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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

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■ウリナスタチン(ミラクリッド)はもはや化石のような薬剤な上に,作用機序的にも疑問があったので私はもう一生投与することもない薬剤・・・と思っていたらインドからRCTがでてきました.調べてみたら実は中国でもRCTがいくつかあったんですね.今回はpilot RCTでper-protocol解析ではポジティブ,ITT解析ではネガティブな結果.今後大規模試験が組まれるのでしょうか.本研究の紹介とともに過去の重症敗血症に対するウリナスタチンのRCTのシステマティックレビューも行ってみました.残念ながら効果は用量依存性であり,本邦のウリナスタチンの用量では重症敗血症の予後を改善する根拠はなく,使用するのは早計と思われます
重症敗血症におけるウリナスタチン静脈内投与:多施設共同無作為化比較試験
Karnad DR, Bhadade R, Verma PK, et al. Intravenous administration of ulinastatin (human urinary trypsin inhibitor) in severe sepsis: a multicenter randomized controlled study. Intensive Care Med 2014; 40: 830-8
PMID:24737258

Abstract
【目 的】
セリンプロテアーゼ阻害薬のウリナスタチンは,敗血症において,各種向炎症プロテアーゼを阻害し,炎症性サイトカインと死亡率を減少させる.我々は,インドの7施設で重症敗血症患者に対する二重盲検試験を行い,28日全死亡におけるウリナスタチンの効果を検討した.

【方 法】
敗血症患者は1つ以上の臓器不全を発症してから48時間以内に,ウリナスタチン(20万単位)またはプラセボを12時間ごとに5日間静脈内投与するよう,無作為に割付けられた.

【結 果】
122例が無作為に割付けられ,114例が試験を完遂した(55例がウリナスタチン投与,59例がプラセボ投与).患者背景では,平均APACHE IIスコアは13.4(標準偏差4.4),48例(42%)の患者が人工呼吸管理を受け,58例(51%)が循環作動薬を投与され,35%が多臓器不全を有していた.調整したintention-to-treat解析(6回以上の研究薬を投与された患者)では,28日全死亡率はウリナスタチン群で7.3%(4例死亡),プラセボ群で20.3%(12例死亡)であった(p=0.045).多変量解析においても,ウリナスタチンによる治療は28日全死亡減少に独立して関連していた(OR 0.26; 95%CI 0.07-0.95; p=0.042).しかし,intention-to-treat解析では,死亡率の差は統計学的に有意ではなかった.(10.2%(6/59例死亡) vs 20.6%(13/63例死亡); p=0.11).ウリナスタチン群は新規発症の臓器障害発生率が少なく(10例 vs 26例; p=0.003),人工呼吸管理のない日数が多く(平均±標準偏差; 19.4±10.6日 vs 10.2±12.5日; p=0.019),入院期間が短かった(11.8±7.1日 vs 24.2±7.2日; p<0.001).

【結 論】
本予備試験において,ウリナスタチンの静脈内投与は重症敗血症患者の死亡率を調整されたintention-to-treat解析では減少させたが,intention-to-treat解析では減少しなかった.
1.本研究結果について

■本研究はabstractでは二重盲検RCTとしか記載されていないが,実際にはブロックランダム化(ブロックサイズは4例)を用いている.絶対死亡率で見るとNNTは約10となかなかの治療成績である.調整したintention-to-treat解析(ITT解析)はper-protocol解析(PP解析)のことであろう.ITT解析では有意差はついていないが,有意差をつけるには検出力を0.8とすると必要サンプル数は416例となる.今後組まれるとしたら500例程度のRCTになるだろうか?

■登録された224例のうち約半数の102例が除外されている.除外基準は妊婦,授乳中,血小板数3万未満,臓器移植歴,コントロールされていない悪性新生物,慢性腎不全末期または肝疾患末期,体重135kg超過,治療の限界を有する患者,24時間以内に死亡が予測される患者である.

■重症敗血症でプラセボ群の死亡率は20%程度なのは近年の研究で見ると妥当な水準であると思われるが,登録対象患者が18-60歳となっており,平均年齢を見ると37歳(標準偏差は13)であり,近年の敗血症の研究と比較すると20-30歳ほど若い.一般的に敗血症が多いとされる高齢者はほとんど含まれていない.また,プラセボ群に男性が多い(69% vs 85%; p=0.05).APACHE IIスコア(13.2 vs 13.5; p=0.81),循環作動薬使用(50.8% vs 50.9%; p=0.99),人工呼吸管理(41% vs 44%; p=0.75)には差はない.白血球数,血小板数,CRP,障害臓器数や背景疾患,感染巣にも差はない.

■変数減少法を用いた多変量ロジスティック回帰解析(年齢,性別,GCS,特異的臓器障害,臓器障害数,循環作動薬使用で調整)では,腎不全(OR 6.37; 95%CI 1.70-23.8; p=0.006),人工呼吸器必要度(OR 3.36; 95%CI 1.01-11.2; p=0.048),ウリナスタチン(OR 0.26; 95%CI 0.07-0.95)が28日予後と関連した独立因子であった.なお,調整因子にAPACHE IIスコアはなぜか含まれていないが,これは恣意的な選択であろうか?

■ウリナスタチンの投与量は20万単位を12時間ごとであり,本邦保険適応最大用量の30万単位/日を上回っていることに注意が必要である.

2.ウリナスタチンと敗血症に関するRCTのシステマティックレビューおよびメタ解析

■ウリナスタチン(ミラクリッド)はヒト尿から精製され,分子量67kDaで半減期35分のセリンプロテアーゼ阻害薬である.トリプシン,α-キモトリプシン,エラスターゼ等の蛋白分解酵素やヒアルロニダーゼ,リパーゼ等の糖・脂質分解酵素をも阻害する[1].また,フリーラジカル消去作用を有することも分かっている[2]

■マウス実験では,エンドトキシンショックのマウスにウリナスタチンを静脈内投与したところ,生存率は有意に上昇したとしている[3].また,エンドトキシンショックのイヌにウリナスタチンを静脈内投与したところ,低下した平均動脈血圧,心係数,大動脈血流量,腎血流量等が増加したとしている[4]

■本邦でのRCTは2つあるが,いずれも敗血症に限定したものではない.急性循環不全(心原性以外のショック)を対象とした40施設共同の二重盲検RCT(第二相試験)において,急性循環不全に対する有効率は82.5%(47/57)で,ショック患者における収縮期血圧,脈拍数,Base Excess,尿量,意識状態などの異常を改善しており,低用量群よりも高用量群の方が,またショックの中でも細菌性ショックでショック離脱率の有意な改善を示している[5].また,ショック患者を対象としたアプロチニン(60万単位/日×3日)とウリナスタチン(30万単位/日×3日)との二重盲検RCTでは,ウリナスタチンの有効率は71.7%(43/60)で,アプロチニンに比し有意に優っていた(p<0.01)[6].この研究では,ウリナスタチンがタンパク分解酵素の遊離抑制および活性を阻止した結果循環動態が改善した可能性を示唆している.いずれも死亡率改善効果を示したものではなく,小規模研究である.

■PubMedにおいて敗血症に対するウリナスタチンのRCTを検索すると上記インドでの報告以外に7報がヒットし,すべて中国からの報告であった.

■Chenら[7]は,重症敗血症に対してウリナスタチン60万単位/日+Thymosin α1併用群とプラセボ群を比較した114例二重盲検RCTを行い,28日生存率は54.1% vs 35.4%(p=0.078),60日生存率は 54.1% vs 28.2%(p=0.045),90日生存率は47.4% vs 20.0%(p=0.033)でいずれも有意に改善させている.

■Huangら[8]は,敗血症に対してウリナスタチン60万単位/日+Thymosin α1併用群と非使用群を比較した70例オープンラベルRCTを行い,28日生存率は併用群が高かったが統計学的に有意ではなかった(63.9% vs 41.2%; p=0.093).

■Liら[9]は敗血症に対してウリナスタチン60万単位/日+Thymosin α1併用群とプラセボ群を比較した56例二重盲検RCTを行い,28日生存率は併用群が高かったが統計学的に有意ではなかった(78% vs 60%; p=0.25).

■Zhangら[10]は,カルバペネム耐性菌による敗血症に対してウリナスタチン60万単位/日+Thymosin α1併用群とプラセボ群を比較した120例二重盲検RCTを行い,28日生存率は51.7% vs 33.9%(p=0.086),60日生存率は52.6% vs 26.7%(p=0.046),90日生存率は47.4% vs 20.0%(p=0.033)であり,生存率を改善させていた.

■Suら[11]は重症敗血症に対してウリナスタチン(最初4日間は40万単位/日,あとの6日間は20万単位/日)+Thymosin α1投与群と非投与群を比較した242例オープンラベルRCTを行い,28日死亡率は20% vs 33%でウリナスタチン群が有意に低かった(p=0.025).

■Linら[12]はウリナスタチン30万単位+Thymosin α1併用群と非投与群を比較した91例オープンラベルRCTおよびウリナスタチン60万単位+Thymosin α1併用群と非投与群を比較した342例オープンラベルRCTを行い,28日死亡率は前者のRCTでは有意差がなかったが,後者では25.14% vs 38.32%(p=0.0088),90日死亡率は37.14% vs 52.14%(p=0.0054)であり,併用群で有意に死亡率が低かった.

■Wuら[13]は,2011年10月から2012年10月まで登録された重症敗血症に対してウリナスタチン9万単位/日投与群と非投与群を比較した60例のオープンラベルRCTを行い,ウリナスタチン投与によりTregやTh17を減少させ,IL-17,IL-6,IL-10を減少させたが,28日死亡率は18.2% vs 20.1%; p>0.05で有意差はみられなかった.

■上記7報に加え本記事で紹介したKarnadらの報告を加えた8報のRCTをのメタ解析を行った.解析ソフトはEZR[14]を用いた.データ統合すると,サンプル数1112例,ウリナスタチン使用群とプラセボまたは非介入群の28日死亡率は26.9% vs 41.4%(p<0.0001)であり,ウリナスタチンは28日死亡リスクを48.0%有意に減少させる(OR 0.520; 95%CI 0.404-0.699).Thymosin α1を併用せずウリナスタチン単剤のみを用いた研究に限定すると,サンプル数174例,ウリナスタチン使用群とプラセボまたは非介入群の28日死亡率は11% vs 20%(p=0.095)でウリナスタチン群で低い傾向が見られたが統計学的有意差はなかった(OR 0.47; 95%CI 0.20-1.10).

■8報中6報でThymosin α1を併用していることに注意が必要で,ウリナスタチン単剤使用であったWuら[13]の報告では死亡率の改善は示せておらず,Karnadらの報告ではPP解析で有意に改善を示している.8報中6報でウリナスタチンの投与量が本邦保険最大用量よりも多く,最も少ないWuら[13]の報告(9万単位/日)では死亡率に有意差はなかった.日本と同一用量の30万単位/日を用いたLinらの報告[12]でも死亡率は改善しておらず,倍量の60万単位/日を用いると改善している(ただし,30万単位/日が91例の小規模研究であったために統計学的有意差がでなかった可能性もある).本記事で紹介したKarnadらの報告(PP解析)とSuらの報告[11]では40万単位/日で死亡率が改善している.これらのことから,ウリナスタチンの効果が用量依存性である可能性もある.また,3報[7,8,10]ではプラセボ群の生存率も低すぎることに注意が必要である.

■以上から,重症敗血症に対するウリナスタチンは,高用量投与で予後を改善する可能性はある一方で,本邦適応用量範囲では最大用量の30万単位/日を用いても重症敗血症の予後を改善する根拠は現時点ではまったくなく,少なくとも40万単位/日は必要である.また,ウリナスタチン単剤で評価したRCTは2報しかなく,その2報での死亡率改善効果は有意とは言い難い.今後,ウリナスタチン単剤での大規模RCTでの評価が必要である.

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by DrMagicianEARL | 2014-05-28 18:19 | 敗血症 | Comments(0)
Summary
・AE-IPFに対してrTMが有効とするRCTは存在しない.
・前後比較研究では,AE-IPFに対する早期のrTM投与は3ヶ月死亡リスクを約7割減少させる可能性がある.
・挿管人工呼吸管理に至ったAE-IPFに対するrTM投与は奏功しない可能性が高い.
・AE-IPFに対してPMX-DHPが有効とするRCT,コホート研究は存在しない.
・症例集積検討では,AE-IPFに対するPMX-DHPは30日生存率64%で,60日生存率44%であり,一般的な治療成績よりも良好であった.
・挿管人工呼吸管理に至ったAE-IPFに対するPMX-DHPは奏功しない可能性が高い.
・AE-IPFに対するPMX-DHPは長時間(12時間以上)施行した方が生存率を改善させる可能性がある.

■IPF(Idiopathic Pulmonary Fibrosis;特発性肺線維症)は,発症から2-5年で死亡する[1]予後不良の慢性疾患である.そして,その慢性経過中に両肺野に新たな浸潤陰影の出現とともに急激な呼吸不全を呈するAE-IPF(Acute Exacerbation of Idiopathic Pulmonary Fibrosis;特発性肺線維症急性増悪)を呈することがあり[2-4],その際の30日死亡率は60%,90日死亡率は80%に及ぶ予後不良疾患である.

■このAE-IPFに対してステロイドパルス療法,免疫抑制薬,シベレスタットなどが使用されているが,有効な治療法として確立されておらず,予後を改善したとする根拠はない.IPFについてはATS/ERS/JRS/ALATのガイドライン[5]があり,慢性期のIPFについてはあらゆる治療薬の使用は推奨されず,AE-IPFについてはステロイドのみが「weak recommendation, very low-quality evidence」で推奨されている.しかし,ステロイドの投与・非投与で予後を比較した研究はいまだ存在せず[6],この推奨自体妥当ではない可能性があり,「急性増悪に対する治療にまだステロイドが推奨されていることには矛盾がある」とする批判もなされている[7]

■このような中,ガイドラインにはまだ未掲載の2つの治療法がAE-IPFの予後を改善させる可能性があるとして注目されている.1つはDIC(Disseminated Intravascular Coagulation;播種性血管内凝固)の治療薬であるrTM(recombinant thrombomodulin;遺伝子組み換えトロンボモデュリン),1つはグラム陰性桿菌による敗血症性ショックの治療法であるエンドトキシン吸着カラムを使用したPMX-DHP(polymyxin B-immobilized fiber columun-direct hemoperfusion)である(いずれもAE-IPFに対しては保険適用外である).

1.AE-IPFに対するrTMは有用か?

■rTMは活性化プロテインCを介して抗凝固作用のみでなく,抗炎症作用も発揮し[8-11],さらにはHMGB1(High Mobility Group Box-1)やエンドトキシン,ヒストンの吸着・中和,分解することによる抗炎症作用も兼ね備えた多面的DIC治療薬である[12-16]

■これまで動物実験等でIPFに対する抗凝固療法が検討され[17,18],またIPF患者では静脈血栓症や急性冠症候群が多いことが知られていた[19-21]ことから,抗凝固療法がIPFに対して有効な可能性が考えられていた.Kuboら[22]は,IPF患者56例の前向きコホート研究を行い,プレドニン+抗凝固療法併用群とプレドニン単独群を比較したところ,AE-IPFに伴う死亡率が併用群で有意に低かった(18% vs 71%; p=0.008).また,D-ダイマー値がAE-IPFの死亡と関連していた.この結果から,抗凝固療法はIPFの画期的な治療法である可能性が期待されたが,残念ながらその後にNothら[23]によって行われたワーファリンとプラセボを比較した二重盲検RCTでは,死亡率がワーファリン群で高かったため,途中で試験中止勧告が出されている.本研究ではワーファリン群の死亡原因は出血ではなかった.

■しかし,これらの経緯からIPFに凝固異常が関連していることが示唆され,実際にTsushimaら[24]の37例の観察研究においてもAE-IPFに凝固異常が関与していることが示されている.AE-IPFの炎症凝固病態,さらにはARDSに類似したDADであることを考慮すると,rTMが奏功するのではないかと考えられるようになった.

■Taniguchiら[25]は2006年から2011年までのAE-IPF患者(日本の基準[26]で診断)でrTM投与群20例(0.06mg/kg/dayを6日間投与)と対照群20例(低分子ヘパリン投与)を比較した前後比較研究を2012年の欧州呼吸器学会で報告している.全患者は3日間のステロイドパルス療法と免疫抑制薬投与(シクロスポリン 3mg/kg/day PO)を用い,また人工呼吸器はNPPVを第一選択とした.患者背景は,平均年齢72.2歳,P/F比220,APACHE IIスコア9.9,CRP 7.1mg/dL,KL-6 1485U/mLであった.両群間で背景因子に有意差はなかった.3カ月生存率はrTM投与群70%,対照群35%であり,有意にrTM投与群で生存率が改善していた.Cox比例ザード回帰解析では,rTM投与(HR 0.172; p=0.015),CRP(HR 1.133; p=0.008)が予後関連独立因子であった.

■Isshikiら[27]は,2006年4月から2013年7月のAE-IPF患者(Collardらの定義[1]で診断)において,rTM群(0.06mg/kg/dayを6日間)16例,非投与群26例を比較した.全患者はステロイドパルス療法とシクロスポリンAを投与された.両群間で背景因子に有意差はなかった.3カ月生存率はrTM群69%,非投与群38%であり,有意にrTM群で生存率が高かった(p=0.03).Cox比例ハザード回帰解析では,LDH(HR 1.001; 95%CI 1.000-1.002; p=0.04),P/F比(HR 0.995; 95%CI 0.991-1.000; p=0.03),rTM(HR 0.351; 95% 0.128-0.962; p=0.04)が予後関連独立因子であった.7日目の血清HMGB-1値はrTM群で減少が顕著であった.

■2つの報告データを統合すると,AE-IPF患者総数82例(rTM群36例,対照群46例),3ヶ月生存率はrTM群69%,対照群37%(p=0.004; Fisher's exact probability test)であり,rTMはAE-IPFの3ヶ月死亡リスクを74%有意に減少させる(OR 0.26; 95%CI 0.10-0.65)という結果になった.いずれの研究も死亡率がほとんど同じであることも興味深い.同時に,対照群の治療成績も,3ヶ月生存率はいずれも3割以上であり,これだけでもかなり良好な治療成績であり,やはり超早期の治療介入がいかに大事であるかを物語っているものと思われる.

■ただし,この2つの報告は挿管人工呼吸管理に至る前から介入に入っており,挿管に至った症例の経過については,rTMを投与しても惨憺たる治療成績だったとのことである.よって,rTMの本知見が真なる効果であったとしても,AE-IPFの超早期に開始されなければならず,挿管に至るほどの状態では効果が得られないものと考えられ,挿管が必要なレベルのAE-IPFを扱う三次救急施設においてはrTMは武器とはならない可能性が高い.よって,その前の段階でrTMを扱うとなると,呼吸器内科医による対応となるだろう.

※AE-IPFの肺における炎症凝固においてもトロンビンが関与しているが,このトロンビンは肺線維化をも起こしうる.超早期に対応しなければ線維化も進行し,手遅れになるということか?

2.AE-IPFに対するPMX-DHPは有用か?

■PMX-DHPはもともとは血中エンドトキシンを除去する血液浄化により敗血症治療に用いられてきた.しかし,近年,エンドトキシンのみならず,カンナビノイド,活性化好中球,MMP9,VEGF-A(血管内皮増殖因子-A),sIL-1(可溶性インターロイキン-1),IL-8,GM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子),IP-10(インターフェロンγ誘導蛋白質10),PDGF BB(血小板由来増殖因子BB),RANTES(正常T細胞発現の分泌の活性制御タンパク),TGF-β(トランスフォーミング増殖因子β)などが吸着されることが分かってきた[28]

■そして現在,間質性肺炎,とりわけAE-IPFに対する効果が期待されはじめている[29].厚生労働科学研究難治性疾患克服研究事業びまん性肺疾患に関する調査研究班により,多施設でのAE-IPF(日本の基準[26]で診断)に対するPMX-DHPの73例後ろ向き観察研究[30]では,30日生存率は70.1%,90日生存率は34.4%であった.これはPMX-DHP非施行群との比較試験ではないが,これまで知られているAE-IPFの生存率と比較すると良好な治療成績であると思われる.

■ただし,本論文では挿管人工呼吸管理症例数がどの程度含まれていたかの記載がなく,挿管人工呼吸管理に至った患者でも有効であるのかは不明である.これまで間質性肺炎に対してPMX-DHPを施行し,かつ挿管人工呼吸管理症例数の記載がある報告[31-33]を見ると,挿管人工呼吸管理症例数の割合と30日死亡率がほぼ一致する(実際に挿管人工呼吸管理症例が死亡している).また,Tachibanaら[34]による,AE-IPFに対してPMX-DHPを施行した17例(30日生存率47.4%)の解析では,挿管人工呼吸管理は予後悪化に関連した因子であることが報告されている.以上からrTMと同様,挿管人工呼吸管理となってからPMX-DHPを施行しても予後は改善せず,施行するのであれば超早期から施行しなければ効果は得られにくいと考えるべきであろう

■2014年のATSにおいて,PMX-DHPを施行された急速進行性間質性肺炎患者25例(特発性間質性肺炎14例,膠原病関連間質性肺疾患6例,薬剤性肺障害4例,放射線肺炎1例)の後ろ向き観察研究が報告され[35],この報告では30日生存率は64%で,60日生存率は44%であった.ただしAE-IPFに限定した生存率は不明である.また,発症からPMX-DHPの開始までの時間は,生存者の方が有意に短かった(4.25±3.61時間 vs 7.05±6.54時間; p<0.01)ことから,早期の介入が重要であるとしている.

■Konoら[36]は,AE-IPFに対してPMX-DHPを施行した症例で,6時間以下の短時間施行群5例と12時間以上の長時間施行群12例を比較した後ろ向きコホート研究を行い,長時間施行群の方が30日生存率が有意に高かった(75% vs 20%; p=0.02)ことから,PMX-DHPを長時間施行すべきとしている.

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by DrMagicianEARL | 2014-05-26 16:40 | 間質性肺炎 | Comments(0)
 「ワクチンが自閉症を引き起こす」という説は今でも反ワクチン論者の間では強く信じられていますが,その根拠はあとに捏造と判明したWakefield氏の論文です.その後ワクチンと自閉症の関連性を示す証拠を世界中で誰一人として提示できていません(当然ですが).今回,MMR,ムンプス,風疹のワクチンと自閉症に関連性はないとするシステマティックレビュー&メタ解析が報告されました.一定の結論は出た,と判断すべきでしょう.
ワクチンは自閉症と関連していない:症例対照研究およびコホート研究の科学的根拠に基づいたメタ解析
Taylor LE, Swerdfeger AL, Eslick GD. Vaccines are not associated with autism: An evidence-based meta-analysis of case-control and cohort studies. Vaccine. 2014 May 6. [Epub ahead of print]
PMID:24814559

Abstract
【目 的】
小児のワクチン接種と自閉症発症の関係の可能性については膨大な議論がなされている.最近ではこれは,ワクチン接種と自閉症の間の“関係”に対する恐れによって,ワクチンで予防できる疾患の罹患者数が市中で増加し,主要な公衆衛生問題となってきている.我々は本トピックにおいて症例対象研究およびコホート研究による利用可能なエビデンスを総括するためのメタ解析を行った(MEDLINE, PubMed, EMBASE, Google Scholar up to April, 2014).

【方 法】
登録基準は,ワクチン接種と自閉症または自閉症スペクトラム発症の間の関係について評価した研究とした.2人のレビュアーが研究における特徴,方法,アウトカムについてデータ抽出を行った.意見の相違がある場合は,他の執筆者とのコンセンサスで解決した.

【結 果】
本解析では,125407例の小児を登録している5報のコホート研究と,9920例の小児を登録している5報の症例対照研究を登録した.コホートデータでは,ワクチンと自閉症(OR 0.99; 95%CI 0.92-1.06)または自閉症スペクトラム(OR 0.91; 95%CI 0.68-1.20)に関連性はなく,また,MMR(OR 0.84; 95%CI 0.70-1.01),チメロサール(OR 1.00; 95%CI 0.77-1.31),水銀(OR 1.00; 95%CI 0.93-1.07)においても関連性がなかった.症例対照研究データも同様に,状態(OR 0.90; 95%CI 0.83-0.98; p=0.02),曝露タイプ(OR 0.85; 95%CI 0.76-0.95; p=0. 0.85; 95%CI 0.76-0.95; p=0.01)で分類してもMMR,水銀,チメロサール曝露によって自閉症や自閉症スペクトラムのリスクが増加する根拠は見出せなかった.

【結 論】
本メタ解析の知見は,ワクチン接種が自閉症または自閉症スペクトラム発症と関連していないことを示唆するものである.さらに,ワクチンのコンポーネント(チメロサール,水銀),混合ワクチン(MMR)も自閉症や自閉症スペクトラムと関連していなかった.
1.Wakefieldの捏造論文

■捏造論文が反ワクチン論者によって今でも祭り上げられ続け,それが科学的検証を解しないマスメディアやジャーナリストを通して大衆に伝播したことは世界の公衆衛生において多大な損害を与えた.通常では考えられないことであるが,反ワクチン派の一部の主張はもはやカルトに近いレベルであり,ノバルティスファーマ社のバルサルタン論文不正をたたきながらWakefield氏の論文不正は認めずむしろ崇拝するという摩訶不思議な現象が生じている.

■1998年にthe Lancet誌にWakefieldら13人の研究者がMMR接種に起因すると思われるという自閉症の12症例を報告し,ワクチンと自閉症に関連性があると主張した.これが「ワクチンで自閉症が生じる」という主張が出始めた発端である.

■実はこのWakefield氏は1996年に,MMRが子どもの脳障害や他の問題を引き起こすと訴えるキャンペーン活動をするグループJABSの事務弁護士Richard Barrによって,MMR製造業者への思惑のある法的攻撃を支援する為に時給150ドルで雇われている.そして,1998年にLancet誌でMMR接種と自閉症の関連性を主張すると同時にMMRではなく単一ワクチン接種を主張し,その開発のための合弁会社をすぐに設立するに至っている.しかし,Wakefield氏の研究はわずか12例の検討であり,科学的根拠は希薄であるにもかかわらず,確認または反証する為の大規模な比較試験を開始しようとしなかった.Royal Free大学の新しい医学部長であるMark Pepys氏は,Wakefield氏の事業計画について異議を申し立て,研究を再現しなければならないとWakefield氏に通告したが,Wakefield氏はこれを行おうとしなかったため,2001年にRoyal Free大学を退職させられている.その後もWakefield氏の主張はマスコミの強い支援を受けてまたたく間に市民に広がり,ワクチン接種率は大きく減少した.

■2004年になって法律扶助委員会がthe Lancet誌に資金提供し,被験者である子供達の多くが訴訟に関係していた事を明らかにした.その1ヶ月後には13人の執筆者のうち10人が,MMR,腸炎,および自閉症が時間的に関係していると主張している解釈の部分を撤回した.さらに半年後,MMRワクチンによる障害の原因がMMR中の麻疹ウイルスだとするWakefield氏の主張にも関わらず,彼の研究室での分子検査でそのウイルスの痕跡は何も見つからなかったことが明らかとなった.

■2005年には日本から横浜市港北区の疫学調査[1]が報告された.これは,1988年から1996年までの間に同区で生まれた全小児31426例(1988年から1992年生まれの小児の中には,1歳でMMRの接種を受けた子どもが含まれる)を対象として,出生年ごとの自閉症発生率(7歳までに自閉症と診断された子どもの率)の年次推移を調べたもので,MMR接種率は,1989年から1993年まで順に69.8%,42.9%,33.6%,24.0%,1.8%であり,1993年から1996年生まれの子どもの中にはMMRを受けた小児はいない.もしMMRワクチンで自閉症が増加するなら,ワクチン接種中止後は自閉症は減少するはずであるが,1992年以前の出生児に比べてワクチン接種中止後の1993年以降の出生児で自閉症の発生率は,1万人当たり47.6-85.9から96.7-161.3に増加していた.

■2006年,MMRワクチンに対する訴訟を支援する為にRichard BarrからWakefieldへの40万ドル以上の資金に必要経費を加算した法律扶助基金からの私的な資金援助が明らかとなった.さらにはその他に何人かのRoyal Free病院の医師達にも支払われていたことが判明している.そして2007年にロンドンでの診療適切性審査で,Wakefield氏らの重大な職務上の違法行為を訴えている件の審問を開始された.

■2010年,ついにWakefield氏の論文は全く虚偽のものとして撤回されるに至る[2].実際には,このWakefield氏の論文では全12例でデータを改竄し,接種前から自閉症があった小児を接種後発症扱いにしたり,自閉症を発症していない小児を自閉症扱いにしたりなどの不正が指摘されており,その裏には上述の利益相反が大きくかかわっていたことがうかがえる.この不正によりWakefield氏は医師免許剥奪となっている.このWakefield氏の捏造論文は,ここ100年において最も医学にいたずらに損害を与えた事件であったとされる[3]

■Wakefield氏の論文不正の全貌はBrian Deerが2011年にBMJ誌に4回にわたって特集記事を掲載している[4-7]

2.ワクチン普及の困難さ

■ワクチンが普及しない原因の1つにその評価の行い方が大きな問題点として挙げられる.ワクチンの評価は,その感染症予防率の高さと予防する感染症の重篤度で決定される.死亡率,重症化率,後遺症発生率が高い感染症を予防するワクチンは要望が高く,現在普及している大部分のワクチンが該当する.しかし,このようなワクチンの効果は,普及してその感染症が減少すると一般の目に止まらなくなるためか過小評価されるようになる.加えて,日本には感染症サーベランスシステムが貧弱であり,ワクチンの効果を正確に把握しにくい現状がある.

■HPVワクチンの1件を見ても分かる通り,ワクチンでは副反応が問題とされやすい.ワクチンはその性質上,免疫系の副反応を多少ともなうことは避けられない.また,ワクチンは健康な人間に接種されるため,病気を発症している患者に投与される薬剤とは異なり,副反応に関するハードルは高くなってしまい,過剰にたたかれる要因となっている[8].また,ワクチン接種後に発生した疾患や死亡に関して,ワクチンとの関連性を判定することは基本的には不可能であり,あくまでも前後関係に過ぎない.しかしながらこれらが因果関係ととられる誤解が生じ,結果的にワクチンの風評を生み出していることも少なくない[9]

■このような性質をもつワクチンは,いわゆる薬害団体や反医療主義者,科学的根拠のない医療推進者の餌食となりやすく,過剰なまでの反ワクチン主義をもたらし,ワクチン接種の妨げの一因となっている.厄介なことに,ワクチン反対論者は製薬メーカーのビジネスとからめた陰謀論を唱え,常に科学的研究法や科学的研究論文の査読を拒絶する特徴がある[10].これがエスカレートし,中には医師が反ワクチン団体から利権をもらうケースも存在する[11]

■反ワクチン主義によって広まる情報は,誤った情報が加えられながら拡散されていく.中には「ワクチンに故意にウイルスを混ぜている」「不妊になる」といった全く根拠がない驚くべきデマも広がっている.そこに拍車をかけるのが反ワクチン論者による市民向け一般書籍である.このような書籍はその執筆者にとって都合のいい情報だけを集めて過剰なまでに危険性ばかりを訴える内容となっており,医学的に完全に間違った内容も記されていることはしばしば存在する.しかしながら,例えその内容が完全に間違っており,かつ有害な内容であっても,その書籍の出版を禁止する法律は存在せず,たとえその書籍を患者を信用した結果死亡しても,その執筆者に何ら責任が及ぶことはない.一方の医療従事者はワクチンのリスク&ベネフィットをバイアスなくできる限り正確に評価し,責任をもって接種有無推奨を決定する立場にあり(当然ながら強制ではない),どちらの意見がより妥当であるかは明らかである.

■しかしながら,大衆は既存のシステムに反対する刺激的な内容に興味がいきがちである.マスコミが報道し,医療ジャーナリストが科学的考察もなく誤った情報を流布し,国会議員までが誤った知識でワクチン接種を妨げる状況である.ワクチンプログラム普及のためには,医療と行政はより正確な情報を発信するだけでなく,どの情報がより正確であるかを判断する術についても市民に伝えていく必要がある.

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[5] Deer B. Secrets of the MMR scare . How the vaccine crisis was meant to make money. BMJ 2011; 342: c5258
[6] Deer B. Secrets of the MMR scare. The Lancet's two days to bury bad news. BMJ 2011; 342: c7001
[7] Deer B. More secrets of the MMR scare. Who saw the "histological findings"? BMJ 2011; 343: d7892
[8] 渡辺博.ワクチンの安全性に関する考え方.臨床検査 2010; 54: 1272-8
[9] Campion EW. Suspicious about the Safety of Vaccines. N Engl J Med 2002; 347: 1474-5
[10] Tafuri S, Martinelli D, Prato R, et al. From the struggle for freedom to the denial of evidence: history of the anti-vaccination movements in Europe. Ann Ig 2011; 23: 93-9
[11] DeLong G. Conflicts of interest in vaccine safety research. Account Res 2012; 19: 65-88
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by DrMagicianEARL | 2014-05-21 14:53 | 感染対策 | Comments(2)
■今年1月に英国からブルージャーナルに「スタチンはICU患者のせん妄を減少させる」とするコホート研究の報告[1,2]がonline publishされたばかりですが,今度は米国からの報告です.ICUせん妄では有名なEly先生が両方の共同研究者になってます.
重症疾患におけるスタチンとせん妄:多施設前向きコホート研究
Morandi A, Hughes CG, Thompson JL, et al. Statins and Delirium During Critical Illness: A Multicenter, Prospective Cohort Study. Crit Care Med. 2014 May 7. [Epub ahead of print]
PMID:24810528

Abstract
【目 的】
スタチンはせん妄病態に関与する炎症と凝固に対する多面的効果を有しており,我々は,スタチン曝露が重症疾患罹患中のせん妄の減少に関連し,スタチン治療の中断がせん妄の増加に関連しているとする仮説を検証した.

【方 法】
研究デザインは多施設共同前向きコホート研究,研究の場は米国の2つの大規模三次救急施設の内科・外科ICUで,急性呼吸不全またはショックの患者を対象とした.介入は特にない.我々は入院前とICU在室中の毎日のスタチン曝露を調査し,CAM-ICUを用いて1日2回患者のせん妄の評価を行った.

【結 果】
763例の患者が登録された.患者背景の中央値(四分位範囲)は,年齢61歳(51-70歳),APACHE IIスコア25(19-31)であり,257例(34%)は入院前にスタチン内服歴があり,197例(26%)はICUでスタチンを投与されていた.全体では,588例(77%)がせん妄を発症した.全体では,共変量で調整すると,ICUでのスタチン使用はせん妄の減少に関連していた(p<0.01).この関連性は,敗血症や研究日の影響を受けていた.たとえば,スタチンの使用はday1の敗血症患者においてせん妄の減少に関連していたが(OR 0.22; 05%CI 0.10-0.49),day1の敗血症ではない患者(OR 0.92; 95%CI 0.46-1.84)では関連性がなかった.また,敗血症患者でも後期,たとえばday13では関連性がなかった(OR 0.70; 95%CI 0.35-1.41).入院前のスタチンの使用はせん妄に関連していなかったが(OR 0.86; 95%CI 0.44-1.66; p=0.18),より長い入院前のスタチン服用者のICUでスタチンを中断すると,せん妄のオッズは高かった.

【結 論】
重症患者において,ICUでのスタチンの使用は,特に敗血症早期においてせん妄の減少に関連していた.入院前から内服していたスタチンの中断はせん妄増加と関連していた.
[1] Page VJ, Davis D, Zhao XB, et al. Statin Use and Risk of Delirium in the Critically Ill. Am J Respir Crit Care Med 2014; 189: 666-73
[2] DrMagicianEARl. 【文献】スタチンはICUせん妄を予防する EARLの医学ノート 2014 Jan.24 http://drmagician.exblog.jp/21618525/
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by DrMagicianEARL | 2014-05-19 15:10 | 敗血症 | Comments(0)
■慢性腰痛(Modic type 1)の原因がニキビの原因であるPropionibacterium acnes(アクネ菌)であったという報告[1,2]や,関節リウマチの原因が口腔内常在菌のPorphyromonas gingivalisであったという報告[3]など,予想外の疾患が感染症であるという報告が相次いでいます.今では常識となっている,胃潰瘍・胃癌とHelicobacter pylori(ピロリ菌)の関係も30年前の発見当時[4]はかなりの衝撃だったようです.今回紹介する論文は動脈硬化の進展にピロリ菌と同じHelicobacter属のHelicobacter cinaedi(シナディ菌)が関与していることを発見したものです.
マクロファージにおける向炎症反応促進するHelicobacter cinaediによる動脈硬化の進行
Khan S, Rahman HN, Okamoto T, et al. Promotion of atherosclerosis by Helicobacter cinaedi infection that involves macrophage-driven proinflammatory responses. Sci Rep 2014; 4: 4680
PMID:24732347

Abstract
Helicobacter cinaediはヒトの菌血症の原因となる最も一般的な腸肝Helicobacter属であるが,その病原性は明らかではなかった.我々は動脈硬化におけるH. cinaediの関連性をin vivoおよびin vitroで検討した.我々は高脂血症マウスにおいてH. cinaedi感染が動脈硬化を有意に増強させることを発見した.感染したマウスの大動脈部では,少なくとも局所的に細菌介在性の向炎症性遺伝子発現によって好中球とF4/80発現泡沫細胞の集積増加が認められた.感染が無症候性であるにもかかわらず,H. cinaediのCytolethal Distending Toxin RNAの検出が大動脈感染で生じた.培養したマクロファージでのH. cinaedi感染はコレステロール受容体の発現に変化をもたらし,泡沫細胞化を引き起こした.また,感染はTHP-1単球の分化も誘導した.これらのデータは経験的モデルでの動脈硬化におけるH. cinaediの病原的役割としての初めてのエビデンスを示しており,それによって動脈硬化や心血管疾患における腸肝Helicobacter属の果たしうる役割のさらなる研究を正当化するものである.
■ようするに,感染細胞ではコレステロールの取り込みが増え,かつコレステロールが細胞外に排出されにくくなるため,動脈硬化が進行するということである.

Helicobacter cinaedi(シネディ菌)は腸に多い菌であり,感染者は1-2割存在するとも言われている.1984年に初めてヒトへの感染が判明したが,分離や培養が難しいとされている[5-9].また,血流に入るにもかかわらず無症候性感染が多い[10-13].抗菌薬は奏功しやすいものの再発も多いことが特徴で,簡単には除菌とはいかないと思われる.

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by DrMagicianEARL | 2014-05-01 19:07 | 文献 | Comments(0)

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