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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

カテゴリ:肺炎( 22 )

Summary
・70歳以上の肺炎は抗菌薬が進歩しても予後は改善しておらず,その原因は宿主の状態にあり,特に誤嚥は予後不良因子である.
・医療介護関連肺炎分類による抗菌薬の推奨は根拠が乏しく,広域抗菌薬の乱用につながりかねない.
・超高齢者肺炎は心不全,嚥下機能障害を含む廃用症候群,認知症,低栄養状態,電解質異常などを合併した,加齢に伴う種々の機能低下であるfrailty,あるいはpost-frailtyの状態を呈する症候群であり,感染症のみでとらえるべきではない.
・抗菌薬治療は延命効果と急性期の症状緩和効果がある一方で,長期のQOLを悪化させる要因になりえ,入院治療はさらに長期QOLを悪化しうる.
・その一方で,終末期の緩和ケアであれば,苦痛緩和目的での抗菌薬治療も有効であれば許容されるべきかもしれない.その上でオピオイドをはじめとする症状緩和も併用されるべきであろう.
・急性期病院における超高齢者肺炎の診療は治療と同時に大きな侵襲となり,大幅なADL・QOLの低下を招く.
・本邦では超高齢者肺炎患者の多くの家族は嚥下機能低下を過小評価しやすく,その受け入れは初期はしばしば困難であり,十分な説明をもって時間をかけて家族に伝える必要がある.
1.高齢者の肺炎は感染症か?

■肺炎は感染症であり,その治療の主軸は抗菌薬であるとされている.このため,若年者では肺炎で死亡することはまず経験されない.しかしながら,超高齢者肺炎では抗菌薬を投与すれば解決するというものではない.実際に厚生労働省の統計では,70歳を境に肺炎死亡率は増加し始める.日本呼吸器学会が定めた肺炎重症度分類A-DROP[1]でも,男性は70歳以上が,女性は75歳以上が重症度リスクとして挙げられている.また,1970年から1991年までの肺炎死亡率の動向[2]を見てみると,70歳未満は肺炎死亡が減少傾向を示したのに対し,70歳以上は増加している様子がよく分かる.

■この70歳をカットオフとした死亡の増加減少の違いは何か?これは抗菌薬の発達とともに若年層は死亡率が低下したが,70歳以上の高齢者は抗菌薬の進歩の恩恵を受けていないことが推察される.実際に,厚生労働省の人口動態推計の疾患別死亡率を見ると,ペニシリン系抗菌薬が発売された1950年頃,マクロライド系抗菌薬が発売された1965年頃は肺炎死亡率は減少傾向を示しており,若年層の肺炎死亡が大幅に減少したことを反映してのものである.一方,1975年以降にセフェム系,カルバペネム系,キノロン系が発売されたが,死亡率は増加の一途をたどっている.高齢化により70歳以上の人口が増え,これらの集団が抗菌薬では治癒しえない何らかの要因で死亡していることを物語っているものと思われる.

■近年,医療介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン[3]が日本呼吸器学会から発表され,重症度,耐性菌リスクにより,抗菌薬使用について4クラスに分類がなされた.この中で,中等度のC群,重症のD群では広域抗菌薬が推奨され,MRSAリスクのある患者については抗MRSA薬の併用まで推奨がなされている.しかしながら,実際にはC群では推奨抗菌薬を使わずとも予後は変わらない,SBT/ABPCを使用すれば8割は治癒しうる,という報告が学会等で発表されるようになった.これは耐性菌が単なる検出菌であるのか原因菌であるのかについて明確な根拠なしに広域抗菌薬が推奨されてしまった経緯がある.
※当院では,NHCAP診療ガイドラインは広域抗菌薬によるover treatmentにつながること,抗菌薬治療以外について重視していないことから,研修医には一切ガイドラインについて教えていない.

※MRSAを含む薬剤耐性菌を有する患者の予後が悪いことは多くの研究で示されている.しかしながら,高齢者肺炎において抗菌薬の奏功度を見ているとこれらの菌が肺炎起因菌となっていることは実際にはかなり少ないと思われる.耐性菌検出の意味は起因菌であるか否かよりも,その患者の身体機能の衰えを反映しているのではないかと考えている.


■NHCAP診療ガイドラインのお手本である,米国の医療ケア関連肺炎(HCAP)ガイドラインについては,その分類に疑問を呈する報告が相次いでおり,Britoら[4]はHCAPに関するレビューを行い,HCAPガイドラインは広域抗菌薬が不必要な患者にまで広域抗菌薬が投与されており,耐性菌リスクを有する肺炎症例すべでに必ずしも併用療法を行う必要はないとする内容を述べている.Attridgeら[5]もレビューにおいて,HCAPガイドラインを遵守した治療が予後を改善する根拠はないとしている.さらに,Kettらは,薬剤耐性菌を疑われた患者集団においてガイドラインで推奨された広域カバーの抗菌薬併用療法を行ったガイドライン遵守群が非遵守群より死亡率が有意に高かったと報告している[6].2013年にはCharmersらの24報22456例メタ解析[7]において,「HCAPの概念は主に低い質のエビデンスに基づいており,耐性菌を正確に検出していない.HCAPにおける死亡率は耐性菌の高い頻度を反映しない」と結論づけられている.広域抗菌薬や抗MRSA薬は70歳以上の高齢者肺炎においてそれほど大きな意味をなさない,抗菌薬の選択は予後に影響を与えていない可能性が高い.

■ではこの70歳以上という年齢にはどういう特徴があるのか.Teramotoら[8]は,本邦の肺炎患者の多施設前向き研究を行い,年齢別の誤嚥関与の頻度を報告している.これを見ると,50歳から誤嚥は始まっており,60歳代では約半数,70歳代では70%以上,80歳以上では90%前後に達している.70歳以上での誤嚥の関与がいかに多いかであるが,この誤嚥という因子が肺炎の予後決定因子であることも報告されている.使用すべき抗菌薬がほぼ同じになるであろう肺炎球菌肺炎予後を,市中肺炎群(CAP群)と医療ケア関連肺炎(HCAP群)で比較した228例コホート研究PROCORNEU study[9]では,30日死亡率は7.6% vs 29.5%(p<0.001)であり,起因菌と使用する抗菌薬が同一であるにもかかわらずHCAP群で有意に高い結果となった.この中で,誤嚥因子は死亡リスクを5.65倍増加することが示されている.同様に,CAPであろうが,HCAPであろうが,誤嚥が死亡リスクを上昇させる要因であることを示す報告が複数でてきている[10,11]

■誤嚥は嚥下機能低下というベースの合併症の存在に他ならない.さらに誤嚥は数多くの機能低下の氷山の一角に過ぎず,超高齢者肺炎には様々な合併症がつきまとう.心不全,嚥下機能障害を含む廃用症候群,認知症,低栄養状態,電解質異常などであり,抗菌薬治療が予後に関連せず,これらの宿主因子が予後に関連していることは既に多くの報告が示す通りである.これらの患者はいわゆるfrailtyと呼ばれる状態かそれ以下の状態(私はpost-frailtyと表現している)にあり,肺炎治療で実際に難渋するのは肺炎ではなくこれらの背景病態の管理である.すなわち,超高齢者肺炎は感染症というよりも加齢による種々の機能低下による症候群に他ならず,肺炎はその急性増悪病態と考えてよいかもしれない.同様に,超高齢者心不全についても同様の議論はなされるべきと思われる.
※当院では肺炎が治癒せず遷延して死亡するというケースはまず経験することがなく,肺炎が直接死因となることは基本的にない.多くの場合,ベースの慢性心不全の増悪による難治化で,肺炎治癒後も心不全が遷延するケースが死亡する.死亡統計では原疾患が死因として集計されるため,肺炎そのものが直接死因として多いと認識されがちであるが,私はそれには懐疑的である.

2.超高齢者肺炎に抗菌薬治療は意味があるか?

■超高齢者肺炎に抗菌薬治療を行うか行わないかでその後の予後はどう違うのであろうか?そのひとつの答えとなる可能性があるのがGivensらのCASCADE study[12]である.この報告は米国22の介護施設の認知症が進行した肺炎患者225例の前向き観察研究を行ったものである.患者背景を見ると,「Do-not-hospitalised order(入院しない意思表示) 114 (50.7%)」とある.延命治療拒否の意思表示は日本でもDNAR(Do Not Attempt Resuscitate)として知られているが,入院拒否のDNHは日本では馴染みがないだろう.この米国の研究ではこのDNHの意思表示をあらかじめしている患者が約半数にのぼる(もちろん医療保険等の社会的背景の日米での違いはあるが).全患者のうち,抗菌薬を投与しなかった患者は8.9%であった.抗菌薬を投与することで死亡リスクは80%減少し,DNHの意思表示は死亡リスクを2.21倍に有意に増加させた.本研究では,人生の最後(End-of-life)のQOLを快適に過ごせたかについて評価するスケールを用いており,抗菌薬治療を行わなかった患者に比して抗菌薬治療を行った患者はQOLが低く,入院した患者ではさらにQOLが低下していた.

■なお,このCASCADE studyのコホートデータにおいて,保険会社Medicadeの診療ごとの支払いシステム利用者とMedicadeがケアをマネージメントしたシステム利用者を比較した解析[13]では,マネージメント群の方がDNHが多く,急性疾患での病院搬送が少なく,侵襲的介入も少なかったと報告している.

■救命・延命という点では抗菌薬治療や入院は有用かもしれないが,それと引き換えに著しいQOLの低下を伴っており,抗菌薬も病院への入院も患者への侵襲となっていることを示している.実際に誤嚥やDNHの意思表示のないことは侵襲的治療に関連した因子であることが報告されている[14].van der Steenら[15]は,米国とオランダの介護施設の認知症を伴う下気道感染症932例の前向きコホート研究を行い,行動抑制はADLを低下させ,経口抗菌薬治療は3ヶ月死亡率を改善させないと報告している.2012年に米国集中治療医学会からPICS(Post-Intensive Care Syndrome)の概念が提唱されたが,これは疾患そのものの侵襲のみならずICUでの医療行為による侵襲がICU退室後の種々の長期予後を悪化させていることを示しており[16,17],超高齢者肺炎においてもPost-Hospitalized Syndromeとも呼ぶべき問題がある.すべての医療・介護従事者は入院自体が侵襲であることを認識する必要がある.

■逆に抗菌薬治療の差し控えは認知症を進行させる,重症肺炎を惹起させる,食物・水分の経口摂取量が減る,脱水が進行するなどの弊害があることを指摘する報告[18]や,肺炎による死亡の直前は認知症患者において著しい苦痛を伴い,死が差し迫っている状況での抗菌薬の使用はこれらの不快さを減じるかもしれないとする報告[19]もあり,必ずしも抗菌薬を投与しないことがよりよい余生を過ごすことにつながるとは限らない.また,病院の介入は,その患者の終末期において,呼吸困難や疼痛といった苦痛の緩和目的でのオピオイドをはじめとする各種薬剤の投与も(病院によっては)可能であるという一面も有する[20].抗菌薬治療を行わないことは症状面での苦痛を増大させるが,死までの時間は短く[21],ここに入院による緩和ケアの意義はあるかもしれない.

■超高齢者肺炎において,抗菌薬を使うべきか,入院すべきか否かについては個々の患者での熟慮も必要であり,そこには社会的背景や個人の思想・宗教もからんでくるため,今後も答えはなかなかでない問題といえる.「抗菌薬の選択は予後に影響を与えない」は「抗菌薬投与有無は予後に影響を与えない」という意味ではないことに注意が必要であり,抗菌薬を投与しても無駄という風潮を危険視する意見もある[22].まとめると,抗菌薬治療は延命効果と急性期の症状緩和効果がある一方で,長期のQOLを悪化させる要因になりえ,入院治療はさらに長期QOLを悪化しうる.その一方で,終末期の緩和ケアであれば,苦痛緩和目的での抗菌薬治療も許容されるべきかもしれない(ただし,抗菌薬投与による副作用で死亡率が悪化することも知られており,無目的かつ漫然とした使用は避けるべきである).その上でオピオイドをはじめとする症状緩和も併用されるべきであろう.

3.高齢者肺炎における急性期病院の役割は?

■高齢者自身はどう考えているか.認知機能が保たれた介護施設患者へのアンケート調査[23]では,誤嚥性肺炎を繰り返した場合どうするかについて,61.5%が入院を希望し,73.1%が抗菌薬治療を希望した.69%は経鼻胃管栄養を希望せず,71%は胃ろうを希望しなかった.59.6%は再誤嚥のリスクがあっても経口摂取がしたいと答えた.

■当院では軽症であっても肺炎はすべて呼吸器内科で診療を行っている.急性期は積極的加療を行い,抗菌薬に加え,嚥下困難例は早期から一時的に経鼻胃管や中心静脈カテーテルを挿入して栄養管理を行いながら嚥下・運動リハビリテーションを行い,ときにアルブミン製剤を使用することもある.敗血症性ショック例もICUで治療を行わない場合であってもプロトコル導入により一般病棟の治療でも救命率が向上した.急変時no CPR希望が多いため,利尿薬(フロセミド)にすら反応しない心不全合併例の救命は困難であることが多かったが,トルバプタン(サムスカ)の登場によりこれらの難治例も救命できるようになり,死亡率は非常に低くなった.このように急性期の救命という意味では非常に超高齢者肺炎の治療成績がよくなったが,さて,はたしてこれらの当院の治療成績向上は意味があるのだろうか?仮に超高齢者肺炎の平均死亡率よりも当院の死亡率が非常に低かったとしても,それはよりよい医療を提供しているわけではないのではないか?そんな疑問を抱きながら肺炎治療を今日も行っている.

■リハビリと口腔ケアを積極導入することにより早期回復・退院をめざす医療介入を行っても,嚥下困難となり,依然として超高齢肺炎患者の約4割(当院の場合)が経口摂取以外の栄養経路が必要となってしまう現実がある.これらの患者層は可逆的なfrailtyという状態を超えたpost-frailtyという状態にあり,その機能を戻すことはもはや困難な患者集団である.難治例の救命はそれだけ患者に侵襲を与え,身体機能・精神機能を大幅に低下させ,post-frailty状態の患者を生み出しているという現状が急性期病院の肺炎診療にあたる医療従事者につきつけられている.しかしながら米国で導入されているDNHという概念を本邦で普及させるには法整備と自宅や介護施設で看取れる社会環境の変革がまず必要であり,加えて,日本の国民への「老衰」への認識を考えてもらう必要がある.健康日本21で日本国民に周知させるためにメタボリックシンドロームや糖尿病,COPDがとりあげられているが,今の日本国民により必要なのはこの老衰の認識ではないか.残念ながら老化に関しては「アンチエイジング」の認識しか広まっていない.日本人は,風邪ひとつをとってみても分かる通り,「点滴」「病気になったら病院へ」の文化が定着している民族であり,DNHという考え方はなかなか根付かないだろう.

■高齢者肺炎で救急搬送されてくる患者の家族はそのほとんどが患者の嚥下機能の衰えを認識しておらず,肺炎が治れば元通りになると考えている家族は非常に多い.それゆえ,肺炎は治療したが嚥下機能は廃絶していることを告げると,あたかも癌告知のようなショックを受ける家族もおり,誤嚥性肺炎を起こすことは,たとえそれが初めての誤嚥性肺炎であっても嚥下機能がギリギリの状態にまで衰退している場合も少なくはなく,癌の進行と似たようなものなのかもしれない.少なくとも,患者の機能がここまで衰えていること,余生についてそろそろ考えるべき時期がきていることを十分な説明をもって時間をかけて家族に伝えるという意味での入院・救命の意義はあるかもしれない.

※「窒息してもいいから食べさせて」と言う家族もたまにいる.当然ながら“倫理的問題”により病院や施設ではそのようなことは不可能で,嚥下機能廃絶患者に危険を承知で経口摂取してもらうなら自宅で家族に行ってもらうしかない.しかし,人間にとって三大欲のひとつ「食欲」の手段である経口摂取をさせないことは“倫理的問題”にはならないのか?

※現在私は,超高齢者肺炎では,肺炎が治癒しても約4割が経口摂取困難になること,その際は他の栄養摂取経路の選択(末梢点滴,胃ろう,中心静脈ポート)が必要になることを入院時の家族へのムンテラで説明している.さらに,急性期にできるだけ早い改善をもって回復期のリハビリと早期退院でADLを落とさないようにするため,一時的に経鼻胃管や中心静脈カテーテル,アルブミン製剤を使用して(実際に中心静脈カテーテルを挿入するのは末梢点滴がとれないケースがほとんど)短期間の集中的治療を行うことを説明している(これらの退院・転院までの一連の流れはより効率化させるため,TAPERing projectと称する回復期介入のガイドライン/プロトコルを作成し,現在クリニカルパスとして運用を開始している).抗菌薬は耐性菌リスクがあってもほとんどのケースはABPC,SBT/ABPC,CMZで治療(過去に緑膿菌感染の既往があればPIPCまたはTAZ/PIPCを考慮することもある.抗MRSA薬が最初から投与されることはまずない)しており,治療開始4日目前後の奏功度と培養結果を見て継続かescalationするかを決定している(普段はde-escalationを行っているが,超高齢者肺炎だけは例外的に狭域で開始して必要に応じてescalationを行っている).このescalationについて近々コホート研究として報告を検討している.


超高齢者肺炎患者の入院や抗菌薬治療には意味があるか?(2) ~ヒトは肺炎で死ぬのか?~ はこちら

[1] 日本呼吸器学会呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会.成人市中肺炎診療ガイドライン.日本呼吸器学会,東京,2007
[2] 西田 茂樹.近年の肺炎死亡率の動向について.Bull Inst Public Health 1993; 42: 526-32
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[22] van der Steen JT, Helton MR, Ribbe MW. Prognosis is important in decisionmaking in Dutch nursing home patients with dementia and pneumonia. Int J Geriatr Psychiatry 2009; 24: 933-6
[23] Low JA, Chan DK, Hung WT, et al. Treatment of recurrent aspiration pneumonia in end-stage dementia: preferences and choices of a group of elderly nursing home residents. Intern Med J 2003; 33: 345-9
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by DrMagicianEARL | 2014-01-06 10:41 | 肺炎 | Comments(3)
2012年肺炎関連文献集(2) ~医療介護ケア関連肺炎(NHCAP/HCAP),院内肺炎(HAP),人工呼吸器関連肺炎(VAP)~

医療介護ケア関連肺炎においてなぜ死亡率は増えるのか?肺炎球菌肺炎の教訓
Rello J, Luján M, Gallego M, et al; PROCORNEU Study Group. Why mortality is increased in health-care-associated pneumonia: lessons from pneumococcal bacteremic pneumonia. Chest 2012; 137: 1138-44
PMID:19952058
ポイント:診断しやすく,適切な抗菌薬が投与されやすい肺炎球菌肺炎での背景因子の違いを検討した研究.市中肺炎(CAP)184例と医療介護ケア関連肺炎(HCAP)44例を比較したところ,死亡率は7.6%vs29.5%とHCAPが有意に高かった.HCAP群はCAP群と比較して年齢,Charson index,入院時重症度が有意に高く,また,ICU入院率は有意に低かった.人工呼吸器装着率や循環作動薬の使用率は有意ではないもののHCAP群が低い傾向であった.HCAPであることそのものが死亡率増加に関連していた(OR 5.56).肺炎においては適切な抗菌薬治療よりも宿主状態の影響が大きいのかもしれない.

透析以外に医療介護ケア関連肺炎(HCAP)の要素を有さない透析患者における肺炎は,HCAPとして抗菌薬治療を行うべきか?
Taylor SP, Taylor BT. Healthcare-associated pneumonia in hemodialysis patients: Clinical outcomes in patients treated with narrow versus broad spectrum antibiotic therapy. Respirology 2013; 18: 364-8
PMID:23066809
ポイント:透析患者の肺炎はATS/IDSAガイドライン2005では医療ケア関連肺炎(HCAP)として扱い,広域抗菌薬を投与することが推奨されている(本邦でも医療介護関連肺炎(NHCAP)の扱い).しかし,この分類を支持するデータは少ない.透析を受けている肺炎患者125名について,市中肺炎(CAP)として扱い狭域抗菌薬を投与した患者群とHCAPとして扱い広域抗菌薬を投与した患者群をbefore-afterで比較を行った.患者背景では重症度PSI,CCIに有意差なし.広域抗菌薬群は狭域抗菌薬群に比して経口抗菌薬スイッチまでに要した期間,臨床的安定化後の抗菌薬注射製剤投与期間,入院期間が有意に長かった.臨床的に安定化するまでの期間も有意ではないが長い傾向がみられた.

MRSAによる医療ケア関連肺炎(HCAP)患者における経験的バンコマイシンの中断の試験
Boyce JM, Pop OF, Abreu-Lanfranco O, et al. A Trial of Discontinuation of Empiric Vancomycin Therapy in Patients with Suspected Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus Healthcare-Associated Pneumonia. Antimicrob Agents Chemother 2013; 57: 1163-8
PMID:23254432
ポイント:91例の後ろ向き解析.MRSA疑いの医療ケア関連肺炎(HCAP)においては,十分な下気道検体による培養が得られない場合は鼻腔・咽頭でMRSAが陰性化すること,臨床肺感染スコア(CPIS)<6をもって経験的バンコマイシン投与を中止することが合理的である.

スタチン,アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB),アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACEi)の肺炎関連予後
Mortensen EM, Nakashima B, Cornell J, et al. Population-based study of statins, angiotensin II receptor blockers, and angiotensin-converting enzyme inhibitors on pneumonia-related outcomes. Clin Infect Dis 2012; 55: 1466-73
PMID:22918991
ポイント:65歳以上の肺炎入院患者50119名のコホートデータを用いて,propensity score matchingを行い11498例(対照群も同数)を解析し,スタチン,ACEi,ARBの効果を検討した報告.スタチン内服歴は死亡リスクを26%低下,人工呼吸器装着リスクを32%有意に低下.ACEi内服歴は死亡率を12%有意に低下,ARBは死亡率を27%有意に低下させた.

脳卒中患者におけるアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACEi),アンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)と肺炎リスク
Liu CL, Shau WY, Wu CS, Lai MS. Angiotensin-converting enzyme inhibitor/angiotensin II receptor blockers and pneumonia risk among stroke patients. J Hypertens 2012; 30: 2223-9
PMID:22929610
ポイント:脳卒中既往がありその後肺炎をきたした患者13832例の解析.ACEiは肺炎リスクを30%有意に低下させ,その効果は用量と有意に相関した.ARBの肺炎リスク低下作用はみられなかった.台湾からの報告.

アンギオテンシン変換酵素阻害薬による脳卒中後肺炎の予防:メタ解析
Shinohara Y, Origasa H. Post-stroke pneumonia prevention by angiotensin-converting enzyme inhibitors: results of a meta-analysis of five studies in Asians. Adv Ther 2012; 29: 900-12
PMID:22983755
ポイント:6カ月以上追跡しており,100名以上の患者を登録しており,高血圧と脳卒中・TIA既往のある患者を対象とした5つの研究のメタ解析で,ACEiは肺炎リスクを49%有意に減じる.アジア人に絞ると58%低下,日本人に限定すると62%低下していた.

ICU発症肺炎における全身ステロイド投与と予後の関連性:前向き観察研究
Ranzani OT, Ferrer M, Esperatti M, et al. Association between systemic corticosteroids and outcomes of intensive care unit-acquired pneumonia. Crit Care Med 2012; 40: 2552-61
PMID:22732293
ポイント:ICUで肺炎を発症した360名において40%の患者がステロイド投与を受けていた.ステロイドの投与は28日生存率の低下,全身炎症反応の低下に関連しており,propensity scoreと死亡率予測で調整すると死亡リスクは2.503倍有意に増加していた.

MRSA院内肺炎におけるリネゾリド:RCT(ZEPHyR trial)
Wunderink RG, Niederman MS, Kollef MH, et al. Linezolid in methicillin-resistant Staphylococcus aureus nosocomial pneumonia: a randomized, controlled study. Clin Infect Dis 2012; 54: 621-9
PMID:22247123
ポイント:MRSA肺炎患者(ITT 448例,per-protocol 348例)を患者をLZD 600mg 12時間毎投与群とVCM 15mg/kg 12時間毎投与群に無作為割付し,7-14日間(菌血症確認された場合は21日間)連日投与して効果を比較した.トラフ・腎機能障害に基づいてVCMの投与量は調節している.臨床効果がリネゾリドが有意に良好という結果であるが,試験デザインには非常に問題点が多く,査読の練習にもオススメの文献.

MRSA院内肺炎におけるバンコマイシンとリネゾリド:ZEPHyR trialをふまえて
Alaniz C, Pogue JM. Vancomycin versus linezolid in the treatment of methicillin-resistant Staphylococcus aureus nosocomial pneumonia: implications of the ZEPHyR trial. Ann Pharmacother 2012; 46: 1432-5
PMID:22947593
ポイント:MRSA肺炎に対するリネゾリドとバンコマイシンの効果を比較したRCTであるZEPHyR trialに関する批判的吟味.ZEPHyR trialの結果をもってMRSA肺炎に対してリネゾリドをルーティンで使用することは支持しないとしている.

人工呼吸器関連肺炎(VAP)におけるドリペネム(DRPM)7日間投与とイミペネム/シラスタチン(IPM/CS)10日間投与を比較したRCT
Kollef MH, Chastre J, Clavel M, et al. A randomized trial of 7-day doripenem versus 10-day imipenem-cilastatin for ventilator-associated pneumonia. Crit Care 2012; 16: R218
PMID:23148736
ポイント:VAPに対するDRPM 1gを静注時間4時間として8時間毎に計7日間投与する群と,IPM/CSを1gを静注時間1時間として8時間毎に計10日間投与する対照群を比較した二重盲検RCT.28日死亡率はDRPM群21.5%,対照群(IPM/CS)14.8%であり,DRPM群で死亡率悪化傾向を認めたため試験中止勧告がだされた.この結果を受け,米国ではVAPのみならず肺炎においてDRPMを使用しないことを勧告しているが,投与日数が異なること,本邦と米国でantibiogramが大きく異なることなどがあり,VAP以外でも検討がなされていないことを考慮すると,このFDAの勧告をそのまま適応させることにはおおいに疑問が残る.

アジスロマイシン(AZM)はクオラムセンシング阻害作用により緑膿菌による人工呼吸器関連肺炎(VAP)を予防する:RCT
van Delden C, Köhler T, Brunner-Ferber F, et al. Azithromycin to prevent Pseudomonas aeruginosa ventilator-associated pneumonia by inhibition of quorum sensing: a randomized controlled trial. Intensive Care Med 2012; 38: 1118-25
PMID:22527075
ポイント:人工呼吸器患者92名でAZM群とプラセボ群を比較したRCT.AZM群で緑膿菌によるVAPは4.7%vs14.3%(p=0.156)で有意ではないが減少傾向がみられた.ハイリスク群のVAP発生率で見たサブ解析では有意に減少していた.ただし,この解析はper-protocol解析である.

人工呼吸器関連肺炎(VAP)の微生物学的診断にグラム染色は有用か?:メタ解析
O'Horo JC, Thompson D, Safdar N. Is the gram stain useful in the microbiologic diagnosis of VAP? A meta-analysis. Clin Infect Dis 2012; 55: 551-61
PMID:22677711
ポイント:21報のメタ解析.VAPにおけるグラム染色の感度79%,特異度75%,陰性予測率91%,陽性予測率40%.グラム染色が陽性の場合は中等度の特異性しかないが,陰性所見の場合にはVAPは考えにくいと思われる.培養結果が出るまでの間抗菌薬を狭域のものに変更する場合,グラム染色の陽性結果は用いるべきではない.

人工呼吸器関連肺炎(VAP)早期におけるプロカルシトニン
Zielińska-Borkowska U, Skirecki T, Złotorowicz M, Czarnocka B. Procalcitonin in early onset ventilator-associated pneumonia. J Hosp Infect 2012; 81: 92-7
PMID:22552164
ポイント:PCT濃度と抗菌薬療法の妥当性またはVAPの原因菌との間に関連は認められず,またPCTと不良な転帰との有意な相関はみられなかった.非生存者および敗血症性ショックではPCTは高かったが,PCTはこれらの転帰の強力な予測因子ではない.

口腔ケアにおける歯磨きの人工呼吸器関連肺炎の予防効果:システマティック・レビュー&メタ解析
Gu WJ, Gong YZ, Pan L, et al. Impact of oral care with versus without toothbrushing on the prevention of ventilator-associated pneumonia: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Crit Care 2012; 16: R190
PMID:23062250
ポイント:4報RCT,828名のメタ解析.人工呼吸患者で,歯磨きなしの口腔ケアに比べて歯磨きありの口腔ケアは,有意にVAP発生率を減少させず,他の重要な臨床転帰も有意差なし.

人工呼吸器を装着した重症患者の口腔ケアにおける歯磨きの有効性:システマティックレビュー&メタ解析
Alhazzani W, Smith O, Muscedere J, et al. Toothbrushing for Critically Ill Mechanically Ventilated Patients: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Trials Evaluating Ventilator-Associated Pneumonia. Crit Care Med 2012 Dec.19
PMID:23263588
ポイント:人工呼吸器を装着した重症患者の口腔ケアにおける歯磨きの有効性を検証した6報のRCT,計1408例のメタ解析.4報で歯磨き群は有意差ないがVAPリスクが低い傾向(RR 0.77, 95%CI 0.50-1.21, p=0.26)であった.バイアスリスクが低い報告に限定すると歯磨き群のVAPリスクは有意に低下した(RR 0.26, 95%CI 0.10-0.67, p=0.006).クロルヘキシジン消毒薬の使用はVAP予防における歯磨きの効果を有意に低下させていた.電動歯磨きと手動歯磨きでは有意差なし.歯磨きはICU滞在期間,ICU死亡率,院内死亡率には影響を与えなかった.

小児における口腔ケアとグラム陰性桿菌の咽頭・気道定着
Kusahara DM, Friedlander LT, Peterlini MA, Pedreira ML. Oral care and oropharyngeal and tracheal colonization by Gram-negative pathogens in children. Nurs Crit Care 2012; 17: 115-22
PMID:22497915
ポイント:PICUに入室した小児74名を0.12%クロルヘキシジン口腔ケア群とプラセボ群で比較した二重盲検RCT.咽頭・気道でのグラム陰性菌定着率に有意差はみられなかった.

ICU入院患者における口腔洗浄においてクロルヘキシジンとハーブ洗口液を比較したRCT
Baradari AG, Khezri HD, Arabi S. Comparison of antibacterial effects of oral rinses chlorhexidine and herbal mouth wash in patients admitted to intensive care unit. Bratisl Lek Listy 2012; 113: 556
PMID:22979913
ポイント:ICU患者60名におけるハーブ洗口液と2%クロルヘキシジンの口腔ケア効果を比較した二重盲検RCT:両製剤とも黄ブ菌と肺炎球菌に対して有意に抗菌効果があったが,製剤間比較ではクロルヘキシジンの方がより有意に効果的であった.

人工呼吸器関連肺炎(VAP)ガイドラインの実施:多施設共同前向き研究
Sinuff T, Muscedere J, Cook DJ, et al; Canadian Critical Care Trials Group. Implementation of Clinical Practice Guidelines for Ventilator-Associated Pneumonia: A Multicenter Prospective Study. Crit Care Med 2013; 41: 15-23
PMID:23222254
ポイント:VAPガイドラインの実行による成果:カナダ10施設,米国1施設の48時間以上人工呼吸器を装着している患者を4期に分けて評価(各330名).実行率上昇とともにVAP発生率は14.2%から8.8%まで有意に低下した.

ICUにおける人工呼吸器関連肺炎(VAP)予防改善を維持するプログラムの実践
Caserta RA, Marra AR, Durão MS, et al. A program for sustained improvement in preventing ventilator associated pneumonia in an intensive care setting. BMC infect dis 2012; 12: 234
PMID:23020101,Free Full Text
ポイント:ICUにおける人工呼吸器関連肺炎(VAP)予防改善を維持するプログラムの実践を行い,21894患者日数を解析.VAP予防バンドルの遵守率が90%以上をキープすることにより観察期間の間に数回発生率ゼロを達成しえた.
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by DrMagicianEARL | 2013-02-22 12:30 | 肺炎 | Comments(0)
2012年肺炎関連文献集(1) ~市中肺炎(CAP)~

重症肺炎像を呈する結核患者における経験的フルオロキノロン投与は生存率を改善させる
Tseng YT, Chuang YC, Shu CC, et al. Empirical use of fluoroquinolones improves the survival of critically ill patients with tuberculosis mimicking severe pneumonia. Crit Care 2012; 16: R207
PMID:23098258
ポイント:重症肺炎を模した肺結核を伴う患者において経験的抗菌薬でフルオロキノロン使用群と非使用群を比較した観察研究.100日死亡率は40%vs68%で有意に使用群が低い.APACHE-Ⅱscore<20,ICU入院中の菌血症がないことで調整しすると,フルオロキノロンは生存に関連した独立因子であった.結核診断前にフルオロキノロンが投与されると結核死亡リスクが1.8倍になった報告(Int J Tuberc Lung Dis 2012; 16: 1162-7)があるが,これは結核を鑑別に挙げず喀痰検査も行わないまま肺炎患者に経験的というより盲目的にキノロンを投与したという点で本文献とは異なる.結核もカバーすることを認識した上で重症肺炎患者に使用することは予後をむしろ改善させる可能性があるかもしれない.

結核診断前のフルオロキノロン暴露は死亡リスク増大に関係する
van der Heijden YF, Maruri F, Blackman A, et al. Fluoroquinolone exposure prior to tuberculosis diagnosis is associated with an increased risk of death. Int J Tuberc Lung Dis 2012; 16: 1162-7
PMID:22794509
ポイント:2007年から2009年までの間の結核患者で,結核診断前6ヶ月以内にフルオロキノロン曝露がある患者の解析.609人の結核患者のうち214人(35%)が結核診断前にフルオロキノロンに曝露されていた.71人(12%)の患者が死亡し,10人(2%)が結核診断時に,61人(10%)が結核治療中に死亡した.結核診断前のフルオロキノロン曝露は死亡リスクが1.82倍有意に上昇していた.また,結核診断前にフルオロキノロンに曝露された患者はより培養・塗抹が陰性になりやすかった.

モキシフロキサシン(MFLX)による市中肺炎治療:RCTのメタ解析
Yuan X, Liang BB, Wang R, et al. Treatment of community-acquired pneumonia with moxifloxacin: a meta-analysis of randomized controlled trials. J Chemother 2012; 24: 257-67
PMID:23182045
ポイント:14報RCT,6923名のメタ解析.市中肺炎においてMFLXは他の推奨抗菌薬と比して有害事象や死亡率に有意差なく,βラクタム系がベースの治療より良好な病原菌根絶率を有していた.

市中肺炎における高用量レボフロキサシン(LVFX):オープンラベルRCT
Lee JH, Kim SW, Kim JH, et al. High-dose levofloxacin in community-acquired pneumonia: a randomized, open-label study. Clin Drug Investig 2012; 32: 569-76
PMID:22765645
ポイント:韓国からの報告.市中肺炎で高用量LVFX群(750mgIV/日→改善後750mgPO/日)と対照群(CTRX+AZM 500mg経口×3日→改善後CPDX経口)を比較したオープンラベルRCT.治療成功率は両群間に有意差なし(94% vs 84%).

市中肺炎におけるマクロライドの効果:システマティックレビュー&メタ解析
Asadi L, Sligl WI, Eurich DT, et al. Macrolide-based regimens and mortality in hospitalized patients with community-acquired pneumonia: a systematic review and meta-analysis. Clin Infect Dis 2012; 55: 371-80
PMID:22511553
ポイント:23報137574例のメタ解析.マクロライド使用群は非使用群と比較して市中肺炎死亡率を有意に低下させた(3.7% vs 6.5%,RR 0.78).しかし,RCT,またはガイドラインに沿った治療を行った患者に限定すると有意差はみられなかった.

2011年の日本の小児におけるマクロライド耐性マイコプラズマ感染症に対するミノサイクリン,ドキシサイクリンの速効性
Okada T, Morozumi M, Tajima T, et al. Rapid effectiveness of minocycline or doxycycline against macrolide-resistant Mycoplasma pneumoniae infection in a 2011 outbreak among Japanese children. Clin Infect Dis 2012; 55: 1642-9
PMID:22972867
ポイント:小児マクロライド耐性マイコプラズマ肺炎においてミノサイクリン,ドキシサイクリン投与群はトスフロキサシン投与群よりも投与後24時間以内のマイコプラズマDNAコピー数が有意に減少していた.本邦ではマクロライド耐性マイコプラズマ肺炎が急増しており,キノロンも耐性化リスクを有することから,本報告を踏まえるとマクロライドに次ぐ第2選択薬はドキシサイクリンやミノサイクリンがよいと思われる.なお,稀ではあるがマクロライド耐性マイコプラズマ脳髄膜炎(Pediatr Int 2012; 54: 724-6)の報告もあり,このような脳髄膜炎症例ではマクロライド耐性有無にかかわらず直ちにミノサイクリンを選択して投与すべきであろう.

小児市中下気道マイコプラズマ感染症における抗菌薬
Mulholland S, Gavranich JB, Gillies MB, Chang AB. Antibiotics for community-acquired lower respiratory tract infections secondary to Mycoplasma pneumoniae in children. Cochrane Database Sys Rev 2012; 9: CD004875
PMID:22972079
ポイント:7報1912例のコクランレビュー・メタ解析.小児の市中下気道マイコプラズマ感染における抗菌薬の有効性は根拠が不十分である(肺炎ではなく下気道感染としてのレビューであり,気管支炎レベルなら抗菌薬が不要である場合も多い).RCTは1報のみであり,より質の高いDB-RCTが必要.

2008-2012年の中国は北京におけるマクロライド耐性マイコプラズマのサーベランス
Zhao F, Liu G, Wu J, et al. Surveillance of Macrolide Resistant Mycoplasma pneumoniae in Beijing, China from 2008 to 2012. Antimicrob Agents Chemother 2013; 57: 1521-3
PMID:23263003
2008年から2012年までの中国の北京におけるマイコプラズマ(M. pneumoniae)のマクロライド耐性化率の推移:68.9%→90.0%→98.4%→95.4%→97.0%.

市中肺炎において3ステップの重要な経過を経ることは注射用抗菌薬治療と入院期間を減少させる
Carratalà J, Garcia-Vidal C, Ortega L, et al. Effect of a 3-step critical pathway to reduce duration of intravenous antibiotic therapy and length of stay in community-acquired pneumonia: a randomized controlled trial. Arch Intern Med 2012; 172: 922-8
PMID:22732747
ポイント:401例RCT.市中肺炎患者において,早期リハビリ,経口抗菌薬へのスイッチ基準の使用,退院orケア施設の決定の3ステップの重要な経過を経ることで,注射用抗菌薬使用期間,入院期間を有意に短縮し,患者に悪影響を及ぼさなかった.

高齢男性にとって独身は肺炎の死亡リスク因子
Metersky ML, Fine MJ, Mortensen EM. The Effect of Marital status on the Presentation and Outcomes of Elderly Male Veterans Hospitalized for Pneumonia. Chest 2012; 142: 982-7
PMID:22459780
ポイント:48635名コホート研究.結婚している65歳以上の男性は未婚群と比較して肺炎による院内死亡リスクは13%減少,退院後90日死亡リスクは8%減少していた.65歳以上の男性において未婚は肺炎死亡の高いリスク因子であった.

院内でのスタチン投与と肺炎患者の死亡率の関連性
Rothberg MB, Bigelow C, Pekow PS, Lindenauer PK. Association between statins given in hospital and mortality in pneumonia patients. J Gen Intern Med 2012; 27: 280-6
PMID:21842322
ポイント:121254名の解析.院内での肺炎患者に対するスタチン投与はスタチン非投与肺炎患者と比較してICU入室を減少させ(15.7% vs 18.1%, p<0.001),人工呼吸器装着を減少させ(6.9% vs 9.3%, p<0.001),院内死亡率を減少させる(3.9% vs 5.7%, p<0.001).スタチンはpropensity調整後で死亡リスクを24%減少,propensity matchingで10%減少させた.

ロスバスタチンの肺炎発症に対する効果:JUPITER試験結果の解析
Novack V, MacFadyen J, Malhotra A, et al. The effect of rosuvastatin on incident pneumonia: results from the JUPITER trial. CMAJ 2012; 184: E367-72
PMID:22431901,Free Full Text
ポイント:JUPITER trialのサブ解析.17802名の中央期間1.9年間の追跡で,スタチン製剤投与により肺炎頻度は17%減少した.

肺炎治療におけるステロイドの役割は?システマティックレビュー
Póvoa P, Salluh JI. What is the role of steroids in pneumonia therapy? Curr Opin Infect Dis 2012; 25: 199-204
PMID:22156902
ポイント:システマティックレビュー.最近のエビデンスでは,重症度,細菌かウイルス性かに関係なく,肺炎に対する全身性ステロイド投与は支持されない.なお,現在重症肺炎に対するステロイドの有効性を検討する1450名のRCTであるESCAPe(Extended Steroid in CAP(e))trialが2011年より開始,進行中である.

血漿アルブミンレベルによる成人市中肺炎入院患者の予後予測
Viasus D, Garcia-Vidal C, Simonetti A, et al. Prognostic value of serum albumin levels in hospitalized adults with community-acquired pneumonia. J Infect 2012 Dec.31
PMID:23286966
ポイント:成人市中肺炎入院患者3463例の前向きコホート研究.血漿アルブミン濃度の減少は合併症,状態安定化までの期間延長,入院期間延長,ICU入室,人工呼吸器装着,30日死亡と有意に関連していた.多変量解析では,血漿アルブミン値の0.5g/dL低下は30日死亡リスクを2.11倍に増加させた.3.0g/dL未満の低アルブミン血症をPSIやCURB-65に組み合わせるとAUROCが有意に増加した.

市中肺炎入院患者の死亡予測における血糖値:前向きコホート研究CAPNETZ study
Lepper PM, Ott S, Nüesch E, et al; German Community Acquired Pneumonia Competence Network. Serum glucose levels for predicting death in patients admitted to hospital for community acquired pneumonia: prospective cohort study. BMJ 2012; 344: e3397
PMID:22645184,Free Full Text
ポイント:2003年から2009年のドイツの市中肺炎患者6891例の解析.市中肺炎患者において非糖尿病患者で入院時高血糖は正常血糖に比べ90日死亡リスクが高い(6-10.99mmol/LでHR 1.56,≧14mmol/LでHR 2.37)..

血小板増多は市中肺炎における予後不良マーカー
Prina E, Ferrer M, Ranzani OT, et al. Thrombocytosis is a marker of poor outcome in community-acquired pneumonia. Chest 2012 Sep.10
PMID:23187959
ポイント:2423例の前向き観察研究.市中肺炎患者において,血小板増多(≧40万)は予後不良マーカーであり,30日死亡リスクは2.72倍有意に増加した.血小板増多患者は胸水,膿胸,重症敗血症,敗血症性ショック,挿管人工呼吸,ICU入院が有意に多かった.

市中肺炎患者における重症度と臨床アウトカムの評価におけるD-ダイマー値
Snijders D, Schoorl M, Schoorl M, et al. D-dimer levels in assessing severity and clinical outcome in patients with community-acquired pneumonia. A secondary analysis of a randomised clinical trial. Eur J Intern Med 2012; 23: 436-41
PMID:22726372
ポイント:市中肺炎においてD-ダイマーは上昇し,特に高いD-ダイマー値は治療失敗例や重症例で有意に多く見られた.しかしながら,臨床アウトカムや死亡率の予測バイオマーカーとはならない.147例の解析.

急性呼吸器感染症におけるプロカルシトニンガイド下での抗菌薬治療の開始と治療期間の決定:メタ解析
Schuetz P, Briel M, Christ-Crain M, et al. Procalcitonin to guide initiation and duration of antibiotic treatment in acute respiratory infections: an individual patient data meta-analysis. Clin Infect Dis 2012; 55: 651-62
PMID:22573847,Free Full Text
ポイント:14報4221例のメタ解析.急性呼吸器感染症においてプロカルシトニンガイド群と対照群の死亡率は5.7% vs 6.3%(有意差なし),治療失敗発生率は19.1% vs 21.9%(OR 0.82)であった.急性呼吸器感染症においてプロカルシトニンによる抗菌薬導入・治療期間の決定は死亡や治療失敗のリスクを増加させることなく抗菌薬使用を減少させていた.重症患者ではさらに質の高い試験が必要である.

プロトンポンプ阻害薬(PPI)使用で肺炎球菌肺炎リスクが2.23倍
de Jager CP, Wever PC, Gemen EF, et al. Proton pump inhibitor therapy predisposes to community-acquired Streptococcus pneumoniae pneumonia. Aliment Pharmacol Ther 2012; 36: 941-9
PMID:23034135
ポイント:463例のコホート研究.PPIの投与で市中肺炎リスクが2.0倍,肺炎球菌肺炎リスクが2.23倍有意に増加した.他の市中肺炎病原菌とPPI投与の間に相関は認められなかった.PPI使用有無で市中肺炎重症度に有意差はみられなかった.

プロトンポンプ阻害薬は市中肺炎発症に関連する:メタ解析
Giuliano C, Wilhelm SM, Kale-Pradhan PB. Are proton pump inhibitors associated with the development of community-acquired pneumonia? A meta-analysis. Expert Rev Clin Pharmacol 2012; 5: 337-44
PMID:22697595
ポイント:9報のケースコントロール研究とコホート研究の120863名のメタ解析.市中肺炎発症リスクは,最近のPPI使用で1.39倍,30日以内のPPI使用で1.65倍,PPI高用量で1.50倍,PPI低用量で1.17倍であった.PPIの180日以上の使用は市中肺炎発症と関連がなかった.

市中肺炎における抗菌薬奏功度の最速の指標
Fujisaki R, Yamaoka T, Yamamura M, et al. Usefulness of gram-stained sputum obtained just after administration of antimicrobial agents as the earliest therapeutic indicator for evaluating the effectiveness of empiric therapy in community-acquired pneumonia caused by pneumococcus or Moraxella catarrhalis. J Infect Chemother 2012 Oct.17
PMID:23073648
ポイント:市中肺炎3例(肺炎球菌,モラキセラ)の症例報告.初回抗菌薬投与終了後から1時間後の喀痰グラム染色は,抗菌薬の奏功度を確認する最速の指標になるかもしれない.

慢性気管支炎急性増悪における喀痰の色と細菌
Miravitlles M, Kruesmann F, Haverstock D, et al. Sputum colour and bacteria in chronic bronchitis exacerbations: a pooled analysis. Eur Respir J 2012;39: 1354-60
PMID:22034649
ポイント:慢性気管支炎急性増悪患者の喀痰の色の検討で,菌検出率は緑色58.9%,黄色45.5%,サビ色39%,無色18%.喀痰の色が緑色または黄色であることは細菌感染の感度94.7%,特異度15%.ただし抗菌薬必要性は必ずしも予測できない.

肺超音波検査はERにおける肺炎の診断に有用なツール
Cortellaro F, Colombo S, Coen D, Duca PG. Lung ultrasound is an accurate diagnostic tool for the diagnosis of pneumonia in the emergency department. Emerg Med J 2012; 29: 19-23
PMID:21030550
ポイント:ER患者120名(81名が最終的に肺炎診断)の解析.胸部レントゲン写真の感度は67%,特異度85%であったのに対し,肺超音波検査は感度98%,特異度95%であった.なお,V-scanではあまり期待できないと思われる.

ICUに入院した重症肺炎患者におけるウイルス感染症
Choi SH, Hong SB, Ko GB, et al. Viral infection in patients with severe pneumonia requiring intensive care unit admission. Am J Respir Crit Care Med 2012; 186: 325-32
PMID:22700859
ポイント:ICU入院の重症肺炎患者においてウイルス・細菌の頻度・死亡率は同程度かもしれない.前向きコホートの後顧的解析,重症CAP患者64名,HCAP患者134名.細菌感染71名(35.9%),ウイルス感染72名(36.4%).

市中肺炎におけるMRSAの頻度
Moran GJ, Krishnadasan A, Gorwitz RJ, et al; EMERGEncy ID NET Study Group. Prevalence of methicillin-resistant staphylococcus aureus as an etiology of community-acquired pneumonia. Clin Infect Dis 2012; 54: 1126-33
PMID:22438343
ポイント:2006-2007年の米国大学12施設の市中肺炎患者の原因菌としてMRSAは全体で2.4%であった,ICUに入室した患者では5%を同定した.MRSA市中肺炎の死亡率は14%であった.分離株はすべてパルスフィールド型USA300であった.比較的市中感染型MRSAが多い米国でもそれほど高頻度にみられるわけではない.本邦での市中MRSA肺炎はまだ非常に稀である.

フランスでの市中レジオネラ感染症の院内死亡率関連因子
Chidiac C, Che D, Pires-Cronenberger S, et al; French Legionnaires’ Disease Study Group. Factors associated with hospital mortality in community-acquired legionellosis in France. Eur Respir J 2012; 39: 963-70
PMID:22005914
ポイント:540名の解析.高齢(RR 1.50),女性(RR 2.00),ICU入室(RR 3.31),腎不全(RR 2.73),ステロイド治療(RR 2.54),CRP上昇(RR 2.14)は市中発症レジオネラ症の死亡リスク因子.
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by DrMagicianEARL | 2013-02-20 15:37 | 肺炎 | Comments(0)
マイコプラズマ肺炎(1)「病原体,症状,疫学」についてはこちらをクリック
マイコプラズマ肺炎(2)「検査,診断,治療」についてはこちらをクリック
Summary
・本邦ではマクロライド耐性マイコプラズマが小児において急増している.その一方で成人においてはマクロライド耐性株感染は比較的稀である.
・マクロライド耐性株は主に23S rRNAドメインVのA2063G変異が原因となっている.
・CAM 400mg/日,AZM 500mg/日の経口投与が奏功しないことは必ずしもマクロライド耐性株であることを示さない.
・マイコプラズマがテトラサイクリン系に耐性を示すことは現時点ではないと考えられている.一方で,キノロン系は点突然変異による耐性化をきたしうる.
・マクロライド耐性マイコプラズマであってもマクロライドが奏功しうるケースもあるが,その一方で感性株と比較して有熱期間などが有意に延長することも報告されている.
・耐性株が増加していても,マイコプラズマ肺炎のエンピリック治療は原則としてマクロライド系抗菌薬が第1選択薬であることに変わりはない.
・マクロライド耐性マイコプラズマ確定例に対してはテトラサイクリンを第1選択とすることが望ましいかもしれない.
・7日間以上解熱しない症例においては免疫学的な異常であると考えられ,ステロイド投与が考慮されるべきである.

1.マクロライド耐性機構
■本邦では臨床におけるマクロライド系抗菌薬の使用量増加に伴い,2000年頃からマクロライドに耐性を示すMp(マイコプラズマ)が出現し始め[1],その後耐性株が急激に増加している[2,3].耐性株は主に小児で見られているが,稀ながら成人での報告も散見される[4].当初は日本のみであったが,アジア[5],欧州[6,7],米国[8]など海外からも報告が見られるようになった.

■マクロライド耐性Mp感染症の診断は薬剤感受性試験もしくは23S rRNAの遺伝子を標的としたPCRを行って生成物の遺伝子変異をダイレクトシークエンス法で調べるなどを行う必要があるが,可能な施設は限られており,労力やコストも考えると現実的ではない.このため,臨床現場においてはマクロライドの奏功有無で判断することになるが,CAM(クラリス®,クラリシッド®)400mg/日やAZM(ジスロマック®)500mg/日の経口投与が有効でないことでマクロライド耐性株と判断することはできない.実際に判定するならばCAM 800mg/日やAZM SR2gで無効であることの確認が必要となる.
⇒理由についてはマイコプラズマ肺炎(2)「検査,診断,治療」の治療の項目参照

■マクロライドはribosomeに作用してポリペプチド合成を阻害する.その作用にあたって23S rRNAドメインVの2063,2064番目のアデニンがとりわけ重要であり[9,10],この部位に置換やメチル化などの変異が入るとマクロライドは作用部位に結合できず,菌は耐性化する.実際,耐性株の約90%は2063番目のアデニンからグアニンへの置換(A2063G)であり,残り10%はA2064Gである[11-14].なお,この部位はその他の細菌とも共通している[15].その他耐性変異として,A2063C,A2064C,C2617G,C2716A,2067番目シトシンの変異などが報告されている[1,9,13,16].菌体内に取り込まれたマクロライドの排出ポンプ機構の存在,あるいはプラスミドを介した耐性機構は見出されていない.

■マクロライドに耐性を示す臨床分離株について,パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)解析を行うと,DNA切断パターンは2タイプに区別されるが,感性株にも同様に2タイプが認められている[2].おそらく2タイプあるクローンの両方にマクロライドの選択圧によって変異が生じ,それらの耐性株がヒトを介して急速に全国へと拡散していったと推察されている.

■マイコプラズマ属は自立増殖可能な最小の微生物であり,構成遺伝子量は大腸菌の17%程度しかない.その中でもMpはプラスミドを介した耐性機構は存在せず[17],Mpの薬剤耐性機構は23S rRNAドメインⅤの点突然変異のみである.このためプラスミドを介する耐性機構が主体であるテトラサイクリン系薬剤に対してはマイコプラズマは耐性を獲得しない(16S rRNAの塩基点突然変異株は知られているが,最小発育阻止濃度の上昇はわずかで,臨床的なMINO耐性にはならない[18]).なお,キノロン系は前述の通り点突然変異をきたし,耐性化しうる.

■マクロライド耐性株の増加にはAZMが関与しているとの意見がある.これは,大屋らによる報告[19,20]が根拠になっている.各種マクロライドを通常の臨床で用いられる範囲の濃度でin vitroの培地に添加してMpを培養し,人為的に耐性菌を誘導する実験を行った.この実験では,EM,CAMでは耐性化率が7%程度であるのに対し,AZMでは12-15%程度の株が耐性化しており,統計学的有意差ではないが,AZMで耐性誘導が高い傾向が見られている.また,CAMはA2064Gの変異を優位に誘導しているのに対し,AZMではA2063Gの出現率がCAMより4倍高く,耐性株の90%をA2063Gが占めること,耐性株が最初に発見されたのがAZM市場販売開始の2000年[1]であることを考慮すれば,AZMが耐性株増加の一因となった可能性がある.実際,当初はAZMは錠剤・細粒のみであり,1日用量500mgの経口投与であることから,濃度不十分であった可能性は否定できない(現在はAZM SR2g製剤があるため,高濃度で長時間推移することから耐性化は抑制しえると思われる).しかし,本実験はあくまでもin vitroであり,実臨床ではAZMがマクロライド耐性化をCAMより有意に誘導したとする根拠はなく,CAMが400mg/日では効果不十分な可能性も指摘されていること,AZMが他のマクロライド系よりはるかに炎症部位や貪食細胞への移行性が高いことを考えると,現時点でAZMの関与は不明である.

■本邦では成人の慢性肺疾患症例などに対して行われている少量マクロライド系薬の長期投与によって,マクロライド耐性Mpがさらに爆発的に蔓延する可能性は,投与される年齢などを考慮すれば,低いと考えられている.実際,マクロライド少量長期療法は少なくとも1990年頃にはほぼ普及しており,10年が経過した2000年に突然耐性菌が出現・増加した原因とするには疫学的にも無理がある.

2.マクロライド耐性マイコプラズマ肺炎の治療
■臨床現場では日常診療での治療成績と細菌学的検査結果との間に乖離がある可能性が指摘されている.実際,耐性菌が分離されたMp肺炎症例11例のうち8例で臨床的にはマクロライド系薬が有効であったと主治医が判断していることが報告されている[21].また,耐性菌による肺炎が感受性菌による肺炎と比較して臨床症状が重症である傾向はなく,治療に難渋する症例もそれほど多くないとした報告もある[22].炎症反応にかかわるIL-8などのサイトカインの産生を抑制する作用も有するCAMは耐性菌の治療においても効果が期待できるとする報告もみられる[23]

■その一方で,Mp肺炎症例の中にはCAMやAZMによる治療が失敗し,発熱が遷延し,咳嗽も増悪してMINOに変更することで改善が認められる例も多く経験される.Mp肺炎に対するマクロライド系抗菌薬投与開始後の有熱期間は,マクロライド感性株では平均1.4日であるのに対して,マクロライド耐性株では4.3日であった.また,マクロライド系薬投与開始後48時間以上発熱が持続する患者数の割合は,マクロライド感性株で19.2%であるのに対し,マクロライド耐性株では72.7%であり,耐性株感染症例でのマクロラドの治療効果は感性株感染症例に比して有意に劣るという結果が報告されている[22,24,25]
※2011年12月より本邦で発売となったAZM注射製剤は組織内濃度が極めて高いことから耐性株への奏功も期待されたが,当院で経験したマクロライド耐性Mp肺炎ではAZM注射製剤の5日間投与を行っても解熱は得られず,その後MINOに変更したところ速やかに解熱した.たとえ高用量であっても耐性株に奏功しないケースも存在するということである.

■以上のように,耐性株におけるマクロライドの奏功度に関してはまだまだ議論の余地はある.耐性株においてはマクロライド系薬の治療効果が減弱すること,耐性株が増加していることが分かるが,そのような現状においても,マイコプラズマ肺炎の治療の第1選択はマクロライド系抗菌薬である.以下に理由を挙げる.
(1) Mpにはribosomeのオペロンが1組しか存在しない[26].オペロンはribosomeを作成するための生産ラインであり,そこに突然変異を持っている耐性菌は生物学的には欠陥菌であり,増殖力は劣っている.このため,耐性菌が感染しても免疫系により排除されやすい.これが非特異的防御能力が小児より発達している成人においてマクロライド耐性Mpが少ない理由と考えられている.
(2) Mp感染症は菌による直接傷害はほとんどなく,宿主の免疫応答が有害に作用した免疫発症であり,たとえ抗菌薬投与がなくとも基本的には2-3週間以内に自然治癒するself-limitedな感染症である.この点は耐性菌においても同様であり,Mp感染症においては細菌学的耐性と臨床的耐性は必ずしも同義ではない.
(3) マクロライド系にはサイトカイン産生の抑制など抗菌作用以外に免疫修飾作用もあり,マクロライド耐性Mp肺炎であっても,その病態が免疫の異常応答であることを考慮すれば,マクロライドの免疫修飾作用が治療効果として機能する可能性がある.
(4) MINO,DOXYなどのテトラサイクリン系は副作用の点から問題があり,キノロン系も耐性化の懸念がある.
※CAM 400mgやAZM 500mgの経口内服はマイコプラズマに限らず感染症全体において治療効果は不十分な可能性がある.LVFX 500mg錠が登場したのと同様に,より高用量での使用が標準化されるべきなのかもしれない.マクロライド頻用がマクロライド耐性肺炎球菌を生み出した背景として,投与量不足も一因ではないだろうか?CAMなら800mg,AZMならSR2g製剤の使用が標準化されるべきではないかと考える.

■Mp肺炎が疑われるケースでは,小児呼吸器感染症診療ガイドライン2011では,第1選択薬としてマクロライド系薬を使用し,48時間以内に解熱が見られない場合はマクロライド耐性肺炎Mpを考慮してテトラサイクリン系やキノロン系(TFLX:オゼックス®)を使用することを推奨しているが,実際には全身状態や全体の発熱期間などを慎重に判断した上で,他剤への変更を考慮すべきであろう.

■ただし,学校に通う,あるいは労働年齢である若年者において耐性菌感染に対するマクロライド使用で病悩期間が延長されることがその患者においてどこまで許容されうるかという社会的問題もあり,ケース・バイ・ケースで第1選択薬をMINOに切り替えるなどの配慮が必要であろう.

■マクロライド耐性Mp肺炎確定例ではテトラサイクリン系のMINO,DOXY,キノロン系(小児ならTFLX)が選択されるが,MINO,DOXYがTFLXより有意に24時間以内のMp DNAコピー数を減少させることが報告されており[27],キノロン系の点突然変異の可能性も考慮するとテトラサイクリンが第一選択とすべきと考えられる.MINOは歯牙黄染の副作用のため8歳以下では原則使用しないこととされているが,IASRの報告では,8歳以下の小児であってもMINO 4日間投与で問題ないとされており,実臨床においても5-7日間程度では歯牙黄染はおきないというのが多くの小児臨床医の印象のようである.

■マクロライド耐性Mpによる脳炎をきたした小児の症例報告が本邦よりでており[28],このようなマイコプラズマによる脳炎が疑われるケースでは小児であっても最初から積極的にMINOが選択されるべきかもしれない.

■総発熱日数が7日以上を経過している場合には,菌の感受性の問題というよりは宿主側の免疫応答の問題である可能性が高く,むしろステロイド治療の適応を考慮すべきかもしれない.

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マイコプラズマ肺炎(2)「検査,診断,治療」
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by DrMagicianEARL | 2012-10-08 19:07 | 肺炎 | Comments(0)
マイコプラズマ肺炎(1)「病原体,症状,疫学」についてはこちらをクリック
マイコプラズマ肺炎(3)「マクロライド耐性マイコプラズマ」についてはこちらをクリック
Summary
・日本呼吸器学会成人市中肺炎診療ガイドラインの非定型肺炎鑑別指標はマイコプラズマ肺炎において有用である.ただし,結核も含まれてしまうことに注意が必要である.
・経口第3世代セフェム薬が無効であることはマイコプラズマ肺炎を疑う根拠にはならない.
・PA法(IgG)はペア血清で4倍以上,単一血清で640倍以上(もしくは320倍以上)で,寒冷凝集素価は単一血清で256倍以上,ペア血清で4倍以上で陽性と判定される.
・迅速IgMキット(イムノカード®)は精度が悪く,偽陽性・偽陰性が多いため,使用は推奨されない.
・遺伝子学的検査法ではLAMP法がPCR法に替わって期待されている.
・マイコプラズマ肺炎を胸部単純X線写真で鑑別することは困難である.一方で胸部CTでは気管支壁およびその周囲に(広義の)肺間質の炎症が起こり,気管支と併走している肺動脈周囲間質の肥厚像所見がみられる.
・気管支喘息発作が先行したマイコプラズマ肺炎ではTh2型免疫が誘導されるため,通常のマイコプラズマ肺炎像とは異なる陰影となることが多い.
・咽頭炎・気管支炎レベルのマイコプラズマ感染症では抗菌薬は不要であることが多い.
・マイコプラズマ肺炎ではマクロライド耐性株であってもマクロライド系抗菌薬が第一選択である.
・クラリスロマイシン400mg経口分2,アジスロマイシン500mg経口分1が無効であることをもってマクロライド耐性マイコプラズマを疑う根拠は乏しい.

1.マイコプラズマ肺炎の検査と診断
■細菌性肺炎とMp(Mycoplasma pneumoniae;マイコプラズマ),Chlamydophila(クラミドフィラ;旧クラミジア)などの非定型肺炎(NTP;Non-Typical Pneumonia,もしくはATP:Atypical pneumonia)との鑑別には,日本呼吸器学会,成人市中肺炎診療ガイドラインが最も有用である.これは,マイコプラズマ肺炎群と細菌性肺炎群の鑑別項目の多変量解析を行ったものであり,以下の①~⑤の5項目中,3項目以上合致した場合,または①~⑥の6項目中4項目以上合致した場合に非定型肺炎疑いとする[1,2].Mp肺炎ではともに感度85%以上を超えており,有用な指標である.
 ① 年齢60歳未満
 ② 基礎疾患がない,あるいは軽微
 ③ 頑固な咳がある
 ④ 胸部聴診上所見が乏しい
 ⑤ 痰がない,あるいは迅速診断法で原因菌がない
 ⑥ 末梢血白血球数が10000/mL未満
なお,この鑑別方法はクラミジア肺炎の診断には問題を残しており,さらなる改良が必要とされている[3].また,この指標では結核を除外できないことに注意が必要であり,咳嗽においては常に結核を鑑別に置く必要がある.
※現在,非定型肺炎にレジオネラ(Legionella spp.)は含まれていない.

■「βラクタム薬が無効」「家族内感染」は診断項目から削除されたが,それなりに有用ではある.ただし,βラクタム薬を1日だけ1回投与されただけなのに効果がない患者を非定型肺炎とする根拠は非常に乏しい.また,経口第3世代セフェム薬(フロモックス®,メイアクト®,トミロン®,バナン®,セフマゾン®)は生体内利用率や投与量の関係から,細菌学的に有効な菌種であっても臨床では非常に効果が乏しいとされ,これらの経口第3世代セフェムが無効であることは非定型肺炎を疑う根拠にはならない

■Mp肺炎ではAST,ALTの上昇を伴っていることも多い.

■喀痰からのMpの培養(PPLO寒天培地),PCRも可能であるが(約3割で陽性),施行可能な施設は限られており,臨床上行う意義も乏しい.このため,確定診断は血清診断が用いられることが多い.日本で汎用され,かつ信頼されているのはゼラチン粒子凝集法(PA法;particle agglitomation法)であり,ペア血清で4倍以上の上昇,単一血清では640倍以上(320倍以上でもよいとする報告もあり)で診断される.補体結合反応(coplement fixation reaction:CF)では,主にIgG抗体を測定するため上昇が遅く,早期診断にはあまり役に立たないが,ペア血清の診断には問題はない.ペア血清で4倍以上,単一血清で64倍以上で診断される.

■LAMP法は2011年に保険収載された新しいMpの遺伝子学的検査法である.PCR法と比べて複雑な機器をしようせず,手技も簡便であるため,院内検査として導入しやすい.感度,特異度ともに良好であるため,今後のMp感染症検査への期待が高い[4]

■早期診断用に開発された迅速キットであるイムノカードマイコプラズマは,酵素免疫測定法(enzyme immune-sorbent assay:EIA法)により主にMycoplasma特異的IgM抗体を測定するが,成人の場合再感染が多くIgMが上昇しない例[5]や偽陽性もある.また,小児領域で既感染時の抗体が6ヶ月以上もイムノカード陽性を示している場合があり[6],1年まで継続するとも言われている.これらのことから,イムノカードを用いた単一血清でのMp確定診断は困難と推察される.
※当院呼吸器内科でもイムノカードを採用したが,非常に精度が悪く,使用するに値しないと判断し,2011年以降は使用をやめている.本検査を上手に活用する方法を御存知の方がいらっしゃったら御教授下さい.

■近年,ドイツMedac社のELISA抗体測定キットでIgM,IgG,IgAを測定した検討では,成人Mp感染症の初期診断において,IgMとIgA抗体の同時測定でどちらかの上昇で陽性とする方がイムノカードよりも診断特異度が高いことが報告されている[7].これらの問題を解決するため,Mp特異的な脂質抗原(GGL-type)に対する血中特異的抗体をELISA法で測定する系が確率され,そのIgM抗体は発症後3日目から上昇するというものであり,PA法で40倍未満の倦怠でも陽性となると公表されており,早期診断が可能となるかもしれない.

■CA(cold agglutinins;寒冷凝集素)は主に赤血球表面の多糖体抗原であるI/i抗原に対するIgM抗体でり,ABO式とは無関係に,低温域で自己赤血球またはO型赤血球を凝集させる.単一血清で256倍以上,ペア血清で4倍以上の上昇を認めた場合,陽性と判定される.Mp肺炎を代表とするいくつかの感染性疾患の際に,この寒冷凝集素が上昇することが知られており[8],特にMp肺炎のときには抗I抗体が,EBV(Epstein-Barr virus)感染症などの伝染性単核球症のときには抗i抗体が上昇するとされている.一般的に,寒冷凝集素反応はMp肺炎の診断において,感度・特異度ともに低いとされている.一方で,市中肺炎診療において64倍以上の寒冷凝集素反応をみたら,原因微生物はMpの可能性が高いとも言われる.Cunhaら[8]は以下のように工夫してして寒冷凝集素をMp肺炎にしようする有用性をみいだすことができるとしている.
(1) 寒冷凝集素はMp肺炎の初期に上昇するため,病初期に1日おきに3回検査し,上昇傾向が見られればMp肺炎の可能性は高い.
(2) Mp脳炎など,重症感染症の場合には512倍または1024倍以上の高値を示す.
(3) 寒冷凝集素が64倍以上の場合,血液を冷水中に入れると凝集が肉眼で見える.この血液を再度室温に戻すと,凝集は再度溶解する.しかし,再度冷水中に入れたときに,Mpによる場合は再度凝集がみられるが,ウイルス感染による場合は凝集しない.これをagglutination-dissociation bedside testと呼ぶ.
※当院呼吸器内科では(1)をMpの早期診断に利用している.特にマクロライド耐性Mpを疑ったケースでは非常に有用であり,抗菌薬変更の根拠の一助となる.

■Mp肺炎の胸部X線所見はスリガラス陰影,浸潤陰影,気管支壁の肥厚像,粒状陰影が複数の肺葉に存在するなど非常に様々であり,細菌性肺炎との鑑別は困難である[9].注意深く観察すると,Mp肺炎の胸部X線写真では,一見病変のないところで気管支壁の肥厚像が認められることがある.また,陰影が派手なわりに患者の全身状態が良好など,症状と組み合わせることで鑑別の補助となりえる.

■CT像では,気管支壁およびその周囲に(広義の)肺間質の炎症が起こり,気管支と併走している肺動脈周囲間質の肥厚像所見がみられる.前述の通り,Mpは線毛を有する気管支に感染を起こすため,細気管支および細気管支内腔病変(COP様;Cryptogenic Organizing Pneumoniae様病変)となり,容積減少を伴いやすいのも特徴である.このため理論上は末梢胸壁に達しない中枢性優位の陰影をとりやすい.しかし,胸壁に達する所見もそれなりの頻度でみられ,成人でも胸水は25%に合併し,縦隔リンパ節も5mm以上の大きさのものは約半数に認められる[10]

■Mp肺炎でときに大葉性肺炎のような陰影をとることがある.Mp肺炎では前述の通り,通常はTh1(Ⅰ型ヘルパーT細胞)が誘導されるが,Th2免疫が誘導されるケースがあり,このような場合は大葉性肺炎に似た,通常のMp肺炎像とは異なる陰影を呈し,これには気管支喘息が関与しているとされる.すなわち,Mp感染が喘息発作に先行するとTh1免疫が誘導されるが,喘息発作がMp感染に先行するとTh2免疫が誘導され,CT画像は非常に派手なものとなる[11].このような例ではステロイドが奏功しやすい可能性がある.実際に,血清診断では気管支喘息発作入院の約18%にMp感染を合併しており[12],また,気管支肺胞洗浄(BAL)など,より高感度な手法では喘息安定期ですら約45%にMp感染が示された[13]

2.マイコプラズマ肺炎の治療
■基本的にMp気管支炎レベルまでは抗菌薬が不要なことも多く,肺炎に至っていなければ,昨今のマクロライド耐性菌出現の背景も考慮すると抗菌薬の安易な使用は避けるべきである.

マイコプラズマ肺炎に対する抗菌薬は,たとえ耐性株が増えても,マクロライド系抗菌薬が第一選択である(理由は「耐性株」の項目で後述).近年よく使用されるマクロライド系で言えば,CAM(クラリス®,クラリシッド®),AZM(ジスロマック®)ということになる.

■ここで注意すべきはマクロライド系抗菌薬の投与量である.CAMの投与量は200mg2錠分2が通常用量として用いられることがあるが,この用量がMpに有効であるかについては議論の余地がある.有効な代謝産物(active metabolite)を持たないマウスの実験系では少なくとも25mg/kg/day以上必要とされている[14].ヒトにおいては有効な代謝産物(14-OH CAM)があるが,CAM 10mg/kg/day程度の用量では感受性菌に対しても効果が不十分な場合があり,成人においてはCAM 200mg2錠分2が効いていない可能性がある.AZMは500mg経口分1が通常用量であるが,CAMに比較して肺への移行性がやや落ちることから,CAM 200mg2錠分2と同様に感受性株に奏功しない可能性がある.このため,CAM 200mg2錠分2やAZM 500mg経口分1で奏功しなかったケースをマクロライド耐性菌と判断してはならないマクロライド感受性Mpに対して確実に効果を得るためにはCAM 15mg/kg/dayで少なくとも4日間投与し,それでも効果が得られない場合に耐性株を疑うことが望ましいとされている.すなわち,CAM 600-800mg分2程度が必要である可能性が高く,また,AZM 500mg経口分1でも同様のことが考えられ,AZM SR2g製剤を使用するべきかもしれない.
※「AZMは肺への移行性が悪く,マクロライド耐性マイコプラズマが増加したのはAZMが発売されたことに起因する可能性があり,実際にAZM発売後から耐性株が増加しているデータがでている」との意見があるが,上述のCAMの用量を見れば,必ずしもAZM発売が耐性株増加の理由とは限らないことが分かる.実際にはCAM 200mg2錠分2の用量が耐性株を生み出した可能性も否定できない.

■2011年末よりAZMの注射製剤が本邦でも使用可能となったが,以下の理由によりAZM注射製剤を安易に外来で使用すべきではないと考える
(1) AZM注射製剤の本邦での安全性は確立されておらず,高濃度で推移するため,心血管系への影響は不明である.以前よりマクロライドによるQT延長作用が指摘されており[15],女性,QTc>0.5secだとQTc延長リスクが上昇し,Torsades de points(多源性心室頻拍)または心停止が生じることがあると報告されている[16].また,ベースの重症度によるlimitationはあるが,AZM 5日間投与で心血管系死亡率が有意に増加したとする報告がある[17].外来でAZM注射製剤が投与される際,心電図によるQT時間のスクリーニングや心電図モニタリングはまずなされておらず,リスク評価を行わずに投与するのは危険である.
(2) AZM注射製剤の点滴は2時間を要する.外来で投与されるとき,ほとんどの場合は原因菌が確定していないケースがほとんどであり,そのような患者を外来点滴で2時間院内にとどめる場合,感染対策上問題がある.特にインフルエンザ,結核の除外がなされていない状況では問題である.個室隔離が可能ならばまだしも,多くの場合はそのような対処はなされていない.非定型肺炎の診断基準では結核もあてはまってしまうという欠点がある.また,画像検査で結核は否定できない.肺結核において上肺野に病変を認めるのは,免疫正常者では68.1%であり,免疫不全者に至っては38.4%に過ぎない[18]

■第二選択薬の位置づけにあるのはテトラサイクリン系であるMINO(ミノマイシン®),DOXY(ビブラマイシン®)である.従来MINOは静菌的薬剤であり,約30%の患者においては肺炎治癒後も最低2-3週間は菌の排出が持続しているとされてきたが[19,20],最近の研究では比較的速やかに菌が消失しているとする報告もある[21].8歳未満の小児においては歯牙黄染が生じるため,「他剤が無効の場合に限り使用できる」となっており,マクロライド耐性菌感染症で経口服薬が困難な場合,MINO注射製剤がこれに該当すると考えられる.ただし,できる限り短期間(4日間程度)とする必要がある.また,テトラサイクリン系では肝機能障害が比較的生じやすく注意が必要である.

■第3世代以前のレスピラトリーキノロン系であるTFLX(オゼックス®),LVFX(クラビット®)なども第二選択薬候補とされる.第4世代キノロンであるMFLX(アベロックス®),STFX(グレースビット®),GRNX(ジェニナック®)も奏功するが,過剰カバーであり,不要である.レスピラトリーキノロンもその機序から点突然変異[22]によりマイコプラズマに耐性を獲得させてしまう懸念があり,また,抗結核活性も有することから,肺炎に対する安易な使用は避けるべきで,抗結核活性を唯一有さないTFLX以外は第3選択とすべきかもしれない.なお,TFLXは小児にも適応がある.
⇒参照:『結核診断前のキノロン投与で死亡率リスクは1.8倍に増加する』

■小児ではマクロライドを内服できない小児(AZMなどは非常に苦いようである)においてはCLDM(ダラシン®)の点滴が有用である.用量としては7.5mg/kg DIV q8hなどなるべく多く用いる必要がある.なお,ribosomeにおける作用部位がマクロライドと同じであるため,マクロライド耐性菌はCLDMにも耐性であるため使用できない.

■マイコプラズマ肺炎においては,先述のTh2免疫誘導パターンの場合や,血清LDH値が480 IU/Lを超えた場合[23]はステロイドが有効である可能性が高いとされており,ステロイド適応を考慮すべきかもしれない.

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マイコプラズマ肺炎(1)「病原体,症状,疫学」
マイコプラズマ肺炎(3)「マクロライド耐性マイコプラズマ」
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by DrMagicianEARL | 2012-10-05 11:23 | 肺炎 | Comments(0)
マイコプラズマ肺炎に関するまとめ(1).病原体,症状,疫学について.後日アップ予定の(2)では検査,診断,治療,マクロライド耐性株についてまとめる予定.
Summary
・マイコプラズマは細胞壁をもたない,一般細菌よりも小さい微生物である.
・マイコプラズマは線毛を有する気管支に感染するため,一般的には陰影は末梢まで達しにくい.
・マイコプラズマ肺炎では菌そのものによる直接傷害の関与は少なく,主体となるのはTh1による免疫反応による間接傷害である.
・気管支喘息発作が先行したマイコプラズマ肺炎や,免疫系が未熟な小児においてはTh2免疫が誘導されるため,一般的なマイコプラズマ肺炎とは異なる陰影をきたす.
・マイコプラズマ感染症のうち,肺炎は3-5%であり,その他は気管支炎,上気道炎,不顕性感染である.
・マイコプラズマでは頑固な咳嗽を主とした呼吸器症状が多く,成人では一過性の肝機能障害を伴うことも多い.初期は乾性咳嗽だが,経過が長くなると湿性咳嗽に変化しうる.
・マイコプラズマは小児~若年成人に多い.高齢者では感染例は少ないが,肺炎をきたせば呼吸不全を伴う重症化をきたしうる.
・マイコプラズマ肺炎患者数は増加傾向にあり,オリンピック肺炎と呼ばれた4年ごとの傾向は現在はない.
・2011年夏からの歴史的大流行はマクロライド耐性株増加が原因ではなく,気道粘膜付着に有利となる何らかの変異をきたしたものと考えられている.

1.マイコプラズマ肺炎の病原体
Mycoplasma pneumoniae(以下Mp;マイコプラズマ・ニューモニア)は一般細菌と同様にDNA,RNAを有し,自己増殖能(他の細胞に寄生せず,自己の代謝によって増殖する)を持っている.しかし,一般細菌とは異なる次のような特性を持っている.
(1) 細胞壁を持たない
 細胞質膜は直接外界に接しており,多形性である.このためMycoplasmaは「軟らかい皮膚」という意味のMollicutes網のもとに分類されている.よって,細胞壁合成阻害を作用機序とするβラクタム系抗生物質は無効である.
(2) 孔径0.45μmのフィルターを通過する
 マイコプラズマの細胞の大きさは径0.2μm以下から1.0μm以上と様々である.Mpは細長く長径が2μm,太さは0.1-0.2μm程度であることから,一般細菌は通過しない孔径0.45μmのフィルターを通過しうる.大きさとしては人工の無細胞培地で自己増殖できる最小の微生物であるとされている.
(3) 固形培地上では微小な桑実状もしくは目玉焼き状のコロニーを形成する.ただしコロニー中央部は盛り上がっているのではなく寒天培地中に深く侵入している.
(4) DNAのGN含量は25-42%であり少ない.染色体DNAは細胞寄生性のない(free-living)生物では最小である.Mpでは816394bpである.
(5) 中和抗体が存在する
 一般の細菌に対する抗体を抗原の細菌に作用させても増殖抑止能はない(凝集は認められる).一方,Mycoplasmaでは抗血清中に抗原として用いたMycoplasma増殖を特異的に抑止する中和抗体活性が認められる.この現象はMycoplasma菌種の最終同定に用いられる.

■これまでにヒトから分離されているMycoplasmaは14種類ほど存在するが,ヒトに対して病原性を有するのはMpのみであると言われていた.しかし,近年,M. homnisM. genitaliumUreaplasma urealyticumなど性感染症の病原体として注目されているものである.

■Mpは線毛を有する気管支に感染を起こし,線毛運動障害を起こしやすく,Mpに特徴的な咳嗽の原因のひとつである.このため,CT画像では線毛を有する気管支周囲,すなわち,中枢側優位の陰影をきたすことが多く,末梢には達しにくい.

■Mpの培養菌体はおおむね球形を呈する.しかし,感染部位では細長いフィラメント状で,菌体一端で上皮細胞に強く付着するための細胞接着器官(tip構造)が認められる.ガラスおよび細胞などの表面に接着し,そのまま一方向に動く滑走運動で移動する.その移動速度は0.3-0.4μm/秒とかなりの速度である[1].表面は細胞壁の代わりに多種のリポ蛋白で覆われており,宿主の細胞性免疫を刺激する.経気道的に侵入したMpが気管支上皮に達すると,tip構造を介して線毛上皮に付着する.菌自体による直接反応と菌体表面のリポ蛋白を介した間接反応(細胞性免疫反応)がある.

■直接作用は菌増殖の過程で産生されるか,過酸化水素,活性化水素,活性酵素による上皮細胞の線毛運動障害や粘膜上皮細胞の傷害である.気道上皮が脱落すると,粘膜下に分布するC線維をを中心とした神経線維が外界に露出し,外界からの刺激で神経から神経ペプチドを放出し,神経線維上の咳受容体を刺激する.

■菌表面のリポ蛋白は,マクロファージ上のTLR(toll-like receptor)-1,2およびTLR-2,6を認識し,細胞内シグナル伝達を通じて転写因子NF-κBが活性化され,自然免疫反応を活性化する.また,血中のIL-18(interleukin-18)やIL-8値が上昇する.IL-18はTh1(ヘルパー1 T細胞)サイトカイン,特にIL-2の産生亢進を起こし,マクロファージを活性化し,Th1反応を活性化する.これが間接作用である.

■気管支喘息発作とMpは関連を示す報告が複数存在する.血清診断では,喘息発作入院の約18%にMp感染を合併していると報告されている[2].気管支肺胞洗浄などによる高感度な手法では,喘息安定期ですら約45%にMp感染が示されている[3].Mp感染後の気管支喘息発作誘発では通常のMp肺炎と同様にTh1免疫が誘導されるが,気管支喘息発作がMp感染に先行するとTh1ではなくTh2(ヘルパー2 T細胞)免疫が誘導される[4].この場合,Mp肺炎は通常のCT画像所見はとらず,特に小児では免疫系が未熟なためにTh2関与により炎症が過剰となり,末梢まで達する高濃度で広範囲の浸潤陰影をきたすことが多い[5].このようなケースではステロイドが有効ではないかとも考えられている.

■Mpが産生する毒素にCARDS TX(community-acquired respiratory distress syndrome toxin)が知られている[6,7].CARDS TXを同定することは,感度・特異度が極めて高い検査と言われている3-4).但し,臨床実用化は難しいとされている.このCARDS TXを用いて人工呼吸器関連肺炎患者に対してMpの同定を行ったところ,41%が陽性を示し,これらの患者では人工呼吸器装着時間が長く,低酸素血症に陥りやすい,という報告があった[8].ただし,この研究はデザインが悪いため参考程度に留めておくべきであろう.

2.マイコプラズマ肺炎の症状
■マイコプラズマ感染症において,肺炎は感染者の約3-5%に起こり,残りは気管支炎,上気道炎,不顕性感染となる.肺炎の割には比較的症状が軽く,Walking pneumonia「歩行可能な肺炎」とも呼ばれる.
※肺炎でないのであれば,気管支炎を含め抗菌薬は不要で,自然軽快する.

■潜伏期は通常2-3週間で(書籍によっては7-14日との記載も),初発症状は発熱,全身倦怠感,頭痛などである.咳嗽は初発症状出現後3-5日から始まることが多く,当初は乾性の咳嗽であるが,経過に従い咳嗽は徐々に強くなって「頑固な」咳嗽となり,解熱後も長く続く(3-4週間).特に年長児や青年では,乾性咳嗽で始まっても後期には湿性咳嗽となることが多く,湿性咳嗽であることはマイコプラズマ肺炎を否定する根拠にはならない.ただし,膿性痰は生じにくく,これが生じた場合は二次感染を疑うべきである.なお,強い咳嗽のために,肋間筋の筋肉痛,ときには肋骨骨折が起こることもある.

■鼻炎症状は本疾患では典型的ではないが,幼児ではより頻繁にみられる.嗄声,耳痛,咽頭痛,消化器症状,胸痛は約25%でみられ,皮疹は報告により差があるが6-17%である.喘息様気管支炎を呈することは比較的多く,急性期には40%で喘鳴が認められ,また,3年後に肺機能を評価したところ,対照に比して有意に低下していたという報告もある.また,胸水が貯留することも珍しくはない.

■呼吸器以外の症状の合併は小児期,思春期で多いとされており,髄膜炎,脳炎,Guillain-Barre症候群を含む中枢神経症状,Stevens-Johnson症候群,多形性滲出性紅斑(erythema multiforme exudativum),蕁麻疹などの皮膚病変,血小板減少性紫斑病,貧血,関節炎,中耳炎,心膜炎がある.また,一時的な肝機能障害は成人例に多いとされる.
※AST,ALT上昇はマイコプラズマ感染症を疑うひとつの目安となるかもしれない.

3.マイコプラズマ肺炎の疫学
■健常な成人,児童に多く,幼児には少ない.また高齢者ではChlamidophila感染(昔のクラミジア)と比較して数は少ないが,高齢者における呼吸不全を伴う重症肺炎の原因菌のひとつであるという認識が必要である

■小児の市中肺炎でMpの占める割合は以下の通りである[9]
 0-1歳未満:1.8%
 1-2歳未満:5.8%
 2-6歳未満:25.2%
 6歳以上:62.5%
なお,新生児では重症化することもある.

■国内におけるMp肺炎の発生状況は,病原診断があまり行われなかった1980年代には,他の病原体によるものも含まれる異型肺炎として小児科2500箇所の小児科定点から報告されるデータに基づいてサーベイランスが行われていた.しかし,1999年4発の感染症法思考により,Mp感染症がその多くを占めるものの,異型肺炎として複数の病原体が混在する画像診断に基づく届け出ではなく,病原診断を行ったMp感染症の診断に基づく届出に切り替わり,現在に至る.

■Mp肺炎(マイコプラズマ肺炎)はヒト-ヒト感染のみであり,5類感染症として定点把握されている.Mp肺炎の全国500箇所の基幹定点医療機関(2次医療圏域ごとに1ヶ所以上設定された,300人以上収容する施設を有する病院)からの報告に基づいている.

■日本におけるMp肺炎の流行は1968年~1978年にはオリンピック開催年に重なって4年毎に流行していたためオリンピック肺炎とも呼ばれていた.しかし,1992年以降,この周期性が崩れ,晩秋~早春にかけて規則正しく流行のピークが出るようになった.日本のMp肺炎に関する国立感染症研究所の疫学データではでは,2006年以降,定点あたりの患者報告数が増加しており,その傾向は続いている[10]
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■2011年夏~冬にかけて,定点あたりの報告数は1999年の調査開始以降,かつてないほどの大流行が起こっている.これは,マクロライド耐性株の増加が原因との説もあったが,現在では否定的である(言うまでもないが,3.11に由来する放射能との関連性を示唆する根拠もない).実際には,ほとんど耐性株のない(耐性率0-3%)海外においても日本よりやや早く2010-2011年にかけて,日本と全く同様の歴史的大流行が見られた.この疫学的事実から,日本における2011年の大流行が必ずしも耐性率の高さと関係していないことを示唆している.現在,歴史的大流行の原因として,マイコプラズマが免疫監視から逃れて呼吸器粘膜に付着するうえで有利な何らかの変異が起きたことが推測されている.

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[2] Lieberman D, Lieberman D, Printz S, et al. Atypical pathogen infection in adults with acute exacerbation of bronchial asthma. Am J Respir Crit Care Med 2003; 167: 406-10
[3] Martin RJ, Kraft M, Chu HW, et al. A link between chronic asthma and chronic infection. J Allergy clin immunol 2001; 107: 595-601
[4] Chu HW, Honour JM, Rawlinson CA, et al. Effects of respiratory Mycoplasma pneumoniae infection on allergen-induced bronchial hyperresponsiveness and lung inflammation in mice. Infect immun 2003; 71: 1520-6
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by DrMagicianEARL | 2012-09-06 19:44 | 肺炎 | Comments(0)
※今回のこの記事はエビデンスに基づいた特集というわけではありません.あくまでも小生の一意見・考察に過ぎないので.第1回.

■高齢者の誤嚥性肺炎においては抗菌薬の選択には多数の意見があり,議論されている領域である.NHCAP(医療介護関連肺炎)診療ガイドラインにおいては選択抗菌薬が示されているが,広域すぎる印象もあり,むしろ耐性化や菌交代などが増加するのではないかと小生は危惧している.しかし,NHCAP診療ガイドラインの有効性に関して実際に検証するのは非常に困難であり,数年の歳月を要するだろう.いずれはガイドライン遵守群と非遵守群の比較が必要になると思われる.ここで論ずべきは耐性菌リスクで分けたB群・C群の取り扱いである.

■NHCAP診療ガイドラインにおける抗菌薬選択は重症度と耐性菌リスクの2つのfactorで4群に分けて提示している.

(1) A群
外来治療可能なNHCAP患者.
推奨抗菌薬:
・βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン経口薬(CVA/AMPC,SBTPC)+マクロライド系(CAM or AZM)
・GRNX,MFLX or LVFX
・CTRX+マクロライド系(CAM,AZM)
※LVFXは抗嫌気性菌活性があまりないことに注意

(2) B群
非重症かつ耐性菌リスクがないNHCAP入院患者.
推奨抗菌薬:
・CTRX
・SBT/ABPC
・PAMP/BP
・LVFX IV
※LVFXは抗嫌気性菌活性があまりないことに注意
※PAMP/BPは緑膿菌に対する抗菌活性が弱い

(3) C群
非重症かつ耐性菌リスクがあるNHCAP入院患者.
推奨抗菌薬:
・TAZ/PIPC
・抗緑膿菌性カルバペネム系(IPM/CS,MEPM,DRPM)
・抗緑膿菌性セフェム系(CFPM,CRP)+ (MTZ IV,CLDM)
・ニューキノロン系(CPFX,PZFX)+SBT/ABPC
MRSAリスクがあるなら上記に抗MRSA薬(VCM,TEIC,LZD)追加を検討
※MTZ IVは2012年中に発売開始予定

(4) D群
重症で人工呼吸器装着などの集中治療を考慮するNHCAP入院患者.
推奨抗菌薬:
・TAZ/PIPC
・抗緑膿菌性カルバペネム系(IPM/CS,MEPM,DRPM)
・抗緑膿菌性セフェム系(CFPM,CRP)+ (MTZ IV,CLDM)
上記にニューキノロン系(CPFX,PZFX)or AZM IVを追加
MRSAリスクがあるなら上記に抗MRSA薬(VCM,TEIC,LZD)追加を検討

■この推奨抗菌薬で疑問となるのが,日常診療で誤嚥性肺炎に使用している抗菌薬よりも非常に広域である点である.とりわけ,NHCAPで問題となるC群の扱いについては推奨抗菌薬の再考が必要になると思われ,そのキーとなるのが耐性菌リスクの評価である.NHCAP診療ガイドラインが定める耐性菌リスクは「過去90日以内に広域抗菌薬(抗緑膿菌ペニシリン,第3・第4世代セフェム,カルバペネム,キノロン)の2日間以上の投与があった」「経管栄養が施行されていた」の少なくとも1項目を有する場合と定めており,さらにMRSA検出歴があればMRSAリスクありとされている.ただし,これはあくまでも喀痰からの検出菌によって抽出されたリスクファクターであり,その菌が肺炎の原因になっていたかは調査されていないし,耐性菌リスクのある患者の肺炎が耐性菌によって生じているかどうかのエビデンスもない.実際には耐性菌リスクあり,もしくは喀痰から緑膿菌,MRSAを検出しても,B群の抗菌薬で軽快することは非常に多い.この疑問に対して,うまく説明し得るのが大阪大学感染制御部の朝野和典教授の持論である.朝野教授は肺炎治療の限界と問題点を疫学的観点から見事に浮かび上がらせている.
 肺炎の診断方法は30年間進化していない.喀痰はどこから分泌されているのかは明らかになっていないし,実際に病巣からでている喀痰なのか,中枢に近い気管支からでたものなのかは不明であり,常在菌や保菌状態の菌まで紛れ込む.多数の肺炎球菌やインフルエンザ桿菌などがグラム染色で見えれば原因菌の可能性は極めて高いと言えるが,誤嚥性肺炎,NHCAPの患者においては喀痰培養で肺炎の原因菌は診断できず,あくまでも参考結果に過ぎない(喀痰培養をやらなくていいという意味ではない).

 肺炎は統計学的に見れば抗菌薬の影響を受けない.なぜなら新しい抗菌薬・ガイドラインが世にでても80歳以上の肺炎の死亡率は減少していない.超高齢者肺炎の死亡率が有意に減少したのはペニシリン系,マクロライド系抗菌薬がでたときだけであり,その後,セフェム系,カルバペネム系,抗MRSA抗菌薬がでても死亡率は不変である.加えて,肺炎が直接原因で死ぬことは統計学的にはほとんどない.一部の重症化,敗血症やARDSをきたした症例は別だが,それ以外のケースで亡くなることはなく,若年者の年齢別死亡者数は交通事故程度である(逆に,交通事故程度は死ぬので治療は行う必要がある).高齢者では肺炎死亡率が上昇するが,実際には肺炎が直接原因でなく,心不全などの合併症によって亡くなることがほとんどである.例外的に喀痰で診断がつけられ,適切な抗菌薬が投与される肺炎の代表的なものとして肺炎球菌肺炎がある.肺炎球菌によるCAP(市中肺炎)とHCAP(医療ケア関連肺炎)の死亡率を比較した報告では,7%vs30%と有意にHCAPの死亡率が高い.抗菌薬よりも宿主の基礎疾患の影響が大きいことがうかがえる.

■以上より肺炎診療における喀痰の細菌学的検査および抗菌薬治療には思った以上に低い限界があることを医療者は認知するべきである.

■喀痰から肺炎起因菌を診断することはいまだにできない.にもかかわらずNHCAP診療ガイドラインでは喀痰検出菌で耐性菌リスクを定め,該当する患者群にはかなりの広域抗菌薬やその併用を推奨している.耐性菌出現をおさえつつ抗菌薬を使用しなければならないが,これでは逆に耐性菌が増加してしまうのではないかという懸念がある.

■適切な治療と,不適切な治療を受けた患者群の比較では,不適切な治療を受けた群の予後が有意に不良であると報告されている.さらに,不適切な治療を行った群では,その後抗菌薬を広域なスペクトラムに広げて適正化しても予後は変わらないと報告されている.ただし,この報告では喀痰培養による分離菌が含まれているため,原因菌診断という面においては,初期治療が本当に不適切であったかどうか不明である.また,耐性菌の分離された群に適切な抗菌薬を選択したからといって,予後が改善するか否かは不明である.よって,NHCAPの患者では耐性菌が分離される率が高くなるが,必ずしも分離菌でないため,耐性菌の分離された患者にその細菌を標的に抗菌薬を選択することは過剰な治療となる可能性がある.

■当院では誤嚥性肺炎やNHCAPがたとえC群であってもSBT/ABPC,CTM+CLDM,CTX+CLDM,AZM IVといった選択が基本レシピであり,原則としてカルバペネム系,ニューキノロン系を第一選択に用いることはない(これは重症例でも同じで,肺炎に対してカルバペネム系,ニューキノロン系を第一選択とするのは特殊例のみである).当院のみの少数例での検討だが,緑膿菌,MRSAをカバーしないこの初期抗菌薬でもB群とC群の患者の死亡率は同等であり,死亡例はほとんどが慢性心不全増悪か窒息であった.当院でのNHCAP治療戦略は抗菌薬効果判定を治療開始から3-4日後に行い,効果が不十分かつ培養結果に耐性菌が検出された場合にのみその耐性菌に有効な抗菌薬にescalationする方法である.敗血症に陥っていないのであれば,後でescalationに切り替えても十分に治療可能ということが自施設の検討で示唆された.これは他の施設の医師に聞くと同様の印象をもつところがそれなりにある.広域で治療を開始するde-escalationよりも,昔ながらのescalationがNHCAPには向いているのかもしれないし,これによりNHCAP診療ガイドラインよりも耐性菌出現を減じることができるかもしれないが,これに関してはさらなる大規模多施設の検討が必要であろう.また,NHCAP自体がかなりlocal factorやantibiogramの影響を受けるため,地域によっては耐性菌が実際に肺炎の起因菌として多い可能性もありえるため,これらの要因を加味する必要もある.

■いずれにせよ,NHCAP診療ガイドラインの抗菌薬選択において必要と思われるのは,C群からB群に矢印をつけることである.すなわち,耐性菌リスク,MRSAリスクがあっても,医師の判断でB群の抗菌薬を使用してもよいという選択肢をつけることであろう.

■加えて抗菌薬治療はあくまでも患者の免疫力に補助的に使用するものであり,根本は原因を遮断することにあり,以前の記事「抗菌薬以外の誤嚥性肺炎治療」をより強く推奨する必要がある.

■NHCAP診療ガイドラインは内容については小生はかなり批判はしているが,“肺炎を考える機会を与えた”という意味ではよいきっかけとなったいえる.本ガイドラインを査読した上で,antibiogram,local factorを考慮し,各施設にマッチした自施設でのNHCAP診療ガイドラインを作成するのが望ましいと思われる.

誤嚥性肺炎(NHCAP)における抗菌薬(1)につづく
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by DrMagicianEARL | 2012-07-03 13:46 | 肺炎 | Comments(4)
Summary
・NHCAP診療ガイドラインは抗菌薬以外の治療法についてはあまり触れられていない.
・誤嚥性肺炎は嚥下反射・咳反射の低下が原因であり,その本態はsubstance Pの減少である.
・口腔ケアはsubstance Pの放出を促進させ,誤嚥性肺炎の予防につながる.
・ACE阻害薬はsubstance Pの分解を阻害し,嚥下反射・咳反射を改善させて肺炎を予防する効果があり,その効果は血圧に影響を与えない低用量でも発揮される.
・肺炎リスクのある高齢者に対する降圧薬において,ARBよりもACE阻害薬の方が死亡率を改善させる可能性がある.
・胃酸分泌抑制薬,とりわけPPI製剤は感染症のリスクを増大させる.一方,胃粘膜防御因子増強薬は感染症リスクを軽減する.
■高齢者肺炎のほとんどは誤嚥性肺炎であり,医療介護関連肺炎(NHCAP)である.2011年に日本呼吸器学会よりNHCAP診療ガイドラインが発表されたが,その内容はかなり抗菌薬に偏っており,抗菌薬以外の肺炎治療の方が抗菌薬単独より改善率がよいとする報告もあるにもかかわらずほとんど触れられていないに等しく,まだまだ問題点が指摘されている(2012年4月7日のNHCAPフォーラムでもその部分のフィードバックはほとんどなされておらず,反対意見はスルーされている).

■医療介護関連肺炎診療ガイドライン(NHCAP診療ガイドライン)の普及は抗菌薬に頼り過ぎる治療に成りかねず,結果的に耐性菌を増加させうる可能性があると思われる.

■誤嚥(aspiration)は,雑菌を含む唾液などの口腔,咽頭内容物,食物,稀に胃内容物を気道内に吸引することであり,これによって生じる肺炎を誤嚥性肺炎と称する.この危険因子として重要なのが不顕性誤嚥(silent aspiration:無意識のうちに細菌を含む口腔・咽頭分泌物を微量に誤嚥する現象)である[1,2].これを予防することで肺炎発症率を下げるのみならず,抗菌薬使用量減量・入院日数低下によりMRSA耐性菌などの減少につながる.

■嚥下性肺疾患は以下の4パターンがある.
① 誤嚥性肺炎
 嚥下障害により口腔内・咽頭の雑菌が気管・肺に混入し,発症する肺炎.胃食道逆流により消化管の細菌が上行性に混入することもある.
② 誤嚥性肺臓炎(化学性肺炎,Mendelson's syndrome)
 嘔吐の際に気管・肺に胃酸が混入して生じる肺炎.原則として感染合併がなければ抗生剤は不要である(抗生剤投与で逆に耐性菌による感染症合併をきたしやすくなる).状態によっては高率でALI/ARDSに進展する.
③ 人工呼吸器関連肺炎(VAP)
 人工呼吸器装着状態での感染性肺炎.
④ びまん性嚥下性細気管支炎(DAB)[3]
 食事による少量誤嚥によるもので,高齢者喘息と誤診されやすい.画像上はびまん性汎細気管支炎(DPB)に似た所見を呈する.通常,感染はきたさないため抗菌薬投与は不要である(ただし,誤嚥継続や閉塞性肺炎を呈するようであれば低用量マクロライド療法や抗菌薬治療が必要となることがある).吸入β刺激薬も吸入ステロイドも無効で,絶食のみで症状は改善する.

■以下ではNHCAPの主病態である誤嚥性肺炎について,抗菌薬以外の治療法をまとめる.
※本来ならばこれらのことはNHCAP診療ガイドラインに記載されてしかるべきである.

■不顕性誤嚥は,脳血管障害のなかでも特に日本人に多い大脳基底核病変を有している人に多く認められる[4].大脳基底核は穿通枝領域にあり,もともと脳梗塞を起こしやすい部位であるが,その障害はこの部位にある黒質線条体から産生されるドーパミンを減少させる[5].ドーパミンの減少は,迷走神経知覚枝から咽頭や喉頭・気管の粘膜に放出されるsubstance P(以下SP)の量を減少させる[2,6]

■SPは嚥下反射および咳反射の重要なtriggerであるため[2,6,7],SPの減少は嚥下反射と咳反射を低下させる.実際に,繰り返し肺炎を起こす高齢者から得られた喀痰中のSPの量は,健常者に比して減少していた[6].高齢者肺炎患者では嚥下反射と咳反射の低下が認められ,不顕性誤嚥を起こしやすい[7].特に,嚥下反射は夜間に低下しやすく,高齢者の肺炎の多くは夜間にはじまるのではないかと考えられている.

■口腔内雑菌まじりの唾液を誤嚥して誤嚥性肺炎を生じるため,口腔ケアを行い,口腔内雑菌を減少させると,たとえ誤嚥しても肺炎には至らないと考えられる.しかしながら,口腔ケアはいくら毎日行っても,1日もたてば,要介護高齢者では口腔内雑菌がもとに戻ってしまうと報告されており(雑菌除去が無意味ということではない),口腔ケアは口腔内雑菌を減らすより,口腔内を歯ブラシで刺激してSPを放出させ,嚥下と咳反射を改善することが主な作用と考えられている.

■口腔ケアを歯ブラシで食後5分くらい行ったところ,SPが放出されて嚥下反射の改善をみた[8].同様に口腔ケアによって咳反射の改善も確認されている.口腔ケアによって2年間の肺炎発生を40%減少させることができたと報告されている[9].この報告では,対象は施設入所中の要介護高齢者であるが,これらの高齢者は一旦肺炎に罹患すると,抗菌薬治療によっても20%しか救命できない.しかし,口腔ケアによって肺炎の死亡率を50%に減じることができたと報告している.抗菌薬治療の成績が悪すぎる印象は否めないが,この報告では,口腔ケアが抗菌薬より優れているとも考えられる.

■また,歯のない患者への口腔ケアを行うことによっても,歯のある人と同等の肺炎発生率と肺炎死亡率を予防できたと報告されており[10],SP放出促進がいかに重要であるかが分かる.よって歯のない患者へも口腔ケアは行うべきである.

■口腔ケアの際,患者の顔面を触った手を口腔に入れてしまう結果,MRSAなどがたれ込む.このことから,イソジンまではいらないが,まず顔面をタオルなどで拭き取ってから口腔ケアを行うべきである.口腔ケアではイソジンではなくジェルを使うと咽頭に汚れた液が咽頭にたれ込まない.

■食事の際の誤嚥を予防するには,熱い食物は熱いなりに,冷たい食物は冷たいなりに食べることによってSPが口腔から放出されて,嚥下反射は改善される[11].なまぬるい食物は最悪である.

■アンギオテンシン変換酵素(ACE)はSPの分解酵素の1つであり,降圧薬のACE阻害薬を投与すればSPの分解も阻害されるため,ACE阻害薬投与により誤嚥性肺炎患者の嚥下反射が正常化する[12].また,ACE阻害薬の有名な副作用の乾性咳嗽があるが,脳血管障害のため咳嗽反射が低下した高齢者にACE阻害薬を投与すると咳反射も改善することが知られている.実際,imidapril(タナトリル®)等のACE阻害薬は嚥下反射を改善し,肺炎罹患率を約1/3に減じたと報告されている[13].imidaprilの1/4~1/20量内服により74%の患者で不顕性誤嚥が消失し,血清SPの上昇を認めた[14]ことから,正常血圧患者でも血圧に影響を及ぼさない少量のACE阻害薬で肺炎予防効果が期待できることが分かる.

■脳内移行性が確認されているACE阻害薬はperindopril(コバシル®)とcaptoril(カプトリル®)があり,認知機能低下をきたす原因の1つである脳内ACEを阻害することで,非移行性ACE阻害薬よりアルツハイマー病発症率が有意に低下したと報告されている[15]
※ACE阻害薬は嚥下機能改善目的での使用は保険適応がないため,高血圧病名をつけておく必要がある.

■嚥下機能が落ち,肺炎リスクのある高齢高血圧患者においては,病態生理学的にも臨床的にもARBをACE阻害薬より優先して使用するメリットはないと考えられる.しかし,これまで死亡率をアウトカムとして比較した報告はほとんどなかった.実際にACE阻害薬は上述の通り,高齢者で問題となる誤嚥性肺炎とアルツハイマー病を予防し得ることが近年分かってきており,くわえて,メタボサルタンとも呼ばれる種類のARBの特徴であるPPAR-γ活性化作用は肺炎や下気道感染のリスクを増加させる可能性も指摘されている[16]
※一方のACE阻害薬では,かなり稀ではあるが,小腸血管性浮腫に注意が必要である.急性腹痛症状で発症する.(Am J Roentgenol 2011; 197: 393)

■そのような中,2012年4月にACE阻害薬とARBにおける20報・16万人のRCTのメタ解析が発表された[17].このような高血圧による死亡率のメタ解析は世界初である.この報告によると,全体の全死亡および心血管死を解析したところ,プラセボ群に比べてACE阻害薬/ARB投与群は全死亡リスクを5%有意に低下させることが分かった.しかし,ACE阻害薬,ARBに分けてそれぞれを解析したところ,両者のリスク低下作用に差が生じた.ACE阻害薬はプラセボ群に比べて全死亡率を10%有意に低下させた(20.4%vs24.2%)のに対し,ARBでは有意差が見られなかった(21.4%vs22.0%).また全死亡リスクの低下を両群間で比較したところ,ACE阻害薬の方が有意に死亡率が低下した.そして,ACE阻害薬とARBでは心血管死のリスクに有意差はなく,それ以外のイベントにより死亡リスクに差が出たことになる.この結果から,誤嚥性肺炎リスクのある高齢高血圧患者ではARBよりACE阻害薬が推奨されるべきかもしれない.

■ドーパミンが少なくてSPが放出されないことから,ドーパミンを補充すれば誤嚥性肺炎は予防が可能と考えられる.実際,嚥下反射の低下した脳血管障害患者にL-DOPAを投与すると嚥下反射が著明に改善した.そこで,脳血管障害を有する高齢者患者に大脳基底核でのドパミン遊離促進薬であるアマンタジン(シンメトレル®)投与により肺炎発症率が1/5に抑制された[12].誤嚥性肺炎に罹患した患者を抗菌薬単独投与群と抗菌薬+ACE阻害薬タナトリル+シンメトレル併用投与群で比較したところ,併用群で抗菌薬使用量が半減し,在院日数・医療費は2/3に減少,MRSA発生率,肺炎での死亡率も有意に減少した[18]

■不顕性脳梗塞も含めると,脳血管障害の99%は脳梗塞と考えられる.不顕性脳梗塞でも,要介護高齢者であれば,2年以内に30%は肺炎を生じる.要介護高齢者に抗血小板作用と脳血管拡張作用を有するシロスタゾール(プレタール®)を投与すると,誤嚥性肺炎発症率が40%に低下したと報告されている[7].また,アスピリンとの比較でもシロスタゾールの肺炎予防効果が有意に高かった[19].さらに,シロスタゾールに嚥下改善作用が報告され,脳梗塞予防以外にも肺炎予防効果に関連する作用を有することが明らかになった[20]

■漢方の半夏厚朴湯は脳変性疾患患者に投与すると嚥下反射時間が短縮することが知られている.長期療養型病院に入院中の患者に半夏厚朴湯を投与すると,非投与群に比して肺炎の発症率が有意に抑制される[21]

■胃ろう増設患者において胃液逆流改善効果のあるモサプリド(ガスモチン®)投与により肺炎頻度が減少する[22]

■高齢患者の入院後感染症発症率は胃酸抑制薬投与群で38.8%,非投与群で9.6%(p<0.001)である.この傾向はPPI(プロトンポンプインヒビター製剤)で著明であり,H2RA(H2受容体拮抗薬)では有意差がなかった[23].PPIは感染症リスクであり,Clostidium difficile関連下痢(CDAD)の原因においても抗菌薬と同じくらい重要である.胃酸抑制薬使用で市中肺炎発症リスクが4.47倍[24],PPIで市中肺炎入院リスク1.5倍[25],胃酸抑制薬使用で院内肺炎発症リスク30%増[26]などが報告されている.また,65歳以上で肺炎入院既往がある肺炎ハイリスク患者で胃酸抑制薬使用は肺炎再発リスクを1.5倍になると報告されている[27]

■高齢入院患者において胃粘膜防御因子増強薬が単独投与されていた患者からの感染症発症はなく,投与されていた患者全体では感染症発症率は9.4%で,非投与群の25.6%に比べると有意に低い[28].胃酸抑制薬を投与されていても,胃粘膜防御因子増強薬を併用されていた患者では感染症発症率は18.8%であり,胃酸抑制剤単独投与の38.8%より有意に抑制されていた.この傾向は肺炎においても同様であった.胃粘膜防御因子増強薬はムチンなどを含む胃粘液の増加,胃粘膜のプロスタグランジンの増加,創傷治癒の促進,抗炎症作用などを有し,損傷した粘膜の修復や保護に作用する.ムチンには細菌の排除を容易にする作用がある.

■以上より,誤嚥性肺炎リスク患者においてPPI投与は本当に必要か再検討すべきであり,むしろ胃粘膜防御因子増強薬の使用をより積極的に考慮すべきかもしれない.
※当院ではガスロン®を推奨している

[1] N Engl J Med 2001; 344: 665-71
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[28] Front Gastroenterol 2009; 14: 263-70
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by DrMagicianEARL | 2012-05-10 06:11 | 肺炎 | Comments(3)
Summary
・市中肺炎(CAP)でも院内肺炎(HAP)でもない,介護施設や在宅医療の患者による肺炎(HCAP)が米国で提唱されており,CAPやHAPと異なる抗菌薬の使用法が必要とされている.
・本邦と米国で医療社会的背景が異なるため,米国のHCAPにあたる本邦独自の医療介護関連肺炎(NHCAP)が提唱され,その診療ガイドラインが2011年に日本呼吸器学会より発表された.
・NHCAPはその重症度よりも起因菌(耐性菌)によって予後が変わりうる.
・NHCAP診療ガイドラインはそのほとんどが抗菌薬に内容を割かれており,口腔ケア,リハビリテーション,誤嚥予防薬に関する記載は極めて少ない.
・NHCAP診療ガイドラインにおける耐性菌リスクの基準は,検出菌の解析によるものであり,起因菌によるものではなく,ガイドラインが推奨する抗菌薬が,治療・耐性菌出現抑制の観点で適切かどうかは根拠が乏しい.
1.NHCAP診療ガイドラインの概要・作成に至る背景
■2011年に日本呼吸器学会より医療介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドラインが作成・発表された.本ガイドラインはEBMの手法により作成され,エビデンスレベルと推奨グレードの分類は,医療技術評価総合研究医療情報サービス事業Mindsに準じて行われている.作成委員は以下の通りである.

委員長
河野 茂  長崎大学病院

作成委員
関  雅文 大阪大学医学部附属病因感染制御部
渡辺 彰  東北大学加齢医学研究所抗感染症開発部門
進藤有一郎 名古屋大学大学院医学系研究科呼吸器内科学
朝野 和典 大阪大学医学部附属病院感染制御部
石田 直  倉敷中央病院呼吸器内科
寺本 信嗣 筑波大学附属病院ひたちなか社会連携教育研究センター
門田 淳一 大分大学医学部総合内科学第二講座

作成協力者
今村 圭文 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科感染免疫学講座(第二内科)

■肺炎は日本の死因の第4位であり,高齢者ではその死亡率は極めて高い.肺炎による死亡者のなかで65歳以上の高齢者が占める割合は95%である.日本呼吸器学会では2000年に市中肺炎(CAP)診療ガイドライン,2002年に院内肺炎(HAP)診療ガイドラインを公表し,それぞれ2007年,2008年に改訂している.しかしながら高齢者肺炎に対する診療の規範として,両ガイドラインは不十分であった.その原因として,高齢者は病院と市中の中間的存在である介護施設などの医療関連施設に入所していることもあり,CAPとHAPの両方の特徴を持ち,若年者とは異なる予後を示してきたことが挙げられる.

■米国では胸部疾患医学会ATSおよび感染症学会IDSAが2005年に共同発表したHAP診療ガイドライン[1]の中で,医療ケア関連肺炎(HCAP;healthcare-associated pneumonia)として扱うことを提唱している.CAPの重症度判定はPSI,CURB-65などがあるが,この基準はHCAPでは役に立たないと報告されている[2,3].その原因として,ADLなど重症度評価に用いられない因子が影響していること,連続変数のカットオフ値がCAPとHCAPで異なること,治療の制限(DNR)などが挙げられた[4].

■本邦においてもHCAPは適応されるべきものであったが,米国と本邦で医療環境がかなり異なっているため,単純にHCAPを日本に導入できるものではない.米国には介護保険がなく,在宅医療を受けている患者はCAPには含まれている一方,米国では亜急性期療養施設やナーシングホームが多く存在し,これはHAPに含まれている.これを日本の現状と合わせてみると,米国のHCAPの範囲は狭く,日本には馴染まない.そこで,在宅医療を受けている患者から,長期療養病床群に入っている患者まで幅を広げたものが日本版のHCAP,すなわち医療介護関連肺炎(NHCAP;Nurseing and Hearlthcare-associated pneumonia)ということになる.

■NHCAPの患者は,重症度よりも区分が重視される.これは,HCAPにおいて,CAPとの比較で死亡率が高いが,有意に死亡率に差が出たのが重症ではなく中等症であったからである.さらに,HCAP患者においては中等症と重症ではほぼ同等であった.緑膿菌やMRSAなどの耐性菌検出割合は,CAPにおいては重症度に比例して高まるが,HCAPにおいては重症度は無関係であった.HCAPにおいては不適切な初期抗菌治療は死亡リスクを高め[5],起炎菌判明後にその抗菌スペクトラムを変更しても予後は変わらない[6]ことが分かっている.よって,重症度よりも耐性菌リスクを考慮した区分が必要となり,これが,HCAPを独立した肺炎カテゴリーとして区別する必要性がでてきた理由である[7].NHCAPも同様の考えとなっている.

■NHCAP患者の背景としてはCAP群と比較すると以下の点が特徴的である.
(1) 抗菌薬曝露歴
(2) 高齢
(3) 合併症が多く存在(特に中枢神経系疾患)
(4) 貧血,低ナトリウム血症,アシデミア
(5) 低アルブミン血症,BMI低値
(6) 誤嚥の関与が非常に多い
(7) ADL不良
このように,NHCAP患者では抗菌薬治療のみならず,適切な全身管理と誤嚥対策が必須となる[4].

■NHCAPにおけるもう一つの問題は高齢者医療という見地から見たときに生じる.長期的には改善が得られない症例に対する医療の継続に関しては現在も議論の決着がついておらず,日本老年期医学会もようやく重い腰を挙げたところである.治療区分の判断にあたっては主治医の倫理的裁量に委ねられているのが現状で,NHCAP診療ガイドラインにおいても抗菌薬選択にあたり,科学的エビデンスのみでなく倫理的要件も考慮し,提示している.

2.NHCAP診療ガイドラインの問題点
■どんなガイドラインも作成後は厳しい批判に曝されることはしばしばある.専門医師だけでなく専門外医師まで幅広く使用できるガイドラインは,「常識の範囲内」という枠の中で定められ,専門医師から見れば欠点も多数見えてくることとなる.問題はその指摘を作成委員がどこまで認識し,どう改訂していくかにかかっている.
※小生も本診療ガイドラインの内容には異論はあるうちの1人であり,担当患者の中で肺炎患者が最も多い呼吸器内科医ではあるが日常診療において本ガイドラインは使用していない.2012年4月7日にNHCAPフォーラムが東京で開催され,作成委員のうち数人が講演した.小生も参加したが,トータライザーまで使用し,NHCAPガイドラインを使用しない理由の第2位が「異論がある」であったにもかかわらず,作成委員は一言述べたに留まり,ディスカッションなしのほぼスルー状態であったのは残念でならない.

■まず第一に「そもそも社会背景が非常に複雑なNHCAP患者において診療ガイドラインを定める必要があるのか」という声が多いのも事実であり,これは学会・フォーラムで作成委員も感じるところであったようだ.口から食べ物を摂取するという,生物の生命維持上最も必要な機能が加齢により失われた時点で老衰とみなすべきなのかもしれず,これに対して明確な治療を定めることにも異論があるだろう.しかしながら,ガイドラインとはその専門の医師のみでなく,専門外の医師も使用するものであり,高度な専門性を有したり煩雑なものになることは極力避けるべきであり,その目的は専門外であっても標準レベルの治療方法を提示すること,その疾患における啓蒙であることが大きく挙げられることから,ガイドラインは少なくとも必要であろう.

■HCAPの概念そのものを否定する文献も存在する[8].HCAPの概念は抗菌薬の不必要に過剰なスペクトルカバーを行わせるものであり,HCAPというカテゴリーは不要であるとしている.

■NHCAPの社会背景や背景疾患などの複雑性を強調しているにもかかわらず,ガイドラインはほとんど抗菌治療に内容をさいている.作成委員が呼吸器・感染症医だけで作成したためこのような内容になったと思われるが,そもそもNHCAPの治療の場は在宅や施設から始まっており,根本治療といえども抗菌薬はその治療法の1つに過ぎない.NHCAP治療は医師だけでは困難で,本当に大変なのは抗菌薬治療が終了してからであり,あらゆる医療職がかかわって治療を行う必要があり,医師以外も使用できるガイドラインでなければならないはずである.超高齢化社会に向けて動いている日本の現状において抗菌薬治療だけを前面におしだしたガイドラインではとてもやってはいけないだろう.口腔外科,耳鼻咽喉科,消化器内科,理学療法士,言語聴覚士,看護士,介護福祉士などが作成にかかわっていないNHCAP診療ガイドラインでNHCAPの治療をすすめるのは問題である.口腔ケア,誤嚥予防薬,呼吸ケア,リハビリなど,NHCAP治療に必須となる各種治療がほとんど記載されておらず,これで本当に治療が行えるかはおおいに疑問がある.
※抗菌薬治療終了後からが誤嚥性肺炎との本当の戦いなのかもしれない.人工呼吸器装着患者におけるweaningと同様に,誤嚥性肺炎においては経口摂取の“weaning”を始める必要があり,スムーズな治療をすすめていくためにもプロトコルが必要である.このプロトコルにおいて抗菌薬の位置づけは最初だけに過ぎないことは容易に分かる.初期からの口腔ケア,リハビリから始まり,嚥下・咳反射刺激を与えつつ経口摂取訓練を開始,食後2時間の座位保持を経て嚥下訓練食を開始し,食上げを行いながら状態に応じてACE阻害薬,アマンタジン,シロスタゾール,半夏厚朴湯などを投与していく.こういった流れのバンドルを作成する重要性がガイドラインには全くない.NHCAPガイドライン発表から1年たった2012年の日本呼吸器学会学術講演会(神戸開催)においてもNHCAPや誤嚥性肺炎の演題は抗菌薬や基礎疾患背景,プロカルシトニンとの関係のみに留まった.

■治療区分を4群にわけており,とりわけ重要となるのが耐性菌リスクにより分けたB群とC群である.ここで注意したいのは,antibiogramである.地域ごとに耐性菌リスクは大きく異なり,耐性菌リスクが高いと判定されても実際の耐性菌保有率が高くないことはよく経験されることである.この場合,地域によってはガイドラインで推奨されている抗菌薬が過剰スペクトラムとなりえる.実際にはその地域のlocal factorとantibiogramをふまえた抗菌治療を行わなければならない.しかしながらここまでの内容をガイドラインに記載するのは,専門外医師も使用することを考えれば,感染症治療の専門性を要求するという意味で常識の範囲を逸脱してしまう.それならば,各総合病院の感染対策室がその地域のlocal factorとantibiogramを明確に提示し,地域全体の抗菌薬適正使用を啓発する文面を強調して記載すべきである.
※当院の地域では誤嚥性肺炎患者に経口第3世代セフェム薬を投与して治療を開始する老健施設の嘱託医が非常に多くみられるが,当院以外の地域でも同様の現象が非常に多くあるようである.スペクトラムをはずしているどころか抗菌薬としてほぼ無効であろう経口第3世代セフェムをこのように使用されているのを見れば,NHCAPガイドラインのいったいどこに問題点があるのか浮き彫りになってくるはずだ.

■NHCAP患者から耐性菌が検出されることが多いのは誰もが経験していることだが,検出菌が必ずしも原因菌ではないこともしばしば経験される.実際,緑膿菌やMRSAの肺炎はそこまで頻繁に経験するものではない.ガイドラインの根拠となっている耐性菌率がはたして現場にマッチしたものなのかを検証することは非常に難しいため,ガイドラインにこれ以上のことを要求するのは不可能だろう.しかしながら,超広域スペクトラムをあまり使用せずとも治療成績がよい施設も多い.また,同一菌の誤嚥を繰り返す患者も多いことは記憶しておくべきことだろう.
※小生の病院の誤嚥性肺炎ではほとんどがSBT/ABPC(ユナシン®)で治療可能であるし,カルバペネム系,キノロン系,アミノグリコシド系は全くと言っていいほど使用していない.緑膿菌もPIPC(ペントシリン®)やCAZ(モダシン®)で十分治療可能であり,MRSAの検出率はそれなりにあるが,抗MRSA薬の使用数も非常に少ない.そもそも過剰な広域抗菌薬を投与するから耐性菌検出率が上昇し,耐性菌による感染症発症も生じてくるわけである.NHCAP診療ガイドラインの推奨抗菌薬は米国のものに比しておさえてはいるが,それでもまだ過剰な印象があり,逆に耐性菌増加に繋がりかねない.

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[8] Lancet Infect Dis 2010; 10; 279-87
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by DrMagicianEARL | 2012-04-22 17:24 | 肺炎 | Comments(0)
■HIV感染によるニューモシスチス肺炎(旧カリニ肺炎)は有名であるが,実際のHIV患者の診療経験がなければ見逃してしまうことがほとんどである.地域にある当院においてもHIV感染によるニューモシスチス肺炎は年に1-2例あり,多くが多数の開業医や当院外来医師の診察・治療を経ても改善が得られず,呼吸器内科に紹介されてAIDSと診断されるパターンとなる.本邦は先進国の中でも唯一のHIV/AIDS患者が増加している国であり,日和見感染症を発症してはじめて発見されるAIDS患者「いきなりエイズ」が増加していることから,HIVにみられる真菌症を診療する機会も増加している.日常診療において遭遇する可能性は年々高まってきており,見逃しによる重症化はなるべく避けたいものである.

■以下の症例は小生が研修医1年目のときに経験し,院内学会で報告した非常に懐かしい肺炎症例である.考察内容は当時のままにしてあるため,若干内容が古いので注意されたい.小生が夜間当直の際に救急搬送され,そのまま担当医となり,診断・治療に至った.AIDS/ニューモシスチス肺炎の典型的パターンであり,珍しくもなんともないが,このケースがHIV感染者で発見される最も多いパターンであるにもかかわらず,多くの医師にいまだに見逃され,診断が遅れてしまう現状がある.

■HIV感染間もない時期に急性症状を発症することがあるが,多くは感冒とみなされ,自然寛解してしまうため,HIV感染が見逃されている.この時点での診断は困難かもしれないが,せめてAIDS発症によるPCPはきっちりと疑い診断すべきであろう.

46歳男性

【主 訴】呼吸困難

【現病歴】2009年8月から徐々に羸痩を自覚していた.同年9月15日より発熱あり,近医Aでの胸部レントゲン写真にてインフルエンザと肺炎の合併と診断され(インフルエンザチェック未施行),毎日点滴加療を受けていた.9月20日よりクラリスロマイシン内服にて経過を診ていたが,呼吸困難感は増悪.9月23日・24日に当院総合内科外来を受診され,セフォチアム塩酸塩の点滴を受け,クラリスロマイシン400mgを処方される.しかし,近医BでSpO2 87%と著明な低酸素血症を認めたため,当院に救急搬送され,呼吸不全で緊急入院となった.

【既往歴】1999年 A型肝炎

【生活社会歴】喫煙歴,飲酒歴はない.職業は寿司屋職人であり,アスベスト等粉塵曝露歴はない.ペットも飼っていない.妻,息子3人と同居している.アレルギー歴なし.

【家族歴】特記なし

【主な入院時現症】身長 169cm,体重 68kg.体温 38.3℃呼吸数 22/分脈拍 117/分,整.血圧 105/62 mmHg.SpO2(自発呼吸,room air)87%.眼瞼結膜に貧血はなく,眼球結膜に黄染もない.口唇チアノーゼ認めず.表在リンパ節を触知せず,皮疹も認めない.頚静脈の怒張を認めない.頚部血管性雑音聴取せず.甲状腺腫大を認めない.呼吸音は清明でラ音を聴取しない.心音に異常はない.腹部は平坦,軟で圧痛はない.腸蠕動音は正常.肝・脾を触知しない.神経学的異常は認めない.

【主要な検査所見】
尿所見:比重 1.020,蛋白(+),糖(-),潜血(-).
血液所見:赤血球 376万/μl,Hb 11.1 g/dl,白血球 6900/μl(好中球83.0%,好酸球0%,好塩基球0%,単球5.0%,リンパ球12.0%),血小板 17.8万/μl,PT INR 1.51,APTT 33.0秒,血漿フィブリノゲン 553.1mg/dl.
血液生化学所見:空腹時血糖 109 mg/dl,総蛋白 8.6 g/dl,アルブミン 3.1 g/dl,尿素窒素 23.7 mg/dl,クレアチニン 0.8 mg/dl,総ビリルビン 0.5 mg/dl,AST 40 IU/l,ALT 8 IU/l,LDH 330 IU/l,ALP 145 IU/l,γ-GTP 22 IU/l,CK 56 IU/l,Na 138 mEq/l,K 4.4 mEq/l,Cl 101 mEq/l,Ca 8.3 mg/d.
免疫学所見:CRP 17.1 mg/dl,CEA 0.71 ng/ml,CA19-9 1.00 U/ml,尿中肺炎球菌抗原(-).
動脈血ガス分析:pH 7.457,PaCO2 40.9,PaO2 57.3,HCO3 28.2,BE 4.0.
心電図:正常洞調律.
胸部X線写真:下肺野優位にびまん性浸潤陰影を認める.両側胸郭横隔膜角は鋭角.心拡大認めず.
e0255123_12115828.jpg
胸部CT:全肺野にびまん性の間質性浸潤陰影を認める.右下肺野に胸郭に平行な索状陰影を認める.胸水貯留なし.
e0255123_1212238.jpg

喀痰好酸球試験:陰性.

【経過】
CT画像から間質性肺炎と診断.比較的若年の間質性肺炎であることから,好酸球性肺炎,過敏性肺臓炎,特発性間質性肺炎,真菌性肺炎,膠原病等を鑑別にあげた.A型肝炎の既往があるため,性行為感染症のリスクと考え,過去の性交歴を聴取したところ,同性愛者ではないが,不特定多数の女性との性交歴があった.このことから,HIV感染によるニューモシスチス肺炎(以下PCP)を疑い,HIVスクリーニングを施行したところ,陽性であったため,引き続きWestern-Brot法による検査を施行した.
※当時,小生は既に関西HIV臨床カンファレンスに参加しており,A型肝炎既往を見てHIV感染を疑うこと知っていたため,救急搬送時の段階で性交歴を聴取した.逆に,もし当時同カンファレンスに参加していなければ,HIVを疑うのは第3病日以降になっただろう.

入院後は新たに抗生物質は投与せず,入院前に処方されたクラリスロマイシンは中止とし,酸素療法,プレドニゾロン40mg/日投与にてまずは経過観察とした.酸素は6Lマスクで95%以上をキープし,労作時呼吸困難は改善傾向となったが,38-39℃の発熱が持続していた.

第3病日にKL-6 1251 U/ml,β-D-グルカン 272.3 pg/mlと判明し,ニューモシスチス肺炎の可能性が高いと判断し,体重を考慮し,ST合剤12錠/日(スルファメトキサゾール4800mg,トリメトプリム960mg)投与を開始した.後日判明した喀痰中PCRにてPneumocystis jiroveci陽性,サイトメガロウイルスC7-HRP陰性であり,ニューモシスチス肺炎と確定診断した.
HIVに関しては,Western-Blot法にて再検し,陽性であったため,HIV感染による後天性免疫不全症候群と診断した.第5病日の採血にてCD4 9.3%,CD8 45.6%,CD4/CD8 0.20(転院先の検査ではCD4 47/μl)であった.

なお,抗核抗体,マイコプラズマ抗体,p-ANCA,c-ANCA,CH-50,免疫複合体Clq,クラミジア抗体,IgE RIST,SP-D,SP-Aは全て正常範囲であり,他の鑑別疾患は否定的であった.

ST合剤とプレドニゾロン投与により第3病日より36℃台に解熱し,呼吸困難感も改善し,SpO2は経鼻酸素2Lで95%前後で安定した.今後は専門施設による治療の必要があると考え,第7病日に他院に転院の運びとなった.転院先で肺炎治療が終了し,現在は外来通院で抗HIV療法を施行されている.

【考察】
ヒト免疫不全ウイルス感染後,無症候キャリア期を経て,CD4リンパ球の減少によって後天性免疫不全症候群を発症し,ニューモシスチス肺炎に至った症例である.

PCPの原因はPneumocystis jiroveciによって引き起こされ,AIDS,悪性腫瘍,白血病,膠原病,臓器移植などの基礎疾患を有し,抗癌剤,免疫抑制薬,副腎皮質ステロイドなどを投与された免疫不全宿主や未熟児(新生児間質性肺炎)に発生する,日和見感染症である.AIDSに伴うPCPは,しばしば前兆として,感冒症状を数週間にわたって示し,その後感染が顕在化することが多い.呼吸困難,空咳などが比較的頻度の高い臨床症状であるが,理学所見に乏しく,酸素療法に抵抗性のある低酸素血症があったことも本症例は矛盾しない.治療には第一選択薬としてST合剤(トリメトプリムを5mg/kg×3/day)があり,代替薬としてペンタミジンが治療に用いられるが,自然寛解はほとんどなく,1ヶ月生存率85%の予後不良疾患である.

HIVに感染するとCD4リンパ球が減少し,200/μL以下に減少すると高率にAIDSを発症するとされている.本症例では47/μLであり,AIDS発症には十分であった.

PCPの治療は,ST合剤(S:スルファメトキザゾール,T:トリメトプリム)を用い,トリメトプリム投与量5mg/kg×3/day×14-21daysとする.代替薬はペンタミジンを用いる.AIDSを合併し,かつPaO2 70mmHg以下の症例についてはステロイド(プレドニゾロン40mg/day)の投与が推奨されている.

HIV感染症に見られる真菌症として最も重要な疾患はPCPである.AIDS動向委員会報告では35.7%と最も高頻度であり,びまん性スリガラス陰影,β-D-glucan高値を見た場合はPCPを考慮し,HIV感染症の可能性を想起する必要があり,過去の性交歴,覚醒剤等注射歴など詳細な問診が重要となる.

AIDS動向委員会の報告を見ると,新規HIV,AIDS感染者は年々増加傾向にあり,本邦では1日あたり4人が,大阪では2日に1-2人がHIV/AIDSと診断されている計算となる.累積HIV感染者数は1万人を越えており,男女比は圧倒的に男性が多い.これは男性の同性愛者による感染が多いことが関係している.

【結語】
後天性免疫不全症候群の発症によりニューモシスチス肺炎をきたした1例を経験した.

HIVと診断された患者の多くがほぼ同時に日和見感染症を発症している.以前のHIVによる日和見感染症は同一患者で繰り返し発症するものであり,多くの場合はHIV感染が明らかになっており,治療を行うのはHIV診療に慣れている医療施設が多かった.ところが近年,AIDS患者はあらゆる医療施設で診療されることになり,またHIV感染が判明しないままに診断・治療が開始される場合が多く,必ずしも最善の治療とはならない可能性がある.

これまでは厚生労働省のHIV予防啓発が主体であったが,HIV/AIDS患者増加に伴い,これからは診断・治療も一般医師は知識として有する必要がある.専門施設に関係なく,あらゆる医療従事者がAIDS発症者の診断・治療に携わり得る時期に来ている.発症の背景が明らかでない日和見感染症をみた場合,詳しい患者の社会的背景の問診は勿論のこと,HIV抗体検査をルーティンにとり入れるべきである.
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by DrMagicianEARL | 2012-04-01 12:42 | 肺炎 | Comments(0)

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