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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

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■免疫グロブリン製剤(IVIG)は壊死性軟部組織感染症の原因となりやすい連鎖球菌や黄色ブドウ球菌の毒性の中和作用があることが知られていますが,壊死性軟部組織感染症に対するIVIGを検討したRCTは1報のみで,それも患者登録がなかなか進まずわずか21例で中止となっています.

■今回紹介する論文は,もう少し症例数を増やして検討しようということで行われた研究(INSTINCT trial)です.主要評価項目は,リハビリテーションなどでよく評価される長期機能の指標となるSF36-PFスコアリングシステム(SF36は健康関連QOL評価ツールであり,SF36-PFは運動関連のADLに相当)を用いています.これは,IVIGによる菌毒性や炎症の中和作用が身体機能を改善するのではないかという執筆者らの仮説からくるものです.

■目のつけどころは興味深く,近年トピックスとなっているPICSにも関連する研究ですが,結果はネガティブでした.もっともPICSを評価する上で重要な他の介入(リハビリテーション等)が具体的にどのようになされていたのかは不明ですが,少なくともIVIGがPICSに大きなインパクトを与えるような効果はこの研究では見られません.

■副次評価項目では死亡率を評価しています.有意差はないものの28日死亡率,90日死亡率,180日死亡率と日数が伸びるにつれてIVIG群の方が死亡率が低く,180日時点では6%の差がついてはいます.サンプル数不足とも言えるかもしれませんが,Kaplan-Miere曲線を見ると途中で交差しておりますので,臨床的に有意な差とは言い難いと思います.
壊死性軟部組織感染症患者における免疫グロブリンG(INSTINCT):二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験
Madsen MB, Hjortrup PB, Hansen MB, et al. Immunoglobulin G for patients with necrotising soft tissue infection (INSTINCT): a randomised, blinded, placebo-controlled trial. Intensive Care Med 2017 Apr 18[Epub ahead of print]
PMID: 28421246

Abstract
【目 的】
本INSTINCT試験の目的は,壊死性軟部組織感染症(NSTI)のICU患者における自己報告の身体機能において,プラセボと比較した多特異性免疫グロブリンG注射製剤(IVIG)の効果を評価することである.

【方 法】
我々は,NSTI患者100例を,ICU入室から最初の3日間にIVIG(Privigen, CSL Behring) 25gまたは同用量の0.9%生理食塩水を1日1回静注する群に無作為化した.主要評価項目は無作為化から6ヶ月後の36項目のの健康サーベイ(SF-36)の身体的サマリースコア(PCS)とし,死亡した患者は最も低いスコア(0点)とした.

【結 果】
無作為化された100例の患者のうち,87例がPCSスコアのITT解析に登録され,IVIG群が42例(84%),プラセボ群が45例(90%)であった.2つの介入群は,無作為化前のIVIG使用(1回投与は許容)を除いた背景因子や急性腎傷害の率は同等であった.PCSスコアの中央値は,IVIG群で36点(四分位範囲 0-43),プラセボ群で31点(0-47)であった(平均調整差 1点(95%CI -7 to 10), p=0.81).
※本文より,平均値は29点vs28点
本結果は背景因子で調整した解析,per-protocol集団,サブグループ解析(NSTIの部位),無作為化前のIVIG使用で調整したpost-hoc解析でも維持されていた.

【結 論】
NSTIのICU患者では,6ヶ月時点での自己報告での身体機能においてアジュバントIVIGの効果は見られなかった.

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by DrMagicianEARL | 2017-04-21 16:51 | 敗血症 | Comments(0)
更新履歴
2017年4月17日「宮城ICUセミナー(4月20日仙台)」掲載
2017年4月17日「第2回東京感染症サミット(5月21日東京)」掲載


研究会,講演会,学会日程
※学会総会に加え,主に敗血症,救急集中治療,感染症の研究会,講演会を適宜掲載していきます(本記事を更新していきます).あくまでも私の知る範囲でのものだけです.これまで研究会については関西圏ばかりでしたが,2016年4月以降私が関西を離れますので,開催地制限ははずします.私自身は東北に移るためそちらの案内が増えるかもしれません.

※ここに掲載されていない研究会・講演会で掲載希望等あればコメント欄に記入するか,以下までメールで御連絡下さい.開催場所に制限はありませんが,内容は本ブログの内容の関係上,敗血症,感染症,救急/集中治療に関連するものに限ります.日時,演題名,会の主な対象や主旨等を記載して下さい.
⇒メールはこちらcum_earl@yahoo.co.jp
宮城ICUセミナー
【日時】2017年4月20日(木)18:30~20:10
【会場】TKPガーデンシティ仙台 アエルビル30階
宮城県仙台市青葉区中央1-3-1アエル
【参加費】無料
講演会終了後に情報交換会あり

18:30~
製品紹介:プレセデックス
ファイザー株式会社

18:40-19:25
座長:久志本 成樹先生(東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座救急医学分野教授)
プログラム1:「PICSの提唱と鎮痛鎮静・早期リハビリテーション~ただ救命するのではなく,より質の高い救命を~」
DrMagicianEARL(EARLの医学ノート管理人)

19:25-19:40
座長:須東 光江先生(東北大学病院看護部西3階病棟ICU1看護師長)
プログラム2:「J-PADガイドラインの実践~鎮痛・鎮静管理を意味あるものにするために~」
鈴木 昭子先生(大崎市民病院特定集中治療病棟副看護師長)

19:40-20:10
座長:安藤 幸吉先生(仙台市立病院救命救急センター副センター長集中治療科長麻酔科部長)
プログラム3:「Start sedation management with WHY.~睡眠と情動のシステムを考慮した鎮静管理~」
吾妻 俊弘先生(東北大学大学院医学系研究科 麻酔科学・周術期医学分野助教)

主催:ファイザー株式会社
 PICSに関連した講演が最近増えており,この新しいトピックもようやくメジャーになってきたなという印象です.今回,最初に基調講演のような感じでPICSの総論と,比較的エビデンスを有する鎮痛鎮静・早期リハについて講演させていただきます.かなり広い会場が用意されておりますので是非ご参加ください.
第2回東京感染症サミット
【日時】2017年5月21日(日)14:00~17:00
【会場】フクラシア東京ステーション 5H会議室
東京都千代田区大手町2-6-1朝日生命大手町ビル5F
(JR東京駅日本橋口徒歩1分,JR東京駅および地下鉄大手町駅から地下直結)
【会費】無料
【事前申し込み制】下記URLからご登録ください。
http://www.bdj.co.jp/seminar/2017/0521form.html
会終了後に親睦会あり

14:00~14:10
BDからのお知らせ

14:15~15:10
第1部
司会:大曲 貴夫先生(国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター)
    井上 茂亮先生(東海大学医学部外科学系救命救急医学)
特別講演:「敗血症マネージメント2017」
林 淑朗先生(医療法人鉄蕉会 亀田総合病院 集中治療科)

休憩(15:10~15:25)
第2部 重症感染症HOT TOPICS
司会:大曲 貴夫先生(国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター)
    井上 茂亮先生(東海大学医学部外科学系救命救急医学)

演題1:「腸内細菌叢と重症感染症」
清水 健太郎先生(大阪大学医学部附属病院 高度救命救急センター)

演題2:「真菌と重症感染症」
宮本 恭兵先生(和歌山県立医科大学救急集中治療医学講座)

演題3:「PICSと重症感染症 ~より質の高い救命を~」
DrMagicianEARL(EARLの医学ノート管理人)

主催:日本ベクトン・ディッキンソン株式会社
 昨年,第1回東京感染症サミットが東京で開催され,関東のみならず全国から多数の先生方の参加がありました.今回その2回目で,内容盛りだくさんです.特別講演は亀田総合病院の林先生,さらに後半のHOT TOPICSでは私から推させていただいた,ICU患者の腸内細菌叢で御高名な阪大特救の清水先生,救急集中治療領域の感染症で多数の情報発信をされている宮本先生が御講演されます.私もPICSの講演をさせていただくことになりました.普段,PICSの講演では総論に加え各論で鎮痛鎮静と早期リハをお話ししていますが,今回は各論の内容を大幅に変え,抗菌薬とPICSの関連性についてお話しします.
第20回日本臨床救急医学会総会・学術集会
テーマ:「明日を支える救急医療」
【日時】2017年5月26日(金)~28日(日)
【会場】5/26:東京ファッションタウンビル(TFTビル),5/27~28:東京ビッグサイト

http://jsem.me/scientificmeeting/meeting.html
真菌症フォーラム第23回学術集会
テーマ:「深在性真菌症和製エビデンス」
【日時】2017年5月27日(土)
【会場】京王プラザホテル新宿

ホームページ:http://www.med-gakkai.org/mycoses/aisatu/
第39回日本呼吸療法医学会
テーマ:「呼吸療法、温故知新」
【日時】2017年7月15日(土)~16日(日)
【会場】東京ファッションタウンビル(東京都江東区有明3丁目)

http://procomu.jp/jsrcm2017/
MRSAフォーラム2017
テーマ:「世界に誇れるMRSA対策」
【日時】2017年7月15日(土)
【会場】京王プラザホテル新宿

http://www.med-gakkai.org/mrsa2017/
第45回日本救急医学会総会・学術集会
テーマ:「Love EM(Emergency Medicine):救急への想い」
【日時】2017年10月24日(火)~26日(木)
【会場】リーガロイヤルホテル大阪,大阪国際会議場(グランキューブ大阪)

ホームページ:http://www2.convention.co.jp/45jaam
※アクセスすると突然音声が流れますので音量に注意してください
第87回日本感染症学会西日本地方会学術集会/第60回日本感染症学会中日本地方会学術集会/第65回日本化学療法学会西日本支部総会合同学会
テーマ:「進化する感染症学と化学療法~魅力ある領域への展開~」
【日時】2017年10月26日(木)~28日(土)
【場所】長崎ブリックホール

ホームページ:http://www.c-linkage.co.jp/wm-jciid2017/
第66回日本感染症学会東日本地方会学術集会/第64回日本化学療法学会東日本支部総会合同学会
テーマ:「感染症病態の探究と創意ある治療をめざして―基礎と臨床との連携―」
【日時】2017年10月31日(火)~11月2日(木)
【会場】京王プラザホテル新宿

ホームページ:http://www.pcoworks.jp/godo2017/

第45回日本集中治療医学会学術集会
テーマ:「一歩先へ;One Step Forward」
【日時】2018年2月21日(水)~23日(金)
【会場】幕張メッセ,ホテルニューオータニ幕張

ホームページ:http://jsicm2018.jp/
第33回日本環境感染学会総会・学術集会
テーマ:「感染制御におけるBest Practiceの追求」
【日時】2018年2月23日(金)~24日(土)
【会場】グランドプリンスホテル新高輪,国際館パミール

http://www.congre.co.jp/33jsipc/index.html

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by DrMagicianEARL | 2017-04-17 15:36 | 研究会・講演会・学会 | Comments(8)
■敗血症においては,質の高いエビデンスではありませんが,初期抗菌薬投与はできるだけ早く,診断から1時間以内に行うこととされ,これが日本版敗血症診療ガイドラインでもSSCGでも推奨されています.実際に抗菌薬投与が遅れるほど死亡率が増加したという観察研究もいくつもあります.しかし,2回目の抗菌薬投与が遅れたらどうなるかということを検討した研究は私の知る限りありません.今回,2回目の抗菌薬投与タイミングの遅延について検討した珍しい研究が報告されましたので御紹介します.

■結果は,その抗菌薬の推奨投与間隔が短いほど2回目の抗菌薬投与の遅延発生率が高く,2回目の抗菌薬投与の遅延は院内死亡,人工呼吸器装着に関連している,というもので,思った以上に影響があるという印象です.ただし,データを見ていただいても分かる通り,遅延時間の中央値が異常に長いです.まるまる1回ぶん投与し忘れてるかのうような遅れ方で,さすがにこの研究を行った病院のシステムに致命的な問題があるのではないかと疑うレベルです.ここまで遅れたらインシデントレポートものじゃないでしょうか?そりゃここまで遅れたら予後にまで影響しますよね・・・
敗血症で救急部門から入院した患者の2回目の抗菌薬投与の遅延:頻度,リスク因子,アウトカム
Leisman D, Huang V, Zhou Q, et al. Delayed Second Dose Antibiotics for Patients Admitted From the Emergency Department With Sepsis: Prevalence, Risk Factors, and Outcomes. Crit Care Med 2017 Mar 21 [Epub ahead of print]
PMID: 28328652

Abstract
【目 的】
1) 敗血症で入院した患者の2回目の抗菌薬投与の遅延の頻度と大きさを検討する;2) 遅延のリスク因子を検出する;3) 探索的検討:遅延と患者アウトカム(2回目投与後の死亡,人工呼吸器装着)の関連性を検討する.

【方 法】
本研究は三次の大学病院の単施設で行った10ヶ月間の連続的敗血症コホートの後ろ向き研究である.敗血症または敗血症性ショック(定義:感染症,SIRS基準2項目以上,低灌流/臓器障害)で救急部門から入院した全患者を前向きに抽出した.18歳未満,救急部門で初期抗菌薬投与を受けていない,2回目の投与前の死亡,患者の抗菌薬拒否は除外とした.我々は初回から2回目までの抗菌薬投与の時間と遅延の頻度を検討した.初回から2回目投与までの時間が推奨されている間隔より25%以上長ければ遅延とした.注目した因子は,患者背景,推奨投与間隔,併存疾患,臨床症状,2回目投与時の場所,初期蘇生治療,抗菌活性機序とした.

【結 果】
敗血症828例のうち,272例(33%)で投与間隔の25%以上の遅延発生があった.遅延発生率は推奨投与間隔が短くなるにつれて依存的に増加していた:24時間間隔で11例(4%)が遅延(中央値18.52時間),12時間間隔で31例(26%)が遅延(中央値10.58時間),8時間間隔で117例(47%)が遅延(中央値9.60時間),6時間間隔で113例(72%)が遅延(中央値9.55時間).多変量回帰では,投与間隔は主要な遅延を有意に予測していた(12時間:OR 6.98, 95%CI 2.33-20.89; 8時間:OR 23.70, 95%CI 8.14-69.11; 6時間 OR 71.95, 95%CI 25.13-206.0).さらなる独立危険因子は,救急部門での入院(OR 2.67, 95%CI 1.74-4.09),最初の3時間の敗血症バンドル遵守(OR 1.57, 95%CI 1.07-2.30),高齢(OR 1.16/10歳, 95%CI 1.01-1.34)であった.探索的多変量解析では,主要な遅延は院内死亡(OR 1.61, 95%CI 1.01-2.57)や人工呼吸器装着(OR 2.44, 95%CI 1.27-4.69)であった.

【結 論】
2回目の抗菌薬投与遅延は,特により半減期の短い薬物治療を受けた救急部門の患者でよく見られた.これらは遵守されるべき初期治療を受けた患者において逆により多い頻度であった.主要な2回目の抗菌薬投与遅延と死亡率増加,入院期間延長,人工呼吸器装着率増加との間に関連が見られた.

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by DrMagicianEARL | 2017-04-12 14:48 | Comments(0)
CQ8.敗血症性ショックに対するステロイド療法
CQ8-1:初期輸液と循環作動薬に反応しない成人の敗血症性ショック患者に低用量ステロイド(ハイドロコルチゾン;HC)を投与するか?

A.敗血症性ショック患者が初期輸液と循環作動薬によりショックから回復した場合は,ステロイドを投与するべきでない.初期輸液と循環作動薬に反応しない成人の敗血症性ショック患者に対して,ショックの離脱を目的として低用量ステロイド(HC)を投与することを弱く推奨する(2B)
 敗血症におけるステロイドはいまだに議論のさなかにあり,エビデンスも二転三転しているが,特定の集団には有効に作用するであろうというのが近年の流れである.加えて血糖変動が敗血症の予後に想像以上に関連しているのではないかということも分かってきており,ステロイドの益と害のバランスを見極める必要がある.ただし,少なくともショックに陥っていない段階での敗血症へのステロイド投与はショックへの進展率や死亡率を改善させず,高血糖を有意に増加させ,二次感染,ICUAWも増加傾向であったとするHYPRESS trialが2016年に報告されている(JAMA 2016;316:1775-85)ことも考慮すると,ショックでない限りはステロイドの投与は行うべきではないだろう.

 ステロイドは抗炎症作用を有するが,あくまでもグルココルチコイド受容体を発現させる細胞にのみ作用が限定されるにもかかわらず敗血症が進行すると受容体は減少し,細胞選択性もなく,悪影響の懸念がある.さらには血糖値が上昇し,高血糖による害や外因性インスリン投与による害の懸念もある.その一方で,敗血症においては副腎機能低下が進行し,ショック形成に関与していることを留意する必要があり,ステロイドカバーの役割を担う可能性は残されており,これは本ガイドラインでも言及されている.

 ただし,真に副腎機能低下を有するのかの判断は極めて難しい.血中のコルチゾルを測定する方法も考えられるが,血中コルチゾルの9割は蛋白結合型の不活性型であり,活性を有するフリーコルチゾルは1割である.ところが,敗血症ではフリーコルチゾルの割合が50%程度にまで増加する.その一方で,アルブミン低下が著明となると,フリーコルチゾルが正常または増加しているにもかかわらず,総コルチゾルは低く測定されることになる.以上からコルチゾル値を計測しても副腎機能低下の判断は困難である.1つの方法として高度炎症状態では上昇するはずの血糖値がむしろ低い場合に副腎機能不全を疑うことはできるが,菌血症や糖尿病治療薬によって生じている可能性もあるため,確実な判定とはならない.
※ただし,低血糖を合併した敗血症は予後が非常に悪いことから,私は低血糖を見た時点でステロイド投与を行っている.

 本ガイドラインで行われたメタ解析では,28日死亡の有意な改善はみられていないが,効果推定値は1000 人あたり17人が死亡減少(95%CI 82人の減少~56 人の増加)という結果であり,加えてショック離脱率は有意に改善していた(137人が改善(81~198 人の改善)).一方,害のアウトカムは3つが設定されており,どれも重要度は5になっているため重みづけはできない.感染症発生リスクは1000 人あたり 23人の増加(31人の減少~93 人の増加),消化管出血発生リスクは21 人の増加(9人の減少~68人の増加),高血糖発生率は103人の増加であった(62~172 人の増加).これらを見るに,少なくとも感染症発生リスクと消化管出血発生リスクは死亡減少リスクの効果推定値とそこまで変わらない.高血糖発生もショック離脱よりも少ない数である.これらを総合的に見れば,益が害をおそらく上回るという判定は妥当と推察される.

 ただし,各研究ごとにデザインや患者層の違いがある.敗血症性ショックに対する低用量ステロイド療法は有効とする報告と無効とする報告の両方が複数報告されている.2004年のメタ解析(BMJ 2004; 329: 480-84)では,ステロイドによって28日死亡率,ICU死亡率,入院死亡率が有意に減少し,消化管出血,高血糖,続発性感染などの合併症の増加を認めず,ステロイド使用によりショックの離脱率が高く,昇圧薬の使用期間が短くなることが報告され,これを根拠としてSSCG 2004では低用量ステロイド長期間投与が推奨された経緯がある.

 一方で,2008年に報告された二重盲検多施設共同RCTであるCORTICUS study(N Engl J Med 2008; 358: 111-24)は症例数が500例と大規模であり,28日死亡率はステロイド投与によって変わらないことが示された.また,ステロイド群では続発性感染,高血糖,高Na血症が有意に高いことが示された.post hoc解析では,12時間以内に薬剤投与された場合でもステロイドの有無で死亡率が変わらないことが示された.この報告を受けて,SSCG 2008では少量ステロイド療法の推奨度がやや後退することとなる.しかしながら,CORTICUS studyには,ベースの患者の重症度が低い,ステロイド投与開始までの時間が長い(=すでに敗血症が軽快している可能性),有意差を出すためにサンプルサイズを800人に設定していたが,期間内に症例を集めることができず500人で終了している,などの問題点が挙げられている.

 そして,2004年のメタ解析が2009年にup-dateされ,少量ステロイド長期投与による死亡率の改善効果がみられ(Clin Microbiol Infect 2009; 12: 308-18),さらに低用量ステロイドは死亡率が高いと予測される患者(重症患者)では有効となり,死亡率が低いと予測される患者(軽症患者)では害となりうることを報告している.これらから,患者の重症度に応じてステロイドを使い分ける必要がある可能性が示唆され,比較的軽症の敗血症性ショックで使用すると害が益を上回る可能性があることを考慮すべきである.

 本ガイドライン推奨はSSCG 2012でもほぼ同様の内容となっている.なお,敗血症におけるステロイドは現在ANZICSが3800例の大規模RCTであるADRENAL studyを行っており,この結果で一定の決着がつくものと思われる.
CQ8-2.ステロイドの投与時期は早期投与か晩期投与か?

A.成人の敗血症性ショック患者に対してステロイドを投与する場合,ショック発生6時間以内に投与開始することを推奨する(EC/エビデンスなし)
 ステロイドの早期投与と晩期投与を比較したRCTは存在しない.本ガイドラインでは根拠として①ショック発症後8 時間以内にステロイドを投与したフランスの RCT(JAMA 2002; 288: 862-71)ではショック離脱率や死亡率が改善しているが,ショック発症72時間以内に投与したCORTICUS Study(N Engl J Med 2008; 358: 111-24)では改善していない,②2つの観察研究(いずれも170例程度)がステロイドの早期投与の方が死亡率が低いと報告している,を挙げている.

 ①についてであるが,フランスのAnanneらのRCTはCORTICUS studyよりも重症度が高く,ベースの死亡リスクも高いことから,投与開始時間の違い以外に,Annaneらの方がベースの重症度が高かったからステロイド投与群の死亡リスクが改善した可能性がある.
※ガイドラインの解説文がやや紛らわしくなっているが,Annaneらのステロイド投与群の方がCORTICUSのステロイド投与群よりも死亡率が低いという意味ではないと思われる.

 次に②であるが,このガイドラインで挙げられた2つの170例程度の観察研究以外にCasserlyら(Intensive Care Med 2012; 38: 1946-54)の報告があるが,この報告はSurviving Sepsis Campaignデータベースを用いた17847例(敗血症性ショック)の大規模解析である.本解析結果では,ステロイド投与による死亡のオッズ比は,全体で1.18,8時間以内の投与開始で1.23,8-24時間で1.05(N.S.),24時間以降で1.36であり,投与開始時間が8-24時間の場合を除けば有意に死亡リスクが増加している.

 これらを見るに,ステロイド投与を6時間以内に投与することを推奨する,というエキスパートコンセンサスにはやや疑問を感じる部分はある.やはりどの程度の重症度あるいはカテコラミン反応性での判断によることが臨床現場では多いのではないだろうか?その上で後手に回らない早期治療を行っていけば結果的に6時間以内にステロイドが開始されている可能性はあると思われる.また,ステロイドの研究はSSCGが広く普及する以前のものも多いことを考慮しなければならない.

 なお,SSCG 2012,SSCG 2016ともに早期投与・晩期投与については推奨をだしていない.
Q8-3.ステロイドの至適投与量,投与期間は?

A.敗血症性ショック患者に対してステロイドを投与する場合,HC 300 mg/day 相当量以下の量で,ショック離脱を目安に(最長7日間程度)投与することを推奨する(EC / エビデンスなし)
 敗血症性ショックに対する高用量ステロイド投与は死亡リスクが増加するとして既に否定されていることから,行うのであれば低用量ステロイド投与である.投与量で比較したRCTは存在しないが,システマティックレビュー(JAMA 2009; 301: 2362-75)では,5日間以上/未満,ハイドロコルチゾン300mg以上/未満で比較して,低用量長期投与のみがショック離脱率や28日死亡率を改善していたとしている.各研究ごとにステロイドの投与レジメンが異なるものの,これらの結果から投与量・投与期間が最長7日間程度,300mg/day以下と設定している.ただし,ステロイドの副作用を考慮すると,循環動態が改善した場合は早めに投与量を漸減させた方がbetterと思われる.また,小規模研究ではあるが,反復ボーラス投与が持続投与よりも高血糖をきたしやすいことも報告されている(Intensive Care Med 2007; 33: 730-3)ことから,持続投与の方がbetterかもしれない.

 なお,SSCG 2012,SSCG 2016ではハイドロコルチゾン投与量は200mg/dayとしている.
CQ8-4.ハイドロコルチゾンを投与するか?

A.敗血症性ショック患者に対してステロイドを投与する場合,ハイドロコルチゾン(HC)または代替としてメチルプレドニゾロン(MPSL)を投与することを推奨する(EC/ エビデンスなし)
 どのステロイドがよいかについて検討したRCTはないが,過去の研究からこの2種類のステロイドが用いられることが慣習化している.ハイドロコルチゾンとメチルプレドニゾロンを比較した後ろ向き観察研究(Adv Ther 2009; 26: 728-35)では臨床アウトカムに差はない.

 これら以外のステロイドでは,フルドロコルチゾンやデキサメサゾンについて言及しているが,いずれもデメリットが大きいと考えられているステロイドのため推奨されていない.

←日本版敗血症診療ガイドライン2016(5) 初期蘇生・循環作動薬
日本版敗血症診療ガイドライン2016(7) 輸血,人工呼吸管理(近日UP予定)→

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by DrMagicianEARL | 2017-04-03 19:16 | 敗血症 | Comments(0)

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