「ほっ」と。キャンペーン
ブログトップ

EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

<   2014年 04月 ( 2 )   > この月の画像一覧

今回はちょっと宣伝です
e0255123_1155827.png
■JSEPTIC(日本集中治療教育研究会)の機関誌であるIntensivist誌の最新号『ICUルーチン』(メディカル・サイエンス・インターナショナル,¥4,600)が発売となりました.今回は長谷川隆一先生(公立陶生病院救急部)と真弓俊彦先生(産業医科大学救急医学講座)がエディターとなり,本邦のICUで頻繁に行われている処置・検査・ケアのルーチンの計16項目を取り上げ,その現状とエビデンスのギャップ,どのように改めるべきかについてをまとめています.本ブログ記事の下の方に特集内容を並べてありますが,見て分かる通り,看護師さんにも大きくかかわる項目が約半数を占めていますし,ICUのみならず一般病棟でも参考になる内容がてんこ盛りです.

■今回私も『消化性潰瘍予防・治療』の項目を担当執筆させていただきました.入院患者にPPIやH2RAが特にリスクもないのにルーチンで投与されているのをよく見かけます.これはICU患者でも言えることで,ICU患者だからといって全例に消化性潰瘍が必要というわけではありません.American Society of Health-System-Pharmacistsの消化性潰瘍予防ガイドラインにICU患者での消化性潰瘍予防の適用基準があり,ICU入室だけでは適用にならないことが分かります.また,敗血症の国際ガイドラインSSCG2012においても,PPIが第一選択という推奨ばかりが知れ渡っていますが,「出血リスクを有する患者」「危険因子のない患者には投与すべきでない」という記載があり,敗血症だからといって適用があるわけではありません.

■ICU患者におけるPPI,H2RAについてはいくつものRCTとメタ解析がありますが,これらのエビデンスはほとんどが10年以上前のデータに基づくものであり,当時の消化管出血発生リスクは1-5%であったのが2000年以降は1%未満とされており,集中治療の進歩が消化管出血発生を大きく減少させていることから,これらのエビデンスは再検証される必要があります.

■同時に,不適切な消化性潰瘍予防薬投与は主に肺炎などの感染症といった有害事象やコストを増加させてしまうため,不適切使用を減じる方法が必要であり,この方策について,普段感染対策で抗菌薬適正使用を推進している経験をもとに述べさせていただきました.

※校正終了後に書き忘れていたことに気がついたのですが,頻度はかなり少ないですが,PPIの副作用にはcollagenous colitisもありますので注意してください.

Intensivist 2014, Volume 6, No.2『ICUルーチン』
序章.ルーチンの功罪
第1章.ICUにおけるケア
1.体位変換・褥瘡予防
2.口腔ケア:ケアの要は「歯垢の除去」だけでなく「汚染物の回収」
3.気管吸引:ルーチンの吸引は不要
4.家族ケア(心理サポート):多重ストレスを抱える家族にはどう介入するか
5.体温測定・クーリング:ルーチンの解熱療法は有効か?
6.カフ上部吸引孔付き気管チューブをルーチン使用してよいか?:適正使用される前提のもと全例でルーチン使用を
【コラム】頭高位は人工呼吸器管理患者のルーチン体位か?:エビデンスの検討と他体位の比較

第2章.ICUにおける検査・処置
7.レントゲン(胸部単純X線撮影):毎日のルーチン撮影は本当に必要か
8.採血・尿定性培養:ICUにおける血液ガス分析を減らすことはできるのか
9.消化性潰瘍の予防・治療:予防薬の適応について再考すべき時期にある
10.ICU入室中の心房細動の予防・治療:原疾患の治療と補正可能な併存病態の改善を優先する
11.抗凝固薬の使用方法:個々の症例ごとに血栓形成と出血のリスクを勘案し投与する
12.ICUにおけるリハビリテーション:早期離床・運動療法の有効性の検証と今後の課題
13.末梢静脈カテーテル:安全管理のために

第3章.ICUの環境整備・スタッフ関連
14.ICUの面会事情:愛する家族に会うことは制限されるべきなのか
15.清拭・環境整備と除菌:見た目が変われば周りも変わる
16.バーンアウト予防:医療崩壊にもつながるバーンアウトは,組織として予防に取り組むべし
[PR]
by DrMagicianEARL | 2014-04-14 12:57 | 敗血症 | Comments(0)
■1月末に小保方ら[1,2]によるSTAP細胞(Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency cell;刺激惹起性多能性獲得細胞)に関する研究結果がNature誌に報告された.ノーベル賞間違いなしと言われ,大々的ニュースとして日本のみならず世界でも報道がなされたが,2月中旬からインターネットで次々と論文不正疑いが指摘され事態は一転,共同研究者が論文撤回を呼びかけることになり,4月1日に理化学研究所(以下,理研)が最終調査報告として,論文不正を認定するに至った.これに対し,小保方氏はこの認定を不服として申し立てを弁護士を通じて4月8日に行い,4月9日に記者会見を行っている.

1.STAP細胞論文で指摘された不正疑惑

■小保方らのSTAP細胞論文については,Guo Jianliらの論文からの文章の剽窃や,Robert Blellochらの論文からの文章剽窃が指摘されているが,それ以上に,画像において疑義がでていることから捏造の疑いがもたれている.

■まず,この研究では生後1週マウスの脾臓由来のTリンパ球を用いており,TCR再構成をもって初期化を証明するものであったが,それを示すDNA電気泳動写真のレーン3の部分に切り貼りを行った形跡があり,GLバンドないことが指摘された.その後の理研のプロトコル発表ではTCR再構成がなくともSTAP細胞と呼んでよいという定義に変わっており,初期化ではなく単に元からあった幹細胞を選択(スクリーニング)しただけの可能性がある(そうであれば生後1週マウスでなければ成功しにくいことも納得がいくため,limitationが致命傷となりうる).これによりそもそもの「初期化あってこその大発見」という意義が失われてしまう.

■さらに3月9日に小保方博士の博士論文に使われた画像がSTAP細胞論文の画像と酷似していることが発見され,流用の疑いがもたれている.具体的には,博士論文の骨髄sphere由来のテラトーマ/Mesoderm免疫染色画像とSTAP細胞由来のテラトーマ/Mesoderm免疫染色画像が同一写真ではないかと指摘されている.この部分はSTAP細胞の多能性を示す重要な部分となるが,この2つの論文の研究はまったく関係がないものであり,もし画像流用であれば多能性すら示せておらず,捏造が確定ということになる.

■理研の最終調査報告では,DNA電気泳動写真の切り貼りを「改竄」,博士論文からの画像流用を「捏造」と認定した.これにより,STAP細胞の根幹となる初期化,多能性のいずれもが不正によって示されたものと認定されたことになる.

■さらに,共同研究者の若山照彦山梨大学教授は,特殊な処理をして凍結保存していたSTAP細胞2株で,若山教授がどんなマウスからでも作製が可能か調べるため,小保方氏に論文の実験で使ったのとは異なる129系統という種類のマウスを手渡し,作製を依頼した.小保方氏はシャーレの中で129系統のマウスの細胞を刺激したところ,状態のよいSTAP細胞の塊が2つ出来たとして若山教授に渡している.しかし,一連の問題を受けてこの2株の細胞の遺伝子を調べると,細胞は129系統のマウスのものではなく,いずれもこの実験には使っていないはずのB6とF1という2種類のマウスのものだったことが判明している.このことから,現時点では断定はできないが,STAP細胞ではなくES細胞が使われていたのではないかという疑惑がもたれている.記者会見では小保方博士は「ES細胞が混入するような環境ではなかった」と答えているが,マウスが異なることについてはまったく弁明できていない.

■また,STAP幹細胞の作成はオスのマウスのみであったはずだが,論文にはメスも記述されており,矛盾が指摘されている.

■なお,小保方氏の過去の論文においても多数の実験画像において不適切な文章剽窃,データ処理・加工・流用が疑われている状況にある.

2.STAP現象とSTAP細胞の混同

■今回の論文において重要なキーとなるのはSTAP現象である.STAP"現象"とは,何らかの刺激を与えられた細胞が多能性をもつことであり,STAP"細胞"とは多能性をもった細胞のことである.一般市民の間ではこのSTAP現象とSTAP細胞は非常に混同されて勘違いされているようで,マスコミも間違えて報道していることがある.

■STAP現象の確認,すなわち刺激を受けた細胞が多能性を有するかの確認のひとつにOct4とよばれる蛋白を確認する方法がある.Oct4とは幹細胞の自己複製と密接に関連している蛋白質であり,この蛋白が作られると同時に緑色傾向蛋白質のGFP(Green Fluorescent Protein)も作られるように遺伝子操作を行うことで,Oct4の発現を緑色の光として視覚的に確認することができる.

■しかし,Oct4はその細胞が死ぬ寸前にも発現する.これはOct4がアポトーシス(プログラム細胞死)を抑制する作用があるため,細胞死が生じる直前に発現してくるためである.よって,Oct4発現をもって多能性を確認した,と断定することはできない.実際に,複数の研究者が追試においてOct4発現(STAP現象)までは確認できているが,細胞が死んでしまっていることからSTAP細胞作成に至っていない.

■小保方氏は記者会見においてSTAP細胞作成に200回以上成功していると述べているが,既に多くの研究者から指摘されている通り,あの研究期間で200回以上作成を行うことは不可能である.しかし,STAP現象確認であれば200回以上というのは納得がいく(実際にはどういう意図で「200回以上」と述べたのかは不明である).

■共同研究者の笹井氏もメディアに対して「STAPは本物の現象だ」と述べているが,これはSTAP現象を指しているのかSTAP細胞を指しているのか分かりにくい.少なくともOct4発現というSTAP現象のみをもって「STAP細胞を作成できた」「STAP細胞は存在する」とは言えない.

3.小保方氏の反論と科学の危機

■4月8日に小保方氏は不服申し立てを行っているが,この不服申し立てにもいくつもの矛盾点が指摘されている(http://stapcells.blogspot.jp/2014/04/blog-post_9.html).さらに4月9日には小保方氏自らが記者会見を開き,アンケート調査では過半数が小保方氏を支持するという結果であった.記者会見内容は一般市民に対する心象操作が目的だったのだろうか?残念ながらあの記者会見ではSTAP細胞に関する検証は何一つ進展がなく,あの内容に納得した科学者はほぼ皆無であろう.おまけに「自己流」「能力を超えていた」「結果自体が変わらないので,影響を及ぼすとまでは考えていなかった.結果が正しく提示されていれば問題ないと考えていた」など驚愕の発言も次々と飛び出した.

■現時点でいかに小保方氏が「STAP細胞は存在する」「STAP細胞は何度も確認された真実」と口で述べても,存在することを証明できていない限りは「STAP細胞が存在する」とは言えないのが科学の原則であり,存在の証拠も再現確認も提示されてない以上はSTAP細胞の存在は現時点では仮説に過ぎない.また,小保方氏自身が,STAP現象,すなわちOct4発現が見られたことをもってSTAP細胞が作られたと考えているのかはいまだに不明である.もしそうなのであれば,単に死ぬ間際の細胞のOct4発現ばかりを確認していた可能性もある.

※科学者でない方が「『STAP細胞は存在しない』ことが証明されていないんだからSTAP細胞の存在は否定できないはずだ」という主張をされているのをネットでよく見かけるが,まずは存在を示さない限りは存在しないという反証もできない.悪魔の証明は科学の世界では通用せず,それがまかり通るのはむしろ宗教であろう.

■小保方氏の不服申し立てと記者会見は「悪意有無」を争点としている.しかし,実際には悪意有無や単なるミスであるかなど関係はなく,STAP細胞が存在するのかについての検証が優先されるべきであり,STAP細胞を本当に作れていたならばそれですべて解決する.「STAP現象が論文の体裁上の不備によって否定されるのではなく,科学的な実証,反証を経て研究が進んでいくことを心より願っております」と述べるならば,悪意有無を争点とすることには矛盾を感じざるを得ない.真実を明らかにすべき小保方氏が自ら真実を遠ざけているかのようである.

■現状況は日本の科学の危機的状態と指摘する科学者も少なくない.ある科学者がネットでこうつぶやいている.「魔女裁判の危機にあるのは小保方さんじゃなくて,あの会見に納得した層に裁かれる研究者の方.科学の言葉は通じず見せかけの感情が優先すれば,僕らは簡単に火炙りに合う存在」.実際に,記者会見を終えての一般市民と科学者の間には受け止め方に大きな乖離が生じている.ノバルティスファーマ社のディオバン不正論文事件のときの一般市民の反応は何だったのであろうか?一般市民の誤解した認識と感情論が科学を逆に追い詰め,真実が闇に葬られることがあってはならない.弁護士が介入し,悪意有無を争点として舞台が法廷に移ってもSTAP細胞問題は何ら解決せず,事態が泥沼化するのみである.このままでは多くの科学者達も小保方氏の主張に納得はしないだろう.科学者として生き残る道を自ら閉ざそうとしているように見えてならない.

[1] Obokata H, Wakayama T, Sasai Y, et al. Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency. Nature 2014; 505: 641-7
[2] Obokata H,Sasai Y, Niwa H, et al. Bidirectional developmental potential in reprogrammed cells with acquired pluripotency. Nature 2014; 505: 676-80
[PR]
by DrMagicianEARL | 2014-04-12 16:16 | Comments(0)

by DrMagicianEARL