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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

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※針刺し予防の内容のため,針刺し事故後の対応については今回は割愛しております.

■2013年7月に職業感染制御研究会は,8月30日を「8=針,3=刺し,0=ゼロ」の願いを込めて「針刺しゼロの日」に制定することを発表した.以下に,針刺し事故の実態を報告した文献をまじえて針刺し予防についてまとめた.

■欧米諸国では,血液・体液曝露予防のためのサーベランスデータの収集・解析システムであるEPINet(Exposure Prevention Information Network)が普及しており[1],針刺しのみならず,切創,皮膚・粘膜曝露に関して集積された情報をもとに感染対策への解析が進んでいる.このEPINetに約50病院から集積されたデータにより曝露防止対策が論理的に講じられ,個々の対策の有効性と限界をも明確にした.現在EPINetは米国,イタリア,カナダ,オーストラリア,ブラジル,日本などが採用し,曝露防止対策を推進している.本邦でも全国の医療機関が共有できる情報収集システムを構築する必要があり[2],職業感染制御研究会が日本版EPINetを立ち上げている.日本版EPINetの目的として,曝露実態の正確な把握,曝露原因の追究と曝露予防策の計画,実施された曝露予防策の評価がある.同時に,各施設の予防策のみならず,より安全性の高い鋭利器材の開発も推進しうる.

■日本版EPINetを用いることで,日本の針刺しの実態が明らかとなり,米国との比較もなされている[3].1997年時の針刺し,切創,皮膚・粘膜曝露の事象では,リキャップ時の針刺しが日本では25%であったのに対し米国はわずか3%であった.その米国も1986年時は25%であり,その後の対策によって米国では劇的にリキャップ時針刺し事故が減少したことが分かる.

※キャップを置き,そこに針付き注射針を挿入してすくいあげるようにしてリキャップを行うケースがある.比較的安全なように見えるが,斜めに入った状態でそのままリキャップした場合,実は注射針がプラスチックキャップを貫通し,キャップ外に針が突出した状態となり針刺しが生じることがある.

■1996-1998年の3年間のHIV研究班による本邦エイズ拠点病院を対象とした調査では,針刺し事故は11798件生じており,100床あたり4件であった.汚染源となった患者の感染症はHCVが7708件,HBVが1862件,HIVが88件であり,明らかな発症はHCVの28件であった.発生状況は,リキャップ時が26%,鋭利器材使用中が22%,使用後廃棄までが22%であった.使用目的別には,注射器を用いた経皮的注射が3053例(26%),静脈採血が2108例(18%),血管確保1933例(17%)の順に多く,これらのうち15-20%が病室の外で発生している.経皮的注射の針刺し事故3053例中1345例(44%)は病室内で発生し,そのうち60%がリキャップによるもので,「使い捨て注射器」「翼状針」「ペンあるいはカートリッジ式インスリン注射用針」であった.また,病室外発生では「リキャップ」「廃棄容器に入れる時」が多い.職種別では,7662例(65%)が看護師および准看護師,3017例(26%)が医師および研修医であった.

※中心静脈カテーテル挿入後の固定の際,縫合セットではなくピンク針を用いるケースがあるが,これも感染対策の観点から見れば当然ながら行うべきではない.

■和田らは,病床数と針刺し切創件数の関連性を報告している[4].日本版EPINetに参加している67病院のデータの解析で,1年間の100稼動病床あたりの針刺し件数を(針刺し件数)/(病床数)×100で算出したところ,400床未満で4.8(95%CI 4.1-5.6),400-799床で6.7(95%CI 5.9-7.4),800床以上で7.6(95%CI 6.7-8.5)であり,稼動病床数規模に応じて針刺し発生件数が有意に増加していた(p<0.01).

■布施は看護師323例を対象に針刺し事故の解析を行った[5].1年間の針刺し事故体験者は84例(27.7%)であった.針刺し回数は1回が49.0%,2回が22.0%,3回が18.0%,4回が1.2%,5回以上が9.6%であった.針刺し事故体験者は体験のないものに比べ,経験年数が有意に少なかった(8.9年vs11.6年, p<0.001).針刺し事故切傷部位の分布では,左第2指が35.7%,右第2指27.3%,右第1指9.5%,右第3指7.2%,左第3指7.2%であった.針刺し事故発生時の状況が日頃の勤務状況と異なったかについては,「違いなし」が67.9%,「あり」が27.4%であった.針刺し事故発生に影響を与えると考えられる日常業務14項目のうち,針刺し体験有無と有意な関連性があったのは,注射器操作の熟練度,針刺しのヒヤリ体験,穿刺後のリキャップであった.

■2011年に渋谷によって日本全国での訪問看護師1000名に対する針刺し事故の調査結果が初めて行われた[6].針刺し事故経験は35.7%にみられ,直近1年間での針刺し経験は5.0%であった.また,針刺し経験者のうち92.1%が手袋未着用であった.針刺し発生後,24時間以内に職場に報告した対象者の割合は66.4%,24時間以上経ってから報告した者は0.9%,何も報告しなかった者は23.0%であった.針刺しが起きた状況は,使用済み注射針のリキャップ時が31.9%と最も多かった.

■針刺し事故で特に問題となるのはB型肝炎ウイルス(HBV),C型肝炎ウイルス(HCV),ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の3種である.これらは血液や体液が直接ヒト体内に入ることにより伝播するため,針刺し事故で感染しうる.これら3種のウイルスは予防策は同一であり,また,これらのウイルスの存在に関係なく,全ての血液・体液などを危険な感染物とみなして標準予防策を行う[7].それぞれウイルスの針刺し事故による感染リスクは「3の法則」で,HBV 30%,HCV 3%,HIV 0.3%と覚えるとよい.厳密には,HBV 1-62%[8],HCV 1.8%(Range 0-7%)[9-12],HIV 0.3%(95%CI 0.2%-0.5%)[13]である.HBVは感染源がHBs抗原(+),HBe抗原(+)であれば肝炎進展リスクは22-31%,血清学的進展リスクは37-62%であり,HBs抗原(+),HBe抗原(-)であれば肝炎進展リスクは1-6%,血清学的進展リスクは23-37%である[8]

■使用済み注射針は感染症の有無にかかわらず,原則としてリキャップをしないで使用した状態のまま(針の取り外しなどをしない),直ちに堅固な医療用廃棄物容器に廃棄する[14,15].医療用廃棄物容器については,廃棄物が容易に取り出せないような構造であることが望ましい.不用意な廃棄時の事故(手を容器内部に入れるなど)を防ぐため,容器の廃棄口径は各種器材の廃棄に適した必要最低限の大きさ(蓋付き)または安全な開閉デザイン(一定量で自動的に閉鎖)が望ましい.廃棄容器が満杯状態あるいは廃棄した鋭利器材が廃棄口から飛び出す場合など,廃棄時や廃棄後の針刺しの危険を生じるため,容量が80%程度で新しいものに交換する.また,多量の鋭利物を一度に廃棄する場合,押し込むことで廃棄容器の材質によっては過度の圧力や負荷に耐えられない場合もあり,無理をして余計な危険を招かないように注意する.なお,点滴作成台の上の針捨て用の廃棄物容器には患者に使用した後の針は捨ててはならない.

■また,安全器材の導入を積極的に進める必要もある[15,16].安全器材の導入は,同時に慣れていない新しい医療器材導入によるエラー発生リスクも生じうることを意味する.よって,医療現場で使いこなせることができるかどうかを検討し,器材メーカー主催での使用説明会を行い,その器材に慣れて徹底的に使いこなせるようにする必要がある.さらに,手術での器械の受け渡しによる受傷を防ぐため,鋭利な形状の器械を同時に2人以上が触れないことを原則にする.たとえば鋭利器材を渡すためにトレイなどを使い,トレイ上でのやり取りによって,直接の素手の交差を避けるなどのハンズフリーテクニックが必要である.同様に,床に落ちた鋭利器材を処理する上で磁石やしっかり把持できるクズバサミなどを使用する.

■針刺し事故時の感染リスクを下げるためにも手袋装着は重要である(感染リスクが半減する).

■米国では1998年に初めてカリフォルニア州で針刺し事故防止法が制定,2000年にはクリントン大統領により同法律が連邦法に格上げされ,安全器材の使用,針刺し報告と予防計画の作成が全米で義務付けられた.

■針刺し事故が生じた場合は,施行していた医療行為等をただちに中止し,血液・体液を速やかに除去する必要がある.具体的には,大量流水による洗浄と消毒薬(ポビドンヨードや消毒用エタノールが適しているとされる[17,18]).さらに,事故について上司,院内感染対策スタッフに直ちに報告し,日本版EPINetによる曝露報告書を院内感染対策委員会に提出する[16,19].曝露時の状況や曝露者の感染状況に応じて追跡検査は少なくとも1年間行う[20,21]

[1] University of Verginia Health System International Healthcare Worker Safety Center
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[2] 日本医科器械学会職業感染対策委員会.誤刺による感染防止に関するガイドライン.医器学 1996; 66: 46-85
[3] 木戸内清.針刺し事故の広域調査.Infection Control 1999; 8: 344-8
[4] 和田耕治,吉川徹,李宗子,他.エピネット日本版サーベイランス参加病院における稼動病床毎の針刺し切創件数.第28回日本環境感染学会総会O71-4
[5] 布施淳子.総合病院1施設の看護婦における刺傷事故の実態と発生要因.環境感染 1998; 13: 167-72
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[21] Ciesielski CA, Metler RP. Duration of time between exposure and seroconversion in healthcare workers with occupationally acquired infection with human immunodeficiency virus. Am J Med 1997; 102: 115-6
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by DrMagicianEARL | 2013-08-30 00:00 | 感染対策 | Comments(0)
■Lancetにprobioticsに関する重要報告がでたので紹介します.なお,結果はネガティブですが,抗菌薬関連下痢症・CDI予防に対して必ずしもまったく意味がないことにはならず,集中治療領域での有用性も否定されたわけではありません.
高齢患者の抗菌薬関連下痢症およびClostridium difficile関連下痢症の予防における乳酸菌,ビフィズス菌.PLACIDE study
Allen SJ, Wareham K, Wang D, et al. Lactobacilli and bifidobacteria in the prevention of antibiotic-associated diarrhoea and Clostridium difficile diarrhoea in older inpatients (PLACIDE): a randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre trial. Lancet. 2013 Aug 7
PMID:23932219

Abstract
【背 景】
 抗菌薬関連下痢症(AAD)は広域抗菌薬曝露を受けた65歳以上の入院患者で最も頻度が高い.原因がClostridium difficileC. diff)であれば,AADは生命を脅かす疾患となりうる.疾患メカニズムの理解がまだ十分でないにもかかわらず,AAD予防においては微小細菌群が評価されてきている.しかし,その研究のほとんどは効果検証には不十分な質の小規模単施設研究である.我々の目的は,国民健康保険またはそれに準ずる機関の加入者をベースとした高齢患者における実際的有効性試験を行い,決定的な結果を得るために十分な数の患者を登録することである.

【方 法】
 本研究は1つ以上の経口または注射用抗菌薬の曝露を受けた65歳以上の入院患者における多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照実際的有効性比較試験である.患者は,コンピューターによる無作為化を用いて,計6×10^10株の乳酸菌(Lactobacilli)とビフィズス菌(Bifidobacteria)で構成されるprobioticsを1日1回,21日間投与を受ける群とプラセボ群に1:1で割り付けられた.患者,研究スタッフおよび研究者,データ解析者は盲検化された.一次評価項目は登録から8週間以内のAAD発生,12週間以内のC. diffによる下痢(CDI)とした.解析はITT解析とした.本研究コードはISRCTN70017204に登録した.

【結 果】
 17240の患者がスクリーニングされ,1493例がprobiotics投与群,1488例がプラセボ群に無作為に割付けられた.それぞれ1470例,1471例が一次評価項目の解析に含まれた.CDIを含むAADはprobiotics群で159例(10.8%),プラセボ群で153例(10.4%)であった(RR 1.04; 95%CI 0.84-1.28; p=0.71).CDIはAADの原因としては少なく,probiotics群で12例(0.8%),プラセボ群で17例(1.2%)であった(RR 0.71; 95%CI 0.34-1.47).578例(19.7%)で1つ以上の重大な有害事象があり,その頻度は両群間で同等であり,試験の参加に起因したものはなかった.

【結 論】
 乳酸菌,ビフィズス菌によるprobioticsがADDまたはCDI予防に有効であるとするエビデンスは見出せなかった.今後の研究を導くためにも,AADの病態生理学の理解の改善が必要である.

■AAD予防のprobioticsを検討した研究では,これまで本報告規模でのRCTはなく,エビデンスレベルはかなり高いものとなる.本報告ではprobioticsのCDI予防効果に有意差はないとされているが,95%信頼区間を見ると0.34-1.47となっており,βエラー(有効かもしれないが無効と出てしまった)の可能性もある.とはいえ,NNTは250であり,現実的な数字とは言えないかもしれない.もっとも治療ではなく予防であるので,NNT 250をどうとらえるかは異なるだろう.一般的に予防は治療に比較して効果が目に見えにくく,ハードルが高くなってしまうことに注意が必要である.

■本研究の対象は「広域抗菌薬投与を受けた65歳以上の入院患者」であり,非常に範囲が広く,probioticsが有効性を示しやすい集団というわけではない.絶食期間が長い患者,高度侵襲病態の患者,炎症性腸疾患を有する患者,特にCDIを起こしやすい抗菌薬を投与されている患者,C. diffキャリアなど,AADリスクの高い患者層では過去のエビデンスから有効な可能性がある.これら患者背景の多様性のlimitationはこれまでのRCTの多くで指摘されてきたにもかかわらず,今回の報告でもそのlimitationは全くクリアされていない.probioticsのAAD予防効果を示したメタ解析[1]では,probioticsがAADリスクを42%有意に減少させたと報告しており,このデータに今回の報告を加えるとどうなるか大雑把にシミュレーションで計算したところ,AADリスク減少は42%だったのが35%程度まで弱まるものの,有意性は保たれていた.しかし,今回の報告はメタ解析で扱われたRCTよりも大規模かつ質が高い研究であり,特定の集団には有効性がある可能性はある,しかし,一律にルーティンでprobioticsをAAD予防目的で使用するのはやめた方がいいかもしれないというsuggestionになると思われる

■probioticsは適正な量を摂取したときに宿主に有用な作用を示す菌である[2].菌を死滅させる抗菌薬と反対に菌を投与するという治療のメカニズムについて触れておく.健常人の腸管内には多彩な細菌群がバランスを保ち共存している.この腸内細菌叢と免疫,腸管細胞の3つは互いにcross-talk(相互連関)の関係にあり[3],生体の免疫防御システムの60-70%を有する腸管免疫にとって腸内細菌叢は極めて重要である.このうち最優勢菌はBacteroidesやBifidobacteriumなどの偏性嫌気性菌であり,腸内細菌数では大腸菌の約1000倍を有する[4].これらの偏性嫌気性菌はcolonization resistanceと呼ばれる他の細菌増殖を抑える働きがある[5].抗菌薬が投与されると,これらの腸内細菌が死滅し,腸内細菌叢の恒常性が破綻し,耐性をもった菌が増殖するとAADが生じる.よって,probioticsはこれらの腸内細菌を投与することで腸管内の恒常性を保つことが目的とされる.

■probioticsによるAAD予防のメタ解析は5報[1,6-9]あり,今後,今回の報告を含めたアップデートが待たれる.共通して言えるlimitationとして,患者背景となる感染症や投与されている抗菌薬,投与されているprobioticsの種類,量が多岐にわたること,probioticsメーカーと研究者の利益相反(COI)などが挙げられる.

■2006年に発表されたMcFarlandの31報RCT,3164例のメタ解析[6]では,AAD発生リスクは57%有意に減少し(RR 0.43; 95%CI 0.31-0.58; p<0.001),CDI発生リスクは41%有意に減少した(RR 0.59; 95%CI 0.41-0.85; p=0.005)と報告している.

■2011年に発表されたAvadhaniらの8報RCT,1220例のメタ解析[7]では,AAD発生リスクは44%有意に減少し(RR 0.56; 95%CI 0.44-0.71),CDI発生リスクは71%有意に減少した(RR 0.29; 95%CI 0.18-0.46)と報告している.

■2012年に発表されたHempelらのメタ解析[1]は,82報のRCTを扱っている.主に使用されているprobioticsはLactobacillus属であり,63報11811例のDerSimonian-Lairdランダムエフェクト・メタ解析では,AADリスクを42%有意に減少させたとしている(RR 0.58; 95%CI 0.50-0.68; P<0.001; I(2)=54%).

■同じく2012年に発表されたJohnstonらのCDI予防の12報RCT,3818例のメタ解析[8]を報告しており,probioticsはCDIリスクを66%有意に減少させたとしている.(RR 0.34; 95%CI 0.24-0.49; I(2)=0%).また,probiotics投与患者での有害事象は9.3%で,対照群は12.6%であり有意差はなかった.

■2013年に発表されたGoldenbergらのCDI予防の31報RCT,4492例のコクランレビューによるメタ解析[9]では,probioticsはCDIによる下痢のリスクを64%有意に減少させる(RR 0.36; 95%CI 0.26-0.51)と報告している.

■先述の通り,この報告は集中治療領域でのprobioticsの有効性を否定するものではない.集中治療領域でのprobioticsはAAD予防のみならず腸管保護,免疫力賦活,感染症予防などの目的も含まれる.本ブログでは2012年末に「敗血症とSynbiotics(probiotics and prebiotics)」というタイトルで集中治療領域におけるprobioticsの文献レビューを行った[10].このレビューでは以下のような結論としている.
・重症患者におけるsynbioticsの死亡率,感染症合併に対する改善効果については明らかではないが,特に腹部手術,外傷では感染合併症を減少させる可能性がある.
・synbioticsは重症患者の下痢を予防しうる.特に抗菌薬関連下痢症を予防しうる可能性が高い.
・腸管虚血が疑われる場合は,synbioticsの使用は予後悪化しうる可能性があり,投与を慎重とすべきである
・腸管虚血・腸管蠕動不全がなく,常在細菌叢破綻リスクが高い患者,感染症合併リスクが高い患者への適応が望ましい.
・常在細菌叢破綻リスクについては,便グラム染色による多様性維持の有無によって判断することも考慮する.
・現時点でいずれのprobiotics製剤が最も有用であるかについては知見が得られていない.
・本邦における過去の報告では,Bifidobacterium breve Yakult(ミルミルS®)とLactobacillus casei Shirota(ビオクラチス®,ヤクルト®)の組み合わせが望ましい.
■讃井先生編集の「臨床に直結する集中治療のエビデンス(文光堂)」では「プロバイオティクスは,有害事象を認めた報告は少ないが,ルーティンに用いられるほどの有用性には至っていない.重症外傷患者においては,感染症合併率の減少効果があり,使用を考慮できる.また,人工呼吸器装着患者では,人工呼吸器関連肺炎への効果は一定ではないが,緑膿菌のコロニゼーション,感染は減らす可能性がある.さらに,抗菌薬投与時は,その投与方法や患者背景によって,抗菌薬関連下痢症やCDADを予防することが期待できる.これらの状況では,使用を考慮してよいと考えられる.しかし,重症急性膵炎患者においては,死亡率の増加が示されており,用いないほうがよいといえる.」としている[11]

■上記いずれのレビューにも含まれていないICU患者でのprobioticsの最新文献として以下の3報[12-14]を提示する.

■2012年10月に発表されたGuらによる7報RCT,1142例のメタ解析[12]では,probioticsは人工呼吸器関連肺炎を減少させない(OR 0.82; 95%CI 0.55-1.24; p=0.35)と報告している.

■2013年3月に発表されたBarraudらによる13報RCT,1439例のメタ解析[13]では,ICU死亡リスク(OR 0.85; 95%CI 0.63-1.15),院内死亡リスク(OR 0.90; 95%CI 0.65-1.23),人工呼吸器装着期間(WMD -0.18 days; 95%CI -1.72 to 1.36 days),入院期間(WMD -0.45 days; 95%CI -1.41 to 0.52 days)は減少傾向であったが統計学的には有意ではなかった.一方,ICU関連肺炎リスクは42%有意に減少し(OR 0.58; 95%CI 0.42-0.79),ICU在室日数も1.49日有意に短縮した(WMD -1.49 days; 95%CI -2.12 to -0.87 days).

■2013年2月に発表された,広域抗菌薬投与を受ける生後3ヶ月から12歳までのPICU患者150例における7日間probiotics投与を検討したKumarらの150例プラセボ対照二重盲検RCT[14]では,probioticsは腸管カンジダ定着を37%有意に減少させ(31.3% vs 50%, RR 0.63; 95%CI 0.41-0.96; p=0.02),カンジダ尿も34%有意に減少させた(17.3% vs 37.3%, RR 0.46; 95%CI 0.26-0.82).ただし,カンジダ血症リスクは有意差がみられなかった(1.6% vs 6.35%, RR 0.46; 95%CI 0.08-2.74; p=0.39).

■その他,probioticsに関する最近のトピックとして今年発表された論文をいくつか紹介しておく.

■アレルギー性気道疾患に対するprobioticsの有効性を検討した12報RCTのメタ解析[15]では,アレルギー性気管支喘息では有意性を認めず,アレルギー性鼻炎では有意な改善効果が示されているものの不均一性が高すぎであり,総じてprobioticsのルーティンでの使用は推奨していない.

■過敏性腸症候群に対する6ヶ月間probiotics投与群とプラセボ群を比較した131例二重盲検RCT[16]では,有効性,健康関連QOLに有意差がなかった.ただし,数値を見ると,有効性は52% vs 41%(p=0.18)であり,NNTで見れば治療効果は10であることから,症例数不足で有意差がでなかった可能性もある.

■小児におけるアトピーおよび喘息に対するprobioticsの効果を検討したプラセボ対照RCTのメタ解析[17]では,probioticsはアトピー感作リスクとIgE値を有意に現象させるが,喘息リスクは減少させないと報告している.

■東京大学と理研の研究では,ヒトの腸で制御性T細胞を増やすことで過剰な免疫の働きを抑え,炎症を防いでいる腸内細菌17種類を特定したことが報告された[18].潰瘍性大腸炎やクローン病の患者ではこれらの菌が少ないことも判明しており,マウスモデル実験では,これらの菌を投与すると下痢や腸炎が軽快することも報告された.この17種類の菌の中に,日本で販売されているprobiotics製剤(市販の乳製品)に含まれている菌は1つもなく,新たなprobiotics製剤の創薬が必要となる.

■probioticsの新生児壊死性腸炎予防効果を検討した11報RCT,2887例のメタ解析[19]では,probioticsは新生児壊死性腸炎,全死亡リスク,敗血症を有意に減少させると報告している.

■小児の遷延性下痢に対するprobiotics治療を検討した4報RCT,464例のコクランレビュー[20]では,probioticsは下痢期間を4.02日間有意に短縮させたと報告している.

■probioticsによる腸通過時間短縮効果を検討した11報RCTのメタ解析では,probioticsは腸通過時間を有意に短縮し,特に便秘,高齢,女性は有効性が得られやすい予測因子であった[21]

■2歳以下の乳児の湿疹に対するprobioticsの効果を検討した14報の二重盲検RCTのメタ解析[22]では,probioticsは湿疹を31%有意に減少させた.

■非アルコール性脂肪肝(NAFLD)に対するprobiotics投与を検討したシステマティックレビュー[23]では,NAFLDの改善効果が認められるものの,まだ質の高い大規模試験がなく,エビデンスは限られているとしている.

■ピロリ除菌療法におけるprobiotics併用効果を検討した107例プラセボ対照二重盲検RCT[24]では,併用による除菌効果増強はみられず,除菌療法の有害事象も減少させなかった.ただし,30日時点での有害事象は44.9% vs 60.4%(p=0.08)であり,試験デザインのパワー不足が関与しているかもしれない.

■放射性腸炎に対するprobioticsを検討した10報メタ解析[25]では,probioticsが下痢を54%有意に減少させたとしている.

■成人女性におけるprobiotics(乳酸菌)の再発性尿路感染症予防効果を検討した5報RCT,294例RCTのメタ解析[26]では,再発リスクを49%有意に減少させたとしている.

■probioticsの感冒予防効果を検討した10報2894例メタ解析[27]では,感冒リスクは8%低下し,特に投与してから3ヶ月以内であれば18%減少させていた.

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[16] Begtrup LM, de Muckadell OB, Kjeldsen J, et al. Long-term treatment with probiotics in primary care patients with irritable bowel syndrome - a randomised, double-blind, placebo controlled trial. Scand J Gastroenterol 2013 Aug 19
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[21] Miller LE, Ouwehand AC. Probiotic supplementation decreases intestinal transit time: Meta-analysis of randomized controlled trials. World J Gastroenterol 2013; 19: 4718-25
[22] Dang D, Zhou W, Lun ZJ, et al. Meta-analysis of probiotics and/or prebiotics for the prevention of eczema. J Int Med Res 2013 Aug 1
[23] Kelishadi R, Farajian S, Mirlohi M. Probiotics as a novel treatment for non-alcoholic Fatty liver disease; a systematic review on the current evidences. Hepat Mon 2013; 13: e7233
[24] Navarro-Rodriguez T, Silva FM, Barbuti RC, et al. Association of a probiotic to a Helicobacter pylori eradication regimen does not increase efficacy or decreases the adverse effects of the treatment: a prospective, randomized, double-blind, placebo-controlled study. BMC Gastroenterol 2013; 13: 56
[25] Hamad A, Fragkos KC, Forbes A. A systematic review and meta-analysis of probiotics for the management of radiation induced bowel disease. Clin Nutr 2013; 32: 353-60
[26] Grin PM, Kowalewska PM, Alhazzan W, et al. Lactobacillus for preventing recurrent urinary tract infections in women: meta-analysis. Can J Urol 2013; 20: 6607-14
[27] Kang EJ, Kim SY, Hwang IH, et al. The effect of probiotics on prevention of common cold: a meta-analysis of randomized controlled trial studies. Korean J Fam Med 2013; 34: 2-10
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by DrMagicianEARL | 2013-08-26 00:00 | 敗血症 | Comments(1)
■今回紹介する論文は救急蘇生と移植医療の分野から,Critical Care Medicine誌の報告です.今回は特にレビューはしません(というよりこれまでこのような報告は全くなく,PubMedでもRelated Citationsが表示されません).結論を読んでちょっと感動した論文です.心肺蘇生でたとえその患者が助からなくても,その心肺蘇生が実は他の誰かを助けているのかもしれない,心肺蘇生の決して報告されることのなかった一面で,移植の敷居が高い日本ではこのような報告はなかなか出せないでしょう.
心肺蘇生の認識されていない有益性:臓器移植
An Under-Recognized Benefit of Cardiopulmonary Resuscitation: Organ Transplantation.

Orioles A, Morrison WE, Rossano JW, Shore PM, Hasz RD, Martiner AC, Berg RA, Nadkarni VM.
Crit Care Med. 2013 Aug 14. [Epub ahead of print]
PMID:23949474

【目 的】
 多くの心停止患者において,心肺蘇生は長期生存に終わらない.これらの患者の一部においては,臓器提供がオプションとなる.心肺蘇生後の臓器移植は心肺蘇生のアウトカムとして報告されることなく,見向きもされていない.我々は米国で心停止の後に心肺蘇生を受けた臓器提供者から異色される臓器の数と割合を算出し,心肺蘇生を受けた提供者(心肺蘇生臓器)と受けなかった提供者(非心肺蘇生臓器)の臓器の生存を比較検討した.

【方 法】
 1999年7月から2011年6月までの米国臓器共有ネットワークから,全臓器の提供者および受容者の人口ベースのデータベースを全国規模で後ろ向きに解析した.

 1999年7月から2011年6月までの亡くなった提供者からの全臓器のデータベースを確認した.生存提供者からの臓器(76015例),心肺蘇生データが欠落した全臓器(59例),循環停止後の死亡患者からの臓器(12030例)は除外した.

 心肺蘇生を受けた提供者からの臓器(心肺蘇生臓器)および心肺蘇生を受けなかった臓器(非心肺蘇生臓器)に関する,提供者の過去のデータと臓器生存アウトカムを報告する.心肺蘇生臓器と非心肺蘇生臓器の移植片生存はKaplan-Meier推定・層別log-rank検定を用いて比較した.

【結 果】
 米国では,1999年から2011年の間に神経学的基準によって死亡と認定された提供者から提供された224076臓器のうち,少なくとも12351臓器(5.5%)が心肺蘇生を受けた提供者からのものであった.心肺蘇生臓器の移植片の生存は非心肺蘇生臓器と比較して有意な差は認められなかった.

【結 論】
 米国では,年間に少なくとも1000臓器(神経学的死亡患者から移植される全臓器の5%超)が心肺蘇生を受けた患者から提供されていた.臓器回復と移植成功は,心肺蘇生における,報告されることのない有益なアウトカムである.

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by DrMagicianEARL | 2013-08-24 00:00 | 文献 | Comments(0)
※個人的意見もかなり入っているため,異論等はいろいろあるかと思いますので,御意見,御批判等があればコメント御願いします.

■昨年から各製薬メーカーの研究会が急激に増えている.その結果,多数の医療従事者が学会以外で発表を行う機会が増えているが,「メーカに頼まれたのでとりあえず1例報告でも出そう」という流れで発表されるケースもあり,最近の研究会を見るに一般演題の質が落ちてきているのではないかと感じることがある.

※1例報告のタイトルで「~の一例」と漢数字を用いている発表を見かけることがあるが,「~の1例」と算用数字にするのが一般的である.

■1例報告の意義が何であるかが全く考慮されていないような1例報告は,結局何が言いたいのかよく分からないまま終わってしまい,聞いている側としても質問する以前の問題になってしまう.メーカー主催の研究会では,メーカーに頼まれて無理やり症例報告を出してくるケースもあるが,症例提示だけして考察は文献提示のみのような,“メーカーのための1例報告”にしか見えないような発表では聞いている側は全く興味もわかない.そのような発表は,演者が1例報告の意義を軽視しているのではないか,と勘ぐってしまう.

■1例報告を発表するのは若手医師が多く,1症例をまとめあげてプレゼンテーションするスキルを磨くための教育的手段としても有用である[1]にもかかわらず,その価値を失わせてしまうような発表をさせるのは当然ながら好ましくなく,1例報告を殺しているに等しい.その点を指導医も考慮しておく必要がある.たとえメーカー主催の研究会であっても,1例報告はアカデミックなものとして発表し,ディスカッションを惹起する内容にすることを心がけたい.

■1例報告は主に導入,症例提示,考察および文献レビュー,結論で構成されるのが一般的であり[2,3],単なる観察報告ではない.導入部では,観察対象,目的,その報告のメリットを提示する.とりわけ,その1例報告がなぜ目新しいのか,あるいはメリットレビューであるのかについて説明する必要があり,そのために発表者は自身の主張を補強する包括的な文献レビューを行う必要もある.症例提示では,時系列に沿って詳細な説明を行っていく.そして考察は最も重要なセクションであり,既知の文献を踏まえ,正確で,時には独創性もふまえた評価を行い,新しい知識を引き出し,その報告の重要な特徴をまとめることになる.そして,結論は簡潔に,かつ根拠に基づく推奨と妥当性を提示する.

※これに対して,症例集積等の研究ではIMRAD format(導入introduction,方法methods,結果results,議論discussion)と呼ぶ.

■1例報告は「たかがn=1だから」という理由で軽視されがちではあるが,「1例を笑う者は結局1例に泣く」と言われている通り,1例報告は全く無駄ではない.我々が日常的に知っている確立された疾患とその治療法なども最初は1例報告から始まって発見・確立されたものが数多く存在する[4].また,多数の症例を集めた抽象的な報告とは異なり,1例報告では1例に対する深い考察が可能である(具象的).1例報告では珍しい症例,教訓となる症例,これまでに報告がなかった症例,といった貴重な症例の知見が報告され[5],それを個人や一施設の経験に終わらせることなくオープンにすることで,他施設での診療や研究に活かすことが可能となる.いわゆる経験(tacit knowledge)の明確化(externalization)による情報共有である.

■症例集積報告に比較すれば1例報告のエビデンスレベルが低いのは確かであり,これが1例報告を軽視する最大の要因になっていると思われる.これは医学雑誌でも同様である.1例報告は他の研究論文と比較して引用されにくいため,1例報告を数多く掲載すればその医学雑誌のインパクトファクターは下がることになる[6].このため,一流誌はインパクトファクターが下がるのを回避するため,1例報告は掲載せずレビューを多く掲載する,1例報告をregular articleではなくletter等で受理して掲載する,といった操作によりインパクトファクターを上げているという事実がある.しかし,上述の通り,症例集積では抽象的内容にとどまるのがlimitationであり,1例報告は深く踏み込んだ議論が可能となる.研究会のパネルディスカッションがいい例であろう.また,1例報告から仮説を導き出し,そこから症例集積につなげる,といったプロセスも可能である.

■また,1例報告はベンチマーキングの一種でもある.自分の仕事を外在化させ,他の医療従事者から厳しい評価を受けることで自分の臨床(clinical practice)の質を高める(Quality Improvement)ことができる.研究会での1例報告に対する質疑応答は疑問点を聞くためだけのものではなく,批判的吟味やディスカッションもあってしかるべきである.

■さらに,1例報告は,その1例を詳細に至るまで正確に把握し,限られた発表時間で報告するために特に重要な情報を選択し,文献的考察もふまえて提示するプロセスを培うことができる.1例報告はCase-Based Teachingであり,実症例からの医学的情報を通して批判的思考(critical thinking)と意思決定(decision making)のスキルを学ぶ手法として重要であり,初心者の医学論文執筆に必要なベーシックスキルを磨く手段でもある[7]

■1例報告はEBM(Evidence-Based Medicine;科学的根拠に基づいた医療)に必ずしも従うものではない.EBMは多数の集約データから導かれたアウトカムをもとに提示されるものであり,最大多数患者にとっての最大公約数的利益を与えるものである.当然ながらEBMがカバーし得ない事例も数多く存在する(むしろカバーしていない事例の方が多い領域もあるかもしれない).1例報告はこのようなEBM時代の中でも新しい観察を我々に伝えうるものである[8].同時に,1例を通して,その患者にとっての最大利益を目指すHBM(Human-Based Medicine;患者本位の医療)を議論するものでもある.
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■本記事を書こうと思ったのは,ここ2年間の研究会を見てである.とりわけ私の場合はDIC(播種性血管内凝固)の研究会に参加することが多く,DIC関連の研究会で違和感を覚える1例報告を散見する.DICという疾患は単一で生じる病態ではなく,必ず原疾患が存在する.そのせいもあってなのか,DICの研究会でよく目にするのは「ある疾患が重症化し,DICも併発した.原疾患も治療し,ついでにDIC治療薬も投与してDICが治った」という1例報告である.

■もちろんこれがよくないというわけではない.凝固線溶マーカーをはじめとしてラボデータがどのように変動し,原疾患や患者の状態にどのように影響し,過去知見との矛盾有無や自身の考察と批判的吟味等をふまえ,新しい観察・教訓的推奨を提示することでまとまった報告になる.あるいは,DIC治療の報告で過去にその原疾患での報告がないケースなどでは有用な報告になるだろう.しかし実際には,考察において,その1例における深い考察がなく,さながら“メーカーの宣伝そのまま”のように見える治療薬の一般論と文献を並べるだけに終始している発表が目に付く(そういう発表に限って薬剤名が一般名ではなく商品名になっていることが多い印象がある).これでは症例集積検討ではなく1例報告にした意義が感じられない.既にPhaseⅢでDICに対する効果が示され,その後も多数の症例対照研究等でDIC治療効果が示されている薬剤をもってきて,1例報告で「DICにDIC治療薬を投与したら治った」だけしか言わないような報告はそろそろやめてはどうだろうか?

※こういう発表がでてくるそもそもの原因は,DICの病態そのものが理解されていない部分も影響していると思われる.原疾患ありきのDICではあるが,「ついでに合併したのでついでに治療しておく」というような単純な付けたし病態では決してない.

※後援メーカーへのリップサービスをするために,提示された症例の結果と異なる結論を無理やり述べるケースも見ることがある.先日,とあるメーカー主催の研究会で,各大学の教授・講師陣が症例提示していくパネルディスカッションがあったが,4症例中3症例でそのようなプレゼンテーションが見られ,さすがにめまいがした.明らかにやりすぎである.

※当院では,研修医のスキルアップの目的で,年2回,院内で研修医による学術発表が行われている.文字が多く図が少ない等ビジュアル的な問題や時間内にプレゼンテーションしきれないといった問題はまだあるものの,内容としては症例提示から考察に至るまで毎回非常によくまとまった1例報告を見せてもらい関心している.ただし,実務以外の,こういった1例報告や論文の書き方や論文の読み方を体系的に教える指導システムがあるわけではないので(抄読会すらないのは問題・・・),これが今後の当院の1つの課題であろう.


[1] Iles RL, Piepho RW. Presenting and publishing case reports. J Clin Pharmacol 1996; 36: 573-9
[2] Cohen H. How to write a patient case report. Am J Health Syst Pharm 2006; 63: 1888-92
[3] Alwi I. Tips and tricks to make case report. Acta Med Indones 2007; 39: 96-8
[4] Senapati A. The clinical section--a special case for case reports. J R Soc Med 1996; 89: 95P
[5] Ozçakar L, Franchignoni F, Frontera W, et al. Writing a case report for the American Journal of Physical Medicine and Rehabilitation and the European Journal of Physical and Rehabilitation Medicine. Eur J Phys Rehabil Med 2013 Apr 18
[6] Paulus W. Acta Neuropathologica and their case reports. Acta Neuropathol 2008; 115: 269-71
[7] McEwen I. Writing case reports: a how-to manual for clinicians. 2nd Ed. Alexandria, VA: American Physical Therapy Association; 2001.
[8] Papanas N, Lazarides MK. Writing a case report: polishing a gem? Int Angiol 2008; 27: 344-9
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by DrMagicianEARL | 2013-08-19 00:01 | 研究会・講演会・学会 | Comments(0)
夏休みなので,救急集中治療・感染症・呼吸器から離れて,明日からの診療に役立たない(一部役立つかも?),小ネタで使える「へぇ~」と言いたくなる文献集.

朝食を抜くと冠動脈疾患リスク増加
Cahill LE, Chiuve SE, Mekary RA, et al. Prospective Study of Breakfast Eating and Incident Coronary Heart Disease in a Cohort of Male US Health Professionals. Circulation 2013; 128: 337-43
PMID:23877060
米国の45-82歳男性26902例を16年間追跡調査.冠動脈疾患リスクは,朝食を抜くと1.27倍,夜遅くに夕食をとると1.55倍有意に増加する.

β遮断薬プロプラノロールは人種差別を減少させる
Terbeck S, Kahane G, McTavish S, et al. Propranolol reduces implicit negative racial bias. Psychopharmacology (Berl). 2012; 222: 419-24
PMID:22371301
英国の白人36人をβ遮断薬プロプラノロール40mg投与群とプラセボ投与群に無作為割付した二重盲検RCT.服用から1-2時間後に人種に関する潜在連想テスト(IAT)を受け,コンピュータの画面で黒人と白人の写真を見せ,即座に好意的区分か,否定的区分かに分類させた.その結果,プロプラノロール服用群の1/3以上が非人種差別主義の方に偏っていた.一方でプラセボ群は誰1人としてそうした傾向が表れなかった.無意識にとっている人種差別的態度は薬で調節できるという可能性がある.

夜勤は乳癌のリスク
Grundy A, Richardson H, Burstyn I, et al. Increased risk of breast cancer associated with long-term shift work in Canada. Occup Environ Med 2013 Jul 1
PMID:23817841
夜勤と乳癌の関連性について検討したカナダ2313例解析.夜勤歴29年以下は乳癌とは関連がみられなかった.30年以上の夜勤シフトは乳癌リスクが2.21倍有意に増加する.この傾向は看護師等の医療従事者以外でも同様であった.

発癌リスクとなる10の習慣
Yang G, Wang Y, Zeng Y, et al. Rapid health transition in China, 1990-2010: findings from the Global Burden of Disease Study 2010. Lancet 2013; 381: 1987-2015
PMID:23746901
中国での調査.癌になりやすい10の習慣:①熱いお茶好み,②野菜や果物を摂らない,③大便我慢,④夜眠らない,⑤長時間座り動かない,⑥小さなことに首を突っ込んでいらぬ苦労する,⑦コンドーム非使用,⑧一旦吸い終わった煙草をまた吸う,⑨豪華すぎる室内装飾(建材に発癌性物質),⑩家族に癌患者

遠距離恋愛のエビデンス
Jiang LC, Hancock JT. Absence Makes the Communication Grow Fonder: Geographic Separation, Interpersonal Media, and Intimacy in Dating Relationships. J Communication 2013; 63: 556-77
カップル63組(約半数が遠距離恋愛)の解析.平均恋愛期間は2年未満,遠距離恋愛群は平均1年5カ月の間遠距離.長距離恋愛群は非長距離恋愛群よりも有意に,自分自身のことについて打ち明け,より親密な結びつきを感じていた.

顔の魅力と生理機能
Rantala MJ, Coetzee V, Moore FR, et al. Facial attractiveness is related to women's cortisol and body fat, but not with immune responsiveness. Biol Lett 2013; 9: 20130255
PMID:23697641
男性ではイケメンで免疫力が高いが,女性では顔面の魅力は免疫力と相関せず,生殖能力と寿命に関連していた.
PMID:23697641

日本人女性における煙草と皮膚
Tamai Y, Tsuji M, Wada K, et al. Association of cigarette smoking with skin colour in Japanese women. Tob Control 2013 Jan 26
PMID:23355625
日本人女性の喫煙者では,非喫煙者と比較して皮膚が約2倍黒ずむ.岐阜県の女性939例の観察研究.

抗菌薬ミノサイクリンによる浮気防止効果
Watabe M, Kato TA, Tsuboi S, et al. Minocycline, a microglial inhibitor, reduces 'honey trap' risk in human economic exchange. Sci Rep 2013; 3: 1685
PMID:23595250
ミノサイクリンには女性の魅力に関する男性のイメージを変える作用があり,投与されると男性の浮気心に変化が生じ,男性は魅力的な女性からセックスを求められても心が揺れることもなく勧めを断わる.ミクログリア阻害作用により男性のハニートラップにかかるリスクを減少させる.プラセボ対照RCT.
※浮気防止薬としてはオキシトシン鼻スプレーもあり,RCTで効果が示されている(J Neurosci 2012; 32: 16074-9).

男性の心理的ストレスが女性の体格の好みに与える影響
Swami V, Tovée MJ. The impact of psychological stress on men's judgements of female body size. PLoS One 2012; 7: e42593
PMID:22905153
ポイント:ストレスを受けている男性はふくよかな女性への好みが増し,有意に高体重女性に最大の魅力を感じる.

ダイエットソーダに含まれる人工甘味料製剤は逆効果
Swithers SE. Artificial Sweeteners Produce the Counter-Intuitive Effect of Inducing Metabolic Derangements. Am J Physiol Endocrinol Metab 2013, Epub ahead of print
過去5年間の人工甘味料に関する研究のシステマティックレビュー.ダイエットソーダに使用されている人工甘味料は体内や脳内の仕組みを混乱させる作用がある.ダイエットソーダばかりを摂取している人が本物の糖分を摂取すると血糖値や血圧を調整するホルモンが分泌されなくなる.さらに,人工甘味料は空腹感を感じさせ,甘いものが食べたくなる衝動も起こさせ,普通のソーダよりもダイエットソーダを飲んだ方が太りやすい傾向がみられた.ダイエットソーダでたとえ太らなかったとしても,糖尿病,心疾患,脳卒中リスクは増加する.

長期間無職と自殺:システマティックレビュー&メタ解析
Milner A, Page A, LaMontagne AD. Long-term unemployment and suicide: a systematic review and meta-analysis. PLoS One 2013; 8: e51333
PMID:23341881
長期間の無職は自殺リスクを1.70倍有意に増加させる.特に無職の期間5年以内が最も自殺リスクが高く,2.50倍であった.16報メタ解析.

精神疾患患者の殺人被害者リスク
Crump C, Sundquist K, Winkleby MA, et al. Mental disorders and vulnerability to homicidal death: Swedish nationwide cohort study. BMJ 2013; 346: f557
PMID:23462204
スウェーデン7253516例のコホート研究.精神疾患患者は精神疾患を持たない患者に比べて殺人被害者となるリスクが4.9倍有意に増加する.リスクは薬物使用で9倍,人格障害で3.2倍,うつ病で2.6倍,不安障害で2.2倍,統合失調症で1.8倍有意に増加した.

満月の夜は眠れない?月の満ち欠けがヒトの睡眠に与える影響のエビデンス
Cajochen C, Altanay-Ekici S, Munch M, et al. Evidence that the Lunar Cycle Influences Human Sleep. Curr Biol 2013 Jul 23
PMID:23891110
20-74歳の33例を対象とし,夜間の脳波,眼球運動,睡眠ホルモンのメラトニン分泌量を計測.満月頃の夜は新月頃の夜に比べ,睡眠に入るのに5分多く時間を要し,睡眠時間が20分少なく,深い睡眠が3割減少した.

日焼け止めクリームと皮膚年齢
Hughes MC, Williams GM, Baker P, et al. Sunscreen and prevention of skin aging: a randomized trial. Ann Intern Med 2013; 158: 781-90
PMID:23732711
豪州で55歳以下の白人903例を,日焼け止め(+15)を毎日塗るか,塗りたい時に塗るか,ベータカロチンを毎日飲むか、プラセボを飲むか,で施行した2x2RCT.日焼け止めを毎日塗ると4.5年後の皮膚の老化を24%抑制した.ベータカロチンは効果がみられなかった.
※あくまでもオゾン層破壊が著しいオーストラリアでの検討なので日本にあてはまるかは「?」

術前の音楽による効果
Bradt J, Dileo C, Shim M. Music interventions for preoperative anxiety. Cochrane Database Syst Rev 2013; 6: CD006908
PMID:23740695
術前患者の不安に対する音楽療法は有益な効果をもたらす.音楽療法は術前の鎮静薬や抗不安薬の代替となるかもしれない.26報RCT,2051例コクランメタ解析.

変形性膝関節症に対するヒアルロン酸関節内注射:システマティック・レビュー&メタ解析
Rutjes AW, Juni P, da Costa BR, et al. Viscosupplementation for osteoarthritis of the knee: a systematic review and meta-analysis. Ann Intern Med 2012; 157: 180-91
PMID:22868835
変形性膝関節症に対するヒアルロン酸関節内注射の有効性を検討した89報12667例のメタ解析.ヒアルロン酸は関節内注射は有効性が乏しく,重大な有害事象リスクが1.41倍有意に増加した.
※この報告もあってか,2013年6月に行われた米国整形外科学会の変形性膝関節症ガイドライン改訂でヒアルロン酸関注は非推奨に切り替わった.なお,ヒアルロン酸関注の有効性を検討したRCTにおいてCOI(利益相反)と結論との関連性を指摘する報告もある(J Arthroplasty 2013 Jul 23, PMID:23890521).

グラスの形は飲酒速度に影響する
Attwood AS, Scott-Samuel NE, Stothart G, Munafò MR. Glass shape influences consumption rate for alcoholic beverages. PLoS ONE 2012; 7: e43007
PMID:22912776,Free Full Text
ポイント:フルグラスにおいて,カーブドグラス(海外のサワーグラスの大きい版)よりストレートグラス(コリンズグラス)でお酒を呑む方がアルコール摂取速度が60%遅い.非アルコール飲料やハーフサイズではこの傾向はなかった.この傾向は非アルコール飲料では見られなかった.アルコール呑みながらだとグラスの形を錯覚するとのこと.

嘘の記憶の創造
Ramirez S, Liu X, Lin PA, et al. Creating a false memory in the hippocampus. Science 2013: 341; 387-91
PMID:23888038
海馬に光を当てることで過誤記憶を人為的に作り出すことに成功.マウスモデル研究.
※ノーベル賞受賞者である利根川進先生の研究グループの報告.昨年もマウスの記憶に書き込み報告があったが違う手法の模様(Nat Neurosci 2012; 15: 1430-8).映画「トータルリコール」の世界が現実に?

記憶の転送
Pais-Vieira M, Lebedev M, Kunicki C, et al. A brain-to-brain interface for real-time sharing of sensorimotor information. Sci Rep 2013; 3: 1319
PMID:23448946
複数の頭脳をつなぎ合わせて「スーパー脳」を創造する試みとして,遠く離れた北米と南米の実験室にいるラットの脳を電極でつなぎ,片方のラットが覚えたことを別のラットに伝えることに成功.

男性の好みと女性の閉経
Morton RA, Stone JR, Singh RS. Mate choice and the origin of menopause. PLoS Comput Biol 2013; 9: e1003092
PMID:23785268
女性が閉経する原因は,男性がパートナーとして若い女性を好む傾向があり,それにより女性が遺伝子変異を起こすからとする仮説.コンピューターシミュレーションモデル研究.

癌組織と正常組織を見分ける外科用ナイフiKnife
Balog J, Sasi-Szabo L, Kinross J, et al. Intraoperative tissue identification using rapid evaporative ionization mass spectrometry. Sci Transl Med 2013; 5: 194ra93
PMID:23863833
組織切除に使用する電流によって発生する蒸気を分析し,その組織が正常組織か癌組織かを数秒で医師に報告する新しい機能を持つ外科用ナイフiKnifeの81例臨床試験で,判別率100%と高い精度を確認.

週末に手術すると死亡率増加
Aylin P, Alexandrescu R, Jen MH, et al. Day of week of procedure and 30 day mortality for elective surgery: retrospective analysis of hospital episode statistics. BMJ 2013; 346: f2424
PMID:23716356
英国4133346例の解析.月曜日と比較して,金曜日に手術された患者の死亡リスクは1.44倍有意に増加し,週末だと1.82倍有意に増加した.

経胃的虫垂切除術
Kaehler G, Schoenberg MB, Kienle P, et al. Transgastric appendicectomy. Br J Surg 2013; 100: 911-5
PMID:23575528
虫垂炎14例に対する経胃的虫垂切除(口から内視鏡→胃壁に針を刺して管を貫通させる→胃液が漏れないようにバルーンでブロック→腹腔内から虫垂切除)の経過は良好.

患者は麻酔科医についてどれだけ知っている?
Gottschalk A, Seelen S, Tivey S, et al. What do patients know about anesthesiologists? Results of a comparative survey in an U.S., Australian, and German university hospital. J Clin Anesth 2013; 25: 85-91
PMID:23333789
米独豪の3つの大学病院で待機的手術を受ける900例(各施設300例)を対象に,術前アンケートを施行した.麻酔科医が医師であることを知っていた患者はそれぞれ米国58%,独83%,豪71%.大多数(>75%)は麻酔科医になるために必要なトレーニング量を過小評価していた.患者は,麻酔科医が患者を眠らせ,覚醒させるという役割を認識していた.多くの患者は術中の医学的問題を治療する上での麻酔科医の役割を理解していなかった.患者は,感染,術中覚醒,目が覚めないことなどの多様な不安を抱えているが,これらの問題を治療する責任は誰にあるのかについてはよく知らなかった.ドイツの大学病院では,患者の71%は集中治療室での治療を麻酔科医の職務であると評価したが,米国(42%)と豪州(49%)ではドイツよりも有意に少なかった.手術室外での職務(蘇生,医学生教育や慢性疼痛の治療)への理解は全ての施設で非常に低かった(<50%).

優秀な麻酔科医は手術室でどう振舞うのか: 非技術的熟練についての質的研究
Larsson J, Holmstrom IK. How excellent anaesthetists perform in the operating theatre: a qualitative study on non-technical skills. Br J Anaesth 2013; 110: 115-21
PMID:23048067
熟練麻酔看護師から見て、優れた麻酔科医は手術室でどう行動するのか明らかにするための記述的・質的研究.熟練麻酔看護師の面接による解析.熟練した麻酔科医の特徴として以下のことが見いだされた.①課せられた業務に対する体系的,確実な,集中的アプローチ法.②導入前に行動計画について明瞭に,有益な要約を行なうこと.③自身の誤りやすさを認めつつ,麻酔の複雑さに謙虚である.】④患者中心で,導入前に患者と個人的接触をする.⑤全体を見落とすことなく診療行為によどみがない.⑥危機的状況においても沈着冷静であり,強い主導姿勢にも変わりがない

米国医師の年収の性別による差の調査
Jagsi R, Griffith KA, Stewart A, et al. Gender differences in the salaries of physician researchers. JAMA 2012; 307: 2410-7
PMID:22692173
米国の医師800名の年収調査で,男性医師200433$vs女性医師167669$で有意に男性医師の方が年収が高かった.男性医師は最終的スペシャリティーアカデミックランク,指導的地位,出版,研究機関補正後も高年収と相関していた(+13399$).

禁煙成功後に体重は増加する:メタ解析
Aubin HJ, Farley A, Lycett D, et al. Weight gain in smokers after quitting cigarettes: meta-analysis. BMJ 2012; 345: e4439
PMID:22782848
ポイント:62報のメタ解析.禁煙成功の後12ヶ月時にはおよそ4-5㎏の体重増加が起こる.また多くの場合,禁煙開始3ヶ月以内から体重増加はみられている.

クロピドグレルの効果と喫煙
Gurbel PA, Nolin TD, Tantry US. Clopidogrel efficacy and cigarette smoking status. JAMA 2012; 307: 2495-6
PMID:22797448
ポイント:プラビックスは非喫煙者では効果が得られにくい可能性.
※同様の報告が他にもある(J Am Coll Cardiol 2008; 52: 531-3).

長期間の中等量アルコール摂取は関節リウマチリスクを減少させる
Di Giuseppe D, Alfredsson L, Bottai M, et al. Long term alcohol intake and risk of rheumatoid arthritis in women: a population based cohort study. BMJ 2012; 345: e4230
PMID:22782847
ポイント:226032例のコホート研究.女性において,アルコール中等量(4杯以上)摂取は少量(1杯以下)摂取と比較して関節リウマチリスクを37%減少させる.アルコールの種類(ビール,ワイン,リキュール)は有意差なし.

米国外科医のアルコール乱用・依存
Oreskovich MR, Kaups KL, Balch CM, et al. Prevalence of alcohol use disorders among American surgeons. Arch Surg 2012; 147: 168-74
PMID:22351913
ポイント:米国外科医7197名の解析.15.4%(男性13.9%,女性25.6%)がアルコール乱用・依存であり,医療ミスのリスクは1.45倍で有意に関連していた.燃え尽き(OR 1.25),抑うつ(OR 1.48)がアルコール乱用・依存の外科医に特に見られた.

30-59歳の日本人男性の職業別死亡率
Wada K, Kondo N, Gilmour S, et al. Trends in cause specific mortality across occupations in Japanese men of working age during period of economic stagnation, 1980-2005: retrospective cohort study. BMJ 2012; 344: e1191
PMID:22396155
ポイント:30-59歳の日本人男性の職業別死亡率の傾向を1980年から2005年にかけてコホート研究で調査.全死因および4大死因による年齢標準化死亡率は減少したが,管理職と専門職では90年代後半から増加した.死亡率は生産,事務,販売従事者で最も低かった.90年代後半からは自殺が急増していた.

LSD単独投与はアルコール乱用を減少させる:メタ解析
Krebs TS, Johansen PO. Lysergic acid diethylamide (LSD) for alcoholism: meta-analysis of randomized controlled trials. J Psychopharmacol 2012; 26: 994-1002
PMID:22406913
ポイント:6報のRCT,536例の解析で,アルコール乱用者に対するLysergic acid diethylamide(LSD)単剤投与はアルコール乱用を減少させる(OR 1.96).

メンソール煙草と心血管・肺疾患
Vozoris NT. Mentholated cigarettes and cardiovascular and pulmonary diseases: a population-based study. Arch Intern Med 2012; 172: 590-1
ポイント:メンソール系煙草は非メンソール系煙草に比べ2.25倍脳卒中リスクが高い.女性においては3.28倍とさらに高い.

米国医師の自殺
Gold KJ, Sen A, Schwenk TL. Details on suicide among US physicians: data from the National Violent Death Reporting System. Gen Hosp Psychiatry 2013; 35: 45-9
PMID:23123101
ポイント:米国自殺者31636名の解析で,医師は非医師に比べて自殺リスクは3倍,向精神薬,ベンゾジアゼピン,バルビタール酸服用が有意に多く,アルコール・薬物乱用は有意に少なかった.

チョコレート消費量が多い国はノーベル賞受賞者が多い
Messerli FH. Chocolate consumption, cognitive function, and Nobel laureates. N Engl J Med 2012; 367: 1562-4
PMID:23050509
23カ国のチョコレート摂取量とノーベル賞受賞者数の人口比の研究で,チョコレートの消費量が多い国はノーベル賞受賞者を輩出する確率が高い.

オリンピックメダリストは一般市民より長寿
Clarke PM, Walter SJ, Hayen A, et al. Survival of the fittest: retrospective cohort study of the longevity of Olympic medallists in the modern era. BMJ 2012; 345: e8308
PMID:23241272
後ろ向きコホート試験.15174人のオリンピックアスリートで1896年のアテネから2010年のバンクーバーまで(27の夏季,21の冬季)にメダルを獲得した人を解析.メダリストは国,年齢,性別,出生年度によって調整された一般市民とマッチングを行った.メダリストはメダル獲得後30年の生存が一般市民に比べて有意に1.08倍長かった.メダリストは一般市民と比べて平均2.8年長生きしていた.

女性の脳MRIによる統合失調症とうつ病の鑑別
Ota M, Ishikawa M, Sato N, et al. Discrimination between schizophrenia and major depressive disorder by magnetic resonance imaging of the female brain. J Psychiatr Res 2013 Jul 3
PMID:23830450
女性統合失調症患者25例と女性うつ病患者25例の脳の形態の違いをMRIを用いて測定.感度約80%の精度で2つの疾患を鑑別できた.

胃酸抑制薬と胃癌:メタ解析
Ahn JS, Eom CS, Jeon CY, et al. Acid suppressive drugs and gastric cancer: a meta-analysis of observational studies. World J Gastroenterol 2013; 19: 2560-8
PMID:23674860
胃酸抑制薬と胃癌の関連を検討した観察研究11報94558例のメタ解析.胃酸抑制薬は胃癌リスクを1.42倍有意に増加させる.薬剤別では,H2RAで1.40倍,PPIで1.39倍であった.
※ピロリ菌については考慮されておらず,胃癌リスクがもともとある患者が胃炎・胃潰瘍症状で胃酸抑制薬を内服することが多いからこのような結果になっている可能性もある.とはいえ,PPIで胃癌が発生する機序について触れている論文もある(Curr Gastroenterol Rep 2008; 10: 543-7).

アトピー性皮膚炎患者において汗に含まれる真菌蛋白MGL 1304はアレルゲンである
Hiragun T, Ishii K, Hiragun M, et al. Fungal protein MGL_1304 in sweat is an allergen for atopic dermatitis patients. J Allergy Clin Immunol 2013 May 28
PMID:23726042
アトピー性皮膚炎患者のかゆみなどのアレルギー反応は,真菌Malassezia globosa由来のタンパク質MGL1304が汗に溶け皮膚に浸潤して皮膚細胞と反応することが原因と判明した.

耳鳴りの脳の関係
Ueyama T, Donishi T, Ukai S, et al. Brain regions responsible for tinnitus distress and loudness: a resting-state FMRI study. PLoS One 2013; 8: e67778
PMID:23825684
重度の耳鳴患者24例の脳MRI解析.重症患者ほど脳の特定部位のネットワークに異常があり,耳鳴音は聴覚とは関係なく脳で作り出されていた.耳鳴の強さは尾状核や海馬が関連し,耳鳴の不快感は前頭葉の一部が関与していた.
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by DrMagicianEARL | 2013-08-14 00:01 | 文献 | Comments(0)
■大阪府総合医療センターの木口先生からの報告を紹介します.
入院時EAAで評価したLPSへの反応の最大化学発光値は敗血症患者の死亡を予測する
Kiguchi T, Nakamori Y, Yamakawa K, et al. Maximal chemiluminescent intensity in response to lipopolysaccharide assessed by endotoxin activity assay on admission day predicts mortality in patients with sepsis. Crit Care Med 2013; 41: 1443-9
PMID:23474675

Abstract

【目 的】
敗血症は重篤疾患患者の死因となっている.しかしながら,敗血症患者の死亡を予測する適当なバイオマーカーがいくつか存在する.我々はEAA(Endotoxin Activity Assay)により評価したLPSへの反応の最大化学発光値に焦点をあて,敗血症患者の死亡予測マーカーとして入院時最大化学発光値を評価した.(注:原文ではpreliminary studyと述べています)

【方 法】デザインは前向き観察研究,研究の場はICUとした.患者は敗血症患者132例を対象とした.特に介入は行っていない.入院から12時間以内に全血検体を採取し,EAAによる数値を各患者ごとに計測した.疾患の重症度はAPACHEⅡスコアとSOFAスコアで同時に評価した.一次評価項目は28日死亡率とした.

【結 果】
115例が生存し,17例が死亡した.最大化学発光値は生存患者よりも非生存患者の方が有意に低かった(p<0.05).我々は,28日死亡予測マーカーとしての最大化学発光値,APACHEⅡスコア,SOFAスコアを検討した.受信者動作特性曲線(ROC)解析では,最大化学発光値での曲線下面積(AUC)は0.902であり,APACHEⅡスコアのAUC 0.836,SOFAスコアのAUC 0.807よりも優れていた.化学発光値の最適なカットオフ値として21000RLU/sと設定すると,28日死亡予測感度は82.4%,特異度は92.2%であった.Kaplan-Meier解析では,低い化学発光値(<21000RLU/s)の患者は高い患者(>21000RLU/s)と比較して全生存率が低かった(p<0.001, log-rank検定).Cox回帰解析でAPACHEⅡスコアで調整後でも,最大化学発光値は28日死亡率の独立した予測因子であった.

【結 論】
入院日の最大化学発光値計測は敗血症患者の死亡率の高い予測能を有していた.

■私はこの報告を2013年7月26日に開催された第3回関西Sepsis研究会一般演題(大阪府総合医療センター木口先生)で聴講した.実は,このちょうど1週間後の8月2日に開催されたDIC UPDATE in OSAKAの特別講演で遠藤格先生(横浜市立大学消化器・腫瘍外科学教授)も自施設データで最大化学発光値の解析結果を報告されたが,上記報告のようなきれいな結果は得られていなかった.

■まずエンドトキシン測定法について知っておく必要がある.本邦のエンドトキシン測定法は,現在は比濁時間分析法[1]がまだ主流を占めている状態にある.この分析法は,検体溶液のゲル化反応(リムルス反応)を透過する光量値を計測し,エンドトキシン濃度を測定するものである.3.5-5pg/mLをカットオフ値とすると,グラム陰性菌が血液から検出された菌血症の患者を診断において感度50%未満である[2].そこで,感度を改良するため,60分だった測定時間を200分にまで延長させると感度が改善し,カットオフ値を1.1pg/mLまで下げることが可能であった.このときのグラム陰性菌感染症診断での感度は81.3%,特異度は86.1%となったとしている[2].ただし,この検査法は,あくまでもエンドトキシン濃度を直接計測しているのではなく,リムルス活性をみたものであるため,リムルス活性が血中に見られなかったからといってエンドトキシン濃度が高くないと断定することはできないことに注意が必要である.

■その後登場したのがEAA(Endotoxin Activity Assay)である.血中のエンドトキシンと試薬中のマウス抗エンドトキシンモノクロナル抗体(IgM)が免疫複合体を形成し,ここに補体が結合してオプソニン化され,好中球の補体レセプター(CR1,CR3)を介して好中球に貪食されることで好中球はプライミングを受ける[3].このプライミングにより好中球が活性酸素を産生が生じる.この活性酸素がルミノール試薬を発光させるため,この化学発光濃度をルミノメーターで計測するという原理である.なお,試薬に含まれるザイモザンも好中球に取り込まれ,活性酸素の産生を増強する.

■EAAでのエンドトキシンレベル算出は3種類の検体から得られたデータにより算出される.
(1) Tube 1:コントロール
検体中の好中球のみで抗エンドトキシン抗体なし.
ベースライン.

(2) Tube 2:検体
検体中の好中球+抗エンドトキシン抗体.
検体中のエンドトキシン活性を計測する.

(3) Tube 3:マックスキャリブレーター
検体中の好中球+抗エンドトキシン抗体+過剰のエンドトキシン(大腸菌O-55:B5)
被験者の好中球が示す最大活性酸素産生反応を測定する.

EA値=(T2-T1)/(T3-T1) (0-1.0)
low EAAレベル:0.00-0.39
mid EAAレベル:0.40-0.59
high EAAレベル:0.60-1.00

1検体をn=2で測定し,その平均値を採用.n=2の測定に対する変動係数(CV値)はEA値が0.0-0.2では30%以下,0.21-1.0では15%以下である必要がある.
 ■Marchallらは重症患者74例でEAAと比濁時間分析法を施行し,EAAが優れていることを報告している[4].さらにMarchallらは,857例のICU入室患者を対象にEAAの測定を行った(MEDIC study)[5]ところ,ICU入室患者の57.2%がmid-high EAAレベルであり,グラム陰性菌感染はlow EAAレベル患者の1.4%,mid EAAレベル患者の4.9%,high EAAレベル患者の6.9%であり,グラム陰性菌感染の感度85.3%,特異度44.0%と報告された.また,重症敗血症への危険性について検討した結果では,low EAAレベル患者で4.9%,mid EAA患者で9.2%,high EAA患者で13.4%であった.このように,EAAは重症度や死亡率予測には有用であるが,エンドトキシンに対する特異度は低いといわざるを得ない.本邦ではMaruyamaらがICU患者40例においてコントロール群,SIRS群,sepsis群,severe sepsis群,septic shock群に分けてEAAを施行しており,EAAレベルが増加すると重症度も高まる傾向がみられた[6]

※もっとも,この手法ではマックスキャリブレーションとコントロールの化学発光度の差を使用するのは妥当かという疑問がある.T2のベースラインはT1でよいが,過剰エンドトキシンを加えたT3のベースラインは本当にT1でよいのだろうか?

■ここで紹介した木口先生の報告では,生存群(115例)と非生存群(17例)の背景因子として,年齢,男性率,感染巣,起因菌,CRP値,EA値には有意差がみられなかった.一方,敗血症カテゴリーでは,非生存群は敗血症性ショックが94.1%を占め,有意に多い結果となった.また,APACHEⅡスコア,SOFAスコアは非生存群で有意に高く,白血球数は非生存群で有意に低かった

■この報告では,最大化学発光(maximal chemiluminescent intensity)をCI maxと名づけている.CI maxは生存群で112769(47948-204937),非生存群で7094(3471-11731)であり,有意に非生存群で低い結果となった(p<0.001).

■ROC解析では,AbstractではCI max,APACHEⅡスコア,SOFAスコアのAUROCが提示されていたが,原文では白血球数,EA値についても解析が行われていた.その結果を以下に示す(一部順序を変えている).
e0255123_15133281.png
これを見て分かる通り,死亡予測としてのCI maxの精度は確かに高いが,気になるのは白血球数であろう.CI maxほどではないがかなり精度がよい.これは,背景因子比較で生存群と非生存群で白血球数に大きく開きがあり(標準偏差域すら重なっていない),非生存群ではむしろ好中球減少傾向があったことを考えれば納得がいく.問題はCI maxへの白血球数の影響である.

■CI maxは検体内の白血球全体の活性化能を見ている.すなわち,「1個あたりの白血球の活性化能×白血球数」を見ていることになり,白血球数の影響は理論上は無視できず,白血球数が少ないことによるlimitationは本報告の考察でも触れられている(非生存者17例中10例は白血球数が4000未満).これを考えれば,横浜市立大学の遠藤先生の検討ではCI maxの精度が低くなってしまった理由も納得がいく.

■多変量Cox回帰解析では年齢,性別,APACHE-Ⅱスコア,SOFAスコア,WBC,EA値,敗血症カテゴリー,CI maxの8変数から変数選択のアプローチによりCI max,APACHEⅡスコア,敗血症カテゴリの3変数まで絞りこんでいる(n=155であり,変数選択を行うため,n数の1/40以下の変数の数にする必要があるため,3変数が限界).すなわち,この変数選択アプローチの間にWBCが脱落したことになるが,サンプルサイズが小さいことによる限界と推察される.

■また,本報告の考察では,好中球の酸化バースト能の抑制についても言及している.

■以上から,2つの疑問が生まれる.
(1) 白血球数が上昇(少なくともSIRS基準の12000以上)している敗血症性ショック例における生存群と非生存群でのCI maxを比較した場合,どれだけの差があるのか?
(2) 好中球数で補正したEAAによるCI maxは検討できないか?

■ではもし仮に,(1)の条件下でもCI maxが死亡を予測する優れたマーカーであることが示されたならば,白血球の活性をどのようにとらえるべきか?一般的に白血球活性化は敗血症の増悪因子と考えられているが[7],CI maxが低いことが死亡に関連するのであれば,白血球の活性化能が低くても予後は悪化するということになる.この場合,活性化好中球を吸着しうるPMX-DHPはどう評価すべきであろうか?

■似たような報告に記憶があった.Madoiwaら[8]は,好中球エラスターゼによりフィブリンが切断され,分子表面上に露呈する部位をE-XDPとして好中球エラスターゼ濃度のサロゲートマーカーとして計測したところ,E-XDPが正常より高いと予後は悪化するが,正常より低い場合ではさらに予後が悪化していた.好中球活性は予後に関連しうるが,高くても低くてもだめということだが,どの程度までが閾値となるのかはまだ不明である(だからSTRIVE studyではエラスポール®で180日死亡率が悪化した?).より精度の高い好中球活性能評価法が必要であると思われる.

[1] Oishi H, Takaoka A, Hatayama Y, et al. Automated limulus amebocyte lysate (LAL) test for endotoxin analysis using a new Toxinometer ET-201. J Parenter Sci Technol 1985; 39: 194-9
[2] 八重樫泰法,稲田捷也,佐藤信博,他.血漿高感度エンドトキシン測定法について.エンドトキシン救命治療研究会誌 2003; 7:25-8
[3] Romaschin AD, Harris DM, Ribeiro MB, et al. A rapid assay of endotoxin in whole blood using autologous neutrophil dependent chemiluminescence. J Immunol Method 1998; 212: 169-85
[4] Marshall JC, Walker PM, Foster DM, et al. Measurement of endotoxin activity in critically ill patients using whole blood neutrophil dependent chemiluminescence.
Crit Care 2002; 6: 342-8
[5] Marshall JC, Foster D, Vincent JL, et al. Diagnostic and prognostic implications of endotoxemia in critical illness: results of the MEDIC study. J Infect Dis 2004; 190: 527-34
[6] maruyama H, Kakihana Y, Oryoji T, et al. Newly developed endotoxin measurement method (endotoxin activity assay) may reflect the severity of sepsis. Crit Care 2009; 13(suppl1): S155
[7] Tennenberg SD, Solomkin JS. Neutrophil activation in sepsis. The relationship between fmet-leu-phe receptor mobilization and oxidative activity. Arch Surg 1988; 123: 171-5
[8] Madoiwa S, Tanaka H, Nagahama Y, et al. Degradation of cross-linked fibrin by leukocyte elastase as alternative pathway for plasmin-mediated fibrinolysis in sepsis-induced disseminated intravascular coagulation. Thromb Res 2011; 127: 349-355
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by DrMagicianEARL | 2013-08-12 00:00 | 敗血症 | Comments(0)
Summary
・キノロン系抗菌薬は結核菌に抗菌活性を有する.
・肺結核にキノロン系抗菌薬を投与すると7-8割の症例で症状が改善し,その後耐性化して再増悪をきたし,結核の発見が3週間程度遅れる.
・肺結核にキノロン系抗菌薬を投与すると,喀痰の結核検査陽性率が7割低下する.
・結核診断前のキノロン系抗菌薬曝露により死亡リスクが1.8-6.9倍増加する.
・過去の報告では,肺結核患者の3割が診断前にキノロン系抗菌薬を投与されている.
・肺結核は胸部レントゲンでは除外診断できず,3割が非典型的画像所見となり,免疫不全患者では7割まで増加する.
・LZD(ザイボックス®)も抗結核活性を有するため注意が必要である.


■キノロン系抗菌薬を安易に肺炎患者,もしくは呼吸器症状が主訴の患者に投与すべきでないという意見が感染症医・呼吸器内科医に多い理由の中でも重要なのがキノロン製剤の結核菌に対する抗菌活性である(他には耐性菌誘発率の高さ,過剰スペクトラム,不整脈・アキレス腱断裂・痙攣等副作用などが理由にある).以下のキノロン系抗菌薬で注意が必要である.
NFLX(パグシダール®),ENX(フルマーク®),OFLX(タリビット®),LVFX(クラビット®),CPFX(シプロキサン®),LFLX(ロメバクト®,バレオン®),SPFX(スパラ®),PZFX(パシル®,パズクロス®),PUFX(スオード®),MFLX(アベロックス®),GRNX(ジェニナック®),STFX(グレースビット®)

■TFLX(オゼックス®,トスキサシン®)以外のキノロン系抗菌薬は抗結核作用を有し,肺結核ではキノロン投与により3日前後で65.8-83%[1,2]で臨床症状が軽快してしまい,その後耐性化して再増悪する.

■結核診断前のキノロン暴露では上記一時的症状改善のみならず喀痰中結核検査の陽性率が73%低下する[3]などで診断が遅れ,最終的に結核治療開始は入院から21-34日後[1,4]まで遅れる(キノロン非曝露群では入院から平均で5日後に治療が開始される).結核菌の分裂増殖は遅く,最適環境下でも10-15時間に1回程度である.しかし,この速度で増殖しても19日後には10^9個という致死的菌量に達しうる.治療開始がもし21-34日間遅れればどうなるかは想像するにたやすく,実際に結核診断前のキノロン曝露により死亡リスクは1.8-6.9倍に増加すると報告されている[1,5]

■当然ながらこの治療の遅れの期間の間に周囲に感染するリスクも高まる.よくあるケースは,開業医で咳嗽症状や肺炎等にキノロン系抗菌薬が処方され,一時的に軽快するも再増悪し,総合病院に紹介され,初回喀痰検査でもひっかからず入院に至るというものである.同室患者,職員にまで感染リスクはおよび,患者の予後のみならず多大なコスト増も病院が被ることになる.
※プライマリケアの場においてこれらを考慮しない安易なキノロン系抗菌薬投与は無責任としか言いようがないが,当院でも年間数例のキノロン曝露後結核が開業医から紹介され,死亡例や職員のQFT陽転化例がでている.通常,1つの薬剤において,それが原因となって死亡例がでるというのはそうそうある話ではない.これは重大な副作用に入っても全くおかしくない事象であり,各製薬メーカーはもっと厳重注意を呼びかけてしかるべきである.

※呼吸器感染症に限らず,プライマリケアにおいてキノロン系抗菌薬が第一選択となるケースはほとんど存在しない.

※当院時間外外来・ERには肺炎患者を帰宅させる際にキノロン系抗菌薬を処方しないよう通達する貼り紙を提示している.呼吸器内科以外の医師が結核を否定して投与できる保証がまったくないからである.


■ではどれくらいの患者が結核診断前にキノロン系の曝露を受けているか?これについての報告をPubMedで検索すると8報[1-8]がヒットした.報告ごとにバラツキはあるが,14.4-48.0%が結核診断前にキノロン曝露を受けており,全体の3677例では1067例(29.0%; 95%CI 27.6%-30.5%)であった.

■2000年頃からマクロライドに耐性を示すマイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)が出現し始め[9],本邦では2005年に15%程度と報告されていたが,2006年には30.6%にマクロライド耐性を認めていると報告された.そして,2011年にはマクロライド耐性マイコプラズマが全国で大流行することとなった.これに対して,耐性株が多いからという理由で最初からキノロン系抗菌薬が濫用されてしまうこととなった.注意しなければならないのは,非定型肺炎の症状だけでは結核は除外できない点である.マクロライド耐性マイコプラズマを想定してのキノロン系抗菌薬のempiric投与は危険を伴う.
※マクロライド耐性マイコプラズマがアウトブレイクしたとはいえ,成人のマイコプラズマ肺炎に対する第一選択は依然としてマクロライド系である.また,マイコプラズマ気管支炎であれば抗菌薬は不要であることが多い.

■結核は胸部X線,ときにはCT撮影であっても除外できない.「上肺野の空洞陰影を伴う肺炎像」という教科書的な典型的像をとらないこともしばしばあるからであり,呼吸器内科医といえども画像だけでは判断に迷うことも多い.肺結核において上肺野に病変を認めるのは,免疫正常者では68.1%であり,免疫不全者に至っては38.4%に過ぎない[10]

■抗結核薬以外で結核菌に抗菌活性を示してしまうのはキノロン系抗菌薬だけではない.in vitroで,MEPM(メロペン®)とCVA(クラブラン酸)の併用が結核菌に対して殺菌作用を示すことが報告されており[11],結核感染マウスモデルにおいてはIPM(チエナム®)またはMEPMとCVAの併用は結核菌増殖を防止できないが生存率が改善したとの報告[12]もある.CVAは結核菌のBlaC βラクタマーゼを不活性化し[13],カルバペネムはペプチド転移呼応祖を不活性化する[14,15]ことが知られており,カルバペネム系抗菌薬やCVA/AMPC(オーグメンチン®,クラバモックス®)は結核菌に何らかの影響を与えてしまう可能性がある.また,抗MRSA薬であるLZD(ザイボックス®)も抗結核菌活性を有することが分かっている[16].これらの抗菌薬使用時は注意が必要である.

■なお,集中治療領域では重症肺炎をみたときに,あらかじめ結核の可能性も考慮して検査を行い,結核と診断された場合はただちに抗結核薬併用療法に切り替えるという条件であれば,最初からキノロン系を使用するのは許容されうる可能性がある(あまりおすすめはしないが).Tsengら[17]は,重症肺炎を模した肺結核を伴う患者において経験的抗菌薬でフルオロキノロンを使用した群と使用しなかった群を比較したところ,100日死亡率は40%vs68%で有意にフルオロキノロン使用群で低い結果となった.ただし,ARDS状態であっても粟粒結核であれば喀痰中には排菌していないことがある.この場合,あらかじめ喀痰検査を行っていても結核がひっかからず,結果的に結核が除外できないリスクが伴うことを考えておく必要がある.

■結核リスク患者は思った以上に多く,そこには免疫不全以外に様々な要因がリスクとなる.スペインでのサーベイランス報告では,喫煙は有意に潜在性結核感染(ツ反で5mm以上と定義)リスクを接触者において1.5倍に上昇させたと報告している[18].また,近年,アドエア®に加えてシムビコート®もCOPDに適応承認となり,健康日本でもCOPDが扱われるようになって他の多数の吸入薬が登場する中,COPD治療薬は戦国時代とも言われ,吸入ステロイドの合剤メーカーがかなりの宣伝を行っている.しかしながら,安易なCOPD患者への吸入ステロイドの使用は避けるべきであり,COPD患者の吸入ステロイド使用は肺結核リスクが9倍,特に胸部画像で陳旧性肺結核を有する患者では25倍に増加することが近年報告されている[19].これらの患者が何かをきっかけに結核を発症した場合,キノロン系抗菌薬が投与されてしまうという懸念はおおいにある.

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by DrMagicianEARL | 2013-08-08 00:00 | 抗菌薬 | Comments(0)
2011年11月1日作成
2013年8月6日改訂

Summary
・SSCG(Surviving Sepsis Campaign Gidelines)は敗血症の認知と予後改善を目的とした国際ガイドラインである.
・これまでSSCG遵守によって死亡率の改善が多数報告されている.
・癌患者の敗血症の治療成績もSSCGにより大きく改善してきており,今後は癌救急(Oncologic Emergency)分野の発展とともにさらなる改善が期待される.
・SSCGではカバーできていない敗血症予防,長期予後改善,PICS(Post-Intensive Care Syndrome)予防について今後の改善が期待される.
Key Word:
・SSC:Surviving Sepsis Campaign
・SSCG:Surviving Sepsis Campaign Guidelines
・Oncologic Emergency:癌救急
・敗血症予防,ワクチン
・リハビリテーション
・PICS:Post-Intensive Care Syndrome

1.敗血症の国際ガイドラインSSCGの歩み
■1991年に米国集中治療学会(SCCM)と米国胸部外科学会(ACCP)合同による敗血症とそれに基づく多臓器不全の定義に関するカンファレンスが開催され,ここで初めて明確な敗血症の定義付けがなされ,敗血症診療の根幹が誕生した[1].しかしながら,529名の集中治療医を含む1058名の医師に対するSCCMと欧州集中治療医学会(ESICM)の調査では,依然として67%の医師が敗血症の定義を認知しておらず,また正しい知識を持ち合わせていないために83%の医師が敗血症を誤診するという事態が発生していた[2].こうした医師への認知度の低さを受けて,2001年にはSCCM,ESICM,ACCP,米国胸部学会(ATS),外科感染症学会(SIS)が敗血症の定義をより明確化し,正確な認知のもと正しい敗血症診療を励行するためにカンファレンスを開催した[3].同時期に米国では敗血症患者の診断と治療に関する正しい知識の普及の促進を目的にNISE(The National Initiative in Sepsis Education)が設立された.

■この流れの中で2002年にSCCM,ESICM,国際敗血症フォーラム(ISF)の合同カンファレンスがスペインのバルセロナで開催され,5年間で重症敗血症患者の死亡率を25%減らすという目標をかかげた国際的なキャンペーンであるSSC(Surviving Sepsis Campaign)が合意,開始された[4].そして,2004年には2つ目の目標である敗血症治療のためのガイドラインの作成・実行のため,世界初の敗血症管理指針を示したガイドラインの発表を行った.このガイドラインがSSCG 2004であり,SCCM,ESICM,ISFが筆頭となり,欧米豪などの全11学会による合同のステートメントという形をとっている.SSCGを発表した意図は,①より多くの臨床医や患者が重症敗血症,敗血症性ショックを正しく認知できるようにすること,②診断基準を確立することで,より早期の認知を可能にすること,③エビデンスに準拠した敗血症治療に関するガイドラインを作成すること,④ガイドラインに準拠したバンドルを作成し,すべての治療者に治療の優先順位を認識させること,⑤現場において職種を超えた敗血症治療に関する共通認識を持たせること,などとされる.

■SSCG 2004[5]はその後SSCG 2008[6],SSCG 2012[7]へと2度の改訂を経ている.
 SSCG 2004:16ページ,引用文献数135,11学会
 SSCG 2008:33ページ,引用文献数341,16学会
 SSCG 2012:58ページ,引用文献数636,30学会
SSCG 2004は実際の臨床診療に即した形で19の項目に分類されて記載されている.さらにこれらをup-deteし,欧米のみならず日本集中治療医学会(JSICM),日本救急医学会(JAAM)やインド,ラテンアメリカなどの国や地域を含めた全部で16もの学会や組織が参加し,SSCG 2008が発表され,Crit Care Med誌とIntensive Care Med誌に発表された.しかし,このときは米国胸部疾患学会ATSや豪州ニュージーランド集中治療医学会ANZICSが支持団体から離脱するということも生じていた.しかし,SSCG 2012ではANZICS,ATSからの支持が復活し,計30の学会に支持されるに至る.同時にSSCは第3の目標としてインターネットツールを利用した敗血症のデータ収集と教育をかかげた.

■このSSCGを受けて,世界クリティカルケア看護師連盟(World Federation of Critical Care Nurses:WFCCN)[8]は2011年に,63項目の看護ケア推奨項目からなる看護師版SSCGをCritical Care Medicine誌に発表している[9]

■SSCG 2008ではGRADE systemが採用されている.すなわち,従来のエビデンスの質に応じたAからDまでの方法論に加え,推奨の強さが1,2の数字で付記された.このシステムはSSCG 2012でも同様であるが,SSCG 2012ではエビデンスレベルにUngradedも追加された.
エビデンスレベル
A:無作為化比較試験
B:質の低い無作為化比較試験,もしくは質の高い観察研究
C:十分に検討された観察研究
D:症例報告もしくは専門家の意見
UG:Ungraded.エビデンスはなくグレード分類できないが推奨されうる

推奨度
1(強い推奨度;recommend):転帰や負担,コストなどにおいて利益が不利益を明らかに上回っており,多くの臨床現場で採用されているもの.もしくは構成委員の投票が70%以上のもの.
2(弱い推奨度;suggest):利益が不利益を上回ることは予想されるが十分な根拠に乏しいもの.もしくは構成委員の投票が70%未満のもの.

これにより,エビデンスレベル偏重ではなく,文献的根拠が乏しくても臨床上当然施行すべき治療内容にも十分な評価が与えられており,より実践的な書になっているといえる.

■SSCGは以下のウェブサイトで閲覧可能である.
http://ssc.sccm.org/Pages/default.aspx
また,本ブログにおいても以下で解説をしている(腎代替療法以降がまだですが・・・).
http://drmagician.exblog.jp/19671598/

■SSCでは敗血症診療における重要なツールとして重症敗血症バンドルを制定している.バンドルを用いることで複雑な敗血症の治療過程をわかりやすいものにするとしている.バンドルとは,「重要な推奨項目を個別にそれぞれ実践するのではなく,それらを一纏めにして包括的にした方がさらに高い治療効果が得られる」という目的から,「1つに束ねたもの(バンドル)」となっている.SSCのサイトにはバンドルの一例が紹介されているが,バンドルはそれぞれの施設が各々の実情に合わせて改変するものとしている.近年なされた研究で,SSCの敗血症診療に対する教育的介入後もバンドルの遵守率が極めて低いことが懸念されている.各々の施設において,治療者の誰もが理解し,定められた時間内で実践しやすく,全項目を漏れなく遵守できることがバンドルの理想型である.

2.SSCGの成果,癌患者の敗血症治療成績
■LevyらはSSCGの評価として米国・欧州・南米の多施設研究を行い,SSCG遵守率上昇とともに死亡率が有意に低下したことを報告した[10].また,Kumarらは2000年から2007年までの敗血症の調査を行った[11].この調査では,敗血症患者は増加し,障害臓器数でみた重症度も重症化傾向となってきているにもかかわらず,平均入院期間,死亡率は改善傾向にあり,SSCGの効果が示されている.スペインでもバンドル遵守の教育を行うことで重症敗血症の死亡率が減少したと報告している[12].中国からもSSCG遵守による大幅な死亡率改善が報告されており[13],日本でも2007年に日本集中治療医学会で行われた第1回Sepsis Registry調査結果[14]では院内死亡率が37.6%であったが,2010年末に行われた第2回調査では20%台後半まで改善しているとのことである.Barochiaらは,8報の臨床研究の解析を行い,バンドル遵守によって生存率が向上することを示した[15]

■造血器腫瘍,固形癌などの悪性新生物を有する患者の敗血症の予後は悪いと昔からされてきた[16].しかしながら抗菌薬の進歩とその適正使用がすすめられ,1990年台から2000年台前半にかけての10年で死亡率は大きく改善してきている[17].それでもSSCG 2004発表直前までの報告ではおおむね28日死亡率は60%前後であった[17-20].SSCG導入後の報告ではSchnellらによるICUに入室した敗血症性ショック患者147例(癌治療済み群82例,未治療担癌群20例,悪性腫瘍なし群45例)の後向き解析がある[21].この報告ではノルアドレナリン最大投与量・投与期間,人工呼吸,腎代替療法,28日死亡率が3群間で有意差がなかった(43%vs50%vs49%)と報告している.

■癌患者の敗血症治療では,ときに非侵襲的医療介入のみで治療してほしいという家族からの希望がでることもある.Hanzelkaら[22]は癌患者の敗血症性ショックにおいて,SSCGの中でも特に予後に直結する蘇生バンドルのEGDT(Early Goal Directed Therapy)を非侵襲的要素のみで組んだ治療アルゴリズムを導入し,導入前後で比較を行ったところ,28日死亡率は20%vs38%で,導入後に有意に改善したと報告している.このように,癌患者で非侵襲的治療に限定した難しいケースであっても,SSCGにできる限り準じた治療を行うことで非担癌患者と同等レベルの治療成績をだせることが示されてきており,癌を有するからといって敗血症治療を簡単にあきらめるような時代ではなくなってきている.近年,癌救急(Oncologic Emergency)[23-25]が日本でも国立癌センターから導入が始まっており,癌患者におけるさらなる敗血症治療成績の向上が望まれる.
※癌治療で有名なMDアンダーソン病院では44床の癌救急病床を有するとのことである.

3.SSCGと今後の敗血症治療の展望
■SSCGは急性期の敗血症診療のみにスポットをあてている.しかし,実際には敗血症に至る過程においては感染症が先行して存在しており,根本は感染症発症予防である.敗血症死亡者数はいまだに多く,毎日1万人以上が敗血症で死亡している.また,退院後もQOLの障害は続いており,これが長期予後に影響を与えている可能性がある.実際に,敗血症症例が重症病態から脱し,一般病棟へ,あるいはほかの医療機関に転出した後にも死亡例が多いことが注目されている[26,27]

■世界敗血症同盟(World Sepsis Alliance)は2012年9月13日の世界敗血症デー(World Sepsis Day)のステートメントで,2020年までに達成すべき5つの目標の中に,「敗血症を予防する戦略(ワクチン等)により敗血症発症率を世界的に20%減少させること」,「適切なリハビリテーション・サービスの利用」を掲げている.また,時を同じくして,長期予後への影響に対する対策を練る必要があるとようやく認識され,米国集中治療医学会コンセンサス会議において,PICS(Post-Intensive Care Syndrome:集中治療後症候群)の概念が提唱された[28].PICSはICUで集中治療を受けた生存患者のみならず家族をも巻き込んでしまうこと,呼吸障害やICUAW(ICU-Acquired Weakness)をはじめとする神経筋障害などの身体的障害や認知機能障害のみならず精神的障害も生じうることを重要視している.救命のために不可避な治療行為の侵襲性は想像している以上に患者の長期予後に大きな影響を与えており,救命という短期予後改善の引き換えに医原性の長期予後悪化を伴うというジレンマが生じている.

■SSCGの次回の改訂(おそらく2016年)においてこの敗血症予防と長期予後改善・PICSの改善が盛り込まれるかどうかは不明である.この敗血症急性期の前後の目標に関しては三次救急医療施設のみならず,開業医,二次施設,リハビリテーション施設までをも巻き込んだエビデンスが必要となる.しかしながら,SSCGの認知度は三次救急医療施設以外ではまだまだ低い.

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by DrMagicianEARL | 2013-08-06 14:19 | 敗血症 | Comments(0)
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3.DICの治療

■集中治療領域におけるDIC(播種性血管内凝固)の診断は日本救急医学会が作成した急性期DIC診断基準(JAAM DIC criteria)[92]を用い,4点以上であればDICと診断する.このスコアはDICの重症度を定量化し,スコアリングが容易である.最近報告では,本邦15施設624例の前向き研究[93]が行われ,急性期DIC診断基準スコアはMOF/MODSと予後予測に有用であり,毎日のスコアリングは予後予測能を向上させると報告している.

■敗血症性DICに対するDIC治療薬の推奨度については,日本集中治療医学会の日本版敗血症診療ガイドラインと日本血栓止血学会のエキスパートコンセンサス[94]がある.日本集中治療医学会の推奨はアンチトロンビンⅢ製剤(AT),recombinant thrombomodulin(rTM),低分子ヘパリン(LMWH)を2Cで,それ以外は2Dとしている.日本血栓止血学会はATをB1で,メシル酸ガベキサート,メシル酸ナファモスタット,LMWHをB2で,それ以外をCとしており,rTMについては発売前であったため推奨度がつけられていない.当院の敗血症ガイドラインでは推奨度をA~Eの5段階で評価しており,使用することを推奨したのはAT,rTMでいずれも推奨度Bとし,それ以外は推奨度C,Dとして,使用を推奨していない.これは,本邦で予後改善報告があるのがATとrTMの2つだけだからである.

※後日,国内ではATでの予後改善報告はないのでは?と質問を受けたが,佐賀大学のSkamotoらの1報だけある[95]

■近年注目されているrTMは活性化プロテインCを介して抗凝固作用のみでなく,抗炎症作用も発揮する[96-99].さらに,high mobility group box-1 (HMGB-1)[100-102]やendotoxin[103]の吸着・中和,分解することによる抗炎症作用も兼ね備えた多面的DIC治療薬である.

■rTMのDIC治療効果はほぼ確立されているといっていい.問題は予後改善効果であるが,近年,多数の症例対照研究においてrTMによる予後改善効果が示されてきている[104-108].しかしながら,RCTは国内PhaseⅢのみしか行われておらず,予後改善は示されていない.現在米国でPhaseⅢが施行されており,この結果が待たれる.

■DIC治療開始は急性期DICスコア4点以上が基準となっているが,治療終了の明確な基準,エビデンスは存在しない.過去の多くの報告では投与期間が6日間に固定したプロトコルが用いられており,また臨床現場では慣習的に急性期DIC診断基準スコア3点以下が終了基準に用いられていることが多い.長期間投与では出血などの副作用リスクやコストの懸念も生じてくる.これらのことから,いつrTM投与を終了したらいいのかが臨床現場からの疑問として挙がっていたが,これまでなぜか誰も検討をしてこなかった.

■そこで,当院ではrTM投与の積極的終了基準を導入した.過去の知見と当院における先行データを根拠として以下の3基準を満たした時点で投与を終了するとした.
以下の3基準すべてを満たせばrTMを終了する
 ①敗血症蘇生プロトコルを達成していること
 ②SOFAスコアが前値より低下していること
 ③急性期DIC診断基準スコアが前値より低下していること(3点以下でなくてもよい),またはD-ダイマー値が最大値より25%以上低下していること
これらの積極的終了基準によりDIC治療薬投与期間が短縮し,かつ安全に終了できるとする仮説をたてた.この仮説検証のため,肺炎,尿路感染症が原因の,DICを合併した重症敗血症または敗血症性ショックで,当院の敗血症蘇生プロトコルを遵守し,rTMを投与された患者を対象とし,積極的終了基準を適応した患者群(積極群)と急性期DIC診断基準スコア3点以下で終了する標準的終了基準を適応した群(標準群)を後ろ向きに比較検討した.患者背景に有意差はなかった.プライマリアウトカムであるrTM平均投与期間は積極群2.8(±1.1)日 vs 標準群4.4(±1.0)日であり,有意に積極群で投与期間が短縮した(p=0.002).有害事象は,両群とも1例ずつ死亡例があり(有意差なし),いずれも敗血症治療終了後であり,当院でのrTMの積極的投与終了基準は投与期間を安全に短縮できるものと思われた(本研究は2013年6月19日の第17回大阪DIC研究会で報告した).今後,基準をやや改定した上での前向き研究を検討している.

4.エビデンスと知識管理

■「臨床現場での経験」と「エビデンス,ガイドライン」はしばしば対義語のように用いられる.「経験的にこうだから」という頑固な医師もいれば,「エビデンスはこうだから」という頑固な医師もいる.しかし,経験とエビデンスは相反するものでは決してない.エビデンスは経験から生みだされたものであり,経験はエビデンスをもとに臨床現場で培われるものである.経験は暗黙知(tacit kyowledge)と呼ばれ,エビデンスは形式知(explicit knowledge)と呼ばれる.この概念は経営学から生まれたものである[109].臨床現場での経験をデータとして集約化することで明確化し(externalization),それらを解析することでエビデンスとし,そのエビデンスを臨床現場に還元し(internalization),医療の質を改善する(Quality Improvement).この経験とエビデンスの循環を行う知識管理は,情報共有手段としても非常に重要な意味をもつ.よって,我々はエビデンスから最大公約数的患者利益を目指すEBM(Evidence Based Medicine)を心がけると同時に,臨床現場において個々の患者の最大利益を目指すHBM(Human Based Medicine)を心がけ,Best Practiceを得る必要がある.
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■エビデンスの捉え方には注意が必要である.いかに質の高いエビデンスであってもTPO(時と場所と場合)次第ではその妥当性が損なわれる.

(1) T:Time
10年前に示されたエビデンスが今有用であるとは限らない.治療の進歩により,他の治療との組み合わせ等でも有用性は大きく変化する.質の高いシステマティックレビューのエビデンスであっても,賞味期限は1年以内が15%,2年以内が23%,平均賞味期限は5.5年(95%CI 4.6-7.6)とされている[110]

(2) P:Place
国・地域によって医療事情や人種差で有用性は大きく異なる.海外で示されたエビデンスが日本で通用するとは限らない.

(3) O:Occasion
エビデンスを示した施設の状況は必ずしも自施設ではあてはまらない.三次集中治療施設のエビデンスがはたして二次救急施設でも通用するのか?薬剤や検査機器,モニター,主治医のスキルの影響は無視できない.

■集中治療のエビデンスの最大の落とし穴として外的妥当性(External Validity)に注意が必要であると考えている. これまでの集中治療のエビデンスは救急集中治療医がいるICUにおいて作られてきたものである.このエビデンスは救急集中治療医がいない完全主治医制のopen ICUで有効だろうか?不慣れな医師・スタッフ,マンパワー不足,ICUモニター機器・検査機器・薬剤の不足といった様々な因子がある中でそのエビデンスは本当に有用か?実は救急・集中治療医がいない完全主治医制のopen ICUにおける集中治療のエビデンスは全くないに等しいのである.

■エビデンスを集約化させたものはガイドラインである.このガイドラインをどのように活かすか考える上で,以下の4つのプロセスを提示したい.これらのプロセスは先述の知識管理そのものである.

(1) いかに優れたガイドラインがあっても,推奨項目の羅列ともいえ,慣れてない人間には治療の流れが見えにくくなる上,ガイドラインそのものが認知されていなければ,所詮は絵に描いた餅に過ぎない.よって,まずは研修会などを開催するなどしてスタッフへの周知徹底が必要である.

(2) 病院ごとに診療事情が異なるため,各病院に合わせた治療プロセスを定め,周知徹底させる必要がある.そこで各病院ごとに治療内容のプロトコル化と情報共有をはかる必要がある.

(3) プロコトルを特に理由もないのになぜか受け入れない医師がいるのも現実である.多くの場合は,いわゆる“ベテラン”と呼ばれる医師にこのタイプが多く,経験を盾にしている場合がほとんどである.よって,その医師の経験による治療とプロトコルのいずれがよりよいアウトカムをもたらしているのかを明示するため,データの集約と提示が必要である.

(4) プロトコルは実際に施行してみなければちゃんと運用できるものかは分からない.プロトコル運営に支障をきたす場合やいいアウトカムが得られない場合は,必ずフィードバックを行い,PDSA cycleにもとづいた質の改善が必要である.

■当院での実践例を示す.2011年3月時点での当院では,完全主治医制のためほとんどの医師が敗血症患者を診療しうる状態であったにもかかわらず敗血症の診断と治療の認知度が極めて低く,10%に満たない状態であった.加えて,乳酸測定はできず,集中治療用のNPPVもD-ダイマー迅速キットもない状態であった.そのような中,過去2年間の敗血症性ショック患者の死亡率を算出すると惨憺たる成績であった.

■敗血症性ショックの治療成績改善を目指し,2011年8月に,SSCG 2008をベースにし,その後の知見と当院の環境を加味した当院独自の敗血症診療ガイドラインを完成し,ICU看護師に配布した.この時点では医師には理解は得られていなかった.8月末に80歳代男性の尿路感染症からの敗血症性ショック+DIC症例に対して初のプロトコル導入となり,これまでにないスピードでの状態改善と早期のICU離脱を達成した.この症例経験後にプロトコルの有用性がコメディカルを中心に理解されるようになり,9月にはICU看護師,栄養士,薬剤師,臨床検査技師を対象とした敗血症勉強会を3回開催した.10月にはこれまでなかったD-ダイマー迅速キット,乳酸値計測可能な血液ガス分析機,集中管理用NPPV V60®を採用,導入となり,11月4日に敗血症院内ガイドライン概要を全職員対象に発表,11月11日には全電子カルテからガイドライン閲覧可能となり,各病棟の救急カートに敗血症治療プロトコルカードを設置するに至る.

■しかしながらこれでも医師のプロトコル遵守率は60%程度にとどまった.そこで,当院ICUに入室した敗血症性ショック患者49例を解析対象とし,蘇生プロトコル遵守群と非遵守群の比較を行った.平均年齢74.8±9.5歳,平均APACHEⅡスコア23.2±6.2,平均SOFAスコア10.6±2.2,DIC合併率は67.3%であり,両群間の患者背景に有意差はなかった.院内死亡率は遵守群33.3% vs 非遵守群77.4%であり,遵守群が統計学的に有意に死亡率が低い結果となった(p=0.002).オッズ比は0.14(95%CI 0.04-0.53)であり,後ろ向き症例対照研究での有用性結果で妥当とされているオッズ比<0.25[111]も満たしていた.多変量解析でも蘇生プロトコル遵守が生存に関連した独立因子であった(OR 0.66, 95%CI 0.52-0.86, p=0.002).
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■ベンチマーキングとして,海外三次救急施設での重症敗血症の院内死亡率(PROGRESS study:27.0%)と日本の三次救急施設での重症敗血症院内死亡率(第1回Sepsis Registry調査結果:37.6%)を提示する.当院遵守群の院内死亡率33.3%は重症敗血症の中でもショック例のみに限定しており,重症度は海外・本邦いずれのデータよりも高いにもかかわらず,遜色のない死亡率となっており,救急集中治療医が不在の当院であっても決して劣ってはいない死亡率である.集中治療医がすべての診察に携わるhigh intensity modelを採用している病院では,そうでない病院と比較してICU死亡率(OR 0.61, 95%CI 0.50-0.75),病院死亡率(OR 0.71, 95%CI 0.62-0.82)が低いとも報告されている[112]こともふまえると,今回の当院のプロトコルは敗血症診療において良好なアウトカムを得られるものと考えられた.
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■現在当院ではプロトコル見直しで改訂作業を行っているが,一部参考モデルにさせていただいているのが名古屋大学救急集中治療部の全身炎症管理バンドル(M11/S4バンドル)である.これは,敗血症のみならず,ICUで扱うあらゆる重症疾患を全身性炎症病態としてとらえて管理治療を行うことを目的に作られており,15個のプロトコル群から構成されている.2011年5月から2012年4月までに,このM11/S4バンドルを適応した敗血症性ショック患者41例の後ろ向き解析では,APACHEⅡスコア23.2±8.0,SOFAスコア11.2±3.9であり,60日死亡率はわずか4%という驚異的治療成績であった.プロトコル内容を見ても当院のような救急集中治療医が不在の二次救急施設ではこの死亡率4%という治療成績を達成するのは困難と思われるが,現在の敗血症治療はここまで死亡率を改善することができるという一傍証であると考えられる.同時に,救急集中治療医がいないopen ICUにおける集中治療のエビデンスを我々も出していかなければならないと考えている.

5.Take Home Message

■最後に
(1) 重症疾患に共通の病態生理メカニズムと治療対象を理解し,全身性の凝固炎症疾患としてとらえる目線を
(2) 病態を生理的制御範囲に回復させることを考える(恒常性維持)
(3) 長期予後(Post-Intensive Care Syndrome)も必ず考慮し,余計な侵襲的医療行為は極力避ける
(4) “経験馬鹿”にも“エビデンス馬鹿”にもならず,知識の循環と情報共有を
(5) Enjoy the “Intensive Care Medicine”

【謝辞】
このような発表の機会を与えて下さった愛知県がんセンター中央病院の川上次郎先生,旭化成ファーマ株式会社に厚く御礼申し上げます.

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←2.敗血症の治療(2)
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by DrMagicianEARL | 2013-08-04 19:18 | 敗血症 | Comments(1)
集中治療友の会(2013年7月27日,名古屋キャッスルプラザ,旭化成ファーマ主催)の講演内容です.最初から読まれる方はこちらをクリック

2.敗血症の治療(2)

■敗血症性ショックではできる限り早い循環動態回復が必要であり,EGDT(Early Goal Directed Therapy)が行われる.EGDTは6時間以内に3つの目標を達成していくプロトコルである.以下では当院で使用しているSSCGプロトコルを提示する.

■Goal 1は血管内充填であり,急速大量輸液が主体である.輸液指標としては,①中心静脈圧CVP(8-12cmH2Oにコントロール),②中心静脈圧CVP呼吸変動幅,③Passive Leg Rising Test,④心臓超音波検査,⑤動脈ライン・経皮酸素モニターの圧波形,の5つを用いて総合的に評価するとしている.なお,当院にはPiCCO,FroTrukが採用されていない.

■Goal 2は血圧維持(平均血圧MAP 65-90mmHg)と尿量確保(≧0.5mL/kg/hr)であり,第一選択はノルアドレナリンとし,ノルアドレナリンで反応が乏しい場合はCold Shockでなければバソプレシンを0.02U/minで併用する.動脈圧波形や経皮酸素モニターの波形でdicrotic wave有無を参考にしてもよい.高度頻脈により心拍出量低下,血圧低下をきたしている場合はβ遮断薬ランジオロールの使用を考慮する.腹部手術を要するケースではPMX-DHPを考慮してもよい(弱い推奨)としている.

※SSCG 2012ではアドレナリンが第二選択の扱いとなっているが,頻脈を呈しやすく,βアドレナリン受容体刺激を強く与えることから,当院では推奨していない.

※情報交換会でPMX-DHPでの昇圧効果について質問を受けたので追記:PMX-DHPはエンドトキシン吸着カラムであるが,施行した際の血圧上昇はエンドトキシン吸着作用によるものではなく,血管拡張作用をもつ内因性大麻と呼ばれる内因性カンナビノイド(単球/マクロファージから産生されるanandamide(ANA)と血小板から産生される2-arachidonyl glycerol(2-AG))を吸着することによる効果である[50]


■Goal 3は,血清乳酸値を初期値の50%以下に低下させることとしている.手段としては,輸血によるHb 6.0-8.0へのコントロール,適度な鎮痛・鎮静がある.SSCGではドブタミンが推奨されているが,実はドブタミンを支持する根拠はほとんどない.

※SSCGでは中心静脈酸素飽和度ScvO2>70%を目標としているが,PreSepカテーテルを採用していないこと,院内での計測の遵守率が低かったこと,正常値であっても末梢の酸素利用障害を反映しないことなどを考慮し,当院では推奨からはずしている.実際に,酸素代謝障害のモニタリングをScvO2で管理した場合と乳酸で管理した場合で予後に有意差がなかったとする多施設共同RCTも報告されている[51]

■EGDTプロトコルの有用性を最初に報告したのはRiversらである.263例の敗血症性ショックに対してEGDT群の非EGDT群に無作為割付したRCTであり[52],死亡率は30.5% vs 46.5%(p=0.009)で有意にEGDT群が低かったと報告されている.また,Jansenらは,乳酸クリアランスを指標としたEGDTを組み込んだELGT(Early Lactate Guided Therapy)プロトコルを評価したLACTATE studyを行っている[53].これは重症患者(敗血症患者は40%)348例をELGT群と通常のEGDT群に無作為割付したRCTであり,死亡率は33.9% vs 43.5%(p=0.067)で有意にELGT群が低かったと報告されている.また,敗血症症例に限定したサブ解析ではより強い改善効果がみられている.

■敗血症性ショックにおけるカテコラミンでは,ノルアドレナリンとドパミンについては長年議論されてきたが,2012年に2つのメタ解析[54,55]が報告され,いずれもドパミン群がノルアドレナリン群より死亡率が有意に高かったと報告されている.末梢血管拡張が生じる敗血症性ショックではαアドレナリン受容体刺激が治療として理にかなっており,βアドレナリン受容体刺激は悪影響がでる可能性が以前から基礎研究で指摘されてきている.

■敗血症性ショックではβ1受容体のdown regulationやβ1シグナルが阻害されるため,DOAでは陽性変力作用が期待できず,β2受容体を介して血管拡張や頻脈が生じ,むしろ昇圧を妨げてしまう[56-59].細菌にもβ受容体は存在し,β刺激で菌増殖やバイオフィルム形成を促進する[60,61].β受容体は単球/マクロファージ,リンパ球,好酸球,肥満細胞にも発現し,単球/マクロファージやリンパ球では特にβ2受容体を介して炎症性物質の産生に関与する.また,マクロファージはβ受容体刺激により泡沫化傾向が高まり,一時的に炎症活性が高まった後に機能不全となることも確認されている[62].また,β受容体刺激でリンパ球のアポトーシスが進行したり[63],好中球の遊走能が阻害される[64]ことも報告されている.

■以上から,β刺激は敗血症性ショックにおいて不利に働きうることが基礎的にも臨床的にも示されている.その一方で,β遮断作用が近年注目されている.これは,自律神経系は炎症反応の制御に深く関与しており(Inflammatory Reflex, neuroimmuno axis)[65],副交感神経刺激により炎症反応が軽減できる(cholinergic anti-inflammatory pathway)[66]という考え方に基づく.β遮断薬により,炎症性サイトカインが抑制される[67,68],細胞アポトーシスが抑制される[69],交感神経により惹起された代謝亢進と蛋白異化亢進を抑え,インスリン抵抗性獲得に伴う糖利用障害を正常化し,β糖代謝抑制に伴う脂肪酸動員を抑え,酸素需給バランスを回復する[70],敗血症における心筋保護作用[68,71,72],死亡率改善効果[71,73]などが示されている.敗血症性ショックにおいてβ1遮断薬とノルアドレナリンを併用すると,心拍数を30/分低下させるが血圧は低下せず,高い心拍出量を保つことも報告されている[72]

※海外の敗血症病態におけるβ遮断薬はエスモロールを用いている報告がほとんどである.一方,本邦ではβ1受容体選択的遮断作用のある薬剤としてエスモロール以外にランジオロール(オノアクト®)があり,エスモロールよりも血圧が低下しにくいことが知られており(ただし添付文書通りに使用するとほぼ確実に血圧は下がるため,ほとんどの施設では添付文書通りの使用はなされていない),敗血症性ショック病態においての有用性が期待される.ランジオロールは現時点では周術期のみしか適応がないが,早ければ2013年12月には周術期の縛りがはずれ,SIRSに伴う頻脈に対して使用可能となる模様である(現在承認申請中).

■メディエーター治療薬としては,DIC治療薬,低用量ステロイド療法,non-renal indicationでの腎代替療法,PMX-DHP,免疫グロブリン製剤,好中球エラスターゼ阻害薬などがあるが,予後改善のエビデンスが乏しく,コストも高く,侵襲性も高いものがある.

(1) DIC治療薬
症例対照研究ではアンチトロンビンIII製剤とリコンビナント・トロンボモデュリン製剤で予後改善効果が報告されているが,現時点で予後を改善させたRCTは存在しない.

(2) 低用量ステロイド療法
生存率を改善させた報告[74],無効であるとする報告[75],死亡率が増加した報告[76]などさまざまな結果がでており,いまだにその有用性については不明である.

(3) non-renal indicationとしての腎代替療法(CHDF)についても,現時点で予後改善を示したRCTレベルでのエビデンスは存在せず[77],PMMA膜も注目されてはいるものの症例集積報告レベルにとどまっている.

(4) PMX-DHP
腹腔内感染症によって緊急手術を要した重症敗血症または敗血症性ショック患者を対象としたRCTであるEUPHAS studyがあり[78],予後改善効果は示されていない.現在2つのRCTが進行中である.1つは腹膜炎を合併し緊急手術を要した敗血症性ショック例を対象としたフランスのABDO-MIX[79]があり,既に登録は終了し,年内には解析結果が報告されると思われる.もう1つはエンドトキシン濃度が高い敗血症性ショック患者を対象とした米国のEUPHRATES[80]がある.また,非手術例でノルアドレナリンでも昇圧が得られない難治例において,PMX-DHPがバソプレシンに効果が勝るとする根拠は希薄である[81]

(5) 免疫グロブリン製剤
メタ解析において質の高いRCTに限定すると予後改善効果がないことが示されており[82-84],その後に報告された2つの大規模RCT[85,86]においても効果は否定された.加えて,本邦の免疫グロブリン製剤の投与量は海外に比して格段に少なく,先のメタ解析でも投与量が少ない研究では予後改善効果が乏しいことが示されており,敗血症に有用とは考えにくい.日本救急医学会,日本集中治療医学会からそれぞれ多変量解析,傾向スコアマッチング解析で免疫グロブリン製剤の予後改善効果を示唆するデータはでているが,人種差を考慮するにしても,このエビデンスがこれまでのRCTやメタ解析より優先すべきとする理由はなく,現時点で使用を推奨する根拠とはならないと思われる.

(6) 好中球エラスターゼ阻害薬
メーカー主導のPhaseIIIのRCTで予後改善効果は示しているが,プラセボ対照ではなく,統計解析手法にも疑問が残る内容であった.一方で,海外で行われた質の高い大規模RCT(STRIVE study)では逆に死亡率悪化が報告されており[87],その後行われたメタ解析[88]でも有効性は示されておらず,有用性には疑問を感じざるを得ない.

※私個人は低用量ステロイド療法はノルアドレナリンとバソプレシンを使用しても血圧が上昇しないケースや難治性低血糖遷延例で使用を考慮することにしており,ARDSでは使用をやめている.免疫グロブリン製剤は原則使用しないが,脾摘後の劇症型肺炎球菌肺炎においてのみ使用を考慮している.好中球エラスターゼ阻害薬は原則使用していない.

■これらの治療は施設によって評価が異なるのが実際である.しかし,「予後を改善させるエビデンスは乏しいけど,ひょっとしたら効くかもしれないからやっておこう.保険も通っているし」という考え方には警鐘をならしておきたい.

■近年,敗血症をはじめとする重症疾患の評価において,28日死亡率などの短期予後はプライマリエンドポイントとしては妥当でない可能性が指摘されており[89],退院後もQOLの障害は続いており,これが長期予後に影響を与えている可能性がある.実際に,敗血症症例が重症病態から脱し,一般病棟へ,あるいはほかの医療機関に転出した後にも死亡例が多いことが注目されている[89,90].2012年になってこれら長期予後への影響に対する対策を練る必要があるとようやく認識され,米国集中治療医学会コンセンサス会議において,PICS(Post-Intensive Care Syndrome:集中治療後症候群)の概念が提唱された[91].PICSはICUで集中治療を受けた生存患者のみならず家族をも巻き込んでしまうこと,呼吸障害やICUAWをはじめとする神経筋障害などの身体的障害や認知機能障害のみならず精神的障害も生じうることを重要視している.救命のために不可避な治療行為の侵襲性は想像している以上に患者の長期予後に大きな影響を与えており,救命という短期予後改善の引き換えに医原性の長期予後悪化を伴うというジレンマが生じている.
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■PICSの原因は,原疾患の後遺症のみならず,医療侵襲も原因となりうるとされている.Florence Nightingaleは「病院は患者に害を与えてはならない」という言葉を残しており,まさに今の集中治療に突きつけられている言葉かもしれない.主治医の不安を取り除くために保険病名に治療選択を押し付けるべきではなく,できるかぎり有効かつ低侵襲の治療をこころがけるべきである.

※先日,JBPO主催の大阪敗血症セミナーで産業医大救急教授の真弓俊彦先生の講演を聴講した際の言葉が非常に印象的であった.「『○○に対して△△治療で救命しえた1例』という学会での発表はよくあるが,本当にその治療で救命しえたという実感はあるか?」「『保険適応がある治療』≠『やらなければならない治療』」「(エビデンスが乏しく効くかどうか分からない)治療を行わないことに耐えられる医療人になってください」.エビデンスが乏しい治療をもし行うのであれば,行いっぱなしではなく,その結果をデータとして蓄積し,本当に有効であるか否か検証していくのが責務と考える.

■当院の管理バンドルは以下の14項目から構成されている.
 1.超急性期後の循環管理
 2.栄養管理
 3.血糖管理
 4.呼吸管理
 5.鎮静・鎮痛・譫妄対策
 6.高度腎障害に対する腎代替療法
 7.輸血製剤の適正使用
 8.治療開始後の抗菌薬管理
 9.感染防止対策
 10.深部静脈血栓症予防
 11.ストレス関連胃粘膜障害対策
 12.リハビリテーション
 13.特殊な合併病態への対応
 14.治療限界とEnd-of-Life
これらは敗血症のみならずICUのあらゆる重症疾患でも適応しうるものである.とりわけ忘れられやすいのは,栄養管理,血糖管理,鎮静・鎮痛・譫妄対策,輸血製剤の適正使用,感染防止対策,リハビリテーションである.

■敗血症やICUで経験される他の重症疾患の管理項目は非常に多い.これらの治療・管理をもれなく行う必要があり,慣れないうちは全てをスムーズに行うことは困難である.このため,習慣づけるプロセスが必要で,「頭で考え」ながら「体で覚える」ことが重要である.最悪なのは「頭で覚える」ことであり,これは習慣づけることにはならない.頭で覚えていて(分かっていて)も実際には実行されないという事例は日常診療でよくあることである.

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by DrMagicianEARL | 2013-08-02 15:51 | 敗血症 | Comments(0)

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