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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

カテゴリ:敗血症( 135 )

■近年,ICU患者の鎮静の研究がさかんで,近年の知見では①ベンゾジアゼピンは避けた方がいい,②鎮静による抗炎症作用が期待できる,③デクスメデトミジンはせん妄を減少させる可能性がある,などが主に分かっています.

■昨日,人工呼吸器を要する敗血症患者へのデクスメデトミジンを検討した本邦8施設共同RCTであるDESIRE trialがJAMA誌にonline firstでpublishされたので御紹介します.サンプル数201例であり,検出力不足のためか死亡率や人工呼吸器非装着期間に有意差はなし,良好な鎮静管理はデクスメデトミジンの方が有意に多く,サブ解析ではAPACHEⅡスコア23以上の重症例に限定するとデクスメデトミジンが有意に死亡率を改善するという結果でした.

■この結果,いろんなことが言えるとは思います.まず第一に死亡率の絶対差が8%もあることです.サンプル数不足のため統計学的有意差はありませんが,臨床的には無視できない大きな差です.問題はこの8%が偶然の産物なのかですが,過去の報告を見ると,ICU患者を対象とした16報RCTのメタ解析であるCrit Care Med 2014; 42: 1442-54においては死亡リスクをアウトカムとしてデクスメデトミジンはOR 0.90,95%CI 0.76-1.06で改善傾向を示しており,本研究結果の効果推定値を考慮しても非一貫性はほぼないものと考えられ,偶然ではないであろうと推測できます(ただこのメタ解析は患者集団や介入の統一性が乏しく,もう少し絞り込んだシステマティックレビューが必要だろうとは思います).

■サブ解析ではAPACHEⅡスコア23以上でデクスメデトミジン群が有意に死亡率を改善しています.これは昨今の集中治療領域での研究でよく見られる「重症例ほど死亡率改善効果が得られやすい」と矛盾しないものです.ただし,確かにAPACHEⅡ≧23と<23とで効果推定値のベクトルは真逆ですが,95%信頼区間は半分ほど重なっています(なのでおそらく交互解析をしても有意差はでません).サブ解析はあくまでも恣意的に選んだ患者集団ですから,これをもってAPACHEⅡスコア23以上に対象を絞って再度RCTをやり直しても有意差がつくとは限りません(特に集中治療領域ではサブ解析を元にRCTを組んで有意差がだせた研究はほとんどありません).

■では,さらなるRCTを組むとしたらどれだけサンプル数を集めるかですが,ICU患者の死亡率が30%以下に突入している昨今,統計学的有意差という意味では限界が見えると最近感じています.差がまずつかないため,p値に縛られない解釈が必要だとは思います.例えば今回と同じデザインで行うならば,効果推定値0.69(相対死亡リスク31%減少),対照群の死亡率30.8%と仮定して死亡率で統計学的有意差を得るためにはサンプル数は約1000例は必要です.こんなサンプル数は日本だとまず無理でしょうし海外でもできるのはANZICSぐらいじゃないでしょうか?

■もしサブ解析結果をそのまま信じるなら,効果推定値0.39(相対死亡リスク61%減少),対照群死亡率が40%と仮定した場合120例で済みますが(と言っても患者集団を絞っているので患者登録期間は今回より長期化しやすくなってしまいますので,試験参加施設を増やす必要があります),前述の通りサブ解析を元にしたRCTはある意味博打です.次の研究でどのようなデザインを組むのかは悩ましい話だと思いますが頑張っていただきたいです.できればPICSの評価も・・・
敗血症で人工呼吸管理を要する患者における死亡率と人工呼吸器非装着日数におけるデクスメデトミジンの効果:無作為化比較試験(DESIRE trial)
Kawazoe Y, Miyamoto K, Morimoto T, et al; for the Dexmedetomidine for Sepsis in Intensive Care Unit Randomized Evaluation (DESIRE) Trial Investigators. Effect of Dexmedetomidine on Mortality and Ventilator-Free Days in Patients Requiring Mechanical Ventilation With Sepsis: A Randomized Clinical Trial. JAMA 2017, Mar21 [Epub ahead-of-print]

Abstract
【背 景】
デクスメデトミジンは人工呼吸管理下の患者に鎮静作用を与えるが,敗血症患者の死亡率や人工呼吸器非装着日数への効果についてはよく研究はされていない.

【目 的】
デクスメデトミジンによる鎮静戦略が人工呼吸管理を受ける敗血症患者の臨床アウトカムを改善できるかについて検討する.

【方 法】
本研究は2013年2月から2016年1月までに日本の8つの集中治療室において行われた,少なくとも24時間の人工呼吸管理を要する成人敗血症患者201例を連続的に登録したオープンラベル多施設共同無作為化臨床試験である.患者はデクスメデトミジンによる鎮静(n=100)またはデクスメデトミジンを用いない鎮静(対照群;n=101)を受ける群に無作為化された.両群で他に用いた薬剤はフェンタニル,プロポフォール,ミダゾラムであった.主要評価項目は死亡率と人工呼吸器非装着日数(28日間)とした.Sequential Organ Failure Assessment(SOFA)スコア(1,2,4,6,8病日),鎮静管理,せん妄・昏睡の発生,集中治療室入室期間,腎機能,炎症,栄養状態を副次評価項目として評価した.

【結 果】
203例の患者がスクリーニングされ,201例が無作為化された.平均年齢は69歳(標準偏差14年)であり,63%が男性であった.28日死亡率はデクスメデトミジン群と対照群で有意差はみられなかった(19例[22.8%] vs 28例[30.8%]; HR 0.69; 95%CI 0.38-1.22; p=0.20).28日での人工呼吸器非装着期間は両群間で有意差が見られなかった(デクスメデトミジン群中央値20日[四分位範囲5-24日] vs 対照群中央値18日[四分位範囲 0.5-23日]; p=0.20).デクスメデトミジン群は人工呼吸管理中の良好な鎮静管理率が有意に高かった(範囲17-58% vs 20-39%; p=0.01).その他の評価項目は両群間で有意差は見られなかった.有害事象はデクスメデトミジン群と対照群でそれぞれ8例(8%)と3例(3%)であった.
※本文より:APACHEⅡスコアが23以上のサブ解析ではデクスメデトミジン群が有意に死亡率が低かった(APACHEⅡスコア≧23:OR 0.39; 95%CI 0.16-0.91,APACHEⅡスコア<23:HR 1.13; 95%CI 0.36-3.57).

【結 論】
人工呼吸器を要する患者において,デクスメデトミジンの使用はデクスメデトミジンがない場合に比して死亡率や人工呼吸器非装着日数を統計学的に有意に改善した結果とはならなかった.しかし,本研究は死亡率については検出力不足の可能性があり,追加研究としてさらなる評価が必要である.

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by DrMagicianEARL | 2017-03-22 18:59 | 敗血症 | Comments(0)
Post-Intensive Care Syndrome(PICS)~Life after ICU~ (1)総論
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■PICS「ピックス」という言葉を聞いたことがあるだろうか?PICSはPost-Intensive Care Syndromeの略であり,一言で言えば「ICU患者の後遺症」である.「ICU退室後の慢性期の概念なのであれば救急・集中治療医は関係ない」と思われるかもしれない.しかし実際には,ICU在室中も深くかかわってくる,近年登場した重要な概念である.ここにPICSについて概説する.
※本ブログ管理人のPICSに関連したeconomic COIとして,Pfizer株式会社より講演料,丸石製薬,日本静脈経腸栄養学会より原稿料を受け取っている.また,Academic COIとして日本集中治療医学会/日本救急医学会による日本版敗血症診療ガイドライン改訂特別委員会(PICS/ICUAWワーキンググループ),日本集中治療医学会による早期リハビリテーション検討委員会の集中治療における早期リハビリテーション~根拠に基づくエキスパートコンセンサス~(ICUAWワーキンググループ)に所属している.

1.ICU患者のアウトカムをどうとらえるか?

■以下に2つの症例を提示する.
症例1.80歳女性.ADL自立,認知症なし,糖尿病既往.急性腎盂腎炎による敗血症性ショックでICUに入院,APACHE II score 30点,SOFA score 12点.28日後も生存.

症例2.80歳女性.ADL自立,認知症なし,糖尿病既往.急性腎盂腎炎による敗血症性ショックでICUに入院,APACHE II score 30点,SOFA score 12点.28日後も生存.
この2つの症例は1字1句まったく同じであり,いずれも治療によって28日間生存している.次に各症例の2年後はどうなっているだろうか?
症例1.車椅子生活となり,認知症が進行し,ADL低下による誤嚥性肺炎の入退院を繰り返し,心不全を併発して死亡.

症例2.杖歩行ではあるが外出も可能.認知症はごく軽度で,来週家族と旅行に行く.
この2つの症例は何が違ったのか?年齢,背景,既往,疾患,重症度すべて同じにもかかわらず,2年後にこのような違いがなぜでてくるのであろうか?

■集中治療の進歩により敗血症の予後は大きく改善し,集中治療は次なる目標に舵を切り始めている.近年,ICU患者の死亡率は28日死亡率だけでなく90日死亡率でも評価している報告が多い.これは,28日死亡率はプライマリアウトカムとしては妥当でない可能性が指摘されており[1],退院後もQOLの障害は続き,これが死亡率に影響を与える可能性がある.実際に,初期治療が不十分なケースや臓器不全を残したケースにおいては28日以上生存することも珍しくはなく,90日という期間で見れば28日死亡率より悪化しうることはよく知られている事実である.また,退院後でも後遺症が発端となって状態が悪化して再入院,死亡に至るケースなどもある.このことから,より長期的な患者状態の評価をアウトカムとする流れがでてきている.

2.長期的アウトカムに影響を与えるのは疾患そのものによる侵襲だけか?

■Nesselerら[2]はフランス単施設での敗血症性ショック96例の6ヶ月の長期予後を検討したところ,6ヶ月死亡率は45%であり,生存者は死亡者に比べて,有意に若く,乳酸値とSAPSⅡが低く,腎代替療法やステロイド使用頻度が少なく,入院期間が長い傾向があった.一方で,生存者でも6ヶ月後のQOLは低下していた.

■さらに,近年,敗血症をはじめとする,ICU退室後の生存者の長期的機能予後について非常に多数の観察研究が報告されるようになっている.例えば,ICUからの生存患者は長期的な認知機能や運動機能を悪化させる[3,4],PTSDの発生はレイプ,戦争の次にICU入院が多い[5,6],重症敗血症生存者は非重症敗血症患者と比較して1年間の福祉利用が増加する[7]など,ICU退室後の長期的な機能予後やQOLの低下を示唆する報告は多い.

■これらの長期的アウトカムの悪化について,「ICUに入室する患者は疾患そのものが重症なのだから,後遺症で長期的機能予後が悪化することは仕方がない.」とこれまで考えられてきたが,はたしてそうであろうか?ひとつの研究を紹介する.Givensら[8]は,米国の22の介護施設で認知症が進行した肺炎患者225例の前向き観察研究(CASCADE study)を行っており,登録された患者のうち,DNH希望(Do-not-hospitalized order;入院しない意思表示)が50.7%を占めていた.当然ながら,肺炎であることから抗菌薬を投与することで死亡リスクは80%減少し,DNHの意思表示は死亡リスクを2.21倍に有意に増加させた.一方,この研究はQOLも評価しており,人生最期のQOLを評価したEnd-of-Lifeスコアは抗菌薬投与や入院により著しく低下していたのである.このような身体機能が衰えだしたfrailtyの状態にある高齢患者は医療介入による影響が非常に大きい.すなわち,入院,医療行為もまた侵襲である.ICU患者においては医療介入による侵襲は非常に大きく,疾患そのものによる侵襲以外にも我々医療従事者が患者に与える侵襲の大きさを認識しなければならない.ICUとはいわば「Invasive Care Unit」とも言える.

■このように,集中治療の進歩によりICU生存退室患者は増えたが,同時に機能予後が悪い患者も増えてしまったのである.はたして,集中治療の最終ゴールは救命でよいのであろうか?

3.PICSという概念の提唱

■ここまで述べた通り,急性期は救命できても,長期的には死亡率上昇やQOLが低下しているという事実が無視できない状況であることが明らかにされてきた中で,2010年の米国集中治療医学会(SCCM;Society of Critical Care Medicine)の合同カンファレンスにおいて,ICU退室後の長期アウトカムを改善する指針が提示された[9].その中で,PICS(Post-Intensive Care Syndrome;直訳するならば集中治療後症候群)という概念が初めて提唱された.PICSの概念図を以下に示す.
※「集中治療後症候群」は2017年3月時点ではまだ正式な日本語名称としては認定されていませんので,使用する際はご注意ください.
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■PICSはICUで集中治療を受けた生存患者のみならず家族をも巻き込んでしまうこと,呼吸障害や神経筋障害などの身体的障害や認知機能障害のみならず精神的障害も生じうることを重要視している.救命のために不可避な治療行為の侵襲性は想像している以上に患者の長期予後に大きな影響を与えており,救命という短期予後改善の引き換えに医原性の長期予後悪化を伴うというジレンマが生じている.
※なお,用語の定義として,PICSはPost-ICU syndromeと言われる場合もあるが,PICSはICU在室中から生じうるため,この表現は適切ではない.

■ICU患者のPICSを踏まえた転帰の図を示す[10]
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■これまで,ICUで治療を受けたICU患者は救命か治療限界かの2択と考えられてきた.しかし,治療成績が向上し,多くのICU患者が救命されるようになってきた中で,ICU退室後に一般病棟に移ってそのまま軽快退院し,社会復帰するとは限らない患者,すなわちPICSに陥った患者も増加してきた.PICS患者には著しい機能低下により余生をどう過ごすかの判断が迫られる患者も存在し,慢性期のEnd-of-Lifeケアの対象となることがある.その一方で,リハビリテーションなどを積極的に行い,PICSから社会復帰を目指すこともできる.これまで救命のみを目指してきた救急・ICUの治療から脱却し,その先にある社会復帰を目指す上でPICSという概念は非常に重要である.

■現在,救急・集中治療分野において,PICSはEnd-of-Lifeと双璧をなす新たな課題となっているが,まだまだ質の高いエビデンスは少ない.Gaudryら[11]は2013年に報告された重症患者の112のRCTをスクリーニングしたところ,ハードアウトカム(死亡率,退院後のQOLと機能予後)を主要評価項目で報告していたのは27報(24%)であり,そのうち死亡率をアウトカムとしていたのが21報であり,機能予後とQOLはそれぞれ4報,2報しかなかった.598の副次評価項目でも,ハードアウトカムは133個(22%)にとどまり,死亡率が92個に対してQOLは20個,機能予後は21個であった.全体で見ても,ICU退室後のQOLや機能予後を評価していたRCTは11報(10%)に満たなかったとしている.

■また,2012年に発表された日本版重症敗血症診療ガイドラインもSSCG 2012やSSCG 2016にもPICSに関しては一切触れられていない.しかし,2017年に発表された日本版敗血症診療ガイドライン2016[12]においては,PICSは新たに大項目として追加されており,世界で初めてPICSをガイドラインで取り上げている(現時点では概説と早期リハビリテーション推奨に留まる).また,ガイドラインではないが,Global Sepsis Alliance(GSA;世界敗血症同盟)はWorld Sepsis Dayを通じて既に2014年からPICSを強調しており,GSA日本支部である日本集中治療医学会GSA委員会でもホームページを通じてPICSに関する情報を提供している[13]

4.PICSの原因となる医療介入と予防・治療

■長期アウトカムに影響を与える因子は数多くの報告があり,またそれらの因子に影響を与える因子も様々であるため,PICSの原因は非常に多岐にわたる.つきつめていけば,ほとんどすべての医療介入はPICSの原因となりうるのである.これらの医療介入側の原因を大きく3つに分けるならば,①検査・治療・ケア因子,②環境因子,③精神因子が挙げられる.詳細は各論で述べるが,大まかな内容を以下に示す.

■①検査・治療・ケア因子としては,各種薬剤の副作用,過剰輸液,血液浄化療法,挿管人工呼吸,各種カテーテル,各種血液製剤,体位変換,気道吸引,各種侵襲的検査などであり,ほぼすべてが何らかの侵襲を伴う.これらの対策で考えられるものとして,根拠の乏しい治療の回避,低侵襲治療,ABCDEバンドルを活用した人工呼吸器・ICU早期離脱,PADガイドラインを活用したせん妄予防,リハビリテーション,各種ルーチンの見直しなどが考えられる.

■②環境因子としては,アラーム音,光,閉塞空間,ICU環境菌による二次感染リスクなどがある.これらの対策としてICU環境整備,耳栓,音楽,アイマスク,接触感染予防の徹底などがある.

■③精神因子としては,不眠,ICU滞在による精神ストレス,自身の病状や社会的・経済的背景等に対する不安などがある.これらの対策として,患者や家族のメンタルケア,日記をつける,面会時間を見直す,などがある.

5.PICSの課題,エビデンスの注意点

■PICSへの適切な予防介入を行う以上はPICSそのもののリスク因子を知る必要があるが,様々な課題が山積している.

(1) 研究デザインのバイアス
■特定の医療介入が長期アウトカム悪化の原因となりうることを示唆する研究は多数存在するが,これらには注意が必要である.PICS関連を主要評価項目として検討したRCTは実はほとんど存在せず,観察コホート研究かRCT二次解析研究(多数の脱落例が生じる可能性あり)しかない.すなわち,質の低い研究結果にもとづいていることになる.これらの研究デザインでは種々の交絡因子の排除が困難であるがためにRCTと結果に乖離が生じうる[14]

■さらに,これらの研究では多変量解析を用いた研究が多いが,事後で組み込む変数を決定しているために恣意的バイアスがかかることになる.また,統計学的処理の限界により,重症患者に優先的に行われる医療介入が長期予後を悪化させるという偏った結果を招いてしまう懸念もある.

■近年,Propensity Score matching解析[15]により観察研究の質を高める手法もとられているが,解釈に注意を要する[16].この手法は,患者の背景因子をもとに,特定の治療介入が行われる確率(割り付け確率)を多重ロジスティック解析を用いて算出したスコア(Propensity Score:傾向スコア)を用いた解析であり,このスコアの近い患者同士(≒介入を受けるか否かがランダム)をマッチングしてペアを作ることで介入群と非介入群の背景をそろえることができる.ただし,できる限り多くの共変量を組み込まなければならないこと,マッチングの結果多くの症例が削ぎ落とされてしまうため母集団を反映するかどうかの妥当性が乏しくなりやすいこと(集中治療領域ではほとんどの研究が1/3~1/10まで削ぎ落とされている),マッチング後の患者背景がどちらかの群に偏ってしまうため観察研究のメリットであるリアルワールドの患者層と乖離が生じること,RCTに比してeffect sizeに乖離が生じる[17-20]ことなどの問題点がある.

(2) 先入観によるバイアス
■我々医療従事者は先入観によるバイアスが常にかかってくることがある.例えば「おそらく標準レベルよりもさらに強化された早期リハビリテーションはいいものだろう」もRCTで検証すると予後が悪化したという報告が近年でてきている[21,22].本邦ではRCTを行うことは難しいが,かといって観察研究のみで検証をすませてしまうと,このような逆効果などを見逃してしまう可能性がある.

(3) PICSをとりまく国・地域ごとの違い
■長期機能予後の評価に伴う多数の交絡因子の存在による信頼性の限界も存在する.そこには社会的要素もおおいに関与してくる可能性もあり,国や地域,患者の背景(医療福祉,宗教,文化,経済,社会,政治法律)にも左右されうる.このため,日本独自の長期予後の検討も必要である.しかしながら,長期予後の評価は追跡調査が必要なため非常に難しく,特にコホートシステムが乏しい本邦ではさらに困難となることが予想される.

■それを補助する手段としてDPC診療データの解析が目安になりうるが,DPC診療データは検査値などが含まれず,病名がアップコーディングされているケースもあるため,評価が難しい側面を有する.これらのことから長期予後の現状を把握するのは困難といえる.最良の評価方法はRCTということになるが,長期的に追跡しながらQOLを評価するアンケート調査を行うのは非常に難しい.現実的には大規模かつ質の高い前向きコホート研究に頼らざるを得ないと推察される.

(4) 治療ゴール設定
■PICSとなった患者が全員改善できるわけではない.医療の限界は必ず存在するため,そのような限界につきあたった患者においてはEnd-of-Lifeケアへの転換も必要である.いわゆる終末期とも言える状況の患者に栄養やリハビリテーションの積極的介入を行うことは合理的ではない.ICU患者においては,PICS予防・ケアによるQuality of LifeとEnd-of-LifeケアによるQuality of Deathを患者ごとに考える必要性がある.

(5) 代替アウトカムの解釈
■近年のPICSに関する報告や学会発表で多く見られるアウトカムは早期離床,せん妄,人工呼吸器装着期間,ICU在室日数,6分間歩行距離,ICUAWなどである.これらは確かにPICSを反映するのではないかと考えられているものではあるが,あくまでもPICSの短期代替アウトカムに過ぎない.PICSの真のアウトカムはPICS(退院後の各種機能予後)であり,そのような指標はある程度存在する.短期代替アウトカムはあくまでもICU介入しか反映せず,ICU退室後の切れ目ないケアがなければその効果は消える可能性もある.また,ICU退室後から退院後6ヶ月後,1年後といった長期機能予後評価には多数の交絡因子が関与しうるため,現時点では短期代替指標は確実にPICSを反映しうるものではないことに注意が必要である.

(6) その他
■その他の問題点として,PICSの実態を知るには日本はサーベランスシステムが脆弱であること,ICUでのリハビリテーションへの無理解(いまだにICUリハがレセプトで切られる地域が存在する),超高齢化社会における介入限界の問題,医療予算(診療報酬改訂)やソース(PT/OT/ST/施設)の確保が困難などがあげられる.

6.PICSの今後の展望

■今後行っていくこととして,まずPICSの実態を知るためのサーベランスシステムの構築である.そして,それらのデータからリスク因子等を抽出し,診断基準となるentry criteriaを設定しなければならない.その上でPICSへの予防・治療介入の厳密な研究を走らせる必要がある.

■現時点ではまだまだ定まっていないことだらけであるが,まずはPICSの周知が最優先であると米国集中治療医学会も考えているようである.同学会では様々な学会・団体を交え,2012年に2回目のステークホルダーカンファレンスを行った[23].そこでは,PICSの周知を進めること,ICU退室後も切れ目ないサポート体制を構築すること,そしてPICSの研究のための研究機関提携と資金確保の重要性が強調された.以下に今後行われるべきPICSの研究の分類を示す(2回目のカンファレンスより日本語に改変).
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■長期予後評価においてはQALYs[24]という概念がある.これはとりわけ薬剤経済学(Pharmacoeconomics)において重要視されている.QALYs(Quality Adjusted Life Years;質調整生存年)とは,生存年数とQOLを統合した指標である.すなわち,横軸に生存年数,縦軸にQOLを設定したときのKaplan-Meier曲線下面積がQALYsに相当する.現時点では目安となるような具体的数値目標設定は困難な状況にあるが,概念として知っておくとよいものである.

■今やPICSはEnd-of-Lifeと双璧をなす集中治療領域の新たな課題となっており,入院前から退院後までより幅広い視点での重症疾患のマネージメントが要求される時代に舵が切られている.PICSの患者は今後さらに増加することが予想されるが,PICSの予防を行うことが当たり前の時代が来ることを期待する.

→Post-Intensive Care Syndrome(PICS)~Life after ICU~ (2)各論:身体障害(4月上旬頃UP予定)

[1] Winters BD, Eberlein M, Leung J, et al. Long-term mortality and quality of life in sepsis: a systematic review. Crit Care Med 2010; 38: 1276-83
[2] Nesseler N, Defontaine A, Launey Y, et al. Long-term mortality and quality of life after septic shock: a follow-up observational study. Intensive Care Med 2013; 39: 881-8
[3] Pandharipande PP, Girard TD, Jackson JC, et al; BRAIN-ICU Study Investigators. Long-term cognitive impairment after critical illness. N Engl J Med 2013; 369: 1306-16
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[6] Davydow DS, Gifford JM, Desai SV, et al. Posttraumatic stress disorder in general intensive care unit survivors: a systematic review. Gen Hosp Psychiatry 2008; 30: 421-34
[7] Prescott HC, Langa KM, Liu V, et al. Increased 1-year healthcare use in survivors of severe sepsis. Am J Respir Crit Care Med 2014; 190: 62-9
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[11] Gaudry S, Messika J, Ricard JD, et al. Patient-important outcomes in randomized controlled trials in critically ill patients: a systematic review. Ann Intensive Care 2017; 7: 28
[12] 日本集中治療医学会/日本救急医学会合同日本版敗血症診療ガイドライン2016改訂特別委員会.日本版敗血症診療ガイドライン2016(J-SSCG 2016). http://敗血症.com/assets/jjsicm24suppl2.pdf
[13] 日本集中治療医学会GSA委員会(Global Sepsis Alliance JAPAN).敗血症.com(日本集中治療医学会敗血症情報サイト).http://xn--ucvv97al2n.com
[14] Anglemyer A, Horvath HT, Bero L. Healthcare outcomes assessed with observational study designs compared with those assessed in randomized trials. Cochrane Database Syst Rev 2014 ; 4 : MR000034
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by DrMagicianEARL | 2017-03-15 20:05 | 敗血症 | Comments(0)
「敗血症.com」(Global Sepsis Alliance JAPANのサイト)の御紹介
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■世界で3秒に1人が敗血症で亡くなっている,この危機的状況を改善させるため,「Stop Sepsis, Save Lives(ストップ敗血症,命を救え)」をスローガンに,敗血症患者のためにより良い管理体制を整えることを目的とし,致死性疾患である敗血症に対する認識を深めるための世界的活動を行う非営利団体である世界敗血症同盟(GSA;Global Sepsis Alliance)が2012年に設立されております.日本集中治療医学会がGSA日本支部としてGSA委員会を設立し,2015年にはホームページ「敗血症安心プラネット」を開設しております.GSAについては詳しくは以下の本ブログ記事をご参照ください.
http://drmagician.exblog.jp/24135078/

■このたび,2017年3月にホームページが大幅リニューアルとなり,ホームページの名前は「敗血症.com」に変わっております.コンテンツも大幅に増え,一般市民向けのQ&Aを用意した他,医療従事者向けコンテンツとして,日本版敗血症診療ガイドライン2016のpdfファイル,敗血症啓発パンフレット,敗血症の定義・診断の変更に関するスライドを置いております.今後も内容を充実させるべく適宜更新を行っていく予定です.是非ご参照ください.ホームページにはご意見フォームもありますので,敗血症についてもっと知りたいこと,このようなコンテンツを作ってほしい等の御意見もお待ちしております.
※私事ですが,このたび本ブログ管理人はこのGSA委員会に入ることとなりました.
敗血症.com(日本集中治療医学会敗血症情報サイト)
http://xn--ucvv97al2n.com


■また,今回,新たにGSA JAPANとして,シンボルマークを作りました.
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■新しいシンボルマークは5枚の花弁をもつ花です.敗血症の予防から社会復帰までカバーすべく,「予防」「早期発見」「感染症治療」「全身管理」「リハビリテーション」の5つの柱を花で表しています.これらをよりスムーズに進めていくには我々医療従事者のみではなく,一般市民までまきこんだ周知が必要です.今後のGlobal Sepsis Alliance JAPANの活動に一施設でも,一人でも御協力いただければ幸甚です.
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by DrMagicianEARL | 2017-03-13 17:45 | 敗血症 | Comments(0)
■集中治療領域においては,非外傷性の貧血に対しては制限輸血と非制限輸血でアウトカムは同等,もしくは制限輸血の方が好ましいという結果が各RCTで得られており,その結果の目安として,Hb<7.0 g/dL(心疾患を有する患者では<8.0 g/dL)を輸血開始指標とすることが望ましく,ガイドラインでもそのように推奨されています.今回紹介する研究は,敗血症性ショックを発症した癌患者での輸血制限戦略の検討です.結果は,死亡率において制限戦略の方が予後不良の傾向がみられたというものです.

■ただし,こういう結果となった要因やlimitationは多数あると思います.ただでさえ敗血症にも感染巣による治療戦略の違いなどの要因があることに加え,癌患者という集団を対象にする以上,StageやPS,癌の種類も多彩で,敗血症で救命しても癌で死亡しうる(実際に90日死亡率は6~7割と非常に高い数字),癌患者集団はベースラインのHb濃度が低い,ということを考慮すると,単施設での300例では検討不十分となると思われます.また,輸血開始基準に関係なく,組織低灌流(高乳酸血症,低ScvO2)であるほど輸血で有意な改善が得られるという報告(Rev Bras Ter Intensiva 2015; 27: 36-43)もあり,敗血症病態でもこれが関与している可能性もあり,詳細な検討が必要です.

■もっとも,これまで制限群が非制限群よりも好ましい結果が得られていた根拠の大きな部分として白血球除去製剤の普及率が低さがあり,これは近年大きく変わっています.ABC study(JAMA 2002; 288: 1499-507)とSOAP study(Anesthesiology 2008; 108: 31-9)では白血球除去製剤の普及率は19%から76%に向上しており,それに伴って輸血を行うことによる有効性が増加しています.また,輸血製剤による感染症リスクも製剤管理の改善により大きく減少しました.よって,輸血の安全性が向上していくと,推奨されるHb閾値も変わる(上がっていく)可能性は否定できません.
重症疾患(敗血症性ショック)に罹患した癌患者における非制限vs制限輸血戦略:重症疾患癌患者における輸血必要性の無作為化比較試験
Bergamin FS, Almeida JP, Landoni G, et al. Liberal Versus Restrictive Transfusion Strategy in Critically Ill Oncologic Patients: The Transfusion Requirements in Critically Ill Oncologic Patients Randomized Controlled Trial. Crit Care Med. 2017 Feb 24. [Epub ahead of print]
PMID: 28240687

Abstract
【目 的】
敗血症性ショックの癌患者において,赤血球輸血の非制限戦略と比較して,制限戦略が28日死亡率を減少させるかについて評価した.

【方 法】
本研究は大学病院で行われた単施設二重盲検無作為化比較試験である.対象はICU入室から6時間以内の敗血症性ショックの成人癌患者とした.患者はICU在室中に赤血球輸血の非制限群(ヘモグロビン濃度<9g/dLで輸血)または制限群(Hb<7g/dL)に無作為化に割り付けされた.

【結 果】
患者は149例が非制限群に,151例が制限群に無作為割り付けされた.非制限群の患者は制限群の患者よりもより多くの赤血球輸血単位を受けていた(1[0-3] vs 0[0-2] 単位; p<0.001).無作為化から28日後の時点でICU在室期間や入院期間に差がなく,非制限群の死亡率(本研究の主要評価項目)は45%(67例),制限群は56%(84例)であった(HR 0.74; 95%CI 0.53-1.04; p=0.08).無作為化から90日後の時点で死亡率は非制限群の方が制限群よりも低かった(59% vs 70%,HR 0.72; 95%CI 0.53-0.97; p=0.03).

【結 論】
敗血症性ショックの癌患者においては,輸血制限戦略よりも非制限戦略の方が生存において好ましい結果が観察された.本結果は,既知の仮説および他の研究とは反対の結果であり,確認する必要がある.

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by DrMagicianEARL | 2017-03-02 15:57 | 敗血症 | Comments(0)
■近年,ICU患者や心筋梗塞患者,PCAS患者において高酸素血症は死亡率悪化等有害であるとする報告が多数でてきており,当ブログにおいても緊急気管挿管の場合を除けば高酸素血症に一利なしどころか有害であると書いてきました.今回紹介する論文は敗血症性ショックでは高酸素血症にしてみるとどうだろうというRCTです.そんなの予後が悪化するに決まってるのになぜこんな研究が,と思ったら研究開始が2012年なんですね.当時は高酸素血症の有害性はそこまで知られてなかった時です.全身臓器の虚血状態,酸素代謝異常が生じる敗血症性ショックで高酸素状態にすれば虚血を改善できるんじゃないか,という考えは確かに当時聞いたことがあります.案の定結果はFiO2 1.0に設定した高酸素血症群で死亡率増加傾向,重篤な有害事象増加,ICUAW増加傾向,無気肺増加という散々な結果で,中間解析結果から442例登録時点で本研究は早期中止となりました.まあ当然ですね.

■一方,この研究は2×2機能RCTとして,初期輸液蘇生の輸液として高張性食塩水と生理食塩水の比較を見ています.高張食塩水の過去の研究では出血性ショック,頭部外傷によるICP降下作用,広範囲熱傷初期における必要輸液量の軽減,腹部コンパートメント症候群などでどうやらいいらしい,というエビデンスがありますが,これらの食塩水濃度はおおむね7.5%のものが多く,この論文では3%が用いられています.こちらも予後を改善させるような効果はなさそうな結果です.
敗血症性ショック患者における高酸素血症と高張食塩水(HYPERS2S):多施設共同2×2機能無作為化比較試験
Hyperoxia and hypertonic saline in patients with septic shock (HYPERS2S): a two-by-two factorial, multicentre, randomised, clinical trial. Lancet Respir Med 2017 Feb 14. [Epub ahead of print]

Abstract
【背 景】
敗血症性ショック患者において,吸入酸素濃度(FiO2)を増加させた人工呼吸および高張生理食塩水による輸液蘇生の使用に関する研究は不十分である.我々はこれらの介入が死亡率の低下に関連しているかどうかを検討した.

【方 法】
本研究はフランス22施設における人工呼吸管理を受けた18歳以上の敗血症性ショック患者を登録した多施設共同2×2機能無作為化臨床試験(HYPERS2S)である.患者は,ランダムサイズの順列ブロックを使用して,施設と急性呼吸窮迫症候群の有無によって層別化されたコンピュータによる無作為化リストによって,無作為に1:1:1:1の4つのグループに割りつけられた.患者は,最初の24時間でオープンラベルでFiO2 1.0で管理(高酸素血症群)または動脈血ヘモグロビン酸素飽和度88-95%を目標とするFiO2管理(正常酸素血症群)による人工呼吸を受けた.また,二重盲検下で,最初の72時間の間の輸液蘇生において,3.0%生理食塩水(高張群)または0.9%生理食塩水(等張群)のいずれかの280mLボーラス投与を受けた.主要評価項目はintention-to-treat集団における無作為化から28日時点での死亡率とした.本研究はClinicalTrials.govの登録番号NCT01722422で登録されている.

【結 果】
2012年11月3日から2014年6月13日までの間に442例の患者が登録され,各治療群(正常酸素血症群233例または高酸素血症群219例,等張群224例または高張群218例)に割り付けられた.本試験は安全性の理由により早期に中止された.28日死亡率は424例の患者で記録され,高酸素血症群で217例中93例(43%),正常酸素血症群で217例中77例(35%)が死亡した(HR 1.27, 95%CI 0,94-1.72; p=0.12).高張群では214例中89例(42%),等張群では220例中81例(37%)が死亡した(HR 1.19, 95%CI 0.88-1.61; p=0.25).すべての重篤な有害事象発生率においては高酸素血症群(185例[85%])と正常酸素血症群(165例[76%])で有意差がみられ(p=0.02),ICU-AW(24例[11%] vs 13例[6%]; p=0.06)や無気肺(26例[12%] vs 13例[6%]; p=0.04)の患者数は高酸素血症群で倍増していた.生理食塩水の2群間では重篤な有害事象に統計学的有意差は見られなかった(p=0.23).

【結 論】
敗血症性ショックの患者において,高酸素血症を誘導するためのFiO2 1.0の設定は死亡リスクを増加させた.高張性(3%)生理食塩水は生存率を改善させなかった.

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by DrMagicianEARL | 2017-02-25 20:12 | 敗血症 | Comments(0)
■Sepsis-3が発表されてから1年弱がたちました.この新基準はあくまでも後ろ向きデータから検討されたもののため,前向きでの精度評価が必要とされていました.ただ,こんなにすぐに出てくるとは思いませんでしたが・・・発表からわずかな期間で研究デザインを組んで倫理委員会を通し,わずか約2か月後には患者登録スタート,3か月間の間に多国籍多施設でN数を集めてJAMA誌にpublishはさすがとしか言いようがありません.

■さて,結果は,qSOFAスコア2点以上の院内死亡率は24%,死亡予測精度のAUROCは0.8,感度70%特異度79%というのはおおむね私の実臨床でも合致する印象です.さらに,この研究ではqSOFAがSIRS基準や旧基準の重症敗血症よりも死亡予測精度が高いという結果も得られていますが,重症敗血症が「SIRS+乳酸値>2mmol/L」となっていてちょっとこれと比較するのはフェアではないなと思います.これだけで旧基準より優れているとの判断はすべきではないなとは思います.
救急部門での感染症疑いの患者の院内死亡におけるSepsis-3基準の予後予測正確性
Freund Y, Lemachatti N, Krastinova E, et al. Prognostic Accuracy of Sepsis-3 Criteria for In-Hospital Mortality Among Patients With Suspected Infection Presenting to the Emergency Department. JAMA. 2017; 317(3): 301-308

【背 景】
最近,国際的なタスクフォースが敗血症の概念を再定義した.本タスクフォースは,死亡のハイリスク患者の検出のため,全身性炎症反応症候群(SIRS)基準の代わりにquick SOFA(qSOFA)スコアの使用を推奨した.しかしながら,新基準はいくつかの状況で前向きに検証されておらず,救急部門における付加価値はまだ知られていない.

【目 的】
死亡予測としてqSOFAを前向きに検証し,新しい敗血症の基準と以前の基準のパフォーマンスを比較する.

【方 法】
本研究は,2016年5月から7月まで,フランス,スペイン,ベルギー,スイスで行われた国際前向きコホート研究である.30施設の救急部門において,4週間,感染症疑いで救急部門を受診した患者を連続的に登録した.敗血症の旧基準および新基準における全ての変数を収集した.患者は退院もしくは院内死亡までを追跡した.計測はqSOFAスコア,SOFAスコア,SIRSスコアとした.主要アウトカムは院内死亡とした.

【結 果】
1088例の患者がスクリーニングされ,879例が解析に組み込まれた.年齢中央値は67歳(四分位範囲47-81歳)であり,414例(47%)が女性であり,379例(43%)が呼吸器感染症であった.院内全死亡は8%であり,qSOFAスコア2点未満の患者と2点以上の患者の死亡率は3% vs 24%(絶対差21%; 95%CI 15-26%).qSOFAはSIRSおよび重症敗血症の両方よりも院内死亡予測パフォーマンスが良好であり,受信者作動曲線下面積(AUROC)は0.80(95%CI 0.74-0.85) vs 0.65(95%CI 0.59-0.70)であった(p<0.001; AUROC上昇 0.15; 95%CI 0.09-0.22).死亡におけるqSOFAスコアと重症敗血症のハザード比は.6.2(95%CI 3.8-10.3)vs3.5(95%CI 2.2-5.5)であった.

【結 論】
感染症が疑われた救急部門の患者において,qSOFAスコアの使用はSIRSや重症敗血症基準に比して院内死亡の予後予測精度が優れていた.本知見は,救急部門におけるSepsis-3基準を支持するものである.

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by DrMagicianEARL | 2017-01-18 18:29 | 敗血症 | Comments(0)
CQ7.初期蘇生・循環作動薬
 敗血症性ショック治療のコアとなる部分である.30mL/kg以上の初期急速輸液負荷とノルアドレナリンをベースとして,第2選択薬はアドレナリン,バソプレシン,ドブタミンのいずれかを選択,モニタリングは既知の指標をいずれか用いて総合的に評価する,という内容である.治療に不慣れな施設であれば,やはりEGDTプロトコルが無難だとは思うが・・・
CQ7-1.初期蘇生にEGDTを用いるか?

A.敗血症,敗血症性ショックの初期蘇生にEGDTを実施しないことを弱く推奨する(2A)

※ここでのEGDTはRiver'sらのEGDTであり,modified EGDTは含めない.
 2014年から2015年にかけてNEJM誌に相次いでProCESS,ProMISe,ARISEの3つの大規模RCTでは,River's EGDTは標準ケアと比して死亡率に有意差なしという結果であったことからこのような推奨となっている.おそらく,まもなく発表になるSSCG 2016でも同様の推奨になると思われる.

 ただし,繰り返す通り,ここでのEGDTとは2001年に報告されたRiver'sらのEGDTプロトコルのことである.近年,CVPやScvO2の有用性が疑問視され乳酸値が重要視されて以降,River’sらのプロトコルをそのまま用いている三次施設はあまりなく,modifyしたEGDT,もしくは心エコー等適宜モニタリングした上での主治医の循環管理スキルで診療にあたっていることが多い.特に前者のmodified EGDTについては本ガイドラインは含めていない.

 また,3つの大規模RCTやそれ以前の報告を見て分かる通り,River's EGDTはあくまでも標準ケアと死亡率に有意差がなかっただけで,死亡率が悪化したわけではない.ここでの標準ケアとは循環管理に長けた集中治療医のスキルに担保された管理であり,ガイドラインではその状況下でRiver's EGDTは害が益を上回る可能性があると判断している.だがこれは,循環管理に長けていなくともRiver's EGDTを行えば集中治療医と同等の治療成績を出すことが可能ともとらえることもできる.

 実際に,これまで数多くの観察研究でRiver's EGDTにより死亡率が改善したとの報告が上がっている.River's EGDTに関してRCTも観察研究も共通して言えるのは,「対照群の死亡率が高い研究ほど有意な死亡率の改善が得られている」である.本来,ガイドラインは専門医以外の,その疾患に不慣れな医師等に標準レベルで診療にあたれるように作られるべきものである.そしてそのようなガイドラインが対象とする医師とは,「対照群の死亡率が高い研究」の方が近い集団であると考えるのが妥当であろう.そういう意味では,そのような医師がRiver's EGDTのプロトコル通りに敗血症性ショック患者の治療を行っていくのは,他にいいモニタリングが確立されていない以上,理に適っているものである.もし,その施設において,敗血症性ショックの死亡率が本邦で報告される死亡率よりも高い(目安として40%以上)のであれば,安易にRiver's EGDTを行わないという選択はすべきではないと思われる.

 どのような循環管理を行うにせよ,血管内容量充填,尿量確保,血圧維持,酸素代謝異常解除をクリアするという目標という意味ではRiver's EGDTと変わらないと言える.
CQ7-2.敗血症性ショックにおいて初期蘇生における輸液量はどうするか?

A.敗血症性ショックにおいて血管内容量減少のある患者の初期輸液は,細胞外液補充液を30 mL/kg以上投与することを推奨する(EC)

※血管内容量減少を評価した後に細胞外液を30 mL/kg以上投与する.
 River's EGDTがRCTで死亡率を改善できなかったことや近年の過剰輸液が予後悪化リスクとなりうるとの指摘がでてきたことで「敗血症性ショックに大量輸液はダメ」と勘違いする人がここ2~3年間SNSでは続出していた.言うまでもなく初期大量輸液は必要なものである.以前に輸液量と死亡の関連性を自施設で後ろ向きに検討したことがあるが,敗血症性ショック疑いで初期大量輸液を行わなかった症例は死亡率100%であった.敗血症性ショック疑いに初期の急速輸液負荷をまったく行わずにカテコラミンだけ流すという対応はほぼ禁忌と言っていい.

 血管透過性亢進と末梢血管拡張による血流分布異常を伴う敗血症性ショックにおいてはある程度の血管内容量充填が必須となる.本ガイドラインでもその根拠論文が提示されている.初期急速輸液負荷なしor少量しか輸液負荷しない,というやり方のままノルアドレナリンを開始すると確かに血圧は上がることもあるが,血管内容量がないまま末梢血管をしめることになり,諸臓器は急速に虚血状態に陥り,臓器障害が進展する.心不全や腎不全がベースにあって初期急速輸液負荷をしないという選択は避けるべきである.また,うっ血を恐れてなのか「200mL/時で輸液」という中途半端な速度で指示する医師を見かけることがあるが,脱水状態であれば有効であっても敗血症性ショックにおいてはほぼ無意味であり,初期急速輸液はあくまでも全開滴下以上の速度(ボーラスと言ってもよい)に近い方がいいだろう.

 なお,急速輸液負荷は中心静脈カテーテルよりも末梢サーフローの方がよいとする考え方がある.これは流体力学(ベルヌーイの法則)によるもので,管腔が短い方が輸液が早く入りやすいという理論である.敗血症性ショック患者は血管が虚脱しており,CV挿入に時間を要することはよくある.よって,末梢2ライン確保して急速輸液を行いつつICUに搬送してからCV挿入でいいものと思われる.
CQ7-3.敗血症の初期蘇生の開始時において心エコーを用いた心機能評価を行うか?

A.敗血症の初期蘇生では,エコーを用いた心機能評価を行うことを推奨する(EC)

※ここで示す「エコーを用いた心機能評価」とは,循環器専門医による詳細な心機能検査ではなく,ベッドサイドで簡易的に行うエコー検査で,心機能(心臓の動き),血管内容量(下大静脈径,心腔内容量)を大まかに測定して初期蘇生の治療方針の決定に役立てることを目的とするものを指す.循環器専門医に限らず,敗血症診療に関わるすべての医師がその手技を習得することが望ましい.
 敗血症性ショックにおける心エコーに関してはRCTによるエビデンスはなく,エキスパートオピニオンとなっている.心エコーが扱えればリアルタイムかつ低侵襲の指標が増えるメリットは大きいと思われる.また,本ガイドライン解説に記載されているように,血管拡張による相対的血管内容量減少によるショックのみならず,敗血症性心筋障害も起こりうることから,心エコーが推奨されるとしている.

 しかしながら,実臨床で「敗血症診療に関わりうるすべての医師がその手技を習得すること」は,たとえ循環器専門医による詳細な心機能検査ではなくともハードルは高いと思われる(それが二次病院の現実である).また,敗血症性心筋障害は重要な概念であるものの,これに対する介入が確立されているわけではない.循環器でも救急・集中治療・麻酔科でもない医師がこの推奨によって突然心エコーを使いこなせるかというと話はまた別である.臨床検査技師に依頼するのもありではあるが,夜間では難しいであろう.また,個人の手技の違いを受けるモニタリング方法でもあるため再現性の問題を有する.個人的には「推奨する」よりも「使用してもよい」くらいのニュアンスでよかったのではないだろうかと考えている.
CQ7-4.初期輸液として,晶質液,人工膠質液のどちらを用いるか?

A.敗血症,敗血症性ショックの初期蘇生に人工膠質液を投与しないことを弱く推奨する(2B)
 ここでの人工膠質液とはヒドロキシエチルスターチ(HES)のことを指す.HESには凝固・止血機能障害,アナフィラキシー様反応,腎障害の懸念があり,特に腎障害が有意に増加したとする報告は多い.また,HESを有効とした報告の多くにかかわっていたのがBoldt J氏であるが,2009年に同氏が報告した論文が捏造であったことが発覚している(Anesth Analg 2011; 112: 498-500).本製剤投与により血管内容量充填が理論上は容易とは考えられるが,RCTではさんざんな結果となっており,本ガイドラインにおけるメタ解析でも,HESによってICU死亡率は減少するものの,90日死亡率,AKI発症率,RRT使用率,RBC輸血投与率は有意に増加する結果となり,害が益を上回るという判定となる.SSCG 2012でも「HESを用いないことを推奨する(Grade 1B)」とより強く否定している.

 ただし,HESに関するほとんどの報告が6% HES(130/0.4)であり(本邦ではボルベン®),本邦で従来から使用されてきたヘスパンダー®,サリンヘス®は海外の報告で使用されたものより低分子の6% HES(70/0.5)であり,報告もなく腎障害の有無などは不明の状態にあり,現時点では本邦では禁忌までとはいかず,慎重投与の状態にある.

 ここでひとつ指摘しておきたい.血管内容量減少の状態では投与したHESの90%は血管内にとどまるが,循環血液量が正常のときは40%しかとどまらないことが知られている(Anesthesiology 2008; 109: 723-40).この違いは,循環血液量が正常の場合,HES投与により血管内容量が増加して血管内皮のglycocalyx構造を弱めることにより血管透過性をむしろ亢進させてしまうためと考えられている.これまでのHESを用いた複数の主要なRCTは,介入群はずっとHESを投与し続けるという,実臨床から見れば非現実的なプロトコルである.当然ながら血管内容量は急速に増大し,血管内充填のレベルを簡単に超えてしまうことは容易に想像でき,益が害を上回る結果となりかねない.実際には,晶質液とHESをうまく組み合わせ,どのタイミングでHESを投与するかまで考慮して投与されるべきものであるが,残念ながらそのようなプロトコルを検討した良質はRCTは存在せず有効性は不明,実際に行われたRCTは両極端な比較を行っていたという経緯がある.
CQ7-5.敗血症性ショックの初期輸液療法としてアルブミンを用いるか?

A.敗血症の初期蘇生における標準的輸液としてアルブミンを用いないことを弱く推奨する(2C).大量の晶質液を必要とする場合や,低アルブミン血症がある場合には,アルブミン製剤の投与を考慮してもよい(EC)
 本ガイドラインのメタ解析では効果推定値として死亡率はRR 0.87であったが,95%信頼区間は1をまたいでいるため益は否定的となっている.ただし,信頼区間の上限は1.02であることから,簡単に効果なしとはとらえられない.GRADEシステム評価であれば,1をまたぐことは不精確性でのマイナスはつくものの,それそのものが推奨ベクトルを決定づけるものではない(p値を考慮しない解釈であるため).本ガイドラインはMINDs2014を採用しているためGRADEとはやや手法が異なる.このあたりを考慮して数値を読み取っていただきたい.

 絶対死亡率に関しては39.3% vs 36.6%であり,絶対差は2.7%.NNTが37であるというのは集中治療領域ではそこまで悪くはない数値と思われ,少なくともある程度の益が存在するだろう.問題は,害が益を上回るかであるが,これまでのRCTの評価ではアルブミン製剤による害が不明であるとしている.これをもって「害が益を上回る」との判定は妥当であるか難しいところであると考える.ここにコストの問題も加わるため,実際に使用するしないは各医師の価値観にゆだねられるところではないかと思われる.エキスパートコンセンサスとして,特定状況下で使用することを考慮してもよいとしており,この一文がある程度のバランスをとっているのかもしれない.
CQ7-6.初期蘇生における輸液反応性のモニタリング方法として何を用いるか?

A.敗血症,敗血症性ショックの初期蘇生においては,用いる指標の限界を考慮して,必要に応じて複数のモニタリングを組み合わせて輸液反応性を評価することを推奨する(EC)

※敗血症の初期蘇生において,特定のモニタリングを推奨するには十分な根拠がなかった.
 CVPがアテにならないと烙印を押された現在,輸液モニタリング方法は戦国時代にある(といっても,初日だけならCVPはアテになる可能性は残されており,そのようなエビデンスもある).本ガイドラインで示すように,SVV,受動的下肢挙上,経肺熱希釈法があるが,比較する対照群がバラバラ等,非直接性に深刻な問題を抱えるほか,各RCTは小規模研究である.これらの結果から上記推奨文になるのは致し方ないことと思われる.

 ただ,私個人では受動的下肢挙上(PLR)テストがどの施設でもやりやすくてオススメではあると考えている.21研究のメタ解析(Intensive Care Med 2016; 42: 1935-47)では,PLRによる心拍出量の変化は,統合感度0.85,統合特異度0.91,AUROCは0.95と高精度であり,PLRによる心拍出量変化の最良閾値は≧10±2%であったとしている.下記も参照されたい.
【文献+レビュー】循環不全における受動的下肢挙上(PLR)による輸液反応性予測(メタ解析)
http://drmagician.exblog.jp/24106425/
CQ7-7.敗血症の初期蘇生の指標に乳酸値を用いるか?

A.敗血症の初期蘇生には,乳酸値を用いた継時的な評価を行うことを推奨する(EC)
 現在既に乳酸値を指標としたEGDTを行っている施設は多いだろう.実際,乳酸値がScvO2より重要と考えている救急集中治療医は多いことが報告されている.また,乳酸クリアランスが大きいほど予後改善に寄与するという報告は複数でてきている.本ガイドラインではPICOに合致するRCTはなかったためエキスパートコンセンサスとしている.ただし,JonesらのLACTATE study(Am J Repir Crit Care Med 2010; 182: 752-61)はRCTであり,サブ解析であれば敗血症患者(4割が該当)での有効性を見ることは可能であり,死亡率改善傾向がみられている.その他の研究も考慮して,乳酸値の継時的評価は益が害を上回ると判断している.SSCG 2012でも「組織低灌流のマーカーとしての乳酸値上昇を伴う患者では乳酸値を正常化させることを目標とした蘇生を提案する(Grade 2C).」としている.

 なお,本ガイドラインでも注意書きがあるが,静脈血で血液ガス分析を行うのは注意が必要である.一般的に動脈血より静脈血の方が乳酸値が高めにでることが知られ,「動脈血乳酸値=静脈血乳酸値ー0.25mmol/L」という計算式もあるが(Eur J Emerg Med 2014; 21: 81-8),差の95%信頼区間は-0.35 to -0.15であり,下限値は決して小さくはなく,また基準値から外れるほどこの差が大きくなることが知られているため,特に敗血症性ショックのような重症患者においては用いるべきではないものと思われる.
CQ7-8.初期蘇生の指標としてScvO2と乳酸クリアランスのどちらが有用か?

A.初期蘇生の指標としてScvO2と乳酸クリアランスのいずれを使用してもよい(EC)
 Jonesらが重症敗血症,敗血症性ショックの患者300例を対象として,EGDTでの初期蘇生目標をScvO2≧70%とする群と乳酸クリアランス≧10%/2hrを目標にする群で比較したRCTを報告しており,院内死亡率は23% vs 17%で統計学的有意差はみられなかったとしている.ただし,その絶対差は6%と開きがあり,乳酸クリアランス群の方が低い傾向である.エビデンスレベルの弱いたった1報のRCTから推奨を出すことは難しいため,エキスパートコンセンサスでいずれでもよいとはなっているが,ScvO2の持続モニタリングはPreSepカテーテルが必要であり,ポイントで計測するならCVから血液採取をしなければならない.実臨床では乳酸クリアランスを用いる方がbetterかもしれない.
CQ7-9.初期輸液に反応しない敗血症性ショックに対する昇圧薬の第一選択としてノルアドレナリン,ドパミンのどちらを使用するか?

A.初期輸液に反応しない敗血症性ショックに対して第一選択薬としてノルアドレナリンを投与することを推奨する(1B)
 これはもうほぼ決着がついた事項といえ,1Bという高い推奨がついている.敗血症性ショック初期は末梢血管拡張を特徴としたwarm shockであり,血管トーヌスを戻す目的でのα1受容体刺激が原則とすべきであり,一方のドパミン(DOA)でα1受容体刺激を期待するためには10γを越える高用量が必要となり,β受容体という不必要な受容体刺激を起こし,不整脈等各種害をきたしうることも考慮すればNAを用いることが病態生理学的に理にかなっており,2012年に報告された敗血症性ショックにおけるNAとドパミン(DOA)を比較したメタ解析(Crit Care Med 2012; 40: 725-30をはじめいくつものメタ解析があり,いずれにおいてもDOAはNAに比して死亡リスクが有意に高い結果となっており,SSCG 2012ではノルアドレナリンが第一選択となっている.
CQ7-10.ノルアドレナリンの昇圧効果が十分でない場合,敗血症性ショックに対してアドレナリンを使用するか?

A.十分な輸液とノルアドレナリン投与を行っても循環動態の維持が困難な敗血症性ショックにはアドレナリンを使用することを弱く推奨する(EC)
 敗血症性ショックにおいてノルアドレナリンとアドレナリンを比較した研究はCATS study(Lancet 2007; 370: 676-84),CAT study(Intensive Care Med 2008; 34: 2226-34)があり,いずれも死亡率等に有意差はみられなかったが,CAT studyのサブ解析では,敗血症性ショック患者においてアドレナリン投与群で有意に頻脈や乳酸アシドーシスが多かったと報告されている.これらを考慮するとノルアドレナリンと比して第一選択として使用すべきではないが,ノルアドレナリンに不応性(0.3~0.5γでも血圧が維持できない)の場合,第二選択薬の候補となりうる(ノルアドレナリン不応性の場合に限定したRCTはない).本ガイドラインでは,心機能が低下した敗血症性心筋症が敗血症性ショックにおいて20-40%合併し,これらがノルアドレナリンに不応性となる可能性があることからもアドレナリン投与が有用な可能性を述べている.

 私自身は頻脈が嫌なのでアドレナリンよりもバソプレシンを優先している.施設によってはアドレナリンを投与しつつ頻脈に対してはβ遮断薬のオノアクト®を使用しているところもあるようである(血圧より先に心拍数を下げる作用があるため).
CQ7-11.ノルアドレナリンの昇圧効果が不十分な敗血症性ショックに対して,バソプレシンを使用するか?

A.十分な輸液とノルアドレナリン投与によっても昇圧効果が不十分な敗血症性ショックに対して,バソプレシンを追加で使用することを弱く推奨する(EC/B)
 血管をかなり強力にしめあげるバソプレシンは(ステロイド等に比して)どうも日本では好まれないようであるが(私自身は経験がないが,四肢疎血で痛い目にあったことがある施設がそこそこあるようである),RCTは存在する.

 敗血症罹患初期は血中バソプレシン濃度は一過性に上昇し,その後徐々に低下することが知られている(Crit Care Med 2007; 35: 33-40).NAとバソプレシンを比較したVASST study(N Engl J Med 2006; 354: 2564-75)では,28日死亡率に有意差がでなかったが,サブ解析で低用量ステロイド療法を施行しなければならないような難治性warm shockにおいては,バソプレシンはNAより28日死亡率を有意に低下させたと報告している(Crit Care Med 2009; 37: 811-8).実際,カテコラミン抵抗性の患者にNA単独とNA+バソプレシン併用を施行・比較検討したところ,併用した方が頻脈は減少し,平均動脈圧や心拍出量が増加,腸管血流が維持できたと報告している(Circulation 2003; 107: 2313-9).また,バソプレシンには尿量とクレアチニンクリアランスを増加させることが報告されている(Anesthesiology 2002; 96: 576-82)

 本ガイドラインでは2報のメタ解析を行っており,死亡率,合併症発症率に有意差ないがバソプレシン投与群が優位な傾向,ICU在室日数は有意に約1日短縮という結果であり,おそらく益が害を上回ると判定されている.SSCG 2012では「平均動脈圧(MAP)を上昇させる,またはノルアドレナリンを減量する目的で,ノルアドレナリンにバソプレシン(0.03U/min)を追加してもよい(Ungraded).」敗血症による血圧低下に対して初期に選択される昇圧剤としては低用量バソプレシンは推奨されず,0.03-0.04 U/min以上のバソプレシンは(他の昇圧剤で適切な平均動脈圧が得られない場合の)代替療法として温存すべきである(Ungraded).」とされている.
CQ7-12.敗血症性ショックの心機能不全に対して,ドブタミンを使用するか?

A.十分な輸液とノルアドレナリン投与を行っても循環動態の維持が困難であり,心機能が低下している敗血症性ショックにおいては,ドブタミンを使用することを弱く推奨する(EC/C)

※本CQは敗血症によって心機能が低下した状態を想定しており,基礎疾患に心不全や不整脈が存在する場合は,個別の評価,対応が必要である.また,心機能が低下している敗血症性ショックの患者では,循環管理が複雑になるため,集中治療や循環管理に慣れた施設で治療することが望ましい.
 River's EGDTにおいてドブタミンは推奨薬に君臨し続けてきたが,ノルアドレナリン(NA)不応性の際にドブタミン(DOB)使用が妥当か否かを検討したRCTは存在しないまま今日まできている.本ガイドラインで採用したRCTは2報あるが,アドレナリン(AD)がからんでおり,「AD vs NA+DOB」と「AD+NA vs DOB+NA」となっており,ややPICOとは異なるが,検討を行っている.これらの結果は,各アウトカムに有意差はないもののDOBがある群の方が優れている傾向がみられている.さらに,難治例であるが死亡率が40%前後にとどまっていることも考慮し,ドブタミンを条件つきで弱く推奨するとしている.また,ここでも敗血症性心筋症について触れている.

 なお,SSCG 2012では「以下の場合,ドブタミンを投与開始または(使用しているなら)昇圧剤に追加して20μg/kg/minまで投与することを推奨する.(a) 心充満圧は上昇しているが低心拍出状態が疑われる心筋機能障害,(b) 適切な血管内容量と適切な平均動脈圧であるにもかかわらず,組織低灌流徴候が持続している場合(Grade 1C)」とやはり条件付きとなっている.

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日本版敗血症診療ガイドライン2016(6) ステロイド,輸血療法(近日UP予定)→

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by DrMagicianEARL | 2017-01-11 20:38 | 敗血症 | Comments(0)
■2016年2月に敗血症の新しい定義Sepsis-3が提唱され,その中でICU以外での敗血症予測ツールとしてqSOFAスコアが提案されました.ベッドサイドですぐに判定できる非常に簡便なスクリーニングツールですが,下の文献で紹介するように,FN患者においては従来から用いられてきたMASCCスコアに劣るようです(MASCCスコアもベッドサイドで判定可能).もっとも,qSOFAも特異度は抜群によいので,qSOFAスコア2点以上を満たした場合はほとんどの場合敗血症とみなしてよいということになるのかもしれません.

■FN患者に限らず,qSOFAスコアは膿瘍や感染性心内膜炎,骨髄炎,蜂窩織炎による敗血症が漏れやすい印象がありますので注意が必要です.Sepsis-3の診断プトロコルでは,qSOFAスコアから漏れても敗血症でないか再検討し,怪しければSOFAスコアで臓器障害有無を評価することを推奨しています.
発熱性好中球減少(FN)患者における敗血症,死亡,ICU入室のスクリーニングとしてのqSOFAスコア
Kim M, Ahn S, Kim WY, et al. Predictive performance of the quick Sequential Organ Failure Assessment score as a screening tool for sepsis, mortality, and intensive care unit admission in patients with febrile neutropenia. Support Care Cancer. 2017 Jan 6. [Epub ahead of print]
PMID: 28062972

Abstract
【目 的】
Sepsis-3ではqSOFAスコアが予後不良と推測される患者を認知するために使用する基準として提示された.本研究では,発熱性好中球減少(FN)の患者における敗血症,死亡,集中治療室(ICU)入室のスクリーニングツールとしてのqSOFAスコアの予測能の評価を行った.また,我々は全身性炎症反応症候群(SIRS)基準やMultinational Association of Supportive Care in Cancer (MASCC)スコアの予測能の比較も試みた.

【方 法】
我々は前向きに収集された成人のFNデータレジストリを用いた.qSOFAとSIRSスコアは既存データを用いて後ろ向きに算出を行った.主要評価項目は敗血症発症とした.副次評価項目はICU入室と28日死亡とした.

【結 果】
615例の患者のうち,100例が敗血症を発症し,20例が死亡し,38例がICUに入室した.多変量解析では,qSOFAスコアは敗血症とICU入室を予測する独立因子であった.しかしながら,MASCCスコアと比較すると,qSOFAの受信者作動曲線下面積(AUROC)は低かった.敗血症,28日死亡,ICU入室の予測においてqSOFAは感度が低いが(0.14,0.2,0.23),高い特異度(0.98,097,0.97)を示した.

【結 論】
qSOFAのパフォーマンスは,MASCCスコアより劣っていた.FN患者の予後予測において既存のリスク層別化ツールはより有用であった.

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by DrMagicianEARL | 2017-01-08 19:53 | 敗血症 | Comments(0)
CQ5.抗菌薬治療
CQ5-1.抗菌薬を1時間以内に開始すべきか?

A.敗血症,敗血症性ショックに対して,有効な抗菌薬を1時間以内に開始する(EC)
 RCTはなく,エキスパートコンセンサスであるが,推奨文を作成するときはかなり悩んだ項目ではある.これまで,SSCGでも日本版でも敗血症診断から1時間以内の抗菌薬投与は強く推奨されてきた経緯がある.ただし,RCTで評価されたことは一度もなく,観察研究のみである.複数の観察研究では,早期に投与することで死亡率が改善すると報告されているが,メタ解析(Crit Care Med 2015; 43: 1907-15)では死亡率に有意差はみられていない.観察研究であれば,背景因子を調整しているとはいえ,当然ながら「抗菌薬投与の遅れ=その他循環動態管理などの遅れ」ともとらえることができ,本当に抗菌薬を1時間以内に投与しなければいけないのか?という疑問は常日頃から私は感じている(それでも実臨床ではほぼ100%1時間以内に抗菌薬を開始していましたが).もっとも抗菌薬投与が遅れ過ぎれば予後は悪化してしまうので,努力目標として,できるだけ早期にという意味合いで1時間以内に開始すべきとする推奨は妥当ではないかと考えている.

 「早期に」「適切な」抗菌薬を投与,といっても適切性を求めようとすれば時間を要することも報告されている(Emerg Med Australas 2013; 25: 308-15).1時間以内に抗菌薬を投与するとなれば,感染巣特定,グラム染色所見,その他各種データがすべてそろった状態でない可能性,抗菌薬を確実にあてようとすれば広域抗菌薬を多数併用しなければならない可能性,その際の有害事象が患者の予後に影響を与えうる可能性,なども考えなければならない.抗菌薬投与開始までの時間に固執しすぎれば,抗菌薬の適切性が疎かになってしまう懸念が指摘されており,どれだけ早く抗菌薬を投与できても有効でない抗菌薬であれば無意味となってしまう.

 では,外さないためにフルカバーすべく抗菌薬をいくつも併用すればいいかというとそう簡単な話ではない.人工呼吸器関連肺炎に対して耐性菌フルカバーを目指した超広域抗菌薬併用投与が逆に予後を悪化させたとする報告が複数ある以上,抗菌薬の有害事象は無視できない(しかもこのうちの1報はRCTである).これは,たとえ原因菌をあてていても,過剰カバーすると予後がむしろ悪化してしまうこともありうることを意味する.
CQ5-2.敗血症の経験的抗菌薬治療において併用療法を行うか?

A.グラム陰性桿菌感染症を念頭においたルーチンの抗菌薬併用療法をしないことを推奨する(1B)

※ここでの併用療法とは,緑膿菌などのグラム陰性桿菌に対して有効な抗菌薬を複数同時使用することを指し,例えば抗MRSA薬と抗緑膿菌薬の同時使用を指すものではない.
 グラム陰性桿菌へのβラクタム系抗菌薬+アミノグリコシド系抗菌薬の併用療法のRCTがこれまで多数報告されているため,ここに限定した推奨となっている.あくまでも「ルーチンでの併用」を行わないという推奨であり,併用療法そのものを否定しているわけではない.

 既存のメタ解析(Cochrane Database Syst Rev 2014; 1: CD003344)では,併用療法は生命予後を改善せず,腎傷害を増加させると報告されており,これに加え,コストや仕事量増大の問題,アミノグリコシド系の血中濃度測定を要する問題(ほとんどの施設は外注で結果が返ってくるまでかなりの日数を要する)などを考慮するとルーチンで行うべきではない.

 一方で,SSCG 2012では「重症敗血症を伴う好中球減少患者(2B),Acinetobacter属やPseudomonas属といった難治性多剤耐性菌による感染症(2B)においては,抗菌薬を併用した経験的治療を行ってもよい.呼吸不全や敗血症性ショックを伴う重症感染症患者では,緑膿菌菌血症では,広域スペクトラムのβラクタム系抗菌薬にアミノグリコシド系またはフルオロキノロン系を併用してもよい(2B).」としており,状況しだいでは併用療法は考慮する必要もでてくることから,個々の患者評価に加え,その施設での耐性率を把握して抗菌薬を選択する.併用期間については「重症敗血症患者に経験的に抗菌薬併用療法を行う場合,3-5日間よりも長く行うべきではない.感受性が判明すれば直ちに最も適切な単剤治療にde-escalationされるべきである(Grade 2B).」とされている.

 なお,本ガイドラインでは検討していないが,SSCG 2012では「肺炎球菌菌血症による敗血症性ショック患者ではβラクタム系にマクロライドを併用してもよい(Grade 2B).」という推奨もあり,このような状況でも併用療法を検討してもよいと思われる.
CQ5-3.どのような場合に抗カンジダ薬を開始すべきか?

A.侵襲性カンジダ症の複数のリスク因子のある敗血症,敗血症性ショックに対して,通常の抗菌薬に加えて抗カンジダ薬を投与することを考慮する(EC)
 カンジダによる敗血症は他の病原体に比して予後は悪いとされている.昨年11月にSNSで「次の病原体(黄色ブドウ球菌,緑膿菌,大腸菌,カンジダ)が血液培養で検出されたとき,もっとも死亡率が高いのはどれか?」というアンケートを行ったところ,484票の回答があり,一番多かったのが黄色ブドウ球菌(35%),2番目が緑膿菌(29%)であり,カンジダは22%で3位であった.このように,カンジダは敗血症の病原体の中ではやや軽視されている印象があるが,米国や日本での菌血症の大規模サーベイランス(Clin Infect Dis 2004; 39: 309-17/Clin Microbiol Infect 2013; 19: 852-8)ではいずれにおいてもカンジダが最も死亡率が高いと報告されている.

 敗血症治療においてカンジダのカバーは漏れやすい.加えて,培養には3-5日を要する(Candida glabrataは特に発育が悪い)ため一般細菌よりも気づかれるのが遅れることも死亡率が高い原因のひとつである.血液培養陽性になるまでの時間で見ても,C. albicansが平均40時間であるのに対して,C. glabrataでは60時間を要する.カンジダ血症では12時間以内に陽性になれば死亡率は15%以下,24時間以内なら死亡率は30%前後だが,この時点ではC. glabrataは検出できない.

 なお,侵襲性カンジダ症でのRCTは多数存在するが,カンジダによる敗血症のRCTは1つも存在しない.このため,本ガイドラインでは侵襲性カンジダ症への対応に則した推奨となっており,真菌症フォーラムの「深在性真菌症の診断・治療のガイドライン2014」に準じている.この真菌症フォーラムのガイドラインでは侵襲性カンジダ症のリスク因子が挙げられており,これらのリスク因子を本ガイドラインでも採用した.ただし,これらのリスク因子は,ICU患者ではほとんど満たしてしまうため,真菌症フォーラムガイドラインでは,ICU患者でのリスク因子も提示している.具体的には以下の通りである.

前提項目:72時間を超えるICU滞在
主要項目:
a) ICU入室1~3日間における治療介入
・中心静脈ライン留置
・広域抗菌薬投与
・人工呼吸
[補助項目:完全静脈栄養,血液透析,ステロイド・免疫抑制薬使用,手術,重症急性膵炎,重症敗血症,高APACHEⅡ/Ⅲスコア]
b) 複数部位のカンジダ定着

 これらのリスク因子を有する敗血症患者に対して,抗カンジダ薬を投与することの判断に血清β-D-グルカン値がどのように寄与するかは未知であるため,今回はβ-D-グルカンについては推奨をだしていないが,これまでの知見から,参考としてもよいと思われる.SSCG 2012でも感染症鑑別においてβ-D-グルカン計測をGrade 2Bで推奨している.本邦ではβ-D-グルカン計測はワコー法とMK法があり,院内で計測できるタイプのものはほとんどがワコー法であるが,MK法に比して感度が落ちることに注意が必要である.また,抗菌薬TAZ/PIPC,CVA/AMPC使用でβ-D-グルカンが上昇することが報告されているが,本邦での検査キットではその心配はほとんどないとのことである.カンジダだけでなく,ニューモシスチス肺炎でもβ-D-グルカンは非常に有用である.アスペルギルスでは感度がかなり落ち,ガラクトマンナン抗原の方が優れているとの報告もある.なお,クリプトコッカスはβ-D-グルカンが1,3でないため検出はほとんどできない.

 本ガイドラインでは侵襲性カンジダ症のリスク因子を有する患者への経験的抗菌薬については言及していないが,IDSAはFLCZかエキノキャンディン系(MCFG,CPFG)を推奨している.これに対し,欧州のESCMIDガイドラインではエキノキャンディン系が推奨度Aであるのに対し,FLCZは推奨度Cである.これは欧州でFLCZ耐性のカンジダが多いことに起因する.このため本邦の状況には必ずしも当てはまるものではない.本邦では真菌症フォーラムからのACTIONs BUNDLEが発表され,非常に良好な治療成績を残しており,本バンドルにおいてはエキノキャンディンとFLCZのいずれかを経験的治療の第一選択に位置づけている.その際参考となるのは各施設のlocal factorであり,FLCZが効きにくいC. glabrataとエキノキャンディンが効きにくい可能性があるC. parapsilosisのいずれが頻度が高いかによる.
CQ5-4.敗血症,敗血症性ショックの患者に対して,βラクタム薬の持続投与または投与時間の延長は行うか?

A.敗血症,敗血症性ショックの患者に対してβラクタム薬の持続投与または投与時間の延長を行わないことを弱く推奨する(2B)
 時間依存性の抗菌薬はPK/PD理論から,時間依存性抗菌薬の投与時間を延ばし,TAM(Time Above MIC)を増やせば治療効果が増すのではないか,という仮説が生まれた.ここからさらに派生して,バッグに1日分の抗菌薬を詰めて,24時間持続点滴をする方がPK/PD的には理にかなっている,という発想も生まれた.抗菌薬の持続投与は,間欠的な投与に比べて少ない投与量で同等の血中濃度とTAMを獲得するため,「理論上では」持続点滴の方が間欠的投与に比べると有利である.

 ただし,抗菌薬のクリアランスには個人差があり,必ずしも個々の患者で期待されるような薬物動態を示すという保証はない.また,24時間容器に入れた抗菌薬の安全性も問題である.実際,PCGに関しては,特に高温環境下では失活しやすい特徴をもっており,通常よりも長時間点滴バッグの中に入れたままの抗菌薬が失活するおそれもある.持続ルートが1つ増えることも問題となる.

 また,PK/PD理論には問題点もあることが指摘されている.①血中濃度は蛋白に結合したものも含む全濃度を使用するのか遊離した薬剤濃度を使用するのか,②PKのパラメータは血中でのパラメータでよいのか,③PDパラメータとしてMICを用いているが,MBCやMPCとの関係はどうなのか,である.また,PK/PD理論に基づく投与法と有効性についての報告がされるようになっているが,副作用,耐性菌の出現との関連性についてはほとんどない.加えて敗血症では,クリアランスや分布容積が治療経過中にめまぐるしく変化することも予想され,理論通りにはいかない可能性もある.このため,持続投与による抗菌薬濃度が不十分となったり過剰となったりするリスクもある.

 本ガイドラインでは4報のRCTのシステマティックレビューを行ったが,持続投与群と非持続投与群で死亡率や目標血中濃度達成率に有意差はみられなかったことに加え,上記問題点もあることから,敗血症一般においてβラクタム系抗菌薬の持続投与は推奨されないとしている.
CQ5-5.敗血症,敗血症性ショックの患者に対する抗菌薬治療で,デエスカレーションは推奨されるか?

A.敗血症,敗血症性ショックの患者に対する抗菌薬治療において,デエスカレーションを実施することを弱く推奨する(2D)
 近年,敗血症へのデエスカレーションを検討したRCTが初めて報告された.死亡率やICU在室日数に有意差はなし,重複感染率と抗菌薬投与期間はデエスカレーション群の方が有意に悪いという結果であった.ただし,このRCTは目標症例数に達さずに早期終了された小規模のものであり,また,背景因子はデエスカレーション群の方が不利(特に肺炎や人工呼吸器装着は明らかにデエスカレーション群の方が多い)であることから,本RCTをもってデエスカレーションの有用性を述べることは困難である.

 これまでの観察研究ではデエスカレーションはむしろ良好な治療成績であることを報告しているものが多く,2016年に報告されたメタ解析(Int J Infect Dis 2016; 49: 71-9)では多くの感染症においてデエスカレーションは安全かつ有効と結論づけている.本ガイドラインでは,安全に行えるものとして推奨している.

 ただし,安全に行う上である程度の前提条件がある.以下を目安にしてデエスカレーションを行うべきであろう.
① 経験的治療開始前に良質な微生物学的検体の採取が行われている.
② 臓器障害,重症度などの改善がある.
③ 起炎菌が,より狭域の抗菌薬に感受性である.
④ 他の感染巣が否定できる.
⑤ 持続する好中球減少症(<1000/mm3)などの重篤な免疫不全がない.
⑥ 変更する抗菌薬が感染巣に移行しえる.
CQ5-6.抗菌薬はプロカルシトニンを指標に中止してよいか?

A.敗血症,敗血症性ショックにおける抗菌薬治療で,プロカルシトニンを指標に抗菌薬の中止を行わないことを弱く推奨する(2B)
 この項目もAnswerをどうするか非常に悩んだ部分である.プロカルシトニン(PCT)ガイド下の抗菌薬中止プロトコルについては既にいくつものRCTがある.今回,8報のRCTでシステマティックレビューを行った結果,死亡率に有意差はないが,抗菌薬投与期間はPCTガイド群の方が有意に短いという結果であったことから,おそらく益が害を上回っていると判断できる.

 ただし,すべてのRCTでPCTを毎日計測しており,通常の保険診療を大きく逸脱することになり,またPCTを院内採用していない施設も多く,外注によるタイムラグが生じることも考えれば外的妥当性は担保されない.加えて,抗菌薬中止基準が個々のRCTで異なっており,どのようなPCT値の推移で中止すべきかも統一されていない.初日とそれ以外にどこかでPCTを計測する,2ポイントでの中止判断プロトコルにアレンジするという考え方もあるが,その有用性について検討した報告はない.

 これらを総合的に判断した結果,PCTを指標とした抗菌薬中止は行わないことを弱く推奨する,というメタ解析結果とは逆の推奨になっている.もっとも冒頭で述べた通り,推奨・非推奨は真逆の概念ではなく,あくまでも連続的なものである.PCTを毎日計測することも辞さないという施設であれば,有用性を示したRCTのプロトコルを参考に抗菌薬を中止することも一つの考え方であろう.

 今回のガイドラインでは触れていないが,どの敗血症でもPCTガイド下プロトコルを採用できるわけではない.各RCTの除外基準を熟読されたい.具体的には以下の場合はPCTガイド下での抗菌薬中止は行うべきではないだろう.
① 原因菌が緑膿菌,アシネトバクター,リステリア,レジオネラ,黄色ブドウ球菌,または不明
② 感染性心内膜炎,膿瘍,骨髄炎
③ 免疫不全患者または免疫抑制薬投与患者

 なお,publishのタイミングの関係で本ガイドラインではincludeされなかった最新の大規模RCTがオランダから報告されている(Lancet Infect Dis 2016; 16: 819-27).1519例のRCTであり,抗菌薬投与日数(7.5日 vs 9.3日)のみならず極めて重要なアウトカムである28日死亡率(20% vs 25%)のいずれもPCTガイド群が有意に改善していることから,PCTガイドは推奨されるべきものと考えてもいいかもしれない.ただし,本RCTはプロトコル違反が非常に多いことに加え,耐性菌が非常に少ないオランダで行われていることを考慮する必要があり,本邦の実臨床への適用は注意を要する.

CQ6.免疫グロブリン
CQ6-1.成人の敗血症患者に免疫グロブリン(IVIG)投与を行うか?

A.成人の敗血症患者に対するIVIG投与の予後改善効果は現時点のRCTでは不明であり,当ガイドライン委員会ではIVIG投与に関して明確な推奨を提示できない(EC/C)
 当初は「成人の敗血症患者に対してIVIGを投与することを弱く推奨する(2C)」となる予定であったが,2回の投票で2/3以上の賛同が得られず,このような推奨となっている.一方,SSCG 2012では「重症敗血症,敗血症性ショック患者において免疫グロブリン注射製剤は使用すべきではない(Grade 2B).」となっている.SSCG 2012から現在まで新たなRCTは報告されていない.

 本ガイドラインのシステマティックレビューでは対象が旧基準の敗血症から含めており,臓器障害を伴う新定義の敗血症とは対象が異なる.コクランのメタ解析(Cochrane Database Syst Rev 2013; 9: CD001090)では,43報のRCTの解析でIVIGにより死亡リスクが19%有意に減少するが,バイアスリスクの低い質の高い成人研究に限定すると死亡リスクの減少はみられていないという結果であった.RCTをどこまで絞るかは難しい判断であるが,少なくとも益は害をおそらく上回ると考えることは支障はないと思われる.

 しかし,海外のRCTでの投与量は0.15-0.5g/kg/dayであり,海外のエビデンスをもって日本に適応させることは困難である.また,海外で比較的有効性を示しているのはポリクローナルIgM濃厚IVIGでの報告に多く,これに対し日本のIVIGはIgGを抽出している.これらのことから,海外のRCTが多く占めるシステマティックレビュー結果をそのまま反映させるには外的妥当性が乏しいと言わざるを得ない.Masaokaらの報告(日化療会誌 2000; 48: 199)は本邦での大規模データであるが,死亡率を報告していない.これまでのメタ解析では,Masaokaらの研究をincludeしているが,これはあくまでも電話で筆頭執筆者に確認しただけの数値であるため,信頼性に問題もかかえる.

 さらにはコストの問題(非常に高額)や研究が行われた年の問題もある.IVIGのRCTのほとんどがSSCG以前のものであり,敗血症の根本治療があまり統一されていない.現在のSSCG遵守下でのIVIGの有効性は全く不明と言っていい状況にある.

 以上より「益が害を上回る可能性」を支持するには不確定要素が多すぎるのも事実であり,推奨するか否かは難しい判断が求められる項目である.やはりRCTを新たにやり直す以外に正確な検証は困難であろう.

←日本版敗血症診療ガイドライン2016(3) 感染症診断,画像診断,感染源のコントロール
日本版敗血症診療ガイドライン2016(5) 初期蘇生・循環作動薬(近日UP予定)→

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by DrMagicianEARL | 2017-01-07 18:19 | 敗血症 | Comments(0)
CQ2.感染症の診断
CQ2-1.血液培養をいつどのように採取するか?

A.敗血症・敗血症性ショックの患者に対して,抗菌薬投与前に血液培養を採取する(EC)
 血液培養を採取するタイミングに関する良質なエビデンスはないためエキスパートコンセンサスとなってはいるが,抗菌薬投与前に血液培養2セットは感染症診療における基本であり強く推奨されるものである.もちろん日常診療では,抗菌薬が先に投与された状態で敗血症を診断することもあるが,その場合でも「抗菌薬濃度がトラフ付近,すなわち次回の抗菌薬投与直前に採取する」と推奨文に記載されている.また,「治療に対する反応が乏しく,抗菌薬を変更する際も,あらためて採取することが望ましい」となっている.

 血液培養採取の際の皮膚消毒に関しては,皮膚消毒と清潔手袋を用い,できる限りコンタミネーションを減らす必要がある.どの消毒薬が最良かについては,評価が定まっていないが,実臨床で考えるならば,即効性と持続性から1%クロルヘキシジンアルコール製剤(ヘキザック®など)が望ましいだろう.なお,1%クロルヘキシジンアルコールなら30秒,ポビドンヨード(イソジン®)なら2分間待つ必要がある.

 ちなみに,消毒薬は「乾くまで待つ」と教えられた人は多いのではないだろうか?これは大間違いである.消毒してから手であおいだりするのは全くの無駄である.基本的に両消毒剤もそれぞれ30秒および2分間たたないと効果がでないのであって,早く乾かしたところで効果が早まるわけではない

 また,血培ボトルへの分注時は新しい針に付け替えないこと,分注したボトルは置きっぱなしにしないこと(冷蔵庫保管は厳禁)も注意されたい.

 なお,血液培養で特定の菌が検出された際の対応についてここで記載しておく.

①肺炎桿菌,カンジダ
これらは播種性病変をつくることがあり,とくに眼内炎になれば失明する恐れがある.このためこの2菌種が血液培養陽性であれば必ず眼科コンサルトを行う必要がある.

②血液培養2セット中,片方のみから黄色ブドウ球菌,グラム陰性桿菌,カンジダ
1セットのみであればコンタミの可能性はあるが対応が遅れると死亡リスクの高い原因菌となるため,抗菌薬治療を開始すべきである.

Staphylococcus lugdinensis
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)の一種であるが,この菌種は感染性心内膜炎を引き起こし,予後悪化の原因となりうるため,心臓超音波検査を必ず行う必要がある.

Streptococcus gallolyticus(旧bovis),Clostridium septicum
これらは感染性心内膜炎の原因となるため心臓超音波検査が必要となることに加え,大腸癌の患者で本菌種による菌血症が生じることが知られているため,状態が落ち着けば下部消化管内視鏡検査を行うことを忘れないようにしなければならない.

 カテーテル関連血流感染症(CRBSI)を疑う場合以外ではCVカテーテルからの血液培養検体採取はコンタミネーションのリスクを考えると推奨されない,ただし,CRBSIを疑う症例ではカテーテルルーメンと末梢のそれぞれから血液培養検体を採取し,カテーテル血の方が2時間以上早く陽性になった場合はCVカテーテルが原因であると考えてもよい.
CQ2-2.血液培養以外の培養検体は,いつ何をどのように採取するか?

A.敗血症,敗血症性ショックの患者に対して,抗菌薬投与前に必要に応じて血液培養以外の各種培養検体を採取する(EC)
 良質なエビデンスはないためエキスパートコンセンサスとなってはいるが,原則として血液培養以外に抗菌薬投与前に感染巣から培養検体を採取することは必ず必要である.例外として,髄膜炎ではすぐに検体が採取できない場合は抗菌薬を先行投与してもよい(もっとも髄液に移行するまでは時間がかかる).
CQ2-3.グラム染色は培養結果が得られる前の抗菌薬選択に有用か?

A.経験的治療に採用する抗菌薬を選択する際に,培養検体のグラム染色所見を参考にしてもよい(EC)
 敗血症におけるグラム染色に関連する良質なエビデンスは存在せず,本ガイドラインで推奨を提示することはできないため,エキスパートコンセンサスとなっている.グラム染色は敗血症診療において必須とは言えないまでも,慣れていればある程度の菌種(肺炎球菌,連鎖球菌,ブドウ球菌,腸球菌,アシネトバクター,インフルエンザ桿菌,モラキセラ,緑膿菌など)は同定可能であり,敵が早めに分かりやすいという意味では武器にすると敗血症診療はよりやりやすくなるだろう.

CQ3.画像診断
CQ3-1.感染巣診断のために画像診断は行うか?

A.敗血症,敗血症性ショック患者の感染巣診断のために画像診断を行うことを推奨する(EC)
 あらためて説明するまでもなく必須である.各感染症において具体的にどのような画像検査が必要であるかの詳細が推奨文に記載されているので参照されたい(50ページ).
CQ3-2.感染巣が不明の場合,早期(全身造影)CTは有用か?

A.敗血症,敗血症性ショック患者の感染巣診断のために早期(全身造影)CTを行うことを推奨する(EC)
 感染巣が不明な場合の造影CTの有効性についてはRCTレベルのエビデンスはないものの観察研究が複数あり,行わない場合に比して診断率は著明に向上している.もちろん造影剤腎症のリスクはあるが,得られる情報量,感染巣を特定する確率が大幅に上がることを考慮すれば,造影剤腎症を危惧して造影CTを躊躇する必要はないと推奨文にも記載されている.

CQ4.感染源のコントロール

感染源コントロールは抗菌薬以上に威力のある感染症治療手段であり,逆に言えば,適切な感染源コントロールがなされていない場合はいかに適切な抗菌薬を投与しても救命は困難となりやすいことは既に多くの医師が経験していることであろう.とりわけ敗血症においては感染源コントロールのDDD(Drainage,Debridement,Device除去)を迅速に行わなければならない.SSCG 2012でも感染源コントロールは12時間以内に行うことを推奨している.
CQ4-1.腹腔内感染症に対する感染源コントロールはどのように行うか?

A.腹腔内感染症による敗血症に対しては感染巣コントロールを可能な限り早期に行うことを推奨する(EC/D)
 本CQに対応するRCTは存在しないが(倫理的にRCTはもはや不可能),多施設前向き観察研究においては感染巣コントロールが死亡率を改善することが方置くされており,各種ガイドラインでも強く推奨されている.消化管穿孔による敗血症では,手術による感染巣コントロールが遅れるほど死亡率が上昇することが複数の研究で示されていることからも,できるだけ早期に行う必要が示唆される.
CQ4-2.感染性膵壊死に対する感染源のコントロールはどのように行うか?

A.感染性膵壊死による敗血症患者に対しては,

タイミング
全身状態が安定している場合,インターベンション治療は急性壊死性貯留が被包化(walled-off necrosis, WOW)される発症後4週以降まで待つことを弱く推奨する(2C).全身状態が不安定な場合,インターベンション治療は発症後4週間を待たずに実施することを弱く推奨する(EC)

処置方法
まずドレナージ(経皮的または内視鏡的経消化管的)を行い,改善が得られない場合には壊死組織切除(後腹膜的または内視鏡的アプローチ)を行うことを弱く推奨する(2C)
 他の敗血症と異なり,感染性膵壊死では発症早期での介入は行わない.これは,時間が経過することで壊死部位と正常部位の識別が容易になるためである.実際,2-3週間待ってからデブリドマンを行った方が治療成績がよいことがMierらのRCT(Am J Surg 1997; 173: 71-5)と2報の症例集積研究(J Gastrointest Surg 2002; 6: 481-7,Ann Surg 2001; 234: 572-9)で示されている.
CQ4-3.敗血症患者で血管カテーテルを早期に抜去するのはどのような場合か?

A.血流感染が疑われた場合に限り,血管カテーテルを早期に抜去することを弱く推奨する(2D)
 発熱だけでカテーテル関連血流感染症(CRBSI)を疑ってカテーテルを全例で抜去することは推奨されない.しかし,重症度が敗血症まで進展している場合,感染源の可能性があるカテーテルは早期抜去が必要である.敗血症進展例でカテーテル抜去有無を検討したRCTは存在しないが,早期に抜去することが死亡率の改善につながったとする観察研究は存在している.なお,中心静脈カテーテルや動脈カテーテルだけでなく,末梢サーフローでも中心静脈カテーテルの1/5の確率ではあるがCRBSIが起こりうることを忘れてはならない(Mayo Clin Proc 2006; 81: 1159-71)

 「コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)によるCRBSIでは抜去しなくてもいいか?」とコンサルトを受けることがある.確かにCNSによるCRBSIは比較的予後がいいため抜去しない選択肢もありえるが,それでも再発率は20%あるため(Infect Control Hosp Epidemiol 1992; 13: 215-21),(しかも敗血症に進展しているのであれば)原則抜去すべきである(Lancet Infect Dis 2007; 7: 645-57)
CQ4-4.尿管閉塞に起因する急性腎盂腎炎による敗血症の感染源のコントロールはどのように行うか?

A.尿管閉塞に起因する急性腎盂腎炎による敗血症に対しては,経皮的腎ろう増設術あるいは経尿道的尿管ステント留置術による迅速な感染源コントロールを行うことを推奨する(EC)
 RCTは存在しないものの,排尿によるドレナージが効かない状態であることを考えれば当然行うべきものであり,米国や欧州の泌尿器学会のガイドラインでも強く推奨されている.
CQ4-5.壊死性軟部組織感染症に対する感染源のコントロールはどのように行うか?

A.壊死性軟部組織感染症による敗血症に対しては早期に外科処置を行うことを推奨する(EC)
 RCTは存在しないものの各種ガイドラインで強く推奨されている.また,診断から24時間以内に行うことで20%程度死亡率が改善することが知られている.

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日本版敗血症診療ガイドライン2016(4) 抗菌薬治療,免疫グロブリン製剤→

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by DrMagicianEARL | 2017-01-05 16:49 | 敗血症 | Comments(0)

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