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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

カテゴリ:敗血症( 137 )

■免疫グロブリン製剤(IVIG)は壊死性軟部組織感染症の原因となりやすい連鎖球菌や黄色ブドウ球菌の毒性の中和作用があることが知られていますが,壊死性軟部組織感染症に対するIVIGを検討したRCTは1報のみで,それも患者登録がなかなか進まずわずか21例で中止となっています.

■今回紹介する論文は,もう少し症例数を増やして検討しようということで行われた研究(INSTINCT trial)です.主要評価項目は,リハビリテーションなどでよく評価される長期機能の指標となるSF36-PFスコアリングシステム(SF36は健康関連QOL評価ツールであり,SF36-PFは運動関連のADLに相当)を用いています.これは,IVIGによる菌毒性や炎症の中和作用が身体機能を改善するのではないかという執筆者らの仮説からくるものです.

■目のつけどころは興味深く,近年トピックスとなっているPICSにも関連する研究ですが,結果はネガティブでした.もっともPICSを評価する上で重要な他の介入(リハビリテーション等)が具体的にどのようになされていたのかは不明ですが,少なくともIVIGがPICSに大きなインパクトを与えるような効果はこの研究では見られません.

■副次評価項目では死亡率を評価しています.有意差はないものの28日死亡率,90日死亡率,180日死亡率と日数が伸びるにつれてIVIG群の方が死亡率が低く,180日時点では6%の差がついてはいます.サンプル数不足とも言えるかもしれませんが,Kaplan-Miere曲線を見ると途中で交差しておりますので,臨床的に有意な差とは言い難いと思います.
壊死性軟部組織感染症患者における免疫グロブリンG(INSTINCT):二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験
Madsen MB, Hjortrup PB, Hansen MB, et al. Immunoglobulin G for patients with necrotising soft tissue infection (INSTINCT): a randomised, blinded, placebo-controlled trial. Intensive Care Med 2017 Apr 18[Epub ahead of print]
PMID: 28421246

Abstract
【目 的】
本INSTINCT試験の目的は,壊死性軟部組織感染症(NSTI)のICU患者における自己報告の身体機能において,プラセボと比較した多特異性免疫グロブリンG注射製剤(IVIG)の効果を評価することである.

【方 法】
我々は,NSTI患者100例を,ICU入室から最初の3日間にIVIG(Privigen, CSL Behring) 25gまたは同用量の0.9%生理食塩水を1日1回静注する群に無作為化した.主要評価項目は無作為化から6ヶ月後の36項目のの健康サーベイ(SF-36)の身体的サマリースコア(PCS)とし,死亡した患者は最も低いスコア(0点)とした.

【結 果】
無作為化された100例の患者のうち,87例がPCSスコアのITT解析に登録され,IVIG群が42例(84%),プラセボ群が45例(90%)であった.2つの介入群は,無作為化前のIVIG使用(1回投与は許容)を除いた背景因子や急性腎傷害の率は同等であった.PCSスコアの中央値は,IVIG群で36点(四分位範囲 0-43),プラセボ群で31点(0-47)であった(平均調整差 1点(95%CI -7 to 10), p=0.81).
※本文より,平均値は29点vs28点
本結果は背景因子で調整した解析,per-protocol集団,サブグループ解析(NSTIの部位),無作為化前のIVIG使用で調整したpost-hoc解析でも維持されていた.

【結 論】
NSTIのICU患者では,6ヶ月時点での自己報告での身体機能においてアジュバントIVIGの効果は見られなかった.

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by DrMagicianEARL | 2017-04-21 16:51 | 敗血症 | Comments(0)
CQ8.敗血症性ショックに対するステロイド療法
CQ8-1:初期輸液と循環作動薬に反応しない成人の敗血症性ショック患者に低用量ステロイド(ハイドロコルチゾン;HC)を投与するか?

A.敗血症性ショック患者が初期輸液と循環作動薬によりショックから回復した場合は,ステロイドを投与するべきでない.初期輸液と循環作動薬に反応しない成人の敗血症性ショック患者に対して,ショックの離脱を目的として低用量ステロイド(HC)を投与することを弱く推奨する(2B)
 敗血症におけるステロイドはいまだに議論のさなかにあり,エビデンスも二転三転しているが,特定の集団には有効に作用するであろうというのが近年の流れである.加えて血糖変動が敗血症の予後に想像以上に関連しているのではないかということも分かってきており,ステロイドの益と害のバランスを見極める必要がある.ただし,少なくともショックに陥っていない段階での敗血症へのステロイド投与はショックへの進展率や死亡率を改善させず,高血糖を有意に増加させ,二次感染,ICUAWも増加傾向であったとするHYPRESS trialが2016年に報告されている(JAMA 2016;316:1775-85)ことも考慮すると,ショックでない限りはステロイドの投与は行うべきではないだろう.

 ステロイドは抗炎症作用を有するが,あくまでもグルココルチコイド受容体を発現させる細胞にのみ作用が限定されるにもかかわらず敗血症が進行すると受容体は減少し,細胞選択性もなく,悪影響の懸念がある.さらには血糖値が上昇し,高血糖による害や外因性インスリン投与による害の懸念もある.その一方で,敗血症においては副腎機能低下が進行し,ショック形成に関与していることを留意する必要があり,ステロイドカバーの役割を担う可能性は残されており,これは本ガイドラインでも言及されている.

 ただし,真に副腎機能低下を有するのかの判断は極めて難しい.血中のコルチゾルを測定する方法も考えられるが,血中コルチゾルの9割は蛋白結合型の不活性型であり,活性を有するフリーコルチゾルは1割である.ところが,敗血症ではフリーコルチゾルの割合が50%程度にまで増加する.その一方で,アルブミン低下が著明となると,フリーコルチゾルが正常または増加しているにもかかわらず,総コルチゾルは低く測定されることになる.以上からコルチゾル値を計測しても副腎機能低下の判断は困難である.1つの方法として高度炎症状態では上昇するはずの血糖値がむしろ低い場合に副腎機能不全を疑うことはできるが,菌血症や糖尿病治療薬によって生じている可能性もあるため,確実な判定とはならない.
※ただし,低血糖を合併した敗血症は予後が非常に悪いことから,私は低血糖を見た時点でステロイド投与を行っている.

 本ガイドラインで行われたメタ解析では,28日死亡の有意な改善はみられていないが,効果推定値は1000 人あたり17人が死亡減少(95%CI 82人の減少~56 人の増加)という結果であり,加えてショック離脱率は有意に改善していた(137人が改善(81~198 人の改善)).一方,害のアウトカムは3つが設定されており,どれも重要度は5になっているため重みづけはできない.感染症発生リスクは1000 人あたり 23人の増加(31人の減少~93 人の増加),消化管出血発生リスクは21 人の増加(9人の減少~68人の増加),高血糖発生率は103人の増加であった(62~172 人の増加).これらを見るに,少なくとも感染症発生リスクと消化管出血発生リスクは死亡減少リスクの効果推定値とそこまで変わらない.高血糖発生もショック離脱よりも少ない数である.これらを総合的に見れば,益が害をおそらく上回るという判定は妥当と推察される.

 ただし,各研究ごとにデザインや患者層の違いがある.敗血症性ショックに対する低用量ステロイド療法は有効とする報告と無効とする報告の両方が複数報告されている.2004年のメタ解析(BMJ 2004; 329: 480-84)では,ステロイドによって28日死亡率,ICU死亡率,入院死亡率が有意に減少し,消化管出血,高血糖,続発性感染などの合併症の増加を認めず,ステロイド使用によりショックの離脱率が高く,昇圧薬の使用期間が短くなることが報告され,これを根拠としてSSCG 2004では低用量ステロイド長期間投与が推奨された経緯がある.

 一方で,2008年に報告された二重盲検多施設共同RCTであるCORTICUS study(N Engl J Med 2008; 358: 111-24)は症例数が500例と大規模であり,28日死亡率はステロイド投与によって変わらないことが示された.また,ステロイド群では続発性感染,高血糖,高Na血症が有意に高いことが示された.post hoc解析では,12時間以内に薬剤投与された場合でもステロイドの有無で死亡率が変わらないことが示された.この報告を受けて,SSCG 2008では少量ステロイド療法の推奨度がやや後退することとなる.しかしながら,CORTICUS studyには,ベースの患者の重症度が低い,ステロイド投与開始までの時間が長い(=すでに敗血症が軽快している可能性),有意差を出すためにサンプルサイズを800人に設定していたが,期間内に症例を集めることができず500人で終了している,などの問題点が挙げられている.

 そして,2004年のメタ解析が2009年にup-dateされ,少量ステロイド長期投与による死亡率の改善効果がみられ(Clin Microbiol Infect 2009; 12: 308-18),さらに低用量ステロイドは死亡率が高いと予測される患者(重症患者)では有効となり,死亡率が低いと予測される患者(軽症患者)では害となりうることを報告している.これらから,患者の重症度に応じてステロイドを使い分ける必要がある可能性が示唆され,比較的軽症の敗血症性ショックで使用すると害が益を上回る可能性があることを考慮すべきである.

 本ガイドライン推奨はSSCG 2012でもほぼ同様の内容となっている.なお,敗血症におけるステロイドは現在ANZICSが3800例の大規模RCTであるADRENAL studyを行っており,この結果で一定の決着がつくものと思われる.
CQ8-2.ステロイドの投与時期は早期投与か晩期投与か?

A.成人の敗血症性ショック患者に対してステロイドを投与する場合,ショック発生6時間以内に投与開始することを推奨する(EC/エビデンスなし)
 ステロイドの早期投与と晩期投与を比較したRCTは存在しない.本ガイドラインでは根拠として①ショック発症後8 時間以内にステロイドを投与したフランスの RCT(JAMA 2002; 288: 862-71)ではショック離脱率や死亡率が改善しているが,ショック発症72時間以内に投与したCORTICUS Study(N Engl J Med 2008; 358: 111-24)では改善していない,②2つの観察研究(いずれも170例程度)がステロイドの早期投与の方が死亡率が低いと報告している,を挙げている.

 ①についてであるが,フランスのAnanneらのRCTはCORTICUS studyよりも重症度が高く,ベースの死亡リスクも高いことから,投与開始時間の違い以外に,Annaneらの方がベースの重症度が高かったからステロイド投与群の死亡リスクが改善した可能性がある.
※ガイドラインの解説文がやや紛らわしくなっているが,Annaneらのステロイド投与群の方がCORTICUSのステロイド投与群よりも死亡率が低いという意味ではないと思われる.

 次に②であるが,このガイドラインで挙げられた2つの170例程度の観察研究以外にCasserlyら(Intensive Care Med 2012; 38: 1946-54)の報告があるが,この報告はSurviving Sepsis Campaignデータベースを用いた17847例(敗血症性ショック)の大規模解析である.本解析結果では,ステロイド投与による死亡のオッズ比は,全体で1.18,8時間以内の投与開始で1.23,8-24時間で1.05(N.S.),24時間以降で1.36であり,投与開始時間が8-24時間の場合を除けば有意に死亡リスクが増加している.

 これらを見るに,ステロイド投与を6時間以内に投与することを推奨する,というエキスパートコンセンサスにはやや疑問を感じる部分はある.やはりどの程度の重症度あるいはカテコラミン反応性での判断によることが臨床現場では多いのではないだろうか?その上で後手に回らない早期治療を行っていけば結果的に6時間以内にステロイドが開始されている可能性はあると思われる.また,ステロイドの研究はSSCGが広く普及する以前のものも多いことを考慮しなければならない.

 なお,SSCG 2012,SSCG 2016ともに早期投与・晩期投与については推奨をだしていない.
Q8-3.ステロイドの至適投与量,投与期間は?

A.敗血症性ショック患者に対してステロイドを投与する場合,HC 300 mg/day 相当量以下の量で,ショック離脱を目安に(最長7日間程度)投与することを推奨する(EC / エビデンスなし)
 敗血症性ショックに対する高用量ステロイド投与は死亡リスクが増加するとして既に否定されていることから,行うのであれば低用量ステロイド投与である.投与量で比較したRCTは存在しないが,システマティックレビュー(JAMA 2009; 301: 2362-75)では,5日間以上/未満,ハイドロコルチゾン300mg以上/未満で比較して,低用量長期投与のみがショック離脱率や28日死亡率を改善していたとしている.各研究ごとにステロイドの投与レジメンが異なるものの,これらの結果から投与量・投与期間が最長7日間程度,300mg/day以下と設定している.ただし,ステロイドの副作用を考慮すると,循環動態が改善した場合は早めに投与量を漸減させた方がbetterと思われる.また,小規模研究ではあるが,反復ボーラス投与が持続投与よりも高血糖をきたしやすいことも報告されている(Intensive Care Med 2007; 33: 730-3)ことから,持続投与の方がbetterかもしれない.

 なお,SSCG 2012,SSCG 2016ではハイドロコルチゾン投与量は200mg/dayとしている.
CQ8-4.ハイドロコルチゾンを投与するか?

A.敗血症性ショック患者に対してステロイドを投与する場合,ハイドロコルチゾン(HC)または代替としてメチルプレドニゾロン(MPSL)を投与することを推奨する(EC/ エビデンスなし)
 どのステロイドがよいかについて検討したRCTはないが,過去の研究からこの2種類のステロイドが用いられることが慣習化している.ハイドロコルチゾンとメチルプレドニゾロンを比較した後ろ向き観察研究(Adv Ther 2009; 26: 728-35)では臨床アウトカムに差はない.

 これら以外のステロイドでは,フルドロコルチゾンやデキサメサゾンについて言及しているが,いずれもデメリットが大きいと考えられているステロイドのため推奨されていない.

←日本版敗血症診療ガイドライン2016(5) 初期蘇生・循環作動薬
日本版敗血症診療ガイドライン2016(7) 輸血,人工呼吸管理(近日UP予定)→

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by DrMagicianEARL | 2017-04-03 19:16 | 敗血症 | Comments(0)
■敗血症においては,血液分布が変わったり代謝や血行力学的変動により抗菌薬の効力が低下する懸念が以前から指摘されてきました.特に敗血症早期においては,腎血流量増加,腎糸球体ろ過率(GFR)増加,腎クレアチニンクリアランス増加を伴う代謝亢進状態にあり,抗菌薬も例外ではありません.よって,通常の抗菌薬投与レジメンでは有効血中濃度を維持できず,敗血症患者においては不利になるのではないかと考えられています.これもあって私も初期投与量は腎機能に関わらず最大投与量としてできる限り早く定常状態に達するような抗菌薬投与プランを用いてきました.この過大腎クリアランス(Augmented Renal Clearance;ARC)の状態が臨床アウトカムに関連するかについて検討した報告がIJAAにpublishされました.

■本研究はANZICSが行った重症敗血症での抗菌薬持続投与と間欠投与を比較したRCTであるBLING-II trialの二次解析です.結果は,ARCは予後をに影響を与えないというものでした.最もARCを有する患者は若年で臓器障害が少ないという特徴があるため,背景因子として予後は比較的良好な患者集団とも言えます.RCTでの再評価が待たれます.

■ただ,個人的考えですが,このようなPK/PDの理論は,敗血症の予後に影響を与えるほどのインパクトはないのではないかと諸研究を見て最近感じています.敗血症の本体は炎症であり臓器障害であり,いわゆる宿主側の問題であって,感染症治療については抗菌薬が原因菌に当たってさえいれば非敗血症での投与方法・投与期間でも変わらないのではないかとつくづく思います.敗血症患者でのプロカルシトニンガイド下での抗菌薬投与で投与日数がこれまでの経験的日数よりかなり少なくてすんでいる知見がでてきたのもそういうことではないかと.
持続的または間欠的静脈内投与によるβラクタム系抗菌薬治療を受けた患者における過大腎クリアランス(ARC)と臨床アウトカムの関連性:BLING-II無作為化プラセボ対照比較試験のコホート内研究
Udy AA, Dulhunty JM, Roberts JA, et al; BLING-II Investigators; ANZICS Clinical Trials Group. Association between augmented renal clearance and clinical outcomes in patients receiving β-lactam antibiotic therapy by continuous or intermittent infusion: a nested cohort study of the BLING-II randomised, placebo-controlled, clinical trial. Int J Antimicrob Agents. 2017 Mar 9 [Epub ahead of print]
PMID: 28286115

Abstract
【背 景】
過大腎クリアランス(ARC)はβラクタム系抗菌薬の薬物動態に影響するものとして知られている.

【目 的】
BLING-II試験の本サブ研究の目的は,大規模無作為化比較試験におけるARCと患者アウトカムの関連性について検討することである.

【方 法】
BLING-II試験は,βラクタム系抗菌薬による治療を持続的投与か間欠的投与かで無作為化された重症敗血症患者432例を登録した.CLCr≧130 mL/minで定義されるARCを抽出するため,第1病日に8時間でのクレアチニンクリアランス(CLCr)を用いた.腎代替療法を受けた患者は除外された.主要評価項目は28日時点でのICU非在室生存日数とした.副次評価項目は90日死亡率と抗菌薬中止から14日時点での臨床的治癒とした.

【結 果】
計254例の患者が登録され,45例(17.7%)がARCとされた[CLCr中央値(四分位範囲) 165 (144-198) mL/min].ARC患者は,若年であり(p<0.001),男性に多く(p=0.04),臓器障害が少なかった(p<0.001).28日時点でのICU非在室生存日数に有意差はみられなかったが[ARCあり 21 (12-24)日; ARCなし 21(11-25)日; p=0.89],未調整解析ではARCを有する方が有意に臨床的治癒率が高かった[33/45 (73.3%) vs 115/209 (55.0%), p=0.02].多変量解析においては本結果は減衰していた.90日死亡率に差は見られなかった.

【結 論】
ARC患者の臨床アウトカムに統計的に有意な差はなかった.重症敗血症におけるβラクタム系抗菌薬の大規模臨床試験の本サブ研究において,ARCは投薬戦略にかかわらずいかなるアウトカムの差異にも関連していなかった.

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by DrMagicianEARL | 2017-03-27 17:43 | 敗血症 | Comments(0)
■近年,ICU患者の鎮静の研究がさかんで,近年の知見では①ベンゾジアゼピンは避けた方がいい,②鎮静による抗炎症作用が期待できる,③デクスメデトミジンはせん妄を減少させる可能性がある,などが主に分かっています.

■昨日,人工呼吸器を要する敗血症患者へのデクスメデトミジンを検討した本邦8施設共同RCTであるDESIRE trialがJAMA誌にonline firstでpublishされたので御紹介します.サンプル数201例であり,検出力不足のためか死亡率や人工呼吸器非装着期間に有意差はなし,良好な鎮静管理はデクスメデトミジンの方が有意に多く,サブ解析ではAPACHEⅡスコア23以上の重症例に限定するとデクスメデトミジンが有意に死亡率を改善するという結果でした.

■この結果,いろんなことが言えるとは思います.まず第一に死亡率の絶対差が8%もあることです.サンプル数不足のため統計学的有意差はありませんが,臨床的には無視できない大きな差です.問題はこの8%が偶然の産物なのかですが,過去の報告を見ると,ICU患者を対象とした16報RCTのメタ解析であるCrit Care Med 2014; 42: 1442-54においては死亡リスクをアウトカムとしてデクスメデトミジンはOR 0.90,95%CI 0.76-1.06で改善傾向を示しており,本研究結果の効果推定値を考慮しても非一貫性はほぼないものと考えられ,偶然ではないであろうと推測できます(ただこのメタ解析は患者集団や介入の統一性が乏しく,もう少し絞り込んだシステマティックレビューが必要だろうとは思います).

■サブ解析ではAPACHEⅡスコア23以上でデクスメデトミジン群が有意に死亡率を改善しています.これは昨今の集中治療領域での研究でよく見られる「重症例ほど死亡率改善効果が得られやすい」と矛盾しないものです.ただし,確かにAPACHEⅡ≧23と<23とで効果推定値のベクトルは真逆ですが,95%信頼区間は半分ほど重なっています(なのでおそらく交互解析をしても有意差はでません).サブ解析はあくまでも恣意的に選んだ患者集団ですから,これをもってAPACHEⅡスコア23以上に対象を絞って再度RCTをやり直しても有意差がつくとは限りません(特に集中治療領域ではサブ解析を元にRCTを組んで有意差がだせた研究はほとんどありません).

■では,さらなるRCTを組むとしたらどれだけサンプル数を集めるかですが,ICU患者の死亡率が30%以下に突入している昨今,統計学的有意差という意味では限界が見えると最近感じています.差がまずつかないため,p値に縛られない解釈が必要だとは思います.例えば今回と同じデザインで行うならば,効果推定値0.69(相対死亡リスク31%減少),対照群の死亡率30.8%と仮定して死亡率で統計学的有意差を得るためにはサンプル数は約1000例は必要です.こんなサンプル数は日本だとまず無理でしょうし海外でもできるのはANZICSぐらいじゃないでしょうか?

■もしサブ解析結果をそのまま信じるなら,効果推定値0.39(相対死亡リスク61%減少),対照群死亡率が40%と仮定した場合120例で済みますが(と言っても患者集団を絞っているので患者登録期間は今回より長期化しやすくなってしまいますので,試験参加施設を増やす必要があります),前述の通りサブ解析を元にしたRCTはある意味博打です.次の研究でどのようなデザインを組むのかは悩ましい話だと思いますが頑張っていただきたいです.できればPICSの評価も・・・
敗血症で人工呼吸管理を要する患者における死亡率と人工呼吸器非装着日数におけるデクスメデトミジンの効果:無作為化比較試験(DESIRE trial)
Kawazoe Y, Miyamoto K, Morimoto T, et al; for the Dexmedetomidine for Sepsis in Intensive Care Unit Randomized Evaluation (DESIRE) Trial Investigators. Effect of Dexmedetomidine on Mortality and Ventilator-Free Days in Patients Requiring Mechanical Ventilation With Sepsis: A Randomized Clinical Trial. JAMA 2017, Mar21 [Epub ahead-of-print]

Abstract
【背 景】
デクスメデトミジンは人工呼吸管理下の患者に鎮静作用を与えるが,敗血症患者の死亡率や人工呼吸器非装着日数への効果についてはよく研究はされていない.

【目 的】
デクスメデトミジンによる鎮静戦略が人工呼吸管理を受ける敗血症患者の臨床アウトカムを改善できるかについて検討する.

【方 法】
本研究は2013年2月から2016年1月までに日本の8つの集中治療室において行われた,少なくとも24時間の人工呼吸管理を要する成人敗血症患者201例を連続的に登録したオープンラベル多施設共同無作為化臨床試験である.患者はデクスメデトミジンによる鎮静(n=100)またはデクスメデトミジンを用いない鎮静(対照群;n=101)を受ける群に無作為化された.両群で他に用いた薬剤はフェンタニル,プロポフォール,ミダゾラムであった.主要評価項目は死亡率と人工呼吸器非装着日数(28日間)とした.Sequential Organ Failure Assessment(SOFA)スコア(1,2,4,6,8病日),鎮静管理,せん妄・昏睡の発生,集中治療室入室期間,腎機能,炎症,栄養状態を副次評価項目として評価した.

【結 果】
203例の患者がスクリーニングされ,201例が無作為化された.平均年齢は69歳(標準偏差14年)であり,63%が男性であった.28日死亡率はデクスメデトミジン群と対照群で有意差はみられなかった(19例[22.8%] vs 28例[30.8%]; HR 0.69; 95%CI 0.38-1.22; p=0.20).28日での人工呼吸器非装着期間は両群間で有意差が見られなかった(デクスメデトミジン群中央値20日[四分位範囲5-24日] vs 対照群中央値18日[四分位範囲 0.5-23日]; p=0.20).デクスメデトミジン群は人工呼吸管理中の良好な鎮静管理率が有意に高かった(範囲17-58% vs 20-39%; p=0.01).その他の評価項目は両群間で有意差は見られなかった.有害事象はデクスメデトミジン群と対照群でそれぞれ8例(8%)と3例(3%)であった.
※本文より:APACHEⅡスコアが23以上のサブ解析ではデクスメデトミジン群が有意に死亡率が低かった(APACHEⅡスコア≧23:OR 0.39; 95%CI 0.16-0.91,APACHEⅡスコア<23:HR 1.13; 95%CI 0.36-3.57).

【結 論】
人工呼吸器を要する患者において,デクスメデトミジンの使用はデクスメデトミジンがない場合に比して死亡率や人工呼吸器非装着日数を統計学的に有意に改善した結果とはならなかった.しかし,本研究は死亡率については検出力不足の可能性があり,追加研究としてさらなる評価が必要である.

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by DrMagicianEARL | 2017-03-22 18:59 | 敗血症 | Comments(0)
Post-Intensive Care Syndrome(PICS)~Life after ICU~ (1)総論
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■PICS「ピックス」という言葉を聞いたことがあるだろうか?PICSはPost-Intensive Care Syndromeの略であり,一言で言えば「ICU患者の後遺症」である.「ICU退室後の慢性期の概念なのであれば救急・集中治療医は関係ない」と思われるかもしれない.しかし実際には,ICU在室中も深くかかわってくる,近年登場した重要な概念である.ここにPICSについて概説する.
※本ブログ管理人のPICSに関連したeconomic COIとして,Pfizer株式会社より講演料,丸石製薬,日本静脈経腸栄養学会より原稿料を受け取っている.また,Academic COIとして日本集中治療医学会/日本救急医学会による日本版敗血症診療ガイドライン改訂特別委員会(PICS/ICUAWワーキンググループ),日本集中治療医学会による早期リハビリテーション検討委員会の集中治療における早期リハビリテーション~根拠に基づくエキスパートコンセンサス~(ICUAWワーキンググループ)に所属している.

1.ICU患者のアウトカムをどうとらえるか?

■以下に2つの症例を提示する.
症例1.80歳女性.ADL自立,認知症なし,糖尿病既往.急性腎盂腎炎による敗血症性ショックでICUに入院,APACHE II score 30点,SOFA score 12点.28日後も生存.

症例2.80歳女性.ADL自立,認知症なし,糖尿病既往.急性腎盂腎炎による敗血症性ショックでICUに入院,APACHE II score 30点,SOFA score 12点.28日後も生存.
この2つの症例は1字1句まったく同じであり,いずれも治療によって28日間生存している.次に各症例の2年後はどうなっているだろうか?
症例1.車椅子生活となり,認知症が進行し,ADL低下による誤嚥性肺炎の入退院を繰り返し,心不全を併発して死亡.

症例2.杖歩行ではあるが外出も可能.認知症はごく軽度で,来週家族と旅行に行く.
この2つの症例は何が違ったのか?年齢,背景,既往,疾患,重症度すべて同じにもかかわらず,2年後にこのような違いがなぜでてくるのであろうか?

■集中治療の進歩により敗血症の予後は大きく改善し,集中治療は次なる目標に舵を切り始めている.近年,ICU患者の死亡率は28日死亡率だけでなく90日死亡率でも評価している報告が多い.これは,28日死亡率はプライマリアウトカムとしては妥当でない可能性が指摘されており[1],退院後もQOLの障害は続き,これが死亡率に影響を与える可能性がある.実際に,初期治療が不十分なケースや臓器不全を残したケースにおいては28日以上生存することも珍しくはなく,90日という期間で見れば28日死亡率より悪化しうることはよく知られている事実である.また,退院後でも後遺症が発端となって状態が悪化して再入院,死亡に至るケースなどもある.このことから,より長期的な患者状態の評価をアウトカムとする流れがでてきている.

2.長期的アウトカムに影響を与えるのは疾患そのものによる侵襲だけか?

■Nesselerら[2]はフランス単施設での敗血症性ショック96例の6ヶ月の長期予後を検討したところ,6ヶ月死亡率は45%であり,生存者は死亡者に比べて,有意に若く,乳酸値とSAPSⅡが低く,腎代替療法やステロイド使用頻度が少なく,入院期間が長い傾向があった.一方で,生存者でも6ヶ月後のQOLは低下していた.

■さらに,近年,敗血症をはじめとする,ICU退室後の生存者の長期的機能予後について非常に多数の観察研究が報告されるようになっている.例えば,ICUからの生存患者は長期的な認知機能や運動機能を悪化させる[3,4],PTSDの発生はレイプ,戦争の次にICU入院が多い[5,6],重症敗血症生存者は非重症敗血症患者と比較して1年間の福祉利用が増加する[7]など,ICU退室後の長期的な機能予後やQOLの低下を示唆する報告は多い.

■これらの長期的アウトカムの悪化について,「ICUに入室する患者は疾患そのものが重症なのだから,後遺症で長期的機能予後が悪化することは仕方がない.」とこれまで考えられてきたが,はたしてそうであろうか?ひとつの研究を紹介する.Givensら[8]は,米国の22の介護施設で認知症が進行した肺炎患者225例の前向き観察研究(CASCADE study)を行っており,登録された患者のうち,DNH希望(Do-not-hospitalized order;入院しない意思表示)が50.7%を占めていた.当然ながら,肺炎であることから抗菌薬を投与することで死亡リスクは80%減少し,DNHの意思表示は死亡リスクを2.21倍に有意に増加させた.一方,この研究はQOLも評価しており,人生最期のQOLを評価したEnd-of-Lifeスコアは抗菌薬投与や入院により著しく低下していたのである.このような身体機能が衰えだしたfrailtyの状態にある高齢患者は医療介入による影響が非常に大きい.すなわち,入院,医療行為もまた侵襲である.ICU患者においては医療介入による侵襲は非常に大きく,疾患そのものによる侵襲以外にも我々医療従事者が患者に与える侵襲の大きさを認識しなければならない.ICUとはいわば「Invasive Care Unit」とも言える.

■このように,集中治療の進歩によりICU生存退室患者は増えたが,同時に機能予後が悪い患者も増えてしまったのである.はたして,集中治療の最終ゴールは救命でよいのであろうか?

3.PICSという概念の提唱

■ここまで述べた通り,急性期は救命できても,長期的には死亡率上昇やQOLが低下しているという事実が無視できない状況であることが明らかにされてきた中で,2010年の米国集中治療医学会(SCCM;Society of Critical Care Medicine)の合同カンファレンスにおいて,ICU退室後の長期アウトカムを改善する指針が提示された[9].その中で,PICS(Post-Intensive Care Syndrome;直訳するならば集中治療後症候群)という概念が初めて提唱された.PICSの概念図を以下に示す.
※「集中治療後症候群」は2017年3月時点ではまだ正式な日本語名称としては認定されていませんので,使用する際はご注意ください.
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■PICSはICUで集中治療を受けた生存患者のみならず家族をも巻き込んでしまうこと,呼吸障害や神経筋障害などの身体的障害や認知機能障害のみならず精神的障害も生じうることを重要視している.救命のために不可避な治療行為の侵襲性は想像している以上に患者の長期予後に大きな影響を与えており,救命という短期予後改善の引き換えに医原性の長期予後悪化を伴うというジレンマが生じている.
※なお,用語の定義として,PICSはPost-ICU syndromeと言われる場合もあるが,PICSはICU在室中から生じうるため,この表現は適切ではない.

■ICU患者のPICSを踏まえた転帰の図を示す[10]
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■これまで,ICUで治療を受けたICU患者は救命か治療限界かの2択と考えられてきた.しかし,治療成績が向上し,多くのICU患者が救命されるようになってきた中で,ICU退室後に一般病棟に移ってそのまま軽快退院し,社会復帰するとは限らない患者,すなわちPICSに陥った患者も増加してきた.PICS患者には著しい機能低下により余生をどう過ごすかの判断が迫られる患者も存在し,慢性期のEnd-of-Lifeケアの対象となることがある.その一方で,リハビリテーションなどを積極的に行い,PICSから社会復帰を目指すこともできる.これまで救命のみを目指してきた救急・ICUの治療から脱却し,その先にある社会復帰を目指す上でPICSという概念は非常に重要である.

■現在,救急・集中治療分野において,PICSはEnd-of-Lifeと双璧をなす新たな課題となっているが,まだまだ質の高いエビデンスは少ない.Gaudryら[11]は2013年に報告された重症患者の112のRCTをスクリーニングしたところ,ハードアウトカム(死亡率,退院後のQOLと機能予後)を主要評価項目で報告していたのは27報(24%)であり,そのうち死亡率をアウトカムとしていたのが21報であり,機能予後とQOLはそれぞれ4報,2報しかなかった.598の副次評価項目でも,ハードアウトカムは133個(22%)にとどまり,死亡率が92個に対してQOLは20個,機能予後は21個であった.全体で見ても,ICU退室後のQOLや機能予後を評価していたRCTは11報(10%)に満たなかったとしている.

■また,2012年に発表された日本版重症敗血症診療ガイドラインもSSCG 2012やSSCG 2016にもPICSに関しては一切触れられていない.しかし,2017年に発表された日本版敗血症診療ガイドライン2016[12]においては,PICSは新たに大項目として追加されており,世界で初めてPICSをガイドラインで取り上げている(現時点では概説と早期リハビリテーション推奨に留まる).また,ガイドラインではないが,Global Sepsis Alliance(GSA;世界敗血症同盟)はWorld Sepsis Dayを通じて既に2014年からPICSを強調しており,GSA日本支部である日本集中治療医学会GSA委員会でもホームページを通じてPICSに関する情報を提供している[13]

4.PICSの原因となる医療介入と予防・治療

■長期アウトカムに影響を与える因子は数多くの報告があり,またそれらの因子に影響を与える因子も様々であるため,PICSの原因は非常に多岐にわたる.つきつめていけば,ほとんどすべての医療介入はPICSの原因となりうるのである.これらの医療介入側の原因を大きく3つに分けるならば,①検査・治療・ケア因子,②環境因子,③精神因子が挙げられる.詳細は各論で述べるが,大まかな内容を以下に示す.

■①検査・治療・ケア因子としては,各種薬剤の副作用,過剰輸液,血液浄化療法,挿管人工呼吸,各種カテーテル,各種血液製剤,体位変換,気道吸引,各種侵襲的検査などであり,ほぼすべてが何らかの侵襲を伴う.これらの対策で考えられるものとして,根拠の乏しい治療の回避,低侵襲治療,ABCDEバンドルを活用した人工呼吸器・ICU早期離脱,PADガイドラインを活用したせん妄予防,リハビリテーション,各種ルーチンの見直しなどが考えられる.

■②環境因子としては,アラーム音,光,閉塞空間,ICU環境菌による二次感染リスクなどがある.これらの対策としてICU環境整備,耳栓,音楽,アイマスク,接触感染予防の徹底などがある.

■③精神因子としては,不眠,ICU滞在による精神ストレス,自身の病状や社会的・経済的背景等に対する不安などがある.これらの対策として,患者や家族のメンタルケア,日記をつける,面会時間を見直す,などがある.

5.PICSの課題,エビデンスの注意点

■PICSへの適切な予防介入を行う以上はPICSそのもののリスク因子を知る必要があるが,様々な課題が山積している.

(1) 研究デザインのバイアス
■特定の医療介入が長期アウトカム悪化の原因となりうることを示唆する研究は多数存在するが,これらには注意が必要である.PICS関連を主要評価項目として検討したRCTは実はほとんど存在せず,観察コホート研究かRCT二次解析研究(多数の脱落例が生じる可能性あり)しかない.すなわち,質の低い研究結果にもとづいていることになる.これらの研究デザインでは種々の交絡因子の排除が困難であるがためにRCTと結果に乖離が生じうる[14]

■さらに,これらの研究では多変量解析を用いた研究が多いが,事後で組み込む変数を決定しているために恣意的バイアスがかかることになる.また,統計学的処理の限界により,重症患者に優先的に行われる医療介入が長期予後を悪化させるという偏った結果を招いてしまう懸念もある.

■近年,Propensity Score matching解析[15]により観察研究の質を高める手法もとられているが,解釈に注意を要する[16].この手法は,患者の背景因子をもとに,特定の治療介入が行われる確率(割り付け確率)を多重ロジスティック解析を用いて算出したスコア(Propensity Score:傾向スコア)を用いた解析であり,このスコアの近い患者同士(≒介入を受けるか否かがランダム)をマッチングしてペアを作ることで介入群と非介入群の背景をそろえることができる.ただし,できる限り多くの共変量を組み込まなければならないこと,マッチングの結果多くの症例が削ぎ落とされてしまうため母集団を反映するかどうかの妥当性が乏しくなりやすいこと(集中治療領域ではほとんどの研究が1/3~1/10まで削ぎ落とされている),マッチング後の患者背景がどちらかの群に偏ってしまうため観察研究のメリットであるリアルワールドの患者層と乖離が生じること,RCTに比してeffect sizeに乖離が生じる[17-20]ことなどの問題点がある.

(2) 先入観によるバイアス
■我々医療従事者は先入観によるバイアスが常にかかってくることがある.例えば「おそらく標準レベルよりもさらに強化された早期リハビリテーションはいいものだろう」もRCTで検証すると予後が悪化したという報告が近年でてきている[21,22].本邦ではRCTを行うことは難しいが,かといって観察研究のみで検証をすませてしまうと,このような逆効果などを見逃してしまう可能性がある.

(3) PICSをとりまく国・地域ごとの違い
■長期機能予後の評価に伴う多数の交絡因子の存在による信頼性の限界も存在する.そこには社会的要素もおおいに関与してくる可能性もあり,国や地域,患者の背景(医療福祉,宗教,文化,経済,社会,政治法律)にも左右されうる.このため,日本独自の長期予後の検討も必要である.しかしながら,長期予後の評価は追跡調査が必要なため非常に難しく,特にコホートシステムが乏しい本邦ではさらに困難となることが予想される.

■それを補助する手段としてDPC診療データの解析が目安になりうるが,DPC診療データは検査値などが含まれず,病名がアップコーディングされているケースもあるため,評価が難しい側面を有する.これらのことから長期予後の現状を把握するのは困難といえる.最良の評価方法はRCTということになるが,長期的に追跡しながらQOLを評価するアンケート調査を行うのは非常に難しい.現実的には大規模かつ質の高い前向きコホート研究に頼らざるを得ないと推察される.

(4) 治療ゴール設定
■PICSとなった患者が全員改善できるわけではない.医療の限界は必ず存在するため,そのような限界につきあたった患者においてはEnd-of-Lifeケアへの転換も必要である.いわゆる終末期とも言える状況の患者に栄養やリハビリテーションの積極的介入を行うことは合理的ではない.ICU患者においては,PICS予防・ケアによるQuality of LifeとEnd-of-LifeケアによるQuality of Deathを患者ごとに考える必要性がある.

(5) 代替アウトカムの解釈
■近年のPICSに関する報告や学会発表で多く見られるアウトカムは早期離床,せん妄,人工呼吸器装着期間,ICU在室日数,6分間歩行距離,ICUAWなどである.これらは確かにPICSを反映するのではないかと考えられているものではあるが,あくまでもPICSの短期代替アウトカムに過ぎない.PICSの真のアウトカムはPICS(退院後の各種機能予後)であり,そのような指標はある程度存在する.短期代替アウトカムはあくまでもICU介入しか反映せず,ICU退室後の切れ目ないケアがなければその効果は消える可能性もある.また,ICU退室後から退院後6ヶ月後,1年後といった長期機能予後評価には多数の交絡因子が関与しうるため,現時点では短期代替指標は確実にPICSを反映しうるものではないことに注意が必要である.

(6) その他
■その他の問題点として,PICSの実態を知るには日本はサーベランスシステムが脆弱であること,ICUでのリハビリテーションへの無理解(いまだにICUリハがレセプトで切られる地域が存在する),超高齢化社会における介入限界の問題,医療予算(診療報酬改訂)やソース(PT/OT/ST/施設)の確保が困難などがあげられる.

6.PICSの今後の展望

■今後行っていくこととして,まずPICSの実態を知るためのサーベランスシステムの構築である.そして,それらのデータからリスク因子等を抽出し,診断基準となるentry criteriaを設定しなければならない.その上でPICSへの予防・治療介入の厳密な研究を走らせる必要がある.

■現時点ではまだまだ定まっていないことだらけであるが,まずはPICSの周知が最優先であると米国集中治療医学会も考えているようである.同学会では様々な学会・団体を交え,2012年に2回目のステークホルダーカンファレンスを行った[23].そこでは,PICSの周知を進めること,ICU退室後も切れ目ないサポート体制を構築すること,そしてPICSの研究のための研究機関提携と資金確保の重要性が強調された.以下に今後行われるべきPICSの研究の分類を示す(2回目のカンファレンスより日本語に改変).
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■長期予後評価においてはQALYs[24]という概念がある.これはとりわけ薬剤経済学(Pharmacoeconomics)において重要視されている.QALYs(Quality Adjusted Life Years;質調整生存年)とは,生存年数とQOLを統合した指標である.すなわち,横軸に生存年数,縦軸にQOLを設定したときのKaplan-Meier曲線下面積がQALYsに相当する.現時点では目安となるような具体的数値目標設定は困難な状況にあるが,概念として知っておくとよいものである.

■今やPICSはEnd-of-Lifeと双璧をなす集中治療領域の新たな課題となっており,入院前から退院後までより幅広い視点での重症疾患のマネージメントが要求される時代に舵が切られている.PICSの患者は今後さらに増加することが予想されるが,PICSの予防を行うことが当たり前の時代が来ることを期待する.

→Post-Intensive Care Syndrome(PICS)~Life after ICU~ (2)各論:身体障害(4月上旬頃UP予定)

[1] Winters BD, Eberlein M, Leung J, et al. Long-term mortality and quality of life in sepsis: a systematic review. Crit Care Med 2010; 38: 1276-83
[2] Nesseler N, Defontaine A, Launey Y, et al. Long-term mortality and quality of life after septic shock: a follow-up observational study. Intensive Care Med 2013; 39: 881-8
[3] Pandharipande PP, Girard TD, Jackson JC, et al; BRAIN-ICU Study Investigators. Long-term cognitive impairment after critical illness. N Engl J Med 2013; 369: 1306-16
[4] Iwashyna TJ, Ely EW, Smith DM, et al. Long-term cognitive impairment and functional disability among survivors of severe sepsis. JAMA 2010; 304: 1787-94
[5] Kessler RC, Sonnega A, Bromet E, et al. Posttraumatic stress disorder in the National Comorbidity Survey. Arch Gen Psychiatry 1995; 52: 1048-60
[6] Davydow DS, Gifford JM, Desai SV, et al. Posttraumatic stress disorder in general intensive care unit survivors: a systematic review. Gen Hosp Psychiatry 2008; 30: 421-34
[7] Prescott HC, Langa KM, Liu V, et al. Increased 1-year healthcare use in survivors of severe sepsis. Am J Respir Crit Care Med 2014; 190: 62-9
[8] Givens JL, Jones RN, Shaffer ML, et al. Survival and comfort after treatment of pneumonia in advanced dementia. Arch Intern Med 2010; 170: 1102-7
[9] Needham DM, Davidson J, Cohen H, et al. Improving long-term outcomes after discharge from intensive care unit: report from a stakeholders' conference. Crit Care Med 2012; 40: 502-9
[10] 福家良太,井上茂亮,一二三享,他.Post-Intensive Care SyndromeとICU-acquired weakeness. ICUとCCU 2015; 39: 477-85
[11] Gaudry S, Messika J, Ricard JD, et al. Patient-important outcomes in randomized controlled trials in critically ill patients: a systematic review. Ann Intensive Care 2017; 7: 28
[12] 日本集中治療医学会/日本救急医学会合同日本版敗血症診療ガイドライン2016改訂特別委員会.日本版敗血症診療ガイドライン2016(J-SSCG 2016). http://敗血症.com/assets/jjsicm24suppl2.pdf
[13] 日本集中治療医学会GSA委員会(Global Sepsis Alliance JAPAN).敗血症.com(日本集中治療医学会敗血症情報サイト).http://xn--ucvv97al2n.com
[14] Anglemyer A, Horvath HT, Bero L. Healthcare outcomes assessed with observational study designs compared with those assessed in randomized trials. Cochrane Database Syst Rev 2014 ; 4 : MR000034
[15] Rousenbaum PR, Rubin DB. The central role of the propensity score in observational studies for causal effects. Biometrika 1983; 70: 41-55
[16] Rubin D. Estimating causal effects from large data sets using propensity scores. Ann Internal Med 1997; 127: 757–63
[17] Zhang Z, Ni H, Xu X. Observational studies using propensity score analysis underestimated the effect sizes in critical care medicine. J Clin Epidemiol 2014; 67: 932-9
[18] Dahabreh IJ, Sheldrick RC, Paulus JK, et al. Do observational studies using propensity score methods agree with randomized trials? A systematic comparison of studies on acute coronary syndromes. Eur Heart J 2012; 33: 1893-901
[19] Zhang Z, Ni H, Xu X. Do the observational studies using propensity score analysis agree with randomized controlled trials in the area of sepsis? J Crit Care 2014; 29: 886.e9-15
[20] Kitsios GD, Dahabreh IJ, Callahan S, et al. Can We Trust Observational Studies Using Propensity Scores in the Critical Care Literature? A Systematic Comparison With Randomized Clinical Trials. Crit Care Med 2015; 43: 1870-9
[21] Greening NJ, Williams JE, Hussain SF, et al. An early rehabilitation intervention to enhance recovery during hospital admission for an exacerbation of chronic respiratory disease: randomised controlled trial. BMJ 2014; 349: g4315
[22] AVERT Trial Collaboration group, Bernhardt J, Langhorne P, Lindley RI, et al. Efficacy and safety of very early mobilisation within 24 h of stroke onset (AVERT): a randomised controlled trial. Lancet 2015; 386: 46-55
[23] Elliott D, Davidson JE, Harvey MA, et al. Exploring the scope of post-intensive care syndrome therapy and care: engagement of non-critical care providers and survivors in a second stakeholders meeting. Crit Care Med 2014; 42: 2518-26
[24] Raisch DW. Understanding quality-adjusted life years and their application to pharmacoeconomic research. Ann Pharmacother 2000; 34: 906-14
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by DrMagicianEARL | 2017-03-15 20:05 | 敗血症 | Comments(0)
「敗血症.com」(Global Sepsis Alliance JAPANのサイト)の御紹介
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■世界で3秒に1人が敗血症で亡くなっている,この危機的状況を改善させるため,「Stop Sepsis, Save Lives(ストップ敗血症,命を救え)」をスローガンに,敗血症患者のためにより良い管理体制を整えることを目的とし,致死性疾患である敗血症に対する認識を深めるための世界的活動を行う非営利団体である世界敗血症同盟(GSA;Global Sepsis Alliance)が2012年に設立されております.日本集中治療医学会がGSA日本支部としてGSA委員会を設立し,2015年にはホームページ「敗血症安心プラネット」を開設しております.GSAについては詳しくは以下の本ブログ記事をご参照ください.
http://drmagician.exblog.jp/24135078/

■このたび,2017年3月にホームページが大幅リニューアルとなり,ホームページの名前は「敗血症.com」に変わっております.コンテンツも大幅に増え,一般市民向けのQ&Aを用意した他,医療従事者向けコンテンツとして,日本版敗血症診療ガイドライン2016のpdfファイル,敗血症啓発パンフレット,敗血症の定義・診断の変更に関するスライドを置いております.今後も内容を充実させるべく適宜更新を行っていく予定です.是非ご参照ください.ホームページにはご意見フォームもありますので,敗血症についてもっと知りたいこと,このようなコンテンツを作ってほしい等の御意見もお待ちしております.
※私事ですが,このたび本ブログ管理人はこのGSA委員会に入ることとなりました.
敗血症.com(日本集中治療医学会敗血症情報サイト)
http://xn--ucvv97al2n.com


■また,今回,新たにGSA JAPANとして,シンボルマークを作りました.
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■新しいシンボルマークは5枚の花弁をもつ花です.敗血症の予防から社会復帰までカバーすべく,「予防」「早期発見」「感染症治療」「全身管理」「リハビリテーション」の5つの柱を花で表しています.これらをよりスムーズに進めていくには我々医療従事者のみではなく,一般市民までまきこんだ周知が必要です.今後のGlobal Sepsis Alliance JAPANの活動に一施設でも,一人でも御協力いただければ幸甚です.
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by DrMagicianEARL | 2017-03-13 17:45 | 敗血症 | Comments(0)
■集中治療領域においては,非外傷性の貧血に対しては制限輸血と非制限輸血でアウトカムは同等,もしくは制限輸血の方が好ましいという結果が各RCTで得られており,その結果の目安として,Hb<7.0 g/dL(心疾患を有する患者では<8.0 g/dL)を輸血開始指標とすることが望ましく,ガイドラインでもそのように推奨されています.今回紹介する研究は,敗血症性ショックを発症した癌患者での輸血制限戦略の検討です.結果は,死亡率において制限戦略の方が予後不良の傾向がみられたというものです.

■ただし,こういう結果となった要因やlimitationは多数あると思います.ただでさえ敗血症にも感染巣による治療戦略の違いなどの要因があることに加え,癌患者という集団を対象にする以上,StageやPS,癌の種類も多彩で,敗血症で救命しても癌で死亡しうる(実際に90日死亡率は6~7割と非常に高い数字),癌患者集団はベースラインのHb濃度が低い,ということを考慮すると,単施設での300例では検討不十分となると思われます.また,輸血開始基準に関係なく,組織低灌流(高乳酸血症,低ScvO2)であるほど輸血で有意な改善が得られるという報告(Rev Bras Ter Intensiva 2015; 27: 36-43)もあり,敗血症病態でもこれが関与している可能性もあり,詳細な検討が必要です.

■もっとも,これまで制限群が非制限群よりも好ましい結果が得られていた根拠の大きな部分として白血球除去製剤の普及率が低さがあり,これは近年大きく変わっています.ABC study(JAMA 2002; 288: 1499-507)とSOAP study(Anesthesiology 2008; 108: 31-9)では白血球除去製剤の普及率は19%から76%に向上しており,それに伴って輸血を行うことによる有効性が増加しています.また,輸血製剤による感染症リスクも製剤管理の改善により大きく減少しました.よって,輸血の安全性が向上していくと,推奨されるHb閾値も変わる(上がっていく)可能性は否定できません.
重症疾患(敗血症性ショック)に罹患した癌患者における非制限vs制限輸血戦略:重症疾患癌患者における輸血必要性の無作為化比較試験
Bergamin FS, Almeida JP, Landoni G, et al. Liberal Versus Restrictive Transfusion Strategy in Critically Ill Oncologic Patients: The Transfusion Requirements in Critically Ill Oncologic Patients Randomized Controlled Trial. Crit Care Med. 2017 Feb 24. [Epub ahead of print]
PMID: 28240687

Abstract
【目 的】
敗血症性ショックの癌患者において,赤血球輸血の非制限戦略と比較して,制限戦略が28日死亡率を減少させるかについて評価した.

【方 法】
本研究は大学病院で行われた単施設二重盲検無作為化比較試験である.対象はICU入室から6時間以内の敗血症性ショックの成人癌患者とした.患者はICU在室中に赤血球輸血の非制限群(ヘモグロビン濃度<9g/dLで輸血)または制限群(Hb<7g/dL)に無作為化に割り付けされた.

【結 果】
患者は149例が非制限群に,151例が制限群に無作為割り付けされた.非制限群の患者は制限群の患者よりもより多くの赤血球輸血単位を受けていた(1[0-3] vs 0[0-2] 単位; p<0.001).無作為化から28日後の時点でICU在室期間や入院期間に差がなく,非制限群の死亡率(本研究の主要評価項目)は45%(67例),制限群は56%(84例)であった(HR 0.74; 95%CI 0.53-1.04; p=0.08).無作為化から90日後の時点で死亡率は非制限群の方が制限群よりも低かった(59% vs 70%,HR 0.72; 95%CI 0.53-0.97; p=0.03).

【結 論】
敗血症性ショックの癌患者においては,輸血制限戦略よりも非制限戦略の方が生存において好ましい結果が観察された.本結果は,既知の仮説および他の研究とは反対の結果であり,確認する必要がある.

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by DrMagicianEARL | 2017-03-02 15:57 | 敗血症 | Comments(0)
■近年,ICU患者や心筋梗塞患者,PCAS患者において高酸素血症は死亡率悪化等有害であるとする報告が多数でてきており,当ブログにおいても緊急気管挿管の場合を除けば高酸素血症に一利なしどころか有害であると書いてきました.今回紹介する論文は敗血症性ショックでは高酸素血症にしてみるとどうだろうというRCTです.そんなの予後が悪化するに決まってるのになぜこんな研究が,と思ったら研究開始が2012年なんですね.当時は高酸素血症の有害性はそこまで知られてなかった時です.全身臓器の虚血状態,酸素代謝異常が生じる敗血症性ショックで高酸素状態にすれば虚血を改善できるんじゃないか,という考えは確かに当時聞いたことがあります.案の定結果はFiO2 1.0に設定した高酸素血症群で死亡率増加傾向,重篤な有害事象増加,ICUAW増加傾向,無気肺増加という散々な結果で,中間解析結果から442例登録時点で本研究は早期中止となりました.まあ当然ですね.

■一方,この研究は2×2機能RCTとして,初期輸液蘇生の輸液として高張性食塩水と生理食塩水の比較を見ています.高張食塩水の過去の研究では出血性ショック,頭部外傷によるICP降下作用,広範囲熱傷初期における必要輸液量の軽減,腹部コンパートメント症候群などでどうやらいいらしい,というエビデンスがありますが,これらの食塩水濃度はおおむね7.5%のものが多く,この論文では3%が用いられています.こちらも予後を改善させるような効果はなさそうな結果です.
敗血症性ショック患者における高酸素血症と高張食塩水(HYPERS2S):多施設共同2×2機能無作為化比較試験
Hyperoxia and hypertonic saline in patients with septic shock (HYPERS2S): a two-by-two factorial, multicentre, randomised, clinical trial. Lancet Respir Med 2017 Feb 14. [Epub ahead of print]

Abstract
【背 景】
敗血症性ショック患者において,吸入酸素濃度(FiO2)を増加させた人工呼吸および高張生理食塩水による輸液蘇生の使用に関する研究は不十分である.我々はこれらの介入が死亡率の低下に関連しているかどうかを検討した.

【方 法】
本研究はフランス22施設における人工呼吸管理を受けた18歳以上の敗血症性ショック患者を登録した多施設共同2×2機能無作為化臨床試験(HYPERS2S)である.患者は,ランダムサイズの順列ブロックを使用して,施設と急性呼吸窮迫症候群の有無によって層別化されたコンピュータによる無作為化リストによって,無作為に1:1:1:1の4つのグループに割りつけられた.患者は,最初の24時間でオープンラベルでFiO2 1.0で管理(高酸素血症群)または動脈血ヘモグロビン酸素飽和度88-95%を目標とするFiO2管理(正常酸素血症群)による人工呼吸を受けた.また,二重盲検下で,最初の72時間の間の輸液蘇生において,3.0%生理食塩水(高張群)または0.9%生理食塩水(等張群)のいずれかの280mLボーラス投与を受けた.主要評価項目はintention-to-treat集団における無作為化から28日時点での死亡率とした.本研究はClinicalTrials.govの登録番号NCT01722422で登録されている.

【結 果】
2012年11月3日から2014年6月13日までの間に442例の患者が登録され,各治療群(正常酸素血症群233例または高酸素血症群219例,等張群224例または高張群218例)に割り付けられた.本試験は安全性の理由により早期に中止された.28日死亡率は424例の患者で記録され,高酸素血症群で217例中93例(43%),正常酸素血症群で217例中77例(35%)が死亡した(HR 1.27, 95%CI 0,94-1.72; p=0.12).高張群では214例中89例(42%),等張群では220例中81例(37%)が死亡した(HR 1.19, 95%CI 0.88-1.61; p=0.25).すべての重篤な有害事象発生率においては高酸素血症群(185例[85%])と正常酸素血症群(165例[76%])で有意差がみられ(p=0.02),ICU-AW(24例[11%] vs 13例[6%]; p=0.06)や無気肺(26例[12%] vs 13例[6%]; p=0.04)の患者数は高酸素血症群で倍増していた.生理食塩水の2群間では重篤な有害事象に統計学的有意差は見られなかった(p=0.23).

【結 論】
敗血症性ショックの患者において,高酸素血症を誘導するためのFiO2 1.0の設定は死亡リスクを増加させた.高張性(3%)生理食塩水は生存率を改善させなかった.

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by DrMagicianEARL | 2017-02-25 20:12 | 敗血症 | Comments(0)
■Sepsis-3が発表されてから1年弱がたちました.この新基準はあくまでも後ろ向きデータから検討されたもののため,前向きでの精度評価が必要とされていました.ただ,こんなにすぐに出てくるとは思いませんでしたが・・・発表からわずかな期間で研究デザインを組んで倫理委員会を通し,わずか約2か月後には患者登録スタート,3か月間の間に多国籍多施設でN数を集めてJAMA誌にpublishはさすがとしか言いようがありません.

■さて,結果は,qSOFAスコア2点以上の院内死亡率は24%,死亡予測精度のAUROCは0.8,感度70%特異度79%というのはおおむね私の実臨床でも合致する印象です.さらに,この研究ではqSOFAがSIRS基準や旧基準の重症敗血症よりも死亡予測精度が高いという結果も得られていますが,重症敗血症が「SIRS+乳酸値>2mmol/L」となっていてちょっとこれと比較するのはフェアではないなと思います.これだけで旧基準より優れているとの判断はすべきではないなとは思います.
救急部門での感染症疑いの患者の院内死亡におけるSepsis-3基準の予後予測正確性
Freund Y, Lemachatti N, Krastinova E, et al. Prognostic Accuracy of Sepsis-3 Criteria for In-Hospital Mortality Among Patients With Suspected Infection Presenting to the Emergency Department. JAMA. 2017; 317(3): 301-308

【背 景】
最近,国際的なタスクフォースが敗血症の概念を再定義した.本タスクフォースは,死亡のハイリスク患者の検出のため,全身性炎症反応症候群(SIRS)基準の代わりにquick SOFA(qSOFA)スコアの使用を推奨した.しかしながら,新基準はいくつかの状況で前向きに検証されておらず,救急部門における付加価値はまだ知られていない.

【目 的】
死亡予測としてqSOFAを前向きに検証し,新しい敗血症の基準と以前の基準のパフォーマンスを比較する.

【方 法】
本研究は,2016年5月から7月まで,フランス,スペイン,ベルギー,スイスで行われた国際前向きコホート研究である.30施設の救急部門において,4週間,感染症疑いで救急部門を受診した患者を連続的に登録した.敗血症の旧基準および新基準における全ての変数を収集した.患者は退院もしくは院内死亡までを追跡した.計測はqSOFAスコア,SOFAスコア,SIRSスコアとした.主要アウトカムは院内死亡とした.

【結 果】
1088例の患者がスクリーニングされ,879例が解析に組み込まれた.年齢中央値は67歳(四分位範囲47-81歳)であり,414例(47%)が女性であり,379例(43%)が呼吸器感染症であった.院内全死亡は8%であり,qSOFAスコア2点未満の患者と2点以上の患者の死亡率は3% vs 24%(絶対差21%; 95%CI 15-26%).qSOFAはSIRSおよび重症敗血症の両方よりも院内死亡予測パフォーマンスが良好であり,受信者作動曲線下面積(AUROC)は0.80(95%CI 0.74-0.85) vs 0.65(95%CI 0.59-0.70)であった(p<0.001; AUROC上昇 0.15; 95%CI 0.09-0.22).死亡におけるqSOFAスコアと重症敗血症のハザード比は.6.2(95%CI 3.8-10.3)vs3.5(95%CI 2.2-5.5)であった.

【結 論】
感染症が疑われた救急部門の患者において,qSOFAスコアの使用はSIRSや重症敗血症基準に比して院内死亡の予後予測精度が優れていた.本知見は,救急部門におけるSepsis-3基準を支持するものである.

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by DrMagicianEARL | 2017-01-18 18:29 | 敗血症 | Comments(0)
CQ7.初期蘇生・循環作動薬
 敗血症性ショック治療のコアとなる部分である.30mL/kg以上の初期急速輸液負荷とノルアドレナリンをベースとして,第2選択薬はアドレナリン,バソプレシン,ドブタミンのいずれかを選択,モニタリングは既知の指標をいずれか用いて総合的に評価する,という内容である.治療に不慣れな施設であれば,やはりEGDTプロトコルが無難だとは思うが・・・
CQ7-1.初期蘇生にEGDTを用いるか?

A.敗血症,敗血症性ショックの初期蘇生にEGDTを実施しないことを弱く推奨する(2A)

※ここでのEGDTはRiver'sらのEGDTであり,modified EGDTは含めない.
 2014年から2015年にかけてNEJM誌に相次いでProCESS,ProMISe,ARISEの3つの大規模RCTでは,River's EGDTは標準ケアと比して死亡率に有意差なしという結果であったことからこのような推奨となっている.おそらく,まもなく発表になるSSCG 2016でも同様の推奨になると思われる.

 ただし,繰り返す通り,ここでのEGDTとは2001年に報告されたRiver'sらのEGDTプロトコルのことである.近年,CVPやScvO2の有用性が疑問視され乳酸値が重要視されて以降,River’sらのプロトコルをそのまま用いている三次施設はあまりなく,modifyしたEGDT,もしくは心エコー等適宜モニタリングした上での主治医の循環管理スキルで診療にあたっていることが多い.特に前者のmodified EGDTについては本ガイドラインは含めていない.

 また,3つの大規模RCTやそれ以前の報告を見て分かる通り,River's EGDTはあくまでも標準ケアと死亡率に有意差がなかっただけで,死亡率が悪化したわけではない.ここでの標準ケアとは循環管理に長けた集中治療医のスキルに担保された管理であり,ガイドラインではその状況下でRiver's EGDTは害が益を上回る可能性があると判断している.だがこれは,循環管理に長けていなくともRiver's EGDTを行えば集中治療医と同等の治療成績を出すことが可能ともとらえることもできる.

 実際に,これまで数多くの観察研究でRiver's EGDTにより死亡率が改善したとの報告が上がっている.River's EGDTに関してRCTも観察研究も共通して言えるのは,「対照群の死亡率が高い研究ほど有意な死亡率の改善が得られている」である.本来,ガイドラインは専門医以外の,その疾患に不慣れな医師等に標準レベルで診療にあたれるように作られるべきものである.そしてそのようなガイドラインが対象とする医師とは,「対照群の死亡率が高い研究」の方が近い集団であると考えるのが妥当であろう.そういう意味では,そのような医師がRiver's EGDTのプロトコル通りに敗血症性ショック患者の治療を行っていくのは,他にいいモニタリングが確立されていない以上,理に適っているものである.もし,その施設において,敗血症性ショックの死亡率が本邦で報告される死亡率よりも高い(目安として40%以上)のであれば,安易にRiver's EGDTを行わないという選択はすべきではないと思われる.

 どのような循環管理を行うにせよ,血管内容量充填,尿量確保,血圧維持,酸素代謝異常解除をクリアするという目標という意味ではRiver's EGDTと変わらないと言える.
CQ7-2.敗血症性ショックにおいて初期蘇生における輸液量はどうするか?

A.敗血症性ショックにおいて血管内容量減少のある患者の初期輸液は,細胞外液補充液を30 mL/kg以上投与することを推奨する(EC)

※血管内容量減少を評価した後に細胞外液を30 mL/kg以上投与する.
 River's EGDTがRCTで死亡率を改善できなかったことや近年の過剰輸液が予後悪化リスクとなりうるとの指摘がでてきたことで「敗血症性ショックに大量輸液はダメ」と勘違いする人がここ2~3年間SNSでは続出していた.言うまでもなく初期大量輸液は必要なものである.以前に輸液量と死亡の関連性を自施設で後ろ向きに検討したことがあるが,敗血症性ショック疑いで初期大量輸液を行わなかった症例は死亡率100%であった.敗血症性ショック疑いに初期の急速輸液負荷をまったく行わずにカテコラミンだけ流すという対応はほぼ禁忌と言っていい.

 血管透過性亢進と末梢血管拡張による血流分布異常を伴う敗血症性ショックにおいてはある程度の血管内容量充填が必須となる.本ガイドラインでもその根拠論文が提示されている.初期急速輸液負荷なしor少量しか輸液負荷しない,というやり方のままノルアドレナリンを開始すると確かに血圧は上がることもあるが,血管内容量がないまま末梢血管をしめることになり,諸臓器は急速に虚血状態に陥り,臓器障害が進展する.心不全や腎不全がベースにあって初期急速輸液負荷をしないという選択は避けるべきである.また,うっ血を恐れてなのか「200mL/時で輸液」という中途半端な速度で指示する医師を見かけることがあるが,脱水状態であれば有効であっても敗血症性ショックにおいてはほぼ無意味であり,初期急速輸液はあくまでも全開滴下以上の速度(ボーラスと言ってもよい)に近い方がいいだろう.

 なお,急速輸液負荷は中心静脈カテーテルよりも末梢サーフローの方がよいとする考え方がある.これは流体力学(ベルヌーイの法則)によるもので,管腔が短い方が輸液が早く入りやすいという理論である.敗血症性ショック患者は血管が虚脱しており,CV挿入に時間を要することはよくある.よって,末梢2ライン確保して急速輸液を行いつつICUに搬送してからCV挿入でいいものと思われる.
CQ7-3.敗血症の初期蘇生の開始時において心エコーを用いた心機能評価を行うか?

A.敗血症の初期蘇生では,エコーを用いた心機能評価を行うことを推奨する(EC)

※ここで示す「エコーを用いた心機能評価」とは,循環器専門医による詳細な心機能検査ではなく,ベッドサイドで簡易的に行うエコー検査で,心機能(心臓の動き),血管内容量(下大静脈径,心腔内容量)を大まかに測定して初期蘇生の治療方針の決定に役立てることを目的とするものを指す.循環器専門医に限らず,敗血症診療に関わるすべての医師がその手技を習得することが望ましい.
 敗血症性ショックにおける心エコーに関してはRCTによるエビデンスはなく,エキスパートオピニオンとなっている.心エコーが扱えればリアルタイムかつ低侵襲の指標が増えるメリットは大きいと思われる.また,本ガイドライン解説に記載されているように,血管拡張による相対的血管内容量減少によるショックのみならず,敗血症性心筋障害も起こりうることから,心エコーが推奨されるとしている.

 しかしながら,実臨床で「敗血症診療に関わりうるすべての医師がその手技を習得すること」は,たとえ循環器専門医による詳細な心機能検査ではなくともハードルは高いと思われる(それが二次病院の現実である).また,敗血症性心筋障害は重要な概念であるものの,これに対する介入が確立されているわけではない.循環器でも救急・集中治療・麻酔科でもない医師がこの推奨によって突然心エコーを使いこなせるかというと話はまた別である.臨床検査技師に依頼するのもありではあるが,夜間では難しいであろう.また,個人の手技の違いを受けるモニタリング方法でもあるため再現性の問題を有する.個人的には「推奨する」よりも「使用してもよい」くらいのニュアンスでよかったのではないだろうかと考えている.
CQ7-4.初期輸液として,晶質液,人工膠質液のどちらを用いるか?

A.敗血症,敗血症性ショックの初期蘇生に人工膠質液を投与しないことを弱く推奨する(2B)
 ここでの人工膠質液とはヒドロキシエチルスターチ(HES)のことを指す.HESには凝固・止血機能障害,アナフィラキシー様反応,腎障害の懸念があり,特に腎障害が有意に増加したとする報告は多い.また,HESを有効とした報告の多くにかかわっていたのがBoldt J氏であるが,2009年に同氏が報告した論文が捏造であったことが発覚している(Anesth Analg 2011; 112: 498-500).本製剤投与により血管内容量充填が理論上は容易とは考えられるが,RCTではさんざんな結果となっており,本ガイドラインにおけるメタ解析でも,HESによってICU死亡率は減少するものの,90日死亡率,AKI発症率,RRT使用率,RBC輸血投与率は有意に増加する結果となり,害が益を上回るという判定となる.SSCG 2012でも「HESを用いないことを推奨する(Grade 1B)」とより強く否定している.

 ただし,HESに関するほとんどの報告が6% HES(130/0.4)であり(本邦ではボルベン®),本邦で従来から使用されてきたヘスパンダー®,サリンヘス®は海外の報告で使用されたものより低分子の6% HES(70/0.5)であり,報告もなく腎障害の有無などは不明の状態にあり,現時点では本邦では禁忌までとはいかず,慎重投与の状態にある.

 ここでひとつ指摘しておきたい.血管内容量減少の状態では投与したHESの90%は血管内にとどまるが,循環血液量が正常のときは40%しかとどまらないことが知られている(Anesthesiology 2008; 109: 723-40).この違いは,循環血液量が正常の場合,HES投与により血管内容量が増加して血管内皮のglycocalyx構造を弱めることにより血管透過性をむしろ亢進させてしまうためと考えられている.これまでのHESを用いた複数の主要なRCTは,介入群はずっとHESを投与し続けるという,実臨床から見れば非現実的なプロトコルである.当然ながら血管内容量は急速に増大し,血管内充填のレベルを簡単に超えてしまうことは容易に想像でき,益が害を上回る結果となりかねない.実際には,晶質液とHESをうまく組み合わせ,どのタイミングでHESを投与するかまで考慮して投与されるべきものであるが,残念ながらそのようなプロトコルを検討した良質はRCTは存在せず有効性は不明,実際に行われたRCTは両極端な比較を行っていたという経緯がある.
CQ7-5.敗血症性ショックの初期輸液療法としてアルブミンを用いるか?

A.敗血症の初期蘇生における標準的輸液としてアルブミンを用いないことを弱く推奨する(2C).大量の晶質液を必要とする場合や,低アルブミン血症がある場合には,アルブミン製剤の投与を考慮してもよい(EC)
 本ガイドラインのメタ解析では効果推定値として死亡率はRR 0.87であったが,95%信頼区間は1をまたいでいるため益は否定的となっている.ただし,信頼区間の上限は1.02であることから,簡単に効果なしとはとらえられない.GRADEシステム評価であれば,1をまたぐことは不精確性でのマイナスはつくものの,それそのものが推奨ベクトルを決定づけるものではない(p値を考慮しない解釈であるため).本ガイドラインはMINDs2014を採用しているためGRADEとはやや手法が異なる.このあたりを考慮して数値を読み取っていただきたい.

 絶対死亡率に関しては39.3% vs 36.6%であり,絶対差は2.7%.NNTが37であるというのは集中治療領域ではそこまで悪くはない数値と思われ,少なくともある程度の益が存在するだろう.問題は,害が益を上回るかであるが,これまでのRCTの評価ではアルブミン製剤による害が不明であるとしている.これをもって「害が益を上回る」との判定は妥当であるか難しいところであると考える.ここにコストの問題も加わるため,実際に使用するしないは各医師の価値観にゆだねられるところではないかと思われる.エキスパートコンセンサスとして,特定状況下で使用することを考慮してもよいとしており,この一文がある程度のバランスをとっているのかもしれない.
CQ7-6.初期蘇生における輸液反応性のモニタリング方法として何を用いるか?

A.敗血症,敗血症性ショックの初期蘇生においては,用いる指標の限界を考慮して,必要に応じて複数のモニタリングを組み合わせて輸液反応性を評価することを推奨する(EC)

※敗血症の初期蘇生において,特定のモニタリングを推奨するには十分な根拠がなかった.
 CVPがアテにならないと烙印を押された現在,輸液モニタリング方法は戦国時代にある(といっても,初日だけならCVPはアテになる可能性は残されており,そのようなエビデンスもある).本ガイドラインで示すように,SVV,受動的下肢挙上,経肺熱希釈法があるが,比較する対照群がバラバラ等,非直接性に深刻な問題を抱えるほか,各RCTは小規模研究である.これらの結果から上記推奨文になるのは致し方ないことと思われる.

 ただ,私個人では受動的下肢挙上(PLR)テストがどの施設でもやりやすくてオススメではあると考えている.21研究のメタ解析(Intensive Care Med 2016; 42: 1935-47)では,PLRによる心拍出量の変化は,統合感度0.85,統合特異度0.91,AUROCは0.95と高精度であり,PLRによる心拍出量変化の最良閾値は≧10±2%であったとしている.下記も参照されたい.
【文献+レビュー】循環不全における受動的下肢挙上(PLR)による輸液反応性予測(メタ解析)
http://drmagician.exblog.jp/24106425/
CQ7-7.敗血症の初期蘇生の指標に乳酸値を用いるか?

A.敗血症の初期蘇生には,乳酸値を用いた継時的な評価を行うことを推奨する(EC)
 現在既に乳酸値を指標としたEGDTを行っている施設は多いだろう.実際,乳酸値がScvO2より重要と考えている救急集中治療医は多いことが報告されている.また,乳酸クリアランスが大きいほど予後改善に寄与するという報告は複数でてきている.本ガイドラインではPICOに合致するRCTはなかったためエキスパートコンセンサスとしている.ただし,JonesらのLACTATE study(Am J Repir Crit Care Med 2010; 182: 752-61)はRCTであり,サブ解析であれば敗血症患者(4割が該当)での有効性を見ることは可能であり,死亡率改善傾向がみられている.その他の研究も考慮して,乳酸値の継時的評価は益が害を上回ると判断している.SSCG 2012でも「組織低灌流のマーカーとしての乳酸値上昇を伴う患者では乳酸値を正常化させることを目標とした蘇生を提案する(Grade 2C).」としている.

 なお,本ガイドラインでも注意書きがあるが,静脈血で血液ガス分析を行うのは注意が必要である.一般的に動脈血より静脈血の方が乳酸値が高めにでることが知られ,「動脈血乳酸値=静脈血乳酸値ー0.25mmol/L」という計算式もあるが(Eur J Emerg Med 2014; 21: 81-8),差の95%信頼区間は-0.35 to -0.15であり,下限値は決して小さくはなく,また基準値から外れるほどこの差が大きくなることが知られているため,特に敗血症性ショックのような重症患者においては用いるべきではないものと思われる.
CQ7-8.初期蘇生の指標としてScvO2と乳酸クリアランスのどちらが有用か?

A.初期蘇生の指標としてScvO2と乳酸クリアランスのいずれを使用してもよい(EC)
 Jonesらが重症敗血症,敗血症性ショックの患者300例を対象として,EGDTでの初期蘇生目標をScvO2≧70%とする群と乳酸クリアランス≧10%/2hrを目標にする群で比較したRCTを報告しており,院内死亡率は23% vs 17%で統計学的有意差はみられなかったとしている.ただし,その絶対差は6%と開きがあり,乳酸クリアランス群の方が低い傾向である.エビデンスレベルの弱いたった1報のRCTから推奨を出すことは難しいため,エキスパートコンセンサスでいずれでもよいとはなっているが,ScvO2の持続モニタリングはPreSepカテーテルが必要であり,ポイントで計測するならCVから血液採取をしなければならない.実臨床では乳酸クリアランスを用いる方がbetterかもしれない.
CQ7-9.初期輸液に反応しない敗血症性ショックに対する昇圧薬の第一選択としてノルアドレナリン,ドパミンのどちらを使用するか?

A.初期輸液に反応しない敗血症性ショックに対して第一選択薬としてノルアドレナリンを投与することを推奨する(1B)
 これはもうほぼ決着がついた事項といえ,1Bという高い推奨がついている.敗血症性ショック初期は末梢血管拡張を特徴としたwarm shockであり,血管トーヌスを戻す目的でのα1受容体刺激が原則とすべきであり,一方のドパミン(DOA)でα1受容体刺激を期待するためには10γを越える高用量が必要となり,β受容体という不必要な受容体刺激を起こし,不整脈等各種害をきたしうることも考慮すればNAを用いることが病態生理学的に理にかなっており,2012年に報告された敗血症性ショックにおけるNAとドパミン(DOA)を比較したメタ解析(Crit Care Med 2012; 40: 725-30をはじめいくつものメタ解析があり,いずれにおいてもDOAはNAに比して死亡リスクが有意に高い結果となっており,SSCG 2012ではノルアドレナリンが第一選択となっている.
CQ7-10.ノルアドレナリンの昇圧効果が十分でない場合,敗血症性ショックに対してアドレナリンを使用するか?

A.十分な輸液とノルアドレナリン投与を行っても循環動態の維持が困難な敗血症性ショックにはアドレナリンを使用することを弱く推奨する(EC)
 敗血症性ショックにおいてノルアドレナリンとアドレナリンを比較した研究はCATS study(Lancet 2007; 370: 676-84),CAT study(Intensive Care Med 2008; 34: 2226-34)があり,いずれも死亡率等に有意差はみられなかったが,CAT studyのサブ解析では,敗血症性ショック患者においてアドレナリン投与群で有意に頻脈や乳酸アシドーシスが多かったと報告されている.これらを考慮するとノルアドレナリンと比して第一選択として使用すべきではないが,ノルアドレナリンに不応性(0.3~0.5γでも血圧が維持できない)の場合,第二選択薬の候補となりうる(ノルアドレナリン不応性の場合に限定したRCTはない).本ガイドラインでは,心機能が低下した敗血症性心筋症が敗血症性ショックにおいて20-40%合併し,これらがノルアドレナリンに不応性となる可能性があることからもアドレナリン投与が有用な可能性を述べている.

 私自身は頻脈が嫌なのでアドレナリンよりもバソプレシンを優先している.施設によってはアドレナリンを投与しつつ頻脈に対してはβ遮断薬のオノアクト®を使用しているところもあるようである(血圧より先に心拍数を下げる作用があるため).
CQ7-11.ノルアドレナリンの昇圧効果が不十分な敗血症性ショックに対して,バソプレシンを使用するか?

A.十分な輸液とノルアドレナリン投与によっても昇圧効果が不十分な敗血症性ショックに対して,バソプレシンを追加で使用することを弱く推奨する(EC/B)
 血管をかなり強力にしめあげるバソプレシンは(ステロイド等に比して)どうも日本では好まれないようであるが(私自身は経験がないが,四肢疎血で痛い目にあったことがある施設がそこそこあるようである),RCTは存在する.

 敗血症罹患初期は血中バソプレシン濃度は一過性に上昇し,その後徐々に低下することが知られている(Crit Care Med 2007; 35: 33-40).NAとバソプレシンを比較したVASST study(N Engl J Med 2006; 354: 2564-75)では,28日死亡率に有意差がでなかったが,サブ解析で低用量ステロイド療法を施行しなければならないような難治性warm shockにおいては,バソプレシンはNAより28日死亡率を有意に低下させたと報告している(Crit Care Med 2009; 37: 811-8).実際,カテコラミン抵抗性の患者にNA単独とNA+バソプレシン併用を施行・比較検討したところ,併用した方が頻脈は減少し,平均動脈圧や心拍出量が増加,腸管血流が維持できたと報告している(Circulation 2003; 107: 2313-9).また,バソプレシンには尿量とクレアチニンクリアランスを増加させることが報告されている(Anesthesiology 2002; 96: 576-82)

 本ガイドラインでは2報のメタ解析を行っており,死亡率,合併症発症率に有意差ないがバソプレシン投与群が優位な傾向,ICU在室日数は有意に約1日短縮という結果であり,おそらく益が害を上回ると判定されている.SSCG 2012では「平均動脈圧(MAP)を上昇させる,またはノルアドレナリンを減量する目的で,ノルアドレナリンにバソプレシン(0.03U/min)を追加してもよい(Ungraded).」敗血症による血圧低下に対して初期に選択される昇圧剤としては低用量バソプレシンは推奨されず,0.03-0.04 U/min以上のバソプレシンは(他の昇圧剤で適切な平均動脈圧が得られない場合の)代替療法として温存すべきである(Ungraded).」とされている.
CQ7-12.敗血症性ショックの心機能不全に対して,ドブタミンを使用するか?

A.十分な輸液とノルアドレナリン投与を行っても循環動態の維持が困難であり,心機能が低下している敗血症性ショックにおいては,ドブタミンを使用することを弱く推奨する(EC/C)

※本CQは敗血症によって心機能が低下した状態を想定しており,基礎疾患に心不全や不整脈が存在する場合は,個別の評価,対応が必要である.また,心機能が低下している敗血症性ショックの患者では,循環管理が複雑になるため,集中治療や循環管理に慣れた施設で治療することが望ましい.
 River's EGDTにおいてドブタミンは推奨薬に君臨し続けてきたが,ノルアドレナリン(NA)不応性の際にドブタミン(DOB)使用が妥当か否かを検討したRCTは存在しないまま今日まできている.本ガイドラインで採用したRCTは2報あるが,アドレナリン(AD)がからんでおり,「AD vs NA+DOB」と「AD+NA vs DOB+NA」となっており,ややPICOとは異なるが,検討を行っている.これらの結果は,各アウトカムに有意差はないもののDOBがある群の方が優れている傾向がみられている.さらに,難治例であるが死亡率が40%前後にとどまっていることも考慮し,ドブタミンを条件つきで弱く推奨するとしている.また,ここでも敗血症性心筋症について触れている.

 なお,SSCG 2012では「以下の場合,ドブタミンを投与開始または(使用しているなら)昇圧剤に追加して20μg/kg/minまで投与することを推奨する.(a) 心充満圧は上昇しているが低心拍出状態が疑われる心筋機能障害,(b) 適切な血管内容量と適切な平均動脈圧であるにもかかわらず,組織低灌流徴候が持続している場合(Grade 1C)」とやはり条件付きとなっている.

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by DrMagicianEARL | 2017-01-11 20:38 | 敗血症 | Comments(0)

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