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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

<   2015年 10月 ( 10 )   > この月の画像一覧

■子宮頸がんを予防する目的で日本でも導入されたヒトパピローマウイルスワクチン(HPVV,通称「子宮頸がんワクチン」)は、接種後に有害事象がでたことが問題となり,積極推奨からはずれることになった経緯がある.

■ワクチンでは副反応が問題とされやすい.ワクチンはその性質上,免疫系の副反応を多少ともなうことは避けられない.また,ワクチンは健康な人間に接種されるため,病気を発症している患者に投与される薬剤とは異なり,副反応に関するハードルは高くなってしまい,過剰にたたかれる要因となっている.ワクチン接種後に発生した疾患や死亡に関して,ワクチンとの関連性を判定することは基本的には不可能であり,あくまでも前後関係に過ぎない.しかしながらこれらが因果関係ととられる誤解が生じ,結果的にワクチンの風評を生み出していることも少なくない.

■このような性質をもつワクチンは,いわゆる薬害団体や反医療主義者,科学的根拠のない医療推進者の餌食となりやすく,過剰なまでの反ワクチン主義をもたらし,ワクチン接種の妨げの一因となっている.厄介なことに,ワクチン反対論者は製薬メーカーのビジネスとからめた陰謀論を唱え,常に科学的研究法や科学的研究論文の査読を拒絶する特徴がある.これがエスカレートし,中には医師が反ワクチン団体から利権をもらうケースも存在する.

■子宮頸がんワクチンにおいてはその傾向が顕著に表れた.危惧されるのは,これらの反ワクチンの支援団体が被害者をプロパガンダとして利用するケース,さらにはそこに群がるニセ医療の集団である.結果的にこれらは,ワクチンによる真の副反応の病態解明を阻み,適切な治療救済すら受けられなくなることである.ここに嵌ればまず後戻りはできなくなる.

■ワクチン接種後に生じた有害事象をすべてワクチンが原因と短絡的に決めつければ,当然ながら真の副反応以外のノイズが大きくなってしまい,感度特異度の高い検査・診断が困難となる.そのためにも他の疾患を除外する必要があり,当然ながらそこには精神疾患や思春期特有の心因性のものが含まれてくる.これらの患者を除外していくことでより正確な副反応の解明につながり,治療法発見の契機になると思われる.しかし,これらの「心因性」「精神疾患」は,これも重要な他疾患のサインであるにもかかわらず,おおむね被害者家族には受け入れがたいようである.科学的検証はここでストップしてしまっているとも言える.

■より科学的検証を,と医師が声をあげても,被害者支援団体ががっちりガードするどころか,むしろ返ってくるのは陰謀論も含む誹謗中傷であるケースはよくあり,実際私もワクチン関連でのエビデンスを述べると,誹謗中傷が飛んできたばかりか勤務先を教えろという脅迫にも近い発言を受けたことがある.

■以下に紹介するのは,医師でありジャーナリストである村中璃子氏によるHPVVの記事である.おそらく,この視点から記事を書くことは相当な覚悟が必要であっただろうし,反ワクチン団体からの激しいバッシングが出てくることも容易に想像できる.だが,この視点で子宮頸がんワクチンの問題にメスを入れる必要は確実にある.長文3篇ではあるが,是非読んでいただきたい記事である.
あの激しいけいれんは本当に子宮頸がんワクチンの副反応なのか 日本発「薬害騒動」の真相(前篇)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5510

子宮頸がんワクチン薬害説にサイエンスはあるか 日本発「薬害騒動」の真相(中篇)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5525

子宮頸がんワクチンのせいだと苦しむ少女たちをどう救うのか 日本発「薬害騒動」の真相(後篇)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5530

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by DrMagicianEARL | 2015-10-24 14:48 | 感染対策 | Comments(0)
■高齢者の誤嚥性肺炎のリスク因子を調査した報告がでました.これまでに知られた知見に矛盾しない予想通りの結果ではありますが,これは関連性を調べたものですので解釈に注意が必要です.因果関係とは別になりますので,たとえば喀痰吸引がリスク因子となっていますが,「喀痰l吸引がリスク因子=喀痰吸引を行うと誤嚥性肺炎になる」としないようにする必要があります.どちらかというと吸引をしなければならないほど排痰が多いor痰の喀出機能が落ちている,の方が解釈としては理にかなっていると思われます.また,あくまでもビッグデータの解析ですので,細かいデータのリスク因子は抽出できない研究であり,多数の交絡因子が抜け落ちていることは考慮しておく必要があります.
高齢者における誤嚥性肺炎の危険因子
Manabe T, Teramoto S, Tamiya N, et al. Risk Factors for Aspiration Pneumonia in Older Adults. PLoS One 2015; 10: e0140060
PMID:26444916

Abstract
【背 景】
誤嚥性肺炎は高齢集団において,市中肺炎や医療関連肺炎の主要な病態であり,死亡の原因となりうる.しかし,高齢者における誤嚥性肺炎進展のリスク因子は完全には評価されていない.

【目 的】
本研究の目的は,高齢者における誤嚥性肺炎のリスク因子を決定することである.

【方 法】
我々は,日本の老人医療介護施設の全国調査データを用いた観察研究を行った.9930例(平均年齢86歳,女性76%)の研究対象は,3ヶ月以内に誤嚥性肺炎の既往がある患者とない患者の2つの群に分けられた.統計,臨床状態,日常生活動作(ADL),主要疾患のデータを,誤嚥性肺炎既往を有する群と有しない群で比較した.

【結 果】
259例(全サンプルの2.6%)が誤嚥性肺炎群となった.単変量解析では,高齢は誤嚥性肺炎のリスク因子ではなかったが,喀痰吸引(OR 17.25, 95%CI 13.16-22.62, p<0.001),毎日の酸素療法(OR 8.29, 95%CI 4.39-15.65),栄養支持療法依存(OR 8.10, 95%CI 6.27-10.48),尿路カテーテル(OR 4.08, 95%CI 2.81-5.91, p<0.001)はリスク因子であった.多変量ロジスティック回帰解析では,傾向調整(各258例ずつ)後の誤嚥性肺炎に関連したリスク因子は,喀痰吸引(OR 3.276, 95%CI 1.910-5.619),過去3ヶ月の嚥下機能低下(OR 3.584, 95%CI 1.948-6.952),脱水(OR 8.019, 95%CI 2.720-23.643),認知症(OR 1.618, 95%CI 1.031-2.539).

【結 論】
誤嚥性肺炎のリスク因子は,喀痰吸引,嚥下機能低下,脱水,認知症であった.これらの結果は,誤嚥性肺炎再発の予防における臨床マネージメントの改善に寄与しうる.

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by DrMagicianEARL | 2015-10-20 11:00 | 肺炎 | Comments(0)
■基本的に私はサプリメントの摂取を推奨していません.サプリメントの多くが効果をRCTによって検証されていないにもかかわらず,一般市民が盲目的に購入し,摂取しているのが現状です.百歩譲って害がなければ問題ないとしてもいいかもしれませんが,有害との報告が実は多数でています.しかしながらマスコミはスポンサーの関係もあるのかなぜかこの事実を報道しません.

■閉経後女性のサプリメント内服で死亡率が上昇することが知られており(Arch Intern Med 2011; 171: 1625-33),38772名の調査による多変量解析で,マルチビタミンで2.4%増加,ビタミンB6で4.1%増加,葉酸で5.9%増加,鉄で3.9%増加,マグネシウムで3.6%増加,亜鉛で3.0%増加,銅で18.0%増加という結果でした.バイアスが低いRCT47報180938名のメタ解析(JAMA 2007; 297: 842-57)でも,ビタミンCをはじめとする抗酸化サプリメントは有意に死亡リスクが増加していた(RR 1.05; 95%CI 1.02-1.08).最近では,抗酸化物質がむしろ癌の遠隔転移を促進してしまうという報告も出ています(Nature 2015, PMID:26466563).サプリメントは決して安全なものではありません.

■今回,サプリメントに関連した有害事象により救急受診した患者の調査結果が方向されたので紹介します.掲載誌は医療系では最もメジャーなthe New England Journal of Medicineであり,それだけeditorが重要視したのでしょう.人口で単純計算すると日本でも年間1万人弱がサプリメントによる副作用で救急受診していることになります.
サプリメントに関連した有害事象による救急受診
Geller AI, Shehab N, Weidle NJ, et al. Emergency Department Visits for Adverse Events Related to Dietary Supplements. N Engl J Med 2015; 373: 1531-40
PMID:26465986

Abstract
【背 景】
漢方や補完的な栄養製品といったサプリメントや微量栄養素(ビタミンやミネラル)は米国において一般的に使用されているが,有害事象の全国データは限られている.

【方 法】
サプリメントに関連する有害事象を原因とする米国内の救急部受診の状況を明らかにするため,2004から2013 年にかけて63の救急部から得た米国を代表するサーベイランスデータを利用した.

【結 果】
3667例が同定され,1年あたり23005件(95%CI 18611-27398)の救急受診がサプリメントに関連する有害事象に起因するものと推定された.これらの受診において,年間2154件(95% CI 1342-2967)の入院が生じたと推定された.このような受診の頻度は,20-34歳の若年成人(受診の28.0%,95%CI 25.1-30.8)と,監督下になかった小児(受診の21.2%,95%CI 18.4-24.0)で高かった.監督下にない状況で小児がサプリメントを摂取した場合を除くと,1種類のサプリメントに関連する有害事象による救急受診の65.9%(95% CI 63.2-68.5)は,ハーブ系製品または栄養補助製品に関連するものであり,31.8%(95% CI 29.2-34.3)は微量栄養素に関連していた.ハーブ系製品または栄養補助製品のうち,減量用(25.5%,95%CI 23.1-27.9),体力増強用(10.0%,95%CI 8.0-11.9)が関連している割合が高かった.動悸,胸痛,頻拍といったサプリメントに関連する有害事象の71.8%(95% CI 67.6-76.1)は減量用製品または体力増強用製品が原因であり,これらの心症状による受診の58.0%(95%CI 52.2-63.7)は 20-34 歳の人によるものであった.65歳以上の成人では,サプリメントに関連する有害事象による救急受診全体の37.6%(95%CI 29.1-46.2)が,窒息,錠剤による嚥下障害または咽頭異物感によるものであり,これらの症状による受診の83.1%(95% CI 73.3-92.9)には微量栄養素が関連していた.

【結 論】
米国では毎年23000件の救急受診がサプリメントに関連する有害事象に起因するものと推定される.このような受診は,若年成人では減量用製品または体力増強用製品を原因とする心血管症状,高齢成人では嚥下障害によるものが多く,嚥下障害は微量栄養素の摂取に関連していることが多い.

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by DrMagicianEARL | 2015-10-19 14:35 | 文献 | Comments(0)
■動物モデルの研究ではありますが,興味深い論文なので紹介します.気管挿管時は低酸素に陥るリスクが高まりますが,血管内用量減少によるショック状態においては低酸素に陥るまでの時間が非ショック時よりも長くかかるという結果が得られています.ある意味これはショック時の生体の防御反応システムなのかなという印象を受けました.これらの知見から,ショック患者に挿管する際に,先に血圧安定化をはかると低酸素に陥るまでの時間が短縮する可能性があるため,安定化を待たずにさっさと挿管してしまった方がいいかもしれません.
豚モデルにおける酸素化後の無呼吸酸素飽和度の低下における出血性ショック時の血管内用量減少と輸液蘇生の影響
Kurita T, Morita K, Sato S. The Influence of Hypovolemia and Fluid Resuscitation During Hemorrhagic Shock on Apneic Oxygen Desaturation After Preoxygenation in a Swine Model. Anesth Analg. 2015 Sep 24. [Epub ahead of print]
PMID:26414602

Abstract
【背 景】
重大な出血患者においては積極的な輸液蘇生と速やかな気管挿管の両方がしばしば必要となる.致命的な酸素飽和度に低下するまでの時間における出血による血管内用量減少,かつ/または輸液蘇生の影響はよく知られていない.我々は,出血性ショックの豚モデルにおける酸素飽和度低下の時間と膠質液蘇生を検討した.

【方 法】
イスフルレンによる麻酔導入後,9頭の豚(平均±標準偏差=25.3±0.6kg)で,600mLの出血,600mLのヒドロキシエチルスターチ(HES)投与,さらに600mL出血,2回目の600mLヒドロキシエチルスターチ投与の連続した4ステージによる段階的な出血と輸液蘇生モデルを用いて研究を行った.各ステージにおいて,100%酸素による人工呼吸を5分間行った後,無呼吸を誘発させ,酸素飽和度低下(酸素飽和度[SpO2]<70%)までの時間を計測した.血行動態と血液ガスの数値を記録し,脳および末梢組織の酸素化指数は近赤外線分光法で記録した.

【結 果】
各ステージにおいて,SpO2<70%になるまでの時間±標準偏差は,136±41秒(ベースライン), 147±41秒(出血時),131±38秒(蘇生時),147±38(再出血),134±36秒(再蘇生)であった.出血前後の時間の平均差はそれぞれ11.2秒(6.5-16.0,p=0.0052)と16.0(11.0-21.0,p<0.0001)であった.無呼吸による酸素飽和度低下(SpO2<70%)前後のPaO2はステージ間で差はみられなかった.組織酸素指数の所見において,血管内用量減少は酸素消費量を減少させ,輸液蘇生はこのパラメータを回復させた.

【結 論】
急性出血性ショックの患者において,血管内用量低下状態は致命的な酸素飽和度低下に至るまでの時間が延長する.臨床家は,このような患者に気管挿管を行う際は,輸液蘇生と酸素飽和度低下に要する時間の関連性を考慮すべきである.

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by DrMagicianEARL | 2015-10-19 13:18 | 文献 | Comments(0)
■経口摂取できる状態にない嘔吐症状や呼吸不全や喀痰多量,といった阻害因子がない誤嚥性肺炎において,入院時に絶食指示がでることはよくあります.誤嚥性肺炎が入院した際,「誤嚥性肺炎=絶食」がルーチンにされてしまっていることもあるのではないでしょうか?(これが連休中となると絶食期間が数日にわたって続くことになります)

■たとえ数日程度であっても絶食管理したぶん廃用で嚥下機能がさらに落ちることは実臨床で実感していますし,院内データの解析を行うとその傾向がはっきりと確認できたため,私は誤嚥性肺炎では入院時から可能な限り経口摂取を開始するようにしています.入院して数日以内に認知症が急激に進行することがあるのと同様,嚥下機能も使わなければあっという間に廃用し,機能予後が悪化するであろうというのが私の考えです.経鼻胃管を挿入しての経管栄養は栄養状態改善と消化管廃用防止という意味では利点はありますが,絶食管理下で経管栄養を行っても嚥下機能は補えません.

■今回紹介する研究は私のpracticeの追い風になる報告で,外的妥当性も確認できたという点で院内でより強く推奨できるかなと思っています.
誤嚥性肺炎の高齢者において,絶食管理は予後不良となる
Maeda K, Koga T, Akagi J, et al. Tentative nil per os leads to poor outcomes in older adults with aspiration pneumonia. Clin Nutr 2015, Oct.9 [Epub ahead of print]

Abstract
【背 景】
誤嚥性肺炎患者は,人工的な栄養療法を必要つする治療中において嚥下機能低下が生じている可能性がある.適切な誤嚥性肺炎の治療は日常生活動作の維持に寄与する.

【目 的】
本研究の目的は,誤嚥性肺炎患者の回復および嚥下機能低下における絶食管理状態の効果を評価することである.

【方 法】
本後ろ向きコホート研究は,嘔吐または呼吸不全などの理由で除外した上で,発症前に食事の経口摂取をしていた誤嚥性肺炎患者331例を登録した.対象患者は,入院時に医師の指示に従って,早期経口摂取群と絶食管理群の2つの群に割り付けた.我々は、治療の逆確率加重(IPTW)法により統計学的差がない等分散モデルとなったすべての対象患者のグループに関連する集団モデルを作成し,群間比較を行った.

【結 果】
IPTWモデルにおいて,絶食管理は,入院から1週間の毎日の栄養摂取量が不良であり(p<0.05),より有意に長い治療期間を要し(50%治療期間:絶食管理群13日間[95%CI 12.04-13.96],早期経口摂取群8日間[95%CI 7.69-8.31], log-rank検定 p<0.001),治療経過において嚥下機能がより大きく低下していた(p<0.001).

【結 論】
入院した誤嚥性肺炎における絶食管理は,患者に対して治療期間の延長や嚥下機能低下などの有害な効果をもたらした.不必要な絶食管理の回避は,誤嚥性肺炎を治療しかつ薬剤投与に加えて患者のアウトカムに寄与するもうひとつの手段となる可能性がある.

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by DrMagicianEARL | 2015-10-16 17:55 | 肺炎 | Comments(0)
■この件はこのブログで触れる予定ではなかったのですが,インターネット上のとある場所に書き込みがあり,思うところがあって記事を書きました.

■東日本大震災に伴う福島第一原発事故においてはインターネット上で様々な情報が飛び交っているのは御承知の通りで,その中にはデマが多数混じっていること,これらのデマに便乗して活動している学者がいることも事実です.その上で,とりわけ注目されている小児の甲状腺の問題はこの4年間で多数のデータ報告が出てきました.放射能の影響がどの程度あるのか,今後も見ていく必要がありますが,少なくともデータを客観的かつ公平にバイアスなく解析・考察する必要性がでてきます.

■そのような中,先日,岡山大学の津田敏秀先生の論文がEpidemiology誌にpublishされました.甲状腺癌の推移のモニタリングは今後も必要であり,データを解析しようとした津田先生の姿勢は,内容の妥当性は別にすれば評価されるべきではあると思います.疫学調査とその解析は誰かがやらねばなりません.
Tsuda T, Tokinobu A, Yamamoto E, et al. Thyroid Cancer Detection by Ultrasound Among Residents Ages 18 Years and Younger in Fukushima, Japan: 2011 to 2014. Epidemiology 2015 Oct 5 [Epub ahead of print]

■この論文を見ると,まずethicsに関する記載がありませんのでこの時点で論外で,「はたして倫理委員会をちゃんと通して論文を書いたのだろうか?」という疑問があります(Epideiology誌では記載が求められるはずですが査読でなぜひっかからなかったんでしょうね?).そこは置いといて,中身を見ると,年齢調整がなされていない,放射線量がより低い会津地方をベースにしていない,多重比較になってしまっている等いろいろな統計解析上の問題が見えます.どんな論文にもなんらかの瑕疵があるとはいえちょっとこの解析はさすがにないんじゃないでしょうか.

■external comparisonにおいては国立がんセンターのデータを震災前のデータとして比較を行っており,結果は「甲状腺癌が震災前データの30倍」というもので,この数字がネットで多数流れています.この程度ならスクリーニング検査バイアスの可能性が高いと思われます.しかしなぜか津田先生は「30倍という数字はスクリーニングバイアスや誤差では説明できない」と述べておられ,その一方でなぜそう言えるのかについて根拠を示していません.この津田先生の比較のやり方を用いれば,平成24年から行われた甲状腺結節性疾患追跡調査事業結果と比較すると,青森県・山梨県・長崎県でも甲状腺癌発症率は70倍近くになってしまいます(極端な比較ではありますが).また,昨年のthe New England Journal of Medicineで,甲状腺癌のスクリーニング検査を行うだけで30倍程度は簡単にいってしまうことが報告されています.これらから考えてもなぜあのような考察の表現になるのかおおいに疑問です.

■そもそも,この論文では甲状腺癌の潜伏期間を4年と仮定しており,この仮定を置いてしまうと論文が成り立たなくなります.本論文の最大のトリックだと思われますが,本研究の計算方法であれば,潜伏期間を短く設定すればするほど国立がんセンターの年間罹患率よりいくらでも大きな「〇〇倍」という数字が出せてしまいます.そして,潜伏期間を4年と仮定した根拠が「福島第一原発事故からと仮定した」であり,これでは福島第一原発事故以外が要因のケースもすべて4年としてしまうということになり,論法がここで崩壊します.ようするに,「Aが生じたことでBが生じたかどうか検討する」おいう因果関係に言及する研究において,「Aが原因でBが生じたという仮定の設定下での解析」を津田氏は行っていることになります.完全に循環論法というか,結論ありきの自分の主張バイアスがかかってしまっていて,これでは滅茶苦茶です.

■この論文データから結論を得ることはできません.統計解析手法の不備を無視したとしても,多いとも多くないとも言えないはずの結果です.しかし,この論文の考察や結論は甲状腺癌増加ありきのかなりバイアスがかかった表現になっています.まあここまでは,ニュース等で震災後の津田先生の発言や考えを知っていれば想定の範囲内とも言えますし,私も「ああまたか」程度に思っていましたが・・・.
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by DrMagicianEARL | 2015-10-14 16:59 | Comments(0)
■ANZICSが行っていたICU患者での輸液における生食vs混合晶質液を比較した多施設大規模二重盲検RCTであるSPLIT studyが報告されました.なぜこんなに広い患者集団を対象にしてしまったのかプロトコル見たときから疑問で,こんな軽症群を大量に含むデザインでは有意差も何もつかないだろうと予想してましたが(輸液量も少ないですし),案の定結果はドローでした.終わってみれば院内死亡率は10%を切る患者集団.晶質液の種類を変えたくらいでアウトカムが変わるとはとうてい思えません.pilot studyだからだそうですが,最近サンプル数を集めるためにこんなデザインのRCT多いですね・・・.なんかもったいないです.今後8300例を登録するPLUS studyが予定されているのでそれに期待しましょう.

■もともとクロライド(Cl)を多く含む輸液製剤は,クロライドにより糸球体細動脈を収縮させるためGFRが落ちることが知られており,これまでの複数の観察研究でクロライド負荷が死亡リスクを増加させるとの結果が出ていました.今回の結果は,クロライドをより多く含む生理食塩水とその他の晶質液を比較しても差はなかったということですが,より重症例に絞った患者で検討されないと安全とは言えないと思われます.
ICU患者の急性腎傷害における混合晶質液と生理食塩水の効果:SPLIT無作為化臨床試験
Young P, Bailey M, Beasley R, ; SPLIT Investigators and the ANZICS CTG. Effect of a Buffered Crystalloid Solution vs Saline on Acute Kidney Injury Among Patients in the Intensive Care Unit: The SPLIT Randomized Clinical Trial. JAMA 2015 Oct.7 [Epub ahead of print]
PMID:26444692

Abstract
【背 景】
生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム)は静脈内投与される輸液において最もよく使用されているが,その使用は急性腎傷害(AKI)と関連し,死亡率を増加させる可能性がある.

【目 的】
集中治療室(ICU)に入室した患者において,生理食塩水と比較した混合晶質液の腎合併症への効果を検討する.

【方 法】
本試験は2014年4月から2014年10月までニュージーランドの4つのICUで行われた二重盲検,クラスター無作為化,二重クロスオーバー試験である.3つのICUは内科外科混合ICUであり,1つのICUは胸部心臓血管外科患者が多かった.晶質液輸液療法を必要としてICUに入室した全患者を登録した.腎代替療法(RRT)を要するAKIを発症していた患者は除外とした.全2278例の患者が登録され,混合晶質液投与を受けた1162例中1152例(99.1%)と生理食塩水投与を受けた1116例中1110例の患者(99.5%)が解析された.参加したICUはマスクされた研究試液として,生理食塩水か混合晶質液に7週間の治療ブロックごとに割り付けられた.2つのICUは1つの輸液の使用を開始し,他の2つのICUでは他の輸液の使用を開始した.各ICUは研究の28週間にわたって2回輸液製剤を使用するように2つのクロスオーバーを行った.主要評価呼応目はAKI(血清クレアチニンレベルが少なくとも2倍,または血清クレアチニンレベルが0.5mg/dL以上の上昇を伴いかつ3.96mg/dL以上と定義)の患者の比率とした.副次評価項目はRRT使用発生率と院内死亡とした.

【結 果】
混合晶質液群では1067例中102例(9.6%)が登録から90日以内にAKIを発症し,生理食塩水群では1025例中94例(9.2%)であった(絶対差 0.4% [95%CI -2.1% to 2.9%]; RR 1.04 [95%CI 0.80 to 1.36]; p =0 .77).混合晶質液群では,RRTは1152例中38例(3.3%)で使用され,生理食塩水群では1110例中38例(3.4%)であった(絶対差 -0.1% [95%CI -1.6% to 1.4%]; RR 0.96 [95%CI 0.62 to 1.50]; p =0.91).全体においては,混合晶質液群では1152例中87例(7.6%),生理食塩水群では1110例中95例(8.6%)が院内で死亡した(絶対差 -1.0% [95%CI -3.3% to 1.2%]; RR 0.88 [95%CI 0.67 to 1.17]; p=0.40).

【結 論】
ICUにおいて晶質液の輸液療法を受ける患者では,生理食塩水に比して混合晶質液の塩生はAKIリスクを減少させなかった.より高いリスクを有する集団における効果の評価や死亡率といった臨床アウトカム評価のためにさらなる大規模無作為化臨床試験が必要である.

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by DrMagicianEARL | 2015-10-13 18:23 | 敗血症性AKI | Comments(0)
■2007年に東北大の出澤真理教授のグループが多能性幹細胞のMuse細胞を発見しました.2014年に小保方らが報告したSTAP細胞も一時はMuse細胞ではないかとする疑惑もありました.Muse細胞自体は発見以降そこまで目立った進展の報道はありませんでしたが,2014年にヒトMuse細胞由来のメラニン産生細胞を組み込んだ3次元培養皮膚の安定化製造に成功し,医薬品や化粧品の開発で効果や副作用の検証を動物実験を介さずに検証が可能となり,2015年1月15日よりこの皮膚モデルが販売開始となっています.

■このMuse細胞は間葉系幹細胞に類似した特徴を持ち,かつ,事前の分化誘導を必要としないこと,静脈内投与するだけで傷害臓器にホーミングで生着し分化すること,腫瘍形成性が非常に低いことが大きな特徴とされています.

■脳梗塞では,これまで骨髄から分離した間葉系幹細胞や単核球を脳梗塞後に移植した臨床試験が行われていますが,安全性を示すに留まり,その有効性は限定的でした.以下に紹介する論文は,ラットの脳梗塞モデルにMuse細胞を移植することにより,梗塞で傷害された神経細胞や運動機能の回復を示した世界初の報告です.結果を見ると,移植後2カ月半頃から急速な回復が見られており,これまでほぼリハビリテーションしか治療手段がかなった脳梗塞後遺症(近年は経頭蓋刺激のrTMSが脳梗塞領域で非常に期待されていますが)に対して非常に有効な治療法となります.臨床応用も時間の問題で,東北大は2018年からの臨床試験を検討しているようです.
※私個人的にはこの細胞の発見はノーベル賞級だと思ってます.しかし,Muse細胞発見時も特に大きな報道はなく,今回の脳梗塞モデルの改善効果の報告に関しても,ニュースではローカルの仙台放送が報道したのみのようです.かといってSTAP細胞発見のときのマスコミ騒ぎのようなことにはなってほしくはありませんが.
線維芽細胞に含まれる特異的な細胞集団Muse細胞の移植は確固とした神経分化を介して実験的脳梗塞を改善させる
Uchida H, Morita T, Niizuma K, et al. Transplantation of Unique Subpopulation of Fibroblasts, Muse Cells, Ameliorates Experimental Stroke Possibly Via Robust Neuronal Differentiation. Stem Cells 2015 Sep 21 [Epub ahead of print]
PMID:26388204

Abstract
【目 的】
線維芽細胞内の既存の多能性様幹細胞として存在しているMuse細胞は,腫瘍性を持たず,三胚葉系細胞への分化能を示し,傷害モデルに移植されることで失われた細胞を補充する.細胞死およびヒト皮膚線維芽細胞由来Muse細胞の機能をラット脳梗塞モデルで評価した.

【方 法】
多能性幹細胞表面マーカーstage-specific embryonic antigen-3(SSEA-3)を用いて採取されたMuse細胞(30000細胞)を,中大脳動脈閉塞後2日目の脳梗塞ラットに対して脳の3か所に打ち込み,細胞の生物学的効果を84日間以上評価した.

【結 果】
梗塞脳のスライスを共培養すると,Muse細胞は自発的かつ速やかに神経/神経系細胞に分化していた.Muse細胞移植脳梗塞ラットは,対照群に比して,梗塞範囲の減少なしに70および84日目の神経学的機能と運動機能の有意な改善を示した.Muse細胞は84日間宿主の脳で生存し,脳皮質内でNeuN(成熟神経:~65%),MAP-2(~32%),カルビンディン(~28%),GST-π(希突起膠細胞:~25%)陽性細胞に分化したが,グリア線維性酸性タンパク質陽性細胞は稀であった.腫瘍形成は見られなかった.感覚運動皮質に生着分化したMuse細胞は,神経線維をを脊髄まで伸ばし,後肢の体性感覚誘発電位を示した.

【結 論】
Muse細胞は,宿主の脳環境下で生着後の神経細胞への高率な分化を示し,脳梗塞症状を緩和する神経回路の再構築が可能である点において,他の幹細胞よりも特異的である.ヒト線維芽細胞由来Muse細胞は,特に脳梗塞における自家細胞療法を検討する際に,遺伝子操作の必要性を回避する,幹細胞移植の新たなソースとなる.
■出澤らは,成人の皮膚,骨髄,脂肪組織の中に,多様な細胞になる能力を持つ多能性幹細胞があることを発見し,Multilineage-differentiatingStress Enduring(Muse)cellと名付けた[1].Muse細胞は,間葉系マーカーのCD105と多能性マーカーのSSEA(stage-specific embryonic antigen)-3を用いて分離でき,間葉系幹細胞分画中に混在する.間葉系幹細胞は,同じ中胚葉系の骨,軟骨,脂肪のみならず,内胚葉系にも分化でき,肝硬変や心筋梗塞でもある程度の組織修復が見られることが分かっており,これらの現象が間葉系幹細胞中に存在するMuse細胞によって説明できる可能性があるとされている.

■Muse細胞は骨髄,皮膚,脂肪から採取でき,胚葉を超えて様々な細胞へと分化する多能性を有するが,iPS細胞に見られたような腫瘍形成性がほぼ見られない.また,回収し,そのまま静脈へ投与するだけで傷害組織にホーミング・生着し,その組織に特異的な細胞へと分化することで組織修復と機能回復をもたらす.すなわち,Muse細胞は生体に移植する前のcell processing centerにおいて事前の分化誘導を必ずしも必要としない,という点でiPS細胞とは大きく異なり,静脈内投与するだけで再生治療が可能である.

■Muse細胞は結合組織中や接着培養などの環境では間葉系幹細胞として振る舞う一方,血液中や浮遊培養などの懸濁状態においては多能性を発現するという二重性を有する.細胞懸濁液においてMuse細胞は増殖を開始し,懸濁状態でES細胞が形成する胚様体に酷似したES細胞を単独の細胞から形成できる点も他の幹細胞と異なる特徴である.

■山中らが発見したiPS細胞は,ヒトの線維芽細胞に山中因子(Oct34,Sox2,Klf4,c-Myc)を導入することにより得られる.出澤らは,ヒト線維芽細胞をMuse細胞と非Muse細胞の分画に分けて山中因子を導入したところ,Muse細胞はiPS細胞に変化したが,非Muse細胞分画からはiPS細胞は得られなかったと報告している[2]

■近年,集中治療領域において,急性炎症性の臓器傷害が生じた際に,傷害臓器細胞からのシグナルにより骨髄から幹細胞様の細胞が出てきて傷害部位に集積し,その部位の細胞へと分化することが近年分かってきており,この分化細胞はMuse細胞なのではないかとする説が出てきている.重症病態の多臓器不全,低酸素脳症,Post-Intensive Care Syndrome(PICS)において,このMuse細胞が治療の一手段となる日がくるかもしれない.

[1] Kuroda Y, Kitada M, Wakao S, et al. Unique multipotent cells in adult human mesenchymal cell populations. Proc Natl Acad Sci U S A 2010; 107: 8639-43
[2] Wakao S, Kitada M, Kuroda Y, et al. Multilineage differentiating stress-enduring (Muse) cells are a primary source of induced pluripotent stem cells in human fibroblasts. Proc Natl Acad Sci U S A 2011; 108: 9875-80
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by DrMagicianEARL | 2015-10-12 12:23 | 文献 | Comments(0)
■発熱があると解熱薬でついつい下げたくなってしまう医療従事者は多いと思いますが,その弊害も近年知られるようになってきています.多施設共同コホート研究のFACE studyでは,敗血症患者において発熱が予後に影響しないが,解熱薬使用は予後を悪化させるとする報告が出て話題となりました.

■敗血症患者では高体温よりも低体温の方が予後が悪いことも既にいくつもの観察研究で示されており,重症感染症における解熱薬使用はあまりよくないのではないか?ととらえられるようになってきています.私自身,ICUで発熱を呈した敗血症患者に対しては,発熱による患者自身の不快感がかなり強くクーリングで解決しないとき,人工呼吸器装着中でFiO2 1.0でも酸素化が得られにくいとき,CO2貯留が過剰となりすぎているとき,高熱で中枢神経症状がでるとき,といった場合を除けば解熱薬は基本的に使用しません.

■今回,感染症が疑われたICU患者に対するアセトアミノフェンの効果を見たANZICSのRCTであるHEAT trialが報告されましたので,以下に紹介するとともに簡単なレビューをつけました.結果はアウトカムに影響なし,ということでルーチンでアセトアミノフェンを使用する必要性はないという推奨になるでしょうか.もっとも,この研究はあくまでもICU入室患者が感染症に罹患した場合であって,敗血症患者ではありませんから,敗血症と解熱薬に関してはまた別に評価が必要と思われます.(このあたりはよく混同されますが,感染症が原因でICUに入室した患者と,ICU入室中に感染症を発症した患者では重症度が異なります.当然後者の方が感染症の重症度は低いことがほとんどなのですが,これを全く同等と扱ってエビデンスを述べるとおかしなことになってきます).
感染症が疑われた重症患者の発熱に対するアセトアミノフェン(HEAT trial)
Young P, Saxena M, Bellomo R, et al; for the HEAT Investigators and the Australian and New Zealand Intensive Care Society Clinical Trials Group. Acetaminophen for Fever in Critically Ill Patients with Suspected Infection. N Engl J Med 2015, October 5 [Epub ahead-of-print]

Abstract
【背 景】
アセトアミノフェンは,感染症が疑われた集中治療室(ICU)の患者の発熱に対する一般的な治療であるが,その効果は知られていない.

【方 法】
我々は,発熱(体温≧38℃)かつ感染症あるいはその疑いのあるICU患者700例を,ICU退室,解熱,抗菌薬治療中止あるいは死亡となるまで,6時間ごとにアセトアミノフェン1g静脈内投与を受ける群とプラセボ群に無作為に割り付けた.主要評価項目は,無作為化から28日までのICUに在室しない日数(生存かつ集中治療の必要性がない日数)とした.

【結 果】
28日時点でICUに在室しない日数はアセトアミノフェン群とプラセボ群とで有意差がなく,アセトアミノフェン群で23日間(四分位範囲13-25),プラセボ群で22日間(四分位範囲12-25)であった(Hodges–Lehmann推定絶対差 0日間; 96.2%CI 0-1; p=0.07).アセトアミノフェン群で345例中55例が,プラセボ群で344例中16.6%が90日までに死亡した(RR 0.96; 95%CI 0.66-1.39; p=0.84).

【結 論】
感染症疑いによる発熱の治療のためのアセトアミノフェンの早期導入はICUに在室しない日数に影響を与えなかった.
1.ICU患者の発熱

■発熱は集中治療を要する重症患者に頻繁に生じる症状の1つであり[1],集中治療患者の20-70%に発熱が生じることが知られている[2-4].発熱を契機に新たな診察,検査,治療が開始されることは稀ではない[5].また,発熱は,手術,輸血,薬剤,急性拒絶など感染症以外の要因でも生じる.

■SIRSにおける体温上昇は,脳血液関門(BBB)がない視床下部に炎症性メディエータ受容体が発現しており,誘導型シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の転写段階からの産生亢進によるプロスタグランディンE2(PGE2)の産生により発熱反応が誘導される[6]

■発熱は,患者不快感,呼吸需要および心筋酸素需要の増大[7],中枢神経障害[8,9]などを生じるため,これらの改善を期待して,外表冷却や解熱薬による解熱処置が行われる[10]

■感染症による体温上昇は,抗体産生増加,T細胞活性化,サイトカイン合成,好中球およびマクロファージの活性化等の免疫系を惹起させる自己防衛反応であり[11,12],解熱処置によりこれらの防衛反応が抑制されてしまう可能性もある.また,解熱薬には胃腸障害,肝障害,腎障害などの副作用もある[13]

■重症度など患者情報を調整した多変量解析を行った上で,発熱と患者死亡率増加との関連性を示した報告が存在する[1,14].しかし,これらの結果は全て発熱と患者死亡率との関係を調査した観察研究から得られたものであり,あくまでも前後関係であって,その因果関係を結論付けることはできない.敗血症患者においては,発熱は予後に影響せず,その一方で低体温が予後を悪化させるとする報告が複数ある[15-18]

2.ICU患者への解熱薬

■発熱と患者死亡の関係を観察した研究は多数あるが,この中に解熱処置を含めての研究はこれまでほとんどない.また,解熱治療の有効性を評価したRCTは3つ[19-21]ある.2つはクーリングの効果をみており[19,20],クーリング施行群が死亡率が低い傾向[19]もしくは有意に低い[20]であった.もう1つはアセトアミノフェン+クーリング評価をみたもので[21],死亡率は積極的解熱群16%,非解熱群2.6%と有意に積極的解熱群の死亡率が高かった.

■RCTではないが,日韓共同のFACE study(Fever and Antipyretic in Critical ill Evaluation study)という研究がある[22].本研究の目的は,①ICU患者の発熱発生頻度・解熱処置の施行頻度とそれに伴うコスト,②ICU患者の発熱が患者予後に与える影響,③ICU患者に対する解熱処置が患者予後に与える影響,を調べることである.対象患者は2009年9月1日から11月30日までに登録された25施設の48時間以上ICUに滞在する脳損傷の疑いのない成人患者1425例であり,基礎疾患が敗血症の場合,発熱自体は予後に影響しないが,解熱剤(NSAIDsおよびアセトアミノフェン)の投与は28日死亡率悪化の独立因子であった(NSAIds補正OR 2.61, p=0.028,アセトアミノフェン補正OR 2.05, p=0.01).なお,非感染症での発熱は39.5℃以上で予後が悪化する(補正OR 8.14. p=0.01).現在,この関連性を実証するためにFACE II studyが進行中である.なお,FACE studyにおいてクーリング処置は施行されていない.

■ただし,合併症しだいでは感染症の発熱に対して例外的に解熱薬を使用すべき状況があるかもしれない.重度の呼吸不全患者においては体温が1℃上昇すると体内酸素消費量が13%増加するため,呼吸不全や心筋虚血の悪化を招く恐れがあるため,とりわけFiO2がかなり高用量となっているケースでは解熱薬をオプションとして考えてもいいのではないかと思われる.また,中枢神経系においても,体温管理の重要性は周知されており,解熱薬が有効な発熱であれば使用を考慮してもよいと思われる(逆に言えば熱中症での解熱薬は使用すべきではない).

■以上と今回のHEAT trialの報告を以下にまとめる.
・感染症(敗血症)における発熱は予後を悪化させうるものではない.
・感染症患者の発熱に対する解熱薬が予後を改善するエビデンスはなく,ICU患者が感染症疑いによる発熱を呈してもルーチンで解熱薬を使用することは推奨されない.
・敗血症などの重症感染症の発熱においては解熱薬が予後を悪化させうる懸念があるため,特定の状況(中枢神経症状,呼吸不全,心筋虚血病態などの合併)を除いては原則として推奨されるものではない.


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by DrMagicianEARL | 2015-10-06 15:12 | 敗血症 | Comments(0)
■院外心停止例に対するプレホスピタルでのアドレナリン投与が救命のために行われていますが,結果的に神経学的予後不良の患者を大量に生み出している,という可能性があることは近年の複数の報告で知られています.今回,そのシステマティックレビューおよびメタ解析が報告されましたので紹介します.論文タイトルから既に悲壮感がただよっていますが・・・.

■ただ,こういったデータはあくまでもデータベース解析であり,ER搬入後の家族との詳しい話し合いの結果等は反映されません.また,あくまでも統計学的相関による関連性の評価であり,前後関係と因果関係の判別は困難とも言えます.ならばRCTで評価を,ということになりそうですが,それでも解決しないような気もします.たとえ,プレホスピタルのアドレナリンが生存率を改善させず神経学的予後を悪化させるものだとしても,ERでの自己心拍再開率を改善させるのであれば,救急医療の現場では行わざるを得ない,あるいは家族も心拍再開をその時点では強く希望する,ということは変わらないかもしれません.どのアウトカムを最も重視するのか,難しい問題です.
神経学的予後を犠牲にした自己心拍の再開:院外心停止に対する病院前エピネフリンは本当に意味があるのか?
Loomba RS, Nijhawan K, Aggarwal S, et al. Increased return of spontaneous circulation at the expense of neurologic outcomes: Is prehospital epinephrine for out-of-hospital cardiac arrest really worth it? J Crit Care. 2015 Sep 1 [Epub ahead of print]
PMID:26428074

Abstract
【背 景】
院外心停止(OHCA)の管理に関する近年のガイドラインでは初期対応において病院前エピネフリンの使用が推奨されている.この推奨は心停止の動物モデルのデータとごくわずかのヒトのデータに基づいているが,その開始以降,この状況での病院前エピネフリンに関するより多くのヒトのデータが利用できるようになった.院外での自己心拍再開(ROSC)はエピネフリンの使用によって高まった可能性があるが,その使用が神経学的予後悪化と関連している可能性がある.

【方 法】
病院到着前にエピネフリン投与を受けた患者と受けなかった患者を比較したOHCA患者の研究抽出のため,PubMed,Embase,OVIDに登録されたデータベースの検索を行って,文献のシステマティックレビューを行った.研究は,質,バイアスを評価し,登録するのに適切と考えられた研究からデータを抽出した.メタ解析は,二値的アウトカムのMantel-Haenszelモデルを用いて行った.評価項目は,病院前ROSC,1ヵ月生存,退院時生存,神経学的予後とした.

【結 果】
計14研究,655853例の患者がメタ解析に登録された.病院到着前のOHCAに対するエピネフリンn使用はROSCの有意な増加に関連しており(OR 2.86; p<0.001),退院時の神経学的予後不良リスクを有意に増加させた(OR 0.51; p=0.008).1ヵ月および退院時生存は有意差がみられなかった.

【結 論】
OHCAの病院到着前のエピネフリンの使用は退院時生存を増加させず,退院時の神経学的予後不良の患者を増加させていた.さらなる無作為化比較試験が必要である.

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by DrMagicianEARL | 2015-10-05 12:29 | 文献 | Comments(0)

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