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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

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■バソプレシンとステロイドのシナジー効果について検討したRCTが,pilot studyではありますが報告されましたので紹介します.
敗血症性ショックにおけるバソプレシンとコルチコステロイドの相互作用:予備無作為化比較試験
Gordon AC, Mason AJ, Perkins GD, et al. The Interaction of Vasopressin and Corticosteroids in Septic Shock: A Pilot Randomized Controlled Trial. Crit Care Med 2014 Feb 19
PMID:24557425

Abstract
【目 的】
バソプレシンとコルチコステロイドはいずれも敗血症性ショックの補助的治療として広く用いられている.後ろ向き解析では,この2剤の併用により,循環バソプレシン濃度を高め,予後を改善する,といった相互作用の可能性が示唆された.本研究の目的は,敗血症性ショックにおいてバソプレシンとコルチコステロイドの相互作用を検討することである.

【方 法】
本研究のデザインは前向きオープンラベル無作為化比較予備試験である.研究の場はロンドンの大学病院における4つのICUとした.敗血症性ショックの成人患者61例が対象となり,初期バソプレシン静注を0.06U/minまで滴定し,その後ヒドロコルチゾン(50mgを6時間毎)またはプラセボを静注した.血漿バソプレシン濃度はヒドロコルチゾン/プラセボ投与後6-12時間と24-36時間で計測した.31例の患者がバソプレシン+ヒドロコルチゾン群に,30例の患者がバソプレシン+プラセボ群に割り付けられた.

【結 果】
ヒドロコルチゾン群はプラセボ群と比較して,バソプレシン治療期間がより短く(ヒドロコルチゾン群で3.1日短縮 95%CI 1.1-1.5),バソプレシン総投与量がより少なかった(RR 0.47; 95%CI 0.32-0.71).血漿バソプレシン濃度はプラセボ群と比較して高くはなかった(6-12時間時点で64 pmol/L差 95%CI -32 to 160 pmol/L).早期のバソプレシン使用は,既知の薬剤投与の報告に関連している可能性がある重篤な有害事象は1例のみで,良好な忍容性であった.死亡率(両群とも28日死亡率23%),臓器不全評価は両群間で差がなかった.

【結 論】
ヒドロコルチゾンは,敗血症性ショックの治療においてバソプレシンと併用することでバソプレシン必要量を軽減し,投与期間や用量を減少させたが,血漿バソプレシン濃度を変化させなかった.コルチコステロイド併用有無による初期循環作動療法としてのバソプレシンの臨床効果の評価についてはさらなる検討が必要である.
1.敗血症性ショックとバソプレシン
■敗血症性ショックにおいてバソプレシンはその強力な血管収縮作用のため,ノルアドレナリンに次ぐ位置づけとなってきている(cold shockでは不可).warm shockの中にはノルアドレナリンに反応しないケースがあり,乳酸蓄積によりATP依存性Kチャネルが開放し,Ca2+が細胞内に流入できず,NOによる血管拡張の働きのみが残ることがあり,この状態はカテコラミン不応性である.このような病態においてはバソプレシンが有効とされている.バソプレシンは血管平滑筋を収縮させ,カテコラミンに対する反応性を改善し,血圧上昇に働く.本来は血圧が下がるとバソプレシンの血液中濃度は上昇する.敗血症罹患初期は血中バソプレシン濃度は一過性に上昇し,その後徐々に低下することが知られている[1].一般病棟ではこの低下の時期に敗血症が診断される場合も多い.

■ノルアドレナリンとバソプレシンを比較したVASST study[2]では,28日死亡率に有意差がでなかったが,サブセット解析で低用量ステロイド療法を施行しなければならないような難治性warm shockにおいては,バソプレシンはノルアドレナリンより28日死亡率を有意に低下させたと報告している[3].実際,カテコラミン抵抗性の患者にノルアドレナリン単独とNA+バソプレシン併用を施行・比較検討したところ,併用した方が頻脈は減少し,平均動脈圧や心拍出量が増加,腸管血流が維持できたと報告している[4].また,敗血症性ショックにおいて,バソプレシンはノルアドレナリンを使用するよりもサイトカインレベルを減少させるとするRCT[5]も報告されており,カテコラミンによる炎症悪化や不整脈といった有害事象を回避しうる可能性が示唆されてきている.

※ただし,日本の救急集中治療の先生方はあまりバソプレシンを好まれないようである.私はノルアドレナリンが0.2γ以上を要する時点でバソプレシンの併用を検討する.

2.敗血症性ショックとステロイド
■コルチコステロイドは,敗血症病態においては抗炎症目的ではなく副腎機能を考慮したステロイドカバーとして用いられている.これは,敗血症においては副腎機能低下が進行し,ショック形成に関与していることを留意する必要があるからである[6,7]

■ステロイドカバー目的で少量ステロイド長期間投与の有効性が報告されている.hydrocortisone 50mg×4/day+fludrocortisone 50mcg×1/dayを5日間投与するか否かで比較したRCT[6]では,ステロイド投与の有無による全体での有意差はないものの,ACTH刺激試験への反応によってステロイドの効果が異なること,つまりACTH非反応群(副腎不全群,229例)では,ステロイドによって28日死亡率が63%から58%に有意に減少したことを報告した.2004年のmeta-analysisでは,ステロイドによって28日死亡率,ICU死亡率,入院死亡率が有意に減少し,消化管出血,高血糖,続発性感染などの合併症の増加を認めず,ステロイド使用によりショックの離脱率が高く,昇圧薬の使用期間が短くなることが報告された[8]

■一方,2008年に症例数500例でhydrocortisone 50mg×4/dayの5日間投与の有無で比較した多施設RCTであるCORTICUS studyが報告され[9],全体でもサブ解析(ACTH非反応群のみでの解析,ACTH反応群のみでの解析)でもステロイド投与によって28日死亡率は変わらないことが示された.また,ステロイド群では続発性感染,高血糖,高Na血症が有意に高いことが示された.post hoc解析でも,12時間以内に薬剤投与された場合でもステロイドの有無で死亡率が変わらないことが示された.この報告を受けて,SSCG 2008では少量ステロイド療法の推奨度が下がっている.しかし,CORTICUS studyには①ベースの患者の重症度が低い,②ステロイド投与開始までの時間が長い(=すでに敗血症が軽快している可能性),③有意差を出すためにサンプルサイズを800人に設定していたが,期間内に症例を集めることができず500人で終了している,などの問題点が挙げられている.

■2009年に報告されたメタ解析[10]では,少量ステロイド長期投与による死亡率の軽減効果は,CORTICUS studyを加えても維持されていた.また,ステロイド非投与群での死亡率からみた敗血症の重症度とステロイドの効果についても言及し,低用量ステロイドは死亡率が高いと予測される患者(重症患者)では有効となり,死亡率が低いと予測される患者(軽症患者)では害となりうることを示した.さらに,ACTH刺激試験の反応性に関わらず,ステロイドの効果は同様で,ステロイドによってショックから有意により多く回復することを報告した.すなわち,患者の重症度に応じてステロイドを使い分ける必要があり,重症度を想定していないSSCG 2004を遵守した場合は,死亡率に有意差はでていない[11]

■一番最新のメタ解析がWangらによって2014年に報告された[12].8報RCT,1063例が対象となり,低用量ステロイド療法は7日後(OR 2.078; 95%CI 1.58-2.73; p<0.0001; I(2)=26.9%),28日後(OR 1.495; 95%CI 1.12-1.99; p=0.006; I(2)=0.0%)のショック状態を改善するが,28日死亡率は改善しない(OR 0.891; 95%CI 0.69-1.15)と報告している.

3.敗血症性ショックにおいてバソプレシンとステロイドの併用による相乗効果はあるのか?
■Torgersenらはバソプレシンによる治療を受けた重症の敗血症性ショック患者157例の後ろ向きコホート研究[13]を行い,多変量解析においてヒドロコルチゾン併用患者においてICU死亡リスク(OR 0.51; 95%CI 0.24-1.08; p=0.08),28日死亡リスク(HR 0.69; 95%CI 0.43-1.08; p=0.11)が統計学的に有意ではないが低い傾向がみられた. 回帰モデルで予測される28日生存率はヒドロコルチゾン併用群が非併用群より有意に高かった(p=0.001).傾向スコアマッチング解析(40ペア)では,ICU死亡率(45% vs 65%; OR 0.69; 95%CI 0.38-1.26; p=0.23),28日死亡率(35.5% vs 55%; OR 0.59; 95%CI 0.27-1.29; p=0.18)は有意差がないものの低い傾向がみられた.

■Jochbergerら[14]は,前向き研究のpost-hoc解析(敗血症性ショック患者55例を登録)において,ヒドロコルチゾン投与有無で血漿バソプレシン濃度に有意差はみられず(4.2 (2.2-6.2) vs 4.3 (2.7-6.1) pmol/L; p=0.43),ロジスティック回帰解析でも,有意差はなかった(p=0.38).ヒドロコルチゾン治療と血漿バソプレシン濃度の線型回帰解析でも相関はみられなかった(p=0.39).

■今回のGordonらのRCTの結果は上記2研究と矛盾しない.バソプレシンとステロイドの併用は,現時点ではバソプレシン投与量・投与期間を減じることはできるが,バソプレシンの濃度を上昇させず,短期死亡率も改善しない.

■もっともステロイドが特に有効となるであろう患者群をtargetにできていないことも問題である.副腎機能不全を臨床現場で確実にその場で診断する方法は現時点ではない.過去の研究ではACTH刺激試験を用いて判断しているが,このACTH刺激試験において計測されるコルチゾルは総コルチゾルであり,フリーコルチゾルではない.通常は血中のコルチゾルは通常90%が蛋白結合型の不活性型で,活性を持つのは残りの10%のフリーコルチゾルである.敗血症病態においてはフリーコルチゾルの割合は50%程度まで増加するが,アルブミン低下が著明となると(<2.5 g/dL),フリーコルチゾルが正常または増加しているにもかかわらず,総コルチゾルは低く測定されてしまう.また,フリーコルチゾルの測定結果もすぐに得られない上に重症患者での基準値が明確でないという問題点から,ACTH刺激試験で副腎機能不全を診断することは不適切である.

※私自身は電解質バランスや血糖値,昇圧剤への抵抗性などをみて判断している.

■また,ステロイド投与に伴う副作用も考慮しておかなければならない.注意すべきは,短期死亡率しか評価されていないことで,ステロイドによる長期予後への影響は不明である.現時点ではステロイドがICUAWをはじめとする機能予後悪化のリスクとなることも指摘されてきており,現時点で併用療法に特別な有益性を見出すことはできないと思われる.現状として,あくまでもステロイドカバーによる血圧上昇が上乗せされる程度のメリットしかない.

■なお,Personettらの後ろ向きコホート研究[15]では,末梢血管疾患,急性腎傷害,ICUでの新規発症の心房細動が,バソプレシンを7日間以上必要となるリスクに関連し,7日間以上投与した患者は死亡率が増加していたことから,これらの患者層でのステロイド併用の有効性評価は検討されてもいいかもしれない.

■なお,敗血症性ショックに対するステロイドについては,ANZICSが大規模RCTであるADRENAL studyを開始する.登録予定患者数は敗血症のRCT史上最大の3800例であり,低用量ステロイド療法の有用性有無はこの研究で決着がつくと思われる.

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[15] Personett HA, Stollings JL, Cha SS, et al. Predictors of prolonged vasopressin infusion for the treatment of septic shock. J Crit Care 2012; 27: 318.e7-12
[PR]
by drmagicianearl | 2014-02-25 19:00 | 敗血症 | Comments(0)
■ICSと感染症に関するメタ解析がChest誌に報告されたので紹介します.
COPD患者における吸入コルチコステロイドの使用と結核およびインフルエンザのリスク:無作為化比較試験のシステマティックレビューおよびメタ解析
Dong YH, Chang CH, Wu FL, et al. Use of Inhaled Corticosteroids in Patients with Chronic Obstructive Pulmonary Disease and the Risk of Tuberculosis and Influenza: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Chest 2014 Feb.6
PMID:24504044

Abstract
【背 景】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者において,吸入コルチコステロイド(ICS)の使用は肺炎リスクの増加と関連している.しかし,結核やインフルエンザといった,その他の呼吸器感染症におけるリスクはまだ明らかではない.

【方 法】
2013年7月から開始したMEDLINE,EMBASE,CINAHL,Cochrane Library,ClinicalTrials.govでの包括的文献検索によって,我々は少なくとも6ヶ月間ICSを継続した無作為化比較試験を抽出した.結核およびインフルエンザリスクをICS治療群と非ICS治療群を比較した推定の統合を行うため,Peto,Mantel-Haenszel,Bayesianのアプローチによるメタ解析を行った.

【結 果】
結核で25報(22898例),インフルエンザで26報(23616例)が登録された.ICS治療は,非ICS治療と比較して,結核の高いリスクと有意に関連していた(Peto OR 2.29; 95%CI 1.04-5.03)が,インフルエンザのリスク増加とは有意には関連していなかった(Peto OR 1.24; 95%CI 0.94-1.63).この結果は他の各メタ解析アプローチでも同様であった.さらに,COPD患者をICSで治療すると,1つの結核発生事象の要因におけるNumber Needed-to-Harm(NNH)は,非流行地域に比較して(NNH=1667)流行地域の患者ではより低かった(NNH=909).

【結 論】
我々の研究は,COPD患者において,さらなる検討を行うに値する,ICS使用と関連する結核とインフルエンザのリスクについての安全性の懸念を示すものである.
■私はCOPD患者に対しては,LAMA(長時間作用型抗コリン薬),LABA(長時間作用型β刺激薬)でもコントロール不良なケースか喘息合併のケースでない限り絶対にICS(吸入ステロイド)を処方しない方針にしていいる.理由はICSで感染リスク,血栓リスク,糖尿病悪化リスク等が報告されているためであり,特定の患者でない限りは有害性が有益性を上回る可能性が高いからである.このため,COPD患者に対してアドエアやシムビコートを第一選択とすべきではない.また,COPDを喘息と誤診するとICSが投与されてしまう懸念もあり,ましてやシムビコートの喘息に対する適応があるSMARTによって発作時も吸入などされてしまっては高用量ICS投与になる,初期診断は重要である.咳喘息疑い例でも,胸部X線撮影なしにICSによる診断的治療は行うべきでない.COPDに対する吸入薬の第一選択はあくまでもLAMAかLABAであり,ICSを含むシムビコートやアドエアではない.

■気管支喘息においてはICSが肺炎を増加させるか否かについては議論の余地があるが,COPD患者に対するICSが肺炎リスクとなることはコンセンサスが得られていると思われる.その原因として,COPD患者では気道クリアランスが低下しており,下気道に細菌が定着しやすいことが考えられている[1]

■Drummondら[2]は,COPD患者におけるICSを評価した二重盲検RCT11報14426例のメタ解析を行い,ICSが肺炎リスクを1.34倍有意に増加させると報告している(RR 1.34; 95%CI 1.03-1.75; p=0.03; I(2)=72%).サブグループ解析では,肺炎リスクは高用量のICSで1.46倍(RR 1.46; 95%CI 1.10-1.92; p=0.008; I(2)=78%),ICS使用開始早期で2.12倍(RR 2.12; 95%CI 1.47-3.05; p<0.001; I(2)=0%),ベースラインの呼気量が低いと1.90倍(RR 1.90; 95%CI 1.26-2.85; p=0.002; I(2)=0%),ICSと気管支拡張薬の併用で1.57倍(RR 1.57; 95%CI 1.35-1.82; P<0.001; I(2)=24%)有意に増加していた.

■Singhら[3]も無作為化比較試験18報16996例のメタ解析を行い,ICSが肺炎リスクを1.60倍有意に増加させ(RR 1.60; 95%CI 1.33-1.92; p<0.001; I(2)=16%),深刻な肺炎リスクを1.70倍増加させる(RR 1.71; 95%CI 1.46-1.99; p<0.001; I(2)=0%)と報告している.肺炎関連死亡リスクに関しても増加傾向がみられたが,統計学的有意差はなかった(RR 1.27; 95%CI 0.80-2.03 ; p=0.31; I(2)=0%).また,ICSはプラセボ群と比較すると,深刻な肺炎リスクが1.81倍有意に増加していた(RR 1.81; 95%CI 1.44-2.29; p<0.001).さらに,ICSとLABAの併用はLABA単独と比較して深刻な肺炎リスクが1.68倍有意に増加した(RR 1.68; 95%CI 1.20-2.34; p=0.002).さらにSinghらはこのメタ解析を24報23096例まで増やしてup-dateし[4],ICSで肺炎リスクが1.57倍(RR 1.57; 95%CI 1.41-1.75; p<0.0001)増加すると報告している.

■その他感染症として,14報の二重盲検RCT,11794例のコクランレビューによるメタ解析[5]では,COPD患者に対するICSでカンジダ感染症リスクが3.75倍,上気道感染リスクが1.32倍有意に増加すると報告されている.また,COPDではなく気管支喘息の研究であるが,気管支喘息小児192例でICS使用群と非使用群を比較したところ,咽頭への肺炎球菌の定着率は使用群で有意に高く(27.1% vs 8.3%),ICSは肺炎球菌定着リスクが3.75倍有意に増加した(RR 3.75; 95%CI 1.72-8.18; p=0.001)と報告されている[6]

■これらのICSによる感染症増加はステロイドの気道における免疫低下のみならず,ステロイドが体内に吸収されることによる,全身性ステロイド投与と同様の免疫力低下が生じている可能性がある.実際に,van Bovenら[7]のコホート研究では,ICSで静脈血栓症リスクは2.21倍(95%CI 1.72-2.86)有意に増加することが報告されており,この数値は全身ステロイド投与とほぼ同等である.5.5年間フォローアップされた388584例のコホート研究(糖尿病患者は30167例)[8]でも,ICSは糖尿病発症リスクを1.34倍(95%CI 1.29-1.39)に増加させると報告されている.ICSに関する16報RCT,17513例のメタ解析[9]でも,骨折リスクが1.27倍(Peto OR 1.27; 95% CI 1.01 to 1.58; p=0.04; I(2)=0%)増加することが報告されている.Kellyら[10]は,小児喘息患者943例をブデゾニド400mcg/日群,ネドクロミル16mg/日群,プラセボ群にランダムに割り付け,4-6年間投与したRCTを行い,ブデゾニド群で1.2cm有意に平均成人身長が低かったと報告している.Cossetteら[11]は,ICS単独またはICS+LABAを使用している妊婦7376例コホート研究を行い,低出生体重児(LBW),早産(PB),胎児発育遅延(SGA)の発生リスクを増加させなかったが,平均ICS用量が増えると,統計学的に有意ではないがこれらのリスクが増加する傾向がみられたと報告している.

■これらの結果から考えても,ICS使用によってそれなりの量が気道から体内に吸収され,全身性ステロイドと同様の作用を発現している可能性はおおいに考えられ,全身免疫系への影響の懸念もでてくるわけである.ここにCOPD患者の気道クリアランス低下という非特異的かつ物理的免疫機能低下という特徴があわされば,結核がICSを使用するCOPD患者で増加することは納得がいくところではある.

■Kimら[12]は,COPD患者616例の後ろ向きコホート研究で,結核発生リスクは,胸部X線写真上での陳旧性肺結核陰影のない患者で9.079倍(95%CI 1.012-81.431; p=0.049),陳旧性肺結核陰影がある患者で24.946倍(95%CI 3.090-201.365; p=0.003)有意に増加すると報告している.より大規模なN数での853439例症例対照研究[13]でも,喘息・COPD患者においてICSは結核リスクを1.20倍(95%CI 1.08-1.34)有意に増加(用量依存的)させると報告している.Leeら[14]は台湾国民健康保険データベース70782例の解析を行い,高齢,男性,糖尿病,終末期腎疾患,肝硬変とともに,COPDは結核発生の有意な独立危険因子であった(HR 2.468; 95%CI 2.205-2.762).

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by DrMagicianEARL | 2014-02-09 15:22 | 文献 | Comments(0)
敗血症と栄養管理(2) 投与カロリー,静脈栄養併用
Summary
・高度侵襲にさらされる重症患者では内因性エネルギーが発生する.
・安静時エネルギー消費量(REE)を正確に算出する方法は現時点では存在せず,内因性エネルギーも算出することは不可能なため,至適カロリー投与量(外因性エネルギー)を算出することはできない.
・REEよりカロリー量が多いoverfeedingはglucose toxicity(ミトコンドリア内部の過度の酸化ストレス,炎症反応の増幅),nutritional stress(REE増加,CO2産生増加,骨格筋タンパク分解増加,水分貯留・浮腫増悪)といった有害性があり,現在は推奨されておらず,REEより少ないカロリー量を許容するpermissive underfeedingがゴールデンスタンダードとなっている.
・underfeedingによる早期経腸栄養を行う際は早期からの静脈栄養の併用は予後を改善せず,むしろoverfeedingとなる可能性があり,骨格筋を改善せず,むしろ筋力低下を招き,さらに過剰な糖質とアミノ酸負荷が水・ナトリウムの貯留をきたしうる.
・BMI<17の低栄養患者においては早期からの静脈栄養が有効である可能性もあり,このような患者群において静脈栄養を控えることは妥当ではないかもしれない.

3.投与カロリーの基本原則 ~permissive underfeeding~

■高度侵襲病態においてはエネルギー必要量が増加するため高カロリー栄養が必要とする考えが約40年前に流行しており,3000kcal/日が推奨されていた.低カロリー栄養が提唱されたのは1980年代だが,一部の専門家の意見として取り上げられるに過ぎず,高カロリー栄養の流れが変わることはなかったようである.その後,重症患者への経腸栄養の有用性の報告が出始め,1990年代後半になって高カロリー栄養が実は有害であることが判明しだすに至る.

■侵襲下では,侵襲の大きさに応じてストレスホルモンとサイトカインが放出され,骨格筋タンパクの異化によるアミノ酸からの糖新生と脂肪組織からの脂肪酸放出による内因性エネルギーが供給されることが知られている[24].よって,この内因性エネルギーと医療介入により投与される栄養(外因性エネルギー)の総和が総供給エネルギー量となる.この総供給エネルギー量が安静時エネルギー消費量(REE)と一致するならば適正なエネルギー投与量であり(adequate feeding),REEより多ければ過剰エネルギー投与(overfeeding),少なければエネルギー不足(underfeeding)となる.
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■しかしながら,REEそのものを正確に算出する方法が現在存在しない[25].本邦で行われているREE推定はHarris-Benedict式で算出された基礎代謝量に活動係数とストレス係数を乗じて算出しているが,この方法にはエビデンスがなく[26],不正確であると指摘されている[27].また,内因性エネルギー量を算出する方法も存在しない.よって,重症患者個々に応じた外因性エネルギー投与量を定めるテーラーメイド的栄養投与は困難であることになり,adequate feedingは現実的には不可能で,overfeedingかunderfeedingのいずれかになる.20-40年前に主流であった高カロリー栄養投与はoverfeedingに属するものである.

■Barlettらは多臓器不全リスクのある外科ICU患者57例の観察研究を行い,間接カロリーメトリーで算出したREEをもとに累積エネルギーバランスの解析を行った[28].この研究では累積エネルギーバランスが0~マイナス10000kcalの患者の死亡率は11/28(39%)であったのに対し,マイナス10000kcalを超えてマイナスバランスだった患者の死亡率は12/14(86%)であった.この他にも,エネルギーバランスがマイナスで合併症やICU在室日数延長を示す観察研究は複数存在する.しかしながら,これらの結果はあくまでも相関を示したもので,因果関係の証明ではない.

■飢餓状態を考えると,絶食後約1日でグリコーゲンがすべてグルコースとなり全身で使い果たされる.グリコーゲンを使い果たして血糖値が低下すると,肝臓中で脂肪酸の分解経路であるβ酸化回路が活性化され,肝の脂肪がβ酸化を経てケトン体に変化し,全身でグルコース代替エネルギー源として利用される.飢餓状態が更に進むと,体脂肪や皮下脂肪など肝臓以外の脂肪が血流に乗って肝臓へと運ばれてβ酸化を経てケトン体に変わり,同様にエネルギー源となる.これによりヒトは理論上は水分の補給さえあれば絶食状態で2-3ヶ月程度生存が可能とされる.すなわち外因性エネルギーなしでもヒトが日単位で死に至ることはまずないのである.これはあくまでも飢餓状態の理論であり,侵襲下にある重症患者に直接あてはまるわけではないが,すべてのundefeedingが即危険というわけではない.

■一方のoverfeedingは20年前までの主流であったのは前述の通りである.そのような中,2001年のvan den BergheらによるLeuven studyⅠ[29]で有用性が示された,血糖値を80-110 mg/dLにコントロールする強化インスリン療法(intensive insulin therapy;IIT)が登場した.このIITはその後のメタ解析[30],VISEP trial[31],Glucontrol study[32],NICE-SUGAR study[33]でむしろ強化インスリン療法の有害性が示されて姿を消すことになったが,overfeedingと高血糖の有害性を明らかにするきっかけとなり,重症患者の栄養療法はoverfeedingを避ける方針に舵を切ることとなった.

■寺島らは,侵襲下でのoverfeedingを過去文献の検証をもとにglucose toxicity(ミトコンドリア内部の過度の酸化ストレス,炎症反応の増幅),nutritional stress(REE増加,CO2産生増加,骨格筋タンパク分解増加,水分貯留・浮腫増悪)に大別して代謝性有害事象を分類することを提唱しており,静脈経腸栄養誌に詳述されている[34]の.また,寺島らはラットモデル研究[35,36]を行い,過剰なグルコース投与による二次的高血糖は全身炎症反応を短時間で過剰に増幅し,体内インスリン総量(内因性インスリン+医療介入によるインスリン療法)が増加し,そのインスリンが骨格筋タンパク分解抑制・ロイシンアミノ基転移反応抑制を誘導する結果,BCAA・アラニン(糖新生の主要な基質)・条件付き必須アミノ酸(グルタミン・アルギニン)の供給減少といった生理的なアミノ酸供給システムの障害が発現し,GLUT4経由で骨格筋に大量のグルコースが取り込まれてしまい,骨格筋細胞における酸化ストレス増強から筋タンパクの病的分解が発生することを示した.これらはグルコース過剰投与の結果であり,overfeedingがこれらの危険性を有することのひとつの証明といえる.

■Arabiらは,人工呼吸器を必要とした重症患者240例において,投与タンパク量は差がでないようにして,必要カロリーの60-70%を投与する低容量群と90-100%の通常容量群を比較したRCT[37]を行い(実際にはIITと通常血糖コントロールも比較した2×2機能試験),28日全死亡率には有意差はないが(18.3% vs 23.3%; RR 0.79; 95%CI 0.48-1.29; p=0.34),院内死亡率は(30.0% vs 42.5%; RR 0.71; 95%CI 0.50-0.99; p=0.04)で有意に低容量群が低かった.

■Riceらは急性呼吸不全で人工呼吸器を装着した患者200例における経腸栄養を,最初の6日間を10mL/hrで行うtrophic群と全エネルギー量を投与するfull-energy群を比較したRCT[38]を行い,経腸栄養期間(5.5日 vs 5.1日; p=0.51),人工呼吸器装着日数(中央値23.0日 vs 23.0日; p=0.90),ICU非在室日数(中央値21.0日 vs 21.0日; p=0.64),院内死亡率(22.4% vs 19.6%; p=0.62)に有意差はなく,下痢(19% vs 24%; p=0.08)や胃内残量増加(2% vs 8%; p<0.001)がfull-energy群で有意に増加したと報告している.

■さらにRiceらは,ARDS患者1000例の治療開始後6日間の栄養管理で,400kcal/日と1300kcal/日で予後を比較した米国44施設共同RCTであるEDEN trial[39]を行い,1300kcal/日群で有意に嘔吐(2.2%vs1.7%,p=0.05),胃内残量増加(4.9%vs2.2%,p<0.001),便秘(3.1%vs2.1%,p=0.003)が増加していたと報告している.また人工呼吸器離脱期間,感染症合併率,60日死亡率は有意差はなかった.このEDEN trialの1年後の予後を評価したNeedhamらの報告[40]では,身体機能,生存率,認知機能,QOL等あらゆるアウトカムに有意差はなかったとしている.

■以上より,overfeedingを回避し,underfeedingを許容する,いわゆるpermissive underfeedingの戦略が現在のスタンダードとなっており,経腸栄養であれば10-25mL/hrの流量で開始し,3日目に目標カロリーの60%を目指して増量していき,7日目で100%を目標とする投与法が一般的になっている.これらを行っていくうえで,目標カロリー量の設定,胃内残量測定等を含めた様々なプロトコルが検討されている(今回は省略するが,CCPGのプロトコルが参考になる).

4.経腸栄養に静脈栄養の併用は妥当か? ~EPaNICとSwiss SPNに見る論争~

■重症患者における経腸栄養(EN)に静脈栄養(PN)を加えるかについては米国静脈経腸栄養学会/米国集中治療医学会(ASPEN/SCCM)と欧州静脈経腸栄養学会(ESPEN)とで意見が分かれており,論争となっている.ガイドラインでのPNの適応については以下のようになっている.
米国ASPEN/SCCMガイドライン[10]
・入院時にタンパク栄養障害がみられる場合,ENが不可能であればPNをできる限り早期に開始する(Grade C).
・タンパク栄養障害がみられないときは,早期のENに適応がないもしくは不可能であっても7日間はPNを投与しない(Grade C).
・ICU入室後7日たってもENが不可能な場合はPNを開始する(Grade E).
・7-10日後に経腸栄養のみで必要エネルギー量(目標量の100%)を満たすことができない場合に経静脈栄養による補充を考慮する(Grade E).
・経腸栄養によって目標栄養量の60%以上に達するまで経静脈栄養を終了すべきではない(Grade E).

欧州ESPENガイドライン[41]
・ENが禁忌の場合,もしくは症例がEN投与に耐えられない場合,また3日以内に標準栄養が期待できない全患者で24-48時間以内にPNを開始する(Grade C).
・重篤な低栄養の患者には25-30 kcal/kg/dayまでENを増量すべきで,目標に達しない場合はPNを開始する(Grade C).
・ENが可能な患者やおおよそ目標エネルギーを摂取できている患者にはPNの追加を避ける(Grade A).
・EN開始2日後に目標栄養量以下である全患者にPNでの補充を考慮すべき(Grade C).
■大きな違いは,ESPENでは3日以内に目標エネルギー摂取が期待できない全患者において48時間以内の早期経静脈栄養を推奨しているのに対し,ASPEN/SCCMは最初の7日までは静脈栄養は推奨されないとしている点である.

■侵襲下での内因性エネルギー供給を考慮すれば,overfeedingよりunderfeedingの方が安全であることは既にコンセンサスがあったことを考えればASPEN/SCCMの方が理にかなっている.また,ESPENは,PNでアウトカムが悪いのは血糖のコントロールができていなかったせいだと主張していた.この2大ガイドラインの論争に一定の結論をだしたのが2011年に報告されたEPaNIC trial[42]である.

■EPaNIC trialは7施設による前向きRCTであり,ICUの重症疾患患者4640名を対象に行われた.早期PNと後期(8日以降)PNの比較で,事実上,ESPENガイドラインとASPEN/SCCMガイドラインの比較に他ならない.これによると,死亡率に有意差こそなかったが,平均ICU滞在日数(4日 vs 3日; p=0.02),感染症発生率(26.2% vs 22.8%; p=0.008),腎代替療法施行日数(10日 vs 7日; p=0.008),2日以上の人工呼吸器使用率(40.2% vs 36.3%; p=0.006),医療コストにおいて後期静脈栄養群(ASPEN/SCCM)が有意に優れており,「ENが可能であれば,早期PNによる補助で投与エネルギーゴールを目指す管理は一利もなく推奨されない」と結論づけ,ESPENの推奨を否定,ASPEN/SCCMの推奨を支持するものであった.

■なお,この研究を行ったのはなんとESPENのメンバーであり,その中心となったのはIITの有効性を報告したvan den Bergheである.実はこのEPaNIC trialはIITが否定された後に報告されているが,血糖管理はIITを用いている.van den Bergheらは血糖コントロールをIITで十分に行いながら早期PNを開始すればよいアウトカムになるのではないかと考えてこの研究を行ったのではないかと推察されている(実際には後期PN群で有意に低血糖が多かった).

■これに対し,早期PNが有効であるとする報告が2011年の欧州集中治療学会で報告された.この報告はHeideggerらの研究(Swiss SPN study)[43]であり,早期EN開始3日目で目標カロリーを達成できなかった305例において,PNを併用する群(SPN群)とEN単独群(EN群)を比較したRCTである.結果は,9日目から28日目までの感染症発生率はSPN群が有意に感染症発生率が少なかった(27% vs 38%; 95%CI 0.65; 95%CI 0.43-0.97; p=0.0338)と報告されている.しかし,主要評価項目が登録されているものと文献で発表されているものが違う,初期では感染症の発生率がSPN群の方が高いなど問題点が指摘されている[44].また,EN群のカロリー量が少なすぎる可能性もあった.

■この2つの結果は,米国ASPENと欧州ESPENのガイドラインの真っ向からの対立の様相となっており,また,投稿誌も米国のNew England Journal of Medicine,欧州のLancetであった.そして,2013年の欧州静脈経腸栄養学会のセッションにおいて,Swiss SPN studyのHeideggerとEPaNIC studyのvan den Burgheが激論をかわす直接対決に至った.HeideggerらはEPaNIC studyを猛批判し,EPaNIC studyはN数が多いだけで見掛け倒しの研究だと揶揄している.これに対し,van den BurgheらはEPaNIC trialについてさらなる解析を進めており,なぜ早期PN群が劣る結果であったかを検討している.

※勘違いされていることが多いが,New England Journal of Medicineは英国ではなく,米国のマサチューセッツ医科内科学会が発行している医学雑誌である.New Englandとはコネチカット州,ニューハンプシャー州,バーモント州,マサチューセッツ州,メイン州,ロードアイランド州を含む地域名であり,米国で最も古い地域であり,1616年にイギリスで入植者が募集されたのが地域名の由来となっている.

■van den BurgheらはENかPNかといった投与経路は問題ではなくoverfeedingが問題であったととらえている.さらに,van den Burgheは2013年のCritical Care誌でのレビュー[45]において,このoverfeedingがautophagyの抑制を引き起こし,免疫低下を起こすことに言及しており,これが感染症増加の原因のひとつと考えているようである.実際に,まだ未論文化データであるが,早期PN群の中でも投与カロリー量<33.3%のサブグループが最良のアウトカムであったことが分かっている.

■さらに,post-hoc解析では,重症度は早期PNの有害性とは関連がなく,投与カロリーは少ないほど予後が良く,糖よりもアミノ酸/蛋白の投与量の方が予後と関連したとしている[46]

■また,早期PN群では腎代替療法期間は延長したが,腎代替療法の使用頻度には有意差はなかった.これについてもpost-hoc解析を行い,急性腎傷害の発生頻度や期間,クレアチニンの推移に差はなく,尿素が有意に早期PN群で高かった.このため,アミノ酸が多量に投与され,尿素が上昇し,腎代替療法を終了するのが遅くなったとしている[47].実際に,血中アミノ酸蓄積は尿素を増加させ,腎糸球体の溶質負荷を増大させ,ナトリウムと水の排泄が低下することが知られている[48]

■また,早期PN群でも骨格筋減少は食い止められず,むしろ骨格筋の中に脂肪が形成され,骨格筋の質が悪くなることも分かった[49].筋力低下(CUAW;ICU-acquired weakness )の評価[50]では,後期PN群が早期PN群より筋力低下が有意に少なく(34% vs 43%; absolute difference -9%; 95% CI -16 to -1; p=0.030),筋力低下からの回復も後期PN群の方が有意に早く,autophagyは早期PN群で抑制されていた.

■以上から,underfeedingによる早期経腸栄養を行う際は早期からの静脈栄養の併用は予後を改善せず,むしろoverfeedingとなる可能性があり,骨格筋を改善せず,むしろ筋力低下を招き,さらに過剰な糖質とアミノ酸負荷が水・ナトリウムの貯留をきたしうる.ただし,いつまで静脈栄養を控えた方がいいのかについてはいまだ明らかではないため,現状としては早期経腸栄養を7日目まで行い,静脈栄養を併用するならば8日目以降とするのが最も無難といえるかもしれない.ただし,EPaNIC trialはBMI<17の低栄養患者が除外されていることに注意が必要で,このような患者において静脈栄養が有効であるとするメタ解析[12]もあることから,このような患者群において静脈栄養を控えることは妥当ではないかもしれない.

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by DrMagicianEARL | 2014-02-03 00:00 | 敗血症 | Comments(0)

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