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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

カテゴリ:敗血症( 135 )

■以下では具体的な推奨内容(CQ&A)と注意点や私見を述べる.推奨理由等の詳細はガイドライン本文を参照されたい.

推奨提示
推奨提示はMINDs2014に準拠する

エビデンスの強さ(≒質)
A(強):効果の推定値に強い確信がある
B(中):効果の推定値に中等度の確信がある
C(弱):効果の推定値に対する確信は限定的である
D(とても弱い):効果の推定値がほとんど確信できない

EC(エキスパートコンセンサス):①網羅的文献検索でRCTが存在しない場合,②委員会で複数の投票で合意が得られなかった場合,において,生理学や病態生理を考慮して提言をする臨床的な解決方法(生理学的に当たり前の事象で,介入試験で検証できない臨床上重要なこと)を推奨できる場合に限って提言.「常識的ではあるが臨床上確認しておくと患者にとって有益な事柄」

推奨の強さ
1:強く推奨する
2:弱く推奨する
 今回の推奨決定へのプロセスはGRADEシステムに非常に似ているが,異なる箇所もあるMINDs2014の方式を用いていることに注意されたい.また,SSCG 2012においてungradedという推奨表記があったが,本ガイドラインではEC(エキスパートコンセンサス)がほぼこれに相当する.

 作業工程としては,CQ(Clinical Question)およびPICO(対象,介入,対照,アウトカム)の決定,PubMedでのRCTの網羅的検索,(規定内容に該当するなら)システマティックレビュー,推奨決定となっている.委員会での投票はコアメンバー19名のうち2/3以上の賛同を得られれば承認となる.

 なお,解釈に注意したい部分として,推奨のベクトルがある.「行うことを弱く推奨する」と「行わないことを弱く推奨する」は真逆とは考えない.推奨の強さは①エビデンスの質,②益と害のバランス,③価値観,④コストや資源の利用の4要因によって規定されるものであり,その推奨度は連続的であるため,推奨と非推奨との間に大きな差がないこともありうる.

CQ1.定義と診断
CQ1-1.敗血症の定義は?

A.敗血症は,「感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態」と定義する.敗血症は,感染に対する生体反応が調節不能な病態であり,生命を脅かす臓器障害を導く.また,敗血症性ショックは,敗血症の一分症であり,「急性循環不全により細胞障害および代謝異常が重度となり,死亡率を増加させる可能性のある状態」と定義する.これらは2016年2月に発表された敗血症の新しい定義「The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3)」に準じる.
 2016年2月22日のCritical Care Congressにおいて発表された新しい敗血症の定義であるSepsis-3を採用することとなった.本内容はJAMA誌に掲載されており参照されたい(JAMA 2016; 315: 801-10).ざっくり言えば,炎症主体の概念から臓器障害主体の概念となっており,臓器障害のない感染症は敗血症とみなさなくなった.すなわち,これまでよりも重症度・死亡率の高い集団となる.
CQ1-2.敗血症の診断と重症度分類は?

A.敗血症は,感染症もしくは感染症の疑いがあり,かつSOFAスコア合計2点以上の急上昇により診断する.なお,診断に至るプロセスはICUなどにおいて重症管理をしている場合と,病院前救護,救急外来,一般病棟における場合で分けて考える.

ICUなどの重症管理においては,感染症もしくは感染症の疑いがあり,SOFAスコア合計2点以上の急上昇を確認し,敗血症と診断する.

一方,病院前救護,救急外来,一般病棟では,感染症あるいは感染症が疑われる患者に対しては,qSOFA(quick SOFA)を評価し,2項目異常が存在する場合は敗血症を疑い,臓器障害に関する検査,および早期治療開始や集中治療医への紹介のきっかけとして用いる.最終的には,ICUなどの重症管理と同様に,感染症もしくは感染症の疑いとSOFAスコア合計2点以上の急上昇を確認し,敗血症と確定診断とする.

敗血症の重症度は,大きく敗血症と敗血症性ショックに分類し,従来使用してきた重症敗血症の区分を用いない.敗血症性ショックは,「敗血症の中でも急性循環不全により死亡率が高い重症な状態」として区分し,具体的には輸液蘇生をしても平均動脈血圧65mmHg以上を保つのに血管収縮薬を必要とし,かつ血清乳酸値2 mmol/L(18 mg/dL)を超える病態とする.これらの2つの大きな重症度区分に準じて,個々の患者における重症度と緊急度を判断する.

なお,新たな敗血症の定義と診断Sepsis-3では,感染症(疑いを含む)の評価とSOFA合計スコアの推移(2点以上の急上昇)が診断基準として不可欠な項目であり,敗血症の早期診断と治療開始のためには,日々のルーティンな敗血症スクリーニングが必要である.
 SIRSの診断基準が消え,新たにqSOFAとSOFAスコアがスクリーニング基準および診断基準に組み込まれており,これらはSepsis-3で提示された診断プロセスである(JAMA 2016; 315: 801-10).ガイドライン本文には診断のフローチャートも掲載されており(29ページ参照),これを各施設で活用されたい.

 今回新たに登場したqSOFAは「呼吸数≧22回/分」「収縮期血圧≦100mmHg」「GCS<15」の3項目で構成されており,2つ以上満たせばスクリーニング陽性となる.言い換えれば「呼吸がおかしい」「橈骨動脈が触れにくい/触れない」「意識がおかしい」であり,とにかくベッドサイドで何かおかしいとすぐに気が付きやすいもので構成されていることが分かり,医師のみならずナースをはじめとする他の医療職種でも威力を発揮するスクリーニングツールである.また,SIRS基準では白血球数が必要であったが,qSOFAは採血なしに評価可能である.

(1) qSOFAの注意点
 なお,このフローチャートで特に注意していただきたいのは,qSOFAが2点未満で,基準に該当しなかった場合である.qSOFAスコアは非常に簡便に評価できる3項目ではあるが,当然ながら感度100%とはいかない.私見であるが,Sepsis-3が発表されてから1年弱の間,このqSOFAを適用させてみたが,どうも膿瘍や感染性心内膜炎,蜂窩織炎など比較的時間経過の長い感染症による敗血症においてはqSOFAからすりぬけてしまうようである.そして,これらのすりぬけた全症例の共通点として,呼吸数22回以上を満たすこと,SIRS基準を満たすこと,採血で臓器障害がみられること,の3つが挙げられた.また,中には平均血圧が65mmHgを下回っている症例も1例あった.このように,同じ敗血症でも感染症の違いによってqSOFAでは拾いきれないことがあり,それらを見逃さないための工夫が必要である.

(2) そもそもどこで感染症疑いとするか?
 本診断基準の難点として,感染症が疑われていることが前提である.逆に言えば感染症を疑っていなければそこで終了となってしまう.体温を参考にすればよいとする意見もあるが,体温は特異度が低い上,敗血症でも発熱があるとは限らない.2010年に行われた日本救急医学会の前向き調査Sepsis Registryデータの解析(Crit Care 2013; 17: R271)では4人に1人が36.5℃以下であり,しかもこのような低体温の患者の方が予後が悪いとされているため,体温に頼ったスクリーニングはリスキーである.後述するプロカルシトニンもその感度特異度や数値解釈の難しさを考えればこれだけをもって感染症診断を行うべきではない.

 結局は症状と経過,感染症リスク因子などを総合的に評価する必要がある.ただし,臨床的な経験と感覚で感染症疑いと容易に判断できるケースは多く,敗血症に至るほどの重症度レベルまでなった感染症症例が多数の症例が見落とされることはないと思われるため,実際に問題となるのは非典型症例である.そのような症例では診断に難渋するが,①qSOFA項目の明らかな異常があれば精査の対象となること,②重症度(特に臓器障害やショック)などがあれば緊急性が高く敗血症も鑑別に挙げての何らかの対応が必要となること,を念頭におけば,診断はつかずとも迅速な初期対応は可能になると思われる.

 なお,感染症有無を評価するツールとしてinfection probability scoreというものがある.体温,脈拍,呼吸数,白血球数,CRP,SOFAスコアの数値ごとに点数化され,合計が14点未満なら89.5%の確率(陰性適中率)で感染症を否定できるというものである.私自身は使用したことがないため,使用感は分からないが,項目を見てもすべて非特異的要素で構成されているため,実臨床でどこまで信頼のおけるツールかは判断しづらい(Crit Care Med 2003; 31: 2579-84)

(3) 呼吸数,平均動脈圧,乳酸値計測,SOFAスコアの普及の問題
 この4つはルーチンで見られていないことが多い.とりわけ呼吸数は急変の最も鋭敏なバイタルサインであるにもかかわらず,最も計測漏れするバイタルサインである.また,救急・集中治療を専門としない医師・スタッフは平均動脈圧の評価に慣れていない(そもそも計算方法を知らないこともしばしば).乳酸値計測は血液ガス分析が一般的だが,呼吸状態の評価としてしか用いない医師がいたり,乳酸値が計測項目に入っていない血液ガス分析機を採用している施設もまだ多い.SOFAスコアはICU領域において長年用いられてきた臓器障害スコアリングシステム,ではあるものの実際に日常診療で日々のSOFAスコアを計測しているICUは限られている.敗血症を診断する上で各施設でのこれらの問題点の解決は必須である.研修会等で周知徹底する必要があるだろう.
CQ1-3.敗血症診断のバイオマーカーとして,プロカルシトニン(PCT),プレセプシン(P-SEP),インターロイキン-6(IL-6)は有用か?

A.
①ICUなどの重症患者において敗血症が疑われる場合,感染症診断の補助検査としてP-SEPまたはPCTを評価することを弱く推奨する(P-SEP:2B,PCT:2C).感染症診断の補助検査としてIL-6を日常的には評価しないことを弱く推奨する(2C)

②救急外来や一般病棟などの非重症患者において敗血症が疑われる場合,感染症診断の補助検査としてP-SEPまたはPCTまたはIL-6を日常的には評価しないことを弱く推奨する(P-SEP:2C,PCT:2D,IL-6:2D)
 本推奨は,①ICUで全身状態が不安定な状況で敗血症を疑うが感染症の確定診断に苦慮する状態,②外来あるいは一般病棟入院中で全身状態は悪くはないが敗血症が疑われる状態の2つの状況を想定して検討されたものであるということを理解しておく必要がある.このような場合ではこれらのバイオマーカーが補助的診断ツールとして機能する可能性がある.現時点での評価は上記の通りであり,ICU以外では有用性はいまいちといったところであろうか.

 これらのバイオマーカーは診断ツールではない上にそこまで感度特異度が抜群にいいというわけではないのだが,とりわけ普及しているプロカルシトニンを見ると,実臨床ではあたかも診断ツールかのように計測されており,施設によっては感染症疑い患者でルーチンで計測を行っているなど,不適切使用が圧倒的に多い(宣伝するプロカルシトニンのメーカーも明らかな保険適用外使用をすすめてきたこともあり,プロモーションコードはいったいどうなってるのかと思ったことがある).その上,でてきた数値をちゃんと解釈できる医師は少数派と思われる.カットオフをどこに設定するかでもかなり変わるため,ちゃんと理解して使用しなければ計測するだけ無駄である.

 私見であるが,基本的に敗血症と診断できた状況で計測する意味はなく,また,細菌感染か否かの鑑別確定のために使用するものでもない(実際に計測して主治医が判断に悩む数値(0.1~0.5)がでてコンサルトされることはしばしばあるが,これらの多くの場合は計測しなくていい状況で計測しているだけである).結果的に抗菌薬不適切使用につながっているケースも多数見受けられた.そういう意味ではこれからプロカルシトニン等の院内採用を考えている施設は今一度熟慮されたい.

 そもそも,今回のガイドラインより敗血症の診断はSepsis-3に準じるものとしており,これらのバイオマーカーはSepsis-3基準では一切評価されていないことに注意されたい.

←日本版敗血症診療ガイドライン2016(1) 概要
日本版敗血症診療ガイドライン2016(3) 感染の診断,画像診断,感染源コントロール→

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by DrMagicianEARL | 2017-01-04 19:08 | 敗血症 | Comments(0)
■日本集中治療医学会/日本救急医学会合同特別委員会による日本版敗血症診療ガイドライン2016がオンライン公開となった.
「日本版敗血症診療ガイドライン2016 (J-SSCG2016)」先行公開のお知らせ
http://www.jsicm.org/haiketu2016senkou.html
■今回のガイドラインは,2012年の日本版の改訂というよりゼロから作り直しである.領域は大幅に増えて19項目,Clinical Questionの数は100個弱に及ぶ.作成メンバーも全体で70名以上の大所帯となっている.2014年の夏にkick offとなり,1年かけて吟味に吟味を重ねて骨格となるClinical Questionを作成,その後1年半かけてシステマティックレビューと推奨作成を行った.COIに関しては,金銭面におけるCOI(economic COI)のみならず学術的COI(academic COI)も公開している.
本ガイドラインの特徴(ICUとCCU 2015; 39: 443-8)

1) 2016年の発表をめざし,名称は「日本版重症敗血症診療ガイドライン2016」とした.(その後Sepsis-3発表があり重症敗血症という病名がなくなったため現在の名前に変更)
2) 単なる改訂版の位置づけではなく,一般臨床家にも理解しやすい内容かつ質の高いガイドラインを作成し,広い普及を目指す.
3) 中立的な立場で活躍するアカデミックガイドライン推進班を作成するなど,先進的な組織作りを行い,本邦における大規模ガイドライン作成のモデルを目指す.
4) システマティック・レビューなどを通して,新たに見出されたエビデンスをガイドラインと独立して論文化し,救急・集中治療領域の資産とする.
5) 将来への橋渡しとなることを企図して,多くの若手医師をワーキンググループメンバーに登用している.
6) 質の担保と作業過程の透明化を図るため,相互査読制度,各班内の討議のオープン化,作業過程と討議過程の最終公開を行う.
7) クリニカルクエスチョンとガイドライン最終案の2回でパブリックコメント募集を行う.

今回のガイドライン作成を通してめざす本当の意義(ICUとCCU 2015; 39: 443-8)

国際的なガイドライン(SSCG)があるのに本邦独自のガイドラインを作成することの意義を疑問視する声も大きい.しかしながら,この議論は,複合産業である自動車産業が,わが国の発展にどれだけ寄与してきたかを議論するに近いものと考えている.かつて輸入車しかなかった時代に,まずは模倣あら始めることで国産車を作る試みを始めた先達のおかげで,我が国の多種多様な産業がどれだけ発展したかは改めて述べるまでもない.本邦独自のガイドラインの作成の意義を考えた時,「諸外国と同等のガイドラインさえも作れない国でいいのか?」と問いかけたい.
■このように質の高さと透明性の確保という面でかなり力の入ったガイドラインとなっており,見た目はかなりしっかりしたガイドラインである.ただし,次回改訂に向けた宿題が多数あるのも事実であり,今回作成にたずさわらせていただいた私もそれを痛感している.よって,ガイドラインの弱点も知った上で活用していただきたい.

(1) システマティックレビューはRCTのみで行っている

■今回のガイドラインは作成メンバーが70名以上とはいえ,CQは100個弱に及んでおり,人数も時間も厳しい状況であった.既知の優れたRCTのシステマティックレビューがあり,かつその後にエビデンスを覆すような新規のRCTがでていなければシステマティックレビューは行わないが,そうでない場合,あるいはシステマティックレビューが不足している等の事情があればシステマティックレビューをワーキンググループで行っている.しかし,質があまり高くないRCTしかなくその一方で大規模観察研究を複数有するような介入があった場合,RCTのみでのシステマティックレビューから出される推奨のみでよいのか?という点はlimitationであろう.

■同時に,RCTがないが観察研究はある介入であった場合,今回は観察研究のシステマティックレビューは行っておらず,エキスパートオピニオンとしてまとめた推奨文を作成している.相互査読,委員会での承認,パブコメを経たものとはいえ,作成時の議論の時間も厳しかったワーキンググループもあり,人によっては解釈がかなり異なってくる可能性もあるため注意が必要である.

(2) システマティックレビューへの不慣れ

■今回の作成メンバーのうち,システマティックレビューに長けたメンバーはごく一部であった.このため,MINDsのシステマティックレビュー講習をメンバーは受講しているが,近年のシステマティックレビューから推奨に至るまでの過程の難解さに直面した.その不慣れさが推奨に現れていることも否定できず,パブコメではGRADEシステムの専門家の先生から厳しい指摘があったのも事実である(ただし今回は,似てはいるもののGRADEではなくMINDs方式である).

■バイアスリスク評価やエビデンスの質評価を行う課程では,ある程度決まった法則はあるもののメンバー間での意見の相違も多数生まれ,議論を要するが,実際に行ってみて痛感したのは,かなり長期間の訓練を要するものだということである.

(3) システマティックレビューの質としては・・・

■前述の通り,限られた人数で時間的制約もある中,近年の一般的なシステマティックレビューと同様の方法をとることは難しかった.たとえば,システマティックレビューでは文献検索エンジンは最低2つ以上用いるべきとされているが,今回はPubMedのみに限定している.検索式にしても,網羅しつつヒット数を絞り込めるような検索式を立てているが,本来ならば対象と介入のtermのみで構成した取りこぼしのない感度100%を目指す検索式が望ましい.しかし,それをやれば領域によっては万単位の文献ヒット数となり,これを仕分けるには膨大な時間を要してしまう.

■includeしたRCTのアウトカムであるが,生物学的研究でのデータは非正規分布であるとの考えから,連続変数については平均値と標準偏差の組み合わせではなく中央値と四分位範囲の組み合わせを提示している論文が増加している.しかし,中央値と四分位範囲ではメタ解析はできず,そのようなRCTは解析から除外しているワーキンググループもあれば,除外せずに中央値と四分位範囲を平均値と標準偏差に変換する手法(当然ながら数値の信頼性は落ちる)をとったワーキンググループもある.

(4) 推奨が提示できなかった項目がある

■今回のガイドラインでとりわけ奇怪と思われても仕方がない部分が2か所ある.免疫グロブリン製剤とリコンビナント・トロンボモデュリンである.これらは,RCTが複数ありシステマティックレビューを行った上で推奨を出すも,委員会での複数回の投票で2/3以上の賛同を得られなかった結果,「明確な推奨を提示できない」となったものである.SSCGどころか他のガイドラインでもこのような文面はまず見かけないし,現場にとっては混乱を招きかねない.修正に修正を重ねても議論が紛糾する領域は必ず存在するのだから,合議制なり何らかの落としどころを規定しておいた方がよかったのではないだろうかと感じている.

(5) 現場で即座に使える形ではない

■これは問題点というよりガイドラインそのものがもつ解決不能の弱点であり,今回のガイドラインに限らず,救急集中治療領域のあらゆるガイドラインに言えることである.本ガイドラインは本編だけで300ページ以上,付録も約150ページにおよぶ.推奨文の案に対するパブコメ期間は2週間ずつ2回設けられたが,その期間ですべての文章を熟読できた人はほとんどいないのではないだろうか?(それくらい情報量が多かったので).

■本来,ガイドラインはその治療に不慣れな医師でも標準レベルの医療の質を提供するものであるが,この分量をポンと渡されて目の前の敗血症患者の救命のために緊急の現場で使うのはかなり厳しいものがある.しかも19領域,CQ&Aの羅列が100個近く並ぶが,これをどのように治療の流れとして組み立てていくかをその場で考えるには本ガイドラインだけでは非現実的である.

■また,4年前にSSCG 2012や2012年の日本版が出たとき,臨床現場や研究会で私が感じたのは,CQ&Aのみしか見ておらず推奨文にも目を通していない医師の存在である.分量が多ければ多いほど,この現象は起こりやすいと推察される.

■よって,とりわけ救急・集中治療が専門でない医師が臨床現場で活用するのであれば,このガイドラインの内容をしっかり理解した上で,各施設の現状に合わせたコンパクトなフローチャート等に「圧縮」「翻訳」する必要がある.

■次回からは本ガイドラインの内容について見ていく.
日本版敗血症診療ガイドライン2016(2) 敗血症の診断→
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by DrMagicianEARL | 2016-12-27 15:53 | 敗血症 | Comments(0)
■敗血症性ショックを疑ったけど,感染巣が不明で感染症かどうかも分からない,なんて患者に遭遇することは珍しくないと思いますし,ICTもそのような状況でコンサルトを受けることがあると思います.そのような患者は予後が悪いのかなと思ってましたが,そうでもないようです.今回紹介する論文はフランスのICUから,多施設共同前向き観察研究です.発症から敗血症性ショックが疑われてICUに入室し,24時間以内に感染巣や病原微生物の根拠が得られたか否かで患者を評価しています.

■結果は,予後に有意差なし.早期に感染症の根拠が得られなかった患者は26%,そのうち別疾患と診断したものが44%(全体の11%),あとで敗血症性ショックと診断できたものが28%(全体の7%)でした.また早期診断群の方が,糖尿病患者が少なく,発熱がより高く,意識レベルが高く,CRPやプロカルシトニンが高いという患者背景でした.24時間以降に診断がついた敗血症性ショックの感染巣は何か特殊なのかなと思ったら,通常の敗血症の疫学とほぼ変わらない結果でした.敗血症性ショックもどきを呈した薬剤副作用としては,ビグアナイド系経口血糖降下薬(メトホルミン)が最多で,次いでレニンアンギオテンシン系降圧薬,β遮断薬,プロポフォールが続いていました.

■これを見るに,感染巣が特定できようができまいが,やはり初期の循環管理をしっかり適切に行うことが要であろうと思われます.私自身は敗血症に対して抗菌薬投与を1時間以内に投与することをpracticeとしていますが,本心ではおそらく1時間以内じゃなくてもいいと思っています.抗菌薬の早期投与がいいという過去の研究はすべて観察研究であり,いかに多変量解析を行っているとはいえ,抗菌薬投与が全治療のスタートラインとなっていて循環管理が遅れているのを反映しているだけ,という可能性がそれなりにあるからです.実際に予後に影響を与えるのは抗菌薬早期投与よりも早期のショック治療だと思います(かといって抗菌薬投与が遅すぎるのもよくないでしょうけど).まあこのあたり,いろいろ思うところがあるなと感じながらも1時間以内に適切な抗菌薬を選択して投与をすべくやってます.
24時間時点で診断がついていない敗血症性ショック:実際的多施設前向きコホート研究
Contou D, Roux D, Jochmans S, et al. Septic shock with no diagnosis at 24 hours: a pragmatic multicenter prospective cohort study. Crit Care. 2016 Nov 6;20(1):360
PMID:27816060

Abstract
【背 景】
敗血症と考えられたショック管理の24時間後の明らかな感染巣の欠如はよく見られ,シナリオの妨げになる.我々の目的は,発症から24時後に未診断のショックの頻度と原因を検討し,早期に診断された敗血症性ショック患者の予後と比較することである.

【方 法】
我々はフランスの10の集中治療室(ICU)において,実際的前向き多施設共同観察コホート研究を行った.抗菌薬処方につながる感染症が臨床的に疑われ,循環作動薬を要する循環不全があると定義された敗血症性ショック疑いでICUに入室した患者を全例連続的に登録した.

【結 果】
計508例の患者が敗血症性ショックの疑いでICU入室となった.それらのうち,374例(74%)が早期に敗血症性ショックと診断され,一方で134例(26%)がショック発症から24時間の検索で感染巣も微生物学的根拠も同定できなかった.これらのうち,37/134例(28%)は24時間移行に敗血症性ショックと診断され,59/134例(44%)は敗血症を模倣した状態(敗血症性ショック様.ほとんどは薬剤有害反応,急性腸間膜虚血,悪性疾患に関連)であり,38/134例(28%)はICU在室終了まで原因不明のショックであった.早期に診断された敗血症性ショック患者とそうでない患者では,ICU死亡,ICU在室期間,気管挿管期間,循環作動薬使用期間に差はなかった.多変量Coxモデルでは,敗血症性ショックの早期診断有無で60日死亡リスクに差はみられなかった.Sepsis-3の定義による基準に合致した患者のサブグループ(369/508例)における感度解析でも同様の結果であった.

【結 論】
敗血症性ショック疑いでICUに入室した患者の1/4は発症から24時間以内に感染症の根拠が検出できず,そのうちのほぼ半数は最終的に敗血症性ショック模倣疾患と診断された.早期診断の敗血症性ショックとそれ以外の患者で予後に差はみられなかった.

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by DrMagicianEARL | 2016-12-12 20:10 | 敗血症 | Comments(0)
■敗血症性ショックに大量輸液は必要だが,過剰輸液も死亡リスクに悪影響を与える,ということがずっと言われてきましたが,あくまでも観察研究によって提唱されていた仮説であり,試験ごとに比較すると,やはり重症度が高まるほど輸液量が多いことが避けられず,過剰輸液のせいで死亡リスクが悪化するのか因果関係は不明,というのも事実です.

■今回,敗血症性ショックの大量輸液においてプロトコルを組んで輸液制限が可能かを検討したRCTが報告されたので紹介します.結果は,輸液制限群の方が好ましいという結果.非常に興味深い内容・・・ですが,除外基準として重度の呼吸不全や腎代替療法の患者を除外している,無作為化時点で既に両群とも中央値にして4000mL以上の輸液が既に入っており初期輸液にしては多すぎですし,患者背景を見るに治療する際の難治性因子となる不利な項目が標準ケア群の方が多い,輸液制限群にプロトコル違反が3割もいる,などなど,limitationは非常に多く,素直には受け取れない結果と私はみていますので,現時点でこのプロトコルをリアルワールドで使う気にはなれません.まあサンプル数がそれほど多くないfeasibility trialですので,今後のさらなる検討を期待します.
初期管理後の成人敗血症性ショックにおける蘇生輸液量の制限:CLASSIC無作為化並行群間多施設共同実現可能性試験
Hjortrup PB, Haase N, Bundgaard H, et al; CLASSIC Trial Group; Scandinavian Critical Care Trials Group. Restricting volumes of resuscitation fluid in adults with septic shock after initial management: the CLASSIC randomised, parallel-group, multicentre feasibility trial. Intensive Care Med. 2016 Nov;42(11):1695-1705
PMID:27686349

Abstract
【目 的】
敗血症性ショックで集中治療室(ICU)に入室した患者における初期蘇生後の蘇生輸液制限プロトコルと標準ケアプロトコルの効果を評価する.

【方 法】
スカンジナビアの9つのICUにおいて,初期輸液蘇生を受けた151例の敗血症性ショック成人患者を無作為化した.輸液制限群では,輸液ボーラス投与は重度の低灌流のサインが生じたときのみ許可し,標準ケア群では循環指標が改善し続ける限り許可した.
※本文より
低灌流のサイン:乳酸値≧4mmol/L,ノルアドレナリン投与下で平均動脈圧≦50,皮膚のまだら模様が膝蓋部からさらに拡大,尿量≦0.1mL/kg/hr(無作為化から2時間以内限定)


【結 果】
主要評価項目である第5病日時点およびICU在室中の蘇生輸液量は,輸液制限群の方が標準ケア群よりも少なかった[第5病日平均差-1.2L(95%CI -2.0 to -4.0); p<0.001,ICU在室中平均差-1.4L(-2.4 to -0.4); p<0.001].全輸液量およびバランスまたは重篤な有害反応は両群間で統計学的有意差はみられなかった.輸液制限群で主要なプロトコル違反が27/75例に行われていた.虚血性イベントは,輸液制限群で3/75例,標準ケア群で9/76例(OR 0.32; 95%CI 0.08-1.27; p=0.11),急性腎傷害の悪化は27/73例 vs 39/72例(OR 0.46; 95%CI 0.23-0.92; p=0.03),90日死亡は25/75例 vs 31/76例(OR 0.71; 95%CI 0.36-1.40; p=0.32)生じていた.

【結 論】
敗血症性ショックの成人ICU患者において,蘇生輸液を制限するプロトコルは標準ケアプロトコルと比して蘇生輸液量を減少させることができた.臨床的アウトカムは輸液制限群ですべての項目で有益な傾向がみられたが,本試験はこれらの探索的結果において差を示すには検出力不足であった.

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by DrMagicianEARL | 2016-12-08 16:12 | 敗血症 | Comments(0)
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世界敗血症啓蒙月間(Sepsis Awareness Month) (1)2020年への目標
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■「Around every 3rd heart beat someone dies of sepsis(我々の心臓の鼓動が3心拍打つたびに誰かが敗血症で命を落としている)」.この敗血症の世界的な危機的状況を改善させるため,「Stop Sepsis, Save Lives(ストップ敗血症,命を救え)」をスローガンに,非営利団体である世界敗血症同盟(GSA;Global Sepsis Alliance)設立され,敗血症患者のためにより良い管理体制を整えることを目的とし,致死性疾患である敗血症に対する認識を深めるための世界的活動の一貫として,2012年に9月13日をWorld Sepsis Day(WSD;世界敗血症デー)と定め,世界各地で各種イベントが開催され,世界敗血症宣言が発表された.また,2015年からは9月全体を敗血症啓蒙月間に定め,さまざまなキャンペーン等が行われており,今年は第一回世界敗血症会議(World Sepsis Congress)も開催される.

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The World Sepsis Declaration(世界敗血症宣言)
 敗血症は先進国,発展途上国を問わず,世界で最もよく見られる,しかしながら最も認知度が低い疾患の1つである.世界的には年間2000万~3000万の患者が敗血症に罹患しており,その中には疾患新生児・乳児600万人以上,母体10万人以上が含まれている.世界では3-4秒に1人が敗血症で命を落としている
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 先進国では敗血症の罹患率は毎年8-13%の割合で劇的に増加しており[1],大腸癌と乳癌を合わせた数よりも多くの命を奪っている.理由は様々であるが,高齢者を含む全年齢層へのハイリスクな薬剤の使用,抗菌薬への耐性化の進行,毒素の多様化などが挙げられる.発展途上国においては,栄養失調,ワクチンや適切なタイミングでの治療を受ける機会の不足は全て敗血症死に寄与している.

 その警戒すべき発生率にもかかわらず,敗血症は一般市民にはほとんど知られておらず,しばしば血液の中毒と誤解されている.感染症に対する生体反応が自己の組織や器官に傷害を与えることにより敗血症が生じる.特に早期に発見され,適切に治療されない場合,ショック状態,多臓器不全,死に至ることがある[2].ワクチン,抗菌薬,救急治療などの先進医療で進歩が見らているにもかかわらず,敗血症は感染症を原因とする死亡の主因となっており,その院内死亡率は30-60%にも達する.

 この悪化の流れをくい止め,最終的に敗血症による死亡数の増加を減少に転じるたの適切な措置を講じるため,我々 ―世界的敗血症コミュニティー― は世界的行動を広く呼びかける.

 我々は必要な事前の行動を開始し,以下に示す5つの鍵となる目標に委ねることで,政府,開発者,プロフェッショナルな組織や健康管理団体,慈善家や後援者,民間部門,あるいは全社会から資源と支持を得られるよう,すべての関連した診療関係者に働きかける.

 2020 年までにこれらの目標を周知し,全世界で達成できる,段階的な発展計画を公に行うよう,我々は各国に呼びかける.

世界的目標(Global Goals)
1.敗血症の政策の課題化を行う(Place sepsis on the development agenda).敗血症の増大する医学的・経済的負担に関する認知度を上げることによって,敗血症に与えられる政治的な優先度を高める.

2.世界的に敗血症の与える影響を予防かつ制御する戦略が最も必要とされる人々に適切に提供できるようにするため,敗血症診療関係者と連携して活動する(Mobilize stakeholders)

3.敗血症の初期認知とより効果的な治療が行われるよう改善し,世界中ですべての人々に適切な予防と治療を可能にするために,国際的な敗血症ガイドライン[4,5]の遂行を支持する(Support the implementation of international sepsis guidelines)

4.地域および国レベルで敗血症の発症率を減少させ,敗血症の予後を改善させるための戦略を計画する上で,敗血症の生存者や敗血症遺族とも連携する(Involve sepsis survivors and those bereaved by sepsis)

5.十分な治療と敗血症患者において急性期でも長期ケアでも利用可能であるリハビリテーション施設とよく訓練されたスタッフを確保する(Ensure that sufficient treatment and rehabilitation facilities and well-trained staff)

2020年までの5つの目標(Key targets to be achieved by 2020)
1.敗血症を予防する戦略により敗血症発症率を世界的に減少させる(The incidence of sepsis will decrease globally through strategies to prevent sepsis)
 手洗い,清潔操作,公衆衛生の改善,栄養と清潔な水の供給,そして資源の少ない地域でのリスクのある患者集団におけるワクチン接種プログラムなど,良好な幅広い衛生実行を促進することにより,2020年までに敗血症発症率を20%減じる

2.早期の認知システムと救命救急治療の標準化の促進,採用により,全世界で小児(新生児を含む)と成人の敗血症生存者を増加させる(Sepsis survival will increase for children (including neonates) and adults in all countries through the promotion and adoption of early recognition systems and standardised emergency treatment)
 2020年までに,宣言を支持する国の急性期保健システム,地域,プライマリーケア組織の少なくとも3分の2は,ルーチン化された敗血症スクリーニングを急性期患者のケアに盛り込む.
 2020年までに,継続可能な送達系が,全ての国で利用できる効果的な敗血症コントロールプログラムを確保した状態にする.すべての国は,敗血症患者が国際的なコンセンサス・ガイドラインに従って最も重要な基本的な医療介入,抗菌薬,静脈内輸液を受けるまでにかかる時間をモニタリングする.
 2020年までに,小児(新生児を含む)と成人の敗血症生存率を2012年よりさらに10%改善させる.これは,敗血症レジストリーの設立によりモニタリング,提示され,Surviving Sepsis CampaignとInternational Pediatric Sepsis Initiativeの始動により改善がみられたことに基づき行われる.

3.敗血症の公的かつ専門的な知識と認識を改善する(Public and professional understanding and awareness of sepsis will improve)
 2020年までに敗血症を一般的に周知された言葉とし,緊急の医療介入を要することと同義とする.後の人達は敗血症の早期警戒徴候が何であるかについて非常によく理解する.日常的に治療の遅れが疑われるように,治療が必要であろうという家族の予測をより鋭敏にする.
 2020年までにすべての加盟国は,医療専門職の間で敗血症を学習する必要性を確立し,関連するすべての大学生や大学院生のカリキュラムにおいて,敗血症を医療の緊急事態としてトレーニングされることを盛り込むことを確実なものとする.

4.適切なリハビリテーション・サービスの利用(Access to appropriate rehabilitation services)により世界中のすべての患者を改善する.
 2020年までにすべての加盟国は,敗血症罹患患者の退院後も継続したケアの供給を行うよう標準化し,資源を確保する.

5.敗血症の世界的な観測(The measurement of the global burden of sepsis)と,敗血症のコントロールと管理の影響を著明に改善させる. 
 2020年までにすべての加盟国は,国際社会のデータ条件と一致しかつ相補的である,任意もしくは指示により敗血症レジストリーを確立し,敗血症を一般の健康問題として確立するのを補助する.国際社会は,国際的な敗血症レジストリの設立へ向けて働きかける.
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■東京オリンピックが開催されるのと同じ年である2020年までの目標が提示された.そして今年2015年も9月13日にWorld Sepsis Dayのイベントが世界中で開催される.GSAの設立の基礎となっている学術集団は,世界集中治療連盟(WFSICCN;World Federation of Society of Intensive and Critical Care Medicine),世界小児集中治療連盟(WFPICCS;World Federation of Pediatric Intensive and Critical Care Medicine),世界集中治療看護師連盟(World Federation of Critical Care Nurses),国際敗血症フォーラム(International Sepsis Forum),敗血症同盟(Sepsis Alliance)の5団体である.これらの団体に加え,70カ国の団体が参加している.

■日本集中治療医学会では,2012年3月のブリュッセルにおけるGSAの準備会議に参加し,World Sepsis Dayの趣旨に賛同し,8月には日本GSA委員会(中川聡委員長)を発足させ,活動を開始した.また,GSA Japanのホームページも開設された.
SEPSIS JAPAN 敗血症プラネットhttp://sepsisjapan.com/index.html


■今年は9月8~9日に第1回世界敗血症会議(1st World Sepsis Congress)がWeb上で開催され,インターネットで無料参加可能である.敗血症の豪華な専門家陣が多数講演されるので是非参加を.
http://www.worldsepsiscongress.org
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■日本では9月5~11日の6~24時にかけて,毎日6分おきに東海道新幹線の東京駅,名古屋駅,新大阪駅の改札口付近の大型スクリーンで敗血症啓蒙のためのデジタルサイネージを流す予定である.

[1] Vincent JL, Sakr Y, Sprung CL, et al. Sepsis in European intensive care units: results of the SOAP study. Crit Care Med 2006; 34: 344-53
[2] Kumar A, Roberts D, Wood KE, et al. Duration of hypotension before initiation of effective antimicrobial therapy is the critical determinant of survival in human septic shock. Crit Care Med 2006; 34: 1589-96
[3] Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, et al; and the Surviving Sepsis Campaign Guidelines Committee including the Pediatric Subgroup. Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Severe Sepsis and Septic Shock: 2012. Critical Care Medicine 2013; 41: 580-637
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by DrMagicianEARL | 2016-09-01 01:43 | 敗血症 | Comments(0)
【書籍紹介】ポケット版ICU観察ポイントチェック帳

日総研より,井上茂亮先生(東海大学救急准教授/八王子病院救急センター長)編集の「ポケット版ICU観察ポイントチェック帳」を御恵贈いただきました.当院ICU看護師に本書を見せたところ,25名(ほぼ全員)が購入を希望し,現在注文中です.
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■全身管理を要し,超急性期の救命から亜急性期・回復期につなげる支持療法に至るまで,ICU患者の観察ポイントは多岐にわたります.その際,経験に基づく解釈・介入は重要ではありますが,経験で突っ走ると,「なんとなく」が横行したり,変なローカルルーチンができたり,医療ケアの標準レベルを維持できなかったり,後で振り返る際に改善点が見出しにくかったりといろいろなデメリットが生じます.

■本書はICU看護師の入門書であると同時に簡潔にまとめられた重要観察項目を素早くベッドサイドでチェックできる,ベテランナースにもおすすめできるポケットブックです.病態生理等の詳細な医学書というわけではありませんが,実臨床で使える即戦力となる1冊でしょう.また,ICU管理に慣れていない先生方,研修医にとっても,ICU患者の何を見ればいいかに慣れる上で便利です(せっかくICU看護師が看護カルテにアセスメントでいろいろなスコアリング等を記していても主治医が分からず情報共有にまったくならない上に変な介入が生じるなんてことは珍しくありません).

■大項目としてショック,循環,呼吸,人工呼吸,中枢神経,鎮痛鎮静せん妄,腎・代謝,敗血症,栄養,回復期,ライン・ドレーン管理,術後管理,スキンケア,その他がとりあげられており,小項目は全部で82項目あり,ICUで特に重要な観察項目はほぼすべてカバーされています.中身は,シンプルかつビジュアル的に分かりやすく,1項目につき1ページにまとめられています.大きさは10.5cm×14.4cmほど,厚さは5mmでiPhone6よりも薄く,軽いため,ポケットに入れても邪魔になりません.税込み2000円になります.
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by DrMagicianEARL | 2016-07-04 11:35 | 敗血症 | Comments(0)
■敗血症患者では免疫抑制が生じることが知られていて,ICUで治療中に二次感染が生じやすくなります.ではその二次感染はどの程度死亡リスク上昇に関与しているのかについて検討した報告がJAMA誌にでました.その上昇リスクは絶対差で2%とわずかという結果でした.過去にも「ICU死亡のうちVAPが関与しているのは1.5%に過ぎない」という報告があり(Am J Respir Crit Care Med 2011; 184: 1133-9),ICU関連感染症自体の重症度はそれほどたいしたことはないのかもしれません.このあたりは重症度評価をきっちりはかる必要があります.

■ただし,この結果は二次感染を許容するものでは当然ありません.せん妄リスクや,入院日数・人工呼吸器装着期間,コストへの影響は大きい可能性がありますし,そのぶんだけPICSのリスクも増す可能性があります.
敗血症でICU入室後の二次感染の発生率,危険因子,死亡への寄与
van Vught LA, Klein Klouwenberg PM, Spitoni C, et al; MARS Consortium. Incidence, Risk Factors, and Attributable Mortality of Secondary Infections in the Intensive Care Unit After Admission for Sepsis. JAMA 2016 Mar 15 [Epub ahead of print]
PMID:26975785

Abstract
【背 景】
敗血症では,晩期死亡に関連した二次感染リスク増加を引き起こす免疫抑制が惹起されると考えられている.

【目 的】
敗血症のある,もしくはないICUに入室においてICU関連感染症の臨床的および宿主遺伝的な特性,発生率,死亡への寄与について検討する.

【方 法】
入室時診断(敗血症または非感染症)に応じた層別化を行った,2011年1月から2013年7月までのオランダの2つのICUにおいて48時間以上の連続的入院患者を登録した前向き観察研究である.主要評価項目はICU関連感染症(48時間超での発症)とした.寄与死亡リスク(感染に起因する危険因子の排除によって予防することができた死亡の割合)は,競合リスクを計算する時間事象モデルを用いて検討した.敗血症による入院のサブセット(461例)において,血液遺伝子発現(白血球における全遺伝子トランスクリプトーム)はベースラインとICU関連感染症(19例)と非感染(9例)事象の発症時に解析した.

【結 果】
主要コホートは1719例の敗血症入院を含んでいた(1504患者; 年齢中央値62歳; 四分位範囲[IQR] 51-71歳; 924例は男性(61.4%)).比較コホートは,最初の48時間で感染症を呈していない1921例の入院を含んでいた’(1821患者; 年齢中央値62歳; IQR 49-71歳; 1128例は男性(61.8%)).ICU関連感染症は敗血症によるICU入院の13.5%(232例),非敗血症によるICU入院の15.1%(291例)で生じていた.ICU関連感染症が生じた敗血症患者はICU関連感染症を生じなかった敗血症患者よりも,入院時(Acute Physiology and Chronic Health Evaluation IV [APACHE IV]スコア中央値 90 [IQR 72-107] vs 79 [IQR 62-98]; p<0.001)およびICU滞在中の疾患重症度スコアが高かったが,ベースラインの遺伝子発現に差はみられなかった.敗血症患者におけるICU関連感染症の集団死亡寄与率は60日で10.9%(95%CI 0.9-20.6%)であり,敗血症患者とICU関連感染症のない患者の死亡率の推定差は60日で2.0%(95%CI 0.2-3.8%; p=0.03)と小さかった.非敗血症のICU入室において,ICU関連感染症の集団寄与死亡率は60日で21.1%(95%CI 0.6-41.7%)であった.ベースラインと比較すると,ICU関連感染症の発症における血液遺伝子発現は糖新生および解糖系における遺伝子発現の減少を示していた.

【結 論】
ICU関連感染症はより重症度の高い敗血症患者においてより多く発生していたが,このような感染症は全死亡への寄与はわずかであった.敗血症患者の遺伝子的反応は二次感染発症時の免疫抑制と一致していた.

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by DrMagicianEARL | 2016-04-17 00:00 | 敗血症 | Comments(0)
■敗血症病態においては全身性炎症反応症候群であるSIRSとその反対の抗炎症性に働くCARSが起こるとされており,その混合病態はMARSと呼ばれ,この状態は病状が落ち着いてからも遷延するとされています(PICS:Persistent Inflammation-immunosuppression Catabolism Syndrome).今回はそれに関する研究を紹介します.敗血症生存者は免疫能が低下していると考えた方がいいでしょう(免疫学的麻痺:immunoparalysis).
敗血症に起因する長期の免疫学的麻痺 - 記述的探索的研究結果
Arens C, Bajwa SA, Koch C, et al. Sepsis-induced long-term immune paralysis - results of a descriptive, explorative study. Crit Care 2016 Feb 29; 20(1): 93
PMID:27056672

Abstract
【背 景】
免疫系の長期的障害は敗血症生存後の晩期の死亡の根本的な原因として考えられている.我々は初回の敗血症の生存者において,免疫系の変化が遷延するという仮説を検証した.

【方 法】
本前向き横断予備研究では,カテコラミンを要した敗血症から生存した8例の元患者と年齢,性別,糖尿病,腎不全でマッチした8例の対照者を登録した.各参加者は既往,薬剤内服歴,感染症既往についてアンケートを行った.末梢血は,α-CD3/28,LPS,ジモサンによって刺激を加えた全血でⅰ)免疫細胞サブセット(CD4+,CD8+T細胞;CD25+CD127-制御性T細胞;CD14+単球),ⅱ)細胞表面受容体発現(PD-1,BTLA,TLR2,TLR4,TLR5,Dectin-1,PD-1L),ⅲ)HLA-DR発現,ⅳ)サイトカイン分泌(IL-6,IL-10,TNF-α,IFN-γ)を計測するため採取した.

【結 果】
敗血症生存後に,元患者は,免疫系の障害に典型的に関連した臨床的に明らかな感染症の数の増加を呈した.標準的な炎症マーカーは,元敗血症患者において低いレベルの炎症を示した.CD8+細胞表面受容体ならびに単球HLD-DR密度の数値は二群間で有意差はみられなかったが,一方でCD4+T細胞はPD-1およびBTLAによる負の免疫調節の対向機序の傾向がみられた.加えて,敗血症後群は単球表面の明確なパターン認識受容体の発現において変化が見られ,最も顕著だったのはTLR5発現の減少であった.自然免疫系(LPS,ジモサン)および獲得免疫系(α-CD3/28)の両方の重要な活性化因子への反応におけるサイトカイン分泌は元敗血症患者において弱まっていた.

【結 論】
免疫系の異なる活性化因子への反応としてのサイトカイン分泌は,敗血症生存者において総合的に障害されていた.とりわけ,これは明確な細胞表面受容体のダウンレギュレーションの傾向に基づいていた.我々の結果に基づくと,変化を特徴づけ,係合する潜在的な治療ターゲットを見つけることを目的としたより大きな検証研究の実施が可能と思われる.

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by DrMagicianEARL | 2016-04-12 12:52 | 敗血症 | Comments(0)
2011年10月18日投稿
2012年11月17日改訂
2016年3月8日改訂

Summary
・SIRSは炎症性サイトカインなどのメディエーターの過剰状態を反映しており,体温,脈拍,呼吸数,白血球数から規定され,その病態は感染症,外傷,手術,急性膵炎,広範囲熱傷,心機能低下,虚血再灌流障害,Bacterial Translocation(BT)などが挙げられる.
・SIRSは多臓器不全MOF/MODSの原因となる.
・2016年2月の敗血症の定義改訂に伴いSIRS基準はなくなったが,新基準の方がより敗血症診断精度が優れているかについては明らかではない.
・SIRSと相反する免疫抑制病態CARSも敗血症の重症化に寄与しており,二次感染の原因となる.
■SIRSの概念は敗血症とともに広まったが,Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2012ではその姿は消え,2016年2月の敗血症の定義改訂でもSIRSは完全に姿を消した.ではSIRSははたしてその役目を終えたのか?について.

1.SIRS基準とは?

■SIRS(Systemic Inflammatory Rseponse Syndrome:全身性炎症反応症候群)は以下の4項目のうち2項目以上該当すれば診断される[1]
(1) 体温 >38℃ or <36℃
(2) 脈拍 >90 回/分
(3) 呼吸数 >20 回/分 or PaCO2<32mmHg
(4) 白血球数 >12000/mm^3 or <4000/mm^3 or 桿状好中球 > 10%

■SIRSの病態は,以下のように3段階で進行し,本来は有益であるはずの炎症反応が過剰となった状態である.sepsisは感染症によって生じたSIRSとされる[2]
Stage I
侵襲に対して,局所でサイトカインが産生され,炎症反応を惹起し,創治癒と網状内皮系の活性化を促す.
Stage II
局所で産生されたサイトカインは,循環内へ放出され,これによってgrowth factor が刺激され,マクロファージと血小板が産生される.この急性期の反応は,炎症を惹起する因子と内因性の拮抗因子によってコントロールされ,恒常性が維持されている.
Stage III
炎症反応のコントロールが破綻し,炎症が局所に留まらず全身へ波及した場合,サイトカインは生体の保護因子ではなく,むしろ破壊因子として働き,多数のカスケードと網状内皮系が活性化され,循環動態が破綻するため,臓器不全が生じる.

■SIRSをきたす病態は感染症,外傷,手術,急性膵炎,広範囲熱傷,心機能低下,虚血再灌流障害, Bacterial Translocation(BT)などが挙げられる.そのシンプルな診断基準ゆえに特異度は低いが感度が非常に高く,sepsisにおいては早期診断治療が可能となるメリットがある.
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敗血症の定義についてはこちらをクリック

■炎症性サイトカインは,主要臓器局所の濃度上昇(血中の1000-10000倍)による近傍作用(パラクライン作用)に加え,この極度に高められたサイトカインが血管内に流入することにより血中濃度上昇をきたし,遠隔臓器作用(エンドクライン作用)を示す.これによりSIRSが多臓器不全を導く.

■SIRSが発表された後,これに対しさまざまな異論が述べられた.Vincent[3]は,SIRS基準では,①感度が高過ぎ,ICU患者の2/3がSIRSに該当し,また特異性にも欠け,患者がSIRSであると呼ぶことは“critically ill”患者であるというのに近く,患者群が不均一となり,炎症反応のモデュレーション治療などの有効性が隠蔽されてしまう,②SIRSは病態生理の理解に役立たない,③病態の変化を反映しない,等の問題点を挙げ,最後に,④SIRSには意味がなく,役立たないばかりかしばしば背後に潜む感染源を探ろうという意欲を削ぐ結果に繋がることが懸念されると結論づけている.

■このVincent意見に対し,Dellinger,Boneは,本来SIRSは,臨床的に感染病巣が明らかでない場合でも,全身性の炎症反応を呈する患者をもれなく包含する目的を達成するものであり,この観点では,SIRS基準は全身性炎症反応の最低限レベル(閾値レベル)を捉えており妥当であると反論している[4].また、本来,感染,熱傷,膵炎,外傷といった患者の臨床像を全く考慮せずにSIRSの判定を行うべきものではなく,一方,判定では簡単かつ客観的な生理学的指標を用いるため,多施設研究に適している点もあらためて指摘している.そもそもACCP/SCCM合同カンファレンスの論文[1,5]にもその有効性を示すデータのほか,その限界も併記されており,改善の余地を残すものであることも明言されている.

■SIRSにおける体温上昇は,脳血液関門(BBB)がない視床下部に炎症性メディエータ受容体が発現しており,SIRS状態では誘導型シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の転写段階からの産生亢進によるプロスタグランディンE2(PGE2)の産生により発熱反応が誘導される[6].一方,敗血症初期には種々の血管拡張性物質が産生され,血管が強く拡張される.これに対して意識下では交感神経緊張により血漿カテコラミン濃度が上昇し,体血管抵抗をを保つことで血圧を維持しようとするが,このような代償機構を保ちにくい高齢者などでは,拡張した末梢血管より熱放散が高まり,体温が低下する.敗血症での低体温が死亡リスクを高めることは既に報告があり[7-10],高体温よりも死亡率は高い.

■敗血症では頻脈が惹起されるが,これは①内因性カテコラミン,②心房筋でのオータコイド産生(プロスタグランディンやヒスタミン),③相対的循環血液量低下による反射性頻脈,④アドレナリン作動性β2受容体の増加,の主に4つの要因が関与する[11].とりわけ敗血症性ショックにおいては,心拍数上昇が予後悪化と関連することが報告されている[12-17]

■SIRSや敗血症初期では呼吸数が増加するが,これは①乳酸アシドーシスに対する呼吸代償,②組織酸素需要量増大に伴う低酸素応答,③交感神経緊張,の3つの要因が関与しており,最も早くに現れる異常である.SIRS基準からqSOFAに変わってもなお呼吸数はスクリーニングツールに入っており,早期認知の重要な指標であり続けている.

■SIRSにおいては転写因子NF-κBによってG-CSFやM-CSFの産生が転写段階より調節されることで白血球数が上昇する.また,sepsis病態の骨髄細胞ではToll-like受容体(TLR)の細胞内シグナルとしてInterferon Regulatory Factor(IRF)が活性化し,感染症における白血球系細胞の分化を多様化している[18,19].これらの骨髄産生系の加速に比較して,末梢での白血球浸潤が強い場合,末梢血採血の白血球は見かけ上減少する.このような場合においても,末梢血に幼弱球が検出できる.

■Asayamaらの報告[20]によると,救急車で来院する全患者を診療する慶應義塾大学附属病院ERでの検討では,傷病ごとのSIRS発症率は,感染症73%,肝胆膵疾患44%,呼吸器疾患42%,代謝性疾患31%,消化管疾患22%,循環器疾患20%であり,細菌感染症がSIRSを発症しやすいことが分かる.来院時に15%の患者が,病院滞在期間中のいずれかの時点で18%がそれぞれSIRS基準を満たしている.また,SIRS患者と非SIRS患者の比較では,入院率は56.0%vs15.4%,死亡率は12.3%vs1.4%でいずれもSIRS患者が有意に高かった.SIRS該当項目数で見ても,入院率,死亡率は項目数が増えるごとに有意に増加した.この傾向は海外の報告[21]でも同様である.

2.敗血症の新定義によりSIRSは消えるのか?

■Intensivist誌の2014年7月号の特集「Severe Sepsis & Septic Shock」は志馬先生の「さよならSIRS」から始まる.確かにSIRSは前述の通り感度が高く特異度が低いがゆえの問題点をはらんでいる.ANZICSからの大規模観察研究[22]ではSIRS基準では重症敗血症の8人に1人を見逃すとしている(感度87.9%).しかし,この精度ははたしてそれほどよくないと言えるだろうか?感染+SIRS+臓器障害で9割近くの感度はむしろ優れたスクリーニングツールとも言えないこともない.後ろ向きにデータベースを見れば当然ながらSIRS基準からの漏れは見つかるし,それをもって不完全と言うのはたやすいが,実臨床では完璧なスクリーニングツールなど存在しない.また,後ろ向きで見ているとはいえ,敗血症には絶対基準が存在しない以上,この数字はいかようにも変わる.

■となれば,2016年2月の敗血症の新しい診断基準[23]もまた,正確に敗血症という病態を診断する完璧なものではない.そしてその検証研究は後ろ向きのデータベースを28日死亡とICU在室日数をアウトカムとした精度(AUROC)で評価しており[24],このアウトカムでもともと広いスクリーニングツールを想定しているSIRSより優れているとするのは違和感がある.SIRS+臓器障害のくくりと新定義がはたしてどちらがより病態を的確にとらえているのかは今後の検証しだいとなるだろう.

■もっとも,qSOFAはSIRS基準よりもよりさらに簡便かつシンプルになっており,特にSIRSにはあった白血球の項目がなくなったことで採血が不要になるため,ベッドサイドで完結できるスクリーニングツールとなる.

■SIRSからの脱却は,敗血症の診断・治療において炎症を重視しすぎてきたという事情がある.しかしながら,敗血症という病態において炎症が働くことは動かざる事実であり,同時に,免疫抑制状態のCARS,さらにはSIRSとCARSの混合病態であるMARSも既に提唱されており,敗血症病態の解明を目的として,概念としてのSIRSは今後も残っていくと思われる.

3.免疫系におけるSIRSとCARS

■SIRSはCARS(compensatory anti-inflammatory response syndrome:代償性抗炎症反応症候群)とセットで理解する必要がある.通常は炎症が高まっている状態で更なる感染症が生じることは考えにくい.しかし,敗血症ではその臨床経過中に更なる感染症を発症して重症化する病態が知られている[25,26].これは,炎症性サイトカインの産生により惹起された炎症反応を沈静化しようとして引き起こされる抗炎症性サイトカインの過剰産生により発症する免疫抑制が深く関わっていることが知られており,immunoparalysisと呼称されている[27,28].これは熱傷,膵炎等でも同様である.

■Immunoparalysisの発症は,免疫細胞のアポトーシスの増加,アネルギーやHLA-DRを発現している単球の割合の減少などで診断される.Immunoparalysisの発症にはさまざまな因子が関与しているが,抗炎症性サイトカインの過剰産生も重要な因子である[27].CARSは1996年にRoger Boneにより提唱された血清学的病態概念であり[29],CARSは炎症性サイトカイン産生の高まるSIRSに拮抗する病態として,自己免疫抑制状態と考えられている.

■抗炎症性サイトカインの代表的なものとしては,TGF-β(transforming growth factor-β) super family,IL-4,IL-6,IL-10,IL-11,IL-13やα-MSH(α-melanocyte stimulating hormone)などがある.抗炎症性サイトカインが活性化されるCARSの病態では,①皮膚アレルギー所見の出現,②単球やリンパ球の活性低下,③炎症性サイトカインの産生抑制,④TGF-βを介した組織線維化や組織増殖などが特徴となる.

■CARSで主に取り上げられるIL-10はSIRSの転写因子の主体であるNF-κBやAP-1,そしてカテコラミンによるcAMP response elementに依存して,転写が高まる.このため,炎症性サイトカインと同様の機序として,早い時期よりTh1細胞,B細胞,マクロファージや樹状細胞などでIL-10産生が上昇する.一方,このIL-10が作用するIL-10受容体は,血管内皮細胞,Ⅱ型肺胞上皮細胞,心房筋障害などの主要臓器細胞にはほとんど検出できない.IL-10受容体の発現は白血球系細胞に限られるので,IL-10を介したCARSは白血球機能の抑制にのみ作用する.これにより細菌,真菌を含めた異物の生体内侵入が容易となる.

■一方,CARSの別の主役であるIL-4やIL-13は転写因子NF-κBではなく,主に転写因子NFAT(nuclear factor of activated T-cell)で転写調節される.SIRSにおいて,NFATはNF-κBより遅れて活性を上昇させる傾向があるため,IL-4やIL-13は炎症性サイトカインより遅れて産生されてくる.これがSIRSとCARSが必ずしも並行ではない機序の一つである.IL-4,IL-13の受容体は白血球系の細胞に加えて,血管内皮細胞にも存在する.IL-4,IL-13は白血球系細胞では炎症性サイトカインの産生を抑制するが,血管内皮細胞では炎症性サイトカインの産生を高めるという逆作用をもつこと,血管内皮細胞にアポトーシスを誘導し,血管の線維化にも関与することが示唆されている.

■IL-6は,IL-1βにより刺激された単球/マクロファージ,血管内皮細胞,線維芽細胞,ケラチノサイトなどから産生され,これまで炎症性サイトカインと考えられてきたが,近年,抗炎症性サイトカインとしての役割も注目されている.IL-6受容体は,白血球系細胞以外にも,血管内皮細胞や主要臓器細胞にも存在し,NF-κB活性を下げ,炎症性サイトカインシグナルを負に調節している.すなわち,IL-6はCARSに関与しているサイトカインである.

■このように,CARSは白血球細胞の活性を低下させる一方で,血管内皮細胞などの炎症を独自に進行させ,SIRSにおける血管拡張病態を血管収縮状態にシフトさせるように作用する.CARSが持続している病態では,①白血球系細胞の機能低下により易感染性となること,②感染性2nd attackによりSIRS再燃の可能性があること,③血管内皮細胞障害進展の可能性があることに留意する.

■SIRSは症候学的定義により,評価しやすい病態である.しかし,CARSは症候学的定義がなく,あくまでも血清学的病態に過ぎず,抗炎症性サイトカインを測定しない限り明確に評価できない.実際の臨床では,SIRSとCARSがともに生じていると考え,MARS(mixed antagonistic response syndrome;混合性拮抗反応症候群)として対応している[30]

■近年,CARS病態では制御性T細胞(Treg)が注目されている.TregはCD4+で免疫を制御するT細胞として1995年にSakaguchiらの研究[31]で発見されており,その誘導は現在癌治療で注目されているPD-1/PD-Lシグナルが関与していることが分かっている.Tregの末梢での生存維持は,CD4+CD25-T細胞と比較して,IL-2への依存度が高いが[32],その一方でTreg自身はIL-2の産生を低下させてTh0の分化を抑制するnegative feedback作用を有する.敗血症患者の初期の末梢血においてはIL-2産生が高まるが,この後にTregが30-40%にまで上昇し[33],Th2優位な状態となり,CARSに至る.

■Hirakiらは,CLP敗血症マウスモデルにおいてTregの増加し,抗IL-10中和抗体,抗TGF-β中和抗体を投与することでTregを制御すると予後が改善したと報告している[34].また,Onoらは,腹腔感染症による敗血症患者32例において,PMX-DHPを施行することで,死亡例より生存例の方がTregが有意に減少していたと報告している[35].これらの報告からも敗血症病態においてはTregによるCARSがむしろ生体に不利に働く可能性がある.

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by DrMagicianEARL | 2016-03-08 15:08 | 敗血症 | Comments(0)
2011年10月17日作成
2012年10月29日改訂
2016年3月7日改訂
Summary
・敗血症において菌血症は必要条件でもなければ十分条件でもない.
・敗血症の診断基準としては1991年基準(SIRS),2001年の基準があるが,感度・特異度の問題があり,2016年2月に第3の定義・診断基準が定められた.
・新しい定義・診断基準ではより重症度が高い患者集団に限定された.
・SIRS基準が消え,従来の重症敗血症以上が敗血症と定義された.
・新基準ではICU発症とICU以外での発症で診断基準が異なることに注意が必要である.ICU発症では感染症が疑われSOFAスコアの2点以上の増加,ICU以外ではqSOFAスコア2点以上で敗血症疑い(かつSOFAスコア2点以上で敗血症)と診断される.
・qSOFAは呼吸数22回以上,収縮期血圧100mmHg以下,意識障害(GCS<15)で規定される.
・感染症診断,スコアリングの間隔,臓器障害が慢性か急性か,アウトカム設定の問題,日本と米国のICU環境の違いなどの問題点を考慮する必要がある.
・敗血症性ショックは急速輸液負荷でも反応しない平均血圧65mmHg未満かつ乳酸値2mmol/L以上で診断される.
■本記事では,過去の敗血症の定義も含めた解説であり,SIRS基準等も掲載している.新しい定義・基準は後半に記載があり,そちらを参照されたい.

1.SIRSに始まる敗血症の定義・診断基準の変遷

■sepsisの語源はギリシャ語のseptikosであり,「崩壊」「腐敗」の意味
※sepsisの発音は英語なら「セプシス」,ドイツ語なら「ゼプシス」になる模様.

■古い敗血症の概念は1914年にSchottmullerらが定義した「敗血症は,微生物が局所から血流に侵入し,病気の原因となっている状態」であるが[1],これは現在の敗血症とは異なる.よく勘違いされるが,敗血症は「細菌(真菌)が血液中に侵入して生じるもの」ではない.菌血症は敗血症の必要条件でもなければ十分条件でもない.その後の敗血症の定義は生体反応である炎症を主体とするもに変遷していき,Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2012[2]では「全身症状を伴う感染症,あるいはその疑い」とされた.

■1989年にBoneらは“sepsis syndrome”という概念を提唱した[3].これをもとに米国集中医療学会(SCCM)と米国胸部医学会(ACCP)が合同で発表したものが敗血症の定義の定義として十数年にわたって使用されてきたものである[4].ここで,感染症は微生物の存在,もしくは本来は無菌である組織への微生物の侵入に対する炎症反応と定義され,全身性炎症反応症候群Systemic Inflammatory response syndrome(SIRS)の概念が生まれた.SIRSについてのまとめはこちら

■SIRSは以下の4項目のうち2項目以上該当すれば診断される[3]
(1) BT >38℃ or <36℃
(2) HR >90 bpm/min
(3) RR >20 bpm/min or PaCO2<32mmHg
(4) WBC >12000/mm^3 or <4000/mm^3 or immature leukocyte > 10%
このときの敗血症の定義は感染によって発症した全身性炎症反応症候群(SIRS),すなわちinfection-induced SIRSである.

■severe sepsis(重症敗血症)の診断基準[4]
Sepsisの中でも以下の項目を1つでも満たす.
(1) 臓器障害
(2) 臓器灌流障害
  乳酸アシドーシス:lactate>2mmol/L
  乏尿:1時間以上の尿量低下(<0.5mL/kg/H)
  意識混濁
(3) 低血圧(収縮期血圧<90mmHgまたは通常血圧から40mmHg以上の低下)

■septic shock(敗血症性ショック)の診断基準[4]
severe sepsisの中で,血圧低下があり,十分な急速輸液負荷を行っても血圧が回復しないもの

■その後,2001年にSCCM,ACCP,ヨーロッパ集中医療学会(ESICM),米国胸部疾患学会(ATS),外科感染症学会(SIS)で集まったInternational Sepsis Definitions Conferenceで定義の再検討が行われ,SIRSは有用な概念であるが,感度過剰かつ非特異的だとして,生体反応を細かく評価する方法が提唱され,以下の新しい診断基準[5]が発表された.
感染症の存在が確定もしくは疑いであり,かつ下記のいくつかを満たす(項目数規定なし)
(1) 全身所見
・発熱:深部体温>38.3℃
・低体温:深部体温<36℃
・頻脈:心拍数>90回/分,もしくは>年齢平均の2SD
・頻呼吸
・精神状態の変化
・明らかな浮腫または体液過剰:24時間以内でのプラスバランス20mL/kg
・高血糖:糖尿病の既往が無い症例で血糖値>120mg/dL
(2) 炎症所見
・白血球上昇>12000/μL
・白血球低下<4000/μL
・白血球正常で>10%の幼若白血球を認める
・CRP>基準値の2SD
・プロカルシトニン>基準値の2SD
(3) 循環所見
・血圧低下:収縮期血圧<90mmHg,平均血圧<70mmHg,もしくは成人で正常値より>40mmHgの低下,小児で正常値より>2SDの低下
・混合静脈血酸素飽和度(SvO2)<70%
・心係数(CI)>3.5L/min/m^2
(4) 臓器障害所見
・低酸素血症:P/F(PaO2/FiO2)<300
・急性の乏尿:尿量<0.5mL/kg/hrが少なくとも2時間持続
・クレアチニンの増加:>0.5mg/dL
・凝固異常:PT-INR>1.5,もしくはAPTT>60秒
・イレウス:腸蠕動音の消失
・血小板減少<10万/μL
・総ビリルビン上昇>4mg/dL
(5) 組織灌流所見
・高乳酸血症>1mmol/L
・毛細血管の再灌流減少,もしくはmottled skin(斑状皮膚)

■しかしながら,この2001年の診断基準は1991年の診断基準(SIRS基準)より精度が特段向上したわけでもなく[6,7],24項目におよぶ上に項目数の規定がないなど非常に使いづらいものであり,精度報告も少ない.一方でSIRS基準は敗血症の疫学や治療介入を研究するためのentry criteriaの役割が主体で提唱されてはいるものの,そのスクリーニングツールとしての簡便さからSIRS基準は現場では用いられ,敗血症診療における中心的概念であり続けた.

2.Sepsis-3/敗血症の再定義と新しい診断基準

■敗血症の病理生物学的研究が進み,敗血症を単なる炎症だけでは説明できなくなってきている.実際にはSIRSという炎症過剰に引き続き,CARSという免疫抑制も生じることが分かっており,敗血症ではより複雑な免疫の多様な変化が生じていることから,炎症を過剰に重視しすぎることが問題視され,その視点をより臓器障害に向ける必要性が指摘されていた.

■また,EGDTをはじめとする多くの治療法が検討されていく中で,敗血症の死亡率は減少してきている[8-15].この中で,最重症病態である敗血症性ショックの近年の死亡率は20-30%まで低下しており,さまざまな治療介入をRCTで検証しても有意差はつかないということが相次いでいる.また,敗血症死亡率の疫学的推移を異とする主張もある.疫学研究においてはコーディング化された病名を拾いあげていくが,その際に過剰診断によるアップコーディングがあると敗血症患者が増えることになる[16].結果的にこれまでの基準では軽症例まで拾い上げていることもあり,死亡率をアウトカムとする場合,今後の治療介入の検証の妨げとなる.ならばより重症度の高い集団を敗血症と定義しなおす必要もあった.

■2016年2月22日,米国フロリダ州はオーランドで開催された第45回米国集中治療医学会(SCCM;Society of Critical Care Medicine)において,米国集中治療医学会・欧州集中治療医学会合同セッションで敗血症の新しい定義が発表され,同時にJAMA誌に新定義の論文1報[17]とその検証論文2報[18,19]がpublishされた.Sepsis-3と名付けられた新定義はこれまでの内容から大幅に変更となっている.
Sepsis-3新定義・新診断基準の概略

・敗血症の新定義:「感染症に対する制御不能な宿主反応に起因した生命を脅かす臓器障害」
旧敗血症(SIRS+感染症)→敗血症から除外
旧重症敗血症(敗血症+臓器障害)→敗血症(重症はつけない)

・敗血症の新診断基準:ICU患者とそれ以外(院外,ER,一般病棟)で区別
(1) ICU患者:感染症が疑われSOFAスコアが2点以上増加
(2) 非ICU患者:quick SOFAスコア(qSOFA)で2点以上(疑い)→SOFAスコア2点で敗血症
qSOFAスコア:「呼吸数22回/分以上」「意識障害(GCS<15)」「収縮期血圧100mmHg以下」が各1点ずつ

・敗血症性ショックの定義・診断基準
新定義:「実質的に死亡率を増加させるに十分に重篤な循環,細胞,代謝の異常を有する敗血症のサブセット」
新診断基準:適切な輸液負荷を行ったにもかかわらず平均血圧65mmHg以上を維持するための循環作動薬を必要としかつ血清乳酸値の2mmol/L(18mg/dL)超過
■これまでのSIRS基準は消え,SIRS+感染症で敗血症としていたのが,重症敗血症以上で敗血症とし,なおかつ重症敗血症という用語が消滅した.これにより,敗血症(Sepsis)と敗血症性ショック(Septic shock)の2つになりシンプルになったと言える.
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■新しい診断基準はICUとそれ以外で診断基準が異なるというややトリッキーな内容となった.大規模検証研究において,ICU患者ではSOFAスコアがqSOFAやSIRSよりも院内死亡予測妥当性(AUROC)が有意に高かったのに対し,それ以外の患者ではqSOFAがSOFAスコアよりも有意に高かったことによる[18].ICUではSOFAスコアをルーティンでつけている施設も多いと思われるが,ICU以外では通常評価されないものであり,ICU以外で迅速に認知して対応する上でqSOFAがシンプルな3項目になっており,かつ採血が不要でベッドサイドですぐに評価できる因子で構成されているのは非常に実用的かと思われる.これは,ICUに比して,特に一般病棟や院外のプライマリケアの現場において敗血症が見逃され治療開始が遅れていることが顕著であることにも起因する.

■加えて,ICU患者では既に何らかの重症疾患で入院しており,qSOFAでみられるような異常は敗血症でなくとも頻繁にみられる.そこで,SOFAスコアの2点以上の増加という臓器障害度の変化をもってICU発症の敗血症を拾い上げることになる.

■しかし,この改良された診断基準にも問題点はまだまだあるため,以下の問題点を把握して判断する必要がある.
(1) 本検証が既に感染症と診断,あるいはその疑いがもたれた患者を対象に行っていることであり,感染症であることをどのように診断もしくは疑うとするのかは定められていない.このため,まずは感染症の見逃しを事前に防ぐ必要がある.
(2) SOFAスコアの変化をどの程度の変化をもって判断すべきかが示されていない.さらに採血を毎日行うわけでもない以上はSOFAスコアで2日以上は評価できないこともある.
(3) 検証研究において,臓器障害が慢性か急性かの区別が評価されていない(たとえば,認知症患者ではベースラインを知らな得ればqSOFAで1点と数えられてしまう過剰診断リスクが生じる).
(4) 本検証研究のアウトカムは院内死亡率またはICU在室日数3日以上としており,敗血症診断の感度特異度を評価した精度解析ではないことである(そういう意味ではSIRSより本当に優れているのかは評価しづらい).これらの指標は敗血症ではよく使用されるものの,あくまでも代替指標に過ぎない.もっとも敗血症に絶対指標がないためこの問題点を解決することは不可能とも言えるが,本診断基準が何を見ているのかは常に頭に置いておく必要がある.また,院内死亡率は全死亡率であり,その死亡原因は時期によってもかなり異なり[20],敗血症が原因でない場合も含まれるため,必要な治療介入が敗血症治療でない患者集団を含んでしまう.
(5) qSOFAで敗血症と診断したとしてもICUに入室させるかはその病院環境によって異なる.とりわけ回転が速く病床数の多い米国ICUと日本のICUを比較したとき,qSOFAをもって全例をICU入室適応とするのは妥当とは言いにくく,よりつっこんだ評価が必要であろう.

■敗血症性ショックの基準についても検証研究がなされている[19].収縮期血圧ではなく平均血圧を見ていること,乳酸値をより重要視することが推奨されており,これは血圧の下がったショック(Overt Shock)のみならず潜在的ショック(Cryptic Shock)もカバーする上で重要である.収縮期血圧は左室後負荷と動脈性出血リスクに関与する一方,平均血圧は心臓以外の臓器灌流の決定因子である.敗血症において血圧が低いことが問題になるのは臓器血流量が減少するからであり,それを決定するのは冠血流を除いては平均血圧である.平均血圧は以下の式から推測する.
 MAP=DBP+(SBP-DBP)/3=SBP/3 + DBP×2/3
 MAP:平均血圧
 DBP:拡張期血圧
 SBP:収縮期血圧
実際に敗血症においてはMAPが60mmHgと28日死亡率の関連が強く,SBPと死亡率の関連閾値は見出せなかったと報告されている[21]

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by DrMagicianEARL | 2016-03-07 18:32 | 敗血症 | Comments(0)

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