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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

カテゴリ:肺炎( 23 )

■宣伝になります.Geriatric Medicine誌の2017年11月号が発刊されました.今回の特集は「高齢者肺炎の誤嚥・肺炎予防up-to-date」です.東邦大学リハビリテーション医学講座教授の海老原覚先生がeditorをされ,私も「肺炎を治療しない選択」をテーマに執筆させていただきました(Geriat Med 2017; 55: 1247-50)
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■これまで肺炎領域ではいくつものガイドラインが作られ,2017年に全ガイドラインが統合された成人肺炎診療ガイドライン2017が作成されました.しかしながら,肺炎領域では,他領域に見られたようなブレークスルーはほぼなく,それがゆえに肺炎が日本人の死因の第3位に躍り出たことは,本領域の研究者は猛省すべきであると海老原先生は序文で述べられております.抗菌薬一辺倒の治療ではなく,もっと幅広い視点から見た根本治療を,との考えのもと,本特集では抗菌薬以外の介入等をとりあげております.今後の高齢者肺炎診療の一助となれば幸甚です.
Geriatric Medicine 2017年11月号(Vol.55)
特集:「高齢者の誤嚥・肺炎予防up-to-date」

序文
海老原 覚先生(東邦大学大学院医学研究科リハビリテーション医学講座教授)

総説
1.嚥下と呼吸の協調・連関
越久 仁敬先生(兵庫医科大学生理学講座生体機能部門教授)

2.成人肺炎診療ガイドライン2017』における看護・介護・リハビリテーションのあり方
朝野 和典先生(大阪大学医学部附属病院感染制御部教授)

Seminar
1.喉で感じる嚥下のメカニズム
海老原 覚先生

2.免疫と高齢者肺炎
中山 勝敏先生(東京慈恵会医科大学内科学講座呼吸器内科准教授)

3.誤嚥性肺炎における口腔レンサ球菌の役割
矢満田 慎介先生(一般財団法人厚生会仙台厚生病院呼吸器センター呼吸器内科医長)

4.高齢者肺炎の発症に関わる要因と遺伝子
山谷 睦雄先生(東北大学大学院医学系研究科先進感染症予防学寄附講座教授)

5.脳機能と誤嚥性肺炎―認知症の観点から―
海老原 孝枝先生(杏林大学医学部高齢医学准教授)

6.サルコペニアと誤嚥性肺炎の関係
岡崎 達馬先生(東北大学大学院医学系研究科内科学分野講師)

7.栄養と運動による肺炎予防
後町 杏子先生(独立行政法人国立病院機構東京病院呼吸器内科)

8.ポリファーマシーと誤嚥性肺炎
小島 太郎先生(東京大学医学部附属病院老年病科助教)

9.口腔ケア・嚥下障害対策システムの構築:高度急性期病院における持続可能でシームレスな口腔機能管理システム
関谷 秀樹(東邦大学医学部口腔外科准教授)

臨床に役立つQ&A
1.誤嚥性肺炎の急性期に禁食治療は必要でしょうか?
前田 圭介先生(愛知医科大学緩和ケアセンター講師)

2.肺炎球菌ワクチンを接種しても全肺炎死が減らないのはどうしてですか?
河崎 雄司先生(真誠会セントラルクリニック統括施設長 院長代理)

3.新しい肺炎ガイドラインにおける治療しない選択とはどのような意味ですか?
DrMagicianEARL(EARLの医学ノート管理人)

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by DrMagicianEARL | 2017-11-27 18:26 | 肺炎 | Comments(0)
■久々の更新になります.今回は基礎研究ですがなかなか興味深かったのでとりあげました.

■肺炎球菌(Streptococcus pneumonia)の代表的な毒素にpneumolysin(ニューモリシン)があります.肺炎球菌が気道に感染するとそこで増殖し,autolysin(オートリシン)により一定の割合の菌体が自己融解を起こし,ニューモリシンを放出します.ニューモリシンは感染した気道上皮細胞の細胞膜上にmembrane pore formationを形成して細胞膜を穿孔させ,細胞を死滅させます(J Mol Biol 1998; 284: 449–61).また,ニューモリシンはこれとは異なる機序でマクロファージのリソソーム膜を透過させてマクロファージのアポトーシスを誘導させることも知られています(MBio 2014; 5: e01710-14).さらに,RSウイルスのGグリコプロテインは肺炎球菌のペニシリン結合蛋白(PBP)1aに結合することでニューモリシンなどの毒素産生遺伝子の発現をアップレギュレーションし,RSウイルスと肺炎球菌の混合感染が重症度と死亡率を悪化させることも報告されています(Am J Respir Crit Care Med 2014;190:196-207)

■このように厄介な毒素ニューモリシンですが,マクロライド系抗菌薬は,抗菌作用以外にニューモリシン抑制効果を有することも知られています(Eur Respir J 2006; 27: 1020-5).今回,このニューモリシンによる毒素を投与されたマウスにNSAIDsを投与すると死亡率が悪化し,抗ロイコトリエン拮抗薬(モンテルカスト)を投与すると死亡率が改善されたという報告が出ましたので御紹介します(前者はアブストラクトになく本文参照).抗ロイコトリエン拮抗薬がこのような作用を有していたとは驚きでした.ぜひ臨床研究に繋げていただきたい知見です.また,敗血症や肺炎球菌肺炎ではNSAIDsはよくないであろうとは言われていましたが,今回肺炎球菌肺炎でのNSAIDsによる増悪機序(ニューモリシンに対する保護作用を有する12-ヒドロキシヘプタデカトリエン酸をNSAIDsが抑制)がこのように分かったのは非常に興味深いなと思いました.
ロイコトリエンB4第2受容体はニューモリシンによる急性肺傷害から個体を防御する
Shigematsu M, Koga T, Ishimori A, et al. Leukotriene B4 receptor type 2 protects against pneumolysin-dependent acute lung injury. Sci Rep 2016 Oct 5;6:34560
PMID:27703200

Abstract
【背 景】肺炎球菌感染は世界的に深刻な問題であり,死亡率も高いにもかかわらず,肺炎球菌による致死的な分子機序は発見されていないままである.我々はロイコトリエンB4および12(S)-ヒドロキシヘプタデカトリエン酸(12-HHT)のG蛋白共役受容体であるBLT2が肺炎球菌毒素ニューモリシン(PLY)による肺傷害からマウスを保護することを示した.

【結 果】BLT2欠損マウスにおいて,PLYの気道内投与は血管外漏出と気管支収縮を伴う致死的な急性肺傷害(ALI)を引き起こした.アナフィラキシーの低速反応物質として古典的に知られている大量のシステイニルロイコトリエン(cysLTs)がPLY投与肺から検出された.PLYに依存した血管外漏出,気管支収縮,死亡はCysLT1受容体拮抗薬の投与により著明に改善した.PLY刺激下では,血管内皮細胞および気管支平滑筋細胞に発現する,CysLT1により活性化された致死的血管外漏出と気管支収縮を誘導するcysLTsをマスト細胞が産生していた.12-HHTの産生を阻害し,PLYへの感受性を増加させるアスピリンまたはロキソプロフェンを投与されたマウスもまたCysLT1拮抗薬によって改善した.

【結 論】本研究ではPLY依存性ALIの分子機序を発見し,肺炎球菌感染によるALIに対する保護的治療手段としてCysLT1拮抗薬が使用できる可能性が示唆された.

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by DrMagicianEARL | 2016-10-12 00:00 | 肺炎 | Comments(0)
■ICU領域でのprobioticsを検討したRCTが報告されましたので紹介します.本領域でのprobioticsのRCTはいくつもありますが,ほとんどが本邦では製剤化されていない菌株を用いています.今回の研究はBacillus subtilisEnterococcus faecalisを用いており,これは製品名で言えばビオフェルミン®に相当します.ただし,本邦でのRCTは3つあるものの,ビオフェルミンではなく,Bifidobacterium breveLactobacillus caseiです.

■結果は一応ポジティブなんですが,細菌学的定着を減じたという微妙なアウトカムで,これをもってVAPを予防したというのは違和感があります.実際に臨床的VAPや抗菌薬消費量,人工呼吸器装着期間,死亡率,入院期間はすべて有意差なしです.投与を推奨できるほどの結果ではないと感じます.
重症患者の人工呼吸器関連肺炎におけるプロバイオティクスの効果:多施設共同無作為化比較試験
Zeng J, Wang CT, Zhang FS, et al. Effect of probiotics on the incidence of ventilator-associated pneumonia in critically ill patients: a randomized controlled multicenter trial. Intensive Care Med. 2016 Apr 4. [Epub ahead of print]
PMID:27043237

Abstract
【目 的】
人工呼吸器関連肺炎(VAP)におけるプロバイオティクスの潜在的予防効果を評価する.

【方 法】
本試験は48時間以上の人工呼吸管理を受けると予想された重症成人患者235例を登録したオープンラベル無作為化対照多施設共同試験である.患者は(1)標準予防戦略に加え,生菌であるBacillus subtilisEnterococcus faecalis (Medilac-S) 0.5 gを含有したプロバイオティクスカプセルを経鼻胃管から1日3回投与する,(2)標準予防戦略,に最大14日間無作為に割り付けられた.VAP発生は毎日評価され,ベースラインと週1~2回咽頭スワブと胃吸引物を培養した.

【結 果】
プロバイオティクス群の微生物学的に確認されたVAP発生率は対照群より有意に低かった(36.4% vs 50.4%; p=0.031).VAP進展の平均時間はプロバイオティクス群の方が対照群よりも有意に長かった(10.4 vs 7.5日; p=0.022).潜在的病原性微生物(PPMOs)の胃内定着患者の比率はプロバイオティクス群の方が対照群よりも低かった(24% vs 44%; p=0.004).しかし,咽頭と胃の両方でPPMOs定着が消失した患者の比率は二群間で有意差はみられなかった.プロバイオティクスの投与は臨床的に疑わしいVAP,抗菌薬使用量,人工呼吸期間,死亡率,入院期間ではいかなる改善もみられなかった.

【結 論】
プロバイオティクスのB. SubtilisE. faecalisによる治療はVAPや胃内PPMOs定着の獲得を予防する意味で有効かつ安全であった.

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by DrMagicianEARL | 2016-04-08 13:50 | 肺炎 | Comments(0)
■高齢者の誤嚥性肺炎のリスク因子を調査した報告がでました.これまでに知られた知見に矛盾しない予想通りの結果ではありますが,これは関連性を調べたものですので解釈に注意が必要です.因果関係とは別になりますので,たとえば喀痰吸引がリスク因子となっていますが,「喀痰l吸引がリスク因子=喀痰吸引を行うと誤嚥性肺炎になる」としないようにする必要があります.どちらかというと吸引をしなければならないほど排痰が多いor痰の喀出機能が落ちている,の方が解釈としては理にかなっていると思われます.また,あくまでもビッグデータの解析ですので,細かいデータのリスク因子は抽出できない研究であり,多数の交絡因子が抜け落ちていることは考慮しておく必要があります.
高齢者における誤嚥性肺炎の危険因子
Manabe T, Teramoto S, Tamiya N, et al. Risk Factors for Aspiration Pneumonia in Older Adults. PLoS One 2015; 10: e0140060
PMID:26444916

Abstract
【背 景】
誤嚥性肺炎は高齢集団において,市中肺炎や医療関連肺炎の主要な病態であり,死亡の原因となりうる.しかし,高齢者における誤嚥性肺炎進展のリスク因子は完全には評価されていない.

【目 的】
本研究の目的は,高齢者における誤嚥性肺炎のリスク因子を決定することである.

【方 法】
我々は,日本の老人医療介護施設の全国調査データを用いた観察研究を行った.9930例(平均年齢86歳,女性76%)の研究対象は,3ヶ月以内に誤嚥性肺炎の既往がある患者とない患者の2つの群に分けられた.統計,臨床状態,日常生活動作(ADL),主要疾患のデータを,誤嚥性肺炎既往を有する群と有しない群で比較した.

【結 果】
259例(全サンプルの2.6%)が誤嚥性肺炎群となった.単変量解析では,高齢は誤嚥性肺炎のリスク因子ではなかったが,喀痰吸引(OR 17.25, 95%CI 13.16-22.62, p<0.001),毎日の酸素療法(OR 8.29, 95%CI 4.39-15.65),栄養支持療法依存(OR 8.10, 95%CI 6.27-10.48),尿路カテーテル(OR 4.08, 95%CI 2.81-5.91, p<0.001)はリスク因子であった.多変量ロジスティック回帰解析では,傾向調整(各258例ずつ)後の誤嚥性肺炎に関連したリスク因子は,喀痰吸引(OR 3.276, 95%CI 1.910-5.619),過去3ヶ月の嚥下機能低下(OR 3.584, 95%CI 1.948-6.952),脱水(OR 8.019, 95%CI 2.720-23.643),認知症(OR 1.618, 95%CI 1.031-2.539).

【結 論】
誤嚥性肺炎のリスク因子は,喀痰吸引,嚥下機能低下,脱水,認知症であった.これらの結果は,誤嚥性肺炎再発の予防における臨床マネージメントの改善に寄与しうる.

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by DrMagicianEARL | 2015-10-20 11:00 | 肺炎 | Comments(0)
■経口摂取できる状態にない嘔吐症状や呼吸不全や喀痰多量,といった阻害因子がない誤嚥性肺炎において,入院時に絶食指示がでることはよくあります.誤嚥性肺炎が入院した際,「誤嚥性肺炎=絶食」がルーチンにされてしまっていることもあるのではないでしょうか?(これが連休中となると絶食期間が数日にわたって続くことになります)

■たとえ数日程度であっても絶食管理したぶん廃用で嚥下機能がさらに落ちることは実臨床で実感していますし,院内データの解析を行うとその傾向がはっきりと確認できたため,私は誤嚥性肺炎では入院時から可能な限り経口摂取を開始するようにしています.入院して数日以内に認知症が急激に進行することがあるのと同様,嚥下機能も使わなければあっという間に廃用し,機能予後が悪化するであろうというのが私の考えです.経鼻胃管を挿入しての経管栄養は栄養状態改善と消化管廃用防止という意味では利点はありますが,絶食管理下で経管栄養を行っても嚥下機能は補えません.

■今回紹介する研究は私のpracticeの追い風になる報告で,外的妥当性も確認できたという点で院内でより強く推奨できるかなと思っています.
誤嚥性肺炎の高齢者において,絶食管理は予後不良となる
Maeda K, Koga T, Akagi J, et al. Tentative nil per os leads to poor outcomes in older adults with aspiration pneumonia. Clin Nutr 2015, Oct.9 [Epub ahead of print]

Abstract
【背 景】
誤嚥性肺炎患者は,人工的な栄養療法を必要つする治療中において嚥下機能低下が生じている可能性がある.適切な誤嚥性肺炎の治療は日常生活動作の維持に寄与する.

【目 的】
本研究の目的は,誤嚥性肺炎患者の回復および嚥下機能低下における絶食管理状態の効果を評価することである.

【方 法】
本後ろ向きコホート研究は,嘔吐または呼吸不全などの理由で除外した上で,発症前に食事の経口摂取をしていた誤嚥性肺炎患者331例を登録した.対象患者は,入院時に医師の指示に従って,早期経口摂取群と絶食管理群の2つの群に割り付けた.我々は、治療の逆確率加重(IPTW)法により統計学的差がない等分散モデルとなったすべての対象患者のグループに関連する集団モデルを作成し,群間比較を行った.

【結 果】
IPTWモデルにおいて,絶食管理は,入院から1週間の毎日の栄養摂取量が不良であり(p<0.05),より有意に長い治療期間を要し(50%治療期間:絶食管理群13日間[95%CI 12.04-13.96],早期経口摂取群8日間[95%CI 7.69-8.31], log-rank検定 p<0.001),治療経過において嚥下機能がより大きく低下していた(p<0.001).

【結 論】
入院した誤嚥性肺炎における絶食管理は,患者に対して治療期間の延長や嚥下機能低下などの有害な効果をもたらした.不必要な絶食管理の回避は,誤嚥性肺炎を治療しかつ薬剤投与に加えて患者のアウトカムに寄与するもうひとつの手段となる可能性がある.

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by DrMagicianEARL | 2015-10-16 17:55 | 肺炎 | Comments(0)
■長年議論されつつもRCTではポジティブな結果が出続けている市中肺炎へのステロイド投与.根底には,ステロイド=免疫抑制=感染症にはよくない,というバイアスがあって,みんな勇み足になっているところはあるんでしょう.しかし,これまでのRCTを見るに,劇的効果というほどの有用性ではないにせよ,少なくとも総合的に見て悪いものではなさそうだという印象で,以下に紹介するメタ解析でも同様の結果です.では悪くないならば実際にステロイドを実臨床に組み込むか?ですが・・・

■このメタ解析では絶対死亡率を3%低下させるというこの数字ですが,これがどこまで臨床的に有意なのか,捉え方は様々でしょう.しかも統計学的にも有意ではなく,あくまでもtrendにとどまる結果です.臨床的安定化の指標も発熱有無など,改善というよりはステロイドでマスクされているだけでは?という項目が入っていたりしてどこまで参考にしていいものか判断しかねます.

■ただし,注意しなければならないのは,このメタ解析でも触れられていますが,ステロイド投与により有害事象が出やすいハイリスク患者が除外されている研究が多いことです.また,市中肺炎を対象とするなら千人単位での大規模RCTを組むことは決して難しくないと思われますが,実際に行われたRCTは1000例に満たないものばかりです(研究主旨は異なりますが,現在ANZICSが行っている,敗血症性ショックに対する低用量ステロイド療法の大規模RCTであるADRENAL studyは3800例を登録予定です).加えて,RCTのプロトコルや治療経過を見てみると,入院市中肺炎全体での評価にもかかわらず死亡率が比較的高い,抗菌薬投与期間が非常に長い,など,日常診療の感覚とは異なる治療がRCTでは行われていたのかと疑わざるを得ません.このため,現時点では私自身は外的妥当性が乏しいと考え,市中肺炎患者に対してステロイドを投与することを選択肢に入れる予定はありません.
市中肺炎による入院患者に対するコルチコステロイド療法:システマティックレビューとメタ解析
Siemieniuk RA, Meade MO, Alonso-Coello P, et al. Corticosteroid Therapy for Patients Hospitalized With Community-Acquired Pneumonia: A Systematic Review and Meta-analysis. Ann Intern Med 2015 Aug 11
PMID:26258555

Abstract
【背 景】
市中肺炎(CAP)はしばしば見られ,重症化しやすい.

【目 的】
市中肺炎患者の死亡率,有病率,入院期間におけるコルチコステロイド療法併用の効果を検討する.

【方 法】
MEDLINE,EMBASE,Cochrane Central Register of Controlled Trialsを用いて2015年5月24日までの報告を検索した.検索対象は,市中肺炎による入院患者におけるコルチコステロイド全身投与の無作為化比較試験とした.2人のレビュアーが独立して研究データを抽出し,バイアスリスクを評価した.エビデンスの質は執筆者らのコンセンサスによるGRADE(the Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)システムで評価した.

【結 果】
年齢中央値は60歳代で,患者の約60%が男性であった.コルチコステロイド併用は全死亡率(12試験;1974例;RR 0.67[95%CI 0.45-1.01];リスク差 2.8%; 中等度の確からしさ),人工呼吸器の必要性(5試験;1060例;RR 0.45[0.26-0.79];リスク差5.0%;中等度の確からしさ),急性呼吸窮迫症候群(4試験;945例;RR 0.24[0.10-0.56],リスク差6.2%;中等度の確からしさ)の減少に関連していた.また,臨床的安定化までの期間(5試験;1180例;平均差-1.22日[-2.08 to -0.35日];高い確からしさ),入院期間(6試験;1499例;平均差-1.00日[-1.79 to -0.21日];高い確からしさ)が短縮していた.コルチコステロイド併用は治療を要する高血糖の頻度を増加させたが(6試験;1534例;RR 1.49[1.01-2.19];リスク差3.5%;高い確からしさ),消化管出血の頻度は増加させなかった.

【問題点】
多くのアウトカムにおいて,少ない事象数と試験数であった.試験はしばしば重篤な有害事象のリスクが高い患者が除外されていた.

【結 論】
市中肺炎による成人入院患者において,コルチコステロイドの全身投与は死亡率を約3%,人工呼吸器装着を約5%,入院期間を約1日減少させる可能性がある.

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by DrMagicianEARL | 2015-08-14 11:16 | 肺炎 | Comments(0)
■救急外来に来た20代の若年患者のCT(両側肺背側に気管透亮像を伴う浸潤陰影を有する典型的な誤嚥性肺炎像)を見た研修医が,こんなに若い患者が誤嚥性肺炎になるわけがないという思い込みから「間質性肺炎を疑います」と報告してきたことがありました.確かに誤嚥性肺炎自体は50歳代から生じることが報告されており,20代では考えにくいですが,「抗精神病薬とか内服していないか?」と聞くとビンゴでした.

■抗精神病薬(睡眠薬含む)が必要ならば仕方がありませんが,不必要に処方されているケースも多く,それが誤嚥性肺炎の引き金となっていることはよく経験されます.そしてそれは若い患者であっても生じます.以下は抗精神病薬が誤嚥性肺炎リスクを増加させるとするメタ解析ですが,特筆すべきは,高齢でも若年でもそのリスクは同等という結果です.
抗精神病薬曝露と肺炎のリスク:観察研究のシステマティックレビューとメタ解析
Nosè M, Recla E, Trifirò G, et al. Antipsychotic drug exposure and risk of pneumonia: a systematic review and meta-analysis of observational studies. Pharmacoepidemiol Drug Saf 2015; 24: 812-20
PMID:26017021

Abstract
【目 的】
肺炎は65歳の患者において有病や死亡の主要な原因の1つである.近年,高齢患者において複数の研究で抗精神病薬(AP:antipsychotic)の使用と肺炎リスクの関連性が示唆されている.この観察研究のシステマティックレビューおよびメタ解析の目的は,第一世代および第二世代抗精神病薬が高齢者,さらには若年層においても肺炎リスクを増加させるのかについて検討し,薬剤の曝露に関連したリスクを明らかにすることである.

【方 法】
APに曝露されていない患者あるいは過去にAPを使用した患者とAP曝露患者を比較した肺炎アウトカムについてのデータを報告した全観察コホート研究または症例対照研究をシステマティックレビューおよびメタ解析に含めた.研究参加者は,診断カテゴリーにおいて制限のない任意の性別,年齢を含めた.

【結 果】
肺炎リスクは第一世代AP曝露(OR 1.68; 95%CI 1.39-2.04, I2=47%),第二世代AP曝露(OR 1.98; 95%CI 1.67-2.35, I2=36.7%)で有意に増加した.そのリスクは,高齢者および若年成人層において,異なる診断カテゴリーや年齢別グループ間でも同等であった.年齢と肺炎リスクのいかなる関連性も検出されなかったメタ解析によって年齢の知見は裏付けられた.いくつかの研究のみが個々の薬剤についてのデータを報告していた.

【結 論】
近年の観察研究のエビデンスのシステマティックレビューでは,第一世代および第二世代のAP曝露は肺炎リスクの増加に関連していることが示唆された.本システマティックレビューは,高齢患者のみならず若年患者においてもリスクが増加するを示したことで既知の知見を拡張するものである.個々の交絡因子における肺炎リスクについての情報はまだ非常に限定されている.

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by DrMagicianEARL | 2015-08-08 00:00 | 肺炎 | Comments(0)
5.高齢者の誤嚥性肺炎における医療者から家族への助言と家族の意思決定

■高齢者肺炎について,過去に2回記事をアップした.今回は3回目となるが,the New England Journal of MedicineのClinical Practiceに非常に参考になる論文がでていたので紹介する.
高度認知症
Mitchell S. CLINICAL PRACTICE. Advanced Dementia. N Engl J Med 2015; 372: 2533-40
PMID:26107053

【症例提示】
10年以上のアルツハイマー病の既往を有する89歳男性の老人ホーム入所者が,38.3℃の発熱と咳嗽,28回/分の頻呼吸を呈した.看護師の報告では,彼は6カ月以上,著職時に咳き込み,誤嚥トラブルが生じていた.彼は深刻な記憶障害があり,もはや自分の娘も認識できず,寝たきり状態で,いくつかの単語をつぶやくことができる程度で,いかなる日常生活動作も行うことができない.看護師は,彼を入院させるべきかどうか尋ねてきた.この患者をどのように評価して治療すべきであろうか?

【Key Clinical Points】
「高度認知症について」
・米国において高度認知症は主要な死亡原因となっている.
・深刻な記憶障害(例えば家族を認識できないなど),最小限の言語コミュニケーション,歩行能力の欠如,日常生活動作(ADL)を行えないこと,尿・便失禁といった特徴を有する.
・最も一般的な臨床的合併症は,食事摂取の問題と感染症であり,これらのマネージメントの意思決定が必要である.
・事前のケア計画はケアにおいて重要である.治療の意思決定はケアの目標によって誘導されるべきである.90%以上の医療ケア委任者は患者の快適さが主要目標としている.
・観察研究では,高度認知症患者において,経腸栄養管にいかなる有益性もなく,経腸栄養は推奨されないとしている.
・観察研究では,ホスピスケアのいくらかの有益性が示されている.高度認知症患者は利用可能ならば,緩和ケアとホスピスケアサービスを提供されるべきである.

【結 論】
 冒頭に提示した男性は高度認知症と誤嚥性肺炎を示唆する症状を有している.この症例において,老人ホームの患者における肺炎に対する抗菌薬の投与に関する最小限の臨床基準(体温<38.8℃,新規発症の咳嗽,呼吸回数>25回/分)を満たしている.

 患者の治療を始める前に,彼の娘は彼の状況を知らされるべきであり,ケアの目標を検討する必要がある.もし快適さに焦点をあてた目標であることが明確なのであれば,症状を取り除く治療のみを行うべきである.そうでないならば,娘は父親の一般的な予後が,高度な認知症のため,治療に関係なく予後が不良であることを助言すべきである.彼女は誤嚥性肺炎が嚥下の問題で生じるものであり,これは高度認知症患者ではよくみられることで,今後も持続することを理解する必要がある.その上で,治療の選択肢とその利点・欠点を概説する必要がある.

 快適さの処置が好ましいのであれば,それ以上のことは行わない.症状は治療されるべきであり,ホスピスや緩和ケアが提供されるべきである.娘が父親の寿命を延長することが彼の希望と合致すると感じるのであれば,最低限の侵襲的な経路による抗菌薬の投与を老人ホームで開始する必要がある.もし賢明な助言をした上で、娘が,父親はまだあらゆる可能性のある延命介入(例えば気管挿管など)を望むだろうと思っていた場合は,その希望は尊重されるべきあり,抗菌薬を老人ホームで開始し,もし彼の状態がさらに悪化するならば入院させるべきである.彼のケアの目標は状態の変化によって見直されるべきである.
■高齢化社会を迎えるにあたり,このようなケースはよく経験される.日本では多くの場合は病院に救急搬送されることになる.その一方で国によっては,入院しないという意思表示,いわゆるDNH(Do Not Hospitalized)orderが可能である.ここには死生観のみならず,保険制度,経済事情,家族の社会背景,福祉,宗教等,さまざまな違いが関与し,国や地域によっての考え方の違いが生じる.

■現在,日本では誤嚥性肺炎で入院した患者の4割が,肺炎が改善しても全量経口摂取に到達できない状況にある.この数字は,寝たきりで高度認知症を有する患者層に絞ればより高い割合となるであろう.このような状況において,ケアの目標をどこに設定するか,患者と病院と施設,あるいは医療職種間でも意見の相違がみられることはよくある.このため,患者の状態が全く同じであっても,同じ目標になるとは限らない.

■上に紹介した論文では,高度認知症患者の疫学的現状,意思決定のためのアプローチ,高度認知症患者に生じる合併症(食事摂取の問題,感染症),入院すべきか否か,緩和ケアとホスピス,薬剤使用,経腸栄養(胃瘻・経鼻胃管)のガイドライン等について50報の引用文献をもって議論している.そして,そこから,医療者が患者家族にどのように助言し,どのように家族に意思決定をしてもらうかについて非常に参考になると思われる.

■以下も参考にされたい.
超高齢者肺炎患者の入院や抗菌薬治療には意味があるか?(1) ~治療とQOLのジレンマ~
http://drmagician.exblog.jp/21527127/

超高齢者肺炎患者の入院や抗菌薬治療には意味があるか?(2) ~人は肺炎で死ぬのか?~
http://drmagician.exblog.jp/22579502/

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by DrMagicianEARL | 2015-07-04 18:53 | 肺炎 | Comments(0)
■レジオネラ肺炎に対してはキノロン(FQs)とマクロライド(MLs)が有効とされています.これまで直接比較した検討ではエリスロマイシン(EM)やクラリスロマイシン(CAM)ではFQsより不利という報告がいくつもでていたこともありFQsが第一選択とされています.しかしながらアジスロマイシン(AZM)での単一アームの報告では治療成績は決してFQsには劣っていませんでした.私自身,n=2ではありますが,レジオネラ肺炎をAZMで治療した経験があり,特に治療に難渋はしていません.今回,FQsとAZMを直接比較したコホート研究が初めて報告されましたので紹介します.なお,試験デザインは細かい重症度や検査値が考慮されていない大規模データベースのpropensity score matchingですので注意は必要ですが.いずれにせよこの疾患はRCTを行うことが困難です.
レジオネラ肺炎による入院患者における抗菌薬治療レジメンと院内死亡の関連性
Gershengorn HB, Keene A, Dzierba AL, et al. The association of antibiotic treatment regimen and hospital mortality in patients hospitalized with legionella pneumonia. Clin Infect Dis 2015 Jun 1;60(11):e66-79
PMID:25722195

Abstract
【背 景】
ガイドラインではレジオネラ肺炎の治療においてアジスロマイシンまたはキノロン系抗菌薬が推奨されている.これらの治療について比較した臨床研究はない.

【方 法】
我々は,Premier Perspectivesデータベース(2008年7月1日~2013年6月30日)を用いて,米国においてレジオネラ肺炎の診断で入院した成人患者の後ろ向きコホートの解析を行った.主要評価項目は院内死亡率とした.加えて,入院期間,Clostridium difficile腸炎,全入院コストも評価した.我々はアジスロマイシン対キノロンの治療を受けた患者の比較のため,傾向に基づいたマッチングを使用した.全ての解析は,ICU入室や人工呼吸器を要する,あるいは予測院内死亡が四分位で最も高いと定義されたより重症度の高い患者のサブ解析も行った.

【結 果】
437の病院で3152例の成人がレジオネラ肺炎と診断された.キノロン単独は28.8%,アジスロマイシン単独は34.0%,併用は1.8%で使用されていた.院内粗死亡率はキノロン群が6.6%(95%CI 5.0-8.2%),アジスロマイシン群が6.4%(95%CI 5.0-7.9%)で同等であった(p=0.87).傾向スコアマッチング(各群813例ずつ)でも死亡率は同等であった(全体で6.3%[95%CI 4.6-7.9%] vs 6.5%[95%CI 4.8-8.2%], p=0.84,より重症度の高いサブグループで14.9%[95%CI 10.0-19.8%] vs 18.3%[95%CI 13.0-23.6%], p=0.36).入院期間,C. difficile感染,全入院コストに差はみられなかった.

【結 論】
レジオネラ肺炎の治療においてアジスロマイシン単独かキノロン単独の使用は院内死亡率が同等であった.わずかな患者が併用療法を受けていた.

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by DrMagicianEARL | 2015-05-18 16:08 | 肺炎 | Comments(0)
■高齢者が誤嚥性肺炎で入院するとかなりの割合で経口摂取ができない状態となってしまうことは多くの先生が経験されることです.もちろん可逆的なfrailtyの患者であればST介入下での嚥下訓練等である程度経口摂取が可能となってきますが,それを超えてしまった不可逆な状態まで嚥下機能が障害された患者は経口摂取を断念せざるを得ないことが多いです.もっともこれは加齢に伴う機能低下進行の結果であり,嚥下機能障害はその氷山の一角に過ぎず,そこまで進行してしまった患者は他にも何らかの機能低下が多数合併しています.

■難しいのは,初めての誤嚥性肺炎の入院でも経口摂取不可となるほどの嚥下機能低下を伴っていることは珍しくなく,これはある意味寿命でもあるのですが,家族がなかなか受け入れがたいことです.このため,誤嚥性肺炎が疑わしい患者では,最初の病状説明で,どれくらいの患者が経口摂取不可となるかについての自施設データ(4割が経口摂取困難となる)を私はお話しています.他施設の話を聞くと,概ね3-5割といったところでした.

■今回,本邦の高齢者における誤嚥性肺炎後の経口摂取到達率のデータが報告されましたので紹介します.到達率は約6割(≒経口摂取困難となるのは4割)であり,DPCデータという特性上のバイアスはあるものの,実臨床に合致した実に生生しいデータです.

■frailtyな状態を過ぎた不可逆な機能低下の患者なら仕方がないのですが,問題は,まだ可逆性を残している患者ですら経口摂取訓練が困難な医療社会になってきている現実です.診療報酬改定により嚥下訓練を目的としたリハビリテーション病院への転院が難しくなってしまい,まだ経口摂取の望みある患者まで嚥下リハビリテーションが継続できなくなってきています.加えてSTが足りない,高齢者はさらに増加することを踏まえると,この領域自体が限界にきているととらえざるを得ません.アンチエイジングや健康日本を推進するのもいいですが,End-of-Lifeについて国はもっと対策すべきでしょう.
高齢者の誤嚥性肺炎後の経口摂取の予測因子
Momosaki R, Yasunaga H, Matsui H, et al. Predictive factors for oral intake after aspiration pneumonia in older adults. Geriatr Gerontol Int 2015 May 8 [Epub ahead of print]
PMID:25953259

Abstract
【目 的】
本研究の目的は,高齢患者の誤嚥性肺炎後の経口摂取達成の予測因子を明らかにすることである.

【方 法】
本後ろ向き観察研究は本邦DPCの入院患者データベースを用いた.我々は誤嚥性肺炎で急性期病院に入院した患者を抽出した.評価項目は,全量経口摂取達成までの期間とした.経口摂取の早期導入の予測因子の検出はCox回帰解析を使用した.

【結 果】
誤嚥性肺炎による高齢患者66611例のうち,30日以内に59%が全量経口摂取に到達した.Cox回帰解析では,女性,高いBarthel指数が全量経口摂取の早期達成と関連していた.低体重,高い肺炎重症度スコア,合併症は全量経口摂取の遅延と関連していた.

【結 論】
我々は高齢誤嚥性肺炎患者における全量経口摂取の予測因子を明らかにした.本知見は高齢誤嚥性肺炎患者の栄養療法計画の一助となるであろう.

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by DrMagicianEARL | 2015-05-11 15:50 | 肺炎 | Comments(0)

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