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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

カテゴリ:敗血症( 132 )

■1996年にToll-like受容体(TLR)と自然免疫との関連が報告された[1].その後,本邦や海外でのヒトのTLR[2-4]の解析がすすみ,敗血症におけるトリガーシグナルの理解が進んだ[5,6]
※このTLR研究者が2011年にノーベル賞を受賞したことは記憶に新しい.

■TLRは,細菌の含有するPAMPs(病原体関連分子パターン:pathogen associated molecular pattern)を認識する受容体であり,これらの細胞内情報伝達の解明により,敗血症病態における炎症性物質の理解が容易となった.さらに,tumor necrosis factor receptor(TNF-R)やinterleukin receptor(IL-R1,IL-R6),C-type lectin receptor(CLR),receptor for advanced glycation end product(RAGE),protease activated receptor(PAR)などの細胞内情報伝達系の解析も進み,敗血症の病態の細胞間での炎症の伝播や増幅の機構が明らかにされてきた.

■TLRは獲得免疫と違ってゲノムの再構成を伴わないシステムながら,広い範囲の病原体を認識することができる[7].TLRを発現しているAlert Cellなどの細胞が病原体の侵入を認識すると,細胞内シグナル伝達経路が活性化し,炎症性サイトカインやⅠ型IFNなどを産生し,かつ,共刺激分子を細胞表面に発現する.こういった自然免疫の活性化が獲得免疫の活性化に必須であり,感染症に対する防御反応をつかさどっている.
※集中管理において早期経腸栄養が全身免疫を改善する理由はここにある.

■感染症が起こると,免疫担当細胞や血管内皮細胞の炎症性警笛細胞(Inflammatory Alert Cell)に存在する炎症性受容体(病原体の含有する分子パターンを認識するTLR,TNF-R,IL-Rなど)が,エンドトキシンやサイトカインなどの炎症性メディエータに反応する.グラム陽性球菌ではTLR2,グラム陰性桿菌ではTLR4,深在性真菌症ではTLR2/TLR4,サルモネラなどの鞭毛のフラジリンであればTLR-5が感知し,他の受容体を介して細胞内炎症性シグナルが増幅される.同時に,病原体を認識したマクロファージからTNF-αやIL-1βが放出される.

■TLR2やTLR4はリガンドに認識に必須であるが,TLRのみではリガンドを認識しない.たとえばMD-2はTLR-4に結合する蛋白質であり,LPSの認識に必須であることがMD-2欠損マウスの解析から判明している[8].また,TLR4/MD-2複合体とlipid Aが結合している分子結晶の構造解析からもMD-2が必須の役割を担うことが示唆されている[9].TLR4からのシグナル伝達経路のうち,TRIF依存経路の活性化には膜蛋白質であるCD14が必須であることも報告されている[10].TLR2はTLR1と共同して3本の脂質鎖を有するトリアシル化リポペプチドを,TLR6と共同して2本の脂質鎖を有するジアシル化リポペプチドを認識することが分かっている[11,12].また,トリアシル化リポペプチドの認識には,膜蛋白質であるCD36が重要であることが,遺伝学的手法によって示された[13].このように,TLR2やTLR4は他の分子と共同して病原体由来のリガンドを認識し,炎症反応などを誘導している.こうして引き起こされる自然免疫反応は感染症防御において重要である.

■細胞内シグナル伝達によって炎症性サイトカインなどの炎症性物質産生が行われるが,これは炎症性受容体刺激とNF-κBやAP-1(活性化プロテイン-1;Activator Protein-1)などの転写因子活性の上昇によるmRNAの産生亢進の結果である[5,6].この転写因子活性によって炎症性サイトカイン,各種血管拡張物質(NO,prostanoid),ケモカイン,COX-2,接着分子,凝固活性化物質などが過剰に生産される[6]

■また,ケモカイン(IL-8,MIP1α(macrophage inflammatory protein 1α),MCP1(macrophage chemotactic protein 1)など)の転写段階からの過剰産生により,局所の白血球遊走能が高まり,さらに接着分子(ICAM-1(intracellular adhesion molecule-1),vascular cell adhesion molecule-1など)の発現により白血球接着が局所に高まり,Alert Cellは白血球との連動のもとで局所防御能を高める.

[1] Lemaitre B, et al. The dorsoventral regulatory gene cassette spatzle/Toll/cactus
controls the potent antifungal response in Drosophila adults. Cell 1996; 86: 973-83

[2] Kawai T, Akira S. Toll-like receptor and RIG-I-like receptor signaling. Ann N Y Acad Sci 2008; 1143: 1-20
[3] O'Neill LA. The interleukin-1 recptor/Toll-like receptor superfamily : 10 years of progress. Immunol Rev 2008; 226: 10-8
[4] Frantz S, et al. Mechanisms of disease: Toll-like receptors in cardiovascular disease. Nat Clin Pract Cardiovasc Med. 2007; 4: 444-54
[5] 松田直之. 全身性炎症反応症候群とToll-like受容体シグナル―Alert Cell Strategy―. 循環制御
2004; 25: 276-84
[6] Matsuda N, Hattori Y. Systemic inflammatory response syndrome (SIRS) : Molcular pathophysiology and gene therapy. J Pharmacol Sci 2006; 101: 189-98
[7] Akira S, et al. Pathogen recognition and innate immunity. Cell 2006; 124: 783-801
[8] Nagai Y, et al. Essential role of MD-2 in LPS responsiveness and TLR4 distribution. Nat Immunol 2002; 3: 667-72
[9] Kim HM, et al. Crystal structure of the TLR4-MD-2 complex with bound endotoxin antagonist Eritoran. Cell 2007; 130: 906-17
[10] Jiang Z, et al. CD14 is required for MyD88-independent LPS signaling. Nat Immunol 2005; 6: 565-70
[11] Takeuchi O, et al. Cutting edge : role of Toll-like receptor 1 in mediating immune response to microbial lipoproteins. J Immunol 2002; 169: 10-4
[12] Takeuchi O, et al. Discrimination of bacterial lipoproteins by Toll-like receptor 6. Int Immunol 2001; 13: 933-40
[13] Hoebe K, et al. CD36 is a sensor of diacylglycerides. Nature 2005; 433: 523-7
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by DrMagicianEARL | 2011-10-20 17:38 | 敗血症 | Comments(0)
■炎症性cytokineの代表的なものとして,TNF-α,IL-1β,IL-2,Il-6,IL-12,IL-17,IFN-γ,MIF(macrophage migration inhibitory factor)などがある.炎症性cytokineは,主要臓器局所の濃度上昇による近傍作用(パラクライン作用)に加えて,血中濃度上昇により遠隔臓器作用(エンドクライン作用)を示す.これによるSIRSが多臓器障害症候群MODSを導くことになる.

■炎症性サイトカインの受容体は白血球系細胞に限らず,肺,右心房,腎尿細管,胃腸管,血管内皮細胞などにも存在している.さらに,肝臓,下垂体,副腎,膵臓にも微量の密度で,一部の細胞に発現している.

■主要臓器細胞は,炎症性サイトカインに鋭敏な細胞もあれば,鈍感な細胞もある.主要臓器組織内では,炎症性サイトカイン受容体シグナルを発現する細胞は4-5個の細胞あたり1個レベルである.このような炎症惹起に鋭敏な主要臓器細胞を名古屋大学の松田教授らの研究グループは炎症性警笛細胞(inflammatory Alert Cell)と呼んでいる[1].細胞種としては特に,肺胞Ⅱ型上皮細胞[2],血管内皮細胞[3],心房筋細胞,尿細管円柱上皮細胞,肝類洞細胞などにこのようなAlert Cellが認められる.すなわち,炎症のトリガー機構をAlert Cellが担っている.

■Alert Cellが少ない部位においては,その部位への白血球浸潤は低下する.よって,適切な抗菌療法がなされないかぎり,外来と接する組織は細菌の巣窟となる.

■Alert Cellが組織内で増加する際には,活性酸素種(ROS;reactive oxygen species)も重要な役割を担う.Alert細胞では,炎症性受容体リガンドによる警笛によりNF-κB活性に依存して,NADPHオキシダーゼ(NOX)や,その活性修飾因子の転写が高まる.NOX1やNOX2の遺伝子プロモーター領域には,NF-κBおよびAP-1結合領域があり,sepsisの病態の主要臓器でNOX1やNOX2の転写が高められる.これにより,スーパーオキシド(O2-)やH2O2などのROSが,sepsis病態でも主要臓器内で過剰産生される[4-6]

■正常組織では,ROSは種々の抗酸化酵素によりnM程度の濃度にコントロールされている.しかし,これらの抗酸化物質の量がsepsis病態で低下すると,活性酸素種が1μM以上の局所濃度に高められる可能性があり,細胞内リン酸化酵素や,転写因子NF-κBやAP-1が活性化されやすい.

■このような状況で,Alert Cellで産生されたH2O2などのROSは,抗酸化酵素の減少した状態では傍らに存在するnon-Alert Cellに拡散し,non-Alert CellにおけるNF-κBおよびAP-1の活性を高める危険性がある.特に,主要臓器基幹細胞のnon-Alert CellにおけるAP-1活性化はnon-Alert CellをAlert Cellへと変容させ,異物との戦いの場を近傍にスライドさせる可能性をもつ.

■一方,活性酸素種は100μM以上の濃度ではcaspase3を活性化させ,直接apotosisを誘導する可能性がある.しかし,通常のsepsis病態の主要臓器組織ではROSの濃度は100μM以上のレベルに高まりにくく,ROSは,直接apotosisに作用するよりは,non-Alert CellのAlert Cell化に関与する傾向がある.しかし,ヒト気管支上皮培養細胞を用いた研究では,活性酸素種の局所濃度が10-100μMレベルでも細胞質やミトコンドリアに空胞が観察できるようになり,ROSがautophagyを誘導する危険性がある.

■Alert Cellのapotosisの速度が細胞分裂の速度を上回ると臓器構成細胞が減少し,組織は構造維持が不可能となり,多臓器不全が生じる.
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[1] 松田直之. 敗血症における遺伝子発現変化―主要臓器の警笛細胞を標的とした遺伝子治療―. 麻酔 2008; 57: 327-40
[2] Matsuda N, et al. Silencing of fas-associated death domain protects mice from septic lung inflammation and apoptosis. Am J Respir Crit Care Med 2009; 179: 806-15 Free Full Text
[3] Matsuda N, et al. Silencing of caspase-8 and caspase-3 by RNA interference prevents vascular endothelial cell injury in mice with endotoxic shock. Cardiovasc Res 2007; 76: 132-40 Free Full Text
[4] Azevedo LC, et al. Redox mechanisms of vascular cell dysfunction in sepsis. Endocr Metab Immune Disord Drug Targets 2006; 6: 159-64
[5] Peng T, et al. Pivotal role of gp91phox-containing NADH oxidase in lipopolysaccharide-induced tumor necrosis factor-alpha expression and myocardial depression. Circulation 2005; 111: 1637-44 Free Full Text
[6] Gujral JS, et al. NADPH oxidase-derived oxidant stress is critical for neutrophil cytotoxicity during endotoxemia. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 2004; 287 :G243-52
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by DrMagicianEARL | 2011-10-19 14:13 | 敗血症 | Comments(0)

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