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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

<   2013年 12月 ( 3 )   > この月の画像一覧

■今年は(よっぽど面白い文献が残り数日ででてこない限り)この記事が最後のアップになります.

■今年もいろんな論文が発表されました.腹臥位療法の有用性を示したPROSEVA study[1],低体温療法の有用性が否定されたTTM study[2],集中治療医有無でのICU治療成績の差を示したWilcoxらのシステマティックレビュー[3],敗血症性ショックに対するエスモロールのPhase II study[4],抗菌薬投与患者へのルーチンのprobiotics投与に疑問を投げかけたPLACIDE study[5],重症疾患患者におけるグルタミンと抗酸化物質が無効であることを示したREDOXS Study[6],救急隊による病院到着前のアドレナリン投与に疑問を投げかけた日本からのNakaharaらの報告[7]が特に印象的でした.ニュースとしては,中国で発生した鳥インフルエンザウイルスA/H7N9,新型インフルエンザ等感染症特別措置法施行,イレッサ訴訟,ディオバン論文不正問題などでしょうか.

■このブログについて主旨等を書いたことがなかったので,2013年を振り返りながら.本ブログは,最初は倉原先生の人気ブログ「呼吸器内科医」のように文献要約をアップしていこうかと思っていましたが,いろいろな意図もあって,レビュー形式で,私の院内の取り組みとパラレルに記事を書いています.イメージとしては,敗血症のUp-to-Dateのつもりで,新しい記事を書くと同時に古い記事は適宜新しいエビデンスがでたら更新していくスタイルをとっています.それも日本語で,医師のみならず他の医療スタッフにも知っていただきたいエビデンスをできる限り文献引用をつけてこのブログから情報発信し,知識共有できればと考えています.敗血症レビューが蘇生バンドルに始まり,最近ようやく疼痛不穏せん妄のレビューにまできましたが,これは私自身の勉強・取り組みをリアルタイムに表しています.

■私は卒後臨床研修医から今の病院に勤務しておりますが,最初は循環器内科希望でした.それがHIV感染症の患者(ニューモシスチス肺炎)を担当してから感染症に興味を持ち呼吸器内科希望に方針を転換しました(当院呼吸器内科は肺癌をあまり担当することはなく,肺炎がほとんどという急性期に特化した特殊な呼吸器内科でした).その後2011年になって名古屋大学救急集中治療医学分野教授の松田直之先生の講演を聴講して敗血症に興味を持ち始め,院内の敗血症診療の改善に取り組み始めました.院内ガイドラインを作成した後,最初は研修医やスタッフがいつでもどこでもインターネット上で見れるようにと本ブログで敗血症診療のレビュー記事を2011年秋からスタートしました.現在では1日1200人程度の閲覧数があり,おかげさまで研究会やメールで「ブログ見てますよ」とお声をいただいたり,ブログ経由で講演会依頼もいただいたり,書籍の分担執筆依頼もいただくようになりました.今後もより多くの敗血症・肺炎関連のレビューを発信していきたいと思います.

■さて,2013年はSurviving Sepsis Campaign Guidelines 2012[8]と日本版敗血症診療ガイドライン[9]が発表された,敗血症診療において大きなイベントの年でした.SSCGにより敗血症診療がここまで進歩したこと,日本語でガイドラインが発表されたことは非常に有意義なことであると同時に,なぜこのようなガイドラインになったのかと疑問に思うことも事実です.World Sepsis Alliance(世界敗血症同盟)が2012年9月13日に世界敗血症宣言[10]をだし,偶然にも東京オリンピックと同じ2020年までに達成すべき項目を提示しました.残念ながら現在のガイドラインはSSCGも日本版も世界敗血症宣言で提示された目標をカバーできていません.公衆衛生による感染症予防に始まり,PICS(Post-Intensive Care Syndrome)[11,12]などの長期的ケアに至るまで,敗血症診療でカバーすべき範囲は広いにもかかわらず,ガイドラインが示すのはICUの中の診療だけです.敗血症診療を三次救急施設ICUのみで作られたエビデンスだけで語る時代はもう終わりにすべきでしょう.同時に救急集中治療医がいない病院でも通用する敗血症診療のエビデンスを救急集中治療医でない医師が作っていく必要があると思います.おそらく2020年までにSSCGも日本版もあと2回の改訂が行われるのではないかと予想されます(できれば日本版改訂の際の委員会メンバーに入ってみたいと思ってはいますが,まあ私のキャリアでは無理でしょう).

■私は敗血症診療と同時に超高齢者肺炎もメインに診療しています.肺炎については日本呼吸器学会のガイドラインがでていますが,臨床現場とガイドライン作成者の間の認識のズレを感じずにはいられません.ガイドラインが示したのは細菌学的理論と抗菌薬の推奨のみにとどまっていて,その抗菌薬の推奨ですら臨床現場の感覚と異なるものでした.2013年10月に行われた第13回呼吸器感染症フォーラムで,ようやくガイドラインの方針にメスが入りましたが,このフォーラムで議論された内容を現場の医師はとっくに気がついていたと思います.おそらくパブリックコメントでも指摘があったはずです.ガイドライン作成をした大学教授陣と臨床現場の医師の距離が縮まるのに何年かかったのでしょうか.

■抗菌薬の選択は超高齢者肺炎患者の予後に影響を与えません[13-15].しかしながら,ガイドラインが示す耐性菌リスクによる分類は過大評価になってしまい,広域抗菌薬使用増加につながっています.慢性心不全,嚥下機能障害,認知症,骨格筋の廃用,といった様々な背景が超高齢者肺炎のベースにあり,高齢者肺炎は感染症のみで語れる疾患ではなく,様々な疾患を合併した症候群であり,実際に難渋するのは肺炎治療ではなくfrailtyあるいはpost-frailty(後者は私の造語です)という状態です.

■加えて,病院への入院そのものが基礎疾患の悪化を招き,QOLを著しく低下させている要因になっており[16],海外にはDNARならぬDNH(Do Not Hospitalization:入院しない意思表明)という意思表示が法的に定められているくらいです.院外心肺停止患者へのアドレナリン投与は心拍再開率を上げるが神経学的予後は変わらず,意識障害患者をいたずらにつくりだしているのではないかという論文[7]が最近でましたが,実は高齢者肺炎診療ですでにそのようなことが起きていて(肺炎治療で寝たきり老人をつくってしまう),入院自体が大きな侵襲となってしまっているという事実が急性期病院につきまとうジレンマとなっています.肺炎患者をリハビリで機能維持し,できる限り早く退院させる必要がありますが,現実的にはかなり難しい問題となっています.敗血症をはじめとするICU重症患者におけるPICSと同じく,高齢者肺炎ではPost-Hospitalization Syndromeとも呼ぶべき問題があり,日本呼吸器学会,日本感染症学会もそろそろここに強く焦点をあてるべきではないでしょうか.

■ここから私事になりますが,2013年度は私はレジデント最後の年というひとつの区切りとなる医師年数を迎えました(なので医師5年以上というキャリア年数の制限があるため実はまだICDの資格が取れていません).他病院の先生からのお誘いもあって,卒後臨床研修医から御世話になっている当院を今年度で退職して新たな病院で・・・,と考えていたのですが,あとから次々と新しい取り組みを始めてしまい,当院で可能な臨床研究ネタも尽きたと思っていたらまだまだ探せばでてくる,感染対策加算もようやく加算1を取得する,ということでとりあえずもう1年残ることにしました(ちなみに私はどこの大学医局にも属していません).

■完全主治医制の当院において,敗血症診療について私1人が実践するだけではダメで,院内全体の治療成績を挙げる上でガイドラインをつくり,システム自体を変える必要がありますが,他の医師との様々な信念対立にぶつかり,改革がいかに難しいかを思い知りました.それでもなんとか改革は前に進んでおり,一定の成果をだすに至った,2013年はそんな年でした.次なるステップとして,ガイドライン/プロトコルのみならず,本格的に治療介入に入るシステム作りに移行しています.

■当院ではICT,NST,RST,その他ICU管理を網羅した多職種集学的な週3回の回診チームであるICST(Intensive Care Support Team:集中治療サポートチーム)を導入し,低侵襲かつ有効な急性期治療介入を推進するとともに,TAPERing projectと名づけた回復期のサポートプロトコル/クリニカルパスも導入し,入院から退院後ケアまでの円滑な流れができるよう取り組みを開始しました.2014年はこれらの取り組みをより推進し,評価を行い,エビデンスを作っていくことが大きな目標となっています.詳しい内容は決定していませんが,2014年7月の日本呼吸療法医学会学術総会の多職種連携をテーマとしたシンポジウムで講演の機会をいただいたので,これらの取り組みを発表しようと考えています.また,来年4月に刊行予定のINTENSIVIST誌に当院ICSTについてちょっと書かせていただきました.

■長々となってしまいましたが最後に,このブログを続けていくにあたり,面識の有無に関係なく様々な先生方から御指導,御鞭撻を賜り,また,当院における敗血症診療,肺炎診療の実践においても多職種スタッフの後押しと御協力のもとここまでくることができ,非常に充実したレジデント生活を送ることができました.2014年も宜しく御願い申し上げます.

[1] Guérin C, Reignier J, Richard JC, et al; PROSEVA Study Group. Prone positioning in severe acute respiratory distress syndrome. N Engl J Med 2013; 368: 2159-68
[2] Nielsen N, Wetterslev J, Cronberg T, et al; TTM Trial Investigators. Targeted temperature management at 33°C versus 36°C after cardiac arrest. N Engl J Med 2013; 369: 2197-206
[3] Wilcox ME, Chong CA, Niven DJ, et al. Do intensivist staffing patterns influence hospital mortality following ICU admission? A systematic review and meta-analyses. Crit Care Med 2013; 41: 2253-74
[4] Morelli A, Ertmer C, Westphal M, et al. Effect of heart rate control with esmolol on hemodynamic and clinical outcomes in patients with septic shock: a randomized clinical trial. JAMA 2013; 310: 1683-91
[5] Allen SJ, Wareham K, Wang D, et al. Lactobacilli and bifidobacteria in the prevention of antibiotic-associated diarrhoea and Clostridium difficile diarrhoea in older inpatients (PLACIDE): a randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre trial. Lancet 2013; 382: 1249-57
[6] Heyland D, Muscedere J, Wischmeyer PE, et al; Canadian Critical Care Trials Group. A randomized trial of glutamine and antioxidants in critically ill patients. N Engl J Med 2013; 368:1489-97
[7] Nakahara S, Tomio J, Takahashi H, et al. Evaluation of pre-hospital administration of adrenaline (epinephrine) by emergency medical services for patients with out of hospital cardiac arrest in Japan: controlled propensity matched retrospective cohort study. BMJ 2013; 347: f6829
[8] Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, et al; Surviving Sepsis Campaign Guidelines Committee including the Pediatric Subgroup. Surviving sepsis campaign: international guidelines for management of severe sepsis and septic shock: 2012. Crit Care Med 2013; 41: 580-637
[9] 日本集中治療医学会Sepsis Registry委員会.日本版敗血症診療ガイドライン.日集中医誌 2013; 20: 124-73
[10] DrMagicianEARL. 敗血症の展望 to 2020 ~世界敗血症の日(World Sepsis Day)~(1)世界敗血症宣言. EARLの医学ノート 2013 Sep.9 http://drmagician.exblog.jp/18901899/
[11] Needham DM, Davidson J, Cohen H, et al. Improving long-term outcomes after discharge from intensive care unit: report from a stakeholders' conference. Crit Care Med 2012; 40: 502-9
[12] DrMagicianEARL. 敗血症と長期予後,PICS(Post Intensive Care Syndrome). EARLの医学ノート 2013 Apr.16 http://drmagician.exblog.jp/20272480/
[13] Attridge RT, Frei CR. Health care-associated pneumonia: an evidence-based review. Am J Med 2011; 124: 689-97
[14] Komiya K, Ishii H, Umeki K, et al. Impact of aspiration pneumonia in patients with community-acquired pneumonia and healthcare-associated pneumonia: a multicenter retrospective cohort study. Respirology 2013; 18: 514-21
[15] Lisboa T, Diaz E, Sa-Borges M, et al. The ventilator-associated pneumonia PIRO score: a tool for predicting ICU mortality and health-care resources use in ventilator-associated pneumonia. Chest 2008; 134: 1208-16
[16] Givens JL, Jones RN, Shaffer ML, et al. Survival and comfort after treatment of pneumonia in advanced dementia. Arch Intern Med 2010; 170: 1102-7
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by DrMagicianEARL | 2013-12-25 16:54 | Comments(0)
夏休みに引き続き,明日からの臨床に役立たない(一部役に立つ?)「へぇ~」的論文特集第2弾です.小ネタにどうぞ.

メタボリックシンドローム神話崩壊?
Thomsen M, et al. JAMA Intern Med 2013
メタボリックシンドローム有無にかかわらず過剰体重や肥満は心筋梗塞や虚血性心疾患のリスクであり,リスク検出の上でメタボリックシンドロームはBMIを上回る価値はない.デンマーク71527例コホート研究

ナッツで寿命が延びる?
Bao Y, et al. N Engl J Med 2013; 369: 2001-11
118962例コホート研究.ナッツを食べない人と比較して,死亡リスクは週1回食べると7%減少,週2-4回で11%減少,週5-6回で15%減少,週7回以上で20%減少.ナッツは癌・心疾患・呼吸器疾患による死亡リスク減少と有意に関連.

喫煙者が多い室内のPM2.5濃度は北京市のひどい日の4倍
呼吸 2013;32:1028-35
日本の喫煙者が多い室内において,PM2.5濃度は3000μg/m3に達しており,北京市のPM2.5濃度が高い日の約4倍の劣悪な環境であった.
※なお,国立癌研究センターでは日本での受動喫煙死亡者数は6800人と推定している.

医師は敗血症で死亡しにくい
Shen HN, et al. Crit Care Med 2013 Nov.13
医師29697人と非医療者をマッチさせたコホート研究.医師は重症敗血症発生率になりにくく,重症敗血症に罹患しても死亡リスクが18%低い.医学知識を有し,疾患認識力が高く,病院を早く受診しやすいのが原因かもしれない.

バイリンガルは認知症になりにくい
Alladi S, et al. Neurology 2013; 81: 1938-44
インド在住の648人(平均年齢66歳)を対象に調査を実施し,2言語話せる群と1言語のみの群で認知症発症を比較.2言語群は,たとえ読み書きができなくとも,1言語しか話さない人と比べて認知症の発症が4年半遅かった.
※英語論文を読む医師は読まない医師より認知症になりにくい,なんて研究はでないでしょうか

スーパーマリオで知能アップ?
Kühn S, et al. Mol Psychiatry 2013 Oct.29
テレビゲームのスーパーマリオ64を2ヶ月間プレイする群としない群を比較したRCT.プレイ群は右脳の海馬,前頭前野皮質,小脳の脳体積が増加し,知能増加が見られた.PTSD,統合失調症に有用かもしれない.

大豆で放射線治療副作用を予防?
Hillman GG, et al. J Thorac Oncol 2013;8:1356-64
大豆のイソフラボンは,放射線による皮膚障害,脱毛,呼吸数増加,肺炎,線維化に対して保護的に作用する.マウスモデル研究.

アリはアカシアの奴隷
Heil M, et al. Ecol Lett 2013 Nov.4
アカシアとアリの共生がこれまで知られていたが,アカシアの樹液が含む酵素によってアリがほかの糖源を摂取できなくなる樹液中毒によりアリがアカシアの奴隷となっていることが判明.

刑務所釈放者の死亡原因と麻薬
Binswanger IA, et al. Ann Intern Med 2013; 159: 592-600
刑務所釈放後の全死亡率737/10万人/年.死亡原因の14.8%は麻薬であり,また薬物大量服用死は167/10万人/年.女性は薬物大量服用と麻薬関連死のリスク因子.米国76208例コホート研究.

男性は女性のどこを見ているか
Gervais SJ, et al. Sex Roles 2013 Oct
大学生65名を対象としたアイトラッキング技術を用いた研究.男性が女性を見る際には顔よりもセクシャルなボディーパーツを見て判断していた.男性が女性を物として見ていることが示唆された.

喫煙は老ける
Okada HC, et al. Plast Reconstr Surg 2013;132:1085-92
双子79組の比較研究.喫煙者と非喫煙者の組み合わせの双子では喫煙者の方が老けて見える確率が57%,いずれも喫煙者だが喫煙歴に5年以上差があると喫煙歴が長い方が老けて見える確率が63%.

甘い飲料水に課税すると肥満者が減少
Briggs AD, et al. BMJ 2013; 347: f6189
イギリスで砂糖の入った甘い飲料水に20%の税金を課税したところ肥満者が1.3%減少した.

新たな脱毛治療の可能性
Higgins CA, et al. Proc Natl Acad Sci U S A 2013
毛包形成に必要な毛乳頭細胞を成人男性の脱毛症患者の後頭部から採取し,試験管内で立体的に培養した後でヒト皮膚組織に移植したところ毛を生やすことに成功.

アメフト選手の脳
Hampshire A, et al. Sci Rep 2013; 3: 2972
引退したアメフト選手13例の脳MRI解析研究で,前頭葉が過反応を起こしていた.損傷を受けた脳がより活発に活動しなければこれまでと同じ機能を果たせなくなっており,脳の活動場所を増やすことで対応していると結論.

睡眠は脳の老廃物を排出する
Xie L, et al. Science 2013; 342: 373-7
グリンパティック系循環による脳内老廃物の排出の睡眠時活動量は覚醒時の約10倍になり,脳細胞が約60%収縮するため,脳脊髄液がより速くより自由に脳内を流れることで脳内老廃物の排出が睡眠時に促進される.マウスモデル研究.

皮膚細胞から直接別の細胞を作り出す手法
Outani H, et al. PLoS ONE 2013; 8: e77365
皮膚の細胞に遺伝子を導入し,別の細胞を直接作製するダイレクト・リプログラミングを用い,皮膚細胞から軟骨細胞を,iPS細胞を経ることなく直接作成することに成功.iPS細胞の半分の期間で作成可能に
※京都大学.もはやiPS細胞すら使わないという手法

バソプレシン受容体の遮断は時差ボケ防止に有用?
Yamaguchi Y, et al. Science 2013; 342: 85-90
バソプレシン受容体ノックアウトマウスモデルで周囲の明るさなどの環境に適応しやすくなることが判明.時差ボケ防止薬開発に期待.

バレリーナの平衡感覚の秘密
Nigmatullina Y, et al. Cerebral Cortex 2013 Sep.27
バレリーナは内耳にある平衡器官からの信号を処理する小脳の部位が健常人より小さく眩暈を感じないため,身体を回転させてもバランスを崩さない.49例のMRI解析.
※トリビアの泉で,フィギュアスケーター(安藤美姫選手)を何分間回転させても目が回らないというのがありましたね.

高齢者にテレビゲームで認知力改善
Nature 2013; 501: 97-101
車を運転するテレビゲームを高齢者にさせたところ脳の認知力が改善した.

生きたマウスの体内でiPS細胞の作製に成功
Nature 2013, PMID:24025773
生体内で再プログラム.しかもiPS細胞よりもむしろES細胞に近い性質を持つ高い万能性.「採取→培養→移植」の過程を省いてリアルタイムで組織再生ができるようになる?

台風災害とPTSD
Aust N Z J Psychiatry 2013, PMID:23975696
小児~若者262例の解析.台風災害から18ヶ月後に中等症から重症のPTSDが遷延していたのは小児で5人に1人,若者で12人に1人であった.

銃の所持率上昇は銃器殺人発生率を増加させる
Am J Public Health 2013, PMID:24028252
1981-2010年の全米50州の調査解析.銃の所持率が1%上がるごとに,銃器による殺人の発生率は0.9%上昇する.
※銃の所持率の上昇は銃犯罪増加につながらないとする全米ライフル協会の主張を否定する結果となりました

ダウン症患者の血管内皮細胞で作られるたんぱく質は癌を抑制する
Cell Rep 2013; 4: 709-23
ダウン症患者の血管内皮細胞で大量に産生されるたんぱく質を特定し,このたんぱく質ができないようにマウスの遺伝子を操作すると,癌細胞転移が促進される.
※以前からダウン症患者は癌になりにくいことが指摘されていました.

ヒトの脳のGPS機能
Nat Neurosci 2013; 16: 1188-90
人間の脳にGPS機能のような細胞があり,稼働していることを実験的に証明.

肥満と腸内細菌
Science 2013; 341: 1241214
肥満患者の腸内細菌をマウスの腸に移植すると脂肪がたまりやすくなってマウスが太り,やせた患者の腸内細菌を移植した場合はマウスの体形が維持された.ただし,脂質の多い餌を摂取するマウスはやせ形の腸内細菌による体質改善効果がみられない.

睾丸の大きさと子育て
Mascaro JS, et al. Proc Nat Acad Sci 2013 Sep.9
子供をもつ男性70例の生殖器をMRI撮影し解析.生物学的に睾丸の小さな父親の方が子育てに気持ちが傾きやすい.

性格のよくない男性のみがアダルトビデオの影響で女性に偏見を抱く
J Commun 2013; 63: 638-60
デンマーク男性200例での前向き観察研究.アダルトビデオの卑猥な映像により女性に偏見を抱くのは元から性格がよくない男性(事前のテストで分類)のみで,その他の男性がアダルトビデオから影響を受けることは少ない.

カジノでの喫煙禁止で救急車出動要請が減少
Circulation 2013; 128: 811-3
米国コロラド州で2008年にカジノでの喫煙を禁止する法律を施行したところ,カジノからの救急車出動要請が19.1%減少.
※同州では2006年に職場,レストラン,バー等の公共の場での喫煙を禁止する法律施行で救急車出動要請が22.8%減少

右脳・左脳の使用に差はない
PLoS One 2013; 8: e71275
1011名の安静時の脳の機能的結合状態を7266の関心領域に分けてMRIで分析.脳の機能が左右いずれの半球でより多く使用されるということはない.
※右脳派・左脳派の分け方は都市伝説だった?

恋愛パートナーの成功に対する心理変化
J Pers Soc Psychol 2013, PMID:23915040
恋愛パートナーの成功に対して男性は自尊心ゆえに否定的な影響を受ける(素直に喜ばない).一方,女性にはそのような傾向がみられず
※男ってちっちゃいね,という研究.あくまで学生が対象ですが

日本の公立病院での医師への給料の支払いは適切か?
Pediatr Int 2013; 55: 90-5
夜と休暇中の任務を労働時間と考えられていないため,多くの公立病院は医師に必ずしも増加した労働時間の給料を支払っていない.日本369病院調査
※日本の医師の労働はボランティア扱いが含まれているのでしょうねぇ.私自身,当直明けの日勤は無給扱いです.

Facebookで不幸になる?
PLoS One 2013; 8: e69841
Facebookは表面的には貴重な情報を提供するが,その使用は幸福を高めるわけではなく,むしろ幸福を減少させる可能性が示唆された.82例報告.

コーヒーの消費と全死亡および心血管疾患の関連性
Mayo Clin Proc 2013; 88: 1066-74
43727例解析.1週間に28杯以上コーヒーを飲む男性は全死亡リスクが1.21倍に有意に増加.年齢,55歳未満の男女に層別化すると,週28杯以上のコーヒー消費は全死亡リスクを男性で1.56倍,女性で2.13倍に有意に増加させる.1日4杯以上コーヒー飲む人は早死にするかもしれない.
※2012年には1日6杯コーヒー飲む人は死亡リスクが1割少ないという報告がNEJM誌にあったのですが・・・(NEJM 2012;366:1891-904)

食物添加物の臨床試験と利益相反
JAMAIM 2013, PMID:23925593
食物添加物で,試験により安全の認識されているものはCOIに偏りがあり,米国FDAはこの懸念に対処すべきである.システマティックレビュー.

飼い主のあくびは犬にうつる
PLoS ONE 2013;8:e71365
見知らぬ人のあくびよりも,飼い主のあくびの方が犬にうつりやすい.犬にとって,あくびがうつるには相手との感情の結びつきが重要な可能性.一般家庭で暮らすプードルやパピヨン,ゴールデンレトリバーなど25匹での実験.

兄弟がいると離婚リスクが減少する
Downey D, et al. 108th American Sociological Association, NY, 2013 Aug.13
米国570000例調査の解析.兄弟が1人増えるごとに将来の離婚する可能性が2%低下する.
※一人っ子は離婚リスク?

心停止から30秒間は精神状態が非常に高まる
Proc Natl Acad Sci U S A 2013, PMID:23940340
心停止モデルのラット9匹の脳電図の解析.心臓が停止してから30秒間にわたり脳の活動は急増し,精神状態が非常に高揚していており,この結果は心停止後蘇生患者の臨死体験を説明しうる可能性がある.

頭部冷却法は抗癌剤ドセタキセルによる脱毛を予防する
Support Care Cancer 2013;21:2565-73
固形癌患者238例においてドセタキセル点滴後45分の短期間の頭部冷却法を検討した前向き非ランダム化比較試験.頭部冷却法は脱毛の予防的な効果をもたらし,特にドセタキセル3週ごとの投与で効果的であった.

睡眠不足で太るメカニズム
Nat Commun 2013; 4: 2259
MRIによる23例解析で睡眠不足で太るに至る脳のメカニズムを検討.睡眠不足では大脳皮質の食欲・満腹感評価領域に活動性低下が見られ,同時に渇望に関連する領域に活動性上昇があり,睡眠不足の被験者は高カロリー食品により強い食欲を感じていた.

情けは人のためならずの実証
PLoS ONE 2013: 8: e70915
大阪府内保育園の5-6歳児70例を観察し,親切児が親切をした場合としなかった場合を約250回比較.親切をした場合の方が周りの園児が親切児を手伝ったりする頻度が高くなり,他者を好ましく思う言動も増えた.情けは人のためならずを実証

遠距離恋愛の方が心理的な結びつきが強い
J Commun 2013; 63: 556-77
カップル63組(約半数が遠距離恋愛)の解析.平均恋愛期間は2年未満,遠距離恋愛群は平均1年5カ月の間遠距離.長距離恋愛群は非長距離恋愛群よりも有意に,自分自身のことについて打ち明け,より親密な結びつきを感じていた.

動物との性交渉は陰茎癌を増加させる
J Sex Med 2012; 9: 1860-7
ブラジル農村地域の18-80歳の男性492例症例対照研究.35%(陰茎癌患者に限定すると44.9%)が馬,牛,豚,ニワトリ等の動物と性交渉経験あり.そのうち39.5%は週1回以上の頻度.動物との性交渉は陰茎癌を有意に増加させる.

Twitterは癌患者の心理的サポートとなる
BMC Res Notes 2012; 5: 699
フォロワーを500人以上有するTwitterアカウントをもつ癌患者51例のツイートの解析.Twitterは癌コミュニティーにおける患者の心理的サポートとなっている.山形大学の研究

オペラ「椿姫」を聞くことによる延命効果
J Cardiothorac Surg 2012; 7: 26
心臓移植したマウスを術後7日間聴かせる音楽として,オペラ「椿姫」群,モーツァルト群,音楽聴かせない群に割り付け.平均生存期間は26日,20日,7日.オペラには延命効果があるかもしれない.今年のイグノーベル賞受賞論文.日本から

セクハラされる看護師の特徴
Med J Malaysia 2012; 67: 506-17
看護師455名の解析.51.2%がセクハラ経験があり,内容は言葉46.6%,視覚的24.8%,心理的20.9%,身体的20.7%.美人,魅力的体型,親しみやすい,楽観的な看護師で多く,厳格で激しい性格の看護師には少ない.

病棟におけるチョコレート生存期間
BMJ 2013; 347: f7198
チョコレートを入れた箱を各病棟に設置し,継続的に観察してそれぞれのチョコレートが食べられた時間を記録した多施設共同前向き観察研究.チョコレート258個中191個が食べられた.平均観察期間は254分(95%CI 179-329分),チョコレートの生存期間中央値は51分(95%CI 39-63分).チョコレート消費モデルは非線形で,初期に急速に消費され,その後消費スピードは緩徐となった.指数関数的減衰モデルがこれらの結果に最も合致した.50%のチョコレートが食べられる時間(半減期)は99分であった.また,チョコレートの箱が病棟で開けられるまでの平均時間は12分(95%CI 0-24分)であった.最も高い頻度で摂取した医療従事者は,看護助手(28%),看護師(28%)であり,医師は15%であった.

ブラディという名前の人は徐脈でペースメーカーを挿入されやすい
BMJ 2013; 347: f6627
ブラディ(Brady)という人の名前が徐脈(bradycardia)の頻度を増加させるかどうか調査し,人の名前が健康に及ぼす影響を検討した後ろ向きコホート研究.161967例のうち,名前がブラディである579人(0.36%)が登録された.ブラディ群と非ブラディ群の年齢に差はなかった.ペースメーカー挿入頻度はブラディという名前の人の方が有意に高かった(1.38%vs0.61%, p=0.03).非ブラディと比較して,ブラディという名前によるペースメーカー挿入の非調整ORは2.27 (95%CI 1.13-4.57)だった.

ジェームズ・ボンドのアルコール摂取量の定量
BMJ 2013; 347: f7255
007のジェームズ・ボンドのアルコール消費量を定量する後ろ向き文献レビュー.ボンドが飲酒できなかった日数の除外後,彼のアルコール消費量は92単位/週であり,推奨適正量の4倍以上であった.彼の1日最大消費量は49.8単位であった.ジェームズ・ボンドのアルコール摂取レベルは早期死亡につながる多数のアルコール関連疾患のハイリスクの状態になっている.小説で示されている機能レベルは,この多量のアルコール摂取者において予測される身体的,精神的,性的機能と矛盾する.我々は更なる評価と治療(安全なレベルへのアルコール摂取の縮小)のために直ちに被照会者に忠告する.「ステアではなくシェイクで」という有名なキャッチフレーズは,アルコールによって誘発された手の振戦の原因であると推察される.ジェームズ・ボンドがウォツカ・マティーニをあおってからボンドガールと性行為ベッドインすることが多いのに,性行為後のボンドガールはみんな“大満足”の表情を見せるのはおかしい.

米国麻酔科レジデントと薬物依存
JAMA 2013;310:2289-96
米国で麻酔研修プログラムを受けたレジデント44612例の後ろ向きコホート研究.384例が研修中に薬物依存.発生リスクは2.16/1000人/年.28名(7.3%)が研修期間中に死亡し,全て薬物依存に関連していた.

細胞老化の進行を逆戻りさせる薬
Cell 2013; 155: 1624-38
マウスモデル研究.2歳のマウスにNMN投与で1週間後,筋肉が生後半年のマウスの筋肉とまったく変わらなかった.
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by DrMagicianEARL | 2013-12-24 18:41 | 文献 | Comments(0)
敗血症とせん妄(3) ~せん妄の治療と鎮静薬~
Summary
・せん妄は早期診断を行い,危険因子等明確な原因がある場合はまずそれを除去することが大前提である.
・ICUせん妄に対してハロペリドールが有効であるとする報告はない.クエチアピンは有効かもしれない.
・ICUせん妄に対して抗精神病薬を使用する場合は,その薬剤あるいは相互作用によるQT延長からのTorsades de Pointsに注意が必要である.
・リバスチグミンに代表される抗認知症薬はICUせん妄に対しては有害な可能性がある.
・デクスメデトミジンとプロポフォールはせん妄抑制効果は同等であり,この2剤に比してベンゾジアゼピン系はせん妄が生じやすい.
・これまでのデクスメデトミジンのほとんどの質の高い研究では最大用量が日本の保険適応最大用量の2倍になっていることを考慮しておく必要がある.
・抑肝散がICUせん妄に対して有用かについては小規模の症例集積検討しかなく,機序的にも臨床的にもその有効性は現時点では不明である.

1.せん妄治療の原則
■まず,せん妄が生じていることを早期に診断しなければならない.せん妄は進行するとしばしば治療が困難になりやすく,高用量の鎮静薬が必要になってしまい,それに伴う有害事象が重なりやすくなる.また,せん妄は興奮している活発型が多いと誤解されがちだが,実際には不活発型の方が圧倒的に多く(不活発型43.5-88.6%,混合型10.8-54.2%,活発型0.7-1.6%)[4,5],活発型は2%にも満たないため見逃されている可能性もある.ICUせん妄が予後不良因子であることは今や多くの報告によって知られることであり[10],RASS/SAS,CAM-ICU/ICDSCの評価が重要となる.

■せん妄が起きてしまった場合の対処は,予防とは違って,現時点では薬剤以外の介入法はあまり検討されていない.ただし,危険因子等の明確な原因があるならそれを除去することを優先するが大原則であり,これらの除去なしにせん妄に対する薬剤治療を行うことは無意味であるばかりか,不適切な鎮静となってしまい,病態をさらに悪化させる要因となりうる.
※せん妄危険因子については「敗血症とせん妄(2) ~せん妄の予防~」http://drmagician.exblog.jp/21317127/を参照

2.抗精神病薬,抗認知症薬
■米国精神医学会ではせん妄に対しては呼吸抑制の少ないハロペリドールを第一選択に挙げているが,大規模前向き試験は存在しない.2013年の米国集中治療医学会PADガイドライン[6]でも「成人ICU患者において,ハロペリドールがせん妄の期間を短縮するという公表されたエビデンスはない(no evidence)」としている.一方,「成人ICU患者において,非定型抗精神病薬はせん妄の期間を短縮するかもしれない(C)」とされている.DelvinらはICDSC≧4で,神経学的合併症のないICUせん妄患者36例に対するクエチアピンの有効性を検討した二重盲検RCTを行っている[71].この研究のプロトコルは,クエチアピン50mgまたはプラセボを12時間ごとに投与するもので,クエチアピンは24時間以内にハロペリドールを1回以上使用したならばクエチアピンの用量を24時間ごとに50mgずつ増量するというものであり,クエチアピンはプラセボより有意に最初のせん妄離脱までの期間を短縮し(1.0日(IQR 0.5-3.0) vs 4.5日(IQR 2.0-7.0); p=0.001),せん妄期間も有意に短縮した(36時間(IQR 12-87) vs 120時間(IQR 60-195); p=0.006).なお,この研究ではハロペリドール使用は両群間で有意差がなかった.

■抗精神病薬をICUせん妄に用いる際に注意しなければならないのはQT延長,Torsades de Pointsに代表される致死的不整脈である.PADガイドラインでは「Torsades de Points(TdP)の著明なリスクがある患者(ベースライン時にQTc延長が認められる患者,QTc延長を起こすことが知られている薬剤を投与中の患者,これら不整脈の既往歴がある患者)に対して抗精神病薬を使用することは推奨しない(-2C)」としている.

■急性期領域での薬物相互作用とQTc延長は認識されていない大きな問題となりつつある.1995-2009年の米国救命救急部におけるQT延長の副作用を有する薬剤の占める割合は10.4%→22.2%まで増加しているが,心電図スクリーニングは20.9%にしか行われていない[72].心電図におけるQT時間の延長は,参照範囲内であっても一般住民レベルでも死亡率と相関することが知られており[73],心臓突然死の60%がQT延長と関連しているとされている[74].65歳以上の入院患者2712例の横断研究[75]では,60.5%の患者が薬物相互作用リスクに曝されて,さらに18.9%は少なくとも1つの重大な薬物相互作用リスクに曝されており,少なくとも2つの重大な薬物相互作用リスクのある薬剤曝露は3ヶ月死亡リスクが2.62倍有意に増加すると報告されている.ハロペリドールはオリジナルケースレポートでTdPの報告があり[76,77],QT時間の延長との関連が指摘されている[78,79].ただし,QT延長がない患者でもTdPは生じており[80,81],また,ジプラシドン[82],リスペリドン[83],あるいは薬物相互作用を有する薬剤もTdPのリスクとなる報告がなされている[84]

■コリンエステラーゼ阻害薬のリバスチグミンは,認知症高齢患者においては有用かもしれないが,ICU患者においてはリバスチグミンはプラセボと比して有益でないばかりか有害であったために二重盲検RCTが中止された経緯がある[85].この試験では440例登録予定であったが,104例登録時点でリバスチグミン群で死亡率が高い傾向がみられ(22% vs 8%; p=0·07),せん妄期間もリバスチグミン群で長い傾向がみられた(5.0日(IQR 2.7-14.2) vs 3.0日(IQR 1.0-9.3); p=0·06)ため中止となっている.このため,PADガイドラインでも「ICU患者において,せん妄期間の短縮の目的ではリバスチグミンの投与を推奨しない(-1B)」としている.他のコリンエステラーゼ阻害薬でも同様の有害事象が発生する可能性はあり,リバスチグミンに限らず認知症治療薬はICU患者に用いるべきではないかもしれない.

3.鎮静薬
■鎮静薬によるアウトカムは多岐にわたるが,ここではせん妄に限定して述べる.せん妄治療にミダゾラムをはじめとするベンゾジアゼピン系やプロポフォールが以前はよく使用されていた[86]が,せん妄治療にあまり向いていないということを認識しておかなければならない.ベンゾジアゼピン系やGABA受容体作用薬はせん妄を誘発しやすいことが報告されている[41,87].また,呼吸抑制の問題も生じてくる.PADガイドラインでは「アルコールまたはベンゾジアゼピン系薬の離脱症状とは無関係のせん妄を呈する成人ICU患者に対して,せん妄の期間を短縮するために鎮静薬を使用する場合は,ベンゾジアゼピン系薬の投与よりもデクスメデトミジンの静脈内持続投与を行うことを推奨する(+2B)」としている.

■近年,デクスメデトミジンが鎮静薬としてその有用性が多数報告されているが,せん妄についてはどうであろうか?デクスメデトミジンについての質が高い研究は2007年にPandharipandeらが報告したMENDS trial[87]から始まる.この研究は2施設の人工呼吸器患者106例においてデクスメデトミジン(0.15-1.5μg/kg/h)とロラゼパム(1-10mg/h)を比較した二重盲検RCTであり,目標RASSは医療チームが決定するデザインとなっている.結果は,最大5日間までの投与においてデクスメデトミジン群がせん妄や昏睡のない日数が有意に長く(7.0日vs3.0日; p=0.01),RASS目標値の±1以内に入っている時間も有意に長かった(80% vs 67%; p=0.04).このMENDS trialを敗血症患者と非敗血症患者にわけてサブ解析[88]を行うと,いずれのサブグループにおいてもデクスメデトミジン群でせん妄期間が有意に短く,せん妄発症リスクも有意に少なかった.

■2009年にRikerらによって報告された多施設共同二重盲検RCTのSEDCOM study[89]では,人工呼吸器患者375例においてRASS -2~+1を目標にデクスメデトミジン(0.2-1.4μg/kg/h)とミダゾラム(0.02-0.1mg/kg/h)を比較しており,RASS目標値に入っている時間に有意差はないが(77.3% vs 75.1%),せん妄の発生率はデクスメデトミジン群が有意に少なかった(54.0% vs 76.6%; p<0.001).

■同じく2009年にShehabiらによって報告された2施設共同二重盲検RCTであるDEXCOM study[90]では,60歳以上の心臓外科術後患者306例を対象として,デクスメデトミジン(0.1-0.7μg/kg/h)とモルヒネ(10-70μg/kg/h)を比較し,両群とも必要に応じてプロポフォールを併用する形でMotor Activity Assessment Scale2-4点を目標としている.結果は,せん妄の発生頻度に有意差はないがデクスメデトミジン群で低い傾向がみられ(8.6% vs 15.0%; RR 0.571, 95%CI 0.256-1.099; p=0.088),せん妄期間は有意に減少した(2日(1-7) vs 5日(2-12); 95%CI 1.09-6.67; p=0.0317).MAAS目標値に入っていた割合に有意差はみられなかった(75.2% vs 79.6%; p=0.516).

■2012年にはデクスメデトミジン(0.2-1.4μg/kg/h)をミダゾラム(0.03-0.2mg/kg/h)と比較したMIDEX,プロポフォール(0.3-4.0mg/kg/h)と比較したPRODEXがJakobらによって1つの論文に報告された[91].いずれもICUの人工呼吸器を装着した患者を対象とした二重盲検RCTで,MIDEXは欧州9カ国44施設500例,PRODEXは497例が登録された.鎮痛はフェンタニルを用い,RASS目標値は0~-3に設定された.また,1日1回の鎮静中断と自発呼吸トライアルを行っている.RASS値に入っていた時間はMIDEX,PRODEXともに有意差がなかった(MIDEX: RR 1.07; 95%CI, 0.97-1.18 / PRODEX: RR 1.00; 95%CI 0.92-1.08).せん妄はMIDEXではデクスメデトミジン群が有意に少なかったが,PRODEXでは有意差はみられなかった.

■以上より,現時点でのエビデンスではせん妄頻度or期間はデクスメデトミジン≒プロポフォール<ベンゾジアゼピン系ということになる.その他のアウトカムについては詳細は別の特集で扱うが,現時点ではデクスメデトミジンが他の鎮静薬と比較したデメリットは少なく,有用なオプションである.しかし,上記の5つのRCTのうち4つが本邦の保険承認最大用量の2倍量までを使用可としており,本邦用量と同一なのは心臓外科手術後患者を扱ったSEDCOM studyのみであることには注意が必要である.

■鎮静の深さや変動とせん妄の関連性を研究した報告も存在する.深い鎮静(RASS -4以下)よりも浅い鎮静,深い鎮静よりも1日1回の鎮静中断がよいとする報告は多く,現在では深い鎮静は推奨されていない.PADガイドラインでは「人工呼吸中の成人ICU患者に対して,鎮静を毎日中断するか,目標鎮静レベルを浅く設定するかのどちらかを日常的に行うことを推奨する(+1B)」としている.ICU患者における毎日の鎮静中断と浅鎮静戦略を比較したシステマティックレビュー[92]では,いずれが深鎮静より優れているか,どちらがより優れているかについては不明確との結論づけており,1日1回の鎮静中断についてはいまだに議論されているところではある.また,Svenningsenらは3つのICUの650例前向きコホート研究を行い[93],性別,年齢,疾患重症度,ICUの場所と状況で調整すると,RASSが2レベルを超えて変化すればせん妄発症リスクは5.19倍有意に上昇したと報告している.

4.抑肝散
■現時点でRCTはなされていないが,漢方の抑肝散が新たにICU患者の鎮静補助薬として研究され始めている.抑肝散は興奮を主体とした精神症状に使用されており[94],特に認知症の行動・心理症状(BPSD)を改善することがRCTのメタ解析で報告されている[95].また,術後患者において抑肝散が有効とする報告が複数ある[96-98].坪らは,鎮静が不十分と判断されたICU患者14名を対象として,抑肝散2.5g投与前後の評価を行った[99].その結果,各種バイタルサインやSpO2に影響を与えることなく,RASSを1.35から-0.57に有意に減少させたとしている.

■この抑肝散がせん妄治療に有用かについては今後のRCTを待たねばならない.認知症患者のBPSDとICU患者の異常行動の症状が類似してはいるが,発症機序が同じであるかは不明であり,現時点では機序的にも臨床的にもその有効性は不明であると言わざるを得ない.

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by DrMagicianEARL | 2013-12-10 14:26 | 敗血症 | Comments(0)

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