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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

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■ARDS患者においてPEEPを高く設定して虚脱した肺胞を開通させ,かつ再虚脱を防止するオープンラング戦略はまだエビデンスが少ないものの酸素化の改善において有用であることが知られていて,実際に行って著明に改善が得られたという経験をした人も多いと思います.今回,そのオープンラング戦略のRCTがでたので紹介します.あくまでも予備試験ですので少ない症例数の検討ではありますが,アウトカムを見るにいい傾向が得られています.死亡率は絶対差4-5%の低下を示しており,統計学的に有意ではないものの,大規模RCTをやれば有意差もでるかもしれません.APRVの後押しにもなるエビデンスとも言えるでしょうか.

■ただし,肺胞虚脱を圧だけで解決しようとしないことです.高いPEEPにはそれなりのリスクも伴うことがあります.虚脱にはARDSだけが原因ではなく,医原性の要素もかなりあることを認識しておかなければなりません.特に不必要な気管吸引や高いSpO2(特に97%以上)を維持するようなFiO2設定は肺胞虚脱の原因になりますので,このあたりを回避するようスタッフ教育が必要です.ちなみに当院ではSpO2は88-92%と低めのレベルを維持するようにしています.
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)におけるオープンラングアプローチ:無作為化比較予備試験
Kacmarek RM, Villar J, Sulemanji D, et al; Open Lung Approach Network. Open Lung Approach for the Acute Respiratory Distress Syndrome: A Pilot, Randomized Controlled Trial. Crit Care Med. 2016 Jan;44(1):32-42
PMID:26672923

Abstract
【背 景】
オープンラングアプローチは肺リクルートメントと呼気終末陽圧(PEEP)の漸減による人工呼吸管理戦略である.我々は中等症および重症の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の管理において,低レベルのPEEPを用いたARDS networkのプロトコルと中等度から高レベルのPEEPによるオープンラングアプローチの比較を行った.

【方 法】
本研究は,20の学際的ICUのネットワークにおいてARDSの米国欧州コンセンサス会議による定義に合致した患者を登録した前向き多施設共同無作為化予備試験である.ARDS発症から12-36時間後に標準的な人工呼吸管理設定(FiO2≧0.5,PEEP≧10cmH2O)の下で患者を評価した.PaO2/FiO2比が200mmHg以下のままならば,その患者はオープンラングアプローチ群かARDS networkプロトコル群に無作為に割り付けられた.全患者は4-8mL/kg理想体重の1回換気量による換気を受けた.

【結 果】
ARDS患者1874例がスクリーニングされ,200例が無作為化され,99例がオープンラングアプローチ群に,101例がARDS networkプロトコル群に割り付けられた.主要評価項目は60日およびICU死亡率,人工呼吸器非装着日数とした.60日死亡率(オープンラングアプローチ群29% vs 33%ARDS Networkプロトコル群,p=0.18,log rank検定),ICU死亡率(オープンラングアプローチ群25% vs 30%ARDS Networkプロトコル群,p=0.53,Fisher's正確確率検定),人工呼吸器非装着日数(オープンラングアプローチ群8[0-20] vs 7[0-20] ARDS Networkプロトコル群,p=0.53,Wilcoxon rank検定)に有意差はみられなかった.24,48,72時間時点での気道駆動圧(プラトー圧ーPEEP)およびPaO2/FiO2はARDS Networkプロトコル群に比してオープンラングアプローチ群で有意に改善していた.圧損傷は両群間で同等であった.

【結 論】
ARDS患者において,オープンラングアプローチは死亡率,人工呼吸器非装着日数,圧損傷に対する効果減弱なしに酸素化と駆動圧を改善した.本予備試験は,ARDS遷延例におけるリクルートメント手技とPEEP漸減を用いた大規模研究が必要であることを支持する.

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by DrMagicianEARL | 2015-12-26 15:06 | 敗血症性ARDS | Comments(0)
■感冒症状のみの患者に抗菌薬処方すべきでないという推奨がこれまでなされてきているものの,実臨床ではなかなか浸透していません.急性呼吸器感染症1531019例のコホート研究(Ann Fam Med 2013; 11: 165-72)では,肺炎入院は抗菌薬投与群で18例/100000回受診,非投与群で22例/100000回受診であり,1人の入院を予防するために12255人に抗菌薬を投与する必要があるとの結果であり,ようするに肺炎でない限り抗菌薬を一律に処方するのは無駄に等しいわけです.

■さらに言えば,「抗菌薬を投与せず待つ」という選択肢がとれない医師が多数いることも事実です.このあたりは実際にそういう経験をしなければなかなかそういう選択に踏み切れないようです.当院でも私のいる呼吸器内科をローテートした研修医は,ローテート前後で抗菌薬処方の考え方が大きく変わったと言っており,とりわけ「抗菌薬を投与せず様子を見る」というやり方が安全かつ有効に行うことができるのが一番の驚きだったとの感想をもらっています.

■私自身,感冒に抗菌薬は全く使用しないというわけではありません.あくまでも「いきなり最初から処方はしない」というスタンスであり,その後に増悪してきた場合は,基礎疾患,重症度,肺炎への進展有無などを考慮して再診時に抗菌薬処方有無を決定します.といってもほとんど処方したケースはありませんが・・・.今回紹介する文献は,このような急性非複雑性呼吸器感染症に対して,いつ抗菌薬を処方するのか(or処方しないか)について4群間で比較したものです.この研究結果を見る限り,「増悪したら処方検討」というスタンスが安全かつ抗菌薬処方を減じることができるということで一番無難な結果だと思われます.
急性非複雑性呼吸器感染症における処方戦略:無作為化比較試験(DAP study)
de la Poza Abad M, Dalmau GM, Bakedano MM, et al; for the Delayed Antibiotic Prescription (DAP) Group. Prescription Strategies in Acute Uncomplicated Respiratory Infections: A Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med 2015 Dec.21 [Epub ahead-of-print]

【背 景】
抗菌薬の遅延処方は症状コントロールにおける抗菌薬使用減少に寄与する.遅延処方の異なる戦略があるが,どれが最も効果的なのかは明らかではない.

【目 的】
急性非複雑性呼吸器感染症において,2つの遅延戦略の効果と安全性を検討する.

【方 法】
我々は,実際的オープンラベル無作為化比較試験において,スペインの23のプライマリケアセンターから急性非複雑性呼吸器感染症の成人405例を登録した.患者は,(1)患者主導の遅延処方戦略(=増悪したら抗菌薬内服を指示)(2)プライマリケアセンターからの処方を受けるために患者が必要時に処方を受ける遅延処方戦略(=増悪したら再診指示),(3)直ちに抗菌薬処方,(4)抗菌薬を処方しない,の4つの処方戦略に無作為に割り付けられた.遅延処方戦略は,症状が増悪した,あるいは受診から数日たっても改善がない場合のみに抗菌薬を内服するようにした.主要評価項目は症状の期間と症状の重症度とした.各症状は6ポイントLikertスケール(スコアが3~4点は中等度,5~6点は重症)を用いてスコアリングした.副次評価項目は抗菌薬使用,患者満足度,抗菌薬効果の患者信用度とした.

【結 果】
405例の患者が登録され,398例が解析に含まれた.136例(34.2%)は男性,平均年齢(標準偏差)は45歳(17)であった.症状平均重症度はLikertスケールで1.8から3.5点まで幅があり,有症状平均期間は初回受診から6日間であった.初診時の平均全身健康状態(標準偏差)は,0を最悪,100を最良の健康状態として,54(20)であった.全体を通して,314例(80.1%)が非喫煙者であり,372例(93.5%)が呼吸器合併症を有していなかった.初診時の愁訴は4群間で同等であった.重症症状を有した平均期間(標準偏差)は,直ちに処方する群で3.6(3.3)日間,処方しない群で4.7(3.6)日間であった.重症症状期間の中央値(四分位範囲)は増悪したら再診する群で3(1-4)日間,増悪したら抗菌薬内服を指示する群で3(2-6)日間であった.あらゆる症状の最も高い重症度の中央値(四分位範囲)は直ちに処方する群と増悪したら再診指示する群で5(3-5)日間,増悪したら内服指示する群で5(4-5)日間,処方しない群で5(4-6)日間であった.抗菌薬を処方しない戦略または各遅延戦略に割り付けられた患者は抗菌薬使用量が少なく,抗菌薬の効果をあまり信頼していなかった.患者満足度は各群で同等であった.

【結 論】
抗菌薬の遅延処方戦略は直ちに処方する戦略と比較して,症状の重症度や有症状期間はわずかに大きいが臨床的には同等であり,抗菌薬使用量も実質的に減少していた.

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by DrMagicianEARL | 2015-12-24 18:50 | 抗菌薬 | Comments(0)
■一昨日(2015年12月12日)の朝方あたりからSNSの方でSTAP細胞の名前があちらこちらで出現し,何事かと思って見に行ったら,「米国での研究でSTAP現象が再現され,小保方氏の主張が正しかった」という旨のブログが拡散されていました.そのせいか多数の人が信じ込んでしまったようですが,結論から言うと,STAP細胞はありません.もうあちらこちらで既に指摘されてるとは思いますが,ここでも記載しておきます.

■まず,該当論文は11月27日に発表された以下のものです.Nature誌に掲載されたという誤情報が流れてますが,NatureではなくScientific Reports誌です.再現性の課題はこれからですが,論文内容自体は興味深いものですので,全文フリーなので是非御一読を.
傷害誘導性骨格筋由来幹細胞様細胞集団の特性
Vojnits K, Pan H, Mu X, et al. Characterization of an Injury Induced Population of Muscle-Derived Stem Cell-Like Cells. Sci Rep. 2015 Nov 27;5:17355
PMID: 26611864
http://www.nature.com/articles/srep17355
■簡単に内容を述べると,「マウスの骨格筋傷害モデル(ひっかいた)を作成したところ,その骨格筋から新しい幹細胞の集団を発見し,この幹細胞(筋細胞由来幹細胞iMuSCs)は部分的に初期化され,多分化能を示した.」というものです.これまで炎症による臓器傷害では傷害部位からのシグナルにより骨髄等から間葉系幹細胞様の細胞が誘導され組織修復されているのではないかという仮説が検討されており(これがMuse細胞ではないかという説もある),このiMuSCsは筋由来なんだろうか?という疑問もあります.傷害された細胞が幹細胞化したわけでもないということでちょっとまだ不明瞭な研究です.これから再現性の実験がなされていくのでしょう(骨格筋をどうやって傷つけたのかが争点になりそうな予感も).もっとも掲載誌がScientific Reportsという点があれなんですが・・・(御存知の方も多いと思いますが,査読が緩く,かつお金を払ってオープンアクセスで掲載する雑誌です).

■今回の騒動は,このiMuSCsの研究内容を見た「小保方晴子さんへの不正な報道を追及する有志の会」のブログがこの研究をバイアスをかけて紹介したのがきっかけです.そしてこの紹介をアフィリエイト系のブログが「STAP細胞は存在した」という内容を流布したことでSNS上で「小保方氏の発見は真実だった」と拡散されていったわけです.小保方らの研究で用いたプロトコルで再現したわけでもないのにSTAP細胞が存在しただの小保方氏が正しかっただのと結びつけるのは無理があります.

■まず,論文を見れば一目瞭然ですが,iMuSCsはSTAP細胞とは全く別物です.刺激による万能細胞化は,確かにSTAP現象が指し示すものではありますが,STAPよりも以前から知られているもので,植物ではよく観察され,一部の動物でも生じています.これが哺乳類でも起こるのだろうかという検討はずっとなされてきたことです.その上で,ガラスの細管と弱酸性溶液を使うという処理によってできるのがSTAP細胞ということになります.小保方氏をはじめとするSTAP研究グループが行ったのは仮説に基づいた捏造だったことで既に決着がついています.iMuSCsは全く異なる手法,異なる細胞から作られたものです.これを「STAP細胞は存在した」とするのは的外れですし,iMuSCsの研究者にも失礼です.最初に刺激による体細胞の万能化を示した研究グループの功績になるのであって,不正捏造によって作られ再現性も得られなかったSTAP細胞が認められるものではありません.よって,このiMuSCsの論文は,以前から検討されていた「哺乳類の細胞において刺激により多分化能を獲得しうる」という仮説が示されたということであり(ただし繰り返しますが再現性の検証はこれからです),STAP細胞が存在することを示したものではありません.

■なお,iMuSCsの論文の中では小保方氏の過去の論文の引用がありますが,その引用された論文はNature誌に掲載されたあのSTAP論文ではなく,2011年にTissue Eng Part A誌に掲載された論文であり,この小保方氏の論文を含めた7つの研究論文(ようするに小保方氏以外のグループも研究していたわけです)を考察で提示した上で「しかし,どの研究も多能性幹細胞が分化した身体組織から発生する可能性を証明していない」と記述しています.なのでこの研究者もSTAP細胞は認めていません.

■今後も体細胞に刺激を加えて初期化・多能性幹細胞を作成した研究が発表されるたびに「STAPは存在した」なんて言うのはやめましょう.科学研究への冒涜ですし日本の恥を発信してるようなもんです.
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by DrMagicianEARL | 2015-12-14 16:29 | Comments(0)
■ガイドライン作成や原稿執筆(+忘年会ラッシュ)に圧迫されてなかなかブログが更新できない状態が続いており,紹介したいけどできない論文が多数・・・なんとかできる範囲でアップしていきます.

■今回紹介するのはICU患者の気管切開のタイミングを検討したRCTのメタ解析です.Authorの最後には泣く子も黙るProf.Vincentの名前が.おそらく気管切開は早い方がいいだろうという流れの中,意外にそうではないという報告も散見され,議論されている内容です.今回の12報メタ解析では,早期に気管切開を行う方が良好なアウトカムが得られるという結果.ただし,気管切開率が有意に高まるという結果も同時に得られており,早期に気管切開を行うべき患者を抽出するためのリスク因子の検討が今後の課題になりそうです.
ICU患者の気管切開のタイミング:無作為化比較試験のシステマティックレビュー
Hosokawa K, Nishimura M, Egi M, et al. Timing of tracheotomy in ICU patients: a systematic review of randomized controlled trials. Crit Care. 2015 Dec 4;19:424
PMID:26635016

Abstract
【背 景】
重症患者の気管切開の適切なタイミングは議論されるトピックとなっている.我々は早期と晩期の気管切開の潜在的有益性を明らかにするためにシステマティックレビューを行った.

【方 法】
我々は早期および晩期気管切開で管理された患者のアウトカムを比較した無作為化比較試験をPubMedとCENTRALで検索を行った.平均差(WMD)またはオッズ比(OR)の推定のため,気管切開のタイミングを3つの期間で定義した分類(4日以内vs10日以降,4日以内vs5日,10日以内vs10日以降)によるデータとして結合したランダム効果モデルのメタ解析を行った.

【結 果】
検索によって142の研究が抽出され,計2689例の患者を含む12報が登録基準を満たした.気管切開率は早期の方が晩期より有意に高かった(87% vs 53%, OR 16.1 (5.7 to 45.7); p<0.01).早期気管切開はより長い人工呼吸器free days(装着していない日数)(WMD 2.12 (0.94 to 3.03), p<0.01),より短いICU滞在日数(WMD -5.14 (-9.99 to -0.28), p=0.04),より短い鎮静期間(WMD -5.07 (-10.03 to -0.10), p<0.05)に関連しており,長期死亡率を晩期気管切開よりも減少させた.

【結 論】
本メタ解析のアップデートは,晩期気管切開に比して早期気管切開が,より高い気管切開施行率と,より長い人工呼吸器free days,より短いICU在室期間,より少ない鎮静,長期死亡率の減少を含む良好なアウトカムを示した.

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by DrMagicianEARL | 2015-12-09 16:29 | 文献 | Comments(0)

by DrMagicianEARL