ブログトップ

EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

<   2014年 09月 ( 6 )   > この月の画像一覧

■敗血症性ショックにおける循環作動薬(ノルアドレナリン,バソプレシン,ドパミンなど)の有害事象に関する文献2つを紹介します.「ノルアドレナリンorバソプレシンで臓器虚血/腸管虚血/四肢末梢疎血が起こって痛い目にあった」というのを学会・研究会等で耳にするのですが,なぜそんなことが起こるのかと個人的にずっと不思議に思っていました.当然ながら末梢血管をしめる作用ですから機序的には理解できます.しかし,私自身はこれまでの敗血症性ショック治療経験においてそのような有害事象は経験したことはなく,血管内容量が十分充填されてないのに循環作動薬を始めちゃったからそういう有害事象が起こっちゃったのでは?と推測しています.

■私はある程度急速輸液をした後でないとノルアドレナリンは開始しませんし,バソプレシンを開始するときもやや多めに輸液を入れてから行います(研修医には「最初は循環作動薬をすぐに入れたくなるけどちょっと我慢した方がいい」と教えています.).末梢まで血管内容量を充填してから血管をしめあげる方が効果的であるし虚血も生じにくいと考えています(実はこの考えは医師国家試験受験前にTECOMの三苫先生の講義で聴講して以来変わってません).輸液は少なすぎても多すぎてもダメで,循環作動薬にも早すぎても遅すぎてもダメという適切なタイミングがあるんじゃないかと思います.そもそもEGDTモデルも1つのゴールを達成したら次のゴールを目指す,というスタンスなので,初期蘇生輸液と循環作動薬を同時開始はまずいんじゃないかなと.1つ目の文献の結果はそれを暗に示唆しているものかと思います(結論ではそれがすべてではないと述べていますが).
敗血症性ショックの死亡率における輸液と循環作動薬の相互作用:多施設共同観察研究
Waechter J, Kumar A, Lapinsky SE, et al; Cooperative Antimicrobial Therapy of Septic Shock Database Research Group. Interaction between fluids and vasoactive agents on mortality in septic shock: a multicenter, observational study. Crit Care Med 2014; 42: 2158-68
PMID: 25072761

Abstract
【目 的】
輸液と循環作動薬はいずれも敗血症性ショックの治療に用いられるが,これらの投与においてどのように相互作用が生じるのか,どのような投与方法が適切かについてはあまり知られていない.我々はこれらの2つの治療の併用が院内死亡にどのように影響を与えるかについて検討した.

【方 法】
本研究は,院内死亡と,循環作動薬導入および発症から0-1時間後,1-6時間後,6-24時間後の輸液量による分類について,相互作用を含め,潜在的共変量で調整した多変量ロジスティック回帰を用いた後ろ向き観察研究である.研究の場は3か国24病院のICUとした.患者は1989年から2007年に入院した,敗血症性ショック発症後から24時間以上生存した患者2849例である.

【結 果】
輸液と循環作動薬のには死亡と関連した強い相互作用がみられた(p<0.0001).死亡率は発症後1-6時間に循環作動薬を開始され,かつ輸液量がショック発症から最初の1時間において1L以上,1-6時間後で2.4L,6-24時間で1.6-3.5Lであると最も低かった.循環作動薬を発症から1-6時間後に開始することは最も低い死亡率と関連していた.

【結 論】
敗血症性ショックの蘇生の最初の1時間は積極的な輸液投与を行い,循環作動薬はその後に積極的輸液を継続しながら行うべきである.循環作動薬を最初の1時間で開始することは有害な可能性があり,その関連性のすべてが循環作動薬の早期導入による体液不足によるものであるわけではない.
敗血症性ショックにおけるバソプレシンとノルアドレナリンの注射による重篤な有害事象
Anantasit N, Boyd JH, Walley KR, et al. Serious adverse events associated with vasopressin and norepinephrine infusion in septic shock. Crit Care Med 2014; 42: 1812-20
PMID:24919159

Abstract
【目 的】
バソプレシンとノルアドレナリンの使用に関連した重篤な有害事象の頻度,危険因子,死亡率に関しては明らかではない.本研究の目的は,敗血症性ショック患者における重篤な有害事象の頻度,危険因子(遺伝子多型の同定を含む),予後について検討することである.

【方 法】
本研究は,大学病院ICUでの多施設データと単施設データを用いた後ろ向きコホート研究である.患者は,Vasopressin and Septic Shock Trial(VASST)データの敗血症性ショック597例とSt.Paul病院の533例である.介入は敗血症性ショックに対するバソプレシンとノルアドレナリンである.主要評価項目は重篤な有害事象有無での90日死亡率とした.副次評価項目は循環作動薬の遺伝子多型や血清バソプレシン濃度と重篤な有害事象との関連性とした.血清バソプレシン濃度はベースライン,循環作動薬投与開始から6時間後,24時間後,72時間後,7日後とした.敗血症性ショック患者は268の循環作動薬経路の一塩基多型に分類された.

【結 果】
重篤な有害事象はVASSTコホート,St. Paul病院コホートでそれぞれ10.5%,9.7%であった.重篤な有害事象が生じた患者ではそれがない患者よりも死亡率が高かった(p<0.01;年齢,乳酸値,APACHE IIスコア,第1病日でのノルアドレナリンの最大量で調整後で,VASSTコホートではHR 2.97; 95%CI 2.20-4.00, p<0.001,St. Paul病院コホートでHR 1.89; 95%CI 1.26-2.85, p=0.002).重篤な有害事象有無で血清バソプレシン濃度曲線下面積に差はなかった(p=0.1).AA遺伝子型rs28418396一塩基遺伝子多型(アルギニン・バソプレシン受容体1b遺伝子近傍)はいずれのコホートにおいても重篤な有害事象に有意に関連していた(それぞれp=0.001, p=0.04).

【結 果】
敗血症性ショック患者におけるバソプレシンとノルアドレナリンが関連した重篤な有害事象は死亡率と有病率増加に関連していた.アルギニン・バソプレシン受容体1b遺伝子近傍のAA遺伝子型rs28418396一塩基遺伝子多型は重篤な有害事象と関連していた.この関連性の機序については検討を要する.

※本文から:多かった有害事象は腸間膜虚血,心筋虚血,頻脈が上位にあがっていました

[PR]
by DrMagicianEARL | 2014-09-30 19:19 | 敗血症 | Comments(0)
βラクタム系抗菌薬に神経変性作用があるとは知りませんでした.感染症治療の主軸となるため投与は避けられませんが,不必要に長々と投与すべきではない,ということになるのでしょうか.認知症,せん妄,PICS/ICUAWと関連性があるのかについても知りたいところです.
ICUの敗血症患者において,βラクタム系濃度上昇は神経変性と関連する
Beumier M, Casu GS, Hites M, et al. Elevated Beta-lactam concentrations are associated with neurological deterioration in ICU septic patients. Minerva Anestesiol 2014 Sep 15 [Epub ahead of print]
PMID: 25220556

Abstract
【目 的】
βラクタム系抗菌薬は安全な治療薬と考えられているが,神経毒性が報告されている.本研究の目的は,ICUの敗血症患者においてβラクタム系濃度と神経変性の関連性を評価することである.

【方 法】
メロペネム(MEPM),ピペラシリン/タゾバクタム(TAZ/PIPC),セフタジジム・セフェピム(CEF)で治療を受け,少なくとも1回のβラクタム系トラフ濃度(Cmin)を規則した全ICU患者を対象とした後ろ向き研究である.薬剤レベルは高速液体クロマトグラフィーを用いて計測した.Cminは,各薬剤ごと(Cmin/MIC)の緑膿菌の臨床的ブレイクポイント(EUCASTの定義)を正常値とした.神経学的状態に変化は,神経学的SOFAスコアの変化(ΔnSOFA=nSOFA(TDMを施行した日)-nSOFA(ICU入室時))を用いた.神経学的状態の悪化は,入室時のnSOFAが0-2で,ΔnSOFA≧1と定義した.

【結 果】
199例の患者(MEPM 130例,TAZ/PIPC 85例,CEF 47例)から262のCmin値が得られた.入室時のAPACHE IIとGCSの中央値はそれぞれ17と15であった.ICU全死亡率は27%であった.神経学的状態の悪化は,各抗菌薬間で差はなかった(MEPM 39%,TAZ/PIPC 32%,CEF 35%).神経学的状態悪化の発生は,Cmin/MICの増加を伴っており(p=0.008),この相関はTAZ/PIPC(p=0.05)とMEPM(p=0.01)で見られたが,CEFでは見られなかった.Cmin/MICは神経学的状態悪化の独立した予測因子であった(OR 1.12, 95%CI 1.04-1.20).

【結 論】
ICUの敗血症患者において,高いβラクタムトラフ濃度と神経変性発生増加の間に相関を認めた.我々のデータは因果関係を断定しえないが,重症疾患で神経変性が生じたときにβラクタム系抗菌薬濃度のモニタリングが考慮されるべきである.

[PR]
by DrMagicianEARL | 2014-09-29 00:00 | 敗血症 | Comments(0)
敗血症治療のEGDTに伴う輸液過剰に関して,死亡リスクが上昇することを示した後ろ向き観察研究を紹介します.最近このようなレビュー等がでてきて,初期蘇生における大量輸液がダメと勘違いしている医療従事者もたまにおられるようですが,そういうわけではありません.初期急速輸液は必要で,これを怠れば虚血により不可逆な臓器不全に進展します.問題は,どの程度の量まで輸液負荷をかけるべきかがまだ分かっていないことで,結果的に過剰輸液に至ってしまう患者群が存在します.CVPはもはやあてにはならず,PiCCOやEV1000などでの評価や,Passive Leg Raising Testが主流になりつつありますが,検証はまだまだ不十分で,大規模RCTがなされていない状況です.
Early-Goal Directed Therapyで治療された重症敗血症および敗血症性ショックの患者における輸液過剰は輸液関連医療介入の必要性や院内死亡の増加と関連している
Kelm DJ, Perrin JT, Cartin-Ceba R, et al. Fluid Overload in Patients with Severe Sepsis and Septic Shock Treated with Early-Goal Directed Therapy is Associated with Increased Acute Need for Fluid-Related Medical Interventions and Hospital Death. Shock 2014 Sep 22 [Epub ahead of print]
PMID: 25247784

Abstract
【背 景】
早期目標指向型治療(EGDT)は早期の積極的輸液蘇生からなり,敗血症の生存率を改善させることが知られている.EGDTがどれくらい過剰輸液を引き起こしているか,EGDT後の輸液過剰が患者の予後に影響を与えるかについては知られていない.我々は,EGDTで治療を受けた敗血症患者が輸液過剰リスクに曝されており,輸液過剰が有害なアウトカムに関連していると仮説を立てた.

【方 法】
2008年1月から2009年12月まで1つの三次救急施設の内科ICUに重症敗血症または敗血症性ショックで入院した患者405例の後ろ向きコホートを行った.患者背景,毎日の体重,輸液状態,輸液過剰の臨床的または画像的根拠,医療介入(胸水穿刺,利尿剤使用,限外濾過)がまとめられ,単変量,多変量ロジスティック,線形回帰解析で関連性を検討した.

【結 果】
第1病日で,患者の67%に過剰輸液がみられ,48%が第3病日まで輸液過剰が遷延した.輸液過剰についての評価者間の合意は十分であった(κ=0.7).輸液過剰遷延の臨床的・画像的根拠を有するが体液バランスが正と記録されていない患者においては体重の増加傾向がみられた.ベースラインの疾患重症度で調整すると,輸液過剰は輸液関連医療介入(胸水穿刺と利尿剤)の使用増加や院内死亡(OR 1.92; 95%CI 1.16-3.22)と関連していた.

【結 論】
重症敗血症,敗血症性ショックの患者において,臨床的に輸液過剰遷延はよく見られ,医療介入や院内死亡と関連していた.

[PR]
by DrMagicianEARL | 2014-09-26 16:53 | 敗血症 | Comments(0)
■日本の脂肪乳剤は大豆由来であり,n-6系脂肪酸が炎症を悪化させる懸念があるため急性期に使いにくい製剤です.一方,海外の脂肪乳剤には魚油由来のものがあり,こちらはn-3系脂肪酸であるため炎症病態でも使用しやすく,近年その効果が期待されています.現在神戸の方でn-3系脂肪酸が開発されていると聞いていますが,日本での製剤化販売は実現するんでしょうか?今回,ICU患者を対象にしたn-3系脂肪酸のRCTが発表されたので紹介します.OMEGA studyで推奨度が多少下がりましたが,このICU Lipid studyで復活するでしょうか?
重症患者における院内感染と臨床アウトカムにおけるn-3系多価不飽和脂肪酸を豊富に含んだ脂肪乳剤:ICU Lipid study
Grau-Carmona T, Bonet-Saris A, García-de-Lorenzo A, et al. Influence of n-3 Polyunsaturated Fatty Acids Enriched Lipid Emulsions on Nosocomial Infections and Clinical Outcomes in Critically Ill Patients: ICU Lipids Study. Crit Care Med 2014 Sep.15 [Epub ahead of print]
PMID: 25226273

Abstract
【目 的】
外科患者においてn-3系多価不飽和脂肪酸(魚油を含む)は免疫修飾作用により,感染率と臨床アウトカムに有益であることが示されている.一方で,重症患者における魚油の投与の研究結果については議論がなされている.本研究の目的は,内科・外科重症患者での院内感染発生と臨床アウトカムにおけるn-3系多価不飽和脂肪酸の効果を検討することである.

【方 法】
研究デザインは,前向き多施設共同二重盲検無作為化比較試験である.研究は4年間で,スペインの17のICUで行われた.対象は,APACHE IIスコアが13以上で,高カロリー輸液を少なくとも5日間必要と予想される内科外科ICU患者159例である.高カロリー輸液を投与されている患者は,10%魚油含有脂肪乳剤または魚油を含まない脂肪乳剤のいずれかに割り付けられた.院内感染発生率はICU在室中の28日間で検出した.入院期間,院内死亡率,6か月死亡率について,ICU退室後から6か月フォローした.

【結 果】
院内感染を呈した患者数は魚油含有脂肪乳剤群の方が有意に減少し(21.0% vs 37.2%, p = 0.035),感染のない期間が長かった(21±2日 vs 16±2日, p = 0.03).ICU,院内,6カ月の死亡率に有意差は見られなかった.

【結 論】
本結果は,重症内科・外科患者において,n-3系多価不飽和脂肪酸の投与が院内感染リスクを減少させかつ感染のない期間を増加させることを示している.n-3系多価不飽和脂肪酸の投与は安全であり良好な忍容性がある.

[PR]
by DrMagicianEARL | 2014-09-17 18:35 | 文献 | Comments(0)
2.世界および日本の敗血症の現状

(1) 罹患率と死亡率,推移

■世界では年間約2700万人の敗血症が発生しており,その数は,世界的に多いとされる大腸癌と乳癌の死亡者数を合わせても足りない.そのうち,約800万人が死亡しており,2-3秒に1人が世界のどこかで敗血症により死亡している計算になる.これが,World Sepsis Dayでの「Around every 3rd heartbeat, someone dies of sepsis.(心臓が3回鼓動を打つごとに誰かが敗血症で亡くなっている)」というメッセージである.
e0255123_1046451.png
■世界規模で見た重症敗血症患者の転帰に関する最新の大規模調査としてPROGRESS研究(Promoting Global Research Excellence in Severe Sepsis)[1]があり,2002年12月から2005年12月までの患者が登録された.この研究は37カ国276ICUの重症患者12881例が登録されており,死亡率は30-80%であった.この死亡率のばらつきには様々な要因が考えられる.しかし,二次解析[2]で行われた多変量解析では,先進国であるか発展途上国であるかは関係がなく,一人当たりの国民総生産高も関係がないという結果であった.加えて,重症度の予後の既知のすべてのマーカーは死亡率の国際的差異を十分には説明しえなかった.

■死亡率の経年的変化としては,データは古くなるが,1979年から2000年までの米国の国家規模のデータベースを用いた敗血症10319418例の検討がなされている[3].この報告では,敗血症の発生率は22年間で82.7/10万から240.4/10万まで増加し,臓器障害数で示される重症度も増加していた.その一方で院内死亡率は27.8%から17.9%まで低下しており,抗菌薬をはじめとする治療の進歩の結果が現れている.同様の報告が2014年にオーストラリアおよびニュージーランドのANZICSグループからも報告されている[4]

■さらに,Surviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)により死亡率が改善したとの報告は数多く存在する[5]

■2002年から2008年にかけての10年間で,入院患者数で見た敗血症発生率は2倍以上と劇的に増加しており,心臓発作よりも多くの患者が敗血症に罹患している.そして,敗血症患者の20-40%は集中治療室(ICU)での治療を必要としている.また,米国の報告では,1997年から2006年にかけて,術後敗血症の患者数は3倍にまで増加している.コストで見ると,2008年の米国における敗血症入院によるコストの年間総額は146億ドルであり,1997年から年間11.9%ずつ増大している.

■Angusらの大規模コホート研究[7]では,米国7州にある847病院の重症敗血症患者192980例を登録している.ここからCDC,HCHA,AHAにもデータリンクして,米国での死亡統計が示されている.このデータモデルから日本にあてはめると,日本では年間38万4千人が重症敗血症に罹患していることになる.2011年の厚生労働省死亡統計では,敗血症が死因とされている死亡は11170例であり,全死亡の0.9%であった(2001年時は6179例であり1.8倍に増加).しかし,この数字は悪性腫瘍など他の基礎疾患が存在している患者が敗血症に罹患して死亡した場合などは反映されていない可能性が大きく,実際の死亡数はもっと多いものと推察され,米国モデルにあてはめるならば,おそらく日本の実際の敗血症死亡例は死亡統計の約10倍(年間10-20万人)と予想される.また,Angusらの研究では高齢者ほど罹患率,死亡率が高いことも示されており,超高齢化社会を迎えている日本ではさらに敗血症患者は増加すると思われる.

■ただし,これらの疫学的推移を異とする主張もある.疫学研究においてはコーディング化された病名を拾いあげていくが,その際に過剰診断によるアップコーディングがあると敗血症患者が増えることになる[8].実際には,米国では尿路感染症や腹腔感染症は不変,肺炎に至っては減少傾向,菌血症患者も不変であるにもかかわらず,敗血症が増加している.ただし,高齢化社会をむかえてきていることが敗血症の増加に寄与している可能性も十分にあると思われる.また,近年薬剤耐性菌が増加しており,初期抗菌薬が奏功せず感染症が悪化して敗血症に至るケースが増えてきていることも敗血症増加に寄与しているのかもしれない.

(2) 敗血症の認知度

■敗血症は非常にポピュラーな疾患である.米国・欧州の統計による疾患別年間発生率(10万対比)で見てみると,HIVが22.8,心疾患208,脳卒中223,癌331.8に対して敗血症は377である.
e0255123_11391434.jpg

■このような状況の中にあっても敗血症の認知度は非常に低い.欧州の調査[9]では,敗血症という名前を知っていた市民は12%であった.もっともこの研究ではドイツだけが53%と突出していたために12%という数字になっており,実際の他国の認知度はもっと低い数字であることが分かる.さらに,敗血症という言葉を知っていても,それが死亡しうる疾患であることを知っていたのは42%であった.当院自験例でも,重症敗血症患者42例の家族へのインフォームドコンセントの際に,敗血症という病名を知っていたのはわずか2例(4.76%)に過ぎなかった(家族が医療従事者である場合は除外).

■医療従事者であれば敗血症という病名はまず知ってはいるが,その治療法やSurviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)の存在となるとその認知度は非常に低い.529名の集中治療医を含む1058名の医師に対するSCCMと欧州集中治療医学会(ESICM)の調査報告[10]では,依然として67%の医師が敗血症の定義を認知しておらず,また正しい知識を持ち合わせていないために83%の医師が敗血症を誤診するという事態が発生していた.当院医師においても,敗血症プロトコル導入前の2011年時点では,敗血症の定義やSSCGの存在を知っていたのは10%に満たず,医師年数が長いほど知らない傾向が見られた.敗血症は感染症の重症病態であり,救急・集中治療・感染症領域の医師のみならず,内科・外科をはじめとするほとんどの科でかかわりうる致死的病態である.にもかかわらずその診療法が認知されていない現状は早急に改善する必要がある.

■こうした医師への認知度の低さを受けて,2001年には米国集中治療医学会SCCM,ESICM,ACCP,ATS,SISが敗血症の定義をより明確化し,正確な認知のもと正しい敗血症診療を励行するためにカンファレンスを開催した[11].同時期に米国では敗血症患者の診断と治療に関する正しい知識の普及の促進を目的にNISE(The National Initiative in Sepsis Education)が設立された.

■この流れの中で2002年にSCCM,ESICM,国際敗血症フォーラム(ISF)の合同カンファレンスがスペインのバルセロナで開催され,5年間で重症敗血症患者の死亡率を25%減らすという目標をかかげた国際的なキャンペーンであるSSC(Surviving Sepsis Campaign)が合意,開始された[12]

■そして,敗血症の認知度をさらに世界全体で医療従事者のみならず行政から一般市民まで広く高めようとする動きの中でWorld Sepsis Dayが制定された.World Sepsis Dayの最大の目的は「普及」である.まずは敗血症とそれに対する取り組みを知ってもらわなければ何も始まらない.一般市民レベルでの敗血症の認知は感染症予防としての衛生改善,ワクチン接種推進へとつながる.国際ガイドラインSSCG,日本版敗血症診療ガイドラインがあるにもかかわらず,それに目を通した医療従事者はほんの一握りに過ぎず,さらなる教育・指導・普及が必要である.また,これらの取り組みは行政の協力なくしては勧められず,そこには普及,医療資源投入のみならず研究・教育に至るまでの国家レベルでの取り組みが必要となる.
※World Sepsis Dayの日本のイベント,東京や横浜で開催されてますが,今後は関西で同時開催もやってほしいところです.
e0255123_1134253.png


敗血症の展望 to 2020 ~世界敗血症の日(World Sepsis Day)~(1)世界敗血症宣言

→敗血症の展望 to 2020 ~世界敗血症の日(World Sepsis Day)~(3)敗血症死亡率は改善できるか?

[1] Beale R, Reinhart K, Brunkhorst FM, et al; PROGRESS Advisory Board. Promoting Global Research Excellence in Severe Sepsis (PROGRESS): lessons from an international sepsis registry. Infection 2009; 37: 222-32
[2] Silva E, Cavalcanti AB, Bugano DD, et al. Do established prognostic factors explain the different mortality rates in ICU septic patients around the world? Minerva Anestesiologica 2012; 78: 1215-25
[3] Martin GS, Mannino DM, Eaton S, et al. The epidemiology of sepsis in the United States from 1979 through 2000. N Engl J Med 2003; 348: 1546-54
[4] Kaukonen KM, Bailey M, Suzuki S, et al. Mortality related to severe sepsis and septic shock among critically ill patients in Australia and New Zealand, 2000-2012. JAMA 2014; 311: 1308-16
[5] DrMagicianEARL. 敗血症とSurviving Sepsis Campaign Guidelines (SSCG). EARLの医学ノート 2013 Aug.6http://drmagician.exblog.jp/16351986/
[6] Hall MJ, Williams SN, DeFrances CJ, Golosinskiy A. Inpatient care for septicemia or sepsis: A challenge for patients and hospitals. NCHS data brief, no 62. Hyattsville, MD: National Center for Health Statistics. 2011
[7] Angus DC, Linde-Zwirble WT, Lidicker J, et al. Epidemiology of severe sepsis in the United States: analysis of incidence, outcome, and associated costs of care. Crit Care Med 2001; 29: 1303-10
[8] Rhee C, Gohil S, Klompas M. Regulatory mandates for sepsis care--reasons for caution. N Engl J Med 2014; 370: 1673-6
[9] Rubulotta FM, Ramsay G, Parker MM, et al; Surviving Sepsis Campaign Steering Committee; European Society of Intensive Care Medicine; Society of Critical Care Medicine. An international survey: Public awareness and perception of sepsis. Crit Care Med 2009; 37: 167-70
[10] Poeze M, Ramsay G, Gerlach H, et al. An international sepsis survey : a study of doctors' knowledge and perception about sepsis. Crit Care 2004; 8: R409-13
[11] Levy MM, Fink MP, Marshall JC, et al. 2001 SCCM/ESICM/ACCP/ATS/SIS International Sepsis Definitions Conference. Crit Care Med 2003; 31: 1250-6
[12] Slade E, et al. The Surviving Sepsis Campaign : raising awareness to reduce mortality. Crit Care 2003; 7: 1-2
[PR]
by drmagicianearl | 2014-09-15 11:42 | 敗血症 | Comments(0)
■日本の感染症領域で長きにわたり待望されていたメトロニダゾール(MNZ)の注射製剤が2014年7月4日に製造販売承認を取得,9月2日に薬価収載となった.商品名はアネメトロ®(製造販売:ファイザー株式会社).国内PhaseⅠ,PhaseⅢから効能・効果は以下の通り.
1.嫌気性菌感染症
<適応菌種>
本剤に感性のペプトストレプトコッカス属,バクテロイデス属,プレボテラ属,ポルフィロモナス属,フソバクテリウム属,クロストリジウム属,ユーバクテリウム属
<適応症>
敗血症,深在性皮膚感染症,外傷・熱傷および手術創等の二次感染,骨髄炎,肺炎,肺膿瘍,膿胸,骨盤内炎症性疾患,腹膜炎,腹腔内膿瘍,胆嚢炎,肝膿瘍,化膿性髄膜炎,脳膿瘍

2.感染性腸炎
<適応菌種>
本剤に感性のクロストリジウム・ディフィシル
<適応症>
感染性腸炎(偽膜性大腸炎を含む)

3.アメーバ赤痢
1.MNZの特徴とどのような場面で推奨するか?

■MNZは菌のDNA二重鎖を切断することで作用する殺菌性抗菌薬であり,偏性嫌気性菌に対して良好な抗菌活性を有するが[1],偏性嫌気性菌以外の菌にはほぼ無効と考えてよい(大腸菌には感受性あり).また,アクチノマイコシスとP. acnesには無効である.MNZはbioavailabilityが良好なため,静注と経口で血中濃度がそれほど変わらず,経口スイッチも行いやすい抗菌薬である.

■MNZ静注製剤の適正使用にあたっては,なぜ本剤が日本で待望されていたかについての背景を知っておかなければならない.例えば横隔膜より上の感染症である肺炎や膿胸においては,一般的な奏功率や嫌気性菌の種類から,基本的にはMNZがSBT/ABPC,CMZ,AZMIV,CLDM,TAZ/PIPCより優先されるものではないと推察され,出番がそう簡単に増えるわけではないと思われる.使用してもよいが,多くの嫌気性菌に感受性が保たれている新規抗菌薬を他の抗菌薬より優先して使用すべきかを慎重に検討する必要がある.アンチバイオグラムでの確認がベストであるが,肺炎での嫌気性菌の培養と感受性率の検査ができている施設は非常に少ないことから,現実的には嫌気性菌関与が疑われる誤嚥性肺炎や膿胸などにおける奏功率を施設ごとに算出して検討すべきである.使用場面としては,比較的耐性度の高い通性嫌気性菌(大腸菌,肺炎桿菌など)の検出既往がある誤嚥性肺炎における第3世代または第4世代セファロスポリン+MNZなどであろうか.

■日本においてMNZ静注製剤がとりわけ他剤より有用となる場面が多く想定されるのは腹腔内感染症である.外科感染症分離菌感受性調査研究会による本邦の細菌性腹膜炎検出菌調査においては約6割で偏性嫌気性菌を検出しており,そのうちの1/3はBacteroides fragilis groupである.B. fragilisでは,以前は嫌気性菌に対する治療薬として頻用されるCLDMが良好な活性を示していたが,近年では30-50%近くが耐性化しているため,腹腔内感染症では使用できなくなってきている.欧米では嫌気性菌に活性を有する第4世代ニューキノロン系抗菌薬のMFLXが注射製剤として利用されているが,それらのB. fragilis groupへの耐性化も顕著なものとなっている.CMZやFMOXなどの抗嫌気性菌活性を有するセフェム系薬の耐性化も問題となっている中,現時点で有効性を保っているのはカルバペネム系,TAZ/PIPCなどのβラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系,MNZのみとなっている[2]

■以上のような背景から,MNZを特に優先して使用するのは,嫌気性菌の中でもB. fragilis groupを意識して抗菌薬を投与するケースで推奨されるべきあり,呼吸器感染症や皮膚軟部組織感染症では嫌気性菌関与が疑われてもMNZを第一選択とする必要性は低いと推察される.

■2003年のIDSAガイドラインでは嫌気性菌による腹腔内感染症に対する治療薬として推奨されている[3].もちろんカルバペネム系やTAZ/PIPCも腹腔内感染症においては非常に有用な抗菌薬である.これについてはMatthaiouら[4]の腹腔内感染症に対するCPFX+MNZとβラクタム系抗菌薬を比較したRCT4報およびコホート研究1報の計1431例メタ解析を参照されたい.このメタ解析では,死亡率(OR=1.42, 95%CI 0.66-3.06)や毒性(OR=1.25, 95%CI 0.66-2.35)に有意差はなかったが,CPFX+MNZ群の方が発熱を有意に改善させたと報告している(OR=1.69, 95%CI 1.20-2.39).

2.MNZの有害事象

■MNZは胎盤を容易に通過しうる.催奇形性については明らかではないが,第一半期の妊婦には避けるべきである.

■ワーファリン投与患者でのPT INR延長が既に知られている.

■MNZはアルコールの代謝過程におけるアルデヒド脱水素酵素を阻害し,血中アセトアルデヒド濃度を上昇させるため,二日酔いのような症状をひきおこすジスルフィラム作用を有する.

■末梢神経障害も生じうる.多くの報告では15mg/kg/日以上を2週間以上にわたり投与した後に発症している[5].MNZの神経障害はMNZの中止のみで軽快しやすい[6].症状が強ければプレガバリン(リリカ®)を考慮してもよい[7]

■MNZは中枢神経移行性もよく,非ブドウ球菌性細菌性髄膜炎においては併用薬として推奨されているが,同時に中枢神経に対する有害事象であるメトロニダゾール脳症[8]も知っておく必要がある.MNZ長期使用,栄養状態不良,内科的慢性疾患などがリスクともされている.脳MRIではT2とFRAIRで高信号となる.症状は,発症機序で代謝経路に共通点を有することも示唆されている[9]Wernicke脳症に似ており,ときに鑑別が困難なこともある.可逆性の病態であり,本症を疑ったときはMNZを中止することで軽快する.

■MNZによって膵炎が生じることも報告されている[10].MNZによって膵炎が生じる機序は不明であるが,Nigwekarら[11]の報告では,同剤開始後12時間-38日で発症し,画像検査上で膵炎の所見を呈したのは7例中2例のみ,全症例とも中等度程度で自然軽快であった.急性膵炎においてMNZの推奨はなく,膵炎誘発の可能性もある以上は,急性膵炎患者での使用は避けるべきかもしれない.

■MNZよる発癌性の可能性が以前から指摘されているものの,明らかではない.発癌性は動物実験において,肺癌,リンパ腫,乳腺腫瘍および肝臓癌の発生頻度の上昇が報告されているが,動物種によって発癌頻度,発癌臓器に違いがみられる[12].とりわけ肺癌での報告がみられるが,有意な増加を認めるとする報告[13]もあれば,有意な増加は認めないという報告[14]もあり,非小細胞肺癌に対して放射線治療にMNZを併用すると有効性が増した(2年生存率は有意差なし)とする報告[15]もあり,結論はでていない.

[1] Koeth LM, Good CE, Appelbaum PC, et al. Surveillance of susceptibility patterns in 1297 European and US anaerobic and capnophilic isolates to co-amoxiclav and five other antimicrobial agents. J Antimicrob Chemother 2004; 53: 1039-44
[2] Snydman DR, Jacobus NV, McDermott LA, et al. National survey on the susceptibility of Bacteroides Fragilis Group: report and analysis of trends for 1997-2000. Clin Infect Dis 2002; 35(Suppl 1): S126-34
[3] Solomkin JS, Mazuski JE, Baron EJ, et al; Infectious Diseases Society of America. Guidelines for the selection of anti-infective agents for complicated intra-abdominal infections. Clin Infect Dis 2003; 37: 997-1005
[4] Matthaiou DK, Peppas G, Bliziotis IA, et al. Ciprofloxacin/metronidazole versus beta-lactam-based treatment of intra-abdominal infections: a meta-analysis of comparative trials. Int J Antimicrob Agents 2006; 28: 159-65
[5] Hobson-Webb LD, Roach ES, Donofrio PD. Metronidazole: newly recognized cause of autonomic neuropathy. J Child Neurol 2006; 21: 429-31
[6] Tan CH, Chen YF, Chen CC, et al. Painful neuropathy due to skin denervation after metronidazole-induced neurotoxicity. J Neurol Neurosurg Psychiatry 2011; 82: 462-5
[7] Dworkin RH, O'Connor AB, Backonja M, et al. Pharmacologic management of neuropathic pain: evidence-based recommendations. Pain 2007; 132: 237-51
[8] Huang YT, Chen LA, Cheng SJ. Metronidazole-induced Encephalopathy: Case Report and Review Literature. Acta Neurol Taiwan 2012; 21: 74-8
[9] Zuccoli G, Pipitone N, Santa Cruz D. Metronidazole-induced and Wernicke encephalopathy: two different entities sharing the same metabolic pathway? AJNR Am J Neuroradiol 2008; 29: E84
[10] Loulergue P, Mir O. Metronidazole-induced pancreatitis during HIV infection. AIDS 2008; 22: 545-6
[11] Nigwekar SU, Casey KJ. Metronidazole-induced pancreatitis. A case report and review of literature. JOP 2004; 5: 516-9
[12] Dobiás L, Cerná M, Rössner P, et al. Genotoxicity and carcinogenicity of metronidazole. Mutat Res 1994; 317: 177-94
[13] Beard CM, Noller KL, O'Fallon WM, et al. Cancer after exposure to metronidazole. Mayo Clin Proc 1988; 63: 147-53
[14] Friedman GD, Selby JV. Metronidazole and cancer. JAMA 1989; 261: 866
[15] Ren W, Li Z, Mi D, et al. A meta analysis of radiosensitivity on non-small cell lung cancer by metronidazole amino acidum natrium. Zhongguo Fei Ai Za Zhi 2012; 15: 340-7
[PR]
by DrMagicianEARL | 2014-09-02 00:00 | 抗菌薬 | Comments(0)

by DrMagicianEARL