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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

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2012/8/30大幅改訂
Summary
・生体侵襲では組織因子(TF)による凝固活性化をtriggerとし,カスケード反応が進行していく.
・敗血症におけるDICでは,炎症性サイトカイン(Alarmins)やエンドトキシン(LPS)などのPAMPsが要因となり,組織因子が放出される.
・凝固カスケードの最終産物としてトロンビン(Th)が産生され,血栓形成を促進する.
・トロンビンは複数の経路によるpositive feedbackによりさらに産生量が増幅される.
・トロンボモデュリン(TM)はトロンビンと結合することにより血管内皮細胞の保護作用を発揮する.
・凝固と炎症はプロテアーゼ活性化受容体(PAR)を介してCross-talk(相互連関)しており,このPARの選択的リガンドとしてトロンビンは極めて重要な活性化プロテアーゼであり,凝固のみならず炎症反応も促進する.
■重要Key Wards
TF:Tissue factor,組織因子
Th:Thrombin,トロンビン
MP:microparticle,マイクロパーティクル
PS:P-selectin,セレクチン(接着因子)
VEC:Vessel Endothelial Cell,血管内皮細胞
Fbg:fibrinogen,フィブリノゲン
TM:Thrombomoduline,トロンボモデュリン
PAR:protease activated receptor,プロテアーゼ活性化受容体

■止血系はカスケード型の反応である[1].すなわち,活性型凝固因子が,基質である1つ下流の非活性型凝固因子を活性化する,という基本モジュールの重層によって成立している.そして特にビタミンK依存性凝固因子が活性化された血小板膜のホスファチジルセリン上にミセルを形成して立体配置され,反応は爆発的に増幅される.
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1.凝固因子(Tissue Factor;TF)
■凝固活性化はTF(tissue factor;組織因子)依存性に始まる.TFは血液に接する細胞(白血球,血小板,血管内皮細胞)には通常発現しておらず,血管外膜の線維芽細胞,中膜の平滑筋細胞に恒常的に発現している.また,TFはこれら以外の種々の細胞にも発現しており,凝固反応の開始に加え,血管新生や癌の進行・転移などにも重要な役割を果たしている.

■血中には凝固活性を有する微量のTF(blood-borne TF)が循環しており,この血中TFによる凝固系の活性化と増幅機序が注目されている[2].血中TFは,単球などから放出されるMP(microparticle)に結合しており,TF含有MPに存在するPS(P-selectin)のリガンド(P-selectin glycoprotein ligand-1;PSGL-1)などの接着因子を介して血管傷害部位に集積する[3].MP結合型TFの由来には,活性化単球やVEC(Vessel Endothelial Cell;血管内皮細胞)の膜断片,血小板や好酸球からの放出顆粒などが示唆されている.

■MPは0.1-1μmの膜断片で,活性化やアポトーシスなどを起こしたVEC,単球,血小板の細胞膜から生じる[4].MPの特徴は元の細胞がもつ膜蛋白質を保有している点である.血小板由来のMPはglycoproteinⅠbを膜上に提示している.エンドトキシンなどで刺激を受けた単球から生成するMPは膜上にTFを有する.MPのもうひとつの特徴は,凝固促進能をもつホスファチジルセリンがリン脂質二重層の外側に露出している点である.これは,MPが細胞の活性化やアポトーシスにより生じることからも支持される.TF含有MPの潜在的な凝固能の特性から,血栓性疾患の発症においてMPが果たす役割が注目されている.MPについては2011年にArterioscler Thromb Vasc Biol誌に5つの総説を特集している[5]

■正常時の血中TFは微量であり,生理的止血血栓形成への関与は明らかでない一方,種々の病態で血中TFは増加する.endotoxin血症で増加する血中TFは,単球や内皮細胞を含む種々の細胞から由来する.炎症局所に浸潤した好中球はTFを発現し,細胞死によりMP含有TFを放出するため,炎症初期の血中TFは好中球由来と考えられている.こうした病態時に増加する血中TFは,病的血栓の原因になるのか,病変の結果であるのか臨床的評価は定まっていない.

■敗血症などの感染症に合併したDICの発症にはサイトカインが大きな役割を果たす.単球はendotoxin(リポポリサッカライド;LPS),炎症性サイトカイン(TNFα,IL-1β),免疫複合体,P-selectin,血小板で活性化され,TFを発現する[6].VECはLPSやある種の炎症性サイトカインによりTFを発現する.TF遺伝子のプロモーター領域には転写因子であるNF-κBやAP-1が結合する塩基配列があり,これらの配列がTF mRNAの転写誘導に重要な役割を果たしている.このRNA遊離により血液凝固内因系が活性化される[7]

■凝固カスケードのtriggerは,VECが傷害され,剥離脱落して,血管壁のTFが血流にむき出しになることで生じ,これにF.VIIaが結合して外因系凝固が活性化される.この血管損傷部位ではコラーゲン線維もむき出しになり,これを血小板板上のGPVIが認識して,あるいはコラーゲン上に結合したvWF(von Willebrand Factor)を血小板上のGP1b/IX/Vが認識して,血小板は血管損傷部位に粘着し,次いで活性化・凝集が生じる.また,宿主細胞が障害されて細胞内からRNAが遊離してくると,血液凝固内因系が活性化される.

2.トロンビン(Thrombin;Th)
■凝固カスケードが進むと,最終的に大量のXa因子が産生され,Va因子を補酵素としてprothrombinに作用し,凝固カスケードの最終産物として凝固因子ⅡaであるTh(Thrombin)が産生される.Thは血栓形成に極めて重要なセリンプロテアーゼである.ThはFbg(fibrinogen)を切断してフィブリン網を形成する.さらにThは第XIII因子を活性化させる.第XIIIa因子はCa2+の存在下でフィブリン網から不溶性フィブリン架橋構造を形成して安定化フィブリンが完成する.さらにThは血小板活性化因子(PAF;platelet activated factor)の放出を促進して血小板を強力に活性化し,血小板はADP放出を行い,血小板インテグリンの活性化が起こり,血小板凝集を引き起こし,この血小板を安定化フィブリンが巻き込んで血栓を形成する.

■またThは,凝固カスケードの上流に位置する凝固第V,VIII因子の活性化を促進することで,Th自らの産生速度を10万~30万倍に亢進させるブースター効果を発揮する(凝固増幅反応)[8].同時に,Thによって活性化された血小板もMP(microparticle)を放出することで,凝固反応の場となるリン脂質を広範囲に供給し,Xa-Va-Ca2+-リン脂質からなる複合体であるprothrombinaseを形成し,Thの産生が亢進する.

■このようにThは極めて多彩な機能,それも凝固の進展や血小板の活性化といった血栓形成につながる機能をもつ.こういった機能をもつThの形成は十分に制御される必要がある.血管損傷の局所にThの形成を限定するため,血管の内側を覆うVECは,VIIとTFの結合を遮断するバリアとして働き,損傷部位以外での凝固の開始を阻止している.

■このようなThの過剰状態を制御する上で,血管内皮細胞上に発現しているTM(Thrombomodulin)が重要となる.TMはThと結合し,Th-TM複合体を形成してprotein CをAPC(activated protein C)に変換し,APCはPS(protein S)を補酵素としてVa,VIIIa因子を分解し,凝固反応を制御する.しかしながら,TMが遊離し,TM発現量が低下するとThを制御できなくなってしまう.

■一方,Thにはこれらの凝固系の活性化からまったく独立して血小板や白血球,あるいはVECや平滑筋などの細胞に対して直接的に作用し,様々な生理活性を惹起することが知られており,これら組織にはThに対する特異的レセプターの存在が推察されていた.1991年にCoughlinら[9]によりThに対する受容体のcDNAがクローニングされ,この受容体がTh以外にも種々の活性化プロテアーゼとも反応することが判明し,PAR(protease activated receptor;プロテアーゼ活性化受容体)と名づけられた.最初に発見されたレセプターはPAR-1と呼ばれ,その後1994年にPAR-2[10],1997年にPAR-3[11],1998年にPAR-4[12,13]が発見され,現在までに4つのPARファミリーメンバーがクローニングされている.ヒトにおいてこれらの4つのPARのアミノ酸配列は約30%の類似性を有していることも判明している.
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■通常のリガンド-受容体反応は,可溶性のリガンドが受容体に結合することで活性化シグナルが発動し,細胞内にsignal transductionが生じる.これに対して,PARのsignal transductionはユニークである.まず,Thなどの活性化プロテアーゼがPARの細胞外N末端ペプチド鎖に存在するビルジン様結合部位を限定分解する.これに伴い新たに露出したアミノ酸N末端ペプチド鎖がいわゆるtethered ligandとなり,この新たなリガンドがPAR自身の細胞外第2グループに結合することで,細胞内へのsignal transductionが成立する.細胞内シグナルはG蛋白を介して,最終的にphospholipase CやNF-κBなどの経路により伝達される.

■凝固反応と炎症反応はThをはじめとした凝固因子とPARによってうまくバランスをとり,生体の恒常性を維持している.PAR活性化に伴って生じる血小板,免疫細胞,VECなどの炎症反応と密接に関係している細胞や組織の生理作用としては,①形態変化,②炎症性サイトカインやケモカインの放出,③接着分子の発現,④細胞内物質の放出,⑤脱顆粒,⑥凝固・線溶因子の発現,⑦透過性亢進など炎症,免疫,疼痛,浮腫,組織修復など多岐にわたる[14].以上より凝固と炎症はPARを介してCross-talk(相互連関)しており,このPARの選択的リガンドとしてThは極めて重要な活性化プロテアーゼであり,凝固のみならず炎症反応も促進する.

[1] Mann KG, et al. Models of blood coagulation. Blood Cells Mol Dis 2006; 36: 108-17
[2] Giesen PL, et al. Blood-borne tissue factor : another view if thrombosis. Proc Natl Acad Sci U S A 1999; 96: 2311-5
[3] Furie B, et al. Role of platelet P-selectin and microparticle PSGL-1 in thrombus formation. Trends Mol Med 2004; 10: 171-8
[4] George FD. Microparticles in vascular diseases. Thromb Res 2008; 122 :S55-9
[5] Boulanger CM, Dignat-George F. Microparticles: an introduction. Arterioscler Thromb Vasc Biol 2011; 31: 2-3
[6] Takeya, et al. Lipid mediators and tissue factor expression. In : Recent Advances in Thrombosis and Hemostasis, ed by Tanaka K, et al. Springer, New York 2008; 133-46
[7] Kannemeiser C, et al. Extracellular RNA constitutes a natural procoagulant cofactor in blood coagulation. Proc Natl Acad Sci U S A 2007; 104: 6388-93
[8] Furie B, Furie BC. Mechanisms of thrombus formation. N Engl J Med 2008; 359: 938-49
[9] Vu TK, Hung DT, Wheaton VI, et al. Molecular cloning of a functional thrombin receptor reveals a novel proteolytic mechanism of receptor activation. Cell 1991; 64: 1057-68
[10] Nystedt S, Emilsson K, Wahlestedt C, et al. Molecular cloning of a potential proteinase activated receptor. Proc Natl Acad Sic U S A 1994; 91: 9121-208
[11] Ishihara H, Connolly AJ, Zeng D, et al. Protease-activated receptor 3 is a second thrombin receptor in humans. Nature 1997; 386: 502-6
[12] Kahn ML, Zheng YW, Huang W, et al. A dual thrombin receptor system for platelet activation. Nature 1998; 394: 690-4
[13] Xu WF, Andersen H, Whitmore TE, et al. Cloning and characterization of human protease-activated receptor 4. Proc Natl Acad Sci U S A 1998; 95: 6642-6
[14] Ossovskaya VS, Bunnett NW. Protease-activated receptors : contribution to physiology and disease. Physiol Rev 2004; 84: 579-621
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by DrMagicianEARL | 2012-08-31 19:16 | 敗血症性DIC | Comments(0)
■集中治療医の人員配置は以下の4段階の基準を使うことが多い.
(1) Closed ICU:集中治療医が主治医(チーム)となる.high intensity model
(2) Open ICU
(2-a) Mandatory critical care consultation:主治医は各科のままであるが,すべての患者が集中治療医の診察を受ける.high intensity model
(2-b) Elective critical care consultation:主治医は各科のままで,集中治療医は依頼を受けたときに必要に応じて診療に加わる.low intensity model
(2-c) No critical care physician:集中治療医が存在しない.low intensity model

■集中治療医がICU管理を行う(high intensity model)ことで,ICU死亡率(OR 0.61),病院死亡率(OR 0.71)が低く,ICU在室日数・在院日数などのアウトカムが改善することも報告されている[1].また,臨床工学技士の業務時間が長いICUや,集中ケア認定看護師が配置されているICUは,そうでないICUと比べて死亡率が低いとされる[2].集中治療医の役割は,医師,看護師,薬剤師,臨床検査技師,臨床工学技士,理学療法士,栄養士,メディカルソーシャルワーカーなど,多数の職種を交えた集学的治療(multidisciplinary care)においてリーダーシップを発揮することによって,死亡率を減少させ,治療成績を向上させることである[3].また,集中治療医が常時ICUを管理することで,人件費を考慮に入れても医療費を削減でき,病院採算に合うと報告されている[4]
※「集学的治療」は「ICUに入院して治療すること」だと勘違いされていることが多く,当院でも「集学的治療が必要」「集学的治療を行う」というカルテ記載をよく見かけるが,実際には多職種間でのコミュニケーション,カンファレンスなどが行われているわけでもないのにこのような言葉が使用されている.

■重症敗血症(特に敗血症性ショック)はICUでの死亡原因で最も多く,その治療は集中治療医によってICUで行われる,というのが理想ではあり,それを反映して,敗血症関連の論文報告のほとんどが集中治療医を有する施設からの報告である.しかし,現実は集中治療医がいない病院も多数あり,ICUがない病院もある.そういった病院においても非常にポピュラーな感染症という疾患を扱う以上,敗血症に遭遇することは避けられない.

■日本集中治療教育研究会JSEPTICが出版している医学誌INTENSIVIST®の売り上げを見ると,特集によって非常に売り上げにばらつきが見られており,救急・集中治療関係以外にも幅広い医療従事者がこの医学誌を購入していることが推察される.とりわけSepsisの特集号は圧倒的に販売数が多く,敗血症に遭遇・難渋する医療従事者が多いことが伺える.
※このことを考えると,日本版敗血症診療ガイドライン完成版を日本集中治療医学会雑誌に掲載するのみで,小冊子として販売する方針がない日本集中治療医学会Sepsis Registry委員会の姿勢にはおおいに疑問を感じる.

■感染症医,救急医,集中治療医以外で敗血症診療を適切に行える医師は限られている.敗血症の定義・治療の認知度は依然として低く,治療の遅れや不適切な治療につながり,予後悪化につながってしまう.医学生の医師国家試験対策のバイブルともいえるYear Note®にはSIRS(全身性炎症反応症候群)と敗血症についての記載はあるが,医師国家試験には敗血症に関してほとんど出題されたことはない.これが,SSCGが発表されてなお敗血症診療が普及していない本邦の現状である.近年は研修医のスーパーローテーションシステムにより救急や集中治療部をローテートする研修医も増えたため,敗血症の知識は若手医師の方が多いかもしれない(当院でもその傾向あり).

■当院はICUを有するものの,二次救急指定病院であり,救命救急医も集中治療医も麻酔科常勤医もいない,いわゆるlow intensity modelのopen ICU(No critical care physician)ということになる.2010年度まで,当院での敗血症治療成績は惨憺たるものであり,敗血症やSSCGの認知度が著しく低いことが影響していたことは明らかであった.このような病院は当院以外にも多数存在する.また,仮に敗血症治療を知っていても,その病院の特性もあり,マンパワー不足,デバイスやモニター機器不足という制限がかかったり,「できる限りの治療は望むが,挿管は望まない」という家人の希望がでるケースが多いのが二次救急指定病院の宿命ともいえ,このようなケースに対する答えを三次救命施設の治療報告文献は教えてはくれない.エビデンスの乏しい治療も検討せざるをえない場合がある.このような,敗血症診療の文献・エビデンスの対象外(という言い方は言い過ぎかもしれないが)にある施設における敗血症治療はどうすべきか?

■以下は当院での経験を考察したものであり,あくまでも1例である.今後,2012年9月のセミナーを皮切りに,研究会等で当院の院内敗血症診療ガイドラインの成果・課題を発表していく予定である.

1.ガイドライン・プロトコルの作成
■集中治療医を有する,敗血症診療のエキスパートがいる病院においてはガイドラインは不要かもしれない.エビデンスに基づき,独自のプロトコルでよりよい治療成績を目指す.本来ガイドラインとは,エビデンスを提示しつつも専門外の医療スタッフにおいても標準レベルの治療が行えるよう,できる限り非現実的な専門性を排除したものである(例外もあるが).集中治療医がいない病院での敗血症診療レベルを上げるにはこのガイドラインが必須である.しかし,ガイドラインは実戦的ではない.ガイドラインは推奨項目を並べたものに過ぎず,病院によって採用している薬剤・デバイスも異なり,それぞれの病院に特殊な事情もある.このため,ガイドラインをもとに各施設独自のガイドラインやプロトコルを作成し周知徹底を行うべきである.

■院内ガイドライン・プロトコルを作る際,その病院の限界を考慮すべきである.たとえば,頻回の心臓超音波検査による循環動態のモニタリングを行うことをプロトコルに組み込むのは妥当だろうか?集中治療医や循環器科医ならいざ知らず,すべての一般医師が心臓超音波検査手技を行えるわけではなく,まして当直中では他の医師などに依頼することもできず,これは非現実的といえる.最近は否定的な意見が多い中心静脈圧測定はガイドラインに組み込む必要はないか?より有用なモニタリングが可能なPiCCOシステムや,ベッド臥床状態で体重が計測できる機器がそろっているわけでもない.超音波検査は手技が伴い,全医師が施行できるわけではない.そう考えれば,むしろ客観的数値評価が可能で,簡単に計測できる手法を組み込む方が現実的であり,予後を改善するかもしれない.これらはほんの一例だが,EBM診療の落とし穴ともいえ,必ずしもエビデンス通りにやればいいというものではない.各施設の現状にあったものにする必要がある.

■院内のみで使用するガイドラインであれば,より実戦的であるべきである.ガイドラインに書かれている項目を順序通り行っていけば治療が円滑にすすめられるよう,余分な解説を省いた簡潔かつ具体的な(たとえば,「薬剤○アンプルを生食○mLに溶解」といった内容など)レイアウトが望ましい.敗血症となればガイドラインを使用するのは医師だけではないことも配慮が必要であり,薬剤名は院内採用している商品名での記載の方が円滑になる.また,分かりやすい図やフローチャートをつけることでより分かりやすくなる.治療のおおまかなフローチャートをラミネート加工して救急カートやベッドサイドに設置する工夫なども有効である.

■ガイドラインを誰がつくるのかも問題になる.当院では小生が作成したが,小生は集中治療医ではなく呼吸器内科医であり,他院の集中治療部に所属したこともなければ,研修医時代に三次救急施設研修を経験したわけでもない,つまりICU重症患者診療に関してはド素人ともいえる.このため,敗血症と名のつくあらゆる研究会・講演会に参加し,敗血症関連書籍もできる限り購入し,文献を集めるという作業が必要ではあったが,SSCGという見本があるため決して難しいことではない.まずはSSCGの熟読作業を行うのは必須であり,「医学のあゆみ®」などで日本語で解説されているため参考にされたい.他職種とも相談すれば必ず協力が得られる.不十分なガイドラインになる可能性があってもまずは作らなければ始まらないし,重要ポイントをしっかりおさえておけば,多少不十分であっても敗血症認知度が低い施設では治療成績が向上する可能性が高い.

■ガイドラインを作成する際に集中治療の専門の医師のアドバイスが必要であれば,JSEPTICのメーリングリストで相談するとよいかもしれない.

2.勉強会を開催し,周知徹底を
■ICU重症疾患患者の治療は総力戦である.ガイドラインやプロトコルを作成したら,敗血症診療について医師のみならず,他職種にも周知徹底が必要となる.プロトコルとして定められた内容を覚え,実践し,慣れることで治療が円滑にすすむ.このため院内での勉強会開催は必要であり,それも1回きりでなく何度か行うべきである.

■院内での敗血症診療ガイドラインを作成しても,これは強制されるものではないことを留意しておくべきである(これは一般的なガイドラインすべてに言えることである).ただ,ガイドラインを信頼してくれない医師も当然ながら出てくる(特に年配医師).こればかりはなかなか難しい問題であるが,ガイドラインを遵守することで治療成績がここまで上がった,実際の症例でガイドラインを遵守することで劇的な改善を見せた症例を提示するなどして,結果を見せることで時間をかけてガイドラインの重要性を示していくしかないと思われる.
※オススメは若手医師やコメディカルを味方につけることである.

■とりわけおさえるべきは以下の7つの点である.
(1) 敗血症の早期の認知(SIRS基準の周知徹底)
(2) 血液培養2箇所+責任病巣の培養施行
(3) 抗菌薬の1時間以内の投与
(4) 感染巣コントロール
(5) 躊躇しない大量急速輸液
(6) 昇圧剤はノルアドレナリン
(7) 早期経腸栄養
これらを実践する上で,ガイドライン・プロトコルの周知徹底がICUスタッフだけでは足りない.敗血症患者に最初に接触するのはむしろERや一般病棟スタッフである.マンパワーや慣れしだいで患者予後は変わり,入室時刻や発症場所はその重要な要因となる.フィンランドのICU調査報告では,週末に入院した患者の死亡率は高く(OR 1.20),ICUにおける死亡は夜間に多かった(OR 6.89)[5].一般病棟から緊急ICU入室は,同じ重症度でも救急外来や手術室からのICU入室より死亡率が高い[6].敗血症患者はERを介して入院した方が,直接入院した場合より死亡率が低い[7].これらが示す通り,重要なのは初動である.敗血症は心筋梗塞などと違い突然心停止するといったことは起きないが,わずかな時間でも予後不良に直結する可能性がある.ICU以外のスタッフの初期治療とスピードは極めて重要である.

3.心肺蘇生を希望しない患者の扱い
■三次救命病院や集中治療医を有するICUでは,「挿管をはじめとする侵襲を伴う処置を希望しないが,できる限りの薬物治療はしてほしい」という患者をあまり扱っていない.しかし,二次救急指定病院や集中治療医が不在の病院ではそれなりに多いケースといえる.このような患者に対しては特殊な治療が必要となる.
※先日,第8回京滋ER-ICUフォーラムで,参加者からこのようなケースでの治療はどうしたらよいか,と講師のICU専属医に質問があったが,そのような患者をICUで扱っていないので分からないという回答であった.

■中心静脈カテーテル(CVC)挿入ができない場合でも敗血症性ショックの治療が不可能なわけではない.CVCが挿入できない場合のデメリットは,①中心静脈圧(CVP)が計測できない,②中心静脈酸素飽和度(ScvO2)が計測できない,③末梢ルートのみのため急速投与や高濃度薬剤が投与できない,などがあるが,これらをいかにして打開するか,方法はいくつかある.

■2012年2月の集中治療医学会学術総会では,信州大学医学部附属病院高度救命救急センターの望月勝徳先生,他による「Septic Shockの初期蘇生に中心静脈カテーテルは必須か」というポスター演題があった.この報告では,CVカテーテルを使用せずに治療した敗血症性ショック患者の死亡率は5.9%であった.原因疾患や重症度の違いから,他の文献報告での敗血症性ショック死亡率と単純比較はできないが,治療成績としては遜色がない.この考察では,優秀な集中治療医の他手段による観察評価があってこその管理治療と述べられていた.実際には頻回の心臓超音波検査を普段やらない医師が施行するのは困難であるが,正確な数値算出ではなく,大雑把に,下大静脈の張りや呼吸変動・心臓の動きを目で確認するだけでも患者の状態をある程度把握できる.

■CVCが挿入できない状態で,中心静脈圧(CVP)が全く分からないというわけではない.この場合は頸静脈の目視による推定が可能である.以下を参考にされたい.
 頸静脈怒張は,右室拡張期圧の上昇が右房圧・末梢静脈圧上昇として観察されるもので,右心不全の代表的所見となる.胸骨角 (ルイス角) は,臥位または座位でも右房から5cm上方と考えられ,体位に関係なく一定の関係を保つとされており,便宜上,視診による頸静脈波測定の0点として用いられる.45度起坐位で,ルイス角と頸静脈怒張の最上部の垂直高差から中心静脈圧を推定する.垂直高差が5cm 以上で異常上昇と判断する.
 頸静脈圧上昇が明らかでない場合は,45度起坐位で,右季肋下の肝を手掌で1分間静かに圧迫し,3cm以上の静脈圧上昇が15秒持続すれば陽性となる.この方法で判断した頸静脈圧上昇所見により肺動脈楔入圧が18mmHg以上であると診断した場合の感度は81%,特異度は80%である.

■ScvO2については必ずしも計測しなければいけないわけではない.2時間毎に乳酸値を測定し,前値の10-20%低下を目標とすることで代用が可能である(Early Lactate Guided Therapy)[8,9].よってこれもCVCなしで管理ができないわけではない.

■全身の浮腫が強くなり,末梢ルートが確保できない,しかしCVC挿入が家人より拒否されている場合も想定される.事前にアルブミン製剤投与や経鼻胃管が入っているなら五苓散投与で予防することを検討する.浮腫が強くなってルートがとれにくい場合は点滴を皮下注射にして時間を稼ぎ,予防処置と同様の方法をtryする.

■呼吸状態悪化やCO2ナルコーシスは治療が困難となりやすく,気管挿管やNPPVが使用できない場合の対処は厳しい.ある程度の諸臓器への傷害を覚悟した上で,それぞれのダメージを最小限に分散,もしくは優先順位の低い臓器から犠牲にすることを考えなければならない.CO2ナルコーシスは下限をPaO2>60mmHg,SpO2>88%まで許容することで極力酸素投与量を絞る.しかし,これを下回るような呼吸状態である場合は手段が限られてしまう.もし輸液によるうっ血である場合,他の侵襲的処置が拒否されている状況であれば蘇生バンドル期であっても呼吸状態を最優先して,腎臓を捨て,心肺を守るべく利尿剤投与も考える必要がある.

■もっとも上記の治療は限界があり,ある意味無茶な治療を行っているとも言える.このような患者では言わずもがな家人へのムンテラがかなり重要になる.

4.ICTの役割
■適切な抗菌薬プランのサポートと,重症患者の二次感染を防ぐため,敗血症診療におけるICT(Infection Control Team)との連携は極めて重要である.

■初期抗菌薬と培養結果を得た上での抗菌薬選択は慎重とすべきである.どこまで菌をカバーするか,どれぐらいの期間投与するか,de-escalationすべきかなどを積極的にICTにコンサルトできる体制にすべきであろう.

■初期の適切な抗菌薬療法を受けた敗血症性ショック患者で,ICUでの感染獲得は院内死亡の決定因子と報告されている[10].二次感染は何としても避けるべきであり,手洗い・手指消毒をはじめとする,標準予防策の徹底を講じるべきである.医療従事者の感染対策においては今年のCritical Care Medicine誌に非常に参考になるデータが報告されている[11]

5.ガイドライン・プロトコルの見直し
■ガイドライン・プロトコルを運用していけば,次第にスタッフは慣れ,徐々に治療が円滑になっていく.時間が解決するが,要は症例経験数を重ねていくことである.死亡率やICU滞在日数といった集中治療のアウトカムは,ICU入室症例が多い施設ほど良くなる傾向にあるものの(volume effect),施設間に大きなばらつきがある[12,13].心筋梗塞治療成績の上位5%と下位5%の病院では,病院の持つ価値観や目標,管理職の役割,コミュニケーション能力,失敗より学ぶ能力や姿勢に大きな違いがあった[14]

■慣れてくるとガイドラインやプロトコルの欠点・弱点が見えてくる.これらを抽出し,フィードバックする必要がある.PDSA cycles(Plan-Do-Study-Act)を実践しガイドラインの改訂を行っていくことでさらなる予後改善を目指す.そのためにはデータ蓄積を行うことも手段の1つである.

[1] Pronovost PJ, Angus DC, Dorman T, et al. Physician staffing patterns and clinical outcomes in critically ill patients: a systematic review. JAMA 2002; 288: 2151-62
[2] 日本集中治療医学会ICU機能評価委員会,平成20年度厚生労働科学研究班.ICUの人員配置と運営方針が予後に与える影響について.日集中医誌 2011; 18: 283-94
[3] Kim MM, Barnato AE, Angus DC, et al. The effect of multidisciplinary care teams on intensive care unit mortality. Arch Intern Med 2010; 170: 369-76
[4] Banerjee R, Naessens JM, Seferian EG, et al. Economic implications of nighttime attending intensivist coverage in a medical intensive care unit. Crit Care Med 2011; 39: 1257-62
[5] Uusaro A, Kari A, Roukonen E. The effects of ICU admission and discharge times on mortality in Finland. Intensive Care Med 2003; 29: 2144-8
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by DrMagicianEARL | 2012-08-28 09:36 | 敗血症 | Comments(0)
Summary
・MRSAに対してはニューキノロン系はほとんどが耐性化しており,たとえ感受性があっても速やかに耐性化を獲得されてしまうため,原則としてニューキノロン系をMRSAに用いることはない.
・ABK耐性MRSAは増加傾向にあり,現在10%弱が耐性化している.その耐性化機構にはAAC(6')/APH(2'')が関与している.

■以下ではMRSAに対して感受性を示しうる抗菌薬に対する耐性について記載する.

1.ニューキノロン系に対する耐性化

■ニューキノロンは,環状のds-DNAに負のスーパーコイルを導入するDNAジャイレース(GyrA,GyrB)と,複製したds-DNAを解離(デカテネーション)させるトポイソメラーゼⅣ(GrlA,GrlB)の活性を阻害し,結果として細菌のDNA複製を停止させることで殺菌効果を発揮する[1]

■ニューキノロン耐性を引き起こすGrlAとGyrAのアミノ酸置換変異は,特異的領域に集中している[2,3].この領域は多くの菌種間で保存性が高く,キノロン耐性決定領域(quinolone-resistance-determining-region:QRDR)といわれている.MRSAでは,GrlAのアミノ酸64位から103位間,およびGyrAのアミノ酸68位から107位の領域がQRDR領域と推定されている.QRDRに変異が蓄積すると細菌はキノロン高度耐性となっていく[4]

■MRSAを含めた黄色ブドウ球菌では,GyrとGrlのQRDRの段階的変異によって,ニューキノロン高度耐性菌が出現する[5]

■黄色ブドウ球菌の薬剤排出ポンプとして,NorA,NorB,QacA/B,Smr,MdeA,MepAなどが同定されている[6,7].これらは基質特異性が低く,種々の化学物質を細胞外に排出する.このうちニューキノロンを排出する蛋白質としてはNorA,NorB,MepAが知られている[6].しかし,臨床におけるMRSAの薬剤排出蛋白質によるニューキノロン耐性への関与は,薬剤標的部位の変異と比べて低い.

■2000年以降,GrlAとGyrAの多重変異をきたしたニューキノロン高度耐性MRSAが増加している.この多重変異パターンは,多段階変異だけでは説明し難いほど多様である.最近,本邦で分離されるMRSAの約40%が保有する多剤排出ポンプ遺伝子qacBⅢの産生する蛋白質QacBⅢはキノロンも排出することが明らかとなった.QacBⅢをもつMRSAのほとんどはレスピラトリーキノロンに高度耐性である.

■現在MRSAはほとんどのニューキノロンに耐性化してきており,STFXのみが良好な感受性を有している.しかしながら,速やかに耐性化を獲得されてしまうため,原則としてニューキノロン系をMRSAに用いることはない.
※MRSAに限らず,一般的に黄色ブドウ球菌にニューキノロン系単剤治療は行わない方がよい.

2.アミノグリコシド系(ABK)に対する耐性化

■抗MRSA薬に分類されるABK(ハベカシン®)は1991年に上市されたアミノグリコシド系であり,MRSAに対して殺菌作用を示す.現在市場拡大とともに耐性株の報告がみられている.

■臨床分離株におけるアミノグリコシド耐性機序は,抗菌薬に対する不活性化酵素の出現,もしくは抗菌薬の膜透過性の低下によるものと理解されている.多くは不活性化酵素の出現による場合が多いが,特にMRSAについてはAAC(6')/APH(2'')酵素の関連が主である[8-10]

■アミノグリコシド系は細菌の細胞膜表面に吸着した後にporinを介して細胞内に取り込まれ,細胞質内のribosomeに作用する.ところが,アミノグリコシド耐性株では細胞質に不活化酵素が局在し,細胞内に取り込まれたアミノグリコシド系を不活化することによって,アミノグリコシドとribosomeの結合を防ぐことで耐性機構が成立することが知られている[11].しかしながら,ABKの臨床分離株における耐性菌の出現頻度は比較的低く,AAC(6')/APH(2'')による耐性はMIC 25μg/mL以下の中等度に留まるものが多い[12]

■ABK耐性はGM耐性と相関性が高く,ABK耐性株は多くがGM高度耐性株であるが,GM耐性株は必ずしもABK耐性株であるということはない.これは,AAC(6')/APH(2'')がほとんどのアミノグリコシド系を不活化するにもかかわらず,ABKはこの酵素によって不活化されにくいからである[13].一方でAAC(6')/APH(2'')の酵素量が上昇すればABKも不活化されるという報告もある[14]

■本邦でのMRSAに対するABKの感受性率はおおよそ90%以上を保っている.

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by DrMagicianEARL | 2012-08-15 00:22 | MRSA | Comments(0)
当院の抗菌薬適正使用ガイドライン(2012年5月発表)
各項目についてのガイドラインに記載した解説文はこのブログでは省略(抗菌薬の基本原則にだいたいの内容は記載している).ここではなぜこの項目にしたのかについてのみ下に記載した.

第4章.抗菌薬の継続・変更・中止
1.抗菌薬有効性の判断
1-1.抗菌薬有効性の判断はその感染症の一般的回復過程を考慮した上で,抗菌薬投与開始後しかるべき時期に行う.

1-2.白血球数やCRP,発熱などのパラメータだけでなく,臓器特異的パラメータや感染症毎の病態,感染部位の状態,患者の免疫状態,細菌学的検査追跡なども十分考慮して抗菌薬の有効性評価を臨床的総合判断で行う.
 抗菌薬療法の開始時や最初の有効性評価のときには,抗菌薬の有効性評価のための指標(熱型,酸素飽和度,尿検査所見など)をあらかじめいくつか設定しておく.その際,体温や白血球数,CRPは特異度が低く,参考にはなるものの直接病勢を表さないことは感染症診療では常識である.

 体温は血中ホルモン動態や放散熱の影響なども受けるため,その上昇と増悪が1対1対応になるとは限らないし,状態が悪いときは発熱がなくなることもある.白血球も好中球の消費が生じればたとえ高値でなくとも重症であることはしばしば経験され,その正常化は重症敗血症に進展している可能性もある.CRPはリアルタイムの病勢を表さず,24時間遅れた病勢を表し,肝機能障害があればCRP産生能そのものが低下する.

 解説では各臓器ごとの特異的指標となる項目の表も提示している.
2.抗菌薬無効時の判断
2-1.感染症であるかどうかを判断する.

2-2.抗菌薬のスペクトラム,移行性の認識,用法・用量,投与ルート,投与間隔などに誤りがないか確認する.

2-3.抗菌薬無効の感染症(ウイルス感染症など)でないか判断する.

2-4.複数菌感染症でないか確認する.

2-5.細胞内増殖菌による感染症でないか確認する.

2-6.真菌感染症,結核の合併がないか確認する.

2-7.起因菌が耐性化していないか確認する.

2-8.菌交代現象に伴う耐性菌感染でないか確認する.

2-9.排膿ドレナージ,異物除去の必要性を確認する.

2-10.宿主防御能が低下していないか確認する.
 ICTが介入となることが多いのはこの項目といえる.感染症の評価が甘く,状態がよくなっていないのに同一抗菌薬を投与し続けるという無意味なことを行ったり,原因菌や感染巣の再検索を行わずに広域抗菌薬に変更したりなどして迷宮入りしてしまう医師は多い.とりわけよく忘れられがちなのがウイルス,真菌,結核,Clostridium difficile,薬剤熱,腫瘍熱,末梢点滴刺入部の蜂窩織炎などである.

 感染が持続すると,感染部位の膿瘍化やバイオフィルム形成など,十分な濃度の抗菌薬が菌に到達できず抗菌作用が得られない状況になる場合がある.このような状況では,排膿ドレナージなどの外科的処置や,感染源となっているカテーテルの抜去などメディカルデバイスの除去を行うことが状態の改善につながることが少なくない.
3.抗菌薬のde-escalation
3-1.原因菌が同定され,初期治療の反応が良好であれば,臨床効果が期待できる狭域の薬剤を用いた標的治療へ可及的に変更する(de-escalation).
 de-escalation療法が通常の広域抗菌薬のまま治療し続けるよりも耐性菌発生率が少ないというのはあくまでも理論上の話であり,実際にエビデンスが構築されているわけではなく,直接の有効性を評価したRCTは存在しない.しかしながら,de-escalationが安全に行え,耐性菌発生率・再発率・死亡率を高めないとするコホート研究は存在する.

 de-escalationで注意すべきは,とりあえず狭域にすればいいというわけではないということである.よって,de-escalationを行う場合は以下のことに注意する.
 ① 経験的治療開始前に細菌検査(培養)が行われている.
 ② 臨床的に改善傾向を認めている.
 ③ 他の感染巣が否定できる.
 ④ 持続する好中球減少症(<1,000/mm3)などの重篤な免疫不全がない.

 起因菌と抗菌薬感受性判明後は可及的早期に,検査結果に照らし合わせて,その患者にとって最も効果的で安全,しかもできるだけ安価で,標的臓器に到達しうる狭域/単剤の薬剤へと変更した標的治療を施行する.この際,感受性に関しては各施設のantibiogramを参照とすることを忘れてはならない.
4.抗菌薬の投与期間・終了・中止
4-1.経過が良好で,抗菌薬を投与しなくても感染症が治癒すると判断した時,抗菌薬を終了する.その際,バイタルサインの安定化や感染を起こした臓器機能の改善などを考慮し,臨床的な総合判断で行う.

4-2.代表的な感染症では標準的治療期間を参考に治療期間を決定する.

4-3.感染症でないと判断した時,抗菌薬を終了する.

4-4.微生物学的検査や免疫学的検査などで起因菌が決定されず,臨床的に細菌感染症と診断できないとき,抗菌薬を終了する.

4-5.予防的抗菌薬の適応でなくなった時,抗菌薬を終了する.

4-6.薬剤性の発熱,アレルギーなどの副作用が出現したとき,抗菌薬を中止する.
 抗菌薬の効果判定と同じく,臓器特異的指標を主に参考として,抗菌薬の終了を決定することが望ましい.その上で代表的な標準的治療期間はよい目安となる.抗菌薬の投与を終了するタイミングや推奨される抗菌薬投与期間で代表的なものを解説では表として提示している.

 抗菌薬の長期投与により耐性菌リスクが生じやすくなることが多くの研究で報告されているが,どれほどの期間でどれだけ耐性菌リスクが増加するかについての報告は少ない.人工呼吸器関連肺炎における抗菌薬の8日間投与と15日間投与の比較では,死亡率,肺炎再燃率に有意差はないが,耐性菌出現率は15日間投与群が有意に高かったという報告がある.また,2012年8月現在はまだ論文化されていないが,日本感染症学会をはじめとする3学会合同調査では,抗菌薬の14日間を超える投与は耐性菌が増加することが示されているとのことである.

■本章で引用した文献数14

←院内抗菌薬適正使用ガイドライン「第3章.初期抗菌薬の選択(2)」
→院内抗菌薬適正使用ガイドライン「第5章.抗菌薬の副作用・薬物相互作用」

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by DrMagicianEARL | 2012-08-13 20:17 | Comments(0)
※2012年7月10日に投稿,8月3日 大幅加筆
Summary
・HITはDICに非常に類似した動静血栓症病態をとり,FDP,D-dimer,TATも上昇する.
・HIT発症はヘパリン使用から5-14日目に生じる.
・ヘパリン使用から100日間はヘパリン投与によるHITのリスクがある.
・治療用ヘパリンのみならず,ヘパリンフラッシュ(ヘパロック含む),カテーテルや回路などのヘパリンコーティングでもHITをきたしうる.
・検査所見,臨床経過に加え,4Tsを参考にHITを疑い,早期に治療を開始する.
・HIT抗体を計測し,確定診断を行う.
・治療の第一選択はヘパリン中止とアルガトロバン投与であり,APTTを指標として用い,基準値の1.5-3.0倍になるように調節する.
1.HITの病態
■播種性血管内凝固(DIC:disseminated intravascular coagulation)と鑑別が非常に紛らわしいものにヘパリン起因性血小板減少症(HIT:heparin induced thrombocytopenia)がある.

■HIT は1960 年代から報告されている[1].HIT の発症メカニズムに関しては当初より免疫的機序が推察されていたが1992 年Meyer らがヘパリンと血小板第4 因子(Platelet Factor 4)の複合体に対する抗体(HIT 抗体)が本症の発症の中心的な役割を果たすことを報告してから[2]飛躍的に研究が進み,現在は非免疫的機序によるⅠ型と,HIT 抗体が出現し免疫的機序で発症するⅡ型に分類されている[3].このうち重症化し臨床的に問題となるのはⅡ型である.以下ではⅡ型HITをHITとして記載する.

■HITは本来血液凝固反応を阻止するヘパリンの投与がきっかけで発症する血栓性の血小板減少症であり,30-50%に動静脈血栓症を合併する,ヘパリンの出血に次ぐ重大な副作用であり,血栓症による死亡率は5%程度に及ぶとされている[5].臨床的にはヘパリン開始後約5-14日で,DICなど明確に説明できる状況がないにもかかわらず血小板減少が進行する,原因不明の血小板減少症として認識されることが多い.血小板数はヘパリン使用前の50%以下,または10万/μL以下に減少する.また,100日以内にヘパリンの投与歴があれば,急速発症,早期発症の様式を示す場合がある.HITの約50%に血栓塞栓症が発症し,動静脈血栓症(静脈の方が多い)や透析では回路内凝血が生じる.ときに突然発症タイプもあり,血小板減少以外に以下の急性全身反応が発症する場合がある.
 ・炎症反応:悪寒,発熱,発疹
 ・心肺症状:頻脈,高血圧(or低血圧),頻呼吸,呼吸困難,胸痛,心肺停止
 ・偽性肺梗塞:重篤な呼吸困難,肺不全,呼吸停止
 ・消化器症状:悪心,嘔吐,下痢
 ・神経症状:拍動性疼痛,一過性健忘
これらの症状はヘパリンの中止により急速に改善する.HITでは通常は血小板減少から始まるが,血小板減少前に血栓症が先行するケースもある.治療目的でのヘパリンのみならず,カテーテルルート開存性維持目的でのヘパリンフラッシュによってもHITが生じることがあるため,医師が,ヘパリン投与に気が付いていないこともあり注意が必要である.

■本邦ではHIT診断のためのHIT抗体が保険承認されておらず,結果としてHITの理解が進まない現状がある[4].このため本邦におけるHITの発生頻度調査は少なく,患者の病態によってHITの発症リスクが異なるため,病態別のHITの発症リスク管理が必要である.したがって,HIT発症の高リスク患者に対しては,血小板数の測定を隔日に実施するなどの対応が必要となる.
(1) 高リスク(発生頻度1%以上)
 ヘパリン投与を受けた心血管術後患者と整形外科術後患者.
(2) 中リスク(発生頻度1-0.1%)
 ヘパリンフラッシュを受けている術後患者,ヘパリン治療を受けている入院患者,透析導入期患者,低分子ヘパリンを投与されている術後患者.
(3) 低リスク(発生頻度0.1%)
 低分子ヘパリン(ダルテパリン;フラグミン®など)やヘパリンフラッシュのみの入院

■HIT発生が予測される病態と血小板測定推奨回数は以下の通り.
(1) ヘパリンによる血栓症の治療が行われている場合
 5-14日間(またはヘパリン中止まで)は隔日または2-3日間隔で実施
(2) 過去100日以内にヘパリン投与の既往歴がある場合
 ヘパリン投与前と投与後24時間以内は反復測定
(3) ヘパリン単回投与による急性全身反応(アナフィラキシー様反応)が発症した場合
 即刻血小板数を測定し,最近の血小板数と比較する
(4) フォンダパリヌクス(アリクストラ®)使用の場合
 通常は不要
(5) 透析導入時のヘパリン使用の場合
 ヘパリン透析では10-15回透析まで透析ごとに実施する

■HIT発症のメカニズムは,血小板が何らかの要因で継続的に活性化される病態ではα顆粒より血小板第4因子(Platelet factor 4:PF4)が血小板膜上や血中に放出される.PF4は陽性荷電をもち,投与されたヘパリンや内皮のヘパラン硫酸と結合し,PF4-ヘパリン複合体を形成する.これが抗原として認識され,PF4-ヘパリン複合体抗体(HIT抗体)が産生され,PF4-ヘパリン複合体と免疫複合体を形成し,HIT抗体のFc部位が血小板膜上のFcγⅡa受容体と結合して血小板を活性化させ[6],血小板減少を引き起こす.ヘパリンとPF4が適度な濃度で存在しないとPF4の構造変化が起こらないことが指摘され,それがHIT抗体産生のリスク因子を規定している可能性が高いと報告されている[7]

■また,活性化された血小板より,凝固促進作用の強いマイクロパーティクルが放出され,Thrombinの産生により血液凝固が活性化され,凝固促進状態となる.血管内皮細胞や,単球に存在するヘパラン硫酸とPF4の複合体にもHIT抗体は結合し,その表面にTF(組織因子:Tissue factor)を発現させ,TFを介した血液凝固が活性化され,血栓症が生じる.このため,HITではDIC様の凝固亢進状態となり(TAT,FDPは上昇する),その後,動静脈血栓症が続発する.

■実際,血小板減少に伴い,ある程度のD-ダイマー産生が多くの症例で観察される.さらにHITを多く発症することが知られている血液透析の場合は,透析カラムの詰まりなどで血栓の存在を確認でき,メシル酸ナファモスタット(フサン®)に変更すると透析続行が可能な症例があることも知られている.このように免疫学的機序を介するため,発症まで5-14日を要する.

■HITはその病態メカニズムから一種の自己免疫疾患とも考えられるが,ヘパリン投与後5日目からとかなり早い段階から発症する.また,HIT抗体のなかのIgMやIgAではなく,IgGのみが血小板,単球,血管内皮細胞の活性化能をもち,病因となることが指摘されている[8].実際,外傷や整形外科術後で深部静脈血栓症のためにヘパリン投与を受けた患者で,HIT抗体を術後毎日測定した結果では,通常の免疫反応の場合,IgMの上昇から遅れてIgGの上昇がみられるが,HIT抗体の場合はIgM,IgA,IgGがほぼ同時にヘパリン投与開始後5日目から上昇してくることが報告され,HITの場合は通常の免疫反応と異なることが指摘されている[9].その理由として,PF4が陰性荷電を呈する微生物に対する防御システムのmisdirctionである可能性が指摘されている[10].したがって,ヘパリン投与によるHIT抗体の産生はたとてヘパリンの初回投与であっても二次応答として起こるため,IgM,IgA,IgGがほぼ同時に早期から産生されるものと理解できる.このように,HITの病因となるHIT抗体の産生は通常の抗原抗体反応とは異なる免疫学的システムと関連している可能性が示唆されている.

2.HITの診断
■HITの臨床診断として,Warkentinが提唱する,4項目のスコア化で行う方法(4T's scoreing)がよく用いられる[11,12]
(1) Thrombocytopenia(血小板減少)
 2点:50%以上の減少,または最低値2-10万/μL
 1点:30-50%の減少,または最低値1-1.9万/μL
 0点:30%未満の減少,または最低値1万/μL
(2) Timing(ヘパリン使用開始後,血小板減少の出現まで)
 2点:5-14日,またはヘパリン使用歴(30日以内)があり1日以内に血小板減少
 1点:14日以後あるいは時期不明,またはヘパリン使用歴(31-100日)があり1日以内に血小板減少
 0点:ヘパリン投与歴がなく4日以内の血小板減少
(3) Thrombosis(血栓,HITの皮膚症状)
 2点:血栓の新生,皮膚壊死,静注後の急性全身反応
 1点:血栓の進行か再発,紅斑様の皮膚症状,血栓の疑いが濃厚
 0点:なし
(4) oTher(血小板減少の他の原因)
 2点:他の原因なし
 1点:他の原因の可能性あり
 0点:他の原因あり
スコアの合計が6-8点ならHITの可能性が高い.4-5点ならHITの可能性は中等度.3点以下はHITの可能性が低い.ただし,本法は万能ではなく,救急領域など血小板減少が元来存在する領域で4Tsの利用しにくい症例があることも知られている[4,11,13].よって,overdiagnosisに注意しながら4Tsを用いるべきである.

■集中治療領域ではHITと鑑別が困難な疾患は多数存在し,ときには複数が重複していることもある.鑑別を要するものとして,敗血症,DIC,抗リン脂質抗体症候群(APL),血栓性血小板減少性紫斑病(TTP),溶血性尿毒症症候群(HUS),薬剤性血小板減少症などがある.

■HITの診断においては,血小板減少や血栓形成などの病像に加え,血小板を活性化するHIT抗体が検出できることが臨床検査医学的に重要(なぜか保険承認がない)である[4,11].しかし,血小板を活性化するHIT抗体をその血小板活性化能としてとらえる感度のよい方法がないため,感度はよいが特異度の低いenzyme immunoassay(EIA)法を代用することが多いため,結果の解釈などで問題点が生じる.すなわち,臨床的にHITでない症例における偽陽性の問題がある.以下に各種HIT検査法を示す[13]

(1) IgG/IgA/IgM型抗体検出EIA:感度>95%,特異度74-77%
(2) IgG型抗体検出EIA:感度98-100%,特異度89-90%
(3) セロトニン遊離試験:感度>95%,特異度>95%
(4) HIT抗体による血小板活性化試験:感度80%,特異度>90%

■HITの第一人者であるWarkentinが最良とするセロトニン遊離試験はHIT抗体の血小板活性化能を放射性同位元素標識セロトニンで検出する方法で,感度,特異度とも非常に優れているが,欧米の一部の施設でしか行われず,本邦では施行できない.本邦で実際に主に行われている検査はIgG/IgA/IgM型抗体検出EIAであり,本邦で一部の施設でしか実施できないIgG型抗体検出EIAに比して特異性が劣る.よって,カットオフ値付近の検査結果は参考程度とし,他の血小板減少要因を除外診断しながらヘパリン中止で臨床症状が改善するかなどを慎重に見極め,治療を進めることが重要である.カットオフ値を大きく上回っていればHIT診断特異度が上がることが知られている[4,11].したがって,検査結果報告を受ける際は陽性・陰性のみならず,どの程度カットオフ値を上回るor下回るかを確認すべきである.

3.ヘパリン投与とHIT
■未分画ヘパリンはHITを最も発症しやすい.ダルテパリン(フラグミン®)などの低分子ヘパリンでも発症することが知られ,最近ではペンタサッカライドであるフォンダパリヌクス(アリクストラ®)でもHIT発症の報告がある.しかし,一方でフォンダパリヌクスをHIT治療薬として利用した際に有用であるとの報告もあり[11,12],フォンダパリヌクスに関する理解はいまだ明確な結論を得るに至っていない.

■HIT抗体は一過性にのみ存在し,ヘパリン投与中止後,HIT抗体は平均100日程度で陰性化することが明らかになっている[14].これは,ヘパリン投与が中止されるとPF4の構造変化が起こらなくなり,抗原が体内に存在しなくなるため,急速に抗体価が低下するものと推測されている.このことから,逆にHIT抗体が存在している時期であるヘパリン最終投与後1ヶ月間は血栓塞栓症発症のハイリスク期間となる.また,ヘパリン中止後,しばらくしてから(数日後に)発症する,あるいは数週間症状が遷延する遅延発症型が存在する[15].これらの症例の場合,HIT抗体の活性化能が非常に強く,症状が重篤化することも少なくなく,これらの症例のHIT抗体はしばしばex vivoアッセイでヘパリン非存在下でも血小板を活性化させうる.直近(少なくとも100日以内)のヘパリン投与によりHIT抗体を保持している患者に,ヘパリン再投与を行った場合,1日以内に急激に発症する急速発症型が存在する[14].HIT抗体存在時にヘパリン大量静注を行うと,5-30分後に発熱,悪寒,呼吸困難,胸痛,頻脈,悪心,嘔吐などを伴う強い全身症状と急激な血小板減少が起こることがある[10]

4.HITの治療
■HITの治療は当然ながらヘパリン中止が第一原則である.治療薬としてのヘパリンだけではなく,圧ライン確保などのためのヘパリン生食や,ヘパリンコーティング回路についても中止する必要がある.

■ヘパリン中止だけでは1日あたり約6%の患者が血栓塞栓症を発症すること,また代替の抗凝固療法を実施すれば血栓塞栓症の発症が劇的に減少することが報告されており[16],ヘパリンに代わる抗凝固剤投与が必要と言われている[17,18].また,HIT抗体検査は結果が返ってくるまでに日数を要するため,臨床的にHITを強く疑った場合は,HIT抗体検査結果を待たずに抗トロンビン薬を開始すべきとする報告もある[19]

■本邦ではHIT治療薬として抗トロンビン薬のアルガトロバン(ノバスタンHI®,スロンノンHI®)が保険で認められており,海外のコホート研究でその安全性と有効性が報告されている[20,21].HITに対するアルガトロバン投与量の調節にはAPTTを指標として用い,基準値の1.5-3.0倍で調節するようFDAでは推奨している.

■本邦では,心臓手術,血液浄化,PCPS維持の際にACT(Activated Coagulant Time)を指標としてアルガトロバンを安全に投与できたとする報告が多数ある[22-25]

■本邦ではHITに対してヘパラン硫酸であるダナパロイドナトリウム(オルガラン®)は承認されていないものの,海外では承認されている.HITに対する投与量については本邦では確立されていない.また,ダナパロイドの本邦での添付文書では,HITの既往歴のある患者で,ヘパリン抗体と本剤との交差反応性のある患者に対しては原則禁忌とされている.

■急性期HITに対してワーファリン単独投与を行った場合,凝固因子の低下より先に抗凝固因子(Protein C)の低下をきたすことで,逆に一時的に血栓経口に傾く可能性があり,急性期HIT患者に四肢壊疽を起こすリスクがあるため[26],ワーファリン単独療法は行わない.血小板数が回復した時点で,抗トロンビン薬と併用する形で投与を開始し,臨床症状が落ち着いた時点でワーファリン単独治療への切り替えを行う.

■DICの治療としてヘパリンが投与されることもあり,逆に10-20%のHIT患者がovert-DICに移行するとされており,その鑑別は容易ではない.しかし,HITの臨床的特徴(発症時期や,血小板数が2万/μL以下になることが少ない,出血傾向を示すことは稀など)を適確に把握し,そのうえで臨床的にHITが疑われる場合には,すべてのヘパリンを直ちに中止するとともに治療を開始し,HIT抗体の測定を行う必要がある.

■最近,HIT-associated consumptive coagulopathyでAPTTの延長が認められる症例で,HIT治療に対する懸念が生じている.HIT治療薬である抗トロンビン薬はその投与量をAPTTでモニターするが,HIT-associated consumptive coagulopathy患者においては特に強力な治療が必要である.しかし,APTTが過度に延長することでの出血の懸念により,抗トロンビン薬の投与量を減量してしまうことが発生する.この場合,HITの治療としてはunderdosingとなるため,HIT病態の悪化を招く可能性があると指摘されている[27]

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by DrMagicianEARL | 2012-08-03 18:57 | 敗血症性DIC | Comments(0)

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