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EARLの医学ノート

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敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

CQ7.初期蘇生・循環作動薬
 敗血症性ショック治療のコアとなる部分である.30mL/kg以上の初期急速輸液負荷とノルアドレナリンをベースとして,第2選択薬はアドレナリン,バソプレシン,ドブタミンのいずれかを選択,モニタリングは既知の指標をいずれか用いて総合的に評価する,という内容である.治療に不慣れな施設であれば,やはりEGDTプロトコルが無難だとは思うが・・・
CQ7-1.初期蘇生にEGDTを用いるか?

A.敗血症,敗血症性ショックの初期蘇生にEGDTを実施しないことを弱く推奨する(2A)

※ここでのEGDTはRiver'sらのEGDTであり,modified EGDTは含めない.
 2014年から2015年にかけてNEJM誌に相次いでProCESS,ProMISe,ARISEの3つの大規模RCTでは,River's EGDTは標準ケアと比して死亡率に有意差なしという結果であったことからこのような推奨となっている.おそらく,まもなく発表になるSSCG 2016でも同様の推奨になると思われる.

 ただし,繰り返す通り,ここでのEGDTとは2001年に報告されたRiver'sらのEGDTプロトコルのことである.近年,CVPやScvO2の有用性が疑問視され乳酸値が重要視されて以降,River’sらのプロトコルをそのまま用いている三次施設はあまりなく,modifyしたEGDT,もしくは心エコー等適宜モニタリングした上での主治医の循環管理スキルで診療にあたっていることが多い.特に前者のmodified EGDTについては本ガイドラインは含めていない.

 また,3つの大規模RCTやそれ以前の報告を見て分かる通り,River's EGDTはあくまでも標準ケアと死亡率に有意差がなかっただけで,死亡率が悪化したわけではない.ここでの標準ケアとは循環管理に長けた集中治療医のスキルに担保された管理であり,ガイドラインではその状況下でRiver's EGDTは害が益を上回る可能性があると判断している.だがこれは,循環管理に長けていなくともRiver's EGDTを行えば集中治療医と同等の治療成績を出すことが可能ともとらえることもできる.

 実際に,これまで数多くの観察研究でRiver's EGDTにより死亡率が改善したとの報告が上がっている.River's EGDTに関してRCTも観察研究も共通して言えるのは,「対照群の死亡率が高い研究ほど有意な死亡率の改善が得られている」である.本来,ガイドラインは専門医以外の,その疾患に不慣れな医師等に標準レベルで診療にあたれるように作られるべきものである.そしてそのようなガイドラインが対象とする医師とは,「対照群の死亡率が高い研究」の方が近い集団であると考えるのが妥当であろう.そういう意味では,そのような医師がRiver's EGDTのプロトコル通りに敗血症性ショック患者の治療を行っていくのは,他にいいモニタリングが確立されていない以上,理に適っているものである.もし,その施設において,敗血症性ショックの死亡率が本邦で報告される死亡率よりも高い(目安として40%以上)のであれば,安易にRiver's EGDTを行わないという選択はすべきではないと思われる.

 どのような循環管理を行うにせよ,血管内容量充填,尿量確保,血圧維持,酸素代謝異常解除をクリアするという目標という意味ではRiver's EGDTと変わらないと言える.
CQ7-2.敗血症性ショックにおいて初期蘇生における輸液量はどうするか?

A.敗血症性ショックにおいて血管内容量減少のある患者の初期輸液は,細胞外液補充液を30 mL/kg以上投与することを推奨する(EC)

※血管内容量減少を評価した後に細胞外液を30 mL/kg以上投与する.
 River's EGDTがRCTで死亡率を改善できなかったことや近年の過剰輸液が予後悪化リスクとなりうるとの指摘がでてきたことで「敗血症性ショックに大量輸液はダメ」と勘違いする人がここ2~3年間SNSでは続出していた.言うまでもなく初期大量輸液は必要なものである.以前に輸液量と死亡の関連性を自施設で後ろ向きに検討したことがあるが,敗血症性ショック疑いで初期大量輸液を行わなかった症例は死亡率100%であった.敗血症性ショック疑いに初期の急速輸液負荷をまったく行わずにカテコラミンだけ流すという対応はほぼ禁忌と言っていい.

 血管透過性亢進と末梢血管拡張による血流分布異常を伴う敗血症性ショックにおいてはある程度の血管内容量充填が必須となる.本ガイドラインでもその根拠論文が提示されている.初期急速輸液負荷なしor少量しか輸液負荷しない,というやり方のままノルアドレナリンを開始すると確かに血圧は上がることもあるが,血管内容量がないまま末梢血管をしめることになり,諸臓器は急速に虚血状態に陥り,臓器障害が進展する.心不全や腎不全がベースにあって初期急速輸液負荷をしないという選択は避けるべきである.また,うっ血を恐れてなのか「200mL/時で輸液」という中途半端な速度で指示する医師を見かけることがあるが,脱水状態であれば有効であっても敗血症性ショックにおいてはほぼ無意味であり,初期急速輸液はあくまでも全開滴下以上の速度(ボーラスと言ってもよい)に近い方がいいだろう.

 なお,急速輸液負荷は中心静脈カテーテルよりも末梢サーフローの方がよいとする考え方がある.これは流体力学(ベルヌーイの法則)によるもので,管腔が短い方が輸液が早く入りやすいという理論である.敗血症性ショック患者は血管が虚脱しており,CV挿入に時間を要することはよくある.よって,末梢2ライン確保して急速輸液を行いつつICUに搬送してからCV挿入でいいものと思われる.
CQ7-3.敗血症の初期蘇生の開始時において心エコーを用いた心機能評価を行うか?

A.敗血症の初期蘇生では,エコーを用いた心機能評価を行うことを推奨する(EC)

※ここで示す「エコーを用いた心機能評価」とは,循環器専門医による詳細な心機能検査ではなく,ベッドサイドで簡易的に行うエコー検査で,心機能(心臓の動き),血管内容量(下大静脈径,心腔内容量)を大まかに測定して初期蘇生の治療方針の決定に役立てることを目的とするものを指す.循環器専門医に限らず,敗血症診療に関わるすべての医師がその手技を習得することが望ましい.
 敗血症性ショックにおける心エコーに関してはRCTによるエビデンスはなく,エキスパートオピニオンとなっている.心エコーが扱えればリアルタイムかつ低侵襲の指標が増えるメリットは大きいと思われる.また,本ガイドライン解説に記載されているように,血管拡張による相対的血管内容量減少によるショックのみならず,敗血症性心筋障害も起こりうることから,心エコーが推奨されるとしている.

 しかしながら,実臨床で「敗血症診療に関わりうるすべての医師がその手技を習得すること」は,たとえ循環器専門医による詳細な心機能検査ではなくともハードルは高いと思われる(それが二次病院の現実である).また,敗血症性心筋障害は重要な概念であるものの,これに対する介入が確立されているわけではない.循環器でも救急・集中治療・麻酔科でもない医師がこの推奨によって突然心エコーを使いこなせるかというと話はまた別である.臨床検査技師に依頼するのもありではあるが,夜間では難しいであろう.また,個人の手技の違いを受けるモニタリング方法でもあるため再現性の問題を有する.個人的には「推奨する」よりも「使用してもよい」くらいのニュアンスでよかったのではないだろうかと考えている.
CQ7-4.初期輸液として,晶質液,人工膠質液のどちらを用いるか?

A.敗血症,敗血症性ショックの初期蘇生に人工膠質液を投与しないことを弱く推奨する(2B)
 ここでの人工膠質液とはヒドロキシエチルスターチ(HES)のことを指す.HESには凝固・止血機能障害,アナフィラキシー様反応,腎障害の懸念があり,特に腎障害が有意に増加したとする報告は多い.また,HESを有効とした報告の多くにかかわっていたのがBoldt J氏であるが,2009年に同氏が報告した論文が捏造であったことが発覚している(Anesth Analg 2011; 112: 498-500).本製剤投与により血管内容量充填が理論上は容易とは考えられるが,RCTではさんざんな結果となっており,本ガイドラインにおけるメタ解析でも,HESによってICU死亡率は減少するものの,90日死亡率,AKI発症率,RRT使用率,RBC輸血投与率は有意に増加する結果となり,害が益を上回るという判定となる.SSCG 2012でも「HESを用いないことを推奨する(Grade 1B)」とより強く否定している.

 ただし,HESに関するほとんどの報告が6% HES(130/0.4)であり(本邦ではボルベン®),本邦で従来から使用されてきたヘスパンダー®,サリンヘス®は海外の報告で使用されたものより低分子の6% HES(70/0.5)であり,報告もなく腎障害の有無などは不明の状態にあり,現時点では本邦では禁忌までとはいかず,慎重投与の状態にある.

 ここでひとつ指摘しておきたい.血管内容量減少の状態では投与したHESの90%は血管内にとどまるが,循環血液量が正常のときは40%しかとどまらないことが知られている(Anesthesiology 2008; 109: 723-40).この違いは,循環血液量が正常の場合,HES投与により血管内容量が増加して血管内皮のglycocalyx構造を弱めることにより血管透過性をむしろ亢進させてしまうためと考えられている.これまでのHESを用いた複数の主要なRCTは,介入群はずっとHESを投与し続けるという,実臨床から見れば非現実的なプロトコルである.当然ながら血管内容量は急速に増大し,血管内充填のレベルを簡単に超えてしまうことは容易に想像でき,益が害を上回る結果となりかねない.実際には,晶質液とHESをうまく組み合わせ,どのタイミングでHESを投与するかまで考慮して投与されるべきものであるが,残念ながらそのようなプロトコルを検討した良質はRCTは存在せず有効性は不明,実際に行われたRCTは両極端な比較を行っていたという経緯がある.
CQ7-5.敗血症性ショックの初期輸液療法としてアルブミンを用いるか?

A.敗血症の初期蘇生における標準的輸液としてアルブミンを用いないことを弱く推奨する(2C).大量の晶質液を必要とする場合や,低アルブミン血症がある場合には,アルブミン製剤の投与を考慮してもよい(EC)
 本ガイドラインのメタ解析では効果推定値として死亡率はRR 0.87であったが,95%信頼区間は1をまたいでいるため益は否定的となっている.ただし,信頼区間の上限は1.02であることから,簡単に効果なしとはとらえられない.GRADEシステム評価であれば,1をまたぐことは不精確性でのマイナスはつくものの,それそのものが推奨ベクトルを決定づけるものではない(p値を考慮しない解釈であるため).本ガイドラインはMINDs2014を採用しているためGRADEとはやや手法が異なる.このあたりを考慮して数値を読み取っていただきたい.

 絶対死亡率に関しては39.3% vs 36.6%であり,絶対差は2.7%.NNTが37であるというのは集中治療領域ではそこまで悪くはない数値と思われ,少なくともある程度の益が存在するだろう.問題は,害が益を上回るかであるが,これまでのRCTの評価ではアルブミン製剤による害が不明であるとしている.これをもって「害が益を上回る」との判定は妥当であるか難しいところであると考える.ここにコストの問題も加わるため,実際に使用するしないは各医師の価値観にゆだねられるところではないかと思われる.エキスパートコンセンサスとして,特定状況下で使用することを考慮してもよいとしており,この一文がある程度のバランスをとっているのかもしれない.
CQ7-6.初期蘇生における輸液反応性のモニタリング方法として何を用いるか?

A.敗血症,敗血症性ショックの初期蘇生においては,用いる指標の限界を考慮して,必要に応じて複数のモニタリングを組み合わせて輸液反応性を評価することを推奨する(EC)

※敗血症の初期蘇生において,特定のモニタリングを推奨するには十分な根拠がなかった.
 CVPがアテにならないと烙印を押された現在,輸液モニタリング方法は戦国時代にある(といっても,初日だけならCVPはアテになる可能性は残されており,そのようなエビデンスもある).本ガイドラインで示すように,SVV,受動的下肢挙上,経肺熱希釈法があるが,比較する対照群がバラバラ等,非直接性に深刻な問題を抱えるほか,各RCTは小規模研究である.これらの結果から上記推奨文になるのは致し方ないことと思われる.

 ただ,私個人では受動的下肢挙上(PLR)テストがどの施設でもやりやすくてオススメではあると考えている.21研究のメタ解析(Intensive Care Med 2016; 42: 1935-47)では,PLRによる心拍出量の変化は,統合感度0.85,統合特異度0.91,AUROCは0.95と高精度であり,PLRによる心拍出量変化の最良閾値は≧10±2%であったとしている.下記も参照されたい.
【文献+レビュー】循環不全における受動的下肢挙上(PLR)による輸液反応性予測(メタ解析)
http://drmagician.exblog.jp/24106425/
CQ7-7.敗血症の初期蘇生の指標に乳酸値を用いるか?

A.敗血症の初期蘇生には,乳酸値を用いた継時的な評価を行うことを推奨する(EC)
 現在既に乳酸値を指標としたEGDTを行っている施設は多いだろう.実際,乳酸値がScvO2より重要と考えている救急集中治療医は多いことが報告されている.また,乳酸クリアランスが大きいほど予後改善に寄与するという報告は複数でてきている.本ガイドラインではPICOに合致するRCTはなかったためエキスパートコンセンサスとしている.ただし,JonesらのLACTATE study(Am J Repir Crit Care Med 2010; 182: 752-61)はRCTであり,サブ解析であれば敗血症患者(4割が該当)での有効性を見ることは可能であり,死亡率改善傾向がみられている.その他の研究も考慮して,乳酸値の継時的評価は益が害を上回ると判断している.SSCG 2012でも「組織低灌流のマーカーとしての乳酸値上昇を伴う患者では乳酸値を正常化させることを目標とした蘇生を提案する(Grade 2C).」としている.

 なお,本ガイドラインでも注意書きがあるが,静脈血で血液ガス分析を行うのは注意が必要である.一般的に動脈血より静脈血の方が乳酸値が高めにでることが知られ,「動脈血乳酸値=静脈血乳酸値ー0.25mmol/L」という計算式もあるが(Eur J Emerg Med 2014; 21: 81-8),差の95%信頼区間は-0.35 to -0.15であり,下限値は決して小さくはなく,また基準値から外れるほどこの差が大きくなることが知られているため,特に敗血症性ショックのような重症患者においては用いるべきではないものと思われる.
CQ7-8.初期蘇生の指標としてScvO2と乳酸クリアランスのどちらが有用か?

A.初期蘇生の指標としてScvO2と乳酸クリアランスのいずれを使用してもよい(EC)
 Jonesらが重症敗血症,敗血症性ショックの患者300例を対象として,EGDTでの初期蘇生目標をScvO2≧70%とする群と乳酸クリアランス≧10%/2hrを目標にする群で比較したRCTを報告しており,院内死亡率は23% vs 17%で統計学的有意差はみられなかったとしている.ただし,その絶対差は6%と開きがあり,乳酸クリアランス群の方が低い傾向である.エビデンスレベルの弱いたった1報のRCTから推奨を出すことは難しいため,エキスパートコンセンサスでいずれでもよいとはなっているが,ScvO2の持続モニタリングはPreSepカテーテルが必要であり,ポイントで計測するならCVから血液採取をしなければならない.実臨床では乳酸クリアランスを用いる方がbetterかもしれない.
CQ7-9.初期輸液に反応しない敗血症性ショックに対する昇圧薬の第一選択としてノルアドレナリン,ドパミンのどちらを使用するか?

A.初期輸液に反応しない敗血症性ショックに対して第一選択薬としてノルアドレナリンを投与することを推奨する(1B)
 これはもうほぼ決着がついた事項といえ,1Bという高い推奨がついている.敗血症性ショック初期は末梢血管拡張を特徴としたwarm shockであり,血管トーヌスを戻す目的でのα1受容体刺激が原則とすべきであり,一方のドパミン(DOA)でα1受容体刺激を期待するためには10γを越える高用量が必要となり,β受容体という不必要な受容体刺激を起こし,不整脈等各種害をきたしうることも考慮すればNAを用いることが病態生理学的に理にかなっており,2012年に報告された敗血症性ショックにおけるNAとドパミン(DOA)を比較したメタ解析(Crit Care Med 2012; 40: 725-30をはじめいくつものメタ解析があり,いずれにおいてもDOAはNAに比して死亡リスクが有意に高い結果となっており,SSCG 2012ではノルアドレナリンが第一選択となっている.
CQ7-10.ノルアドレナリンの昇圧効果が十分でない場合,敗血症性ショックに対してアドレナリンを使用するか?

A.十分な輸液とノルアドレナリン投与を行っても循環動態の維持が困難な敗血症性ショックにはアドレナリンを使用することを弱く推奨する(EC)
 敗血症性ショックにおいてノルアドレナリンとアドレナリンを比較した研究はCATS study(Lancet 2007; 370: 676-84),CAT study(Intensive Care Med 2008; 34: 2226-34)があり,いずれも死亡率等に有意差はみられなかったが,CAT studyのサブ解析では,敗血症性ショック患者においてアドレナリン投与群で有意に頻脈や乳酸アシドーシスが多かったと報告されている.これらを考慮するとノルアドレナリンと比して第一選択として使用すべきではないが,ノルアドレナリンに不応性(0.3~0.5γでも血圧が維持できない)の場合,第二選択薬の候補となりうる(ノルアドレナリン不応性の場合に限定したRCTはない).本ガイドラインでは,心機能が低下した敗血症性心筋症が敗血症性ショックにおいて20-40%合併し,これらがノルアドレナリンに不応性となる可能性があることからもアドレナリン投与が有用な可能性を述べている.

 私自身は頻脈が嫌なのでアドレナリンよりもバソプレシンを優先している.施設によってはアドレナリンを投与しつつ頻脈に対してはβ遮断薬のオノアクト®を使用しているところもあるようである(血圧より先に心拍数を下げる作用があるため).
CQ7-11.ノルアドレナリンの昇圧効果が不十分な敗血症性ショックに対して,バソプレシンを使用するか?

A.十分な輸液とノルアドレナリン投与によっても昇圧効果が不十分な敗血症性ショックに対して,バソプレシンを追加で使用することを弱く推奨する(EC/B)
 血管をかなり強力にしめあげるバソプレシンは(ステロイド等に比して)どうも日本では好まれないようであるが(私自身は経験がないが,四肢疎血で痛い目にあったことがある施設がそこそこあるようである),RCTは存在する.

 敗血症罹患初期は血中バソプレシン濃度は一過性に上昇し,その後徐々に低下することが知られている(Crit Care Med 2007; 35: 33-40).NAとバソプレシンを比較したVASST study(N Engl J Med 2006; 354: 2564-75)では,28日死亡率に有意差がでなかったが,サブ解析で低用量ステロイド療法を施行しなければならないような難治性warm shockにおいては,バソプレシンはNAより28日死亡率を有意に低下させたと報告している(Crit Care Med 2009; 37: 811-8).実際,カテコラミン抵抗性の患者にNA単独とNA+バソプレシン併用を施行・比較検討したところ,併用した方が頻脈は減少し,平均動脈圧や心拍出量が増加,腸管血流が維持できたと報告している(Circulation 2003; 107: 2313-9).また,バソプレシンには尿量とクレアチニンクリアランスを増加させることが報告されている(Anesthesiology 2002; 96: 576-82)

 本ガイドラインでは2報のメタ解析を行っており,死亡率,合併症発症率に有意差ないがバソプレシン投与群が優位な傾向,ICU在室日数は有意に約1日短縮という結果であり,おそらく益が害を上回ると判定されている.SSCG 2012では「平均動脈圧(MAP)を上昇させる,またはノルアドレナリンを減量する目的で,ノルアドレナリンにバソプレシン(0.03U/min)を追加してもよい(Ungraded).」敗血症による血圧低下に対して初期に選択される昇圧剤としては低用量バソプレシンは推奨されず,0.03-0.04 U/min以上のバソプレシンは(他の昇圧剤で適切な平均動脈圧が得られない場合の)代替療法として温存すべきである(Ungraded).」とされている.
CQ7-12.敗血症性ショックの心機能不全に対して,ドブタミンを使用するか?

A.十分な輸液とノルアドレナリン投与を行っても循環動態の維持が困難であり,心機能が低下している敗血症性ショックにおいては,ドブタミンを使用することを弱く推奨する(EC/C)

※本CQは敗血症によって心機能が低下した状態を想定しており,基礎疾患に心不全や不整脈が存在する場合は,個別の評価,対応が必要である.また,心機能が低下している敗血症性ショックの患者では,循環管理が複雑になるため,集中治療や循環管理に慣れた施設で治療することが望ましい.
 River's EGDTにおいてドブタミンは推奨薬に君臨し続けてきたが,ノルアドレナリン(NA)不応性の際にドブタミン(DOB)使用が妥当か否かを検討したRCTは存在しないまま今日まできている.本ガイドラインで採用したRCTは2報あるが,アドレナリン(AD)がからんでおり,「AD vs NA+DOB」と「AD+NA vs DOB+NA」となっており,ややPICOとは異なるが,検討を行っている.これらの結果は,各アウトカムに有意差はないもののDOBがある群の方が優れている傾向がみられている.さらに,難治例であるが死亡率が40%前後にとどまっていることも考慮し,ドブタミンを条件つきで弱く推奨するとしている.また,ここでも敗血症性心筋症について触れている.

 なお,SSCG 2012では「以下の場合,ドブタミンを投与開始または(使用しているなら)昇圧剤に追加して20μg/kg/minまで投与することを推奨する.(a) 心充満圧は上昇しているが低心拍出状態が疑われる心筋機能障害,(b) 適切な血管内容量と適切な平均動脈圧であるにもかかわらず,組織低灌流徴候が持続している場合(Grade 1C)」とやはり条件付きとなっている.

←日本版敗血症診療ガイドライン2016(4) 抗菌薬,免疫グロブリン
日本版敗血症診療ガイドライン2016(6) ステロイド,輸血療法(近日UP予定)→

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# by DrMagicianEARL | 2017-01-11 20:38 | 敗血症 | Comments(0)
■2016年2月に敗血症の新しい定義Sepsis-3が提唱され,その中でICU以外での敗血症予測ツールとしてqSOFAスコアが提案されました.ベッドサイドですぐに判定できる非常に簡便なスクリーニングツールですが,下の文献で紹介するように,FN患者においては従来から用いられてきたMASCCスコアに劣るようです(MASCCスコアもベッドサイドで判定可能).もっとも,qSOFAも特異度は抜群によいので,qSOFAスコア2点以上を満たした場合はほとんどの場合敗血症とみなしてよいということになるのかもしれません.

■FN患者に限らず,qSOFAスコアは膿瘍や感染性心内膜炎,骨髄炎,蜂窩織炎による敗血症が漏れやすい印象がありますので注意が必要です.Sepsis-3の診断プトロコルでは,qSOFAスコアから漏れても敗血症でないか再検討し,怪しければSOFAスコアで臓器障害有無を評価することを推奨しています.
発熱性好中球減少(FN)患者における敗血症,死亡,ICU入室のスクリーニングとしてのqSOFAスコア
Kim M, Ahn S, Kim WY, et al. Predictive performance of the quick Sequential Organ Failure Assessment score as a screening tool for sepsis, mortality, and intensive care unit admission in patients with febrile neutropenia. Support Care Cancer. 2017 Jan 6. [Epub ahead of print]
PMID: 28062972

Abstract
【目 的】
Sepsis-3ではqSOFAスコアが予後不良と推測される患者を認知するために使用する基準として提示された.本研究では,発熱性好中球減少(FN)の患者における敗血症,死亡,集中治療室(ICU)入室のスクリーニングツールとしてのqSOFAスコアの予測能の評価を行った.また,我々は全身性炎症反応症候群(SIRS)基準やMultinational Association of Supportive Care in Cancer (MASCC)スコアの予測能の比較も試みた.

【方 法】
我々は前向きに収集された成人のFNデータレジストリを用いた.qSOFAとSIRSスコアは既存データを用いて後ろ向きに算出を行った.主要評価項目は敗血症発症とした.副次評価項目はICU入室と28日死亡とした.

【結 果】
615例の患者のうち,100例が敗血症を発症し,20例が死亡し,38例がICUに入室した.多変量解析では,qSOFAスコアは敗血症とICU入室を予測する独立因子であった.しかしながら,MASCCスコアと比較すると,qSOFAの受信者作動曲線下面積(AUROC)は低かった.敗血症,28日死亡,ICU入室の予測においてqSOFAは感度が低いが(0.14,0.2,0.23),高い特異度(0.98,097,0.97)を示した.

【結 論】
qSOFAのパフォーマンスは,MASCCスコアより劣っていた.FN患者の予後予測において既存のリスク層別化ツールはより有用であった.

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# by DrMagicianEARL | 2017-01-08 19:53 | 敗血症 | Comments(0)
CQ5.抗菌薬治療
CQ5-1.抗菌薬を1時間以内に開始すべきか?

A.敗血症,敗血症性ショックに対して,有効な抗菌薬を1時間以内に開始する(EC)
 RCTはなく,エキスパートコンセンサスであるが,推奨文を作成するときはかなり悩んだ項目ではある.これまで,SSCGでも日本版でも敗血症診断から1時間以内の抗菌薬投与は強く推奨されてきた経緯がある.ただし,RCTで評価されたことは一度もなく,観察研究のみである.複数の観察研究では,早期に投与することで死亡率が改善すると報告されているが,メタ解析(Crit Care Med 2015; 43: 1907-15)では死亡率に有意差はみられていない.観察研究であれば,背景因子を調整しているとはいえ,当然ながら「抗菌薬投与の遅れ=その他循環動態管理などの遅れ」ともとらえることができ,本当に抗菌薬を1時間以内に投与しなければいけないのか?という疑問は常日頃から私は感じている(それでも実臨床ではほぼ100%1時間以内に抗菌薬を開始していましたが).もっとも抗菌薬投与が遅れ過ぎれば予後は悪化してしまうので,努力目標として,できるだけ早期にという意味合いで1時間以内に開始すべきとする推奨は妥当ではないかと考えている.

 「早期に」「適切な」抗菌薬を投与,といっても適切性を求めようとすれば時間を要することも報告されている(Emerg Med Australas 2013; 25: 308-15).1時間以内に抗菌薬を投与するとなれば,感染巣特定,グラム染色所見,その他各種データがすべてそろった状態でない可能性,抗菌薬を確実にあてようとすれば広域抗菌薬を多数併用しなければならない可能性,その際の有害事象が患者の予後に影響を与えうる可能性,なども考えなければならない.抗菌薬投与開始までの時間に固執しすぎれば,抗菌薬の適切性が疎かになってしまう懸念が指摘されており,どれだけ早く抗菌薬を投与できても有効でない抗菌薬であれば無意味となってしまう.

 では,外さないためにフルカバーすべく抗菌薬をいくつも併用すればいいかというとそう簡単な話ではない.人工呼吸器関連肺炎に対して耐性菌フルカバーを目指した超広域抗菌薬併用投与が逆に予後を悪化させたとする報告が複数ある以上,抗菌薬の有害事象は無視できない(しかもこのうちの1報はRCTである).これは,たとえ原因菌をあてていても,過剰カバーすると予後がむしろ悪化してしまうこともありうることを意味する.
CQ5-2.敗血症の経験的抗菌薬治療において併用療法を行うか?

A.グラム陰性桿菌感染症を念頭においたルーチンの抗菌薬併用療法をしないことを推奨する(1B)

※ここでの併用療法とは,緑膿菌などのグラム陰性桿菌に対して有効な抗菌薬を複数同時使用することを指し,例えば抗MRSA薬と抗緑膿菌薬の同時使用を指すものではない.
 グラム陰性桿菌へのβラクタム系抗菌薬+アミノグリコシド系抗菌薬の併用療法のRCTがこれまで多数報告されているため,ここに限定した推奨となっている.あくまでも「ルーチンでの併用」を行わないという推奨であり,併用療法そのものを否定しているわけではない.

 既存のメタ解析(Cochrane Database Syst Rev 2014; 1: CD003344)では,併用療法は生命予後を改善せず,腎傷害を増加させると報告されており,これに加え,コストや仕事量増大の問題,アミノグリコシド系の血中濃度測定を要する問題(ほとんどの施設は外注で結果が返ってくるまでかなりの日数を要する)などを考慮するとルーチンで行うべきではない.

 一方で,SSCG 2012では「重症敗血症を伴う好中球減少患者(2B),Acinetobacter属やPseudomonas属といった難治性多剤耐性菌による感染症(2B)においては,抗菌薬を併用した経験的治療を行ってもよい.呼吸不全や敗血症性ショックを伴う重症感染症患者では,緑膿菌菌血症では,広域スペクトラムのβラクタム系抗菌薬にアミノグリコシド系またはフルオロキノロン系を併用してもよい(2B).」としており,状況しだいでは併用療法は考慮する必要もでてくることから,個々の患者評価に加え,その施設での耐性率を把握して抗菌薬を選択する.併用期間については「重症敗血症患者に経験的に抗菌薬併用療法を行う場合,3-5日間よりも長く行うべきではない.感受性が判明すれば直ちに最も適切な単剤治療にde-escalationされるべきである(Grade 2B).」とされている.

 なお,本ガイドラインでは検討していないが,SSCG 2012では「肺炎球菌菌血症による敗血症性ショック患者ではβラクタム系にマクロライドを併用してもよい(Grade 2B).」という推奨もあり,このような状況でも併用療法を検討してもよいと思われる.
CQ5-3.どのような場合に抗カンジダ薬を開始すべきか?

A.侵襲性カンジダ症の複数のリスク因子のある敗血症,敗血症性ショックに対して,通常の抗菌薬に加えて抗カンジダ薬を投与することを考慮する(EC)
 カンジダによる敗血症は他の病原体に比して予後は悪いとされている.昨年11月にSNSで「次の病原体(黄色ブドウ球菌,緑膿菌,大腸菌,カンジダ)が血液培養で検出されたとき,もっとも死亡率が高いのはどれか?」というアンケートを行ったところ,484票の回答があり,一番多かったのが黄色ブドウ球菌(35%),2番目が緑膿菌(29%)であり,カンジダは22%で3位であった.このように,カンジダは敗血症の病原体の中ではやや軽視されている印象があるが,米国や日本での菌血症の大規模サーベイランス(Clin Infect Dis 2004; 39: 309-17/Clin Microbiol Infect 2013; 19: 852-8)ではいずれにおいてもカンジダが最も死亡率が高いと報告されている.

 敗血症治療においてカンジダのカバーは漏れやすい.加えて,培養には3-5日を要する(Candida glabrataは特に発育が悪い)ため一般細菌よりも気づかれるのが遅れることも死亡率が高い原因のひとつである.血液培養陽性になるまでの時間で見ても,C. albicansが平均40時間であるのに対して,C. glabrataでは60時間を要する.カンジダ血症では12時間以内に陽性になれば死亡率は15%以下,24時間以内なら死亡率は30%前後だが,この時点ではC. glabrataは検出できない.

 なお,侵襲性カンジダ症でのRCTは多数存在するが,カンジダによる敗血症のRCTは1つも存在しない.このため,本ガイドラインでは侵襲性カンジダ症への対応に則した推奨となっており,真菌症フォーラムの「深在性真菌症の診断・治療のガイドライン2014」に準じている.この真菌症フォーラムのガイドラインでは侵襲性カンジダ症のリスク因子が挙げられており,これらのリスク因子を本ガイドラインでも採用した.ただし,これらのリスク因子は,ICU患者ではほとんど満たしてしまうため,真菌症フォーラムガイドラインでは,ICU患者でのリスク因子も提示している.具体的には以下の通りである.

前提項目:72時間を超えるICU滞在
主要項目:
a) ICU入室1~3日間における治療介入
・中心静脈ライン留置
・広域抗菌薬投与
・人工呼吸
[補助項目:完全静脈栄養,血液透析,ステロイド・免疫抑制薬使用,手術,重症急性膵炎,重症敗血症,高APACHEⅡ/Ⅲスコア]
b) 複数部位のカンジダ定着

 これらのリスク因子を有する敗血症患者に対して,抗カンジダ薬を投与することの判断に血清β-D-グルカン値がどのように寄与するかは未知であるため,今回はβ-D-グルカンについては推奨をだしていないが,これまでの知見から,参考としてもよいと思われる.SSCG 2012でも感染症鑑別においてβ-D-グルカン計測をGrade 2Bで推奨している.本邦ではβ-D-グルカン計測はワコー法とMK法があり,院内で計測できるタイプのものはほとんどがワコー法であるが,MK法に比して感度が落ちることに注意が必要である.また,抗菌薬TAZ/PIPC,CVA/AMPC使用でβ-D-グルカンが上昇することが報告されているが,本邦での検査キットではその心配はほとんどないとのことである.カンジダだけでなく,ニューモシスチス肺炎でもβ-D-グルカンは非常に有用である.アスペルギルスでは感度がかなり落ち,ガラクトマンナン抗原の方が優れているとの報告もある.なお,クリプトコッカスはβ-D-グルカンが1,3でないため検出はほとんどできない.

 本ガイドラインでは侵襲性カンジダ症のリスク因子を有する患者への経験的抗菌薬については言及していないが,IDSAはFLCZかエキノキャンディン系(MCFG,CPFG)を推奨している.これに対し,欧州のESCMIDガイドラインではエキノキャンディン系が推奨度Aであるのに対し,FLCZは推奨度Cである.これは欧州でFLCZ耐性のカンジダが多いことに起因する.このため本邦の状況には必ずしも当てはまるものではない.本邦では真菌症フォーラムからのACTIONs BUNDLEが発表され,非常に良好な治療成績を残しており,本バンドルにおいてはエキノキャンディンとFLCZのいずれかを経験的治療の第一選択に位置づけている.その際参考となるのは各施設のlocal factorであり,FLCZが効きにくいC. glabrataとエキノキャンディンが効きにくい可能性があるC. parapsilosisのいずれが頻度が高いかによる.
CQ5-4.敗血症,敗血症性ショックの患者に対して,βラクタム薬の持続投与または投与時間の延長は行うか?

A.敗血症,敗血症性ショックの患者に対してβラクタム薬の持続投与または投与時間の延長を行わないことを弱く推奨する(2B)
 時間依存性の抗菌薬はPK/PD理論から,時間依存性抗菌薬の投与時間を延ばし,TAM(Time Above MIC)を増やせば治療効果が増すのではないか,という仮説が生まれた.ここからさらに派生して,バッグに1日分の抗菌薬を詰めて,24時間持続点滴をする方がPK/PD的には理にかなっている,という発想も生まれた.抗菌薬の持続投与は,間欠的な投与に比べて少ない投与量で同等の血中濃度とTAMを獲得するため,「理論上では」持続点滴の方が間欠的投与に比べると有利である.

 ただし,抗菌薬のクリアランスには個人差があり,必ずしも個々の患者で期待されるような薬物動態を示すという保証はない.また,24時間容器に入れた抗菌薬の安全性も問題である.実際,PCGに関しては,特に高温環境下では失活しやすい特徴をもっており,通常よりも長時間点滴バッグの中に入れたままの抗菌薬が失活するおそれもある.持続ルートが1つ増えることも問題となる.

 また,PK/PD理論には問題点もあることが指摘されている.①血中濃度は蛋白に結合したものも含む全濃度を使用するのか遊離した薬剤濃度を使用するのか,②PKのパラメータは血中でのパラメータでよいのか,③PDパラメータとしてMICを用いているが,MBCやMPCとの関係はどうなのか,である.また,PK/PD理論に基づく投与法と有効性についての報告がされるようになっているが,副作用,耐性菌の出現との関連性についてはほとんどない.加えて敗血症では,クリアランスや分布容積が治療経過中にめまぐるしく変化することも予想され,理論通りにはいかない可能性もある.このため,持続投与による抗菌薬濃度が不十分となったり過剰となったりするリスクもある.

 本ガイドラインでは4報のRCTのシステマティックレビューを行ったが,持続投与群と非持続投与群で死亡率や目標血中濃度達成率に有意差はみられなかったことに加え,上記問題点もあることから,敗血症一般においてβラクタム系抗菌薬の持続投与は推奨されないとしている.
CQ5-5.敗血症,敗血症性ショックの患者に対する抗菌薬治療で,デエスカレーションは推奨されるか?

A.敗血症,敗血症性ショックの患者に対する抗菌薬治療において,デエスカレーションを実施することを弱く推奨する(2D)
 近年,敗血症へのデエスカレーションを検討したRCTが初めて報告された.死亡率やICU在室日数に有意差はなし,重複感染率と抗菌薬投与期間はデエスカレーション群の方が有意に悪いという結果であった.ただし,このRCTは目標症例数に達さずに早期終了された小規模のものであり,また,背景因子はデエスカレーション群の方が不利(特に肺炎や人工呼吸器装着は明らかにデエスカレーション群の方が多い)であることから,本RCTをもってデエスカレーションの有用性を述べることは困難である.

 これまでの観察研究ではデエスカレーションはむしろ良好な治療成績であることを報告しているものが多く,2016年に報告されたメタ解析(Int J Infect Dis 2016; 49: 71-9)では多くの感染症においてデエスカレーションは安全かつ有効と結論づけている.本ガイドラインでは,安全に行えるものとして推奨している.

 ただし,安全に行う上である程度の前提条件がある.以下を目安にしてデエスカレーションを行うべきであろう.
① 経験的治療開始前に良質な微生物学的検体の採取が行われている.
② 臓器障害,重症度などの改善がある.
③ 起炎菌が,より狭域の抗菌薬に感受性である.
④ 他の感染巣が否定できる.
⑤ 持続する好中球減少症(<1000/mm3)などの重篤な免疫不全がない.
⑥ 変更する抗菌薬が感染巣に移行しえる.
CQ5-6.抗菌薬はプロカルシトニンを指標に中止してよいか?

A.敗血症,敗血症性ショックにおける抗菌薬治療で,プロカルシトニンを指標に抗菌薬の中止を行わないことを弱く推奨する(2B)
 この項目もAnswerをどうするか非常に悩んだ部分である.プロカルシトニン(PCT)ガイド下の抗菌薬中止プロトコルについては既にいくつものRCTがある.今回,8報のRCTでシステマティックレビューを行った結果,死亡率に有意差はないが,抗菌薬投与期間はPCTガイド群の方が有意に短いという結果であったことから,おそらく益が害を上回っていると判断できる.

 ただし,すべてのRCTでPCTを毎日計測しており,通常の保険診療を大きく逸脱することになり,またPCTを院内採用していない施設も多く,外注によるタイムラグが生じることも考えれば外的妥当性は担保されない.加えて,抗菌薬中止基準が個々のRCTで異なっており,どのようなPCT値の推移で中止すべきかも統一されていない.初日とそれ以外にどこかでPCTを計測する,2ポイントでの中止判断プロトコルにアレンジするという考え方もあるが,その有用性について検討した報告はない.

 これらを総合的に判断した結果,PCTを指標とした抗菌薬中止は行わないことを弱く推奨する,というメタ解析結果とは逆の推奨になっている.もっとも冒頭で述べた通り,推奨・非推奨は真逆の概念ではなく,あくまでも連続的なものである.PCTを毎日計測することも辞さないという施設であれば,有用性を示したRCTのプロトコルを参考に抗菌薬を中止することも一つの考え方であろう.

 今回のガイドラインでは触れていないが,どの敗血症でもPCTガイド下プロトコルを採用できるわけではない.各RCTの除外基準を熟読されたい.具体的には以下の場合はPCTガイド下での抗菌薬中止は行うべきではないだろう.
① 原因菌が緑膿菌,アシネトバクター,リステリア,レジオネラ,黄色ブドウ球菌,または不明
② 感染性心内膜炎,膿瘍,骨髄炎
③ 免疫不全患者または免疫抑制薬投与患者

 なお,publishのタイミングの関係で本ガイドラインではincludeされなかった最新の大規模RCTがオランダから報告されている(Lancet Infect Dis 2016; 16: 819-27).1519例のRCTであり,抗菌薬投与日数(7.5日 vs 9.3日)のみならず極めて重要なアウトカムである28日死亡率(20% vs 25%)のいずれもPCTガイド群が有意に改善していることから,PCTガイドは推奨されるべきものと考えてもいいかもしれない.ただし,本RCTはプロトコル違反が非常に多いことに加え,耐性菌が非常に少ないオランダで行われていることを考慮する必要があり,本邦の実臨床への適用は注意を要する.

CQ6.免疫グロブリン
CQ6-1.成人の敗血症患者に免疫グロブリン(IVIG)投与を行うか?

A.成人の敗血症患者に対するIVIG投与の予後改善効果は現時点のRCTでは不明であり,当ガイドライン委員会ではIVIG投与に関して明確な推奨を提示できない(EC/C)
 当初は「成人の敗血症患者に対してIVIGを投与することを弱く推奨する(2C)」となる予定であったが,2回の投票で2/3以上の賛同が得られず,このような推奨となっている.一方,SSCG 2012では「重症敗血症,敗血症性ショック患者において免疫グロブリン注射製剤は使用すべきではない(Grade 2B).」となっている.SSCG 2012から現在まで新たなRCTは報告されていない.

 本ガイドラインのシステマティックレビューでは対象が旧基準の敗血症から含めており,臓器障害を伴う新定義の敗血症とは対象が異なる.コクランのメタ解析(Cochrane Database Syst Rev 2013; 9: CD001090)では,43報のRCTの解析でIVIGにより死亡リスクが19%有意に減少するが,バイアスリスクの低い質の高い成人研究に限定すると死亡リスクの減少はみられていないという結果であった.RCTをどこまで絞るかは難しい判断であるが,少なくとも益は害をおそらく上回ると考えることは支障はないと思われる.

 しかし,海外のRCTでの投与量は0.15-0.5g/kg/dayであり,海外のエビデンスをもって日本に適応させることは困難である.また,海外で比較的有効性を示しているのはポリクローナルIgM濃厚IVIGでの報告に多く,これに対し日本のIVIGはIgGを抽出している.これらのことから,海外のRCTが多く占めるシステマティックレビュー結果をそのまま反映させるには外的妥当性が乏しいと言わざるを得ない.Masaokaらの報告(日化療会誌 2000; 48: 199)は本邦での大規模データであるが,死亡率を報告していない.これまでのメタ解析では,Masaokaらの研究をincludeしているが,これはあくまでも電話で筆頭執筆者に確認しただけの数値であるため,信頼性に問題もかかえる.

 さらにはコストの問題(非常に高額)や研究が行われた年の問題もある.IVIGのRCTのほとんどがSSCG以前のものであり,敗血症の根本治療があまり統一されていない.現在のSSCG遵守下でのIVIGの有効性は全く不明と言っていい状況にある.

 以上より「益が害を上回る可能性」を支持するには不確定要素が多すぎるのも事実であり,推奨するか否かは難しい判断が求められる項目である.やはりRCTを新たにやり直す以外に正確な検証は困難であろう.

←日本版敗血症診療ガイドライン2016(3) 感染症診断,画像診断,感染源のコントロール
日本版敗血症診療ガイドライン2016(5) 初期蘇生・循環作動薬(近日UP予定)→

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# by DrMagicianEARL | 2017-01-07 18:19 | 敗血症 | Comments(0)
CQ2.感染症の診断
CQ2-1.血液培養をいつどのように採取するか?

A.敗血症・敗血症性ショックの患者に対して,抗菌薬投与前に血液培養を採取する(EC)
 血液培養を採取するタイミングに関する良質なエビデンスはないためエキスパートコンセンサスとなってはいるが,抗菌薬投与前に血液培養2セットは感染症診療における基本であり強く推奨されるものである.もちろん日常診療では,抗菌薬が先に投与された状態で敗血症を診断することもあるが,その場合でも「抗菌薬濃度がトラフ付近,すなわち次回の抗菌薬投与直前に採取する」と推奨文に記載されている.また,「治療に対する反応が乏しく,抗菌薬を変更する際も,あらためて採取することが望ましい」となっている.

 血液培養採取の際の皮膚消毒に関しては,皮膚消毒と清潔手袋を用い,できる限りコンタミネーションを減らす必要がある.どの消毒薬が最良かについては,評価が定まっていないが,実臨床で考えるならば,即効性と持続性から1%クロルヘキシジンアルコール製剤(ヘキザック®など)が望ましいだろう.なお,1%クロルヘキシジンアルコールなら30秒,ポビドンヨード(イソジン®)なら2分間待つ必要がある.

 ちなみに,消毒薬は「乾くまで待つ」と教えられた人は多いのではないだろうか?これは大間違いである.消毒してから手であおいだりするのは全くの無駄である.基本的に両消毒剤もそれぞれ30秒および2分間たたないと効果がでないのであって,早く乾かしたところで効果が早まるわけではない

 また,血培ボトルへの分注時は新しい針に付け替えないこと,分注したボトルは置きっぱなしにしないこと(冷蔵庫保管は厳禁)も注意されたい.

 なお,血液培養で特定の菌が検出された際の対応についてここで記載しておく.

①肺炎桿菌,カンジダ
これらは播種性病変をつくることがあり,とくに眼内炎になれば失明する恐れがある.このためこの2菌種が血液培養陽性であれば必ず眼科コンサルトを行う必要がある.

②血液培養2セット中,片方のみから黄色ブドウ球菌,グラム陰性桿菌,カンジダ
1セットのみであればコンタミの可能性はあるが対応が遅れると死亡リスクの高い原因菌となるため,抗菌薬治療を開始すべきである.

Staphylococcus lugdinensis
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)の一種であるが,この菌種は感染性心内膜炎を引き起こし,予後悪化の原因となりうるため,心臓超音波検査を必ず行う必要がある.

Streptococcus gallolyticus(旧bovis),Clostridium septicum
これらは感染性心内膜炎の原因となるため心臓超音波検査が必要となることに加え,大腸癌の患者で本菌種による菌血症が生じることが知られているため,状態が落ち着けば下部消化管内視鏡検査を行うことを忘れないようにしなければならない.

 カテーテル関連血流感染症(CRBSI)を疑う場合以外ではCVカテーテルからの血液培養検体採取はコンタミネーションのリスクを考えると推奨されない,ただし,CRBSIを疑う症例ではカテーテルルーメンと末梢のそれぞれから血液培養検体を採取し,カテーテル血の方が2時間以上早く陽性になった場合はCVカテーテルが原因であると考えてもよい.
CQ2-2.血液培養以外の培養検体は,いつ何をどのように採取するか?

A.敗血症,敗血症性ショックの患者に対して,抗菌薬投与前に必要に応じて血液培養以外の各種培養検体を採取する(EC)
 良質なエビデンスはないためエキスパートコンセンサスとなってはいるが,原則として血液培養以外に抗菌薬投与前に感染巣から培養検体を採取することは必ず必要である.例外として,髄膜炎ではすぐに検体が採取できない場合は抗菌薬を先行投与してもよい(もっとも髄液に移行するまでは時間がかかる).
CQ2-3.グラム染色は培養結果が得られる前の抗菌薬選択に有用か?

A.経験的治療に採用する抗菌薬を選択する際に,培養検体のグラム染色所見を参考にしてもよい(EC)
 敗血症におけるグラム染色に関連する良質なエビデンスは存在せず,本ガイドラインで推奨を提示することはできないため,エキスパートコンセンサスとなっている.グラム染色は敗血症診療において必須とは言えないまでも,慣れていればある程度の菌種(肺炎球菌,連鎖球菌,ブドウ球菌,腸球菌,アシネトバクター,インフルエンザ桿菌,モラキセラ,緑膿菌など)は同定可能であり,敵が早めに分かりやすいという意味では武器にすると敗血症診療はよりやりやすくなるだろう.

CQ3.画像診断
CQ3-1.感染巣診断のために画像診断は行うか?

A.敗血症,敗血症性ショック患者の感染巣診断のために画像診断を行うことを推奨する(EC)
 あらためて説明するまでもなく必須である.各感染症において具体的にどのような画像検査が必要であるかの詳細が推奨文に記載されているので参照されたい(50ページ).
CQ3-2.感染巣が不明の場合,早期(全身造影)CTは有用か?

A.敗血症,敗血症性ショック患者の感染巣診断のために早期(全身造影)CTを行うことを推奨する(EC)
 感染巣が不明な場合の造影CTの有効性についてはRCTレベルのエビデンスはないものの観察研究が複数あり,行わない場合に比して診断率は著明に向上している.もちろん造影剤腎症のリスクはあるが,得られる情報量,感染巣を特定する確率が大幅に上がることを考慮すれば,造影剤腎症を危惧して造影CTを躊躇する必要はないと推奨文にも記載されている.

CQ4.感染源のコントロール

感染源コントロールは抗菌薬以上に威力のある感染症治療手段であり,逆に言えば,適切な感染源コントロールがなされていない場合はいかに適切な抗菌薬を投与しても救命は困難となりやすいことは既に多くの医師が経験していることであろう.とりわけ敗血症においては感染源コントロールのDDD(Drainage,Debridement,Device除去)を迅速に行わなければならない.SSCG 2012でも感染源コントロールは12時間以内に行うことを推奨している.
CQ4-1.腹腔内感染症に対する感染源コントロールはどのように行うか?

A.腹腔内感染症による敗血症に対しては感染巣コントロールを可能な限り早期に行うことを推奨する(EC/D)
 本CQに対応するRCTは存在しないが(倫理的にRCTはもはや不可能),多施設前向き観察研究においては感染巣コントロールが死亡率を改善することが方置くされており,各種ガイドラインでも強く推奨されている.消化管穿孔による敗血症では,手術による感染巣コントロールが遅れるほど死亡率が上昇することが複数の研究で示されていることからも,できるだけ早期に行う必要が示唆される.
CQ4-2.感染性膵壊死に対する感染源のコントロールはどのように行うか?

A.感染性膵壊死による敗血症患者に対しては,

タイミング
全身状態が安定している場合,インターベンション治療は急性壊死性貯留が被包化(walled-off necrosis, WOW)される発症後4週以降まで待つことを弱く推奨する(2C).全身状態が不安定な場合,インターベンション治療は発症後4週間を待たずに実施することを弱く推奨する(EC)

処置方法
まずドレナージ(経皮的または内視鏡的経消化管的)を行い,改善が得られない場合には壊死組織切除(後腹膜的または内視鏡的アプローチ)を行うことを弱く推奨する(2C)
 他の敗血症と異なり,感染性膵壊死では発症早期での介入は行わない.これは,時間が経過することで壊死部位と正常部位の識別が容易になるためである.実際,2-3週間待ってからデブリドマンを行った方が治療成績がよいことがMierらのRCT(Am J Surg 1997; 173: 71-5)と2報の症例集積研究(J Gastrointest Surg 2002; 6: 481-7,Ann Surg 2001; 234: 572-9)で示されている.
CQ4-3.敗血症患者で血管カテーテルを早期に抜去するのはどのような場合か?

A.血流感染が疑われた場合に限り,血管カテーテルを早期に抜去することを弱く推奨する(2D)
 発熱だけでカテーテル関連血流感染症(CRBSI)を疑ってカテーテルを全例で抜去することは推奨されない.しかし,重症度が敗血症まで進展している場合,感染源の可能性があるカテーテルは早期抜去が必要である.敗血症進展例でカテーテル抜去有無を検討したRCTは存在しないが,早期に抜去することが死亡率の改善につながったとする観察研究は存在している.なお,中心静脈カテーテルや動脈カテーテルだけでなく,末梢サーフローでも中心静脈カテーテルの1/5の確率ではあるがCRBSIが起こりうることを忘れてはならない(Mayo Clin Proc 2006; 81: 1159-71)

 「コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)によるCRBSIでは抜去しなくてもいいか?」とコンサルトを受けることがある.確かにCNSによるCRBSIは比較的予後がいいため抜去しない選択肢もありえるが,それでも再発率は20%あるため(Infect Control Hosp Epidemiol 1992; 13: 215-21),(しかも敗血症に進展しているのであれば)原則抜去すべきである(Lancet Infect Dis 2007; 7: 645-57)
CQ4-4.尿管閉塞に起因する急性腎盂腎炎による敗血症の感染源のコントロールはどのように行うか?

A.尿管閉塞に起因する急性腎盂腎炎による敗血症に対しては,経皮的腎ろう増設術あるいは経尿道的尿管ステント留置術による迅速な感染源コントロールを行うことを推奨する(EC)
 RCTは存在しないものの,排尿によるドレナージが効かない状態であることを考えれば当然行うべきものであり,米国や欧州の泌尿器学会のガイドラインでも強く推奨されている.
CQ4-5.壊死性軟部組織感染症に対する感染源のコントロールはどのように行うか?

A.壊死性軟部組織感染症による敗血症に対しては早期に外科処置を行うことを推奨する(EC)
 RCTは存在しないものの各種ガイドラインで強く推奨されている.また,診断から24時間以内に行うことで20%程度死亡率が改善することが知られている.

←日本版敗血症診療ガイドライン2016(2) 敗血症の診断
日本版敗血症診療ガイドライン2016(4) 抗菌薬治療,免疫グロブリン製剤→

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# by DrMagicianEARL | 2017-01-05 16:49 | 敗血症 | Comments(0)
■以下では具体的な推奨内容(CQ&A)と注意点や私見を述べる.推奨理由等の詳細はガイドライン本文を参照されたい.

推奨提示
推奨提示はMINDs2014に準拠する

エビデンスの強さ(≒質)
A(強):効果の推定値に強い確信がある
B(中):効果の推定値に中等度の確信がある
C(弱):効果の推定値に対する確信は限定的である
D(とても弱い):効果の推定値がほとんど確信できない

EC(エキスパートコンセンサス):①網羅的文献検索でRCTが存在しない場合,②委員会で複数の投票で合意が得られなかった場合,において,生理学や病態生理を考慮して提言をする臨床的な解決方法(生理学的に当たり前の事象で,介入試験で検証できない臨床上重要なこと)を推奨できる場合に限って提言.「常識的ではあるが臨床上確認しておくと患者にとって有益な事柄」

推奨の強さ
1:強く推奨する
2:弱く推奨する
 今回の推奨決定へのプロセスはGRADEシステムに非常に似ているが,異なる箇所もあるMINDs2014の方式を用いていることに注意されたい.また,SSCG 2012においてungradedという推奨表記があったが,本ガイドラインではEC(エキスパートコンセンサス)がほぼこれに相当する.

 作業工程としては,CQ(Clinical Question)およびPICO(対象,介入,対照,アウトカム)の決定,PubMedでのRCTの網羅的検索,(規定内容に該当するなら)システマティックレビュー,推奨決定となっている.委員会での投票はコアメンバー19名のうち2/3以上の賛同を得られれば承認となる.

 なお,解釈に注意したい部分として,推奨のベクトルがある.「行うことを弱く推奨する」と「行わないことを弱く推奨する」は真逆とは考えない.推奨の強さは①エビデンスの質,②益と害のバランス,③価値観,④コストや資源の利用の4要因によって規定されるものであり,その推奨度は連続的であるため,推奨と非推奨との間に大きな差がないこともありうる.

CQ1.定義と診断
CQ1-1.敗血症の定義は?

A.敗血症は,「感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態」と定義する.敗血症は,感染に対する生体反応が調節不能な病態であり,生命を脅かす臓器障害を導く.また,敗血症性ショックは,敗血症の一分症であり,「急性循環不全により細胞障害および代謝異常が重度となり,死亡率を増加させる可能性のある状態」と定義する.これらは2016年2月に発表された敗血症の新しい定義「The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3)」に準じる.
 2016年2月22日のCritical Care Congressにおいて発表された新しい敗血症の定義であるSepsis-3を採用することとなった.本内容はJAMA誌に掲載されており参照されたい(JAMA 2016; 315: 801-10).ざっくり言えば,炎症主体の概念から臓器障害主体の概念となっており,臓器障害のない感染症は敗血症とみなさなくなった.すなわち,これまでよりも重症度・死亡率の高い集団となる.
CQ1-2.敗血症の診断と重症度分類は?

A.敗血症は,感染症もしくは感染症の疑いがあり,かつSOFAスコア合計2点以上の急上昇により診断する.なお,診断に至るプロセスはICUなどにおいて重症管理をしている場合と,病院前救護,救急外来,一般病棟における場合で分けて考える.

ICUなどの重症管理においては,感染症もしくは感染症の疑いがあり,SOFAスコア合計2点以上の急上昇を確認し,敗血症と診断する.

一方,病院前救護,救急外来,一般病棟では,感染症あるいは感染症が疑われる患者に対しては,qSOFA(quick SOFA)を評価し,2項目異常が存在する場合は敗血症を疑い,臓器障害に関する検査,および早期治療開始や集中治療医への紹介のきっかけとして用いる.最終的には,ICUなどの重症管理と同様に,感染症もしくは感染症の疑いとSOFAスコア合計2点以上の急上昇を確認し,敗血症と確定診断とする.

敗血症の重症度は,大きく敗血症と敗血症性ショックに分類し,従来使用してきた重症敗血症の区分を用いない.敗血症性ショックは,「敗血症の中でも急性循環不全により死亡率が高い重症な状態」として区分し,具体的には輸液蘇生をしても平均動脈血圧65mmHg以上を保つのに血管収縮薬を必要とし,かつ血清乳酸値2 mmol/L(18 mg/dL)を超える病態とする.これらの2つの大きな重症度区分に準じて,個々の患者における重症度と緊急度を判断する.

なお,新たな敗血症の定義と診断Sepsis-3では,感染症(疑いを含む)の評価とSOFA合計スコアの推移(2点以上の急上昇)が診断基準として不可欠な項目であり,敗血症の早期診断と治療開始のためには,日々のルーティンな敗血症スクリーニングが必要である.
 SIRSの診断基準が消え,新たにqSOFAとSOFAスコアがスクリーニング基準および診断基準に組み込まれており,これらはSepsis-3で提示された診断プロセスである(JAMA 2016; 315: 801-10).ガイドライン本文には診断のフローチャートも掲載されており(29ページ参照),これを各施設で活用されたい.

 今回新たに登場したqSOFAは「呼吸数≧22回/分」「収縮期血圧≦100mmHg」「GCS<15」の3項目で構成されており,2つ以上満たせばスクリーニング陽性となる.言い換えれば「呼吸がおかしい」「橈骨動脈が触れにくい/触れない」「意識がおかしい」であり,とにかくベッドサイドで何かおかしいとすぐに気が付きやすいもので構成されていることが分かり,医師のみならずナースをはじめとする他の医療職種でも威力を発揮するスクリーニングツールである.また,SIRS基準では白血球数が必要であったが,qSOFAは採血なしに評価可能である.

(1) qSOFAの注意点
 なお,このフローチャートで特に注意していただきたいのは,qSOFAが2点未満で,基準に該当しなかった場合である.qSOFAスコアは非常に簡便に評価できる3項目ではあるが,当然ながら感度100%とはいかない.私見であるが,Sepsis-3が発表されてから1年弱の間,このqSOFAを適用させてみたが,どうも膿瘍や感染性心内膜炎,蜂窩織炎など比較的時間経過の長い感染症による敗血症においてはqSOFAからすりぬけてしまうようである.そして,これらのすりぬけた全症例の共通点として,呼吸数22回以上を満たすこと,SIRS基準を満たすこと,採血で臓器障害がみられること,の3つが挙げられた.また,中には平均血圧が65mmHgを下回っている症例も1例あった.このように,同じ敗血症でも感染症の違いによってqSOFAでは拾いきれないことがあり,それらを見逃さないための工夫が必要である.

(2) そもそもどこで感染症疑いとするか?
 本診断基準の難点として,感染症が疑われていることが前提である.逆に言えば感染症を疑っていなければそこで終了となってしまう.体温を参考にすればよいとする意見もあるが,体温は特異度が低い上,敗血症でも発熱があるとは限らない.2010年に行われた日本救急医学会の前向き調査Sepsis Registryデータの解析(Crit Care 2013; 17: R271)では4人に1人が36.5℃以下であり,しかもこのような低体温の患者の方が予後が悪いとされているため,体温に頼ったスクリーニングはリスキーである.後述するプロカルシトニンもその感度特異度や数値解釈の難しさを考えればこれだけをもって感染症診断を行うべきではない.

 結局は症状と経過,感染症リスク因子などを総合的に評価する必要がある.ただし,臨床的な経験と感覚で感染症疑いと容易に判断できるケースは多く,敗血症に至るほどの重症度レベルまでなった感染症症例が多数の症例が見落とされることはないと思われるため,実際に問題となるのは非典型症例である.そのような症例では診断に難渋するが,①qSOFA項目の明らかな異常があれば精査の対象となること,②重症度(特に臓器障害やショック)などがあれば緊急性が高く敗血症も鑑別に挙げての何らかの対応が必要となること,を念頭におけば,診断はつかずとも迅速な初期対応は可能になると思われる.

 なお,感染症有無を評価するツールとしてinfection probability scoreというものがある.体温,脈拍,呼吸数,白血球数,CRP,SOFAスコアの数値ごとに点数化され,合計が14点未満なら89.5%の確率(陰性適中率)で感染症を否定できるというものである.私自身は使用したことがないため,使用感は分からないが,項目を見てもすべて非特異的要素で構成されているため,実臨床でどこまで信頼のおけるツールかは判断しづらい(Crit Care Med 2003; 31: 2579-84)

(3) 呼吸数,平均動脈圧,乳酸値計測,SOFAスコアの普及の問題
 この4つはルーチンで見られていないことが多い.とりわけ呼吸数は急変の最も鋭敏なバイタルサインであるにもかかわらず,最も計測漏れするバイタルサインである.また,救急・集中治療を専門としない医師・スタッフは平均動脈圧の評価に慣れていない(そもそも計算方法を知らないこともしばしば).乳酸値計測は血液ガス分析が一般的だが,呼吸状態の評価としてしか用いない医師がいたり,乳酸値が計測項目に入っていない血液ガス分析機を採用している施設もまだ多い.SOFAスコアはICU領域において長年用いられてきた臓器障害スコアリングシステム,ではあるものの実際に日常診療で日々のSOFAスコアを計測しているICUは限られている.敗血症を診断する上で各施設でのこれらの問題点の解決は必須である.研修会等で周知徹底する必要があるだろう.
CQ1-3.敗血症診断のバイオマーカーとして,プロカルシトニン(PCT),プレセプシン(P-SEP),インターロイキン-6(IL-6)は有用か?

A.
①ICUなどの重症患者において敗血症が疑われる場合,感染症診断の補助検査としてP-SEPまたはPCTを評価することを弱く推奨する(P-SEP:2B,PCT:2C).感染症診断の補助検査としてIL-6を日常的には評価しないことを弱く推奨する(2C)

②救急外来や一般病棟などの非重症患者において敗血症が疑われる場合,感染症診断の補助検査としてP-SEPまたはPCTまたはIL-6を日常的には評価しないことを弱く推奨する(P-SEP:2C,PCT:2D,IL-6:2D)
 本推奨は,①ICUで全身状態が不安定な状況で敗血症を疑うが感染症の確定診断に苦慮する状態,②外来あるいは一般病棟入院中で全身状態は悪くはないが敗血症が疑われる状態の2つの状況を想定して検討されたものであるということを理解しておく必要がある.このような場合ではこれらのバイオマーカーが補助的診断ツールとして機能する可能性がある.現時点での評価は上記の通りであり,ICU以外では有用性はいまいちといったところであろうか.

 これらのバイオマーカーは診断ツールではない上にそこまで感度特異度が抜群にいいというわけではないのだが,とりわけ普及しているプロカルシトニンを見ると,実臨床ではあたかも診断ツールかのように計測されており,施設によっては感染症疑い患者でルーチンで計測を行っているなど,不適切使用が圧倒的に多い(宣伝するプロカルシトニンのメーカーも明らかな保険適用外使用をすすめてきたこともあり,プロモーションコードはいったいどうなってるのかと思ったことがある).その上,でてきた数値をちゃんと解釈できる医師は少数派と思われる.カットオフをどこに設定するかでもかなり変わるため,ちゃんと理解して使用しなければ計測するだけ無駄である.

 私見であるが,基本的に敗血症と診断できた状況で計測する意味はなく,また,細菌感染か否かの鑑別確定のために使用するものでもない(実際に計測して主治医が判断に悩む数値(0.1~0.5)がでてコンサルトされることはしばしばあるが,これらの多くの場合は計測しなくていい状況で計測しているだけである).結果的に抗菌薬不適切使用につながっているケースも多数見受けられた.そういう意味ではこれからプロカルシトニン等の院内採用を考えている施設は今一度熟慮されたい.

 そもそも,今回のガイドラインより敗血症の診断はSepsis-3に準じるものとしており,これらのバイオマーカーはSepsis-3基準では一切評価されていないことに注意されたい.

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# by DrMagicianEARL | 2017-01-04 19:08 | 敗血症 | Comments(0)

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