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EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

カテゴリ:敗血症( 132 )

■Ronco先生がCritical Care誌にエンドトキシン吸着カラムを用いたPMX-DHPに関するレビューを書いています.どのような仕組みなのかが分かりやすい他,現時点でのエビデンスをコンパクトにまとめており,全文フリーで閲覧できます.
ポリミキシンB血液浄化:機械論的視点
Ronco C, Klein DJ. Polymyxin B hemoperfusion: a mechanistic perspective. Crit Care 2014; 18: 309
PMID:25043934

ポリミキシンBファイバーカートリッジによる血液浄化療法(PMX-DHP)は日本と一部に西ヨーロッパでは敗血症性ショックの治療戦略なっている.PMX-DHPは現在,敗血症性ショックでエンドトキシン活性分析で計測したエンドトキシン血症を伴った患者における重要な北米の無作為化試験(EUPHRATES)が行われている.この治療法の主要なメカニズムは循環血液中のエンドトキシンを除去することにある.PMX-DHPカラムによる循環エンドトキシンとの高い親和性結合は循環血液中エンドトキシンレベルを2回の標準的治療によって最大で90%減少させる可能性がある.基礎研究では,循環サイトカインレベルと腎尿細管アポトーシスを減少させることが示されている.臨床研究では,PMX-DHPは循環動態を改善し,酸素化や腎機能を改善し,死亡率を減少させることが示されている.用量,タイミング,そしてメカニズムに関するさらなる情報を得るのと同様に,PMX-DHPによって恩恵を受けるであろうエンドトキシン血症を合併する患者集団を定義するためにもさらなる研究が必要である.本レビューでは,臓器機能の回復におけるPMX-DHPの特異的効果と臨床的改善効果のエビデンスの蓄積の両方に焦点をあてながら,エンドトキシン血症を伴う敗血症患者におけるPMX-DHP使用によるエンドトキシン除去を目標とした戦略での機械論的根拠を提示する.
■PMX-DHPについては当ブログでも書かせていただきました.

EARLの医学ノート 2013年9月4日記事
敗血症とエンドトキシン計測&PMX-DHP(2) ~PMX-DHPは敗血症の予後を改善しうるか?~
http://drmagician.exblog.jp/20996440/
■ところで,PMX-DHPについては,予後改善効果があるのかまだまだ議論されている段階であり,その検証として2つの大規模RCTである欧州のABDO-MIXと米国カナダのEUPHRATESがあります.そのうおちのABDO-MIXは既に終了しており,実はその結果が今年の2014 ISICEM conferenceにおいて発表され,PMX-DHPに敗血症の死亡率改善効果なしとの結果でしたが,これについてRonco先生がこのレビューで以下の通り触れています(ざっと日本語訳).
ABDO-MIX

敗血症性ショックを伴う腹膜炎におけるPMX-DHPの効果は,28日死亡率を評価したフランスの無作為化オープンラベル多施設共同試験で検討された(ABDO-MIX; ClinicalTrials.gov NCT01222663).登録患者(240例)は術後36時間以内に標準治療群と標準治療+PMX-DHP群に無作為に割り付けられた.本研究はまだ出版されていないが,結果が2014年のISICEM conference(国際救急集中治療医学会議)で発表された.本研究は両群間で死亡率に差を示せなかったが,この研究はこの結果に影響を与えた可能性があるいくつもの潜在的問題をかかえていた.カートリッジの詰まり・失敗率が他の試験や臨床経験に比して劇的に高かった.また,観察された死亡率は予想より低く,差を検出するにはパワー不足であった.ABDO-MIXが出版されても,他のデータと照らし合わせて慎重に見る必要がある.
■敗血症の治療の進歩に伴い,対照群の死亡率が低くなり,特定の治療介入を行っても死亡率に差がでにくくなってきていることは近年報告されたProCESS trialやPROWESS-SHOCK study等を見ても分かることで,ABDO-MIXでもその傾向がでたということであろう.カートリッジの詰まりが異常に多かった原因の詳細はまだ不明である.使用した抗血栓薬の種類,用量用法がまずかったのか,DICの合併が多かったのか(フランスではDICはあまり治療されない.また,rTMを使うとカラムが詰まりにくくなったという報告はある)・・・.publishを待ちたい.
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by drmagicianEARL | 2014-08-15 19:58 | 敗血症 | Comments(2)
■敗血症におけるde-escalation療法を評価した初めてのRCTがようやく報告されました.de-escalationを否定する結果ですが,さてどうとらえますか?レビューもつけました.
重症敗血症におけるde-escalation vs 経験的抗菌薬継続:多施設共同非盲検無作為化非劣勢試験
Leone M, Bechis C, Baumstarck K, et al; For the AZUREA Network Investigators. De-escalation versus continuation of empirical antimicrobial treatment in severe sepsis: a multicenter non-blinded randomized noninferiority trial. Intensive Care Med. 2014 Aug 5. [Epub ahead of print]
PMID:25091790

Abstract
【背 景】
重症敗血症患者において,経験的抗菌薬治療のde-escalationの概念を検討した無作為化臨床試験はない.本研究の目的は,これらの患者において,適切な経験的治療の継続とde-escalation戦略を比較することである.

【方 法】
本研究は,重症敗血症患者をde-escalation群と経験的抗菌薬治療継続群に無作為に割り付けた多施設共同非盲検無作為化非劣勢試験である.患者は2012年2月から2013年4月までフランスの9つの集中治療室(ICU)で登録された.重症敗血症患者はde-escalation群(59例)または経験的抗菌薬治療継続群(57例)に割り付けられた.主要評価項目はICU在室期間とした.我々は,非劣勢マージンを2日間と定義した.継続群に割り付けられた患者と比較してde-escalation群に割り付けられた患者との差の95%信頼区間(CI)上限が2日間未満であれば,de-escalationは継続治療と比較して非劣勢であるとした.副次評価項目は90日死亡率,臓器障害発生,重複感染(菌交代)数,ICU在室中の抗菌薬投与日数とした.

【結 果】
ICU在室期間中央値は,それぞれde-escalation群で9日(四分位範囲5-22),継続群で8日(四分位範囲4-15)であった(p=0.71).平均差は3.4日(95%CI -1.7 to 8.5)であった.重複感染はde-escalation群で16例(27%),継続群で6例(11%)であった(p=0.03).抗菌薬投与日数は,それぞれde-escalation群で9日(7-15),継続群で7.5日(6-13)であった(p=0.03).死亡率は両群で同等であった.

【結 論】
経験的抗菌薬治療の継続と比較して,抗菌薬のde-escalationに基づく治療戦略は,ICU在室日数を延長させた.しかし,死亡率に影響は与えなかった.
■これまで敗血症におけるde-escalationの有用性を検討したRCTの報告はなかった[1]ため,この報告が初のRCTとなる.初期抗菌薬,感染臓器,検出菌,感受性,感染巣コントロールなどによって影響を受けるため,de-escalationをRCTで評価するのは難しく,かなりのN数が必要となると思われるが,本RCTはわずか116例の小規模検討であり,信頼性の高いエビデンスとは言い難い.また,de-escalationによって得られるであろう有益性として,耐性菌発生の抑制,コスト減少,副作用減少などが考えられるが,これらは残念ながら本RCTでは評価されていない.しかし,唯一のRCTであることから,de-escaltion戦略の再検討を行ってもよいかもしれない.これまでde-escalationはエビデンスが乏しいにもかかわらず強く推奨されてきた治療戦略であり,必ずしも安全なものとは限らないとする研究もあるからである.以下はde-escalationのレビューを行った.
※意外にも文光堂の「臨床に直結した集中治療のエビデンス」「臨床に直結した感染症診療のエビデンス」のいずれにもde-escalationのレビューはなかった.

1.抗菌薬のde-escalation

■抗菌薬の使用法には,予防的治療(prophylaxis therapy),先制攻撃的治療(pre-emptive therapy),経験的治療(empiric therapy),標的治療(definitive therapy)に分けられ,臨床現場で主に用いられるのは,想定される原因菌をカバーする広域抗菌薬による経験的治療と,判明した原因菌に有効な狭域抗菌薬による限定的治療の2つである.この,経験的治療から限定的治療に抗菌薬を変更するのが狭義のde-escalationである.他にも抗菌薬投与終了や,静注から経口へのスイッチも広義のde-escalationに含まれる.

■なぜde-escalationが推奨されているのか?de-escalationの目的は,常在細菌叢の撹乱による副作用減少,薬剤耐性菌選択・誘導による耐性菌発生防止,治療コスト減少が挙げられる[2].しかしながら,これらの個人的・集団的・社会的有用性のいずれにおいても,支持する明確なエビデンスはないのが現状である.de-escalation療法は,Surviving Sepsis Campaign Guidelines[3],ATS/IDSAの院内肺炎管理ガイドライン[4],日本呼吸器学会成人院内肺炎診療ガイドライン[5],日本版敗血症診療ガイドライン[6]などで推奨されており,院内感染制御チーム(ICT)や抗菌薬適正使用に慣れている医師はde-escalationのロジックをよく理解して行ってはいるが,実際のde-escalationの有用性・安全性の質の高いエビデンスはまだほとんどないことは注意しておかなければならない.また,薬剤耐性菌を減少させるとする長期的アウトカムに至っては評価した研究がいまだに存在しない[7]

2.de-escalationのエビデンス

■これまでde-escalationによって死亡率が増加した報告はなく,有意差なし[8-11]か改善[12-18]と報告している.当然ながら,起因菌が不明,あるいは耐性菌を検出した場合などが背景にあると,de-escalationは困難であり,死亡率が上昇することも予想され,背景因子で調整した検討が必要であるが,これを行ったのは1報のみである.

■その1報であるGarnacho-Monteroら[18]の報告は,ICUに入室した重症敗血症および敗血症性ショック患者712例を登録した前向き観察研究である.de-escalationは34.9%に適応され,多変量解析では,de-escalationが生存関連因子であったのに対し(OR 0.58, 95%CI 0.36-0.93),院内死亡に関連した独立因子は敗血症性ショック,培養結果判明日のSOFAスコア,不適切な初期抗菌薬治療であった.適切な経験的抗菌薬治療を受けた403例の解析では,de-escalationが生存関連因子であったのに対し(OR 0.54, 95%CI 0.33-0.89),培養結果判明日のSOFAスコアが死亡関連因子であった.傾向スコア調整ロジスティック回帰モデルにおいても,de-escalationは生存に関連した因子であった.de-escalationは90日予後においても生存関連因子であった.これらのことから,重症敗血症および敗血症性ショックにおけるde-escalation療法は低い死亡率と関連していた.この治療戦略の頻度を増やすことが強く支持されると結論づけている.

■de-escalationは初期抗菌薬の影響によって有用性が消失してしまう可能性もある.de-escalationを行うならば初期抗菌薬はいくらでも広域カバーしてもよいと考える医師もいるが,決してそうではないことが過去の報告から分かる.細菌学的な原因菌検索が十分なされた症例であっても,ICUで管理された患者のうち,薬剤耐性菌を疑われた患者集団においては,ガイドラインで推奨された広域カバーの抗菌薬併用療法を行った群が非遵守群より死亡率が有意に高かったことが報告されている[19].また,Kimらは院内肺炎を発症したICU患者109例において,IPM/CS+VCMで開始して起因菌が判明したらde-escalationする群(DE群)と,カルバペネム系もVCMも使用せずde-escalationを行わない経験的治療群(NDE群)を比較したRCTを行っており[20],初期抗菌薬適切性はDE群が有意に高いにもかかわらず,死亡率はDE群で高い傾向がみられ(有意差はなし),VCMが投与されているにもかかわらずMRSA肺炎患者の死亡率はDE群で高く,耐性菌発生率もDE群が有意に高かった.初期の広域カバーは副作用や常在細菌叢の破綻により予後を悪化させる可能性があり,この場合,de-escalationは安全の保障とはならないかもしれない

■de-escalationの後ろ向き観察研究においては,そのde-escalation施行率も同時に報告される.培養結果や主治医の方針の影響によるが,ほとんどの報告でde-escalationの施行率は30-60%程度である[9,10,13,15-18].抗真菌薬においても,エキノキャンディン系抗真菌薬投与患者でFLCZに感受性を有するカンジダが検出されてもFLCZにde-escalationされたのは40%未満であったと報告されている[21].また,院内発症の重症敗血症患者に対する抗菌薬治療では,集中治療医と感染症専門家の協力がある環境においてもde-escalationの実施は50%未満であったと報告されている[22]

■Hibbardらは,外科ICUにおいて人工呼吸器関連肺炎に対するde-escalation療法レジメンの導入前後で比較したbefore-after studyを行っており,導入後に菌の耐性化率が高まることはなく,最終的にde-escalation遵守率が92%まで高まったと報告している[23].起因菌が不明の場合でもde-escalationは可能とする報告[15]もあることから,患者の状態評価を行いながらであればHibbardらの報告のような遵守率達成は可能かもしれない.

de-escalation療法は全ての症例で受け入れ可能というわけではなく,必ず安全に行えることが前提であり,患者の総合的評価なしに一辺倒に行ってはならない.以下の条件を満たす場合に,de-escalationを考慮すべきである.
① 経験的治療開始前に良質な微生物学的検体の採取が行われている[17]
② 臨床的に臓器障害,重症度などの改善がある[4]
③ 同定された起炎菌が,より狭域の抗菌薬に感受性である.
④ 他の感染巣が否定できる.
⑤ 持続する好中球減少症(<1,000/mm3)などの重篤な免疫不全がない.
⑥ 選択する狭域抗菌薬が感染巣に移行しえる.

3.de-escalationの有用性を報告した過去の観察研究

■以下にde-escalationの有用性を評価した他の報告[8-17]を列挙しておく.

■人工呼吸器関連肺炎でのde-escalationにおいてはMicekらが290例のRCTを行っており[8],de-escalation群で抗菌薬投与期間が有意に短縮した(6.0±4.9日 vs 8.0±5.6日,p=0.001).院内死亡率(32.0% vs 37.1%,p=0.357),ICU在室期間(6.8±6.1日 vs 7.0±7.3日,p=0.798)に有意差はなかった.

■Morelらは経験的抗菌薬治療を受けた入室から72時間以内のICU患者116例の後ろ向き観察研究を行っている[9].45%がde-escalation療法を受けており,使用している抗菌薬の種類の減少としてのde-escalationは重症敗血症および敗血症性ショックの患者の52%で行われていた.適切な経験的治療とアミノグリコシド系抗菌薬の使用がde-escalationと独立して関連していた.さらに,de-escalationは感染症再発を有意に減少させていたが(5% vs 19%, p=0.01),死亡率に有意差はなかった.

■Gonzalezらは,ICU患者229例(de-escalation施行率51%)の後ろ向き観察研究を行い[10],初期抗菌薬が適切であることのみがde-escalation施行に関連した唯一の独立因子であり(OR 2.9, 95%CI 1.5-5.7, p=0.002),一方で,不適切な初期治療(OR 0.1, 95%CI 0.0-0.1, p<0.001),多剤耐性菌の検出(OR 0.2, 95%CI 0.1-0.7, p=0.006)がde-escalation阻害因子であったと報告している.なお,ICU死亡率,1年死亡率,ICU在室日数,抗菌薬投与期間,人工呼吸器装着期間,ICU関連感染症発生率,緊急性のある多剤耐性菌検出率に対してde-escalation療法は影響を与えなかった.

■Eachemapatiらは外科ICUに入院した外傷患者で人工呼吸器関連肺炎を発症した138例の後ろ向きコホート研究を行っており[11],de-escalation施行群は,非施行群と比較して,肺炎再発率(27.3% vs 35.1%),全死亡率(33.8% vs 42.1%)を統計学的に有意には改善しなかったと報告しているが,逆に言えば敗血症性ショックであってもde-escalationは安全であると結論づけている.

■Kollefらは人工呼吸器関連肺炎398例の前向きコホート研究を行っており[12],死亡率の比較では,de-escalation群17.0%,escalation群42.6%,非変更群23.7%であり,de-escalation群が有意に低かったと述べている(p=0.001)(この結果はχ2検定を用いている.3群比較なので本来ならばpost hoc testが必要であるはずだが・・・).

■Shimeらはメチシリン感性黄色ブドウ球菌,ペニシリン感性肺炎球菌,βラクタム薬感性の大腸菌または肺炎桿菌の菌血症患者で,初期経験的治療が適切であった270例の解析を行っている[13].74%がde-escalationについて検討され,実際にde-escalationが行われたのは39%であった.de-escalationを受けた患者は,受けなかった患者と比較して,死亡率(1% vs 5%),治療失敗率(4% vs 10%)が低い傾向であった.

■De Waeleらは,ICUに入室し,MEPMで治療を開始した患者113例の後ろ向きコホート研究を行っており[14],de-escalation施行群の方が死亡率が低い傾向がみられた(7% vs 21%, P = 0.12)と報告している.

■JoungらはICU関連肺炎患者137例(de-escalation施行率32.1%)の後ろ向きコホート研究を行っており[15],de-escalation施行群は非施行群と比較して,肺炎関連14日死亡率(2.3% vs 10.8%, p=0.08),30日死亡率(2.3% vs 14%, p=0.03)が有意に低かった.ただし,多変量解析では,APACHEⅡスコアと5日後の改訂臨床肺感染スコア(CPIS)がICU関連肺炎による死亡に独立して関連しており,この2つの因子は非施行群で有意に高い結果となっており,背景因子により死亡率に差がでたと考えるのが妥当かもしれないが,de-escalationは安全に施行できると結論づけている.なお,20.4%で病原菌が培養で検出されなかったが,そのうち42.9%はde-escalation療法を受けていた.

■Shimeらは,SPACE(Serratia,Pseudomonas,Acinetobacter,Citrobacter,Enterobacter)による菌血症患者133例の後ろ向きコホート研究を行い[16],適切な初期抗菌薬治療を受けた79例のうち,49例がde-escalationするか検討され,そのうち28例(57%)がde-escalation療法を受けた.de-escalation療法を受けた患者では治療失敗がなかったのに対し,de-escalation療法を受けなかった患者は11例中2例(18%)が死亡していた(p=0.13).

■人工呼吸器関連肺炎患者143例において,BALによる検体採取群と気管吸引による検体採取群でde-escalation率を比較した前向き観察研究[17]では,de-escalationは40.5%で行われ,de-escalationを行った方が15日死亡率(5.1% vs 31.7%),28日死亡率(12% vs 43.5%)が有意に低く,ICU在室日数(17.2±1.2日 vs 22.7±6.3日),入院期間(23.8±2.8日 vs 29.8±11.1日)が有意に短かかった.この傾向は両群に分けても同様であったが,de-escalation達成率は21% vs 66.1%で,BAL群の方が高い結果となった.

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[23] Hibbard ML, Kopelman TR, O'Neill PJ, et al. Empiric, broad-spectrum antibiotic therapy with an aggressive de-escalation strategy does not induce gram-negative pathogen resistance in ventilator-associated pneumonia. Surg Infect (Larchmt) 2010; 11: 427-32
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by DrMagicianEARL | 2014-08-07 20:01 | 敗血症 | Comments(0)
2012年1月10日作成
2014年8月4日改訂
Summary
・ICU患者では入室24時間以内からストレス潰瘍が生じるため,H2RAやPPIなどの胃酸分泌抑制薬の予防的投与が検討される.
・ASHPガイドライン,SSCG 2012では,ICU患者・敗血症患者の全例にストレス潰瘍予防が必要であるとはされていなく,ストレス潰瘍出血リスクの高い患者においてのみ推奨されている.
・これまでのメタ解析ではPPIがH2RAより優れているとの結果であるが,近年のRCTでは有意差がついていない.
・集中治療の進歩によりストレス潰瘍出血のリスクは大きく低下してきており,ストレス潰瘍予防の必要性については適応を再検討すべき時期にある.
・経腸栄養はストレス潰瘍予防効果を有する可能性がある.
・近年の報告等ではPPIがH2RAより優れているかについては疑問がもたれる.
・胃酸分泌抑制薬の合併症としては特に肺炎などの感染症に注意が必要である.
・ICU退室後は特にストレス潰瘍出血リスクがないのであればPPIやH2RAの投与は終了すべきである.

1.ストレス潰瘍と胃酸分泌抑制薬の登場

■ICU患者は疾患そのものによる高度な侵襲性ストレスを受けているが,これに対する救命治療もまた医原性の侵襲性ストレスとして患者が受けることになる.この侵襲性ストレスにより胃・十二指腸をはじめとする消化管にストレス潰瘍が生じることが知られている.

■ストレス潰瘍の頻度は,内視鏡検査が行われるようになってからの報告では急速に増加し,ICU患者においては入室後24時間以内に75-100%の患者で粘膜病変が形成され[1],予防手段を受けていなければ5-25%で出血が生じていると報告されており[1,2],臨床的に意義のある消化管出血(循環動態が悪化した,輸血が必要,あるいは手術が必要なケース)は1-4%であると報告されている[1,3-5]

■ストレスの要因としては,①心理的・精神的ストレス,②身体的ストレスがあり,ICU患者のストレス潰瘍ではこの両者が関与しうる.また,ICUで使用されるNSAIDsやステロイドも薬剤性の消化性潰瘍の原因となる.さらに,多臓器不全の病態そのものが消化性潰瘍を引き起こしうることも知られる.心理的・精神的ストレスによるストレス潰瘍は保存的治療によく反応し,予後が良好であることが知られていた[6].その一方で,中枢神経障害や熱傷,敗血症などに合併する消化管出血の予後は悪く,死亡率は20-30%に達すると報告されている[7,9].また,臨床的に意義のある消化管出血がある患者は出血のない患者と比較して死亡率が有意に高いとも報告されている[3].これらのことから,高度侵襲病態におけるストレス潰瘍の予防が必要であることが広く周知されてきた.

■1972年にH2RAのmetiamide発見され[9],1976年にこのmetiamideでストレス潰瘍の予防と治療の臨床での有効性が報告され[10],1977年にシメチジンが使用可能となってからはその報告が急激に増加し,ストレス潰瘍の予防や治療は大きな転機を迎えた.さらに1980年代には強力な胃酸分泌抑制薬であるPPIが登場し[11],集中治療領域におけるストレス潰瘍予防はPPIとH2RAの一騎打ちの時代に突入していった.

2.ストレス潰瘍のガイドライン,SSCG

■まず,前提として,ストレス潰瘍予防のエビデンスは,抗潰瘍薬が投与されているか否かでの比較が必要となるが,さまざまなリスク因子がこれまで報告されてきた中で新たに特定の因子について検証を行うことは倫理的にも難しい状況にある.このため,予防がそこまで一般的でなかった時代の古いエビデンスに頼るところが大きいことを認識しておかなければならない.

■1998年にAmerican Society of Health-System Pharmacists(ASHP)からストレス潰瘍予防のガイドライン[12]が発表されており,ICU患者でのストレス潰瘍予防介入の適応基準(成人)が以下のように定められている.
絶対適応(1つでも該当すれば適応)
凝固障害(血小板<50000 /mm3,PT-INR>1.5,APTTが正常時の2倍以上)
48時間以上の人工呼吸器管理
1年以内の上部消化管潰瘍または出血
GCS≦10(または簡単な指示に従えない)
体表面積>35%の熱傷
肝部分切除後
多発外傷(Injury Severity Score≧16など),移植患者周術期,肝不全,脊椎外傷に該当

相対適応(2つ以上該当すれば適応)
敗血症
1週間以上のICU在室
6日間以上の潜血
高用量コルチコステロイド治療(ヒドロコルチゾン250mg/日相当量以上)
■敗血症ではどうであろうか?前述の通りASHPガイドラインでは敗血症のみではストレス潰瘍予防の適応とはなっていない.敗血症ガイドラインのSSCG(Surviving Sepsis Campaign Guidelines)にはストレス潰瘍予防の項目がある.
SSCG 2008[13]ストレス潰瘍の予防目的に,H2RA(1A)またはPPI(1B)を投与する.ストレス潰瘍の予防の利益と人工呼吸器関連肺炎の進展の可能性を比較検討しなければならない.

SSCG 2012[14]
出血リスクの高い重症敗血症/敗血症性ショックの患者に対して,ストレス潰瘍の予防としてH2RAやPPIの投与を推奨する(1B).ストレス潰瘍の予防には,H2RAよりもPPIのほうが望ましい(2C).危険因子のない患者には予防を行うべきではない(2B).
■2008年と2012年で推奨が変わっている.SSCG 2008では肺炎の合併症に言及しつつもできる限りストレス潰瘍予防を行うよう推奨しており,薬剤はPPIよりH2RAを推奨している.しかし,SSCG 2012では,出血リスクの高い患者に限定し,リスクのない患者には予防を行わないことを推奨している.さらに,PPIとH2RAの優先順位が逆転しており,PPIが推奨されている.以上から,敗血症においては,全例でストレス潰瘍が必要というわけではない.なお,SSCG 2012では出血リスクについて具体的な項目は明示されていないが,リスク因子である人工呼吸器装着や凝固障害,低血圧が重症敗血症,敗血症性ショック患者には多いとする文献[3,15]を提示している.

3.ストレス潰瘍予防のエビデンスの疑問点

■PPIとH2RAの2種類の薬剤によるICU患者でのストレス潰瘍予防効果の比較についてはメタ解析が複数報告[16-19]されている.臨床的に意義のある上部消化管出血の予防効果をアウトカムとした報告は3報あり,いずれもPPIが有意に予防効果が高かったと報告している.これを受けて2008年改訂時点ではH2RAを第一選択として推奨していたSSCGも2012年の改訂ではPPIを第一選択とする推奨に変更されている.

■これらのメタ解析から,単純にPPIとH2RAのいずれがいいのかという議論には終わらない問題点が見えてくる.まず,過去のRCT 12報のうち,実はPPIとH2RAで有意差がついたのは1報しかなく,その1報では出血率は6.2%vs31.4%という,現在では考えられない出血率の高さである.この報告以外の11報は有意差がなく,メタ解析という統計処理を用いてはじめて有意差がついている.次に,近年は消化管出血発生率そのものが低く,治療ではなく予防として薬剤を投与していることから,統計学的な有意差を検出するには大きなサンプルサイズを要することである.しかしながら,これまでの報告で登録患者数が比較的多いRCTでは有意差はない.

■ICUでの消化管出血に関する近年の観察研究の報告では,2000年以降の消化管出血発生率はほぼ1%以下であり[4,5,20-22],前述の4つのメタ解析において5%前後と報告されていることも考慮すると,1999年以前と比較してかなり低下してきていることがうかがえる.この10-20年で集中治療は大きく変化してきており,ストレス潰瘍予防効果が指摘されている経腸栄養も現在ではICUで一般的に行われていることもストレス潰瘍の発生率に影響を与えている可能性がある.以上から,2000年以降のストレス潰瘍の発生率について再検討が必要である.

■集中治療の進歩に伴ってストレス潰瘍出血率が低下してきた背景には早期経腸栄養の普及が関連していると言われている.実際,経腸栄養時にストレス潰瘍予防が必要かについては,経腸栄養を行った方がむしろ消化管出血を抑えるという報告が以前からある.近年のMarikらのメタ解析[23]では,H2RAの消化管出血予防効果は全体では認められるが,経腸栄養を施行した患者に限定したサブ解析ではH2RA投与有無で消化管出血リスクに影響はなく,経腸栄養そのものが上部消化管出血を予防する可能性を示唆する結果となっている.

■これは,経腸栄養によってプロスタグランジン分泌と消化管血流が改善する[24,25],胃内pHが経腸栄養によって希釈され上昇する[26],ストレス起因性の迷走神経刺激伝達系を経腸栄養が抑制する[27,28]ことなどが理由と考えられている.さらに,H2RAは全体では肺炎,死亡率を増加させなかったが,経腸栄養患者ではH2RAを投与した方が肺炎や死亡率が増加している.以上から,経腸栄養はストレス潰瘍に対する予防効果があり,経腸栄養施行患者へのストレス潰瘍予防薬投与は合併症リスクが増加する可能性があることを考慮すると必要性は低いと言えるかもしれない.ただし,これらの結果はあくまでもサブ解析にとどまっており,消化管出血予防を主要評価項目とした前向き検討のエビデンスは現時点では存在せず,現在進行中のRCT(EN vs EN+H2RA)の結果が待たれる.

■過去の報告では,胃に留置すれば胃内は栄養剤投与による希釈によりアルカリ化されるが,十二指腸/空腸に留置すれば希釈されることなく胃酸分泌刺激が生じ,胃内pHが胃に留置した場合より低くなるかもしれないとする報告[29]もあるが,Alhazzaniら[30]の19報RCT,1394例のメタ解析では,消化管出血リスクに有意差はなかった(RR 0.89; 95%CI 0.46-1.42; p=0.64).

4.出血リスクの高い敗血症患者でのストレス潰瘍予防の第一選択は本当にPPIか?

■前述の通り,メタ解析の結果を受けてSSCG 2012はPPIを第一選択として推奨しているが,これまで述べてきたことを踏まえると必ずしもそうとは限らないのではないかという疑問がわく.実際,近年のRCTでは有意差がついていない.

■H2RAは胃酸分泌を速く抑制するが,PPIより効果は劣る.また,H2RA使用により胃酸分泌耐性を生じることが分かっており,投与開始72時間程度で胃酸pHを高く維持することが困難となることがある.PPIは胃内pH上昇維持ではH2RAより有効であり,また長期使用での耐性も生じないことが,薬効の立ち上がりはH2RAよりも遅くなり,肺炎の合併率はH2RAよりも高い.

■近年のストレス潰瘍出血率の低下,経腸栄養のストレス潰瘍予防効果の仮説,そしてストレス潰瘍がICU入室24時間以内に生じることをふまえると,治療に反応して改善していく患者においてはICU入室早期がストレス潰瘍リスクが最も高く,そこさえ抑えればあとはリスクは大きく低下すると考えられる.よって,立ち上がりが遅く,長期間効果がもつPPIよりも,立ち上がりが早く,短期間しか作用しないH2RAの方が,“現在の”ICUにおけるストレス潰瘍予防と肺炎合併リスクにおいてより有利ではないかという推測も成り立つ.この推測を支持する研究が2014年に報告された.MacLarenら[31]は,71施設のICUでPPIまたはH2RAの投与を受けた35312例のコホート研究を行い,傾向スコア調整前,調整後のいずれにおいてもH2RAはPPIよりも消化管出血,肺炎,Clostridium difficile感染が有意に少ないという結果であった.

■これはRCTではないが,昔ではなく現在のICUにおいてPPIが真にH2RAよりもbetterであるのかに疑問を呈する結果である.古いRCTを組み込んだメタ解析のエビデンスは現在のICUに適応されない可能性は十分にあり,こういった面からもストレス潰瘍予防は再検証が必要である.

5.ストレス潰瘍予防薬の合併症

■ICUにおいて胃酸分泌抑制薬で特に問題視されている有害事象は感染症である.胃内pHは4以上となると胃内細菌の増殖を助長され[32],胃酸分泌抑制薬により胃内コロニゼーションが生じてくることが知られており[33],これが感染症の原因となる.実際にこれまで胃酸分泌抑制薬,特にPPIにおいて肺炎が生じることが多数報告されており,院内肺炎でみても,大規模コホート研究で同様の結果が報告されている[34].ICU患者においては,RCTのメタ解析でPPIとH2RAに有意差はないが[16-19],コホート研究では,PPIで人工呼吸器関連肺炎リスクが高まることが示唆されている[35]Clostridium difficile感染症についても,ICU患者に限定した報告はないものの,胃酸分泌抑制薬による増加が報告されており[36,37]注意が必要である.

■H2RAに特有の有害事象としては,長期間の反復静脈内投与による耐性,脳障害や頭部外傷患者での効果減弱,血小板減少,肝機能障害,間質性腎炎などが報告されている.とりわけ腎機能障害を有する患者ではクリアランスが減少する.また,H2RAには,特に腎機能障害を有する高齢者においてせん妄をはじめとする中枢神経症状が生じうることが知られている[38]

■多くのPPIはCYP450により代謝される.このため,シクロスポリン,ジアゼパム,フェニトイン,ワーファリンなどで薬物相互作用が生じることが知られており,注意が必要となる.この他にも,腹痛,悪心,下痢(特にランソゾールによるcollagenous colitis),頭痛などがある.

■これらの合併症を防ぐ上でも,ストレス潰瘍予防尾は病態が改善すれば終了すべきである.ICU管理下でのストレスを定量化する確立されたツールはなく,ストレス潰瘍予防のための胃酸分泌抑制薬の適切な投与期間も現時点では知られていないため,エビデンスに基づいたストレス潰瘍予防薬の投与期間の提言はできない.ただし,多くの専門家は,潰瘍出血リスクのある患者ならばICU在室期間中は投与しておくべきであると考えており[39],近年のストレス潰瘍出血率が非常に低下してきていることもふまえれば,ICU離脱後は特に大きなリスクがないのであればストレス潰瘍予防薬投与を中止すべきであろう.

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by DrMagicianEARL | 2014-08-04 00:00 | 敗血症 | Comments(0)
2013年4月16日作成
2014年7月16日改訂(2014年7月13日に日本救急医学会・日本集中治療医学会共催の大阪敗血症セミナーで私が講演した内容を追記して改訂しております)

Summary
・敗血症のアウトカムを28日死亡率で評価することは妥当ではなく,より長期の生命予後・機能予後の評価が必要であることが近年指摘されている.
・ICUでの治療後の長期アウトカム悪化に関連しうる障害の集合概念としてPICS(post-intensive care syndrome)が提唱された.
・PICSは基礎疾患による侵襲みならず,医療行為・ICU環境・患者の精神的要因による侵襲の関連も示唆されており,ICUにおける侵襲の長期予後への影響を認識し,これらを予防する対策を講じる必要がある.
・現時点でPICSはSSCGにも日本版敗血症診療ガイドラインにも組み込まれていないが,2016年の日本版敗血症診療ガイドラインの改訂で初めて組み込まれる予定である.
・特定の医療行為がPICSの原因であるとする報告は多数あるが,質の低い観察コホート研究やRCTの二次解析しかなく,各種バイアスや統計学的解析手法の限界を考慮する必要がある.
・長期の予後は様々な社会的要因が関係しているとされ,国や地域,個人によっても大きく異なりうる.このため,本邦独自の調査が必要である.
Key Word
・PICS:post-intensive care syndrome
・ICUAW:ICU-acquired weakness
・長期予後:long-term mortality

■PICS「ピックス」という言葉を聞いたことがあるだろうか?PICSはPost-Intensive Care Syndromeの略であり,一言で言えば「ICUから生存退室した後の後遺症」である.まだ登場して間もないこのPICSの概念は,PubMedで文献検索してもヒット数は20件にも満たない.もっとも,「ICU退室後の慢性期の概念なのであれば救急・集中治療医は関係ない」と思われるかもしれない.しかし実際にはそうではなく,むしろICU在室中が深くかかわってくる概念である.ここにPICSについて概説する.

1.敗血症患者のアウトカムをどうとらえるか?

■「重症敗血症患者に治療薬Xを投与したところ,対照群と比較して28日死亡率が有意に改善した.」「当院における重症敗血症患者の28日死亡率は15%であった.」このような論文や学会発表を目にしたことはないだろうか.この28日死亡率とは何か?

■以下に2つの症例を提示する.
症例1.80歳女性.ADL自立,認知症なし,糖尿病既往.急性腎盂腎炎による敗血症性ショックでICUに入院,APACHE II score 30点,SOFA score 12点.28日後も生存.

症例2.80歳女性.ADL自立,認知症なし,糖尿病既往.急性腎盂腎炎による敗血症性ショックでICUに入院,APACHE II score 30点,SOFA score 12点.28日後も生存.
この2つの症例は1字1句まったく同じであり,いずれも治療によって28日間生存している.次に各症例の2年後をみてみる.
症例1.車椅子生活となり,認知症が進行し,ADL低下による誤嚥性肺炎の入退院を繰り返し,心不全を併発して死亡.

症例2.杖歩行ではあるが外出も可能.認知症はごく軽度で,来週家族と旅行に行く.
この2つの症例は何が違ったのか?年齢,背景,既往,疾患,重症度すべて同じにもかかわらず,2年後にこのような違いがなぜでてくるのであろうか?

■Surviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)により敗血症の予後は大きく改善し,敗血症診療は次なる目標に舵を切り始めている.近年,敗血症の死亡率は28日死亡率だけでなく90日死亡率でも評価している報告が多い.これは,28日死亡率はプライマリエンドポイントとしては妥当でない可能性が指摘されており[1],退院後もQOLの障害は続き,これが死亡率に影響を与える可能性がある.実際に,初期治療が不十分なケースや臓器不全を残したケースにおいては28日以上生存することも珍しくはなく,90日という期間で見れば28日死亡率より悪化しうることはよく知られている事実である.また,退院後でも後遺症が発端となって状態が悪化して再入院,死亡に至るケースなどもある.このことから,より長期的な患者状態の評価をアウトカムとする流れがでてきている.

2.長期的アウトカムに影響を与えるのは疾患そのものによる侵襲だけか?

■6ヶ月の長期予後を検討した初めての前向き研究が2013年にNesselerら[2]により報告されている.これはフランス単施設での敗血症性ショック96例の観察研究であり,6ヶ月死亡率は45%であり,生存者は死亡者に比べて,有意に若く,乳酸値とSAPSⅡが低く,腎代替療法やステロイド使用頻度が少なく,入院期間が長い傾向があった.一方で,生存者でも6ヶ月後のQOLは低下していた.

■さらに,近年,敗血症をはじめとする,ICU退室後の生存者の長期的機能予後について非常に多数の観察研究が報告されるようになっている.例えば,ICUからの生存患者は長期的な認知機能や運動機能を悪化させる[3,4],PTSDの発生はレイプ,戦争の次にICU入院が多い[5,6],重症敗血症生存者は非重症敗血症患者と比較して1年間の福祉利用が増加する[7]など,ICU退室後の長期的なQOLの低下を示唆する報告は多い.

■これらの長期的アウトカムの悪化について,「敗血症という疾患そのものが重症なのだから,後遺症で長期的機能予後が悪化することは仕方がない.」とこれまで考えられてきたが,はたしてそうであろうか?ひとつの研究を紹介する.Givensら[8]は,米国の22の介護施設で認知症が進行した肺炎患者225例の前向き観察研究(CASCADE study)を行っており,登録された患者のうち,DNH希望(Do-not-hospitalized order;入院しない意思表示)が50.7%を占めていた.当然ながら,肺炎であることから抗菌薬を投与することで死亡リスクは80%減少し,DNHの意思表示は死亡リスクを2.21倍に有意に増加させた.一方,この研究はQOLも評価しており,人生最期のQOLを評価したEnd-of-Lifeスコアは抗菌薬投与や入院により著しく低下していたのである.このような身体機能が衰えだしたfrailtyの状態にある高齢患者は医療介入による影響が非常に大きい.すなわち,入院,医療行為もまた侵襲であることを我々は認識しなければならない.ICU患者においては医療介入による侵襲は非常に大きく,疾患そのものによる侵襲以外にも我々医療従事者が患者に与える侵襲の大きさを認識しなければならない.

■これらの教訓として,救命のためなら予後改善のエビデンスが乏しい治療でもとりあえずやっておこう,保険が通っているからとりあえずやっておこう,という安易な考えは避けるべきであると思われる.有益性が得られないどころか長期的に有害性が生じる可能性もあるのであれば,そのような治療を漫然と行うべきではない.

3.PICSという概念の登場

■ここまで述べた通り,急性期は救命できても,長期的には死亡率上昇やQOLが低下しているという事実が無視できない状況であることが明らかにされてきた中で,2010年の米国集中治療医学会(SCCM;Society of Critical Care Medicine)の合同カンファレンスにおいて,ICU退室後の長期アウトカムを改善する指針が提示された[9].その中で,PICS(Post Intensive Care Syndrome;直訳すると集中治療後症候群)という概念が初めて提唱された.このPICSは,PCAS(Post Cardiac Arrest Syndrome;心停止後症候群)[10,11]に続く用語として好ましいとされている.PICSの概念図を以下に示す.
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■PICSはICUで集中治療を受けた生存患者のみならず家族をも巻き込んでしまうこと[12-16],呼吸障害や神経筋障害[17-19]などの身体的障害や認知機能障害のみならず精神的障害[6]も生じうることを重要視している.救命のために不可避な治療行為の侵襲性は想像している以上に患者の長期予後に大きな影響を与えており,救命という短期予後改善の引き換えに医原性の長期予後悪化を伴うというジレンマが生じている.

■これまで,ICUで治療を受けた敗血症患者は救命か治療限界かの2択と考えられてきた.しかし,敗血症の治療成績が向上し,多くの重症敗血症患者が救命されるようになってきた中で,ICU退室後に一般病棟に移ってそのまま軽快退院し,社会復帰するとは限らない患者,すなわちPICSに陥った患者も増加してきた.PICS患者には著しい機能低下により余生をどう過ごすかの判断が迫られる患者も存在し,慢性期のEnd-of-Lifeケアの対象となることがある.その一方で,リハビリテーションなどを積極的に行い,PICSから社会復帰を目指すこともできる.これまで救命のみを目指してきた救急・ICUの治療から脱却し,その先にある社会復帰を目指す上でPICSという概念は非常に重要である.
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■現在,救急・集中治療分野において,PICSはEnd-of-Lifeと双璧をなす新たな課題となっているが,残念ながら2012年に発表された日本版敗血症診療ガイドライン[20]もSSCG 2012[21]にもその点に関しては一切触れられていなかった.しかし,2016年に改訂予定の日本版敗血症診療ガイドラインにおいて,PICSは新たに大項目として追加される予定であり,敗血症ではSSCGにもない推奨を日本が先陣を切って発信することになるかもしれない.

4.PICSの原因となる医療介入と予防・治療

■長期アウトカムに影響を与える因子は数多くの報告があり,またそれらの因子に影響を与える因子も様々であるため,PICSの原因は非常に多岐にわたる.つきつめていけば,ほとんどすべての医療介入はPICSの原因となりうるのである.これらの原因を大きく3つに分けるならば,①検査・治療・ケア因子,②環境因子,③精神因子が挙げられる.PICSの予防・治療に関するエビデンスはまだまだ乏しいが,これまで培われてきたICUにおける様々な取り組みを活用することでPICSを予防・治療できる可能性があり,幸いなことにこれらを達成するための各種エビデンス,ガイドラインが存在する.

■①検査・治療・ケア因子としては,各種薬剤(薬剤の副作用),過剰輸液,血液浄化療法,挿管人工呼吸,各種カテーテル,各種血液製剤,体位変換,気道吸引,各種侵襲的検査などであり,ほぼすべてが何らかの侵襲を伴う.これらの対策として,根拠の乏しい治療の回避,低侵襲治療,ABCDEバンドルを活用した人工呼吸器・ICU早期離脱,PADガイドラインを活用したせん妄予防,リハビリテーション,各種ルーチンの見直しなどが考えられる.

※余談であるが,治療薬の中でQOLがむしろ改善したとする珍しい報告がある.Rubleeら[22]は敗血症患者に対するアンチトロンビン製剤を検討した大規模二重盲検RCTであるKyberSept trial[23]の二次解析を行い,ヘパリンを投与されていないアンチトロンビン製剤投与患者はプラセボ群より有意にQOLが高かったと報告している.この報告はなぜか研究会や学会どころかアンチトロンビン製剤のメーカーの宣伝ですらほとんど引用されていないが,はたしてDIC治療がPICS予防に寄与するのか非常に興味深いところではある.

■②環境因子としては,アラーム音,閉塞空間,ICU環境菌による二次感染リスクなどがある.これらの対策としてICU環境整備,耳栓,接触感染予防の徹底などがある.

■③精神因子としては,不眠,ICU滞在による精神ストレス,自身の病状や社会的・経済的背景等に対する不安などがある.これらの対策として,患者や家族のメンタルケア,日記をつける,面会時間を見直す,などがある.

■現在,敗血症生存者に対する,退院時管理およびエビデンスに基づいた敗血症後遺症のケアが長期的(最大24ヶ月)健康関連QOLを改善するかについて評価する多施設共同RCTであるSMOOTH study[24]が開始されている.

■PICS予防にあたり,リハビリテーションはかなり有効であろうと考えられ,中核的位置づけになると思われるが,標準的リハビリテーションを超えた,強化有酸素運動や電気刺激等の先進的強化リハビリテーションを入院早期から行っても身体機能回復は標準的リハビリテーションと有意差なく,むしろ1年死亡リスクが1.74倍に増加したというRCTが報告されており[25],やりすぎないよう注意が必要である.

5.PICSのエビデンスの注意点
■特定の医療介入が長期アウトカム悪化の原因となりうることを示唆する研究は多数存在するが,これらには注意が必要である.PICS関連を主要評価項目として検討したRCTは実はほとんど存在せず,観察コホート研究かRCT二次解析研究(多数の脱落例が生じる可能性あり)しかない.すなわち,質の低い研究結果にもとづいていることになる.

■さらに,これらの研究では多変量解析(重回帰,propensity matching解析など)を用いた研究が多いが,事後で組み込む変数を決定しているために恣意的バイアスがかかることになり,また,統計学的処理の限界により,重症患者に優先的に行われる医療介入が長期予後を悪化させるという偏った結果を招いてしまう懸念もある.

■さらに,長期予後の評価に伴う多数の交絡因子の存在による信頼性の限界も存在する.そこには社会的要素もおおいに関与してくる可能性もあり,国や地方,患者の社会的背景にも左右されうると推察されている.その一方で,重症敗血症の国際コホートデータであるPROGRESS(Promoting Global Research Excellence in Severe Sepsis) registry[26]の二次解析(24カ国7022例,死亡率49.2%,最低死亡率30.6%,最高死亡率80.4%)が行われた[27]が,多変量解析では,先進国であるか発展途上国であるかは関係がなく,一人当たりの国民総生産高も関係がないという結果であった.加えて,重症度の予後の既知のすべてのマーカーは死亡率の国際的差異を十分には説明しえなかった.

■以上から,他の組織的あるいは構造的要因が患者診療と転帰の格差を生む出している可能性もあり,極めて複雑な交絡因子が存在する可能性が推察される.このため,日本独自の長期予後の検討も必要である.しかしながら,長期予後の評価は追跡調査が必要なため非常に難しく,特にコホートシステムが乏しい本邦ではさらに困難となることが予想される.それを補助する手段としてDPC診療データの解析が目安になりうる.ただし,DPC診療データは検査値などが含まれず,病名がアップコーディングされているケースもあるため,評価が難しい側面を有する.これらのことから長期予後の現状を把握するのは困難といえる.最良の評価方法はRCTということになるが,長期的に追跡しながらQOLを評価するアンケート調査を行うのは非常に難しい.現実的には大規模かつ質の高い前向きコホート研究に頼らざるを得ないと推察される.

■長期予後評価においてはQALYs[28]の概念を知っておく必要がある.これはとりわけ薬剤経済学(Pharmacoeconomics)において重要視されている.QALYs(Quality Adjusted Life Years;質調整生存年)とは,生存年数とQOLを統合した指標である.すなわち,横軸に生存年数,縦軸にQOLを設定したときのKaplan-Meier曲線下面積がQALYsに相当する.今後このような指標での評価も必要となるだろう.

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by DrMagicianEARL | 2014-07-16 00:00 | 敗血症 | Comments(0)
2011年11月21日作成
2014年6月24日改訂

Summary
・EGDTは敗血症性ショック治療の中心となる急性期循環管理プロトコルであり,6時間以内に循環動態を改善させることを目標としている.
・たとえ6時間たってEGDTが達成できていなくても,12-18時間以内であれば予後は改善しうるとする報告があり,6時間を超えてもあきらめずにEGDTは続けるべきである.
・敗血症性ショックでの急速大量輸液は必須であるが,輸液過剰となると予後を悪化させる可能性が指摘されていることは知っておく必要がある.
・過去の多くのコホート研究でEGDTが敗血症性ショックの死亡率を改善させたと報告している.
・ProCESS trialではEGDTがプロトコルを用いない治療法(通常治療群)に比して死亡率を改善させなかったが,全体の死亡率が低く,経験豊富な救急集中治療医が治療を行っていることが通常治療群の死亡率の低さを担保しており,EGDTが有用でないと判断すべきではなく,敗血症治療に慣れていない施設ではEGDTを推奨すべきである.
・ScvO2の代わりに乳酸クリアランスを評価したEGDT(ELGT)は有用であると思われる.

1.EGDTとは?

■EGDT(早期目標指向型治療;Early Goal-directed therapy)はSurviving Sepsis Campaignで推奨されている治療概念であり,抗菌薬治療とは独立した,敗血症性ショック治療の中心となる治療法である.これまで急性期循環管理にEGDTを導入したのは,1988年のShoemaker WCらの報告[1]にさかのぼり,その後の報告[2-5]によっても酸素消費量を改善するには至適な循環血流量の維持が必要であることが示されていた.

■EGDTの有用性を広く知らしめたのは2001年のRiversら[6]の報告である.この研究では,救急初療の段階で敗血症性ショックと診断された患者263例の患者をEGDT群と対照群で比較したRCTであり,カテコラミン投与に優先して十分な輸液を行い,中心静脈酸素飽和度を改善させるEGDTによって,末梢の虚血に伴う代謝性アシドーシスと乳酸産生を救急初療の段階で有意に軽減し,院内死亡率は30.5%vs46.5%(p=0.009)でEGDT群が有意に低かった.このEGDTでは,ショック初期6時間におけるScvO2≧70%達成率は94.9%vs60.2%,7-72時間後の人工呼吸器装着率は2.6%vs16.8%でいずれもEGDT群の方が低い結果となっており,敗血症性ショックに対するEGDTが有効であると結論づけている.

■このRiversらの報告では,ショックが進行性病態であり時間経過に伴い不可逆的循環不全へ移行する可能性があること,輸液の治療目標を具体的に定めるべきであること,初期の必要な輸液により院内死亡率を低下させる可能性を示したと考えられる.また,NNT 6.25と,他の敗血症治療よりもはるかに優れていることが示されている.それまで敗血症性ショックで有意な死亡率改善を示した大規模studyはほとんど存在しなかったが,本報告が与えた影響は絶大であり,その後,EGDTを導入したプロトコルで死亡率が改善したという報告が相次いでおり,SSCGにおいても初期蘇生の中心的治療と位置づけられている.

■EGDTに沿った治療法をICUに入室してから行うのは時間のロスが大きく,EGDTはERから直ちに治療を開始してICUに引継ぎ,来院から6時間継続して全身管理を完了させることが絶対目標となる.EGDTの周知徹底はICUスタッフだけでは足りない.敗血症患者に最初に接触するのはむしろERや一般病棟スタッフである.マンパワーや慣れしだいで患者予後は変わり,入室時刻や発症場所はその重要な要因となる.フィンランドのICU調査報告では,週末に入院した患者の死亡率は高く(OR 1.20),ICUにおける死亡は夜間に多かった(OR 6.89)[7].一般病棟から緊急ICU入室は,同じ重症度でも救急外来や手術室からのICU入室より死亡率が高い[8].敗血症患者はERを介して入院した方が,直接入院した場合より死亡率が低い[9].EGDTに含まれる循環作動薬については,3カ国28施設共同6514例コホート研究において,投与開始が1時間遅れるごとに死亡リスクは2%ずつ有意に増加すると報告されている[10].これらが示す通り,重要なのは初動である.敗血症は心筋梗塞などと違い突然心停止するといったことは起きないが,わずかな時間でも予後不良に直結する可能性がある.ICU以外のスタッフの初期治療とスピードは極めて重要である.

■EGDTは3段階のGoal方式であり,各段階のGoalを達成すれば次の段階の治療に移るというものである.
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■Sohnら[11]は敗血症性ショック患者332例の前向き観察研究を行い,蘇生バンドル達成までの時間が6時間以下,6-12時間,12時間超の3群の28日死亡率はそれぞれ13.3%,13.6%,29.5%であり,6時間を超えても,12時間までなら予後を改善しうることを示した.同様に,Cobaら[12]も,498例の前向きコホート研究において,蘇生バンドル達成までの時間について18時間でカットオフとすると,死亡率は18時間以内の方が有意に低いと報告している.このことから,たとえ6時間を超えてしまってもEGDTは継続すべきである.

■一方で,EGDTに対する批判もある.CVPから推測される血管内容量の信頼性は実際には低いとの指摘も多く,CVPのみに依拠した輸液管理には危険がある.また,敗血症では組織の酸素代謝障害をきたしやすく,ScvO2は組織酸素摂取率(O2ER)が決定因子であり,酸素代謝異常が存在する敗血症患者で低O2ERが著明になれば,組織酸素欠乏状態にも関わらずScvO2は高値を示してしまう.それゆえ,ScvO2が敗血症患者の循環管理指標として不適切という指摘も多い.

■なお,本記事では詳細は扱わないが,EGDTにおいて輸液過剰が生じることが近年問題視されていることは知っておく必要がある[13].More is not always betterの原則の通り,輸液が過剰となると逆に予後が悪化する可能性も指摘されており[14],敗血症性ショック病態において急速輸液は必須であるものの,どこまで投与するか,何をモニタリングするのがベストであるかの検証が今後の課題である.

2.RiversらのEGDTプロトコルの検証 ~ProCESS trial~

■画期的と言われたRiversらの研究は,その後CVPやScvO2の有用性が疑問視されても[15]なおSSCGにおいて蘇生プロトコルに最重要な治療戦略として組み込まれて続けている.この10年以上も前の古いプロトコルが推奨され続けてきた背景には,EGDTそのものの有効性を非EGDTと比較して評価したRCTが実はRiversらの報告以降1報もなかったという事情もある(個々の指標を評価したRCTはある).いかなるエビデンスもといえどもその妥当性はTPO(Time Place Occasion)の影響を免れない.質の高いシステマティックレビューによるエビデンスでも賞味期限1年以内が15%,2年以内が23%,賞味期限の平均期間はわずか5.5年(95%CI 4.6-7.6)しかなく[16],RiversらのEGDTプロトコルが再検証されるのは必然の流れであった.

■このような流れの中で3つの大規模多施設共同RCTであるProCESS,ARISE,ProMISeが進められた[17].この3つのRCTはデータを統合して解析可能であることも報告されており[18],最終的に3つの結果すべてが出揃えば精密なメタ解析がなされるものと思われる.

■そして,これらの3つのRCTのうちの1つ,ProCESS trialの結果[19]が2014年3月にthe New England Journal of Medicineにonline publishされ大きな話題となった.本研究は米国31施設のERで行われ,敗血症性ショック患者を6時間の蘇生において,EGDTプロトコル(Riversのプロトコル+尿量モニタリング)群,収縮期血圧(100mmHgでカットオフ),ショック指数(0.8でカットオフ),尿量を指標に輸液負荷,循環作動薬を投与した標準治療プロトコル群,プロトコルを用いない通常治療群の3群に割り付けた1341例の大規模RCTである.60日死亡率はEGDTプロトコル群21.0%,標準治療群18.2%,通常治療群18.9%(プロトコルvs通常治療 RR 1.04; 95%CI 0.82-1.31; p=0.83 / EGDTプロトコル vs 標準治療プロトコル RR 1.15; 95%CI 0.88-1.51; p=0.31)であり,有意差はみらず,また,90日死亡率,1年死亡率,臓器支持療法の必要性についても有意差はみられなかったことから,「ERで診断された敗血症性ショック患者へのプロトコルに基づいた蘇生は予後を改善させなかった」と結論づけている.

■Riversら研究の時とProCESS trialでは支持療法が異なる.とりわけ,敗血症の早期認知,早期の抗菌薬治療開始,NICE-SUGAR studyで示された中等度レベルでの血糖管理,低1回換気戦略といった部分で予後が当時よりさらに改善しており,死亡率が20%前後というのは歴代の敗血症性ショック患者を対象とした大規模RCTの中でも最もよい治療成績である(平均APACHEⅡスコアは20.7).これは研究前の予想死亡率,APACHEⅡスコアからの予測死亡率よりも低い.このような背景から死亡率に差がつかなかった可能性もある.

■このProCESS trialの結果から,「EGDTプロトコルは無効だった」という解釈をしている人が続出したが,これについては注意が必要である.このProCESS trialの結果はRiversらの功績を否定するものではない.事実,EGDTによって死亡率が低下したとするコホート研究の報告は数多く存在する.Wiraら[20]はこれらの25報3566例のメタ解析を行い,EGDTプロトコルによって死亡率が有意に改善した(25.8% vs 41.6%, p<0.0001)と報告している.敗血症治療の基礎が定まっていなかった時代,あるいは敗血症治療の知識・経験が乏しい施設においてはEGDTが救命に大きく寄与してきたことは事実である.さらに,EGDTの普及を通して敗血症の循環動態を,治療概念を多くの医師に認知させることによりさらなる救命率の向上と研究を発展させた功績は大きい.Riversらが研究を行った時代は7割の医師が敗血症の定義を認知しておらず,また正しい知識を持ち合わせていないために8割の医師が敗血症を誤診するという事態が発生していたのである[21].こういった時代背景の違いもアウトカムの違いに影響がでたものと思われる.

■よって,敗血症治療成績がまだ芳しくない不慣れな施設においては,まずはガイドライン(SSCGや日本版敗血症診療ガイドライン)に沿ったEGDTの推奨によって治療水準を標準レベルまで上げるべきである.少なくとも今回のProCESS trialはEGDTが通常治療と比較して死亡率を改善させなかったというものであり,EGDTが予後を悪化させたわけではない.また,対照群とされた通常治療群の治療の質は経験豊富な三次救急施設の救急集中治療医によって担保されており,そうでないならばEGDTプロトコルに従っておく方がbetterであろう.

3.乳酸値を指標としたEarly Lactate-Guided Therapy(ELGT)

■現在の臨床現場においてはこのRiversらのプロトコルをそのまま用いている施設はむしろ少ないのではないかと思われる.各施設でカスタマイズされたEGDTプロトコルを施行していることが予想され,このProCESS trialの結果を受けて現在の敗血症性ショックの診療スタイルを変える医師はそれほどいないのではないだろうか?現在では乳酸値を指標としたEGDTを行っている施設は多いだろう.実際,乳酸値がScvO2より重要と考えている救急集中治療医は多いことが報告されている[22]

■EGDTがガイドラインで推奨されていた中,敗血症治療における乳酸クリアランスに関する研究報告がだされ,それらの結果をもとに2010年にJansenらが敗血症のみならず高乳酸血症をきたしたICU患者において,EGDT群と,乳酸値を指標にしたprotocolを作成してEGDTに組み込んだEarly Lactate-Guided Therapy(ELGT)治療群のRCTであるLACTATE studyを行った結果が発表された[23].それによると,乳酸濃度,昇圧薬使用期間,腎代替療法使用率では有意差がなく,ELGT群では輸液量,血管拡張薬の使用頻度が有意に増加したが,最終的にICU入室期間を減少させ,SOFA score,死亡率を有意に改善させた(43.5%vs33.9%).サブ解析では死亡率改善は特に敗血症患者において顕著であった.このELGTにおいては,乳酸値を2時間ごとに8時間計測し,前値より20%低下させることを目標においている.これにより,輸液量は増加するものの死亡率の改善が示されている.また,高乳酸血症是正のために血管拡張薬を用いている.

■さらに同年,Jonesら[24]が重症敗血症,敗血症性ショックの患者300例を対象として,EGDTでの初期蘇生目標をScvO2≧70%とする群と乳酸クリアランス≧10%/2hrを目標にする群で比較したRCTを報告しており,院内死亡率は23% vs 17%で統計学的有意差はみられなかった.

■また,Nguyenら[25]は,重症敗血症の蘇生バンドルに乳酸クリアランスを導入することが予後を改善するかを検討した,アジアの8つの3次救急施設における556例前向きコホート研究を2011年に報告しており,乳酸クリアランスのバンドル項目は有意な予後関連独立因子であり,乳酸クリアランスが高い方が死亡率が改善していた.

■これらの結果から,SSCG 2012では乳酸値を正常化させることを目標とした蘇生が推奨されるようになっている.

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by DrMagicianEARL | 2014-06-24 00:00 | 敗血症 | Comments(0)
■ウリナスタチン(ミラクリッド)はもはや化石のような薬剤な上に,作用機序的にも疑問があったので私はもう一生投与することもない薬剤・・・と思っていたらインドからRCTがでてきました.調べてみたら実は中国でもRCTがいくつかあったんですね.今回はpilot RCTでper-protocol解析ではポジティブ,ITT解析ではネガティブな結果.今後大規模試験が組まれるのでしょうか.本研究の紹介とともに過去の重症敗血症に対するウリナスタチンのRCTのシステマティックレビューも行ってみました.残念ながら効果は用量依存性であり,本邦のウリナスタチンの用量では重症敗血症の予後を改善する根拠はなく,使用するのは早計と思われます
重症敗血症におけるウリナスタチン静脈内投与:多施設共同無作為化比較試験
Karnad DR, Bhadade R, Verma PK, et al. Intravenous administration of ulinastatin (human urinary trypsin inhibitor) in severe sepsis: a multicenter randomized controlled study. Intensive Care Med 2014; 40: 830-8
PMID:24737258

Abstract
【目 的】
セリンプロテアーゼ阻害薬のウリナスタチンは,敗血症において,各種向炎症プロテアーゼを阻害し,炎症性サイトカインと死亡率を減少させる.我々は,インドの7施設で重症敗血症患者に対する二重盲検試験を行い,28日全死亡におけるウリナスタチンの効果を検討した.

【方 法】
敗血症患者は1つ以上の臓器不全を発症してから48時間以内に,ウリナスタチン(20万単位)またはプラセボを12時間ごとに5日間静脈内投与するよう,無作為に割付けられた.

【結 果】
122例が無作為に割付けられ,114例が試験を完遂した(55例がウリナスタチン投与,59例がプラセボ投与).患者背景では,平均APACHE IIスコアは13.4(標準偏差4.4),48例(42%)の患者が人工呼吸管理を受け,58例(51%)が循環作動薬を投与され,35%が多臓器不全を有していた.調整したintention-to-treat解析(6回以上の研究薬を投与された患者)では,28日全死亡率はウリナスタチン群で7.3%(4例死亡),プラセボ群で20.3%(12例死亡)であった(p=0.045).多変量解析においても,ウリナスタチンによる治療は28日全死亡減少に独立して関連していた(OR 0.26; 95%CI 0.07-0.95; p=0.042).しかし,intention-to-treat解析では,死亡率の差は統計学的に有意ではなかった.(10.2%(6/59例死亡) vs 20.6%(13/63例死亡); p=0.11).ウリナスタチン群は新規発症の臓器障害発生率が少なく(10例 vs 26例; p=0.003),人工呼吸管理のない日数が多く(平均±標準偏差; 19.4±10.6日 vs 10.2±12.5日; p=0.019),入院期間が短かった(11.8±7.1日 vs 24.2±7.2日; p<0.001).

【結 論】
本予備試験において,ウリナスタチンの静脈内投与は重症敗血症患者の死亡率を調整されたintention-to-treat解析では減少させたが,intention-to-treat解析では減少しなかった.
1.本研究結果について

■本研究はabstractでは二重盲検RCTとしか記載されていないが,実際にはブロックランダム化(ブロックサイズは4例)を用いている.絶対死亡率で見るとNNTは約10となかなかの治療成績である.調整したintention-to-treat解析(ITT解析)はper-protocol解析(PP解析)のことであろう.ITT解析では有意差はついていないが,有意差をつけるには検出力を0.8とすると必要サンプル数は416例となる.今後組まれるとしたら500例程度のRCTになるだろうか?

■登録された224例のうち約半数の102例が除外されている.除外基準は妊婦,授乳中,血小板数3万未満,臓器移植歴,コントロールされていない悪性新生物,慢性腎不全末期または肝疾患末期,体重135kg超過,治療の限界を有する患者,24時間以内に死亡が予測される患者である.

■重症敗血症でプラセボ群の死亡率は20%程度なのは近年の研究で見ると妥当な水準であると思われるが,登録対象患者が18-60歳となっており,平均年齢を見ると37歳(標準偏差は13)であり,近年の敗血症の研究と比較すると20-30歳ほど若い.一般的に敗血症が多いとされる高齢者はほとんど含まれていない.また,プラセボ群に男性が多い(69% vs 85%; p=0.05).APACHE IIスコア(13.2 vs 13.5; p=0.81),循環作動薬使用(50.8% vs 50.9%; p=0.99),人工呼吸管理(41% vs 44%; p=0.75)には差はない.白血球数,血小板数,CRP,障害臓器数や背景疾患,感染巣にも差はない.

■変数減少法を用いた多変量ロジスティック回帰解析(年齢,性別,GCS,特異的臓器障害,臓器障害数,循環作動薬使用で調整)では,腎不全(OR 6.37; 95%CI 1.70-23.8; p=0.006),人工呼吸器必要度(OR 3.36; 95%CI 1.01-11.2; p=0.048),ウリナスタチン(OR 0.26; 95%CI 0.07-0.95)が28日予後と関連した独立因子であった.なお,調整因子にAPACHE IIスコアはなぜか含まれていないが,これは恣意的な選択であろうか?

■ウリナスタチンの投与量は20万単位を12時間ごとであり,本邦保険適応最大用量の30万単位/日を上回っていることに注意が必要である.

2.ウリナスタチンと敗血症に関するRCTのシステマティックレビューおよびメタ解析

■ウリナスタチン(ミラクリッド)はヒト尿から精製され,分子量67kDaで半減期35分のセリンプロテアーゼ阻害薬である.トリプシン,α-キモトリプシン,エラスターゼ等の蛋白分解酵素やヒアルロニダーゼ,リパーゼ等の糖・脂質分解酵素をも阻害する[1].また,フリーラジカル消去作用を有することも分かっている[2]

■マウス実験では,エンドトキシンショックのマウスにウリナスタチンを静脈内投与したところ,生存率は有意に上昇したとしている[3].また,エンドトキシンショックのイヌにウリナスタチンを静脈内投与したところ,低下した平均動脈血圧,心係数,大動脈血流量,腎血流量等が増加したとしている[4]

■本邦でのRCTは2つあるが,いずれも敗血症に限定したものではない.急性循環不全(心原性以外のショック)を対象とした40施設共同の二重盲検RCT(第二相試験)において,急性循環不全に対する有効率は82.5%(47/57)で,ショック患者における収縮期血圧,脈拍数,Base Excess,尿量,意識状態などの異常を改善しており,低用量群よりも高用量群の方が,またショックの中でも細菌性ショックでショック離脱率の有意な改善を示している[5].また,ショック患者を対象としたアプロチニン(60万単位/日×3日)とウリナスタチン(30万単位/日×3日)との二重盲検RCTでは,ウリナスタチンの有効率は71.7%(43/60)で,アプロチニンに比し有意に優っていた(p<0.01)[6].この研究では,ウリナスタチンがタンパク分解酵素の遊離抑制および活性を阻止した結果循環動態が改善した可能性を示唆している.いずれも死亡率改善効果を示したものではなく,小規模研究である.

■PubMedにおいて敗血症に対するウリナスタチンのRCTを検索すると上記インドでの報告以外に7報がヒットし,すべて中国からの報告であった.

■Chenら[7]は,重症敗血症に対してウリナスタチン60万単位/日+Thymosin α1併用群とプラセボ群を比較した114例二重盲検RCTを行い,28日生存率は54.1% vs 35.4%(p=0.078),60日生存率は 54.1% vs 28.2%(p=0.045),90日生存率は47.4% vs 20.0%(p=0.033)でいずれも有意に改善させている.

■Huangら[8]は,敗血症に対してウリナスタチン60万単位/日+Thymosin α1併用群と非使用群を比較した70例オープンラベルRCTを行い,28日生存率は併用群が高かったが統計学的に有意ではなかった(63.9% vs 41.2%; p=0.093).

■Liら[9]は敗血症に対してウリナスタチン60万単位/日+Thymosin α1併用群とプラセボ群を比較した56例二重盲検RCTを行い,28日生存率は併用群が高かったが統計学的に有意ではなかった(78% vs 60%; p=0.25).

■Zhangら[10]は,カルバペネム耐性菌による敗血症に対してウリナスタチン60万単位/日+Thymosin α1併用群とプラセボ群を比較した120例二重盲検RCTを行い,28日生存率は51.7% vs 33.9%(p=0.086),60日生存率は52.6% vs 26.7%(p=0.046),90日生存率は47.4% vs 20.0%(p=0.033)であり,生存率を改善させていた.

■Suら[11]は重症敗血症に対してウリナスタチン(最初4日間は40万単位/日,あとの6日間は20万単位/日)+Thymosin α1投与群と非投与群を比較した242例オープンラベルRCTを行い,28日死亡率は20% vs 33%でウリナスタチン群が有意に低かった(p=0.025).

■Linら[12]はウリナスタチン30万単位+Thymosin α1併用群と非投与群を比較した91例オープンラベルRCTおよびウリナスタチン60万単位+Thymosin α1併用群と非投与群を比較した342例オープンラベルRCTを行い,28日死亡率は前者のRCTでは有意差がなかったが,後者では25.14% vs 38.32%(p=0.0088),90日死亡率は37.14% vs 52.14%(p=0.0054)であり,併用群で有意に死亡率が低かった.

■Wuら[13]は,2011年10月から2012年10月まで登録された重症敗血症に対してウリナスタチン9万単位/日投与群と非投与群を比較した60例のオープンラベルRCTを行い,ウリナスタチン投与によりTregやTh17を減少させ,IL-17,IL-6,IL-10を減少させたが,28日死亡率は18.2% vs 20.1%; p>0.05で有意差はみられなかった.

■上記7報に加え本記事で紹介したKarnadらの報告を加えた8報のRCTをのメタ解析を行った.解析ソフトはEZR[14]を用いた.データ統合すると,サンプル数1112例,ウリナスタチン使用群とプラセボまたは非介入群の28日死亡率は26.9% vs 41.4%(p<0.0001)であり,ウリナスタチンは28日死亡リスクを48.0%有意に減少させる(OR 0.520; 95%CI 0.404-0.699).Thymosin α1を併用せずウリナスタチン単剤のみを用いた研究に限定すると,サンプル数174例,ウリナスタチン使用群とプラセボまたは非介入群の28日死亡率は11% vs 20%(p=0.095)でウリナスタチン群で低い傾向が見られたが統計学的有意差はなかった(OR 0.47; 95%CI 0.20-1.10).

■8報中6報でThymosin α1を併用していることに注意が必要で,ウリナスタチン単剤使用であったWuら[13]の報告では死亡率の改善は示せておらず,Karnadらの報告ではPP解析で有意に改善を示している.8報中6報でウリナスタチンの投与量が本邦保険最大用量よりも多く,最も少ないWuら[13]の報告(9万単位/日)では死亡率に有意差はなかった.日本と同一用量の30万単位/日を用いたLinらの報告[12]でも死亡率は改善しておらず,倍量の60万単位/日を用いると改善している(ただし,30万単位/日が91例の小規模研究であったために統計学的有意差がでなかった可能性もある).本記事で紹介したKarnadらの報告(PP解析)とSuらの報告[11]では40万単位/日で死亡率が改善している.これらのことから,ウリナスタチンの効果が用量依存性である可能性もある.また,3報[7,8,10]ではプラセボ群の生存率も低すぎることに注意が必要である.

■以上から,重症敗血症に対するウリナスタチンは,高用量投与で予後を改善する可能性はある一方で,本邦適応用量範囲では最大用量の30万単位/日を用いても重症敗血症の予後を改善する根拠は現時点ではまったくなく,少なくとも40万単位/日は必要である.また,ウリナスタチン単剤で評価したRCTは2報しかなく,その2報での死亡率改善効果は有意とは言い難い.今後,ウリナスタチン単剤での大規模RCTでの評価が必要である.

[1] Ohnishi H, Kosuzume H, Ashida Y, et al. Therapeutic effects of human urinary trypsin inhibitor on acute experimental pancreatitis. Nihon Yakurigaku Zasshi 1983; 81: 235-44
[2] 吉田正憲,吉川敏一,谷川徹,他.ヒト多形核白血球ウミホタルルシフェリン誘導体 ―依存性化学発光に対するプロテアーゼインヒビターの影響.医のあゆみ 1987; 140: 765-6
[3] Ohnishi H, Suzuki K, Niho T, et al. Protective effects of urinary trypsin inhibitor in experimental shock. Jpn J Pharmacol 1985; 39: 137-44
[4] Yao M, Honda K, Ishihara H, et al. Effects of MR-20 on canine plasma enzyme levels during shock. Masui 1982; 31: 1325-32
[5] 玉熊正悦,小関一英,倉光秀まろ,他.各種ショック患者に対するMR‐20の臨床的研究.救急医学 1984; 8: 619-24
[6] 山村秀夫,玉熊正悦,中島光好,他.各種ショックに対するMR‐20の臨床評価 アプロチニンを対照薬とした多施設二重盲検試験.医学のあゆみ 1984; 129: 730-8
[7] Chen H, He MY, Li YM. Treatment of patients with severe sepsis using ulinastatin and thymosin alpha1: a prospective, randomized, controlled pilot study. Chin Med J (Engl) 2009; 122: 883-8
[8] Huang SW, Chen J, Ouyang B, et al. Immunotherapy improves immune homeostasis and increases survival rate of septic patients. Chin J Traumatol. 2009 ; 12: 344-9
[9] Li Yumin, Chen Hao, Li Xun, et al. A new immunomodulatory therapy for severe sepsis: Ulinastatin Plus Thymosin {alpha} 1. J Intensive Care Med 2009; 24: 47-53
[10] Zhang Y, Chen H, Li YM, et al. Thymosin alpha1- and ulinastatin-based immunomodulatory strategy for sepsis arising from intra-abdominal infection due to carbapenem-resistant bacteria. J Infect Dis 2008; 198: 723-30
[11] Su L, Meng FS, Tang YQ, et al. Clinical effects of ulinastatin and thymosin alpha1 on immune-modulation in septic patients. Zhongguo Wei Zhong Bing Ji Jiu Yi Xue 2009; 21: 147-50
[12] Cooperative Group of immunomodulatory Therapy of Sepsis, Lin HY. Clinical trial with a new immunomodulatory strategy: treatment of severe sepsis with Ulinastatin and Maipuxin. Zhonghua Yi Xue Za Zhi 2007; 87: 451-7
[13] Wu TJ, Zhang LN, Kang CC. The effect of ulinastatin on disbalance of inflammation and immune status in patients with severe sepsis. Zhonghua Wei Zhong Bing Ji Jiu Yi Xue 2013; 25: 219-23
[14] Kanda Y. Investigation of the freely available easy-to-use software 'EZR' for medical statistics. Bone Marrow Transplantation 2013: 48, 452-8
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by DrMagicianEARL | 2014-05-28 18:19 | 敗血症 | Comments(0)
■今年1月に英国からブルージャーナルに「スタチンはICU患者のせん妄を減少させる」とするコホート研究の報告[1,2]がonline publishされたばかりですが,今度は米国からの報告です.ICUせん妄では有名なEly先生が両方の共同研究者になってます.
重症疾患におけるスタチンとせん妄:多施設前向きコホート研究
Morandi A, Hughes CG, Thompson JL, et al. Statins and Delirium During Critical Illness: A Multicenter, Prospective Cohort Study. Crit Care Med. 2014 May 7. [Epub ahead of print]
PMID:24810528

Abstract
【目 的】
スタチンはせん妄病態に関与する炎症と凝固に対する多面的効果を有しており,我々は,スタチン曝露が重症疾患罹患中のせん妄の減少に関連し,スタチン治療の中断がせん妄の増加に関連しているとする仮説を検証した.

【方 法】
研究デザインは多施設共同前向きコホート研究,研究の場は米国の2つの大規模三次救急施設の内科・外科ICUで,急性呼吸不全またはショックの患者を対象とした.介入は特にない.我々は入院前とICU在室中の毎日のスタチン曝露を調査し,CAM-ICUを用いて1日2回患者のせん妄の評価を行った.

【結 果】
763例の患者が登録された.患者背景の中央値(四分位範囲)は,年齢61歳(51-70歳),APACHE IIスコア25(19-31)であり,257例(34%)は入院前にスタチン内服歴があり,197例(26%)はICUでスタチンを投与されていた.全体では,588例(77%)がせん妄を発症した.全体では,共変量で調整すると,ICUでのスタチン使用はせん妄の減少に関連していた(p<0.01).この関連性は,敗血症や研究日の影響を受けていた.たとえば,スタチンの使用はday1の敗血症患者においてせん妄の減少に関連していたが(OR 0.22; 05%CI 0.10-0.49),day1の敗血症ではない患者(OR 0.92; 95%CI 0.46-1.84)では関連性がなかった.また,敗血症患者でも後期,たとえばday13では関連性がなかった(OR 0.70; 95%CI 0.35-1.41).入院前のスタチンの使用はせん妄に関連していなかったが(OR 0.86; 95%CI 0.44-1.66; p=0.18),より長い入院前のスタチン服用者のICUでスタチンを中断すると,せん妄のオッズは高かった.

【結 論】
重症患者において,ICUでのスタチンの使用は,特に敗血症早期においてせん妄の減少に関連していた.入院前から内服していたスタチンの中断はせん妄増加と関連していた.
[1] Page VJ, Davis D, Zhao XB, et al. Statin Use and Risk of Delirium in the Critically Ill. Am J Respir Crit Care Med 2014; 189: 666-73
[2] DrMagicianEARl. 【文献】スタチンはICUせん妄を予防する EARLの医学ノート 2014 Jan.24 http://drmagician.exblog.jp/21618525/
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by DrMagicianEARL | 2014-05-19 15:10 | 敗血症 | Comments(0)
今回はちょっと宣伝です
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■JSEPTIC(日本集中治療教育研究会)の機関誌であるIntensivist誌の最新号『ICUルーチン』(メディカル・サイエンス・インターナショナル,¥4,600)が発売となりました.今回は長谷川隆一先生(公立陶生病院救急部)と真弓俊彦先生(産業医科大学救急医学講座)がエディターとなり,本邦のICUで頻繁に行われている処置・検査・ケアのルーチンの計16項目を取り上げ,その現状とエビデンスのギャップ,どのように改めるべきかについてをまとめています.本ブログ記事の下の方に特集内容を並べてありますが,見て分かる通り,看護師さんにも大きくかかわる項目が約半数を占めていますし,ICUのみならず一般病棟でも参考になる内容がてんこ盛りです.

■今回私も『消化性潰瘍予防・治療』の項目を担当執筆させていただきました.入院患者にPPIやH2RAが特にリスクもないのにルーチンで投与されているのをよく見かけます.これはICU患者でも言えることで,ICU患者だからといって全例に消化性潰瘍が必要というわけではありません.American Society of Health-System-Pharmacistsの消化性潰瘍予防ガイドラインにICU患者での消化性潰瘍予防の適用基準があり,ICU入室だけでは適用にならないことが分かります.また,敗血症の国際ガイドラインSSCG2012においても,PPIが第一選択という推奨ばかりが知れ渡っていますが,「出血リスクを有する患者」「危険因子のない患者には投与すべきでない」という記載があり,敗血症だからといって適用があるわけではありません.

■ICU患者におけるPPI,H2RAについてはいくつものRCTとメタ解析がありますが,これらのエビデンスはほとんどが10年以上前のデータに基づくものであり,当時の消化管出血発生リスクは1-5%であったのが2000年以降は1%未満とされており,集中治療の進歩が消化管出血発生を大きく減少させていることから,これらのエビデンスは再検証される必要があります.

■同時に,不適切な消化性潰瘍予防薬投与は主に肺炎などの感染症といった有害事象やコストを増加させてしまうため,不適切使用を減じる方法が必要であり,この方策について,普段感染対策で抗菌薬適正使用を推進している経験をもとに述べさせていただきました.

※校正終了後に書き忘れていたことに気がついたのですが,頻度はかなり少ないですが,PPIの副作用にはcollagenous colitisもありますので注意してください.

Intensivist 2014, Volume 6, No.2『ICUルーチン』
序章.ルーチンの功罪
第1章.ICUにおけるケア
1.体位変換・褥瘡予防
2.口腔ケア:ケアの要は「歯垢の除去」だけでなく「汚染物の回収」
3.気管吸引:ルーチンの吸引は不要
4.家族ケア(心理サポート):多重ストレスを抱える家族にはどう介入するか
5.体温測定・クーリング:ルーチンの解熱療法は有効か?
6.カフ上部吸引孔付き気管チューブをルーチン使用してよいか?:適正使用される前提のもと全例でルーチン使用を
【コラム】頭高位は人工呼吸器管理患者のルーチン体位か?:エビデンスの検討と他体位の比較

第2章.ICUにおける検査・処置
7.レントゲン(胸部単純X線撮影):毎日のルーチン撮影は本当に必要か
8.採血・尿定性培養:ICUにおける血液ガス分析を減らすことはできるのか
9.消化性潰瘍の予防・治療:予防薬の適応について再考すべき時期にある
10.ICU入室中の心房細動の予防・治療:原疾患の治療と補正可能な併存病態の改善を優先する
11.抗凝固薬の使用方法:個々の症例ごとに血栓形成と出血のリスクを勘案し投与する
12.ICUにおけるリハビリテーション:早期離床・運動療法の有効性の検証と今後の課題
13.末梢静脈カテーテル:安全管理のために

第3章.ICUの環境整備・スタッフ関連
14.ICUの面会事情:愛する家族に会うことは制限されるべきなのか
15.清拭・環境整備と除菌:見た目が変われば周りも変わる
16.バーンアウト予防:医療崩壊にもつながるバーンアウトは,組織として予防に取り組むべし
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by DrMagicianEARL | 2014-04-14 12:57 | 敗血症 | Comments(0)
■NEJM誌敗血症大規模RCT第3弾は初期輸液に対するアルブミンを検討したALBIOS study.この研究については,主要アウトカムはネガティブであったものの,よく読むと簡単にConclusionsをそのままとらえるわけにはいかない論文と思われます.
重症敗血症または敗血症性ショックの患者におけるアルブミン投与(ALBIOS study)
Caironi P, Tognoni G, Masson S, et al; the ALBIOS Study Investigators. Albumin Replacement in Patients with Severe Sepsis or Septic Shock. N Engl J Med 2014 Mar.18 [Epub ahead of print]
PMID:24635772

Abstract
【背 景】
これまでの研究では,重症敗血症の患者におけるアルブミン投与の潜在的有益性が示唆されてきたが,その有効性については完全には確立されていない.

【方 法】
本多施設共同オープンラベル試験において,我々は100の集中治療室で1818例の重症敗血症患者を,20%アルブミンと晶質液投与を受ける群と晶質液単独群に無作為に割り付けた.アルブミン群では,ICU退室まで,または無作為化から28日まで,血清アルブミン濃度30g/L(3.0g/dL)以上を目標とした.主要評価項目は28日全死亡率とした.副次評価項目は90日全死亡率,臓器障害数数,機能障害の程度,ICU在室期間,入院期間とした.

【結 果】
最初の7日間では,アルブミン群は晶質液群と比較して,平均血圧は高く(p=0.03),体液バランスは低かった(p<0.001).毎日の輸液総量は両群間で有意差がなかった(p=0.10).28日時点では,アルブミン群で895例中285例(31.8%),晶質液群で900例中288例(32.0%)が死亡した(アルブミン群RR 1.00; 95%CI 0.87-1.14; p=0.94).90日時点では,アルブミン群で888例中285例(41.1%),晶質液群で893例中389例(43.6%)が死亡した(RR 0.94; 95%CI 0.85-1.05).副次評価項目は両群間で有意差はなかった.

【結 論】
重症敗血症の患者において,晶質液単独と比較して,晶質液にアルブミンを追加しても28日,90日死亡率は改善しなかった.
■本研究はイタリアでICUで2008年8月から2012年2月までが登録期間となっている.重症敗血症と診断してから無作為化まで6時間未満の症例が31.8%,6時間以上が68.2%であった.死亡率が高まりやすい肺炎は4割程度であり,ノルアドレナリンが6割弱,ドパミンが3割弱,強化インスリン療法が5-6割,ステロイドが3割弱,無作為化前のヒドロキシエチルスターチ投与が3割強,ベースラインのSOFAスコア中央値は8(APACHEⅡスコアの記載はなし)というpopulationであった.28日死亡率は非ショック例も含めてで30%を上回っており,重症度に比して死亡率は高い印象がある.これは診断から治療開始までの時間が長かったことも関係しているのかもしれない.

■Abstractに記載されていない詳細データを見ていく.最初の7日間では,心拍数はアルブミン併用群が晶質液単独群より有意に低かった(p=0.002).新規発症の臓器障害数,SOFAスコアに有意差はなかった.SOFAスコアの各項目では,アルブミン群の方が心血管スコアが有意に低く(p=0.03),凝固系スコアが有意に高く(p=0.04),肝スコアが有意に高かった(p=0.02).循環作動薬,強心薬の投与期間はアルブミン併用群の方が有意に短かった(p=0.007).

■Kaplan-Meier生存曲線は期間が延長するほどアルブミン併用群と晶質液単独群の差が広がっていく(アルブミン併用群の方が生存率が高い)傾向がみられるものの,統計学的有意差はなく,90日時点での絶対死亡率差は2.5%,NNTは40であり,臨床的に有意な差とはいいがたい.サブ解析では,登録まで6時間未満の症例569例では死亡率に有意差なし(40.6% vs 40.6%; RR 1.00; 95%CI 0.82-1.22; p=0.99),登録まで6時間から24時間の症例1212例では統計学的有意差はないが,アルブミン併用群の方が死亡率が低い傾向がみられた(41.3% vs 45.0%; RR 0.92; 95%CI 0.81-1.05; p=0.20).ショック非合併例660例では統計学的有意差はないが,アルブミン併用群の方が死亡率が高い傾向がみられ(37.0% vs 32.7%; RR 1.13; 95%CI 0.92-1.13; p=0.25),ショック合併例1121例ではアルブミン併用群の方が死亡率が有意に低かった(43.6% vs 49.9%; RR 0.87; 95%CI 0.77-0.99; p=0.03).

■以上を総括すると,死亡率が約3割強とやや高めの重症敗血症の集団において,アルブミンの併用は平均血圧を上昇させ,心拍数を改善させ,循環作動薬・強心薬の使用期間を短縮し,初期7日間の体液バランスが有意に低いが,28日および90日死亡率に有意差はなかった.ただし,敗血症性ショックに限定したサブ解析ではアルブミン併用群の方が有意に死亡率が低かった.長期予後について有意な差が生じるかは現時点では不明である.

■主要評価項目の結果(+後述するEARSS study中間報告)をもって,「重症敗血症においてアルブミン製剤は有益ではなく不要である」と結論づけるのは簡単であるが,Conclusionsをそのまま鵜呑みにするのは本ブログの主旨ではないので,以下では研究の妥当性に主軸を置いた.

1.本研究結果は重症敗血症に対するアルブミン製剤の評価として妥当か?

■本ALBIOS studyの第一の疑問は,対象を重症敗血症という選択性の低いpopulationでの研究になぜしたのか?なぜ非ショック例まで含めたのか?である.これは近年,probioticsの抗菌薬関連下痢症効果を否定したPLACIDE study[1,2],低体温療法の有効性を否定したTTM study[3,4],スピリーバレスピマットが安全としたTIOSPIR study[5,6]といった大規模RCTに見られる特徴でもある.サンプル数を多くするためには患者選択性を甘くすればよく,そのぶん患者の多様性が増し,有意差が得られにくくなる側面をもつ.本研究もN数を増やす意味では重症敗血症まで含めるのは合理的である(SAFE study[7]で重症敗血症に限定したサブ解析[8]では死亡率が有意に改善したことが根拠となっている)が,アルブミン製剤の作用を考慮すれば敗血症性ショックに対象を絞らなければ正確な判断はできないものと思われる.実際に,本ALBIOS studyでは,敗血症性ショックに限定した1121例サブ解析ではアルブミン併用群が有意に死亡率が改善している(RR 0.87; 95%CI 0.77-0.99).なお,この疑問については現在試験を終了し,解析段階になっているEARSS studyが,研究デザインがかなり違うものの一定の参考となるかもしれない(後述).

■第二の疑問としては,アルブミンの目標値を3.0g/dLに設定していることであるが,これは妥当であろうか?本ALBIOS studyで3.0g/dLを目標値とした根拠はDuboisら[9]のRCTである.これは,3.0g/dL以下の低アルブミン血症を有する重症患者100例において,3.1g/dL以上になるまでアルブミンを投与する群とアルブミンを投与しない群に無作為に割り付けたものであり,アルブミン群で臓器機能障害が抑制され,体液バランスも少なかったとしたものである.また,この他の研究を見てみると,Foleyら[10]は重症患者40例において血清アルブミン値2.5g/dL以上を目標としてアルブミンを投与する群としない群を比較し,死亡率は39% vs 27%,合併症発生率89% vs 77%であり,入院期間,ICU在室期間,人工呼吸器装着期間,経腸栄養忍容性に有意差はなく,アルブミン製剤投与に有益性はみられなかったとしている.この他に,重症患者に対する特定のアルブミン値を目標としたアルブミン製剤投与の有用性を検討したRCTはなく,上記2つのRCTも小規模かつ重症患者という広い患者集団を対象としているため,重症敗血症の治療においてアルブミン値3.0g/dLを目標とするのが妥当かについては不明である.アルブミン値はSOFAスコアやAPACHEⅡスコアにも含まれておらず,データ抽出されず,研究対象となりにくいのかもしれない.敗血症性ショックでどの程度のアルブミン濃度を目標とすることが救命につながりうるかは不明であり,そもそも濃度をターゲットにすること自体が妥当であるかも不明である.むしろ循環動態の指標の改善をターゲットにする方が妥当かもしれない.

■第三の疑問として,本研究のアルブミン製剤投与期間はICU退室まで,または登録から28日までとなっているが,これほど長く投与期間を設ける必要はあったのだろうか?通常,これほど長い間アルブミン製剤を使い続けることは臨床上はそれほど経験されないのではないかと思われる(そう考えれば臨床現場とはかなり乖離した研究ということになる).これだけ長期間となれば,アルブミン製剤投与の目的は急性期の循環動態改善以外の意味も生じうる.すなわち,栄養面への影響であり,研究結果のとらえ方がより複雑になってしまう.現在,栄養においてアルブミン値モニタリングの有用性は低いと考えられているが,重症敗血症患者における栄養面でのアルブミンの有用性を評価したRCTはなく,長期投与が栄養に与える影響はいまだ明確とは言えない.なお,Weijsら[11]は人工呼吸器を装着した886例の前向きコホート研究においてアルブミンではないが,1.2h/kg/day以上の蛋白を投与できた群では28日死亡リスクが有意に減少したと報告している.

■第四の疑問は,20%アルブミン製剤が妥当であるかである.初期蘇生で用いるならば,循環血漿量の増加を期待する4.4%あるいは5%製剤が適しており,20%あるいは25%製剤は膠質浸透圧の改善から体腔内液や組織間液を血管内へ移行させることで浮腫を改善させる.一律に20%アルブミン製剤を使用し続けたのは妥当であろうか?

2.敗血症にアルブミン製剤を投与する意義とエビデンス

■重症患者では血管の透過性が亢進し,アルブミンが血管外へ漏出しやすい[12].アルブミン製剤を健常成人に投与する場合に比して敗血症患者に投与する場合は血中アルブミン増加量,血管内容量増加量はやや落ちるものの,20%アルブミン製剤200mLの投与により血管内容量を430mL増加させる(健常成人なら500mL)[13]

■重症患者に対するアルブミン製剤の有用性を検討した大規模RCTとしては,SAFE study[7]がある.本研究は,ICUに入室した重症患者6997例の蘇生輸液において,4%アルブミン製剤群と生理食塩水群に無作為に割り付けた多施設共同二重盲検RCTである.輸液量と速度は担当医が決定しており,目標アルブミン濃度は設定されていない.主要評価項目の28日全死亡率は有意差がなく(20.8% vs 20.8%; RR 0.99; 95%CI 0.91-1.09; p=0.87),不全臓器数,ICU在室期間,入院期間,人工呼吸器装着期間,腎代替療法期間に有意差はみられなかった.

■このSAFE studyで,重症敗血症に限定したサブ解析(1218例,両群間に有意差なし)[8]では,最初の7日間の平均動脈圧に有意差はなく,day1とday3の心拍数はアルブミン群の方が有意に低かった(p=0.002, p=0.003).SOFAスコア,およびSOFAにおける腎スコアは両群間で有意差がなく,腎代替療法必要度も有意差がなかった18.7% vs 18.2%; p=0.98).調整前の死亡リスクは統計学的有意差はないがアルブミン投与群で低い傾向がみられ(RR 0.87; 95%CI 0.74-1.02),ベースラインの多変量ロジスティック回帰解析での調整後は,アルブミン群が有意に死亡リスクが低かった(aOR 0.71; 95%CI 0.52-0.97; p=0.03).

■サブ解析結果を反映したRCTで有効性が示されることは集中治療領域ではまず経験されない(ARDSにおける腹臥位療法の有効性を示したPROSEVA trial[14,15]ぐらいであろう)が,今回のALBIOS studyとSAFE studyとのデザインの大きな違いとして,
 ①アルブミンの目標値の規定があるか否か,
 ②盲検か非盲検か,
 ③晶質液とアルブミン製剤を併用するかアルブミン製剤単独で投与するか,
 ④アルブミン製剤が4%か20%か,
があることに注意が必要である.特にアルブミン製剤を蘇生輸液で延々と投与し続けることは臨床現場ではまずないと思われ,晶質液と併用したALBIOS studyの方がまだ臨床現場感覚に近い.その一方で,投与量をアルブミン値で判断するか主治医の裁量で判断するか,となると後者のSAFE studyの方が臨床現場感覚に近い(おそらく循環動態指標をより重要視していることになると思われるため).

■このように,研究デザインの違いも考慮すると,敗血症に対するアルブミン製剤の使い方に関してはまだまだ議論の余地はある.

■その他研究として,Delaneyら[16]は,重症患者におけるアルブミン製剤と他の輸液製剤を比較したRCT17報1977例のメタ解析を行い,敗血症患者において死亡リスクが有意に改善したと報告している(HR 0.82; 95%CI 0.67-1.0; p=0.047).

■敗血症に対するアルブミン製剤の有効性を検討しているRCTとして今回報告されたALBIOS study以外に現在試験を終え,解析段階に入っているERASS study[17]がある.本研究は2006年から2011年まで行われたフランスの多施設共同試験であり,発症6時間以内の敗血症性ショックを対象としており,800例を登録予定である.実質,ALBIOS studyのサブ解析でアルブミン製剤による死亡率改善を示した敗血症性ショック患者を対象としていることになるが,研究デザインはかなり異なり,アルブミン目標値も定めず,循環動態指標を参考にしているわけでもなく,アルブミン投与量を投与量を固定している.すなわち,20%アルブミン製剤100mLまたは生理食塩水100mLのいずれかを8時間ごとに3日間投与するオープンラベルRCTである.2011年10月に欧州集中治療医学会で発表された中間報告では28日死亡率は24.1% vs 26.3%で有意差がなく,カテコラミン不要日数も有意差がなかった.

■今後EARSS studyの論文化により詳細が判明すれば,ALBIOS studyと併せて,アルブミンは非推奨となる可能性も否定できないが,できれば研究デザインを循環動態指標をターゲットに初期蘇生での4%アルブミン製剤を検討したRCTを組んでほしいものである.

■なお,余談であるが,アルブミン製剤の中にはクロール成分を多く含むものがあり,注意が必要である.高クロール血症をきたすと,高クロール性アシドーシスを引き起こし,腎血管が収縮し,腎機能障害が生じうることが知られており,実際に輸液による高クロール血症が尿量低下と関連している[18],クロールを制限した輸液が腎機能障害発生リスクを低下させる可能性も示唆されている[19,20]

※アルブミン値を見るときは,検査方法の違いに注意が必要である.以前は血清アルブミン値はBCG法で計測されていたが,2000年以降はBCP改良法[21]が普及しだしており,日本国内でのシェアはほぼ半々である.他のグロブリンまで拾ってしまうBCG法と比較してBCP改良法の方がより正確とされており,アルブミン値<3.0においては,BCG法に比してBCP改良法の方が0.3前後低くでる.論文を読む際や学会発表を行う際はいずれの検査法かを把握しておくべきである.

[1] Allen SJ, Wareham K, Wang D, et al. Lactobacilli and bifidobacteria in the prevention of antibiotic-associated diarrhoea and Clostridium difficile diarrhoea in older inpatients (PLACIDE): a randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre trial. Lancet 2013; 382: 1249-57
[2] DrMagicianEARL. 【文献】高齢患者の抗菌薬関連下痢症およびClostridium difficile予防におけるprobiotics. EARLの医学ノート 2013 Aug.26 http://drmagician.exblog.jp/20969315/
[3] Nielsen N, Wetterslev J, Cronberg T, et al; TTM Trial Investigators. Targeted temperature management at 33°C versus 36°C after cardiac arrest. N Engl J Med 2013; 369: 2197-206
[4] DrMagicianEARL. 【文献+レビュー】心原性心停止蘇生後への低体温療法で有益性示されず(TTM study). EARLの医学ノート 2013 Nov.12 http://drmagician.exblog.jp/21359178/
[5] Wise RA, Anzueto A, Cotton D, et al; TIOSPIR Investigators. Tiotropium Respimat inhaler and the risk of death in COPD. N Engl J Med 2013; 369: 1491-501
[6] DrMagicianEARL. 【文献】COPDにおけるチオトロピウム(スピリーバ®)レスピマット吸入と死亡リスク,TIOSPIR trial. EARLの医学ノート 2013 Sep.3 http://drmagician.exblog.jp/19054037/
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[8] SAFE Study Investigators, Finfer S, McEvoy S, Bellomo R, et al. Impact of albumin compared to saline on organ function and mortality of patients with severe sepsis. Intensive Care Med 2011; 37: 86-96
[9] Dubois MJ, Orellana-Jimenez C, Melot C, et al. Albumin administration improves organ function in critically ill hypoalbuminemic patients: a prospective, randomized, controlled, pilot study. Crit Care Med 2006; 34: 2536-40
[10] Foley EF, Borlase BC, Dzik WH, et al. Albumin supplementation in the critically ill. A prospective, randomized trial. Arch Surg 1990; 125: 739-42
[11] Weijs PJ1, Stapel SN, de Groot SD, et al. Optimal protein and energy nutrition decreases mortality in mechanically ventilated, critically ill patients: a prospective observational cohort study. JPEN J Parenter Enteral Nutr 2012; 36: 60-8
[12] Margarson MP, Soni N. Serum albumin: touchstone or totem? Anaesthesia 1998; 53: 789-803
[13] Margarson MP, Soni NC. Changes in serum albumin concentration and volume expanding effects following a bolus of albumin 20% in septic patients. Br J Anaesth 2004; 92: 821-6
[14] Guérin C, Reignier J, Richard JC, et al; PROSEVA Study Group. Prone positioning in severe acute respiratory distress syndrome. N Engl J Med 2013; 368: 2159-68
[15] DrMagicianEARL. 【文献】腹臥位療法は重症ARDSの予後を改善する(PROSEVA study). EARLの医学ノート. 2013 Jun.8 http://drmagician.exblog.jp/20609207/
[16] Delaney AP, Dan A, McCaffrey J, et al. The role of albumin as a resuscitation fluid for patients with sepsis: a systematic review and meta-analysis. Crit Care Med 2011; 39: 386-91
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by drmagicianearl | 2014-03-25 21:42 | 敗血症 | Comments(0)
■NEJM敗血症性ショックRCT論文第2弾,敗血症性ショックの血圧目標値についてのRCTであるSEPSISPAM studyを紹介します.
敗血症性ショックの患者の血圧目標の高値vs低値(SEPSISPAM study)
Asfar P, Meziani F, Hamel JF, et al; for the SEPSISPAM investigators. High versus Low Blood-Pressure Target in Patients with Septic Shock. N Engl J Med 2014 Mar.18 [Early publish online]
PMID:24635770

Abstract
【背 景】
Surviving Sepsis Campaignは敗血症性ショックの患者の初期蘇生において平均血圧を少なくとも65mmHgを目指すように推奨している.しかし,本血圧目標とより高い目標値との優劣は知られていない.

【方 法】
多施設共同オープンラベル試験において,我々は敗血症性ショック患者776例の蘇生を平均血圧目標80-85mmHg(高目標群)と65-70mmHg(低目標群)にそれぞれ無作為に割り付けた.主要評価項目は28日死亡率とした.

【結 果】
28日時点で,高目標群は388例中142例(36.6%)が,低目標群は388例中132例(34.0%)が死亡し,両群間の死亡率に有意差はなかった(高目標群HR 1.07; 95%CI 0.84-1.38; p=0.57).90日時点でも,高目標群は170例(43.8%)が,低目標群は164例(42.3%)が死亡し,両群間の死亡率に有意差はなかった(HR 1.04; 95%CI 0.83-1.30; p=0.74).深刻な有害事象発生は両群間で有意差がなかった(74(19.1%) vs 69(17.8%); p=0.64).しかし,新規の心房細動は低目標群よりも高目標群で多かった.慢性高血圧患者では,低目標群よりも高目標群の方が腎代替療法を必要としなかったが,腎代替療法は死亡の違いに関連していなかった.

【結 論】
蘇生を施行する敗血症性ショック患者において,平均血圧目標80-85mmHgは65-70mmHgと比較して28日,90日死亡率に有意差はなかった.

1.平均血圧目標のエビデンス

■本SEPSISPAM studyは,2010年3月から2011年12月までのフランス29施設で18歳以上の敗血症性ショック患者を対象として行われており,プロトコルはSSCG 2008に準拠している.カテコラミンは28施設がノルアドレナリン,1施設がドパミンを使用している.平均年齢65歳,平均SAPSⅡスコア,人工呼吸器装着率76%,平均乳酸値は3.5mmol/Lであり,28日死亡率が35%というのはやや高めの印象で,EGDTを評価したRCTであるProCESS trial[1,2]の60日死亡率約20%と比較してもかなり高い.登録基準,ベースの治療プロトコルの厳格さの違い,比較的死亡率が高くなる肺炎患者の比率がProCESS trialの3割よりも高い6割であることなどが影響しているものと思われる.

■敗血症の治療において,平均血圧65mmHg以上を目指す治療は多くの施設で行われているものと思われる.しかしながら,これを支持する質の高くサンプル数がそれなりにあるRCTは存在しなかった.SSCGにおいては根拠として以下の2つの小規模研究[3,4]を提示しており,逆に言えば平均血圧65mmHg以上の推奨のエビデンスはこの程度しかなかったということである.

■LeDouxら[3]は敗血症性ショックの患者10例において,ノルアドレナリンを用いて同一患者で平均血圧を65,75,85mmHgに維持する前向き観察研究を行い,各種パラメータを計測している.平均血圧65から85mmHgに上げると,心係数は4.7±0.5L/min/m^2から5.5±0.6L/min/m^2に有意に増加した(p<0.03)が,動脈血乳酸値,動脈血CO2分圧,胃粘膜CO2分圧,尿量,皮膚毛細血管血流に有意差はなかった.

■Bourgoinら[4]は敗血症性ショック患者28例において,ノルアドレナリンを用いて平均血圧を65mmHgに維持する群と85mmHgに維持する群を比較したオープンラベルRCTを行ったところ,心係数は85mmHg群の方が有意に高かったが,動脈血乳酸値,酸素消費量,尿流量,血清クレアチニン,クレアチニンクリアランスに有意差はなかった.

■またこれ以外にもDunserら[5]が行った敗血症性ショック患者274例の後ろ向きコホート研究では,1回以上の平均血圧60mmHg未満は死亡リスクが2.96倍(95%CI 1.06-10.36, p=0.04)有意に増加すると報告している. さらに,平均血圧が75mmHgを下回ると腎代替療法の必要性が増加するとも報告している.

■以上も踏まえるとより,目標値を高く設定するデメリットは,カテコラミン量が増加することによる有害事象,低く設定するデメリットは腎代替療法必要度が増加することであり,これらがそのまま今回のSEPSISPAM studyで示された.死亡率に有意差がないため,いずれがよりbetterであるのかを判断するのは難しい.

■詳しい内容を見ていく.主要評価項目の死亡率については統計学的有意差はない.Kaplan-Meier生存曲線は低目標群が常に高目標群より上(生存率が上)にあるものの,臨床的にも有意な差とは考えにくい差と思われる.二次評価項目である人工呼吸器必要性,ICU在室期間,入院期間,7日目時点でのSOFAスコアに有意差はなかった.輸液量も両群間で有意差はなかった.

■カテコラミン投与日数は低目標群3.7±3.2日 vs 高目標群4.7±3.7日(p<0.001)で高目標群の方が有意に長かった.心房細動発生率は低目標群2.8% vs 高目標群6.7%(p=0.02)で高目標群の方が有意に多かった.これ以外の有害事象については統計学的有意差はないものの,心筋梗塞発生率が低目標群0.5% vs 高目標群1.8%(p=0.18),心室細動/心室頻拍が低目標群3.9% vs 高目標群5.7%(p=0.24)で,心血管イベントリスクが高目標群で高い傾向が見られていることも注意が必要である.一方で,慢性高血圧患者に限定したサブ解析では腎代替療法必要度は低目標群42.2% vs 高目標群31.7%(高目標群HR 0.64; 95%CI 0.41-0.99; p=0.046)であった.

■腎代替療法が増えることはサブ解析の結果であるため,エビデンスレベルで言えば心房細動の有害事象を気にした方がよさそうではあり,どちらを選択するかと問われれば平均血圧65-70mmHgの低目標がbetterかもしれない.しかし,心房細動,腎代替療法はいずれも長期予後に影響を与えうる因子であり,いずれがbetterであるのかについては,長期予後を検討した二次解析での評価が必要であろう.

※当院では平均血圧65-80mmHgを目標にしているが,今回のSEPSISPAM studyを受けて上限値を少し下げてもよいかもしれないと考えている.

2.平均血圧で評価すべきか?

■今回のSEPSISPAM studyは平均血圧の目標値の評価であるが,血圧には,収縮期血圧SBP,拡張期血圧DBP,平均血圧MAPの3つの数字がある.重症管理患者におけるそれぞれの臨床的な意義は,
SBP:左室後負荷と動脈性出血リスクに関与
DBP:冠血流の決定因子
MAP:心臓以外の臓器灌流の決定因子
である.末梢臓器の虚血が問題となる敗血症性ショックにおいて平均血圧がもっとも重要であると考えるのが理にかなっており,集中治療においては平均血圧が最も重視されるべき項目であるともされている[6].これはあくまでも理論であり,現時点で平均血圧管理と収縮期血圧管理の違いのみを直接比較したRCTは存在しない.

■Lehmanら[7]は単施設の成人ICU患者27002例のペア解析で,血圧の低い状態では非観血的血圧測定は観血的血圧測定と比較して収縮期血圧を過剰評価する傾向がみられ,非観血的収縮期血圧<70mmHgは,観血的収縮期血圧<70mmHgと比較して急性腎不全およびICU死亡率との関連が強かった.しかし,平均血圧は測定法の違いで差がなく,いずれの測定法においても平均血圧<60mmHgが急性腎不全およびICU死亡率と関連していた.これらの結果からICUでは平均血圧で評価することが望ましいとしている.

■しかし,今回のSEPSISPAM studyと同時に報告された大規模RCTであるProCESS study[1,2]では,平均血圧で管理するEGDTプロトコルと収縮期血圧およびショック指数で管理する標準プロトコル群で死亡率に有意差はみられなかったことが報告された.EGDTプロトコル群は標準プロトコル群より輸液量が少なく,循環作動薬・輸血・ドブタミン使用量が多い結果となっている.さて,平均血圧か収縮期血圧か,臨床上本当に有益なのはいずれの管理であろうか?どうやら平均血圧での管理が妥当かについて検証する必要もありそうである.

[1] The ProCESS Investigators. A Randomized Trial of Protocol-Based Care for Early Septic Shock. N Engl J Med 2014 Mar.18
[2] DrMagicianEARL. 【文献】敗血症性ショックにおけるEGDTは予後を改善せず,ProCESS trial. EARLの医学ノート 2014 Mar.21 http://drmagician.exblog.jp/21799999/
[3] LeDoux D, Astiz ME, Carpati CM, et al. Effects of perfusion pressure on tissue perfusion in septic shock. Crit Care Med 2000; 28: 2729-32
[4] Bourgoin A, Leone M, Delmas A, et al. Increasing mean arterial pressure in patients with septic shock: effects on oxygen variables and renal function. Crit Care Med 2005; 33: 780-6
[5] Dünser MW, Takala J, Ulmer H, et al. Arterial blood pressure during early sepsis and outcome. Intensive Care Med 2009; 35: 1225-33
[6] Lamia B, Chemla D, Richard C. Clinical review: interpretation of arterial pressure wave in shock states. Crit Care 2005; 9: 601-6
[7] Lehman LW, Saeed M, Talmor D, et al. Methods of blood pressure measurement in the ICU. Crit Care Med 2013; 41: 34-40
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by drmagicianearl | 2014-03-24 19:59 | 敗血症 | Comments(0)

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