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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

カテゴリ:敗血症( 140 )

■敗血症性ショックにおいては心筋障害が観察され,ときには心原性ショックと見紛うほどの重度の心筋障害が生じることもある.

■この敗血症性心筋障害が最初に報告されたのは1984年であり,敗血症患者が発症早期より心機能が障害されていることが指摘された[1].この報告では,敗血症性ショック発症24時間以内の患者を対象に評価したもので,心係数は正常値以上に増加しているにもかかわらず,心駆出率は平均で40%と低値であり,この駆出率低下は生存者で顕著であった.特に生存者では代償性心室拡張により心拍出量増加を維持していることを明らかにしている.

■心血管作動薬投与から24時間以上経過した敗血症性ショック患者への経胸壁心臓超音波検査により心機能を評価した研究[2]では,心駆出率は,生存者で43.9%,非生存者で52.0%に低下している.

■2008年には敗血症性ショック患者を対象に経食道心臓超音波検査を用いて心機能を評価した研究が2つ報告されている[3,4].これらの報告によると,治療開始から72時間以内にびまん性壁運動低下を認めている.死亡例の検討でも生存例より有意に心係数が高く,心拍出量が高いほど重症であると考えられた.

■以上を総合すると,敗血症性ショックにおけるびまん性の壁運動低下(収縮力低下)は可逆性であり,予後を悪化させる要因ではないが,左室収縮能が低下していない患者はむしろ死亡率が高い.死亡症例ではLVEFが有意に高く,LVEDVが有意に小さい上に輸液負荷によって是正されにくい.壁運動低下を認めないことは予後不良因子であることを留意する必要がある.

■これらの考察から,急速な輸液負荷や心血管作動薬投与は敗血症早期であっても心筋障害の進行程度によっては過負荷ともなり,潜在する心機能障害を進行させる危険性がある.ただし,Early Goal-Directed Therapy[5]での発症6時間以内の大量輸液療法は,全身性組織低酸素からの一刻も早い回復が予後を改善することを示しており,超急性期の治療は最優先されるべきものであろう.しかし,6時間以降の病期における循環管理の具体的方向性は現時点では明確ではない.敗血症早期より機能障害に陥り始める心筋を保護しながら,重要臓器の細胞レベルでの酸素供給量および酸素利用能を維持する治療法を考えるには,敗血症における心筋障害のメカニズムを理解しておく必要がある.

■敗血症では早期から心筋への組織血流量が増加する一方で,ミトコンドリアなどの超微細構造は崩壊し,心筋細胞や毛細血管壁の浮腫とそれに伴う毛細血管内腔の狭小化により,微小循環障害が顕在化していることが基礎研究で既に示されている[6].盲腸穿孔術を施行した高心拍出量敗血症ラットモデルで24時間後に順行性摘出灌流心標本(working heart model)により心機能を評価したex vivoモデルの報告[7]では,心収縮能の指標dP/dt max,心仕事量や心筋酸素利用効率は全て敗血症ラットで低下していた.これは前負荷および後負荷が一定の条件下では,敗血症心機能は明らかに障害されていることを意味している.

■敗血症患者から採取した血清を健常動物に投与すると,その心筋収縮力が低下することが1985年に報告された[8].当初はこの原因はグラム陰性桿菌由来の内毒素が有力であったが,その後の研究で,炎症性サイトカインであることが判明している.なかでも,敗血症早期より放出されるTNF-αやIL-1βは主にマクロファージから分泌されるが,心筋細胞からも分泌される[9].TNFαは,心拍出量増加と全身血管抵抗低下という敗血症ショック病態を惹起し[10],直接的に心収縮力を低下させる作用をもつ[11-13].同様に,IL-1βも敗血症性ショックの循環動態に関与する[14].これら炎症性サイトカインは相乗的に心機能を抑制することも見出されてきた[11]

■TNF-α,IL-1βの血中濃度は比較的早い段階で収束するため,敗血症で遷延する心機能障害はこれらの炎症性サイトカインの効果だけでは説明がつかない.心機能障害に関与する他の物質として,NOやROSが挙げられている[15].敗血症初期では,iNOSにより過剰に分泌されるNOがペルオキシナイトライトを形成し,L型Ca2+チャネル機能を抑制する[16-18].また,NOは,心筋ミトコンドリア内の電子運搬鎖複合体の活性を低下させ,ミトコンドリア機能障害を惹起する[19].さらに,β受容体情報伝達系において,抑制性G蛋白の増加や間接的なprotein kinase A活性の抑制によって,心筋のカテコラミン反応性を阻害することが示されている[19,20]

■さらに,敗血症が進行すると,Na-Ca交換系および筋小胞体の細胞内Ca2+緩衝作用が障害され,Ca2+の過負荷が生じるため,心筋障害を助長し,心機能障害を遷延させる[21].また,アポトーシスが敗血症心機能障害に関与していることも指摘されている[22,23].その経路には主に,ミトコンドリアからチトクロムCが放出されることで誘発される内因性経路と,TNFα受容体が関与する外因性経路の2つがあり[24],いずれの経路もcaspase活性が関与している[25].しかし,アポトーシスを含む細胞死は必ずしも敗血症心筋障害を説明できないとする見解も多い[19]

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by DrMagicianEARL | 2011-10-29 12:08 | 敗血症 | Comments(0)
■一酸化窒素(Nitric Oxide:NO)は血管内皮由来弛緩因子(endothelium-derived relaxing factor:EDRF)の本体であり,生理的に血管内皮から分泌されて血管拡張を引き起こす.しかし,NOの生理的作用は血管拡張作用に加えて,神経伝達物質,免疫系における生体防御因子,陰茎海綿体の膨張に関与する生殖系での役割,新生児肺高血圧の治療における吸入療法の有用性など,さまざまな生理作用をもち,生体内シグナル伝達分子であることが分かっている.

■生理的に血管壁では,アセチルコロン,ブラジキニン,あるいはずり応力などの血管拡張性刺激によって,内皮細胞のCa濃度が上昇し,それによりNOS(NO合成酵素;NO synthase)が刺激され,NOが産生される.NOは内皮に隣接する血管平滑筋細胞内に到達し,次にその細胞質内のguanylate cyclase(GC)を活性化する.GCはGTPからcGMPを産生し,続いてcGMPはある一群のリン酸化酵素G kinease(PKG)を活性化し,いくつかの蛋白質をリン酸化し,最終的にミオシン軽鎖の脱リン酸化を促進して平滑筋の弛緩が生じる.

■血管平滑筋の弛緩に限らず,NO作動性神経を介する腸管平滑筋の拡張や,血小板の凝集抑制,脳内でグルタミン酸の放出を増強するNOの作用においてもこのcGMP経路が関与している.このNOによるGCの活性化は,現在においてもNOシグナルの代表的経路と考えられている.

■NOの生体内での由来に関しては,NOSによりアルギニンからde novoに合成される場合と,NOの誘導体からsalvage経路で産生される場合がある.最近,後者のsalvage経路も生理的に重要な役割を果たすことが示されているが[1],やはりNOS依存性の経路が主要と考えられている.NOSに関しては,常に発現している構成型(constitutive)cNOSと,炎症などの刺激によって一時的に誘導される誘導型(inducible)のiNOSとにまず2分される.iNOSはマクロファージなどの炎症性細胞やその他さまざまな細胞で誘導発現され,炎症の病態発現に寄与する.一方,恒常的に発現しているcNOSはさらに2つに別れ,初めに存在が確認された組織の名前をとって,それぞれ神経型(neural)のnNOSおよび血管内皮型(endothelial)のeNOSに分類される.

■NOSの活性化ではカルモジュリン(CaM)というCa結合性蛋白が酵素にしっかりと結合することが必要で,そのためにcNOSでは細胞内Caの上昇というイベントに応じてNOが産生される.一方,iNOSでは,実はこのCaMがすでに結合しているので,カルシウムシグナルを必要とせず,iNOSがあれば持続的かつ大量にNOを産生しうる.しかし,制御の機構が何もないわけではなく,この場合も,初めの炎症刺激によりiNOSが誘導産生されることがNO産生のシグナルといえる.

■炎症反応においては,サイトカインをはじめとする炎症性メディエータ群の作用によりさまざまな細胞で,iNOSが生じ,NOが産生される.NOはエネルギー生産系であるクレブス回路や電子伝達系,さらにはDNA合成を阻害することにより,炎症の場に存在する感染微生物(あるいは腫瘍細胞)を攻撃し,個体保護に働く.しかし,NOの産生が過剰になると血管拡張作用により個体はショックに陥る.またさらに,NOは感染微生物を細胞死に導くのと同じ機構で周辺の自己正常細胞をも傷害する可能性がある.
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by DrMagicianEARL | 2011-10-28 12:09 | 敗血症 | Comments(0)
■敗血症では重症例において,その臨床経過中に更なる感染症を発症し,重症化し,結局は死亡してしまうという病態が最近に注目を集めている[1,2].感染症の発症には,重症例において,炎症性サイトカインの産生により惹起された炎症反応を沈静化しようとし,いわば生体反応として引き起こされる抗炎症性サイトカインの過剰産生により発症する免疫抑制が深く関わっていることは多くが認めるところであり,かかる状態はimmunoparalysisと呼称されている[3,4]

■Immunoparalysisの発症は,免疫細胞のアポトーシスの増加[5],skin test antigenに対するdelayed-type hyepersensitivity reactionの低下,即ちanergy[6]やHLA-DRを発現している単球の割合の減少などで診断される[7,8].Immunoparalysisの発症にはさまざまな因子が関与しているが,抗炎症性サイトカインの過剰産生も重要な因子である[3]

■近年提唱されているSIRS(systemic inflammatory response syndrome;全身炎症反応症候群)は今や敗血症の病態生理において有名であるが,これはCARS(compensatory anti-inflammatory response syndrome:代償性抗炎症反応症候群)とセットで理解する必要がある.CARSはあまり認知されていないようであるが,炎症反応には必ず抗炎症反応が伴っていることを理解しておく必要がある.

■CARSは1996年にRoger Boneにより提唱された血清学的病態概念である[9].CARSは炎症性サイトカイン産生の高まるSIRSに拮抗する病態として,白血球系細胞のimmunoparalysis,すなわち,自己免疫抑制状態(autoimmunosuppression)と考えられている.

■抗炎症性サイトカインの代表的なものとしては,TGF-β(transforming growth factor-β) super family,IL-4,IL-6,IL-10,IL-11,IL-13やα-MSH(α-melanocyte stimulating hormone)などがある.抗炎症性サイトカインが活性化されるCARSの病態では,①皮膚アレルギー所見の出現,②単球やリンパ球の活性低下,③炎症性サイトカインの産生抑制,④TGF-βを介した組織線維化や組織増殖などが特徴となる.免疫抑制状態における集中治療を考える際にもCARSの概念は応用できる.

■SIRS患者の血液解析では,SIRSと共にCARSが発症してくることが確認できるが,CARSの免疫抑制状態が遷延すると,新たに感染症に罹患しやすくなる.これが1st SIRSの後に現れる2nd SIRSの原因となる.このような2nd SIRSの際にはMODSがlate MODSとしてショックや多臓器不全が強く現れることがあり,これが感染性2nd attackもしくは2nd hitとよばれる病態である.外傷,急性膵炎,熱傷などのSIRSを導く基礎病態においても感染性2nd attackとして敗血症を合併しやすい.

■CARSで主に取り上げられるIL-10はSIRSの転写因子の主体であるNF-κBやAP-1,そしてカテコラミンによるcAMP response elementに依存して,転写が高まる.このため,炎症性サイトカインと同様の機序として,早い時期よりTh1細胞,B細胞,マクロファージや樹状細胞などでIL-10産生が上昇する.一方,このIL-10が作用するIL-10受容体は,血管内皮細胞,Ⅱ型肺胞上皮細胞,心房筋障害などの主要臓器細胞にはほとんど検出できない.IL-10受容体の発現は白血球系細胞に限られるので,IL-10を介したCARSは白血球機能の抑制にのみ作用する.これにより細菌,真菌を含めた異物の生体内侵入が容易となり,感染性2nd attackが生じやすくなる.

■一方,CARSの別の主役であるIL-4やIL-13は転写因子NF-κBではなく,主に転写因子NFAT(nuclear factor of activated T-cell)で転写調節される[10].SIRSにおいて,NFATはNF-κBより遅れて活性を上昇させる傾向があるため,IL-4やIL-13は炎症性サイトカインより遅れて産生されてくる.これがSIRSとCARSが必ずしも並行ではない機序の一つである.IL-4,IL-13の受容体は白血球系の細胞に加えて,血管内皮細胞にも存在する.IL-4,IL-13は白血球系細胞では炎症性サイトカインの産生を抑制するが,血管内皮細胞では炎症性サイトカインの産生を高めるという逆作用をもつこと,血管内皮細胞にアポトーシスを誘導し,血管の線維化にも関与することが示唆されている[11,12]

■IL-6は,IL-1βにより刺激された単球/マクロファージ,血管内皮細胞,線維芽細胞,ケラチノサイトなどから産生される.B cellや形質細胞を増殖させ,IgG,IgM,IgAを産生させる,T細胞の分化や活性化にも関与する.また,肝細胞に作用し,CRP,ハプトグロビンなどの急性期蛋白を誘導する.これらの作用から,IL-6はこれまで炎症性サイトカインと考えられてきたが,近年,抗炎症性サイトカインとしての役割が注目されている.IL-6受容体は,白血球系細胞以外にも,血管内皮細胞や主要臓器細胞にも存在し,NF-κB活性を下げ,炎症性サイトカインシグナルを負に調節している.すなわち,IL-6はCARSに関与しているサイトカインである.

■このように,CARSは白血球細胞の活性を低下させる一方で,血管内皮細胞などの炎症を独自に進行させ,SIRSにおける血管拡張病態を血管収縮状態にシフトさせるように作用する.

■以上のように,CARSが持続している病態では,①白血球系細胞の機能低下により易感染性となること,②感染性2nd attackによりSIRS再燃の可能性があること,③血管内皮細胞障害進展の可能性があることに留意する.

■SIRSは症候学的定義により,評価しやすい病態である.しかし,CARSは症候学的定義がなく,あくまでも血清学的病態に過ぎず,抗炎症性cytokineを測定しない限り明確に評価できない.実際の臨床では,SIRSとCARSがともに生じていると考え,MARS(mixed antagonistic response syndrome;混合性拮抗反応症候群)として対応している[13]

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by DrMagicianEARL | 2011-10-27 12:16 | 敗血症 | Comments(0)
■SIRSの成因として,過剰に産生される炎症性メディエーターの中でも,特に炎症性サイトカインの過剰産生が病態形成に大きくかかわっている可能性から,高サイトカイン血症hypercytokinemiaという表現が使用されるようになった.septic shockの起因に大きく関与するTNFαやIL-1βをブロックする,感染抵抗性を強めるTh1系サイトカインであるIFN-γをタイミングよく投与あるいはブロックする,もしくはTh2系サイトカインである炎症抑制性のIL-10などをタイミングよく投与する,いわゆるサイトカイン療法が期待された.そしてsepsisもしくはseptic shockなどに対して,過剰に産生された炎症性メディエータを中和する臨床試験が試みられてきた.その結果は,残念ながら有意な予後の改善が認められず,不満足な結果に終わっている[1-5]

■この結果に対して,SIRS提唱者であるBoneはSIRS病態についての自らの見解を修正した.sepsisの形成においては,代償性の過大な抗炎症性反応の存在が重要であるという観点から,CARS(compensated anti-inflammatory response syndrome)の病態を提唱した[3,4]

■sepsisからseptic shockに至る経過においては,肺,肝臓,腎臓などの重要な臓器障害が深くかかわっている.さらに,臓器障害からショックに至る過程でも,サイトカインがその病態形成に大きく関与していることは明らかである.緑膿菌性肺炎による急性肺損傷と,それに続発するseptic shockのメカニズムに関する研究[6-10]において,細菌による臓器障害がseptic shockを誘発することを明解に証明されている.

■緑膿菌をウサギに静脈内投与して菌血症を起こしても簡単にはショックにはならない.しかしながら,より少ない数の緑膿菌を肺内に投与して,肺上皮損傷を誘発した場合,ウサギは容易にショック状態に陥った.緑膿菌性肺炎による急性肺損傷と,それに続発する菌血症のメカニズムとして,PAMPsが肺上皮細胞の壊死を起こし,肺上皮バリアーを破壊し,急速な細菌の全身性播種が発生する.肺上皮バリアーの破壊は,細菌の全身性播種のみならず,肺胞腔側に誘導,蓄積されたTNFやインターロイキンなどの炎症性サイトカインの肺から全身循環への急速な移動を誘発し,SIRSの病態形成にかかわる.

■肺感染症を起こした場合,肺胞内のTNFαの濃度は通常の血液中の濃度の1000-10000倍の濃度勾配が存在する.上皮細胞間のtight junctionで形成される肺の上皮バリアーは強固であり,通常,細胞は簡単には肺水腫に陥らない.この上皮バリアーを越えて肺胞側に発生した感染を血漿シグナルとして伝達し,好中球の遊走反応などを誘導するためには,サイトカインの濃度勾配が必要なわけである.肺胞側に投与された放射性同位元素でラベルされたTNFαは,7時間後には損傷された肺上皮を越えて10%以上が流血中に移行したと報告されている[7].しかしながら,あくまで肺上皮が破壊されていないという条件のもとでこの濃度勾配は存在することになる.加えて,細胞毒性を持った緑膿菌株は,外毒素ExoUを直接肺上皮細胞の細胞内に注入し,細胞膜を構成するリン脂質二重膜を破壊して急性肺上皮損傷を引き起こす[9,10].いったん肺上皮バリアーが決壊するとそこから血液中の1万倍もの濃度に達している肺胞内サイトカインが流血中に流れ出てしまい,sepsisに至る.このように,sepsisにおいては細菌よりもサイトカインが病態の中心的役割をなすことが分かる.

■サイトカインがいわゆるサイトカイン・ネットワークを形成し,あるサイトカイン が過剰に産生されればその影響で他のサイトカインも過剰に産生されることを踏まえ,hypercytokinemiaが発症しているか否か,別の言い方をすればサイトカイン・ストームが吹き荒れているかどうかを判断するには,最も測定しやすいサイトカインの血中濃度を測定すればよい,すなわらちIL-6血中濃度の測定が簡便かつ有用かもしれない[11,12].実際にIL-6血中濃度を測定した報告[12]では,敗血症性ショック症例では他のSIRS,重症敗血症症例より1000倍程度もの高濃度を呈しており,この病態にhypercytokinemiaが深く関与していることを示唆している.

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by DrMagicianEARL | 2011-10-26 12:09 | 敗血症 | Comments(0)
■HMGB1(high mobility group box protein1)は全ての有核細胞の核内に存在する非ヒストン核蛋白質であり,核内においてDNAと結合し,DNAを折り曲げ,NF-κB,ステロイドホルモン受容体など様々な転写因子の活性を間接的に調節している.HMGB1を欠損したマウスはグルココルチコイド受容体機能不全などにより生後まもなく低血糖で死亡する[1].このように,HMGB1は細胞の核内において,必要不可欠な役割を担う.また,HMGB1は細胞によっては細胞質や細胞膜上にも発現しており,細胞膜上のHMGB1はamphoterinとしても知られており[2],神経突起の伸長や平滑筋細胞の遊走,癌細胞の浸潤,転移などにかかわっている.HMGB1のアミノ酸配列は進化の過程においてかなり保存されており,進化の過程においてかなり保存されており,哺乳類においては約98%の相同性があるとされる.

■マウスにLPSを投与してsepsisモデルを作製すると数日で死に至るが,これはすでに血中IL-1βやTNFαがピークを過ぎた時期であることや,TNFα欠損マウスにおいてもLPS投与後数日して死亡することから,これら炎症性サイトカイン以外のメディエータの存在が考えられた.そこでWangらはsepsisの後期に働いている致死的メディエータを探索し,HMGB1を同定した[3]

■このHMGB1がエンドトキシン血症時の後期メディエータであり,エンドトキシンショックで死亡した患者にはこの物質が血中で増加することから,致死的メディエータであることが報告されており[3],これが死のメディエータと呼ばれる所以である.敗血症性ショックにおいて抗HMGB1抗体が出現した患者の生存率が高いことも報告されている[4].HMGB1は,単球/マクロファージのみならず,ほとんど全ての細胞で発現している.発現の誘導刺激としても,LPSだけではなく,IL-1βやTNFαなどもHMGB1の発現を増加させる.

■HMGB1放出の機序は受動的放出と能動的放出の2つがある.受動的放出とは,細胞がapoptosisに陥った場合にDNAと緩く結合しているHMGB1が細胞外へと放出される機序である.一方,能動的分泌とは,LPSなどで刺激を受けたマクロファージや樹状細胞などが分泌する機序であり,このLPSによるHMGB1の放出には,HMGB1のリジン残基のアセチル化が重要とされる(どのようにしてアセチル化が誘導されるかは未解明).アセチル化されたHMGB1は核移行が阻害されることで核への再移入ができなくなり,分泌小胞へ入って細胞外へと分泌される.一方,TNFα刺激によるマクロファージからのHMGB1分泌はリン酸化が関与していることが報告されている.

■最近では,HMGB1のようにメッセージ性を持って細胞から放出される物質を生体における警報の役割をもつものとしてalarminsという総称が提唱され,国際的に用いられてきている[5].生体防御機構を超えた侵襲を受けた細胞が壊死に陥った際にHMGB1は受動的に放出されるが,このHMGB1は壊死した細胞の遺言として他の細胞にメッセージを送るとされていた.しかしながら,実際には壊死ではなくapotosisに陥った細胞から放出されるという理論に変わり,さらに近年ではHMGB1はapoptosisの段階ではなく,autophagyの段階で濃度が高まる傾向があるとされている.

■このようなapoptosis細胞から受動的に放出される細胞内成分alarminsに対する受容体も発現していて,alarminsを認識することによって炎症・免疫反応を惹起する[6,7].しかしながら,一部の免疫細胞は,外来微生物・異物侵入に応答して,自らが死ぬことなくHMGB1などのalarminsを能動的に分泌することができ,炎症・免疫反応の増幅に一役かっている.

■細胞外に放出されたHMGB1は炎症反応を立ち上げる[8,9].HMGB1は血管内皮細胞に働きかけてVCAM1(vascular cell adhesion molecule 1),ICAM1(intercellular adhesion molecule 1),E-selectinなどの接着因子の発現を誘導するとともに,好中球や単球の遊走を促し,これら炎症・免疫担当細胞の傷害局所への集積を誘導している.また,HMGB1は免疫細胞に働きかけ,炎症性cytokineの産生を促し,炎症反応の増幅を誘導している.これらの細胞がHMGB1 signalを受け取る際の受容体としては,糖化蛋白受容体(advanced glycation endproducts recptor;AGER or RAGE)が知られているが,その他にも受容体は存在すると考えられていて,TLR2やTLR4などがその候補として挙げられている.

■このように傷害局所におけるHMGB1は生体防御因子として働いていると考えられるが,その一方で,敗血症のような状況において,過剰に産生された制御不能なHMGB1は致死性因子として働く.

■盲腸結紮・穿孔(CLP)モデルに対するHMGB1阻害はCLP術後24時間からの投与でも十分に治療効果が得られた[10].この報告では,重症敗血症ではHMGB1は重要であるが,敗血症性ショックではHMGB1の関与は少なく,TNFαがその主役を演じているとしている.また,HMGB1投与は,血圧・心拍数ともに正常ではショックを生じないが,上皮バリア障害により症状の増悪と突然の心停止を引き起こす[9].このことから,sepsisの病態に応じて関与するメディエーターが異なると考えられ,治療標的としてもHMGB1とTNFαを区別して考えていく必要がある

■DICおよびMODSの病態形成にHMGB1は深く関係している.DICの患者は非DIC患者と比べて血漿HMGB1濃度が有意に高く,DIC scoreとHMGB1濃度には相関が認められる[11].また,MODSを合併している患者は非合併患者と比べてHMGB1濃度が有意に高く,SOFA scoreとも相関関係が認められる.さらに,ラットでのTb(thrombin)誘発DICモデルにおいて,HMGB1はDICの進展を加速させ,不可逆的で致死的なMODSを惹起することも明らかとなった[12,13].HMGB1は単球表面のTF(組織因子)発現を増強し,Tb-TM(Thrombomoduline)複合体によるprotein C活性化を阻害する作用がある.以前よりDIC発症にはTb以外のコアファクターの関与が推定されていたが,そのコアファクターの一つはHMGB1である可能性が示唆されている.

■現在,HMGB1のもう1つの大切な作用として,組織再生利用が注目されている.以前より適度の炎症反応が組織再生,修復に重要であることは知られていた.HMGB1は炎症部位へのmesoangioblastと呼ばれる幹細胞や血管内皮細胞の遊走作用を促進し,組織再生や血管新生に寄与することが示されている[14,15].また,HMGB1はインテグリンを介した血管内皮前駆細胞(endothelial progenitor cell:EPC)が病変部位へと遊走・集簇する,いわゆるホーミング促進作用も示す[16]

■以上より,sepsis治療標的としてのHMGB1は,後期メディエータであることから治療の時間的余裕を生み,治療標的として都合がよい.しかしながら,関与するHMGB1あるいは阻害するHMGB1の量によってその作用がまったく相反する可能性があることも示されている.したがって,臨床応用にあたっては,病態でのHMGB1阻害による至適治療域の詳細な研究が必須である.
※近年DIC治療薬であるrTM(リコモジュリン®)がHMGB1吸着作用を有することが報告されているが,これが必ずしも臨床効果を生むわけではなく,rTMの抗炎症作用はHMGB1吸着の観点においては乏しいと小生は考えている.ただし,rTMの抗炎症作用はこれ以外の機序もある.

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【余 談】
 薬剤で炎症性メディエータを制御することは非常に難しい印象がある.実際,サイトカインをターゲットとした薬剤がこれまで数多く開発されてきたが,そのほとんどが第2相,第3相で臨床的有用性を示すことができていない.「敗血症においてはサイトカイン=悪」という単純な考えで抗サイトカイン療法は行えない.創薬においても臨床的に薬剤を使用する場合においても,あらゆるメディエータには意味があり,体に有害な場合もあれば有益な場合もあることを肝に銘じるべきである.

 上記のHMGB1でも「致死的メディエータ」というイメージをもつ人が多いが,実際には状況次第で必要なメディエータでもあることが分かる.ARDSで言われる好中球エラスターゼも然り,敗血症で動くサイトカインを「下げる」ではなく「至適濃度にする」という考えに転換する必要があるが,各メーカーのMRの薬剤説明会などを聞くと,まだまだそういった流れには至っていない.「できるだけ早期に投与」もよく言われるが,確かに急性期でなければ効果はないとはいえ,盲目的に早期使用を行うことも問題があると思われる.サイトカインを制御し,至適濃度にするという意味においては現時点ではCHDFが最も有用であると推察される.
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by DrMagicianEARL | 2011-10-24 12:21 | 敗血症 | Comments(0)
■PAMPs(pathogen-associated molecular patterns:病原体関連分子パターン)とは,サイトカインや先天的な免疫に関連する蛋白の産生に繋がる細胞内シグナルを起こす物質のうち,エンドトキシン(LPS)をはじめとする病原微生物に関連した外因性の物質である[1].以下にPAMPsを挙げる.
 Triacyl lipopeptide
 Peptideglycan
 Lipoprotein
 dsRNA
 LPS(endotoxin)
 Flagellin
 Diacyl lipopeptide
 ssRNA
 Unmethylated CpG DNA
 Uropathogenic E.coli
 Lipoteichoic acid

■alarminは炎症反応に繋がる各種の内因性物質の総称である[1,2].以下にalarminsを挙げる.
 Necrotic tissue
 HSPs(HSP-60, HSP-70, Gp-96)
 Biglycan
 Self-messenger RNA
 Extra domain A-containing fibronectin
 Fibrinogen
 Polysaccharide fragments of heparin sulfate
 Oligosaccharides of hyaluronic acid
 Oxidized low low-density lipoprotein
 Surfactant protein A in the lung epithelium 1
 Neutrophil elastase
 Chromatin-IgG complex
 β-Defensin 2
 HMGB-1
 S100s
 HDGF
 IL-1a
 Uric acid
 Cathelicidins
 Defensins
 EDN
 Galectins
 Thymosins
 Nucleolin
 Annexins
※つい最近までalarminはDAMPs(danger-associated molecular patterns)と呼ばれていた[2].これは下記のdamage-associated molecular patternsと非常に混同されやすく,古い文献を読む際や,勘違いしてDAMPsを使用している文献も散見するため,注意が必要である.

■外因性物質であるPAMPsと内因性物質であるalarminsを総称してDAMPs(damage-associated molecular patterns:傷害関連分子パターン)と呼ぶ[1,3]

■RAGE(receptor of advanced glycation endproduct)やToll-like receptor(TLR)をはじめとするPRRs(pattern-recognition receptors)の発見は敗血症の病態生理のより正しい解明に大きな進歩をもたらした.すなわち,従来は基本的には,ある受容体はリガンドとしてある特定の病因物質(敗血症の場合には病原微生物)を認識して細胞内シグナルを誘発し,サイトカインの産生に結びつくと考えられていた.しかし,PRRsは特殊なアミノ酸配列ではなく,PAMPsやalarminなどのある種の普遍的で共通の立体構造を感知するmulti-ligand receptorである[4].すなわち,重症敗血症病態に関連した受容体はリガンドと1対1対応ではなく,ひとつの受容体で各種のPAMPs,alarminsをリガンドとして捉え,サイトカイン産生につながる細胞内シグナルを活性化し始める[5,6]

■PAMPsには実に様々なものがあり,LPS(リポポリサッカライド),すなわちエンドトキシンは勿論PAMPsではあるが,逆に言うとPAMPsのひとつに過ぎない.言い換えればエンドトキシン以外にも病原微生物由来の多種多様の物質,すなわちPAMPsがリガンドとしてPRRsに感知され,サイトカインの産生に繋がる細胞内シグナルを惹起するということである.この考えに立てば,エンドトキシン血中濃度が重症敗血症の重症度を必ずしも反映しないという結果[7]も,測定法に関する議論の余地はあるものの,納得できる.現在,エンドトキシン血症という概念からPAMPEMIAという概念に変わりつつある.
※臨床上,エンドトキシンの重要性に疑問がもたれはじめてきており,PMX-DHP(エンドトキシン吸着カラム)の有効性についても確たるエビデンスがあるわけでなく,CHDFに勝るものであるかはいまだに不明である.医療費のことも考慮すれば,次のSSCG 2012においてPMX-DHPが加えられたとしても推奨度はかなり低いものであると推察される.

■サイトカインの産生を促す細胞内シグナルを引き起こす物質はPAMPsのみと考えられてきた.しかし,そのような細胞内シグナルは内因性の物質によっても引き起こされることが判明してきて,alarminという概念が確立された.「死のメディエータ」であるHMGB-1もサイトカインであると同時にalarminの代表格でもある.そしてalarminには壊死組織も含まれている.つまり,どこかに感染巣があり,感染が重篤化してその部分の組織が壊死に陥り,壊死組織が免疫担当細胞に感知されると,PAMPsがなくてもPRRsを介してサイトカインの産生が促されることになる[1].また,autophagyに陥った細胞もまたalarminとして作用することも最近報告されている[8]

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by DrMagicianEARL | 2011-10-23 11:28 | 敗血症 | Comments(0)
■重症敗血症/敗血症性ショックにおいて臓器障害が発症するのはその臓器を形成している細胞の機能障害,あるいは細胞死に起因すると捉えることができる.従来は細胞機能障害さらには細胞死はnecrosis(壊死)によるという前提に立ったものであった.その後重症例における細胞死の様式として,necrosis外にもapoptosis(アポトーシス:プログラム細胞死)という細胞死の形態があることが提唱された[1]

■apoptosisは個体をよりよい状態に保つために積極的に引き起こされる,管理・調節された細胞の自殺,すなわちプログラムされた細胞死である.正常の細胞におけるapoptosisはmitosis(細胞分裂)に多雨する細胞数の制御機構でもある.このapoptosisを活性化させる外因性経路として,現在,THN-R1やFasなどのDeath受容体シグナルが知られるようになった.

■そして重症敗血症/敗血症性ショックにおける細胞死に関する一番新しい話題はautophagyである.autophagyとは「自食作用」「自己融解」とでも訳すべき病態であり,autophagosome の出現のもと細胞質の重度の空胞化や細胞内器官の融解が起こり,細胞が死亡していく病態[2]である.
※2011年11月13日に群馬大学の佐藤健教授と佐藤美由紀助教がミトコンドリアの母性遺伝の仕組みを解明したことをScience Onlineで発表した.いわゆるミトコンドリア・イブ説であるが,父方の精子のミトコンドリアが受精卵内でどのように分解されるかこれまで分かっていないかった.本発表では,父方のミトコンドリアがautophagyにより消滅したと報告されている[3]

■autophagyは栄養環境が悪化したときなどに細胞が自らの蛋白質を分解する生理現象である.蛋白質のリサイクルを行ったり,細胞質内に侵入した病原微生物を排除することで生体のホメオスタシス維持に関与している.細胞は飢餓状態になると蛋白合成が低下する.このような状況ではautophagyが生じ,自らのアミノ酸を他の細胞に譲り渡す.autophagyでは自己貪食空胞autophagosomeの中に細胞内小器官が取り込まれ,リソソームと融合して細胞内消化が生じる.このようなautophagyはAlart Cellをはじめ,膵臓,副腎など,sepsis病態のさまざまな細胞に認められる.sepsis病態で活性化されるFADDを抑制すると,apoptosisだけでなく,このautophagyも抑制できる.

■いかなる場合に細胞はnecrosis に陥り,あるいはapoptosisやautophagyに陥るかはまだ明確には解明されていない.ストレス,即ち侵襲が軽度ならばautophagyが,中等度ならapoptosisが,重度ならばnecrosisが発生する説が発表されている[4,5].この説に立てば,apoptosisやnecrosisが発生しない程度の弱い侵襲でも細胞はautophagyを発生して,それが臓器障害に繋がる可能性があるということである[5,6].今後重症敗血症/敗血症性ショックの病態の根幹をなす細胞障害,細胞死への対策を介しての治療を考える場合には,従来のnecrosisやapoptosisのみならず,autophagyの評価法,発生機序,その制御の方法などについても検討する必要があると考えられる[5,7,8]

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by DrMagicianEARL | 2011-10-22 12:31 | 敗血症 | Comments(0)
■sepsis病態で出現する炎症性分子は,炎症性受容体を介した転写因子活性に伴う産生物質としてまとめることができる.転写因子は以下のものが挙げられる[1].これらのうち,NF-κBとAP-1の活性化機構は特に解明されている.
NF-κB:nuclear factor-κB
AP-1:activator protein-1
CREB/ATF:cyclic AMP response element binding protein/activating transcription factor
IRF:interferon regulatory factor
STAT:signal transducer and activator of transcription
HIF:hypoxia inducible transcription factor

■NF-κB活性化によって増加する炎症性物質
・炎症性サイトカイン
 TNF-α,IL-1β,IL-2,IL-6,G-CSF,M-CSF
・ケモカイン
 IL-8,MIP-1a,MCP-1,Eotaxin,Gro-α,β,γ,ENA-78
・凝固因子
 TF,PAI-1,vWF
・炎症性エンザイム
 iNOS,inducible COX-2,cytosolic phospholipase A2,5-lipoxygenase
・接着因子
 intracellular adhesion molecule1,vascular cell adhesion molecule1,E-secletin

■Alert CellにおいてTLR,IL-1R,TNF-R1などの受容体から炎症性シグナルが誘導され,転写因子NF-κBの核内移行を高める[1].これにより産生されたTNF-αやIL-1βが,それらの受容体を介してNF-κB活性をさらに高めることで増幅されていき,これがサイトカイン過剰となるSIRSの原因のひとつとなる.このように,炎症性物質産生の根源に,NF-κB活性が関与することは,血管内皮細胞炎症を理解する上でも重要である.

■一方,炎症性シグナル誘導においてNF-κB活性化経路にあるtumor growth factor-β activated kinase1(TAK1)を介する経路でAP-1の活性が高まる[1].AP-1遺伝子群は,Jun,Fos,activating transcription factor(ATF),musculoaponeurotic fibrosarcoma(MAF)の4つのファミリーで構成される.Jun/ATF複合体はCREに結合し,COX-2,接着分子などの炎症性マーカー,matrix metalloproteinase(MMP-1,MMP-3,MMP-9)などのプロテアーゼや,アクチンフィラメント伸展に関与するCapG,Ezrin,Krp-1,Mts-1などを転写段階で増加させる[2]

■このようなNF-κB,AP-1の活性化はAlert Cellに観察できる.この活性化はsepsis初期には肺と心房筋と消化管で強く,時系列とともに尿細管群で高まる.

■TNF-R1は,TLRやIL-1Rと異なるシグナルとしてFas-associated death domain(FADD)を介してDeathシグナルを活性化させ,Alert Cellのアポトーシスを誘導する[3,4].TNF-R1がNF-κB,アポトーシスのいずれを活性化させるかはFADDの発現レベルとNF-κBの活性化レベルが関与する.NF-κB活性はAlert CellにおいてBcl-2やFLIPなどの抗アポトーシス因子の産生を介してアポトーシスを制御しており,NF-κB活性が高く,炎症性分子の産生が高い時期にはアポトーシスが抑制されている.Alert CellのNF-κB活性が低下すると,AP-1活性が高くなり,FADDを介した外因性アポトーシス[5]が誘導され,Alert Cellの死が早まる.
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■NF-κB活性を血管内皮細胞選択的に抑制すると,白血球浸潤が抑制され,血管内皮細胞炎症や多臓器機能障害が抑制されるが,菌のクリアランスには影響を与えないことが報告されている[6]

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by DrMagicianEARL | 2011-10-21 11:14 | 敗血症 | Comments(0)
■1996年にToll-like受容体(TLR)と自然免疫との関連が報告された[1].その後,本邦や海外でのヒトのTLR[2-4]の解析がすすみ,敗血症におけるトリガーシグナルの理解が進んだ[5,6]
※このTLR研究者が2011年にノーベル賞を受賞したことは記憶に新しい.

■TLRは,細菌の含有するPAMPs(病原体関連分子パターン:pathogen associated molecular pattern)を認識する受容体であり,これらの細胞内情報伝達の解明により,敗血症病態における炎症性物質の理解が容易となった.さらに,tumor necrosis factor receptor(TNF-R)やinterleukin receptor(IL-R1,IL-R6),C-type lectin receptor(CLR),receptor for advanced glycation end product(RAGE),protease activated receptor(PAR)などの細胞内情報伝達系の解析も進み,敗血症の病態の細胞間での炎症の伝播や増幅の機構が明らかにされてきた.

■TLRは獲得免疫と違ってゲノムの再構成を伴わないシステムながら,広い範囲の病原体を認識することができる[7].TLRを発現しているAlert Cellなどの細胞が病原体の侵入を認識すると,細胞内シグナル伝達経路が活性化し,炎症性サイトカインやⅠ型IFNなどを産生し,かつ,共刺激分子を細胞表面に発現する.こういった自然免疫の活性化が獲得免疫の活性化に必須であり,感染症に対する防御反応をつかさどっている.
※集中管理において早期経腸栄養が全身免疫を改善する理由はここにある.

■感染症が起こると,免疫担当細胞や血管内皮細胞の炎症性警笛細胞(Inflammatory Alert Cell)に存在する炎症性受容体(病原体の含有する分子パターンを認識するTLR,TNF-R,IL-Rなど)が,エンドトキシンやサイトカインなどの炎症性メディエータに反応する.グラム陽性球菌ではTLR2,グラム陰性桿菌ではTLR4,深在性真菌症ではTLR2/TLR4,サルモネラなどの鞭毛のフラジリンであればTLR-5が感知し,他の受容体を介して細胞内炎症性シグナルが増幅される.同時に,病原体を認識したマクロファージからTNF-αやIL-1βが放出される.

■TLR2やTLR4はリガンドに認識に必須であるが,TLRのみではリガンドを認識しない.たとえばMD-2はTLR-4に結合する蛋白質であり,LPSの認識に必須であることがMD-2欠損マウスの解析から判明している[8].また,TLR4/MD-2複合体とlipid Aが結合している分子結晶の構造解析からもMD-2が必須の役割を担うことが示唆されている[9].TLR4からのシグナル伝達経路のうち,TRIF依存経路の活性化には膜蛋白質であるCD14が必須であることも報告されている[10].TLR2はTLR1と共同して3本の脂質鎖を有するトリアシル化リポペプチドを,TLR6と共同して2本の脂質鎖を有するジアシル化リポペプチドを認識することが分かっている[11,12].また,トリアシル化リポペプチドの認識には,膜蛋白質であるCD36が重要であることが,遺伝学的手法によって示された[13].このように,TLR2やTLR4は他の分子と共同して病原体由来のリガンドを認識し,炎症反応などを誘導している.こうして引き起こされる自然免疫反応は感染症防御において重要である.

■細胞内シグナル伝達によって炎症性サイトカインなどの炎症性物質産生が行われるが,これは炎症性受容体刺激とNF-κBやAP-1(活性化プロテイン-1;Activator Protein-1)などの転写因子活性の上昇によるmRNAの産生亢進の結果である[5,6].この転写因子活性によって炎症性サイトカイン,各種血管拡張物質(NO,prostanoid),ケモカイン,COX-2,接着分子,凝固活性化物質などが過剰に生産される[6]

■また,ケモカイン(IL-8,MIP1α(macrophage inflammatory protein 1α),MCP1(macrophage chemotactic protein 1)など)の転写段階からの過剰産生により,局所の白血球遊走能が高まり,さらに接着分子(ICAM-1(intracellular adhesion molecule-1),vascular cell adhesion molecule-1など)の発現により白血球接着が局所に高まり,Alert Cellは白血球との連動のもとで局所防御能を高める.

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by DrMagicianEARL | 2011-10-20 17:38 | 敗血症 | Comments(0)
■炎症性cytokineの代表的なものとして,TNF-α,IL-1β,IL-2,Il-6,IL-12,IL-17,IFN-γ,MIF(macrophage migration inhibitory factor)などがある.炎症性cytokineは,主要臓器局所の濃度上昇による近傍作用(パラクライン作用)に加えて,血中濃度上昇により遠隔臓器作用(エンドクライン作用)を示す.これによるSIRSが多臓器障害症候群MODSを導くことになる.

■炎症性サイトカインの受容体は白血球系細胞に限らず,肺,右心房,腎尿細管,胃腸管,血管内皮細胞などにも存在している.さらに,肝臓,下垂体,副腎,膵臓にも微量の密度で,一部の細胞に発現している.

■主要臓器細胞は,炎症性サイトカインに鋭敏な細胞もあれば,鈍感な細胞もある.主要臓器組織内では,炎症性サイトカイン受容体シグナルを発現する細胞は4-5個の細胞あたり1個レベルである.このような炎症惹起に鋭敏な主要臓器細胞を名古屋大学の松田教授らの研究グループは炎症性警笛細胞(inflammatory Alert Cell)と呼んでいる[1].細胞種としては特に,肺胞Ⅱ型上皮細胞[2],血管内皮細胞[3],心房筋細胞,尿細管円柱上皮細胞,肝類洞細胞などにこのようなAlert Cellが認められる.すなわち,炎症のトリガー機構をAlert Cellが担っている.

■Alert Cellが少ない部位においては,その部位への白血球浸潤は低下する.よって,適切な抗菌療法がなされないかぎり,外来と接する組織は細菌の巣窟となる.

■Alert Cellが組織内で増加する際には,活性酸素種(ROS;reactive oxygen species)も重要な役割を担う.Alert細胞では,炎症性受容体リガンドによる警笛によりNF-κB活性に依存して,NADPHオキシダーゼ(NOX)や,その活性修飾因子の転写が高まる.NOX1やNOX2の遺伝子プロモーター領域には,NF-κBおよびAP-1結合領域があり,sepsisの病態の主要臓器でNOX1やNOX2の転写が高められる.これにより,スーパーオキシド(O2-)やH2O2などのROSが,sepsis病態でも主要臓器内で過剰産生される[4-6]

■正常組織では,ROSは種々の抗酸化酵素によりnM程度の濃度にコントロールされている.しかし,これらの抗酸化物質の量がsepsis病態で低下すると,活性酸素種が1μM以上の局所濃度に高められる可能性があり,細胞内リン酸化酵素や,転写因子NF-κBやAP-1が活性化されやすい.

■このような状況で,Alert Cellで産生されたH2O2などのROSは,抗酸化酵素の減少した状態では傍らに存在するnon-Alert Cellに拡散し,non-Alert CellにおけるNF-κBおよびAP-1の活性を高める危険性がある.特に,主要臓器基幹細胞のnon-Alert CellにおけるAP-1活性化はnon-Alert CellをAlert Cellへと変容させ,異物との戦いの場を近傍にスライドさせる可能性をもつ.

■一方,活性酸素種は100μM以上の濃度ではcaspase3を活性化させ,直接apotosisを誘導する可能性がある.しかし,通常のsepsis病態の主要臓器組織ではROSの濃度は100μM以上のレベルに高まりにくく,ROSは,直接apotosisに作用するよりは,non-Alert CellのAlert Cell化に関与する傾向がある.しかし,ヒト気管支上皮培養細胞を用いた研究では,活性酸素種の局所濃度が10-100μMレベルでも細胞質やミトコンドリアに空胞が観察できるようになり,ROSがautophagyを誘導する危険性がある.

■Alert Cellのapotosisの速度が細胞分裂の速度を上回ると臓器構成細胞が減少し,組織は構造維持が不可能となり,多臓器不全が生じる.
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[1] 松田直之. 敗血症における遺伝子発現変化―主要臓器の警笛細胞を標的とした遺伝子治療―. 麻酔 2008; 57: 327-40
[2] Matsuda N, et al. Silencing of fas-associated death domain protects mice from septic lung inflammation and apoptosis. Am J Respir Crit Care Med 2009; 179: 806-15 Free Full Text
[3] Matsuda N, et al. Silencing of caspase-8 and caspase-3 by RNA interference prevents vascular endothelial cell injury in mice with endotoxic shock. Cardiovasc Res 2007; 76: 132-40 Free Full Text
[4] Azevedo LC, et al. Redox mechanisms of vascular cell dysfunction in sepsis. Endocr Metab Immune Disord Drug Targets 2006; 6: 159-64
[5] Peng T, et al. Pivotal role of gp91phox-containing NADH oxidase in lipopolysaccharide-induced tumor necrosis factor-alpha expression and myocardial depression. Circulation 2005; 111: 1637-44 Free Full Text
[6] Gujral JS, et al. NADPH oxidase-derived oxidant stress is critical for neutrophil cytotoxicity during endotoxemia. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 2004; 287 :G243-52
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by DrMagicianEARL | 2011-10-19 14:13 | 敗血症 | Comments(0)

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