治療関連文献アップ第2弾は経腸栄養と静脈栄養のガチンコ勝負のCALORIES trialです.この結果を意外ととるか予想された結果ととるか,みなさんはどうでしたか?
成人重症患者における早期栄養療法の経路の試験(CALORIES trial)
Harvey SE, Parrott F, Harrison DA, et al; the CALORIES Trial Investigators. Trial of the Route of Early Nutritional Support in Critically Ill Adults. N Engl J Med 2014 Oct.1 [Epub ahead of print]
PMID:25271389

Abstract
【背 景】
成人重症患者の早期栄養療法の最も有効な投与経路については明らかではない.我々は経静脈投与が経腸経路よりも優れていると仮説をたてた.

【方 法】
我々は英国の33の集中治療室に入院した特に治療計画が立てられていない成人患者を登録した臨床的無作為化試験を行った.患者は静脈栄養と経腸栄養のいずれかに無作為割り付けられ,入室から36時間以内に栄養療法を開始し,5日間継続した.主要評価項目は30日全死亡率とした.

【結 果】
2400例の患者が登録され,2388例(99.5%)が解析に組み込まれた(1191例が静脈栄養群,1197例が経腸栄養群).30日時点で静脈栄養群では1188例中393例(33.1%)が,経腸栄養群では1195例中409例(34.2%)が死亡した(RR 0.97; 95%CI 0.86-1.08; p=0.57).経腸栄養群と比較して,静脈栄養群は低血糖(44例(3.7%) vs 74例(6.2%); p=0.006)と嘔吐(100例(8.4%) vs 194例(16.2%); p<0.001)が有意に少なかった.静脈栄養群と経腸栄養群で感染症合併平均数(0.22 vs 0.21; p=0.72),90日死亡(442/1184(37.3%) vs 464/1188(39.1%); p=0.40),その他14の副次評価項目,有害事象発生率に有意差はみられなかった.ほとんどの患者において目標投与量を達成しなかったが,両群間でカロリー投与量は同等であった.

【結 論】
成人重症患者の早期栄養療法の投与経路に関連した30日死亡率に有意差はみられなかった.

EPaNIC trialをふまえたCALORIES trialの結果

■これまで数多くのRCT,メタ解析[1-10]がなされ,静脈栄養(PN)よりも経腸栄養(EN)を選択することがゴールデンスタンダードという流れで,現在はENに早期からPNを併用すべきか否かが議論されている中,このCALORIES trialはPNがENよりも優れているという仮説をたててhead-to-headで勝負するという,10年以上前のClinical Questionに回帰する非常にチャレンジングなRCTである.サンプル数は2388例で,EPaNIC trial[11]の4640例には及ばないものの栄養療法を再考するには十分な根拠となる規模である.

■ただし,この結果はある意味予想通り,と言えないこともない.その理由はEPaNIC trialにある.2011年にvan den Burgheらは早期ENに早期PNを併用する群と後期(8日以降)からPNを併用する群を比較した大規模RCTであるEPaNIC trialを報告し,死亡率に有意差こそなかったが,平均ICU滞在日数(4日 vs 3日; p=0.02),感染症発生率(26.2% vs 22.8%; p=0.008),腎代替療法施行日数(10日 vs 7日; p=0.008),2日以上の人工呼吸器使用率(40.2% vs 36.3%; p=0.006),医療コストにおいて後期PN併用群が有意に優れており,「ENが可能であれば,早期PNによる補助で投与エネルギーゴールを目指す管理は一利もなく推奨されない」と結論づけた.

■このEPaNIC trialのpost hoc解析を行い,van den Burgheは様々な考察を行っており,ENかPNかといった投与経路は問題ではなくoverfeedingが問題であったととらえている.van den Burgheは2013年のCritical Care誌でのレビュー[12]において,このoverfeedingがautophagyの抑制を引き起こし,免疫低下を起こすことに言及しており,これが感染症増加の原因のひとつと考えているようである.さらに,重症度は早期静脈栄養の有害性とは関連がなく,投与カロリーは少ないほど予後が良く,糖よりもアミノ酸/蛋白の投与量の方が予後と関連したとしている[13]

■また,早期PN併用群でも骨格筋減少は食い止められず,むしろ骨格筋の中に脂肪が形成され,骨格筋の質が悪くなることも分かった[14].筋力低下(CUAW;ICU-acquired weakness )の評価[15]では,後期PN併用群が早期PN併用群より筋力低下が有意に少なく(34% vs 43%; absolute difference -9%; 95% CI -16 to -1; p=0.030),筋力低下からの回復も後期群の方が有意に早く,autophagyは早期PN併用群で抑制されていた.

■もうひとつ,EPaNIC trialの特徴は,van den BurgheらによるLeuven studyⅠ[16]で有用性が示された血糖値を80-110 mg/dLにコントロールする強化インスリン療法(intensive insulin therapy;IIT)をプロトコルに組み込んでいることである.IITははその後のメタ解析[17],VISEP trial[18],Glucontrol study[19],NICE-SUGAR study[20]でむしろ有害性が示されて姿を消すことになったものの,van den Bergheらは血糖コントロールをIITで十分に行いながら早期PN併用を開始すればよいアウトカムになるのではないかと考えてこの研究を行ったのではないかと推察されている.

■当然ながらIITを導入すればそれだけインスリン投与量も多くなる.体内インスリン総量が増加すると,そのインスリンが骨格筋タンパク分解抑制・ロイシンアミノ基転移反応抑制を誘導する結果,BCAA・アラニン(糖新生の主要な基質)・条件付き必須アミノ酸(グルタミン・アルギニン)の供給減少といった生理的なアミノ酸供給システムの障害が発現し,GLUT4経由で骨格筋に大量のグルコースが取り込まれてしまい,骨格筋細胞における酸化ストレス増強から筋タンパクの病的分解が発生することが報告されている[21,22]

■一方,今回のCALORIES trialではIITではなく,NICE-SUGAR trial発表以降に主流となりつつある,中等度の血糖管理(血糖値<180mg/dL)を用いている.そして,投与カロリーは25mg/kg/dayで開始し,48-72時間で目標カロリーを目指すようにしてoverfeedingを回避するようなプロトコルとなっている.

■CALORIES trialでもうひとつ注目すべきは,有害事象の感染症がPN群とEN群で有意差がなかったことである.これまではPN群で感染症が増加したとする報告が多かったことから考えれば意外ではある.また,通常ならば,ENでは胃食道逆流による肺炎,PN群ではカテーテル関連血流感染症が増加しそうであるが,感染症別で見ても全く差がない.これに関しては近年の人工呼吸器関連肺炎対策や血管ルート管理が進歩した結果だと執筆者らは考察で述べている.双方で生じうる有害事象がいずれもほぼ防止できており,感染対策もそこまで進歩したということの一傍証となる結果であろう.

[1] Moore FA, Feliciano DV, Andrassy RJ, et al. Early enteral feeding, compared with parenteral, reduces postoperative septic complications. The results of a meta-analysis. Ann Surg 1992; 216: 172-83
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[22] 寺島秀夫.侵襲下の栄養療法は生体反応への介入であり,その攪乱を惹起する―特にグルコース投与とインスリン療法の功罪に関する新事実―.第29回体液・代謝管理研究会年次学術集会教育講演2 2014 Jan.25 名古屋
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by DrMagicianEARL | 2014-10-06 12:16 | 文献 | Comments(0)
■日本の脂肪乳剤は大豆由来であり,n-6系脂肪酸が炎症を悪化させる懸念があるため急性期に使いにくい製剤です.一方,海外の脂肪乳剤には魚油由来のものがあり,こちらはn-3系脂肪酸であるため炎症病態でも使用しやすく,近年その効果が期待されています.現在神戸の方でn-3系脂肪酸が開発されていると聞いていますが,日本での製剤化販売は実現するんでしょうか?今回,ICU患者を対象にしたn-3系脂肪酸のRCTが発表されたので紹介します.OMEGA studyで推奨度が多少下がりましたが,このICU Lipid studyで復活するでしょうか?
重症患者における院内感染と臨床アウトカムにおけるn-3系多価不飽和脂肪酸を豊富に含んだ脂肪乳剤:ICU Lipid study
Grau-Carmona T, Bonet-Saris A, García-de-Lorenzo A, et al. Influence of n-3 Polyunsaturated Fatty Acids Enriched Lipid Emulsions on Nosocomial Infections and Clinical Outcomes in Critically Ill Patients: ICU Lipids Study. Crit Care Med 2014 Sep.15 [Epub ahead of print]
PMID: 25226273

Abstract
【目 的】
外科患者においてn-3系多価不飽和脂肪酸(魚油を含む)は免疫修飾作用により,感染率と臨床アウトカムに有益であることが示されている.一方で,重症患者における魚油の投与の研究結果については議論がなされている.本研究の目的は,内科・外科重症患者での院内感染発生と臨床アウトカムにおけるn-3系多価不飽和脂肪酸の効果を検討することである.

【方 法】
研究デザインは,前向き多施設共同二重盲検無作為化比較試験である.研究は4年間で,スペインの17のICUで行われた.対象は,APACHE IIスコアが13以上で,高カロリー輸液を少なくとも5日間必要と予想される内科外科ICU患者159例である.高カロリー輸液を投与されている患者は,10%魚油含有脂肪乳剤または魚油を含まない脂肪乳剤のいずれかに割り付けられた.院内感染発生率はICU在室中の28日間で検出した.入院期間,院内死亡率,6か月死亡率について,ICU退室後から6か月フォローした.

【結 果】
院内感染を呈した患者数は魚油含有脂肪乳剤群の方が有意に減少し(21.0% vs 37.2%, p = 0.035),感染のない期間が長かった(21±2日 vs 16±2日, p = 0.03).ICU,院内,6カ月の死亡率に有意差は見られなかった.

【結 論】
本結果は,重症内科・外科患者において,n-3系多価不飽和脂肪酸の投与が院内感染リスクを減少させかつ感染のない期間を増加させることを示している.n-3系多価不飽和脂肪酸の投与は安全であり良好な忍容性がある.

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by DrMagicianEARL | 2014-09-17 18:35 | 文献 | Comments(0)
昨年,グルタミン,セレンがICU患者の経腸栄養での効果が否定(グルタミンに至っては死亡率増加)された大規模RCTのREDOXS studyが報告されましたが,今度は免疫調整栄養そのものを否定する論文がJAMA誌にでました.栄養士さんにはショックな論文かもしれませんね.免疫調整投与は感染症を減少させず,人工呼吸器装着期間,臓器不全やICU在室・入院日数日数は改善せず,内科患者に限定したサブ解析では死亡率がむしろ増加しています.先月BMJ誌に報告された,早期強化リハビリテーションが予後を悪化させる結果となったRCTと同様,More is not always better,余計なことはするな,シンプルにいけ,ということでしょう.ただ,この研究,新規感染症発生率が50%を超えているのはちょっと気になりますが・・・
ICUにおける免疫調整栄養豊富な高タンパク経腸栄養と標準的高タンパク経腸栄養の比較と院内感染症:無作為化比較試験
van Zanten RH, Sztark F, Kaisers US, et al; High-Protein Enteral Nutrition Enriched With Immune-Modulating Nutrients vs Standard High-Protein Enteral Nutrition and Nosocomial Infections in the ICU: A Randomized Clinical Trial. JAMA 2014; 312: 514-24

Abstract
【背 景】
免疫調整栄養(例えばグルタミン,オメガ-3脂肪酸,セレン,抗酸化物質)の経腸投与は感染症を減少し,重症疾患からの回復を促進することが示唆されていた.しかし,ガイドラインでコンセンサスが得られていないこともあり,免疫調整経腸栄養の使用においては議論がなされている.

【目 的】
人工呼吸器を装着した重症患者において,免疫調整栄養豊富な高タンパク経腸栄養(IMHP)が標準的高タンパク経腸栄養(HP)と比較して感染症発生率を減少させるかを検討する.

【方 法】
このMetaPlus studyは,オランダ,ドイツ,フランス,ベルギーの14の集中治療室(ICU)において2010年2月から2012年4月まで,6ヶ月の追跡期間を含めて行われた無作為化二重盲検多施設研究である.72時間以上の人工呼吸管理と72時間以上の経腸栄養を要することが想定された計301例の成人患者を,IMHP群(152例)とHP群(149例)に無作為化し,intention-to-treat解析,内科,外科,外傷のサブグループでも解析を行った.介入は,ICU入室から48時間以内にIMHPまたはHPを開始し,最大で28日間,ICU在室中に継続して行った.主要評価項目は疾病管理予防センター(CDC)の定義に準拠した新規感染症発症とした.副次評価項目は,死亡率,Sequential Organ Failure Assessment(SOFA)スコア,人工呼吸管理期間,ICU在室および入院期間,CDC定義に準拠した感染症のタイプとした.

【結 果】
新規感染症発生は,IMHP群で53%(95%CI 44-61%),HP群で52%(95%CI 44-61%)であり,統計学的有意差がなかった(p=0.96).内科サブグループにおいてはIMHP群の方が6ヶ月死亡率が有意に高く(IMHP群54%(95%CI 40-67%),HP群35%(95%CI 22-49%); p=0.04),年齢,Acute Physiology and Chronic Health Evaluation II(APACHE II)スコアで調整した6ヶ月死亡のハザード比は1.57(95%CI 1.03-2.39; p=0.04)であり,それ以外の評価項目では有意差はみられなかった.

【結 論】
ICUで人工呼吸器を装着している成人患者において,HPと比較してIMHPは感染症合併率を改善せず,調整後6ヶ月死亡率を増加させることが示唆され,有害な可能性がある.この知見は,これらの患者においてIMHP栄養を使用することを支持しない.

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by DrMagicianEARL | 2014-08-06 18:45 | 文献 | Comments(0)
■ICU患者に対する早期リハビリテーションにおいて,標準的リハビリテーションよりもさらに先進的なもの(強化した有酸素運動や電気刺激などなど)をがっつりと取り入れるのはむしろよくないようです.副次評価項目とはいえ,RCTで長期死亡リスク1.74倍は無視できません.入院早期はやりすぎず,標準的リハビリテーションにとどめておくべき,というsuggestionになります.More is not always betterの原則はリハビリテーションにも適応されるということでしょう.
慢性呼吸器疾患の増悪による入院中の回復を強化するための早期リハビリテーション介入:無作為化比較試験
Greening NJ, Williams JE, Hussain SF, et al. An early rehabilitation intervention to enhance recovery during hospital admission for an exacerbation of chronic respiratory disease: randomised controlled trial. BMJ 2014; 349: g4315
PMID:25004917

Abstract
【目 的】
慢性呼吸器疾患増悪による入院急性期における早期リハビリテーション介入が12ヶ月以上での再入院リスクを減少させ,身体機能や健康状態への悪影響を減少させるかを検討する.

【方 法】
研究デザインは前向き無作為化比較試験である.研究は大学病院の急性期循環呼吸器ユニットと地区総合病院の急性期内科ユニットで行った.慢性呼吸器疾患増悪で入院してから48時間以内の45歳から93歳までの患者389例を,早期リハビリテーション介入群(196例)と標準ケア群(193例)に無作為に割り付けた.主要評価項目は12ヶ月時点で再入院率とした.副次評価項目は入院日数,死亡率,身体機能,健康状態とした.主要解析はITT(Intent-to-treat)で行い,二次アウトカムとしてPP(per--protocol)解析を行った.早期リハビリテーション群の患者は入院から48時間以内に開始し,6週間の介入を受けた.介入は,規定された,積極的有酸素運動,抵抗,神経筋電気刺激トレーニングが含まれた.また,患者は自己管理と教育パッケージも受けた.

【結 果】
389例のうち,320例(82%)が慢性閉塞性肺疾患(COPD)と診断された.233例(60%)は追跡年のうちに少なくとも1回は再入院した(介入群62%,対照群58%).両群間に有意差はみられなかった(HR 1.1; 95%CI 0.86-1.43; p=0.4).1年時点で介入群において死亡率の増加がみられた(OR 1.74; 95%CI 1.05-2.88; p=0.03).退院後に両群において身体機能,健康状態は有意に回復したが,1年時点で両群間に有意差はみられなかった.

【結 論】
慢性呼吸器疾患での入院中の早期リハビリテーションは,12ヶ月以上のイベント追跡において,再入院リスクを減少させず,身体機能回復を増強しなかった.12ヶ月時点での死亡率は介入群の方が高かった.この結果は,最近の標準的リハビリテーションを超えた先進的運動リハビリテーションを急性疾患早期に開始すべきではないことを示唆する.

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by DrMagicianEARL | 2014-07-17 00:00 | 文献 | Comments(0)

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