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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

カテゴリ:敗血症性DIC( 15 )

■リコンビナント・トロンボモデュリン製剤(以下rTM;商品名リコモジュリン®,旭化成ファーマ)は本邦で開発され,2008年に承認・発売開始となった新しいDIC治療薬であり,PhaseⅢ[1],市販後全例調査ともに優れたDIC改善効果を示している.その一方で,生存率は改善傾向を示したが有意差がでていない.また,二重盲検RCTであるが,対照群はプラセボではなくヘパリンを使用している.これは,本邦ではDICが治療対象疾患として保険承認されているせいでもあり,倫理的問題をはらみ,対照をプラセボにできないという事情がある.

■本邦でのDIC治療薬については科学的根拠に基づいた感染症に伴うDIC治療のエキスパートコンセンサス[2]があるが,rTMは2008年に承認発売となったため掲載されていない.日本版敗血症診療ガイドライン(案)ではアンチトロンビンⅢ製剤(ノイアート®)の2Aに次いでrTMは2Bに推奨度が位置づけられているが,DIC治療薬に関してこの推奨度は全く理解できないものでありあてにならない.
日本版敗血症診療ガイドラインのDICについてはこちら

■DIC治療においてrTM使用で確かな手ごたえを感じている集中治療医は多い.抗炎症効果も示し,凝固と炎症のcross-talkを形成する敗血症性DICでは特に有用であることが言われている.しかしながらDICは治療できるが生存率は改善できない,というのが現時点でのrTMのエビデンスである.そして,前述の通り本邦でプラセボ対照のRCTを行うことは難しく,国内でエビデンスを作るのであれば,アンチトロンビンⅢ製剤をはじめとする既存の抗DIC治療薬を対照とするより他ない.

■その一方で,海外ではDICは治療対象ではなく,原疾患治療が原則である.そこで,旭化成ファーマは海外での治験をすすめ,敗血症性DIC患者(ただし,DIC診断基準は本邦とは異なる)を対象とした二重盲検RCTのPhaseⅡが終了し,死亡率改善傾向を確認,p<0.3の基準をもってPhaseⅢに移行しており,その結果がエビデンスとなる可能性がある.
rTMの海外PhaseⅡについてはこちら

■ARDSに対するrTMの有用性については専門家レベルではおそらく有用ではないかと言われている程度であり,実際にそれを示したRCTはなく,症例集積の報告のみにとどまっている.ARDS単独に対しては保険適応外であり,有効な投与量も分かっていない.ARDSを合併したDIC症例において改善率を示した報告は少数ながら存在する.

■これまでrTMによる生存率改善を示したRCTはなく,以下の論文が2012年現在で生存率改善を示した最も質の高い研究ということになる.この研究は大阪大学医学部附属病院での研究で,高度救命救急センターの山川一馬先生が報告し,5月のJ Trauma Acute Care Surgに掲載され,現在旭化成ファーマが本研究の宣伝用アブストラクトを作成し,配布している.以下,本研究の概要と考察を述べる.

■本研究はrTMの敗血症性DICに対する効果を検証したもので,2006年1月から2008年8月までのrTM非使用の41例(他の抗DIC治療もなされていない)を対照群とし,2008年9月から2011年1月までのrTM使用の45例をrTM群として,後方視的に前後比較した単施設非盲検非無作為化試験である.

■①感染症を基礎疾患とするSIRSスコア2点以上,②1臓器以上の臓器障害,③血小板数が8万/mm^3未満,④人工呼吸器管理を要する重症例,の4項目を満たす成人の敗血症性DIC症例を対象とし,rTM禁忌に該当する場合は対象から除外している.その他の治療はSSCG(Surviving Sepsis Campaign Gideline)に準じ実施している.

■評価項目は①DIC治療開始後28日,60日,90日の転帰,②7日目までのSOFAスコアおよび肺損傷スコア(Lung Injury Score),③安全性評価項目(出欠に関する重篤有害事象)であった.

■患者背景は23項目で有意差検定が行われ,APACHEⅡスコア以外は有意差がなかった.APACHEⅡスコアは27.0(21.5-32.5) vs 21.0(16.-24.0),p<0.001であり,rTM群の方が対照群より重症例が多い.その他SOFA,ARDS合併率,肺損傷スコアなどを見ても,有意差はないがrTM群の方が高く,重症例が多いことがうかがえた.

■転帰については,Kaplan-Meier生存曲線を見るに7日目あたりから著明に差がついており,以下の通りrTMが有意に生存率を改善させる結果となった.
 28日目生存率 76% vs 53%,p=0.037
 60日目生存率 66% vs 42%,p=0.026
 90日目生存率 63% vs 42%,p=0.038

■SOFA score変化量,肺損傷スコア変化量においてもrTM群はコントロール群より有意な改善が認められた(7日間の追跡).

■出血に関連する重篤な有害事象は,rTM群が1例(2.4%),コントロール群が2例(4.4%)であった.

■以上の結果をもって,「rTMは敗血症性DIC患者に対する有用な治療薬であると考えられる」と述べている.

■本研究の問題点として以下のことがあげられる.
①後方視的に前後比較した単施設非盲検非無作為化試験であり,エビデンスレベルは低くなる.
②本研究はrTM使用有無以外はSSCGに準じた治療を行っているとのことであるが,2008年を境に前後比較している.2008年はSSCGが改訂された年でもあり,敗血症治療のエビデンスがさらに蓄積されているため,治療内容に差が出る可能性がある(治療方法が異なる症例については除外しているとのことであるが・・・)
③患者背景にDIC関連の検査項目の比較がない(当然ながら有意差検定もない)
④患者背景においてAPACHEⅡスコアに有意差があり,rTM群の方が重症例が多かった
⑤SOFA score,肺損傷スコアについて絶対値ではなく変化量で比較している

■問題点③については,急性期DIC診断基準スコアなり,厚生労働省DIC診断基準スコアなりを示した方がよかったのではないだろうか?(もっとも海外向けの医学誌に掲載しても・・・という意見もあるだろうが).主要評価項目はDICの治療成績ではないためこうなったのかもしれない.しかし,DIC治療薬の研究であり,DICが多臓器不全の重要なfactorととらえての研究であるのだからDIC関連項目についても評価すべきではないだろうか?

■問題点④⑤についてであるが,特に肺損傷スコアについて疑問がある.肺損傷スコアの変化量は7日目の時点で有意にrTM群の方が低下しており(p=0.025),その差は約0.5である.繰り返すがこれは変化量の有意差である.一方,患者背景として,肺損傷スコアのベースラインはrTM群が2.5(1.75-2.88),コントロール群が2.0(1.75-2.75)であり,有意差はないが(p=0.153),rTM群の方が高い傾向にあり,ベースラインのAPACHEⅡスコアがrTM群で有意に高いことを考えれば重症例が多いことを反映していると思われる.問題はその差である.有意差はないがベースラインで0.5の差があり,7日目の変化量の差は約0.5.つまり肺損傷スコアの絶対値はほぼ重なるわけでありその差はかなり小さくなる.ここに有意差はあるのだろうか?

■この小生の疑問に対し,「改善効果を見ている以上,肺損傷スコアの絶対値で評価する必要はない」と反論されるかもしれない.また,「rTM群が重症例が多いのだから肺損傷スコアの絶対値で見るのはおかしい」という反論もあるかもしれない.しかし,ベースラインの肺損傷スコアの絶対値に有意差がないのであれば,7日目の絶対値比較は不要だろうか?加えて,治療を行っている以上,数値が高い方が下がりやすい可能性もある.こうなると,ベースラインの重症度(APACHEⅡ)に有意差がある状態での比較は効果が分かりにくくなる危険性があり,「重症でも肺傷害に対してrTMが効いた」と結論づけるのは客観性に欠ける.最終的に生存率に有意差がついているため,rTMの転帰改善効果は示せているものの,肺損傷スコアを改善したかというとそうは言い切れないだろう.実際,人工呼吸器装着期間は有意差がなかった.

■以上より,本研究では,rTMが生存率改善,臓器不全を改善する可能性が示唆されるものの,肺傷害に対する効果は再検討が必要であると思われる.
⇒本研究報告者の山川先生よりコメントに御回答あり

Ogawa Y, Yamakawa K, Ogura H, Kiguchi T, Mohri T, Nakamori Y, Kuwagata Y, Shimazu T, Hamasaki T, Fujimi S.
Recombinant human soluble thrombomodulin improves mortality and respiratory dysfunction in patients with severe sepsis.
J Trauma Acute Care Surg. 2012 May;72(5):1150-7.

Abstract

BACKGROUND: Respiratory dysfunction associated with severe sepsis is a serious condition leading to poor prognosis. Activation of coagulation is a consequence of and contributor to ongoing lung injury in severe sepsis. The purpose of this study was to examine the efficacy of recombinant human soluble thrombomodulin (rhTM), a novel anticoagulant agent, for treating patients with sepsis-induced disseminated intravascular coagulation (DIC) in terms of mortality and respiratory dysfunction.

METHODS: This study comprised 86 consecutive patients with sepsis-induced DIC who required ventilator management. The initial 45 patients were treated without rhTM (control group), and the following 41 patients were given rhTM (0.06 mg/kg/d) for 6 days (rhTM group). Patients were followed up for 90 days after study entry. Sequential Organ Failure Assessment (SOFA) score and lung injury score were recorded until 7 days after entry.

RESULTS: The baseline characteristic of severity of illness was significantly higher in the rhTM group than in the control group. Nevertheless, 90-day mortality rate in the rhTM group was significantly lower than that in the control group (37% vs. 58%, p = 0.038). There was a significant difference in the serial change of SOFA score from baseline to day 7 between the two groups (p = 0.009). Both the respiratory component of the SOFA score and the lung injury score in the rhTM group were significantly lower compared with the control group (p = 0.034 and p < 0.001, respectively).

CONCLUSIONS: rhTM may have a significant beneficial effect on mortality and respiratory dysfunction in patients with sepsis-induced DIC.

LEVEL OF EVIDENCE: III, therapeutic study.

[1] Saito H, Maruyama I, Shimazaki S, et al. Efficacy and safety of recombinant human soluble thrombomodulin (ART-123) in disseminated intravascular coagulation: results of a phase III, randomized, double-blind clinical trial. J Thromb Haemost 2007; 5: 31-41
[2] 日本血栓止血学会学術標準化委員会DIC部会.科学的根拠に基づいた感染症に伴うDIC治療のエキスパートコンセンサス. 日血栓止血会誌 2009; 20: 7-113
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by DrMagicianEARL | 2012-07-27 14:19 | 敗血症性DIC | Comments(2)
■リコンビナント・トロンボモデュリンα(rTM:商品名リコモジュリン®;旭化成ファーマ)は日本で開発され,国内PhaseⅢ[1]でヘパリン群より有意なDIC離脱率を示したが,死亡率では有意な改善は示せていない(改善傾向はあり).PhaseⅢのサブ解析で,敗血症性DICにおいては28日死亡率でヘパリン群よりrTM群が10.2%死亡率を改善させている.その後,pre-post比較でのrTMによる死亡率改善の報告はあるが,二重盲検RCTでの報告はなかった.

■一方,海外ではリコンビナント活性型プロテインC製剤(rhAPC:Xigris®)がイーライリリー社から販売されており,敗血症に対する治療薬としてSurviving Sepsis Campaign Guidelinesにおいても推奨されていた.rTMはトロンビンと結合してプロテインCを活性化し,APCに変換することで効果を発揮しており,rTMの有効性を示す上で,APCの過去のデータはよく引用されていた.しかしながら,その後出血リスクと有効性の低さが指摘され,メタ解析したCochraneからの2008年のレビュー[2]では「重症敗血症や敗血症性ショックにrhAPCを使用すべきとするエビデンスはなく,出血性合併症を増やし,新たなRCTによって治療効果が証明されない限り用いてはならない」と警告が発せられた.PROWESS-SHOCK study[3]によってその効果が否定され,2011年10月に市場撤退し,姿を消すに至った.

■海外では本邦とは違い,DICが治療対象でないため,その概念は乏しく,rhAPCはDICでない敗血症症例にまで使用されていたことが有効性を示せなかった原因と推察される.DICをきたしている症例には有効と思われるが,非DIC症例においてその効果がどこまであるかは不明である.加えて,出血の問題もrhAPCにはつきまとっていた.そもそもrhAPCの有効性を示した最初のPROWESS study[4]自体に数多くの無視できない問題があったのも事実であり,このstudyから安易にrhAPCを承認してしまった米国FDAへの批判も多い.また,rhAPCを販売していたイーライリリー社がSurviving Sepsis Campaignのメインスポンサーであったことも関係していたのかもしれない.

■なお,rhAPC製剤販売中止から半年近くたってから,米国集中治療学会(SCCM)が2005-2008年に収集した15000例の解析結果で,敗血症診断の24時間以内に投与を開始した症例では予後良好という結果がCritical Care Medicine誌に掲載された[5].PROWESS-SHOCK studyとは異なる結果であるが,データ収集終了から4年たった,それもrhAPC製剤が市場撤退した後に本論文が登場した理由は謎である.

■これに対し,rTMはトロンビンと1対1に結合して効果を発揮するためrhAPC製剤より安全であることが推定され,DIC症例に適応を絞っているため,国内データも併せると,敗血症性DIC症例における死亡率改善に寄与するのではないかと期待が持たれていた.しかしながら,大規模でのプラセボ対照RCTを行うには国内では限界があった.

■そこで,旭化成ファーマは米国Artisan Pharmaに委託し,rTM(ART-123)の海外でのPhase2b trialが行われた.

ART-123(recombinant human soluble thombomodulin) Phase 2b study
【目的】敗血症性DICに対するrecombinant human soluble thombomodulin(rTM)の効果・安全性を確認する.

【方法】参加地域は米国,カナダ,欧州,オーストラリア,ニュージーランド,アルゼンチン,イスラエル,一部のアジア地域であり,登録患者は敗血症性DIC(もしくは凝固障害)患者750例,研究デザインは二重盲検プラセボ対照RCT,プライマリーエンドポイントは28日死亡率とされた.なお,本studyはArtisan Pharmaが行っていたが,途中で旭化成ファーマがArtisan Pharmaを買収し,旭化成ファーマアメリカとなっている.rTM群370例,プラセボ群371例であり,患者背景に有意差はない.DICの診断は急性期DIC診断基準ではなく,血小板数とPT INRで判定している.rTM,プラセボともに6日間の投与を行った.

【結果】28日死亡率はrTM群 17.8% vs プラセボ群 21.6%,p=0.273であった.p<0.3を達成しており,この結果をもってPhaseⅢへの移行が決定した.また,レトロスペクティブな解析では,1つ以上の臓器不全があり,かつPT INR>1.4の患者においてrTMの有効性がより高まることが確認された(死亡率:rTM群 26.3% vs プラセボ群 38.2%).重大な有害事象,中和抗体出現についてはrTM群とプラセボ群で有意差は認めなかった.TAT,D-DimerはrTM群で速やかに減少することが確認された.rTMの薬物動態は過去の研究(日本でのPhaseⅡ)と同等であり,性別,人種,年齢によって薬物動態は影響を受けないことが確認された.


■rTMのPhaseⅢ studyは旭化成ファーマアメリカが行う.目的は重症敗血症および凝固障害を対象としたrTMの安全性と効果の判定,プライマリーアウトカムは28日死亡率であり,800例の登録を予定している.登録基準として,PT INR>1.4に重きを置いている.

■気になるのはDICの診断基準である.PhaseⅡ・ⅢともにD-dimarすら用いておらず,DICというよりは凝固障害に対する治療であるため,この結果がそのまま本邦のDIC治療に結びつくのかは疑問が残る.ただし,PhaseⅡの解析におけるPT INR>1.4での有効性は興味深い.

[1] Saito H, Maruyama I, Shimazaki S, et al. Efficacy and safety of recombinant human soluble thrombomodulin (ART-123) in disseminated intravscular coagulation:results of a phase III, randomized, double-blind clinical trial. J Thromb Haemost 2007; 5: 31-41
[2] Marti-Carvajal A, Salanti G, Cardona AF. Human recombinant activated protein C for severe sepsis. Cochrane Datebase Syst Rev 2008; 1: CD004388
[3] Ranieri VM, Thompson BT, Barie PS, et al. Drotrecogin alfa (activated) in adults with septic shock. N Engl J Med 2012; 366: 2055-64
[4] Bernard GR, Vincent JL, Laterre PF, et al. Efficacy and safety of recommbinant human activated protein C for severe sepsis. N Engl J Med 2001; 344: 699.
[5] Casserly B, Gerlach H, Phillips GS, et al. Evaluating the use of recombinant human activated protein C in adult severe sepsis: results of the Surviving Sepsis Campaign. Crit Care Med 2012; 40: 1417-26
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by DrMagicianEARL | 2012-06-18 23:25 | 敗血症性DIC | Comments(0)
2012年2月24日ICU看護師対象DIC勉強会概要(2)

2.DICの診断
 DICの診断基準は一般的なものから産科・新生児などまで様々であるが,特に重要なのは急性期DIC死んだ基準,厚生省DIC診断基準,ISTH DIC診断基準の3つである.急性期DIC診断基準は感度が高く,早期からのDIC診断・治療に直結する.敗血症性DICでは特に有用であるが,血液疾患由来のDICには不向きである.また,特異度は低いので,DIC以外の疾患の鑑別は必ず必要である.厚生省DIC診断基準は特異度は高く正確であるが,項目が煩雑であり,早期診断にはむいていない.ISTHのDIC診断基準は海外が厚生省DIC診断基準をほぼ真似て作成したものである.

 敗血症性DICでは近年SIRS-Associated Coagulopathy,略してSACと呼ばれる概念が取り入れられている.これは,SIRSという病態においてDICに進展していく前病態の概念であり,DICが臓器障害を発症しているのに対し,SACはまだ臓器障害を発症していない状態である.病態進行に伴ってSAC,DIC,MODSと進展していくが,厚生省DIC診断基準はDICの時点を診断しているため,MODSへの進行を許してしまいかねない.一方,急性期DIC診断基準はDICに至る前のSACの状態を診断することが可能であり,これにより臓器障害を併発する前に治療することで病態からの改善が見込めるものである.

 DICにおいてよく指標とされるのは血小板である.しかしながら,血小板の低下は本当にDICか?急性期であってもDIC以外に血小板が減少する病態は多数ある.血小板好中球複合体形成による肺と肝臓に集積・消費,ADAMTS13不足(もしくは好中球エラスターゼ増加),骨髄抑制,CHDF,薬剤性(ヘパリン製剤,ザイボックス®など),凝集による偽性低値,血液疾患(血球貪食症候群,再生不良性貧血,白血病,特発性血小板減少性紫斑病など),ウイルス感染症,膠原病,低栄養などである.よってこれらの鑑別を行わず,DICでないのにDIC治療を開始すると,無駄な医療費が増大し,出血のリスクも増加,生体防御レベルの凝固が阻害され,病原体やhistone,HMGB1などが全身に播種し,血小板減少の真の原因が解決されないなど多数の問題が出てくる.DICはDIC診断基準,TATを用いて正確に評価することが必要である.

3.DICの治療の意義
 DICの治療薬の話に移る前に,DIC治療の背景について触れておかねばならない.海外ではDICは治療せず,原疾患治療が全てとされる.このため,海外ではDICを知らない医師がほとんどである.また,海外ではDICの研究はほとんどなされておらず,日本はDIC先進国といえる.しかしながら,DIC治療薬が生存率を改善したという大規模試験によるエビデンスは存在しない.このため,日本でもDICを治療する施設と治療しない施設に分かれている.

 DICの生存率は本当に改善しないか?これについては,DIC治療薬のRCT(ランダム化比較試験)のプロトコルの甘さによって有効な治療薬が無効になっている可能性がある.DIC治療薬はDIC離脱率でよい成績を残しているが,原疾患治療がまともになされず,結局死亡率改善に結びついていないことも考えられる.また,28日ではなく90日で死亡率を評価すると有意差がでる可能性もある.敗血症・DIC由来の臓器不全は28日くらいなら生存していることはしばしば経験されるが,90日という長い期間で見ると差は歴然である.これらのことから,原疾患治療までしっかりとプロトコルに組み入れた臨床試験を行わなければ意味がないと思われる.一般的に臨床試験は多施設で行う方がより質が高い研究となるとされてはいるが,プロトコルが曖昧になる要素が含まれる以上,このような集中治療領域の試験を本当に多施設で行うべきかどうかについてはおおいに疑問が持たれるところではある.そういう意味では単施設の研究報告も吟味する必要がある.

 加えて,これは噂ではあるが,海外のエビデンスをくつがえすような日本発の薬剤は雑なプロトコルを組まれて臨床試験で効果が否定されることが多い.逆に,海外ではエビデンスを作るためにプロトコルを捻じ曲げた臨床試験を行うことがある.よい例は昨年10月末に販売中止となった,敗血症における活性化プロテインC(APC)製剤であろう.APC製剤の製薬メーカーはSSCGのメインスポンサーであったことは暗黙の事実である.また,1990年前後,世界的に有名な注中治療領域の複数の医学誌においては,日本人というだけで一部分野においては論文投稿が拒絶されていたこともあるとのことである.我々はついつい海外のエビデンスに目を向けがちであるが,海外のエビデンスといえどもその査読には十分注意が必要である.

 DIC治療がはたしてエビデンスがあるものか判断するのは難しい.なぜなら国内では既にDICは保険適応下で治療することが慣習化されており,比較試験を行うにもプラセボ群を設定することができないからである.しかしながら,集中治療領域における各種の治療の積み重ねにより,1つ1つの項目の有意差は少なくても,それらを組み合わせれば生存率は有意に改善するものと考える.

4.DICの治療薬
 各種のDIC治療薬を順に見ていく.ヘパリン系には未分画ヘパリン(UFH),低分子ヘパリン(LMWH),ヘパラン硫酸(HS,別名ダナパロイドナトリウム)があり,Xa因子,トロンビンを阻害する作用がある.UFHは安全域が狭く,効果についても疑問があり,あまり使用されなくなってきている.LMWHは安全性がUFHより高いが,効果はUFHと同様に弱い.HSはヘパリンに代わって新たに登場したヘパリン類似物質であり,比較的新しいためエキスパートコンセンサスではエビデンスレベルは低いものの,安全かつ効果的で,軽症DIC症例において使用されている.

 合成プロテアーゼ阻害薬にはメシル酸ガベキサート(GM:エフオーワイ®)とメシル酸ナファモスタット(NM:フサン®)があり,Xa因子,トロンビン,エラスターゼに作用する.ほとんどエビデンスはなく,経験的に効果があるとして頻用されている.近年では効果に疑問が持たれ始め,アンチトロンビン製剤,リコンビナント・トロンボモデュリン製剤の登場により特定の場面以外では使用されなくなってきている.GMは抗凝固作用のみであり,敗血症性DICに向いているとされている.NMは抗凝固作用に加え,プラスミンにも作用することで抗線溶作用両方を有するため,敗血症性DICには使用は推奨されない.出血を伴う線溶亢進型DICでは有用かもしれない.なお,GMはCHDFや透析でかなり吸着されてしまう.副作用としては高ナトリウム血症,低カリウム血症が比較的多く見られる.

 アンチトロンビン製剤(AT)はリコンビナント・トロンボモデュリン製剤が出る前のエキスパートコンセンサスにおいて最も推奨度が高い治療薬であり,出血があっても使用可能である.臨床適応はATⅢ活性が70%未満であるが,近年リコンビナント・トロンボモデュリンの登場で50-70%であれば投与不要とする考え方もある.大規模試験であるKyberSept trialでは,非DIC症例も含めた敗血症患者に対するAT製剤の投与において,全体の死亡率は改善しなかったが,DIC症例に限定したサブ解析で死亡率が改善しており,唯一これが質の高いエビデンスといえる.ただし,あくまでもサブ解析であるため,追試が必要である.ヘパリン製剤との併用では効果が減弱してしまうため併用はすべきでない.ATはCHDFや透析でかなり吸着されるようである.なお,投与前にアルブミン製剤を投与することで効果増強の可能性が示唆されている.ATを投与すると,トロンビンと結合してTATを形成することでDICを治療することは先述の通りであるが,DICでない症例でATを投与してしまうと,TATが上昇してしまい,TATで判断できなくなるリスクがある.

 リコンビナント・トロンボモデュリン製剤(rTM)は最も新しいDIC治療薬であり,良好なDIC離脱率を有する.トロンビンと1対1で結合し,プロテインCを活性化して活性化プロテインC(APC)に変換し,APCはVa因子やVIIIa因子に作用し,また,抗炎症反応も示す.また,HMGB1も阻害するとされている.ヘパリンと比較しても有意ではないが6%前後の死亡率改善が報告されている.その作用からARDSでも効果が期待されているが,治療効果があったとするRCTはない.トロンビン濃度に応じて作用するため,出血は起こりにくいとされているものの,半減期が長く,出血症例に対しては使用できない.また,肝障害や過去に出血の既往がある患者においても出血リスクが高いため注意が必要である.現在海外進出しており,米国でPhaseⅡが終了,PhaseⅢに移行するとのこで,大規模RCTによる生存率改善の可能性が期待されている.

 その他治療薬であるが,新鮮凍結血漿は超重症DICや血小板低下遷延のDICにおいてADAMTS13補充目的で適応となる.超重症かつAT活性が50%未満であれば最初からの投与も検討すべきかもしれない.

 トレチノイン,別名全トランスレチノイン酸(ATRA)は急性前骨髄球性白血病(APL)の治療薬であるが,APLによるDICに対しても著効する.これは,APLに対する原疾患治療であると同時に,TFや線溶系を亢進させるアネキシンⅡを阻害することで凝固・線溶を両方ともブロックし,短時間でDICから離脱でき,極めて有効である.

 トラネキサム酸(TA)はプラスミノゲンを阻害し,抗線溶作用がある.ただし,DICにおいては抗線溶薬は原則禁忌である.これは全身血栓症発症による死亡例が多数報告されているためで,特に敗血症性DICやAPLでのATRA投与中の患者への投与は極めて危険であり,絶対禁忌となっている.一方で,外傷性出血性ショックにおけるDICでは有効であるとの報告が相次いでいる.DICにおいて使用する際は以下の条件が全て満たされている場合に限定される.
① 線溶亢進型DICで間違いなく,重症出血コントロールができずに苦慮している症例
② 必ずヘパリン類(ヘパリン系,ダナパロイドNa)との併用下であること
③ 専門家に日々コンサルトできる状態にあること

5.DICの治療戦略
 DICの治療薬についてはエキスパートコンセンサスがあるが,実際の治療に関する明確な使用ガイドラインは存在しない.当院においても血液内科が作成した院内DIC治療ガイドラインもどの疾患にどの薬剤をどう使用し,いつやめるかの明示はされていない.

 ただ,各施設で共通した考え方がある.原疾患治療が大前提であること,軽症例では無治療でもよいこと(とりわけ感染症のように原疾患治療が可能な場合はほとんどは抗DIC治療薬を使用せずに改善する),出血例ではrTMは使用しないがATは使用できること,重症例ではrTMやATを積極的に使用すること,万が一出血してもTAは原則使用してはならないことなどである.

 敗血症において,凝固亢進からSAC(SIRS associated Coagulopathy),さらにDICに進行していく過程において,DIC治療とはどこからの治療なのか?急性期DIC診断基準はSAC診断をtargetにしており,そこから抗DIC治療薬投与を開始する.しかしながら,私はSACに至る前もDIC治療(というより予防やDICの軽症化)と考えており,ここの治療にあたるのが蘇生バンドルに他ならない.すなわち,適切かつ早期の末梢循環不全の解除によりDICを予防する,もしくは発症しても軽症で済ませることの方が重要であると考えており,抗DIC治療薬はあくまでもDIC(SAC)に至った場合の補助的治療と認識している.DICに対する治療は原疾患治療がしっかりなされていることが大前提である.優れた抗DIC治療薬が登場した弊害は,離脱率が高いがゆえに,DICを治療することで患者を治療したと医師側が満足しきってしまい,原疾患治療が疎かになりやすいことであろう.抗DIC治療薬はあくまでも過剰状態に対して補助的に使用する薬剤であり,原疾患治療があってこそ生きる相乗効果的治療法であることを念頭に置く必要がある.

 院内DIC診療ガイドラインには使用のプロトコルなどの記載は一切なかったため,院内敗血症診療ガイドラインでは各薬剤の使用プロトコルを記載させていただいた.治療薬選択の流れであるが,まず敗血症が重症でないならばGMを選択考慮としている.これは当院にHSがないためであり,エビデンスは乏しいが,治療選択肢を残す上での苦肉の策である.実際には私個人は軽症であれば抗DIC治療薬投与も不要で原疾患治療のみで十分との立場をとっている.次に,重症敗血症であった場合,出血がなければ(DD迅速キットはあるが,ATⅢ活性は外注であるため)rTMを第一選択とし,これにATやFFPを加える基準を定めた.すなわち,APACHEⅡ scoreが25以上,もしくはSOFA scoreが上昇傾向であれば重症DIC群,そうでなければ非重症DIC群とし,重症DIC群でATⅢ活性50-69%であればAT 1500単位/日を追加,ATⅢ活性<50%であればAT 3000単位/日+FFP投与とした.非重症DIC群であればATⅢ活性50-69%では他薬剤追加は不要,AT活性<50%ではAT 1500単位/日を投与とした.なお,CHDF使用症例であればAT投与時は全例3000単位/日を推奨した.出血例においてはrTMは使用できないため,ATを第一選択とし,FFPを投与,またGM追加も考慮としている.

 rTM製剤市販後全例調査の解析がなされ,抗DIC治療薬の併用と出血についての報告があった.rTM製剤単剤での出血率は5.7%であり,DIC治療薬2剤併用ではほとんどの組み合わせで出血率の有意な上昇はなかったが,LMWH併用群でのみ出血率が有意に上昇した(12%).3剤併用ではどの組み合わせであっても出血率が有意に増加しており(8-12%),多数の薬剤の併用はハイリスクとなるため安易に選択すべきではない.

 DIC治療をいつやめるかについては全く結論が出ておらず,医師それぞれで異なる.血小板が改善したらやめるという方法はかなり投与期間が長期化するため無駄が多くなる可能性があり推奨されない.最もよく使用されている目安は急性期DIC基準スコアが3点以下になったらやめるというものである.なお,その他の基準として,急性期DIC基準スコアが低下傾向を示し始め(3点以下でなくてよい),かつ原疾患治療が行われていて,末梢循環不全が解除されているとき(SOFA score改善傾向,高乳酸血症,代謝性アシドーシスが改善傾向)であれば中止するという基準を私は推奨している.これにより投与期間が短縮され,コスト減少,出血リスクが軽減される.現在この基準での臨床データを当院で集積中である.なお,原疾患治療がすぐに完了できないような場合にはこの方法は不向きである.

 最後にまとめになるが,DICは治療よりもまず予防である.そのために,原因となる末梢循環不全徴候を見逃してはならない.バイタルの変動,乳酸値などを念入りにチェックすべきである.集中治療とは現在目の前の病態を治療するのみならず悪化を予防することが重要であり,患者に重症感がなくとも事前に徴候を察知して食い止め,あたかも患者に何も起こっていなかったかのように経過する,これが集中治療の醍醐味であると考える.DICを見るときは,線溶系抑制型か亢進型かを判別し,その道具として原疾患,FDP,DD,PICを解釈する.出血徴候を見逃さないことは当然だが,臓器症状(臓器不全)は患者をぱっと見ただけでは分からない.推測する上でもSOFA scoreは有用であり,是非活用すべきである.
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by DrMagicianEARL | 2012-03-14 12:49 | 敗血症性DIC | Comments(0)
2012年2月24日に当院でICU看護師対象のDIC勉強会を開催し,講義をさせていただいた.その概要を掲載

1.DICの病態生理

 DICは播種性血管内凝固(Disseminated Intravascular Coagulation)の略であり,血液凝固反応,血小板が活性化され,全身の細小血管内に微小血栓が多発し,多臓器の微小循環障害,機能不全を生じる.また,消費性凝固障害や線溶活性化に伴う出血傾向をきたす.「Death Is Coming(死がやってきた!)とも揶揄されていたこともある.

 平成10年度の厚生省特定疾患血液系疾患調査研究班血液凝固異常症分科会研究業績報告書によると,DICの原因は絶対数でみると敗血症が最も多く,ショック,非ホジキンリンパ腫,呼吸器感染症があとに続く.発症率でみると急性前骨髄性白血病をはじめとして白血病がDICを高率に発症することが分かる.敗血症での発症率は31.3%である.また,ARDSでもDICは比較的多いことが特徴である.しかし,これらの疾患だけがDICを起こすわけではない.実際にはあらゆる生体侵襲はDICを引き起こしうる.ときにインフルエンザ,心不全,間質性肺炎などでもDICを発症することがある.

 DICでは血が固まって血栓を形成する凝固系と血栓が溶け易くなる線溶系が共存している.凝固系亢進により臓器に血栓が詰まれば臓器不全が,また,線溶系亢進により血が固まりにくくなって出血傾向が生じる.このように,凝固と出血という相反する病態が混在していることがDICの病態の難しさを表している.

 ではDICは何が引き金で起こっているのか?これは活性化されたマクロファージや細胞傷害により細胞から放出される組織因子(TF:Tissue Factor)である.すなわち,大量の細胞が傷害されればTFも大量に放出され,DICの原因となる.

 DICはTFから始まる凝固カスケード反応によってトロンビンが発生し,フィブリン血栓が形成されて進行する.その過程で,アンチトロンビンⅢ(ATⅢ)はトロンビンと結合し,トロンビン・アンチトロンビン複合体(TAT)を形成し,フィブリン血栓形成を阻害する.これがアンチトロンビン製剤(ノイアート®など)をDIC治療に用いる理由である.なお,DIC診断基準スコアがどうであろうとも,TATが正常値であればその1点のみでDICは否定される.
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 この凝固カスケード反応からのトロンビンを介した凝固反応だけでDICは本当に生じるのか?という疑問が以前から言われていた.そこで発見されたのがヒストン,HMGB1(high mobility group box1)の発見である.ヒストンは染色体を構成する蛋白質で,特に敗血症性DICで関与し,敗血症における主要な増悪因子であり,強い細胞傷害性と血小板を強力に凝集させる作用がある.HMGB1は通称「死のメディエーター」と呼ばれ,臓器障害晩期に死んだ細胞から放出され,次々と周囲の細胞をアポトーシス(プログラム細胞死)に陥らせるメディエーターで,HMGB1とトロンビンが共存すると著しく凝固活性が高まるとされている.また,HMGB1がプロテインC経路を抑制し,単球から組織因子(TF)産生を刺激することでさらに凝固反応が進行する.ただし,この2物質は生体にとって必要なものでもあり,作用の仕方しだいで体に有害なものとなる.

 DICでは凝固反応に対抗する線溶反応が生じている.この線溶系は血栓だらけにならないための生体の防御反応である.フィブリン血栓ができると,組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)によりプラスミノゲン(PG)が活性化されてプラスミン(PM)が生成され,このPMがフィブリン血栓を溶解する.一方,このtPAを阻害するのがプラスミノーゲンアクチベータインヒビター(PAI-1)である.敗血症病態ではPAI-1が異常高値をとり,tPAを強く阻害する,すなわち,敗血症では線溶系が亢進しない.また,α2-プラスミンインヒビター(α2-PI)はPMと結合することでPM-α2PI複合体(PIC)を形成し,これが線溶系亢進のマーカーとなる.敗血症病態ではこのPICは2μg/mL前後しか上昇しない.
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 DICにおいて日常診療でよく見る検査項目はFDPとD-ダイマー(DD)である.血栓が形成される過程ではフィブリノゲンからフィブリン,不安定フィブリン,さらにD分画2つとE分画1つが架橋形成された安定化フィブリンとなっていく.これらをPMが分解することになる,すなわちFDPはフィブリン/フィブリノゲン分解産物の総称である.この分解産物はどの段階でのフィブリンを分解するかによってできるものが異なる.フィブリノゲン,フィブリンモノマー,不安定フィブリンが分解されるとD分画,E分画の1つ1つに分解される.一方,安定化フィブリンは架橋構造により安定化しているため,分解されてもD分画2つとE分画1つの組み合わさった単位は残る,すなわち分解されたものがD分画を2つ必ず有するため「D-ダイマー」と名づけられている.よって,DDはFDPの一部ということになる.
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 FDP,DDを線溶系亢進型と抑制型(敗血症)の観点から見るとどうなるか.線溶亢進型DICではPM生成が亢進しており,フィブリノゲンが安定化フィブリンに至るまでにPMに分解される,すなわち安定化していない状態で分解されるためD分画やE分画の1つ1つの単位は多量に形成されるが,架橋形成された安定化フィブリンは少なく,DDはあまり上昇しない.よってFDPは増加し,DDの増加量は軽度にとどまるため,FDP/DD比が3を越えることが多い.

 敗血症のような線溶系DICではPM生成が抑制されているため,フィブリノゲンから安定化フィブリンに至るまであまり分解されず,安定化フィブリンが蓄積される.そのためフィブリノゲン~不安定フィブリンよりも安定化フィブリンの方が分解される量が相対的に多くなるため,FDP全体に占めるDDの割合は大きくなり,FDP/DD比は3以下となることが多い.ただし,PMそのものが抑制されているため,FDP,DDともそれほど高値はとらない.

 敗血症病態では別の機序でも血小板減少をきたすことがある.血小板を凝集させる因子にvon Willebrand Factor(vWF)がある.このvWFを制御しているのがADAMTS13(a disintegrin-like and metalloprotease
with thrombospondin type 1 motif13)である.DICの経過で血小板減少が遷延しているケースにおいてはADAMTS13が不足している可能性がある.これは血栓性血小板減少症(TTP)と同様の病態が生じていることになり,安易な血小板輸血は血栓形成を助長させるため危険である.DICに対する血小板輸血が慎重投与とされるのはこれが理由である.このような病態の場合は新鮮凍結血漿輸注によりADAMTS13を補充することが優先される.なお,ADAMTS13減少の理由として好中球エラスターゼ(NE)による分解が大きな役割を果たしている.

 NEは一般的にはATⅢやPG,ADAMTS13を分解することによりDICでは凝固作用として働くとされる.しかし,一方でフィブリン/フィブリノゲン分解も一部関与しており,ときにこの作用が強く出ることにより線溶作用が大きくなることがある.敗血症病態でNEが関与した線溶系亢進パターンでは通常は上昇しにくいFDPが上昇,すなわちE分画(E-XDP)が多量産生され,このE-XDPとNEが正の相関を示すことが報告されている.

 このE-XDP濃度で死亡率を見たところ,E-XDPが正常値である場合と比較して,E-XDPが高値(=NEが高値)の場合は死亡率が2.0-2.5倍と上昇する.しかし,E-XDPが低値(=NEが低値)をとる場合は死亡率が4倍以上となった.すなわち,NEは必ずしも抑制すればいいというわけではなく,あくまでも至適濃度にコントロールする必要があり,過度の抑制は逆効果となる可能性を考慮する必要がある.このことから,NEを抑制するウリナスタチン(ミラクリッド®)やシベレスタット(エラスポール®)を安易に投与すべきではない.実際,DICではないが,ARDSに対するNE阻害薬のシベレスタット(エラスポール®)投与により逆に死亡率が上昇したというSTRIVE studyもある.

 DICという病態があるため,重症感染症において凝固は非常に悪いイメージを持たれがちであるが,凝固にも利点となる役割がある.重症感染症においては血小板が菌体成分を認識し,好中球に結合して複合体を形成する.好中球は血小板により活性化され,好中球が自らを犠牲にして直ちにNETsという染色体の粘稠な網を放出し,病原体を捕捉,殺菌する.このNETsに含まれるヒストンが血小板を凝集,微小血栓を形成する.すなわち,凝固はもともとは生体防御反応であり,NETsなどによる効率的な病原体除去と,微小血栓での局所封鎖による病原体やHMGB1,ヒストンなどが全身に拡散するのを防止する.これが過剰になるとDICに至る.

 近年では敗血症,DICにおいて凝固と炎症のCross-talkという概念が定着してきている.すなわち,凝固,炎症は生体防御反応として微生物から身を守るための防衛手段であるが,この2つが相互作用,Cross-talkによって増強されてSIRS(全身性炎症反応症候群)とDICとなる.さらに,CARS(代償性抗炎症反応症候群)と凝固消耗による免疫力低下もきたし,多臓器不全へと病態が悪化していくことが知られる.

 DICでは臓器不全や出血が生じることは今や常識であるが,それ以外に何がまずいのか.
① 血小板が消費され,免疫力が低下する(血小板は重症感染症においては重要な病原体認識細胞).
② 抗菌薬などの薬剤が血栓形成により病変部位に到達しにくくなる.
③ 局所で発生した有害物質(HMGB1やhistone,活性酸素種など)が全身に播種されてしまう.
④ 炎症とのCross-talkによりさらに炎症・凝固が増強されてしまう.
などが挙げられる.
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by DrMagicianEARL | 2012-03-13 17:03 | 敗血症性DIC | Comments(0)
Summary
・海外ではDICそのものは治療せず,原疾患治療のみであるのに対し,本邦では多数のDIC治療薬が存在する.
・DICは消費性凝固障害,虚血性臓器障害,炎症性臓器障害の3つの障害を有する.
・近年,炎症と凝固のCross-talkの概念が提唱され,コンセンサスを得ており,炎症性疾患とDICの増悪の機序として理解されている.
・DICは多臓器不全の原因となりうる.
・敗血症性DICは治療のみならず,敗血症の早期治療によるDIC予防も重視されるべきである.

■播種性血管内凝固(DIC:Disseminated Intravascular Coagulation)の原因疾患として敗血症は主たる病態の1つであり,敗血症に続発する重篤疾患と捉えられてきた.それゆえ,DICを“Death is Coming.”と揶揄されたこともあった.しかしながら,近年,敗血症病態は炎症と凝固のcross-talkにより相互に作用して過剰状態に至るものであることが分かっており,DICを敗血症に続発する一疾患として捉える時代は終焉を迎えた.

■DICの二大症状は、出血症状と臓器症状であるが,臨床症状が出現すると予後不良となるため(厚労省研究班の疫学調査では死亡率56%),臨床症状の出現がない時点で治療開始できるのが理想である.DICは従来の①②に新たに③を加えた,3つの障害が本体であると現在は考えられている.

①消費性凝固障害(PLTや凝固因子の減少)
②虚血性臓器障害(血栓による虚血性微小循環障害)
③炎症性臓器障害(細胞傷害性因子放出や血管内皮細胞傷害による炎症性微小循環障害)

すなわち,DICを単純な凝固線溶の異常としてだけ捉えるのは間違いであり,凝固線溶反応と免疫炎症反応の異常がcross talk(密接な相互連関)して生じるcytokine stormと理解するのが正しい.そうしたcross talkの分子機序には既に詳細な検討がなされている.臨床的にも,SIRSが重症化して敗血症から重症敗血症へ,さらには敗血症性ショックへ進むにつれてDICの合併率が高まり,MODSによる死亡率も上昇することが知られている.このように炎症の程度とDICの発症率が相関することからも,凝固と炎症のcross talk(相互連関)が強く示唆される.さらに,最近では,凝固炎症cross talkからMODSに至る過程,すなわち“sustained SIRS+DIC=MODS”の構図についても全体像が明らかにされている.DICを発症した際には,過剰に産生されたthrombinによりfibrin形成が生じ,播種性fibrin沈着を起こすことで虚血性臓器障害に至る.これにPARs(Protease Activative Receptors)が関与することで,炎症凝固が病的生体反応として振舞い,MODSを起こすと考えられている.

■加えて,DICにおける微小循環が障害されると,治療薬が該当部位にdeliverできない状態に陥り,治療効果が得られなくなる.これを防ぐ上でもDIC治療は必要であり,DICを治療することで他の治療が奏功しやすくなる相乗効果も期待される.

■PARsは4種類あり,その発現は血小板,単球,好中球,リンパ球,ならびに血管内皮細胞をはじめとする全身の細胞に認められ,多彩な生理作用を発揮すると同時に,CICTで中心的役割を担って病的生体反応を助長している.臨床的にはARDSなどにおいて,PARsとDIC/MODSの関係が調べられている.ARDSでは肺や血管内にフィブリン血栓が生じ,およそ2/3の症例でDICを合併するが,その全てにおいてPARsの発現が認められる.そして,PARsをブロックすることで凝固と炎症の両面が抑制でき,臓器障害もある程度まで軽減可能なことが示されている.

■このように,炎症と凝固の関係はこれまで重症化に向かう車の両輪と考えられてきており[1],炎症,凝固それぞれに対する治療が互いに相乗効果をもたらす.最近はさらにすすんで,2つは不可分と考えられるようになってきている.すなわち,炎症と凝固を一纏めにした治療戦略が最新の考え方である.よって,DICを単なる敗血症続発性疾患と捉えてはならない.敗血症初期から凝固系は亢進してきており,DIC発見の契機となる血小板低下は凝固亢進の成れの果てを見ているに過ぎず,より速い治療介入が必要となる可能性を有する.DICは敗血症病態の進行レベルの指標という考え方も必要である.

■海外と本邦の敗血症治療法の大きな違いとして,DIC治療の有無がある.すなわち,欧米ではDICは原疾患治療により改善すると考えられており,DIC治療はほとんど行われない上,行ってもヘパリン投与に留まる.DICに効果を示すであろうrhAPC製剤が海外にはあったが,これはDICではなく敗血症に対する治療薬として承認を受けた薬剤である(2011年11月に販売中止).一方,本邦ではプロテアーゼ阻害薬,アンチトロンビン製剤などの抗DIC治療薬が開発,使用されており,DICに対しての治療が積極的に行われている.そして近年,リコンビナント・トロンボモデュリン(rTM)製剤が本邦で開発,使用開始となり,DIC治療は大きな転機を迎えている.現在,rTM製剤は米国でPhaseⅢに移行しており,海外での大規模比較試験の結果が待たれるところである.

■何よりも重要なのはDICの治療ではなくDICの予防であるが,その警鐘がDIC先進国である本邦でもまだ浸透していない.重症敗血症においてEGDT,ELGTをはじめとする適切な初期蘇生バンドルの施行を行うことで血管内皮細胞傷害を主体とする敗血症性DICの発症を抑える,もしくは発症しても軽度ですませることができる.つまり,重症敗血症の初期治療は凝固系過剰状態に対する治療でもあり,DIC発症の予防に直結する.逆にDICが生じるということは血管内皮細胞がかなり傷害されていることを意味し,それだけ敗血症が重症であるか治療に遅れが生じているという可能性を認識しなければならない.

[1] Matthay MA. Severe sepsis--a new treatment with both anticoagulant and antiinflammatory properties. N Engl J Med 2001; 344: 759-62
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by DrMagicianEARL | 2011-11-25 11:48 | 敗血症性DIC | Comments(0)

by DrMagicianEARL