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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

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■MRSA感染症においては最も古いVCM(バンコマイシン®)を対照群として,新規抗MRSA薬でRCTが行われてきた.LZD(ザイボックス®)はその高い移行性によりMRSA肺炎において理論上はVCMより有効ではないかと言われており,RCTは複数存在する.しかし,臨床現場ではLZDはその薬価の高さから敬遠される薬剤でもある.LZDであればVCMより治療期間が短くなるため,結果的に医療費は安くなり早期退院に持ち込めるという意見もあるが,経済面まで考慮した報告はまだない.

■2件のprospective double-blind RCT[1,2]があり,院内肺炎の治療においてLZDはVCMの固定用量(1g1日2回)に比べて統計的に非劣性であることが報告されており,両試験を統合した事後解析においてMRSA患者のサブグループ解析を調べたとき,その生存率(LZD 80.0% vs VCM 63.5%, p=0.03)および治癒率(59.0% vs 35.5%, p<0.01)はVCM群に比してLZD群で有意に改善されていたと報告された[3,4]

■しかしながら,VCM群で低い有効率と高い死亡率となった原因は,これらのstudyではVCMの用量が最適化されていなかったためとの指摘もあり,問題があった.現行のガイドラインでは,初回のVCM投与量は体重に基づき,その後はトラフ濃度に応じて順次調整することが推奨されており[5,6],最適化された用量のVCMとLZDの比較を行うため,今回ZEPHyR(ゼファー)trialが施行され,報告に至った.

■なお,メタ解析も2010年,2011年に報告されており[7,8],2つともLZDとグリコペプチド系(VCM,TEIC)の臨床効果,死亡率に有意差なし,1つでLZDで副作用(血小板減少,消化管出血)が有意に高かったと報告されている.

■下にZEPHyR studyのAbstractを掲載しておく.本studyではMRSA院内肺炎の治療に関して,per-protocolにおける試験終了時の臨床効果(主要評価項目)はVCMよりLZDが有意に高かったと結論づけている.その他結果は
・治療終了時のMRSA陰性化率はLZD群がVCM群より30%高い
・全体的な有害事象および重篤な有害事象はLZD群とVCM群で同様であったが,腎毒性はVCM群でほぼ2倍多く認められた.
・投与開始3日目時点で15μg/mLを越えるVCMトラフ濃度は,いかなら臨床反応の改善とも関連性がなかった.
・LZD群の死亡率は以前の事後解析と同程度であったが,VCM群では低値であった.
・60日死亡率には有意差なしであった.

■本studyにおける問題点は以下の通りであろう.
・メインスポンサーはLZDの製薬メーカーであるPhizer製薬である.
・ITT解析ではなくper-protocol解析を用いているため,無作為化が担保されていない可能性がある.
・per-protocol集団のベースラインで人工呼吸管理,菌血症,糖尿病,腎疾患,心疾患がVCM群で多いにもかかわらず,ベースラインの有意差検定がなされていない.
・血小板減少がLZD群とVCM群とでさほど差がなかったのは,VCM群に菌血症が多かったことから,敗血症性DICを合併していた可能性がある.
・非劣性試験であるにもかかわらず,LZDがVCMより臨床効果が高いという,優越性を強調してしまっている.
・Kaplan-Meier曲線が本文に掲示されていない.

■本studyを片手にPhizer製薬のMRが医師にLZD(ザイボックス®)を推奨してくることは容易に想像されるが,上記の問題点の通り,そう簡単にLZDがVCMよりよいと結論づけられるものではない.実際,臨床効果が得られるにもかかわらず60日死亡率に有意差がなかったのはインパクトファクターに欠ける.これに関しては,本文考察やメーカー側が「VCM用量を最適化したこと,院内肺炎患者のケアの質が全体的に改善されていること,VCM無効に対するサルベージ療法にLZDがしよう可能であったことを反映している可能性がある」と主張している.その一方で,60日死亡率は掲示しているのにKaplan-Meier曲線を掲示していないことはおおいに疑問が残る.そこで,Kaplan-Meier曲線を入手したところ,LZD群とVCM群の曲線はほぼ重なっており,差はまずないに等しいことが分かる.
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この曲線が本文に掲載されていないのは,メインスポンサーのPhizer社の要望により意図的に隠されたのではないかという疑いが残る.

Wunderink RG, Niederman MS, Kollef MH, Shorr AF, Kunkel MJ, Baruch A, McGee WT, Reisman A, Chastre J.
Linezolid in methicillin-resistant Staphylococcus aureus nosocomial pneumonia: a randomized, controlled study. (ZEPHyR study)
Clin Infect Dis. 2012 Mar 1;54(5):621-9. Epub 2012 Jan 12.

Abstract

BACKGROUND: Post hoc analyses of clinical trial data suggested that linezolid may be more effective than vancomycin for treatment of methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) nosocomial pneumonia. This study prospectively assessed efficacy and safety of linezolid, compared with a dose-optimized vancomycin regimen, for treatment of MRSA nosocomial pneumonia.

METHODS: This was a prospective, double-blind, controlled, multicenter trial involving hospitalized adult patients with hospital-acquired or healthcare-associated MRSA pneumonia. Patients were randomized to receive intravenous linezolid (600 mg every 12 hours) or vancomycin (15 mg/kg every 12 hours) for 7-14 days. Vancomycin dose was adjusted on the basis of trough levels. The primary end point was clinical outcome at end of study (EOS) in evaluable per-protocol (PP) patients. Prespecified secondary end points included response in the modified intent-to-treat (mITT) population at end of treatment (EOT) and EOS and microbiologic response in the PP and mITT populations at EOT and EOS. Survival and safety were also evaluated.

RESULTS: Of 1184 patients treated, 448 (linezolid, n = 224; vancomycin, n = 224) were included in the mITT and 348 (linezolid, n = 172; vancomycin, n = 176) in the PP population. In the PP population, 95 (57.6%) of 165 linezolid-treated patients and 81 (46.6%) of 174 vancomycin-treated patients achieved clinical success at EOS (95% confidence interval for difference, 0.5%-21.6%; P = .042). All-cause 60-day mortality was similar (linezolid, 15.7%; vancomycin, 17.0%), as was incidence of adverse events. Nephrotoxicity occurred more frequently with vancomycin (18.2%; linezolid, 8.4%).

CONCLUSIONS: For the treatment of MRSA nosocomial pneumonia, clinical response at EOS in the PP population was significantly higher with linezolid than with vancomycin, although 60-day mortality was similar.

[1] Clin Infect Dis 2001; 32: 402-12
[2] Clin Ther 2003; 25: 980-92
[3] Chest 2003; 124: 1789-97
[4] Intensive Care Med 2004; 30: 388-94
[5] Am J Respir Crit Care Med 2005; 171: 388-416
[6] Clin Infect Dis 2011; 52: 285-92
[7] Crit Care Med. 2010; 38: 1802-8
[8] Chest 2011; 139: 1148-55
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by DrMagicianEARL | 2012-03-30 17:01 | MRSA | Comments(0)
2012年2月24日ICU看護師対象DIC勉強会概要(2)

2.DICの診断
 DICの診断基準は一般的なものから産科・新生児などまで様々であるが,特に重要なのは急性期DIC死んだ基準,厚生省DIC診断基準,ISTH DIC診断基準の3つである.急性期DIC診断基準は感度が高く,早期からのDIC診断・治療に直結する.敗血症性DICでは特に有用であるが,血液疾患由来のDICには不向きである.また,特異度は低いので,DIC以外の疾患の鑑別は必ず必要である.厚生省DIC診断基準は特異度は高く正確であるが,項目が煩雑であり,早期診断にはむいていない.ISTHのDIC診断基準は海外が厚生省DIC診断基準をほぼ真似て作成したものである.

 敗血症性DICでは近年SIRS-Associated Coagulopathy,略してSACと呼ばれる概念が取り入れられている.これは,SIRSという病態においてDICに進展していく前病態の概念であり,DICが臓器障害を発症しているのに対し,SACはまだ臓器障害を発症していない状態である.病態進行に伴ってSAC,DIC,MODSと進展していくが,厚生省DIC診断基準はDICの時点を診断しているため,MODSへの進行を許してしまいかねない.一方,急性期DIC診断基準はDICに至る前のSACの状態を診断することが可能であり,これにより臓器障害を併発する前に治療することで病態からの改善が見込めるものである.

 DICにおいてよく指標とされるのは血小板である.しかしながら,血小板の低下は本当にDICか?急性期であってもDIC以外に血小板が減少する病態は多数ある.血小板好中球複合体形成による肺と肝臓に集積・消費,ADAMTS13不足(もしくは好中球エラスターゼ増加),骨髄抑制,CHDF,薬剤性(ヘパリン製剤,ザイボックス®など),凝集による偽性低値,血液疾患(血球貪食症候群,再生不良性貧血,白血病,特発性血小板減少性紫斑病など),ウイルス感染症,膠原病,低栄養などである.よってこれらの鑑別を行わず,DICでないのにDIC治療を開始すると,無駄な医療費が増大し,出血のリスクも増加,生体防御レベルの凝固が阻害され,病原体やhistone,HMGB1などが全身に播種し,血小板減少の真の原因が解決されないなど多数の問題が出てくる.DICはDIC診断基準,TATを用いて正確に評価することが必要である.

3.DICの治療の意義
 DICの治療薬の話に移る前に,DIC治療の背景について触れておかねばならない.海外ではDICは治療せず,原疾患治療が全てとされる.このため,海外ではDICを知らない医師がほとんどである.また,海外ではDICの研究はほとんどなされておらず,日本はDIC先進国といえる.しかしながら,DIC治療薬が生存率を改善したという大規模試験によるエビデンスは存在しない.このため,日本でもDICを治療する施設と治療しない施設に分かれている.

 DICの生存率は本当に改善しないか?これについては,DIC治療薬のRCT(ランダム化比較試験)のプロトコルの甘さによって有効な治療薬が無効になっている可能性がある.DIC治療薬はDIC離脱率でよい成績を残しているが,原疾患治療がまともになされず,結局死亡率改善に結びついていないことも考えられる.また,28日ではなく90日で死亡率を評価すると有意差がでる可能性もある.敗血症・DIC由来の臓器不全は28日くらいなら生存していることはしばしば経験されるが,90日という長い期間で見ると差は歴然である.これらのことから,原疾患治療までしっかりとプロトコルに組み入れた臨床試験を行わなければ意味がないと思われる.一般的に臨床試験は多施設で行う方がより質が高い研究となるとされてはいるが,プロトコルが曖昧になる要素が含まれる以上,このような集中治療領域の試験を本当に多施設で行うべきかどうかについてはおおいに疑問が持たれるところではある.そういう意味では単施設の研究報告も吟味する必要がある.

 加えて,これは噂ではあるが,海外のエビデンスをくつがえすような日本発の薬剤は雑なプロトコルを組まれて臨床試験で効果が否定されることが多い.逆に,海外ではエビデンスを作るためにプロトコルを捻じ曲げた臨床試験を行うことがある.よい例は昨年10月末に販売中止となった,敗血症における活性化プロテインC(APC)製剤であろう.APC製剤の製薬メーカーはSSCGのメインスポンサーであったことは暗黙の事実である.また,1990年前後,世界的に有名な注中治療領域の複数の医学誌においては,日本人というだけで一部分野においては論文投稿が拒絶されていたこともあるとのことである.我々はついつい海外のエビデンスに目を向けがちであるが,海外のエビデンスといえどもその査読には十分注意が必要である.

 DIC治療がはたしてエビデンスがあるものか判断するのは難しい.なぜなら国内では既にDICは保険適応下で治療することが慣習化されており,比較試験を行うにもプラセボ群を設定することができないからである.しかしながら,集中治療領域における各種の治療の積み重ねにより,1つ1つの項目の有意差は少なくても,それらを組み合わせれば生存率は有意に改善するものと考える.

4.DICの治療薬
 各種のDIC治療薬を順に見ていく.ヘパリン系には未分画ヘパリン(UFH),低分子ヘパリン(LMWH),ヘパラン硫酸(HS,別名ダナパロイドナトリウム)があり,Xa因子,トロンビンを阻害する作用がある.UFHは安全域が狭く,効果についても疑問があり,あまり使用されなくなってきている.LMWHは安全性がUFHより高いが,効果はUFHと同様に弱い.HSはヘパリンに代わって新たに登場したヘパリン類似物質であり,比較的新しいためエキスパートコンセンサスではエビデンスレベルは低いものの,安全かつ効果的で,軽症DIC症例において使用されている.

 合成プロテアーゼ阻害薬にはメシル酸ガベキサート(GM:エフオーワイ®)とメシル酸ナファモスタット(NM:フサン®)があり,Xa因子,トロンビン,エラスターゼに作用する.ほとんどエビデンスはなく,経験的に効果があるとして頻用されている.近年では効果に疑問が持たれ始め,アンチトロンビン製剤,リコンビナント・トロンボモデュリン製剤の登場により特定の場面以外では使用されなくなってきている.GMは抗凝固作用のみであり,敗血症性DICに向いているとされている.NMは抗凝固作用に加え,プラスミンにも作用することで抗線溶作用両方を有するため,敗血症性DICには使用は推奨されない.出血を伴う線溶亢進型DICでは有用かもしれない.なお,GMはCHDFや透析でかなり吸着されてしまう.副作用としては高ナトリウム血症,低カリウム血症が比較的多く見られる.

 アンチトロンビン製剤(AT)はリコンビナント・トロンボモデュリン製剤が出る前のエキスパートコンセンサスにおいて最も推奨度が高い治療薬であり,出血があっても使用可能である.臨床適応はATⅢ活性が70%未満であるが,近年リコンビナント・トロンボモデュリンの登場で50-70%であれば投与不要とする考え方もある.大規模試験であるKyberSept trialでは,非DIC症例も含めた敗血症患者に対するAT製剤の投与において,全体の死亡率は改善しなかったが,DIC症例に限定したサブ解析で死亡率が改善しており,唯一これが質の高いエビデンスといえる.ただし,あくまでもサブ解析であるため,追試が必要である.ヘパリン製剤との併用では効果が減弱してしまうため併用はすべきでない.ATはCHDFや透析でかなり吸着されるようである.なお,投与前にアルブミン製剤を投与することで効果増強の可能性が示唆されている.ATを投与すると,トロンビンと結合してTATを形成することでDICを治療することは先述の通りであるが,DICでない症例でATを投与してしまうと,TATが上昇してしまい,TATで判断できなくなるリスクがある.

 リコンビナント・トロンボモデュリン製剤(rTM)は最も新しいDIC治療薬であり,良好なDIC離脱率を有する.トロンビンと1対1で結合し,プロテインCを活性化して活性化プロテインC(APC)に変換し,APCはVa因子やVIIIa因子に作用し,また,抗炎症反応も示す.また,HMGB1も阻害するとされている.ヘパリンと比較しても有意ではないが6%前後の死亡率改善が報告されている.その作用からARDSでも効果が期待されているが,治療効果があったとするRCTはない.トロンビン濃度に応じて作用するため,出血は起こりにくいとされているものの,半減期が長く,出血症例に対しては使用できない.また,肝障害や過去に出血の既往がある患者においても出血リスクが高いため注意が必要である.現在海外進出しており,米国でPhaseⅡが終了,PhaseⅢに移行するとのこで,大規模RCTによる生存率改善の可能性が期待されている.

 その他治療薬であるが,新鮮凍結血漿は超重症DICや血小板低下遷延のDICにおいてADAMTS13補充目的で適応となる.超重症かつAT活性が50%未満であれば最初からの投与も検討すべきかもしれない.

 トレチノイン,別名全トランスレチノイン酸(ATRA)は急性前骨髄球性白血病(APL)の治療薬であるが,APLによるDICに対しても著効する.これは,APLに対する原疾患治療であると同時に,TFや線溶系を亢進させるアネキシンⅡを阻害することで凝固・線溶を両方ともブロックし,短時間でDICから離脱でき,極めて有効である.

 トラネキサム酸(TA)はプラスミノゲンを阻害し,抗線溶作用がある.ただし,DICにおいては抗線溶薬は原則禁忌である.これは全身血栓症発症による死亡例が多数報告されているためで,特に敗血症性DICやAPLでのATRA投与中の患者への投与は極めて危険であり,絶対禁忌となっている.一方で,外傷性出血性ショックにおけるDICでは有効であるとの報告が相次いでいる.DICにおいて使用する際は以下の条件が全て満たされている場合に限定される.
① 線溶亢進型DICで間違いなく,重症出血コントロールができずに苦慮している症例
② 必ずヘパリン類(ヘパリン系,ダナパロイドNa)との併用下であること
③ 専門家に日々コンサルトできる状態にあること

5.DICの治療戦略
 DICの治療薬についてはエキスパートコンセンサスがあるが,実際の治療に関する明確な使用ガイドラインは存在しない.当院においても血液内科が作成した院内DIC治療ガイドラインもどの疾患にどの薬剤をどう使用し,いつやめるかの明示はされていない.

 ただ,各施設で共通した考え方がある.原疾患治療が大前提であること,軽症例では無治療でもよいこと(とりわけ感染症のように原疾患治療が可能な場合はほとんどは抗DIC治療薬を使用せずに改善する),出血例ではrTMは使用しないがATは使用できること,重症例ではrTMやATを積極的に使用すること,万が一出血してもTAは原則使用してはならないことなどである.

 敗血症において,凝固亢進からSAC(SIRS associated Coagulopathy),さらにDICに進行していく過程において,DIC治療とはどこからの治療なのか?急性期DIC診断基準はSAC診断をtargetにしており,そこから抗DIC治療薬投与を開始する.しかしながら,私はSACに至る前もDIC治療(というより予防やDICの軽症化)と考えており,ここの治療にあたるのが蘇生バンドルに他ならない.すなわち,適切かつ早期の末梢循環不全の解除によりDICを予防する,もしくは発症しても軽症で済ませることの方が重要であると考えており,抗DIC治療薬はあくまでもDIC(SAC)に至った場合の補助的治療と認識している.DICに対する治療は原疾患治療がしっかりなされていることが大前提である.優れた抗DIC治療薬が登場した弊害は,離脱率が高いがゆえに,DICを治療することで患者を治療したと医師側が満足しきってしまい,原疾患治療が疎かになりやすいことであろう.抗DIC治療薬はあくまでも過剰状態に対して補助的に使用する薬剤であり,原疾患治療があってこそ生きる相乗効果的治療法であることを念頭に置く必要がある.

 院内DIC診療ガイドラインには使用のプロトコルなどの記載は一切なかったため,院内敗血症診療ガイドラインでは各薬剤の使用プロトコルを記載させていただいた.治療薬選択の流れであるが,まず敗血症が重症でないならばGMを選択考慮としている.これは当院にHSがないためであり,エビデンスは乏しいが,治療選択肢を残す上での苦肉の策である.実際には私個人は軽症であれば抗DIC治療薬投与も不要で原疾患治療のみで十分との立場をとっている.次に,重症敗血症であった場合,出血がなければ(DD迅速キットはあるが,ATⅢ活性は外注であるため)rTMを第一選択とし,これにATやFFPを加える基準を定めた.すなわち,APACHEⅡ scoreが25以上,もしくはSOFA scoreが上昇傾向であれば重症DIC群,そうでなければ非重症DIC群とし,重症DIC群でATⅢ活性50-69%であればAT 1500単位/日を追加,ATⅢ活性<50%であればAT 3000単位/日+FFP投与とした.非重症DIC群であればATⅢ活性50-69%では他薬剤追加は不要,AT活性<50%ではAT 1500単位/日を投与とした.なお,CHDF使用症例であればAT投与時は全例3000単位/日を推奨した.出血例においてはrTMは使用できないため,ATを第一選択とし,FFPを投与,またGM追加も考慮としている.

 rTM製剤市販後全例調査の解析がなされ,抗DIC治療薬の併用と出血についての報告があった.rTM製剤単剤での出血率は5.7%であり,DIC治療薬2剤併用ではほとんどの組み合わせで出血率の有意な上昇はなかったが,LMWH併用群でのみ出血率が有意に上昇した(12%).3剤併用ではどの組み合わせであっても出血率が有意に増加しており(8-12%),多数の薬剤の併用はハイリスクとなるため安易に選択すべきではない.

 DIC治療をいつやめるかについては全く結論が出ておらず,医師それぞれで異なる.血小板が改善したらやめるという方法はかなり投与期間が長期化するため無駄が多くなる可能性があり推奨されない.最もよく使用されている目安は急性期DIC基準スコアが3点以下になったらやめるというものである.なお,その他の基準として,急性期DIC基準スコアが低下傾向を示し始め(3点以下でなくてよい),かつ原疾患治療が行われていて,末梢循環不全が解除されているとき(SOFA score改善傾向,高乳酸血症,代謝性アシドーシスが改善傾向)であれば中止するという基準を私は推奨している.これにより投与期間が短縮され,コスト減少,出血リスクが軽減される.現在この基準での臨床データを当院で集積中である.なお,原疾患治療がすぐに完了できないような場合にはこの方法は不向きである.

 最後にまとめになるが,DICは治療よりもまず予防である.そのために,原因となる末梢循環不全徴候を見逃してはならない.バイタルの変動,乳酸値などを念入りにチェックすべきである.集中治療とは現在目の前の病態を治療するのみならず悪化を予防することが重要であり,患者に重症感がなくとも事前に徴候を察知して食い止め,あたかも患者に何も起こっていなかったかのように経過する,これが集中治療の醍醐味であると考える.DICを見るときは,線溶系抑制型か亢進型かを判別し,その道具として原疾患,FDP,DD,PICを解釈する.出血徴候を見逃さないことは当然だが,臓器症状(臓器不全)は患者をぱっと見ただけでは分からない.推測する上でもSOFA scoreは有用であり,是非活用すべきである.
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by DrMagicianEARL | 2012-03-14 12:49 | 敗血症性DIC | Comments(0)
2012年2月24日に当院でICU看護師対象のDIC勉強会を開催し,講義をさせていただいた.その概要を掲載

1.DICの病態生理

 DICは播種性血管内凝固(Disseminated Intravascular Coagulation)の略であり,血液凝固反応,血小板が活性化され,全身の細小血管内に微小血栓が多発し,多臓器の微小循環障害,機能不全を生じる.また,消費性凝固障害や線溶活性化に伴う出血傾向をきたす.「Death Is Coming(死がやってきた!)とも揶揄されていたこともある.

 平成10年度の厚生省特定疾患血液系疾患調査研究班血液凝固異常症分科会研究業績報告書によると,DICの原因は絶対数でみると敗血症が最も多く,ショック,非ホジキンリンパ腫,呼吸器感染症があとに続く.発症率でみると急性前骨髄性白血病をはじめとして白血病がDICを高率に発症することが分かる.敗血症での発症率は31.3%である.また,ARDSでもDICは比較的多いことが特徴である.しかし,これらの疾患だけがDICを起こすわけではない.実際にはあらゆる生体侵襲はDICを引き起こしうる.ときにインフルエンザ,心不全,間質性肺炎などでもDICを発症することがある.

 DICでは血が固まって血栓を形成する凝固系と血栓が溶け易くなる線溶系が共存している.凝固系亢進により臓器に血栓が詰まれば臓器不全が,また,線溶系亢進により血が固まりにくくなって出血傾向が生じる.このように,凝固と出血という相反する病態が混在していることがDICの病態の難しさを表している.

 ではDICは何が引き金で起こっているのか?これは活性化されたマクロファージや細胞傷害により細胞から放出される組織因子(TF:Tissue Factor)である.すなわち,大量の細胞が傷害されればTFも大量に放出され,DICの原因となる.

 DICはTFから始まる凝固カスケード反応によってトロンビンが発生し,フィブリン血栓が形成されて進行する.その過程で,アンチトロンビンⅢ(ATⅢ)はトロンビンと結合し,トロンビン・アンチトロンビン複合体(TAT)を形成し,フィブリン血栓形成を阻害する.これがアンチトロンビン製剤(ノイアート®など)をDIC治療に用いる理由である.なお,DIC診断基準スコアがどうであろうとも,TATが正常値であればその1点のみでDICは否定される.
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 この凝固カスケード反応からのトロンビンを介した凝固反応だけでDICは本当に生じるのか?という疑問が以前から言われていた.そこで発見されたのがヒストン,HMGB1(high mobility group box1)の発見である.ヒストンは染色体を構成する蛋白質で,特に敗血症性DICで関与し,敗血症における主要な増悪因子であり,強い細胞傷害性と血小板を強力に凝集させる作用がある.HMGB1は通称「死のメディエーター」と呼ばれ,臓器障害晩期に死んだ細胞から放出され,次々と周囲の細胞をアポトーシス(プログラム細胞死)に陥らせるメディエーターで,HMGB1とトロンビンが共存すると著しく凝固活性が高まるとされている.また,HMGB1がプロテインC経路を抑制し,単球から組織因子(TF)産生を刺激することでさらに凝固反応が進行する.ただし,この2物質は生体にとって必要なものでもあり,作用の仕方しだいで体に有害なものとなる.

 DICでは凝固反応に対抗する線溶反応が生じている.この線溶系は血栓だらけにならないための生体の防御反応である.フィブリン血栓ができると,組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)によりプラスミノゲン(PG)が活性化されてプラスミン(PM)が生成され,このPMがフィブリン血栓を溶解する.一方,このtPAを阻害するのがプラスミノーゲンアクチベータインヒビター(PAI-1)である.敗血症病態ではPAI-1が異常高値をとり,tPAを強く阻害する,すなわち,敗血症では線溶系が亢進しない.また,α2-プラスミンインヒビター(α2-PI)はPMと結合することでPM-α2PI複合体(PIC)を形成し,これが線溶系亢進のマーカーとなる.敗血症病態ではこのPICは2μg/mL前後しか上昇しない.
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 DICにおいて日常診療でよく見る検査項目はFDPとD-ダイマー(DD)である.血栓が形成される過程ではフィブリノゲンからフィブリン,不安定フィブリン,さらにD分画2つとE分画1つが架橋形成された安定化フィブリンとなっていく.これらをPMが分解することになる,すなわちFDPはフィブリン/フィブリノゲン分解産物の総称である.この分解産物はどの段階でのフィブリンを分解するかによってできるものが異なる.フィブリノゲン,フィブリンモノマー,不安定フィブリンが分解されるとD分画,E分画の1つ1つに分解される.一方,安定化フィブリンは架橋構造により安定化しているため,分解されてもD分画2つとE分画1つの組み合わさった単位は残る,すなわち分解されたものがD分画を2つ必ず有するため「D-ダイマー」と名づけられている.よって,DDはFDPの一部ということになる.
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 FDP,DDを線溶系亢進型と抑制型(敗血症)の観点から見るとどうなるか.線溶亢進型DICではPM生成が亢進しており,フィブリノゲンが安定化フィブリンに至るまでにPMに分解される,すなわち安定化していない状態で分解されるためD分画やE分画の1つ1つの単位は多量に形成されるが,架橋形成された安定化フィブリンは少なく,DDはあまり上昇しない.よってFDPは増加し,DDの増加量は軽度にとどまるため,FDP/DD比が3を越えることが多い.

 敗血症のような線溶系DICではPM生成が抑制されているため,フィブリノゲンから安定化フィブリンに至るまであまり分解されず,安定化フィブリンが蓄積される.そのためフィブリノゲン~不安定フィブリンよりも安定化フィブリンの方が分解される量が相対的に多くなるため,FDP全体に占めるDDの割合は大きくなり,FDP/DD比は3以下となることが多い.ただし,PMそのものが抑制されているため,FDP,DDともそれほど高値はとらない.

 敗血症病態では別の機序でも血小板減少をきたすことがある.血小板を凝集させる因子にvon Willebrand Factor(vWF)がある.このvWFを制御しているのがADAMTS13(a disintegrin-like and metalloprotease
with thrombospondin type 1 motif13)である.DICの経過で血小板減少が遷延しているケースにおいてはADAMTS13が不足している可能性がある.これは血栓性血小板減少症(TTP)と同様の病態が生じていることになり,安易な血小板輸血は血栓形成を助長させるため危険である.DICに対する血小板輸血が慎重投与とされるのはこれが理由である.このような病態の場合は新鮮凍結血漿輸注によりADAMTS13を補充することが優先される.なお,ADAMTS13減少の理由として好中球エラスターゼ(NE)による分解が大きな役割を果たしている.

 NEは一般的にはATⅢやPG,ADAMTS13を分解することによりDICでは凝固作用として働くとされる.しかし,一方でフィブリン/フィブリノゲン分解も一部関与しており,ときにこの作用が強く出ることにより線溶作用が大きくなることがある.敗血症病態でNEが関与した線溶系亢進パターンでは通常は上昇しにくいFDPが上昇,すなわちE分画(E-XDP)が多量産生され,このE-XDPとNEが正の相関を示すことが報告されている.

 このE-XDP濃度で死亡率を見たところ,E-XDPが正常値である場合と比較して,E-XDPが高値(=NEが高値)の場合は死亡率が2.0-2.5倍と上昇する.しかし,E-XDPが低値(=NEが低値)をとる場合は死亡率が4倍以上となった.すなわち,NEは必ずしも抑制すればいいというわけではなく,あくまでも至適濃度にコントロールする必要があり,過度の抑制は逆効果となる可能性を考慮する必要がある.このことから,NEを抑制するウリナスタチン(ミラクリッド®)やシベレスタット(エラスポール®)を安易に投与すべきではない.実際,DICではないが,ARDSに対するNE阻害薬のシベレスタット(エラスポール®)投与により逆に死亡率が上昇したというSTRIVE studyもある.

 DICという病態があるため,重症感染症において凝固は非常に悪いイメージを持たれがちであるが,凝固にも利点となる役割がある.重症感染症においては血小板が菌体成分を認識し,好中球に結合して複合体を形成する.好中球は血小板により活性化され,好中球が自らを犠牲にして直ちにNETsという染色体の粘稠な網を放出し,病原体を捕捉,殺菌する.このNETsに含まれるヒストンが血小板を凝集,微小血栓を形成する.すなわち,凝固はもともとは生体防御反応であり,NETsなどによる効率的な病原体除去と,微小血栓での局所封鎖による病原体やHMGB1,ヒストンなどが全身に拡散するのを防止する.これが過剰になるとDICに至る.

 近年では敗血症,DICにおいて凝固と炎症のCross-talkという概念が定着してきている.すなわち,凝固,炎症は生体防御反応として微生物から身を守るための防衛手段であるが,この2つが相互作用,Cross-talkによって増強されてSIRS(全身性炎症反応症候群)とDICとなる.さらに,CARS(代償性抗炎症反応症候群)と凝固消耗による免疫力低下もきたし,多臓器不全へと病態が悪化していくことが知られる.

 DICでは臓器不全や出血が生じることは今や常識であるが,それ以外に何がまずいのか.
① 血小板が消費され,免疫力が低下する(血小板は重症感染症においては重要な病原体認識細胞).
② 抗菌薬などの薬剤が血栓形成により病変部位に到達しにくくなる.
③ 局所で発生した有害物質(HMGB1やhistone,活性酸素種など)が全身に播種されてしまう.
④ 炎症とのCross-talkによりさらに炎症・凝固が増強されてしまう.
などが挙げられる.
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by DrMagicianEARL | 2012-03-13 17:03 | 敗血症性DIC | Comments(0)
 平成24年2月28日~3月1日の3日間,千葉にある幕張メッセで第39回日本集中治療医学会学術集会が開催され,小生も2日目と3日目に参加してきた.
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医療機器の展示場.奥にはドクターヘリもあり,一番奥にポスター展示あり.某E社のカテーテルモニターは相変わらずすごい.当院にも是非とも欲しいが,おそらくは総務の壁にぶちあたる.
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ケベック生まれの最新ドクターヘリBell477
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今回参加した最大の目的は日本版敗血症ガイドラインの概要発表.これについては後日アップする.

今日は敗血症関連の一般演題ポスターの中から気になったものをピックアップ.

デクスメデトミジン投与により血圧上昇をきたした糖尿病の1症例
浜松医科大学医学部附属病院集中治療部 小林充先生,他 
 重症敗血症治療で鎮静の重要性は既にSSCGで提示されており,呼吸抑制の少ないデクスメデトミジンもよい適応となり得る.

 副作用としては低血圧が生じるが,この演題症例では逆に血圧上昇という現象が起きている.中枢性交感神経抑制作用のα2A受容体と末梢血管収縮作用のα2B受容体があり,臨床使用量ではα2A作用が働くため,低血圧が生じる.しかしながら,血中濃度が高まるとα2B作用が働きやすく,また,他の鎮静剤併用や糖尿病による末梢神経障害の関与などによりα2B作用がでたと考察されている.α2B作用が働く場合,α2Aより速く作用が出現すると言われている.

エンドトキシン吸着療法を用いない腹腔内感染症による敗血症性ショック患者の治療成績
岡山赤十字病院麻酔科 川上直哉先生,他
 敗血症性ショックでは輸液療法が初期蘇生の中核となるため,心機能評価が重要であることはSSCGに記載がなくとも近年集中治療領域では既に多くの医師が感じていることであり,敗血症そのものによる心筋障害が生じることも加味すると心臓超音波検査が必要となることは容易に理解可能といえる.小生の病院の敗血症診療ガイドラインでも既に心臓超音波検査を組み込んでいるし,今回発表となった日本版敗血症性ガイドライン概要でも心臓超音波検査が組み込まれている.なお,PMX-DHPについてのまとめはこちら

 このポスター演題では岡山赤十字病院独自の重症敗血症治療の蘇生バンドルが提示されていた.SSCGとの違いは,頻回の心臓超音波検査で前負荷と左心機能評価を行い,平均血圧を80以上にコントロール,カテコラミンはドパミンかノルアドレナリンかバソプレシンを用い,尿量は1mL/kg/Hを目標に,フロセミド静注or 10mg/hの持続静注,もしくはカルペリチド≦0.017μg/kg/minで投与するとしている.これによりPMX-DHPを使用せずに腹腔内感染症による敗血症性ショックの治療成績は死亡率16.7%となっている(予測死亡率は61.4%).心機能評価下での循環動態の厳重把握管理の重要性が予後に直結することがよく分かる演題である.

当院におけるプロカルシトニン半定量法の有効性についての検討
岐阜大学医学部附属病院高度救命救急センター 谷崎隆太郎先生,他
 小生の病院はプロカルシトニンを採用しておらず,使用経験がないためあまりプロカルシトニン関連の文献は読みきれていないが,このポスター演題が示すのはプロカルシトニンの過信はよくないということであろう.なお,本演題とは別の演題『プロカルシトニン異常高値を示した症例の検討(横浜労災病院中央集中治療部 青木真理子先生,他)』では感染症以外でもSIRSやショックでもプロカルシトニンが異常高値をとったと報告されている.

 プロカルシトニン半定量では尿路感染症,腹部感染症ではそれぞれ91.7%,100%と陽性率が高く,肺炎80%,BSI 73.8%,CRBSI 81.1%とまずまずであるものの,皮膚軟部組織感染症は59.4%と非常に低い.また,血液培養陽性例でも24%はプロカルシトニン陰性であった.グラム陰性菌では陽性率91.7%だが,グラム陽性菌では陽性率53.0%であった.グラム陽性球菌感染症や皮膚軟部組織感染症でプロカルシトニンを過信すると感染症を見落とす可能性がある.

敗血症に関する認知度
自治医科大学麻酔科学・集中治療医学講座麻酔科学部門 篠原貴子先生,他
 敗血症の定義や死亡率について,卒後5年以内の医師,看護師,医学生,看護学生,一般市民でどれだけの認知度があるかを調べた演題である.敗血症という名前については医師・看護師は100%であるのに対し,一般市民は50%弱.敗血症の定義については医師70%,看護師60%弱であった.重症敗血症の死亡率については医師の認知度は60%弱であった.

 この演題を見た印象は,「医師の認知度がよすぎる」である.実際,小生の病院では院内敗血症診療ガイドラインを発表するまで敗血症の定義を言える医師はほとんどいなかったし,SIRSやSSCGの名前すら知らない医師がほとんどであり,知っている医師は卒後間もない研修医だった.一方,年配の医師ほど知らない.これは他の医師も感じていたことで,とある先生が演題発表の際に「医師を卒後5年以内としているが,もっと上の医師でアンケートをとるべき」と指摘していた.

 なお,今後,sepsisの定義が変わる可能性がある.実際に初期蘇生を必要とするのはsevere sepsis,septic shockであり,そうでないsepsisに関してはsepsisから切り離すべきとする意見が海外でも出始めている.ヨーロッパ集中治療医学会でもARDSの診断基準や重症度が変わり,ALIの名称が消えたという流れから,今後sepsisについても名称や定義の変更が進んでいくのかもしれない.

■■トロンボモデュリンアルファ投与による活性型プロテインCの変化
日本大学医学部救急医学系救急集中治療医学分野 千葉宣孝先生,他
 APCを測定してrTMの効果を見たもので,rTM投与群が有意にAPC濃度が増加していた.ただ,小生としてはむしろ別のところが気になった.rTM投与群に比して非投与群はAPACHE-Ⅱスコアが高く,重症例が多い.rTM投与前のAPC濃度を見ると,非投与群の方が明らかに高いのである.研究目的が違うため当然ではあるが考察でこのことには触れられていなかった.重症例ほどAPCは通常減少するものと思っていたが,この結果は何を意味するのかまだ不明である.単に少数解析であったからというだけかもしれないが,検証にはより多くのデータが必要であろう.

Circulating Endothelial Cell解析の確立と発展
名古屋大学大学院医学研究科救急・集中治療医学分野 杤久保順平先生,他
 健常人においてCirculating Endothelial Cell(CEC)を計測した演題.CECはAMI,心不全などの様々な心血管疾患,2型糖尿病,血管炎疾患群,リケッチア感染症,サイトメガロウイルス感染症,敗血症性ショック,癌,リンパ腫,腎移植,TTPなど多くの疾患で増加が報告されている.本研究ではCECがSIRS-associated Coagulopathy(SAC)における重症度評価や治療効果のマーカーになる可能性を示唆していると報告している.さらに,敗血症によるSACモデル動物および敗血症患者におけるCECの解析を開始する予定とのことである.

Septic Shockに対する新しい重症度クライテリアと初期輸液療法の検討
藤田保健衛生大学医学部麻酔・侵襲制御医学講座 原嘉孝先生,他
 SIRSや血小板低下の両方が含まれている急性期DICスコアを「持続する炎症」の程度の指標として注目したとする興味深い内容.昨今の凝固と炎症のCross-talkの概念に非常にマッチした内容であり,さらに症例を増やした今後の報告におおいに期待したい.なお,凝固と炎症のCross-talkについてはこちら

 本演題では血中乳酸値とDICスコアからSeptic Shockの病態を4象限に分類することでSeptic Shockに特異的な重症度を容易に予測できる可能性が示唆されたとしている(後ろ向き研究).APACHEⅡスコア,SOFAスコアとの比較では,28日死亡率でこの分類方法が有意差がでており,APACHEⅡやSOFAよりもより正確にsevere sepsis,septic shockの病態を表す分類であることを示唆していると考えられた.また,この分類により軽症なクラスではEGDT達成率が最低であるにもかかわらず28日生存率が100%であり,EGDTによる管理が不要の可能性がある.輸液過剰による弊害も報告されていることから,単純に乳酸値に頼った輸液療法,EGDTのみに頼った輸液療法を行うのでなく,ICU入室時にどの象限に属するかを判断し,病態に応じた輸液療法を心がける必要があるとしている.

テイコプラニンの先発品と後発品の比較検討
関西医科大学附属枚方病院 山崎悦子先生,他
 これは小生にとって衝撃的結果である.2011年の今日の治療薬®ではTEICの後発品は10社が発売しており,小生の病院でも後発品を採用している.

 TEICの先発品と後発品では6種類の主成分の含有量が異なるとされ,これが薬物動態,臨床効果に大きな影響を与えている可能性がある.本研究では,MICに有意差はなかった.しかし,トラフ値が後発品の方が有意に高いにもかかわらず,臨床効果は先発品が有意に高かった.MRSAにおける臨床効果では先発品100%に対し後発品は60%である.TEICのTDMキットは後発品の血中濃度を正確に反映していない可能性がある.

Septic Shockの初期蘇生に中心静脈カテーテルは必須か
信州大学医学部附属病院高度救命救急センター 望月勝徳先生,他
 SSCGでは中心静脈カテーテル(CVC)が必要であるとしており,小生の病院でも必要としている.ただ,小生もCVCなしで敗血症性ショックを治療した経験はある.CVCを使用していない場合の弊害はScvO2やCVPが計測できないこと,薬剤投与経路が少なくなることであろう.CVPに関しては心臓超音波検査での代用できる可能性もあり,あとは乳酸値を重要視すればCVCなしでも治療できる可能性はある.また,CDCによると,カテーテル関連血流感染症(CRBSI)の合併は治療中の原疾患に対する死亡率を35%程度上昇させる可能性があるとする報告もある.信州大学救命救急センターでは敗血症性ショックでのCVCはルーチン化せず,他の手段で循環動態を評価している.なお,敗血症におけるCVCを用いたScvO2,CVPのモニタリングについてのまとめはこちら

 本演題の報告では,CVCを使用せずに治療した敗血症性ショック患者の死亡率は5.9%であった.原因疾患や重症度の違いから,他の文献報告での敗血症性ショック死亡率と単純比較はできないが,治療成績としては遜色がない.ただし,考察でも述べられていたが,これは優秀な集中治療医の他手段による観察評価があってこその管理治療であり,集中治療部がない病院などではCVCなしでの敗血症性ショック治療は推奨されないものと小生は考える.

敗血症急性期における心収縮能低下時の拡張末期心臓血液容量による前負荷の評価には注意が必要である
東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座救急医学分野 久志本成樹先生
 十分なfluid resuscitationを施行した敗血症症例において,左室EF,左室拡張末期容量の増加が臨床的に証明されている.敗血症性ショックにおいてはEFは可逆的に低下するが,stroke volumeは維持され,心係数は低下しない.一方,左室拡張末期容積をみると,左室収縮不全合併症例において,可逆的な左室拡張が生じる.また,拡張障害合併例で有意に予後不良であること,拡張障害の存在は重症敗血症・敗血症性ショックにおける独立した予後不良の予測因子と報告されている.敗血症急性期には20%以上の症例において可逆的心収縮能低下が生じ,左室拡張末期容量の増加を合併しうるため,至適前負荷が症例,経過により異なる可能性がある.なお,敗血症による心筋障害に関するまとめはこちら

 本演題では敗血症急性期においてPiCCOによる拡張末期心臓血液容量(GEDI)による前負荷評価の妥当性を検討することを目的としている.敗血症によるALI/ARDSと判断された74例を対象として,EF<50%と>50%の2群に分けて比較.敗血症急性期の左室収縮能低下状態においては,左室拡張末期容量増加を合併しうることから,前負荷の指標としての至適GEDIが変動する可能性を報告している.
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by DrMagicianEARL | 2012-03-01 21:45 | 敗血症 | Comments(0)

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