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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

カテゴリ:抗菌薬( 15 )

■オーストリアはウィーンで第30回欧州集中治療医学会(ESICM 2017)が開催されている関係で,Intensive Care Medicine誌も次々と論文をonline publishしています.今回紹介するのは侵襲性カンジダ感染症が疑われた重症患者への経験的抗真菌薬の投与期間を0日目と4日目に計測したバイオマーカーに基づいて決定するアルゴリズムを用いて決定する介入群と,国際ガイドライン通り2週間投与を目安とする群を比較したRCTです.バイオマーカーによるアルゴリズムの図はICMのTwitter公式アカウントが公開していましたのでそちらから拝借してAbstractの下に掲載しました.

■結果は,バイオマーカーによるアルゴリズムを用いた方が早期に抗真菌薬を中断できたという結果です.単施設研究であり,もう少し検証は必要ですが,7日以内に約半数が安全に抗真菌薬を終了できるのであればかなり心強いエビデンスになります.気になるのは,バイオマーカー群は中央値にしてほぼ半分の投与期間であるにもかかわらず,コストに有意差がなかったことです.何にそこまでコストがかかったんでしょうね?
重症患者における経験的抗真菌薬の早期中断のためのバイオマーカーに基づいた戦略:無作為化比較試験(S-TAFE study)
Rouzé A, Loridant S, Poissy J, et al; S-TAFE study group. Biomarker-based strategy for early discontinuation of empirical antifungal treatment in critically ill patients: a randomized controlled trial. Intensive Care Med 2017 Sep 22 [Epub ahead of print]
PMID: 28936678

Abstract
【目 的】
本研究の目的は,経験的抗真菌薬の早期中断におけるバイオマーカーに基づいた戦略の影響を検討することである.

【方 法】
この前向き無作為化比較単施設非盲検研究は混合ICUで行われた.計110例の患者が,経験的抗真菌薬投与期間を,0日目と4日目に(1,3)-β-D-グルカン,マンナン抗原,抗マンナン血清アッセイの測定によって決定する戦略群(バイオマーカー群)か,14日間治療を推奨している国際ガイドラインに基づいたルーチンケア群に無作為に割り付けた.バイオマーカー群では,早期中止の推奨を,バイオマーカー計測結果に基づいたアルゴリズムを用いて決定した.主要評価項目は,経験的抗真菌薬を7日目までに中止と定義された早期中止を行った生存者の割合とした.

【結 果】
109例の患者が解析された(1例が治療中止(withdrawal)で同意).経験的抗真菌薬の早期中止は,ルーチンケア群で55例中1例であったのに対し,バイオマーカー群で54例中29例であった(54% vs 2%, p<0.001, OR 62.6, 95%CI 8.1–486).全抗真菌薬投与期間はルーチンケア群と比較してバイオマーカー群の方が有意に短かった(
中央値(四分位範囲) 6日(4–13) vs 13日(12–14), p<0.0001).両群間で,侵襲性カンジダ感染確定診断,人工呼吸管理のない日数,ICU滞在日数,コスト,ICU死亡の患者の割合に有意差はみられなかった.

【結 論】
バイオマーカーに基づいた戦略の使用は,侵襲性カンジダ感染症が疑われた重症患者における経験的抗真菌薬の早期中止の割合を増加させた.本結果は,経験的抗真菌薬の早期中止が予後にネガティブな影響を与えなかったことを示唆する既知の知見を裏付けるものである.しかしながら,この戦略の安全性を確認するためにはさらなる研究が必要である.本研究はClinicalTrials.gov NCT02154178で登録した.
本研究のバイオマーカー群のアルゴリズム
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by DrMagicianEARL | 2017-09-27 00:00 | 抗菌薬 | Comments(0)
■世界保健機関WHOにより2015年から11月の特定の週が世界抗菌薬啓発週間(World Antibiotic Awareness Week)と定められました(2016年は11月14~20日).この流れに合わせる形で,日本政府は今年2016年から,11月を「対策推進月間」と定めて対策強化に乗り出し,感染症と抗菌薬の基本的な知識を広げるため,国民啓発会議を立ち上げることになりました.
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1.薬剤耐性菌の脅威

■これまで多数の抗菌薬が開発されてきましたが,なかでも1970年代以降は広範囲の菌に有効な抗菌薬が多数登場し,一時は「これで細菌感染症は撲滅できる」という楽観的な予測をしていた専門家もいたくらいでした.しかし,近年状況は大きく変わりました.米国でポピュラーな感染症診療の教科書であるInfection Diseasesは,Frederick Southwickの「われわれは抗菌薬の時代の終焉にいるのか?」という衝撃的な見出しから始まっています.抗菌薬の乱用により数多くの薬剤耐性菌(抗菌薬が効かない菌)が発生し,病院内に留まらず,その地域にまで拡大しており,その速度は医師の想像の範疇を大きく越えるものでした.感染症に対する武器である抗菌薬を手にしたにもかかわらず,我々は今抗菌薬を失い始めています.

■1925年にAlexander Flemingがアオカビからペニシリンを発見し,1940年にはペニシリンが実用化となりましたが[1],それから20年足らずでペニシリンが効かない黄色ブドウ球菌が急増しました.しかし,実際にはペニシリン耐性菌は本剤が臨床で使用されるようになる以前から存在していたことが報告されています[2].自然環境においてはペニシリンをはじめとする抗菌物質を菌が産生することにより自分のなわばりのようなものを作ることが知られていて,この抗菌物質に曝露される菌は多数存在しており,それらが生き延びるためには抗菌物質に対する耐性を持つ必要がありました.つまり,環境微生物に由来する抗菌性物質には古くから耐性菌が存在することは必然的なことであり,同時に抗菌薬に対する耐性獲得も時間の問題であったということです.

■これまでメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)のアウトブレイクにより認識が広がりだした多剤耐性菌は,現在,ほとんどの抗菌薬が効かないESBL,NDM-1,KPC,MBLといった驚異的な耐性度をもつタンパクを有する菌が発見されるまでになっています.このような多剤耐性菌は免疫が弱った患者が感染するものと考えられてきましたが,近年,一般市民に感染するMRSAが増加傾向にあり[3,4],2011年にドイツで食中毒により大流行した大腸菌O-104はESBL産生株という耐性菌であることも分かっており[5],2011年には京都でほとんどの抗菌薬が無効の淋菌が報告されています[6,7].最近では,「スーパー耐性菌」として米国等で高度耐性菌の発生がメディアで報じられるようになりました.

■このように菌の耐性化と新たな抗菌薬創薬のイタチゴッコが繰り広げられてきた中,抗菌薬開発はビジネスとしてリスクが高い割には(ジェネリック医薬品の登場もあり)あまり収益が見込めない分野であり[8],採算性などの観点から最近は抗菌薬開発から撤退する企業が増加しています[9].米国でも2020年までに新たな10種類の抗菌薬を開発するプロジェクトが行われていますが,その背景には,1980年代以降,新規開発の抗菌薬の数が減少し続けているという厳しい現状があります[10].2016年のEUの報告書でも,2003年から2013年にかけての医薬品ベンチャー投資のうち抗微生物薬開発に充てられたのはわずか5%未満でした[11].抗菌薬の効果を維持するとともに,新薬を開発するため,資金を含めた各国政府の支援と求める宣言を85の製薬会社が共同で発表しています[12]

2.耐性菌危機に対する急速な世界の動き

■2015年6月にドイツはシュロス・エルマウで開催されたG7首脳会議(サミット)において,抗菌薬の効かない薬剤耐性菌の拡大を防ぐため,先進7カ国(G7)が協調して新薬を開発し,家畜への抗菌薬の不適切な使用を減らすなどの対策強化を盛り込んだ共同声明が出されました.2016年9月の神戸で行われたG7保険大臣会合でも4つの共同声明の中で3番目に薬剤耐性(AMR)対策が盛り込まれています[13].また,同時期に行われた国連総会でも,薬剤耐性菌についてのハイレベルミーティングが行われました[14].さらに,世界銀行は,「薬剤耐性菌感染症は未来の経済への脅威である」というレポートを出しています[15].このように,世界首脳の集まりにおいて重要な議案に取り上げられるほどに事態は危機を迎えつつあります.
2016年国連総会ハイレベルミーティングの内容
(1) 人,動物に対する抗菌薬の使用・販売量のサーベイランスと規制の仕組みを充実させる.
(2) 新規抗菌薬の開発や迅速診断の改善のため革新的な研究を推進する.
(3) 薬剤耐性菌の感染症をいかに防ぐかについて医療従事者や市民の教育を行う.
■また,これらの問題は単にヒトの医療のみにとどまりません.ヒトの衛生のみならず,家畜の衛生,環境の衛生の関係者が連携して対策に取り組むべきであるとする「One Health」の理念が普及・推進されています.2016年11月10・11日に北九州市で「第2回世界獣医師会-世界医師会”One Health”に関する国際会議」が開催されます.

■今や耐性菌対策は国家レベルの問題となっており,放置すれば2050年には癌よりも多い年間1千万人が耐性菌によって死亡するとの予測もあります.現在世界各国がアクションプランを開始しています.新規の抗菌薬開発を促進させること,抗菌薬を適切に使用すること,感染症を予防することで抗菌薬使用を減少させることが必要であり,今ある抗菌薬を未来に残す必要があります.

3.日本での対策

■世界の流れに日本が乗り遅れていた中,日本では2015年の抗菌薬啓発週間から感染症医の有志によるキャンペーンが行われました.さらに,2016年2月には感染症関連の8学会(日本感染症学会,日本化学療法学会,日本環境感染学会,日本臨床微生物学会,日本細菌学会,日本薬学会,日本医療薬学会,日本TDM学会)合同創薬促進検討委員会・抗微生物薬適正使用推進委員会が厚労省,文科省,経産省への提言「世界的協調の中で進められる耐性菌対策」[16,17]を出しています.
8学会合同の提言「世界的協調の中で進められる耐性菌対策」の主な内容
(1) 戦略的な耐性菌サーベイランスの実施
(2) 院内感染対策・制御のさらなる徹底
(3) 行政との連携による抗菌薬適正使用支援の推進
(4) 新規創薬を促進するための施策・連携・協力(日本版GAIN法制定など産官学連携施策が必要)
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■日本政府もようやくこれらの問題に対応する形で,2016年4月5日に我が国の行動計画(アクションプラン)が策定・公表され[18,19],「抗菌薬の使用量を3分の2に減らす」「耐性菌に効果のある新薬の開発」など具体的なプランを立て始めました.
日本政府が提示した2020年までの目標
(1) 2020年の人口千人当たりの1日抗菌薬使用量を2013年水準の3分の2に減少させる.
(2) 2020年の経口セファロスポリン系(≒セフェム系),フルオロキノロン系,マクロライド系の人口千人あたりの1日使用量を2013年水準から50%削減する.
(3) 2020年の人口千人当たりの1日静注抗菌薬使用を2013年水準から20%削減する.
(4) 2020年の肺炎球菌のペニシリン耐性率を15%以下に低下させる.
(5) 2020年の黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性率を20%以下に低下させる.
(6) 2020年の大腸菌のフルオロキノロン耐性率を25%以下に低下させる.
(7) 2020年の緑膿菌のカルバペネム(イミペネム)耐性率を10%以下に低下させる.
(8) 2020年の大腸菌および肺炎桿菌のカルバペネム耐性率0.2%以下を維持する.
■また,日本での耐性菌の調査・研究を行う新たな組織を国立感染症研究所と国立国際医療研究センターに2つ設置し,2017年度予算の概算要求に2組織の設置など耐性菌対策費5.7億円を盛り込んでいます.

■このアクションプランを受けて農林水産省は家畜における耐性菌対策について活動を行っています[20]

■2016年10月に内閣官房・厚生労働省はYahoo!でネットアンケート調査を行いました.
内閣官房・厚生労働省によるネットアンケート

アンケート1:体調が悪いときに薬を飲む方は多いと思いますが,抗菌薬(抗生物質)は,風邪やインフルエンザに効果がないということを知っていますか?[21]
投票数:135137票
知っている:57%
知らなかった:43%

アンケート2:抗菌薬(抗生物質)の不適切な使用は,薬の効かない細菌の出現,いわゆる薬剤耐性問題の原因と言われています.あなたは,「薬剤耐性」について知っていますか?[22]
投票数:11月1日12時現在で36000票,投票継続中


4.一般市民の方へ

■一般市民レベルでは,抗菌薬の不適切使用をなくし,感染症を防ぐことが必要です.
(1)風邪などのウイルス感染症に抗菌薬は効きません.
■抗菌薬が効かない風邪やインフルエンザなのに,よく外来で「抗菌薬がほしい」とおっしゃる患者さんは大勢おられます.中には,抗菌薬を使わなくても普通に治っただけなのに,病院で処方された抗生剤を飲んだタイミングでよくなったから「抗生剤がよく効いた,今後も飲もう」なんて勘違いされるケースもよくあります(これを言う医療従事者も中にはいるんですよね・・・).上の内閣官房・厚生労働省のアンケート調査における回答者のコメントを見てもこのような方が大勢おられることがうかがえます.

■もちろんこれは一般市民の方が悪いわけではありません.抗菌薬が不要な患者さんに漫然と抗菌薬を処方してきた医療側に大きな問題があり,これが医療・市民の両方で慣例化してしまっているという現状があります.実際には,医療現場で使用されている抗菌薬の半分は不必要あるいは不適切であるとされています[23]

■本記事は世界的な耐性菌対策として書いてはいますが,不必要な抗菌薬を処方しない理由としては耐性菌以外にも理由はあります(というより,抗菌薬を処方しない理由として耐性菌の話しかしないのでは患者さんも納得されないと思いますが・・・).急性呼吸器感染症1531019例の研究[24]では,肺炎による入院は抗菌薬投与群で18例/10万回受診,非投与群で22例/10万回受診であり,1人の入院を予防するために12255人に抗菌薬を投与する必要があるとの結果で,抗菌薬はほぼ効果がないに等しい数値であり,むしろアレルギーや下痢などの副作用(場合によってはアナフィラキシーショックや重症の腸管感染症を引き起こして腸切除に至るケースもあります)のリスクの方がはるかに高いです.要するに,風邪程度で抗菌薬を服用するのは害の方が益を上回る可能性が高く,当然ながらコストもかかります(ただし,A群溶血性連鎖球菌による咽頭扁桃炎や百日咳では抗菌薬は必要です).

■風邪と思っても抗菌薬が必要となるケースも中にはありますが,それを正確に判断することは困難です.しかし,最初はただちに抗菌薬を処方せず症状軽減の薬剤のみを処方して様子を見て,その後悪化したときだけ使用する,という方法が,抗菌薬を最初から処方する場合と比較して症状の期間にほぼ差はなく,抗菌薬使用量が減少した,と報告されています[25]
(2)抗菌薬は医師から処方されたときのみ服用しましょう.(たとえ家族であっても)他人に抗菌薬をあげない・もらわないようにしましょう.
■家に昔病院でもらった抗菌薬が残っていたり,友人・知人・家族から抗菌薬をもらったりすることがあるかもしれません.あるいは最近は抗菌薬をインターネットで海外から購入することもできます.しかし,医師の診察による感染症の診断なしに勝手に抗菌薬を内服するのは効果も安全性もまったく保障できないばかりか診断を遅らせてしまう要因になりかねません.必ず病院を受診して感染症の診断を受け,抗菌薬の必要性有無を判断してもらい,その上で処方をされたときだけ内服しましょう.
(3)処方された抗菌薬は途中でやめず,必ず処方内容通りきっちり内服しましょう.
抗菌薬は効果を考えて投与間隔や投与期間を設定して処方されます.勝手にやめてしまったり服用を忘れたりすると効果が不十分になったり,菌が抗菌薬に耐性を獲得してしまう可能性があります.
(4)手洗いは感染症の予防となり,抗菌薬の使用を減少させます.
■手洗いが感染症を予防することは既に数多くの報告がなされており,日常生活で最も簡単な予防手段です.当然ながら抗菌薬が必要となる感染症の予防にもつながりますし,耐性菌が体内に入ることも防いでくれます.

[1] Bush K. The coming of age of antibiotics: discovery and therapeutic value. Ann N Y Acad Sci 2010; 1213: 1-4
[2] Abraham EP, Chain E. An enzyme from bacteria able to destroy penicillin. 1940. Rev Infect Dis 1988; 10: 677-8
[3] Naimi TS, LeDell KH, Como-Sabetti K, et al. Comparison of community- and health care-associated methicillin-resistant Staphylococcus aureus infection. JAMA 2003; 290: 2976-84
[4] Moran GJ, Krishnadasan A, Gorwitz RJ, et al. Methicillin-resistant S. aureus infections among patients in the emergency department. N Engl J Med 2006; 355: 666-74
[5] Christina F, et al. Epidemic Profile of Shiga-Toxin–Producing Escherichia coli O104:H4 Outbreak in Germany. N Engl J Med 2011; 365:1771-80
[6] Ohnishi M, Saika T, et al. Ceftriaxone-resistant Neisseria gonorrhoeae, Japan. Emerg Infect Dis 2011; 17: 148-9
[7] Ohnishi M, Golparian D, et al. Is Neisseria gonorrhoeae initiating a future era of untreatable gonorrhea?: detailed characterization of the first strain with high-level resistance to ceftriaxone. Antimicrob Agents Chemother 2011; 55: 3538-45
[8] Livermore D. Can better prescribing turn the tide of resistance? Nat Rev Microbiol 2004; 2: 73-8
[9] French GL. What’s new and not so new on the antimicrobial horizon? Clin Microbiol Infect 2008; 14: S19-29
[10] Infectious Diseases Society of America. The 10 x ’20 Initiative: pursuing a global commitment to develop 10 new antibacterial drugs by 2020. Clin Infect Dis 2010; 50: 1081: 3
[11] https://english.eu2016.nl/documents/reports/2016/02/10/2016-report-on-antibiotic-rd-initiatives
[12] http://www.bbc.com/news/health-35363569
[13] http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kokusai/g7kobe/communique.html
[14] http://www.bbc.com/news/health-37420691
[15] http://www.worldbank.org/en/topic/health/publication/drug-resistant-infections-a-threat-to-our-economic-future
[16] 門田淳一,館田一博,二木芳人.新規抗菌薬の開発に向けた8学会提言「世界的協調の中で進められる耐性菌対策」—提言発表の背景と目的ー.日化療会誌 2016; 64: 131-2
[17] 創薬促進検討委員会・抗微生物薬適正使用推進委員会.世界的協調の中で進められる耐性菌対策.日化療会誌 2016; 64: 133-7
[18] http://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/yakuzi/pdf/yakuzai_gaiyou.pdf
[19] http://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/yakuzi/pdf/yakuzai_honbun.pdf
[20] http://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/yakuzi/koukinzai.html
[21] http://polls.dailynews.yahoo.co.jp/domestic/25663/result
[22] http://polls.dailynews.yahoo.co.jp/domestic/26082/result
[23] Hughes JM. Preserving the lifesaving power of antimicrobial agents. JAMA 2011; 305: 1027-8
[24] Meropol SB1, Localio AR, Metlay JP. Risks and benefits associated with antibiotic use for acute respiratory infections: a cohort study. Ann Fam Med 2013; 11: 165-72
[25] de la Poza Abad M, Dalmau GM, Bakedano MM, et al; for the Delayed Antibiotic Prescription (DAP) Group. Prescription Strategies in Acute Uncomplicated Respiratory Infections: A Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med 2016; 176: 21-9
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by DrMagicianEARL | 2016-11-01 12:15 | 抗菌薬 | Comments(0)
■ICTによる抗菌薬適正使用のラウンドにおいて,その患者の発熱が薬剤熱であるかどうかも鑑別する必要があります.感染症を治療しているけど発熱が持続,でも気が付けばその発熱は感染症ではなく薬剤が原因になっている,なんてことがあって,薬剤熱を疑わなければ漫然と抗菌薬を使用されてしまいます.今回紹介するのは薬剤熱の単施設後ろ向き研究です.考察もよくまとまっていておすすめです.

■薬剤熱のうち最も多い機序は過敏反応で,抗原抗体複合体,T細胞性免疫反応など様々な要因があり,薬剤投与から数日~3週間以内に生じやすいとされています.ときには投与開始から数年後に発症したり,複数の薬剤が組み合わさることで生じることもあり,診断が容易ではないこともしばしばあります.また,投薬中止から3-4日以内に解熱するのが一般的ですが,1週間ほどかかるケースもあります.抗菌薬としてはβラクタム系,ST合剤が特にこれにあてはまります.また,そのほかの抗菌薬による薬剤熱の機序としては,静注投与に特異的なもの(薬剤溶液のエンドトキシンなどの外因性発熱物質による汚染,化学性静脈炎,投与部位の炎症や無菌性膿瘍など)としてペンタゾシン,アンホテリシンBが,薬剤作用(Jarisch-Herxhemier反応)などが知られています.

■特徴としては,発熱のわりに元気で頻脈もそれほどなく(比較的徐脈),CRPも軽度上昇程度にとどまっていることが多いです.問診上は過去の薬剤使用歴はもちろんアトピー性皮膚炎の既往もヒントになります.皮疹(斑状丘状皮疹maculopapular)がでることもあります.検査所見では白血球数上昇(左方移動も多い),赤沈亢進,肝機能異常,軽度CRP上昇などが特徴です.
感染症コンサルテーション中に診断された薬剤熱の後ろ向き解析
Yaita K, Sakai Y, Masunaga K, et al. A Retrospective Analysis of Drug Fever Diagnosed during Infectious Disease Consultation. Intern Med 2016; 55(6): 605-8

【目 的】
日本での薬剤熱に関する現在の状況を明確にするために,我々の施設において感染症のコンサルテーションを受けた患者を後ろ向きに解析した.

【方 法】
2014年4月から2015年3月までに,久留米大学附属病院で感染症のコンサルテーションがあった388例の患者から薬剤熱の患者の記録を抽出した.我々は患者のカルテをレビューし,薬剤熱の特性をまとめた.

【結 果】
本研究は16例の患者の記録が登録された.既知の報告から臨床徴候(比較的徐脈,薬剤投与から発熱までの期間,薬剤中断と解熱までの期間),血液検査(多様な白血球数,CRP低値,トランスアミナーゼの軽度上昇)が適合した.薬剤確認例では,一般的でない原因と考えられた5例がグリコペプチド系(バンコマイシン3例,テイコプラニン2例),他の5例はβラクタム系であった.加えて,プロカルシトニンを計測された11例のうち10例においてプロカルシトニンレベルは陰性または低値であった(0.25≦ng/mL).

【結 論】
我々の知見は,βラクタム系と同様にグリコペプチドが薬剤熱の要因となる可能性を示した.さらに,プロカルシトニンは,他の詳細な所見との併用においてのみであるが,薬剤熱の診断の補助となる可能性がある.

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by DrMagicianEARL | 2016-03-15 12:27 | 抗菌薬 | Comments(0)
■米国内科学会(ACP)は“High Value Care initiative”というものを推進しています.これは,よくある臨床的問題に関して,検査や治療オプションの利益,害,費用を医師や患者が理解できるようにし,双方が健康を改善し,害を避け,無駄な診療を省く医療を目指すものです.米国GDPに占める医療費は現在17%ですが,このうち最大30%(7650億ドル)は不要なサービスに起因し,回避することがとされています.

■今回このHigh-Value Care initiativeとして,米国内科学会と米国CDCが共同で,成人の急性気道感染症(気管支炎,咽頭扁桃炎,感冒,副鼻腔炎)に対する抗菌薬の適正使用を促す文献がAnnals Internal Medicine誌にでましたので紹介します.と言っても感染症を少しでも勉強した人にとっては当たり前のことしか書いてませんが,この当たり前のことが全然守られていないのが実臨床です.先日のJAMA Internal Medicine誌に報告された「急性呼吸器感染症では抗菌薬はすぐに処方せず一旦待つのがいい」という結果になったDAP study(http://drmagician.exblog.jp/23990355/)もあわせると,いきなり最初から抗菌薬を使うケースはほとんどないはずです.おそらく,抗菌薬による有害事象は極めて軽視されています(有害事象が出ていてもそれが抗菌薬によるものと気づかれないこともしばしば).

■耐性菌や有害事象等の問題は病院のみでは解決できませんが,感染対策加算が始まって以降,抗菌薬適正使用が病院においては推進されているものの,プライマリの現場ではまったく進んでいないのが実態だと思いますし,特に年配の開業医さん相手に抗菌薬適正使用の直接介入を行うことは極めて難しいです(私はもうあきらめて,感染対策加算ブームに乗っかった世代に交代するのを待つしかないなと思ってます).ただし,間接的介入はまだできる余地があるのではないかと思います.もっとも抗菌薬処方は患者側が不要なのに「抗菌薬を欲しい」と求めてくることもあるからです.昨年から始まった世界抗菌薬啓発週間等も使って市民へ啓発していくこともひとつの手段だと思います.
成人における急性気道感染症における適切な抗菌薬使用:米国内科学会および疾病管理センター(CDC)からのHigh-Value Careのためのアドバイス
Harris AM, Hicks LA, Qaseem A; High Value Care Task Force of the American College of Physicians and for the Centers for Disease Control and Prevention. Appropriate Antibiotic Use for Acute Respiratory Tract Infection in Adults: Advice for High-Value Care From the American College of Physicians and the Centers for Disease Control and Prevention. Ann Intern Med. 2016 Jan 19 [Epub ahead of print]
PMID:26785402

Abstract
【背 景】
急性気道感染症(Acute respiratory tract infection;ARTI)は成人において抗菌薬処方理由として最も多い.ARTI患者に対しては抗菌薬はしばしば不適切に処方されている.本文献は,ARTIを呈した健常成人(慢性肺疾患や免疫不全状態を除く)において,抗菌薬処方の最良のプラクティスを提示するものである.

【方 法】
成人のARTIに対する適切な抗菌薬使用についてのエビデンスのナラティブな文献レビューを行った.専門的学会の最も最近の臨床ガイドラインを,メタ解析,システマティックレビュー,無作為化比較試験で補完した.エビデンスに基づいた文献を抽出するため,Medical Subject Headings(MeSH)用語である"acute bronchitis(急性気管支炎)","respiratory tract infection(気道感染症)","pharyngitis(咽頭炎)","rhinosinusitis(副鼻腔炎)","the common cold(感冒)"
を用いて,2015年9月までCochrane Library,PubMed,MEDLINE,EMBASEで検索した.

【High-Value Care アドバイス1】
臨床医は肺炎に進展していない気管支炎が疑われた患者において検査や抗菌薬治療の開始を行うべきではない.

【High-Value Careアドバイス2】
臨床医は,A群溶連菌咽頭炎が疑われる症状(例えば,遷延する発熱,前頸部リンパ節炎,咽頭扁桃の浸出液,あるいは他の症状の合併)の患者には迅速抗原感知テストと/またはA群溶連菌の培養の検査を行うべきである.臨床医は溶連菌咽頭炎と確認した場合においてのみ抗菌薬による治療を行うべきである.

【High-Value Careアドバイス3】
臨床医は,10日間以上の遷延する発熱,重篤な症状または高熱(>39℃)かつ3日連続で続く膿性鼻汁または顔面痛の発症,5日間の典型的ウイルス疾患の初期改善に続発する症状悪化(重複感染)を呈するまで急性副鼻腔炎に対する抗菌薬治療を温存すべきである.

【High-Value Careアドバイス4】
臨床医は感冒患者に対して抗菌薬を処方すべきではない.

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by DrMagicianEARL | 2016-01-24 17:38 | 抗菌薬 | Comments(0)
■感冒症状のみの患者に抗菌薬処方すべきでないという推奨がこれまでなされてきているものの,実臨床ではなかなか浸透していません.急性呼吸器感染症1531019例のコホート研究(Ann Fam Med 2013; 11: 165-72)では,肺炎入院は抗菌薬投与群で18例/100000回受診,非投与群で22例/100000回受診であり,1人の入院を予防するために12255人に抗菌薬を投与する必要があるとの結果であり,ようするに肺炎でない限り抗菌薬を一律に処方するのは無駄に等しいわけです.

■さらに言えば,「抗菌薬を投与せず待つ」という選択肢がとれない医師が多数いることも事実です.このあたりは実際にそういう経験をしなければなかなかそういう選択に踏み切れないようです.当院でも私のいる呼吸器内科をローテートした研修医は,ローテート前後で抗菌薬処方の考え方が大きく変わったと言っており,とりわけ「抗菌薬を投与せず様子を見る」というやり方が安全かつ有効に行うことができるのが一番の驚きだったとの感想をもらっています.

■私自身,感冒に抗菌薬は全く使用しないというわけではありません.あくまでも「いきなり最初から処方はしない」というスタンスであり,その後に増悪してきた場合は,基礎疾患,重症度,肺炎への進展有無などを考慮して再診時に抗菌薬処方有無を決定します.といってもほとんど処方したケースはありませんが・・・.今回紹介する文献は,このような急性非複雑性呼吸器感染症に対して,いつ抗菌薬を処方するのか(or処方しないか)について4群間で比較したものです.この研究結果を見る限り,「増悪したら処方検討」というスタンスが安全かつ抗菌薬処方を減じることができるということで一番無難な結果だと思われます.
急性非複雑性呼吸器感染症における処方戦略:無作為化比較試験(DAP study)
de la Poza Abad M, Dalmau GM, Bakedano MM, et al; for the Delayed Antibiotic Prescription (DAP) Group. Prescription Strategies in Acute Uncomplicated Respiratory Infections: A Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med 2015 Dec.21 [Epub ahead-of-print]

【背 景】
抗菌薬の遅延処方は症状コントロールにおける抗菌薬使用減少に寄与する.遅延処方の異なる戦略があるが,どれが最も効果的なのかは明らかではない.

【目 的】
急性非複雑性呼吸器感染症において,2つの遅延戦略の効果と安全性を検討する.

【方 法】
我々は,実際的オープンラベル無作為化比較試験において,スペインの23のプライマリケアセンターから急性非複雑性呼吸器感染症の成人405例を登録した.患者は,(1)患者主導の遅延処方戦略(=増悪したら抗菌薬内服を指示)(2)プライマリケアセンターからの処方を受けるために患者が必要時に処方を受ける遅延処方戦略(=増悪したら再診指示),(3)直ちに抗菌薬処方,(4)抗菌薬を処方しない,の4つの処方戦略に無作為に割り付けられた.遅延処方戦略は,症状が増悪した,あるいは受診から数日たっても改善がない場合のみに抗菌薬を内服するようにした.主要評価項目は症状の期間と症状の重症度とした.各症状は6ポイントLikertスケール(スコアが3~4点は中等度,5~6点は重症)を用いてスコアリングした.副次評価項目は抗菌薬使用,患者満足度,抗菌薬効果の患者信用度とした.

【結 果】
405例の患者が登録され,398例が解析に含まれた.136例(34.2%)は男性,平均年齢(標準偏差)は45歳(17)であった.症状平均重症度はLikertスケールで1.8から3.5点まで幅があり,有症状平均期間は初回受診から6日間であった.初診時の平均全身健康状態(標準偏差)は,0を最悪,100を最良の健康状態として,54(20)であった.全体を通して,314例(80.1%)が非喫煙者であり,372例(93.5%)が呼吸器合併症を有していなかった.初診時の愁訴は4群間で同等であった.重症症状を有した平均期間(標準偏差)は,直ちに処方する群で3.6(3.3)日間,処方しない群で4.7(3.6)日間であった.重症症状期間の中央値(四分位範囲)は増悪したら再診する群で3(1-4)日間,増悪したら抗菌薬内服を指示する群で3(2-6)日間であった.あらゆる症状の最も高い重症度の中央値(四分位範囲)は直ちに処方する群と増悪したら再診指示する群で5(3-5)日間,増悪したら内服指示する群で5(4-5)日間,処方しない群で5(4-6)日間であった.抗菌薬を処方しない戦略または各遅延戦略に割り付けられた患者は抗菌薬使用量が少なく,抗菌薬の効果をあまり信頼していなかった.患者満足度は各群で同等であった.

【結 論】
抗菌薬の遅延処方戦略は直ちに処方する戦略と比較して,症状の重症度や有症状期間はわずかに大きいが臨床的には同等であり,抗菌薬使用量も実質的に減少していた.

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by DrMagicianEARL | 2015-12-24 18:50 | 抗菌薬 | Comments(0)
■世界保健機関WHOにより2015年から11月16日~22日を世界抗菌薬啓発週間と定められました.
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1.薬剤耐性菌の脅威

■これまで多数の抗菌薬が開発されてきましたが,なかでも1970年代以降は強力な抗菌薬が多数登場し,一時は「これで感染症は撲滅できる」という楽観的な予測をしていた専門家もいたくらいでした.しかし,近年状況は大きく変わりました.米国でポピュラーな感染症診療の教科書であるInfection Diseasesは,Frederick Southwickの「われわれは抗菌薬の時代の終焉にいるのか?」という衝撃的な見出しから始まっています.抗菌薬の乱用により数多くの薬剤耐性菌(抗菌薬が効かない菌)が発生し,病院内に留まらず,その地域にまで拡大しており,その速度は医師の想像の範疇を大きく越えるものでした.感染症に対する武器である抗菌薬を手にしたにもかかわらず,我々は今抗菌薬を失い始めています.

■1925年にAlexander Flemingがアオカビからペニシリンを発見し,1940年にはペニシリンが実用化となりましたが[1],それから20年足らずでペニシリンが効かない黄色ブドウ球菌が急増しました.しかし,実際にはペニシリン耐性菌は本剤が臨床で使用されるようになる以前から存在していたことが報告されています[2].自然環境においてはペニシリンをはじめとする抗菌物質を菌が産生することにより自分のなわばりのようなものを作ることが知られていて,この抗菌物質に曝露される菌は多数存在しており,それらが生き延びるためには抗菌物質に対する耐性を持つ必要がありました.つまり,環境微生物に由来する抗菌性物質には古くから耐性菌が存在することは必然的なことであり,同時に抗菌薬に対する耐性獲得も時間の問題であったということです.

■これまでメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)のアウトブレイクにより認識が広がりだした多剤耐性菌は,現在,ほとんどの抗菌薬が効かないESBL,NDM-1,KPC,MBLといった驚異的な耐性度をもつタンパクを有する菌が発見されるまでになっています.このような多剤耐性菌は免疫が弱った患者が感染するものと考えられてきましたが,近年,一般市民に感染するMRSAが増加傾向にあり[3,4],2011年にドイツで食中毒により大流行した大腸菌O-104はESBL産生株という耐性菌であることも分かっており[5],2011年には京都でほとんどの抗菌薬が無効の淋菌が報告されています[6,7]

■このように菌の耐性化と新たな抗菌薬創薬のイタチゴッコが繰り広げられてきた中,抗菌薬開発はビジネスとしてリスクが高い割にはあまり収益が見込めない分野であり[8],採算性などの観点から最近は抗菌薬開発から撤退する企業が増加しています[9].米国でも2020年までに新たな10種類の抗菌薬を開発するプロジェクトが行われていますが,その背景には,1980年代以降,新規開発の抗菌薬の数が減少し続けているという厳しい現状があります[10]
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■2015年6月にドイツはシュロス・エルマウで開催されたG7首脳会議(サミット)において,抗菌薬の効かない薬剤耐性菌の拡大を防ぐため,先進7カ国(G7)が協調して新薬を開発し,家畜への抗菌薬の不適切な使用を減らすなどの対策強化を盛り込んだ共同声明が出されました.今や耐性菌対策は国家レベルの問題となっており,放置すれば2050年には癌よりも多い年間1千万人が耐性菌によって死亡するとの予測もあります.新規の抗菌薬開発を促進させること,抗菌薬を適切に使用すること,感染症を予防することで抗菌薬使用を減少させることが必要であり,今ある抗菌薬を未来に残す必要があります.

2.一般市民の方へ

■一般市民レベルでは,抗菌薬の不適切使用をなくし,感染症を防ぐことが必要です.
(1)風邪などのウイルス感染症に抗菌薬は効きません.
病院で「風邪をひいたので抗菌薬がほしい」と希望される患者さんは多いですが,基本的に風邪に抗菌薬は無効です.例外的に,百日咳,A群溶連菌による咽頭炎や扁桃炎,肺炎では抗菌薬が有効ですが,それ以外で使用することは無効であるばかりか副作用(アレルギー,下痢など)のリスクにさらされます.
(2)抗菌薬は医師から処方されたときのみ服用しましょう.(たとえ家族であっても)他人に抗菌薬をあげない・もらわないようにしましょう.
家に昔病院でもらった抗菌薬が残っていたり,友人・知人・家族から抗菌薬をもらったりすることがあるかもしれません.あるいは最近は抗菌薬をインターネットで海外から購入することもできます.しかし,医師の診察による感染症の診断なしに勝手に抗菌薬を内服するのは効果も安全性もまったく保障できないばかりか診断を遅らせてしまう要因になりかねません.必ず病院を受診して感染症の診断を受け,抗菌薬の必要性有無を判断してもらい,その上で処方をされたときだけ内服しましょう.
(3)処方された抗菌薬は途中でやめず,必ず処方内容通りきっちり内服しましょう.
抗菌薬は効果を考えて投与間隔や投与期間を設定して処方されます.勝手にやめてしまったり服用を忘れたりすると効果が不十分になったり,菌が抗菌薬に耐性を獲得してしまう可能性があります.
(4)手洗いは感染症の予防となり,抗菌薬の使用を減少させます.
手洗いが感染症を予防することは既に数多くの報告がなされており,日常生活で最も簡単な予防手段です.当然ながら抗菌薬が必要となる感染症の予防にもつながりますし,耐性菌が体内に入ることも防いでくれます.

■以下はyoutubeの動画になりますが,抗菌薬啓発週間に向けての啓発動画です.
SAVE antibiotics, SAVE children 〜抗菌薬啓発週間2015〜
https://www.youtube.com/watch?v=rS83Psfcsc4&feature=youtu.be
■また,11月17日にはNHKのクローズアップ現代で特集「抗生物質がなくなる!? ~医療を揺るがす“スーパー耐性菌”~」が放送されますので是非ご覧ください.
http://www.nhk.or.jp/gendai/yotei/index_yotei_3734.html

[1] Bush K. The coming of age of antibiotics: discovery and therapeutic value. Ann N Y Acad Sci 2010; 1213: 1-4
[2] Abraham EP, Chain E. An enzyme from bacteria able to destroy penicillin. 1940. Rev Infect Dis 1988; 10: 677-8
[3] Naimi TS, LeDell KH, Como-Sabetti K, et al. Comparison of community- and health care-associated methicillin-resistant Staphylococcus aureus infection. JAMA 2003; 290: 2976-84
[4] Moran GJ, Krishnadasan A, Gorwitz RJ, et al. Methicillin-resistant S. aureus infections among patients in the emergency department. N Engl J Med 2006; 355: 666-74
[5] Christina F, et al. Epidemic Profile of Shiga-Toxin–Producing Escherichia coli O104:H4 Outbreak in Germany. N Engl J Med 2011; 365:1771-80
[6] Ohnishi M, Saika T, et al. Ceftriaxone-resistant Neisseria gonorrhoeae, Japan. Emerg Infect Dis 2011; 17: 148-9
[7] Ohnishi M, Golparian D, et al. Is Neisseria gonorrhoeae initiating a future era of untreatable gonorrhea?: detailed characterization of the first strain with high-level resistance to ceftriaxone. Antimicrob Agents Chemother 2011; 55: 3538-45
[8] Livermore D. Can better prescribing turn the tide of resistance? Nat Rev Microbiol 2004; 2: 73-8
[9] French GL. What’s new and not so new on the antimicrobial horizon? Clin Microbiol Infect 2008; 14: S19-29
[10] Infectious Diseases Society of America. The 10 x ’20 Initiative: pursuing a global commitment to develop 10 new antibacterial drugs by 2020. Clin Infect Dis 2010; 50: 1081: 3
[11] Hughes JM. Preserving the lifesaving power of antimicrobial agents. JAMA 2011; 305: 1027-8
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by DrMagicianEARL | 2015-11-16 00:00 | 抗菌薬 | Comments(0)
■重症感染症においては感染巣コントロールがなされていない状況で抗菌薬のみで戦うのは無謀で,たとえ原因菌を網羅していても治療しきれません.しかしながら臨床状況では感染巣コントロールがなされないまま治療されるケースも見られ,なかなかよくならない状態でICTから感染巣コントロールを提言することもあります.感染巣コントロールが遅れるのはそれだけその医師に有効性が認識されていないこともあるのだと思います.

■以下に紹介するSPOT-IT trialは感染巣コントロールを要する腹腔内感染症において,適切に手術できていれば発熱や白血球数等を参考にする必要性は低く,抗菌薬治療期間は4日間の固定でよいとする結果でした.
腹腔内感染に対する短期抗菌薬治療の試験(SPOT-IT trial)
Sawyer RG, Claridge JA, Nathens AB, et al. Trial of short-course antimicrobial therapy for intraabdominal infection. N Engl J Med. 2015 May 21;372(21):1996-2005
PMID:25992746

Abstract
【背 景】
腹腔内感染の治療の成功には解剖学的感染巣コントロールと抗菌薬の併用が必要である.抗菌薬治療の適切な期間は明らかではない.

【方 法】
我々は複雑性腹腔内感染症の患者518例を,発熱,白血球増加,イレウスが消退してから2日間,最長10日間抗菌薬投与を受ける群(対照群)と,4±1日の一定期間の抗菌薬投与を受ける群(実験群)に無作為に割り付けた.主要評価項目は,治療群ごとの,指標とする感染巣コントロールのための処置後30日以内の手術部位感染症,腹腔内感染症の再発,死亡の複合アウトカムとした.副次評価項目は,治療期間,その後の感染症発生率とした.

【結 果】
手術部位感染症,腹腔内感染症の再発,または死亡は,実験群では257例中56例(21.8%)に発生したのに対し,対照群では260例中58例(22.3%)に発生した(絶対差-0.5%,95%CI -7.0 to 8.0,p=0.92).抗菌薬治療期間中央値は,実験群では4.0日(四分位範囲 4.0-5.0)であったのに対し,対照群では8.0日(四分位範囲5.0ー10.0)であった(絶対差-4.0 日,95%CI -4.7 to -3.3,p<0.001).主要評価項目の各項目の発生率および他の副次評価項目は,両群間で有意差は認められなかった.

【結 論】
適切な感染巣コントロールを受けた腹腔内感染症の患者において,一定期間の抗菌薬治療(約4日間)のアウトカムは,生理学的異常の消退後まで行うより長期の抗菌薬療法(約8日間)のアウトカムと同様であった.

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by DrMagicianEARL | 2015-05-25 15:22 | 抗菌薬 | Comments(0)
■日本の感染症領域で長きにわたり待望されていたメトロニダゾール(MNZ)の注射製剤が2014年7月4日に製造販売承認を取得,9月2日に薬価収載となった.商品名はアネメトロ®(製造販売:ファイザー株式会社).国内PhaseⅠ,PhaseⅢから効能・効果は以下の通り.
1.嫌気性菌感染症
<適応菌種>
本剤に感性のペプトストレプトコッカス属,バクテロイデス属,プレボテラ属,ポルフィロモナス属,フソバクテリウム属,クロストリジウム属,ユーバクテリウム属
<適応症>
敗血症,深在性皮膚感染症,外傷・熱傷および手術創等の二次感染,骨髄炎,肺炎,肺膿瘍,膿胸,骨盤内炎症性疾患,腹膜炎,腹腔内膿瘍,胆嚢炎,肝膿瘍,化膿性髄膜炎,脳膿瘍

2.感染性腸炎
<適応菌種>
本剤に感性のクロストリジウム・ディフィシル
<適応症>
感染性腸炎(偽膜性大腸炎を含む)

3.アメーバ赤痢
1.MNZの特徴とどのような場面で推奨するか?

■MNZは菌のDNA二重鎖を切断することで作用する殺菌性抗菌薬であり,偏性嫌気性菌に対して良好な抗菌活性を有するが[1],偏性嫌気性菌以外の菌にはほぼ無効と考えてよい(大腸菌には感受性あり).また,アクチノマイコシスとP. acnesには無効である.MNZはbioavailabilityが良好なため,静注と経口で血中濃度がそれほど変わらず,経口スイッチも行いやすい抗菌薬である.

■MNZ静注製剤の適正使用にあたっては,なぜ本剤が日本で待望されていたかについての背景を知っておかなければならない.例えば横隔膜より上の感染症である肺炎や膿胸においては,一般的な奏功率や嫌気性菌の種類から,基本的にはMNZがSBT/ABPC,CMZ,AZMIV,CLDM,TAZ/PIPCより優先されるものではないと推察され,出番がそう簡単に増えるわけではないと思われる.使用してもよいが,多くの嫌気性菌に感受性が保たれている新規抗菌薬を他の抗菌薬より優先して使用すべきかを慎重に検討する必要がある.アンチバイオグラムでの確認がベストであるが,肺炎での嫌気性菌の培養と感受性率の検査ができている施設は非常に少ないことから,現実的には嫌気性菌関与が疑われる誤嚥性肺炎や膿胸などにおける奏功率を施設ごとに算出して検討すべきである.使用場面としては,比較的耐性度の高い通性嫌気性菌(大腸菌,肺炎桿菌など)の検出既往がある誤嚥性肺炎における第3世代または第4世代セファロスポリン+MNZなどであろうか.

■日本においてMNZ静注製剤がとりわけ他剤より有用となる場面が多く想定されるのは腹腔内感染症である.外科感染症分離菌感受性調査研究会による本邦の細菌性腹膜炎検出菌調査においては約6割で偏性嫌気性菌を検出しており,そのうちの1/3はBacteroides fragilis groupである.B. fragilisでは,以前は嫌気性菌に対する治療薬として頻用されるCLDMが良好な活性を示していたが,近年では30-50%近くが耐性化しているため,腹腔内感染症では使用できなくなってきている.欧米では嫌気性菌に活性を有する第4世代ニューキノロン系抗菌薬のMFLXが注射製剤として利用されているが,それらのB. fragilis groupへの耐性化も顕著なものとなっている.CMZやFMOXなどの抗嫌気性菌活性を有するセフェム系薬の耐性化も問題となっている中,現時点で有効性を保っているのはカルバペネム系,TAZ/PIPCなどのβラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系,MNZのみとなっている[2]

■以上のような背景から,MNZを特に優先して使用するのは,嫌気性菌の中でもB. fragilis groupを意識して抗菌薬を投与するケースで推奨されるべきあり,呼吸器感染症や皮膚軟部組織感染症では嫌気性菌関与が疑われてもMNZを第一選択とする必要性は低いと推察される.

■2003年のIDSAガイドラインでは嫌気性菌による腹腔内感染症に対する治療薬として推奨されている[3].もちろんカルバペネム系やTAZ/PIPCも腹腔内感染症においては非常に有用な抗菌薬である.これについてはMatthaiouら[4]の腹腔内感染症に対するCPFX+MNZとβラクタム系抗菌薬を比較したRCT4報およびコホート研究1報の計1431例メタ解析を参照されたい.このメタ解析では,死亡率(OR=1.42, 95%CI 0.66-3.06)や毒性(OR=1.25, 95%CI 0.66-2.35)に有意差はなかったが,CPFX+MNZ群の方が発熱を有意に改善させたと報告している(OR=1.69, 95%CI 1.20-2.39).

2.MNZの有害事象

■MNZは胎盤を容易に通過しうる.催奇形性については明らかではないが,第一半期の妊婦には避けるべきである.

■ワーファリン投与患者でのPT INR延長が既に知られている.

■MNZはアルコールの代謝過程におけるアルデヒド脱水素酵素を阻害し,血中アセトアルデヒド濃度を上昇させるため,二日酔いのような症状をひきおこすジスルフィラム作用を有する.

■末梢神経障害も生じうる.多くの報告では15mg/kg/日以上を2週間以上にわたり投与した後に発症している[5].MNZの神経障害はMNZの中止のみで軽快しやすい[6].症状が強ければプレガバリン(リリカ®)を考慮してもよい[7]

■MNZは中枢神経移行性もよく,非ブドウ球菌性細菌性髄膜炎においては併用薬として推奨されているが,同時に中枢神経に対する有害事象であるメトロニダゾール脳症[8]も知っておく必要がある.MNZ長期使用,栄養状態不良,内科的慢性疾患などがリスクともされている.脳MRIではT2とFRAIRで高信号となる.症状は,発症機序で代謝経路に共通点を有することも示唆されている[9]Wernicke脳症に似ており,ときに鑑別が困難なこともある.可逆性の病態であり,本症を疑ったときはMNZを中止することで軽快する.

■MNZによって膵炎が生じることも報告されている[10].MNZによって膵炎が生じる機序は不明であるが,Nigwekarら[11]の報告では,同剤開始後12時間-38日で発症し,画像検査上で膵炎の所見を呈したのは7例中2例のみ,全症例とも中等度程度で自然軽快であった.急性膵炎においてMNZの推奨はなく,膵炎誘発の可能性もある以上は,急性膵炎患者での使用は避けるべきかもしれない.

■MNZよる発癌性の可能性が以前から指摘されているものの,明らかではない.発癌性は動物実験において,肺癌,リンパ腫,乳腺腫瘍および肝臓癌の発生頻度の上昇が報告されているが,動物種によって発癌頻度,発癌臓器に違いがみられる[12].とりわけ肺癌での報告がみられるが,有意な増加を認めるとする報告[13]もあれば,有意な増加は認めないという報告[14]もあり,非小細胞肺癌に対して放射線治療にMNZを併用すると有効性が増した(2年生存率は有意差なし)とする報告[15]もあり,結論はでていない.

[1] Koeth LM, Good CE, Appelbaum PC, et al. Surveillance of susceptibility patterns in 1297 European and US anaerobic and capnophilic isolates to co-amoxiclav and five other antimicrobial agents. J Antimicrob Chemother 2004; 53: 1039-44
[2] Snydman DR, Jacobus NV, McDermott LA, et al. National survey on the susceptibility of Bacteroides Fragilis Group: report and analysis of trends for 1997-2000. Clin Infect Dis 2002; 35(Suppl 1): S126-34
[3] Solomkin JS, Mazuski JE, Baron EJ, et al; Infectious Diseases Society of America. Guidelines for the selection of anti-infective agents for complicated intra-abdominal infections. Clin Infect Dis 2003; 37: 997-1005
[4] Matthaiou DK, Peppas G, Bliziotis IA, et al. Ciprofloxacin/metronidazole versus beta-lactam-based treatment of intra-abdominal infections: a meta-analysis of comparative trials. Int J Antimicrob Agents 2006; 28: 159-65
[5] Hobson-Webb LD, Roach ES, Donofrio PD. Metronidazole: newly recognized cause of autonomic neuropathy. J Child Neurol 2006; 21: 429-31
[6] Tan CH, Chen YF, Chen CC, et al. Painful neuropathy due to skin denervation after metronidazole-induced neurotoxicity. J Neurol Neurosurg Psychiatry 2011; 82: 462-5
[7] Dworkin RH, O'Connor AB, Backonja M, et al. Pharmacologic management of neuropathic pain: evidence-based recommendations. Pain 2007; 132: 237-51
[8] Huang YT, Chen LA, Cheng SJ. Metronidazole-induced Encephalopathy: Case Report and Review Literature. Acta Neurol Taiwan 2012; 21: 74-8
[9] Zuccoli G, Pipitone N, Santa Cruz D. Metronidazole-induced and Wernicke encephalopathy: two different entities sharing the same metabolic pathway? AJNR Am J Neuroradiol 2008; 29: E84
[10] Loulergue P, Mir O. Metronidazole-induced pancreatitis during HIV infection. AIDS 2008; 22: 545-6
[11] Nigwekar SU, Casey KJ. Metronidazole-induced pancreatitis. A case report and review of literature. JOP 2004; 5: 516-9
[12] Dobiás L, Cerná M, Rössner P, et al. Genotoxicity and carcinogenicity of metronidazole. Mutat Res 1994; 317: 177-94
[13] Beard CM, Noller KL, O'Fallon WM, et al. Cancer after exposure to metronidazole. Mayo Clin Proc 1988; 63: 147-53
[14] Friedman GD, Selby JV. Metronidazole and cancer. JAMA 1989; 261: 866
[15] Ren W, Li Z, Mi D, et al. A meta analysis of radiosensitivity on non-small cell lung cancer by metronidazole amino acidum natrium. Zhongguo Fei Ai Za Zhi 2012; 15: 340-7
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by DrMagicianEARL | 2014-09-02 00:00 | 抗菌薬 | Comments(0)
原則⑫:副作用を考慮する

■列挙するとキリがないが,代表的なものを挙げておく.
(1) 腎障害,肝障害:代謝排泄経路によって障害を起こしうる.
(2) アレルギー:特にペニシリンアレルギー
(3) 不整脈:ニューキノロン系,マクロライド系でTorsades de Pointsによる心室頻拍の報告あり.中年女性でQT延長傾向がリスクファクター.
(4) 血球減少:ST合剤(バクタ®)による骨髄抑制,LZD(ザイボックス®)による血小板減少
(5) 薬剤熱,薬剤性間質性肺炎:全薬剤で生じえる.
(6) 抗菌薬関連下痢症:Clostridium difficile感染症(CDI),Klebciella oxytocaによる下血,MRSA腸炎(存在するかはまだ議論されている)など
(7) PT-INR延長:常在細菌叢変化によるビタミンK吸収障害による
(8) 新薬による有害事象:メーカーによる情報以上に多い可能性あり.
・GRNX(ジェニナック®)はまだ安全性が確立されていない(もともとキノロンは非常に毒性が強い抗菌薬であるがために開発が困難とされている).
・DRPM(フィニバックス®)はMEPM(メロペン®)に比して有害事象多く,とりわけ12バイアル投与では多発との報告あり.(米国FDAが12バイアル投与を行わないよう勧告).
・LZD(ザイボックス®)は腎機能に依らず投与可とされているが,腎障害例で副作用発現の報告あり.

原則⑬:感受性試験の弱点を考慮する

■培養検査結果では検出菌とともに薬剤感受性結果が示される.各抗菌薬についてそれぞれS,I,Rのいずれかが記載される.Sは「感受性あり」,Iは「低感受性」,Rは「耐性」を表す.また,一緒に数値が示されていることがあるが,これはMICである.この感受性試験結果を見て,「この薬剤はSがついているから有効なのでこの抗菌薬を使おう」と安易な考えで使用すると痛い目にあう.

in vitroin vivoは異なる.抗菌薬の効果があるのかどうかを実験室で検証した結果と,実際に体内で効果があるかは別物である.bioavailability(生体内利用率)や臓器移行性等を考えなければならない.例えば,MRSA肺炎でVCMを経口投与しても腸管で吸収されないので全く意味がない.また,髄膜炎でMSSAが検出され,MSSAに有効なCEZを投与しても髄液には移行しないので無意味である.抗生剤の吸収,移行性を知らなければ無駄な抗菌薬を投与することになる.他に注意すべきはアミノグリコシド系であり,感受性ありと表示されたからといって単剤投与は行ってはならない(尿路感染症以外では治療失敗に終わることが多い).

■S,I,RでもMICの値次第では治療可能性が変わる.感受性試験結果は,抗菌薬濃度が提示されたMIC値に達しなければ効果がないことになる.たとえば「VCM S MIC2」となっていてもVCMの通常投与量ではMIC 2を達成することは不可能であり,抗菌薬を変更することを考える[33](ただし,計測系の誤差でMICが2となっていることもあり,臨床症状が改善しているならばあえてVCMから変更する必要性は乏しいかもしれない).ペニシリン耐性肺炎球菌はその名の通りペニシリン耐性であるが,PCG 4millionU×6/dayで十分MIC濃度達成が可能であり,ペニシリンで治療できる.同様に,AZM注射製剤でも,その高い移行性によりAZM耐性肺炎球菌に有効であることもある[34]

■MICの値に1管ぶんの誤差が出うることは肝に銘じておく必要がある.

■異なる抗菌薬のMICを比較して最もMICが低い抗菌薬を選択する,というやり方は完全な誤解である.MICの値で異なる薬同士の効果を比較することはできない.

■本当は耐性があるのに感受性ありと表示されてしまうケースがある.例えばESBL産生菌では第3世代セファロスポリン系に耐性があるにも関わらず感受性ありと結果が返ってくることがあり,注意が必要である.また,VCM MIC 2のMRSAは検査上は感受性ありだが臨床上は低感受性菌と考えるべきである.MRSAにおいてCLDMがSとなっていても,EMがRであればCLDMは無効であると考えなければならない[35]

原則⑭:併用療法を考慮する

■細菌性感染症の場合,通常は単剤投与で治療するのが原則である.併用による効果は,スペクトラムの拡大と相乗効果が期待できるが,多くの場合,相乗効果については不確定であり,推奨する根拠に乏しい(重症緑膿菌に対するβラクタム系+アミノグリコシド系,感染性心内膜炎に対するPCG+アミノグリコシド系の併用,肺炎球菌肺炎に対するβラクタム系+マクロライド系はシナジー効果があり有用とされる).そのため,安易に併用の選択は行うべきではない.併用によって耐性菌の出現が抑制するという目的もあるが,明らかなエビデンスはなく,議論中である(特にGNRに対しては全く証明されていない).また,医療費増大・副作用リスク増大というデメリットも理解しておく必要がある.しかし,骨髄炎や心内膜炎などの慢性感染症に対し,長期的な抗菌薬投与が必要な場合は,原因となる細菌によっては併用が薦められる場合もある.なお,注意すべきものを下記に挙げる.
(1) VCM+AGs,VCM+AMB
 重症感染症でこの併用を選択しうることがある.この併用方法では腎障害や聴力障害が急速に進行することがあり,米国では死亡例も出ている.併用するなら慎重投与が望まれる.
(2) LZD+RFP
 Cmaxの21%低下,AUCの32%低下が報告されており,LZDの効果が減弱する[36-38]
(3) VCM+LZD
 有用性はなく,むしろ作用拮抗による有効性低下の可能性も指摘されている[39]
(4) CLDM+マクロライド系
 細菌のribosome50Sへの親和性がEMの方が高いため,CLDMを併用してもCLDMの効果はない.
(5) Fidaxomicin+AZM
 併用により5日間中の心血管死がわずかだが報告されている[40]
(5) ITCZ+INH
 ITCZの血中濃度が低下する.
(6) アゾール系+RFP
 アゾール系血中濃度が減弱し,RFP血中濃度が上昇する.特にVRCZ+RFPは禁忌である.
(7) MFLX+RFP
 MFLXの血中濃度が減弱する[41]
(8) ガンシクロビル+IMP/CS
 痙攣発作リスク上昇の報告あり.
(9) CAM+LZD
 CAMの濃度上昇リスクあり,心血管系リスクを有する患者では注意が必要である.
(10) RFP+CAM,RFP+EM
 CAMやEMの血中濃度が減少する.
(11) コリスチン+AGs,コリスチン+AMB,コリスチン+VCM
 神経毒性のリスクが上昇する.

■triple cover(カルバペネム系+グリコペプチド系+アミノグリコシド系orフルオロキノロン系)はほとんどの病原菌をカバーしうるため有効と思われがちだが,逆に死亡率が上昇すると報告されている[24,25].カルバペネム系+バンコマイシンの併用もほとんどをカバーするが,ルーチンでの使用は逆に死亡率を悪化させると報告されている.広域であるが,推定に基づいたある程度狭域なスペクトラムで抗菌薬を使用することで耐性菌選択圧を減じることができる.

■抗菌薬併用療法は一概に決まってはいないが,敗血症性ショックや死亡率が25%を越える重症感染症においては2剤併用の抗菌薬療法で28日死亡率が有意に改善するが,2剤目追加は24時間以内に行わなければ有効性は失われると報告されている[42,43].一方,重症でない敗血症では単剤の方が予後がよいと報告されている[42]

原則⑮:適切なコンサルテーションを行う

■黄色ブドウ球菌感染症,カンジダ感染症,高度耐性菌,多剤耐性菌を検出した場合は感染症医もしくはICTへのコンサルトが望ましい.これらは全て重症かしやすく,かつ治療に難渋しやすいからであり,高度な専門性が要求されるからである.抗菌薬選択ひとつで患者の予後のみならず,その後の耐性菌出現等に大きく影響を与えることになる.

■カンジダ菌血症では眼科へのコンサルトも必須である.眼内炎をきたした場合は失明することもあるため,場合によっては訴訟問題にもなる.抗菌薬全身治療では奏功しないこともあり,AM-B眼内注入療法や手術を選択することもある.

■感染巣検索の上では放射線科への相談も積極的に行うべきである.

■人体に投与する薬物には,TDM(血中濃度モニタリング:therapeutic drug monitoring)が必要なものがあり,薬剤課に依頼する.TDMが必要な抗菌薬にはアミノグリコシド系,VCM,TEIC,FLCZがある.これらは治療濃度域が狭く複写王が比較的生じやすい抗菌薬である.そのため,有効性確保と副作用を避けること,さらには抗菌薬耐性菌の出現の抑制を目的としてTDMを実施し,投与量や投与間隔を適切に設定する必要がある.抗MRSA薬でTDMを必要としないのものはLZD,DAPである(ただし,必要との意見も出始めている).これについては,日本TDM学会/日本化学療法学会によるTDMガイドラインを参照されたい.

■TDMを実施した場合には特定薬剤治療管理費として保険点数処理され,いずれも初回管理費470点(月1回のみ算定,1-3ヶ月までは同点数であるが,4ヶ月以降は235点へ減点),加算(薬剤の投与を行った初回月のみ加算)280点.つまり初回投与し,TDMを施行したら7500円の保険診療が病院に支払われる.

原則⑯:腎機能を考慮する

■抗生剤投与により腎機能が悪化することがある以上,腎障害患者への投与量を変更する必要性が出てくる.薬物の排出半減期(T1/2)は,Cl(クリアランス)とVd(分布容積)で決まる.Clが向上すれば排出半減期は短縮し,Vdが増えれば排出半減期は延長する.重症患者におけるClすなわち排出半減期は疾患の経過や治療内容によって変化する.低血圧の標準的初期治療は輸液であるし,低血圧が持続すれば昇圧薬が投与される.このような状況では,心拍出量が正常上限を上回るのも珍しいことではない.一方で人工呼吸を実施していると胸腔内圧上昇から心拍出量が低下し,抗菌薬のClが低下するという報告がある.腎機能障害が高度でなければ重症患者の腎血流量は増えていることが多く,CrCl(クレアチニンクリアランス)が上昇し,水溶性抗菌薬の排泄能が亢進する.したがって,重症熱傷患者であってもCrClを指標にすれば水溶性抗菌薬の投与量を適切に調節することができる.

■正確なCrClは蓄尿を必要とするため,抗菌薬投与を開始する際はCr値から腎機能を推定するしかない.非肥満者での推定式としては最も有用なものはCockroft-Gaultの公式である.この公式において,用いる体重(BW)は理想体重(BT^2×22)である[44].ただし,mg/kg基準で用量を計算する場合は実際体重を用いる.肥満者(理想体重より20%以上重いorBMI>30)では,実際体重を用いて別の公式を用いる[45]

■しかし,これらの公式はCr変動の激しい急性腎障害では指標とはなりにくく,また過少評価してしまうリスクがある.腎機能の評価にもっとも有効な方法は,蓄尿によるCrClであるという強力なエビデンスがある.最近の研究では,2時間蓄尿CrClでもよいとされている.

■なお,腎不全患者への用量調節が不要な抗菌薬もある.具体的には,AZM,CTRX,CPM,CLDM,DOXY,LZD,CPFX CR,ITCZ Flu,MNZ,MINO,CPFX Tab,MFLX,RBT,KCZ,MCFG,VRCZ Tabがある.

[33] Rybak M, Lomaestro B, Rotschafer JC, et al. Therapeutic monitoring of vancomycin in adult patients: a consensus review of the American Society of Health-System Pharmacists, the Infectious Diseases Society of America, and the Society of Infectious Diseases Pharmacists. Am J Health-syst pharm 2009; 66: 82-98
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by drmagicianearl | 2014-06-23 00:00 | 抗菌薬 | Comments(0)
2012年3月19日作成
2014年6月17日改訂


原則⑧:PK/PD理論を考慮する

■PKはPharmacokinetics(薬物動態),すなわち,薬剤の吸収・分布・代謝・排泄などに関係するCmax,AUCなどのことを表す.PDはPharmacodynamics(薬力学),すなわち,体内に入った薬が細菌に対してどのような作用があるかなどに関係するMICなどのことを表す.この基本的考え方を知っておくだけでも抗菌薬の適切な投与方法を行うことができる.

■抗菌薬を投与すると,吸収されて血中濃度が上昇ピークに達し,そこから漸減されていく.濃度曲線で表すと,立ち上がりは比較的直線的であるが,最高濃度に達した後は下に凸の減少曲線パターンとなる(実際には指数関数曲線).

■MIC(minimal inhibitory concentration:最小発育濃度)より高い薬剤濃度であれば,菌の発育は阻止されるはずで,薬剤濃度がMICよりも高い時間(Time above MIC;TAM,T>MIC)が長ければ長いほど効果が得られる.このようなTAMに殺菌効果が平行するものを時間依存性抗菌薬という.このような薬剤は1日の投与総量が同じならば,小分けにして投与することでTAMを長くすることができる.一般的にはGPCがTAM≧40%,GNRではTAM≧60%であれば効果が期待できるとされている.時間依存性抗菌薬にはβラクタム系,CLDM,EM,CAM,VCM,LZDがある.
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■一方で,薬剤濃度がMICを下回っても菌の再増殖を抑える作用をpostantibiotic effect(PAE)と呼ぶ.このような薬剤は濃度のピーク値(Cmax)や濃度曲線の下の面積(area under curve:AUC)とMICとの関連で抗菌薬の作用が決まるので,濃度依存性抗菌薬といい,Cmax/MICやAUC/MICが治療効果に平行すると言われている.AUCは1回の投与総量で決まり,Cmaxは1日の投与総量が同じならば,分割回数を少なくすることで高くなる.濃度依存性の薬剤ではGPCではAUC/MIC≧30%,GNRではAUC/MIC≧100あるいはCmax/MIC≧8-10であれば最大の効果が得られるとされている.AUCを手で計算するのは大変なので,血中濃度用のソフトを使って推測することが多い.しかし,全部の薬でできるわけではないので,インタビューフォームの値などを参考にすることもある.濃度依存性抗菌薬のうち,Cmax/MICに依存する薬剤はキノロン系,アミノグリコシド系,DPT,MNZ,QPR/DPR.AUC/MICに依存する代表的な薬剤はAZM,キノロン系,テトラサイクリン系,VCM,LZD(VCM,LZDは時間・濃度両方)などがある.
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■抗菌薬がMICを超えると,菌の発育は阻止される.しかしながら,感染の原因となっている菌はモノクロナールではなく,その中には低感受性の変異株が混じっている可能性があり,MICを超える濃度で,他のsensitiveな株が死滅した後も生存し,antibiotics selective pressureの減少により耐性株として増殖する.一般に1010個の菌を完全に死滅させることができれば,その中に薬剤耐性をもつ変異株が含まれている可能性はほぼ0と考えられるので,1010個の菌を完全に死滅させることができる濃度をMPC(mutant prevention concentration)と呼ぶ.MICとMPCの間の部分をMSW(mutant selection window)と呼ぶ.抗菌薬濃度がこのMSW内で推移すると薬剤耐性株の増殖を許す可能性が高くなると予想されている.このMPCに関しては今後の研究課題であるが,抗菌薬の濃度がMPCを超えるように,あるいはMSWにある時間を短縮するような抗菌薬の投与設計が望ましいと考えられる.

■時間依存性の抗菌薬はPK/PD理論から,時間依存性抗菌薬の投与時間を延ばし,TAMを増やせば治療効果が増すのではないか,という仮説が生まれた.ここからさらに派生して,バッグに1日分の抗菌薬を詰めて,24時間持続点滴をする方がPK/PD的には理にかなっている,という発想も生まれた.抗菌薬の持続投与は,間欠的な投与に比べて少ない投与量で同等の血中濃度とTAMを獲得するため,理論上では持続点滴の方が間欠的投与に比べると有利である.

■ただし,抗菌薬のクリアランスには個人差があり,必ずしも個々の患者で期待されるような薬物動態を示すという保証はない.また,24時間容器に入れた抗菌薬の安全性も問題である.実際,PCGに関しては,特に高温環境下では失活しやすい特徴をもっており,通常よりも長時間点滴バッグの中に入れたままの抗菌薬が失活するおそれもある.

■臨床効果に関する研究では,近年βラクタム系抗菌薬を中心に多数の研究が報告されている[14].特に重症患者において有効性が示されており[15,16],臨床的奏功率,生存率を改善させている.なお,米国循環器科学会・米国心臓学会による最新のガイドラインでは感染性心内膜炎の治療にPCGの24時間持続点滴療法が推奨治療法として取り入れられている.

■なお,注射用抗菌薬をオーダーした際,点滴時間の指示を入れないことが多く,看護師判断で点滴を30分で終わらせてしまうことがあるが,これは抗菌効果を減弱させてしまう.少なくともどの抗菌薬も1時間以上は投与時間が必要である.また,投与回数が多いことに関してクレームを述べる患者や看護師もいるが,PK/PD理論を考慮すれば時間依存性抗菌薬は4回投与,ときには6回投与も必要なケースは多々ある.患者治療のためでもあり,重症患者では特に必要なため,理解をしてもらう必要がある.

■「今日の治療薬®」に掲載されている投与方法は半数近くが不適切な投与方法であり,奏功しなかったり,耐性菌を増やしてしまうだけである.PK/PD理論を正しく理解し,時間依存性・濃度依存性の概念に基づいた抗菌薬投与を行う必要がある.添付文書や「今日の治療薬」の用量設定は,治験のデザインがそのまま反映されていて,薬理学的に必ずしも正しくない(少なすぎるケースがほとんど).腎機能をみて投与量を減らすのは重要だが,かといって腎機能障害を恐れて用量や投与回数を必要以上に減らすと本来その抗生剤が有効な症例でも効果を示さなくなってしまう.例えば,ペニシリン系抗菌薬はGFR<10でない限りはほとんど用量調節が不要である.また,重症感染症や抗菌薬の移行が悪い部位(髄液,骨髄など)の感染症では高い薬物濃度が要求され,通常より多い投与量が必要となる.参考になるのは『Sunford Guide®』が便利である.

■PK/PD理論には問題点もあることが指摘されている[17].①血中濃度は蛋白に結合したものも含む全濃度を使用するのか遊離した薬剤濃度を使用するのか,②PKのパラメータは血中でのパラメータでよいのか,③PDパラメータとしてMICを用いているが,MBCやMPCとの関係はどうなのか,である.また,PK/PD理論に基づく投与法と有効性についての報告がされるようになっているが,副作用,耐性菌の出現との関連性についてはほとんどない.

■PK/PDに影響を与える因子を以下に挙げる.
(1) 分布容積Vd
 重症患者における感染症の病態は非常に複雑である.細菌や真菌が産生するエンドトキシンは様々な内因性メディエーターの産生を刺激する.メディエーターは血管内皮に作用し,血管が収縮または拡張する.すると,血流の分布異常,血管内皮障害,血管透過性亢進などの影響があらわれる.こうして毛細血管から水分が漏出する状態が生まれ,血管内水分が間質へと移動する.その結果,水溶性薬物の分布容積が増大し,血漿中の薬物濃度は低下する.人工呼吸,低アルブミン血症(毛細血管からの血漿漏出),体外循環(例;血漿交換,人工心肺),手術で留置されたドレーン,重症熱傷などでも分布容積が増加する.脂溶性薬物は脂肪組織に広がるので分泌容積が大きい.したがって,サードスペースが増えても脂溶性薬物の分布容積はさして増大しない.
 水溶性抗菌薬はβラクタム系,アミノグリコシド系,DPT,LZD,colistinなどがある.通常の薬物動態は,①分布容積が小さい,②主に腎クリアランス,③細胞透過性が低い,であり,重症患者では,①分布容積増大,②腎機能の変化によってクリアランスが変化する,が特徴である.
 脂溶性抗菌薬はキノロン系,マクロライド系などがある.通常の薬物動態は,①分布容積が大きい,②主に肝クリアランス,③細胞透過性が高い,であり,重症患者では,①分布容積はほとんど変化しない,②肝機能の変化によってクリアランスが変化する,が特徴である.

(2) 血清アルブミン値
 多くの抗菌薬では,分布容積およびクリアランスはタンパク結合率に影響される.低アルブミン血症では遊離抗菌薬濃度が上昇し,クリアランスは100%増,分布容積は90%増を示す.低アルブミン血症により薬物動態が変化する可能性のあるタンパク結合率の特に高い抗菌薬(>90%)にはCTRX,TEIC,GRNX,CLDM,DAP,ITCZ,キャンディン系抗菌薬がある[18].このように,低アルブミン血症患者では抗菌薬の効率が落ちることを知っておく必要がある.

原則⑨:抗菌薬奏功度を評価する

■たとえ有効な抗菌薬でも投与した翌日に状態が改善するわけではなく,悪化することもある.効果判定を行うのは抗菌薬投与開始後72時間後以降(3-4日後)に行う.その際の評価項目としては臓器に特異的項目を評価すべきである(膨大な量になるため,各感染症での臓器特異的項目は割愛する).CRP,胸部X線所見,発熱は24時間ほど遅れた病勢を表すことが多く,特異度も低いため,効果判定の第一選択とはならない.培養検体再検での評価もときに有用である.

■感染症のエキスパート中には「CRPや白血球数は参考にすべきではない」と主張されている先生も多い.ただ,CRPや白血球数が奏功度評価にまったく無駄であるわけではなく,抗菌薬奏功度の参考にはなりえる(ただしそれ以上の有用性は乏しい).問題は,CRPや白血球数の評価一辺倒になると抗菌薬奏功度の評価が雑になってしまうことである.これはとりわけ重症患者や骨髄炎などの長期治療を要する患者の治療においてよくみられる.状態が改善してきていても経過の中でCRPや白血球数が多少増加することはしばしば経験され,増加がみられたからと広域抗菌薬に切り替えたりする医師も多い.このようなときにバイタルサインや患者の症状を同時に評価する癖を身につけていればこのような数値変動に惑わされることはない.CRPや白血球数がアテにならない状況を見破る必要がある.

原則⑩:起炎菌が判明したら有効かつ狭域の抗菌薬に変更する(de-escalation)

■原因微生物が同定されたときには原因限定治療(definitive therapy)を行う.具体的には,検査結果に照らし合わせて,その患者にとって最も効果的で安全,しかもできるだけ安価で,狭域スペクトラムな抗菌薬で治療する.

■培養結果等を見てエンピリック治療での広域抗生剤から原因限定治療の狭域抗生剤に変更することをde-escalationもしくはtop and approach therapyといい,耐性菌を出さない有効かつ安全な治療法でもある[19,20]

■広域抗菌薬を使用し続けることの弊害は,原因菌以外の菌も死滅させることである.これにより耐性菌選択圧が増大し,使用している抗菌薬が無効な菌が増殖し,ある一定の数以上になったときに病原性を発揮するようになる.これを菌交代現象という.こうなると起炎菌が変化し二次感染が生じ,長期絶食時は特にハイリスクとなる(菌交代減少+免疫力低下).こうなると予後が悪化し,検査を行い,抗菌薬の変更を余儀なくされ,医療コスト増大,患者入院日数延長につながる.手を拱いているうちにどこからともなくMRSAやカンジダがやってきて(三次感染),悪循環となってしまう.これを防ぐためにも,de-escalation,probiotics投与,早期経腸栄養などが重要となる.

■de-escalationの目的として,常在細菌叢の撹乱による副作用減少,薬剤耐性菌選択・誘導による耐性菌発生防止,治療コスト減少が挙げられる[21].しかしながら,これらの個人的・集団的・社会的有用性のいずれにおいても,実は支持する明確なエビデンスはないのが現状である.de-escalation療法は,多数のガイドラインで推奨されており,院内感染制御チーム(ICT)や抗菌薬適正使用に慣れている医師はde-escalationのロジックをよく理解して行ってはいるが,実際のde-escalationの有用性・安全性の質の高いエビデンスはまだほとんどないことは注意しておかなければならない.また,薬剤耐性菌を減少させるとする長期的アウトカムに至っては評価した研究がいまだに存在しない[22]

■de-escalationによって死亡率が増加した報告はなく,有意差なしか改善した報告のみである.当然ながら,起因菌が不明,あるいは耐性菌を検出した場合などが背景にあると,de-escalationは困難であり,死亡率が上昇することも予想されることから,RCTでの評価が必要となるが,現時点でRCTはまだ報告がない[23](現在1研究が進行中).

■de-escalationは初期抗菌薬の影響によって有用性が消失してしまう可能性もある.de-escalationを行うならば初期抗菌薬はいくらでも広域カバーしてもよいと考える医師もいるが,決してそうではない.耐性菌をカバーすべく複数の抗菌薬を併用して超広域カバーを行うと,あとでde-escalationを行ったにもかかわらず死亡率が増加することが示されており[24,25],初期の広域カバーは副作用や常在細菌叢の破綻により予後を悪化させる可能性があり,この場合,de-escalationは安全の保障とはならないかもしれない.よって,耐性菌リスクが高くかつ重症例では超広域は必要となるかもしれないが,少なくともルーチンで「あとでde-escalationを行うんだから最初はいくらでも広域でよい」というやり方は避けた方がよいだろう.

■de-escalation療法は全ての症例で受け入れ可能というわけではなく,必ず安全に行えることが前提であり,患者の総合的評価なしに一辺倒に行ってはならない.以下の条件を満たす場合に,de-escalationを考慮すべきである.
① 経験的治療開始前に良質な微生物学的検体の採取が行われている.
② 臨床的に臓器障害,重症度などの改善がある.
③ 同定された起炎菌が,より狭域の抗菌薬に感受性である.
④ 他の感染巣が否定できる.
⑤ 持続する好中球減少症(<1,000/mm3)などの重篤な免疫不全がない.
⑥ 選択する狭域抗菌薬が感染巣に移行しえる.

原則⑪:標準的治療期間も考慮し,抗菌薬を終了する

■患者の免疫状態,罹患臓器や起因菌によって,抗菌薬の投与期間は教科書的にある程度決まっている.しかし,投与期間を検討した無作為化比較試験(RCT)は少なく,多くはexpart opinionである.そのような中で,抗菌薬の標準的な投与期間としてすぐに利用できてよくまとまっているのが「Sanford Guide®」である.ただし,投与期間を検討した研究が少ないので,根拠やエビデンスレベルがあまり高くないものも含まれる.

■様々な因子により感染症の治療効果は異なるため,標準的治療期間はあくまでも参考データに過ぎないかもしれない.それでもこの標準的治療期間を考慮する理由は,それより長期間治療が必要な場合,本当に現在投与している抗菌薬が効果があるのか,ドレナージなどは不十分ではないか,膿瘍を形成しているのではないか,などを考えるきっかけにもなるからである.逆に,標準的治療期間より短く治療が終わることも越したことはないが,再発のリスクに気をつける必要がある.病勢把握をしながら終了することが原則であり,標準的治療期間を考慮する.また,標準的治療期間より短くなるケースもある.

■また,たとえ改善していなくても中止し,再評価することが重要であり,ときには抗菌薬なしで経過をみることもある.抗菌薬の投与失敗の原因を推測できることも重要である.
1.予想菌と抗菌薬選択の誤り
2.耐性菌
3.抗菌薬の移行不良
4.ドレナージ不良の感染巣
5.他部位での感染巣形成
6.抗菌薬の少ない投与回数,少ない投与量
7.疾患の回復パターンを知らないための不必要な抗菌薬投与
8.一般菌以外の起炎微生物
9.感染症以外の疾患

■近年,重症感染症(特に敗血症)においてプロカルシトニンを用いて抗菌薬投与期間を短縮したとする報告が増加しており,メタ解析も多い.これらの結果を見るに,プロカルシトニンガイドによる抗菌薬治療は,死亡率に影響を与えずに抗菌薬投与期間を2-3日間短縮する効果がある,ということが概観として分かる.ただしそのプロトコルは研究によって大きく異なるため,どのように診療に組み込むかについては各文献[26-30]をチェックしておく必要がある.また,これらの研究はプロカルシトニンを毎日測定しており,日常診療では通常行われない手法であることに注意が必要である.これについては測定機会を絞り込むなど何らかの工夫が必要であろう.
※プロカルシトニンガイド下抗菌薬治療についてはこちらhttp://drmagician.exblog.jp/20784711

■プロカルシトニンは重症敗血症・敗血症性ショックにおける抗菌薬奏功度の評価には比較的優れたマーカーである.Surviving Sepsis Campaign Guideline 2012[31]では,「敗血症と診断したが,その後感染の根拠が認められない患者においては,プロカルシトニンや同様のバイオマーカーが低値であることを経験的治療の中止するために使用してもよい(Grade 2C)」という推奨となっている.ただし,同時に限界と潜在的有害性の懸念が残るとしている.さらに,この抗菌薬中止戦略が耐性菌リスクやClostridium difficileによる抗菌薬関連下痢症のリスクを減じるとしたエビデンスはない.日本版敗血症診療ガイドラインに[32]おいても「抗菌薬中止にはプロカルシトニンを考慮してもよい(2A).」という推奨となっている.

抗菌薬投与の基本的考え方(1)はこちら
抗菌薬投与の基本的考え方(3)はこちら(作成中)

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by DrMagicianEARL | 2014-06-17 11:49 | 抗菌薬 | Comments(1)

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