ブログトップ

EARLの医学ノート

drmagician.exblog.jp

敗血症をメインとした集中治療,感染症,呼吸器のノート.Stop Sepsis, Save Lives.

■宣伝になります.Geriatric Medicine誌の2017年11月号が発刊されました.今回の特集は「高齢者肺炎の誤嚥・肺炎予防up-to-date」です.東邦大学リハビリテーション医学講座教授の海老原覚先生がeditorをされ,私も「肺炎を治療しない選択」をテーマに執筆させていただきました(Geriat Med 2017; 55: 1247-50)
e0255123_18073055.png
■これまで肺炎領域ではいくつものガイドラインが作られ,2017年に全ガイドラインが統合された成人肺炎診療ガイドライン2017が作成されました.しかしながら,肺炎領域では,他領域に見られたようなブレークスルーはほぼなく,それがゆえに肺炎が日本人の死因の第3位に躍り出たことは,本領域の研究者は猛省すべきであると海老原先生は序文で述べられております.抗菌薬一辺倒の治療ではなく,もっと幅広い視点から見た根本治療を,との考えのもと,本特集では抗菌薬以外の介入等をとりあげております.今後の高齢者肺炎診療の一助となれば幸甚です.
Geriatric Medicine 2017年11月号(Vol.55)
特集:「高齢者の誤嚥・肺炎予防up-to-date」

序文
海老原 覚先生(東邦大学大学院医学研究科リハビリテーション医学講座教授)

総説
1.嚥下と呼吸の協調・連関
越久 仁敬先生(兵庫医科大学生理学講座生体機能部門教授)

2.成人肺炎診療ガイドライン2017』における看護・介護・リハビリテーションのあり方
朝野 和典先生(大阪大学医学部附属病院感染制御部教授)

Seminar
1.喉で感じる嚥下のメカニズム
海老原 覚先生

2.免疫と高齢者肺炎
中山 勝敏先生(東京慈恵会医科大学内科学講座呼吸器内科准教授)

3.誤嚥性肺炎における口腔レンサ球菌の役割
矢満田 慎介先生(一般財団法人厚生会仙台厚生病院呼吸器センター呼吸器内科医長)

4.高齢者肺炎の発症に関わる要因と遺伝子
山谷 睦雄先生(東北大学大学院医学系研究科先進感染症予防学寄附講座教授)

5.脳機能と誤嚥性肺炎―認知症の観点から―
海老原 孝枝先生(杏林大学医学部高齢医学准教授)

6.サルコペニアと誤嚥性肺炎の関係
岡崎 達馬先生(東北大学大学院医学系研究科内科学分野講師)

7.栄養と運動による肺炎予防
後町 杏子先生(独立行政法人国立病院機構東京病院呼吸器内科)

8.ポリファーマシーと誤嚥性肺炎
小島 太郎先生(東京大学医学部附属病院老年病科助教)

9.口腔ケア・嚥下障害対策システムの構築:高度急性期病院における持続可能でシームレスな口腔機能管理システム
関谷 秀樹(東邦大学医学部口腔外科准教授)

臨床に役立つQ&A
1.誤嚥性肺炎の急性期に禁食治療は必要でしょうか?
前田 圭介先生(愛知医科大学緩和ケアセンター講師)

2.肺炎球菌ワクチンを接種しても全肺炎死が減らないのはどうしてですか?
河崎 雄司先生(真誠会セントラルクリニック統括施設長 院長代理)

3.新しい肺炎ガイドラインにおける治療しない選択とはどのような意味ですか?
DrMagicianEARL(EARLの医学ノート管理人)

[PR]
# by DrMagicianEARL | 2017-11-27 18:26 | 肺炎 | Comments(0)
■TAZ/PIPCとVCMの併用で腎障害が増加するという話は近年かなり話題となりましたが,そのシステマティックレビューがpublishされました.敗血症の初期抗菌薬でTAZ/PIPCかカルバペネム系かならペニシリン系のTAZ/PIPCを選びたいところではありますが,VCMを併用する場合はカルバペネム系よりもTAZ/PIPCの方がAKIを増やすとなると初期抗菌薬選択に影響がでますね.
成人におけるバンコマイシン+ピペラシリン/タゾバクタム併用と急性腎傷害:システマティックレビューおよびメタ解析
Luther MK, Timbrook TT, Caffrey AR, et al. Vancomycin Plus Piperacillin-Tazobactam and Acute Kidney Injury in Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis. Crit Care Med. 2017 Oct 28[Epub ahead of print]
PMID: 29088001

【目 的】
本システマティックレビューおよびメタ解析の目的は,成人患者および重症疾患患者におけるバンコマイシン(VCM)とピペラシリン/タゾバクタム(P/T)の併用療法による急性腎傷害(AKI)を評価することである.AKIの頻度,AKI発生までの時間,AKIのオッズはVCM単剤,VCMとセフェピム(CFPM)またはカルバペネム(CRBs)との併用,P/T単剤と比較した.

【方 法】
研究は,2017年4月まで,PubMed,EMBASE,Web of Science,Cochraneでの検索で検出した.選択された学会のアブストラクトは手動検索した.英語でない論文,小児の研究,症例報告は除外した.2人の執筆者が独立して研究方法,AKIの頻度,AKI発生までの時間についてデータを抽出した.効果推定と95%信頼区間はRevMan 5.3によるランダム効果モデルを用いて算出した.

【結 果】
文献検索により15の出版研究と17の学会アブストラクトの24799例の患者が検出された.AKIの全発生率は16.7%,VCMとP/T併用は22.2%,対照群は12.9%であった.これらにより,有害必要数(NNH)は11であった.AKI発症までの時間はVCMとCFPMまたはCRBsの併用に比してVCMとT/Pの併用の方が短かったが,有意ではなかった(平均差 -1.30日; 95%CI -3.00 to 0.41).VCMとT/P併用によるAKIのオッズは,対VCM単剤(OR 3.40; 95%CI 2.57-4.50),対VCMとCFPMまたはCRBs併用(OR 2.68; 95%CI 1.83-3.91),対P/T単剤(OR 2.70; 95%CI 1.97-3.69)で増加していた.重症疾患患者968例での小規模サブ解析では,AKIのオッズは,対VCM単剤(OR 9.62; 95%CI 4.48-20.68)では増加していたが,VCMとCFPMまたはCRBs併用(OR 1.43l 95%CI 0.83-2.47)やP/T単剤(OR 1.35; 95%CI 0.86-2.11)とは有意差はみられなかった.

【結 論】
VCMとP/Tの併用は,VCM単剤,VCMとCFPMまたはCRBs併用,P/T単剤と比較したAKIのオッズを増加させた.重症疾患患者の限定されたデータでは,AKIのオッズは対VCM単剤では増加し,対その他の比較対象では軽減されることが示唆された.重症疾患集団においてはさらなる研究が必要である.

[PR]
# by DrMagicianEARL | 2017-11-09 19:11 | 抗菌薬 | Comments(0)
■機械的心肺蘇生が日本でも普及していっていますが,実際の効果は?というと,徒手的CPRと比較して良好とは言い難いです.5報RCT,12206例のメタ解析(Ann Emerg Med 2016; 67: 349-60)でも生存入院・生存退院・神経予後などの臨床アウトカムを改善しなかったと報告されています.

■今回紹介する論文は,日本のデータでの院外心停止症例に対する機械的CPRの有効性を検討した多施設共同前向き研究です(林田先生,JAHA publishおめでとうございます).結果は,交絡因子で調整すると,機械的CPRは生存退院をむしろ減少させてしまうリスクがあるとのことです.こうなってくるとなかなか導入しづらくなってきますね.
救急部門に搬送された非外傷性院外心停止の成人患者における機械的心肺蘇生と生存退院:日本における前向き多施設共同観察研究(SOS-KANTO[Survey of Survivors after Out‐of‐Hospital Cardiac Arrest in Kanto Area] 2012 Study)
Hayashida K, Tagami T, Fukuda T, et al. Mechanical Cardiopulmonary Resuscitation and Hospital Survival Among Adult Patients With Nontraumatic Out‐of‐Hospital Cardiac Arrest Attending the Emergency Department: A Prospective, Multicenter, Observational Study in Japan (SOS‐KANTO [Survey of Survivors after Out‐of‐Hospital Cardiac Arrest in Kanto Area] 2012 Study). J Am heart Assoc 2017; 6: e007430

Abstract
【背 景】
日本では,救急部に搬送される院外心停止患者の機械的心肺蘇生(mCPR)が広く普及している.本研究の目的は,救急部門におけるmCPRと臨床アウトカムの関連性を検討することである.

【方 法】
本前向き多施設共同観察研究では,搬入時に心停止が持続している院外心停止の成人患者が登録された.主要評価項目は退院時生存率とした.副次評価項目は.自己心拍再開と入院の成功とした.mCPRとアウトカムの関連性を分析するため,一般的な推定式を使用して潜在的交絡因子および施設内のクラスタリング効果を調整した多変量解析を使用した.

【結 果】
2012年1月1日から2013年3月31日までで6537例の院外停止患者が登録され,5619例(86.0%)が徒手的CPR群,918例(14.0%)がmCPR群であった.救急部門においてこれらの患者のうち28.1%(1801/6419)で自己心拍再開が見られ,20.4%(1175/5754)が入院となり,2.6%(168/6504)が生存退院し,1.2%(75/6419)は入院から1ヶ月時点で良好な神経学的予後であった.多変量解析ではmCPRは生存退院(調整後OR 0.40; 95%CI 0.20-0.78; p=0.005),自己心拍再開(調整後OR 0,71; 95%CI 0.53-0.94; p=0.018),入院(調整後OR 0.57; 95%CI 0.40-0.80; p=0.001)の減少に関連していた.

【結 論】
潜在的交絡因子で調整すると,成人の非外傷性院外心停止後の救急部門でのmCPRは良好な臨床アウトカムの減少に関連していた.mCPRがこれらの患者において有益となる可能性がある状況を明らかにするためにさらなる検討が必要である.

[PR]
# by DrMagicianEARL | 2017-11-02 13:58 | 文献 | Comments(0)
2016年11月1日作成
2017年11月1日改訂

11月は薬剤耐性(AMR)対策推進月間です

■世界保健機関WHOにより2015年から11月18日を含む週が世界抗菌薬啓発週間(World Antibiotic Awareness Week)と定められました(2017年は11月13~19日).この流れに合わせる形で,日本政府は2016年から,11月を「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」と定めて対策強化に乗り出しています.

1.薬剤耐性菌の脅威

■これまで多数の抗菌薬が開発されてきましたが,なかでも1970年代以降は広範囲の菌に有効な抗菌薬が多数登場し,一時は「これで細菌感染症は撲滅できる」という楽観的な予測をしていた専門家もいたくらいでした.しかし,近年状況は大きく変わりました.米国でポピュラーな感染症診療の教科書であるInfection Diseasesは,Frederick Southwickの「われわれは抗菌薬の時代の終焉にいるのか?」という衝撃的な見出しから始まっています.抗菌薬の乱用により数多くの薬剤耐性菌(抗菌薬が効かない菌)が発生し,病院内に留まらず,その地域にまで拡大しており,その速度は医師の想像の範疇を大きく越えるものでした.感染症に対する武器である抗菌薬を手にしたにもかかわらず,我々は今抗菌薬を失い始めています.
e0255123_15485698.png
■1925年にAlexander Flemingがアオカビからペニシリンを発見し,1940年にはペニシリンが実用化となりました[1].ペニシリンの登場は多くの人の命を救い,日本でも肺炎患者の死亡者数が激減しています.1945年,Flemingはノーベル賞を受賞することになりますが,その受賞レクチャーの中で,耐性菌出現を予言していました.その予言は的中することになります.実際に,ペニシリン実用化から20年足らずでペニシリンが効かない黄色ブドウ球菌が急増したのです.しかし,ペニシリン耐性菌は本剤が臨床で使用されるようになる以前から存在していたことも報告されています[2].自然環境においてはペニシリンをはじめとする抗菌物質を菌が産生することにより自分のなわばりのようなものを作ることが知られていて,この抗菌物質に曝露される菌は多数存在しており,それらが生き延びるためには抗菌物質に対する耐性を持つ必要がありました.つまり,環境微生物に由来する抗菌性物質には古くから耐性菌が存在することは必然的なことであり,同時に抗菌薬に対する耐性獲得も時間の問題であったということです.

■これまでメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)のアウトブレイクにより認識が広がりだした多剤耐性菌は,現在,ほとんどの抗菌薬が効かないESBL,NDM-1,KPC,MBLといった驚異的な耐性度をもつタンパクを有する菌が発見されるまでになっています.このような多剤耐性菌は免疫が弱った患者が感染するものと考えられてきましたが,近年,一般市民に感染するMRSAが増加傾向にあり[3,4],2011年にドイツで食中毒により大流行した大腸菌O-104はESBL産生株という耐性菌であることも分かっており[5],2011年には京都でほとんどの抗菌薬が無効の淋菌が報告されています[6,7].最近では,「スーパー耐性菌」として米国等で高度耐性菌の発生がメディアで報じられるようになりました.

■現在世界では,耐性菌によって(低く見積もっても)年間70万人が死亡していると推計されています.これらの死亡原因が敗血症(年間600万人死亡)であるならば,敗血症患者の10人に1人以上が耐性菌が原因ということになります.耐性菌の現状をこのまま放置すれば,2050年には年間1000万人が死亡すると推計されており[8],世界で5秒に1人が耐性菌による敗血症で死亡する時代がきてしまうかもしれません.
e0255123_15184674.png
■これまで多数の抗菌薬が開発されてきましたが,そのほとんどの抗菌薬が開発から10年以内,早ければ数年程度で耐性化した菌が検出されています[9].このように菌の耐性化と新たな抗菌薬創薬のイタチゴッコが繰り広げられてきた中,抗菌薬開発はビジネスとしてリスクが高い割には(ジェネリック医薬品の登場もあり)あまり収益が見込めない分野であり[10],採算性などの観点から最近は抗菌薬開発から撤退する企業が増加しています[11].米国でも2020年までに新たな10種類の抗菌薬を開発するプロジェクトが行われていますが,その背景には,1980年代以降,新規開発の抗菌薬の数が減少し続けているという厳しい現状があります[12].2016年のEUの報告書でも,2003年から2013年にかけての医薬品ベンチャー投資のうち抗微生物薬開発に充てられたのはわずか5%未満でした[13].抗菌薬の効果を維持するとともに,新薬を開発するため,資金を含めた各国政府の支援と求める宣言を85の製薬会社が共同で発表しています[14]

2.耐性菌危機に対する急速な世界の動き~AMR対策アクションプラン~

■2015年にWHO(世界保健機関)はWHO AMR Global Action Plan 2015を発表しました.この発表では耐性菌対策のための「啓発・教育」「サーベランス・モニタリング」「感染予防・管理」「抗微生物薬の適正使用」「研究開発」の5本柱を提示しており,これを基に,世界各国に2年以内のアクションプランの立案とその履行を求め,また,アクションプランの実行と達成度の評価を行い,2年ごとにWHOに報告することとしました.これを受けて,同年6月にドイツはシュロス・エルマウで開催されたG7首脳会議(サミット)においては,抗菌薬の効かない薬剤耐性(AMR;Antimicrobial Resistance)の菌の拡大を防ぐため,先進7カ国(G7)が協調して新薬を開発し,家畜への抗菌薬の不適切な使用を減らすなどの対策強化を盛り込んだ共同声明が出されました.
G7共同声明要旨・WHOのAMR Global Action Planを支持する・自国の国別Action Planの策定・見直・効果的な実施とともに,他国のアクションプラン策定を支援する・ヒト及び動物の健康,農業並びに環境など全分野を含むOne Health Approachに強くコミットする・抗生物質の適正使用を促進し,基礎研究,疫学研究,感染予防促進,新規創薬,代替的治療,ワクチン及び迅速検査の開発に取り組む・国別アクションプランの策定または見直し及び共有に当たり薬剤耐性と戦う共同の努力を考慮することにコミットする
■2016年9月の神戸で行われたG7保険大臣会合でも4つの共同声明の中で3番目に薬剤耐性(AMR)対策が盛り込まれています[15].また,同時期に行われた国連総会でも,薬剤耐性菌についてのハイレベルミーティングが行われました[16].さらに,世界銀行は,「薬剤耐性菌感染症は未来の経済への脅威である」というレポートを出しています[17].このように,世界首脳の集まりにおいて重要な議案に取り上げられるほどに事態は危機を迎えつつあります.
2016年国連総会ハイレベルミーティングの内容
(1) 人,動物に対する抗菌薬の使用・販売量のサーベイランスと規制の仕組みを充実させる.
(2) 新規抗菌薬の開発や迅速診断の改善のため革新的な研究を推進する.
(3) 薬剤耐性菌の感染症をいかに防ぐかについて医療従事者や市民の教育を行う.
■また,これらの問題は単にヒトの医療のみにとどまりません.ヒトの衛生のみならず,家畜の衛生,環境の衛生の関係者が連携して対策に取り組むべきであるとする「One Health」の理念が普及・推進されています.2016年11月10・11日に北九州市で「第2回世界獣医師会-世界医師会”One Health”に関する国際会議」が開催されます.

■今や耐性菌対策は国家レベルの問題となっており,現在世界各国がアクションプランを開始しています.新規の抗菌薬開発を促進させること,抗菌薬を適切に使用すること,感染症を予防することで抗菌薬使用を減少させることが必要であり,今ある抗菌薬を未来に残す必要があります.

3.日本での対策

■世界の流れに日本が乗り遅れていた中,日本では2015年の抗菌薬啓発週間から感染症医の有志によるキャンペーンが行われました.さらに,2016年2月には感染症関連の8学会(日本感染症学会,日本化学療法学会,日本環境感染学会,日本臨床微生物学会,日本細菌学会,日本薬学会,日本医療薬学会,日本TDM学会)合同創薬促進検討委員会・抗微生物薬適正使用推進委員会が厚労省,文科省,経産省への提言「世界的協調の中で進められる耐性菌対策」[18,19]を出しています.
8学会合同の提言「世界的協調の中で進められる耐性菌対策」の主な内容
(1) 戦略的な耐性菌サーベイランスの実施
(2) 院内感染対策・制御のさらなる徹底
(3) 行政との連携による抗菌薬適正使用支援の推進
(4) 新規創薬を促進するための施策・連携・協力(日本版GAIN法制定など産官学連携施策が必要)
e0255123_1134362.png
■日本政府もようやくこれらの問題に対応する形で,2016年4月5日に我が国の行動計画(アクションプラン)が策定・公表され[20,21],「抗菌薬の使用量を3分の2に減らす」「耐性菌に効果のある新薬の開発」など具体的なプランを立て始めました.
日本政府が提示した2020年までの目標
(1) 2020年の人口千人当たりの1日抗菌薬使用量を2013年水準の3分の2に減少させる.
(2) 2020年の経口セファロスポリン系(≒セフェム系),フルオロキノロン系,マクロライド系の人口千人あたりの1日使用量を2013年水準から50%削減する.
(3) 2020年の人口千人当たりの1日静注抗菌薬使用を2013年水準から20%削減する.
(4) 2020年の肺炎球菌のペニシリン耐性率を15%以下に低下させる.
(5) 2020年の黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性率を20%以下に低下させる.
(6) 2020年の大腸菌のフルオロキノロン耐性率を25%以下に低下させる.
(7) 2020年の緑膿菌のカルバペネム(イミペネム)耐性率を10%以下に低下させる.
(8) 2020年の大腸菌および肺炎桿菌のカルバペネム耐性率0.2%以下を維持する.
■また,日本での耐性菌の調査・研究を行う新たな組織を国立感染症研究所と国立国際医療研究センターに2つ設置し,2017年度予算の概算要求に2組織の設置など耐性菌対策費5.7億円を盛り込んでいます.

■さらに,タレントの篠田麻里子さんやJOYさんをAMR対策の応援大使に任命し,また,機動戦士ガンダムともコラボしたポスターを作るなど国を挙げて普及活動に取り組んでいます.
e0255123_16044708.png


■医療従事者による普及啓発の動きもあります.有志によって作られた抗微生物薬啓発週間のサイト[22]では,普及啓発に関する情報がまとまっていますので,是非ご参照ください.
e0255123_16385225.png

4.一般市民の方へ

■一般市民レベルでは,抗菌薬の不適切使用をなくし,感染症を防ぐことが必要です.
(1)風邪などのウイルス感染症に抗菌薬は効きません.
■抗菌薬が効かない風邪やインフルエンザなのに,よく外来で「抗菌薬がほしい」とおっしゃる患者さんは大勢おられます.中には,抗菌薬を使わなくても普通に治っただけなのに,病院で処方された抗生剤を飲んだタイミングでよくなったから「抗生剤がよく効いた,今後も飲もう」なんて勘違いされるケースもよくあります.2016年に内閣官房が行った一般市民アンケート結果では,半数弱が「抗菌薬はウイルスをやっつける」,4割が「抗菌薬は風邪やインフルエンザに有効」と思っていることがわかりました.これは間違いです.
e0255123_15500638.png
■もちろんこれは一般市民の方が悪いわけではありません.抗菌薬が不要な患者さんに漫然と抗菌薬を処方してきた医療側に大きな問題があり,これが医療・市民の両方で慣例化してしまっているという現状があります.実際には,医療現場で使用されている抗菌薬の半分~2/3は不必要あるいは不適切であるとされています[23,24]

■本記事は世界的な耐性菌対策として書いてはいますが,不必要な抗菌薬を処方しない理由としては耐性菌以外にも理由はあります.急性呼吸器感染症153万例の研究[25]では,肺炎による入院は抗菌薬投与群で18例/10万回受診,非投与群で22例/10万回受診であり,1人の入院を予防するために12255人に抗菌薬を投与する必要があるとの結果で,抗菌薬はほぼ効果がないに等しい数値であり,むしろアレルギーや下痢などの副作用(場合によってはアナフィラキシーショックや重症の腸管感染症を引き起こして腸切除に至るケースもあります)のリスクの方がはるかに高いです.要するに,風邪程度で抗菌薬を服用するのは害の方が益を上回る可能性が高く,当然ながらコストもかかります(ただし,A群溶血性連鎖球菌による咽頭扁桃炎や百日咳では抗菌薬は必要です).

■風邪と思っても抗菌薬が必要となるケースも中にはありますが,それを正確に判断することは困難です.しかし,最初はただちに抗菌薬を処方せず症状軽減の薬剤のみを処方して様子を見て,その後悪化したときだけ使用する,という方法が,抗菌薬を最初から処方する場合と比較して症状の期間にほぼ差はなく,抗菌薬使用量が減少した,と報告されています[26]
(2)抗菌薬は医師から処方されたときのみ服用しましょう.(たとえ家族であっても)他人に抗菌薬をあげない・もらわないようにしましょう.
■家に昔病院でもらった抗菌薬が残っていたり,友人・知人・家族から抗菌薬をもらったりすることがあるかもしれません.あるいは最近は抗菌薬をインターネットで海外から購入することもできます.しかし,医師の診察による感染症の診断なしに勝手に抗菌薬を内服するのは効果も安全性もまったく保障できないばかりか診断を遅らせてしまう要因になりかねません.必ず病院を受診して感染症の診断を受け,抗菌薬の必要性有無を判断してもらい,その上で処方をされたときだけ内服しましょう.
(3)処方された抗菌薬は途中でやめず,必ず処方内容通りきっちり内服しましょう.
抗菌薬は効果を考えて投与間隔や投与期間を設定して処方されます.勝手にやめてしまったり服用を忘れたりすると効果が不十分になったり,菌が抗菌薬に耐性を獲得してしまう可能性があります.
(4)手洗いは感染症の予防となり,抗菌薬の使用を減少させます.
■手洗いが感染症を予防することは既に数多くの報告がなされており,日常生活で最も簡単な予防手段です.当然ながら抗菌薬が必要となる感染症の予防にもつながりますし,耐性菌が体内に入ることも防いでくれます.

5.2020年に向けて

■日本は島国ということもあり,海外で見られるようなほとんどの抗菌薬が効かないような耐性菌を検出することはまだ稀ではあります.日本は1990年代から急速に発展した感染対策と感染症診療により耐性化を抑えており,いい意味でガラパゴス化しており[27],この現状を悪化させてはいけません.しかし,近年,医療ツーリズムによる海外からの患者の入院に加え,外国人観光客が急増しており,また,日本人の海外への旅行も活発化していて,美容整形のための渡航も増えています.当然ながらこのような人の動きは感染症の伝播の要因となっており,耐性菌伝播も例外ではありません.世界中に感染症が伝播する原因として非常に大きなイベントが2つ挙げられます.1つはメッカの巡礼であり,もう1つはオリンピックです.2020年に日本は東京オリンピックを迎えます.我々はこの外からの耐性菌の流入の可能性を踏まえて迎え撃たなければなりません.

■AMR対策アクションプランは2020年までの目標を掲げています.また,感染症の最重症病態である敗血症においても,2017年5月24日にWHO総会で「世界的に解決すべき課題」として認められ,その声明の中でも耐性菌対策が掲げられています.2020年まであと3年足らずしかありませんが,未来の感染症,敗血症死亡の予防のために,できる限りアクションプランの数値目標をクリアできるよう,産官学民の総力戦で対策に取り組む必要があります.

[1] Bush K. The coming of age of antibiotics: discovery and therapeutic value. Ann N Y Acad Sci 2010; 1213: 1-4
[2] Abraham EP, Chain E. An enzyme from bacteria able to destroy penicillin. 1940. Rev Infect Dis 1988; 10: 677-8
[3] Naimi TS, LeDell KH, Como-Sabetti K, et al. Comparison of community- and health care-associated methicillin-resistant Staphylococcus aureus infection. JAMA 2003; 290: 2976-84
[4] Moran GJ, Krishnadasan A, Gorwitz RJ, et al. Methicillin-resistant S. aureus infections among patients in the emergency department. N Engl J Med 2006; 355: 666-74
[5] Christina F, et al. Epidemic Profile of Shiga-Toxin–Producing Escherichia coli O104:H4 Outbreak in Germany. N Engl J Med 2011; 365:1771-80
[6] Ohnishi M, Saika T, et al. Ceftriaxone-resistant Neisseria gonorrhoeae, Japan. Emerg Infect Dis 2011; 17: 148-9
[7] Ohnishi M, Golparian D, et al. Is Neisseria gonorrhoeae initiating a future era of untreatable gonorrhea?: detailed characterization of the first strain with high-level resistance to ceftriaxone. Antimicrob Agents Chemother 2011; 55: 3538-45
[8] Antimicrobial Resistance: Trackling a crisis for health and wealth of nations, the O'Neill Commission, UK, December 2014
[9] Cecchini M, et al. Antimicrobial resistance in G7 countries and beyond: economic issues, policies and options for action. 2015
[10] Livermore D. Can better prescribing turn the tide of resistance? Nat Rev Microbiol 2004; 2: 73-8
[11] French GL. What’s new and not so new on the antimicrobial horizon? Clin Microbiol Infect 2008; 14: S19-29
[12] Infectious Diseases Society of America. The 10 x ’20 Initiative: pursuing a global commitment to develop 10 new antibacterial drugs by 2020. Clin Infect Dis 2010; 50: 1081: 3
[13] https://english.eu2016.nl/documents/reports/2016/02/10/2016-report-on-antibiotic-rd-initiatives
[14] http://www.bbc.com/news/health-35363569
[15] http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kokusai/g7kobe/communique.html
[16] http://www.bbc.com/news/health-37420691
[17] http://www.worldbank.org/en/topic/health/publication/drug-resistant-infections-a-threat-to-our-economic-future
[18] 門田淳一,館田一博,二木芳人.新規抗菌薬の開発に向けた8学会提言「世界的協調の中で進められる耐性菌対策」—提言発表の背景と目的ー.日化療会誌 2016; 64: 131-2
[19] 創薬促進検討委員会・抗微生物薬適正使用推進委員会.世界的協調の中で進められる耐性菌対策.日化療会誌 2016; 64: 133-7
[20] http://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/yakuzi/pdf/yakuzai_gaiyou.pdf
[21] http://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/yakuzi/pdf/yakuzai_honbun.pdf
[22] https://antibioticawarenessjp.jimdo.com/
[23] Hughes JM. Preserving the lifesaving power of antimicrobial agents. JAMA 2011; 305: 1027-8
[24] Fleming-Dutra KE, Hersh AL, Shapiro DJ, et al. Prevalence of Inappropriate Antibiotic Prescriptions Among US Ambulatory Care Visits, 2010-2011. JAMA 2016; 315: 1864-73
[25] Meropol SB, Localio AR, Metlay JP. Risks and benefits associated with antibiotic use for acute respiratory infections: a cohort study. Ann Fam Med 2013; 11: 165-72
[26] de la Poza Abad M, Dalmau GM, Bakedano MM, et al; for the Delayed Antibiotic Prescription (DAP) Group. Prescription Strategies in Acute Uncomplicated Respiratory Infections: A Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med 2016; 176: 21-9
[27] 朝野和典.敗血症の予防と早期発見.世界敗血症デー関連敗血症セミナー,東京.2013 Sep.8

[PR]
# by DrMagicianEARL | 2017-10-31 18:44 | 感染対策 | Comments(0)
更新履歴
2017年9月25日「第45回日本救急医学会総会・学術集会(10月24日~26日大阪)」更新

2017年10月23日「第22回エンドトキシン救命治療研究会(2018年1月19・20日東京)」追加2017年10月23日「第33回体液・代謝管理研究会年次学術集会(2018年1月27日札幌)」追加
研究会,講演会,学会日程
※学会総会に加え,主に敗血症,救急集中治療,感染症の研究会,講演会を適宜掲載していきます(本記事を更新していきます).あくまでも私の知る範囲でのものだけです.これまで研究会については関西圏ばかりでしたが,2016年4月以降私が関西を離れますので,開催地制限ははずします.私自身は東北に移るためそちらの案内が増えるかもしれません.

※ここに掲載されていない研究会・講演会で掲載希望等あればコメント欄に記入するか,以下までメールで御連絡下さい.開催場所に制限はありませんが,内容は本ブログの内容の関係上,敗血症,感染症,救急/集中治療に関連するものに限ります.日時,演題名,会の主な対象や主旨等を記載して下さい.
⇒メールはこちらcum_earl@yahoo.co.jp
第45回日本救急医学会総会・学術集会
テーマ:「Love EM(Emergency Medicine):救急への想い」
【日時】2017年10月24日(火)~26日(木)
【会場】リーガロイヤルホテル大阪,大阪国際会議場(グランキューブ大阪)

日本救急医学会・日本集中治療医学会ジョイントセッション「世界からみた敗血症~いま自分たちにできること~」
10月25日(水)16:30~17:30
第3会場(リーガロイヤルホテル大阪 タワーウイング3階 光琳Ⅱ)
司会:松嶋麻子先生(名古屋市立大学大学院医学研究科先進急性期医療学)
世界では、毎年約600万人が敗血症で命を落としており、その多くが「防ぎ得た死」であると言われています。2017年5月、WHO(世界保健機構)は「敗血症の予防、診断、治療を先進国、発展途上国に関わらず推進すること」を世界の健康課題として認定しました。このセッションでは日本集中治療医学会と合同で、世界および日本における敗血症の現状、課題を皆様と共有し、今後の日本の敗血症対策につなげたいと思っています。世界に目を向けた若い先生方の積極的なご参加を期待しています。
演題1:「Global Sepsis Alliance (GSA) の活動と世界敗血症デー」
演者:中川 聡先生(国立成育医療研究センター病院集中治療科)
演題2:「加齢と敗血症」
演者:井上 茂亮先生(東海大学医学部付属八王子病院救命救急医学)
演題3:「小児敗血症を世界的視野で俯瞰する」
演者:川崎 達也先生(静岡県立こども病院小児集中治療科)
演題4:「世界の多剤耐性菌対策による敗血症死の予防 ~AMR対策アクションプラン~」
演者:DrMagicianEARL(EARLの医学ノート管理人)
演題5:「敗血症の研究について(仮題)」
演者:松田 直之先生(名古屋大学大学院医学系研究科救急・集中治療医学分野)
演題6:「世界の敗血症対策 WHOからの提言」
演者:松嶋 麻子先生(名古屋市立大学大学院医学研究科先進急性期医療学)

ホームページ:http://www2.convention.co.jp/45jaam
※アクセスすると突然音声が流れますので音量に注意してください
 学会2日目に救急医学会と集中治療医学会のジョイントセッションで「世界から見た敗血症」をテーマにGlobal Sepsis Alliance委員会メンバー6人での講演を行います。私は4演題目に世界の多剤耐性菌対策について講演させていただきます。
第87回日本感染症学会西日本地方会学術集会/第60回日本感染症学会中日本地方会学術集会/第65回日本化学療法学会西日本支部総会合同学会
テーマ:「進化する感染症学と化学療法~魅力ある領域への展開~」
【日時】2017年10月26日(木)~28日(土)
【場所】長崎ブリックホール

ホームページ:http://www.c-linkage.co.jp/wm-jciid2017/
第66回日本感染症学会東日本地方会学術集会/第64回日本化学療法学会東日本支部総会合同学会
テーマ:「感染症病態の探究と創意ある治療をめざして―基礎と臨床との連携―」
【日時】2017年10月31日(火)~11月2日(木)
【会場】京王プラザホテル新宿

ホームページ:http://www.pcoworks.jp/godo2017/
第22回エンドトキシン救命治療研究会
テーマ:「北からの発信」
【日時】2018年1月19日(金)~20日(土)
【会場】東京コンファレンスセンター・品川

ホームページ:http://jscce.umin.jp/index.html
第33回体液・代謝管理研究会年次学術集会
テーマ:「北からの発信」
【日時】2018年1月27日(土)
【会場】札幌医科大学臨床教育研究棟1階講堂

一般演題募集中(締切11月30日)

ホームページ:http://web.sapmed.ac.jp/masui/taieki33/
第45回日本集中治療医学会学術集会
テーマ:「一歩先へ;One Step Forward」
【日時】2018年2月21日(水)~23日(金)
【会場】幕張メッセ,ホテルニューオータニ幕張

ホームページ:http://jsicm2018.jp/
第33回日本環境感染学会総会・学術集会
テーマ:「感染制御におけるBest Practiceの追求」
【日時】2018年2月23日(金)~24日(土)
【会場】グランドプリンスホテル新高輪,国際館パミール

http://www.congre.co.jp/33jsipc/index.html

[PR]
# by DrMagicianEARL | 2017-10-23 16:09 | 研究会・講演会・学会 | Comments(8)

by DrMagicianEARL