「ほっ」と。キャンペーン
ブログトップ

EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

カテゴリ:敗血症( 132 )

2014年3月の米国によるProCESS trial,2014年10月のANZICSによるARISE trialに引き続き,EGDTを検証した最後の大規模RCTである英国のProMISe trialがNEJMにonline publishされました.ProCESS,ARISEの流れでもうお分かりだと思いますが結果はネガティブ.はたしてRiver's EGDTプロトコルの検証はこれで決着がついた,とすべきでしょうか?
敗血症性ショックに対する早期の目標指向型蘇生の試験(ProMISe trial)
Mouncey PR, Osborn TM, Power GS, et al; ProMISe Trial Investigators. Trial of Early, Goal-Directed Resuscitation for Septic Shock. N Engl J Med 2015, March 17

【背 景】
早期目標指向型治療(EGDT)は早期の敗血症性ショックの患者の蘇生治療として国際ガイドラインで推奨されている.しかし,適応は限られており,その有効性については不明確なままである.

【方 法】
我々は英国56施設で統合費用対効果分析を用いた実際的無作為化試験を行った.患者はEGDT群(6時間の蘇生プロトコル)と標準治療群に無作為に割り付けられた.主要評価項目は90日全死亡率とした.

【結 果】
1260例が登録され,630例がEGDT群に,630例が標準治療群に割り付けられた.90日時点で,EGDT群では623例中184例(29.5%)が,標準治療群では620例中181例(29.2%)が死亡し(EGDT群の相対リスク 1.01; 95%CI 0.85-1.20; p=0.90),EGDT群の絶対リスク減少は-0.3%であった.EGDT群の治療強化の増加は輸液量,循環作動薬,赤血球輸血,明らかな臓器障害スコアの悪化による難治性,より強化された心血管系支持治療の受ける日数,ICU滞在日数を増加させていた.他の副次評価項目は,健康関連QOLや深刻な有害事象を含め,すべて有意差がなかった.平均すると,EGDTはコストを増加させ,それが費用効果的である確率は20%未満であった.

【結 論】
早期に診断され,抗菌薬投与を受け,適切な輸液蘇生を受けた敗血症性ショック患者においては,厳密なEGDTプロトコルによる循環動態管理はアウトカムを改善させなかった.
1.本結果の解釈

■本ブログではProCESS[1],ARISE[2]発表後も繰り返しEGDTを否定すべきではないと主張しており,今回のProMISeがでてもその姿勢は変わらない.この研究結果は簡単にはネガティブととらえられない背景がある.

■3つのRCTは以前までの敗血症性ショックのRCTに比して非常に低い死亡率となっており,対照群である通常治療の死亡率の低さは循環管理に長けた救急集中治療医のスキルによって担保されている.この対照群と同等以上の医療介入が可能ならばEGDTは行わずともよいが,集中治療医がいない施設ではそうはいかないと思われる(そういう施設ではPiCCOやEV1000などの便利なモニターを持っていることはむしろ稀であり,乳酸値すら計測できない施設も多い).いずれの研究もEGDTが死亡率を改善させなかっただけで悪化させたわけではなく,逆に考えればEGDTプロトコルを用いることで救急集中治療医管理による通常治療と同等の治療成績が出せるととらえることもでき,循環管理に不慣れな施設においてはむしろ推奨されるべきプロトコルと思われる(そういう意味では私はこの3つのRCTをポジティブととらえている).EGDTの採用をやめるか継続するかは施設の治療レベル,主治医やスタッフのスキルに合わせて慎重に判断すべきである.

2.ProCESS,ARISE,ProMISeの比較とメタ解析

■以下では3つのRCTの症例数,重症度(APACHEⅡスコア),90日死亡率,6時間輸液量を比較した.ProCESSはEGDT群と通常治療群以外に標準プロトコル群というアームがあったが,ARISEにはないため,標準プロトコル群を除いて比較した.見ても分かる通り,重症度と死亡率,輸液量が見事な相関を示している.各自の施設との比較において非常に参考になると思われる.
e0255123_204266.png
■River'sら[3]のRCTを加えた4報4018例のメタ解析(R使用)を行った結果は以下の通りである.random effect modelでOR 0.93, 95%CI 0.73-1.19であり,統計学的有意差はみられなかった.
e0255123_2123315.png


3.EGDTに代わる敗血症性ショック治療戦略はあるか?~PLR,呼吸性変動,TPTD,UCG~

■EGDTプロトコルが標準治療と治療成績が同等となると,敗血症全体の治療成績を上げるためには別のプロトコルが必要となる.

■現在,River's EGDTプロトコルにない評価方法で多くの施設で使用されているのは乳酸値のモニタリングであろう.実際,ScvO2を乳酸値より重要視する救急集中治療医は多い.敗血症患者以外も含む高乳酸血症をきたしたICU患者を対象として,EGDT群と,乳酸値を指標にしたプロトコルを作成してEGDTに組み込んだEarly Lactate-Guided Therapy(ELGT)治療群を比較したRCTであるLACTATE study[4]では,ELGT群の方がSOFA score,死亡率を改善させており,サブ解析では死亡率改善は特に敗血症患者において顕著であったとしている.また,Jonesら[5]は,重症敗血症,敗血症性ショックの患者300例を対象として,EGDTでの初期蘇生目標をScvO2≧70%とする群と乳酸クリアランス≧10%/2hrを目標にする群で比較したRCTを報告しており,院内死亡率は23% vs 17%で統計学的有意差はみられなかった.

■その他では,小規模のRCTで各種輸液モニタリングの検討がなされており,いくつか有用な候補はあるものの,決定打となるような試験はない.現実的には複数の手段を用いて判断するのがbetterであろうか.

■PLR(Passive Leg Rising:受動的下肢挙上)は,高頭位から下肢挙上位にして下肢からの血流が心臓に還流することにより1回拍出量増加が認められれば輸液反応性があると評価する方法である.PLRは300-500mLの輸液ボーラス投与に相当するとされる.この評価方法の利点は,人工呼吸中だけでなく自発呼吸下でも測定ができ,TPTDが苦手とする心房細動を有する患者においても有用で非侵襲的である.Cavallaroら[6]は,PLRを検討した研究9報353例のメタ解析を行い,PLRの輸液反応性指標としての感度は89.4%,特異度は91.4%,AUROC 0.95という精度であった.

■フロートラックセンサーやPiCCOなどを用いて1回拍出量の呼吸性変動(SVV)や脈圧の呼吸性変動(PPV)をモニタリングする方法がある.Marikら[7]は,29報685例のメタ解析を行い,PPVの輸液反応性の指標としてのAUROCは0.94,SVVでは0.84であった.しかし,SVVやPPVは,心房細動や心室性期外収縮が多発している状況では使用できないこと,陽圧換気かつ自発呼吸がないこと,1回換気量によって変化してしまうことなど,かなり制約が多い.

■近年,PiCCOやEV1000といったTPTD(経肺熱希釈法:transpulmonary thermodilution)を用いた循環動態モニタリングが検討されている.Trofら[8]は,PiCCOを用いて成人ショック患者120例(敗血症性ショック72例)に対するTPTDと肺動脈カテーテルを比較したRCTを行ったが,死亡率に有意差はなく,人工呼吸器装着日数,ICU滞在日数,入院期間がTPTD群の方が有意に長かった.敗血症患者に限定したサブ解析では,すべてのアウトカムで有意差はみられなかった.Zhangら[9]も,敗血症性ショックかつ/またはARDSの輸液管理においてPiCCOとCVPを比較したRCTを行ったが,28日死亡率やその他アウトカムに有意差なく,715例を集める予定であったが360例で中止となっている.

■本邦では現在,18歳以上の人工呼吸器装着を要する敗血症患者で,輸液管理をTPTD(EV1000)で行う群とCVPで行う群を比較した16施設共同のオープンラベルRCTであるTPTD study[10]が行われている.主要評価項目は28日間におけるCVPとTPTDを用いた管理成功期間(人工呼吸器非使用期間),副次評価項目は28日間生存率,ICU滞在期間,3日間の水分出納バランスであり,2015年10月31日に終了予定となっている.

■心臓超音波は古くから輸液管理における手段として用いられてきた.しかしながらRCTはほとんどなく,再現性が困難であったり,肥満患者や開腹術後の患者,腹腔内圧の患者では指標として用いにくい.経食道超音波を継続的にモニタリングした小規模RCTは存在するが,死亡率の検討はなされておらず,そもそも経食道超音波検査を継続的に使用するのは現実的には難しい.個人のスキルによる部分も大きく,プロトコルで,というよりは標準治療としてのツールで用いられているものであろう.

[1] Early goal-directed therapy in the treatment of severe sepsis and septic shock. N Engl J Med 2001; 345: 1368-77
[2] ProCESS Investigators, Yealy DM, Kellum JA, Huang DT, et al. A randomized trial of protocol-based care for early septic shock. N Engl J Med 2014; 370: 1683-93
[3] ARISE Investigators; ANZICS Clinical Trials Group, Peake SL, Delaney A, Bailey M, et al. Goal-directed resuscitation for patients with early septic shock. N Engl J Med 2014; 371: 1496-506
[4] Jansen TC, et al. Early lactate-guided therapy in intensive care unit patients: a multicenter, open-label, randomized controlled trial. Am J Repir Crit Care Med 2010; 182: 752-61
[5] Jones AE, Shapiro NI, Trzeciak S, et al; Emergency Medicine Shock Research Network (EMShockNet) Investigators. Lactate clearance vs central venous oxygen saturation as goals of early sepsis therapy: a randomized clinical trial. JAMA 2010; 303: 739-46
[6] Cavallaro F, Sandroni C, Marano C, et al. Diagnostic accuracy of passive leg raising for prediction of fluid responsiveness in adults: systematic review and meta-analysis of clinical studies. Intensive Care Med 2010; 36: 1475-83
[7] Marik PE, Cavallazzi R, Vasu T, et al. Dynamic changes in arterial waveform derived variables and fluid responsiveness in mechanically ventilated patients: a systematic review of the literature. Crit Care Med 2009; 37: 2642-7
[8] Trof RJ, Beishuizen A, Cornet AD, et al. Volume-limited versus pressure-limited hemodynamic management in septic and nonseptic shock. Crit Care Med 2012; 40: 1177-85
[9] Zhang Z, Ni H, Qian Z. Effectiveness of treatment based on PiCCO parameters in critically ill patients with septic shock and/or acute respiratory distress syndrome: a randomized controlled trial. Intensive Care Med 2015; 41: 444-51
[10] 敗血症治療における経肺熱希釈法の併用に関する研究(TPTD study).UMIN000011493
[PR]
by DrMagicianEARL | 2015-03-17 23:15 | 敗血症 | Comments(0)
CQ8.血糖コントロール
CQ8-1.強化インスリン療法(目標血糖値80-110mg/dL)を行うか?

CQ8-2.目標血糖値はいくつにするか?

CQ8-3.血糖測定はどのような機器を用いて行うか?

CQ9.栄養管理
CQ9-1.経腸栄養と静脈栄養のどちらを優先するか?

CQ9-2.経腸栄養をいつ始めるか?

CQ9-3.経腸栄養の至適投与エネルギー量は?

CQ9-4.経静脈栄養をいつ始めるか?

CQ9-5.経静脈栄養の至適投与エネルギー量は?
 CQ9-1がどのような推奨になるかに注目している.EPaNIC trialでは経腸栄養が有用,Swiss SPN studyでは経静脈栄養併用が有用との結果で激論が交わされている.そのような中,最新の研究である大規模RCTのCALORIES trialでは経腸栄養と経静脈栄養とで死亡率に有意差はなく,低血糖や嘔吐は経腸栄養群の方が多く,感染症合併率に有意差はないという結果であり,この研究をもって経腸栄養をやめる施設はあまりないであろうが,エビデンス上はどのような扱いとなるかである.この部分については先に日本集中治療医学会より栄養管理のガイドラインが発表される予定であり,新たな研究結果がでない限りそれを踏襲する形になると思われる.

 今回,免疫栄養がCQから姿を消した.大規模RCTであるREDOXS study,MetaPlus studyによって免疫栄養はむしろ有害事象を増加させる可能性を指摘された.その一方でn-3系多価不飽和脂肪酸を豊富に含んだ脂肪乳剤に関してはICU Lipid studyでポジティブな結果であった.ただし,いずれも日本の環境にそぐわない(栄養剤が異なる,グルタミンの投与量が非常に多い上に静脈投与している,魚油由来の脂肪乳剤を用いている)ため,現時点では日本において何らかの推奨は出しにくいと思われる.
CQ10.ステロイド
CQ10-1.敗血症性ショック患者にステロイドの投与を行うか?

CQ10-2.ステロイドの投与時期は早期投与か晩期投与か?

CQ10-3.ステロイドの至適投与量,投与期間は?

CQ10-4.どの種類のステロイドを投与するか?

CQ10-5.小児の敗血症患者に対するステロイド投与の適応と有効性は?
 ステロイドに関しては目立ったエビデンスの変化はないと思われる.この部分については,ANZICSが開始した,大規模RCTのADRENAL studyを待つことになる.本研究は登録予定患者数が敗血症研究史上最大の3800例を予定されており,ステロイド療法に決着がつくかもしれない.
CQ11.DIC対策
CQ11-1.敗血症性DICの診断を急性期DIC診断基準で行うことは有用か?

CQ11-2.敗血症性DICにリコンビナントトロンボモデュリンは有用か?

CQ11-3.敗血症性DICにアンチトロンビンの補充は有用か?

CQ11-4.敗血症性DICにタンパク分解酵素阻害薬は有用か?

CQ11-5.敗血症性DICにヘパリン,ヘパリン類は有用か?

CQ11-6.凝固異常改善を目的とした新鮮凍結血漿投与を行うか?

CQ11-7.敗血症において赤血球輸血はいつ開始するか?

CQ11-8.重症敗血症に対して血小板輸血を行うか?
 DIC以外の範囲までをカバーした内容になっているが,赤血球輸血に関しては循環管理においても取り上げられており,混乱しないだろうか?
CQ12.AKI・急性血液浄化療法
CQ12-1.敗血症においてAKI診断・重症度分類は予後予測に有用か?

CQ12-2.敗血症性AKIに対する腎代替療法(RRT)の早期導入を行うか?

CQ12-3.敗血症性AKIに対する血液浄化法は持続,間歇のどちらが推奨されるか?

CQ12-4.敗血症性AKIに対して血液浄化量を増やすことは有用か?

CQ12-5.敗血症性ショック患者に対してPMX-DHPの施行は推奨されるか?

CQ12-6.重症敗血症患者に腎補助以外の目的で血液浄化を行うか?

CQ12-7.敗血症性AKIの予防・治療目的に薬物治療は推奨されるか?
 注目すべきはPMX-DHP,non-renal indication(とりわけAN69ST(SepXiris®))であろう.PMX-DHPについては既に昨年の国際救急集中治療学会においてABDO-MIX studyの結果が発表されている.死亡率はITT解析で27.7% vs 19.5%(p=0.1391),PP解析で26.7% vs 19.5%(p=0.1931)となっており,有意差はないもののPMX-DHP群で7-8%ほど死亡率が高い傾向がみられている.これに関してはPMX-DHP続行不能症例(PMX-DHP群の32%が該当,死亡率47%)がPMX-DHP群の死亡率を大きく引き上げており,原因は明らかにされていない.しかし,このABDO-MIXが論文化されれば本ガイドラインにエビデンスとして採用されることになり,逆風になると思われる.

 また,余談ではあるが,現在スイスでもEndox studyが開始されている.この研究はAN69STのカラムの電荷を少し変えてエンドトキシンを効率よく除去できるようにしたoXirisというもので,このoXiris群,PMX-DHP群,標準治療群を比較した3アームのRCTである.この結果でPMX-DHPが優位性を示せなければ,コスト面も考慮すると優先順位は下がることになるかもしれない.
CQ13.免疫グロブリン
CQ13-1.敗血症患者に対する免疫グロブリン投与を行うか?
 RCT全体のメタ解析ではポジティブ(ただし,N数が最も多い本邦のRCTの研究デザインは質が低い),質の高いRCTのメタ解析ではネガティブ,その後に報告された大規模RCTのSBITSもネガティブという結果であった.ただし,SSCGが発表されて以降の大規模RCTでの検証はない.これについては近年,日本救急医学会,日本集中治療医学会からSepsis Registryデータの多変量ロジスティック回帰解析,Propensity Score Matching解析などが試みられ,免疫グロブリンが死亡率を改善させている可能性が示唆されている.ただし,本結果はいまだpublishされていないことに加え,第42回日本集中治療医学会での委員会報告を見る限りデータクリーニング不十分でデータそのものの信頼性に問題があると思われ,現時点でエビデンスとして組み込むことは好ましくないと思われる.
CQ14.鎮痛鎮静
CQ14-1.成人の重症敗血症患者に対し,鎮痛を優先させる管理を行うか?

CQ14-2.成人の重症敗血症患者に対し,1日1回覚醒させる鎮静管理または浅めの鎮静深度を維持する鎮静管理を行うか?

CQ14-3.成人の重症敗血症患者において,せん妄の早期診断と介入を行うか?
 今回新たにPADが加わった.PADガイドライン以降,敗血症に関して新たなエビデンスは出ていないため,既出のガイドラインを踏襲することになると思われる.
CQ15.PICS,ICUAW
CQ15-1.ICUAWの予防に電気筋刺激を行うか?

CQ15-2.PICS/ICUAWの予防に早期リハビリテーションを行うか?
 今回新たな項目として長期機能予後やQOLにかかわるPICS(post-intensive care syndrome),ICU患者に生じる原因不明の麻痺であるICUAW(ICU-acquired weakness)が追加された.現時点ではこれらに対する介入として質の高いエビデンスはない.今後,PICS/ICUAWの周知,研究推進などがなされていくだろう.
CQ16.体温管理
CQ16-1.発熱した敗血症患者に解熱療法は有用か?

CQ16-2.低体温の敗血症患者は復温させるか?
 本項目も新たに追加となった領域である.敗血症では低体温は予後が悪いこと,FACE studyで示された解熱療法が有害である可能性等から,体温管理について何らかの言及が必要であろう.日常診療において高熱があれば解熱薬で下げなければならないという誤解は払拭されるべきである.
CQ17.小児
CQ17-7.小児患者では小児用血液培養ボトルを使用するか?

CQ17-8.小児敗血症性ショックに対する循環作動薬はどのようにするか?

CQ17-9.小児敗血症患者の循環管理の指標としてのCRTの使用は用いるか?

CQ17-10.小児敗血症患者の循環管理の目標としてScvO2またはLactateを用いるか?

CQ17-11.小児敗血症患者の目標ヘモグロビン値はどうするか?

CQ17-12.小児敗血症患者に対するステロイド投与は有用か?

CQ17-13.腎補助以外の目的で血液浄化療法を行うか?

CQ17-14.小児敗血症患者に対する免疫グロブリン療法は有用か?

CQ17-15.小児敗血症患者の目標血糖値はどのようにするのか?

CQ17-16.小児敗血症性ショックの管理にACCM-PALSアルゴリズムは有用か?

CQ17-17.小児敗血症性ショックの管理に輸液および循環作動薬の一時的投与経路として骨髄路の使用はするか?

CQ.敗血症の定義と診断に関する総論的な記述内容
CQ1-1.敗血症の定義は?

CQ1-2.敗血症の重症度分類は?

CQ17-1~6.小児患者で敗血症・重症敗血症・敗血症性ショックの診断をどのように行うか?
CQ17-1.現行の定義の妥当性の評価
CQ17-2.感染症(可能性を含む)+SIRSでよいか?
CQ17-3.SIRSを採用するとき,4項目中2項目でよいか?
CQ17-4.SIRS項目の心拍数と呼吸数は現行の基準でよいか?
CQ17-5.重症敗血症の臓器障害基準を小児用に設定する必要があるか?
CQ17-6.敗血症性ショックの基準としての低血圧基準をどうするか?



日本版重症敗血症診療ガイドライン2016 CQ案パブリックコメント募集(1)

[PR]
by DrMagicianEARL | 2015-03-09 19:04 | 敗血症 | Comments(0)
■日本版敗血症診療ガイドライン(日本集中治療医学会作成)が2012年に作成・発表されています.このガイドラインは,システマティックレビューに基づいた厳密なガイドラインというわけでもなく,様々な問題点の指摘もあったのも事実です.このガイドライン委員会はすでに解散となっておりますが,今回,藤田保健衛生大学の西田修先生を委員長として,日本集中治療医学会と日本救急医学会の両学会から選出された委員(コアメンバー)とワーキンググループメンバーの総勢71名で構成される「日本版重症敗血症診療ガイドライン2016作成特別委員会(JAPAN SEPSIS 2016)」が設置され,2016年内の初版の改訂版の公開を目指して2014年夏から活動を開始しています.

■本日3月5日より,この日本版重症敗血症診療ガイドライン2016のClinical Question(案)がまとまり,パブリックコメントの募集が開始となりました.今回は私も2つの領域のワーキンググループメンバーとして参加しております.皆様の忌憚なき御意見を賜れれば幸甚です.
「日本版重症敗血症診療ガイドライン2016」
クリニカルクエスチョン案 パブリックコメント募集のお知らせ

期間:2015年3月5日(木)から3月31日(火)【必着】
http://www.jsicm.org/jyusyo_haiketu2016.html

■以下では本ガイドラインCQ案について書いていきます.

1.本改訂について

■今回の改訂は改訂というよりも一から作り直しに近い.MINDsのGUIDEシステムトライアルに参加し,MINDsからの支援を受けて作成を行っている.また,各項目領域のワーキンググループメンバーとは別に,どの領域にも属さない独立したグループであるアカデミックガイドライン推進班を立ち上げており,このグループは各ワーキンググループへの監査,ガイドライン全体としての一貫性をもたせるための調節の役割を担っている.また,相互査読制度を取り込み,全メンバーで自分の担当項目以外の項目の匿名査読評価を行うシステムを導入している.作成・議論等はすべて各ワーキンググループごとのメーリングリスト上で行い,コアメンバーとアカデミックガイドライン推進班がROMしている.2014年夏頃より活動を開始し,2016年日本集中治療医学会学術集会でドラフト発表,その後パブリックコメント募集を経て完成版を発表する.また英文化も予定している.

■本ガイドラインの各項目はIntroduction,CQ(Clinical Question),Answer,根拠で構成され,そのうちのCQを今回作成している.CQは18領域,全88項目で,初版にあった「蛋白分解酵素阻害薬」が削除となり(このためシベレスタット(エラスポール®),ウリナスタチン(ミラクリッド®)の名前はCQ案にはない),「感染巣に対する処置」「鎮痛鎮静」「体温管理」「PICS/ICUAW」「小児」が新たに追加となっている.

■2014年8月末より各ワーキンググループでCQ作成作業を開始した.CQはガイドラインの最重要部分であり,CQによって扱う内容,重要度,作成仕事量などが決定される,いわば骨組の役割となるため,この部分の作成は念入りに行う必要がある.CQの作成は,まずPICO(P:対象,I:介入,C:対照,O:アウトカム)を決定し,各アウトカムごとにシステマティックレビューを行う.たとえばアウトカムが3つ(死亡率,ICU在室日数,副作用)があればシステマティックレビューも3つ行う.これはGRADEシステムと同様の手法である.海外ではシステマティックレビューを行うサービスがあるが日本にはなく,ワーキンググループメンバーが日常診療を行いながらシステマティックレビューを行わなければならず,仕事量と時間的制約は厳しい.よって,SSCG 2012以降に新たな知見がない場合はSSCG 2012を踏襲し,新たに知見がでている場合に限りシステマティックレビューを行う.

■まず,各ワーキンググループがCQを作成し,一方でアカデミックガイドライン推進班がSSCG 2012や日本版初版のCQ項目,2012年以降に出た質の高いRCTなど(約100文献)を検索してまとめて各ワーキンググループに提示し,1回目のCQ改訂作業を行った.改訂したCQについて,今度は自分の担当していない他の項目のCQを匿名査読する作業をガイドラインメンバー全員で行い,その結果を各ワーキンググループに提出し,2回目のCQ改訂作業を行った.そしてコアメンバーによる委員会で各委員がCQを発表し,討議の上採用可否を決定した.今回,パブリックコメント募集直前の最終調整を経たものが公開されたCQ案であり,ここまで6カ月間の議論を重ねてきたものである.

2.Clinical Question

■以下では各CQと私が個人的に気になった点を挙げている.
CQ1.敗血症の診断と定義

CQ1-3.敗血症診断にバイオマーカーを用いるのは有効か?

CQ1-4.重症敗血症診断に日々のルーチンスクリーニングは有用か?
 ここでのバイオマーカーはCRP,プロカルシトニン,プレセプシン,IL-6などが挙げられている.しかし,これらのうちどれが精度が高いかについて論じるのは難しい.現在敗血症では200近いバイオマーカーが研究されているが,現時点では高い確実性をもったバイオマーカーはない.また,現時点で敗血症診断にゴールデンスタンダードは存在しないため,バイオマーカーの精度評価そのものが困難となっていることを留意しておく必要がある(何をもって敗血症と診断したかの研究デザイン次第で精度が変わりうる).ここ3年間で新たな研究が複数報告されているものの現状は変わらないと推察される.

 日々のルーチンスクリーニングはとりわけ敗血症診療に慣れていない施設では威力をおおいに発揮すると推察される.当院も敗血症診療に不慣れであったが,SIRS基準を徹底しただけでその早期診断率と治療成績が飛躍的に向上している.もっともSIRS基準を意識することで,患者のバイタルで特にどのような変化を重視するのかの認識や,呼吸数をちゃんと計測することなどの副次的メリットも大きいと思われる.SSCG 2012では「敗血症の早期発見と早期治療を行うために,感染症の可能性のある重症患者にルーチンで重症敗血症のスクリーニングを実施することを推奨する(Grade 1C)」としている.
CQ2.感染症の診断
CQ2-1.血液培養はいつどのように採取するか?

CQ2-2.血液培養以外の培養検体は,いつ何をどのように採取するか?

CQ2-3.グラム染色は培養結果が得られる前の抗菌薬選択に有用か?
 血液培養に関しては,敗血症であれば必ず採取すべきであるが,本CQ2-1では対象が「敗血症患者」ではなく「菌血症を疑う患者」となっているのはどう解釈すればよいのだろうか?感染症という観点では,例えば髄膜炎や腎盂腎炎等では必須とされているが,肺炎では全例で血液培養を施行することは陽性率やコストを考慮するとルーチンで行う必要はないとする報告も複数ある.菌血症を効率よく見つけるタイミングに関しては現時点ではゴールデンスタンダードはない.発熱時に採取すべきとの意見はよく聞かれるが,エビデンス上は発熱時に採取してもその陽性化率が特段変わるわけではないとされている.

 グラム染色については,海外文献ではその有用性が否定されているため,システマティックレビューを行うとその精度は高くないだろう.しかし,注意すべきはこれらの報告はグラム陽性か陰性か,球菌か桿菌かの4パターンしか見ておらず,極めて雑な報告ばかりで,これをもって有用性を否定すべきではないと思われる.肺炎球菌,インフルエンザ菌,ブドウ球菌,腸球菌,アシネトバクターなどはグラム染色で判断可能となりうる菌であり,抗菌薬選択において重要なツールとなりうると推察される.今回のガイドラインでは,エビデンスレベルは低いが強く推奨するという内容になるだろうか?
CQ3.抗菌薬治療
CQ3-1.有効な抗菌薬治療を1時間以内に開始するか?

CQ3-2.重症敗血症の経験的抗菌薬治療において併用療法は推奨されるか?

CQ3-3.どのような場合に抗カンジダ薬を開始すべきか?

CQ3-4.βラクタム剤の持続投与または投与時間の延長は行うか?

CQ3-5.抗菌薬のディエスカレーションは推奨されるか?

CQ3-6.抗菌薬はどのような基準で中止したらよいか?
 コアとなる抗菌薬領域であるが,今回抗カンジダ薬の扱いが追加となっている.敗血症の原因菌別でみると,カンジダ血症は最も死亡率が高いとする報告が過去にあり,また,カンジダ自体が鑑別からはずれてしまうことも日常診療上よく見かける.近年,β-D-グルカンの有用性の報告も相次いでいること,本邦で進められたACTIONs BUNDLEでも良好な結果が得られていることを考慮すれば,CQにカンジダに関する内容が明記されたことはしごく妥当と思われる.
CQ4.画像診断
CQ4-1.感染巣制御のために画像診断は行うか?

CQ4-2.感染巣が不明の場合,早期(造影・全身)CTは有用か?

CQ5.感染巣に対する処置
CQ5-1.腹腔内感染症に対する感染源のコントロールはどのように行うか?

CQ5-2.感染性膵壊死に対する感染源のコントロールはどのように行うか?

CQ5-3.感染源を血管カテーテルと判断して早期に抜去することが推奨されるのはどのような場合か?

CQ5-4.急性腎盂腎炎に対する感染源のコントロールはどのように行うか?

CQ5-5.壊死性軟部組織感染症に対する感染源のコントロールはどのように行うか?
 初版にはない新たな項目として追加になった領域であるが,すべて各論的な内容となっている.総論的内容はIntroductionで触れるということであろうか?SSCG 2012では「緊急のsource controlが必要な解剖学的に特異な感染巣の検索を行い,可能な限り速やかな診断/除外がなされ,可能なら診断後12時間以内にsource controlを行う」としており,これはCQとして含めてもよかったのではないか?と思われる(敗血症に不慣れな施設ではこれが常識として認識されているわけではない).
CQ6.初期蘇生と循環作動薬
CQ6-1.初期蘇生にEGDTを用いるか?

CQ6-2.初期輸液として晶質液,人工膠質液のどちらを用いるか?

CQ6-3.輸液療法としてアルブミンを用いるか?

CQ6-4.初期輸液の輸液反応はCVP,SVV,心エコーのどれを指標にするか?

CQ6-5.第一選択としてノルアドレナリンを使用するか?

CQ6-6.ノルアドレナリンの昇圧効果が十分でない場合,アドレナリンを使用するか?

CQ6-7.心機能不全に対してドブタミンを使用するか?

CQ6-8.初期蘇生の指標としてScvO2,Lactateは有用か?

CQ6-9.初期蘇生におけるHbの目標値は?
 今回の改訂で私も一番注目している項目である.2つの大規模RCTであるProCESS,ARISEでEGDTプロトコルは標準治療と比較して死亡率に有意差がなかった.この結果をネガティブととらえるか否かだが,非救急医,非集中治療医でも標準レベルの敗血症治療ができるようにするという目的も持っているのがガイドラインであり,標準治療の治療成績が管理に慣れている救急集中治療医によって担保されていることを考えれば,EGDTプロトコルによって救急集中治療医の循環管理と同等の治療成績がだせるととらえることもでき,推奨されるべきものだと考える.

 CQの各項目を見るにバソプレシンへの言及がないのはなぜであろうか?もっとも日本ではあまりバソプレシンは好まれていないようではあるが,それなりにRCTは出されている.
CQ7.呼吸
CQ7-1.人工呼吸中の敗血症患者の一回換気量の目標値はどうするか?

CQ7-2.人工呼吸中の敗血症患者の気道内プラトー圧の目標値はどうするか?

CQ7-3.敗血症性ARDSにおいて高め(≧12cmH2O)のPEEPを用いるか?

CQ7-4.人工呼吸中の敗血症患者の適切な体位は?

CQ7-5.敗血症性ARDSに対する輸液過剰は有用か?
 CQ7-4での体位は「頭高位か仰臥位か」の比較であって,PROSEVA trialで有意に死亡率を改善させたとする腹臥位療法がCQに含まれていない(SSCG 2012では推奨あり).これに関してはメタ解析も複数でている.CQ採用されなかったのは,慣れていない施設ではむしろ危険な手技であるから,というスキル上の問題点をはらむからかもしれない.


→日本版重症敗血症診療ガイドライン2016 CQ案パブリックコメント募集(2)

[PR]
by DrMagicianEARL | 2015-03-09 17:29 | 敗血症 | Comments(0)
■ESICM weekの集中治療関連文献アップ第3弾は輸血です.これまで多くのRCTで赤血球輸血の開始基準はヘモグロビン値<7.0g/dLがスタンダードとされており,敗血症性ショックに限定してもその結果は同じでした.
敗血症性ショックにおける輸血におけるヘモグロビン基準の低値vs高値(TRISS trial)
Holst LB, Haase N, Wetterslev J, et al; the TRISS Trial Group and the Scandinavian Critical Care Trials Group. Lower versus Higher Hemoglobin Threshold for Transfusion in Septic Shock.N Engl J Med. 2014 Oct 1. [Epub ahead of print]
PMID:25270275

Abstract
【背 景】
輸血は敗血症性ショックの患者においてよく施行されている.しかし,輸血開始のヘモグロビン濃度の違いによって有益性と有害性があることが報告されている.

【方 法】
本多施設並行群間試験において,集中治療室(ICU)に入室した敗血症性ショックでヘモグロビン濃度が9g/dL以下の患者を,ICU在室中に白血球除去赤血球輸血1単位投与をヘモグロビン濃度7g/dL以下(低値開始群)で施行する群と9g/dL以下(高値開始群)で施行する群に無作為に割り付けた.主要評価項目は無作為化から90日時点での死亡とした.

【結 果】
無作為化された患者10005例のうち998例を解析した(99.3%).2つの介入群の背景因子は同等であった.ICUにおいて,低値開始群は中央値で1単位(四分位範囲 0-3),高値開始群は中央値で4単位(四分位範囲 2-7)の輸血を受けた.無作為化から90日後の時点で,高値開始群が496例中223例(45.0%)死亡したのに対して,低値開始群は502例中216例(43.0%)が死亡した(RR 0.94; 95%CI 0.78-1.09; p=0.44).背景危険因子で調整した解析やper-protocol集団の解析でも同様の結果であった.虚血事象を呈した患者,重篤な有害反応を呈した患者,生命維持装置を要した患者の数は両群間で同等であった.

【結 論】
敗血症性ショックの患者において,90日死亡率,虚血性事象発生率,生命維持装置使用率は高いヘモグロビン濃度で輸血を開始した患者群と低いヘモグロビン濃度で輸血を開始した患者群とで同等であり,後者の方が輸血が少なかった.

※重症患者(大量出血を有する外傷患者を除く)における輸血開始基準に関しては,ICU&CCU誌の2014年11月号,Intensivist誌の2015年4月号に稚拙ながら私がレビューを執筆,掲載予定ですので,今後publishされた際に参考となれば幸甚です.


1.重症患者に対する赤血球輸血基準としてHb<7.0 g/dLが推奨されるまでの経緯

■内科,周術期などのさまざまな重症疾患において,ヘモグロビン(Hb)の輸血開始基準が低い方が予後がよく合併症が少ないとする報告が近年多数でてきている.「急性貧血ではHb<7.0 g/dLで輸血を開始し,7.0-9.0 g/dLを保つ」という内容は医師国家試験でも出題されており,year noteにも掲載されているにもかかわらず,医療現場では依然としてHb>7 g/dLでも赤血球輸血を施行する医師は多く,Hbが10を切った時点で輸血を行う医師も多数いる.

■ICUで治療される重症患者は,輸液による血液希釈,出血,赤血球寿命や産生能低下,溶血,エリスロポエチン産生低下・作用阻害[1],活性化マクロファージによる赤血球貪食,TNF-αによる赤芽球アポトーシス[2],鉄代謝異常,栄養障害などの理由,頻回採血[3-7]により貧血となる頻度が高く,輸血が必要となりやすい[8].Fickの原理から,全身の酸素消費量(VO2)は一回心拍出量(CO),ヘモグロビン濃度(Hb),動脈血酸素飽和度(SaO2),静脈血酸素飽和度(SvO2)で規定され,その関係は以下の式で表される.
 VO2 = CO × 1.34 × Hb × (SaO2-SvO2)
よって,酸素需給バランスの破綻に伴う臓器障害を防ぐならば赤血球輸血を行ってHb濃度を高めて酸素供給量を増加させるとする考えは“理論的には”正しい.

■1990年代までICU患者においては赤血球輸血の開始基準はHb<10 g/dLまたはHt<30%とされてきた.ところが,Raoらの24112例の研究では,輸血患者群で死亡率が高く,最低Ht値が25%以上では輸血患者群で30日死亡率が高いと報告された[9].他にも,輸血を行っても必ずしも予後が改善しないとの報告が複数でていた[10,11]

■輸血開始基準はHébertら[12]が行ったTRICC(Transfusion Requirements in Critical Care) studyが1999年に報告され,輸血開始基準は大きな転機をむかえることになった.TRICC studyは輸血制限群(開始基準Hb<7 g/dL,管理域7-9 g/dL)と非制限群(開始基準Hb<10 g/dL,管理域10-12 g/dL)を比較した多施設共同838例無作為化比較試験であり,30日および60日死亡率に有意差はつかなかったものの,院内死亡率が制限群で有意に低く(22.2% vs 28.1%, p<0.05),55歳以下の患者とAPACHEⅡスコア20点以下の患者では30日後の死亡率も有意に低いという結果であった(p=0.02).このTRICC studyを皮切りに,輸血開始基準のHb濃度をより低くすることで予後が改善するのではないかという推測のもと,内科,外科,術後等で同様の結果が多数報告され,輸血開始基準となるHb濃度は大きく下げられることになった.

■Carsonら[13]は,赤血球輸血制限群(Hb 7-9(-10) g/dL以上を維持)と非制限群(Hb 9-12 g/dLを維持)を比較したRCT19報6,264例のメタ解析を2012年に報告しており,制限群の方が輸血必要度が39%減少し,院内死亡リスクも有意に減少する(RR 0.77, 95% CI 0.62-0.95)と報告している.ただし,30日死亡リスクは有意差はみられなかった(RR 0.85, 95% CI 0.70-1.03).なお,このメタ解析に登録されたRCTを個別に見ていっても,非制限群の方が優位であった研究は1つもない.

■さらに,2014年にはRohdeら[14]が,輸血制限群と非制限群を比較したRCT21報8,735例のメタ解析を報告しており,重篤な感染症発生率は11.8% v.s. 16.9%(RR 0.82, 95%CI 0.72-0.95)で制限群が有意に低く,好中球減少患者に限定しても同様の傾向であった(RR 0.80, 95%CI 0.67-0.95).また,TRICC studyと同様に制限群の輸血開始基準をHb<7 g/dLとした研究に限定しても,重篤な感染症発生リスクは有意に減少した(RR 0.80, 95%CI 0.70-0.97).

■このような流れから,成人の外傷および集中治療における赤血球輸血の臨床ガイドライン[15],米国血液バンク協会の赤血球輸血に関する臨床ガイドライン[16],Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2012[17]において急性期の患者におけるRBC輸血開始基準は制限すべきであると推奨されている.2014年1月に開催されたCritical Care Congressにおいては,4学会合同の声明「ICUでやってはいけない5つの約束」の1つとして,「血行動態が安定し,出血のない,ヘモグロビン濃度が7 g/dLより高いICU患者に赤血球輸血は行わない」を掲げている.ただし,ガイドラインではHb濃度だけでなく貧血症状の有無も加味して判断すべきであるとしており,患者背景を吟味して赤血球輸血を行うべきであろう.

2.心血管リスクを有する場合の輸血開始基準

■心血管リスクを有する患者においては輸血開始基準はやや高めとなるかもしれない.大規模RCTとしては,心臓手術患者502例において開始基準をヘマトクリット値≧30%を維持する群と≧24%を維持する群を比較したTRACS trial[18],心血管リスクを有する股関節手術患者2016例において開始基準をHb≦10g/dLとする群と8g/dLとする群を比較したFOCUS trial[19]があり,いずれも合併症,死亡率に有意差はないが,制限群が7g/dLではなく8g/dLとなっており,エビデンス上,心血管リスク患者においては8g/dLを基準とするのが妥当かもしれない.

■上述のTRICC studyでは43%の症例に心血管疾患を認め,その有無でのサブグループ解析で死亡率に有意差は認められなかったが,制限群の虚血性心疾患を有する患者層で死亡率が上昇傾向を示している[16].虚血性心疾患を対象としたRCTは2報ある.Cooperら[20]は,ヘマトクリット値が30%以下の急性心筋梗塞患者45例を対象として,輸血の非制限群(ヘマトクリット<30%で開始,30-33%を維持)と制限群(ヘマトクリット<24%で開始,24-27%を維持)を比較した多施設共同pilot RCTを行い,院内死亡,心筋梗塞再発,うっ血性心不全の複合アウトカムは非制限群の方が有意に多かった.一方,Carsonら[21]は,急性冠症候群またはカテーテル検査を受ける安定狭心症患者でHb<10 g/dLの患者110例を対象として,非制限群(Hb 10g/dL以上を目標に1-2単位投与)と制限群(Hb<8 g/dLで開始)とを比較したpilot RCTを行っている.この研究では30日死亡,心筋梗塞,予定外の血行再建の複合アウトカムが,非制限群の方が少ない傾向がみられた.

■この2つのRCTが異なる結果となったのは,Cooperらの研究ではうっ血性心不全が増加したことが関連していると思われる.いずれもサンプル数の少ないpilot RCTであり,今後の大規模RCTが待たれる.Walshら[22]のスコットランドでの調査ではICU患者の29%が虚血性心疾患を合併していると報告しており,個々の患者において,虚血性心疾患合併有無も考慮した上でRBC輸血を検討する必要があると思われる.

3.敗血症での輸血

■敗血症においては,輸血を行っても酸素消費量は増大しないことが複数の研究[23-25]で示されており,酸素供給を上げる目的での輸血には意味がないと指摘されていた.また,2014年にEGDTプロトコルと通常治療を評価した大規模RCTであるProCESS study[26]とARISE study[27]が報告されたが,いずれの研究においても両群間の死亡率に有意差はなく,輸液量,赤血球輸血量はEGDTプロトコル群の方が多かった.これらのことから,敗血症性ショックではさらなる輸血必要量減少をはかることができるのかもしれない(輸液量が多かったことによる希釈も関連していると思われる).

■RCTではないが,Parkら[28]は22のICUにおいて市中感染の重症敗血症または敗血症性ショック患者1054例の前向き観察データベースを基にPropensity matching score解析を行い,輸血が死亡率改善と関連していることを示したが,輸血前のヘモグロビン濃度は平均7.7g/dLであり,近年推奨されている制限輸血基準に近い.すなわち,輸血を制限するにしてもヘモグロビン濃度が7g/dLを下回るような重度の貧血では輸血をした方がよいと考えることもできる.

■そして今回のTRISS trialであるが,輸血開始基準となるヘモグロビン濃度が≦7g/dLでも≦9g/dLでも死亡率,有害事象に差はなく,輸血量は≦7g/dLの方が有意に少ないという結果であった.コストや評価されていない有害事象を考慮すれば≦7g/dLが敗血症性ショックにおいても推奨されることになる.ただし,サブ解析では,慢性心血管疾患を背景にもつ患者では死亡率は低値開始群で42/75(56%),高値開始群で33/66(50%)であり,統計学的有意差はないものの低値開始群の方が高い傾向がみられている(RR 1.08; 95%CI 0.75-1.40; p=0.06).過去の知見を踏まえれば心血管リスクを背景に有する患者では≦8g/dLを検討すべきかもしれない.

4.赤血球輸血の有害事象

■輸血開始基準は,輸血投与の有益性と有害性のいずれが勝るかで検討されてきた.輸血による有害事象は多岐にわたる.過去の輸血のエビデンスの吟味については,赤血球輸血製剤そのものも変化していることを考慮しなければならない.Vincentらは,ICU患者の大規模観察研究を2002年[29]と2008年[30]に報告しているが,2002年の報告では赤血球輸血が死亡率を悪化させ,2008年の報告では改善させていた.この2つの研究結果の違いとして,ウイルス感染が少なくなったこと,白血球除去製剤が普及したことが挙げられている.また,輸血を行う全患者に対して放射線照射血を用いることが求められているのは現時点では日本のみであることも考慮しておく必要がある.

■現在,種々のスクリーニング検査の導入と精度向上,赤血球保存期間の短縮,放射線照射を含む白血球除去等で合併症は減少傾向にあり,とりわけFNHTRやPT-GVHDが大きく減少したことは本邦で積極的に行っている放射線照射による白血球除去製剤の使用が大きい(海外で行われている輸血用白血球除去フィルターではPT-GVHDは防止できない).赤血球輸血による有害事象を以下に示す.
・血液製剤汚染による感染症
・急性/慢性溶血性反応
・発熱性非溶血性輸血副作用(FNHTR: febrile non-hemolytic transfusion reaction)
・アレルギー反応・アナフィラキシーショック
・輸血後移植片宿主病(PT-GVHD: post-transfusion graft-versus-host disease)
・輸血関連急性肺傷害(TRALI: transfusion-related acute lung injury)
※近年,血液製剤中のミトコンドリアDNAがTRALIを引き起こす可能性が指摘されている.
・輸血随伴循環過負荷(TACO: transfusion-associated circulatory overload)
・クエン酸中毒
・高カリウム血症
・空気塞栓
・血管攣縮(保存赤血球でのNO枯渇による)
・組織での酸素供給障害
※赤血球内の2,3-DPG(diphosphoglycerate)が採血から48時間で減少し始め,酸素飽和曲線の左方移動を誘導する.
・輸血関連免疫修飾(TRIM: transfusion-related immunomodulation)
※受血患者の免疫能がdown-regulationをきたす.T細胞からのサイトカイン分泌抑制が関与している可能性が示唆されている.
・筋力低下
※コホート研究による.ICUAWとの関連性はみられなかった.


[1] Nguyen BV, Bota DP, Mélot C, et al. Time course of hemoglobin concentrations in nonbleeding intensive care unit patients. Crit Care Med 2003; 31: 406-10
[2] Claessens YE, Fontenay M, Pene F, et al. Erythropoiesis abnormalities contribute to early-onset anemia in patients with septic shock. Am J Respir Crit Care Med 2006; 174: 51-7
[3] Salisbury AC, Reid KJ, Alexander KP, et al. Diagnostic blood loss from phlebotomy and hospital-acquired anemia during acute myocardial infarction. Arch Intern Med 2011; 171: 1646-53
[4] Wong P, Intragumtornchai T. Hospital-acquired anemia. J Med Assoc Thai 2006; 89: 63-7
[5] Thavendiranathan P, Bagai A, Ebidia A, et al. Do blood tests cause anemia in hospitalized patients? The effect of diagnostic phlebotomy on hemoglobin and hematocrit levels. J Gen Intern Med 2005; 20: 520-4
[6] Pabla L, Watkins E, Doughty HA. A study of blood loss from phlebotomy in renal medical inpatients. Transfus Med 2009; 19: 309-14
[7] Chant C, Wilson G, Friedrich JO. Anemia, transfusion, and phlebotomy practices in critically ill patients with prolonged ICU length of stay: a cohort study. Crit Care 2006; 10: R140
[8] Walsh TS, Saleh EE. Anaemia during critical illness. Br J Anaesth 2006; 97: 278-91
[9] Rao SV, Jollis JG, Harrington RA, et al. Relationship of blood transfusion and clinical outcomes in patients with acute coronary syndromes. JAMA 2004; 292: 1555-62
[10] Sattur S, Harjai KJ, Narula A, et al. The influence of anemia after percutaneous coronary intervention on clinical outcomes. Clin Cardiol 2009; 32: 373-9
[11] Kim P, Dixon S, Eisenbrey AB, et al. Impact of acute blood loss anemia and red blood cell transfusion on mortality after percutaneous coronary intervention. Clin Cardiol 2007; 30(10 Suppl 2): II35-43
[12] Hébert PC, Wells G, Blajchman MA, et al. A multicenter, randomized, controlled clinical trial of transfusion requirements in critical care. Transfusion Requirements in Critical Care Investigators, Canadian Critical Care Trials Group. N Engl J Med 1999; 340 :409-17
[13] Carson JL, Carless PA, Hebert PC. Transfusion thresholds and other strategies for guiding allogeneic red blood cell transfusion. Cochrane Database Syst Rev 2012; 4: CD002042
[14] Rohde JM, Dimcheff DE, Blumberg N, et al. Health care-associated infection after red blood cell transfusion: a systematic review and meta-analysis. JAMA 2014; 311: 1317-26
[15] Napolitano LM, Kurek S, Luchette FA, et al. Clinical practice guideline: red blood cell transfusion in adult trauma and critical care. Crit Care Med 37 : 3124-57, 2009
[16] Carson JL, Grossman BJ, Kleinman S, et al. Red blood cell transfusion: a clinical practice guideline from the AABB. Ann Intern Med 157 : 49-58, 2012
[17] Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, et al. Surviving sepsis campaign: international guidelines for management of severe sepsis and septic shock: 2012. Crit Care Med 41 : 580-637, 2013
[18] Hajjar LA, Vincent JL, Galas FR, et al. Transfusion requirements after cardiac surgery: the TRACS randomized controlled trial. JAMA 2010; 304: 1559-67
[19] Carson JL, Terrin ML, Noveck H, et al; FOCUS Investigators. Liberal or restrictive transfusion in high-risk patients after hip surgery. N Engl J Med 2011; 365: 2453-62
[20] Cooper HA, Rao SV, Greenberg MD, et al. Conservative versus liberal red cell transfusion in acute myocardial infarction (the CRIT Randomized Pilot Study). Am J Cardiol 2011; 108: 1108-11
[21] Carson JL, Brooks MM, Abbott JD, et al. Liberal versus restrictive transfusion thresholds for patients with symptomatic coronary artery disease. Am Heart J 2013; 165: 964-71.e1
[22] Walsh TS, McClelland DB, Lee RJ, et al. Prevalence of ischaemic heart disease at admission to intensive care and its influence on red cell transfusion thresholds: multicentre Scottish Study. Br J Anaesth 2005; 94: 445-52
[23] Marik PE, Sibbald WJ. Effect of stored-blood transfusion on oxygen delivery in patients with sepsis. JAMA 1993; 269: 3024-9
[24] Lorente JA, Landín L, De Pablo R, et al. Effects of blood transfusion on oxygen transport variables in severe sepsis. Crit Care Med 1993; 21: 1312-8
[25] Fernandes CJ Jr, Akamine N, De Marco FV, et al. Red blood cell transfusion does not increase oxygen consumption in critically ill septic patients. Crit Care 2001; 5: 362-7
[26] ProCESS Investigators, Yealy DM, Kellum JA, Huang DT, et al. A randomized trial of protocol-based care for early septic shock. N Engl J Med 2014; 370: 1683-93
[27] The ARISE Investigators and the ANZICS Clinical Trials Group. Goal-Directed Resuscitation for Patients with Early Septic Shock. N Engl J Med 2014 Oct 1
[28] Park DW, Chun BC, Kwon SS, et al. Red blood cell transfusions are associated with lower mortality in patients with severe sepsis and septic shock: a propensity-matched analysis. Crit Care Med 2012; 40: 3140-5
[29] Vincent JL, Baron JF, Reinhart K, et al. Anemia and blood transfusion in critically ill patients. JAMA 2002; 288: 1499-507
[30] Vincent JL, Sakr Y, Sprung C, et al. Are blood transfusions associated with greater mortality rates? Results of the Sepsis Occurrence in Acutely Ill Patients study. Anesthesiology 2008; 108 :31-9
[PR]
by DrMagicianEARL | 2014-10-07 15:52 | 敗血症 | Comments(3)
■欧州集中治療医学会がドイツで開催されていますが,それにあわせてNEJM誌やJAMA誌に集中治療系のRCTが多数online publishされており,随時当ブログでも紹介していきます.まず最初はARISE studyから.2014年3月の米国ProCESS studyから半年たって再度EGDTが死亡率を改善せずという結果がANZICSからでました.ただし,外的妥当性等,結果は慎重にとらえるべきと思われます.
早期の敗血症性ショックの患者における目標指向型蘇生(ARISE study)
The ARISE Investigators and the ANZICS Clinical Trials Group. Goal-Directed Resuscitation for Patients with Early Septic Shock. N Engl J Med. 2014 Oct 1. [Epub ahead of print]
PMID:25272316

Abstrct
【背 景】
早期目標指向型治療(EGDT)は救急で敗血症性ショックを呈した患者において死亡率を減少させる重要な戦略としてSurviving Sepsis Campaign Guidelinesで支持されている.しかし,その有効性は不明確である.

【方 法】
51施設(ほとんどはオーストラリアまたはニュージランド)で行われた本研究において,我々は救急で早期の敗血症性ショックを呈した患者をEGDTまたは通常治療のいずれかに無作為に割り付けた.主要評価項目は無作為化から90日後の全死亡率とした.

【結 果】
登録された患者1600例のうち,796例はEGDT群に,804例は通常治療群に割り付けられた.主要評価データは99%超過の患者で利用可能であった.EHDT群の患者は通常治療群に比して,無作為化から最初の6時間での平均輸液量(±標準偏差)が多く(1964±1415mL vs 1713±1401mL),循環作動薬投与が多く(66.6% vs 57.8%),赤血球輸血が多く(13.6% vs 7.0%),ドブタミン投与も多かった(15.4% vs 2.6%)(すべての比較においてp<0.001).無作為化後90日の時点で,EGDT群は147例,通常治療群は150例の死亡があり,死亡率はそれぞれ18.6%,18.8%であった(絶対リスク差は-0.3%; 95%CI -4.1 to 3.6; p=0.90).生存期間,院内死亡,臓器支持療法期間,入院期間に差はなかった.

【結 論】
救急で早期の敗血症性ショックを呈した重症患者において,EGDTは90日時点での全死亡率を減少させなかった.

1.本結果の解釈における注意

■本ブログではProCESS study[1]発表後,繰り返しEGDTを否定すべきではないと主張しており,今回のARISE studyがでてもその姿勢は変わらない.その理由は外的妥当性である.
EGDT,ProCESS studyについては当ブログのこちらの記事も参照
→EGDT:http://drmagician.exblog.jp/16904162/
→ProCESS study:http://drmagician.exblog.jp/21799999/

■ProCESSもARISEも以前までの敗血症性ショックのRCTに比して非常に低い死亡率となっており,対照群である通常治療の死亡率の低さは循環管理に長けた救急集中治療医のスキルによって担保されている.この対照群と同等以上の医療介入が可能ならばEGDTは行わずともよいが,集中治療医がいない施設ではそうはいかないと思われる(そういう施設ではPiCCOやEV1000などの便利なモニターを持っていることはむしろ稀であり,乳酸値すら計測できない施設も多い).いずれの研究もEGDTが死亡率を改善させなかっただけで悪化させたわけではなく,逆に考えればEGDTプロトコルを用いることで救急集中治療医管理による通常治療と同等の治療成績が出せるととらえることもできる.EGDTの採用をやめるか継続するかは施設の治療レベル,主治医やスタッフのスキルに合わせて慎重に判断すべきである.

■EBMの世界ではEGDTは推奨されない,という方向に向かうかもしれないが,かといってプロトコルなしで敗血症性ショックの循環管理を行うことは救急集中治療医がいない施設においては非常に酷であり,現実的ではない推奨である.現時点で代替案なしにSSCGや日本版重症敗血症診療ガイドラインが今後の改訂でEGDTを非推奨とする方向に向かうのであれば,非常に好ましくないと思われる.

■また,今回のARISE studyは有害事象についてはEGDT群7.1% vs 通常治療群5.3%で有意差なし(p=0.15)であり,予想通り中心静脈カテーテル挿入に伴う合併症は2.0% vs 0.1%(p=0.00013),肺水腫は1.8% vs 0.8%(p=0.076)でEGDT群の方が多く,これは納得がいく結果ではあるが,不整脈に関しては4.3% vs 5.1%(p=0.478)と有意差はないものの循環作動薬投与が少ない通常治療群の方が多い傾向がみられた.また,重篤な有害事象は実は0.5% vs 1.9%(p=0.019)で通常治療群の方が有意に多かった(データは本文には書いておらず,Supplementary Appendix見ないと分からない).この差は臨床的には有意ではないかもしれないが注意が必要かもしれない.

2.ProCESSとARISEの比較


■ProCESS studyはEGDT群と通常治療群以外に標準プロトコル群というアームがあったが,ARISEにはないため,標準プロトコル群を除いて比較した.
e0255123_23345764.png
■見ても分かる通り,ARISE studyではProCESS studyよりさらに重症度が低くなっており,それを反映してか死亡率も低く輸液量も少なくなっている.また,いずれの研究においても通常治療群の方が輸液量は少ない.近年,敗血症性ショック治療に伴う過剰輸液が予後を悪化させる可能性が指摘されており[2,3],Kelmら[3]は,第1病日で,患者の67%に過剰輸液がみられ,48%が第3病日まで輸液過剰が遷延したと報告している.通常治療群の輸液量は,EGDTによって生じる過剰輸液リスクを減じる可能性がある.

■ただし,そもそも「通常治療(usual-care)」が具体的にどのような管理であったのかはProCESSと同様,今回も分からなかった.おそらく心臓超音波検査,SVV等を用いたモニタリング,Passive Leg Raising testなどであろうが,特に治療介入方法に統一がなされていない患者集団である.EGDTに代わる治療プロトコルの検証が望まれる.

3.EGDTのメタ解析

■River's RCT[4],ProCESS,ARISEの3試験のメタ解析を行った結果は以下の通りである(統計解析はRを用いています).
e0255123_1026172.png
■また,River's RCTを除き,ProCESSとARISEのみでのメタ解析は以下の通りである.
e0255123_10301020.png


[1] ProCESS Investigators, Yealy DM, Kellum JA, Huang DT, et al. A randomized trial of protocol-based care for early septic shock. N Engl J Med 2014; 370: 1683-93
[2] Boyd JH, Forbes J, Nakada TA, et al. Fluid resuscitation in septic shock: a positive fluid balance and elevated central venous pressure are associated with increased mortality. Crit Care Med 2011; 39: 259-65
[3] Kelm DJ, Perrin JT, Cartin-Ceba R, et al. Fluid Overload in Patients with Severe Sepsis and Septic Shock Treated with Early-Goal Directed Therapy is Associated with Increased Acute Need for Fluid-Related Medical Interventions and Hospital Death. Shock 2014 Sep 22 [Epub ahead of print]
[4] Rivers E, Nguyen B, Havstad S, et al; Early Goal-Directed Therapy Collaborative Group. Early goal-directed therapy in the treatment of severe sepsis and septic shock. N Engl J Med 2001; 345: 1368-77
[PR]
by DrMagicianEARL | 2014-10-03 00:00 | 敗血症 | Comments(0)
■敗血症におけるβラクタマーゼ阻害剤配合βラクタム系抗菌薬(BL/BLIs)とカルバペネム系抗菌薬を直接比較したRCTのメタ解析がJACにでたので紹介します.ESBL産生菌を含んだ患者集団ですが,死亡率に差はなく,下痢はBL/BLIsで多いけどCDIはカルバペネムで多いという結果.抗菌薬適正使用も上乗せすればBL/BLIsに軍配が上がりそうです.本邦ではTAZ/PIPC,ということになるでしょうか(SBT/CPZやSBT/ABPCはカバー不十分となる可能性もありあまり敗血症では用いられません).とはいえ,TAZ/PIPCがペニシリン系だからという理由でカルバペネム系より推奨されるとする考えには私は賛同していませんが(カルバペネムに匹敵する広域スペクトラムですので).
敗血症治療におけるβラクタマーゼ阻害剤配合βラクタム系抗菌薬vsカルバペネム系抗菌薬:無作為化比較試験のシステマティックレビューとメタ解析
Shiber S, Yahav D, Avni T, et al. β-Lactam/β-lactamase inhibitors versus carbapenems for the treatment of sepsis: systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. J Antimicrob Chemother 2014 Sep 25 [Epub ahead of print]
PMID:25261419

Abstract
【背 景】
βラクタマーゼ阻害剤配合βラクタム系抗菌薬(BL/BLIs)とカルバペネム系抗菌薬の効果を比較したデータは乏しい.

【方 法】
本研究は敗血症治療において,あらゆるBL/BLIsとあらゆるカルバペネムを比較した無作為化比較試験(RCT)のシステマティックレビューとメタ解析である.主要評価項目は全死亡率とした.文献検索は,言語,出版状態や日の制限なしで行った.2人のレビュアーが独立して登録基準を適応し,データを抽出した.バイアスリスクの評価はドメインに基づいたアプローチを用いて行った.サブグループ解析は異質性の検討を用いて,ESBL産生菌疑いを検出した患者集団で行った.

【結 果】
31報のRCTを登録した.BL/BLIsとカルバペネムでは,死亡率に有意差はなく,異質性はみられなかった(RR 0.98, 95%CI 0.79-1.20).臨床的または細菌学的治療失敗や重複感染に差はなかった.この結果はバイアスリスクの影響を受けていなかった.院内感染,グラム陰性菌感染,発熱性好中球減少の患者のサブグループにおいても差は見られなかった.投与中断を必要とした有害事象は下痢発生率の増加によりBL/BLIsで多かった.しかし,Clostridium difficile関連下痢症はカルバペネムの方が頻度が高く(RR 0.29, 95%CI 0.10-0.87),痙攣はイミペネムでより多かった(RR 0.21, 95%CI 0.05-0.93).

【結 論】
起因菌であるESBL産生菌の(未知であるが)特定の発生率を有する患者集団を含むRCTにおいて,BL/BLIsとカルバペネムに効果の差はみられなかった.

[PR]
by DrMagicianEARL | 2014-10-01 00:00 | 敗血症 | Comments(0)
■敗血症性ショックにおける循環作動薬(ノルアドレナリン,バソプレシン,ドパミンなど)の有害事象に関する文献2つを紹介します.「ノルアドレナリンorバソプレシンで臓器虚血/腸管虚血/四肢末梢疎血が起こって痛い目にあった」というのを学会・研究会等で耳にするのですが,なぜそんなことが起こるのかと個人的にずっと不思議に思っていました.当然ながら末梢血管をしめる作用ですから機序的には理解できます.しかし,私自身はこれまでの敗血症性ショック治療経験においてそのような有害事象は経験したことはなく,血管内容量が十分充填されてないのに循環作動薬を始めちゃったからそういう有害事象が起こっちゃったのでは?と推測しています.

■私はある程度急速輸液をした後でないとノルアドレナリンは開始しませんし,バソプレシンを開始するときもやや多めに輸液を入れてから行います(研修医には「最初は循環作動薬をすぐに入れたくなるけどちょっと我慢した方がいい」と教えています.).末梢まで血管内容量を充填してから血管をしめあげる方が効果的であるし虚血も生じにくいと考えています(実はこの考えは医師国家試験受験前にTECOMの三苫先生の講義で聴講して以来変わってません).輸液は少なすぎても多すぎてもダメで,循環作動薬にも早すぎても遅すぎてもダメという適切なタイミングがあるんじゃないかと思います.そもそもEGDTモデルも1つのゴールを達成したら次のゴールを目指す,というスタンスなので,初期蘇生輸液と循環作動薬を同時開始はまずいんじゃないかなと.1つ目の文献の結果はそれを暗に示唆しているものかと思います(結論ではそれがすべてではないと述べていますが).
敗血症性ショックの死亡率における輸液と循環作動薬の相互作用:多施設共同観察研究
Waechter J, Kumar A, Lapinsky SE, et al; Cooperative Antimicrobial Therapy of Septic Shock Database Research Group. Interaction between fluids and vasoactive agents on mortality in septic shock: a multicenter, observational study. Crit Care Med 2014; 42: 2158-68
PMID: 25072761

Abstract
【目 的】
輸液と循環作動薬はいずれも敗血症性ショックの治療に用いられるが,これらの投与においてどのように相互作用が生じるのか,どのような投与方法が適切かについてはあまり知られていない.我々はこれらの2つの治療の併用が院内死亡にどのように影響を与えるかについて検討した.

【方 法】
本研究は,院内死亡と,循環作動薬導入および発症から0-1時間後,1-6時間後,6-24時間後の輸液量による分類について,相互作用を含め,潜在的共変量で調整した多変量ロジスティック回帰を用いた後ろ向き観察研究である.研究の場は3か国24病院のICUとした.患者は1989年から2007年に入院した,敗血症性ショック発症後から24時間以上生存した患者2849例である.

【結 果】
輸液と循環作動薬のには死亡と関連した強い相互作用がみられた(p<0.0001).死亡率は発症後1-6時間に循環作動薬を開始され,かつ輸液量がショック発症から最初の1時間において1L以上,1-6時間後で2.4L,6-24時間で1.6-3.5Lであると最も低かった.循環作動薬を発症から1-6時間後に開始することは最も低い死亡率と関連していた.

【結 論】
敗血症性ショックの蘇生の最初の1時間は積極的な輸液投与を行い,循環作動薬はその後に積極的輸液を継続しながら行うべきである.循環作動薬を最初の1時間で開始することは有害な可能性があり,その関連性のすべてが循環作動薬の早期導入による体液不足によるものであるわけではない.
敗血症性ショックにおけるバソプレシンとノルアドレナリンの注射による重篤な有害事象
Anantasit N, Boyd JH, Walley KR, et al. Serious adverse events associated with vasopressin and norepinephrine infusion in septic shock. Crit Care Med 2014; 42: 1812-20
PMID:24919159

Abstract
【目 的】
バソプレシンとノルアドレナリンの使用に関連した重篤な有害事象の頻度,危険因子,死亡率に関しては明らかではない.本研究の目的は,敗血症性ショック患者における重篤な有害事象の頻度,危険因子(遺伝子多型の同定を含む),予後について検討することである.

【方 法】
本研究は,大学病院ICUでの多施設データと単施設データを用いた後ろ向きコホート研究である.患者は,Vasopressin and Septic Shock Trial(VASST)データの敗血症性ショック597例とSt.Paul病院の533例である.介入は敗血症性ショックに対するバソプレシンとノルアドレナリンである.主要評価項目は重篤な有害事象有無での90日死亡率とした.副次評価項目は循環作動薬の遺伝子多型や血清バソプレシン濃度と重篤な有害事象との関連性とした.血清バソプレシン濃度はベースライン,循環作動薬投与開始から6時間後,24時間後,72時間後,7日後とした.敗血症性ショック患者は268の循環作動薬経路の一塩基多型に分類された.

【結 果】
重篤な有害事象はVASSTコホート,St. Paul病院コホートでそれぞれ10.5%,9.7%であった.重篤な有害事象が生じた患者ではそれがない患者よりも死亡率が高かった(p<0.01;年齢,乳酸値,APACHE IIスコア,第1病日でのノルアドレナリンの最大量で調整後で,VASSTコホートではHR 2.97; 95%CI 2.20-4.00, p<0.001,St. Paul病院コホートでHR 1.89; 95%CI 1.26-2.85, p=0.002).重篤な有害事象有無で血清バソプレシン濃度曲線下面積に差はなかった(p=0.1).AA遺伝子型rs28418396一塩基遺伝子多型(アルギニン・バソプレシン受容体1b遺伝子近傍)はいずれのコホートにおいても重篤な有害事象に有意に関連していた(それぞれp=0.001, p=0.04).

【結 果】
敗血症性ショック患者におけるバソプレシンとノルアドレナリンが関連した重篤な有害事象は死亡率と有病率増加に関連していた.アルギニン・バソプレシン受容体1b遺伝子近傍のAA遺伝子型rs28418396一塩基遺伝子多型は重篤な有害事象と関連していた.この関連性の機序については検討を要する.

※本文から:多かった有害事象は腸間膜虚血,心筋虚血,頻脈が上位にあがっていました

[PR]
by DrMagicianEARL | 2014-09-30 19:19 | 敗血症 | Comments(0)
βラクタム系抗菌薬に神経変性作用があるとは知りませんでした.感染症治療の主軸となるため投与は避けられませんが,不必要に長々と投与すべきではない,ということになるのでしょうか.認知症,せん妄,PICS/ICUAWと関連性があるのかについても知りたいところです.
ICUの敗血症患者において,βラクタム系濃度上昇は神経変性と関連する
Beumier M, Casu GS, Hites M, et al. Elevated Beta-lactam concentrations are associated with neurological deterioration in ICU septic patients. Minerva Anestesiol 2014 Sep 15 [Epub ahead of print]
PMID: 25220556

Abstract
【目 的】
βラクタム系抗菌薬は安全な治療薬と考えられているが,神経毒性が報告されている.本研究の目的は,ICUの敗血症患者においてβラクタム系濃度と神経変性の関連性を評価することである.

【方 法】
メロペネム(MEPM),ピペラシリン/タゾバクタム(TAZ/PIPC),セフタジジム・セフェピム(CEF)で治療を受け,少なくとも1回のβラクタム系トラフ濃度(Cmin)を規則した全ICU患者を対象とした後ろ向き研究である.薬剤レベルは高速液体クロマトグラフィーを用いて計測した.Cminは,各薬剤ごと(Cmin/MIC)の緑膿菌の臨床的ブレイクポイント(EUCASTの定義)を正常値とした.神経学的状態に変化は,神経学的SOFAスコアの変化(ΔnSOFA=nSOFA(TDMを施行した日)-nSOFA(ICU入室時))を用いた.神経学的状態の悪化は,入室時のnSOFAが0-2で,ΔnSOFA≧1と定義した.

【結 果】
199例の患者(MEPM 130例,TAZ/PIPC 85例,CEF 47例)から262のCmin値が得られた.入室時のAPACHE IIとGCSの中央値はそれぞれ17と15であった.ICU全死亡率は27%であった.神経学的状態の悪化は,各抗菌薬間で差はなかった(MEPM 39%,TAZ/PIPC 32%,CEF 35%).神経学的状態悪化の発生は,Cmin/MICの増加を伴っており(p=0.008),この相関はTAZ/PIPC(p=0.05)とMEPM(p=0.01)で見られたが,CEFでは見られなかった.Cmin/MICは神経学的状態悪化の独立した予測因子であった(OR 1.12, 95%CI 1.04-1.20).

【結 論】
ICUの敗血症患者において,高いβラクタムトラフ濃度と神経変性発生増加の間に相関を認めた.我々のデータは因果関係を断定しえないが,重症疾患で神経変性が生じたときにβラクタム系抗菌薬濃度のモニタリングが考慮されるべきである.

[PR]
by DrMagicianEARL | 2014-09-29 00:00 | 敗血症 | Comments(0)
敗血症治療のEGDTに伴う輸液過剰に関して,死亡リスクが上昇することを示した後ろ向き観察研究を紹介します.最近このようなレビュー等がでてきて,初期蘇生における大量輸液がダメと勘違いしている医療従事者もたまにおられるようですが,そういうわけではありません.初期急速輸液は必要で,これを怠れば虚血により不可逆な臓器不全に進展します.問題は,どの程度の量まで輸液負荷をかけるべきかがまだ分かっていないことで,結果的に過剰輸液に至ってしまう患者群が存在します.CVPはもはやあてにはならず,PiCCOやEV1000などでの評価や,Passive Leg Raising Testが主流になりつつありますが,検証はまだまだ不十分で,大規模RCTがなされていない状況です.
Early-Goal Directed Therapyで治療された重症敗血症および敗血症性ショックの患者における輸液過剰は輸液関連医療介入の必要性や院内死亡の増加と関連している
Kelm DJ, Perrin JT, Cartin-Ceba R, et al. Fluid Overload in Patients with Severe Sepsis and Septic Shock Treated with Early-Goal Directed Therapy is Associated with Increased Acute Need for Fluid-Related Medical Interventions and Hospital Death. Shock 2014 Sep 22 [Epub ahead of print]
PMID: 25247784

Abstract
【背 景】
早期目標指向型治療(EGDT)は早期の積極的輸液蘇生からなり,敗血症の生存率を改善させることが知られている.EGDTがどれくらい過剰輸液を引き起こしているか,EGDT後の輸液過剰が患者の予後に影響を与えるかについては知られていない.我々は,EGDTで治療を受けた敗血症患者が輸液過剰リスクに曝されており,輸液過剰が有害なアウトカムに関連していると仮説を立てた.

【方 法】
2008年1月から2009年12月まで1つの三次救急施設の内科ICUに重症敗血症または敗血症性ショックで入院した患者405例の後ろ向きコホートを行った.患者背景,毎日の体重,輸液状態,輸液過剰の臨床的または画像的根拠,医療介入(胸水穿刺,利尿剤使用,限外濾過)がまとめられ,単変量,多変量ロジスティック,線形回帰解析で関連性を検討した.

【結 果】
第1病日で,患者の67%に過剰輸液がみられ,48%が第3病日まで輸液過剰が遷延した.輸液過剰についての評価者間の合意は十分であった(κ=0.7).輸液過剰遷延の臨床的・画像的根拠を有するが体液バランスが正と記録されていない患者においては体重の増加傾向がみられた.ベースラインの疾患重症度で調整すると,輸液過剰は輸液関連医療介入(胸水穿刺と利尿剤)の使用増加や院内死亡(OR 1.92; 95%CI 1.16-3.22)と関連していた.

【結 論】
重症敗血症,敗血症性ショックの患者において,臨床的に輸液過剰遷延はよく見られ,医療介入や院内死亡と関連していた.

[PR]
by DrMagicianEARL | 2014-09-26 16:53 | 敗血症 | Comments(0)
2.世界および日本の敗血症の現状

(1) 罹患率と死亡率,推移

■世界では年間約2700万人の敗血症が発生しており,その数は,世界的に多いとされる大腸癌と乳癌の死亡者数を合わせても足りない.そのうち,約800万人が死亡しており,2-3秒に1人が世界のどこかで敗血症により死亡している計算になる.これが,World Sepsis Dayでの「Around every 3rd heartbeat, someone dies of sepsis.(心臓が3回鼓動を打つごとに誰かが敗血症で亡くなっている)」というメッセージである.
e0255123_1046451.png
■世界規模で見た重症敗血症患者の転帰に関する最新の大規模調査としてPROGRESS研究(Promoting Global Research Excellence in Severe Sepsis)[1]があり,2002年12月から2005年12月までの患者が登録された.この研究は37カ国276ICUの重症患者12881例が登録されており,死亡率は30-80%であった.この死亡率のばらつきには様々な要因が考えられる.しかし,二次解析[2]で行われた多変量解析では,先進国であるか発展途上国であるかは関係がなく,一人当たりの国民総生産高も関係がないという結果であった.加えて,重症度の予後の既知のすべてのマーカーは死亡率の国際的差異を十分には説明しえなかった.

■死亡率の経年的変化としては,データは古くなるが,1979年から2000年までの米国の国家規模のデータベースを用いた敗血症10319418例の検討がなされている[3].この報告では,敗血症の発生率は22年間で82.7/10万から240.4/10万まで増加し,臓器障害数で示される重症度も増加していた.その一方で院内死亡率は27.8%から17.9%まで低下しており,抗菌薬をはじめとする治療の進歩の結果が現れている.同様の報告が2014年にオーストラリアおよびニュージーランドのANZICSグループからも報告されている[4]

■さらに,Surviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)により死亡率が改善したとの報告は数多く存在する[5]

■2002年から2008年にかけての10年間で,入院患者数で見た敗血症発生率は2倍以上と劇的に増加しており,心臓発作よりも多くの患者が敗血症に罹患している.そして,敗血症患者の20-40%は集中治療室(ICU)での治療を必要としている.また,米国の報告では,1997年から2006年にかけて,術後敗血症の患者数は3倍にまで増加している.コストで見ると,2008年の米国における敗血症入院によるコストの年間総額は146億ドルであり,1997年から年間11.9%ずつ増大している.

■Angusらの大規模コホート研究[7]では,米国7州にある847病院の重症敗血症患者192980例を登録している.ここからCDC,HCHA,AHAにもデータリンクして,米国での死亡統計が示されている.このデータモデルから日本にあてはめると,日本では年間38万4千人が重症敗血症に罹患していることになる.2011年の厚生労働省死亡統計では,敗血症が死因とされている死亡は11170例であり,全死亡の0.9%であった(2001年時は6179例であり1.8倍に増加).しかし,この数字は悪性腫瘍など他の基礎疾患が存在している患者が敗血症に罹患して死亡した場合などは反映されていない可能性が大きく,実際の死亡数はもっと多いものと推察され,米国モデルにあてはめるならば,おそらく日本の実際の敗血症死亡例は死亡統計の約10倍(年間10-20万人)と予想される.また,Angusらの研究では高齢者ほど罹患率,死亡率が高いことも示されており,超高齢化社会を迎えている日本ではさらに敗血症患者は増加すると思われる.

■ただし,これらの疫学的推移を異とする主張もある.疫学研究においてはコーディング化された病名を拾いあげていくが,その際に過剰診断によるアップコーディングがあると敗血症患者が増えることになる[8].実際には,米国では尿路感染症や腹腔感染症は不変,肺炎に至っては減少傾向,菌血症患者も不変であるにもかかわらず,敗血症が増加している.ただし,高齢化社会をむかえてきていることが敗血症の増加に寄与している可能性も十分にあると思われる.また,近年薬剤耐性菌が増加しており,初期抗菌薬が奏功せず感染症が悪化して敗血症に至るケースが増えてきていることも敗血症増加に寄与しているのかもしれない.

(2) 敗血症の認知度

■敗血症は非常にポピュラーな疾患である.米国・欧州の統計による疾患別年間発生率(10万対比)で見てみると,HIVが22.8,心疾患208,脳卒中223,癌331.8に対して敗血症は377である.
e0255123_11391434.jpg

■このような状況の中にあっても敗血症の認知度は非常に低い.欧州の調査[9]では,敗血症という名前を知っていた市民は12%であった.もっともこの研究ではドイツだけが53%と突出していたために12%という数字になっており,実際の他国の認知度はもっと低い数字であることが分かる.さらに,敗血症という言葉を知っていても,それが死亡しうる疾患であることを知っていたのは42%であった.当院自験例でも,重症敗血症患者42例の家族へのインフォームドコンセントの際に,敗血症という病名を知っていたのはわずか2例(4.76%)に過ぎなかった(家族が医療従事者である場合は除外).

■医療従事者であれば敗血症という病名はまず知ってはいるが,その治療法やSurviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)の存在となるとその認知度は非常に低い.529名の集中治療医を含む1058名の医師に対するSCCMと欧州集中治療医学会(ESICM)の調査報告[10]では,依然として67%の医師が敗血症の定義を認知しておらず,また正しい知識を持ち合わせていないために83%の医師が敗血症を誤診するという事態が発生していた.当院医師においても,敗血症プロトコル導入前の2011年時点では,敗血症の定義やSSCGの存在を知っていたのは10%に満たず,医師年数が長いほど知らない傾向が見られた.敗血症は感染症の重症病態であり,救急・集中治療・感染症領域の医師のみならず,内科・外科をはじめとするほとんどの科でかかわりうる致死的病態である.にもかかわらずその診療法が認知されていない現状は早急に改善する必要がある.

■こうした医師への認知度の低さを受けて,2001年には米国集中治療医学会SCCM,ESICM,ACCP,ATS,SISが敗血症の定義をより明確化し,正確な認知のもと正しい敗血症診療を励行するためにカンファレンスを開催した[11].同時期に米国では敗血症患者の診断と治療に関する正しい知識の普及の促進を目的にNISE(The National Initiative in Sepsis Education)が設立された.

■この流れの中で2002年にSCCM,ESICM,国際敗血症フォーラム(ISF)の合同カンファレンスがスペインのバルセロナで開催され,5年間で重症敗血症患者の死亡率を25%減らすという目標をかかげた国際的なキャンペーンであるSSC(Surviving Sepsis Campaign)が合意,開始された[12]

■そして,敗血症の認知度をさらに世界全体で医療従事者のみならず行政から一般市民まで広く高めようとする動きの中でWorld Sepsis Dayが制定された.World Sepsis Dayの最大の目的は「普及」である.まずは敗血症とそれに対する取り組みを知ってもらわなければ何も始まらない.一般市民レベルでの敗血症の認知は感染症予防としての衛生改善,ワクチン接種推進へとつながる.国際ガイドラインSSCG,日本版敗血症診療ガイドラインがあるにもかかわらず,それに目を通した医療従事者はほんの一握りに過ぎず,さらなる教育・指導・普及が必要である.また,これらの取り組みは行政の協力なくしては勧められず,そこには普及,医療資源投入のみならず研究・教育に至るまでの国家レベルでの取り組みが必要となる.
※World Sepsis Dayの日本のイベント,東京や横浜で開催されてますが,今後は関西で同時開催もやってほしいところです.
e0255123_1134253.png


敗血症の展望 to 2020 ~世界敗血症の日(World Sepsis Day)~(1)世界敗血症宣言

→敗血症の展望 to 2020 ~世界敗血症の日(World Sepsis Day)~(3)敗血症死亡率は改善できるか?

[1] Beale R, Reinhart K, Brunkhorst FM, et al; PROGRESS Advisory Board. Promoting Global Research Excellence in Severe Sepsis (PROGRESS): lessons from an international sepsis registry. Infection 2009; 37: 222-32
[2] Silva E, Cavalcanti AB, Bugano DD, et al. Do established prognostic factors explain the different mortality rates in ICU septic patients around the world? Minerva Anestesiologica 2012; 78: 1215-25
[3] Martin GS, Mannino DM, Eaton S, et al. The epidemiology of sepsis in the United States from 1979 through 2000. N Engl J Med 2003; 348: 1546-54
[4] Kaukonen KM, Bailey M, Suzuki S, et al. Mortality related to severe sepsis and septic shock among critically ill patients in Australia and New Zealand, 2000-2012. JAMA 2014; 311: 1308-16
[5] DrMagicianEARL. 敗血症とSurviving Sepsis Campaign Guidelines (SSCG). EARLの医学ノート 2013 Aug.6http://drmagician.exblog.jp/16351986/
[6] Hall MJ, Williams SN, DeFrances CJ, Golosinskiy A. Inpatient care for septicemia or sepsis: A challenge for patients and hospitals. NCHS data brief, no 62. Hyattsville, MD: National Center for Health Statistics. 2011
[7] Angus DC, Linde-Zwirble WT, Lidicker J, et al. Epidemiology of severe sepsis in the United States: analysis of incidence, outcome, and associated costs of care. Crit Care Med 2001; 29: 1303-10
[8] Rhee C, Gohil S, Klompas M. Regulatory mandates for sepsis care--reasons for caution. N Engl J Med 2014; 370: 1673-6
[9] Rubulotta FM, Ramsay G, Parker MM, et al; Surviving Sepsis Campaign Steering Committee; European Society of Intensive Care Medicine; Society of Critical Care Medicine. An international survey: Public awareness and perception of sepsis. Crit Care Med 2009; 37: 167-70
[10] Poeze M, Ramsay G, Gerlach H, et al. An international sepsis survey : a study of doctors' knowledge and perception about sepsis. Crit Care 2004; 8: R409-13
[11] Levy MM, Fink MP, Marshall JC, et al. 2001 SCCM/ESICM/ACCP/ATS/SIS International Sepsis Definitions Conference. Crit Care Med 2003; 31: 1250-6
[12] Slade E, et al. The Surviving Sepsis Campaign : raising awareness to reduce mortality. Crit Care 2003; 7: 1-2
[PR]
by drmagicianearl | 2014-09-15 11:42 | 敗血症 | Comments(0)

by DrMagicianEARL