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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

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Summary
・重症病態において腸管蠕動不良,抗菌薬投与,腸管虚血・浮腫に伴う腸管免疫力低下などの要因による腸内細菌叢の破綻が生じており,予後悪化の原因となりえる.probiotics / prebioticsはこの腸内細菌叢破綻の予防もしくは治療目的で投与されうる製剤である.
・重症患者におけるprebiotics / probioticsの死亡率,感染症合併に対する改善効果については明らかではないが,特に腹部手術,外傷では感染合併症を減少させる可能性がある.
・probiotics / probioticsは重症患者の下痢を予防しうる.特に抗菌薬関連下痢症を予防しうる可能性が高い.
・腸管虚血が疑われる場合は,probiotics / prebiotics の使用は予後悪化しうる可能性があり,投与を慎重とすべきである
・腸管虚血・腸管蠕動不全がなく,常在細菌叢破綻リスクが高い患者,感染症合併リスクが高い患者への適応が望ましい.
・常在細菌叢破綻リスクについては,便グラム染色による多様性維持の有無によって判断することも考慮する.
・現時点でいずれのprobiotics製剤が最も有用であるかについては知見が得られていない.
・本邦における過去の報告では,Bifidobacterium breve Yakult(ミルミルS®)とL. casei Shirota(ビオクラチス®)の組み合わせが望ましいが,ミルミルS®は医薬品使用はできない.
・耐性乳酸菌ではレベニン®が術後患者でのエビデンスを有する.ビオフェルミンR®の重症患者・術後患者への有用性は明らかではない.

1.敗血症患者に対するprobiotics / prebioticsの投与の目的は何か?
■probioticsは適正な量を摂取したときに宿主に有用な作用を示す菌である[1].一方,prebioticsは大腸の有用菌の増殖を選択的に促進し,宿主の健康を増進する難消化性食品のことである[2].synbiotics療法は,生菌のprobioticsだけでなく,増殖因子であるprebioticsを併用する療法のことで,より強力に腸内環境を整える治療のことである.

■健常人の腸管内には多彩な細菌群がバランスを保ち共存している.この腸内細菌叢と免疫,腸管細胞の3つは互いにcross-talk(相互連関)の関係にあり[3],生体の免疫防御システムの60-70%を有する腸管免疫にとって腸内細菌叢は極めて重要である.このうち最優勢菌はBacteroidesBifidobacteriumなどの偏性嫌気性菌であり,腸内細菌数では大腸菌の約1000倍を有する[4].これらの偏性嫌気性菌はcolonization resistanceと呼ばれる他の細菌増殖を抑える働きがあり,重症病態においては極めて重要な意味をもつ[5].この他にも,短鎖脂肪酸の産生,ビタミン・電解質などの代謝,大腸上皮細胞の増殖,免疫調節などが知られている[6]

■高度侵襲を生体が受けたとき,SIRS(全身性炎症反応症候群;systematic inflammatory response syndrome)や多臓器不全が患者に生じる.腸管蠕動不良,抗菌薬投与,腸管虚血・浮腫に伴う腸管免疫力低下などの要因による腸内細菌叢の破綻が生じる.Shimizuらは,SIRS患者と健常人の便から10種類の腸内細菌群の定量評価を行った[7].これによると,SIRS患者の便中の総偏性嫌気性菌数は健常人に比べて有意に減少しており,特にBifidobacteriumと通性嫌気性菌ではLactobacillusが健常人の1/100-1/1000程度に減少した一方,ブドウ球菌数は健常人の100倍程度に増加していた.便中の短鎖脂肪酸(酢酸,プロピオン酸,酪酸)は著しく減少していた.また,この便中の腸内細菌の中で生命予後と最も関連するのは総偏性嫌気性菌数であり,続いて総通性嫌気性菌数と年齢が検出された[8].これらより,大腸菌,Klebsiellaなどの総通性嫌気性菌数が多いことだけが予後を左右するのではなく,正常の腸内細菌叢が減少することが死亡転帰と最も強く関連することを示している.

■以上より,probiotics / prebioticsは正常細菌叢を保つこと,それによる免疫力賦活などの効果を目的として使用される.特に期待される効果は感染症予防,下痢予防などである.

2.敗血症患者に対するprobiotics / prebioticsは予後,感染症合併,下痢を改善するか?
■敗血症患者に特定したprobiotics / prebioticsのRCTは報告されていない.緑膿菌肺炎モデルの無菌マウスを用いた基礎研究では,腸内の内因性細菌は局所的炎症促進反応を調整することで肺炎からの敗血症による死亡率を減少させることが報告されている[9]

■prebiotics / probioticsについてはCanadian Critical Care Nutrition Practice Guidelinesが2010年に11編の無作為化比較試験のメタ解析を報告している.このメタ解析では有意な死亡率改善はみられなかった(RR=0.89, 95%CO 0.68-1.17, p=0.52).この解析に含まれた報告のうち最も患者数が多いBesselinkらの報告であるPROPRATRIA study[10]では,296人の重症急性膵炎に4種類の生菌製剤(Ecologic 641)を使用したところ,感染合併率に有意差はなかったが,死亡率がprobiotics投与群で有意に高かった(投与群16% vs 非投与群6%,p=0.01)と報告されており,他の研究では死亡率に有意差なし,もしくは死亡率を有意に改善と報告されており,Besselinkらの報告の影響が解析結果に影響を与えた可能性がある.

■ICU死亡率を報告した4編[11-14]について解析を行うと,probiotics / prebioticsは有意ではないものの死亡率減少の傾向がみられた(RR 0.74, 95%CI 0.50-1.09, p=0.12).Besselinkらの報告[10]では,投与したprobioticsによる菌血症は認められていないが,死亡の一因として,投与群において腸管虚血が合併症として多く認められたことが述べられている.

■感染症合併に対しての効果についてのメタ解析では有意な結果は得られていない(RR 0.89,95%CI 0.68-1.17, p=0.40).Kotzampassiらの報告[12]では65人の多発外傷患者を対象にsynbioticsを使用し,投与群の感染合併率が有意に低下(投与群49% vs 非投与群77%,p<0.05,相対リスクは47%減少)しており,TNF-α,IL-6などの炎症マーカーも低下している.

■ICU滞在期間については,Kotzampassiらの報告[12]で有意な短縮を認め,Besselinkらの報告[10]でも有意ではないが短縮傾向を認めた.他の6編の報告[11,14-18]では効果は認められなかった.

■人工呼吸器装着期間については,Kotzampassiらの報告[12]で有意な短縮を認めたが,他の報告では効果は認められなかった.
 Besselinkの研究[10]では,prebiotics / probioticsは外科的介入(p=0.05),臓器不全(p=0.02),腸管虚血(p=0.004)の発生に有意に関連していた.

■2編の研究は下痢の発生数を報告しており,Kotzampassiらの報告[12]は有意に下痢の減少を認めたが,もう1編のSaccharomyces boulardiiを使用したBleichnerらの報告[19]では有意な減少は認めていない.下痢を生じた総日数については,Saccharomyces boulardiiを用いた報告2編[19,20]のいずれでも有意な減少を認めていた.これら4編のメタ解析[12-14,19]では,prebiotics / probioticsは下痢の減少に関連していた(RR 0.67,95%CI 0.45-1.00, p=0.05).Jainらの報告[15]では,複数の微生物と潜在的に病原性バクテリアの胃への定着は,probiotics製剤の使用で有意に減少していた.
※Saccharomyces boulardiiは海外でprobioticsとして使用されている真菌である.

■なお,本邦ではprobioticsに関するRCTは非常に少ない.probiotics(Bifidobacterium breve Yakult+L. casei Shirota)とprebiotics(オリゴ糖)を併用した効果については,44人の胆道癌症例で検討したKanazawaらの報告[21],55人のSIRS患者で検討したShimizuらの報告[22],50人の生体肝移植患者で検討したEguchiらの報告[23]があり,いずれも感染症合併を有意に減少させる結果となっている.Nomuraらの報告[24]では,幽門輪温存膵頭十二指腸切除患者70名を対象に,E. faecalis T-110,C. butyricum TO-A,B. mesentericus TO-Aを術前から投与し,プラセボ群より有意に感染症合併を減少した.

■以上から,probiotics / prebioticsの使用は死亡率や感染症合併に対する効果は明らかではないが,下痢の発生を減じる可能性が示唆される.また,2012年に報告された82研究のメタ解析では,probioticsの予防投与は抗菌薬関連下痢症を約半分減少させると報告されている[25]

■一方,Besselinkらの報告[10]を踏まえると,腸管虚血が疑われる患者においてはprobiotics / prebioticsの使用は予後を悪化しうる懸念があるため慎重とすべきである.腸管虚血の患者においては腸管蠕動不全によりprobioticsが本来生着すべき部位に到達できず,bacterial translocationの危険性も生じる.実際,乳酸菌などのprobiotics製剤による菌血症発症例が本邦でも報告されている.なお,Besseklinkらの報告が対象としている急性膵炎については,2011年にSharmaら[26]も報告している.この報告では,50名の急性膵炎患者にprobiotics投与効果を検討したプラセボ対照二重盲検RCTであり,probioticsは腸管透過性,エンドトキシン,プレアルブミン値,入院期間,死亡率に有意な影響を与えずと報告されている.

3.敗血症患者に対するprobiotics / prebioticsの適応と推奨製剤は?
■前述の通り,腸管虚血・腸管蠕動不全はリスクとなりうるため,本状態が強く疑われる状況ではprobiotics / prebioticsを投与すべきではない.一方,常在細菌叢破綻リスクの高い患者,感染症合併リスクが高い患者では推奨されうる.しかしながら,敗血症のみならず重症患者において現時点でいずれのprobiotics製剤が最も有用であるかについては知見が得られていない.

■Shimizuらは,SIRSや多臓器不全患者において,腸内細菌叢の便グラム染色パターンと重症度の関連性を示し,その多様性を保持することが死亡率を低下させることを報告している[27].この報告をもとに,Shimizuらは,下痢であっても多様性が保持されていれば,経腸栄養剤の種類やスピードを調節して経過観察を行い,多様性が維持されていなければ抗菌薬やprobiotics / prebioticsなど状況に応じた治療方針を選択することを提唱している[28].ただし,便と腸粘膜で細菌叢が必ずしも一致しないことがEckburgらの報告[29]で示されており,今後より大規模な追試による検討が必要であるが,重症患者の便グラム染色をベッドサイドでの簡便なスクリーニング検査として考慮してもよいと思われる.

■腸内細菌叢は食文化の影響を受けるため,人種差・地域差,さらには個人差もあり,これらの結果が本邦においても当てはまるものかについては明らかではない.また,本邦は他国と異なり,probiotics製剤が医薬品として使用されている状況にある.しかしながら,本邦での無作為化試験は限られており,製剤間の比較試験もなく,どのprobiotics / prebioticsが推奨されうるかについては結論がでていない.重症患者,術後患者でのこれまでの本邦の報告ではBifidobacterium breve YakultとL. casei Shirotaに加え,オリゴ糖併用で感染症合併予防の有用性が3編のRCT[22-24]で示されている.Bifidobacterium breve Yakultはヤクルト社が製造している飲料水ミルミル®(ミルミルS®はオリゴ糖入り)が該当するが,医薬品としての使用はできない.L. casei Shirotaはビオクラチス®(もしくはヤクルト®)が該当する.

■敗血症患者では抗菌薬投与が前提であるが,抗菌薬耐性のprobiotics製剤はビオフェルミンR®,レベニン®が該当する.ビオフェルミンR®はE. faecalisである.一方,レベニン®本剤はE. faecalisC. butyricumBacillus mesentericusを含有し,幽門輪温存膵頭十二指腸切除患者70名を対象とした研究で感染症合併を有意に減少させたNomuraらの報告[24]で使用したものと同一菌種である.

■各probiotics製剤の菌株を以下に示す.
ビオフェルミン®:Enterococcus faecalisBucillus subtilis
ラックビー®,ビフィダー®:Bifidobacterium spp
ビオスミン®:Enterococcus faecalisBifidobacterium bifidum
ミヤBM®:Clostridium butyricum
ビオクラチス®:Lactobacills casei
ビオスリー®:Enterococcus faecalisClostridium butyricumBacillus mesenteicus

■腸内細菌の分布は以下の通りである.これらの分布を参考に,異なる部位に定着するprobioticsを併用することも有用かもしれない.
小腸上部: 内容物1gあたり約1万個.Lactobacillus属,Enterococcus属,Veionella属,酵母など.好気性,通性嫌気性のものも多い.
小腸下部:内容物1gあたり10万-1,000万個.小腸上部の細菌に大腸由来の偏性嫌気性菌が混在.
大腸:内容物1gあたり100億-1,000億個.ほとんどがBacteroidesEubacteriumBifidobacteriumClostridiumなどの偏性嫌気性菌.

※おまけ:probotics製剤(ビオフェルミン®など)を使ったヨーグルトの作り方
①牛乳1Lにグラニュー糖を小さじ1-2杯,米糀を小さじ1杯弱投入
②沸騰させる
③37℃程度にさます(40℃以上だと菌が死滅しやすい)
④probioticsを投入する(ビオフェルミン®なら小さじ1杯ぶん)
⑤温度をキープしながら1日放置
⑥ヨーグルト完成


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by DrmagicianEARl | 2012-12-28 16:11 | 敗血症 | Comments(0)
Summary
・チゲサイクリンはグリシルサイクリンに分類されるテトラサイクリン系抗菌薬である.
・組織移行性が極めて高く,その一方で血中濃度は低い静菌的抗菌薬である.血漿中半減期は36時間,組織内半減期はその数倍に及び,主に肝代謝である.
・副作用は悪心嘔吐が非常に多いが,短期間で消失する.
・MRSA,MDRAB,ESBL産生菌,カルバペネム耐性緑膿菌,その他多くの多剤耐性菌に幅広く有効であり,海外では主に皮膚軟部組織感染症,腹腔感染症,肺炎でエビデンスが蓄積されてきている.
・ただし,本邦での適応は,『他の抗菌薬に耐性を示した,大腸菌,シトロバクター,クレブシエラ,エンテロバクター,アシネトバクター』に限られる.
・RCTはPhaseⅢがほとんどであり,従来治療群と非劣勢が示されている一方,メタ解析では奏功率・死亡率ともにTGCの成績は不良な傾向があり,重症感染症での有効性は不明確である.
・AdeABC排出ポンプシステムをはじめとする各種耐性機序が発見されており,TGC耐性菌は世界各国でAcinetobacter baumanniiなどにおいて報告されている.

■Tigecycline(チゲサイクリン,以下TGCと略)がPhizer株式会社より本邦で商品名タイガシルとして2012年11月に販売開始となった.

■TGCはglycylcyclineに分類されるテトラサイクリン系抗菌薬であり,MINOの半合成誘導体である.作用機序はテトラサイクリンと同様,ribosome 30Sサブユニットに結合してタンパク質の合成を阻害する.

■テトラサイクリンが静菌的であり,TGCも静菌的ということになるが[1],はMICの4倍濃度で殺菌作用も示すことが知られている.その薬物動態から組織内移行性は極めて優れているが,血清中濃度は1μg/mL以下と極めて低く[2,3],理論上,菌血症を伴う病態では効果が得られにくいと推察され,静菌薬であることを考慮すると,菌血症における効果には疑問が残る[4-6]

■TGCは極めて移行性に優れており,14CラベルTGCをラットに投与すると,骨,肝,脾,腎において血漿中よりもはるかに高い組織濃度を維持していた[7].この報告ではTGCの半減期は,血漿中は36時間,骨は208時間,甲状腺は128時間,腎は77時間であった.15%は尿中排泄される.

■TGCは抗菌作用以外にも,神経細胞においてエンドトキシンに誘導される炎症促進/アポトーシスメディエーターの放出を抑制することで神経を保護することがラットモデルの研究で報告されている[8]

■米国では主に成人MRSAによる複雑性皮膚軟部組織感染症および腹腔内感染症の治療薬として使用されている.TGCはDOXYやMINOなどの他のテトラサイクリン系抗菌薬に耐性を示す菌に対しても抗菌活性を認め,PRSP,MRSA,VREなどのグラム陽性の耐性菌[9],ESBL産生菌,カルバペネム耐性緑膿菌やAcinetobacterStenotrophomonas maltophiliaなどの多剤耐性グラム陰性菌[10-12],インフルエンザ菌,梅毒菌[13],マイコプラズマやクラミジアなどの非定型病原体[14],レジオネラ[15],非結核性抗酸菌[16],嫌気性菌[17]に抗菌活性を有する.

■本邦での適応菌種は『他の抗菌薬に耐性を示した,大腸菌,シトロバクター,クレブシエラ,エンテロバクター,アシネトバクター』と非常に少なく,検出されたら病院全体レベルでの感染対策が必要になる可能性もあるような耐性菌を対象としており,MRSAは適応に含まれていない.販売後は100例まで全例調査となっているが,日本では極めて少ない多剤耐性菌に適応が限定されているため,100例集積までにもかなりの期間を要することになると予想される.
※当院ではまず使用する機会はないと考え,必要時に緊急採用という形をとっている.これは当院が所属する感染対策ネットワーク内の,大学病院を含む他院でも同様の傾向がみられた.

■TGCは肝代謝・便胆汁排泄であり,腎障害時も減量する必要はない.しかし,中等度以上の肝障害時は投与量を減量する.副作用は用量依存的に悪心嘔吐などの消化器症状が多く,投与1-2日後早期に発現し,消失する.この副作用は若年者・女性で生じやすいが,投与中止となるほど重症なものは稀であるとされる.

■海外でのRCTはほとんどがPhaseⅢtrialとしてのものであり,皮膚軟部組織感染症,腹腔内感染症,肺炎においてTGCの効果が確認されている[18-27].皮膚軟部組織感染症ではVCM+AZT併用と比較,腹腔内感染症ではCTRX+MNZ併用,またはIPM/CSと比較がなされており,いずれも非劣勢との結果がでている.

■肺炎においては,市中肺炎でTGCとLVFXが比較された報告が複数あり,いずれも非劣勢とされている.一方,Freireら[28]の院内肺炎におけるTGCとIPM/CSの比較では,総死亡率やITT解析での治療奏功率に有意差はないが,per-protocolでの治療奏功率,人工呼吸器関連肺炎に限定したサブ解析ではTGCはIPM/CSより治療成績が悪いという結果が得られている.

■その一方で,TGCはMRSAに対しては殺菌的ではなく静菌的に作用するため,血中濃度の低さも考慮するとMRSAによる敗血症の治療に際しては無効となる可能性が指摘されている.実際,米国のPhaseⅢ・Ⅳにおいては,敗血症など重症MRSA感染症ではTGC投与によって逆に死亡率が増加した結果が得られており,重症MRSA感染症ではTGC以外の抗MRSA薬が使用されるべきであるとされている.その一方で,Gardinerら[29]はTGCに関する8報のPhaseⅢtrialのうち菌血症患者170名を解析しており,二次性菌血症においてTGCの静菌作用が理由で効果が損なわれることはないと結論づけている.

■Florescuら[30]は,入院患者におけるMRSA(ME n=117,ITT n=133)およびVRE感染(ME n=5,ITT n=10)に対するTGCとVCM or LZDを比較しており,TGCの非劣勢が示されている(ただし,ITT解析ではTGC群がやや成績が悪い傾向がみられた).

■これらの各RCTの結果の一方で,メタ解析においてはTGCの治療成績は芳しくないとされている.Tashinaら[31]はRCT14報の約7400例のメタ解析を行っており,従来治療を行った対照群と比較して,TGC治療群は奏功率(OR 0.87, 95%CI 0.74-1.02),死亡率(OR 1.28, 95%CI 0.97-1.69)ともに有意ではないが成績が悪い傾向が見られ,TGC従来治療より優れているわけではなく,TGCの適切な適応を評価する研究が必要としている.Yahavら[32]もRCT15報の7654例のメタ解析を行っており,TGCは従来治療群と比較して,全死亡リスクが1.29倍(95%CI 1.02-1.64),臨床的治療失敗リスクが1.16倍(95% CI 1.06-1.27,細菌学的治療失敗は有意差なし:RR 1.13, 95%CI 0.99-1.30).敗血症性ショック進展リスクは7.01倍(95%CI 1.27-38.66)という結果が得られており,重症感染症においてTGCを使用すべきでないとしている.Caiらのメタ解析[33]でも同様の結果であり,TGCの治療効果は,特に重症感染症においては現時点では不明確であり,過信すべきではない.

■耐性菌対策で本邦に導入されるTGCであるが,TGCに耐性を示す菌は世界各国で報告があり,とりわけアジア各国からの報告は非常に多い.とりわけ,カルバペネムに耐性を示す多剤耐性Acinetobacter baumanniiはAdeABC排出ポンプシステムによりTGCの抗菌力が働きにくいことが知られている[34].比較的耐性菌が他国より少ない本邦においてもTGCは万能ではなく,医療ツーリズムにより海外から本邦にやってくる外国人でのTGC耐性菌については注意が必要である.

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by DrMagicianEARL | 2012-12-18 13:56 | 抗菌薬 | Comments(0)
※今回はいつもとはだいぶ毛色の違うお話です.大雑把なシステマティックレビューもどきですので,厳密な検証とはなっていませんが,軽い読み物として見ていただければ・・・.

■サプリメント全般に言えることではあるが,ビタミン製剤の有効性には常日頃から疑問があり,(本当に効果があるケースも当然ながらあるが)多くのケースはプラセボ効果程度しかないのでは?と小生は考えている.

■サプリメントでは,いわゆる「コラーゲン摂取でお肌が」とよく言われるが,これが意味のないことはどの医療関係者も知っている通りだと思う.他のサプリメントも多くが効果をRCTによって検証されていないにもかかわらず,一般市民が盲目的に購入し,摂取している.百歩譲って害がなければ問題ないとしてもよいかもしれないが,有害との報告も多数でている.しかしながらマスコミはスポンサーの関係もあるのかなぜかこの事実を報道しない.
※コラーゲンではなくビタミンCなら生体内コラーゲン産生における補酵素となるため有用と思っていたが,ビタミンC単体をサプリメントとして摂取してもプロオキシダント効果で,逆に酸化が進んでしまうようである(Front Gastroenterol 2011; 16: 5-6).

■閉経後女性のサプリメント内服で死亡率が上昇することが知られている[1].38772名の調査による多変量解析で,マルチビタミンで2.4%増加,ビタミンB6で4.1%増加,葉酸で5.9%増加,鉄で3.9%増加,マグネシウムで3.6%増加,亜鉛で3.0%増加,銅で18.0%増加という結果であった.バイアスが低いRCT47報180938名のメタ解析では,ビタミンCをはじめとする抗酸化サプリメントは有意に死亡リスクが増加していた(RR 1.05; 95%CI 1.02-1.08)[2]

■医療現場においてもビタミン剤が処方されるケースは多い.欠乏症においては投与されてしかるべきと思われるが,ある特定の症状に対して盲目的に処方するのははたして意味があるのか?今回小生のネガティブ記事の犠牲になるのはメチコバール(いらない薬と言ってるわけではない).小生は研修医時代に,入院してきた患者がビタミンB12製剤(メチコバール)を服用している場合,馬鹿正直にビタミンB12の血中濃度を内服直前に計測したところ,全例で基準値上限(938pg/mL)をはるかに上回る数千~万単位の結果が得られている.今回,末梢神経障害に対するビタミンB12製剤がどの程度エビデンスがあるのか,大雑把ではあるが調べてみた.

■"methylcobalamin"OR"vitamin B12"と"neuropathy"でPubMed検索すると430報がヒットし,そのうちRCTに限定した14報を通読し,5報が検索目的に該当した.

■該当した5報は以下の通り.
(1) Talaeiら(2009年)[3]:糖尿病性ニューロパチーに対するビタミンB12とノルトリプチンの100名での単盲検RCTで,ビタミンB12投与群が有意に有効との結論.
(2) Petersら(2006年)[4]:253名のアルコール性ポリニューロパチーに対するビタミンB12を含むビタミンB混合製剤とプラセボを比較した多施設共同二重盲検RCTでビタミンB投与群が有意に有効との結論.ただし脱落が72名いる模様.
(3) Strackeら(1996年)[5]:12名の糖尿病性ニューロパチーに対するビタミンB12を含むビタミンB混合製剤とプラセボを比較したRCTで,ビタミンB投与群が有意に有効との結論.
(4) Hughesら(1970年)[6]:血清ビタミンB12レベルが低い高齢者39名に対するビタミンB12とプラセボを比較した二重盲検RCTで,有意差なし.
(5) Yaqubら(1992年)[7]:糖尿病性ニューロパチーに対するメチルコバラミンとプラセボを比較した二重盲検RCTで,有意差なし.abstractにはN数記載はなかった.

■5報中,有意に有効であった報告は3報.糖尿病性ニューロパチーでの検討が3報,ビタミンB12レベルが低く末梢神経障害などを有する高齢者での検討が1報,アルコール性ニューロパチーが1報である.ただし,ビタミンB12単剤とプラセボを比較した二重盲検RCTは5報中2報のみで有意差はなかった.

■有意に有効と報告している3報を見ていくと,1報はプラセボではなくノルトリプチン(本邦未承認)との比較で単盲検であった.2報は介入群にビタミンB12を含むビタミンB混合製剤を使用していた.うち1報は約2割が試験途中で脱落.もう1報は12名とN数が少ない.

■一方,有意な効果が得られなかったとする2報はいずれも二重盲検であり,ビタミンB12単剤での介入であった.うち1報はビタミンB12レベルが事前に計測されており,ビタミンB12レベルが低い高齢者を対象にしている.もう1報はabstractが短く,対象数が不明.なお,この2報は有効とされた3報より古い論文である.

■次にメタ解析に限定すると検索目的に該当したのは2012年のXuらの1報のみ[8]であった.このメタ解析はプラセボとの比較ではなく,ビタミンB12(and/or ビタミンB1)と漢方薬を比較した18報のメタ解析を行ったものであり,漢方薬の方が有意に効果があるという結果であった.ただし,質の悪いstudyを含んでしまっている.

■このように大雑把にシステマティックレビュー(?)してみたが,これらの結果を見る限りは末梢神経障害に対するメチコバールの有用性に関するエビデンスはまだまだ乏しいと言わざるを得ない.効果については疑問が残るところである.
※小生は牛車腎気丸を処方することがある.Xuらのメタ解析結果を見るにメチコバールよりは効果があるか?

■現在チリと英国で2つのRCT[9,10]が進行中である.チリで行われているのはクラスター二重盲検プラセボ対象無作為化比較試験であり,介入はビタミンB12を使用,300名登録予定[9].英国で行われているのは二重盲検プラセボ対象無作為化比較試験であり,介入はビタミンB12を使用,200名登録予定[10]

[1] Mursu J, Robien K, Harnack LJ, et al. Dietary supplements and mortality rate in older women: the Iowa Women's Health Study. Arch Intern Med 2011; 171: 1625-33
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[3] Talaei A, Siavash M, et al. Vitamin B12 may be more effective than nortriptyline in improving painful diabetic neuropathy. Int J Food Sci Nutr 2009; 60 Suppl5: 71-6
[4] Peters TJ, Kotowicz J, Nyka W, et al. Treatment of alcoholic polyneuropathy with vitamin B complex: a randomised controlled trial. Alcohol Alcohol 2006; 41: 636-42
[5] Stracke H, Lindemann A, Federlin K. A benfotiamine-vitamin B combination in treatment of diabetic polyneuropathy. Exp Clin Endocrinol Diabetes 1996; 104: 311-6
[6] Hughes D, Elwood PC, et al. Clinical trial of the effect of vitamin B12 in elderly subjects with low serum B12 levels. Br Med J 1970; 1: 458-60
[7] Yaqub BA, Siddique A, Sulimani R. Effects of methylcobalamin on diabetic neuropathy. Clin Neurol Neurosurg 1992; 94: 105-11
[8] Xu HB, Jiang RH, et al. Chinese herbal medicine in treatment of diabetic peripheral neuropathy: a systematic review and meta-analysis. J Ethnopharmacol 2012; 143: 701-8
[9] Sánchez H, Albala C, Lera L, et al. Comparison of two modes of vitamin B12 supplementation on neuroconduction and cognitive function among older people living in Santiago, Chile: a cluster randomized controlled trial. a study protocol. Nutr J 2011; 10: 100
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by DrMagicianEARL | 2012-12-11 10:25 | 文献 | Comments(0)
■Surviving Sepsis Campaignで提唱された敗血症蘇生バンドルは重症敗血症・敗血症性ショックの診療を迅速にし,敗血症死亡率改善に寄与してきたことはLevyらの報告[1],Kumarらの研究グループ(Milwaukee Initiative in Critical Care Outcomes Research Group of Investigators)の報告[2]が示す通りである.

■その一方で,敗血症蘇生バンドル遵守コンプライアンスが問題となる.この問題はとりわけ集中治療医がいないlow intensity open ICUで問題となりやすく,当院も課題とするとことろである.

■下に紹介するKangらの報告は,多変量解析によって蘇生バンドルコンプライアンスに影響を与える因子を見出したものであり,韓国の施設における2008年8月から2010年7月までの重症敗血症・敗血症性ショック患者317名を対象とした後顧的観察研究である.蘇生バンドル7項目中5項目以上を施行された患者を高コンプライアンス群(172名),それ以外を低コンプライアンス群(145名)とし,多変量解析を行った.

■高いコンプライアンスに有意に関連した因子は高熱(OR 1.37; 95% CI, 1.10-1.70),臨床経験が3年以上の看護師によるケア(OR 1.69; 95% CI, 1.10-2.58),シニアレジデントや救急認定医による治療(OR 3.68; 95% CI, 1.68-6.89)であった.感染症において高熱は非常に分かりやすいサインであることから緊急性を警告させるのかもしれない.看護師経験はプロトコルの円滑な遂行に必須である.救急認定医のみならずシニアレジデントの関与も大きいのは当施設でも経験する.こういった分野は若手の方がよくエビデンスを見て勉強し,その通りにやることが多いからかもしれない.

■低いコンプライアンスに有意に関連した因子は神秘的ショック(OR 0.26; 95% CI, 0.13-0.52),高乳酸血症(OR 0.90; 95% CI, 0.82-0.98)であった.この2点は敗血症性ショックにおいて非常に見逃されやすいポイントであり,臨床現場においてもこの2点がコンプライアンス低下に影響を与えたことが確認されたのは大きい.

■神秘的ショック(cryptic shock)とは,たとえ血圧が維持されていてor回復していても,各臓器への血流灌流不全が持続することである.原因としては,血圧が維持されても個々の臓器への血流灌流と微小循環は必ずしも保障されないことが指摘されている[3].また,重症病態では血液再配分機序(redistribution)が働き,脳,心臓などの重要臓器へ血流がシフトし,皮下組織,骨格筋,腸管などは真っ先に血液灌流が減少する.よって,評価が甘く,収縮期血圧が正常化していることを理由に蘇生バンドルを怠れば,収縮期血圧が正常なのに多臓器不全に陥ってしまう原因となる.実際,非常に見落とされやすい病態であり,OR 0.26という数値がでている.

■収縮期血圧は左室後負荷を見ているに過ぎず,心臓以外の臓器灌流の決定因子となるのはむしろ以下で規定される平均血圧であり,集中治療においては血圧の中で最も重視されるべき項目である[4].実際に敗血症においては平均血圧が60mmHgと28日死亡率の関連が強く,収縮期血圧と死亡率の関連閾値は見出せなかったと報告されている[5]
 平均血圧=拡張期血圧+脈圧×1/3 (脈圧=収縮期血圧-拡張期血圧)

■高乳酸血症が低いコンプライアンスと関連したのは,SSCG 2008(Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2008)[6]において乳酸値のモニタリングが推奨されていなかったことも原因と思われる.SSCG 2008では組織酸素代謝の指標はScvO2(中心静脈酸素飽和度)が提示されているが,重症病態における血流シャント,組織酸素摂取率,細胞(特にミトコンドリア)の酸素利用障害(cytopathic hypoxia)などは反映しない.よって,ScvO2が正常~高値であるにもかかわらず末梢組織は酸素欠乏状態となる事態が起こりうる.この敗血症病態における酸素利用障害により嫌気性代謝で増加するのが乳酸である[7,8].実際,敗血症性ショック後期のScvO2高値は死亡率と有意に関連することが報告されている[9].この報告によると,生存者の平均ScvO2が72-87%(中央値79%)であるのに対し,死亡者の平均ScvO2は78-89%(中央値85%)となっている.また,EGDT(Early Goal Directed Therapy)に乳酸値クリアランスを用いたプロトコルを加えたELGT(Early Lactate Guided Therapy)が死亡率をEGDTより有意に低下させた報告もでている[10].もっとも,乳酸値は体内での酸素利用障害の総和を表しているため,局所の虚血状態を反映できるわけではないということに注意が必要である.

■ショックの概念は以下の変遷を経て第3世代定義に至っている.これを見ても分かるとおり,血圧を見てショックを判断してはならないことが分かる.
第1世代ショック定義:血圧低下があればショック
第2世代ショック定義:たとえ血圧は維持されていても,組織への血液灌流不全があればショック
第3世代ショック定義:血圧や血液灌流が維持されても,末梢組織,細胞での酸素利用障害などを含む酸素代謝異常があればショック

※当院では敗血症疑いの患者の血圧が正常でも乳酸値≧4mmol/L(36mg/dL)であれば敗血症性ショックとみなしてEGDTを開始する方針をとり,ICU管理においても平均血圧モニタリングを重視することで治療成績が格段に上昇した.

Kang MJ, Shin TG, Jo IJ, Jeon K, Suh GY, Sim MS, Lim SY, Song KJ, Jeong YK.
Factors influencing compliance with early resuscitation bundle in the management of severe sepsis and septic shock.
Shock. 2012 Nov;38(5):474-9

Abstract
ABSTRACT: The Surviving Sepsis Campaign guidelines recommend implementing a 6-h resuscitation bundle, which has been associated with reduced mortality of patients presenting with severe sepsis or septic shock. However, this resuscitation bundle has not yet become a widely implemented treatment protocol. It is still unclear what factors are associated with the rate of compliance with the resuscitation bundle. In this study, we evaluated the potential factors associated with implementation and compliance of a 6-h resuscitation bundle in patients presenting with severe sepsis or septic shock in the emergency department. We conducted a retrospective observational study involving adult patients presenting with severe sepsis or septic shock in the emergency department of a tertiary care hospital during the period between August 2008 and July 2010. The resuscitation bundle consisted of seven interventions according to the Surviving Sepsis Campaign guidelines. The primary outcome measure was the rate of high compliance with the 6-h resuscitation bundle, defined as implementation of more than five of seven interventions. Multivariable logistic regression analysis was used to adjust for the confounding factors. A total of 317 patients were enrolled into the study. One hundred seventy-two patients (54.3%) were assigned to the high compliance group, and 145 patients (45.7%) to the low compliance group. Significant factors associated with high compliance of the 6-h resuscitation bundle were hyperthermia (adjusted odds ratio [OR], 1.37; 95% confidence interval [95% CI], 1.10-1.70), care from experienced nurses who had 3 or more years of clinical experience (adjusted OR, 1.69; 95% CI, 1.10-2.58), and care from senior residents or board-certified emergency physicians (adjusted OR, 3.68; 95% CI, 1.68-6.89). Factors related with lower compliance were cryptic shock (adjusted OR, 0.26; 95% CI, 0.13-0.52) and higher serum lactate levels (adjusted OR, 0.90; 95% CI, 0.82-0.98). Furthermore, we found several potential factors that influence compliance with the sepsis resuscitation bundle. To improve the compliance with the resuscitation bundle, interventions focusing on those factors will be needed.

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by DrMagicianEARL | 2012-12-01 13:43 | 敗血症 | Comments(2)

by DrMagicianEARL