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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

カテゴリ:感染対策( 21 )

■入院患者の院内感染を疑った時,その鑑別疾患に末梢静脈カテーテル関連血流感染症は入っているでしょうか?中心静脈カテーテルであれば意識する方は多いですが,末梢静脈カテーテルでも血流感染は起きます.Makiら(Mayo Clin Proc 2006; 81: 1159-71)のシステマティックレビューによれば,末梢静脈カテーテルでも中心静脈カテーテルの約1/5の頻度で感染が起こるとされています.

■よく経験されるのは,アミノ酸輸液製剤(特にビーフリード®)に薬剤を混注する際にBacillus cereus(アルコール製剤耐性)が混入し増殖して感染を起こすケースです.また,皮膚定着菌による感染も生じることがあり,黄色ブドウ球菌だと厄介です.

■今回御紹介する論文は,末梢静脈カテーテル関連血流感染症62例をまとめた報告になります.
末梢静脈カテーテル関連血流感染症は重篤な合併症と潜在的死亡に関連する:後ろ向き観察研究
Sato A, Nakamura I, Fujita H, et al. Peripheral venous catheter-related bloodstream infection is associated with severe complications and potential death: a retrospective observational study. BMC Infect Dis 2017; 17: 434
PMID: 28623882

Abstract
【背 景】
本研究の目的は末梢静脈カテーテル関連血流感染症(PVC-BSIs)の臨床的特徴と予後を抽出し,重篤な合併症や死亡のリスクについて検討することである.

【方 法】
東京の2つの大学附属病院において,2010年6月から2015年4月までの後ろ向き観察研究を行った.我々は,血液培養陽性でPVC-BSIsと診断された62例の入院患者について,臨床症状,基礎疾患,検査結果,治療方法,再発率,合併症について検討した.

【結 果】
入院から菌血症発生までの中央期間は17日間(範囲3-142日間)であり,カテーテル挿入から菌血症診断までは6日間(範囲2-15日間)であった.カテーテル挿入部位は腕が48例(77.4%),足が3例(4.8%),記録なしが11例(17.7%)であった.加えて,原因店異物は,グラム陽性菌が58.0%,グラム陰性菌が35.8%,カンジダが6.2%,複数菌種が25.8%であった.8例(12.9%)の患者が血液培養陽性から30日以内に死亡した.PVC-BSIsの死亡患者は,黄色ブドウ球菌感染の率が生存患者よりも高かった(OR 8.33; p=0.004)

【結 論】
PVC-BSIsは医療関連感染の明らかな原因となりうる.合併症で集中治療や抗菌薬の長期間治療を要する重篤なPVC-BSIsのケースが見られ,いくらかの患者が死亡している.PVC-BSIs患者において,黄色ブドウ球菌菌血症は予後に影響しうる可能性がある主要な問題である.

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by DrMagicianEARL | 2017-06-20 11:19 | 感染対策 | Comments(0)
■つい先日,天皇陛下も肺炎球菌ワクチンを接種されておられました.肺炎球菌感染症は,インフルエンザと同様に厚生労働省のB群予防疾患としてワクチン接種が推奨されています.このB群予防疾患は重症化予防を重点においていますが,海外では既に,65歳以上の肺炎球菌ワクチン接種(プレベナー®)により重症化予防のみならず肺炎球菌肺炎発症予防効果もあることが84496例を登録した二重盲検RCTであるCAPITA studyで報告されています.

■今回,本邦において肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス®)の肺炎球菌に対する予防効果を検討した研究が報告されましたので紹介します.結果は全ての肺炎球菌肺炎を27.4%,PPV23に合致する血清型では33.5%減少させる予防効果が示されました.日本において重症化予防のみならず発症予防効果をも示せたことは大変意義のあることです.
65歳以上の成人における肺炎球菌肺炎に対する23価肺炎球菌ポリサッカライドワクチンの血清特異的効果:多施設前向き症例対照研究
Suzuki M, Dhoubhadel BG, Ishifuji T, et al; Adult Pneumonia Study Group-Japan (APSG-J). Serotype-specific effectiveness of 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine against pneumococcal pneumonia in adults aged 65 years or older: a multicentre, prospective, test-negative design study. Lancet Infect Dis. 2017 Jan 23. [Epub ahead of print]
PMID: 28126327

Abstract
【背 景】
65歳以上の成人において,肺炎球菌肺炎に対する23価肺炎球菌ポリサッカライドワクチン(PPV23)の血清特異的効果はまだ確立されていない.我々は本集団においてPPV23の効果を評価した.

【方 法】
本多施設共同前向き研究においては,2011年9月28日から2014年8月23日まで研究を行う日本の4つの病院を受診した65歳以上の市中肺炎全例を登録した.肺炎球菌は喀痰と血液検体から分離し,莢膜Quellung法によって血清型を決定した.喀痰検体は肺炎球菌DNA抽出のためPCRアッセイによってさらに検査を行い,陽性検体はナノ流体リアルタイムPCRアッセイによって50の血清型に判定した.尿検体は尿中抗原で検査を行った.血清特異的ワクチンの効果は症例対照デザインを用いて推定した.

【結 果】
研究病院に2621例の患者が受診し,そのうち585例は喀痰検体が得られず解析から除外となった.2036例の患者のうち419例(21%)は肺炎球菌感染が陽性であった.(喀痰培養で232例,喀痰PCRで317例,尿中抗原検査で197例,血液培養で14例).522例(26%)の患者はワクチン接種を受けていたと判定された.PPV23による予防効果は,全ての肺炎球菌肺炎を27.4%(95%CI 3.2 to 45.6),PPV23に合致する血清型では33.5%(5.6 to 53.1),PPV23に合致しない血清型を2.0%(-78.9 to 46.3)減少させた.サブグループでは有意差は見られなかったものの,75歳未満,女性,大葉性肺炎または医療ケア関連肺炎においてより高い予防効果がみられた.

【結 論】
PPV23は65歳以上においてワクチン血清型肺炎球菌肺炎に対する低~中等度の予防効果を示した.現在の肺炎球菌ワクチンプログラムを改善させるため,高齢者の異なる集団におけるPPV23効果の変動性についてさらなる検討が必要である.

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by DrMagicianEARL | 2017-02-01 14:30 | 感染対策 | Comments(0)
■ジャーナリストであり医師でもある村中璃子氏がウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿した「日本の反ワクチンパニック拡散を止めること」の記事が日本語訳がでないとのことですので,本ブログでざっと日本語での要約と補足資料を置いておきます.全文および原文はWSJサイトで御確認ください.内容は主にHPVワクチン(ヒトパピローマウイルスワクチン:子宮頸がんワクチン)と池田修一氏の不適切な研究についてですが,MMRワクチンで自閉症を発症するという捏造を行い医師免許取り消しとなったウェイクフィールド氏にも触れています.

■読んでいただければ分かる通り,反HPVワクチン騒動は日本の問題のみではなくなってきているようです.ワクチンに限った話ではないですが,根拠なき恐怖がもたらす実害は想像をはるかに超えた大きなものとなりえます.
全文・原文
Stopping the Spread of Japan’s Antivaccine Panic
Riko Muranaka
http://www.wsj.com/articles/stopping-the-spread-of-japans-antivaccine-panic-1480006636
日本の反ワクチンパニック拡散を止めること
寄稿:村中璃子氏

主な内容

■2013年6月、HPVワクチンが全国予防接種プログラムに含まれてからわずか2カ月後に有害な副反応疑いの報告が多数明らかとなったため、日本政府は積極的接種推奨を中止し、接種対象年齢層の女子のワクチン接種率は約70%から1%以下に低下した。
※日本産婦人科学会が同様のデータを発表しています。

■子宮頸がんは日本では毎年約9,300例の浸潤性子宮頸癌があり3,000例が死亡しており、多くは、HPVワクチンによって予防することができるものである。HPVワクチンの効果、有効性、安全性は何度も証明されていて、世界保健機構(WHO)および日本の医療機関によって支持され推奨されている。
※疫学データ,ワクチンについての詳細は以下の国立がん研究センターサイト,厚生労働省ホームページが参考になります
http://ganjoho.jp/public/cancer/cervix_uteri/
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/qa_shikyukeigan_vaccine.html

■日本の厚生労働省の厚生科学審議会が策定した「ワクチン副反応検討部会」は、HPVワクチンと症状に因果関係はなく、ほとんどの症例は心身症の可能性が高いと結論づけた。名古屋市での約7万例の解析でも、ワクチン誘発症状とHPVワクチンとの間には有意な関連性は見られなかった。
※名古屋市のデータに関しては以下を参照ください(Wedge2016年6月)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7148

■しかし、2016年3月16日に、有害事象を調査するために政府から委託された主任研究者である信州大学の池田修一氏が、厚生労働省の科学研究費補助金の委員会で誤解を招く遺伝子やマウスの実験データを提示し、同日にテレビで「間違いなく脳障害の徴候がある。この結果は、このような脳障害を訴える患者に共通する客観的な所見を明確に反映している」と語っている。

■Wedge誌(2016年7月号参照)で村中璃子氏が報告した通り、ワクチン接種患者に統計的に有意な遺伝型はないことが判明、また、自己抗体沈着の証拠として提示された緑色蛍光の脳切片はワクチンを接種されたマウスのものではなく、1匹のマウスのみが使用されたチャンピオンデータであった。この告発のもと、信州大学は調査委員会を設置して調査を行い、11月15日に、信州大学は村中璃子氏の告発内容に同意する内容の記者会見を行ったが、データ捏造にはあたらないとした。一方で池田氏は実験の再現性を実証することを要求され、厳重注意を受けた。
※厚生労働省ホームページ参照
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/tp160316.html
※2016年11月16日読売新聞を参照
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20161116-OYTET50005/

■厚生労働省は「厚生労働省としては、厚生労働科学研究費補助金という国の研究費を用いて科学的観点から安全・安心な国民生活を実現するために池田班への研究費を補助しましたが、池田氏の不適切な発表により、国民に対して誤解を招く事態となったことについての池田氏の社会的責任は大きく、大変遺憾に思っております。また、厚生労働省は、この度の池田班の研究結果ではHPVワクチン接種後に生じた症状がHPVワクチンによって生じたかどうかについては何も証明されていない、と考えております。」という前例のない声明を発表した。
※厚生労働省ホームページ参照
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/tp161124.html

■2016年7月以降、数十名の副反応疑いの被害者が、各地の地方裁判所に日本政府とワクチン製造会社に対して訴訟を起こした。日本のメディアはこの訴訟を取り上げたが、医学的根拠については無視しており、これは、原告の主張に対する信頼性を不当に高めている。

■HPVワクチンの問題は過去最大のワクチンスキャンダルであるウェイクフィールド事件を連想させる。1998年、アンドリュー・ウェイクフィールド氏はMMRワクチンが自閉症を引き起こしたという証拠としてLancet誌に「科学的データ」を発表したが、後に捏造であったことが判明し、2010年に論文は取り下げ、医師免許は取り消しとなっている。
※下の方にあるリンク参照

■今年の初めに、ウェイクフィールド氏は「Vaxxed:From Cover-Up to Catastrophe」という映画を発表した。自閉症の子どもをもつロバート・デ・ニーロがトライベッカ映画祭でこの映画を上映しようとした。これにより、米国での反ワクチン感情が再び高まった。
※補足:実際にはトライベッカ映画祭で上映されることが発表されると「科学的な信憑性が低い」との批判を浴び、上映中止となった。しかし、配給会社はマンハッタンのアンジェリカ・フィルム・センターで公開した。

■我々は傍観して科学的ではない主張が全世界の人命を危険にさらすような状況を許容すべきでない。日本政府はHPVワクチンの積極的な接種勧告を復活させ、他国もワクチンの不合理な恐怖がさらに勢いづく前に、肯定的な範を示すべきである。
【文献】ワクチンやそれに含まれるチメロサール,水銀は自閉症と関連しない.メタ解析(Wakefieldの論文捏造の詳細含む)
http://drmagician.exblog.jp/22025386/

MMRワクチンと自閉症の関連性に関する2014年8月の騒動について(Brian Hookerの不適切論文撤回)
http://drmagician.exblog.jp/22464500/

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by DrMagicianEARL | 2016-12-19 11:06 | 感染対策 | Comments(0)
2012年10月15日作成
2014年10月15日改訂


世界手洗いの日(Global Handwashing Day)
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■10月15日は世界手洗いの日(Global Handwashing Day)である.これは,UNICEF・世界銀行などからなる「せっけんを使った手洗いのための官民パートナーシップ」が2008年から実施されているもので,感染症の予防のため、石鹸を使った正しい手洗いの方法を広めるための活動が世界各地で行われる.

1.医療従事者の手指衛生

(1) WHO,CDCの推奨

■世界保健機関(WHO)は,手洗い・手指衛生(hand hygiene)を「決して付加的な行為ではなく,それ自体が不可欠な医療行為である」としている.しかしながら手指衛生はどの病院においてもきっちり守られているとはいえない現状がある.WHOガイドライン作成者でもあるPittetらの報告では,手指衛生実施率はほぼ50%を下回っている[1].仕事が忙しい(=ケアの頻度が増す)につれて,通常ならば手洗いの必要回数が増えるにもかかわらず,実際には手洗い実施率が極端に低下することも報告されている[2].手指衛生は耐性菌保有患者に接触するときのみに行うものではなく,全患者のケアにおいてなされるべきものである.

■医療従事者の手指が媒体となり,病原体の感染伝播が発生する5段階についてPittetらは警鐘をならしている[3]
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第1段階:患者の皮膚や患者周囲環境に病原体が存在する
皮膚には100-100万個/cm^2の常在菌が存在し,腋窩部や鼠径部には特に多い.健常な皮膚からは1日に100万個の落屑があり,細菌と一緒に剥がれ落ちる.MRSAなどの耐性菌が皮膚に定着している患者においては患者の皮膚のみならず周囲の環境から大量に耐性菌が検出される.Kramerらが各病原体の乾燥環境下での感染性持続時間を報告しているので参考にされたい[4].この報告を見ても分かる通り,数ヶ月以上生存可能な菌は非常に多い.

第2段階:医療従事者の手によって微生物が運搬される
医療ケアを行えば医療従事者の手指は10-20%が病原体で汚染され,菌が100-1000CFU付着する.これが衣服,パソコンのキーボードやPHS,ドアの取っ手をはじめさまざまな部位に触ることで他の医療従事者にも伝播されていく.実際,聴診器,ネクタイ,あごひげ,ネクタイなども汚染されていることが多数報告されている[5-11].医療現場ではネクタイ着用はしないよう英国医師会が提案しており[12],あごひげがある男性も剃るべきである[10]

第3段階:微生物は手の皮膚上で最低数分間は生存している
手指に付着した病原体はアシネトバクター属で60分,緑膿菌で30分程度は生存している.

第4段階:医療従事者による手指衛生が未実施,または,不適切である

第5段階:汚染された手指が別の患者と直接接触,あるいは患者が直接触れる可能性のある環境に付着する.

■米国CDCの隔離予防策ガイドライン[13]においては,手指衛生は標準予防策の構成要素の第1番目に挙げられており,①血液・体液などに触れた後,②手袋を外した直後,③次の患者をケアする前,の3つのタイミングが示されている.WHOでは“Clean care is safer care〝をスローガンに手指衛生の実施率改善に努めており,手指衛生の必要な5つの具体的場面を設定している[14]
① 患者に接する前(Before Patient Contact)
② 無菌的処置を行う前(Before Aseptic Task)
③ 体液曝露の可能性があった後(After Body Fluid Exposure Risk)
④ 患者に接した後(After Patient Contact)
⑤ 患者周囲環境に接した後(After Contact With Patient Surroundings)

■手指衛生には通常石鹸または消毒薬成分含有石鹸(スクラブ剤など)と水による手洗いと,水をしようしないアルコールをベースにした製剤の使用が含まれる.特に前述のCDCガイドラインで挙げられた3つの場面での手指衛生の必要性を述べた報告は多い[15-20]

(2) 手袋は手洗いの代用とはならない

■手袋の着用は手洗いの代用ではなく,手袋の着用が手洗い不要の理由とはならない.手袋を外す際にどれだけ注意を払っても手指は汚染される.また,手袋には微小孔(ピンホール)が医療従事者が考えているよりはるかに多く存在し,着用後にもピンホールは生じうる.実際,未使用の手袋でも微小な穴が1-7%存在し,再生処理したものでは10-75%の微小孔を認めたと報告されている[21].日本グローブ工業会によると,たとえ手術時の滅菌グローブであっても少なくとも1.5%にピンホールが空いているとされている.実際に手袋を脱いだ手から患者と同一菌が1.7-4.2%の割合で検出されている[22]

※2014年10月,テキサス州でエボラ出血熱患者がでた際に,ケアにあたった看護師がエボラ出血熱に感染した.この看護師はPPE(シールド付きマスク,キャップ,ガウン,手袋)によるmaximal barrier precautionをしていたにもかかわらず感染しており,PPEを脱ぐ際に手指に付着した可能性が指摘されている.適切なPPE着脱のチェックが必要である.

(3) 手指衛生の方法,流水手洗い後の乾燥について

■手の除菌という観点からは多くの場合,消毒薬成分含有石鹸や速乾性手指消毒薬の使用が,普通石鹸による手洗いより優れている[23,24].よって,目に見える汚染がある場合には流水による手洗いが推奨されるが,簡便さや除菌効果を考慮すると,それ以外の場合にはアルコール系消毒薬を含有した速乾性手指消毒薬の使用が適している.また,石鹸と流水による手指衛生のエビデンスの多くが,手洗い時間が30秒~1分の検討であるのに対し,実際の臨床現場では平均15秒未満である.なお,時間が短いほど石鹸成分が残留し,手荒れの原因となる.

■また流水の場合,乾燥に時間もかかる.これに対し,特定の洗い場の必要がなく,即効性があり,自然乾燥に時間のかからないアルコール製剤は臨床現場の実情に合っており,手指衛生遵守率を上昇させる可能性が高い.手洗い後の手指の乾燥はしばしば軽視されており,ペーパータオル3枚程度を使わなければ十分な乾燥はできない.濡れた手は乾燥した手の100-1000倍の菌を運ぶ[25].また,不十分な乾燥ではその後の手袋装着時に手指に余計な刺激を与えたり手袋が損傷する原因となる.手荒れを最小限に抑えるため,温水は使用せず,品質のよい紙タオルで(ゴシゴシこするのではなく)軽く叩くようにして水気をきるようにする.

■ただし,ノロウイルスなどの一部のウイルスや芽胞(Clostridium difficileなど)などにはアルコール系消毒薬は効果が低いことを確認し,石鹸や流水による手洗いを適宜組み合わせることが望ましい.ノロウイルスにおいてはin vitroで,30分間のエタノール製剤曝露によっても除去できないことが報告されている[26]

Clostridium difficile関連下痢が治癒してから間もない患者の皮膚,特に腹部,胸部にはCDが保菌されていることが報告されている[27].下痢が治ってからClostridium difficileの保菌率が50%以下になるのに7日間を要している.これは今後の院内での感染対策において大きな影響がある可能性がある.下痢症状が治ってもなお皮膚にClostridium difficileが保菌されている場合,院内伝播のリスクが大きく,下痢が治ってからも接触感染対策の期間を考慮しなければならない.

■手指消毒薬に菌が耐性化することは通常濃度で使用される限りはありえないため,抗菌薬のように消毒薬をローテーションさせる必要はない.

■ICUでの手洗いの水の水質に関してはCDCガイドラインにもはっきりした記載はなく,水道水でも十分であるという意見もあり,水質の定期的な細菌培養検査を行って十分な監視体制がとられている施設では水道水でよいが,そうでない施設では滅菌水が望ましい.また,水道管内に滞留している水にレジオネラが増殖することがある.このため,水を使用するときは最初の水をある程度流してから使用すべきかもしれない.

(4) 手指衛生遵守率の実態とその改善のために何をすべきか?

■どの施設でも指摘されているが,手指衛生の遵守率が最も低いのは医師である.大学病院多施設調査では,手の汚染と遵守率が最もひどいのは教授であり,若い医師ほど手指衛生遵守率が高いとされている.しかしながらその若い医師ですら看護師と比較すると手指衛生遵守率ははるかに低いのが現状である.手指衛生を調査した本邦4施設共同3545例観察研究[28]では,適切な手指衛生順守率は19%(医師15%,看護師23%)と報告されている.

■この数値から,院内感染・耐性菌水平伝播の原因に手指衛生不足がかかわっている可能性がかなり高いことが伺える.中には患者に触れさえしなければ院内感染は起こらないと考えている医師すらいるが大きな間違いである.これらの意識啓発をベテラン医師に行ってもおそらくは遵守率改善は望めない.よって,「鉄は熱いうちに打て」の通り,研修医から手指衛生を体で覚えさせる必要がある.また,サーベランスで,同一主治医から同一耐性菌を検出している場合は,ICTからその医師に対して手指衛生指導を行う必要もあるだろう.

■医療従事者以外,すなわち患者や患者家族などの手指衛生はついつい忘れられがちである.病院訪問者の手洗いの順守率は25%と非常に低いが,積極的な手洗い励行の介入によって遵守率は68%まで著明に改善し,長時間訪問者では77%まで改善したと報告されている[29].感染対策上必要であることを説明し,病室の出入りの際の手指衛生実施に協力いただけるようにすべきである.

■手指衛生を改善するための方策をWHOが提案している.
① システム変更(インフラ整備)
・アルコール式手指消毒剤をケア現場のすべてに配置
・手洗い場には液体石鹸,ペーパータオル,ごみ箱の設置
② 訓練と教育
・WHOが推奨する手指衛生の必要な5つの場面に基づく定期的な教育と正しい手指衛生手技の訓練
③ 評価と還元
・職員間で知識を共有および手指衛生実施状況調査の実施とその還元
④ 現場に手洗いのポスター掲示
・手指衛生の重要性を忘れないための手技やタイミングに関するポスターの掲示
⑤ 施設での医療安全の文化づくり
・手指衛生の改善を最重要事項とし,患者の安全を意識させる環境づくり
※個々の医療スタッフが速乾性消毒剤を持ち歩くのも有効である.

■知識・認識・行動制御・促進といった因子だけでは手指衛生の改善には十分でなく,行動の変化の決定要素に焦点をあてることでより手指衛生の改善がより有効なものとなる[30]

■各病院の手指衛生の状況を数値化する最も簡便な手段は手指消毒薬使用量データであり,各病院の感染対策室はこの数値を算出すべきと思われる.これに関しては,アルコール消毒薬の使用量で評価すると参考になる.具体的には,1回あたりの使用量が3cc(ヒビスコール®では1プッシュ1.5ccで1回あたり2プッシュ必要)として,全使用量を患者数×期間で割った「1人の患者につき1日に使用される量」を算出する.一般的には15cc/患者人/日が最低の標準ラインとされている.ただし,病室に入るときと出るときの最低2回を考えても,15cc/患者人/日だと消毒回数5回,すなわち2.5回しか病室に出入りがない計算になるため,実はこれでも少ない.

■手指衛生用速乾性アルコール消毒薬の使用量を増加させる一手段として,各スタッフが携帯式の消毒薬を持つことであり,これにより多くの施設で消毒薬使用量が増加した.

■SHEA/IDSAによる手指衛生のガイドライン[31]が発表されているので参考にされたい.

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by DrMagicianEARL | 2016-10-15 07:00 | 感染対策 | Comments(0)
■米国ではワクチンによって麻疹が排除され,「日本人を見たら麻疹と思え」なんて言われていたこともありました.しかし,その後,「もはやワクチンは不要」と言わんばかりの手の平の返しようで麻疹ワクチンを非科学的根拠で叩く人たちが増え,その結果米国で麻疹のアウトブレイクが起こることとなりました.

■Wakefieldの論文(後に捏造と判明)によって起こってしまった反ワクチン主義の方々のデマの吹聴により,それを鵜呑みにした親がワクチンを接種しなくなってしまう,なんて現象は国内外でよく見られます(Wakefieldの捏造,およびBrian Hookerの不適切論文撤回は以下を参照).
【文献】ワクチンやそれに含まれるチメロサール,水銀は自閉症と関連しない.メタ解析(Wakefieldの論文捏造の詳細含む)
http://drmagician.exblog.jp/22025386/

MMRワクチンと自閉症の関連性に関する2014年8月の騒動について(Brian Hookerの不適切論文撤回)
http://drmagician.exblog.jp/22464500/
■SNS上でも私はよく反ワクチン主義者から突然喧嘩をふっかけられますが,彼らの口からは科学的根拠がまったく出てこず,議論しても陰謀論しか出てきません(論文は全部嘘だの金儲けだの人口削減計画だの).知識の元も怪しいブログばかりからしか引用してこないので嘘ばかりでてきます.挙句の果てに職場を教えろだのワクチン推進してるなら医師失格だのまあいろいろ言われますよ(笑).ちなみに,残念なことに医療従事者でワクチン関連で陰謀論を言ってる人もたまにいます・・・

■今回紹介する論文は,JAMA誌に掲載された,米国での麻疹・百日咳のアウトブレイクとワクチン接種拒否との関連性についてのレビューです.ワクチンでその疾患がほとんどみられなくなってもワクチン拒否している人がいればそのうちアウトブレイクが起こるべくして起こるわけです.日本でも他人事ではありません.日本脳炎や狂犬病等・・・
米国におけるワクチン拒否とワクチンで予防可能な疾患の関連性:麻疹と百日咳のレビュー
Phadke VK, Bednarczyk RA, Salmon DA, et al. Association Between Vaccine Refusal and Vaccine-Preventable Diseases in the United States: A Review of Measles and Pertussis. JAMA 2016 Mar 15;315(11):1149-58
PMID:26978210

Abstract
【背 景】
親が子供へのワクチン接種を躊躇することは,ルーチンでの予防接種を遅らせたり,州が義務付けているワクチン接種の免除を求めたりする可能性がある.米国においてワクチンで予防可能な疾患の最近起こったアウトブレイクはこの現象が注目されている.ワクチン接種拒否とこれらの疾患の疫学との間の関連性について改善された理解が必要である.

【目 的】
最近米国でアウトブレイクが生じた,ワクチンによって予防可能な疾患である麻疹および百日咳のワクチン接種遅延・拒否・免除とその疫学との関連性を評価するため,出版された文献のレビューを行った.

【方 法】
米国において麻疹が排除されたと宣言されて以降(2000年1月1日以降)に生じた米国の麻疹アウトブレイクの報告,米国での百日咳発生率が最も低いとき以降(1977年1月1日以降)の百日咳のエンデミックおよびエピデミック,およびワクチン接種遅延や免除において疾患のリスクを評価した研究について2015年11月30日にPubMedでの検索を行った.

【結 果】
18報の麻疹の研究(9報の年次要約と9報のアウトブレイク報告)が抽出され,麻疹例は1416例(年齢幅2週-84歳;178例は12か月未満)であり,麻疹ワクチン接種歴のない患者が過半数(56.8%)であった.詳細なワクチンデータのある970例の麻疹例のうち,574例はワクチン接種可能であったにもかかわらずワクチンを接種しておらず,405例(70.6%)は非医学的な免除であった(医学的禁忌とは対照的に,例えば,宗教や信条による理由が全部で41.8%であった).百日咳アウトブレイクの32報では,ワクチン接種状態が報告されている10609例(年齢幅10日-87歳)が含まれ,5つの最大の州全体でのエピデミックではワクチン未接種またはワクチン接種不十分(追加接種を受けていない)な人がかなりの比率であった(24-45%).しかしいくつかの百日咳アウトブレイクはワクチン接種率の高い集団においても発生しており,免疫の減衰が示唆されている.9報(12件のアウトブレイクを記載)がワクチン非接種例の詳細なワクチンデータが得られており,そのうちの8つのアウトブレイクではワクチン未接種者の59-93%がワクチン接種を意図的に避けていた.

【結 論】
排除された後の年において,米国の麻疹例のかなりの割合が意図的にワクチン接種を避けていた.ワクチン拒否の現象は,ワクチンを拒否した人とワクチン接種を完了した人における麻疹リスク増加に関連していた.百日咳の再興は,免疫の減衰やその他の要因に起因しているが,ワクチン拒否はいくつかの集団における百日咳リスクの増加と関連していた.

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by DrMagicianEARL | 2016-04-13 11:57 | 感染対策 | Comments(0)
■子宮頸がんを予防する目的で日本でも導入されたヒトパピローマウイルスワクチン(HPVV,通称「子宮頸がんワクチン」)は、接種後に有害事象がでたことが問題となり,積極推奨からはずれることになった経緯がある.

■ワクチンでは副反応が問題とされやすい.ワクチンはその性質上,免疫系の副反応を多少ともなうことは避けられない.また,ワクチンは健康な人間に接種されるため,病気を発症している患者に投与される薬剤とは異なり,副反応に関するハードルは高くなってしまい,過剰にたたかれる要因となっている.ワクチン接種後に発生した疾患や死亡に関して,ワクチンとの関連性を判定することは基本的には不可能であり,あくまでも前後関係に過ぎない.しかしながらこれらが因果関係ととられる誤解が生じ,結果的にワクチンの風評を生み出していることも少なくない.

■このような性質をもつワクチンは,いわゆる薬害団体や反医療主義者,科学的根拠のない医療推進者の餌食となりやすく,過剰なまでの反ワクチン主義をもたらし,ワクチン接種の妨げの一因となっている.厄介なことに,ワクチン反対論者は製薬メーカーのビジネスとからめた陰謀論を唱え,常に科学的研究法や科学的研究論文の査読を拒絶する特徴がある.これがエスカレートし,中には医師が反ワクチン団体から利権をもらうケースも存在する.

■子宮頸がんワクチンにおいてはその傾向が顕著に表れた.危惧されるのは,これらの反ワクチンの支援団体が被害者をプロパガンダとして利用するケース,さらにはそこに群がるニセ医療の集団である.結果的にこれらは,ワクチンによる真の副反応の病態解明を阻み,適切な治療救済すら受けられなくなることである.ここに嵌ればまず後戻りはできなくなる.

■ワクチン接種後に生じた有害事象をすべてワクチンが原因と短絡的に決めつければ,当然ながら真の副反応以外のノイズが大きくなってしまい,感度特異度の高い検査・診断が困難となる.そのためにも他の疾患を除外する必要があり,当然ながらそこには精神疾患や思春期特有の心因性のものが含まれてくる.これらの患者を除外していくことでより正確な副反応の解明につながり,治療法発見の契機になると思われる.しかし,これらの「心因性」「精神疾患」は,これも重要な他疾患のサインであるにもかかわらず,おおむね被害者家族には受け入れがたいようである.科学的検証はここでストップしてしまっているとも言える.

■より科学的検証を,と医師が声をあげても,被害者支援団体ががっちりガードするどころか,むしろ返ってくるのは陰謀論も含む誹謗中傷であるケースはよくあり,実際私もワクチン関連でのエビデンスを述べると,誹謗中傷が飛んできたばかりか勤務先を教えろという脅迫にも近い発言を受けたことがある.

■以下に紹介するのは,医師でありジャーナリストである村中璃子氏によるHPVVの記事である.おそらく,この視点から記事を書くことは相当な覚悟が必要であっただろうし,反ワクチン団体からの激しいバッシングが出てくることも容易に想像できる.だが,この視点で子宮頸がんワクチンの問題にメスを入れる必要は確実にある.長文3篇ではあるが,是非読んでいただきたい記事である.
あの激しいけいれんは本当に子宮頸がんワクチンの副反応なのか 日本発「薬害騒動」の真相(前篇)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5510

子宮頸がんワクチン薬害説にサイエンスはあるか 日本発「薬害騒動」の真相(中篇)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5525

子宮頸がんワクチンのせいだと苦しむ少女たちをどう救うのか 日本発「薬害騒動」の真相(後篇)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5530

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by DrMagicianEARL | 2015-10-24 14:48 | 感染対策 | Comments(0)
■肺炎球菌は,インフルエンザと同様に厚生労働省のB群予防疾患としてワクチン接種が推奨されています.このB群予防疾患は重症化予防を重点においており,今回プレベナー13®でそれに見合った大規模RCTとindirect protectionまで検討した観察研究が報告されましたので紹介します.当院を含む地域では肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス®ですが)が積極推奨された結果か,重症肺炎球菌肺炎は激減しつつあり,臨床的な感覚にも合致します.

■インターネット上では,何名かの開業医さんが自分のホームページにおいて肺炎球菌ワクチンを否定する内容を書いています.しかし,その根拠は自分の診療経験であり,「肺炎球菌ワクチンを接種しても肺炎になる患者がいるので当院では接種をやめた」という,細菌学的・疫学的考察も肺炎球菌ワクチンの目的も無視した勘違いもしくは根拠に欠ける内容が目立ちます.プライマリーケア最前線の現場で科学的根拠の欠落した情報発信をされているのは非常に残念としか言いようがありません.

■重症肺炎球菌肺炎の中には,適切かつ迅速な治療を行っても急速な増悪の経過をたどる劇症例が存在します.気管支鏡を行うと,気管支の奥の方から褐色の水のような喀痰がいくらでもわきでてきて,人工呼吸器を装着しても呼吸状態が維持できず,わずか24時間程度で死亡に至るようなケースを経験されている先生もおられるかと思います.また,このような劇症例でなくとも,敗血症に相当する重症例に罹患した高齢者は救命できてもその後の機能予後が著しく低下することはしばしば経験され,このような患者を減らす上でも肺炎球菌ワクチンを今後も推奨していく必要があると思います.

■また,ニューモバックス®,プレベナー®が推奨される流れで注意すべきは,カバーされていない他の肺炎球菌株によるブレークスルーが地域単位で生じてくる可能性です.実際に観察研究の方でそのブレークスルーの可能性が示されています.

成人の肺炎球菌肺炎に対する多糖類コンジュゲートワクチン(プレベナー13®),CAPITA study
Bonten MJ, Huijts SM, Bolkenbaas M, et al. Polysaccharide conjugate vaccine against pneumococcal pneumonia in adults. N Engl J Med 2015; 372: 1114-25
PMID:25785969

Abstract
【背 景】
肺炎球菌多糖類コンジュゲートワクチンは乳児において肺炎球菌感染症を予防するが,65歳以上の肺炎球菌による市中肺炎に対する効果は知られていない.

【方 法】
65歳以上の成人84496例を登録した本無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験において,我々はワクチンタイプの肺炎球菌株による市中肺炎,非細菌性と非侵襲性の肺炎球菌による市中肺炎,侵襲性肺炎球菌感染症の最初のエピソードについて13価多糖類コンジュゲートワクチン(PCV13)の効果を検討した.標準的検査方法と血清型特異的尿中抗原検出アッセイを市中肺炎と侵襲性肺炎球菌感染症の検出に用いた.

【結 果】
ワクチンタイプの株による感染症の最初のエピソードのper-protocol解析において,市中肺炎はPCV13群で49例,プラセボ群で90例発生し(ワクチン効果45.6%; 95.2%CI 21.8-62.5),非細菌性と非侵襲性市中肺炎はPCV13群で33例,プラセボ群で60例発生し(ワクチン効果45.0%; 95.2%CI 14.2-65.3),侵襲性肺炎球菌はPCV13群で7例,プラセボ群で28例発生した(ワクチン効果75.0%; 95%CI 41.4-90.8).効果は試験期間中持続した(平均フォローアップ期間3.97年).調整したintention-to-treat解析でも同様の効果が観察され(ワクチン効果はそれぞれ37.7%,41.1%,75.8%),市中肺炎はPCV13群で747例,プラセボ群で787例発生した(ワクチン効果5.1%; 95%CI -5.1 to 14.2).重篤な有害事象や死亡は両群間で同等であったが,PCV13群で局所反応が多かった.

【結 論】
高齢者において,PCV13はワクチンタイプの肺炎球菌,細菌性,非細菌性の市中肺炎,侵襲性肺炎球菌感染症を予防するが,あらゆる原因での市中肺炎予防効果はみられなかった.
英国およびウェールズにおける,導入後4年間の侵襲性肺炎球菌感染症における13価肺炎球菌コンジュゲートワクチンの効果
Waight PA, Andrews NJ, Ladhani SN, et al. Effect of the 13-valent pneumococcal conjugate vaccine on invasive pneumococcal disease in England and Wales 4 years after its introduction: an observational cohort study. Lancet Infect Dis 2015 Mar 19 [Epub ahead of print]
PMID:25801458

Abstract
【背 景】
13価肺炎球菌コンジュゲートワクチン(PCV13)は,7価ワクチン(PCV7)のルーチン接種後に増加した血清型の増加を防ぐが,集団免疫や血清型のブレークスルーの可能性については不明確である.

【目 的】
本研究の目的は,英国およびウェールズにおいて導入後4年間の侵襲性肺炎球菌感染症に対する13価肺炎球菌コンジュゲートワクチンの効果を解析することである.

【方 法】
我々は,PCV13導入前およびPCV7導入前をベースラインとして,2013年7月から2014年6月までのワクチンタイプと非ワクチンタイプの侵襲性肺炎球菌感染症の発生率を推定するために,英国とウェールズにおける電子的報告および侵襲性肺炎球菌感染症例の血清型の国のデータセットを用いた.発生率は血清型データの欠落と時間の経過によるサーベランス感度の変化で補正した.発生率と信頼区間の推定は過分散ポアソンモデルを用いた.

【結 果】
2013/2014年の疫学的な侵襲性肺炎球菌感染症の発生率は,PCV13導入前に比して32%減少していた(2008-10年の発生率10.14/100000 vs 2013/14年の発生率6.85/100 000; 発生リスク 0.68, 95%CI 0.64-0.72),.これは,PCV7がカバーする血清型が86%減少したこと(1.46 vs 0.20/100000; 発生リスク 0.14, 95%CI 0.10-0.18),PCV13によってカバーされたさらなる6種類の血清型が69%減少したことによる(4.48 vs 1.40/100000; 発生リスク 0.31, 95%CI 0·28-0·35).PCV7導入前と比較すると,侵襲性肺炎球菌感染症は56%減少していた(15.63 vs 6.85/100 000; 発生リスク 0.44, 95%CI 0·43-0·47).PCV13導入前と比較すると,PCV13に含まれない血清型は,5歳未満の小児と45歳以上の成人において広い範囲の血清型の増加によりその発生率が増加していた(4.19 vs 5.25/100000; 発生率 1.25, 95%CI 1.17-1.35).5歳未満の小児において,2013/2014年のPCV13に含まれない血清型の発生率は2012/2013年よりも高かった(2歳未満: 12.03 vs 10.83/100000; 2-4歳: 4.08 vs 3.63/100000).

【結 論】
英国およびウェールズにおけるPCVの8年間の導入は侵襲性肺炎球菌感染症を50%以上減少させた.PCV7による集団免疫は持続しており,同様に間接的保護作用はPCV13によってカバーされる血清型が追加されたことで生じている.しかし,2014年においてPCV13に含まれない血清型による侵襲性肺炎球菌肺炎を,特に5歳未満の小児において増加していることが示された.もしこの増加が持続するのであれば,小児におけるPCV13プログラムの最大限の有益性は既に達成されている.

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by DrMagicianEARL | 2015-04-01 00:00 | 感染対策 | Comments(0)
エボラ出血熱疑いへの対応(1)

1.エボラ出血熱疑いの4症例とその対応

■11月8日までに報道されたものでは,エボラ出血熱が流行している西アフリカ(ギニア,リベリア,シエラレオネ)に滞在歴を有する発熱患者が下記の通り日本で4例発生している.
1.沖縄での事例(10月16日IASR速報)
西アフリカに10か月滞在後帰国,10日後にかかりつけ医院を受診,薬剤処方して帰宅し,3日後に別の病院を受診して渡航歴判明.入院した病院ではマラリアの可能性が高かったとしてエボラ出血熱を想定した感染対策はなされず.最終的にマラリアの診断.

2.羽田空港での事例(10月27日)
リベリアに2か月間滞在歴のある男性が羽田空港で発熱がみられたため隔離入院.エボラウイルスは陰性.

3.東京都町田での事例(11月5日)
リベリアから11月1日に帰国し,検疫所から監視対象となる.11月5日に発熱,感冒症状があり町田の診療所を受診,渡航歴の申告,問診なく帰宅.その後検疫所に自ら連絡し,隔離入院措置がとられる.エボラウイルスは陰性.

4.関西国際空港での事例(11月5日)
関西国際空港でギニア人女性に発熱がみられたため隔離入院.エボラウイルスは陰性,マラリア検査陽性.

(1) 行政の対応について

■厚労省が対策をたてるスタートが遅かったことは否めない.医療機関に対しては10月中旬に「発熱患者を見たら渡航歴を聞くように」「二次感染を起こさないように注意」の旨が書かれた紙1枚がFAXで送られてきたのみである.疑い例が来院した場合,行政と連携してどのように動くかについてのフローチャートはあるものの,どのように感染対策を行うかについては各医療機関に任せる形で,厚労省からは特に推奨はなされていない.

■エボラ出血熱流行地からの帰国者で,空港では発熱がなくとも検疫所が1日2回の体温を含む健康状態報告を21日間帰国者に義務づける健康監視を行うこととなっている(虚偽報告をした場合は懲役6か月以下もしくは50万円以下の罰金刑).厚生労働省ホームページのエボラ出血熱に関するページにはトップに「もし流行国に渡航し帰国した後,1か月程度の間に,発熱した場合には、万一の場合を疑い,地域の医療機関を受診することは控えていただき,まず,保健所に連絡をし,その指示に従ってください」と記載されている[1]

■しかし,この健康監視については10月21日(10月24日改正)に厚労省から通知[2]がでているが,そこには以下のように記載されている.
「健康状態に異状を生じた者を確認したときは,法第18条第3項の規定に基づき,当該者に対し,医療機関において診察を受けるべき旨その他エボラ出血熱の予防上必要な事項を指示するとともに,当該者の居所の所在地を管轄する都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区にあっては,市長又は区長とする.)に対して,当該者の氏名,年齢,性別,国籍,職業,旅行の日程,健康状態,当該者に対して指示した事項,当該者に係る国内における居所及び連絡先並びに当該者が検疫感染症の病原体に感染したことが疑われる場所を通知すること」

■もし検疫所がこの通知通りに動いているのだとすれば,エボラ出血熱流行地からの帰国者に対して発熱時には地域の医療機関を受診するように説明している可能性があり,これは厚労省のホームページトップに書かれている内容と矛盾しており,東京町田の事例は患者が検疫所の指示通りに受診した可能性がある.現在多くの病院でエボラに対する感染対策は進んでおらず,開業医レベルともなればその感染対策はほぼ不可能であり,来院があれば休院せざるを得ないだろう.その際にでる風評,経営面でのダメージを考えれば,西アフリカから帰国後の発熱患者はお断りとする張り紙を開業医が行うことは仕方がないであろう.

■情報開示にあたっては,疑い例時点でマスコミに性別,年齢,便名等を公表するとしているが,これは,たとえ隠蔽体質だとの批判があろうともリスクコミュニケーション上公表すべきではなく,明らかに失敗である.パニックの誘導とデマの流布につながるのみであり,さらなる混乱を招くことになる上に,今後善意での発熱や渡航歴の自己申告の妨げとなる.公表するならばエボラ出血熱の診断が確定してからにすべきである.より分かりやすい解説として岩田健太郎先生の意見を参照されたい[3]
※個人的には疑い例の搬送先の病院名を公表することも不要であろうと考えています.

■太田国土交通相は,疑い例の情報開示について国民に不安が広がっていることが理由と話しているが,新型インフルエンザや東日本大震災の教訓を全く生かしていない.そもそも便名を公表すれば国民の不安が解消する根拠など何もない.根本原因は国民の不安に対して早期から対策をしてこなかったリスクコミュニケーション不足にあり,そこを解消すべきである.情報を一か所から発信するためにスポークスマンを立てる必要性が新型インフルエンザパンデミック後にでていたにもかかわらず,いまだに今回のエボラ出血熱に関しては行っている気配がない.

(2) 医療機関の対応

■全医療機関はエボラ出血熱疑いの患者の来院があることを想定して危機感をもって感染対策に取り組むべきである.しかしながら,どうやらほとんどの医療機関がエボラ疑い例来院時の対策を行っていない状況にある模様であり,「当院に来るわけがない」と考えて対策を行っていないICTがあるとすれば嘆かわしい限りであり,リスクマネージメントの考えが欠落していると言わざるを得ない.ICTと救急部が対応について衝突して感染対策が進んでいないという病院も少なくない.厚労省が全医療機関に通知した「発熱患者に対して渡航歴を聴取すること」についてもあまり徹底はなされていないようで,今回の沖縄と東京町田の事例は渡航歴を聴取することなく帰宅となっている.開業医といえどもエボラ出血熱疑いが来院する可能性があることを自覚すべきである.

※当院では,病院玄関ならびに受付に発熱があってエボラ出血熱流行国からの1カ月以内の帰国者であるならば申し出てくださいとの掲示を行った上で,患者の初期対応となりうる受付事務,外来看護師,外来・救急担当医師に発熱患者の渡航歴を全例聴取し,該当患者がいればただちにその職員がトリガーとなって隔離のプロトコルが発動するシステムとなっている.

■エボラ出血熱疑い患者が来院した際に感染対策を万全に行っておけば,あとでエボラ出血熱と確定診断された際に「初期対応した当院では二次感染を防ぐべく予め準備しており,できる限りの対策をもって対応した」ことをリスクコミュニケーションとしてだすことが可能である.

■今回の4事例を見る限り,どうやらマスコミ対策も必要である.初期対応病院は厚生労働省からは公開されないが,マスコミがしらみつぶしに各医療機関に電話をかけて初期対応した病院を探して取材を行っているようである.基本的には診療内容は患者の個人情報にあたるため,疑い例の受診があったことを含め医療機関からマスコミに話すべきではない(受診がなくても「受診はありませんでした」等の情報を与える必要はない).マスコミからの電話があっても患者個人情報にあたる旨を伝え,一切の情報をだすべきではない.同時に病院に直接取材に来るケースもあるため,職員全員へのマスコミ対応の周知徹底が必要である.どのような対応を行ったからのフィードバックについては保健所を通して行うべきである.

■沖縄の事例ではマラリアが疑われていたため,エボラ出血熱を想定した感染対策が行われていなかった.たとえ,症状が咽頭炎やマラリアを強く示唆するものであっても,リスクマネージメントとしてエボラ出血熱が否定されるまでエボラ出血熱を想定した感染対策を講じる必要がある.

(3) マスコミの対応

■今回のエボラ出血熱の騒動において日本のマスコミの行動は完全にリスクコミュニケーションを妨げるものである.羽田空港の事例では個人情報が報道され,東京町田の事例では初期対応医療機関をマスコミが特定しにいき,関西国際空港の事例では救急車をカメラマンが取り囲んでフラッシュをたき,挙げ句の果てに指定医療機関に搬送されてきた別の無関係の救急車まで写真をとる有様であった.マスコミの報道はエボラ出血熱に対する啓蒙等はほとんどなく,患者情報暴露に終始している模様である.

■羽田空港の事例では厚生労働省が情報開示に躊躇していたが,マスコミが先行して情報を暴露してしまったがために厚生労働省が水かけで情報開示を行わざるを得なかった.これをマスコミはさも得意げに自分たちの功績だと言わんばかりで,厚生労働省の情報開示対応が後手後手だったことを批判しているが,とんだ勘違いである.このことは10月30日に感染症学会主催のエボラ緊急セッションでも指摘されており,「マスコミの対応が最悪であり,申告者の情報をマスコミが晒してしまったことは今後善意の自己申告者がいなくなることを意味する」と批判されている(このセッションではマスコミ関係者も対象としていたが,あまり参加はなかったようである).現時点で情報開示に対して疑問を呈したマスコミは産経ニュースの1社のみである[4].マスコミにはこれまでの対応を猛省していただきたい.

[1] 厚生労働省 エボラ出血熱について
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/ebola.html

[2] アフリカにおけるエボラ出血熱発生の対応について.検疫所向け通知 2014年10月24日 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/ebola.html
[3] エボラ疑いを速報したのは間違いで,太田国交相も間違っているという話.楽園はこちら側 2014年10月31日 http://georgebest1969.typepad.jp/blog/2014/10/%E3%82%A8%E3%83%9C%E3%83%A9%E7%96%91%E3%81%84%E3%82%92%E9%80%9F%E5%A0%B1%E3%81%97%E3%81%9F%E3%81%AE%E3%81%AF%E9%96%93%E9%81%95%E3%81%84%E3%81%A7%E5%A4%AA%E7%94%B0%E5%9B%BD%E4%BA%A4%E7%9B%B8%E3%82%82%E9%96%93%E9%81%95%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E8%A9%B1.html
[4] 【主張】エボラ対策 理性をもって判断したい.産経ニュース2014年11月2日http://www.sankei.com/life/print/141102/lif1411020015-c.html
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by DrMagicianEARL | 2014-11-08 19:11 | 感染対策 | Comments(1)
■Wakefieldの捏造論文(1998年Lancetに掲載,2010年にまったく虚偽のものとして撤回)に始まるMMRワクチンと自閉症の関連性についてはその後のすべての研究で否定され,2014年5月にはTaylorらが関連性はないとするメタ解析を報告[1]され,論争に終止符が打たれた状態であった.
→メタ解析,Wakefieldについての詳細はこちらを参照
http://drmagician.exblog.jp/22025386/

■しかし,2014年8月27日,Natural Newsがあるニュースを報じた.そのニュースは米国疾病対策予防センター(CDC)の研究員であるWilliam Thompsonが,CDCが行った研究でMMRワクチンと自閉症の関連性が示唆されたアフリカ系小児のデータを隠蔽していたことを暴露したというものである.当ブログにもどなたかがその旨をコメント欄に記載している.しかし,このニュースには非常に奇妙な点が多い上に,この隠蔽されていたとされるデータの解析を行った論文に不正が見つかり,10月3日に撤回となっており,騒動に終止符が打たれるという,最終的に反ワクチン主義者の方々によるデマにも近い茶番劇に終わった.どうやら第二のWakefieldの存在が今回の騒動を引き起こしたようである.

■CDCのWilliam Thompsonらによる研究[1]は2004年のPediatricsに掲載されたものである.米国アトランタの自閉症を有する小児群624例と,マッチさせた自閉症を有さない対照群1824例を比較した症例対照研究であり,ワクチン接種と自閉症に関連性がみられなかったことを報告している.

■そして2014年8月,この研究データの再解析をBrian Hookerが行い,アフリカ系小児においてMMRワクチン接種者の自閉症発生率が高いという研究結果がTranslational Neurodegener誌に掲載された[3].この研究結果の具体的デザインや解析法は知らされず結論のみをBrian Hookerから電話で聞かされたWilliam Thompsonが「アフリカ系男児で自閉症が高まるデータがでた」との声明をだしたことから騒動が拡大した.反ワクチングループによる自閉症メディアチャンネルからは,Thompsonらの研究をあのタスキーギ梅毒実験に例えるという批判をした(Thompsonらの研究は集団データを入手して解析した研究であり,介入実験はしていない).

■しかし,このBrian Hookerの論文には不可解な点が多い.William Thompsonらの研究データは症例対照研究である.しかしながら,Brian Hookerはこのデータをコホート研究として解析する研究デザインであり,この時点ですでに彼の研究は成り立たっていない.症例対照研究は疾病に罹患した集団を対象に,曝露要因を観察調査し,次に,その対照として罹患していない集団についても同様に,特定の要因への曝露状況を調査し,そして以上の2集団を比較することで、要因と疾病の関連を評価する.コホート研究は特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を一定期間追跡し,研究対象となる疾病の発生率を比較することで要因と疾病発生の関連を調査する.これを混同すれば誤った結論を導くことになる.

■また,彼は様々な検定法を用いての事後解析により自閉症と関連性が得られた解析法のみを提示した.有意水準が5%という設定下では理論上,20種類の検定を試行すると1回偶然で有意差が生じうるため,自分にとって都合のいいデータを得る上でこのような手段がとられることがあり,事前に方法が示されていない研究や後ろ向き研究の信頼度が落ちる要因はここにある.加えて,これはサブグループ解析であり,信頼度はさらに落ちる.実際,極めて細かく分類したがために,サブグループのサンプル数は10例未満であり,これではとても正確な解析はできない.また,仮にこれらの研究デザインや統計処理の不正を抜きにしてデータを見ると,ほとんどのワクチン接種者において自閉症発生リスクは増加せずむしろ安全ということになる.

■ではなぜこのような研究デザインと統計処理の論文がアクセプトされたのか?結果が事実なら非常に世界に影響を与える内容であり,それこそNew England Journal of MedicineやLancetに投稿すればアクセプトされる可能性があり,実際にわずか十数例の観察研究でワクチンと自閉症の関連性を(捏造であったが)示したWakefieldの論文Lancet誌に掲載されたことがそれを証明している.ところかBrian Hookerが投稿したのはTranslational Neurodegenerという非常にマイナーでインパクトファクターも極めて低い医学誌である.さらに,普段はBrian Hookerの論文ではGeier親子(自閉症治療に科学的去勢が有効だと主張している人達)等が共著者に並んでいるにもかかわらず,今回は単独執筆である.

■Translational Neurodegener誌は10月3日になってこのBrian Hookerの論文に不正あり(方法や統計解析手法,利益相反の問題)として最終的に論文撤回させるに至り[4],騒動は終結した.しかし掲載まで至ってしまったのは,エディターがBrian Hookerと利害関係がありうる査読者に査読を依頼してしまったことが大きいと指摘されている(Geier親子などの普段共著している研究者だったのであろうか?).

■誤解されているが,CDCは決してThompsonらの研究データを隠蔽しておらず,オープンにしている.だからこそBrian Hookerも生データを入手して解析しているのである.実際にCDCはこの騒動中も,「我々の保有するデータを解析する人がいるなら歓迎する」としている.目的をあらかじめ明確にして研究が行われる.その際の研究デザインとして人種差の解析をすることが事前設定されていなければ解析は行われない.何より多くのアウトカムを評価しようとすればそれだけ偶然の結果が生じるリスクが高まってしまう.そういう別のアウトカムの評価を行うならば,改めて別の研究として二次解析を行えばよい.だからこそCDCは生データをオープンにしている.

■今回の騒動を引き起こした米国シンプソン大学生物学教授のBrian Hookerは,自分の子供が自閉症であり,その原因はワクチンにあると信じており,反ワクチン主義者の中で絶大な人気を誇っている.ワクチンと自閉症を関連付けるために彼もまたWakefieldと同じ過ちを犯してしまったようである.

■厄介なことに,一度このような不正論文が査読をすり抜けて出版されてしまうと,後で撤回されても反ワクチン主義者によって尾ひれ背ひれがついた上で拡散されていく.今後もこのようなことが起こるのであろうか?

[1] Taylor LE, Swerdfeger AL, Eslick GD. Vaccines are not associated with autism: an evidence-based meta-analysis of case-control and cohort studies. Vaccine 2014; 32: 3623-9
[2] DeStefano F, Bhasin TK, Thompson WW, et al. Age at first measles-mumps-rubella vaccination in children with autism and school-matched control subjects: a population-based study in metropolitan atlanta. Pediatrics 2004; 113: 259-66
[3] Hooker BS. Measles-mumps-rubella vaccination timing and autism among young African American boys: a reanalysis of CDC data. Transl Neurodegener 2014; 3: 16
[4] Retraction: Measles-mumps-rubella vaccination timing and autism among young African American boys: a reanalysis of CDC data. Transl Neurodegener 2014; 3: 22
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by DrMagicianEARL | 2014-10-11 19:03 | 感染対策 | Comments(0)
 「ワクチンが自閉症を引き起こす」という説は今でも反ワクチン論者の間では強く信じられていますが,その根拠はあとに捏造と判明したWakefield氏の論文です.その後ワクチンと自閉症の関連性を示す証拠を世界中で誰一人として提示できていません(当然ですが).今回,MMR,ムンプス,風疹のワクチンと自閉症に関連性はないとするシステマティックレビュー&メタ解析が報告されました.一定の結論は出た,と判断すべきでしょう.
ワクチンは自閉症と関連していない:症例対照研究およびコホート研究の科学的根拠に基づいたメタ解析
Taylor LE, Swerdfeger AL, Eslick GD. Vaccines are not associated with autism: An evidence-based meta-analysis of case-control and cohort studies. Vaccine. 2014 May 6. [Epub ahead of print]
PMID:24814559

Abstract
【目 的】
小児のワクチン接種と自閉症発症の関係の可能性については膨大な議論がなされている.最近ではこれは,ワクチン接種と自閉症の間の“関係”に対する恐れによって,ワクチンで予防できる疾患の罹患者数が市中で増加し,主要な公衆衛生問題となってきている.我々は本トピックにおいて症例対象研究およびコホート研究による利用可能なエビデンスを総括するためのメタ解析を行った(MEDLINE, PubMed, EMBASE, Google Scholar up to April, 2014).

【方 法】
登録基準は,ワクチン接種と自閉症または自閉症スペクトラム発症の間の関係について評価した研究とした.2人のレビュアーが研究における特徴,方法,アウトカムについてデータ抽出を行った.意見の相違がある場合は,他の執筆者とのコンセンサスで解決した.

【結 果】
本解析では,125407例の小児を登録している5報のコホート研究と,9920例の小児を登録している5報の症例対照研究を登録した.コホートデータでは,ワクチンと自閉症(OR 0.99; 95%CI 0.92-1.06)または自閉症スペクトラム(OR 0.91; 95%CI 0.68-1.20)に関連性はなく,また,MMR(OR 0.84; 95%CI 0.70-1.01),チメロサール(OR 1.00; 95%CI 0.77-1.31),水銀(OR 1.00; 95%CI 0.93-1.07)においても関連性がなかった.症例対照研究データも同様に,状態(OR 0.90; 95%CI 0.83-0.98; p=0.02),曝露タイプ(OR 0.85; 95%CI 0.76-0.95; p=0. 0.85; 95%CI 0.76-0.95; p=0.01)で分類してもMMR,水銀,チメロサール曝露によって自閉症や自閉症スペクトラムのリスクが増加する根拠は見出せなかった.

【結 論】
本メタ解析の知見は,ワクチン接種が自閉症または自閉症スペクトラム発症と関連していないことを示唆するものである.さらに,ワクチンのコンポーネント(チメロサール,水銀),混合ワクチン(MMR)も自閉症や自閉症スペクトラムと関連していなかった.
1.Wakefieldの捏造論文

■捏造論文が反ワクチン論者によって今でも祭り上げられ続け,それが科学的検証を解しないマスメディアやジャーナリストを通して大衆に伝播したことは世界の公衆衛生において多大な損害を与えた.通常では考えられないことであるが,反ワクチン派の一部の主張はもはやカルトに近いレベルであり,ノバルティスファーマ社のバルサルタン論文不正をたたきながらWakefield氏の論文不正は認めずむしろ崇拝するという摩訶不思議な現象が生じている.

■1998年にthe Lancet誌にWakefieldら13人の研究者がMMR接種に起因すると思われるという自閉症の12症例を報告し,ワクチンと自閉症に関連性があると主張した.これが「ワクチンで自閉症が生じる」という主張が出始めた発端である.

■実はこのWakefield氏は1996年に,MMRが子どもの脳障害や他の問題を引き起こすと訴えるキャンペーン活動をするグループJABSの事務弁護士Richard Barrによって,MMR製造業者への思惑のある法的攻撃を支援する為に時給150ドルで雇われている.そして,1998年にLancet誌でMMR接種と自閉症の関連性を主張すると同時にMMRではなく単一ワクチン接種を主張し,その開発のための合弁会社をすぐに設立するに至っている.しかし,Wakefield氏の研究はわずか12例の検討であり,科学的根拠は希薄であるにもかかわらず,確認または反証する為の大規模な比較試験を開始しようとしなかった.Royal Free大学の新しい医学部長であるMark Pepys氏は,Wakefield氏の事業計画について異議を申し立て,研究を再現しなければならないとWakefield氏に通告したが,Wakefield氏はこれを行おうとしなかったため,2001年にRoyal Free大学を退職させられている.その後もWakefield氏の主張はマスコミの強い支援を受けてまたたく間に市民に広がり,ワクチン接種率は大きく減少した.

■2004年になって法律扶助委員会がthe Lancet誌に資金提供し,被験者である子供達の多くが訴訟に関係していた事を明らかにした.その1ヶ月後には13人の執筆者のうち10人が,MMR,腸炎,および自閉症が時間的に関係していると主張している解釈の部分を撤回した.さらに半年後,MMRワクチンによる障害の原因がMMR中の麻疹ウイルスだとするWakefield氏の主張にも関わらず,彼の研究室での分子検査でそのウイルスの痕跡は何も見つからなかったことが明らかとなった.

■2005年には日本から横浜市港北区の疫学調査[1]が報告された.これは,1988年から1996年までの間に同区で生まれた全小児31426例(1988年から1992年生まれの小児の中には,1歳でMMRの接種を受けた子どもが含まれる)を対象として,出生年ごとの自閉症発生率(7歳までに自閉症と診断された子どもの率)の年次推移を調べたもので,MMR接種率は,1989年から1993年まで順に69.8%,42.9%,33.6%,24.0%,1.8%であり,1993年から1996年生まれの子どもの中にはMMRを受けた小児はいない.もしMMRワクチンで自閉症が増加するなら,ワクチン接種中止後は自閉症は減少するはずであるが,1992年以前の出生児に比べてワクチン接種中止後の1993年以降の出生児で自閉症の発生率は,1万人当たり47.6-85.9から96.7-161.3に増加していた.

■2006年,MMRワクチンに対する訴訟を支援する為にRichard BarrからWakefieldへの40万ドル以上の資金に必要経費を加算した法律扶助基金からの私的な資金援助が明らかとなった.さらにはその他に何人かのRoyal Free病院の医師達にも支払われていたことが判明している.そして2007年にロンドンでの診療適切性審査で,Wakefield氏らの重大な職務上の違法行為を訴えている件の審問を開始された.

■2010年,ついにWakefield氏の論文は全く虚偽のものとして撤回されるに至る[2].実際には,このWakefield氏の論文では全12例でデータを改竄し,接種前から自閉症があった小児を接種後発症扱いにしたり,自閉症を発症していない小児を自閉症扱いにしたりなどの不正が指摘されており,その裏には上述の利益相反が大きくかかわっていたことがうかがえる.この不正によりWakefield氏は医師免許剥奪となっている.このWakefield氏の捏造論文は,ここ100年において最も医学にいたずらに損害を与えた事件であったとされる[3]

■Wakefield氏の論文不正の全貌はBrian Deerが2011年にBMJ誌に4回にわたって特集記事を掲載している[4-7]

2.ワクチン普及の困難さ

■ワクチンが普及しない原因の1つにその評価の行い方が大きな問題点として挙げられる.ワクチンの評価は,その感染症予防率の高さと予防する感染症の重篤度で決定される.死亡率,重症化率,後遺症発生率が高い感染症を予防するワクチンは要望が高く,現在普及している大部分のワクチンが該当する.しかし,このようなワクチンの効果は,普及してその感染症が減少すると一般の目に止まらなくなるためか過小評価されるようになる.加えて,日本には感染症サーベランスシステムが貧弱であり,ワクチンの効果を正確に把握しにくい現状がある.

■HPVワクチンの1件を見ても分かる通り,ワクチンでは副反応が問題とされやすい.ワクチンはその性質上,免疫系の副反応を多少ともなうことは避けられない.また,ワクチンは健康な人間に接種されるため,病気を発症している患者に投与される薬剤とは異なり,副反応に関するハードルは高くなってしまい,過剰にたたかれる要因となっている[8].また,ワクチン接種後に発生した疾患や死亡に関して,ワクチンとの関連性を判定することは基本的には不可能であり,あくまでも前後関係に過ぎない.しかしながらこれらが因果関係ととられる誤解が生じ,結果的にワクチンの風評を生み出していることも少なくない[9]

■このような性質をもつワクチンは,いわゆる薬害団体や反医療主義者,科学的根拠のない医療推進者の餌食となりやすく,過剰なまでの反ワクチン主義をもたらし,ワクチン接種の妨げの一因となっている.厄介なことに,ワクチン反対論者は製薬メーカーのビジネスとからめた陰謀論を唱え,常に科学的研究法や科学的研究論文の査読を拒絶する特徴がある[10].これがエスカレートし,中には医師が反ワクチン団体から利権をもらうケースも存在する[11]

■反ワクチン主義によって広まる情報は,誤った情報が加えられながら拡散されていく.中には「ワクチンに故意にウイルスを混ぜている」「不妊になる」といった全く根拠がない驚くべきデマも広がっている.そこに拍車をかけるのが反ワクチン論者による市民向け一般書籍である.このような書籍はその執筆者にとって都合のいい情報だけを集めて過剰なまでに危険性ばかりを訴える内容となっており,医学的に完全に間違った内容も記されていることはしばしば存在する.しかしながら,例えその内容が完全に間違っており,かつ有害な内容であっても,その書籍の出版を禁止する法律は存在せず,たとえその書籍を患者を信用した結果死亡しても,その執筆者に何ら責任が及ぶことはない.一方の医療従事者はワクチンのリスク&ベネフィットをバイアスなくできる限り正確に評価し,責任をもって接種有無推奨を決定する立場にあり(当然ながら強制ではない),どちらの意見がより妥当であるかは明らかである.

■しかしながら,大衆は既存のシステムに反対する刺激的な内容に興味がいきがちである.マスコミが報道し,医療ジャーナリストが科学的考察もなく誤った情報を流布し,国会議員までが誤った知識でワクチン接種を妨げる状況である.ワクチンプログラム普及のためには,医療と行政はより正確な情報を発信するだけでなく,どの情報がより正確であるかを判断する術についても市民に伝えていく必要がある.

[1] Honda H, Shimizu Y, Rutter M. No effect of MMR withdrawal on the incidence of autism: a total population study. J Child Psychol Psychiatry 2005; 46: 572-9
[2] Dyer C. Lancet retracts Wakefield's MMR paper. BMJ 2010; 340: c696
[3] Flaherty DK. The vaccine-autism connection: a public health crisis caused by unethical medical practices and fraudulent science. Ann Pharmacother 2011; 45: 1302-4
[4] Deer B. How the case against the MMR vaccine was fixed. BMJ 2011 ;342: c5347
[5] Deer B. Secrets of the MMR scare . How the vaccine crisis was meant to make money. BMJ 2011; 342: c5258
[6] Deer B. Secrets of the MMR scare. The Lancet's two days to bury bad news. BMJ 2011; 342: c7001
[7] Deer B. More secrets of the MMR scare. Who saw the "histological findings"? BMJ 2011; 343: d7892
[8] 渡辺博.ワクチンの安全性に関する考え方.臨床検査 2010; 54: 1272-8
[9] Campion EW. Suspicious about the Safety of Vaccines. N Engl J Med 2002; 347: 1474-5
[10] Tafuri S, Martinelli D, Prato R, et al. From the struggle for freedom to the denial of evidence: history of the anti-vaccination movements in Europe. Ann Ig 2011; 23: 93-9
[11] DeLong G. Conflicts of interest in vaccine safety research. Account Res 2012; 19: 65-88
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by DrMagicianEARL | 2014-05-21 14:53 | 感染対策 | Comments(2)

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