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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

<   2013年 11月 ( 9 )   > この月の画像一覧

Summary
・インフルエンザワクチンに予防効果がないと主張する前橋レポートは恣意的なデータ解析がなされ,無理やり有効性がないと結論づけられているが,データ自体は有効であることを示している.
・インフルエンザワクチンの効果は個人と社会両方での評価が必要である.
・高齢者においてはインフルエンザワクチンは有効でない可能性が高い.
・学童・学校はインフルエンザの増幅環境であり,インフルエンザワクチン接種によりindirect protection作用を介してインフルエンザの拡大を防ぎうる.
・小児~若年者のインフルエンザワクチン接種はindirect protectionにより高齢者やハイリスク患者のインフルエンザ関連死を減少させる.
・インフルエンザワクチンは発症を完全には予防できないが,60%前後の予防効果を有する.
・インフルエンザワクチンによる重症化予防については特にハイリスク患者において死亡率を含め有意な改善がみられている報告が多い.
■ワクチンに限らず,あらゆる薬剤においては,そのリスク(副作用)とベネフィット(有効性)を考慮した上で投与するかを検討するのが常識である.仮にあるワクチンの副作用リスクが有効性を上回るものであるならば,そのワクチンは投与してはならない.その一方で,有効性が副作用を上回る場合においてはそのワクチンを安易に否定することは避けなければならない.これらはリスクとベネフィットの双方を吟味する能力がなければ評価はできない.その吟味を行わずにワクチンを推進している医師がいることも事実であるし,吟味できない一般人や一部の医師,あるいはホメオパスの一部がワクチンに反対していることも事実である.ことインフルエンザワクチンに関してはインターネット上で多くのデマが流れ,「インフルエンザワクチンは打ってはいけない」という書籍もでているほどである.

■インフルエンザワクチンは任意接種であり,打つか打たないかを決めるのは市民の自由である.逆に打つことを強制することも「打ってはいけない」と言うこともいずれも無責任でしかない.以下の勘違いに該当するならば考え方を変えた方がいいと思われる.
インフルエンザワクチンに関する勘違い
・インフルエンザはたかが風邪だから予防する必要はない(予防はワクチン以外を含む).
・インフルエンザでは死なない.
・インフルエンザワクチン接種で不妊になる.
・インフルエンザワクチンでインフルエンザ感染は完全に予防できる.
・インフルエンザワクチンではインフルエンザ感染は全く予防できない.
・前橋レポートでインフルエンザワクチンの有効性は否定された.
・高齢者でもインフルエンザワクチン接種は非常に有効である.
・海外ではインフルエンザワクチンはほとんど打たれていない.
・インフルエンザワクチン接種でインフルエンザに感染する.

1.インフルエンザワクチンの有効性とindirect protection

■本邦のインフルエンザワクチンは3価不活化スプリットワクチンであり,現在はA型がH1N1pdm2009,香港型の2種とB型の計3種類のワクチン株である.このスプリットワクチンの接種により誘導される免疫は血中の中和抗体である.

■インフルエンザワクチンが有効でないと結論づけ,学童集団接種中止になったと言われる前橋レポートはどのような報告か?現在,賢明な人間であればワクチン懐疑主義者であっても前橋レポートを引用することはなく,紙切れ同然の扱いである.その理由は読めばどれだけいい加減な調査であったかが一目瞭然であるからであるが,残念ならがいまだにこの前橋レポートを引用してワクチン反対を唱えている医師がいることも事実である.この前橋レポートを「優れたレポートだ」と主張する人には学術論文の査読能力がない.よって,論文にすらなっていない上に現在ではとりあげられもしないレポートとなってしまっているので,以下に前橋レポートの概要を記す.

■前橋レポートの調査のアウトカムは,(1)インフルエンザワクチン接種を実施している近隣の自治体と,中止した前橋市との比較,(2)予防接種を中止したことで血中の抗体価がどのように変化したか,である.このレポートではまず,発熱や欠席をもってインフルエンザとみなしている.すなわち,ノロウイルスであってもマイコプラズマであってもズル休みであっても「インフルエンザで欠席した」とみなすという驚くべきいい加減な診断をしている.このような馬鹿げた有効性調査があるだろうか?インフルエンザワクチン接種群と未接種群との比較では,接種率50%以下という,集団免疫が得られないであろう地域を接種群にカウントするなどで有効率を低めるような数字の操作がなされていた.しかし,実際にはデータを見れば,χ2乗検定で計算すると接種有無でインフルエンザになる確率には統計学的有意差がはっきりとでる.抗体価の調査でも,予防接種群の方が発病を防止する効果が高いという結果が出ており,有効性が示されていた.しかし,レポートでは感染率と発病率という異なる2つの指標を比較し,予防接種の効果を意図的に低く見せかけていた.予防接種と医療費との関連性の解析でも,児童が少ない国民健康保険のデータが使用され,予防接種の有効性を低く見せるためのデータの取捨選択がなされていた.

■このように,前橋レポートは,サーベランスを行おうとした姿勢は評価できるが,自らの意図する結論をむりやり導くためにデータ解析過程で恣意的操作を行って有効を無効と言ってしまったレポートであり,その後の学童集団接種中止による死亡率増加に与えてしまった影響は大きい.
※このように前橋レポートは偽装に近い内容であるが,いまだにこれを崇拝しつつディオバン論文は非難する医師がいる.二枚舌は御勘弁いただきたいものである.

■実際のしっかりとデザインされた研究での有効性の評価はどうであろうか.世界各国では,高齢者とハイリスク患者を対象にワクチン接種を進めてきたが,インフルエンザ流行のインパクトを示す重要な指標となる超過死亡(インフルエンザ関連死亡)が低下しないことが指摘された[2].超過死亡の90%は高齢者であり,高齢者ではインフルエンザワクチン接種は有効性が低いことが示唆された.米国では高齢者の接種率が20%以下であったのが20年間で65%まで上昇していたにもかかわらず超過死亡の低下がみられなかったことも高齢者にワクチンが有効でないであろうことが分かる.これは,高齢者にワクチンを接種しても免疫機能の衰退によりワクチンによる免疫獲得がされにくいことが理由と推察される.

■一方,学童集団接種が1994年に中止となった日本では,中止前後の調査がなされた[3].これは日米の合同調査でもあり,日本では学童接種開始後に超過死亡が減少し,学童集団接種が中止した時期頃より再び超過死亡が(強力な抗生剤が新たに発売されていたにもかかわらず)急激に増加していることが分かる.一方の米国では高齢者のワクチン接種率が増加しても超過死亡が減少していなかった.超過死亡のほとんどは高齢者であり,高齢者へのインフルエンザワクチン接種は有効ではないが,学童集団接種は高齢者死亡を抑制していたのである.これは学童集団接種を行うことで学童のインフルエンザ感染を抑え,学童から社会さらには高齢者への感染を防いだことで高齢者のインフルエンザ死亡数が減少したという結果であり,後にこの効果はワクチンのindirect protection(間接的保護作用)と呼ばれるようになる.この論文はその後の世界のワクチン接種の基本的な考え方を変えることになった.同様の研究結果が2011年にも報告され[4],このindirect protectionの概念をもって世界はインフルエンザワクチン接種推進に舵を切るに至った.なお,これらの研究には,インフルエンザワクチンの有効性に懐疑的であったSimonsenらの研究グループもたずさわっていたことを付け加えておく.indirect protection効果は小児のロタウイルスワクチンにおいても証明されている[5]

■2005年には学童集団接種は日本の幼児の死亡を抑えていたことも報告された[6].この報告の超過死亡の推移から,学童集団接種による集団免疫により幼児が守られていたこと,1990年代のインフルエンザ脳症の多発は学童集団接種中止が原因であることが推察され,indirect protection効果を示唆する結果である.また,インフルエンザワクチン接種率,欠席率,学級閉鎖日数を24年間にわたり調査した報告[7]では,ワクチン接種率が低下すると,欠席率,学級閉鎖日数ともに有意に上昇することが示されている.特にワクチン接種率が60-70%程度に上昇すれば学級閉鎖が大幅に減少していることから,ある程度の接種率がなければ学校内での集団免疫,indirect protectionが得られないことが分かる.前橋レポートでもインフルエンザワクチンが有効であったデータが得られていることから,現時点で学童集団接種が無効であったとする根拠はほとんどないに等しい.

■2009年のインフルエンザA/H1N1pdm2009の大流行では,学童・学校でのインフルエンザ流行が社会全体に流行が拡大する増幅の場として大きな役割をはたしていることが改めて確認されており,学童におけるインフルエンザワクチンの重要性は今や世界の共通認識となっている.これは,それまでの個人の発病防止効果(direct protection:直接的保護作用)のみを重要視する考え方が大きく変わった結果である.インフルエンザワクチンの有効性は,indirect protectionについての理解を広めることが重要であり,インフルエンザワクチン接種により接種者自身をインフルエンザから守ることのみならず,その家族や周囲の人々,さらには社会の高齢者やハイリスク群を守ることにもなる.

■「インフルエンザワクチンは重症化を予防するが発症は予防できない」ということはよく知られているが,かなり誤解を招く表現である.インフルエンザワクチンによる免疫獲得の過程で,重症化を予防するのはIgG抗体であり,発症を予防するのは気道粘膜から分泌されるIgA抗体である.現在の不活化インフルエンザワクチンはIgGを誘導してもIgAの誘導能は乏しいとされている.ただし,不活化ワクチン接種者の末梢単核球においては,経鼻弱毒生ワクチン接種者に比してより多くのIgA,IgGを産生していることが証明されており[8],実際に上述の通り,学童集団接種で発症予防効果もあることが示されている.つまり「インフルエンザを完全には予防できない」だけで,年度によるが,実際には60%前後の予防効果が得られる.米国ではインフルエンザワクチンの有効率が毎年1月に米国CDCのMMWR速報で報告されている.

■本邦での調査では,6歳未満児におけるインフルエンザワクチンの予防効果は42-69%,入院防止効果は71-72%と報告されている[9].ハイリスク患者ではどうであろうか?最も厳しい論文評価を行うとされるコクランメタ解析でも,免疫力が低下した癌患者においてインフルエンザワクチンが安全かつ死亡リスクを減少させることが報告されている[10].糖尿病患者においては肺炎やインフルエンザ,さらにはあらゆる原因による入院をインフルエンザワクチン接種で減少させたと報告されている[11].6報RCT,6735例のメタ解析では,心血管ハイリスク患者に対するインフルエンザワクチンは心血管イベントリスクを36%有意に減少させ,特に最近の急性冠症候群の既往のある患者では55%有意に減少させたと報告されている[12].HIV感染者102例でのRCT[13]では,2回投与により100%の有効性を報告している.

■このように,あげていけばキリがないが,ハイリスク患者でのインフルエンザワクチンは有効であるとする報告は非常に多い.逆に言えばハイリスク患者はそれだけインフルエンザで重症化・死亡するリスクが高いということであり,この集団への感染を極力防ぐためにも,一般人へのインフルエンザワクチン接種が推奨されるわけである.ただし,前述の通り高齢者では有効性が落ちることが知られており,これは近年の日本の報告[14]でも示されている.実際に65歳以上でもインフルエンザワクチンが有効とする無作為化試験が存在しない(ただし,60歳以上という設定の1838例RCTでは有効との報告が1報[15]ある)ことから,高齢者に一律ルーチンでインフルエンザワクチンを推奨する方針は考え直すべきであろう.

■64歳以下の健常人での数百例以上の規模を有する無作為化比較試験では,現時点ですべて有効であるとの報告がでている[16-18]

■また,インフルエンザワクチン製造の段階で株の変異が生じ,目的としているワクチン株とは異なる株になっていることも最近判明し,2013-2014年シーズンからはそのような変異を抑制するように製造工程を見直したため,予防効果が増強されることが期待されている.ただし,そのシーズンに流行するウイルス株をはずしてしまうと予防効果が落ちることは避けられない.

■インフルエンザワクチンの有効性を高める方法として,probiotics製剤,漢方(補中益気湯など),マクロライドを接種期間前後に投与することが検討されているが,抗体価はあがるものの,実際の予防効果を検討した報告はまだない.

[1] http://www.kangaeroo.net/D-maebashi-F-top.html
[2] Simonsen L, Reichert TA, Viboud C, et al. Impact of influenza vaccination on seasonal mortality in the US elderly population. Arch Intern Med 2005; 165: 265-72
[3] Reichert TA, Sugaya N, Fedson DS, et al. The Japanese experience with vaccinating schoolchildren against influenza. N Engl J Med 2001; 344: 889-96
[4] Charu V, Viboud C, Simonsen L, et al. Influenza-related mortality trends in Japanese and American seniors: evidence for the indirect mortality benefits of vaccinating schoolchildren. PLoS One 2011; 6: e26282
[5] Anderson EJ, Shippee DB, Weinrobe MH, et al. Indirect protection of adults from rotavirus by pediatric rotavirus vaccination. Clin Infect Dis 2013; 56: 755-60
[6] Sugaya N, Takeuchi Y. Mass vaccination of schoolchildren against influenza and its impact on the influenza-associated mortality rate among children in Japan. Clin Infect Dis 2005; 41: 939-47
[7] Kawai S, Nanri S, Ban E, et al. Influenza vaccination of schoolchildren and influenza outbreaks in a school. Clin Infect Dis 2011; 53: 130-6
[8] Sasaki S, He XS, Holmes TH, et al. Influence of prior influenza vaccination on antibody and B-cell responses. PLoS One 2008; 3: e2975
[9] Katayose M, Hosoya M, Haneda T, et al. The effectiveness of trivalent inactivated influenza vaccine in children over six consecutive influenza seasons. Vaccine 2011; 29: 1844-9
[10] Eliakim-Raz N, Vinograd I, Zalmanovici Trestioreanu A, et al. Influenza vaccines in immunosuppressed adults with cancer. Cochrane Database Syst Rev 2013; 10: CD008983
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[12] Udell JA, Zawi R, Bhatt DL, et al. Association between influenza vaccination and cardiovascular outcomes in high-risk patients: a meta-analysis. JAMA 2013; 310: 1711-20
[13] Tasker SA, Treanor JJ, Paxton WB, et al. Efficacy of influenza vaccination in HIV-infected persons. A randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Ann Intern Med 1999; 131: 430-3
[14] Suzuki M, Yoshimine H, Harada Y, et al. Estimating the influenza vaccine effectiveness against medically attended influenza in clinical settings: a hospital-based case-control study with a rapid diagnostic test in Japan. PLoS One 2013; 8: e52103
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[16] Nichol KL, Lind A, Margolis KL, et al. The effectiveness of vaccination against influenza in healthy, working adults. N Engl J Med 1995; 333: 889-93
[17] Bridges CB, Thompson WW, Meltzer MI, et al. Effectiveness and cost-benefit of influenza vaccination of healthy working adults: A randomized controlled trial. JAMA 2000; 284: 1655-63
[18] Hoberman A, Greenberg DP, Paradise JL, et al. Effectiveness of inactivated influenza vaccine in preventing acute otitis media in young children: a randomized controlled trial. JAMA 2003; 290: 1608-16
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by DrMagicianEARL | 2013-11-27 00:00 | 感染症 | Comments(3)
■短時間作用型β1アドレナリン受容体選択的遮断薬であるランジオロール(商品名オノアクト®)が11月22日に「心機能低下例における頻脈性不整脈(心房細動・心房粗動)」が効能追加承認され,これまで周術期のみの適応がはずれ,内科領域でも使用可能となった.申請の際の試験は2013年4月にCirculation Journalに掲載された以下に紹介するJ-Land studyである.
心房細動/粗動と左室機能障害を有する患者における頻拍の緊急管理:超短時間作用型β1選択的遮断薬ランジオロールとジゴキシンの比較(J-Land Study)
Nagai R, Kinugawa K, Inoue H, et al; J-Land Investigators. Urgent management of rapid heart rate in patients with atrial fibrillation/flutter and left ventricular dysfunction: comparison of the ultra-short-acting β1-selective blocker landiolol with digoxin (J-Land Study). Circ J 2013; 77: 908-16
PMID:23502991

Abstract
【背 景】
左室機能障害における心房細動(AF)または心房粗動(AFL)の際の頻拍は心機能をしばしば損ないうる.

【目 的】
このJ-Land Studyは,左室機能障害を有する患者でのAF/AFLによる頻脈の迅速な制御において,超短時間作用型β遮断薬であるランジオロールの有効性と安全性を,ジゴキシンと比較したものである.

【方 法】
AF/AFL,心拍数≧120回/分,左室駆出率25-50%の患者200例をランジオロール群(n=93)とジゴキシン群(n=107)に無作為に割り付けた.心拍数制御成功は,ランジオロールまたはジゴキシンの静脈内投与開始から2時間での心拍数<110回/分かつ心拍数の20%以上の減少と定義した.ランジオロールの用量は患者の状態に合わせて1-10μg/kg/minの範囲で調整した.
原文から抜粋追記:ジゴキシンは0.25mgを静注.

【結 果】
ベースラインの平均心拍数は,ランジオロール群が138.2±15.7回/分,ジゴキシン群が138.0±15.0回/分であった.心拍数制御成功は,ランジオロールで治療された患者の48%,ジゴキシンで治療された患者の13.9%で達成された(p<0.0001).重篤な有害事象は各群でそれぞれ2例,3例報告された.

【結 論】
左室機能障害を有するAF/AFL患者において,ランジオロールはジゴキシンよりも頻拍制御により有効であり,この臨床状況において治療的オプションと考えられた.
■ランジオロールは短時間作用型β1遮断薬であるが,本邦以外では使用されていない.海外では同系統の薬剤としてエスモロールが使用されている.基本的には血圧降下作用はエスモロールの方が強く,心拍数低下作用はランジオロールの方が強い.よって,rate controlの観点ではランジオロールの方が安全かつ有効であることが予想されるが,ランジオロール自体が内科領域では初めてのRCTであり,当然ながら直接比較はなされていない.

■本ブログは敗血症をメインに取り扱っているため,敗血症性ショックにおける可能性を論じたいが,なにぶんまだエビデンスがない状況にある.加えて,このJ-Land Studyは全身性炎症反応症候群(SIRS)患者があまり含まれておらず,主たる対象は心疾患患者である.SIRS病態において「心機能低下例における頻脈性不整脈(心房細動・心房粗動)」を合併する患者は非常に多いことが想定されるが,現時点でSIRS患者でのランジオロールの有用性についてはほぼ皆無に等しく,エビデンスが作られるのはこれからである.敗血症性ショックに代表されるSIRS患者において頻脈が循環動態を悪化させている場合に有効な可能性について検討しなければならない.なお,このような状態ではCa拮抗薬やジギタリス製剤も考えられるが,Ca拮抗薬は血圧低下作用が強く,その陰性変力作用ゆえに重症例では心停止をきたすこともある.ジギタリス製剤もSIRS病態では効果が減弱する.

■短時間作用型β1遮断薬が敗血症性ショックにおいて予後を改善させる可能性については先日JAMA誌に報告されたエスモロールのPhase2 RCT[1]が物語っており,本ブログにおいても文献紹介とレビューを行った[2]のでそちらを参照されたい.ただ,そのレビューではややいいことばかり書きすぎな印象も否めないので,以下に他の薬剤もふまえた,「高用量ノルアドレナリンに反応しない敗血症性ショック」での考察の追加を述べるので,あわせて判断していただきたい.

■このPhase 2は,28日死亡率はエスモロール群49.4%,対照群80.5%(調整後HR 0.39, 95%CI 0.26-0.59, p<0.001)という驚異的治療成績ではあるが,154例のそれほどサンプルサイズが大きくないRCTであり,予後も大幅に改善したとはいえプライマリアウトカムではなく,対照群の死亡率の高さ(80.5%)も気になるところではある.近年の報告では敗血症性ショックの死亡率は約25-45%程度であり,この80.5%をどうとらえるかであるが,対象患者集団が頻脈かつ高用量ノルアドレナリン投与下でも改善が得られないという,敗血症性ショックの中でも特に難治例であることを考慮すると妥当な可能性はあるかもしれない.実際に,Sviriら[3]はICU患者の循環作動薬の必要度と死亡率の関連を調べた観察研究(イスラエル)で,高用量(≧40μg/min)のノルアドレナリンを要した患者のICU死亡率は84.3%(非高用量と比較してOR 5.1; 95%CI 2.02-12.9; p=0.0001),院内死亡率は90%(OR 3.82; 95%CI 1.28-11.37; p=0.016)であった.

■こう見ると,やっぱり対照群の死亡率は妥当で,β遮断薬は有用かのように見えるわけだが,高用量ノルアドレナリンを有する患者でのオプションは他にもあり,バソプレシン,低用量ステロイド,アドレナリン,PMX-DHPなどが考えられる.

■敗血症性ショック患者における頻脈は高用量のノルアドレナリン投与自体も原因となりうる.バソプレシン投与はノルアドレナリン必要量を減じることで頻脈を減少させる可能性があり,また,ノルアドレナリン自体もわずかながらβ刺激作用があるため,ドパミン・ドブタミンほどではないものの炎症増悪作用があることから,バソプレシンへの移行により炎症増悪を抑制し,頻脈を誘発するサイトカインを抑えうる[4].Russellらの行ったVASST study[5]は,800例でノルアドレナリン+バソプレシン併用群とノルアドレナリン単独群を比較したRCTであり,28日死亡率(35.4% vs 39.3%, p=0.26),90日死亡率(43.9% vs 49.6%, p=0.11)は有意差がないものの併用群で低い傾向がみられ,非重症例に限定したサブ解析では併用群で有意な死亡率低下がみられた(26.5% vs 35.7%, p=0.05).このことから,β遮断薬使用の前にバソプレシンを優先すべきかもしれない.ただし,VASST studyでは重症例では死亡率に有意差がついていないこと,cold shockでは使用できないことなどの限界がある.

■PMX-DHPについては,内因性カンナビノイド吸着による昇圧効果[6]は期待できるが,バソプレシンに勝るとするエビデンスはなく,PMX-DHPとバソプレシンを比較した60例後ろ向きマッチングコホート研究[7]では90日死亡率はバソプレシン群が有意に死亡率が低かった(17% vs 47%, p=0.008).また,重症例(大腸穿孔症例において,POSSUM予測死亡率70%以上)では有効でないとする報告[8]や,敗血症から敗血症性ショックへと移行する過程のごく初期にしか奏功しにくい[9]ということもあり,高用量ノルアドレナリンを要する症例での位置づけは低くなる.

■低用量ステロイド療法は賛否両論ではあるが,日本ではバソプレシンよりも好まれているようである.この低用量ステロイド療法については2つのRCTが代表的である.一方はAnnaneらの300例のRCT[10]であり,輸液にも血管収縮薬にも反応しない難治例におけるステロイド投与群とプラセボ群を比較し,ステロイド群で28日死亡率が有意に低かった(55% vs 61%, p=0.03).一方,CORTICUS studyでは同じく輸液にも血管収縮薬にも反応しない難治例500例を対象とし,ステロイド群とプラセボ群を比較したRCT[11]を行ったが,28日死亡率に有意差はみられなかった(34.3% vs 31.5%, p=0.51).この試験では,ステロイド群の方がショック離脱は早いが,感染による新たな敗血症発症リスクが高いという結果であった.Annaneらの報告の方が死亡率が高いことから,ベースラインの重症度に差があり,低用量ステロイドは重症例では奏功しうるが,非重症例では奏功しにくい可能性がある.また,輸液にも血管収縮薬にも反応しない難治例という集団において対照群の死亡率はいずれも31.5%と61%で,エスモロールのPhase2の対照群の死亡率80.5%はやはり高いのか?という疑問が残るが,ステロイドのRCTが頻脈を伴う難治例であったかは不明である(病態を考えると通常ならば頻脈になっているだろうという予想はつくが).

※バソプレシンで四肢疎血の出現を経験し,痛い目にあったので使用しなくなり,低用量ステロイドを使用している施設がそれなりにあるようである.私自身はノルアドレナリンの次のオプションとしてはステロイドよりもバソプレシン派で(ただし,高度炎症病態であるにもかかわらず血糖値は100未満の場合は副腎機能不全も考慮して,ステロイドを優先して選択することがある),バソプレシンを使用するときは,輸液をやや過剰気味に入れてからバソプレシンで締め上げるイメージで使用している.末梢ボリュームをある程度確保して使う必要はあるのではないかと思われる.

■アドレナリンに関してはSSCG 2012[12]で第2選択に挙げられてはいるものの,β遮断薬が適応となるような頻脈での血行動態破綻例に対してはさらに頻脈を助長し,火に油をそそぐようなものかもしれない.アドレナリンとβ遮断薬を併用すると有用な可能性はあるが,現時点ではエビデンスがなく推測にとどまる.

■以上から,「高用量ノルアドレナリンでも反応しない,頻脈性のAF/AFLを伴う血圧低下例」においては,まずはバソプレシン併用(cold shockなら使用不可),効果不十分ならさらに低用量ステロイドを追加すべきで,それでも奏功しない場合にアドレナリン持続投与を行いながらランジオロールを併用するという最終手段的使用方法が考えられる.ただし,頻脈が心拍出量を保つ代償機構としての結果なのか頻脈で血行動態が破綻しているかの鑑別が事前に必要である.ランジオロール自体が半減期が非常に短いため,頻脈を抑制すると同時に血圧が下がった場合はすぐに切れば状態もすみやかに戻ると推察されるが,安全かつ有効に使用するためにも心臓超音波検査,PiCCOなどでのモニタリングによる評価が不可欠であろう.一方,頻脈が血行動態破綻の原因と判明した状態でランジオロールを使用するならば,バソプレシンまたは低用量ステロイドとの比較試験が今後必要であり,使用する施設ではぜひそのようなデータの評価を発表してほしいところである.

[1] Morelli A, Ertmer C, Westphal M, et al. Effect of heart rate control with esmolol on hemodynamic and clinical outcomes in patients with septic shock: a randomized clinical trial. JAMA 2013; 310: 1683-91
[2] DrMagicianEARL. 【文献+レビュー】敗血症性ショックに対するβ遮断薬は有用か?無作為化比較試験 2013 Oct.15 http://drmagician.exblog.jp/21195780/
[3] Sviri S, Hashoul J, Stav I, et al. Does high-dose vasopressor therapy in medical intensive care patients indicate what we already suspect? J Crit Care 2013 Oct 17
[4] Russell JA, Fjell C, Hsu JL, et al. Vasopressin compared with norepinephrine augments the decline of plasma cytokine levels in septic shock. Am J Respir Crit Care Med 2013; 188: 356-64
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[6] 今泉均,升田好樹,黒田浩光,他.Ⅳ急性血液浄化法の適応疾患.急性血液浄化法徹底ガイド.東京,総合医学社 2006: 130-7
[7] Sawa N, Ubara Y, Sumida K, et al. Direct hemoperfusion with a polymyxin B column versus vasopressin for gram negative septic shock: a matched cohort study of the effect on survival. Clin Nephrol 2013; 79: 463-70
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[9] 松田兼一,平澤博之,織田成人,他.Endotoxin除去療法.日外会誌 2002; 103: 880-6
[10] Annane D, Sébille V, Charpentier C, et al. Effect of treatment with low doses of hydrocortisone and fludrocortisone on mortality in patients with septic shock. JAMA 2002; 288: 862-71
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[12] Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, et al; and the Surviving Sepsis Campaign Guidelines Committee including the Pediatric Subgroup. Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Severe Sepsis and Septic Shock: 2012. Critical Care Medicine 2013; 41: 580-637
[PR]
by DrMagicianEARL | 2013-11-26 02:10 | 敗血症 | Comments(0)
■低体温療法について大規模RCTがはじめて報告されましたので紹介します.2002年にNEJM誌に報告された低体温療法の有用性のエビデンスが11年たって同じNEJM誌上でくつがえされました.これまでの推奨に大きな影響を与えることは間違いないでしょう.
心停止後の目標体温管理33℃ vs 36℃(TTM study)
Nielsen N, Wetterslev J, Cronberg T, et al; the TTM Trial Investigators. Targeted Temperature Management at 33℃ versus 36℃ after Cardiac Arrest. N Engl J Med.2013 Nov 17. [Epub ahead of print]
PMID:24237006

Abstract
【背 景】
院外心停止で意識のない生存者は高い死亡リスクや神経学的予後不良リスクを有する.低体温療法は国際ガイドラインで推奨されているが,支持するエビデンスは限られており,最良の予後に関連する目標体温は知られていない.我々の目的は,発熱防止を目的とした2つの目標体温を比較することである.

【方 法】
この国際的試験では,心原性の院外心停止後の意識のない950例の成人患者を33℃または36℃を目標とした体温管理に無作為に割り付けた.一次評価項目は試験終了までの全死亡率とした.二次評価項目は,Cerebral Performance Category(CPC)scaleとmodified Rankin scaleで評価による180日での神経学的機能予後不良または死亡とした.

【結 果】
全体で939例の患者が一次解析に組み込まれた.試験終了時点で,36℃群の患者の死亡率が48%(225/466例)であったのに対し,33℃群では50%(235/473例)の患者が死亡した(HR 1.06; 95%CI 0.89-1.28; p=0.51).180日の追跡で,死亡またはCPCで評価した神経学的予後不良は,36℃群の患者で52%であったのに対し,33℃群では54%であった(RR 1.02; 95%CI 0.88-1.16; p=0.78).modified Rankin scaleを用いた解析では,両群とも52%であった(RR 1.01; 95%CI 0.89-1.14; p=0.87).既知の予後規定因子で調整した解析結果でも同等であった.

【結 論】
心原性院外心停止で意識のない生存者においては,33℃を目標とした低体温は,36℃を目標とした場合と比較して有益性は認められなかった.
■本研究はこれまでの報告より規模・質ともに高く,これまでのエビデンスをくつがえす結果であり,低体温療法の推奨度が下げられることは避けられないと思われる.低体温療法が有益性を示せなかった理由としては,集中治療管理の進歩により死亡率が改善し潜在的有益性が減少してしまったこと,集団選択性が低いこと(このためサンプルサイズを大きくしえたともいえる)などが考えられ,安直に低体温療法を完全否定すべきではなく,低体温療法の恩恵を受けうる集団を特定し,評価する研究が必要である.また,心停止蘇生後患者の体温管理に関する研究は,管理法がバラバラであり,本研究で目標とした33℃と維持期間,復音等のプロトコルがベストな低体温療法であったのかも明らかではない.この研究で重要なのは常温療法の有益性なのかもしれない.

■救急医学2013年9月号は体温特集であり,心停止後症候群の体温管理の項で「低体温療法を考慮することは今や当たり前のオプション」「本治療のプロトコルを成し遂げることが患者の機能的予後の改善につながることを忘れてはならない」と強く低体温療法を推奨する書き方であったのが記憶に新しい.しかし,臨床的根拠は2002年のNEJMに報告された小~中規模のRCT2報のみであり,やはりサンプルサイズや過去の報告の問題点を加味した研究で再検討された場合,エビデンスはくつがえることがあるといういい一例であろう.また,いかに優れたエビデンスであっても,年数がたてば他の治療の進歩,社会的背景の変化などでエビデンスの妥当性も揺らぎうるため,ある一定年数がたてば再度検証するという姿勢は必要なのかもしれない.質の高いシステマティックレビューによるエビデンスでも賞味期限1年以内が15%,2年以内が23%,賞味期限の平均期間はわずか5.5年(95%CI 4.6-7.6)しかなく,心血管領域のエビデンスの賞味期限はもっと短い[1]質の高いエビデンスといえどもその妥当性はTPO(Time Place Occasion)の影響を免れない(私の持論です).

■また,本研究では,延命治療を中止のプロトコルを採用していることが特徴である.ほとんどの先行研究では神経学的予後不良のため生命維持を中止することが最も多い死因であり,長期的予測を行う上で確実な方法がないという問題点をかかえていた.本研究では治療の中止された患者へのアプローチが詳細に記載されている.

■近年,重症患者における解熱薬を含めた体温管理に関する研究がさかんであるが,低体温に関する研究は依然として少ない.病的低体温と治療的低体温を同列に扱うことはできないが,低体温が予後不良に関連しうる報告があることも事実である.実際には重症患者では正常体温~高熱が一般的であり,低体温の患者は多くないため,発熱時に比して低体温が生体に与える有益性・有害性等の影響の知見はまだまだ少ないといえ,今後さらなる解明が必要である.

1.これまでの低体温療法のエビデンス
■まず,用語について整理する.低体温で管理を行う治療法は以前まで低体温療法(therapeutic hypothermia)とされ,また,これに対して35-37℃の常温にコントロールする治療法は常温療法(induced normothermia)とされていた.常温療法は発熱を回避するという意味でanti-hyperthermia,fever controlとも表現されていた.2009年にATS,SCCM,ERS,ESICM,SELFの5学会によるコンセンサスカンファレンスが開催され,低体温療法(therapeitic hypothermia)という言葉を使用せず,目標体温管理(targeted temperature management:TTM)に統一し,導入induction,維持maintenance,復温reversionについてのプロファイル記載が推奨された[2].これは,目標体温設定,冷却方法,維持期間,復温速度などがこれまでの研究ではバラバラで評価が困難であったことへの対策である.

■心停止蘇生後患者に対する低体温での脳保護効果の知見は1958年のWilliamsらの報告までさかのぼる.この報告で低体温療法(therapeutic thpothermia)に関心がもたれるも,技術的問題により普及することはなかった.しかし,1990年代に入って技術向上により低体温療法が再び注目され,2002年に報告された2つのRCT[3,4]が低体温療法の有効性を示したことから,心肺停止後の脳障害に対して低体温療法がガイドラインで推奨されるに至った[2,5]

■Hypothermia after Cardiac Arrest Study Group[3]は,心室細動による院外心停止患者273例に対する低体温療法を検討した欧州9施設共同RCTを行った.低体温群は膀胱温32-34℃を24時間維持するプロトコルと用いており,6ヶ月後の神経学的予後が良好であったのは低体温群55% vs 常温群39%(p=0.009; RR 1.40; 95%CI 1.08-1.81),死亡率は低体温群41% vs 常温群55%(RR 0.74; 95%CI 0.58-0.95)であり,低体温療法が有意に予後を改善していた.

■Bernardら[4]は,心室細動による院外心停止患者77例に対する低体温療法を検討した豪州4施設共同RCTを行った.低体温群は自己心拍再開から2時間以内に深部温度を33℃に冷却し,12時間維持するプロトコルを用いており,退院時の神経学的予後が良好であったのは低体温群49% vs 常温群26%(p=0.046),調整後オッズ比は5.25(95%CI 1.47-18.76; p=0.011)であり,低体温療法が有意に神経学的予後を改善していた.

■一方,初期調律が心室細動でない心停止患者では低体温療法が有用であるとする明確なエビデンスはなく,PEAや心静止においては2つの小規模RCT[6,7]では有用性は示されず,Dumasら[8]の1145例多施設共同後ろ向きコホート研究においても初期調律がVF/VTであれば低体温療法が神経学的予後良好と関連したが,PEA/心静止では関連しなかった.本邦14施設452例の低体温療法の解析(J-PULSE-HYPO)[9]でも初期調律がPEA/心静止の症例では予後は不良であった(ただし,発症から16分以内に蘇生できた症例では初期調律がVF/VTであった患者群と有意差はない).除細動非適応の心停止患者387例の単施設前向き観察研究[10]では,低体温療法の神経学的予後や生存率への有効性は認められなかった.これらの結果から,PEA/心静止患者では心原性心停止の割合が少なく,脳虚血時間が長く,心停止の原因が多様であるために低体温療法が奏功せず,むしろ有害となる可能性もあることが分かる.

2.低体温療法の目的と有害事象
■心停止後症候群(PCAS)では83%に(脳障害で神経学的予後悪化と関連しているとされる)72時間以内の38℃以上の発熱が認められると報告されており[11],PCASにおいて脳障害の増悪と発熱が関連しているとの報告もある[12].脳障害は発熱を誘発し[13],発熱は脳障害を増悪させる[14,15]とする悪循環に陥ってしまうため,体温管理が必要であるという考えが現在では主流となっている.

■体温を常温にコントロールするのか,より低い体温にコントロールするのかについてこの10年で議論がなされてきた.低体温では脳血流と代謝が低下し,PCASでの脳の障害が軽減するとされている.すなわち,侵襲直後の脳障害ではなく,侵襲後に緩徐に心呼応していく脳障害を防止するのが低体温療法である.この脳障害は,神経細胞の代謝によるATP枯渇から細胞外毒素であるグルタミン酸が放出,フリーラジカルやアポトーシスによって生じてくる.低体温療法はこれらを抑制する[16-18]

■低体温療法による合併症には,感染症,血小板減少,血液凝固異常,高血糖,過冷却,脱水,不整脈や血圧低下,低カリウム血症,シバリング,低二酸化炭素などがある.特に感染症リスク増加は報告が多く,注意が必要である.低体温療法について検討した23報RCT,2820例のメタ解析[19]では,低体温療法は全感染症リスクを増加させない(RR 1.21; 95%CI 0.95-1.54)が,肺炎リスクは1.44倍(95%CI 1.10-1.90),敗血症リスクは1.80倍(95%CI 1.04-3.10)に有意に増加したと報告されている.

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by DrMagicianEARL | 2013-11-21 21:46 | 文献 | Comments(0)
敗血症とせん妄(2) ~せん妄の予防~
■鎮静薬のふみこんだ話はボリュームがかなり大きいので,別のまとめで扱うことにし,今回はガイドラインに沿った話でまとめた.起こったせん妄に対する治療は重要だが,まず予防することである.
Summary
・せん妄の危険因子は認知症・高血圧・アルコール依存症の既往,入院時の重症度,昏睡,ベンゾジアゼピン系薬の使用である.
・早期リハビリテーションはせん妄予防となる.
・せん妄予防目的での薬物療法は,ハロペリドール,非定型抗精神病薬,デクスメデトミジンなどが有効な可能性がいくつかのRCTで示されているが,現時点ではエビデンスが乏しく,推奨されていない.
・ICUにおける睡眠障害はせん妄の大きな要因であり,光・音などのICU環境の制御により睡眠の質と量を改善することでせん妄を予防できる可能性がある.

5.せん妄の予防
(1) せん妄の危険因子
■ICUに入室した患者のせん妄の危険因子は以下の通りである[6]
ICUせん妄危険因子
① 既存の認知症[36-38]
② 高血圧の既往[13,39]
③ アルコール依存症の既往[13,38]
④ 入院時点で重症度の高い疾患[13,34,36,40]
⑤ 昏睡[13]
⑥ ベンゾジアゼピン系薬の使用[41]
■せん妄発症に関与している生体因子は以下の通りである.
① 神経伝達物質の異常:アセチルコリンの減少,ドーパミン,セロトニン,GABA,グルタミン酸,ノルアドレナリンの増加
② びまん性脳神経障害:脳虚血,脳血流低下,高血糖,低血糖,血管内皮障害および微小血栓形成
③ 内分泌機能:コルチゾールなどの副腎皮質ホルモン,甲状腺ホルモン
④ 不眠
⑤ 代謝異常:高ナトリウム血症,高カルシウム血症,高浸透圧,尿毒症
■せん妄を予防するにはまず上記に示したリスク因子のうち可能なものは回避もしくは治療することが基本原則である.

(2) 早期リハビリテーションによるせん妄予防
■成人ICU患者では,せん妄の発現抑制と期間短縮のために,可能な限り早期モビライゼーションを促すことが推奨される.

■Schweickertらは,人工呼吸器を装着した成人患者104例で,1日1回の鎮静中断に,早期モビライゼーション(理学療法・作業療法)を加える介入群と加えない対照群を比較したRCT[42]を行ったところ,28日間の観察で,介入群で有意にせん妄期間が短縮し(中央値2.0日[IQR 0.0-6.0] vs 中央値4.0日[IQR 2.0-8.0]; p=0.02),人工呼吸器を装着していない期間も有意に短縮した(23.5日[7.4-25.6] vs 21.1日[0.0-23.8]; p=0.05).

■Needhamらは,人工呼吸器を装着した内科ICU患者を対象として,集学的チームにより深鎮静を減じ,モビライゼーションを促進する質改善プロジェクトを施行し,57例での前後比較研究を行った[43].その結果,プロジェクト開始後でベンゾジアゼピン系薬の使用,鎮静薬の用量が有意に減少し,鎮静・せん妄状態が改善した.2013年にも同様に,早期モビライゼーションの質改善プログラムの導入がICU在室期間,入院期間の短縮とともに鎮静薬の必要度とせん妄を減少させたと報告している[44]

(3) 薬物療法によるせん妄予防
■せん妄治療としての薬物療法は推奨があるものの,これらを予防目的で使用することはガイドラインでは推奨されていない.具体的にはハロペリドール,非定型抗精神病薬(セロトニン・ドパミン遮断薬SDA;リスペリドン,ペロスピロン,ブロナンセリン,パリペリドン/多元受容体作用抗精神病薬MARTA;オランザピン,クエチアピン,クロザピン/ドパミン受容体部分作動薬;アリピプラゾール)であるが,ICU患者において十分なサンプルサイズ・エフェクトサイズの質の高い研究が存在しないためである.一方,中等度以下の質ではRCTがいくつか存在する.

■Wangらは,65歳以上の心臓以外の術後ICU患者457例に対してハロペリドールの投与を検討したプラセボ対象二重盲検RCTを行い[45],ハロペリドール群がプラセボ群より,術後7日までのせん妄発生率が有意に低く(15.3% vs 23.2%; p=0.031),せん妄発症までの平均期間は有意に長く(6.2日 vs 5.7日; p=0.021),せん妄のない日数は有意に長く(6.8日 vs 6.7日; p=0.027),ICU在室期間が有意に短縮した(21.3時間 vs 23.0時間; p=0.024).Girardらは,6つのICUの人工呼吸器患者101例に対して,ハロペリドール,ジプラシドン,プラセボを比較した二重盲検RCTを行い[46],3群間でせん妄・昏睡の発生や人工呼吸器装着期間,入院期間などに有意差はみられなかった.Prakanrattanaらは,心臓手術を受けた患者126例に対して術後のリスペリドン投与を検討したプラセボ対象二重盲検RCTを行い[47],リスペリドン群がプラセボ群より有意にせん妄発生率が少なかった(11.1% vs 31.7%; p=0.009; RR 0.35; 95%CI 0.16-0.77).また,RCTではないが,van den Boogaardらは,せん妄発症リスク50%以上の患者において,予防的低用量ハロペリドールの投与を検討した476例前後比較研究を行い[48],せん妄発生率(65% vs 75%; p=0.01),せん妄のない期間(20日 vs 13日; p=0.003 )が有意に改善している.

■せん妄リスクを有する術後患者でのせん妄予防を検討した5報RCT(ハロペリドール3報,リスペリドン1報,オランザピン1報),1491例のメタ解析[49]では,せん妄発生率を約半分に減少させる(RR 0.51; 95%CI 0.33-0.79; heterogeneity, p<0.01, random effects model)と報告している.

■デクスメデトミジンをせん妄予防目的で用いることもガイドラインでは有力なエビデンスがないとして推奨していない.Shehabiらは,心臓術後患者306例において,デクスメデトミジンとモルヒネを比較した二重盲検RCT(DEXCOM study)を行っている[50].せん妄発生率はデクスメデトミジン群が少ない傾向であるものの統計学的有意差はなかった(8.6% vs 15.0%; RR 0.571; 95%CI 0.256-1.099; p=0.088).しかし,せん妄期間はデクスメデトミジン群の方が3日間有意に少なかった(2日vs5日; 95%CI 1.09-6.67; p=0.0317).サブ解析では,IABPを施行された患者(20例vs25例)では有意にデクスメデトミジン群でせん妄発生率が少なかった(15% vs 36%; RR 0.416; 95%CI 0.152-0.637; p=0.001).また,デクスメデトミジン群で有意に抜管が早かった(RR 1.27; 95%CI 1.01-1.60; p=0.040, log-rank p=0.036).

(4) せん妄予防のための睡眠の質を改善するICU環境からのアプローチ
■非薬物的なせん妄予防としては,光・音をコントロールするための方策をとる,患者ケアを一括して行う,睡眠サイクルを障害しないように夜間の刺激を減らすなど環境を最適に整えることにより,睡眠を促すことがガイドラインで推奨されている.睡眠中断はヒトにとって有害であることが知られており,睡眠障害はICU患者でよく見られる[51,52].ICU環境(音,光,身体刺激)による覚醒が非常に多く,レム睡眠となるのは稀であり,完全な睡眠サイクルが得られるICU患者は少ない[51,53-56].睡眠障害は組織修復や細胞性免疫を障害し,治癒反応に影響を与える可能性がある[57].重症患者においては,睡眠障害はせん妄を誘発し[58-62],精神的ストレスを増大させる[63,64].しかしながら,ICUの睡眠科学はここ10年であまり進展していない.

■人工呼吸器を装着したICU患者には連続的な睡眠期間がほとんどないことも報告されている[65,66].以上より,ガイドラインではICUのルーチンケアを避け,光を落とし,音を減じるなどして,患者の睡眠を促進する時間を設けるべきであると提案している.しかし,エビデンスはまだ乏しい状況にある.

■アイパッチや耳栓がICU患者の睡眠の質を改善し[67],耳栓によりせん妄が減じたとするRCTもある[68].夜間のICUの音を制御することで,音や睡眠を妨げるケアが有意に減少し,睡眠の質と量も有意に改善することが報告されている[69,70]

敗血症とせん妄(1) ~定義と評価,予後との関連~
→敗血症とせん妄(3) ~せん妄の治療と鎮静薬~(近日UP予定)

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by DrMagicianEARL | 2013-11-18 12:11 | 敗血症 | Comments(0)
■日本の多施設共同研究が報告されたので紹介します.敗血症ではショック有無にかかわらず低体温患者で特に予後が悪いことは経験的によく知られていますが,プライマリアウトカムとして研究されたエビデンスとしてはまだ全くなかった状態で,今回エビデンスとして確認がなされた意味は大きいと思います.
重症敗血症患者での疾患重症度と予後における体温異常の影響:重症敗血症の多施設共同前向き調査による解析
Kushimoto S, Gando S, Saitoh D, et al. The impact of body temperature abnormalities on the disease severity and outcome in patients with severe sepsis: an analysis from a multicenter, prospective survey of severe sepsis. Crit Care 2013; 17: R271
PMID:24220071

Abstract
【背 景】
体温異常は重症敗血症患者においてよく見られる.しかし,体温異常と疾患重症度の関連性については明確ではない.本研究では重症敗血症患者での疾患重症度と予後における体温の影響を検討した.

【方 法】
重症敗血症患者624例が登録され,登録時の体温で6つのカテゴリーに分類された.体温カテゴリー(≦35.5℃,35.6-36.5℃,36.6-37.5℃,37.6-38.5℃,38.6-39.5℃,≧39.6℃)はAcute Physiology and Chronic Health Evaluation II(APACHE II)スコアに基づいている.我々は患者の特性,生理的データ,死亡率を群間で比較した.

【結 果】
登録日では体温≦36.5℃の患者は体温37.5℃の患者より有意にsequential organ failure assessment(SOFA)スコアが悪かった.APACHE IIスコアもまた,体温≦35.5℃の患者が体温>36.5℃の患者と比較すると高かった.28日死亡率および院内死亡率は体温≦36.5℃で有意に高かった.死亡率の差は体温≦35.5℃と体温>36.5℃を比較したときに特に顕著であった.体温≧37.6℃の範囲は体温36.6-37.5℃と比較して死亡に関連はなかったが,28日死亡相対リスクは35.6-36.5℃,<35.5℃の患者でより高かった(それぞれOR 2.032,3.096).低体温あり(≦36.5℃,n=160)またはなし(>36.5℃,n=464)に基づいたグループに患者を分けると,SOFAスコア,APACHE IIスコアと同様に播種性血管内凝固(DIC)スコアも低体温患者で有意に高かった.低体温患者は低体温のない患者と比較して,28日死亡率,院内死亡率が有意に高かった(それぞれ38.1% vs 17.9%,49.5% vs 22.6%).低体温は28日死亡の独立した予測因子であり,低体温有無の差は敗血症性ショックとは無関係に観察された.

【結 論】
重症敗血症患者において,低体温(体温≦36.5℃)は敗血症性ショック発症とは無関係に死亡率と臓器不全の増加に関連していた.
■本報告は2010年に行われた日本救急医学会の前向き調査Sepsis Registryデータの解析結果である.全624例の28日死亡率は23.1%,院内死亡率は29.5%であり,現在の重症敗血症の死亡率としては妥当と思われる.体温36.5℃をカットオフとしたときの低体温は,28日死亡ではOR 2.828; 95%CI 1.900-4.210; p=0.00000016,院内死亡ではOR 3.335; 95%CI 2.284-4.869; p=0.00000000016となり,約3倍程度の死亡リスク増加となっている.なお,2012年に報告された日韓共同FACE study[1]では,敗血症において発熱(体温上昇)は予後に関連していなかったことから,体温では低体温のみが予後関連因子である可能性がある.本報告でショック有無に関係なく低体温の予後が悪いことが示されたことに加え,FACE studyでは解熱薬の投与そのものが死亡率を増加させることも報告されており,敗血症において,体温セットポイントが下がることそのものが,疾患原性,医原性に関係なく予後を悪化させることを示唆しているのかもしれない.

1.発熱
■発熱は集中治療を要する重症患者に頻繁に生じる症状の1つであり[2],全身状態を把握する上で重要な指標となる.集中治療患者の20-70%に発熱が生じることが知られている[3-5].発熱を契機に新たな診察,検査,治療が開始されることは稀ではない[6].また,発熱は,手術[7-10],輸血[11],薬剤投与[12,13],急性拒絶反応[14]など感染症以外の要因でも生じる.

■SIRSにおける体温上昇は,脳血液関門(BBB)がない視床下部に炎症性メディエータ受容体が発現しており,SIRS状態ではAlert Cellとして働き,誘導型シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の転写段階からの産生亢進によるプロスタグランディンE2(PGE2)の産生により発熱反応が誘導される[15]

■発熱は,患者不快感,呼吸需要および心筋酸素需要の増大[16],中枢神経障害[17,18]などを生じる.感染症による体温上昇は,抗体産生の増加,T細胞の活性化,サイトカインの合成,好中球およびマクロファージの活性化を惹起させる自己防衛反応であり[19,20],解熱処置によりこれらの防衛反応が抑制される可能性もある.

■中枢神経障害を有する患者においては,発熱が生命および神経学的予後を悪化させ[21,22],特に心停止後患者では軽度低体温が患者予後を改善させる.しかし,中枢神経障害を有さない重症患者において,どのように発熱をコントロールし,解熱処置を行うべきかについては,明確な指針が存在しない[4]

■発熱が患者死亡率の30%増加と関連することがメタ解析で示唆されている[23].また,重症度など患者情報を調整した多変量解析を行った上で,発熱と患者死亡率増加との関連性を示した報告も存在する[2,24].しかし,これらの結果は全て発熱と患者死亡率との関係を調査した観察研究から得られたものであり,その因果関係を結論付けることはできない.

2.敗血症と低体温
■敗血症初期の体温低下は,熱産生低下や体血管抵抗の減弱が関与する[25].敗血症初期は,白血球系細胞より産生された一酸化窒素に加え,主要臓器の炎症警笛細胞(Alert Cell)より産生されるプロスタノイド,内因性カンナビノイドの血管内皮依存性血管拡張物質により,血管が恒常的に強く拡張する.交感神経緊張により血漿カテコラミン濃度が上昇し,体血管抵抗を保ち,血圧を維持するような代償機構が保てなくなると,拡張した末梢血管より熱放散が高まり,体温が低下する.また,鎮静下では交換神経活性化が抑制されるため,体血管抵抗の減弱により同様の機序で体温が低下する.

■体温異常による敗血症予後についてプライマリアウトカムを評価した報告は今回が初めてであるが,以下に示す重症敗血症を対象としたRCTの二次解析では低体温が予後悪化に関連することが報告されている.

■Clemmerら[26]の報告では,低体温(<35.5℃)は全重症敗血症患者の9%に認められ,発熱患者と比較して,低体温患者では中枢神経機能障害が多く(88% vs 60%),血漿ビリルビン値が高く(35% vs 15%),PT時間が延長し(50% vs 23%),ショックが多く(94% vs 61%),ショックからの離脱失敗が多く(66% vs 26%),死亡率も高かった(62% vs 26%).

■Aronsら[27]は,455例中,44例(9.6%%)に低体温(<35.5℃)を認め,発熱患者と比較した死亡率は70% vs 35%と有意に高かった.低体温患者では尿中のTxB2,プロスタサイクリン,血漿中のTNF-α,IL-6が有意に高かった.

■Marikら[28]は,全患者930例のうち195例(21%)に低体温(≦36.5℃)を認め,28日死亡率は66% vs 41%(p<0.001)と有意に低体温患者が高く,低体温は死亡の独立した予測因子であった.また,低体温患者は登録時点での臓器障害発生率が高かった.しかし,低体温群と非低体温群でサイトカイン濃度に有意差はなく,加えて深部体温と血漿中サイトカインレベルに関連性は見られなかった.

■以上より,敗血症においては低体温はショック有無にかかわらず予後不良因子であることが分かる.加えて,体温をみるとき,その患者に発熱がなく正常体温であっても,それは低体温に移行しつつある状態なのかもしれないことに注意が必要である.

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by DrMagicianEARL | 2013-11-16 16:39 | 敗血症 | Comments(0)
敗血症とせん妄(1) ~病態と評価,予後との関連~
■非集中治療医がICU管理を行う際,いい加減にされがちなのが①栄養管理,②リハビリテーション,そして③不穏・せん妄管理であると思われる(自施設例).ICUのみならず一般的な医療ケアにおいて,不穏,せん妄に対してはきっちりとした指導を受けたこともなく,苦手意識もあってか,私自身が評価や鎮静薬調整を恥ずかしながら病棟看護師に任せていた研修医時代の過去がある.このような傾向は私以外の医師にも多く見られるようであるが,せん妄が予後に関連することが多くの報告で示されてきている以上,医師もせん妄評価・予防・対処についての知識を有しておく必要があり,「とりあえずアタラックスP®」「とりあえずリスパダール®」という盲目的対応しかできない状態から脱却する必要がある.そもそも,(たとえ抗菌薬を分かっていなくても,不適切でICTから指摘されていても)抗菌薬は自分で頑固に選択するのに,鎮静や栄養は他人任せ,というのはおかしな話.ということでかつて鎮静やせん妄対策をいい加減にしていた私自身への自戒の意味を込めてのまとめ.
Summary
・ICU環境そのものがせん妄要因であり,その発生率は想像している以上に多い可能性が高い.
・せん妄は活動性,非活動性,混合性に分けられ,活動性は2%に満たないため,見逃されやすい.
・国際ガイドラインでは,鎮静評価にRASS,SASが,せん妄評価にCAM-ICU,ICDSCが推奨されている.
・ICUのせん妄はICU在室日数,人工呼吸器装着期間,入院期間を延長させ,コストを増加し,ICU退室後あるいは退院後の認知機能,さらには死亡率にまで悪影響を与える.
・ICUのせん妄はPICS(Post-Intensive Care Syndrome)の要因である.
・敗血症患者では,病態そのものによる敗血症性脳症の症状としてせん妄が生じ,敗血症性脳症自体が予後不良因子である.

1.ICUせん妄とは
■せん妄(delirium)は,DSM-Ⅳ[1]において以下のように定義される.
1.注意を集中,維持,転導する能力の低下を伴った意識の障害.
2.認知の変化(記憶欠損,失見当識,言語の障害など),またはすでに進行し,確定され,または進行中の痴呆ではうまく説明されない知覚障害の出現.
3.短期間(通常,数時間から数日)のうちに出現し,1日のうちで変動する傾向がある.
4.病歴,身体診察,臨床検査所見から,その障害が一般身体疾患の直接的な生理学的結果により引き起こされている.
■ICUせん妄の発生要因はICU環境そのものの影響が大きいということは昔から指摘されていたが,一過性のものであり,患者の予後(QOL,死亡率)には影響しない,70歳以上の高齢者であっても一般病棟でのせん妄発生率は20%に満たない[2]とされていたこともあって,ICUせん妄に関する研究は非常に少なかった.

■Elyらは成人内科ICUに入室した48例(人工呼吸管理を受けた患者は24例)を対象とした前向きコホート研究を行っている[3].この報告では,せん妄はICU入室から平均2.6日(標準偏差1.7日)で発症し,せん妄の平均期間は3.4日間(標準偏差1.9日)であった.入院中のせん妄の発生率は81.3%(39例)であり,60.4%(29例)はICUで発生していた.せん妄の期間は,疾患の重症度,年齢,性別,人種,鎮静薬投与で調整後でもICU在室期間(r=0.65, p=0.0001),入院期間(p=0.006)と有意に関連していた.この結果はそれまでのICUせん妄に関する考え方を大きく変え,21世紀に入ってようやくICUせん妄が本格的に研究され始め,その後多数の報告がでてくるようになる.

■せん妄は患者が徘徊する,暴れる,興奮する等の活動的なイメージを持たれがちであるが,実際にはせん妄には活発型(活動過剰型)せん妄(hyperactive delirium, luod delirium)と不活発型(活動低下型)せん妄(hypoactive delirium, quiet delirium)があり(両者が混在するのは混合型せん妄mixed derilium),実は不活発型の方が圧倒的に多く(不活発型43.5-88.6%,混合型10.8-54.2%,不活発型0.7-1.6%)[4,5],そのためか適切な評価をしなければ多くのせん妄が見逃されてしまう.活発型せん妄は軽度・中等度の意識混濁に加え,錯覚,幻覚,妄想,精神運動興奮,不安などの情動変化を示し,RASS(Richmond Agitation Sedation Scale)で+1~+4の状態を表す.不活発型は意識混濁に加え,精神運動抑制を示し,RASSで0~-3の状態を表す.

2.ICUせん妄の評価
■せん妄評価については米国集中治療医学会からの改訂版ガイドラインである「成人ICU患者の疼痛,不穏,せん妄の管理に関する臨床ガイドライン」[6]に示されており,鎮静評価としてはRASSとSAS(Sedation Agitation Scale)が(エビデンスレベルB:moderate),せん妄評価としてはCAM-ICU(Confusion Assessment Method for the ICU)とICDSC(Intensive care Delirium Screening Checklist)が(エビデンスレベルA:high),最も妥当な評価ツールであることが示されている.特にRASSとCAM-ICUは連動して用いることができる.

■RASSはSesslerらが発表した鎮静スケールで,患者をざっと見ただけで判断するようなスケールではなく,いくつかのステップを経て判定する.この適切な判定法を行えば,異なる人間が評価しても再現性も高いスケールである.[7]
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■せん妄の評価ツールであるCAM-ICU[8]はこのRASSを用いた鎮静(意識)評価とせん妄評価の2ステップからなる.看護師へのCAM-ICUについてのアンケートでは非常に有用であるとして受け入れがよいが,その一方でCAM-ICUを用いても医師は評価してくれないという不満も持たれている[9]
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3.せん妄と予後の関連
■2001年のElyらの報告[3]に始まったICU患者のせん妄の研究はその後複数の観察研究によって,ICUのせん妄がICU在室日数,人工呼吸器装着期間,入院期間,コストにとどまらず,ICU退室後あるいは退院後の認知機能,さらには死亡率にまで影響を与えることが示されている[10]

■死亡率悪化を示した最初の報告は2004年のElyらの前向き観察研究の報告[11]であり,人工呼吸器管理中の患者224例をCAM-ICUを用いてせん妄判定を行い,予後を評価している.この報告では,せん妄患者で6ヶ月死亡リスクが有意に上昇することが示された(調整後HR 3.2, 95%CI 1.4-7.7).

■2010年のGottesmanらの冠動脈バイパス術後患者5034例の後ろ向き観察研究(せん妄定義は不明確)においても同様の結果(調整後HR 1.65, 95%CI 1.38-1.97)であった[12].また,この報告では,脳卒中の既往がある場合や,65歳未満である場合の方が死亡リスクが高いことも報告されている. Ouimetらは24時間以上ICUに入室した患者820例をICDSDを用いてせん妄評価した前向き観察研究を行い,ICU死亡率,院内死亡率がせん妄患者で高いことを報告している[13].Abelhaらは,術後ICU患者562例の前向き観察研究を行い,術後ICUせん妄は6ヶ月死亡リスクを2.562倍,院内死亡リスクを2.673倍増加させたと報告している[14]

■2009年にPisaniらは60歳以上の内科ICU患者304例を対象とした前向き観察研究を行い,せん妄期間と1年後の生存率に有意な負の関連性を認めたと報告している[15]

■ICU患者がICU退室,さらには入院後も長期にわたって身体機能,精神機能等を障害され,長期死亡率まで悪化することが知られており,かかる病態はPICS(Post-Intensive Care Syndrome)として認識されるようになった[16,17].このPICSの原因にはせん妄も含まれる.

4.敗血症と敗血症性脳症,せん妄
■敗血症はICU患者の疾患の1つであり,ICU環境や治療介入に伴うせん妄が生じるが,敗血症そのものでも敗血症性脳症としてせん妄を発症しうる.

■救急外来に搬送された敗血症患者に意識障害があるとき,他の要因がなければ,我々はこの意識障害を敗血症性脳症(septic encephalopathy)と判断するが,この敗血症性脳症はどのような状態であろうか.敗血症性脳症は,感染に起因したSIRS(Systemic Inflammatory Response Syndrome全身性炎症反応症候群)の結果生じたびまん性脳障害と考えられ,近年は敗血症関連脳症(sepsis-associated encephalopathy)と呼ばれる[18].また,国際疾病分類で,脳症がせん妄に取って代わったため,敗血症関連せん妄とも呼ばれる[19]

■敗血症性脳症は以下の機序が考えられている.
(1) 炎症性メディエータによる血管内皮細胞の活性化によって引き起こされた血液脳関門(BBB;blood-brain barrier)の崩壊[20]から各種メディエータや神経毒性因子,好中球,マクロファージの脳内侵入をきたすことによる脳内の炎症惹起[18]
(2) サイトカイン,活性酸素種,一酸化窒素による脳ミトコンドリア機能障害[21]とそこからのcaspaseカスケード活性化によるapoptosis[18]
(3) 蛋白異化亢進による分子鎖アミノ酸(BCAA)消費から芳香族アミノ酸(AAA)の相対的増加をきたし,Fisher比(BCAA/AAA)が低下[22,23].このためBCAAと競合的に脳内に取り込まれるAAAの脳内濃度が上昇し,神経伝達物質の生成や代謝に影響を与える.
(4) 脳血管の自動制御機能の障害[24,25]と脳血管内皮細胞の活性化による凝固異常から脳微小循環障害をきたす.
■敗血症性脳症は他の臓器障害よりも早期に起こりやすく,頻度は重症敗血症患者の9-71%とされている[19].この臨床症状としてせん妄が一般的である.前述の通り,ICU患者のせん妄は機能障害と関連しているが,当然ながら敗血症においても例外ではなく,認知・運動機能予後は悪化し,退院後も約半数が歩行に問題を感じているとされる[26,27].また,敗血症性脳症の死亡率は,脳症のない敗血症患者と比較すると約2倍高い[28],敗血症性脳症でGlasgow Coma Scale(GCS)3-8では死亡率は63%に上昇する[29],などが報告されている.

■敗血症性脳症の診断は原則除外診断となる.すなわち,中枢神経疾患,代謝性脳症(臓器障害,ん内分泌異常,低酸素,低血圧,水・電解質異常,酸塩基平衡障害),外因性障害(薬物,体温異常),精神疾患を除外する必要があるが,現実的には臨床の場でこれらを鑑別することは困難である.特徴としては,敗血症が改善しても遷延する脳障害があるが,ICU環境そのものがせん妄の要因となっていることから,敗血症によるものかを判断しにくい.実臨床で敗血症性脳症を診断できる検査も確立はされていない.

■ただし,炎症マーカーがせん妄の予測に関連することが知られており,低いMMP-9(matrix metalloproteinase-9),低いプロテインC,高い可溶性TNF受容体-1[30],高いCRP[31],高いプロカルシトニン[31,32],IL-8[33],トリプトファン,チロシン[34],フェニルアラニン[35]などがせん妄に関連するものとして報告されている.

→敗血症とせん妄(2) ~せん妄の予防と治療~(近日UP予定)

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by DrMagicianEARL | 2013-11-12 18:56 | 敗血症 | Comments(0)
■普段はあまり基礎研究論文は取り上げませんが,2013年11月8日に開催された講演会DIC UP TO DATE 2013で執筆者の工藤先生が御講演され,最近のトピックであるTregについて非常に興味深い研究として聴講させていただいたので紹介します.
重症急性呼吸窮迫症候群マウスモデルにおけるとHMGB-1の関係と遺伝子組み換えトロンボモデュリンの治療効果
Kudo D, Toyama M, Aoyagi T, et al. Involvement of high mobility group box 1 and the therapeutic effect of recombinant thrombomodulin in a mouse model of severe acute respiratory distress syndrome. Clin Exp Immunol 2013; 173: 276-87
PMID:23607598

Abstract
【背 景】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は様々な疾患により誘発される重度の肺の炎症の合併である.症状が重症であるにもかかわらず治療戦略はいまだに有効ではない.DNA結合蛋白として同定されたHigh Mobility Group Box-1(HMGB-1)は急性肺傷害のメディエーターと考えられている.遺伝子組み替えトロンボモデュリン(rTM)は,抗凝固活性に加えて,HMGB-1を中和することで炎症反応を抑制する能力を有する.肺における制御性T細胞(Treg)は急性肺傷害の状態において生来の免疫反応を調整することが報告されている.

【目 的】
本研究では,重症ARDSマウスモデルにおいて,rTMの治療効果とTreg機能の寄与について検討した.

【方 法】C57BL/6マウスにα-galactosylceramide(α-GalCer)とリポポリサッカライド(LPS)を連続的に気管内投与し,重症ARDSに至った.

【結 果】
肺でのHMGB-1レベルはLPS単独投与マウスと比較してARDSマウスの方がより高いレベルに増加した.HMGB-1は肺内に侵潤した好中球とマクロファージから発現されていた.TregはLPS単独投与マウスと比較してARDSマウスの肺で有意に現象していた.rTM投与は,肺内のTreg増加,IL-10とTGF-βの合成に関連しており,生存時間を延長させ,ARDSの進展を阻害した.

【結 論】
これらの結果は,HMGB-1が重症ARDSの進展と関係しており,rTMが炎症部位でのTregの蓄積を促進することで治療効果を発揮することが示唆された.
■東北大学救急の工藤大介先生の報告で,今注目されている制御性T細胞(Regulatory T cell;Treg)のrTMによる治療効果への関与を示唆するものである.しかしながら,このrTMによりTregが増加する機序は直接的ではなく,現時点ではそのメカニズムは不明である.そこで,これまでのTregに関する知見を以下にまとめ,rTMの作用について考察してみた.

1.制御性T細胞(Treg)
■未分化のヘルパーT細胞(Th0)は抗原提示細胞等からのクラススイッチングを受けることでTh1,Th2に分化し,それぞれが特異性を持った免疫反応を惹起するというTh1/Th2パラダイム理論[1]が認識されていた.しかし,その後様々なヘルパーT細胞のサブセットが発見されてきており,Tregもその1つである[2]

■以前からT細胞のうち免疫寛容を引き起こすCD8+ suppressor T cell(抑制性T細胞)が知られていた.これとは別にCD4+で免疫を制御するT細胞が初めて確認されたのは1995年のSakaguchiらの研究である[2].この研究では,IL-2受容体α鎖のCD25分子を発現するT細胞が自己免疫疾患をい抑制することを示しており,CD4+CD25+Tregと呼ばれるに至る.Tregは胸腺内で自然発生する内因性Treg(nTreg)と,IL-10とTGF-βの存在下における抗原刺激によりnaive T細胞から分化する誘導性Treg(iTreg)に分けられる.iTregは1型制御性T細胞(type 1 regulatory T cell:Tr1)と3型ヘルパーT細胞(type 3 helper T cell:Th3)に分類され[3],いずれも他のT細胞活性を強力に抑制するが,nTregがT細胞受容体刺激によって細胞接触依存性にT細胞の活性化・増殖を抑制するのに対し,iTregはTGF-βやIL-10を大量に産生し,他のT細胞の活性化を抑制する[4]

■CD25-T細胞と比較してTregは自己抗原に高い親和性を有しており[5],この高い自己反応性は免疫自己寛容の維持に重要な役割を果たす[6].最近,このようなTregの発生,機能発現を制御するマスター制御遺伝子がFoxp3(X-linked forkhead/winged helix)である可能性を見い出され[7]Tregの研究は一気に加速した.Foxp3はFoxファミリーの転写因子をコードしており,その異常はヒトでIPEXと呼ばれるX染色体性自己免疫/アレルギー/炎症性遺伝疾患の原因遺伝子である.Foxp3は,胸腺,末梢のTregに特異的に発現していると考えられていた.また,正常T細胞にFoxp3を発現させると,機能,表現型の点でCD4+CD25+Tregと同等のTregに転換できる.一方で,Foxp3を発現しないTregの存在も報告されるようになり[8],Tregの多様性が示唆されている.実際には,nTregはFoxp3の恒常的な強い発現が認められるが,iTregはFoxp3の発現も抑制機能も一過性で不安定とされる.この他にも,CTLA-4(cytotoxic T-Lymphocyte Antigen-4)たGITR(glucocorticoid-induced tumor necrosis factor receptor)などが他のT細胞と比較して高発現していることが知られている[9,10]

■Tregの末梢での生存維持は,CD4+CD25-T細胞と比較して,IL-2への依存度が高い[11].一方Treg自身はIL-2の産生を低下させてTh0の分化を抑制するnegative feedback作用を有する.敗血症患者の初期の末梢血においてはIL-2産生が高まるが,この後にTregが30-40%にまで上昇し[12],Th2優位な状態となり,SIRS(systemic inflammatory response syndrome;全身性炎症反応症候群)と相反する病態CARS(copensatory anti-inflammatory response syndrome;代償性抗炎症反応症候群)[13,14]に至り,かかる状態は免疫麻痺状態(immuno-paralysis)[14-16]と称される.また,微生物が生体内に侵入すると,Toll-like receptorを介して活性化された樹状細胞(dendric cell;DC)が活性化し,IL-6産生の関与によりTregによる抑制が解除される可能性が指摘されている[17]

■腸管には様々な種類のTregが存在し,経口免疫寛容や腸内細菌叢に対する恒常性維持に関わっていることが知られており[18],5種類のprobioticsを投与するとTregが増加することが報告され[19],probioticsによるTregの免疫機能恒常性維持が期待されている.

2.今回の報告について
■ここからは私見になるが,rTMが間接作用にせよTregを増加させてARDSマウスモデルの予後を改善させたとする結果については,これまでの知見をふまえると,原疾患によって異なるのではないか?と思われる.このマウスモデルでは,海綿由来の糖脂質であるα-galactosylceramide(α-GalCer)を気管内投与することでNKT細胞を特異的に活性化させる手法[20]を用いており,これまでのLPS気管内投与によるモデルよりもより優れたARDSモデルとされている.そして,このマウスモデルにrTMを投与してもIFN-γ,TNF-αを含む各種サイトカインに変化はみられなかったことから,異なる機序でのrTMの作用の存在が今回の研究で指摘されている.

■しかし,この病態はdirect pulmonary ARDSであり,敗血症性ARDSに代表されるようなindirectモデルではない.上述の通り,Tregは敗血症病態においてはCARS病態への関与も指摘されており,Tregの増加が敗血症性ARDSの予後を改善するかどうかは疑問である.実際に,Hirakiらは,CLP敗血症マウスモデルにおいてTregの増加し,抗IL-10中和抗体,抗TGF-β中和抗体を投与することでTregを制御すると予後が改善したと報告している[21].また,Onoらは,腹腔感染症による敗血症患者32例において,PMX-DHPを施行することで,死亡例より生存例の方がTregが有意に減少していたと報告している[22].これらの報告からも敗血症病態においてはTregの存在がむしろ生体に不利に働く可能性の方が高い.

■以上から,rTMによってTregが増加したとする機序がはたして敗血症性ARDSに有利に働くかについてはむしろ逆ではないかと思われる.あくまでもdirect ARDSに限定した仮説と考えた方がいいかもしれない.また,マウスと異なり,ヒトのCD4+CD25+T細胞中にたくさんの非制御性T細胞も有しているという問題点もあり,動物実験系と実臨床でのアウトカムに違いが生じる可能性も考慮しなければならない[23].炎症病態におけるTregの役割は複雑であり,病態によってTregの存在が有益が有害かが変わってくることが推察される(自己免疫疾患ではTregは有用であるとされている).

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[23] Kwon HK, Lee CG, So JS, et al. Generation of regulatory dendritic cells and CD4+Foxp3+ T cells by probiotics administration suppresses immune disorders. Proc Natl Acad Sci USA 2010; 107: 2159-64
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by DrMagicianEARL | 2013-11-09 19:21 | 敗血症性ARDS | Comments(0)
※今回は文献紹介でもエビデンスレビューでもありません.

■いつも楽しみに見ている日本集中治療教育研究会(JSEPTIC)の内野先生のブログに先日こんな記事があった.
Dr内野のおすすめ文献紹介
無題。 2013年11月02日 | ひとりごと
http://blog.goo.ne.jp/druchino/e/cc85e263bfe4aa6c7bee2c687d0a575d
昨日、ICUに、別の病院の呼吸器内科医から電話がかかってきた。自分が見ている患者さんの人工呼吸器の設定について、教えてほしいと。(以下省略)
内容は記事を見ての通り.一言で言うと,「重症患者の人工呼吸管理は呼吸器内科医ではなく集中治療医が行うべきだ」.私自身も呼吸器内科医だが,別にこの記事で気分を害したわけではない.書いてあることは事実そのものなので.

■先日東京で開催された呼吸器内科医対象のフォーラムで座長の「人工呼吸器を要する場合は集中治療の先生に管理をお願いする」という内容に質疑応答で「集中治療の先生にお願いすると仰ったが,人工呼吸器を扱えなければ呼吸器内科ではない!」とかみついたかなりベテランの呼吸器内科の先生がおられた.これは違うと思う.人工呼吸器さえ扱えればその患者を治療できると考えるのは大間違いで,呼吸のみならず循環,感染,鎮痛鎮静,栄養代謝,神経筋などの全身管理ができることが前提.内野先生もそこをブログで指摘しておられる.

■でははたしてこの全身管理が可能な呼吸器内科医ははたして全国にどれくらいいるのか?さらに言えば本当にICUの花形と言われる人工呼吸器を真に扱える呼吸器内科医ははたしてどれくらいいるのか?おそらくかなり少ないと思われる.かく言う私も,肺癌や慢性疾患はほとんど扱わず,重症肺炎,敗血症性ショック,ARDSを主に診る急性期に特化した(日本では特殊な)呼吸器内科医ではあるが,集中治療医に指導された経験は一度もなく,当然ながら集中治療の資格も有さないし,教科書と文献を読みあさり,学会や研究会で得た知識・エビデンスをもとに治療を行ってはいるが,我流でしかないため,真に全身管理と人工呼吸器管理ができているかと問われると非常にあやしい.

■研修医時代からずっと救急医も集中治療医もいない今の病院に勤務しているが,呼吸器内科医になった3年目の頃は,「ARDSといえば呼吸器内科医の出番」と思ってきた.しかし,他の病院ではそういうわけではないということを知り始め,日本呼吸器学会と日本集中治療医学会に参加すると,「ARDSは集中治療医の出番」というのが現状なのだと思い知らされた.それでも当院には集中治療医がいないため,ARDSは主に呼吸器内科医が診ているし,全身管理もEBMにのっとって行っていて,「呼吸器内科医による人工呼吸患者の管理こそ醍醐味」と胸を張って言いたい部分はある.でも日本の一般的な呼吸器内科はそのような科ではないらしい.というのが,まだ医師になってたいした年数を経ていないながらにも痛感している.

■「肺が悪いのに,全身管理はおろか,人工呼吸器すら扱えない,と呼吸器内科医が他科に言われて悔しくないですか?さびしくないですか?」と他の呼吸器内科医に問うのはおそらく筋違いなんだろう(集中治療医に重症患者をまかせた方が予後がいいであろうことは事実なので).今の日本の呼吸器内科は肺癌と喘息とCOPDと間質性肺炎が主体であることは日本呼吸器学会総会のポスター演題の比率を見れば一目瞭然で,ARDSや肺炎の演題数は驚くほど少ない.高齢者肺炎にいたっては呼吸器内科があっても他の内科で分担して診る病院の方が多いくらいである.しかも,呼吸器内科医以外が肺炎治療にあたっても予後は悪化しないという文献すら存在する[1].肺疾患の急性期領域に呼吸器内科医の出番はもうほとんどないのかもしれない.呼吸器内科という専門性が活かされるのは主に慢性期疾患なのだろう.もっとも呼吸器内科医の数自体が少ないため,急性期にまで人員がさけない事情があると思われる.

■一方の米国では,呼吸器内科医は集中治療領域にも大勢かかわっている.その象徴が米国胸部疾患学会(ATS)であり,その機関誌American Journal Respiratory and Critical Care Medicine(いわゆるブルージャーナル)である.集中治療領域で最もインパクトファクターが高い雑誌はCritical Care MedicineでもIntensive Care MedicineでもCritical Careでもなく,この呼吸器と集中治療の組み合わせのブルージャーナルに他ならない.これは,集中治療領域をどの領域の医師が担ってきたかの歴史の違いである.日本は内科医ではなく麻酔科医と外科医によって担われてきた.このこともあって日本で呼吸器内科医がICUにはりついて治療を行うことは少ない.

■しかし,実際には集中治療医がすべての病院・ICUにいるわけではなく,集中治療医が足りてないという現実もある.日本集中治療医学会は集中治療医を増やして,各病院に配備できるようにしたいとの意向があるようだが,とても実現できるようには思えない,というのが正直な感想である.集中治療医がいるかいないかでICU死亡率,院内死亡率に統計学的有意差があることも2002年にも2013年にも示されており[2,3],「重症患者のあらゆる管理において十分な知識を持った人間しか重症患者管理を行う権利はない」は理想ではある,が現実はそうもいかず,集中治療医が増えるまで患者は待ってはくれない.この差を埋めるには集中治療医がいない病院の方も努力するしかなく,その解決の糸口をなんとかして探るべきだろう.今年の日本呼吸器学会総会学術集会では,集中治療医のいない病院で集学的RST(呼吸サポートチーム)を導入することで患者予後を改善したポスター演題が発表されていた.集中治療の敷居が高いままの膠着状態は解消すべきであり,段階的解決をはかる上でも,非集中治療医ではあるがsemi-intensivistのような医師を各科で養成する必要がある.

■当院では集中治療医がいない穴をできる限り埋めるべく,集中治療に特化した集学的回診・介入を行うチームである「集中治療サポートチーム(Intensive Care Support Team)」をまもなく導入する.栄養,抗菌薬についてはそれぞれに院内のNSTとICTがあるが,いずれも1-2週間に1回という頻度であり,急性期の重症患者のカバーとしては不十分であり,RSTは存在すらしていない(私が当院に入職する前はあったそうだが自然消滅した).第41回日本救急医学会総会学術集会では,栄養セッションにおいて,院内NSTとは独立した,毎日評価を行うICU-NSTの必要性が提示され,実際に複数の施設でICU-NST導入によるアウトカム改善が報告された.このようなケースはICU-NSTに限った話ではなく,ICT,RSTも同様に言えることだと思われる.そこで,NST,ICT,RSTを含む,ICU管理全般のサポートを行う集学的チームとしてのこのICSTを提案した.

■ICST導入の目的は,ICU患者全般に共通する管理項目についての評価・介入(主治医への提案)を行い,ICU管理に不慣れな主治医の治療をサポートし,ICUでの治療・ケアの質を改善することにある.期待されるアウトカムとしては,死亡率改善,薬剤有害事象減少,二次感染症減少,ICU入室期間短縮,入院期間短縮,コスト減少,PICS(Post-Intensive Care Syndrome)減少などであり,また,介入による主治医の集中治療に関する知識の向上・意識変容や,チームに参加するコメディカルスタッフのモチベーションアップなどの副次的メリットも得られる可能性がある.チーム構成は医師(内科系1名,外科系1名),ICU看護師,管理栄養士,理学療法士,薬剤師,臨床検査技師,臨床工学技師となっている.

■ICSTの問題点として,チームに集中治療医がいない,すなわち集中治療のトレーニングを受けて資格を有する者がいないため,チームから主治医への介入にどれだけの妥当性が保証されるかである.この問題点ゆえにICSTの活動が院内の他の医師に理解が得られない可能性も高く,実際に院内敗血症診療プロトコルを作成導入したときにそのような現象は経験済みである(最終的にプロトコル遵守群と非遵守群での死亡率を比較したデータを院内で発表することでプロトコル遵守の周知徹底が会議で発令され,導入から2年間を経てようやく理解が得られた).この解消のためにはICSTの質そのものを上げる努力では不十分で,現状をデータとして院内に提示・共有し,ICSTの活動によって改善したアウトカムをはっきりと示す必要がある.集中治療医がいない病院ならではの苦悩があり,それを発信し,共有して解決策を考えていくこともまた必要だろう.

■日本の医療システムは医師の絶対数,科ごとの医師数の偏りなどの複雑な問題もあり,おそらく10年,20年という年月を経てもそう簡単には変わらないことはこれまでの医療を見ても容易に予想できる.ならば,集中治療医,呼吸器内科医,という専門の縛りを超えた,このシステム内で今できる限り可能な方策を見つけていく方が現実的かつ即効性がある.システムがなかなか変わらないと悲観するよりも,今可能なことを見つけて段階的に解決していく方が夢があるでのはないでしょうか?

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by DrMagicianEARL | 2013-11-05 18:50 | Comments(2)
DIC治療薬recombinant thrombomodulin(商品名:リコモジュリン)とエンドトキシン吸着カラムPMX-DHP(商品名:トレミキシン)についての報告を紹介します.なお,abstractに原文からの情報をやや補足しています.
DICを合併した敗血症性ショックに対するPMX-DHPとリコンビナント・トロンボモデュリンの併用効果:歴史的対照研究
Yamato M, Minematsu Y, Fujii J, et al. Effective combination therapy of polymyxin-B direct hemoperfusion and recombinant thrombomodulin for septic shock accompanied by disseminated intravascular coagulation: a historical controlled trial. Ther Apher Dial 2013; 17: 472-6
PMID:24107274

Abstract
【背 景】
播種性血管内凝固(DIC)と多臓器不全は,High Mobility Group Box-1(HMGB-1)に調整された炎症凝固クロストークによってしばしば生じる.敗血症性ショックにおいては,polymyxin-B direct hemoperfusion(PMX-DHP)は内因性カンナビノイドを吸着することで循環動態を改善し,活性化単核球の吸着により間接的にサイトカインを減少して肺酸素化能を改善する.しかし,PMX-DHPは血漿中を循環するHMGB-1への直接作用はない.DICにおいては,DICに有効な薬剤であるrecombinant thrombomodulin(rTM)が,直接的抗HMGB-1活性により抗凝固作用のみならず抗炎症効果をも発揮する.よって,PMX-DHPとrTMの併用は,DICにおいて多臓器不全にいたらしめるサイトカインストームの悪循環を遮断することが期待される.

【目 的】
本研究の目的は,DICが関連した敗血症性ショックでの併用療法の効果を検討することである.

【方 法】
本研究はPMX-DHPを施行された敗血症性DIC患者22例を連続的に登録した.最初の8例はrTM非投与(対照群),14例はrTMを投与された(rTM群).

【結 果】
背景のSequental Organ Failure Assessment(SOFA)スコアや年齢は両群間で有意差がなかった.
原文からの補足:背景因子の有意差検定はWilcoxon検定,Fisher正確検定を用いている.性別,P/F比,感染巣,培養でのグラム陽性・陰性,CHDF使用,ATⅢ製剤使用についても有意差ないが,P/F比はrTM群でやや低い傾向,肺炎はrTM群で多い傾向あり.PMX-DHP施行期間の中央値(四分位範囲)29.5時間(15.1-55.0)vs7.8時間(2.8-20.8).
rTM群の60日生存率は対照群よりも有意に高かった(85.7% vs 37.5%, p=0.015).
原文からの補足:生存率比較はlog-rank検定を用いている.

【結 論】
PMX-DHPとrTMの併用はDICを合併した敗血症性ショックにおいて有効な可能性があり,生存率の改善が期待される.

COI:執筆者に利益相反はない.
■国立行政法人大阪医療センター腎臓内科の倭先生の報告である.この報告については私も昨年講演会で聴講させていただき,自分の研究のヒントを得させていただいている.abstractで背景(緒言)の部分が非常に長い(半分以上!)というのも珍しいが,確かにここまで説明しないとなぜ併用療法を行ったか伝わらないかもしれない.abstractからは症例数22例の非無作為化小規模研究であること,NNT 2.1という成績であるが,対照群の死亡率が高い印象があること,単施設研究であること,APACHEⅡスコアが不明,などがlimitationと思われ,また,原文を見るにPMX-DHPの施行時間が両群間で異なっていることもlimitationに挙げられる.しかしながら,学問的には非常に興味深い併用メカニズムである.

■PMX-DHP,HMGB-1については本ブログでも特集として扱っているので参照されたい[1,2].本ブログでのPMX-DHPに対する見解のまとめは以下の通りである.
・EUPHAS studyを含め,現時点でPMX-DHPが敗血症の死亡率を改善するとするRCTレベルのエビデンスはなく,血圧上昇効果についてもエビデンスは明確ではない.
・腹部手術を要する敗血症患者においては有用な可能性があるかもしれない.
・活性化好中球吸着が予後を改善しうる根拠は不明確である.
・PMX-DHPがHMGB-1を吸着するか否かは両方の結果が報告されており,現時点では定まっていない.
・現在,フランスのABDO-MIX,米国・カナダのEUPHRATESSがPMX-DHPを評価するRCTとして施行されている.
■PMX-DHPとrTMの併用による直接作用のメリットとしては,PMX-DHPが活性化単核球を抑制し,内因性カンナビノイドを吸着するのに対し,rTMは抗DIC作用に加え,HMGB-1に対する直接的抑制作用がある.これらが相補的に作用し,臓器不全スパイラルを抑止しうるというのがこの報告の考察
である.

■abstractでは「PMX-DHPはHMGB-1に対する直接的作用はない」としている.実際に,Kobayashiらは,PMX-DHPをを敗血症性ショックに施行すると,生存群では翌日にHMGB-1がほとんど検出されなくなったが,死亡群ではむしろ上昇していたと報告しており[3,4],PMX-DHPだけではHMGB-1制御は不十分であるとしている.また,原文では触れられていないが,倭先生自身がPMX-DHPカラム前後でのHMGB-1濃度を測定し,HMGB-1の直接吸着作用がないことを報告している.その一方で,Abeらは,PMX-DHPを施行した20例の解析を行い[5],HMGB-1がカラム前後で濃度が低下していたとも報告している.この点についてはまだ決着がついていないという印象を私は持っている.

■PMX-DHPの施行時間はrTM群が対照群より有意に長く,これが生存率に影響している可能性もある.PMX-DHPの標準的施行時間は2時間であるが,これより長くするとP/F比が改善するとの報告があり[6],実際にrTM群では肺炎患者が多く(rTM群6例,対照群1例),P/F比も高いことから,この違いが影響した可能性はあるかもしれない.しかし考察では,生存群と死亡群とに分けると,PMX-DHPの施行時間に有意差はなかったとのことである.このため,PMX-DHPの施行時間の長さがrTM群と対照群の予後の違いに影響したとは考えにくいと締めくくっている.

■ところで,rTMの抗凝固作用は確立されているとして,抗炎症効果はどこまで期待できるのであろうか?rTMの抗炎症作用については現在4経路が判明しており,①プロテインCを活性化することによる抗炎症効果[7-10],②HMGB-1を直接制御することによる抗炎症効果[11-13],③エンドトキシン吸着作用による抗炎症効果[14],④ヒストンの直接吸着による抗炎症作用[15],がある.しかし,どの経路がどの程度抗炎症作用に寄与しているかは不明である.プロテインCを活性化する経路では,活性化プロテインCとトロンビンの結合体がprotease activated receptor-1に結合する必要があるが,これは細胞表面上で発現しているthrombomodulinとprotease activated receptor-1が近接していなければ効果が発揮しにくく,生体内に投与されて血中を流れるrTMがどこまで関与できるのかは不明確である.エンドトキシンに関してはグラム陰性菌に限られており,エンドトキシンに対する治療が敗血症の予後を改善するかについてはquestionableである[16].敗血症とHMGB-1の関与についても重症敗血症では重要だが敗血症性ショックでは重要でないとの報告もある[17].ヒストンに対するrTMの直接作用もまだ判明したばかりであり,エビデンスは乏しい.

■以上から,私見であるが,rTMの抗炎症作用は抗凝固作用ほどの信頼性がないのではないかと思われ,rTMと相補的な抗炎症作用を有する治療介入が炎症凝固クロストークを遮断すると考えられる.その相補的治療介入として何が最も好ましいか?PMX-DHPなのか,ステロイドなのか,スタチンなのか,あるいはマクロライドなのか?それとも新たな薬剤なのか?今後の基礎・臨床研究に期待すべきfuture directionと考える.

[1] DrMagicianEARL. 敗血症とエンドトキシン計測&PMX-DHP(2) ~PMX-DHPは敗血症の予後を改善しうるか?~. EARLの医学ノート 2013 Sep.4 http://drmagician.exblog.jp/20996440/
[2] DrMagicianEARL. 敗血症性DICの病態(2)~HMGB1とhistone,NETs~. EARLの医学ノート 2012 Sep.2 http://drmagician.exblog.jp/17005857/
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[16] DrMagicianEARL. 敗血症とエンドトキシン計測&PMX-DHP(1) ~エンドトキシン計測は重要か?~ EARLの医学ノート 2013 Sep.2 http://drmagician.exblog.jp/16153340/
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by DrMagicianEARL | 2013-11-01 19:37 | 敗血症 | Comments(0)

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