ブログトップ

EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

カテゴリ:敗血症( 136 )

■敗血症を診断してから1時間以内に抗菌薬を投与することが強く推奨されていますが,そのエビデンスは非常に乏しいことはよく知られた話で,当然ながら「抗菌薬投与の遅れ=その他循環動態管理などの遅れ」ともとらえることができ,本当に抗菌薬を1時間以内に投与しなければいけないのか?という疑問は常日頃から敗血症診療をされている人は感じていたかもしれません.私も1時間以内という推奨に懐疑的ながら院内ではほぼ100%1時間以内に抗菌薬を開始しています.

■以下に紹介するメタ解析の結果は「やっぱりそうだろな」と感じる人も多いかもしれません.ただし,統計学的有意差がなくとも投与開始が遅れると死亡率が増加する傾向がみられ,これが臨床的に許容されるレベルの差であるかについては要検討です.かといってRCTは難しいかもしれませんが・・・.文献紹介とともにレビューをしてみました.
重症敗血症と敗血症性ショックにおける抗菌薬投与タイミングの予後への影響:システマティックレビューおよびメタ解析
Sterling SA, Miller WR, Pryor J, et al. The Impact of Timing of Antibiotics on Outcomes in Severe Sepsis and Septic Shock: A Systematic Review and Meta-Analysis. Crit Care Med. 2015 Jun 26. [Epub ahead of print]
PMID:26121073

Abstract
【目 的】
重症敗血症および敗血症性ショックにおいて,抗菌薬投与タイミングと死亡の関連性についてのデータのシステマティックレビューおよびメタ解析を検討する.

【方 法】
包括的な検索基準は事前に定められたプロトコルを用いてデータ抽出を行った.登録基準は,重症敗血症または敗血症性ショックの成人で,救急部門でのトリアージかつ/またはショックの認知に関連した抗菌薬投与時間と死亡率を報告したものとした.除外基準は,免疫抑制状態の患者,レビュー論文,エディトリアル,動物研究とした.データ抽出は,第3のレビュワーの調整のもと,2人のレビュワーが要約を通読して行った.死亡における抗菌薬投与までの時間の効果は,近年のガイドラインの推奨((1)救急部門でのトリアージから3時間以内投与,(2)重症敗血症/敗血症性ショック認知から1時間以内の投与)に基づいた.オッズ比はランダム効果モデルを用いて算出した.主要評価項目は死亡率とした.

【結 果】
全1123報が検出され,11報が解析に登録された.11報の研究において,16178例の患者が救急部門トリアージからの抗菌薬投与を評価されていた.救急部門でのトリアージから3時間以上後に抗菌薬投与を受けた患者は(3時間未満群と比較),死亡のオッズ比が1.16(95%CI 0.92-1.46; p=0.21)であった.計11017例の患者は重症敗血症/敗血症性ショックと認知されてからの抗菌薬投与を評価されていた.重症敗血症/敗血症性ショックの認知から1時間以上後に抗菌薬投与を受けた患者は(1時間未満群と比較),死亡のオッズ比が1.46(0.89-2.40; p=0.13)であった.重症敗血症/敗血症性ショック認知からの抗菌薬投与において1時間未満から5時間超までの各1時間ごとの投与の遅れについてのオッズ比では死亡率の増加はみられなかった.

【結 論】
利用可能な蓄積データを用いると,重症敗血症および敗血症性ショックにおいて,救急部門のトリアージから3時間以内またはショック認知から1時間以内の抗菌薬投与の死亡に影響する有意な有益性はみられなかった.この結果は,治療の質の評価としての近年の推奨されているタイミングの基準が既知のエビデンスによって支持されないことが示唆される.
■敗血症における抗菌薬治療を以下に述べる.感染症一般の話は割愛する.
抗菌薬投与の基本的考え方についてはこちら

1.「1時間以内に抗菌薬投与」のエビデンスは?

■敗血症ではできる限り早期に適切な抗菌薬投与が必要となる.SSCG 2012[1],日本版敗血症診療ガイドライン2012[2]では以下のように推奨されている.
SSCG 2012
敗血症性ショック(Grade 1B),敗血症性ショックでない重症敗血症(Grade 1C)と認識してから最初の1時間以内の有効な経静脈的抗菌薬投与を治療目標とすべきである.

日本版敗血症診療ガイドライン2012
診断後,1時間以内に経験的抗菌薬を開始する(Grade 1C).
■しかし,その投与開始までの時間に関する質の高いエビデンスは乏しく,その根拠は前向き観察研究,後ろ向きコホート研究によるため,実際の抗菌薬投与までの至適カットオフ時間が一般的に推奨されている1時間でよいのかについては明確なエビデンスはない.

■1時間以内の投与の根拠として頻繁に引用されるのはKumarら[3]の後ろ向きコホート研究である.本研究はSSCGが発表される以前の1989年から2004年の敗血症性ショック患者2731例を登録したもので,抗菌薬投与が1時間遅れるごとに死亡率が7.6%増加すると報告している.

■また,Ferrerら[4]は重症敗血症患者2796例を登録した7施設共同前向き観察研究において,診断から6時間以内に抗菌薬が投与されない場合と比較して,1時間以内に投与することで死亡リスクが43%有意に減少したと報告している.Gaieskiら[5]は,重症敗血症患者261例を登録した単施設コホート研究を行い,1時間以内の抗菌薬投与が死亡リスクを70%有意に減少したと報告している.Jaliliら[6]はERに来院した敗血症患者145例(院内全死亡率21.4%)を登録した前向きコホート研究を行い,APACHEⅡスコアが21点以上の群では抗菌薬投与開始までの時間と死亡に関連性がみられたが,11-20点の患者では関連性はみられなかったと報告している.

■しかし,抗菌薬投与開始までの時間の延長は敗血症治療介入全体の治療のスピードに関連するとも考えられ,実際にはEarly Goal-Directed Therapy開始の遅れが予後悪化に関連しているのを反映している可能性もある.敗血症病態を考えれば,迅速な循環動態改善が行われれば抗菌薬投与開始までの時間が1時間を越えても予後が悪化しない可能性もあるわけである(現時点でそのような検討はなされていない).

■しかし,RCTをもって1時間以内の抗菌薬投与開始群とそれ以降の抗菌薬投与開始群をRCTで比較することは倫理的に行うことが困難と推察される.最近の研究では,Ferrerら[7]が,Surviving Sepsis Campaignで集積した欧州,米国,南米の165のICUに入室した重症敗血症患者17990例(院内死亡率29.7%)の大規模データの後ろ向き解析を行っており,抗菌薬投与開始が1時間を越えると,背景因子で調整しても死亡リスクが増加したと報告している.

■敗血症性ショックに至ってから抗菌薬投与を行った場合,ショック前に投与を行った場合と比較して死亡リスクは2.5倍に有意に増加することがPuskarichら[8]の3施設共同291例前向き観察研究で示されている.同様に真菌感染においても抗真菌薬投与が遅れれば死亡率が増加することが示されている[9]

2.適切な抗菌薬を1時間以内に投与できるか?

■薬剤をオーダーしてから投与までの時間はスタッフの慣れや病院システムの影響も大きい.夜間に救急車や外来がごった返す中,薬剤師が1人しかいない状況でオーダーから投与開始まで長い時間を要するケースも当然ありうる.また,投与までを急げばそのぶん何らかのミスが生じる可能性もある.抗菌薬の研究ではないが,敗血症性ショック患者の急な血圧低下で持続カテコラミン投与開始時に,指示受けてナースが調剤群vs充填済みシリンジ使用群を比較した48名看護師による患者シミュレータRCT[10]では,調剤群で投与開始までの時間が長く,誤投薬リスクは17倍であったと報告されている.

■実際に実臨床において抗菌薬投与までの時間は医師,病棟の影響を受けうることが複数報告されている.Cullenら[11]は,敗血症性ショック患者89例の観察研究を行い,救急医が適切な抗菌薬を投与するまでの時間は20分であったのに対し,内科レジデントでは180分を要したとしている.Kanji[12]らは,敗血症性ショック患者55例の後ろ向き観察研究を行い,有効な抗菌薬投与が開始されるまでの時間はERが1.1時間であるのに対し,ICUでは2.3時間であったと報告している.Mokら[13]は,大学病院において重症敗血症および敗血症性ショックと診断された患者100例(全死亡率44%)の後ろ向き観察研究を行っており,診断から抗菌薬投与までの時間は4時間であった.しかし,医師は抗菌薬オーダーを1.28時間で行っており,オーダーから実際の投与までの時間はERで3.28時間,ICUで4時間,一般病棟では5.67時間もの差があった.

■「早期に」「適切な」抗菌薬を投与,といっても適切性を求めようとすれば時間を要することも報告されている[11].1時間以内に抗菌薬を投与するとなれば,感染巣特定,グラム染色所見,その他各種データがすべてそろった状態でない可能性,抗菌薬を確実にあてようとすれば広域抗菌薬を多数併用しなければならない可能性,その際の有害事象が患者の予後に影響を与えうる可能性,なども考えなければならない.Pereiraら[14]は,抗菌薬投与開始までの時間に固執しすぎれば,抗菌薬の適切性が疎かになってしまう懸念を指摘している.また,前述のKumarら[3]の研究においても,適切な抗菌薬が投与されている場合にのみ予後が改善していることに注意しなければならない.

■実際に,敗血症ではないが,人工呼吸器関連肺炎に対して耐性菌フルカバーを目指した広域抗菌薬併用投与が逆に予後を悪化させたとする報告[15,16]がある以上,抗菌薬の有害事象は無視できない(しかもこのうちの1報はRCTである).これは,たとえ原因菌をあてていても,過剰カバーすると予後がむしろ悪化してしまうこともありうることを意味する

■また,初期の抗菌薬治療が不適切であった場合,後で適切な抗菌薬に変更してもその予後は改善しないとする報告もある[17].これは,ある意味,抗菌薬投与が遅れたのと同じととらえることもできる.

■メタ解析およびこれまでの研究結果を以下にまとめる.
・重症敗血症/敗血症性ショックにおいて早期(1時間以内or3時間以内)の抗菌薬投与が死亡率を改善させるかについては明確ではない.
・これまでの研究はすべて観察研究であり,抗菌薬の遅れが,EGDTなどの他の治療介入の遅れと重なっている可能性もあり,死亡との直接的因果関係が明確ではない.
・重症度が高まるほど,早期の抗菌薬投与が死亡率を改善させる可能性がある.
・観察研究でのデータを見ると,6時間未満であれば死亡率に影響がでない可能性があるが,それ以上遅れれば死亡率が高まる可能性がある.
・早期に抗菌薬を投与することは適切性(過剰カバーは予後を悪化させうるため適切とは言いがたい)を担保できない可能性がある.適切な抗菌薬選択がなされなければ予後は改善しないことから,1時間以内にこだわらず,適切な抗菌薬選択を考慮すべきかもしれない(6時間以内に選択?).


[1] Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, et al; Surviving Sepsis Campaign Guidelines Committee including the Pediatric Subgroup. Surviving sepsis campaign: international guidelines for management of severe sepsis and septic shock: 2012. Crit Care Med 2013; 41: 580-637
[2] 織田成人,相引眞幸,池田寿昭,他;日本集中治療医学会Sepsis Registry委員会.日本版敗血症診療ガイドライン.日集中医誌 2013; 20: 124-73
[3] Kumar A, et al. Duration of hypotension before initiation of effective antimicrobial therapy is the critical determinant of survival in human septic shock. Crit Care Med 2006; 34: 1589-96
[4] Ferrer R, Artigas A, Suarez D, et al; Edusepsis Study Group. Effectiveness of treatments for severe sepsis: a prospective, multicenter, observational study. Am J Respir Crit Care Med 2009; 180: 861-6
[5] Gaieski DF, Mikkelsen ME, Band RA, et al. Impact of time to antibiotics on survival in patients with severe sepsis or septic shock in whom early goal-directed therapy was initiated in the emergency department. Crit Care Med 2010; 38: 1045-53
[6] Jalili M, Barzegari H, Pourtabatabaei N, et al. Effect of door-to-antibiotic time on mortality of patients with sepsis in emergency department: a prospective cohort study. Acta Med Iran 2013; 51: 454-60
[7] Ferrer R, Martin-Loeches I, Phillips G, et al. Empiric antibiotic treatment reduces mortality in severe sepsis and septic shock from the first hour: results from a guideline-based performance improvement program. Crit Care Med 2014; 42: 1749-55
[8] Puskarich MA, Trzeciak S, Shapiro NI, et al; Emergency Medicine Shock Research Network (EMSHOCKNET). Association between timing of antibiotic administration and mortality from septic shock in patients treated with a quantitative resuscitation protocol. Crit Care Med 2011; 39: 2066-71
[9] Morrell M, Fraser VJ, Kollef MH. Delaying the empiric treatment of candida bloodstream infection until positive blood culture results are obtained: a potential risk factor for hospital mortality. Antimicrob Agents Chemother 2005; 49: 3640-5
[10] Adapa RM, Mani V, Murray LJ, et al. Errors during the preparation of drug infusions: a randomized controlled trial. Br J Anaesth 2012: 109; 729-34
[11] Cullen M, Fogg T, Delaney A. Timing of appropriate antibiotics in patients with septic shock: a retrospective cohort study. Emerg Med Australas 2013; 25: 308-15
[12] Kanji Z, Dumaresque C. Time to effective antibiotic administration in adult patients with septic shock: a descriptive analysis. Intensive Crit Care Nurs 2012; 28: 288-93
[13] Mok K, Christian MD, Nelson S, et al. Time to Administration of Antibiotics among Inpatients with Severe Sepsis or Septic Shock. Can J Hosp Pharm 2014; 67: 213-9
[14] Pereira EC. Appropriateness or time? Crit Care Med 2011; 39: 923; author reply 923-5
[15] Kett DH, Cano E, Quartin AA, et al; Improving Medicine through Pathway Assessment of Critical Therapy of Hospital-Acquired Pneumonia (IMPACT-HAP) Investigators. Implementation of guidelines for management of possible multidrug-resistant pneumonia in intensive care: an observational, multicentre cohort study. Lancet Infect Dis 2011; 11: 181-9
[16] Kim JW, Chung J, Choi SH, et al. Early use of imipenem/cilastatin and vancomycin followed by de-escalation versus conventional antimicrobials without de-escalation for patients with hospital-acquired pneumonia in a medical ICU: a randomized clinical trial. Crit Care 2012; 16: R28
[17] Luna CM, et al. Impact of BAL data on the therapy and outcome of ventilator-associated pneumonia. Chest 1997; 111: 676-85
[PR]
by DrMagicianEARL | 2015-07-01 17:11 | 敗血症 | Comments(1)
■ある疾患の死亡について解析・評価する際にアウトカムを全死亡でまとめるのは主流といえば主流ですが,この全死亡をもって多変量解析などを行うと誤った結論や推奨を導きだしてしまうリスクがあります.私自身,肺炎のデータ解析の際に目的変数を全死亡と肺炎関連死亡と別々に多変量解析してみるとまったく異なる結果になりました.現在は次々と否定されていっている米国での肺炎ガイドラインの推奨ももとはといえば大規模観察研究で全死亡をアウトカムとして多変量解析を行った結果でてきたもので,臨床現場感覚との乖離が生じました.治療介入の推奨まで踏み込むのであれば,死亡原因を分けて解析するなど何らかの工夫が必要です.

■全死亡をアウトカムとすることも大事ですが,それをもって多変量解析を行えば,前後関係や因果関係を無視した結果を導きだす可能性があることに注意が必要です(統計学上有意な相関があってもそれそのものは因果関係を示すとは限りません).今回は敗血症性ショックについて,死亡関連因子をより細かく見ようという報告がでましたので紹介します.このような検討を行うことでどの時期にどのような状況でどのような介入を行えば死亡を防げるのか,ということが解明できてくるのではないかと思いますし,同時にガイドラインの推奨が大きく変わるような結論が得られるかもしれません.
敗血症性ショックにおける死亡時期と原因
Daviaud F, Grimaldi D, Dechartres A, et al. Timing and causes of death in septic shock. Ann Intensive Care. 2015 Dec;5(1):58
PMID:26092499

Abstract
【背 景】
敗血症性ショックに関するほとんどの研究は,早期死亡か後期死亡の区別や直接死亡原因を考慮することなく粗死亡率を報告している.本研究の目的は敗血症性ショックの死亡原因を明らかにすることである.

【方 法】
本研究は6年間(2008-2013年)の単施設後ろ向き観察研究である.集中治療室(ICU)入室から48時間以内の敗血症性ショックと診断された患者を登録した.早期および後期死亡は,それぞれICU入室から3日以内と3日超に生じたものと定義した.ICUにおける主要な死亡原因はカルテ記録から決定した.早期および後期死亡の予測関連因子の検出のため,参照カテゴリーとして生存状態を用いての多変量ロジスティック回帰解析を行った.

【結 果】
543例が登録され,平均年齢は66±15歳で合併症を有する率は高かった(67%).ICU死亡率と院内死亡率はそれぞれ37.2%と45%であった.死亡はICU(124例)および院内(42例)において,早期が78例(32%),後期が166例(68%)であった.早期死亡は,原因となる感染症に関連した治療困難な多臓器不全(82%)と腸管虚血(6.4%)が主要原因であった.ICU後期死亡は,29%がend-of-lifeの意思表示に直接関連したもので,その他のほとんどは,院内感染(20.4%),腸管虚血(16.6%)を含むICU関連合併症が関連していた.早期死亡の独立関連因子は,年齢,悪性疾患,糖尿病,病原体非検出,初期重症度であった.3日生存者における後期死亡の独立した危険因子は,年齢,肝硬変,病原体非検出,それまでのコルチコステロイド治療の曝露であった.

【結 論】
我々の研究は敗血症性ショック関連死亡の包括的な評価を示すものである.早期および後期死亡の危険因子の検出は異なった予後パターンを見出す可能性がある.

[PR]
by DrMagicianEARL | 2015-06-22 11:53 | 敗血症 | Comments(0)
※恐縮ですが今回は宣伝です

私も執筆させていただいた「敗血症性ショックの診療戦略―エキスパートの実践」(志馬 伸朗先生編集,医薬ジャーナル社)が5月22日より刊行となります.

敗血症性ショックに対する診療において,ガイドラインを超えたより踏み込んだ各病院ごとの具体的な工夫等,いわゆる「おいしいどこどり」な紹介本です.全部で20施設での具体的診療方法が掲載されています.共通するコアの部分+施設ごとに異なる治療戦略の比較は実に興味深いです.

私の病院は20施設の中で唯一,救急集中治療医がいない病院になりますが,その状況下でどのように工夫しているかが少し分かってもらえるかもしれません.
e0255123_20222584.gif

[PR]
by DrMagicianEARL | 2015-05-21 20:27 | 敗血症 | Comments(0)
■現時点で免疫グロブリン製剤が敗血症患者の死亡率を改善させるとするエビデンスは乏しいことはよく知られていて,SSCG 2012では推奨されていません.このため私も免疫グロブリン製剤はルーチンでは使用していませんが,一部の患者においては使用することがあります.私は敗血症性ショックの患者で,ICU入室時のIgGが低値で,かつ24時間以内に改善が乏しい患者において,積極的加療継続を希望されている場合に限り免疫グロブリン製剤を使用しています.実はIgG濃度が低値の敗血症患者での免疫グロブリン製剤の有効性を検討したRCTは1つもありません(なぜこれまで誰もやってないのか不思議なのですが・・・).よって,このような患者集団においては機序的に免疫グロブリン製剤の恩恵を受けうる可能性が残されているため,オプションとして残しています.

■もっとも,集中治療領域では,生体内で足りなくなったものを補充しても予後が改善しないという結果がRCTででたものは多数あり,ひょっとすると免疫グロブリン製剤もそうかもしれません.以下に紹介する論文ははたして生体内の免疫グロブリン濃度が低いと敗血症死亡率が増加するのかについて検証したメタ解析であり,結果は「そもそもIgG濃度が低くても死亡率は低下しない」という結果でした.正常値下限や計測方法のバラツキによるlimitationはありますが,私自身も考え方の修正を検討しなければならないなと感じました.
敗血症による重症患者の内因性IgG低γ-グロブリン血症:システマティックレビューとメタ解析
Shankar-Hari M, Culshaw N, Post B, et al. Endogenous IgG hypogammaglobulinaemia in critically ill adults with sepsis: systematic review and meta-analysis. Intensive Care Med 2015 May 14. [Epub ahead of print]
PMID:25971390

Abstract
【目 的】
血漿免疫グロブリン濃度は敗血症による重症患者においては急激に変化する.しかし,敗血症診断日の免疫グロブリン濃度と死亡の関連性は明らかではない.

【方 法】
救急領域において管理された敗血症成人患者において免疫グロブリン濃度と死亡率を報告した研究のシステマティックレビューを行った.主要曝露として低IgG血症,主要評価項目として急性期死亡率についてfixedおよびrandom effectモデルのメタ解析を行った.各研究について定義された両変数を使用した.

【結 果】
敗血症診断日の低免疫グロブリンG(IgG)血症の頻度は多様であった[58.3% (IGR 38.4-65.5%)].各研究で登録されたIgG濃度の下限の定義として3点のカットオフ値(6.1, 6.5, 8.7 g/L)を用いた.敗血症診断日の正常値以下のIgG濃度は,fixedおよびrandom effectモデルのメタ解析のいずれにおいても重症敗血症および敗血症性ショックの成人患者における死亡リスク増加とは関連していなかった(fixed model OR 1.32; 95%CI 0.93-1.87, random effect OR 1.48 95%CI 0.78-2.81).

【結 論】
本システマティックレビューはIgGの正常値下限が多様な不均一な敗血症コホートで報告されており,質に限界がある研究を抽出している.しかしながら我々のデータは,敗血症診断日の正常値以下のIgG値が死亡リスクのより高い患者集団を検出しないことを示唆しており,IgG値の最適なカットオフ値や時期を定義できるか否か,本知見の是非についてはさらなる研究が必要である.これは,敗血症に対する免疫グロブリン静脈内投与を受ける患者がIgG濃度を使用して層別化することができるかどうかを決定するであろう.

[PR]
by DrMagicianEARL | 2015-05-19 12:16 | 敗血症 | Comments(0)
■敗血症性ショックに対するPMX-DHPについてはフランスのABDOMIX studyと米国カナダのEUPHRATES studyがあるが,そのうちABDOMIXについては昨年3月23日にベルギーはブリュッセルで開催されたISICEMで既に報告があり,結果はネガティブであったことを既に知っておられる方も多いと思います(しかも数か月後には早々とRonco先生がCritical Care誌にPMX-DHPのレビュー論文をpublishした際に結果を書いてましたが).

■このISICEMでの報告から1年たってようやくIntensive Care Medicine誌にpublishされましたのでここに紹介します.対照群と有意差なしどころか有害ともとれないこともないデータです.Authorがどのような表現でConclusionsを書いてくるか興味がありましたが,AbstractはITT解析を重視した厳しめの表現となりました.limitationはあるものの,PMX-DHPの適応を考え直す必要はあるでしょう.

■それにしても,EUPHAS studyでは中間解析でのCox比例ハザード回帰でPMX-DHP群の方が死亡リスクが低かったために試験が中止となったのに対して,今回のABDOMIXはPMX-DHP群の方が死亡リスクが高いのによく中止にならなかったな,と思いました.
腹膜炎による敗血症性ショック患者に対するポリミキシンB血液浄化の早期使用(ABDOMIX study)
Payen DM, Guilhot J, Launey Y, et al; ABDOMIX Group. Early use of polymixin B hemoperfusion in patients with septic shock due to peritonitis: a multicenter randomized control trial. Intensive Care Med 2015 Apr.11 [Epub ahead of print]
PMID:25862039

Abstract
【目 的】
腹腔感染症からくる腹膜炎による敗血症性ショックにおいて,ポリミキシンBによる血液浄化(PMX-DHP)ファイバーカラムが死亡率と臓器不全を減少させるかを検討する.

【方 法】
本研究は,2010年10月から2013年3月までのフランスの18のICUにおいて,消化管穿孔に関連した腹膜炎に対する緊急手術後12時間以内の敗血症性ショック患者243例を登録した前向き多施設共同無作為化比較試験である.PMX-DHP群は標準治療に加えて,2回のPMX-DHPを施行された.主要評価項目は28日死亡率,副次評価項目は90日死亡率およびSOFAスコアに基づいた臓器障害の重症度の低下とした.

【結 果】
主要評価項目の28日死亡率は,PMX-DHP群(119例)で27.7%,標準治療群(113例)で19.5%,p=0.14であった(OR 1.5872, 95%CI 0.8583-2.935).副次評価項目の90日死亡率はPMX-DHP群で33.6%,標準治療群で24%,p=0.10(OR 1.6128, 95%CI 0.9067-2.8685),day 0から7でのSOFAスコアの減少はPMX-DHP群で-5(-11 to 6),標準治療群で-5(-11 to -9),p=0.78であった.事前に規定していたサブグループ(合併症,外科手術の適切性,PMX-DHP施行回数2回未満)やday 0から3のSOFAスコアの減少についても同様の結果であった.

【結 論】
本多施設共同無作為化比較試験で,腹膜炎による敗血症性ショックに対するPMX-DHPは,標準治療と比較して,有意ではない死亡率の増加を示し,臓器不全を改善させなかった.

1.PMX-DHP群で死亡率が高まった原因は?

■「PMX-DHPは死亡リスクを改善させないかもしれないが,血圧は上昇する」という印象をもっている人は多いと思われる.しかし,本ABDOMIXの結果は,統計学的有意ではないものの死亡率絶対差が7-8%と無視できない大きさである.この差がなぜ生じたかについてはサブ解析を見ると分かる.PMX-DHP群の32%にあたる38例がPMX-DHPを続行できず,そのうちの23例が凝固が原因であり,そのうち19例が1回目のPMX-DHP施行で凝固が生じていた.この続行不可能であった38例を除外したサブ解析ではPMX-DHP群の死亡率は18.5%となり,標準治療群の19.5%とほぼ同等となる.一方,PMX-DHPが続行できなかった38例の死亡率は47%と異常に高い.なぜこんなに死亡率が高まってしまったのか?

■ひとつは,試験が行われたのがフランスであるという点である.人種の差の検討も必要であるが,日本やイタリアと違い,PMX-DHPに慣れてない施設やスタッフも多かったのかもしれない.また,フランスではDICの治療は行われない.人工デバイスが入った状態でのDIC併発がなんらかの弊害をもたらしたのかもしれない.さらに,使用した抗凝固薬はヘパリンであり,これが敗血症病態において何らかの悪影響を及ぼした可能性も否定できない(本邦ではメシル酸ナファモスタットが一般的である).これらの要因が重なり,PMX-DHPが続行不可能となった症例では死亡率が5割近くまで高まったのかもしれない.だが,いずれにせよ,これらの症例を除外しても,死亡率の改善は示せていないことになる(敗血症性ショックの死亡率が20%を切ってくると有意差をもって死亡率を改善させた介入はRCTレベルでは現時点では存在しない).おそらく,PMX-DHPについて言及するガイドラインでは今後推奨度は本研究結果を受けて下がる可能性がある.

2.これまでの知見

■PMX-DHP(polymyxin B-immobilized fiber column-direct hemoperfusion)はエンドトキシン吸着カラムのトレミキシン®(東レメディカル)を用いた日本発の血液吸着療法であり,敗血症に適応がある.2010年に報告された大規模RCTであるEUPHAS studyでは結果はポジティブであるとされたが,試験がCox比例ハザード回帰解析結果で早期終了されていること,死亡率に有意差がないこと,腹腔内感染症による敗血症にしては対照群の死亡率が高すぎることなどの問題点が多数指摘され,EUPHASを含め,PMX-DHPが敗血症の死亡率を改善するとするRCTレベルのエビデンスはなく,血圧上昇効果についてもエビデンスは明確ではなかった.

■詳細について本ブログではPMX-DHPについてのまとめの記事を2013年にアップしているので参照されたい.

敗血症とエンドトキシン計測&PMX-DHP(2) ~PMX-DHPは敗血症の予後を改善しうるか?~
http://drmagician.exblog.jp/20996440/

3.今後のRCT

■PMX-DHPについては,現在米国カナダでEUPHRATESが行われている.本試験は,エンドトキシン血症(EA値≧0.6)を伴う敗血症性ショック患者を対象とし,標準治療+PMX-DHP群と標準治療群を比較した米国・カナダ42施設共同二重盲検RCTである.

■さらに,スイスでもENDOX study(pilot RCT)が開始されている.この研究はAN69ST(SepXiris®)のカラムの電荷を少し変えてエンドトキシンを効率よく除去できるようにしたoXirisというカラムを用い,このoXiris群,PMX-DHP群,標準治療群を比較した3アームのRCTである.この結果でPMX-DHPが優位性を示せなければ,コスト面も考慮すると優先順位は下がることになるかもしれない.
[PR]
by DrMagicianEARL | 2015-04-21 16:41 | 敗血症 | Comments(1)
ANZICSの敗血症コホートデータの解析で,SIRS基準の妥当性について検討した研究がNEJM誌に報告されたので紹介します(個人的にはなぜこの論文がNEJM誌でアクセプトされたのかちょっと疑問).SIRS基準では8人に1人の重症敗血症を見逃してしまうという結果ですが,感度87.9%というのがそれほど悪いのかというと疑問です.敗血症診療に不慣れな医療スタッフにとっては重要かつ簡便なスクリーニングツールであることには変わりないと思いますし,実際に臓器不全等あればそれなりに重症感染症として初期対応するでしょうから,今後の診療に影響を与えるようなエビデンス,というわけではない気がします.もっともSIRS基準該当項目が増すごとに死亡率が高まることはこれまでも報告がありましたので,それほど目新しいことではない?
重症敗血症を定義する上での全身性炎症反応症候群(SIRS)基準
Kaukonen KM, Bailey M, Pilcher D, et al. Systemic Inflammatory Response Syndrome Criteria in Defining Severe Sepsis. N Engl J Med 2015 March 17 online first

Abstract
【背 景】
重症敗血症のコンセンサスが得られた定義では,感染が疑われるもしくは確定していて,臓器障害を有し,全身性炎症反応症候群(SIRS)の基準を2つ以上満たしていることが必要である.我々はこのアプローチの感度,表面的妥当性,構成概念妥当性を検討することである.

【方 法】
2000年から2013年までのオーストラリアおよびニュージーランドにおける172の集中治療室の患者データで検討した.感染症および臓器障害を有する患者を検出し,SIRS基準を2つ以上満たした群(SIRS陽性重症敗血症)とSIRS基準が2つ未満の群(SIRS陰性重症敗血症)に分類した.我々はこれらの特性とアウトカムを比較し,2つのSIRS基準という閾値での死亡リスクの段階的増加があるかについて評価した.

【結 果】
1171797例の患者のうち,109663例が感染症と臓器障害を有していた.そのうち,96385例(87.9%)がSIRS基準陽性重症敗血症であり,13278例(12.1%)がSIRS陰性重症敗血症であった.14年の期間において,両群とも背景は同等で,死亡率も変化していた(SIRS陽性群:36.1%[829/2296例]から18.3%[2037/11119例],p<0.001 / SIRS陰性群:27.7%[100/361例]から9.3%[122/1315例],p<0.001).加えて,この傾向はベースラインの背景因子で調整後も維持されていた(SIRS陽性群OR 0.96; 95%CI 0.96-0.97,SIRS陰性群OR 0.96; 95%CI 0.94-0.98; 両群間比較p=0.12).調整解析において,SIRS基準2つの閾値においていかなる過渡的に増加することなく,各SIRS基準が増すごとに死亡リスクは線形に増加していた(OR 1.13; 95%CI 1.11-1.15; p<0.001).

【結 論】
重症敗血症を定義する上でSIRS基準2つ以上を必要とすることは,感染,臓器不全,死亡率が同等である患者であるにもかかわらず8人に1人を除外してしまうことになり,死亡リスクにおける転移点を定義することはできない.

[PR]
by DrMagicianEARL | 2015-03-24 20:52 | 敗血症 | Comments(0)
2014年3月の米国によるProCESS trial,2014年10月のANZICSによるARISE trialに引き続き,EGDTを検証した最後の大規模RCTである英国のProMISe trialがNEJMにonline publishされました.ProCESS,ARISEの流れでもうお分かりだと思いますが結果はネガティブ.はたしてRiver's EGDTプロトコルの検証はこれで決着がついた,とすべきでしょうか?
敗血症性ショックに対する早期の目標指向型蘇生の試験(ProMISe trial)
Mouncey PR, Osborn TM, Power GS, et al; ProMISe Trial Investigators. Trial of Early, Goal-Directed Resuscitation for Septic Shock. N Engl J Med 2015, March 17

【背 景】
早期目標指向型治療(EGDT)は早期の敗血症性ショックの患者の蘇生治療として国際ガイドラインで推奨されている.しかし,適応は限られており,その有効性については不明確なままである.

【方 法】
我々は英国56施設で統合費用対効果分析を用いた実際的無作為化試験を行った.患者はEGDT群(6時間の蘇生プロトコル)と標準治療群に無作為に割り付けられた.主要評価項目は90日全死亡率とした.

【結 果】
1260例が登録され,630例がEGDT群に,630例が標準治療群に割り付けられた.90日時点で,EGDT群では623例中184例(29.5%)が,標準治療群では620例中181例(29.2%)が死亡し(EGDT群の相対リスク 1.01; 95%CI 0.85-1.20; p=0.90),EGDT群の絶対リスク減少は-0.3%であった.EGDT群の治療強化の増加は輸液量,循環作動薬,赤血球輸血,明らかな臓器障害スコアの悪化による難治性,より強化された心血管系支持治療の受ける日数,ICU滞在日数を増加させていた.他の副次評価項目は,健康関連QOLや深刻な有害事象を含め,すべて有意差がなかった.平均すると,EGDTはコストを増加させ,それが費用効果的である確率は20%未満であった.

【結 論】
早期に診断され,抗菌薬投与を受け,適切な輸液蘇生を受けた敗血症性ショック患者においては,厳密なEGDTプロトコルによる循環動態管理はアウトカムを改善させなかった.
1.本結果の解釈

■本ブログではProCESS[1],ARISE[2]発表後も繰り返しEGDTを否定すべきではないと主張しており,今回のProMISeがでてもその姿勢は変わらない.この研究結果は簡単にはネガティブととらえられない背景がある.

■3つのRCTは以前までの敗血症性ショックのRCTに比して非常に低い死亡率となっており,対照群である通常治療の死亡率の低さは循環管理に長けた救急集中治療医のスキルによって担保されている.この対照群と同等以上の医療介入が可能ならばEGDTは行わずともよいが,集中治療医がいない施設ではそうはいかないと思われる(そういう施設ではPiCCOやEV1000などの便利なモニターを持っていることはむしろ稀であり,乳酸値すら計測できない施設も多い).いずれの研究もEGDTが死亡率を改善させなかっただけで悪化させたわけではなく,逆に考えればEGDTプロトコルを用いることで救急集中治療医管理による通常治療と同等の治療成績が出せるととらえることもでき,循環管理に不慣れな施設においてはむしろ推奨されるべきプロトコルと思われる(そういう意味では私はこの3つのRCTをポジティブととらえている).EGDTの採用をやめるか継続するかは施設の治療レベル,主治医やスタッフのスキルに合わせて慎重に判断すべきである.

2.ProCESS,ARISE,ProMISeの比較とメタ解析

■以下では3つのRCTの症例数,重症度(APACHEⅡスコア),90日死亡率,6時間輸液量を比較した.ProCESSはEGDT群と通常治療群以外に標準プロトコル群というアームがあったが,ARISEにはないため,標準プロトコル群を除いて比較した.見ても分かる通り,重症度と死亡率,輸液量が見事な相関を示している.各自の施設との比較において非常に参考になると思われる.
e0255123_204266.png
■River'sら[3]のRCTを加えた4報4018例のメタ解析(R使用)を行った結果は以下の通りである.random effect modelでOR 0.93, 95%CI 0.73-1.19であり,統計学的有意差はみられなかった.
e0255123_2123315.png


3.EGDTに代わる敗血症性ショック治療戦略はあるか?~PLR,呼吸性変動,TPTD,UCG~

■EGDTプロトコルが標準治療と治療成績が同等となると,敗血症全体の治療成績を上げるためには別のプロトコルが必要となる.

■現在,River's EGDTプロトコルにない評価方法で多くの施設で使用されているのは乳酸値のモニタリングであろう.実際,ScvO2を乳酸値より重要視する救急集中治療医は多い.敗血症患者以外も含む高乳酸血症をきたしたICU患者を対象として,EGDT群と,乳酸値を指標にしたプロトコルを作成してEGDTに組み込んだEarly Lactate-Guided Therapy(ELGT)治療群を比較したRCTであるLACTATE study[4]では,ELGT群の方がSOFA score,死亡率を改善させており,サブ解析では死亡率改善は特に敗血症患者において顕著であったとしている.また,Jonesら[5]は,重症敗血症,敗血症性ショックの患者300例を対象として,EGDTでの初期蘇生目標をScvO2≧70%とする群と乳酸クリアランス≧10%/2hrを目標にする群で比較したRCTを報告しており,院内死亡率は23% vs 17%で統計学的有意差はみられなかった.

■その他では,小規模のRCTで各種輸液モニタリングの検討がなされており,いくつか有用な候補はあるものの,決定打となるような試験はない.現実的には複数の手段を用いて判断するのがbetterであろうか.

■PLR(Passive Leg Rising:受動的下肢挙上)は,高頭位から下肢挙上位にして下肢からの血流が心臓に還流することにより1回拍出量増加が認められれば輸液反応性があると評価する方法である.PLRは300-500mLの輸液ボーラス投与に相当するとされる.この評価方法の利点は,人工呼吸中だけでなく自発呼吸下でも測定ができ,TPTDが苦手とする心房細動を有する患者においても有用で非侵襲的である.Cavallaroら[6]は,PLRを検討した研究9報353例のメタ解析を行い,PLRの輸液反応性指標としての感度は89.4%,特異度は91.4%,AUROC 0.95という精度であった.

■フロートラックセンサーやPiCCOなどを用いて1回拍出量の呼吸性変動(SVV)や脈圧の呼吸性変動(PPV)をモニタリングする方法がある.Marikら[7]は,29報685例のメタ解析を行い,PPVの輸液反応性の指標としてのAUROCは0.94,SVVでは0.84であった.しかし,SVVやPPVは,心房細動や心室性期外収縮が多発している状況では使用できないこと,陽圧換気かつ自発呼吸がないこと,1回換気量によって変化してしまうことなど,かなり制約が多い.

■近年,PiCCOやEV1000といったTPTD(経肺熱希釈法:transpulmonary thermodilution)を用いた循環動態モニタリングが検討されている.Trofら[8]は,PiCCOを用いて成人ショック患者120例(敗血症性ショック72例)に対するTPTDと肺動脈カテーテルを比較したRCTを行ったが,死亡率に有意差はなく,人工呼吸器装着日数,ICU滞在日数,入院期間がTPTD群の方が有意に長かった.敗血症患者に限定したサブ解析では,すべてのアウトカムで有意差はみられなかった.Zhangら[9]も,敗血症性ショックかつ/またはARDSの輸液管理においてPiCCOとCVPを比較したRCTを行ったが,28日死亡率やその他アウトカムに有意差なく,715例を集める予定であったが360例で中止となっている.

■本邦では現在,18歳以上の人工呼吸器装着を要する敗血症患者で,輸液管理をTPTD(EV1000)で行う群とCVPで行う群を比較した16施設共同のオープンラベルRCTであるTPTD study[10]が行われている.主要評価項目は28日間におけるCVPとTPTDを用いた管理成功期間(人工呼吸器非使用期間),副次評価項目は28日間生存率,ICU滞在期間,3日間の水分出納バランスであり,2015年10月31日に終了予定となっている.

■心臓超音波は古くから輸液管理における手段として用いられてきた.しかしながらRCTはほとんどなく,再現性が困難であったり,肥満患者や開腹術後の患者,腹腔内圧の患者では指標として用いにくい.経食道超音波を継続的にモニタリングした小規模RCTは存在するが,死亡率の検討はなされておらず,そもそも経食道超音波検査を継続的に使用するのは現実的には難しい.個人のスキルによる部分も大きく,プロトコルで,というよりは標準治療としてのツールで用いられているものであろう.

[1] Early goal-directed therapy in the treatment of severe sepsis and septic shock. N Engl J Med 2001; 345: 1368-77
[2] ProCESS Investigators, Yealy DM, Kellum JA, Huang DT, et al. A randomized trial of protocol-based care for early septic shock. N Engl J Med 2014; 370: 1683-93
[3] ARISE Investigators; ANZICS Clinical Trials Group, Peake SL, Delaney A, Bailey M, et al. Goal-directed resuscitation for patients with early septic shock. N Engl J Med 2014; 371: 1496-506
[4] Jansen TC, et al. Early lactate-guided therapy in intensive care unit patients: a multicenter, open-label, randomized controlled trial. Am J Repir Crit Care Med 2010; 182: 752-61
[5] Jones AE, Shapiro NI, Trzeciak S, et al; Emergency Medicine Shock Research Network (EMShockNet) Investigators. Lactate clearance vs central venous oxygen saturation as goals of early sepsis therapy: a randomized clinical trial. JAMA 2010; 303: 739-46
[6] Cavallaro F, Sandroni C, Marano C, et al. Diagnostic accuracy of passive leg raising for prediction of fluid responsiveness in adults: systematic review and meta-analysis of clinical studies. Intensive Care Med 2010; 36: 1475-83
[7] Marik PE, Cavallazzi R, Vasu T, et al. Dynamic changes in arterial waveform derived variables and fluid responsiveness in mechanically ventilated patients: a systematic review of the literature. Crit Care Med 2009; 37: 2642-7
[8] Trof RJ, Beishuizen A, Cornet AD, et al. Volume-limited versus pressure-limited hemodynamic management in septic and nonseptic shock. Crit Care Med 2012; 40: 1177-85
[9] Zhang Z, Ni H, Qian Z. Effectiveness of treatment based on PiCCO parameters in critically ill patients with septic shock and/or acute respiratory distress syndrome: a randomized controlled trial. Intensive Care Med 2015; 41: 444-51
[10] 敗血症治療における経肺熱希釈法の併用に関する研究(TPTD study).UMIN000011493
[PR]
by DrMagicianEARL | 2015-03-17 23:15 | 敗血症 | Comments(0)
CQ8.血糖コントロール
CQ8-1.強化インスリン療法(目標血糖値80-110mg/dL)を行うか?

CQ8-2.目標血糖値はいくつにするか?

CQ8-3.血糖測定はどのような機器を用いて行うか?

CQ9.栄養管理
CQ9-1.経腸栄養と静脈栄養のどちらを優先するか?

CQ9-2.経腸栄養をいつ始めるか?

CQ9-3.経腸栄養の至適投与エネルギー量は?

CQ9-4.経静脈栄養をいつ始めるか?

CQ9-5.経静脈栄養の至適投与エネルギー量は?
 CQ9-1がどのような推奨になるかに注目している.EPaNIC trialでは経腸栄養が有用,Swiss SPN studyでは経静脈栄養併用が有用との結果で激論が交わされている.そのような中,最新の研究である大規模RCTのCALORIES trialでは経腸栄養と経静脈栄養とで死亡率に有意差はなく,低血糖や嘔吐は経腸栄養群の方が多く,感染症合併率に有意差はないという結果であり,この研究をもって経腸栄養をやめる施設はあまりないであろうが,エビデンス上はどのような扱いとなるかである.この部分については先に日本集中治療医学会より栄養管理のガイドラインが発表される予定であり,新たな研究結果がでない限りそれを踏襲する形になると思われる.

 今回,免疫栄養がCQから姿を消した.大規模RCTであるREDOXS study,MetaPlus studyによって免疫栄養はむしろ有害事象を増加させる可能性を指摘された.その一方でn-3系多価不飽和脂肪酸を豊富に含んだ脂肪乳剤に関してはICU Lipid studyでポジティブな結果であった.ただし,いずれも日本の環境にそぐわない(栄養剤が異なる,グルタミンの投与量が非常に多い上に静脈投与している,魚油由来の脂肪乳剤を用いている)ため,現時点では日本において何らかの推奨は出しにくいと思われる.
CQ10.ステロイド
CQ10-1.敗血症性ショック患者にステロイドの投与を行うか?

CQ10-2.ステロイドの投与時期は早期投与か晩期投与か?

CQ10-3.ステロイドの至適投与量,投与期間は?

CQ10-4.どの種類のステロイドを投与するか?

CQ10-5.小児の敗血症患者に対するステロイド投与の適応と有効性は?
 ステロイドに関しては目立ったエビデンスの変化はないと思われる.この部分については,ANZICSが開始した,大規模RCTのADRENAL studyを待つことになる.本研究は登録予定患者数が敗血症研究史上最大の3800例を予定されており,ステロイド療法に決着がつくかもしれない.
CQ11.DIC対策
CQ11-1.敗血症性DICの診断を急性期DIC診断基準で行うことは有用か?

CQ11-2.敗血症性DICにリコンビナントトロンボモデュリンは有用か?

CQ11-3.敗血症性DICにアンチトロンビンの補充は有用か?

CQ11-4.敗血症性DICにタンパク分解酵素阻害薬は有用か?

CQ11-5.敗血症性DICにヘパリン,ヘパリン類は有用か?

CQ11-6.凝固異常改善を目的とした新鮮凍結血漿投与を行うか?

CQ11-7.敗血症において赤血球輸血はいつ開始するか?

CQ11-8.重症敗血症に対して血小板輸血を行うか?
 DIC以外の範囲までをカバーした内容になっているが,赤血球輸血に関しては循環管理においても取り上げられており,混乱しないだろうか?
CQ12.AKI・急性血液浄化療法
CQ12-1.敗血症においてAKI診断・重症度分類は予後予測に有用か?

CQ12-2.敗血症性AKIに対する腎代替療法(RRT)の早期導入を行うか?

CQ12-3.敗血症性AKIに対する血液浄化法は持続,間歇のどちらが推奨されるか?

CQ12-4.敗血症性AKIに対して血液浄化量を増やすことは有用か?

CQ12-5.敗血症性ショック患者に対してPMX-DHPの施行は推奨されるか?

CQ12-6.重症敗血症患者に腎補助以外の目的で血液浄化を行うか?

CQ12-7.敗血症性AKIの予防・治療目的に薬物治療は推奨されるか?
 注目すべきはPMX-DHP,non-renal indication(とりわけAN69ST(SepXiris®))であろう.PMX-DHPについては既に昨年の国際救急集中治療学会においてABDO-MIX studyの結果が発表されている.死亡率はITT解析で27.7% vs 19.5%(p=0.1391),PP解析で26.7% vs 19.5%(p=0.1931)となっており,有意差はないもののPMX-DHP群で7-8%ほど死亡率が高い傾向がみられている.これに関してはPMX-DHP続行不能症例(PMX-DHP群の32%が該当,死亡率47%)がPMX-DHP群の死亡率を大きく引き上げており,原因は明らかにされていない.しかし,このABDO-MIXが論文化されれば本ガイドラインにエビデンスとして採用されることになり,逆風になると思われる.

 また,余談ではあるが,現在スイスでもEndox studyが開始されている.この研究はAN69STのカラムの電荷を少し変えてエンドトキシンを効率よく除去できるようにしたoXirisというもので,このoXiris群,PMX-DHP群,標準治療群を比較した3アームのRCTである.この結果でPMX-DHPが優位性を示せなければ,コスト面も考慮すると優先順位は下がることになるかもしれない.
CQ13.免疫グロブリン
CQ13-1.敗血症患者に対する免疫グロブリン投与を行うか?
 RCT全体のメタ解析ではポジティブ(ただし,N数が最も多い本邦のRCTの研究デザインは質が低い),質の高いRCTのメタ解析ではネガティブ,その後に報告された大規模RCTのSBITSもネガティブという結果であった.ただし,SSCGが発表されて以降の大規模RCTでの検証はない.これについては近年,日本救急医学会,日本集中治療医学会からSepsis Registryデータの多変量ロジスティック回帰解析,Propensity Score Matching解析などが試みられ,免疫グロブリンが死亡率を改善させている可能性が示唆されている.ただし,本結果はいまだpublishされていないことに加え,第42回日本集中治療医学会での委員会報告を見る限りデータクリーニング不十分でデータそのものの信頼性に問題があると思われ,現時点でエビデンスとして組み込むことは好ましくないと思われる.
CQ14.鎮痛鎮静
CQ14-1.成人の重症敗血症患者に対し,鎮痛を優先させる管理を行うか?

CQ14-2.成人の重症敗血症患者に対し,1日1回覚醒させる鎮静管理または浅めの鎮静深度を維持する鎮静管理を行うか?

CQ14-3.成人の重症敗血症患者において,せん妄の早期診断と介入を行うか?
 今回新たにPADが加わった.PADガイドライン以降,敗血症に関して新たなエビデンスは出ていないため,既出のガイドラインを踏襲することになると思われる.
CQ15.PICS,ICUAW
CQ15-1.ICUAWの予防に電気筋刺激を行うか?

CQ15-2.PICS/ICUAWの予防に早期リハビリテーションを行うか?
 今回新たな項目として長期機能予後やQOLにかかわるPICS(post-intensive care syndrome),ICU患者に生じる原因不明の麻痺であるICUAW(ICU-acquired weakness)が追加された.現時点ではこれらに対する介入として質の高いエビデンスはない.今後,PICS/ICUAWの周知,研究推進などがなされていくだろう.
CQ16.体温管理
CQ16-1.発熱した敗血症患者に解熱療法は有用か?

CQ16-2.低体温の敗血症患者は復温させるか?
 本項目も新たに追加となった領域である.敗血症では低体温は予後が悪いこと,FACE studyで示された解熱療法が有害である可能性等から,体温管理について何らかの言及が必要であろう.日常診療において高熱があれば解熱薬で下げなければならないという誤解は払拭されるべきである.
CQ17.小児
CQ17-7.小児患者では小児用血液培養ボトルを使用するか?

CQ17-8.小児敗血症性ショックに対する循環作動薬はどのようにするか?

CQ17-9.小児敗血症患者の循環管理の指標としてのCRTの使用は用いるか?

CQ17-10.小児敗血症患者の循環管理の目標としてScvO2またはLactateを用いるか?

CQ17-11.小児敗血症患者の目標ヘモグロビン値はどうするか?

CQ17-12.小児敗血症患者に対するステロイド投与は有用か?

CQ17-13.腎補助以外の目的で血液浄化療法を行うか?

CQ17-14.小児敗血症患者に対する免疫グロブリン療法は有用か?

CQ17-15.小児敗血症患者の目標血糖値はどのようにするのか?

CQ17-16.小児敗血症性ショックの管理にACCM-PALSアルゴリズムは有用か?

CQ17-17.小児敗血症性ショックの管理に輸液および循環作動薬の一時的投与経路として骨髄路の使用はするか?

CQ.敗血症の定義と診断に関する総論的な記述内容
CQ1-1.敗血症の定義は?

CQ1-2.敗血症の重症度分類は?

CQ17-1~6.小児患者で敗血症・重症敗血症・敗血症性ショックの診断をどのように行うか?
CQ17-1.現行の定義の妥当性の評価
CQ17-2.感染症(可能性を含む)+SIRSでよいか?
CQ17-3.SIRSを採用するとき,4項目中2項目でよいか?
CQ17-4.SIRS項目の心拍数と呼吸数は現行の基準でよいか?
CQ17-5.重症敗血症の臓器障害基準を小児用に設定する必要があるか?
CQ17-6.敗血症性ショックの基準としての低血圧基準をどうするか?



日本版重症敗血症診療ガイドライン2016 CQ案パブリックコメント募集(1)

[PR]
by DrMagicianEARL | 2015-03-09 19:04 | 敗血症 | Comments(0)
■日本版敗血症診療ガイドライン(日本集中治療医学会作成)が2012年に作成・発表されています.このガイドラインは,システマティックレビューに基づいた厳密なガイドラインというわけでもなく,様々な問題点の指摘もあったのも事実です.このガイドライン委員会はすでに解散となっておりますが,今回,藤田保健衛生大学の西田修先生を委員長として,日本集中治療医学会と日本救急医学会の両学会から選出された委員(コアメンバー)とワーキンググループメンバーの総勢71名で構成される「日本版重症敗血症診療ガイドライン2016作成特別委員会(JAPAN SEPSIS 2016)」が設置され,2016年内の初版の改訂版の公開を目指して2014年夏から活動を開始しています.

■本日3月5日より,この日本版重症敗血症診療ガイドライン2016のClinical Question(案)がまとまり,パブリックコメントの募集が開始となりました.今回は私も2つの領域のワーキンググループメンバーとして参加しております.皆様の忌憚なき御意見を賜れれば幸甚です.
「日本版重症敗血症診療ガイドライン2016」
クリニカルクエスチョン案 パブリックコメント募集のお知らせ

期間:2015年3月5日(木)から3月31日(火)【必着】
http://www.jsicm.org/jyusyo_haiketu2016.html

■以下では本ガイドラインCQ案について書いていきます.

1.本改訂について

■今回の改訂は改訂というよりも一から作り直しに近い.MINDsのGUIDEシステムトライアルに参加し,MINDsからの支援を受けて作成を行っている.また,各項目領域のワーキンググループメンバーとは別に,どの領域にも属さない独立したグループであるアカデミックガイドライン推進班を立ち上げており,このグループは各ワーキンググループへの監査,ガイドライン全体としての一貫性をもたせるための調節の役割を担っている.また,相互査読制度を取り込み,全メンバーで自分の担当項目以外の項目の匿名査読評価を行うシステムを導入している.作成・議論等はすべて各ワーキンググループごとのメーリングリスト上で行い,コアメンバーとアカデミックガイドライン推進班がROMしている.2014年夏頃より活動を開始し,2016年日本集中治療医学会学術集会でドラフト発表,その後パブリックコメント募集を経て完成版を発表する.また英文化も予定している.

■本ガイドラインの各項目はIntroduction,CQ(Clinical Question),Answer,根拠で構成され,そのうちのCQを今回作成している.CQは18領域,全88項目で,初版にあった「蛋白分解酵素阻害薬」が削除となり(このためシベレスタット(エラスポール®),ウリナスタチン(ミラクリッド®)の名前はCQ案にはない),「感染巣に対する処置」「鎮痛鎮静」「体温管理」「PICS/ICUAW」「小児」が新たに追加となっている.

■2014年8月末より各ワーキンググループでCQ作成作業を開始した.CQはガイドラインの最重要部分であり,CQによって扱う内容,重要度,作成仕事量などが決定される,いわば骨組の役割となるため,この部分の作成は念入りに行う必要がある.CQの作成は,まずPICO(P:対象,I:介入,C:対照,O:アウトカム)を決定し,各アウトカムごとにシステマティックレビューを行う.たとえばアウトカムが3つ(死亡率,ICU在室日数,副作用)があればシステマティックレビューも3つ行う.これはGRADEシステムと同様の手法である.海外ではシステマティックレビューを行うサービスがあるが日本にはなく,ワーキンググループメンバーが日常診療を行いながらシステマティックレビューを行わなければならず,仕事量と時間的制約は厳しい.よって,SSCG 2012以降に新たな知見がない場合はSSCG 2012を踏襲し,新たに知見がでている場合に限りシステマティックレビューを行う.

■まず,各ワーキンググループがCQを作成し,一方でアカデミックガイドライン推進班がSSCG 2012や日本版初版のCQ項目,2012年以降に出た質の高いRCTなど(約100文献)を検索してまとめて各ワーキンググループに提示し,1回目のCQ改訂作業を行った.改訂したCQについて,今度は自分の担当していない他の項目のCQを匿名査読する作業をガイドラインメンバー全員で行い,その結果を各ワーキンググループに提出し,2回目のCQ改訂作業を行った.そしてコアメンバーによる委員会で各委員がCQを発表し,討議の上採用可否を決定した.今回,パブリックコメント募集直前の最終調整を経たものが公開されたCQ案であり,ここまで6カ月間の議論を重ねてきたものである.

2.Clinical Question

■以下では各CQと私が個人的に気になった点を挙げている.
CQ1.敗血症の診断と定義

CQ1-3.敗血症診断にバイオマーカーを用いるのは有効か?

CQ1-4.重症敗血症診断に日々のルーチンスクリーニングは有用か?
 ここでのバイオマーカーはCRP,プロカルシトニン,プレセプシン,IL-6などが挙げられている.しかし,これらのうちどれが精度が高いかについて論じるのは難しい.現在敗血症では200近いバイオマーカーが研究されているが,現時点では高い確実性をもったバイオマーカーはない.また,現時点で敗血症診断にゴールデンスタンダードは存在しないため,バイオマーカーの精度評価そのものが困難となっていることを留意しておく必要がある(何をもって敗血症と診断したかの研究デザイン次第で精度が変わりうる).ここ3年間で新たな研究が複数報告されているものの現状は変わらないと推察される.

 日々のルーチンスクリーニングはとりわけ敗血症診療に慣れていない施設では威力をおおいに発揮すると推察される.当院も敗血症診療に不慣れであったが,SIRS基準を徹底しただけでその早期診断率と治療成績が飛躍的に向上している.もっともSIRS基準を意識することで,患者のバイタルで特にどのような変化を重視するのかの認識や,呼吸数をちゃんと計測することなどの副次的メリットも大きいと思われる.SSCG 2012では「敗血症の早期発見と早期治療を行うために,感染症の可能性のある重症患者にルーチンで重症敗血症のスクリーニングを実施することを推奨する(Grade 1C)」としている.
CQ2.感染症の診断
CQ2-1.血液培養はいつどのように採取するか?

CQ2-2.血液培養以外の培養検体は,いつ何をどのように採取するか?

CQ2-3.グラム染色は培養結果が得られる前の抗菌薬選択に有用か?
 血液培養に関しては,敗血症であれば必ず採取すべきであるが,本CQ2-1では対象が「敗血症患者」ではなく「菌血症を疑う患者」となっているのはどう解釈すればよいのだろうか?感染症という観点では,例えば髄膜炎や腎盂腎炎等では必須とされているが,肺炎では全例で血液培養を施行することは陽性率やコストを考慮するとルーチンで行う必要はないとする報告も複数ある.菌血症を効率よく見つけるタイミングに関しては現時点ではゴールデンスタンダードはない.発熱時に採取すべきとの意見はよく聞かれるが,エビデンス上は発熱時に採取してもその陽性化率が特段変わるわけではないとされている.

 グラム染色については,海外文献ではその有用性が否定されているため,システマティックレビューを行うとその精度は高くないだろう.しかし,注意すべきはこれらの報告はグラム陽性か陰性か,球菌か桿菌かの4パターンしか見ておらず,極めて雑な報告ばかりで,これをもって有用性を否定すべきではないと思われる.肺炎球菌,インフルエンザ菌,ブドウ球菌,腸球菌,アシネトバクターなどはグラム染色で判断可能となりうる菌であり,抗菌薬選択において重要なツールとなりうると推察される.今回のガイドラインでは,エビデンスレベルは低いが強く推奨するという内容になるだろうか?
CQ3.抗菌薬治療
CQ3-1.有効な抗菌薬治療を1時間以内に開始するか?

CQ3-2.重症敗血症の経験的抗菌薬治療において併用療法は推奨されるか?

CQ3-3.どのような場合に抗カンジダ薬を開始すべきか?

CQ3-4.βラクタム剤の持続投与または投与時間の延長は行うか?

CQ3-5.抗菌薬のディエスカレーションは推奨されるか?

CQ3-6.抗菌薬はどのような基準で中止したらよいか?
 コアとなる抗菌薬領域であるが,今回抗カンジダ薬の扱いが追加となっている.敗血症の原因菌別でみると,カンジダ血症は最も死亡率が高いとする報告が過去にあり,また,カンジダ自体が鑑別からはずれてしまうことも日常診療上よく見かける.近年,β-D-グルカンの有用性の報告も相次いでいること,本邦で進められたACTIONs BUNDLEでも良好な結果が得られていることを考慮すれば,CQにカンジダに関する内容が明記されたことはしごく妥当と思われる.
CQ4.画像診断
CQ4-1.感染巣制御のために画像診断は行うか?

CQ4-2.感染巣が不明の場合,早期(造影・全身)CTは有用か?

CQ5.感染巣に対する処置
CQ5-1.腹腔内感染症に対する感染源のコントロールはどのように行うか?

CQ5-2.感染性膵壊死に対する感染源のコントロールはどのように行うか?

CQ5-3.感染源を血管カテーテルと判断して早期に抜去することが推奨されるのはどのような場合か?

CQ5-4.急性腎盂腎炎に対する感染源のコントロールはどのように行うか?

CQ5-5.壊死性軟部組織感染症に対する感染源のコントロールはどのように行うか?
 初版にはない新たな項目として追加になった領域であるが,すべて各論的な内容となっている.総論的内容はIntroductionで触れるということであろうか?SSCG 2012では「緊急のsource controlが必要な解剖学的に特異な感染巣の検索を行い,可能な限り速やかな診断/除外がなされ,可能なら診断後12時間以内にsource controlを行う」としており,これはCQとして含めてもよかったのではないか?と思われる(敗血症に不慣れな施設ではこれが常識として認識されているわけではない).
CQ6.初期蘇生と循環作動薬
CQ6-1.初期蘇生にEGDTを用いるか?

CQ6-2.初期輸液として晶質液,人工膠質液のどちらを用いるか?

CQ6-3.輸液療法としてアルブミンを用いるか?

CQ6-4.初期輸液の輸液反応はCVP,SVV,心エコーのどれを指標にするか?

CQ6-5.第一選択としてノルアドレナリンを使用するか?

CQ6-6.ノルアドレナリンの昇圧効果が十分でない場合,アドレナリンを使用するか?

CQ6-7.心機能不全に対してドブタミンを使用するか?

CQ6-8.初期蘇生の指標としてScvO2,Lactateは有用か?

CQ6-9.初期蘇生におけるHbの目標値は?
 今回の改訂で私も一番注目している項目である.2つの大規模RCTであるProCESS,ARISEでEGDTプロトコルは標準治療と比較して死亡率に有意差がなかった.この結果をネガティブととらえるか否かだが,非救急医,非集中治療医でも標準レベルの敗血症治療ができるようにするという目的も持っているのがガイドラインであり,標準治療の治療成績が管理に慣れている救急集中治療医によって担保されていることを考えれば,EGDTプロトコルによって救急集中治療医の循環管理と同等の治療成績がだせるととらえることもでき,推奨されるべきものだと考える.

 CQの各項目を見るにバソプレシンへの言及がないのはなぜであろうか?もっとも日本ではあまりバソプレシンは好まれていないようではあるが,それなりにRCTは出されている.
CQ7.呼吸
CQ7-1.人工呼吸中の敗血症患者の一回換気量の目標値はどうするか?

CQ7-2.人工呼吸中の敗血症患者の気道内プラトー圧の目標値はどうするか?

CQ7-3.敗血症性ARDSにおいて高め(≧12cmH2O)のPEEPを用いるか?

CQ7-4.人工呼吸中の敗血症患者の適切な体位は?

CQ7-5.敗血症性ARDSに対する輸液過剰は有用か?
 CQ7-4での体位は「頭高位か仰臥位か」の比較であって,PROSEVA trialで有意に死亡率を改善させたとする腹臥位療法がCQに含まれていない(SSCG 2012では推奨あり).これに関してはメタ解析も複数でている.CQ採用されなかったのは,慣れていない施設ではむしろ危険な手技であるから,というスキル上の問題点をはらむからかもしれない.


→日本版重症敗血症診療ガイドライン2016 CQ案パブリックコメント募集(2)

[PR]
by DrMagicianEARL | 2015-03-09 17:29 | 敗血症 | Comments(0)
■ESICM weekの集中治療関連文献アップ第3弾は輸血です.これまで多くのRCTで赤血球輸血の開始基準はヘモグロビン値<7.0g/dLがスタンダードとされており,敗血症性ショックに限定してもその結果は同じでした.
敗血症性ショックにおける輸血におけるヘモグロビン基準の低値vs高値(TRISS trial)
Holst LB, Haase N, Wetterslev J, et al; the TRISS Trial Group and the Scandinavian Critical Care Trials Group. Lower versus Higher Hemoglobin Threshold for Transfusion in Septic Shock.N Engl J Med. 2014 Oct 1. [Epub ahead of print]
PMID:25270275

Abstract
【背 景】
輸血は敗血症性ショックの患者においてよく施行されている.しかし,輸血開始のヘモグロビン濃度の違いによって有益性と有害性があることが報告されている.

【方 法】
本多施設並行群間試験において,集中治療室(ICU)に入室した敗血症性ショックでヘモグロビン濃度が9g/dL以下の患者を,ICU在室中に白血球除去赤血球輸血1単位投与をヘモグロビン濃度7g/dL以下(低値開始群)で施行する群と9g/dL以下(高値開始群)で施行する群に無作為に割り付けた.主要評価項目は無作為化から90日時点での死亡とした.

【結 果】
無作為化された患者10005例のうち998例を解析した(99.3%).2つの介入群の背景因子は同等であった.ICUにおいて,低値開始群は中央値で1単位(四分位範囲 0-3),高値開始群は中央値で4単位(四分位範囲 2-7)の輸血を受けた.無作為化から90日後の時点で,高値開始群が496例中223例(45.0%)死亡したのに対して,低値開始群は502例中216例(43.0%)が死亡した(RR 0.94; 95%CI 0.78-1.09; p=0.44).背景危険因子で調整した解析やper-protocol集団の解析でも同様の結果であった.虚血事象を呈した患者,重篤な有害反応を呈した患者,生命維持装置を要した患者の数は両群間で同等であった.

【結 論】
敗血症性ショックの患者において,90日死亡率,虚血性事象発生率,生命維持装置使用率は高いヘモグロビン濃度で輸血を開始した患者群と低いヘモグロビン濃度で輸血を開始した患者群とで同等であり,後者の方が輸血が少なかった.

※重症患者(大量出血を有する外傷患者を除く)における輸血開始基準に関しては,ICU&CCU誌の2014年11月号,Intensivist誌の2015年4月号に稚拙ながら私がレビューを執筆,掲載予定ですので,今後publishされた際に参考となれば幸甚です.


1.重症患者に対する赤血球輸血基準としてHb<7.0 g/dLが推奨されるまでの経緯

■内科,周術期などのさまざまな重症疾患において,ヘモグロビン(Hb)の輸血開始基準が低い方が予後がよく合併症が少ないとする報告が近年多数でてきている.「急性貧血ではHb<7.0 g/dLで輸血を開始し,7.0-9.0 g/dLを保つ」という内容は医師国家試験でも出題されており,year noteにも掲載されているにもかかわらず,医療現場では依然としてHb>7 g/dLでも赤血球輸血を施行する医師は多く,Hbが10を切った時点で輸血を行う医師も多数いる.

■ICUで治療される重症患者は,輸液による血液希釈,出血,赤血球寿命や産生能低下,溶血,エリスロポエチン産生低下・作用阻害[1],活性化マクロファージによる赤血球貪食,TNF-αによる赤芽球アポトーシス[2],鉄代謝異常,栄養障害などの理由,頻回採血[3-7]により貧血となる頻度が高く,輸血が必要となりやすい[8].Fickの原理から,全身の酸素消費量(VO2)は一回心拍出量(CO),ヘモグロビン濃度(Hb),動脈血酸素飽和度(SaO2),静脈血酸素飽和度(SvO2)で規定され,その関係は以下の式で表される.
 VO2 = CO × 1.34 × Hb × (SaO2-SvO2)
よって,酸素需給バランスの破綻に伴う臓器障害を防ぐならば赤血球輸血を行ってHb濃度を高めて酸素供給量を増加させるとする考えは“理論的には”正しい.

■1990年代までICU患者においては赤血球輸血の開始基準はHb<10 g/dLまたはHt<30%とされてきた.ところが,Raoらの24112例の研究では,輸血患者群で死亡率が高く,最低Ht値が25%以上では輸血患者群で30日死亡率が高いと報告された[9].他にも,輸血を行っても必ずしも予後が改善しないとの報告が複数でていた[10,11]

■輸血開始基準はHébertら[12]が行ったTRICC(Transfusion Requirements in Critical Care) studyが1999年に報告され,輸血開始基準は大きな転機をむかえることになった.TRICC studyは輸血制限群(開始基準Hb<7 g/dL,管理域7-9 g/dL)と非制限群(開始基準Hb<10 g/dL,管理域10-12 g/dL)を比較した多施設共同838例無作為化比較試験であり,30日および60日死亡率に有意差はつかなかったものの,院内死亡率が制限群で有意に低く(22.2% vs 28.1%, p<0.05),55歳以下の患者とAPACHEⅡスコア20点以下の患者では30日後の死亡率も有意に低いという結果であった(p=0.02).このTRICC studyを皮切りに,輸血開始基準のHb濃度をより低くすることで予後が改善するのではないかという推測のもと,内科,外科,術後等で同様の結果が多数報告され,輸血開始基準となるHb濃度は大きく下げられることになった.

■Carsonら[13]は,赤血球輸血制限群(Hb 7-9(-10) g/dL以上を維持)と非制限群(Hb 9-12 g/dLを維持)を比較したRCT19報6,264例のメタ解析を2012年に報告しており,制限群の方が輸血必要度が39%減少し,院内死亡リスクも有意に減少する(RR 0.77, 95% CI 0.62-0.95)と報告している.ただし,30日死亡リスクは有意差はみられなかった(RR 0.85, 95% CI 0.70-1.03).なお,このメタ解析に登録されたRCTを個別に見ていっても,非制限群の方が優位であった研究は1つもない.

■さらに,2014年にはRohdeら[14]が,輸血制限群と非制限群を比較したRCT21報8,735例のメタ解析を報告しており,重篤な感染症発生率は11.8% v.s. 16.9%(RR 0.82, 95%CI 0.72-0.95)で制限群が有意に低く,好中球減少患者に限定しても同様の傾向であった(RR 0.80, 95%CI 0.67-0.95).また,TRICC studyと同様に制限群の輸血開始基準をHb<7 g/dLとした研究に限定しても,重篤な感染症発生リスクは有意に減少した(RR 0.80, 95%CI 0.70-0.97).

■このような流れから,成人の外傷および集中治療における赤血球輸血の臨床ガイドライン[15],米国血液バンク協会の赤血球輸血に関する臨床ガイドライン[16],Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2012[17]において急性期の患者におけるRBC輸血開始基準は制限すべきであると推奨されている.2014年1月に開催されたCritical Care Congressにおいては,4学会合同の声明「ICUでやってはいけない5つの約束」の1つとして,「血行動態が安定し,出血のない,ヘモグロビン濃度が7 g/dLより高いICU患者に赤血球輸血は行わない」を掲げている.ただし,ガイドラインではHb濃度だけでなく貧血症状の有無も加味して判断すべきであるとしており,患者背景を吟味して赤血球輸血を行うべきであろう.

2.心血管リスクを有する場合の輸血開始基準

■心血管リスクを有する患者においては輸血開始基準はやや高めとなるかもしれない.大規模RCTとしては,心臓手術患者502例において開始基準をヘマトクリット値≧30%を維持する群と≧24%を維持する群を比較したTRACS trial[18],心血管リスクを有する股関節手術患者2016例において開始基準をHb≦10g/dLとする群と8g/dLとする群を比較したFOCUS trial[19]があり,いずれも合併症,死亡率に有意差はないが,制限群が7g/dLではなく8g/dLとなっており,エビデンス上,心血管リスク患者においては8g/dLを基準とするのが妥当かもしれない.

■上述のTRICC studyでは43%の症例に心血管疾患を認め,その有無でのサブグループ解析で死亡率に有意差は認められなかったが,制限群の虚血性心疾患を有する患者層で死亡率が上昇傾向を示している[16].虚血性心疾患を対象としたRCTは2報ある.Cooperら[20]は,ヘマトクリット値が30%以下の急性心筋梗塞患者45例を対象として,輸血の非制限群(ヘマトクリット<30%で開始,30-33%を維持)と制限群(ヘマトクリット<24%で開始,24-27%を維持)を比較した多施設共同pilot RCTを行い,院内死亡,心筋梗塞再発,うっ血性心不全の複合アウトカムは非制限群の方が有意に多かった.一方,Carsonら[21]は,急性冠症候群またはカテーテル検査を受ける安定狭心症患者でHb<10 g/dLの患者110例を対象として,非制限群(Hb 10g/dL以上を目標に1-2単位投与)と制限群(Hb<8 g/dLで開始)とを比較したpilot RCTを行っている.この研究では30日死亡,心筋梗塞,予定外の血行再建の複合アウトカムが,非制限群の方が少ない傾向がみられた.

■この2つのRCTが異なる結果となったのは,Cooperらの研究ではうっ血性心不全が増加したことが関連していると思われる.いずれもサンプル数の少ないpilot RCTであり,今後の大規模RCTが待たれる.Walshら[22]のスコットランドでの調査ではICU患者の29%が虚血性心疾患を合併していると報告しており,個々の患者において,虚血性心疾患合併有無も考慮した上でRBC輸血を検討する必要があると思われる.

3.敗血症での輸血

■敗血症においては,輸血を行っても酸素消費量は増大しないことが複数の研究[23-25]で示されており,酸素供給を上げる目的での輸血には意味がないと指摘されていた.また,2014年にEGDTプロトコルと通常治療を評価した大規模RCTであるProCESS study[26]とARISE study[27]が報告されたが,いずれの研究においても両群間の死亡率に有意差はなく,輸液量,赤血球輸血量はEGDTプロトコル群の方が多かった.これらのことから,敗血症性ショックではさらなる輸血必要量減少をはかることができるのかもしれない(輸液量が多かったことによる希釈も関連していると思われる).

■RCTではないが,Parkら[28]は22のICUにおいて市中感染の重症敗血症または敗血症性ショック患者1054例の前向き観察データベースを基にPropensity matching score解析を行い,輸血が死亡率改善と関連していることを示したが,輸血前のヘモグロビン濃度は平均7.7g/dLであり,近年推奨されている制限輸血基準に近い.すなわち,輸血を制限するにしてもヘモグロビン濃度が7g/dLを下回るような重度の貧血では輸血をした方がよいと考えることもできる.

■そして今回のTRISS trialであるが,輸血開始基準となるヘモグロビン濃度が≦7g/dLでも≦9g/dLでも死亡率,有害事象に差はなく,輸血量は≦7g/dLの方が有意に少ないという結果であった.コストや評価されていない有害事象を考慮すれば≦7g/dLが敗血症性ショックにおいても推奨されることになる.ただし,サブ解析では,慢性心血管疾患を背景にもつ患者では死亡率は低値開始群で42/75(56%),高値開始群で33/66(50%)であり,統計学的有意差はないものの低値開始群の方が高い傾向がみられている(RR 1.08; 95%CI 0.75-1.40; p=0.06).過去の知見を踏まえれば心血管リスクを背景に有する患者では≦8g/dLを検討すべきかもしれない.

4.赤血球輸血の有害事象

■輸血開始基準は,輸血投与の有益性と有害性のいずれが勝るかで検討されてきた.輸血による有害事象は多岐にわたる.過去の輸血のエビデンスの吟味については,赤血球輸血製剤そのものも変化していることを考慮しなければならない.Vincentらは,ICU患者の大規模観察研究を2002年[29]と2008年[30]に報告しているが,2002年の報告では赤血球輸血が死亡率を悪化させ,2008年の報告では改善させていた.この2つの研究結果の違いとして,ウイルス感染が少なくなったこと,白血球除去製剤が普及したことが挙げられている.また,輸血を行う全患者に対して放射線照射血を用いることが求められているのは現時点では日本のみであることも考慮しておく必要がある.

■現在,種々のスクリーニング検査の導入と精度向上,赤血球保存期間の短縮,放射線照射を含む白血球除去等で合併症は減少傾向にあり,とりわけFNHTRやPT-GVHDが大きく減少したことは本邦で積極的に行っている放射線照射による白血球除去製剤の使用が大きい(海外で行われている輸血用白血球除去フィルターではPT-GVHDは防止できない).赤血球輸血による有害事象を以下に示す.
・血液製剤汚染による感染症
・急性/慢性溶血性反応
・発熱性非溶血性輸血副作用(FNHTR: febrile non-hemolytic transfusion reaction)
・アレルギー反応・アナフィラキシーショック
・輸血後移植片宿主病(PT-GVHD: post-transfusion graft-versus-host disease)
・輸血関連急性肺傷害(TRALI: transfusion-related acute lung injury)
※近年,血液製剤中のミトコンドリアDNAがTRALIを引き起こす可能性が指摘されている.
・輸血随伴循環過負荷(TACO: transfusion-associated circulatory overload)
・クエン酸中毒
・高カリウム血症
・空気塞栓
・血管攣縮(保存赤血球でのNO枯渇による)
・組織での酸素供給障害
※赤血球内の2,3-DPG(diphosphoglycerate)が採血から48時間で減少し始め,酸素飽和曲線の左方移動を誘導する.
・輸血関連免疫修飾(TRIM: transfusion-related immunomodulation)
※受血患者の免疫能がdown-regulationをきたす.T細胞からのサイトカイン分泌抑制が関与している可能性が示唆されている.
・筋力低下
※コホート研究による.ICUAWとの関連性はみられなかった.


[1] Nguyen BV, Bota DP, Mélot C, et al. Time course of hemoglobin concentrations in nonbleeding intensive care unit patients. Crit Care Med 2003; 31: 406-10
[2] Claessens YE, Fontenay M, Pene F, et al. Erythropoiesis abnormalities contribute to early-onset anemia in patients with septic shock. Am J Respir Crit Care Med 2006; 174: 51-7
[3] Salisbury AC, Reid KJ, Alexander KP, et al. Diagnostic blood loss from phlebotomy and hospital-acquired anemia during acute myocardial infarction. Arch Intern Med 2011; 171: 1646-53
[4] Wong P, Intragumtornchai T. Hospital-acquired anemia. J Med Assoc Thai 2006; 89: 63-7
[5] Thavendiranathan P, Bagai A, Ebidia A, et al. Do blood tests cause anemia in hospitalized patients? The effect of diagnostic phlebotomy on hemoglobin and hematocrit levels. J Gen Intern Med 2005; 20: 520-4
[6] Pabla L, Watkins E, Doughty HA. A study of blood loss from phlebotomy in renal medical inpatients. Transfus Med 2009; 19: 309-14
[7] Chant C, Wilson G, Friedrich JO. Anemia, transfusion, and phlebotomy practices in critically ill patients with prolonged ICU length of stay: a cohort study. Crit Care 2006; 10: R140
[8] Walsh TS, Saleh EE. Anaemia during critical illness. Br J Anaesth 2006; 97: 278-91
[9] Rao SV, Jollis JG, Harrington RA, et al. Relationship of blood transfusion and clinical outcomes in patients with acute coronary syndromes. JAMA 2004; 292: 1555-62
[10] Sattur S, Harjai KJ, Narula A, et al. The influence of anemia after percutaneous coronary intervention on clinical outcomes. Clin Cardiol 2009; 32: 373-9
[11] Kim P, Dixon S, Eisenbrey AB, et al. Impact of acute blood loss anemia and red blood cell transfusion on mortality after percutaneous coronary intervention. Clin Cardiol 2007; 30(10 Suppl 2): II35-43
[12] Hébert PC, Wells G, Blajchman MA, et al. A multicenter, randomized, controlled clinical trial of transfusion requirements in critical care. Transfusion Requirements in Critical Care Investigators, Canadian Critical Care Trials Group. N Engl J Med 1999; 340 :409-17
[13] Carson JL, Carless PA, Hebert PC. Transfusion thresholds and other strategies for guiding allogeneic red blood cell transfusion. Cochrane Database Syst Rev 2012; 4: CD002042
[14] Rohde JM, Dimcheff DE, Blumberg N, et al. Health care-associated infection after red blood cell transfusion: a systematic review and meta-analysis. JAMA 2014; 311: 1317-26
[15] Napolitano LM, Kurek S, Luchette FA, et al. Clinical practice guideline: red blood cell transfusion in adult trauma and critical care. Crit Care Med 37 : 3124-57, 2009
[16] Carson JL, Grossman BJ, Kleinman S, et al. Red blood cell transfusion: a clinical practice guideline from the AABB. Ann Intern Med 157 : 49-58, 2012
[17] Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, et al. Surviving sepsis campaign: international guidelines for management of severe sepsis and septic shock: 2012. Crit Care Med 41 : 580-637, 2013
[18] Hajjar LA, Vincent JL, Galas FR, et al. Transfusion requirements after cardiac surgery: the TRACS randomized controlled trial. JAMA 2010; 304: 1559-67
[19] Carson JL, Terrin ML, Noveck H, et al; FOCUS Investigators. Liberal or restrictive transfusion in high-risk patients after hip surgery. N Engl J Med 2011; 365: 2453-62
[20] Cooper HA, Rao SV, Greenberg MD, et al. Conservative versus liberal red cell transfusion in acute myocardial infarction (the CRIT Randomized Pilot Study). Am J Cardiol 2011; 108: 1108-11
[21] Carson JL, Brooks MM, Abbott JD, et al. Liberal versus restrictive transfusion thresholds for patients with symptomatic coronary artery disease. Am Heart J 2013; 165: 964-71.e1
[22] Walsh TS, McClelland DB, Lee RJ, et al. Prevalence of ischaemic heart disease at admission to intensive care and its influence on red cell transfusion thresholds: multicentre Scottish Study. Br J Anaesth 2005; 94: 445-52
[23] Marik PE, Sibbald WJ. Effect of stored-blood transfusion on oxygen delivery in patients with sepsis. JAMA 1993; 269: 3024-9
[24] Lorente JA, Landín L, De Pablo R, et al. Effects of blood transfusion on oxygen transport variables in severe sepsis. Crit Care Med 1993; 21: 1312-8
[25] Fernandes CJ Jr, Akamine N, De Marco FV, et al. Red blood cell transfusion does not increase oxygen consumption in critically ill septic patients. Crit Care 2001; 5: 362-7
[26] ProCESS Investigators, Yealy DM, Kellum JA, Huang DT, et al. A randomized trial of protocol-based care for early septic shock. N Engl J Med 2014; 370: 1683-93
[27] The ARISE Investigators and the ANZICS Clinical Trials Group. Goal-Directed Resuscitation for Patients with Early Septic Shock. N Engl J Med 2014 Oct 1
[28] Park DW, Chun BC, Kwon SS, et al. Red blood cell transfusions are associated with lower mortality in patients with severe sepsis and septic shock: a propensity-matched analysis. Crit Care Med 2012; 40: 3140-5
[29] Vincent JL, Baron JF, Reinhart K, et al. Anemia and blood transfusion in critically ill patients. JAMA 2002; 288: 1499-507
[30] Vincent JL, Sakr Y, Sprung C, et al. Are blood transfusions associated with greater mortality rates? Results of the Sepsis Occurrence in Acutely Ill Patients study. Anesthesiology 2008; 108 :31-9
[PR]
by DrMagicianEARL | 2014-10-07 15:52 | 敗血症 | Comments(3)

by DrMagicianEARL