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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

<   2015年 05月 ( 9 )   > この月の画像一覧

■ガイドラインで一緒にお仕事&ご指導をさせていただいている井上茂亮先生の論文がpublishされたので紹介します.研究内容は,BRAIN-ICU studyのデータを用いて,どの施設でも簡便に計測できるベッドサイドマーカーであるリンパ球数でせん妄発生を予測できるか?というものです.Authorの中にはICUせん妄の権威でもあるEly先生の名前があります.Ely先生といえば,最近スタチンでICUせん妄を抑制しうるとする観察研究を報告されておられます.確かに,炎症とせん妄の関連性はかなりコモンになってきていますが,では免疫抑制ならどうか?と見たこの研究,もしポジティブであれば簡単に計測できるリンパ球数ですので便利ではあったのですが,結果はネガティブでそう簡単にはせん妄は予測できないようです.
ICU患者のせん妄におけるリンパ球減少症の影響
Inoue S, Vasilevskis EE, Pandharipande PP, et al. The impact of lymphopenia on delirium in ICU patients. PLoS One. 2015 May 20;10(5):e0126216
PMID:25992641

Abstract
【背 景】
免疫抑制状態は重症疾患の期間において,患者を急性脳傷害に進展させやすくする可能性がある.リンパ球減少症は,免疫抑制状態の非特異的な一般的に使用されているベッドサイドマーカーである.

【方 法】
我々は,大学病院三次救急で行われたthe Bringing to Light the Risk Factors and Incidence of Neuropsychological Dysfunction in ICU Survivors(BRAIN-ICU study)に登録された518例の患者において,リンパ球減少症が急性脳傷害(せん妄または昏睡)進展を予測するかについて検討した.比例オッズをロジスティック回帰およびCox比例ハザード生存解析を利用し,登録前のリンパ球数とせん妄/昏睡のない日数(DCFDs)を含む連続的な認知アウトカムの関連性,30日死亡について解析した.

【結 果】
リンパ球数とDCFDsに統計学的に有意な関連性はみられなかった(p=0.17).加えて,リンパ球数と死亡についても統計学的有意差はみられなかった(p=0.71).癌や糖尿病の既往を有さない259例の患者においても,リンパ球数とDCFDsに統計学的に有意な関連性はみられなかった(p-0.07).

【結 論】
内科/外科ICU患者において,免疫抑制の一般的に使用されているベッドサイドマーカーであるリンパ球数は急性脳傷害(せん妄/昏睡)や30日死亡におけるリスクのマーカーを示さなかった.

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by DrMagicianEARL | 2015-05-28 00:00 | 文献 | Comments(0)
■ハイフローナーザルカヌラは今や集中治療領域で大ブームとなっていますが,このFLORALI studyも後押しになるかもしれません.有意差はないものの挿管率は通常酸素投与やNPPVよりも低い傾向がみられ,副次評価項目であるものの90日死亡リスクが有意に低いという結果でした.当院ではハイフローナザールカヌラをまだ導入できていませんが,これまでのエビデンスから使えそうなシチュエーションがいろいろでてきていて,早く採用したいものです(保険適応の壁があるのが採用の障壁になっているようで・・・).

■ただし,ハイフローナーザルカヌラで注意しなければならないのは,NPPVと同じく,粘り過ぎないことです.175例の後ろ向き観察研究ですが,ハイフローナーザルカヌラで治療失敗となった患者において,48時間以内に挿管する方が48時間以降に挿管するよりも死亡率が低かったと報告されています(Intensive Care Med 2015; 41: 623-32).
急性低酸素性呼吸不全に対するハイフローナーザルカヌラ(FLORALI study)
Frat JP, Thille AW, Mercat A, et al; FLORALI Study Group and the REVA Network. High-Flow Oxygen through Nasal Cannula in Acute Hypoxemic Respiratory Failure. N Engl J Med. 2015 May 17. [Epub ahead of print]
PMID:25981908

【背 景】
急性低酸素性呼吸不全患者において非侵襲的換気を行うべきか否かについて議論されている.ナーザルカヌラによる高流量酸素療法は低酸素の患者における選択肢を提供する可能性がある.

【方 法】
我々は,急性低酸素性呼吸不全かつPaO2/FiO2比が300mmHg未満で高炭酸ガス血症を有さない患者を,高流量酸素療法,フェイスマスクによる標準酸素療法,非侵襲的陽圧換気に無作為に割り付けた多施設共同オープンラベル試験を行った.主要評価項目は28日時点での挿管率,副次評価項目はICUおよび90日時点での全死亡,28日時点での人工呼吸器を装着していない日数とした.

【結 果】
全部で310例が解析された.挿管率(主要評価項目)は高流量酸素群で38%(40/106),標準群で47%(44/94),非侵襲的陽圧換気群で50%(55/110)であった(全体の比較でp=0.18).28日時点での人工呼吸器を装着していない日数は高流量酸素群で有意に多かった(高流量酸素群24±8日 vs 標準酸素群22±10日,非侵襲的陽圧換気群19±12日; 全体の比較でp=0.02).90日死亡の危険率は高流量酸素と比較して標準酸素群で2.01(95%CI 1.01-3.99, p=0.046),非侵襲的酸素群で2.50(95%CI 1.31-4.78, p=0.006)であった.

【結 論】
高炭酸ガス血症のない急性低酸素性呼吸不全の患者において,高流量酸素,標準酸素,非侵襲的換気では挿管率に有意差はみられなかった.90日死亡においては高流量酸素の有用性が有意差をもって示された.

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by DrMagicianEARL | 2015-05-27 16:03 | 文献 | Comments(0)
■重症感染症においては感染巣コントロールがなされていない状況で抗菌薬のみで戦うのは無謀で,たとえ原因菌を網羅していても治療しきれません.しかしながら臨床状況では感染巣コントロールがなされないまま治療されるケースも見られ,なかなかよくならない状態でICTから感染巣コントロールを提言することもあります.感染巣コントロールが遅れるのはそれだけその医師に有効性が認識されていないこともあるのだと思います.

■以下に紹介するSPOT-IT trialは感染巣コントロールを要する腹腔内感染症において,適切に手術できていれば発熱や白血球数等を参考にする必要性は低く,抗菌薬治療期間は4日間の固定でよいとする結果でした.
腹腔内感染に対する短期抗菌薬治療の試験(SPOT-IT trial)
Sawyer RG, Claridge JA, Nathens AB, et al. Trial of short-course antimicrobial therapy for intraabdominal infection. N Engl J Med. 2015 May 21;372(21):1996-2005
PMID:25992746

Abstract
【背 景】
腹腔内感染の治療の成功には解剖学的感染巣コントロールと抗菌薬の併用が必要である.抗菌薬治療の適切な期間は明らかではない.

【方 法】
我々は複雑性腹腔内感染症の患者518例を,発熱,白血球増加,イレウスが消退してから2日間,最長10日間抗菌薬投与を受ける群(対照群)と,4±1日の一定期間の抗菌薬投与を受ける群(実験群)に無作為に割り付けた.主要評価項目は,治療群ごとの,指標とする感染巣コントロールのための処置後30日以内の手術部位感染症,腹腔内感染症の再発,死亡の複合アウトカムとした.副次評価項目は,治療期間,その後の感染症発生率とした.

【結 果】
手術部位感染症,腹腔内感染症の再発,または死亡は,実験群では257例中56例(21.8%)に発生したのに対し,対照群では260例中58例(22.3%)に発生した(絶対差-0.5%,95%CI -7.0 to 8.0,p=0.92).抗菌薬治療期間中央値は,実験群では4.0日(四分位範囲 4.0-5.0)であったのに対し,対照群では8.0日(四分位範囲5.0ー10.0)であった(絶対差-4.0 日,95%CI -4.7 to -3.3,p<0.001).主要評価項目の各項目の発生率および他の副次評価項目は,両群間で有意差は認められなかった.

【結 論】
適切な感染巣コントロールを受けた腹腔内感染症の患者において,一定期間の抗菌薬治療(約4日間)のアウトカムは,生理学的異常の消退後まで行うより長期の抗菌薬療法(約8日間)のアウトカムと同様であった.

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by DrMagicianEARL | 2015-05-25 15:22 | 抗菌薬 | Comments(0)
■先週,メディカル・サイエンス・インターナショナル社様から「感染症プラチナマニュアル」という書籍を御恵贈いただきました.岡秀昭先生(東京高輪病院プライマリケア臨床研修センター長/感染症内科)の単著本です.
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以下は1週間読んだり現場で持ち歩いたりしてみての使用感です.

1.非常にコンパクト
大きさとしてはiPhone 6 plusとほぼ同じくらいです.他のポケット本もいろいろ持っていますが一番小さくて持ち運びしやすいです.いわゆるレジデントマニュアルシリーズはポケットにギリギリ入るレベルですが,この本は余裕をもって持ち運びできます.

2.使いやすさ
Sunford Guide(熱病),JAID/JSC感染症治療ガイドよりも実践的です.すべての情報は網羅していないけれど,必要最低限の情報は網羅されていて,最短で抗菌薬選択できる現場向けの作りです.

3.内容レベル
高度な内容ではありません.基本をおさえ,かつ感染症診療に不慣れな人が臨床でよく困るシチュエーションに対応できるような感じです.

4.おすすめ度
研修医やレジデント,感染症診療に不慣れな医療従事者には非常におすすめできる本ではありますが,もちろん「これだけで分かった気にはなるなよ」と釘をさしておく必要はあります.また,ICTに所属しているスタッフならば,少なくともこの本に書かれている内容は既にほぼ頭に入っている状態であることが望ましいと思います.
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by DrMagicianEARL | 2015-05-22 17:48 | 感染症 | Comments(0)
※恐縮ですが今回は宣伝です

私も執筆させていただいた「敗血症性ショックの診療戦略―エキスパートの実践」(志馬 伸朗先生編集,医薬ジャーナル社)が5月22日より刊行となります.

敗血症性ショックに対する診療において,ガイドラインを超えたより踏み込んだ各病院ごとの具体的な工夫等,いわゆる「おいしいどこどり」な紹介本です.全部で20施設での具体的診療方法が掲載されています.共通するコアの部分+施設ごとに異なる治療戦略の比較は実に興味深いです.

私の病院は20施設の中で唯一,救急集中治療医がいない病院になりますが,その状況下でどのように工夫しているかが少し分かってもらえるかもしれません.
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by DrMagicianEARL | 2015-05-21 20:27 | 敗血症 | Comments(0)
■現時点で免疫グロブリン製剤が敗血症患者の死亡率を改善させるとするエビデンスは乏しいことはよく知られていて,SSCG 2012では推奨されていません.このため私も免疫グロブリン製剤はルーチンでは使用していませんが,一部の患者においては使用することがあります.私は敗血症性ショックの患者で,ICU入室時のIgGが低値で,かつ24時間以内に改善が乏しい患者において,積極的加療継続を希望されている場合に限り免疫グロブリン製剤を使用しています.実はIgG濃度が低値の敗血症患者での免疫グロブリン製剤の有効性を検討したRCTは1つもありません(なぜこれまで誰もやってないのか不思議なのですが・・・).よって,このような患者集団においては機序的に免疫グロブリン製剤の恩恵を受けうる可能性が残されているため,オプションとして残しています.

■もっとも,集中治療領域では,生体内で足りなくなったものを補充しても予後が改善しないという結果がRCTででたものは多数あり,ひょっとすると免疫グロブリン製剤もそうかもしれません.以下に紹介する論文ははたして生体内の免疫グロブリン濃度が低いと敗血症死亡率が増加するのかについて検証したメタ解析であり,結果は「そもそもIgG濃度が低くても死亡率は低下しない」という結果でした.正常値下限や計測方法のバラツキによるlimitationはありますが,私自身も考え方の修正を検討しなければならないなと感じました.
敗血症による重症患者の内因性IgG低γ-グロブリン血症:システマティックレビューとメタ解析
Shankar-Hari M, Culshaw N, Post B, et al. Endogenous IgG hypogammaglobulinaemia in critically ill adults with sepsis: systematic review and meta-analysis. Intensive Care Med 2015 May 14. [Epub ahead of print]
PMID:25971390

Abstract
【目 的】
血漿免疫グロブリン濃度は敗血症による重症患者においては急激に変化する.しかし,敗血症診断日の免疫グロブリン濃度と死亡の関連性は明らかではない.

【方 法】
救急領域において管理された敗血症成人患者において免疫グロブリン濃度と死亡率を報告した研究のシステマティックレビューを行った.主要曝露として低IgG血症,主要評価項目として急性期死亡率についてfixedおよびrandom effectモデルのメタ解析を行った.各研究について定義された両変数を使用した.

【結 果】
敗血症診断日の低免疫グロブリンG(IgG)血症の頻度は多様であった[58.3% (IGR 38.4-65.5%)].各研究で登録されたIgG濃度の下限の定義として3点のカットオフ値(6.1, 6.5, 8.7 g/L)を用いた.敗血症診断日の正常値以下のIgG濃度は,fixedおよびrandom effectモデルのメタ解析のいずれにおいても重症敗血症および敗血症性ショックの成人患者における死亡リスク増加とは関連していなかった(fixed model OR 1.32; 95%CI 0.93-1.87, random effect OR 1.48 95%CI 0.78-2.81).

【結 論】
本システマティックレビューはIgGの正常値下限が多様な不均一な敗血症コホートで報告されており,質に限界がある研究を抽出している.しかしながら我々のデータは,敗血症診断日の正常値以下のIgG値が死亡リスクのより高い患者集団を検出しないことを示唆しており,IgG値の最適なカットオフ値や時期を定義できるか否か,本知見の是非についてはさらなる研究が必要である.これは,敗血症に対する免疫グロブリン静脈内投与を受ける患者がIgG濃度を使用して層別化することができるかどうかを決定するであろう.

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by DrMagicianEARL | 2015-05-19 12:16 | 敗血症 | Comments(0)
■レジオネラ肺炎に対してはキノロン(FQs)とマクロライド(MLs)が有効とされています.これまで直接比較した検討ではエリスロマイシン(EM)やクラリスロマイシン(CAM)ではFQsより不利という報告がいくつもでていたこともありFQsが第一選択とされています.しかしながらアジスロマイシン(AZM)での単一アームの報告では治療成績は決してFQsには劣っていませんでした.私自身,n=2ではありますが,レジオネラ肺炎をAZMで治療した経験があり,特に治療に難渋はしていません.今回,FQsとAZMを直接比較したコホート研究が初めて報告されましたので紹介します.なお,試験デザインは細かい重症度や検査値が考慮されていない大規模データベースのpropensity score matchingですので注意は必要ですが.いずれにせよこの疾患はRCTを行うことが困難です.
レジオネラ肺炎による入院患者における抗菌薬治療レジメンと院内死亡の関連性
Gershengorn HB, Keene A, Dzierba AL, et al. The association of antibiotic treatment regimen and hospital mortality in patients hospitalized with legionella pneumonia. Clin Infect Dis 2015 Jun 1;60(11):e66-79
PMID:25722195

Abstract
【背 景】
ガイドラインではレジオネラ肺炎の治療においてアジスロマイシンまたはキノロン系抗菌薬が推奨されている.これらの治療について比較した臨床研究はない.

【方 法】
我々は,Premier Perspectivesデータベース(2008年7月1日~2013年6月30日)を用いて,米国においてレジオネラ肺炎の診断で入院した成人患者の後ろ向きコホートの解析を行った.主要評価項目は院内死亡率とした.加えて,入院期間,Clostridium difficile腸炎,全入院コストも評価した.我々はアジスロマイシン対キノロンの治療を受けた患者の比較のため,傾向に基づいたマッチングを使用した.全ての解析は,ICU入室や人工呼吸器を要する,あるいは予測院内死亡が四分位で最も高いと定義されたより重症度の高い患者のサブ解析も行った.

【結 果】
437の病院で3152例の成人がレジオネラ肺炎と診断された.キノロン単独は28.8%,アジスロマイシン単独は34.0%,併用は1.8%で使用されていた.院内粗死亡率はキノロン群が6.6%(95%CI 5.0-8.2%),アジスロマイシン群が6.4%(95%CI 5.0-7.9%)で同等であった(p=0.87).傾向スコアマッチング(各群813例ずつ)でも死亡率は同等であった(全体で6.3%[95%CI 4.6-7.9%] vs 6.5%[95%CI 4.8-8.2%], p=0.84,より重症度の高いサブグループで14.9%[95%CI 10.0-19.8%] vs 18.3%[95%CI 13.0-23.6%], p=0.36).入院期間,C. difficile感染,全入院コストに差はみられなかった.

【結 論】
レジオネラ肺炎の治療においてアジスロマイシン単独かキノロン単独の使用は院内死亡率が同等であった.わずかな患者が併用療法を受けていた.

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by DrMagicianEARL | 2015-05-18 16:08 | 肺炎 | Comments(0)
■循環動態が不安定な患者に対する経腸栄養の是非はいまだに不明確なままであり,施設によってその適応は異なると思います.当院でも高用量カテコラミン投与中or増量中の場合は経腸栄養は開始しません.これはショック時の血流再分配機構(redistribution)およびアドレナリンα刺激による血管収縮により腸管虚血に陥るリスクが高いという理論によるものです.一方でショックバイタルであっても,経腸栄養によって腸循環が改善するというエキスパートオピニオンをもとに経腸栄養を積極的に施行している施設もあると思います.本問題はRCTなしの未解決問題です.

■今回,重症患者におけるカテコラミンと腸管細胞傷害の関連性についての研究がShock誌に報告されたので紹介します.経腸栄養によってこのカテコラミンによる傷害を防ぐ効果があるのか悪化させる効果があるのかはこの研究ではわかりませんが・・・
重症患者でのカテコラミンの使用は腸管細胞傷害と関連している


Piton G, Cypriani B, Regnard J, et al. Catecholamine Use is Associated With Enterocyte Damage in Critically Ill Patients. Shock 2015; 43: 437-42
PMID:25565647

Abstract
【背 景】
ショック状態の重症患者において,小腸傷害はしばしばみられるが過少評価されている.高用量カテコラミンは腸間膜の血流に有害な影響をもたらしている可能性がある.血漿腸管脂肪酸結合蛋白(I-FABP)濃度は腸管細胞傷害のマーカーであり,一方で血漿シトルリン濃度は機能的腸細胞塊のマーカーである.我々は,重症患者における高用量カテコラミンが腸管細胞傷害と関連している可能性があるという仮説をたてた.

【目 的】
本研究の目的は,カテコラミンの使用および用量と腸管細胞傷害との間の関連性を調査することである.

【方 法】
本研究は大規模な地域大学病院で行われた前向き観察研究である.内科集中治療室(ICU)に入室時にアドレナリンかつ/またはノルエアドレナリンを必要とした重症患者,およびカテコラミンを必要としなかった対照患者を登録した.我々は入室時の血漿I-FABPとシトルリン濃度,腹部灌流圧(APP),予後および治療の関連変数を評価した.患者はICU入室時のカテコラミン用量で四分位に分類された.

【結 果】
60例のカテコラミンを投与された重症患者とカテコラミンを投与されなかった27例が登録された.血漿I-FABPは対照群よりもカテコラミン投与患者群の方が高かった.カテコラミン投与患者において,ICU入室時の0.48γ/kg/min以上の用量は高いI-FABP濃度と関連していた.ICU入室時にSOFAスコア11点超過および血漿I-FABPが524pg/mLであることは独立して28日死亡に関連していた(それぞれOR 4.0; 95%CI 1.24-12.95, OR 4.90; 95%CI 1.44-16.6).

【結 論】
重症患者においてカテコラミン使用はI-FABPの上昇と関連していた.ICU入室時のアドレナリンかつ/またはノルアドレナリンの0.48γ/kg/min超過の投与を受けた重症患者は高いI-FABP濃度であった.本知見から,腸管細胞傷害は重篤なショックを反映していることが示唆され,カテコラミン自体の有害な影響である可能性がある.
■本研究を行ったPitonらは,2013年にもCritical Care Medicineに,腸管細胞傷害がショックと28日死亡に関連しているとする103例の前向き観察研究を報告している[1].同様の報告がこれまでに複数ある[2,3].では,血行動態が不安定でカテコラミンを要する患者に対する経腸栄養は安全かつ有効か?これに関しては現時点でRCTは存在しない.

■現在,米国において,人工呼吸器を要する成人敗血症性ショック患者を対象として,カテコラミン投与中に経腸栄養を行うか否かで比較した単施設のRCTが開始されており[4],64例を登録予定である(2017年に終了予定).

Pro:循環動態が不安定でも経腸栄養を行うべきである

■循環動態不安定な患者では,血液再分配機序(redisribution)により消化管の血流は低下する.ここに経腸栄養を行うことで,消化管での酸素消費量が増大し[5],腸管血流は増加するため,腸循環の改善に有用であるとする意見がある.実際に,カテコラミン投与中の患者への経腸栄養で腸管虚血が発生した割合は1%以下に過ぎない[6].もっとも,近年はpermissive underfeeding,trophic feedingが主流であり,早期はかなり少ない投与量で開始されるためリスクはより少ないかもしれない.

■観察研究では参考となる報告がいくつか散見される.Khalidら[7]は,循環作動薬を投与されている人工呼吸器患者1174例の後ろ向き検討で,早期経腸栄養群は晩期経腸栄養群よりもICU死亡率(22.5% vs 28.3%; p=0.03),院内死亡率(34.0% vs 44.0%; p<0.001)が有意に低かったと報告している.

■Manclら[8]は,循環作動薬を投与されながら経腸栄養を受けた259例のICU患者を後ろ向きに検討しており,経腸栄養の忍容性は74.9%であったと報告している.

■Raiら[9]はICUに入室した敗血症患者43例(うち33例がショック)の後ろ向き検討では,ショック有無で経腸栄養開始までの時間に有意差はみられなかった(1.3±1.7日vs1.7±1.3日, p=0.16).胃内残量については,ショックを有する群の方が有意に多かったが(39±47mL vs 113±153mL, p=0.02),栄養投与量の目標達成率に有意差はみられなかった(77±16% vs 69±23%, p=0.2).

■Flordelís Lasierraら[10]は,循環動態が不安定な心臓手術後患者37例の観察研究を行い,腸管虚血は1例も発生しなかったと報告している.

Con:循環動態が不安定な場合は経腸栄養を行うべきではない

■血液再分配機序による腸管血流低下に対する経腸栄養は血流量を増加させうるが,腸管の酸素需要量に足る血流が維持されるかについては不明確であり,同時に,重要臓器への血流量を低下させるリスクもはらむ.加えて,経腸栄養を行うことによる非閉塞性腸管虚血(NOMI)への進展には注意が必要である.また,カテコラミン投与患者における経腸栄養により腸管虚血が生じる割合は確かに1%以下と少ないものの,高用量カテコラミン投与下でのリスクや(腸管虚血に至る)高用量そのものの定義,その他の腸管に与える因子(DICなど)を考慮した明確な基準は不明である.

■前述のManclらの報告では,有害事象は乳酸値上昇が30.6%,胃内残量増加が14.5%,嘔吐が9.0%,腸管虚血再灌流が0.9%であり,最大ノルアドレナリン投与量と経腸栄養忍容性には負の相関がみられている.また,Raiらの報告も,サンプル数が非常に少ないために統計学的有意差がでなかっただけかもしれず,データそのものはそれなりの絶対差があり,ショックありの方が不利かもしれない.

■カテコラミンによる腸管血流への影響はこれまで不明確であったが,今回のPitonらの報告はひとつの警鐘となるかもしれない.閾値を定めるのはまだ困難ではあるが,循環動態が不安定でも一律にルーティンで経腸栄養を行うべきではないかもしれない.少なくとも高用量のカテコラミンを必要とする状況,あるいは高用量になりうる状況(=カテコラミンを増量している途中)では避けるべきとするASPEN/SCCMガイドライン[10]の推奨は妥当であろう.

[1] Piton G, Belon F, Cypriani B, et al. Enterocyte damage in critically ill patients is associated with shock condition and 28-day mortality. Crit Care Med 2013; 41: 2169-76
[2] Derikx JP, Poeze M, van Bijnen AA, et al. Evidence for intestinal and liver epithelial cell injury in the early phase of sepsis. Shock 2007; 28: 544-8
[3] Derikx JP, Bijker EM, Vos GD, et al. Gut mucosal cell damage in meningococcal sepsis in children: relation with clinical outcome. Crit Care Med 2010; 38: 133-7
[4] A Randomized Controlled of Enteral Nutrition in Septic Shock. ClinicalTrials.gov Identifier:NCT02025127
[5] Kazamias P, Kotzampassi K, Koufogiannis D, et al. Influence of enteral nutrition-induced splanchnic hyperemia on the septic origin of splanchnic ischemia. World J Surg 1998; 22: 6-11
[6] McClave SA, Chang WK. Feeding the hypotensive patient: does enteral feeding precipitate or protect against ischemic bowel? Nutr Clin Pract 2003; 18: 279-84
[7] Khalid I, Doshi P, DiGiovine B. Early Enteral Nutrition and Outcomes of Critically Ill Patients Treated With Vasopressors and Mechanical Ventilation. Am J Crit Care 2010; 19: 261-8
[8] Mancl EE, Muzevich KM. Tolerability and Safety of Enteral Nutrition in Critically Ill Patients Receiving Intravenous Vasopressor Therapy. Journal of Parenteral and EnteralNutrition. JPEN J Parenter Enteral Nutr 2013; 37: 641-51
[9] Rai SS, O'Connor SN, Lange K, et al. Enteral nutrition for patients in septic shock: a retrospective cohort study. Crit Care Resusc 2010; 12: 177-81
[10] Flordelís Lasierra JL, Pérez-Vela JL, Umezawa Makikado LD, et al. Early enteral nutrition in patients with hemodynamic failure following cardiac surgery. JPEN J Parenter Enteral Nutr 2015; 39: 154-62
[11] McClave SA, Martindale RG, Vanek VW, et al; A.S.P.E.N. Board of Directors; American College of Critical Care Medicine; Society of Critical Care Medicine. Guidelines for the Provision and Assessment of Nutrition Support Therapy in the Adult Critically Ill Patient: Society of Critical Care Medicine (SCCM) and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition (A.S.P.E.N.). JPEN J Parenter Enteral Nutr 2009; 33: 277-31
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by DrMagicianEARL | 2015-05-12 17:36 | 文献 | Comments(0)
■高齢者が誤嚥性肺炎で入院するとかなりの割合で経口摂取ができない状態となってしまうことは多くの先生が経験されることです.もちろん可逆的なfrailtyの患者であればST介入下での嚥下訓練等である程度経口摂取が可能となってきますが,それを超えてしまった不可逆な状態まで嚥下機能が障害された患者は経口摂取を断念せざるを得ないことが多いです.もっともこれは加齢に伴う機能低下進行の結果であり,嚥下機能障害はその氷山の一角に過ぎず,そこまで進行してしまった患者は他にも何らかの機能低下が多数合併しています.

■難しいのは,初めての誤嚥性肺炎の入院でも経口摂取不可となるほどの嚥下機能低下を伴っていることは珍しくなく,これはある意味寿命でもあるのですが,家族がなかなか受け入れがたいことです.このため,誤嚥性肺炎が疑わしい患者では,最初の病状説明で,どれくらいの患者が経口摂取不可となるかについての自施設データ(4割が経口摂取困難となる)を私はお話しています.他施設の話を聞くと,概ね3-5割といったところでした.

■今回,本邦の高齢者における誤嚥性肺炎後の経口摂取到達率のデータが報告されましたので紹介します.到達率は約6割(≒経口摂取困難となるのは4割)であり,DPCデータという特性上のバイアスはあるものの,実臨床に合致した実に生生しいデータです.

■frailtyな状態を過ぎた不可逆な機能低下の患者なら仕方がないのですが,問題は,まだ可逆性を残している患者ですら経口摂取訓練が困難な医療社会になってきている現実です.診療報酬改定により嚥下訓練を目的としたリハビリテーション病院への転院が難しくなってしまい,まだ経口摂取の望みある患者まで嚥下リハビリテーションが継続できなくなってきています.加えてSTが足りない,高齢者はさらに増加することを踏まえると,この領域自体が限界にきているととらえざるを得ません.アンチエイジングや健康日本を推進するのもいいですが,End-of-Lifeについて国はもっと対策すべきでしょう.
高齢者の誤嚥性肺炎後の経口摂取の予測因子
Momosaki R, Yasunaga H, Matsui H, et al. Predictive factors for oral intake after aspiration pneumonia in older adults. Geriatr Gerontol Int 2015 May 8 [Epub ahead of print]
PMID:25953259

Abstract
【目 的】
本研究の目的は,高齢患者の誤嚥性肺炎後の経口摂取達成の予測因子を明らかにすることである.

【方 法】
本後ろ向き観察研究は本邦DPCの入院患者データベースを用いた.我々は誤嚥性肺炎で急性期病院に入院した患者を抽出した.評価項目は,全量経口摂取達成までの期間とした.経口摂取の早期導入の予測因子の検出はCox回帰解析を使用した.

【結 果】
誤嚥性肺炎による高齢患者66611例のうち,30日以内に59%が全量経口摂取に到達した.Cox回帰解析では,女性,高いBarthel指数が全量経口摂取の早期達成と関連していた.低体重,高い肺炎重症度スコア,合併症は全量経口摂取の遅延と関連していた.

【結 論】
我々は高齢誤嚥性肺炎患者における全量経口摂取の予測因子を明らかにした.本知見は高齢誤嚥性肺炎患者の栄養療法計画の一助となるであろう.

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by DrMagicianEARL | 2015-05-11 15:50 | 肺炎 | Comments(0)

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