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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

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■「First, Do No harm !」「Avobe All, Do No Harm !」(まず/何よりも,害を与えてはならない)という言葉は頻繁に使われており,ラテン語ではPrimum Non Nocereである.PubMedで「Do no harm」または「Primum non nocere」で検索すると1000を超える文献がヒットしており,この短く分かりやすい言葉がいかに引用されているかが分かる.ではこの言葉の由来についてはみなさんは御存知だろうか?

■「"First, Do No Harm"はヒポクラテス(Hippocrates)の誓いのひとつである」と由来を答える人がほとんどと思われる.しかし,ヒポクラテスの誓いにはこのような短文はない.ヒポクラテスの誓いの中には,英訳で「I will prescribe regimens for the good of my patients according to my ability and my judgment and never do harm to anyone.(自身の能力と判断に従って,患者に利すると思う治療法を選択し,害と知る治療法を決して選択しない.)」とあり,ここが類似している点である.確かにこの文章の一部としてDo No Harmを取り出したと考えることもできるかもしれない.しかしながら,意味がわずかながら異なってくること,ラテン語としては合わないことも指摘されている.そもそも頭につく「First」や「Above all」はいったいどこから来たのか?

■実は近年の由来の調査[1]では,この「Do No Harm」はヒポクラテスの言葉ではないとされている.弟子のガレン(Galen)という説もあったが,それも否定的であり,この言葉の由来は実はヒポクラテスの誓いにつながらない可能性が高いとされている.「First, Do No Harm」という言葉をヒポクラテスの言葉として引用すべきではなく,用いるならヒポクラテスの誓いからそのまま文章を引用すべきである.

■多くの人がこの言葉の由来を勘違いしている上に,教育現場でも不適切な引用が非常に多い.この言葉を批評というよりは象徴として用いていること[2]や,この言葉そのものに対する批判もでてきている.短い言葉ゆえに,しかも「First」や「Above all」が前に付いた結果,害を与えないことが前面に出すぎてしまいヒポクラテスの誓いが意図する意味と乖離し[3],害を過剰評価することで患者が得られるであろう利益とのバランスを考えなくなってしまうリスクがある[4].それゆえ「First, Do No Harmという短い言葉だけを示すのは不適切である」と指摘されている.
※私はこの「First, Do No Harm」という言葉は,原稿や講演会では使わないようにしています.

■話がやや脱線するが,私はエビデンスネガティブデータの扱いについて,とりわけ感染症・集中治療領域でここ1-2年間で感じていた,うまく言葉では言い表せない違和感をネット上で感じていた.これはFirst, Do No Harmというフレーズ(この言葉が出てきたわけではないが)の負の面を知らないうちに反映されていた心理的バイアスを感じ取っていたのではないかと考えている.

■たとえば薬剤の批判的吟味の際,有効性に関する報告は厳しく査読しつつ,ネガティブデータに関してはConclusionsだけに飛びついたかのような極端な発言がネット上で見受けられるのも事実である(仮にその先生がちゃんと読んで吟味していても,ネット上の発言はそう見えてしまうということ).私自身,2年くらい前はネガティブデータの論文の吟味が今よりかなり甘かったのも事実で,すぐに飛びついて過剰反応していた.リスクとベネフィットのバランスまでを深く考えていなかった部分もあった.そしてあるときに,「あれ?できる限りニュートラルに,と思っていたのに自分にバイアスがかかってる」と感じるようになり,ふとネットで周囲を見ると,そんなバイアスが全体的にかかっているようにも見えることに気がついた(私自身もそのバイアスが完全に消えたわけではなく,なかなか難しいところがある).

■要は,情報発信があったら,その元となる論文をちゃんと自分で確認し,自分で判断する,ということをちゃんと行うべきである.しかし,医療従事者全員がそうともいかず,理想がなかなか達成できない部分はある.英語を読むのが苦手な人もいれば,論文の吟味がまだ苦手な人や論文を読もうにも時間がない人も多い.自分の専門外領域の論文であれば読む優先順位が下がって後回しになることもあるかもしれない.そこに声が大きい先生の解釈等が提示されると,その通りに流れてしまう人もいて,おそらくその数は決して少なくない.そして,その傾向が特にネガティブデータ論文がでたときによく見られる.

■情報の受け取り側は相当ヘテロな集団である.「そんなことをいちいち気にしてたら情報発信もできなくなる」,と言われそうだが,情報発信と受け取りにおいてできる限り注意しておきたい部分である.
※と書きつつなんですが,このブログのこれまで書いてきた記事すべては極力ニュートラルな視点を心がけようとはしていますが,私の考えのフィルターがかかっているというバイアスリスクがあることが前提として読んでください.最近,いろんな病院の先生から「研修医が抄読会で先生のブログから記事を引っ張ってきてました(笑)」と言われることもあってちょっと気がかりにはなっているのですが,ちゃんと元論文を熟読・吟味してくださいね.

■First, Do No Harmについての由来等を検証した詳しい論文について読まれたい方は,ややマニアックな内容ではあるが以下の文献[1]がおすすめである.

[1] Smith MC. Origin and Uses of Primum Non Nocere - Above All, Do No Harm. J Clin Pharmacol 2005; 45: 371-7
[2] Brewin T. Primum non nocere ? Lancet 1994; 344: 1487-8
[3] Touhey JF. Balancing benefit and burden: merely avoiding harm does not carry out the intent of the Hippocratic oath. Health Prog 1989; 70: 77-9
[4] Lasagna L. The therapist and the researcher. Science 1967; 158: 246-7
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by DrMagicianEARL | 2014-06-25 20:30 | 文献 | Comments(0)
2011年11月21日作成
2014年6月24日改訂

Summary
・EGDTは敗血症性ショック治療の中心となる急性期循環管理プロトコルであり,6時間以内に循環動態を改善させることを目標としている.
・たとえ6時間たってEGDTが達成できていなくても,12-18時間以内であれば予後は改善しうるとする報告があり,6時間を超えてもあきらめずにEGDTは続けるべきである.
・敗血症性ショックでの急速大量輸液は必須であるが,輸液過剰となると予後を悪化させる可能性が指摘されていることは知っておく必要がある.
・過去の多くのコホート研究でEGDTが敗血症性ショックの死亡率を改善させたと報告している.
・ProCESS trialではEGDTがプロトコルを用いない治療法(通常治療群)に比して死亡率を改善させなかったが,全体の死亡率が低く,経験豊富な救急集中治療医が治療を行っていることが通常治療群の死亡率の低さを担保しており,EGDTが有用でないと判断すべきではなく,敗血症治療に慣れていない施設ではEGDTを推奨すべきである.
・ScvO2の代わりに乳酸クリアランスを評価したEGDT(ELGT)は有用であると思われる.

1.EGDTとは?

■EGDT(早期目標指向型治療;Early Goal-directed therapy)はSurviving Sepsis Campaignで推奨されている治療概念であり,抗菌薬治療とは独立した,敗血症性ショック治療の中心となる治療法である.これまで急性期循環管理にEGDTを導入したのは,1988年のShoemaker WCらの報告[1]にさかのぼり,その後の報告[2-5]によっても酸素消費量を改善するには至適な循環血流量の維持が必要であることが示されていた.

■EGDTの有用性を広く知らしめたのは2001年のRiversら[6]の報告である.この研究では,救急初療の段階で敗血症性ショックと診断された患者263例の患者をEGDT群と対照群で比較したRCTであり,カテコラミン投与に優先して十分な輸液を行い,中心静脈酸素飽和度を改善させるEGDTによって,末梢の虚血に伴う代謝性アシドーシスと乳酸産生を救急初療の段階で有意に軽減し,院内死亡率は30.5%vs46.5%(p=0.009)でEGDT群が有意に低かった.このEGDTでは,ショック初期6時間におけるScvO2≧70%達成率は94.9%vs60.2%,7-72時間後の人工呼吸器装着率は2.6%vs16.8%でいずれもEGDT群の方が低い結果となっており,敗血症性ショックに対するEGDTが有効であると結論づけている.

■このRiversらの報告では,ショックが進行性病態であり時間経過に伴い不可逆的循環不全へ移行する可能性があること,輸液の治療目標を具体的に定めるべきであること,初期の必要な輸液により院内死亡率を低下させる可能性を示したと考えられる.また,NNT 6.25と,他の敗血症治療よりもはるかに優れていることが示されている.それまで敗血症性ショックで有意な死亡率改善を示した大規模studyはほとんど存在しなかったが,本報告が与えた影響は絶大であり,その後,EGDTを導入したプロトコルで死亡率が改善したという報告が相次いでおり,SSCGにおいても初期蘇生の中心的治療と位置づけられている.

■EGDTに沿った治療法をICUに入室してから行うのは時間のロスが大きく,EGDTはERから直ちに治療を開始してICUに引継ぎ,来院から6時間継続して全身管理を完了させることが絶対目標となる.EGDTの周知徹底はICUスタッフだけでは足りない.敗血症患者に最初に接触するのはむしろERや一般病棟スタッフである.マンパワーや慣れしだいで患者予後は変わり,入室時刻や発症場所はその重要な要因となる.フィンランドのICU調査報告では,週末に入院した患者の死亡率は高く(OR 1.20),ICUにおける死亡は夜間に多かった(OR 6.89)[7].一般病棟から緊急ICU入室は,同じ重症度でも救急外来や手術室からのICU入室より死亡率が高い[8].敗血症患者はERを介して入院した方が,直接入院した場合より死亡率が低い[9].EGDTに含まれる循環作動薬については,3カ国28施設共同6514例コホート研究において,投与開始が1時間遅れるごとに死亡リスクは2%ずつ有意に増加すると報告されている[10].これらが示す通り,重要なのは初動である.敗血症は心筋梗塞などと違い突然心停止するといったことは起きないが,わずかな時間でも予後不良に直結する可能性がある.ICU以外のスタッフの初期治療とスピードは極めて重要である.

■EGDTは3段階のGoal方式であり,各段階のGoalを達成すれば次の段階の治療に移るというものである.
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■Sohnら[11]は敗血症性ショック患者332例の前向き観察研究を行い,蘇生バンドル達成までの時間が6時間以下,6-12時間,12時間超の3群の28日死亡率はそれぞれ13.3%,13.6%,29.5%であり,6時間を超えても,12時間までなら予後を改善しうることを示した.同様に,Cobaら[12]も,498例の前向きコホート研究において,蘇生バンドル達成までの時間について18時間でカットオフとすると,死亡率は18時間以内の方が有意に低いと報告している.このことから,たとえ6時間を超えてしまってもEGDTは継続すべきである.

■一方で,EGDTに対する批判もある.CVPから推測される血管内容量の信頼性は実際には低いとの指摘も多く,CVPのみに依拠した輸液管理には危険がある.また,敗血症では組織の酸素代謝障害をきたしやすく,ScvO2は組織酸素摂取率(O2ER)が決定因子であり,酸素代謝異常が存在する敗血症患者で低O2ERが著明になれば,組織酸素欠乏状態にも関わらずScvO2は高値を示してしまう.それゆえ,ScvO2が敗血症患者の循環管理指標として不適切という指摘も多い.

■なお,本記事では詳細は扱わないが,EGDTにおいて輸液過剰が生じることが近年問題視されていることは知っておく必要がある[13].More is not always betterの原則の通り,輸液が過剰となると逆に予後が悪化する可能性も指摘されており[14],敗血症性ショック病態において急速輸液は必須であるものの,どこまで投与するか,何をモニタリングするのがベストであるかの検証が今後の課題である.

2.RiversらのEGDTプロトコルの検証 ~ProCESS trial~

■画期的と言われたRiversらの研究は,その後CVPやScvO2の有用性が疑問視されても[15]なおSSCGにおいて蘇生プロトコルに最重要な治療戦略として組み込まれて続けている.この10年以上も前の古いプロトコルが推奨され続けてきた背景には,EGDTそのものの有効性を非EGDTと比較して評価したRCTが実はRiversらの報告以降1報もなかったという事情もある(個々の指標を評価したRCTはある).いかなるエビデンスもといえどもその妥当性はTPO(Time Place Occasion)の影響を免れない.質の高いシステマティックレビューによるエビデンスでも賞味期限1年以内が15%,2年以内が23%,賞味期限の平均期間はわずか5.5年(95%CI 4.6-7.6)しかなく[16],RiversらのEGDTプロトコルが再検証されるのは必然の流れであった.

■このような流れの中で3つの大規模多施設共同RCTであるProCESS,ARISE,ProMISeが進められた[17].この3つのRCTはデータを統合して解析可能であることも報告されており[18],最終的に3つの結果すべてが出揃えば精密なメタ解析がなされるものと思われる.

■そして,これらの3つのRCTのうちの1つ,ProCESS trialの結果[19]が2014年3月にthe New England Journal of Medicineにonline publishされ大きな話題となった.本研究は米国31施設のERで行われ,敗血症性ショック患者を6時間の蘇生において,EGDTプロトコル(Riversのプロトコル+尿量モニタリング)群,収縮期血圧(100mmHgでカットオフ),ショック指数(0.8でカットオフ),尿量を指標に輸液負荷,循環作動薬を投与した標準治療プロトコル群,プロトコルを用いない通常治療群の3群に割り付けた1341例の大規模RCTである.60日死亡率はEGDTプロトコル群21.0%,標準治療群18.2%,通常治療群18.9%(プロトコルvs通常治療 RR 1.04; 95%CI 0.82-1.31; p=0.83 / EGDTプロトコル vs 標準治療プロトコル RR 1.15; 95%CI 0.88-1.51; p=0.31)であり,有意差はみらず,また,90日死亡率,1年死亡率,臓器支持療法の必要性についても有意差はみられなかったことから,「ERで診断された敗血症性ショック患者へのプロトコルに基づいた蘇生は予後を改善させなかった」と結論づけている.

■Riversら研究の時とProCESS trialでは支持療法が異なる.とりわけ,敗血症の早期認知,早期の抗菌薬治療開始,NICE-SUGAR studyで示された中等度レベルでの血糖管理,低1回換気戦略といった部分で予後が当時よりさらに改善しており,死亡率が20%前後というのは歴代の敗血症性ショック患者を対象とした大規模RCTの中でも最もよい治療成績である(平均APACHEⅡスコアは20.7).これは研究前の予想死亡率,APACHEⅡスコアからの予測死亡率よりも低い.このような背景から死亡率に差がつかなかった可能性もある.

■このProCESS trialの結果から,「EGDTプロトコルは無効だった」という解釈をしている人が続出したが,これについては注意が必要である.このProCESS trialの結果はRiversらの功績を否定するものではない.事実,EGDTによって死亡率が低下したとするコホート研究の報告は数多く存在する.Wiraら[20]はこれらの25報3566例のメタ解析を行い,EGDTプロトコルによって死亡率が有意に改善した(25.8% vs 41.6%, p<0.0001)と報告している.敗血症治療の基礎が定まっていなかった時代,あるいは敗血症治療の知識・経験が乏しい施設においてはEGDTが救命に大きく寄与してきたことは事実である.さらに,EGDTの普及を通して敗血症の循環動態を,治療概念を多くの医師に認知させることによりさらなる救命率の向上と研究を発展させた功績は大きい.Riversらが研究を行った時代は7割の医師が敗血症の定義を認知しておらず,また正しい知識を持ち合わせていないために8割の医師が敗血症を誤診するという事態が発生していたのである[21].こういった時代背景の違いもアウトカムの違いに影響がでたものと思われる.

■よって,敗血症治療成績がまだ芳しくない不慣れな施設においては,まずはガイドライン(SSCGや日本版敗血症診療ガイドライン)に沿ったEGDTの推奨によって治療水準を標準レベルまで上げるべきである.少なくとも今回のProCESS trialはEGDTが通常治療と比較して死亡率を改善させなかったというものであり,EGDTが予後を悪化させたわけではない.また,対照群とされた通常治療群の治療の質は経験豊富な三次救急施設の救急集中治療医によって担保されており,そうでないならばEGDTプロトコルに従っておく方がbetterであろう.

3.乳酸値を指標としたEarly Lactate-Guided Therapy(ELGT)

■現在の臨床現場においてはこのRiversらのプロトコルをそのまま用いている施設はむしろ少ないのではないかと思われる.各施設でカスタマイズされたEGDTプロトコルを施行していることが予想され,このProCESS trialの結果を受けて現在の敗血症性ショックの診療スタイルを変える医師はそれほどいないのではないだろうか?現在では乳酸値を指標としたEGDTを行っている施設は多いだろう.実際,乳酸値がScvO2より重要と考えている救急集中治療医は多いことが報告されている[22]

■EGDTがガイドラインで推奨されていた中,敗血症治療における乳酸クリアランスに関する研究報告がだされ,それらの結果をもとに2010年にJansenらが敗血症のみならず高乳酸血症をきたしたICU患者において,EGDT群と,乳酸値を指標にしたprotocolを作成してEGDTに組み込んだEarly Lactate-Guided Therapy(ELGT)治療群のRCTであるLACTATE studyを行った結果が発表された[23].それによると,乳酸濃度,昇圧薬使用期間,腎代替療法使用率では有意差がなく,ELGT群では輸液量,血管拡張薬の使用頻度が有意に増加したが,最終的にICU入室期間を減少させ,SOFA score,死亡率を有意に改善させた(43.5%vs33.9%).サブ解析では死亡率改善は特に敗血症患者において顕著であった.このELGTにおいては,乳酸値を2時間ごとに8時間計測し,前値より20%低下させることを目標においている.これにより,輸液量は増加するものの死亡率の改善が示されている.また,高乳酸血症是正のために血管拡張薬を用いている.

■さらに同年,Jonesら[24]が重症敗血症,敗血症性ショックの患者300例を対象として,EGDTでの初期蘇生目標をScvO2≧70%とする群と乳酸クリアランス≧10%/2hrを目標にする群で比較したRCTを報告しており,院内死亡率は23% vs 17%で統計学的有意差はみられなかった.

■また,Nguyenら[25]は,重症敗血症の蘇生バンドルに乳酸クリアランスを導入することが予後を改善するかを検討した,アジアの8つの3次救急施設における556例前向きコホート研究を2011年に報告しており,乳酸クリアランスのバンドル項目は有意な予後関連独立因子であり,乳酸クリアランスが高い方が死亡率が改善していた.

■これらの結果から,SSCG 2012では乳酸値を正常化させることを目標とした蘇生が推奨されるようになっている.

[1] Shoemaker WC, et al. Prospective trial of supranormal values of survivors as therapeutic goals in high-risk surgical patients. Chest 1988; 94: 1176-86
[2] Boyd O, et al. A randomized clinical trial of the effect of deliberate perioperative increase of oxygen delivery on mortality in high-risk surgical patients. JAMA 1993; 270: 2699-707
[3] Hayes MA, et al. Elevation of systemic oxygen delivery in the treatment of critically ill patients. N Engl J Med 1994 ;330: 1717-22
[4] Gattinoni L, et al. A trial of goal-oriented hemodynamic therapy in critically ill patients. SvO2 Collaborative Group. N Engl J Med 1995; 333: 1025-32
[5] Gayes MA, et al. Oxygen transport patterns in patients with sepsis syndrome or septic shock: influence of treatment and relationship to outcome. Crit Care Med 1997; 25: 926-36
[6] Early goal-directed therapy in the treatment of severe sepsis and septic shock. N Engl J Med 2001; 345: 1368-77
[7] Uusaro A, Kari A, Roukonen E. The effects of ICU admission and discharge times on mortality in Finland. Intensive Care Med 2003; 29: 2144-8
[8] Escarce JJ, Kelley MA. Admission source to the medical intensive care unit predicts hospital death independent of APACHE II score. JAMA 1990; 264: 2389-94
[9] Powell ES, Khare RK, et al. Lower mortality in sepsis patients admitted through the ED vs direct admission. Am J Emerg Med 2012; 30: 432-9
[10] Beck V, Chateau D, Bryson GL, et al. Timing of vasopressor initiation and mortality in septic shock: a cohort study. Crit Care 2014; 18: R97
[11] Sohn CH, Ryoo SM, Seo DW, et al. Outcome of delayed resuscitation bundle achievement in emergency department patients with septic shock. Intern Emerg Med. 2014 Jun 10
[12] Coba V, Whitmill M, Mooney R, et al. Resuscitation Bundle Compliance in Severe Sepsis and Septic Shock: Improves Survival, Is Better Late than Never. J Intensive Care Med 2011 Jan 10
[13] Bellamy MC. Wet, dry or something else ? Br J Anaesth 2006; 97: 755-7
[14] Boyd JH, Forbes J, Nakada TA, et al. Fluid resuscitation in septic shock: a positive fluid balance and elevated central venous pressure are associated with increased mortality. Crit Care Med 2011; 39: 259-65
[15] Marik PE, Cavallazzi R. Does the central venous pressure predict fluid responsiveness? An updated meta-analysis and a plea for some common sense.
[16] Shojania KG, Sampson M, Ansari MT, et al. How quickly do systematic reviews go out of date? A survival analysis. Ann Intern Med 2007; 147: 224-33
[17] Delaney A, Angus DC, Bellomo R, et al; Resuscitation in Sepsis Evaluation (ARISE); Protocolized Care for Early Septic Shock (ProCESS) Investigators; Protocolised Management In Sepsis (ProMISe) Investigators. Bench-to-bedside review: the evaluation of complex interventions in critical care. Crit Care 2008; 12: 210
[18] ProCESS/ARISE/ProMISe Methodology Writing Committee, Huang DT, Angus DC, Barnato A, et al. Harmonizing international trials of early goal-directed resuscitation for severe sepsis and septic shock: methodology of ProCESS, ARISE, and ProMISe. Intensive Care Med 2013; 39: 1760-75
[19] ProCESS Investigators, Yealy DM, Kellum JA, Huang DT, et al. A randomized trial of protocol-based care for early septic shock. N Engl J Med 2014; 370: 1683-93
[20] Wira CR, Dodge K, Sather J, et al. Meta-analysis of Protocolized Goal-Directed Hemodynamic Optimization for the Management of Severe Sepsis and Septic Shock in the Emergency Department. West J Emerg Med 2014; 15: 51-9
[21] Poeze M, Ramsay G, Gerlach H, et al. An international sepsis survey : a study of doctors' knowledge and perception about sepsis. Crit Care 2004; 8: R409-13
[22] Jiwaji Z, Brady S, McIntyre LA, et al. Emergency department management of early sepsis: a national survey of emergency medicine and intensive care consultants. Emerg Med J 2013 Sep 4
[23] Jansen TC, et al. Early lactate-guided therapy in intensive care unit patients: a multicenter, open-label, randomized controlled trial. Am J Repir Crit Care Med 2010; 182: 752-61
[24] Jones AE, Shapiro NI, Trzeciak S, et al; Emergency Medicine Shock Research Network (EMShockNet) Investigators. Lactate clearance vs central venous oxygen saturation as goals of early sepsis therapy: a randomized clinical trial. JAMA 2010; 303: 739-46
[25] Nguyen HB, Kuan WS, Batech M, et al; ATLAS (Asia Network to Regulate Sepsis care) Investigators. Outcome effectiveness of the severe sepsis resuscitation bundle with addition of lactate clearance as a bundle item: a multi-national evaluation. Crit Care 2011; 15: R229
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by DrMagicianEARL | 2014-06-24 00:00 | 敗血症 | Comments(0)
原則⑫:副作用を考慮する

■列挙するとキリがないが,代表的なものを挙げておく.
(1) 腎障害,肝障害:代謝排泄経路によって障害を起こしうる.
(2) アレルギー:特にペニシリンアレルギー
(3) 不整脈:ニューキノロン系,マクロライド系でTorsades de Pointsによる心室頻拍の報告あり.中年女性でQT延長傾向がリスクファクター.
(4) 血球減少:ST合剤(バクタ®)による骨髄抑制,LZD(ザイボックス®)による血小板減少
(5) 薬剤熱,薬剤性間質性肺炎:全薬剤で生じえる.
(6) 抗菌薬関連下痢症:Clostridium difficile感染症(CDI),Klebciella oxytocaによる下血,MRSA腸炎(存在するかはまだ議論されている)など
(7) PT-INR延長:常在細菌叢変化によるビタミンK吸収障害による
(8) 新薬による有害事象:メーカーによる情報以上に多い可能性あり.
・GRNX(ジェニナック®)はまだ安全性が確立されていない(もともとキノロンは非常に毒性が強い抗菌薬であるがために開発が困難とされている).
・DRPM(フィニバックス®)はMEPM(メロペン®)に比して有害事象多く,とりわけ12バイアル投与では多発との報告あり.(米国FDAが12バイアル投与を行わないよう勧告).
・LZD(ザイボックス®)は腎機能に依らず投与可とされているが,腎障害例で副作用発現の報告あり.

原則⑬:感受性試験の弱点を考慮する

■培養検査結果では検出菌とともに薬剤感受性結果が示される.各抗菌薬についてそれぞれS,I,Rのいずれかが記載される.Sは「感受性あり」,Iは「低感受性」,Rは「耐性」を表す.また,一緒に数値が示されていることがあるが,これはMICである.この感受性試験結果を見て,「この薬剤はSがついているから有効なのでこの抗菌薬を使おう」と安易な考えで使用すると痛い目にあう.

in vitroin vivoは異なる.抗菌薬の効果があるのかどうかを実験室で検証した結果と,実際に体内で効果があるかは別物である.bioavailability(生体内利用率)や臓器移行性等を考えなければならない.例えば,MRSA肺炎でVCMを経口投与しても腸管で吸収されないので全く意味がない.また,髄膜炎でMSSAが検出され,MSSAに有効なCEZを投与しても髄液には移行しないので無意味である.抗生剤の吸収,移行性を知らなければ無駄な抗菌薬を投与することになる.他に注意すべきはアミノグリコシド系であり,感受性ありと表示されたからといって単剤投与は行ってはならない(尿路感染症以外では治療失敗に終わることが多い).

■S,I,RでもMICの値次第では治療可能性が変わる.感受性試験結果は,抗菌薬濃度が提示されたMIC値に達しなければ効果がないことになる.たとえば「VCM S MIC2」となっていてもVCMの通常投与量ではMIC 2を達成することは不可能であり,抗菌薬を変更することを考える[33](ただし,計測系の誤差でMICが2となっていることもあり,臨床症状が改善しているならばあえてVCMから変更する必要性は乏しいかもしれない).ペニシリン耐性肺炎球菌はその名の通りペニシリン耐性であるが,PCG 4millionU×6/dayで十分MIC濃度達成が可能であり,ペニシリンで治療できる.同様に,AZM注射製剤でも,その高い移行性によりAZM耐性肺炎球菌に有効であることもある[34]

■MICの値に1管ぶんの誤差が出うることは肝に銘じておく必要がある.

■異なる抗菌薬のMICを比較して最もMICが低い抗菌薬を選択する,というやり方は完全な誤解である.MICの値で異なる薬同士の効果を比較することはできない.

■本当は耐性があるのに感受性ありと表示されてしまうケースがある.例えばESBL産生菌では第3世代セファロスポリン系に耐性があるにも関わらず感受性ありと結果が返ってくることがあり,注意が必要である.また,VCM MIC 2のMRSAは検査上は感受性ありだが臨床上は低感受性菌と考えるべきである.MRSAにおいてCLDMがSとなっていても,EMがRであればCLDMは無効であると考えなければならない[35]

原則⑭:併用療法を考慮する

■細菌性感染症の場合,通常は単剤投与で治療するのが原則である.併用による効果は,スペクトラムの拡大と相乗効果が期待できるが,多くの場合,相乗効果については不確定であり,推奨する根拠に乏しい(重症緑膿菌に対するβラクタム系+アミノグリコシド系,感染性心内膜炎に対するPCG+アミノグリコシド系の併用,肺炎球菌肺炎に対するβラクタム系+マクロライド系はシナジー効果があり有用とされる).そのため,安易に併用の選択は行うべきではない.併用によって耐性菌の出現が抑制するという目的もあるが,明らかなエビデンスはなく,議論中である(特にGNRに対しては全く証明されていない).また,医療費増大・副作用リスク増大というデメリットも理解しておく必要がある.しかし,骨髄炎や心内膜炎などの慢性感染症に対し,長期的な抗菌薬投与が必要な場合は,原因となる細菌によっては併用が薦められる場合もある.なお,注意すべきものを下記に挙げる.
(1) VCM+AGs,VCM+AMB
 重症感染症でこの併用を選択しうることがある.この併用方法では腎障害や聴力障害が急速に進行することがあり,米国では死亡例も出ている.併用するなら慎重投与が望まれる.
(2) LZD+RFP
 Cmaxの21%低下,AUCの32%低下が報告されており,LZDの効果が減弱する[36-38]
(3) VCM+LZD
 有用性はなく,むしろ作用拮抗による有効性低下の可能性も指摘されている[39]
(4) CLDM+マクロライド系
 細菌のribosome50Sへの親和性がEMの方が高いため,CLDMを併用してもCLDMの効果はない.
(5) Fidaxomicin+AZM
 併用により5日間中の心血管死がわずかだが報告されている[40]
(5) ITCZ+INH
 ITCZの血中濃度が低下する.
(6) アゾール系+RFP
 アゾール系血中濃度が減弱し,RFP血中濃度が上昇する.特にVRCZ+RFPは禁忌である.
(7) MFLX+RFP
 MFLXの血中濃度が減弱する[41]
(8) ガンシクロビル+IMP/CS
 痙攣発作リスク上昇の報告あり.
(9) CAM+LZD
 CAMの濃度上昇リスクあり,心血管系リスクを有する患者では注意が必要である.
(10) RFP+CAM,RFP+EM
 CAMやEMの血中濃度が減少する.
(11) コリスチン+AGs,コリスチン+AMB,コリスチン+VCM
 神経毒性のリスクが上昇する.

■triple cover(カルバペネム系+グリコペプチド系+アミノグリコシド系orフルオロキノロン系)はほとんどの病原菌をカバーしうるため有効と思われがちだが,逆に死亡率が上昇すると報告されている[24,25].カルバペネム系+バンコマイシンの併用もほとんどをカバーするが,ルーチンでの使用は逆に死亡率を悪化させると報告されている.広域であるが,推定に基づいたある程度狭域なスペクトラムで抗菌薬を使用することで耐性菌選択圧を減じることができる.

■抗菌薬併用療法は一概に決まってはいないが,敗血症性ショックや死亡率が25%を越える重症感染症においては2剤併用の抗菌薬療法で28日死亡率が有意に改善するが,2剤目追加は24時間以内に行わなければ有効性は失われると報告されている[42,43].一方,重症でない敗血症では単剤の方が予後がよいと報告されている[42]

原則⑮:適切なコンサルテーションを行う

■黄色ブドウ球菌感染症,カンジダ感染症,高度耐性菌,多剤耐性菌を検出した場合は感染症医もしくはICTへのコンサルトが望ましい.これらは全て重症かしやすく,かつ治療に難渋しやすいからであり,高度な専門性が要求されるからである.抗菌薬選択ひとつで患者の予後のみならず,その後の耐性菌出現等に大きく影響を与えることになる.

■カンジダ菌血症では眼科へのコンサルトも必須である.眼内炎をきたした場合は失明することもあるため,場合によっては訴訟問題にもなる.抗菌薬全身治療では奏功しないこともあり,AM-B眼内注入療法や手術を選択することもある.

■感染巣検索の上では放射線科への相談も積極的に行うべきである.

■人体に投与する薬物には,TDM(血中濃度モニタリング:therapeutic drug monitoring)が必要なものがあり,薬剤課に依頼する.TDMが必要な抗菌薬にはアミノグリコシド系,VCM,TEIC,FLCZがある.これらは治療濃度域が狭く複写王が比較的生じやすい抗菌薬である.そのため,有効性確保と副作用を避けること,さらには抗菌薬耐性菌の出現の抑制を目的としてTDMを実施し,投与量や投与間隔を適切に設定する必要がある.抗MRSA薬でTDMを必要としないのものはLZD,DAPである(ただし,必要との意見も出始めている).これについては,日本TDM学会/日本化学療法学会によるTDMガイドラインを参照されたい.

■TDMを実施した場合には特定薬剤治療管理費として保険点数処理され,いずれも初回管理費470点(月1回のみ算定,1-3ヶ月までは同点数であるが,4ヶ月以降は235点へ減点),加算(薬剤の投与を行った初回月のみ加算)280点.つまり初回投与し,TDMを施行したら7500円の保険診療が病院に支払われる.

原則⑯:腎機能を考慮する

■抗生剤投与により腎機能が悪化することがある以上,腎障害患者への投与量を変更する必要性が出てくる.薬物の排出半減期(T1/2)は,Cl(クリアランス)とVd(分布容積)で決まる.Clが向上すれば排出半減期は短縮し,Vdが増えれば排出半減期は延長する.重症患者におけるClすなわち排出半減期は疾患の経過や治療内容によって変化する.低血圧の標準的初期治療は輸液であるし,低血圧が持続すれば昇圧薬が投与される.このような状況では,心拍出量が正常上限を上回るのも珍しいことではない.一方で人工呼吸を実施していると胸腔内圧上昇から心拍出量が低下し,抗菌薬のClが低下するという報告がある.腎機能障害が高度でなければ重症患者の腎血流量は増えていることが多く,CrCl(クレアチニンクリアランス)が上昇し,水溶性抗菌薬の排泄能が亢進する.したがって,重症熱傷患者であってもCrClを指標にすれば水溶性抗菌薬の投与量を適切に調節することができる.

■正確なCrClは蓄尿を必要とするため,抗菌薬投与を開始する際はCr値から腎機能を推定するしかない.非肥満者での推定式としては最も有用なものはCockroft-Gaultの公式である.この公式において,用いる体重(BW)は理想体重(BT^2×22)である[44].ただし,mg/kg基準で用量を計算する場合は実際体重を用いる.肥満者(理想体重より20%以上重いorBMI>30)では,実際体重を用いて別の公式を用いる[45]

■しかし,これらの公式はCr変動の激しい急性腎障害では指標とはなりにくく,また過少評価してしまうリスクがある.腎機能の評価にもっとも有効な方法は,蓄尿によるCrClであるという強力なエビデンスがある.最近の研究では,2時間蓄尿CrClでもよいとされている.

■なお,腎不全患者への用量調節が不要な抗菌薬もある.具体的には,AZM,CTRX,CPM,CLDM,DOXY,LZD,CPFX CR,ITCZ Flu,MNZ,MINO,CPFX Tab,MFLX,RBT,KCZ,MCFG,VRCZ Tabがある.

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by drmagicianearl | 2014-06-23 00:00 | 抗菌薬 | Comments(0)
■今回はちょっと古い文献になりますが,基礎研究論文の紹介です.肺炎球菌肺炎の病態においてはα-エノラーゼによりNETsが過剰産生され,肺炎球菌の莢膜やリポテイコ酸によりNETsから回避しうることが知られており,rTM(リコモジュリン)投与は肺炎球菌肺炎に対する特異的な有益性があるだろうと考えていました.しかし,マウスモデル実験ではこのような結果.ヒトの場合とNETs産生の違いや,DIC病態に対する研究ではないことを考慮する必要はありますが,必ずしもトロンボモデュリンはいい働きばかりするとは限らないということでしょう.
肺炎球菌肺炎においてトロンボモデュリンのレクチン様ドメインは宿主の防御反応を妨げる
Schouten M, de Boer JD, van 't Veer C, et al. The lectin-like domain of thrombomodulin hampers host defence in pneumococcal pneumonia. Eur Respir J 2013; 41: 935-42

Abstract
【背 景】
トロンボモデュリン(TM)のレクチン様ドメインは無菌の炎症状態において重要な制御的役割をはたしているが,重症グラム陽性菌感染症における役割は分かっていない.肺炎球菌は市中肺炎の原因菌として最も一般的である.

【目 的】
本研究の目的は,マウスの肺炎球菌肺炎においてTMのレクチン様ドメインの役割を検討することである.

【方 法】
野生型(WT)マウスとTMのレクチン様ドメイン欠損(TM(LeD/LeD))マウスを鼻腔内に生きた肺炎球菌を感染させ,双方の生存の観察と感染後6,24,48時間後に安楽死を行った.

【結 果】
野生型マウスと比較して,TM(LeD/LeD)マウスは肺炎球菌肺炎での生存が著明に良好であった.肺炎球菌感染から48時間後で,TM(LeD/LeD)マウスは血液中および肝臓内の菌量が少なく,肺組織病理学的に見て肺の炎症もなく,好中球浸潤もなく,サイトカイン,ケモカイン濃度は低かった.向炎症性サイトカインの血漿レベルも感染曝露後のTM(LeD/LeD)マウスにおいて減少していた.

【結 論】
TMのレクチン様ドメインの除去は肺炎球菌肺炎の宿主防御を改善させた.TMのレクチン様ドメインはグラム陽性菌かグラム陰性菌に対する反応で異なる役割を有している可能性がある.

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by drmagicianearl | 2014-06-18 13:30 | 敗血症性DIC | Comments(0)
2012年3月19日作成
2014年6月17日改訂


原則⑧:PK/PD理論を考慮する

■PKはPharmacokinetics(薬物動態),すなわち,薬剤の吸収・分布・代謝・排泄などに関係するCmax,AUCなどのことを表す.PDはPharmacodynamics(薬力学),すなわち,体内に入った薬が細菌に対してどのような作用があるかなどに関係するMICなどのことを表す.この基本的考え方を知っておくだけでも抗菌薬の適切な投与方法を行うことができる.

■抗菌薬を投与すると,吸収されて血中濃度が上昇ピークに達し,そこから漸減されていく.濃度曲線で表すと,立ち上がりは比較的直線的であるが,最高濃度に達した後は下に凸の減少曲線パターンとなる(実際には指数関数曲線).

■MIC(minimal inhibitory concentration:最小発育濃度)より高い薬剤濃度であれば,菌の発育は阻止されるはずで,薬剤濃度がMICよりも高い時間(Time above MIC;TAM,T>MIC)が長ければ長いほど効果が得られる.このようなTAMに殺菌効果が平行するものを時間依存性抗菌薬という.このような薬剤は1日の投与総量が同じならば,小分けにして投与することでTAMを長くすることができる.一般的にはGPCがTAM≧40%,GNRではTAM≧60%であれば効果が期待できるとされている.時間依存性抗菌薬にはβラクタム系,CLDM,EM,CAM,VCM,LZDがある.
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■一方で,薬剤濃度がMICを下回っても菌の再増殖を抑える作用をpostantibiotic effect(PAE)と呼ぶ.このような薬剤は濃度のピーク値(Cmax)や濃度曲線の下の面積(area under curve:AUC)とMICとの関連で抗菌薬の作用が決まるので,濃度依存性抗菌薬といい,Cmax/MICやAUC/MICが治療効果に平行すると言われている.AUCは1回の投与総量で決まり,Cmaxは1日の投与総量が同じならば,分割回数を少なくすることで高くなる.濃度依存性の薬剤ではGPCではAUC/MIC≧30%,GNRではAUC/MIC≧100あるいはCmax/MIC≧8-10であれば最大の効果が得られるとされている.AUCを手で計算するのは大変なので,血中濃度用のソフトを使って推測することが多い.しかし,全部の薬でできるわけではないので,インタビューフォームの値などを参考にすることもある.濃度依存性抗菌薬のうち,Cmax/MICに依存する薬剤はキノロン系,アミノグリコシド系,DPT,MNZ,QPR/DPR.AUC/MICに依存する代表的な薬剤はAZM,キノロン系,テトラサイクリン系,VCM,LZD(VCM,LZDは時間・濃度両方)などがある.
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■抗菌薬がMICを超えると,菌の発育は阻止される.しかしながら,感染の原因となっている菌はモノクロナールではなく,その中には低感受性の変異株が混じっている可能性があり,MICを超える濃度で,他のsensitiveな株が死滅した後も生存し,antibiotics selective pressureの減少により耐性株として増殖する.一般に1010個の菌を完全に死滅させることができれば,その中に薬剤耐性をもつ変異株が含まれている可能性はほぼ0と考えられるので,1010個の菌を完全に死滅させることができる濃度をMPC(mutant prevention concentration)と呼ぶ.MICとMPCの間の部分をMSW(mutant selection window)と呼ぶ.抗菌薬濃度がこのMSW内で推移すると薬剤耐性株の増殖を許す可能性が高くなると予想されている.このMPCに関しては今後の研究課題であるが,抗菌薬の濃度がMPCを超えるように,あるいはMSWにある時間を短縮するような抗菌薬の投与設計が望ましいと考えられる.

■時間依存性の抗菌薬はPK/PD理論から,時間依存性抗菌薬の投与時間を延ばし,TAMを増やせば治療効果が増すのではないか,という仮説が生まれた.ここからさらに派生して,バッグに1日分の抗菌薬を詰めて,24時間持続点滴をする方がPK/PD的には理にかなっている,という発想も生まれた.抗菌薬の持続投与は,間欠的な投与に比べて少ない投与量で同等の血中濃度とTAMを獲得するため,理論上では持続点滴の方が間欠的投与に比べると有利である.

■ただし,抗菌薬のクリアランスには個人差があり,必ずしも個々の患者で期待されるような薬物動態を示すという保証はない.また,24時間容器に入れた抗菌薬の安全性も問題である.実際,PCGに関しては,特に高温環境下では失活しやすい特徴をもっており,通常よりも長時間点滴バッグの中に入れたままの抗菌薬が失活するおそれもある.

■臨床効果に関する研究では,近年βラクタム系抗菌薬を中心に多数の研究が報告されている[14].特に重症患者において有効性が示されており[15,16],臨床的奏功率,生存率を改善させている.なお,米国循環器科学会・米国心臓学会による最新のガイドラインでは感染性心内膜炎の治療にPCGの24時間持続点滴療法が推奨治療法として取り入れられている.

■なお,注射用抗菌薬をオーダーした際,点滴時間の指示を入れないことが多く,看護師判断で点滴を30分で終わらせてしまうことがあるが,これは抗菌効果を減弱させてしまう.少なくともどの抗菌薬も1時間以上は投与時間が必要である.また,投与回数が多いことに関してクレームを述べる患者や看護師もいるが,PK/PD理論を考慮すれば時間依存性抗菌薬は4回投与,ときには6回投与も必要なケースは多々ある.患者治療のためでもあり,重症患者では特に必要なため,理解をしてもらう必要がある.

■「今日の治療薬®」に掲載されている投与方法は半数近くが不適切な投与方法であり,奏功しなかったり,耐性菌を増やしてしまうだけである.PK/PD理論を正しく理解し,時間依存性・濃度依存性の概念に基づいた抗菌薬投与を行う必要がある.添付文書や「今日の治療薬」の用量設定は,治験のデザインがそのまま反映されていて,薬理学的に必ずしも正しくない(少なすぎるケースがほとんど).腎機能をみて投与量を減らすのは重要だが,かといって腎機能障害を恐れて用量や投与回数を必要以上に減らすと本来その抗生剤が有効な症例でも効果を示さなくなってしまう.例えば,ペニシリン系抗菌薬はGFR<10でない限りはほとんど用量調節が不要である.また,重症感染症や抗菌薬の移行が悪い部位(髄液,骨髄など)の感染症では高い薬物濃度が要求され,通常より多い投与量が必要となる.参考になるのは『Sunford Guide®』が便利である.

■PK/PD理論には問題点もあることが指摘されている[17].①血中濃度は蛋白に結合したものも含む全濃度を使用するのか遊離した薬剤濃度を使用するのか,②PKのパラメータは血中でのパラメータでよいのか,③PDパラメータとしてMICを用いているが,MBCやMPCとの関係はどうなのか,である.また,PK/PD理論に基づく投与法と有効性についての報告がされるようになっているが,副作用,耐性菌の出現との関連性についてはほとんどない.

■PK/PDに影響を与える因子を以下に挙げる.
(1) 分布容積Vd
 重症患者における感染症の病態は非常に複雑である.細菌や真菌が産生するエンドトキシンは様々な内因性メディエーターの産生を刺激する.メディエーターは血管内皮に作用し,血管が収縮または拡張する.すると,血流の分布異常,血管内皮障害,血管透過性亢進などの影響があらわれる.こうして毛細血管から水分が漏出する状態が生まれ,血管内水分が間質へと移動する.その結果,水溶性薬物の分布容積が増大し,血漿中の薬物濃度は低下する.人工呼吸,低アルブミン血症(毛細血管からの血漿漏出),体外循環(例;血漿交換,人工心肺),手術で留置されたドレーン,重症熱傷などでも分布容積が増加する.脂溶性薬物は脂肪組織に広がるので分泌容積が大きい.したがって,サードスペースが増えても脂溶性薬物の分布容積はさして増大しない.
 水溶性抗菌薬はβラクタム系,アミノグリコシド系,DPT,LZD,colistinなどがある.通常の薬物動態は,①分布容積が小さい,②主に腎クリアランス,③細胞透過性が低い,であり,重症患者では,①分布容積増大,②腎機能の変化によってクリアランスが変化する,が特徴である.
 脂溶性抗菌薬はキノロン系,マクロライド系などがある.通常の薬物動態は,①分布容積が大きい,②主に肝クリアランス,③細胞透過性が高い,であり,重症患者では,①分布容積はほとんど変化しない,②肝機能の変化によってクリアランスが変化する,が特徴である.

(2) 血清アルブミン値
 多くの抗菌薬では,分布容積およびクリアランスはタンパク結合率に影響される.低アルブミン血症では遊離抗菌薬濃度が上昇し,クリアランスは100%増,分布容積は90%増を示す.低アルブミン血症により薬物動態が変化する可能性のあるタンパク結合率の特に高い抗菌薬(>90%)にはCTRX,TEIC,GRNX,CLDM,DAP,ITCZ,キャンディン系抗菌薬がある[18].このように,低アルブミン血症患者では抗菌薬の効率が落ちることを知っておく必要がある.

原則⑨:抗菌薬奏功度を評価する

■たとえ有効な抗菌薬でも投与した翌日に状態が改善するわけではなく,悪化することもある.効果判定を行うのは抗菌薬投与開始後72時間後以降(3-4日後)に行う.その際の評価項目としては臓器に特異的項目を評価すべきである(膨大な量になるため,各感染症での臓器特異的項目は割愛する).CRP,胸部X線所見,発熱は24時間ほど遅れた病勢を表すことが多く,特異度も低いため,効果判定の第一選択とはならない.培養検体再検での評価もときに有用である.

■感染症のエキスパート中には「CRPや白血球数は参考にすべきではない」と主張されている先生も多い.ただ,CRPや白血球数が奏功度評価にまったく無駄であるわけではなく,抗菌薬奏功度の参考にはなりえる(ただしそれ以上の有用性は乏しい).問題は,CRPや白血球数の評価一辺倒になると抗菌薬奏功度の評価が雑になってしまうことである.これはとりわけ重症患者や骨髄炎などの長期治療を要する患者の治療においてよくみられる.状態が改善してきていても経過の中でCRPや白血球数が多少増加することはしばしば経験され,増加がみられたからと広域抗菌薬に切り替えたりする医師も多い.このようなときにバイタルサインや患者の症状を同時に評価する癖を身につけていればこのような数値変動に惑わされることはない.CRPや白血球数がアテにならない状況を見破る必要がある.

原則⑩:起炎菌が判明したら有効かつ狭域の抗菌薬に変更する(de-escalation)

■原因微生物が同定されたときには原因限定治療(definitive therapy)を行う.具体的には,検査結果に照らし合わせて,その患者にとって最も効果的で安全,しかもできるだけ安価で,狭域スペクトラムな抗菌薬で治療する.

■培養結果等を見てエンピリック治療での広域抗生剤から原因限定治療の狭域抗生剤に変更することをde-escalationもしくはtop and approach therapyといい,耐性菌を出さない有効かつ安全な治療法でもある[19,20]

■広域抗菌薬を使用し続けることの弊害は,原因菌以外の菌も死滅させることである.これにより耐性菌選択圧が増大し,使用している抗菌薬が無効な菌が増殖し,ある一定の数以上になったときに病原性を発揮するようになる.これを菌交代現象という.こうなると起炎菌が変化し二次感染が生じ,長期絶食時は特にハイリスクとなる(菌交代減少+免疫力低下).こうなると予後が悪化し,検査を行い,抗菌薬の変更を余儀なくされ,医療コスト増大,患者入院日数延長につながる.手を拱いているうちにどこからともなくMRSAやカンジダがやってきて(三次感染),悪循環となってしまう.これを防ぐためにも,de-escalation,probiotics投与,早期経腸栄養などが重要となる.

■de-escalationの目的として,常在細菌叢の撹乱による副作用減少,薬剤耐性菌選択・誘導による耐性菌発生防止,治療コスト減少が挙げられる[21].しかしながら,これらの個人的・集団的・社会的有用性のいずれにおいても,実は支持する明確なエビデンスはないのが現状である.de-escalation療法は,多数のガイドラインで推奨されており,院内感染制御チーム(ICT)や抗菌薬適正使用に慣れている医師はde-escalationのロジックをよく理解して行ってはいるが,実際のde-escalationの有用性・安全性の質の高いエビデンスはまだほとんどないことは注意しておかなければならない.また,薬剤耐性菌を減少させるとする長期的アウトカムに至っては評価した研究がいまだに存在しない[22]

■de-escalationによって死亡率が増加した報告はなく,有意差なしか改善した報告のみである.当然ながら,起因菌が不明,あるいは耐性菌を検出した場合などが背景にあると,de-escalationは困難であり,死亡率が上昇することも予想されることから,RCTでの評価が必要となるが,現時点でRCTはまだ報告がない[23](現在1研究が進行中).

■de-escalationは初期抗菌薬の影響によって有用性が消失してしまう可能性もある.de-escalationを行うならば初期抗菌薬はいくらでも広域カバーしてもよいと考える医師もいるが,決してそうではない.耐性菌をカバーすべく複数の抗菌薬を併用して超広域カバーを行うと,あとでde-escalationを行ったにもかかわらず死亡率が増加することが示されており[24,25],初期の広域カバーは副作用や常在細菌叢の破綻により予後を悪化させる可能性があり,この場合,de-escalationは安全の保障とはならないかもしれない.よって,耐性菌リスクが高くかつ重症例では超広域は必要となるかもしれないが,少なくともルーチンで「あとでde-escalationを行うんだから最初はいくらでも広域でよい」というやり方は避けた方がよいだろう.

■de-escalation療法は全ての症例で受け入れ可能というわけではなく,必ず安全に行えることが前提であり,患者の総合的評価なしに一辺倒に行ってはならない.以下の条件を満たす場合に,de-escalationを考慮すべきである.
① 経験的治療開始前に良質な微生物学的検体の採取が行われている.
② 臨床的に臓器障害,重症度などの改善がある.
③ 同定された起炎菌が,より狭域の抗菌薬に感受性である.
④ 他の感染巣が否定できる.
⑤ 持続する好中球減少症(<1,000/mm3)などの重篤な免疫不全がない.
⑥ 選択する狭域抗菌薬が感染巣に移行しえる.

原則⑪:標準的治療期間も考慮し,抗菌薬を終了する

■患者の免疫状態,罹患臓器や起因菌によって,抗菌薬の投与期間は教科書的にある程度決まっている.しかし,投与期間を検討した無作為化比較試験(RCT)は少なく,多くはexpart opinionである.そのような中で,抗菌薬の標準的な投与期間としてすぐに利用できてよくまとまっているのが「Sanford Guide®」である.ただし,投与期間を検討した研究が少ないので,根拠やエビデンスレベルがあまり高くないものも含まれる.

■様々な因子により感染症の治療効果は異なるため,標準的治療期間はあくまでも参考データに過ぎないかもしれない.それでもこの標準的治療期間を考慮する理由は,それより長期間治療が必要な場合,本当に現在投与している抗菌薬が効果があるのか,ドレナージなどは不十分ではないか,膿瘍を形成しているのではないか,などを考えるきっかけにもなるからである.逆に,標準的治療期間より短く治療が終わることも越したことはないが,再発のリスクに気をつける必要がある.病勢把握をしながら終了することが原則であり,標準的治療期間を考慮する.また,標準的治療期間より短くなるケースもある.

■また,たとえ改善していなくても中止し,再評価することが重要であり,ときには抗菌薬なしで経過をみることもある.抗菌薬の投与失敗の原因を推測できることも重要である.
1.予想菌と抗菌薬選択の誤り
2.耐性菌
3.抗菌薬の移行不良
4.ドレナージ不良の感染巣
5.他部位での感染巣形成
6.抗菌薬の少ない投与回数,少ない投与量
7.疾患の回復パターンを知らないための不必要な抗菌薬投与
8.一般菌以外の起炎微生物
9.感染症以外の疾患

■近年,重症感染症(特に敗血症)においてプロカルシトニンを用いて抗菌薬投与期間を短縮したとする報告が増加しており,メタ解析も多い.これらの結果を見るに,プロカルシトニンガイドによる抗菌薬治療は,死亡率に影響を与えずに抗菌薬投与期間を2-3日間短縮する効果がある,ということが概観として分かる.ただしそのプロトコルは研究によって大きく異なるため,どのように診療に組み込むかについては各文献[26-30]をチェックしておく必要がある.また,これらの研究はプロカルシトニンを毎日測定しており,日常診療では通常行われない手法であることに注意が必要である.これについては測定機会を絞り込むなど何らかの工夫が必要であろう.
※プロカルシトニンガイド下抗菌薬治療についてはこちらhttp://drmagician.exblog.jp/20784711

■プロカルシトニンは重症敗血症・敗血症性ショックにおける抗菌薬奏功度の評価には比較的優れたマーカーである.Surviving Sepsis Campaign Guideline 2012[31]では,「敗血症と診断したが,その後感染の根拠が認められない患者においては,プロカルシトニンや同様のバイオマーカーが低値であることを経験的治療の中止するために使用してもよい(Grade 2C)」という推奨となっている.ただし,同時に限界と潜在的有害性の懸念が残るとしている.さらに,この抗菌薬中止戦略が耐性菌リスクやClostridium difficileによる抗菌薬関連下痢症のリスクを減じるとしたエビデンスはない.日本版敗血症診療ガイドラインに[32]おいても「抗菌薬中止にはプロカルシトニンを考慮してもよい(2A).」という推奨となっている.

抗菌薬投与の基本的考え方(1)はこちら
抗菌薬投与の基本的考え方(3)はこちら(作成中)

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[PR]
by DrMagicianEARL | 2014-06-17 11:49 | 抗菌薬 | Comments(1)
■マクロライド系抗菌薬と心血管副作用については以前から指摘されており,AZM(アジスロマイシン)は最もその副作用リスクが少ないとされていますが,心血管死が増加するという報告と増加しないという報告が交互にでている状態です.今回,2013年の米国胸部疾患学会でMortensenらが中間報告を行った研究の最終報告がJAMA誌にでたので紹介します.
肺炎で入院した高齢患者における死亡および心血管イベントとアジスロマイシンの関連性
Mortensen EM, Halm EA, Pugh MJ, et al. Association of azithromycin with mortality and cardiovascular events among older patients hospitalized with pneumonia. JAMA 2014; 311: 2199-208
PMID:24893087

Abstract
【背 景】
臨床ガイドラインではAZM(アジスロマイシン)を含むマクロライド系の併用療法が肺炎で入院した患者において第一選択で推奨されているが,近年の報告ではAZMが心血管イベントの増加に関連している可能性が示唆されている.

【目 的】
肺炎で入院した患者において全死亡および心血管イベントとAZM使用との関連性について検討した.

【方 法】
本研究は2002年度から2012年度までAZM投与を受けた肺炎で入院した高齢患者とその他のガイドラインに準拠した抗菌薬治療を受けた患者を比較した後ろ向きコホート研究である.本研究はすべての退役軍人急性期病院に入院した患者の米国退役軍人局の入院データを用いて行った.患者は65歳以上で,肺炎で入院し,米国臨床ガイドラインに準拠した抗菌薬治療を受けた患者を登録した.評価項目は30日および90日の全死亡率と90日不整脈,心不全,心筋梗塞,およびすべての心血管イベントとした.標準的なロジスティック回帰により影響を与えうる交絡因子で調整するため傾向スコアマッチングを用いた.

【結 果】
118病院から73960例の患者が抽出され,傾向スコアマッチング集団ではAZM曝露が31863例,非曝露例が31863例であった.マッチング後は両群間に潜在的交絡因子について有意差はみられなかった.90日死亡率はAZM曝露群が有意に低かった(曝露群17.4% vs 非曝露群22.3%; OR 0.73; 95%CI 0.70-0.76).しかし,心筋梗塞のオッズは有意に増加した(5.1% vs 4.4%; OR 1.17; 95%CI 1.08-1.25).ただし, 全心血管イベント(43.0% vs 42.7%; OR 1.01; 95%CI 0.98-1.05),不整脈(25.8% vs 26.0%; OR 0.99; 95%CI 0.95-1.02),心不全(26.3% vs 26.2%; OR 1.01; 95%CI 0.97-1.04)では有意差はみられなかった.

【結 論】
肺炎で入院した高齢患者において,AZMによる治療は他の抗菌薬治療と比較して低い90日死亡とわずかな心筋梗塞の増加と関連していた.この知見はAZM使用がリスクを差し引いた有益性と関連していることを示している.
■本研究は大規模コホート研究であるが,多変量ロジスティック回帰と傾向スコアマッチングを用いた,変数を定めた解析であり,RCTに比して恣意的バイアスがあることは注意しておかなければならない.もっともこれは近年複数でているマクロライド系抗菌薬と心血管イベントを検討したコホート研究すべてに言えることではあるが.

1.マクロライド系抗菌薬とQT延長

■マクロライド系抗菌薬と心血管イベントについてはQT延長が機序からすでに解明されている.ただしこれが他の心血管イベントとどのように関与しているかは定かではない.

■マクロライド系抗菌薬によるQT延長の機序としては6遺伝子(LQT1-3)の変異により心筋K/Naチャネルの異常が生じ,QT延長が生じることが知られている[1].QT延長をきたせばTorsades de Points等の致死的不整脈が生じ,突然死の原因となる.QT延長リスクは,女性でQTc(補整QT時間)>0.5秒だと増大し,他の薬剤との併用でさらにリスクが増大する[2].同時にQT延長は心伝導障害も意味し,これが心筋梗塞等につながっているのかもしれないが,因果関係を証明した検討はなされていない.

■マクロライド系抗菌薬とQT延長の関連性についてはGuoらが48報のシステマティックレビューを行っており[3],QT延長やTorsades de Pointsのリスク因子として,高齢,高用量のマクロライド,急速投与,心疾患が挙げられている.薬剤別ではラットモデルによるQT時間への影響の比較が行われており,不整脈リスクはEM(エリスロマイシン)>CAM(クラリスロマイシン)>RXM(ロキスロマイシン)>AZMであった[4].AZMは薬物相互作用が少なく比較的安全であると言われている.

■しかし,稀ではあるが,AZMでもQT延長から致死的不整脈であるTorsades de Pointsが生じうることがこれまでに症例報告レベルで見られている.本邦でもアジスロマイシン注射製剤が2011年より発売となったが,小生の施設においてAZMIV投与中にTorsades de Points発生を経験しているspan style="color:rgb(0,204,255);">[5].本症例はその後緊急冠動脈造影検査において左前下行枝において有意狭窄が見つかったことから,心筋伝導障害をAZMが悪化させた可能性があった.この経験は,上記MortensenらのJAMA誌の報告と合致するものであると思われる.現時点で本邦でのAZMIVによるTorsades de Pointsの報告はこの1例のみである.その他にも本邦ではQT延長が1例,因果関係は不明であるが心停止やVfが10例ほど報告されている.症例報告レベルでもAZMによる不整脈出現報告は散見されており,近年のものでは,オピオイド系鎮痛剤methadone内服中の47歳男性患者が上気道炎となり,アジスロマイシンを3日間内服したところ,QT延長から致死的不整脈をきたし,心停止に陥った報告[6]がある.

■QT延長はあまり意識されていないが,潜在的リスクは大きく注意が必要である.Tayら[7]の報告では,1995-2009年の米国救命救急部におけるQT延長の副作用を有する薬剤の占める割合は10.4%→22.2%まで増加しており,抗菌薬ではAZMが最多であった.しかしながら,心電図スクリーニングは20.9%にしか行われていなかった.また,Zhangら[8]は,心電図におけるQT時間の延長は,参照範囲内であっても一般住民レベルでも死亡率と相関すると報告している.加えて,心臓突然死の60%がQT延長と関連しているとの報告もある[9]

■高齢者では肺炎と心不全を合併することはしばしば経験する.このときの不整脈は頻脈になりやすく,Kチャネル遮断作用は発揮しにくい.効果が弱いからとさらに薬剤を追加すると,心不全治療が奏功して頻脈が徐拍化されると急にQT時間が延長し,フロセミドによるK低下でさらにQT延長が増強,心不全が落ち着いた頃にTorsades de Pointが出現する危険性がある.このような症例でのマクロライド系抗菌薬の使用は特に注意を要する.

■もっとも,QT延長はマクロライド系抗菌薬に限ったことではない.抗菌薬関連QT延長についてはOwensらの総説[2]を参考にするとよい.マクロライド系の代替として用いられやすいフルオロキノロンにおいても同様で,すべてのフルオロキノロンでQT延長(QTc>0.5秒またはベースラインから>0.06秒)は起こりうるとされており,女性,低K,低Mg,徐脈ではTorsades de PointsやVfのリスクが増大する.その他QT時間を延長させる抗菌薬としては,アゾール系抗真菌薬,テリスロマイシン,ペンタミジンなどがある.

2.過去のコホート研究にみるアジスロマイシンと心血管イベントリスク

■まずAZMと同じマクロライド系のCAM(クラリスロマイシン)については触れておく.CAMは総死亡リスク・心血管リスクが増大したとする6施設共同RCTであるCLARICOR Trialが2006年に報告されている[10].このRCTは,18歳から85歳の心筋梗塞や狭心症と診断され退院した患者4373例を対象としており,CAM500mg/日群とプラセボ投与群の2週間投与により3年後の死亡率,心血管イベントを比較している.結果は,全死亡リスクは1.27倍(95%CI 1.03-1.54, p=0.03),心血管死亡リスクは1.45倍(95%CI 1.09-1.92, P=0.01)であった.

■さらに2013年にはSchembriら[11]がコホートデータベースのCOPD急性増悪による入院患者1343例,市中肺炎による入院患者1631例を解析している.心血管イベントはCOPD急性増悪で268例,市中肺炎で171例発生した.多変量での調整後,COPD急性増悪へのCAM使用は心血管イベントリスクを1.50倍(95%CI 1.13-1.97),急性冠症候群リスクを1.67倍(95%CI 1.04-2.68)有意に増加させた.市中肺炎では心血管イベントリスクは1.68倍(95%CI 1.18-2.38)有意に増加した一方,急性冠症候群リスクは増加傾向が見られるも統計学的には有意ではなかった(HR 1.65; 95%CI 0.97-2.80).CAM使用と心血管イベントの関連性は傾向スコアマッチングを行っても同様の結果であった.二次評価項目では,COPD急性増悪におけるCAM使用は心血管死リスクを1.52倍(95%CI 1.02-2.26)有意に増加させた一方,全死亡リスクでは有意な増加はみられなかった(HR 1.16; 95%CI 0.90-1.51).市中肺炎においてはCAM使用と全死亡・心血管死に関連性はみられなかった.COPD急性増悪患者においてβラクタム系またはドキシサイクリンの使用は心血管イベントとの関連性は認められず,CAMに特異的な作用であることが示唆された.

■AZMにおいては2012年にRayら[12]がNEJM誌に後ろ向きコホート研究の報告を行っている.米国保険会社Medicadeのコホートデータベースから抽出した30-74歳のAZM服用患者347795例と,傾向スコアでマッチングした抗菌薬非服用患者,および他の抗菌薬服用患者を比較しており,最初の5日間の治療期間中で,AZM服用患者は抗菌薬非服用患者と比較して心血管死亡リスクは2.88倍(95%CI 1.79-4.63, p<0.001),全死亡リスクは1.85倍(95%CI 1.25-2.75, p=0.002)有意に増加した.アモキシシリン服用患者の死亡リスク増加はみられなかった.アモキシシリンと比較して,AZMは心血管死亡リスクを2.49倍(95%CI 1.38-4.50, p=0.002),全死亡リスクを2.02倍(95%CI 1.24-3.30, p=0.005)有意に増加しており,100万治療あたり推定心血管系死亡数が47例増加,心血管リスクの高い患者においては245例増加するとしている.AZMの心血管死亡リスクはシプロフロキサシンよりも有意に高いが,レボフロキサシンとは有意差がみられなかった.結論として,AZMは心血管死と関連ありとしている.

■しかし,このRayらの報告から1年後にこれを否定するSvanströmらの後ろ向きコホート研究の報告[13]が同じNEJM誌に掲載された.本報告では,デンマークの人口集団ベースのコホートデータから抽出した18-64歳のAZM服用患者1102050例と,傾向スコアでマッチングした抗菌薬非投与患者およびペニシリンV投与患者を比較しており,AZM投与群は心血管死リスクが抗菌薬非投与群の2.85倍(RR 2.85; 95%CI 1.13-7.24)であった.一方,AZM曝露による心血管死の粗死亡率は1.1/1000患者-年,ペニシリンV曝露では1.5/1000患者-年であり,傾向スコアで調整すると,ペニシリンVと比較してAZM使用は心血管死増加リスクとは関連していなかった(RR 0.93; 95%CI 0.56-1.55).以上からAZM使用は心血管死と関連しないと結論づけている.

■しかし2014年に入って,Raoら[14]がAZMの心血管イベントリスクとの関連性を報告した.この報告では,米国退役軍人局の入院データから抽出した30-74歳のAZM投与患者94792例と,アモキシシリン投与患者,レボフロキサシン投与患者を比較しており,5日間の治療期間中でアモキシシリンと比較してAZMは死亡リスク1.48倍(HR 1.48; 95%CI 1.05-2.09),重篤な不整脈リスクが1.77倍(HR 1.77; 95%CI 1.20-2.62)に増加していた.結論として,AZMは死亡および不整脈と関連ありとしている(なお,レボフロキサシンも死亡および不整脈リスクを増加させる).

■傾向スコアに組み込んだ変数の違いもあるが,Rayら,Raoらの報告とSvanströmらの報告の最大の違いは年齢層にある.AZMは高齢患者を含む30-74歳の集団では心血管死リスクが増加させ,18-64歳の非高齢集団では増加させなかったということになる.そして今回のMortensenらの報告は65歳以上の高齢者を対象としたものであるが,心血管イベント発生リスクは増加せず,心筋梗塞のみがわずかに増加したが90日全死亡リスクはむしろ低下した.RayらとRaoらの報告では逆に全死亡リスクが増加しているが,Mortensenらの報告はガイドラインに準拠した抗菌薬治療を受けた患者を抽出している点が異なるようである.

■これらの報告はマクロライド系抗菌薬の安易な投与は心血管イベントや心血管死につながりうる危険性を注意喚起する必要があり,AZMでもFDAからも勧告が出ている[15].しかしながら,マクロライド系抗菌薬投与において得られる有益性も存在することは確かであり,その有益性が有害リスクを上回るという結果もでたことから,マクロライド系抗菌薬を使わないとする短絡的な選択はすべきではないと思われる.

■肺炎におけるβラクタム系とマクロライドの併用療法が死亡率をはじめとするアウトカムを改善した報告は多数存在しており[16],質のよいRCTに限定したメタ解析で改善効果がみられていないというlimitationは存在するが,IDSAガイドラインやSurviving Sepsis Campaign Guidelines 2012[17]でも推奨されている.また,慢性呼吸器疾患におけるマクロライドの長期投与による有効性の報告もでており,これらのベネフィットも考慮すべきであろう.ただし,抗菌作用のみならず免疫修飾作用,抗バイオフィルム効果などでマクロライド神話ともいえる過剰投与の風潮がでてきていることも確かであり,盲目的なマクロライド投与は行うべきではない.

■以上より,現時点でのAZMは以下の点を留意しておく必要があると思われる.
①ガイドラインに準拠して使用しなければAZMの有益性は損なわれ,心血管イベントリスクを患者にさらすことになりかねない.
②少なくとも心血管リスクを有する患者においては心血管イベント発生リスクが高まりうるためAZMの使用は慎重投与とすべきである.
③心血管イベント発生リスク,心血管死リスクの絶対増加率自体は非常に小さく,(特に肺炎球菌肺炎で)死亡率改善の有益性がリスクを上回ることも示唆されているため,これらの有害事象を過大評価してAZM投与の恩恵を受けるであろう患者集団への投与を控えるべきではない.
※当院では70歳以上の高齢者肺炎におけるAZM投与患者の解析を継続的に行っており,中間解析[18]では,AZM投与群(50例)はAZM非投与群(241例)と比較して重症度が高かったが(A-DROP 2.8 vs 2.1, p<0.0001; PSI 146.2 vs 114.6, p<0.0001; p<0.0001; 重症敗血症・敗血症性ショック 50.0% vs 10.8%, p<0.0001),院内死亡率に有意差はなかった(10.0% vs 10.4%, p=1).

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[18] DrMagicianEARL. アジスロマイシン注射製剤の高齢者医療における有用性の検討.ジスロマック®点滴静注用Webシンポジウム演題1 2013年3月5日
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by DrMagicianEARL | 2014-06-11 18:42 | 抗菌薬 | Comments(0)
2012年3月18日作成
2014年6月9日改訂


■感染症の治療において抗菌薬は根本治療の中心的役割を果たす手段であるが,実際はそう単純ではない.感染症の多くの成書において,患者,病原菌,抗菌薬の三角関係を考えて治療すべきとの理論が記されている.しかし,実際には抗菌薬以外の医療介入も多く,抗菌薬の部分を医師とした上で,お互いがどのような関係であるかを下に表した.
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病原菌が毒素などにより患者を攻撃し,ときには敗血症を引き起こす.この根本治療として抗菌薬を医師が用いる.しかし,患者側も病原菌に対して何も対処しないわけではない.免疫力によって病原体を排除し,正常細菌叢によっても病原菌の増殖は防ぎえる.また,人体最大の免疫形成システム(人体の免疫機能の約50-70%を有する)である腸管において正常細菌叢が保たれることでCross talkにより免疫力も賦活される.抗菌薬はこの正常細菌叢をも破壊しうるため,諸刃の剣であることを認識する必要がある.この正常細菌叢や免疫力を補助・維持するのが経腸栄養やprobiotics投与である.また,病原菌もただ抗菌薬にやられているわけではない.バイオフィルム形成や膿瘍形成,さらには抗菌薬曝露による適応耐性を獲得することで抗菌薬から身を守る.これに対し,外科的処置やデバイス除去などを講ずることでバイオフィルム形成や膿瘍を治療することが可能であるし,耐性化の有無にかかわらず免疫力や正常細菌叢維持は病原菌を排除することができる.これらを理解した上で抗菌薬がどのように作用しているかを考えて使用する必要がある.

■抗菌薬を選択する場合は以下のことを考慮すべきである.
① 推定あるいは同定された病原体の種類
② 薬剤感受性
③ 生体内利用率・臓器移行性
④ 細胞内移行性(細胞内増殖菌)
⑤ 患者重症度(感染症,基礎疾患)
⑥ 患者臓器障害
⑦ 既往歴(過去の培養での菌検出歴も含む),アレルギー歴
⑧ 副作用頻度
⑨ local factor,antibiogram
⑩ コスト

■以下に抗菌薬投与の基本原則をまとめる.

原則①:細菌培養は必ず抗菌薬投与前に行う

■抗菌薬投与後では培養しても菌が生えてこないことが多い.喀痰塗抹培養を抗菌薬投与後に行うと,投与後6時間未満でも感度が約20%低下,1日たってしまうと約65%低下することが知られている[1].血液培養においても血液中の菌は抗菌薬投与で速やかに死滅してしまうため,感染病巣部位からの検体が採取できないケースなどの場合は起炎菌特定が困難となり,治療が難渋した際に抗菌薬の選択が困難となる.こうなると検出菌がどれだか分からなくなり,MRSAの保菌状態を起因菌と勘違いして抗MRSA薬を投与してしまう,といったことも生じてくる.

■前医で抗菌薬を投与されていた場合の血液培養は抗菌薬吸着用の容器を使用する必要があるので,必ず抗菌薬投与の有無は確認する(点滴を施行されていることもあるので,紹介状の経口薬を見て抗菌薬なしと判断するのは要注意).

■例外的に抗菌薬が感染巣からの培養より先に投与されるケースがある.例えば,細菌性髄膜炎は直ちにempiricalな抗菌薬迅速投与が必要であり,腰椎穿刺に時間がかかるため培養を提出してからでは遅い.抗菌薬の髄液移行は時間がかかるため,髄膜炎では先に抗菌薬点滴を開始してから腰椎穿刺・髄液培養提出を行ってもよい.また,この他にも胆嚢炎や腸腰菌膿瘍など,感染巣からの検体採取までに時間を要するケースがあるが,敗血症状態であれば早期治療が優先されうるため,抗菌薬投与が遅れるようなことがあってはならず,先行投与がやむをえないこともある.

原則②:本当に細菌感染症か,本当に抗菌薬が必要かを考える

熱や白血球数,CRPだけで細菌感染症と判断しないことである.感染があるなら必ず感染部位があり,そこに臓器特異性の症状があるはずである.それを確認せずに安易に抗菌薬を投与するのは無駄となる可能性が高くなるばかりか副作用や耐性化を生み出すだけである.

ほとんどの風邪症候群(感冒,咽頭炎,副鼻腔炎,気管支炎)はウイルス性であると考えられている.また,実際に細菌感染による風邪症候群(肺炎でない急性呼吸器感染症)であったとしても抗菌薬投与なしに軽快することがほとんどで,抗菌薬投与有無で罹患期間に有意差はないとする報告がほとんどである.最近行われた急性呼吸器感染症1531019例のコホート研究[2]では,肺炎入院は抗菌薬投与群で18例/100000回受診,非投与群で22例/100000回受診であり,1人の入院を予防するために12255人に抗菌薬を投与する必要があるとの結果であった.なお,A群溶連菌による咽頭炎においてはリウマチ熱,急性糸球体腎炎を続発することがあるため,抗菌薬投与を検討すべきである(AMPCが第一選択).

細菌感染症だからといって抗菌薬が必要であるわけではない.これは多くの医師が忘れている事実である.急性副鼻腔炎,風邪症候群,マイコプラズマ気管支炎,単純性膀胱炎,感染性胃腸炎などは必ずしも抗菌薬が必要となるわけではなく,むしろ抗菌薬投与により再発率が高まることもある.感染性胃腸炎においては出血性病原性大腸菌においてはまだ議論されてはいるが,基本的には多くの感染性胃腸炎では細菌性も含めて抗菌薬は不要である.ただし,海外渡航者の下痢では抗菌薬投与を検討する必要がある.

不明熱の鑑別を考える.膠原病,悪性腫瘍,感染性心内膜炎,骨髄炎などが挙げられる.感染部位・起炎菌が不明で,感染症でない可能性すらあるのであれば,敗血症でない限り抗菌薬投与は待機すべきである.あまり認識されていないことであるが,抗菌薬によって感染症が引き起こされることもしばしば経験される.

複数の抗菌薬を投与され,主要な菌はほぼカバーされているのに奏功していないケース.抗菌薬変更の前になぜ奏功していないかをまず考えるべきである.投与回数不足,用量不足,膿瘍形成,バイオフィルム形成,外科的処置の必要性,デバイスの除去,重複感染の可能性,適応耐性化など,抗菌薬が奏功しない,もしくは奏功していたのに途中から奏功しなくなるケースはしばしば経験される.その際に抗菌薬を何の考えもなしに変更したり継続したりするのは全くの無駄である.

感染臓器もはっきりしないが抗菌薬治療を開始しなければならないケース.敗血症は言わずもがなであるが,それ以外に,粟粒結核,リケッチア症,ヒストプラズマ,カラアザール,バルトネラ症,エールリキア症(アナプラズマ症),熱帯熱マラリアなどの播種性感染症では診断が困難であるが,治療可能でかつ治療を急ぐ必要がある[3]

プロカルシトニンの活用.プロカルシトニンは細菌感染症に特異的なマーカーであり,ステロイド投与下でも上昇するため有用とされる.しかしながら,その扱いには注意が必要である.精度はCRPと比較してそこまで優れているわけではなく,偽陽性,偽陰性も存在する.また,局所の感染においては上昇しにくい.このため,敗血症を初めとする重症感染症でなければ信頼性は乏しいと考えるべきである
プロカルシトニンの詳細についてはこちら

原則③:感染部位を特定する

■当然のことではあるが,感染部位の特定は必須である.とりわけ,重症敗血症病態では遅くとも6時間以内に感染巣を特定する必要があり,場合によっては手術やドレナージなどの外科的処置が早急に必要となる場合がある.単純X線,エコーだけではなく,状態が悪く急変の恐れがあってもCTを撮影するなど画像検査をフルに活用して原因特定することが優先され,場合によってはMRIを施行することも辞さない心構えが必要となる.

■黄色ブドウ球菌やカンジダなどは播種性病変を形成することがしばしばある.この場合は初期感染巣とは別の部位にも感染巣を形成するため注意が必要である.特に心内膜炎,骨髄炎,関節炎は発見が遅れやすい.カンジダ菌血症では2-40%の頻度で眼内炎をきたし,場合によっては失明に陥るため,眼科コンサルトは必須となる.また,CTでは写らないほどの微小膿瘍を形成することもあるため,考慮が必要である.

原則④:初期は適切な(広域)抗菌薬を投与する(empiric therapy)

■抗菌薬投与治療の原則は大きくわけて4つあり,経験的治療(empiric therapy),原因限定治療(definitive therapy),予防的抗菌薬投与(prophylactic therapy),先制攻撃的投与(preemptive therapy)である.経験的治療は,感染症の初期治療に用いられる概念で,診断の時点で起炎菌が判明していない場合,起炎菌の可能性がある微生物全てに対して効果が期待できる広域抗菌薬を用いる.この治療の目的は原因微生物を同定するまでの間に,いち早く効果的な抗菌薬投与を行うことにある.患者の症状,既往,グラム染色結果などを総合して抗菌薬を選択する必要がある.

■経験的治療ではどこまで広域にするかであるが,例えば,腎盂腎炎による重症敗血症を例にとると,カルバペネム系を投与する医師が非常に多いが,はたしてカルバペネム系が必要か?耐性菌をカバーする必要性があるか?この患者が80歳代女性,糖尿病,抗癌剤治療中,最近の抗生剤使用歴あり,といった既往であればカルバペネム系はよい適応かもしれない.しかし,何ら既往のない20歳代女性であれば,第2-3世代セファロスポリン系でも十分なことがある(もっとも,重症敗血症ほどの重症病態では耐性菌リスクが低いからと狭域にするような“冒険”はすべきではないという意見もある).

■「初期は広域」といっても,ある程度重症度を見てどこまで広域にするかを判断すべきである.初期の広域カバーは副作用や常在細菌叢の破綻により予後を悪化させる可能性があり,この場合,原因菌判明後に狭域抗菌薬に変更するde-escalationは安全の保障とはならない可能性が示唆されている(理由は後述).あとで狭域に変更するのだから最初はどれだけ広域でもかまわない,という考え方は逆に予後を悪化させる可能性が指摘されているので注意が必要である.

■グラム染色を見るだけでもエンピリックに用いる抗菌薬はより狭域に絞りこめるはずである.肺炎球菌(S. pneumoniae),インフルエンザ菌(H. influenzae),モラキセラ菌(M. catarrhalis),腸球菌(E. faecalisE. faecium),ブドウ球菌(S. aureus),アシネトバクター(Acinetobacter spp.)はグラム染色を見て分かるようになっておきたいところである.

■このように,ただ広域を選べばよいわけでもなく,耐性菌予防のためにも感染巣や起炎菌を推定し,また,疾患で考えるだけでなく個々の患者に合わせた経験的治療を心がけるべきであり,
広域ではあるがある程度狭域の抗菌薬を選ぶ必要がある.「SANFORD GUIDE(熱病)®」は感染症治療を行う多くの医師に使用されており,米国ではほとんどのレジデントがポケットに本書を携帯しているが,グラム染色が考慮されないなど,初期からこういった狭域抗菌薬を選択する努力をしなくなってしまう弊害がある.

■おおまかな目安としてグラム染色でグラム陽性球菌が見えたら,原則ペニシリン系でのエンピリック治療が第一選択であり,ブドウ球菌の印象があるのであればCEZや抗MRSA薬を選択する.グラム陰性桿菌であれば第2-3世代セファロスポリン系が第一選択となり,緑膿菌リスクを加味した上で,抗緑膿菌活性抗菌薬を使用もしくは併用することも考える.

■抗嫌気性菌活性をもつ抗菌薬にはβラクタマーゼ阻害薬配合剤(SBTPC,SBT/ABPC,SBT/CPZ,CVA/AMPC,TAZ/PIPC),カルバペネム系,オキサセフェム系(FMOX),セファマイシン系(CMZ),CLDM,MNZ,AZM,第4世代キノロン(GRNX,MFLX,STFX)などがある.腸管内の嫌気性菌は大腸菌の1000倍,腸球菌の10000倍存在することを考慮すれば,抗嫌気性菌活性のある抗菌薬を使用すると腸内細菌叢がいかに破壊されやすいかがよく分かる(特にTAZ/PIPC,CLDM,SBTPCで顕著である).これらの抗菌薬を使用する際はできる限りprobiotics製剤の併用が望ましい.なお,よく勘違いされるが,セファロスポリン系抗菌薬は原則として抗嫌気性菌活性はほとんど持たない.

■TFLX以外のキノロン系抗菌薬は結核菌に対する抗菌活性を有し,肺結核ではキノロン投与により3日前後で65.8-83%[4,5]で臨床症状が軽快してしまい,その後耐性化して再増悪する.結核診断前のキノロン暴露では上記一時的症状改善のみならず喀痰中結核検査の陽性率が73%低下する[6]などで診断が遅れ,最終的に結核治療開始は入院から21-34日後[4,7]まで遅れる(キノロン非曝露群では入院から平均で5日後に治療が開始される).結核菌の分裂増殖は遅く,最適環境下でも10-15時間に1回程度である.しかし,この速度で増殖しても19日後には10^9個という致死的菌量に達しうる.治療開始がもし21-34日間遅れればどうなるかは想像するにたやすく,実際に結核診断前のキノロン曝露により死亡リスクは1.8-6.9倍に増加すると報告されている[4,8].結核は胸部X線,ときにはCT撮影であっても除外できない.「上肺野の空洞陰影を伴う肺炎像」という教科書的な典型的像をとらないこともしばしばあるからであり,呼吸器内科医といえども画像だけでは判断に迷うことも多い.肺結核において上肺野に病変を認めるのは,免疫正常者では68.1%であり,免疫不全者に至っては38.4%に過ぎない[9].また,抗MRSA薬であるLZD(ザイボックス®)も抗結核菌活性を有することが分かっており,注意が必要である[10]

■キノロン系薬剤の経口投与は,カルシウム,アルミニウム,マグネシウム(下剤に注意),鉄剤の併用で著しく吸収が低下してしまうため,同時摂取を避けるなど工夫が必要である.

原則⑤:抗菌薬の移行性を考慮する

■各種の抗菌薬が特に得意とする臓器は決まっている.日本感染症学会抗菌薬使用ガイドライン2005では以下の表が掲載されている.各臓器で記載されていない抗菌薬がその臓器に移行しないわけではないが,抗菌薬が奏功しにくい場合や重症病態では特に考慮して選択する必要が出てくる.

肺:マクロライド,ケトライド,ニューキノロン,リンコマイシン,オキサゾリジノン
胆道:PIPC,CPZ,CTRX,CBPZ,マクロライド,ケトライド,ニューキノロン,リンコマイシン,テトラサイクリン
腎・尿路:ペニシリン,セファロスポリン,モノバクタム,カルバペネム,アミノグリコシド,ニューキノロン,グリコペプチド
髄液:ペニシリン,CTRX,CTX,CAZ,LMOX,カルバペネム,ニューキノロン

■マクロライド,ニューキノロン,テトラサイクリン,CLDM,RFP,CPは細胞内や組織内の濃度が血中濃度より高濃度になる.また,マクロライド系は炎症部位や貪食細胞内への移行性がよいことが知られている.

■敗血症性ショックにおいては臓器移行性が損なわれていることが多く,通常の10-20%程度にまで移行性が低下することもある.

■菌がバイオフィルムを形成すると抗菌薬が効きにくくなる.ときにはバイオフィルムごと菌が播種されることもある.バイオフィルム形成を阻害もしくは透過性を亢進させるものにはマクロライド系,テトラサイクリン系,TGC,DAP,RFP,キャンディン系,L-AMPなどがある.

原則⑥:殺菌性か静菌性かの考慮

■一般的に抗菌薬の殺菌性bacteriocidalと静菌性bacteriostaticの違いは多くの場合考慮する必要がないとされる.これは,免疫力が著しく低下していないのであれば,静菌薬であっても免疫力によって病原菌が排除されるからである.

■菌発育の最小阻止濃度MIC(minimum inhibitory concentration)は静菌作用を見ている.殺菌作用をみるためには最小殺菌濃度MBC(minimum bactericidal concentration)が用いられ,99.9%以上の菌を18-24時間以内に殺菌できる抗菌薬濃度と定義されている.つまり,MBCを越えるか越えないかで殺菌・静菌作用は異なってくる.

■実際にはMICとMBCはそれほど大きな差はないとも言われており,静菌性抗菌薬と言われているCLDMやマクロライド系は実はMIC≒MBCだと主張する専門家もいる.このMBCは細菌検査室ではルーティンで行われることはない.これは先述の通り,臨床上あまり意味をなさないことが多いからである.

■MICとMBCが大きく乖離するケースがあり,MICに対してMBCが32倍以上の値を示すときはtolerance(寛性)と呼ばれる状態にある[11].黄色ブドウ球菌などに対してβラクタム系抗菌薬を投与した場合に特に認められる.MICだけを参考にして治療した場合,特に感染性心内膜炎などの疾患では,治療失敗や再発を起こす例がある.これはtoleranceによる可能性があり,この場合,SBT(serum bactericidal titer)を用いてMBCを測定する必要がある.

■免疫力が重度に低下している患者や,敗血症,菌血症,髄膜炎,感染性心内膜炎,重症ブドウ球菌感染症,重症グラム陰性桿菌感染症,好中球減少症においては殺菌性抗菌薬が必要である.一般的に殺菌性と言われている抗菌薬はペニシリン系,セファロスポリン系,カルバペネム系,VCM,アミノグリコシド系,キノロン系,DPTである.
※MRSA菌血症では静菌性のLZDは用いるべきではないと思われる.VCMよりも治療成績が劣るという報告が散見されており,実際に私もLZDが奏功せずTEICが奏功した症例を複数経験している.LZDの使用は菌血症が解除されてからとすべきであろう.

■ただし,殺菌性と静菌性はあくまでも便宜上の分類であり,はっきりと区別できるわけではない.たとえばABPCは一般的に殺菌性であるが,腸球菌には静菌的である(このためアミノグリコシド系の併用が必要となる).AZMは静菌性であるが,肺炎球菌に対しては殺菌作用を発揮する.CPは静菌性であるが,肺炎球菌,髄膜炎菌,インフルエンザ桿菌には殺菌作用を発揮する.このように,ターゲットとする菌によっては殺菌性や静菌性は異なることもある.

原則⑦:local factorとantibiogramを考慮する

■感染症の成書を読んで抗菌薬を投与する際に考慮されないことが多いのがlocal factor/antibiogramである.同じ感染症であっても,起炎菌の頻度や薬剤感受性は施設ごとに異なる.また,地域特有の感染症を考慮しなければならない場合もある.この「各施設間での差」のことをlocal factorと呼ぶ.そのため,ある施設では第一選択として使用される抗菌薬が,他の施設では使用できないこともある.事前に感受性パターンを知ることで,経験的治療を適切に行うことができる.実際には,抗菌薬の感受性率は,時と場所(国,地域,施設,病棟)によって変化することが報告されている[12,13]

■antibiogramとは,検出される微生物の薬剤感受性を各施設ごとにまとめたものである.これは院内サーベイランスの一環としての役割と,エンピリックな抗菌薬使用の判断材料としての役割をもつ.antibiogramを使用することにより,その施設の耐性菌の頻度や効果の期待できる抗菌薬を知ることができる.また,そういった資料の充実は,耐性菌の発生や感染管理においても,重要な役割をもつ.

■antibiogramを正しく解釈するには,感染症診療の知識が必要である.ESBL産生菌のように,検査データ上は感受性があるようにみえる細菌が,実際の臨床現場では効果がないことがしばしばある.複数の抗菌薬の感受性がよいことが期待される場合,どの抗菌薬を使用するかは悩ましい.そのような場合には,同様の状況で効果が確認されている抗菌薬を優先する.

抗菌薬投与の基本的考え方(2)はこちら

[1] Musher DM, Montoya R, Wanahita A. Diagnostic value of microscopic examination of Gram-stained sputum and sputum cultures in patients with bacteremic pneumococcal pneumonia. Clin Infect Dis 2004; 39: 165-9
[2] Meropol SB, Localio AR, Metlay JP. Risks and benefits associated with antibiotic use for acute respiratory infections: a cohort study. Ann Fam Med 2013; 11: 165-72
[3] Arnow PM, Flaherty JP. Fever of unknown origin. Lancet 1997; 350: 575-80
[4] Wang JY, Hsueh PR, Jan IS, et al. Empirical treatment with a fluoroquinolone delays the treatment for tuberculosis and is associated with a poor prognosis in endemic areas. Thorax 2006; 61: 903-8
[5] Dooley KE, Golub J, Goes FS, et al. Empiric treatment of community-acquired pneumonia with fluoroquinolones, and delays in the treatment of tuberculosis. Clin Infect Dis 2002; 34: 1607-12
[6] Jeon CY, Calver AD, Victor TC, et al. Use of fluoroquinolone antibiotics leads to tuberculosis treatment delay in a South African gold mining community. Int J Tuberc Lung Dis 2011; 15: 77-83
[7] Yoon YS, Lee HJ, Yoon HI, et al. Impact of fluoroquinolones on the diagnosis of pulmonary tuberculosis initially treated as bacterial pneumonia. Int J Tuberc Lung Dis 2005; 9: 1215-9
[8] van der Heijden YF, Maruri F, Blackman A, et al. Fluoroquinolone exposure prior to tuberculosis diagnosis is associated with an increased risk of death. Int J Tuberc Lund Dis 2012; 16: 1162-7
[9] Kobayashi Y, et al. Clinical features of immunocompromised and nonimunonocopromised patients with pulmonary tuberculosis. J Infect Chemother 2007; 13: 405-10
[10] Sotgiu G, Centis R, D'Ambrosio L, et al. Efficacy, safety and tolerability of linezolid containing regimens in treating MDR-TB and XDR-TB: systematic review and meta-analysis. Eur Respir J 2012; 40: 1430-42
[11] Tuomanen E, Durack DT, Tomasz A. Antibiotic tolerance among clinical isolates of bacteria. Antimicrob Agents Chemother 1986; 30: 521-7
[12] Souli M, Galani I, Giamarellou H. Emergence of extensively drug-resistant and pandrug-resistant Gram-negative bacilli in Europe. Euro Surveill 2008; 13(47)
[13] Rhomberg PR, Jones RN. Summary trends for the Meropenem Yearly Susceptibility Test Information Collection Program: a 10-year experience in the United States (1999-2008). Diagn Microbiol Infect Dis 2009; 65: 414-26

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by DrMagicianEARL | 2014-06-09 00:00 | 抗菌薬 | Comments(0)
解析例
ある疾患に罹患した患者45例において薬剤Aを投与したA群25例と薬剤Bを投与したB群20例を比較したところ,死亡数はA群で1例(4%),B群で5例(25%)であった.χ2乗検定を行うと,p=0.039であり,この疾患に対する薬剤A投与は薬剤B投与よりも統計学的に有意に死亡率が低かった.薬剤Aは薬剤Bより有用である可能性がある.
■このような報告は研究会や講演会でよく見かけるが,はたしてこの統計手法は適切であろうか?実はこの事例は統計学的には有意ではないと考えるべきである.

■χ2乗検定(正確にはχ2乗適合度検定;chi-square goodness-of-fit test)は,それぞれの(カテゴリー)群で実際に観察された対象数と期待される対象数を比較する.上記解析例では,観察された対象数は以下の通りである.
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これに対して期待数を算出する必要がある.全体の45例のうち死亡例は6例であることから,A群,B群とも期待される死亡率は6/45でなければならない.よって,A群25例のうち死亡者の期待数は25×6/45=3.3333となる.このような手法で以下のような期待数の表が作成できる.
e0255123_13273154.png
χ2乗検定は,実際の観察数と期待数の差を統合し,その差が生じうる確率としてp値を算出する.つまり,偶然を超える何らかの要因(この場合薬剤Aの薬効の強さ)がA群とB群の死亡率の差を説明しなければならない.

■このχ2乗検定はExcelでも可能な非常に便利な検定方法であり,研究会や学会等の発表で多用されているが,非常に誤用が多い.χ2乗検定はいくつかの近似値に基づくものであり,すべての期待数が大きい場合にのみ正確であることに注意が必要である

■サンプル数(全体のN数)が小さいとき,期待数が5未満のマスがでてくる.このような場合,得られる解析結果は不正確ではないかと疑問視される.これはCochran’s rule(コクラン・ルール)[1]と呼ばれる.具体的には,期待数のマス目のうち20%以上で期待数が5未満のマスがあるとχ2乗検定を用いてはならないというものである.2×2のχ2検定においては4マスのうち1マス(25%)でも期待数5未満があればその時点で「20%以上が5未満」を満たしてしまうためχ2乗検定を用いることは不適切となる.特に2×2のχ2検定ではすべての期待数が10以上であることが望ましい[2].SPSSで解析を行う場合は,χ2乗検定が不適切であれば表示で教えてくれるが,EXCELやいくつかの解析ソフトでは不適切であることを教えてくれない.このため,χ2乗検定を用いることが妥当であるかを判断するため,必ず期待数表を確認する必要がある.

■基本的にはサンプル数が20以下であればχ2乗検定はまず不適切となる.サンプル数が20を超えていてもかなりの頻度で不適切となりやすく,すべての期待数が10以上を目指すのであればサンプル数40以下ではまず望めない.基本的にはサンプル数100未満ではχ2乗検定は不適切となりやすいことを目安として知っておく必要がある.

■χ2乗検定が用いることができないのであればどうすればよいか.そこで出てくるのがFisher正確確率検定(Fisher's exact probability test)である.Fisherは有意水準としてp=0.05をカットオフとすることを最初に使用した人物として知られ,その後はこの0.05が慣習化されている(特に0.05に合理的根拠があったわけではない)[3].Fisher正確確率検定[4,5]は超幾何分布を利用したもので,χ2乗検定が不適切な事例において使用が推奨される.もっともχ2乗検定が可能な場合でもFisher正確確率検定を用いてもかまわない.

■Fisher正確確率検定の数式には階乗が用いられる.このため,EXCELで計算しようとするとコンピューターがオーバーフローしてしまうため,解析ソフトを使用した方がよい.もしEXCELで計算するのであれば,工夫が必要であり,これについては青木繁伸先生の紹介しているサイトが参考になる[6]

■さて,このFisher正確確率検定を用いて冒頭の解析例を解析しなおすと,p=0.074(使用解析ソフト:EXR[7])であり,統計学的には有意差はないことになり,結論までが変わってしまう(もっとも有意水準に必ずしもこだわらない方がいいという考え方もあるが).p値が0.05近傍の値(0.01-0.1)をとる際は統計学的有意差有無がχ2乗検定を用いるかFisher正確確率検定を用いるかで結果が変わってしまうため注意が必要である.学会や研究会の発表を見ていると,多くの発表がχ2乗検定を用いており,その中で明らかに不適切な使用をしているケースは非常に多い印象がある.

[1] Cochran WG. Some methods for strengthening the common x2 tests. Biometrics 1954; 10: 417-51
[2] Motulsky H. Intuitive Biostatistics: A Nonmathematical Guide to Statistical Thinking, 2nd edition. 2010, 1995 by Oxford University Press, Inc
[3] Cowles M, Davis C. On the origins of the .05 level of statistical significance.
American Psychologist 1982; 37: 553-8
Hitchcock D. B. (2009)
[4] Fisher RA. On the interpretation of X2 from contingency tables, and the calculation of p. J R Stat Soc 1922; 85: 87-94.
[5] Hitchcock DB. Yates and Contingency Tables: 75 Years Later Electronic Journal for History of Probability and Statistics. 2009; 5: 1-14
[6] http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/lecture/Cross/fisher-calc.html
[7] Kanda Y. Investigation of the freely available easy-to-use software 'EZR' for medical statistics. Bone Marrow Transplant 2013: 48: 452-8
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by DrMagicianEARL | 2014-06-06 17:01 | 論文読み方,統計 | Comments(0)

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